台本概要

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タイトル エウレカ
作者名 VAL  (@bakemonohouse)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 少し重めのラブストーリーです。
利用に至っては盗用以外は自由です。
楽しんでくれれば幸いです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
礼奈 169 コンビニ店員
169 古典教師
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
エウレカ 礼奈:私は未来に希望を見い出せなかった。何を望んでも、その結果が叶うことなんてない。まだろくに生きていない癖にそんな事ばかり考えていた。 篤:僕は過去が好きだった。だってそこには自分の好きなモノが沢山あったから。これからの事より、そんな宝物を大事にしていきたかった。 礼奈:でも私は 篤:僕達は 礼奈:見つけてしまった。 篤:出逢ってしまった。 礼奈:あなたから言われた最初の言葉。それはきっとこれからも私達を捉えて離さない。 タイトルコール:エウレカ 0:部屋の中に2人ー 礼奈:ねぇ。 篤:ん? 礼奈:初めてあった日のこと、覚えてる? 篤:忘れるわけないでしょ。1番大切な日。 礼奈:今でもよく思い出すんだ。 篤:僕も最近、毎日思い返してるよ。 0:間― 礼奈:178円が1点、252円が1点、603円が1点…こちらは温めますか? 篤:エウレカ… 礼奈:え?何ですか? 篤:え。ああ。ごめんごめん。エウレカって言うのは古代ギリシャの言葉で、発見とか見つけた!とかそんな意味を持つ言葉でーー 礼奈:そんなこと聞いてません。 篤:あ。ごめん。聞こえてなかったのかと思って… 礼奈:聞こえてます。それで、温めどうしますか? 篤:お願いします… 礼奈:…わかりました。 篤:…… 礼奈:それで? 篤:え? 礼奈:見つけた。って何をですか? 篤:…君を。かな。 礼奈:はぁ。そういうナンパ、流行らないと思いますよ? 篤:ナンパじゃないよ。君、御門礼奈さんでしょ? 礼奈:…ストーカーの方ですか? 篤:そっちの方が違う!僕はただのファンだよ。 礼奈:ファン? 篤:そっ。女優、御門礼奈のファン。 礼奈:何年前の話をしてるんです? 篤:6年前かな。君が芸能界を辞めたのは。 礼奈:よく覚えてますね。 篤:覚えるのは得意なんだ。好きな事なら尚更にね。 礼奈:そうですか。はい。温め終わりましたよ。またのご来店をお待ちしております。 篤:あ、えっと… 礼奈:過去の事なら言いませんよ。 篤:そうじゃなくて。また来ても良いかな? 礼奈:私は生憎、お客様を選べませんので。 篤:じゃあ明日もこの時間に。…また。 礼奈:ありがとうございました。……ファン。馬鹿みたい…… 0:間ー 篤:思い返すと。やっぱり僕、怪しかったよね? 礼奈:それはもう本当に。ふふ。 篤:ずっと好きだったからさ。初めて見た時から。 礼奈:やっぱりストーカーなんじゃない? 篤:いいや、熱心なファンだよ。 0:間ー 礼奈:いらっしゃいませ。 篤:こんばんは。 礼奈:本当にしょっちゅう来ますね。 篤:君も憧れのアイドルが近くにいたら絶対会いに行くと思うよ。 礼奈:私は一般人なので。 篤:今はね。でも僕の中ではずっとアイドルだよ。 礼奈:一応私、アイドルじゃなくて女優だったはずなんですけどね。 篤:ものの例えだよ。アイドルってのは偶像という意味だし、崇拝し信仰されるもの。僕にとってはそうだよ。 礼奈:…そうですか。にしても、いつもこの時間ですね。 篤:研究が一段落着くのが大体この時間だからね。 礼奈:研究? 篤:ああ。考古学が好きでね。 礼奈:学者さんですか。 篤:いや、ただの高校教師だよ。一応古典を担当してるけどね。 礼奈:え。明日も平日ですけど、こんな深夜まで起きてて大丈夫ですか? 篤:もう慣れたよ。寝る時間なんて最後に沢山とれるさ。 礼奈:極論ですね。 篤:ねえ。休みいつ? 礼奈:何ですか?いきなり。 篤:もっと話したいなって。 礼奈:充分話してるじゃないですか。 篤:客と店員としてね。普通に友達になって欲しい。 礼奈:名前も知らないのに。 篤:川島篤。僕の名前。他に知りたいことある? 礼奈:何でそんなに会いに来るんですか? 篤:好きだから。 礼奈:…よく恥ずかしげもなく言えますね。 篤:変に遠回しにして伝わらない方が嫌じゃない? 礼奈:私は中々そんな風には思えなかったですね。言葉にするのは怖いです。 篤:僕は言葉にしなかった後悔をしたくない。 礼奈:そう…なんですね。 篤:……また聞きに来るよ。前向きに考えといて。じゃあね。 礼奈:ちょっ……もう。勝手な人だな…… 0:間ー 礼奈:でもあなたは来なかった。 