台本概要
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タイトル | 最期の願い |
---|---|
作者名 | 大輝宇宙@ひろきうちゅう (@hiro55308671) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
放火と強盗殺人を犯した死刑囚のもとへ NPO法人の曽根さくらが訪ねてくる。 死への恐怖を取り除くため話を聞きに来たという彼女に、 若い死刑囚は死への不安はないが、時間がなくなっていく恐怖を感じていると言う。 彼は最期の願いとして、娘に自分の心臓を託したいと話す。 死刑囚林原が早く死にたい理由、さくらが彼を訪ねた理由。 過去の事件をそれぞれの理由で引きずる二人の対話劇。 721 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
洸希 | 男 | 52 | 林原洸希(はやしばらこうき)30歳。死刑囚。過去に父親が起こした事件で人生が一変する。自身は勤め先で強盗殺人と放火をした罪で刑が確定した。 |
さくら | 女 | 52 | 曽根さくら(そねさくら)20代半ば。NPO法人に所属。死刑囚の恐怖を取り除くために話を聴くという名目で林原に会うが、彼女にはもうひとつの目的がある。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
洸希:頼む…俺が死んだら、俺の体の全部…、娘や、俺なんかの体でも欲しいって奴に使ってくれ。
0:
:雨が降る中、曽根さくらが死刑囚「林原洸希」の面会に訪れる
さくら:私は、死刑囚の方の心のケアにあたりたいというNPO法人に所属しております、曽根さくらと申します。
洸希:…心のケア?
さくら:死刑はいつ実行されるか分かりません、日々「明日なのではないか」「もう間もなくなのではないか」と考えてしまう。
さくら:その日々襲ってくる恐怖心を少しでも取り除き、平穏なお心で天へと召されて頂きたいというのが、わたくし共の考えです。
洸希:ふん…天へ…ってことは、おたくら宗教ですか?
さくら:あ、いえ。それは私の勝手なニュアンスです。お気に障りましたか?
洸希:いや、俺は…無神論者だから…気にはしない。
さくら:とは言っても…取り除く方法は、こうしてお話をする、聞く。ということしか出来ないのですが…
洸希:死刑囚がみんな…死への恐怖に怯えているわけじゃない
さくら:…え?
洸希:俺は一刻も早く俺を殺してほしいと望んでる。
さくら:罪の苦しみから逃れたいということですか?
洸希:違う!早くしないと…杏が…
さくら:あん?
洸希:杏には時間がないかもしれない…
さくら:あの、林原さん…あんって何のことですか?聞いてもいいですか?
洸希:…死への不安はないが…時間が日々無くなっていく不安は俺にもある。あんたは、それが聞いてもらうことで軽くなると思うか?
さくら:…聞いてみなければ、なんとも…。
洸希:正直だな。
さくら:あの…私は、よくここへ来ている弁護士の方や、記者とも違います。カウンセリングの資格も持たない一般人なので…。
洸希:それがこうして面会室に来られるものなのか
さくら:まぁ…それこそシスターへ懺悔したり、記者と対話を続けたり、死刑囚の方の最期への向かい方は様々なんでしょうけど。
さくら:あなたは、私達がここへ来ることを承諾してくださった。
洸希:俺は、誰のことも断らないから。でも、あんたは、時間がなくなる恐怖を軽くしてくれるかもしれない…だよな?
さくら:ええ、出来る限りお手伝いはします。
洸希:……俺には、高校2年の娘がいる。
さくら:……失礼ですが、林原さんはおいくつですか?…とても若く見えるので…
洸希:30
さくら:ってことは…
洸希:おれが中3の時に孕ませた子だ。…ひとつ年上の先輩だった。
洸希:テレビや雑誌で散々書かれているだろうから知ってるかもしれないが、俺は父親が連続幼女誘拐殺人事件の犯人で、母親がそのことを知って気が狂って自殺…それが小学校3年の時だった。
洸希:それから俺は施設で生活してた。
洸希:居場所が…欲しかったんだと…今では思う。俺に興味を持って、好きだと言ってくれた先輩に夢中になった。やわらかく笑う人だった…。
洸希:ずっと一緒にいるとも思ってた。
さくら:いられなかったんですか?
洸希:そうだな…。良識ある大人たちは、「きちんと」俺と亜由美を引き離した。
さくら:でも、亜由美さんはお子さんを産んだ…
洸希:もう堕ろせなかったらしい。
さくら:今まで、あんさんとは…会ったりできたんですか?亜由美さんとも。
洸希:いや、ずっと会ったことはなかった。子供を、亜由美が産んでいたことも俺は知らされてなかった。
さくら:どうして知ったんですか?
洸希:手紙が来たんだ…。俺の死刑が確定した時に、娘から…杏から。亜由美と俺の子だって内容から始まって…
洸希:正直、ここには色んな手紙が来るからさ、書き出しを読んだときは俺も半信半疑だった。
洸希:でもそこには亜由美と俺しかしらないことがきちんと書かれていて、ああ…本当なんだなって分かった。
さくら:それは…
洸希:内容は言いたくない。悪い…
さくら:いえ…
洸希:杏の心臓が…
さくら:え?
洸希:杏は…心臓が、かなり弱いらしい…と書いてあった。移植手術を受けるため、ドナーを待っていると。
さくら:心臓移植…
洸希:亜由美は、血液型も違うし…適合しなかったと。
洸希:杏がさ、手紙で俺の血液型を知りたがってて…
さくら:それは…心臓が…
洸希:心臓が、欲しいんだろうな。会ったこともない父親だ。しかも死刑宣告の犯罪者。死ねばいい。死んで、その心臓を私にくれって思うさ。
さくら:そんなのは、あんまりです…
洸希:そうか?俺は、俺の父親の臓器でも骨でも皮でも髪の毛でも全部、どうでも良かった。あんな人間以下の性犯罪者がどうなろうと…むしろどうにかなっちまえばいいって思う。
洸希:あんた、俺の父親の刑はまだ執行されてないって知ってるか?
さくら:…はい
洸希:笑えるよな…まだ生きちゃってるんだぜ?あれから何年経ってると思うんだ…
さくら:でも、あなたと…遺族の時間はきっとずっと止まったまま。
洸希:ああ、そうだな。
さくら:…あなたもあの人と同じ死刑囚ですよ?
洸希:ああ…
さくら:幼い子供をなぶって殺したんじゃなければいいってわけじゃ…
洸希:ああ…。親子揃って死刑囚…なんともダサい話で。
さくら:放火は罪が重い
洸希:知ってるだろうが、俺は働いていた工場の事務所から金を盗んだ。工場長の奥さんと鉢合わせて首を締めて殺した。見つかるのが恐くなったから工場長も殺した…
洸希:そして、痕跡を消したくて消したくて恐くて恐くて…火をつけた。強盗放火殺人…死刑で当然さ。
洸希:一番なりたくなかった親父と同じ…犯罪者だ。
さくら:後悔してますか?
洸希:んー…。してなかったのは本当。自分のことを生きていても仕方がないって思ったから。やっぱり俺も親父と同じクソだったんだと
さくら:人の命を奪って、後悔してなかったんですか…。あなたの勝手な物欲がバレそうになって相手を殺すって…
さくら:そんなの…子供と性交したくて騒がれたから殺したあなたの父親と何が違うんですか!
洸希:…曽根…さん?静かに、看守に追い出される。
さくら:……っ
洸希:あんたの言う通りなんだ。短絡思考で、自分の犯した犯罪を父親のせいにしているような、そんな奴だった。それが、一番憎んでいる父親と何も変わらないことにも気づいてなかったんだ…
さくら:気づいたってこと…ですか?
洸希:ああ、杏からの手紙で…。馬鹿げてると思うだろ?娘がいたことを知って、急に俺は、全てに後悔した。胸を張って「お父さんだよ」って…俺は言いたかったって思った。
さくら:……。そして、娘のために、心臓をあげたいって思ったんですか?
洸希:うん
さくら:そう…ですか。
洸希:…曽根さんは、死刑囚と対話をするのは、初めて?
さくら:なんで…?下手くそですか?お話を伺うの。
洸希:そうだな…下手だと…思う。なんか感情的になってたし。
さくら:すみません…。死刑囚の方は初めてですけど、病院に出向いて、余命が限られてる方とお話したり…は結構してます。大学卒業してからずっとなので…結構って多分言える…はず
洸希:そう。なんでこういうことをしようと?
さくら:…それは…
洸希:?身内に死刑囚や余命が短い人でもいるの?