篤:うん。寂しかった? 礼奈:ううん。静かになったなーってくらい。 篤:え。本当に? 礼奈:ええ。最初はね。 篤:段々寂しくなったわけだ。 礼奈:心配になったのよ。 篤:そっちか。 礼奈:あんなに来てたのに1ヶ月以上も来なくなったら心配するのが当たり前でしょ? 篤:まあ、確かに。 礼奈:でもその1ヶ月が無かったら、あなたと出かけようと思わなかったかもね。 篤:断るつもりだった? 礼奈:まあね。でも、話せなくなるのかな。って思ったら怖くなっちゃったの。 篤:それは不幸中の幸いだ。でもそれって寂しいって事じゃないの? 礼奈:さあ。当時の私はまだ、寂しいなんてわからなかったもの。 篤:……今はわかるの? 礼奈:とっても。 篤:ごめん。 礼奈:許してあげる。 篤:…ありがとう。 0:間ー 篤:この画家もすごい人生を歩んでたんだよね。自分はプロテスタントで彼女はカトリックでさ。それに父親にも借金があるからって彼女の母親に結婚を反対されてさ。それでも―― 礼奈:…… 篤:仕事も上手くいかなくて子供11人もいるのに絵は売れない、見向きもされない時代が続いちゃってね。42歳で亡くなったんだ。そこから200年が経ってやっと世界に見つけられたんだよ!これが彼にとってのーー 礼奈:…… 篤:……もしかして、つまんない? 礼奈:いえ…よく喋るなあって思ってるだけです。 篤:絵が好きだと思ってたんだけど…… 礼奈:嫌いじゃないですけど、あの…もしかして昔の役の事ですか? 篤:うん。蒼い向日葵。 礼奈:懐かしいですね。 篤:今でも最近みたいに思い出せるよ。色が分からないけど絵を描くのが好きな女の子。あの時の御門礼奈は凄かった!画面越しにも絵が大好きなんだ!って伝わってきたよ。 礼奈:実際は人並みですけど。 篤:それほど演技が凄かったってことだよ。今の今まで君は絵が好きなんだって思ってたんだもの。 礼奈:……ありがとうございます。 篤:じゃあそうだな…どこに行こうか。お腹は空いてる? 礼奈:まあ、それなりに。 篤:オムライスとか好き? 礼奈:それも役ですよね? 篤:うん。もしかしてまた違った? 礼奈:いえ、オムライスは大好きです。本当にファンなんですね。 篤:え。信じてなかったの? 礼奈:半分。 篤:酷いなあ。今は? 礼奈:9割くらい? 篤:あと1割は? 礼奈:ストーカーの可能性を… 篤:違うって! 礼奈:冗談ですよ。それに美術館では静かに。ですよ。さっきから周りの目が痛いです。 篤:あ、ごめん。じゃあ出ようか。美味しいオムライスの店調べてきたからさ。 間:0ー 篤:2名で予約の川島です。はい。ありがとうございます。さ、おいで。 礼奈:あ、はい。 篤:さあ何食べようかなー。 礼奈:予約してたんですね。 篤:人気店だからね。念の為に。 礼奈:私が好きじゃなかったらどうしたんです? 篤:そんなこと考えるやつならまず美術館に行ってないと思います。 礼奈:ふふ。それは確かにそうですね。 篤:やっと笑った。 礼奈:え。…私、笑ってなかったですか? 篤:うん。この4ヶ月くらいで初めて見た。 礼奈:ごめんなさい。無愛想で。 篤:いや逆に嬉しいんだよ。 礼奈:え? 篤:あの御門礼奈の演技じゃない笑顔を見れるなんて幸運に他ならないからね。他のファン達に申し訳ないくらいだ。 礼奈:大袈裟ですよ。それにファンなんてもういません。 篤:僕がいるじゃないか。 礼奈:あなただけじゃないですか? 篤:そんなわけない。自分で言うのもなんだけど僕は過去の文献とかにしか興味がわかない。そんな僕が何年も想い続けていたんだ。他にも絶対いる。間違いないよ。 礼奈:そう…なんですかね。でももう関係ない事ですから。 篤:まあ、そうだね。 礼奈:……聞かないんですね。 篤:何を? 礼奈:どうして辞めたのか。とか。 篤:初めて会った日に言われたからね。過去のことは話さないって。 礼奈:…そうでしたね。 篤:……もし。 礼奈:え? 篤:もし、話してもいい。って思える時が来たら僕は絶対聞くから。それまで待ってるよ。さ、そろそろ注文しなきゃ。店員さんに怒られちゃうよ。 礼奈:はい……ありがとうございます。 0:間ー 篤:その頃くらいだよね。ちょっと心開いてくれたの。 礼奈:そうね。あなたならちゃんと聞いてくれるって思った。 篤:きっと他にも聞いてくれる人はたくさん居たと思うけどね。 礼奈:今は私もそう思う。 篤:にしても君があの店を知らなかったのは驚いたな。 礼奈:当時はこの街に来たばかりだったもの。まだ外食すらしてなかったのよ。 篤:そうだったんだ。…まだ知らないことたくさんあるね。 礼奈:お互いにね。もっと知りたい。 篤:時間。足らないね。 礼奈:本当に。いくらあっても足りない。 0:間ー 篤:やっぱり似合うね!向日葵。 礼奈:そう?ありがとう。 篤:うん。でも良かったの?僕のわがままで来て貰っちゃったけど。 礼奈:どうしても向日葵と並んだ君がみたい!だっけ?真っ昼間のコンビニであんな大きな声で言われたら断れないでしょ。 篤:あ、ごめん。 礼奈:ふふ。冗談よ。植物園は子供の時から好きだし。 篤:それは良かった。…最近、よく笑うようになったね。 礼奈:うーん…あなたのおかげかも。 篤:え? 礼奈:私の住む世界って何か色を無くしたみたいに見えてたの。それこそ昔の役みたいに。最近は色が見えるようになった。自分がちょっと好きになったのかな。 篤:それは嬉しいな。ファン仲間が増えたみたいだ。 礼奈:自分自身のファンってこと? 篤:そうそう。 礼奈:何かナルシストみたいじゃない?それ 篤:いいじゃないか。自分を好きで悪いことなんて1つも無いよ。 礼奈:そっか…じゃあ私もやってみようかな。私のファン。 篤:ようこそ。御門礼奈ファンクラブへ。 礼奈:そんなのいつ作ったのよ。 篤:ただいま発足致しました。 礼奈:あはは。何それ。 篤:はは。あ、そうだ。何か好きな花ある? 礼奈:好きな花? 篤:そう。発足記念にプレゼントさせてよ。 礼奈:え。じゃあ…朝顔。 篤:朝顔? 礼奈:そう。昔から好きなの。花言葉も素敵でね。 篤:花言葉か。 礼奈:あ、古典の川島先生は専門外でした? 篤:流石に知らないな。てか、よく覚えてるね職業とか。 礼奈:記憶力良くないと台本なんて覚えられないわ。 篤:それは確かに。で、どんな花言葉なの? 礼奈:色々あるんだけど、愛情。あなたに絡みつく。とか。 篤:何か僕みたいだね。 礼奈:それ自分で言う?ふふ。でもね。1番好きなのは、明日もさわやかに。って言葉かな。 篤:それいいね。 礼奈:でしょ?ずっと好きなの。だから覚えてる。 篤:…ねぇ。 礼奈:ん?何? 篤:僕の名前も覚えてる? 礼奈:うん。篤でしょ?川島篤。 篤:そう!もう1回呼んで? 礼奈:え?…川島篤。 篤:名前だけ! 礼奈:あ…篤。 篤:もう1回! 礼奈:何よ…こっちが恥ずかしくなる。もう終わり! 篤:えー。 礼奈:…また今度、呼ぶから。 篤:やった!約束だぞ! 礼奈:そんな名前くらいで大袈裟なんだから。 篤:朝顔買いに行かなきゃ。何本買う?100本くらい? 礼奈:ちょっと!テンション上がりすぎだってば。 0:間ー 篤:あんなに声を上げて喜んだのは初めてかもしれない。 礼奈:本当、子供みたいだったよ。ずっと欲しかったオモチャを買って貰った時。みたいにね。 篤:よく似たもんだよ。…っ! 礼奈:大丈夫? 篤:少し背中が痛かっただけ。大丈夫だよ。 礼奈:…そう。無理しないでよ? 篤:しないよ。 礼奈:…この日よね。私があなたに話した日。 篤:うん。 礼奈:それと、あなたの秘密を知った日。 篤:……うん。 0:間ー 篤:てっきり花を買うんだと思ってた。 礼奈:朝顔は種から育てなきゃだよ。 篤:ちゃんと枯らさず育てれるかな? 礼奈:私ってそんなに花を枯れさせる女に見える? 篤:いや、そういう意味じゃなくて。 礼奈:ちなみにだけど、朝顔の寿命って知ってる? 篤:……寿命? 礼奈:花が咲くのは1日だけ。 篤:え?でも植物園はあんなに咲いてたよ? 礼奈:朝顔はね。毎日新しい花を咲かせるの。萎れて、咲いてを毎日繰り返す花なんだよ。 篤:それはすごいね。 礼奈:まあ寒くなると枯れちゃってまた種になるんだけどね。 篤:強い花なんだね。 礼奈:……私、演技には自信があったの。誰にも負けないくらい。 篤:うん。知ってるよ。 礼奈:でもね。それだけじゃダメみたいで。大人の力が無いと仕事は上手く行かないことを知ったの。 篤:大人の力? 礼奈:まあ枕営業ってやつ?私はそれだけは無理。でもやらないと仕事回ってこないって言われて。好きだったはずの仕事が急に嫌いになっちゃった。ね?わざわざ話すほど大したことない―― 篤:そんなことない! 礼奈:…え? 篤:君は最高の女優だ。そんな君を追い詰めて光を奪った奴らがいる。大したことないわけが無いじゃないか! 礼奈:…ふっ。あはははははは! 篤:え、何?どうしたの? 礼奈:だって私より怒ってるんだもん。 篤:そりゃ怒るよ。もっと色んな君の演技を見たかった! 礼奈:そっかぁ… 篤:礼奈? 礼奈:私、もう1回咲けるかな? 篤:…っ!絶対!絶対咲けるよ! 礼奈:本当? 篤:ああ!さっきの向日葵なんて相手にならないくらい!あ、朝顔の方が好きなんだっけ! 礼奈:興奮しすぎだって。…でさ。 篤:ん? 礼奈:これからも応援してくれる? 篤:……もちろんだよ。 礼奈:やった!やっぱり1番のファンには近くに居てもらわないとねー。 篤:…… 礼奈:どうしたの?急に黙り込んで。はしゃぎすぎて疲れた? 篤:ごめん。嘘ついた。 礼奈:…え?何の嘘?もう私は咲けない―― 篤:それは違う!君は絶対にまた最高の女優に戻れるよ。 礼奈:……じゃあ何。 篤:ずっと応援はきっと出来ない。 礼奈:え?あー別に近くじゃなくてもいいよ?出張とかも忙しいんでしょ? 篤:もうすぐ死ぬんだよ。 礼奈:……え? 