さくら:…!違います。私は、会って…会って…絶対安らかな死を迎えられなくしたい人がいるんです。
洸希:……。
さくら:私の姉は…私がまだ幼稚園に通っていた頃、殺されました。小学一年生でした…。
洸希:……。
さくら:私は、公園で一緒に遊んでいたのに…姉が拐われたことにも気づかなかった。大好きなシーソーの順番待ちをしていて…気づかなかった。
洸希:お姉さんは…拐われたのか…
さくら:姉が死んだことは、姉が亡くなってしばらくしてから私に伝えられたんだと思います。姉が死んでしまったこと、殺されたことを本当の意味で理解したのは、
さくら:もっと…小学校の高学年になってからだと思います。
さくら:それでも私は、はっきり覚えていて…あの日、シーソーの順番待ちをしてたってことだけは…だからおねぇちゃんが居なくなったことに気づかなかった…って
洸希:勘違いかもしれない。
さくら:どうして?
洸希:大人に、あの日一緒にいたと言われて、色んなことをこじつけて、あんたはそういう記憶を捏造して、自分のせいだと責めてるだけかもしれない。
さくら:だったら…ふたりで声をかけられたかもしれない!私が拐われそうになったのを姉がかばったかもしれない…!!
洸希:それは、誰にも分からない。
さくら:それでも私は考えてしまうんです…。私が、あいつに気がついていたらと…
洸希:もし、この先そいつに会えるとして、あんたはどうやって安らかな死を邪魔するつもりなんだ?
さくら:「あんたがどんなに罪を悔いても、あんたが堕ちる地獄には、あんたの大好きな子供は、一人も居ない」
洸希:そりゃあいい…。俺に会おうと思ったのも、息子がどんな犯罪者か見てやろうと思ったってことか
さくら:はい。
洸希:俺は、地獄がどうでもいい。天国になんか行けないと思ってる。安らかじゃなくていい、できる限り早く、綺麗なまま…俺をあの世に送って欲しい。
さくら:……。もう面会時間が終わりますね…
洸希:ああ。親父に代わって謝ることはしない。
さくら:はい。望んでいませんから大丈夫ですよ。
洸希:……俺の心臓は、杏の中で生き続ける…娘のためにしてやれることがあって、良かったよ。
さくら:…そうですね。きっと、娘さんの命を繋いでくれます。
洸希:ああ…ありがとう
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:刑務所をあとにするさくら。雨の上がった空を見上げる
さくら:(モノローグ)どうして、私は同意したんだろうか。憎んでいる犯罪者の息子であり、死刑まで宣告されている犯罪者に、同情したのだろうか。
さくら:彼の体は、心臓はおろか角膜すらも必要とされる人に提供されることはない。ちょっと死刑囚について調べたら誰でもわかることだ。
さくら:日本の死刑は絞首刑。ズルリと落ちるその躯体(くたい)は使い物にならないからかもしれない。
さくら:それでも、同意してしまったのは、彼が同じ憎むべき存在を持つ共有者のように思えたから…かもしれない。
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さくら:それから半年後、彼の死刑が執行された
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洸希:頼む…俺が死んだら、俺の体の全部…、娘や、俺なんかの体でも欲しいって奴に使ってくれ。
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洸希:頼む…俺が死んだら、俺の体の全部…、娘や、俺なんかの体でも欲しいって奴に使ってくれ。
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:雨が降る中、曽根さくらが死刑囚「林原洸希」の面会に訪れる
さくら:私は、死刑囚の方の心のケアにあたりたいというNPO法人に所属しております、曽根さくらと申します。
洸希:…心のケア?
さくら:死刑はいつ実行されるか分かりません、日々「明日なのではないか」「もう間もなくなのではないか」と考えてしまう。
さくら:その日々襲ってくる恐怖心を少しでも取り除き、平穏なお心で天へと召されて頂きたいというのが、わたくし共の考えです。
洸希:ふん…天へ…ってことは、おたくら宗教ですか?
さくら:あ、いえ。それは私の勝手なニュアンスです。お気に障りましたか?
洸希:いや、俺は…無神論者だから…気にはしない。
さくら:とは言っても…取り除く方法は、こうしてお話をする、聞く。ということしか出来ないのですが…
洸希:死刑囚がみんな…死への恐怖に怯えているわけじゃない
さくら:…え?
洸希:俺は一刻も早く俺を殺してほしいと望んでる。
さくら:罪の苦しみから逃れたいということですか?
洸希:違う!早くしないと…杏が…
さくら:あん?
洸希:杏には時間がないかもしれない…
さくら:あの、林原さん…あんって何のことですか?聞いてもいいですか?
洸希:…死への不安はないが…時間が日々無くなっていく不安は俺にもある。あんたは、それが聞いてもらうことで軽くなると思うか?