篤:この間、1ヶ月会いに行けなかったのも入院してたからなんだ。 礼奈:そんな…… 篤:本当は言わないつもりだった。 礼奈:……あとどのくらいなの? 篤:わからないけど、薬なしじゃ歩けない程の痛みがある。その薬も日に日に効かなくなってる実感があるんだ。そう遠くないと思う。 礼奈:何で……何でいつも……何でいつも私から大事なものを奪うのよ! 篤:礼奈! 礼奈:やっと頑張ろうって思えたのに!やっと毎日楽しく思えてきたのに!やっと!やっと篤が好きなんだって想ったのに!! 篤:落ち着け! 礼奈:離してよ! 篤:離さないよ!絶対離すもんか! 礼奈:うう……何でよ…… 0:間ー 篤:…少し、落ち着いた? 礼奈:……うん。 篤:何も言わずに居た方がよかったかな… 礼奈:嫌だ。もっと虚しくなる。 篤:でも、礼奈なら絶対越えていけるって信じてる。 礼奈:自信無いよ…… 篤:僕を信じてくれてるだろ? 礼奈:……うん。 篤:じゃあ問題ない。君の信じる男が選んだ女なんだ。絶対に大丈夫。 礼奈:私… 篤:ん? 礼奈:私って性格悪いの知ってる? 篤:え、いきなり何だよ。 礼奈:あなたにだけハッピーエンドなんて許さない!次々あなたが好きそうな役もらって死ぬのが嫌にしてあげるからね! 篤:…っ。ああ!そうしてくれ!長生きせざるを得ないくらい! 礼奈:…篤。 篤:ん? 礼奈:…好きです。大好きです。死なないで…欲しいです… 篤:くっ……僕も好きだ。心から…愛してる。 0:間―― 篤:今でも思うんだよ。言ってよかったのか、言わない方が良かったのか。 礼奈:篤らしくないね。言葉にしなかったことを後悔したくない。ってあなたが言ってた言葉なのに。 篤:あの時は死ぬよりも、何かを残せない方が怖かったんだよ。今は何よりも死ぬのが怖い。 礼奈:私も篤を失うのが怖い。でも決めたから。もう1度咲くって。 篤:はは。ほらね?僕の選んだ女は強いだろ? 礼奈:私の男を見る目が良かったのよ。 篤:……そろそろ時間だよ。 礼奈:そうね。…明日もまたお見舞いに来るから。 篤:ダメだよ。撮影中でしょ?しかも主演の。 礼奈:そうだけど、時間が。 篤:大丈夫。今撮ってる奴、見終わるまでは死ねないから。 礼奈:……そっか。じゃあ頑張って来る。 篤:うん。頑張って。気をつけて帰りなね。 礼奈:わかってるわよ。またね。 篤:……ごめん。礼奈。また嘘ついた。ごほっ!……やっぱり勝てないよなぁ……明日まで……せめて朝まで。最後に太陽が見たい…… 0:間ー 礼奈:撮影が終わり、着信を見た私は急いで病院に向かった。 礼奈:顔を真っ赤にして熱を帯びた私と対照的な篤がそこで眠りについていた。今まで眠らなかった分、沢山寝るんだろう。 礼奈:覚悟はしていた。いついなくなってもおかしくないと。毎日自分にそう言い聞かせていたのに…… 礼奈:病室を整理していると手紙を見つけた。 礼奈:礼奈、また泣かせてごめん。きっと泣き虫な君だから―― 篤:泣いてるだろうと思って、先に謝っておきます。ごめんなさい。 篤:それと、これを読んでると言うことは僕は死んだと言うことでしょう。残念です。非常に残念です。 礼奈:本当だよ… 篤:一応、沢山伝えてきたつもりだけど、まだまだ言い足りないこと、やり足りないこと。いっぱいあったね。指が動く間しか書けないから予想になるけど、きっと君の撮影中に死ぬんだと思います。どう?合ってた? 礼奈:合ってるよ… 篤:絶対、見たかったと思うんだよな僕。本当に可哀想だと思います。何か、未来の事だから他人事みたいに書いちゃうね。そろそろちゃんと書きます。 礼奈:馬鹿だなあ… 篤:僕は。礼奈と出会えて幸せでした。初めて会った時、何度目を疑ったか。それで気付いたらエウレカって呟いてた。本当、訳わかんないよね。いきなり。でも後悔してない。過去を振り返るだけの人生だった僕が未来に希望を持つことが出来た。礼奈のおかげだよ。ありがとう。 礼奈:私もだよ…篤… 篤:あと、前に朝顔の花言葉聞いた時、僕みたいだな。って言ったじゃん?ふと気になって向日葵の花言葉、調べてみたんだ。 篤:「私はあなただけを見つめる」だってさ。とても嬉しい言葉なんだけど。1つだけお願いがあります。誰かを好きになった時。僕の事は。気にして下さい。ごめんって言っといて下さい。それで交際を渋々認めます。 礼奈:何よこの終わり方……もう……馬鹿……最後に好きくらい……書けばいいのに… 0:間―― 礼奈:きっと彼はわざと書かなかったんだろう。撮影中に死ぬことも決めてたくらい徹底してる人だから。できるだけ私を傷つけないように。 礼奈:私は彼の絶対を信じて、女優として再出発を果たした。その影に彼がいたことを世間は何も知らない。 礼奈:彼が私を見つけてくれたから、私は今ここにいる。 礼奈:ねえ篤。私も見つけたよ。やりたい事と生きたい意味が。あなたが私に初めて会った時、きっとこんな感情だったんだと思う。 礼奈:……エウレカ。 0:fin...

エウレカ 礼奈:私は未来に希望を見い出せなかった。何を望んでも、その結果が叶うことなんてない。まだろくに生きていない癖にそんな事ばかり考えていた。 篤:僕は過去が好きだった。だってそこには自分の好きなモノが沢山あったから。これからの事より、そんな宝物を大事にしていきたかった。 礼奈:でも私は 篤:僕達は 礼奈:見つけてしまった。 篤:出逢ってしまった。 礼奈:あなたから言われた最初の言葉。それはきっとこれからも私達を捉えて離さない。 タイトルコール:エウレカ 0:部屋の中に2人ー 礼奈:ねぇ。 篤:ん? 礼奈:初めてあった日のこと、覚えてる? 篤:忘れるわけないでしょ。1番大切な日。 礼奈:今でもよく思い出すんだ。 篤:僕も最近、毎日思い返してるよ。 0:間― 礼奈:178円が1点、252円が1点、603円が1点…こちらは温めますか? 篤:エウレカ… 礼奈:え?何ですか? 篤:え。ああ。ごめんごめん。エウレカって言うのは古代ギリシャの言葉で、発見とか見つけた!とかそんな意味を持つ言葉でーー 礼奈:そんなこと聞いてません。 篤:あ。ごめん。聞こえてなかったのかと思って… 礼奈:聞こえてます。それで、温めどうしますか? 篤:お願いします… 礼奈:…わかりました。 篤:…… 礼奈:それで? 篤:え? 礼奈:見つけた。って何をですか? 篤:…君を。かな。 礼奈:はぁ。そういうナンパ、流行らないと思いますよ? 篤:ナンパじゃないよ。君、御門礼奈さんでしょ? 礼奈:…ストーカーの方ですか? 篤:そっちの方が違う!僕はただのファンだよ。 礼奈:ファン? 篤:そっ。女優、御門礼奈のファン。 礼奈:何年前の話をしてるんです? 篤:6年前かな。君が芸能界を辞めたのは。 礼奈:よく覚えてますね。 篤:覚えるのは得意なんだ。好きな事なら尚更にね。 礼奈:そうですか。はい。温め終わりましたよ。またのご来店をお待ちしております。 篤:あ、えっと… 礼奈:過去の事なら言いませんよ。 篤:そうじゃなくて。また来ても良いかな? 礼奈:私は生憎、お客様を選べませんので。 篤:じゃあ明日もこの時間に。…また。 礼奈:ありがとうございました。……ファン。馬鹿みたい…… 0:間ー 篤:思い返すと。やっぱり僕、怪しかったよね? 礼奈:それはもう本当に。ふふ。 篤:ずっと好きだったからさ。初めて見た時から。 礼奈:やっぱりストーカーなんじゃない? 篤:いいや、熱心なファンだよ。 0:間ー 礼奈:いらっしゃいませ。 篤:こんばんは。 礼奈:本当にしょっちゅう来ますね。 篤:君も憧れのアイドルが近くにいたら絶対会いに行くと思うよ。 礼奈:私は一般人なので。 篤:今はね。でも僕の中ではずっとアイドルだよ。 礼奈:一応私、アイドルじゃなくて女優だったはずなんですけどね。 篤:ものの例えだよ。アイドルってのは偶像という意味だし、崇拝し信仰されるもの。僕にとってはそうだよ。 礼奈:…そうですか。にしても、いつもこの時間ですね。 篤:研究が一段落着くのが大体この時間だからね。 礼奈:研究? 篤:ああ。考古学が好きでね。 礼奈:学者さんですか。 篤:いや、ただの高校教師だよ。一応古典を担当してるけどね。 礼奈:え。明日も平日ですけど、こんな深夜まで起きてて大丈夫ですか? 篤:もう慣れたよ。寝る時間なんて最後に沢山とれるさ。 礼奈:極論ですね。 篤:ねえ。休みいつ? 礼奈:何ですか?いきなり。 篤:もっと話したいなって。 礼奈:充分話してるじゃないですか。 篤:客と店員としてね。普通に友達になって欲しい。 礼奈:名前も知らないのに。 篤:川島篤。僕の名前。他に知りたいことある? 礼奈:何でそんなに会いに来るんですか? 篤:好きだから。 礼奈:…よく恥ずかしげもなく言えますね。 篤:変に遠回しにして伝わらない方が嫌じゃない? 礼奈:私は中々そんな風には思えなかったですね。言葉にするのは怖いです。 篤:僕は言葉にしなかった後悔をしたくない。 礼奈:そう…なんですね。 篤:……また聞きに来るよ。前向きに考えといて。じゃあね。 礼奈:ちょっ……もう。勝手な人だな…… 0:間ー 礼奈:でもあなたは来なかった。 篤:うん。寂しかった? 礼奈:ううん。静かになったなーってくらい。 篤:え。本当に? 礼奈:ええ。最初はね。 篤:段々寂しくなったわけだ。 礼奈:心配になったのよ。 篤:そっちか。 礼奈:あんなに来てたのに1ヶ月以上も来なくなったら心配するのが当たり前でしょ? 篤:まあ、確かに。 礼奈:でもその1ヶ月が無かったら、あなたと出かけようと思わなかったかもね。 篤:断るつもりだった? 礼奈:まあね。でも、話せなくなるのかな。って思ったら怖くなっちゃったの。 篤:それは不幸中の幸いだ。