さくら:…聞いてみなければ、なんとも…。
洸希:正直だな。
さくら:あの…私は、よくここへ来ている弁護士の方や、記者とも違います。カウンセリングの資格も持たない一般人なので…。
洸希:それがこうして面会室に来られるものなのか
さくら:まぁ…それこそシスターへ懺悔したり、記者と対話を続けたり、死刑囚の方の最期への向かい方は様々なんでしょうけど。
さくら:あなたは、私達がここへ来ることを承諾してくださった。
洸希:俺は、誰のことも断らないから。でも、あんたは、時間がなくなる恐怖を軽くしてくれるかもしれない…だよな?
さくら:ええ、出来る限りお手伝いはします。
洸希:……俺には、高校2年の娘がいる。
さくら:……失礼ですが、林原さんはおいくつですか?…とても若く見えるので…
洸希:30
さくら:ってことは…
洸希:おれが中3の時に孕ませた子だ。…ひとつ年上の先輩だった。
洸希:テレビや雑誌で散々書かれているだろうから知ってるかもしれないが、俺は父親が連続幼女誘拐殺人事件の犯人で、母親がそのことを知って気が狂って自殺…それが小学校3年の時だった。
洸希:それから俺は施設で生活してた。
洸希:居場所が…欲しかったんだと…今では思う。俺に興味を持って、好きだと言ってくれた先輩に夢中になった。やわらかく笑う人だった…。
洸希:ずっと一緒にいるとも思ってた。
さくら:いられなかったんですか?
洸希:そうだな…。良識ある大人たちは、「きちんと」俺と亜由美を引き離した。
さくら:でも、亜由美さんはお子さんを産んだ…
洸希:もう堕ろせなかったらしい。
さくら:今まで、あんさんとは…会ったりできたんですか?亜由美さんとも。
洸希:いや、ずっと会ったことはなかった。子供を、亜由美が産んでいたことも俺は知らされてなかった。
さくら:どうして知ったんですか?
洸希:手紙が来たんだ…。俺の死刑が確定した時に、娘から…杏から。亜由美と俺の子だって内容から始まって…
洸希:正直、ここには色んな手紙が来るからさ、書き出しを読んだときは俺も半信半疑だった。
洸希:でもそこには亜由美と俺しかしらないことがきちんと書かれていて、ああ…本当なんだなって分かった。
さくら:それは…
洸希:内容は言いたくない。悪い…
さくら:いえ…
洸希:杏の心臓が…
さくら:え?
洸希:杏は…心臓が、かなり弱いらしい…と書いてあった。移植手術を受けるため、ドナーを待っていると。
さくら:心臓移植…
洸希:亜由美は、血液型も違うし…適合しなかったと。
洸希:杏がさ、手紙で俺の血液型を知りたがってて…
さくら:それは…心臓が…
洸希:心臓が、欲しいんだろうな。会ったこともない父親だ。しかも死刑宣告の犯罪者。死ねばいい。死んで、その心臓を私にくれって思うさ。
さくら:そんなのは、あんまりです…
洸希:そうか?俺は、俺の父親の臓器でも骨でも皮でも髪の毛でも全部、どうでも良かった。あんな人間以下の性犯罪者がどうなろうと…むしろどうにかなっちまえばいいって思う。
洸希:あんた、俺の父親の刑はまだ執行されてないって知ってるか?
さくら:…はい
洸希:笑えるよな…まだ生きちゃってるんだぜ?あれから何年経ってると思うんだ…
さくら:でも、あなたと…遺族の時間はきっとずっと止まったまま。
洸希:ああ、そうだな。
さくら:…あなたもあの人と同じ死刑囚ですよ?
洸希:ああ…
さくら:幼い子供をなぶって殺したんじゃなければいいってわけじゃ…
洸希:ああ…。親子揃って死刑囚…なんともダサい話で。
さくら:放火は罪が重い
洸希:知ってるだろうが、俺は働いていた工場の事務所から金を盗んだ。工場長の奥さんと鉢合わせて首を締めて殺した。見つかるのが恐くなったから工場長も殺した…
洸希:そして、痕跡を消したくて消したくて恐くて恐くて…火をつけた。強盗放火殺人…死刑で当然さ。
洸希:一番なりたくなかった親父と同じ…犯罪者だ。
さくら:後悔してますか?
洸希:んー…。してなかったのは本当。自分のことを生きていても仕方がないって思ったから。やっぱり俺も親父と同じクソだったんだと
さくら:人の命を奪って、後悔してなかったんですか…。あなたの勝手な物欲がバレそうになって相手を殺すって…
さくら:そんなの…子供と性交したくて騒がれたから殺したあなたの父親と何が違うんですか!
洸希:…曽根…さん?静かに、看守に追い出される。
さくら:……っ
洸希:あんたの言う通りなんだ。短絡思考で、自分の犯した犯罪を父親のせいにしているような、そんな奴だった。それが、一番憎んでいる父親と何も変わらないことにも気づいてなかったんだ…
さくら:気づいたってこと…ですか?
洸希:ああ、杏からの手紙で…。馬鹿げてると思うだろ?娘がいたことを知って、急に俺は、全てに後悔した。胸を張って「お父さんだよ」って…俺は言いたかったって思った。
さくら:……。そして、娘のために、心臓をあげたいって思ったんですか?
洸希:うん
さくら:そう…ですか。
洸希:…曽根さんは、死刑囚と対話をするのは、初めて?
さくら:なんで…?下手くそですか?お話を伺うの。
洸希:そうだな…下手だと…思う。なんか感情的になってたし。
さくら:すみません…。死刑囚の方は初めてですけど、病院に出向いて、余命が限られてる方とお話したり…は結構してます。大学卒業してからずっとなので…結構って多分言える…はず
洸希:そう。なんでこういうことをしようと?
さくら:…それは…
洸希:?身内に死刑囚や余命が短い人でもいるの?
さくら:…!違います。私は、会って…会って…絶対安らかな死を迎えられなくしたい人がいるんです。
洸希:……。
さくら:私の姉は…私がまだ幼稚園に通っていた頃、殺されました。小学一年生でした…。
洸希:……。
さくら:私は、公園で一緒に遊んでいたのに…姉が拐われたことにも気づかなかった。大好きなシーソーの順番待ちをしていて…気づかなかった。
洸希:お姉さんは…拐われたのか…
さくら:姉が死んだことは、姉が亡くなってしばらくしてから私に伝えられたんだと思います。姉が死んでしまったこと、殺されたことを本当の意味で理解したのは、
さくら:もっと…小学校の高学年になってからだと思います。
さくら:それでも私は、はっきり覚えていて…あの日、シーソーの順番待ちをしてたってことだけは…だからおねぇちゃんが居なくなったことに気づかなかった…って
洸希:勘違いかもしれない。
さくら:どうして?
洸希:大人に、あの日一緒にいたと言われて、色んなことをこじつけて、あんたはそういう記憶を捏造して、自分のせいだと責めてるだけかもしれない。
さくら:だったら…ふたりで声をかけられたかもしれない!私が拐われそうになったのを姉がかばったかもしれない…!!
洸希:それは、誰にも分からない。
さくら:それでも私は考えてしまうんです…。私が、あいつに気がついていたらと…
洸希:もし、この先そいつに会えるとして、あんたはどうやって安らかな死を邪魔するつもりなんだ?
さくら:「あんたがどんなに罪を悔いても、あんたが堕ちる地獄には、あんたの大好きな子供は、一人も居ない」
洸希:そりゃあいい…。俺に会おうと思ったのも、息子がどんな犯罪者か見てやろうと思ったってことか
さくら:はい。
洸希:俺は、地獄がどうでもいい。天国になんか行けないと思ってる。安らかじゃなくていい、できる限り早く、綺麗なまま…俺をあの世に送って欲しい。
さくら:……。もう面会時間が終わりますね…
洸希:ああ。親父に代わって謝ることはしない。
さくら:はい。望んでいませんから大丈夫ですよ。
洸希:……俺の心臓は、杏の中で生き続ける…娘のためにしてやれることがあって、良かったよ。
さくら:…そうですね。きっと、娘さんの命を繋いでくれます。
洸希:ああ…ありがとう
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:刑務所をあとにするさくら。雨の上がった空を見上げる
さくら:(モノローグ)どうして、私は同意したんだろうか。憎んでいる犯罪者の息子であり、死刑まで宣告されている犯罪者に、同情したのだろうか。
さくら:彼の体は、心臓はおろか角膜すらも必要とされる人に提供されることはない。ちょっと死刑囚について調べたら誰でもわかることだ。
さくら:日本の死刑は絞首刑。ズルリと落ちるその躯体(くたい)は使い物にならないからかもしれない。
さくら:それでも、同意してしまったのは、彼が同じ憎むべき存在を持つ共有者のように思えたから…かもしれない。
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さくら:それから半年後、彼の死刑が執行された
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洸希:頼む…俺が死んだら、俺の体の全部…、娘や、俺なんかの体でも欲しいって奴に使ってくれ。
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