でもそれって寂しいって事じゃないの? 礼奈:さあ。当時の私はまだ、寂しいなんてわからなかったもの。 篤:……今はわかるの? 礼奈:とっても。 篤:ごめん。 礼奈:許してあげる。 篤:…ありがとう。 0:間ー 篤:この画家もすごい人生を歩んでたんだよね。自分はプロテスタントで彼女はカトリックでさ。それに父親にも借金があるからって彼女の母親に結婚を反対されてさ。それでも―― 礼奈:…… 篤:仕事も上手くいかなくて子供11人もいるのに絵は売れない、見向きもされない時代が続いちゃってね。42歳で亡くなったんだ。そこから200年が経ってやっと世界に見つけられたんだよ!これが彼にとってのーー 礼奈:…… 篤:……もしかして、つまんない? 礼奈:いえ…よく喋るなあって思ってるだけです。 篤:絵が好きだと思ってたんだけど…… 礼奈:嫌いじゃないですけど、あの…もしかして昔の役の事ですか? 篤:うん。蒼い向日葵。 礼奈:懐かしいですね。 篤:今でも最近みたいに思い出せるよ。色が分からないけど絵を描くのが好きな女の子。あの時の御門礼奈は凄かった!画面越しにも絵が大好きなんだ!って伝わってきたよ。 礼奈:実際は人並みですけど。 篤:それほど演技が凄かったってことだよ。今の今まで君は絵が好きなんだって思ってたんだもの。 礼奈:……ありがとうございます。 篤:じゃあそうだな…どこに行こうか。お腹は空いてる? 礼奈:まあ、それなりに。 篤:オムライスとか好き? 礼奈:それも役ですよね? 篤:うん。もしかしてまた違った? 礼奈:いえ、オムライスは大好きです。本当にファンなんですね。 篤:え。信じてなかったの? 礼奈:半分。 篤:酷いなあ。今は? 礼奈:9割くらい? 篤:あと1割は? 礼奈:ストーカーの可能性を… 篤:違うって! 礼奈:冗談ですよ。それに美術館では静かに。ですよ。さっきから周りの目が痛いです。 篤:あ、ごめん。じゃあ出ようか。美味しいオムライスの店調べてきたからさ。 間:0ー 篤:2名で予約の川島です。はい。ありがとうございます。さ、おいで。 礼奈:あ、はい。 篤:さあ何食べようかなー。 礼奈:予約してたんですね。 篤:人気店だからね。念の為に。 礼奈:私が好きじゃなかったらどうしたんです? 篤:そんなこと考えるやつならまず美術館に行ってないと思います。 礼奈:ふふ。それは確かにそうですね。 篤:やっと笑った。 礼奈:え。…私、笑ってなかったですか? 篤:うん。この4ヶ月くらいで初めて見た。 礼奈:ごめんなさい。無愛想で。 篤:いや逆に嬉しいんだよ。 礼奈:え? 篤:あの御門礼奈の演技じゃない笑顔を見れるなんて幸運に他ならないからね。他のファン達に申し訳ないくらいだ。 礼奈:大袈裟ですよ。それにファンなんてもういません。 篤:僕がいるじゃないか。 礼奈:あなただけじゃないですか? 篤:そんなわけない。自分で言うのもなんだけど僕は過去の文献とかにしか興味がわかない。そんな僕が何年も想い続けていたんだ。他にも絶対いる。間違いないよ。 礼奈:そう…なんですかね。でももう関係ない事ですから。 篤:まあ、そうだね。 礼奈:……聞かないんですね。 篤:何を? 礼奈:どうして辞めたのか。とか。 篤:初めて会った日に言われたからね。過去のことは話さないって。 礼奈:…そうでしたね。 篤:……もし。 礼奈:え? 篤:もし、話してもいい。って思える時が来たら僕は絶対聞くから。それまで待ってるよ。さ、そろそろ注文しなきゃ。店員さんに怒られちゃうよ。 礼奈:はい……ありがとうございます。 0:間ー 篤:その頃くらいだよね。ちょっと心開いてくれたの。 礼奈:そうね。あなたならちゃんと聞いてくれるって思った。 篤:きっと他にも聞いてくれる人はたくさん居たと思うけどね。 礼奈:今は私もそう思う。 篤:にしても君があの店を知らなかったのは驚いたな。 礼奈:当時はこの街に来たばかりだったもの。まだ外食すらしてなかったのよ。 篤:そうだったんだ。…まだ知らないことたくさんあるね。 礼奈:お互いにね。もっと知りたい。 篤:時間。足らないね。 礼奈:本当に。いくらあっても足りない。 0:間ー 篤:やっぱり似合うね!向日葵。 礼奈:そう?ありがとう。 篤:うん。でも良かったの?僕のわがままで来て貰っちゃったけど。 礼奈:どうしても向日葵と並んだ君がみたい!だっけ?真っ昼間のコンビニであんな大きな声で言われたら断れないでしょ。 篤:あ、ごめん。 礼奈:ふふ。冗談よ。植物園は子供の時から好きだし。 篤:それは良かった。…最近、よく笑うようになったね。 礼奈:うーん…あなたのおかげかも。 篤:え? 礼奈:私の住む世界って何か色を無くしたみたいに見えてたの。それこそ昔の役みたいに。最近は色が見えるようになった。自分がちょっと好きになったのかな。 篤:それは嬉しいな。ファン仲間が増えたみたいだ。 礼奈:自分自身のファンってこと? 篤:そうそう。 礼奈:何かナルシストみたいじゃない?それ 篤:いいじゃないか。自分を好きで悪いことなんて1つも無いよ。 礼奈:そっか…じゃあ私もやってみようかな。私のファン。 篤:ようこそ。御門礼奈ファンクラブへ。 礼奈:そんなのいつ作ったのよ。 篤:ただいま発足致しました。 礼奈:あはは。何それ。 篤:はは。あ、そうだ。何か好きな花ある? 礼奈:好きな花? 篤:そう。発足記念にプレゼントさせてよ。 礼奈:え。じゃあ…朝顔。 篤:朝顔? 礼奈:そう。昔から好きなの。花言葉も素敵でね。 篤:花言葉か。 礼奈:あ、古典の川島先生は専門外でした? 篤:流石に知らないな。てか、よく覚えてるね職業とか。 礼奈:記憶力良くないと台本なんて覚えられないわ。 篤:それは確かに。で、どんな花言葉なの? 礼奈:色々あるんだけど、愛情。あなたに絡みつく。とか。 篤:何か僕みたいだね。 礼奈:それ自分で言う?ふふ。でもね。1番好きなのは、明日もさわやかに。って言葉かな。 篤:それいいね。 礼奈:でしょ?ずっと好きなの。だから覚えてる。 篤:…ねぇ。 礼奈:ん?何? 篤:僕の名前も覚えてる? 礼奈:うん。篤でしょ?川島篤。 篤:そう!もう1回呼んで? 礼奈:え?…川島篤。 篤:名前だけ! 礼奈:あ…篤。 篤:もう1回! 礼奈:何よ…こっちが恥ずかしくなる。もう終わり! 篤:えー。 礼奈:…また今度、呼ぶから。 篤:やった!約束だぞ! 礼奈:そんな名前くらいで大袈裟なんだから。 篤:朝顔買いに行かなきゃ。何本買う?100本くらい? 礼奈:ちょっと!テンション上がりすぎだってば。 0:間ー 篤:あんなに声を上げて喜んだのは初めてかもしれない。 礼奈:本当、子供みたいだったよ。ずっと欲しかったオモチャを買って貰った時。みたいにね。 篤:よく似たもんだよ。…っ! 礼奈:大丈夫? 篤:少し背中が痛かっただけ。大丈夫だよ。 礼奈:…そう。無理しないでよ? 篤:しないよ。 礼奈:…この日よね。私があなたに話した日。 篤:うん。 礼奈:それと、あなたの秘密を知った日。 篤:……うん。 0:間ー 篤:てっきり花を買うんだと思ってた。 礼奈:朝顔は種から育てなきゃだよ。 篤:ちゃんと枯らさず育てれるかな? 礼奈:私ってそんなに花を枯れさせる女に見える? 篤:いや、そういう意味じゃなくて。 礼奈:ちなみにだけど、朝顔の寿命って知ってる? 篤:……寿命? 礼奈:花が咲くのは1日だけ。 篤:え?でも植物園はあんなに咲いてたよ? 礼奈:朝顔はね。毎日新しい花を咲かせるの。萎れて、咲いてを毎日繰り返す花なんだよ。 篤:それはすごいね。 礼奈:まあ寒くなると枯れちゃってまた種になるんだけどね。 篤:強い花なんだね。 礼奈:……私、演技には自信があったの。誰にも負けないくらい。 篤:うん。知ってるよ。 礼奈:でもね。それだけじゃダメみたいで。大人の力が無いと仕事は上手く行かないことを知ったの。 篤:大人の力? 礼奈:まあ枕営業ってやつ?私はそれだけは無理。でもやらないと仕事回ってこないって言われて。好きだったはずの仕事が急に嫌いになっちゃった。ね?わざわざ話すほど大したことない―― 篤:そんなことない! 礼奈:…え? 篤:君は最高の女優だ。そんな君を追い詰めて光を奪った奴らがいる。大したことないわけが無いじゃないか! 礼奈:…ふっ。あはははははは! 篤:え、何?どうしたの? 礼奈:だって私より怒ってるんだもん。 篤:そりゃ怒るよ。もっと色んな君の演技を見たかった! 礼奈:そっかぁ… 篤:礼奈? 礼奈:私、もう1回咲けるかな? 篤:…っ!絶対!絶対咲けるよ! 礼奈:本当? 篤:ああ!さっきの向日葵なんて相手にならないくらい!あ、朝顔の方が好きなんだっけ! 礼奈:興奮しすぎだって。…でさ。 篤:ん? 礼奈:これからも応援してくれる? 篤:……もちろんだよ。 礼奈:やった!やっぱり1番のファンには近くに居てもらわないとねー。 篤:…… 礼奈:どうしたの?急に黙り込んで。はしゃぎすぎて疲れた? 篤:ごめん。嘘ついた。 礼奈:…え?何の嘘?もう私は咲けない―― 篤:それは違う!君は絶対にまた最高の女優に戻れるよ。 礼奈:……じゃあ何。 篤:ずっと応援はきっと出来ない。 礼奈:え?あー別に近くじゃなくてもいいよ?出張とかも忙しいんでしょ? 篤:もうすぐ死ぬんだよ。 礼奈:……え? 篤:この間、1ヶ月会いに行けなかったのも入院してたからなんだ。 礼奈:そんな…… 篤:本当は言わないつもりだった。 礼奈:……あとどのくらいなの? 篤:わからないけど、薬なしじゃ歩けない程の痛みがある。その薬も日に日に効かなくなってる実感があるんだ。そう遠くないと思う。 礼奈:何で……何でいつも……何でいつも私から大事なものを奪うのよ! 篤:礼奈! 礼奈:やっと頑張ろうって思えたのに!やっと毎日楽しく思えてきたのに!やっと!やっと篤が好きなんだって想ったのに!! 篤:落ち着け! 礼奈:離してよ! 篤:離さないよ!絶対離すもんか! 礼奈:うう……何でよ…… 0:間ー 篤:…少し、落ち着いた? 礼奈:……うん。 篤:何も言わずに居た方がよかったかな… 礼奈:嫌だ。もっと虚しくなる。 篤:でも、礼奈なら絶対越えていけるって信じてる。 礼奈:自信無いよ…… 篤:僕を信じてくれてるだろ? 礼奈:……うん。 篤:じゃあ問題ない。君の信じる男が選んだ女なんだ。絶対に大丈夫。 礼奈:私… 篤:ん? 礼奈:私って性格悪いの知ってる? 篤:え、いきなり何だよ。 礼奈:あなたにだけハッピーエンドなんて許さない!次々あなたが好きそうな役もらって死ぬのが嫌にしてあげるからね! 篤:…っ。ああ!そうしてくれ!長生きせざるを得ないくらい! 礼奈:…篤。 篤:ん? 礼奈:…好きです。大好きです。死なないで…欲しいです… 篤:くっ……僕も好きだ。心から…愛してる。 0:間―― 篤:今でも思うんだよ。言ってよかったのか、言わない方が良かったのか。 礼奈:篤らしくないね。言葉にしなかったことを後悔したくない。ってあなたが言ってた言葉なのに。 篤:あの時は死ぬよりも、何かを残せない方が怖かったんだよ。今は何よりも死ぬのが怖い。 礼奈:私も篤を失うのが怖い。でも決めたから。もう1度咲くって。 篤:はは。ほらね?僕の選んだ女は強いだろ? 礼奈:私の男を見る目が良かったのよ。 篤:……そろそろ時間だよ。 礼奈:そうね。…明日もまたお見舞いに来るから。 篤:ダメだよ。撮影中でしょ?しかも主演の。 礼奈:そうだけど、時間が。 篤:大丈夫。今撮ってる奴、見終わるまでは死ねないから。 礼奈:……そっか。じゃあ頑張って来る。 篤:うん。頑張って。気をつけて帰りなね。 礼奈:わかってるわよ。またね。 篤:……ごめん。礼奈。また嘘ついた。ごほっ!……やっぱり勝てないよなぁ……明日まで……せめて朝まで。最後に太陽が見たい…… 0:間ー 礼奈:撮影が終わり、着信を見た私は急いで病院に向かった。 礼奈:顔を真っ赤にして熱を帯びた私と対照的な篤がそこで眠りについていた。今まで眠らなかった分、沢山寝るんだろう。 礼奈:覚悟はしていた。いついなくなってもおかしくないと。毎日自分にそう言い聞かせていたのに…… 礼奈:病室を整理していると手紙を見つけた。 礼奈:礼奈、また泣かせてごめん。きっと泣き虫な君だから―― 篤:泣いてるだろうと思って、先に謝っておきます。ごめんなさい。 篤:それと、これを読んでると言うことは僕は死んだと言うことでしょう。残念です。非常に残念です。 礼奈:本当だよ… 篤:一応、沢山伝えてきたつもりだけど、まだまだ言い足りないこと、やり足りないこと。いっぱいあったね。指が動く間しか書けないから予想になるけど、きっと君の撮影中に死ぬんだと思います。どう?合ってた? 礼奈:合ってるよ… 篤:絶対、見たかったと思うんだよな僕。本当に可哀想だと思います。何か、未来の事だから他人事みたいに書いちゃうね。そろそろちゃんと書きます。 礼奈:馬鹿だなあ… 篤:僕は。礼奈と出会えて幸せでした。初めて会った時、何度目を疑ったか。それで気付いたらエウレカって呟いてた。本当、訳わかんないよね。いきなり。でも後悔してない。過去を振り返るだけの人生だった僕が未来に希望を持つことが出来た。礼奈のおかげだよ。ありがとう。 礼奈:私もだよ…篤… 篤:あと、前に朝顔の花言葉聞いた時、僕みたいだな。って言ったじゃん?ふと気になって向日葵の花言葉、調べてみたんだ。 篤:「私はあなただけを見つめる」だってさ。とても嬉しい言葉なんだけど。1つだけお願いがあります。誰かを好きになった時。僕の事は。気にして下さい。ごめんって言っといて下さい。それで交際を渋々認めます。 礼奈:何よこの終わり方……もう……馬鹿……最後に好きくらい……書けばいいのに… 0:間―― 礼奈:きっと彼はわざと書かなかったんだろう。撮影中に死ぬことも決めてたくらい徹底してる人だから。できるだけ私を傷つけないように。 礼奈:私は彼の絶対を信じて、女優として再出発を果たした。その影に彼がいたことを世間は何も知らない。 礼奈:彼が私を見つけてくれたから、私は今ここにいる。 礼奈:ねえ篤。私も見つけたよ。やりたい事と生きたい意味が。あなたが私に初めて会った時、きっとこんな感情だったんだと思う。 礼奈:……エウレカ。 0:fin...