台本概要

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タイトル Smell
作者名 VAL  (@bakemonohouse)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 雨の降る夜のバーでの一幕。
盗用以外ならお好きにお使いください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ケビン 147 本文参照
テレサ 147 本文参照
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:(登場人物紹介) ケビン:バーテンダー。酒はあまり強くない。お人好しで商売上手とは言えない。 テレサ:バーに来た客。不思議な香りを纏っている。その香りがケビンを惑わせる。 : 0:(本編) : ケビン:・・・今日もいい香りだ。テレサ、愛してるよ。 テレサ:本当?こんな私を愛してくれるの? ケビン:ああ。僕はもう君以外を愛せないよ。 テレサ:私もよ・・・愛してるわ。ケビン。 : ケビン:どうして彼女とこういう関係になってしまったのか・・・全てはあの夜から始まった。 ケビン:彼女が大雨の中、涙か雨かわからないほどずぶ濡れで、僕のバーに来た、あの夜から。 : 0:間― : ケビン:いらっしゃいませ。・・・っ。 テレサ:1人なの。空いてるかしら? ケビン:席は空いておりますが・・・傘をささずに来たんですか? テレサ:ええ。急に降り出してしまって。 ケビン:そう・・・ですか。 テレサ:床を汚してしまう客は、お呼びでないかしら。 ケビン:いえ、歓迎しますとも。今日は朝からずっと大雨ですから。客足が全く伸びないのです。 ケビン:どれだけ不思議な人でも、ずぶ濡れの人でも、喉から手が出るほど欲しいところですよ。 テレサ:ふふっ。なら、お言葉に甘えさせてもらうわ。 ケビン:カウンターでよろしいですか? テレサ:いいわ。私の話を聞いてくださるのでしょう?Dead of the night gentleman. ケビン:もちろん。あなたの気が済むまでお相手いたしましょう。Get soaked lady. テレサ:素敵ね。 ケビン:あなたも。・・・僕の服でよければ、お貸ししましょうか? テレサ:嬉しいけど。あなたの着替えが無くなってしまうわ。 ケビン:大丈夫ですよ。僕の家はここから歩いて、2時間もすれば着きますから。 テレサ:この雨の中を?随分とマゾヒストなのね。 ケビン:ははは、冗談ですよ。僕は歩くのが嫌いでして、2分もあればベッドの中です。 テレサ:そう。なら遠慮なく借りることにするわ。ありがとう。 テレサ:着替えは何処ですればいいかしら? ケビン:こっちにゲストルームがありますので、そちらをお使いください。 テレサ:ありがと。あ、それと―― ケビン:ビニール袋でよろしいでしょうか? テレサ:あら、気が利くわね。 ケビン:別料金ですがね。 テレサ:いいわ。服のレンタル料も取ってちょうだい。 ケビン:わかりました。では・・・僕と乾杯してください。 テレサ:そんなのでいいの? ケビン:ええ。それがいいんです。さ、早く着替えてください。風邪をひいてしまいますよ。 0:間― テレサ:おまたせ。似合ってる?って聞くのはおかしいかしら。 ケビン:いえ、とても似合ってますよ。 テレサ:でもこの服、どう考えてもあなたの服じゃ無いわよね。サイズもデザインもレディースだし。 ケビン:前にいた従業員の服です。もう来ないので気にしないでください。 テレサ:そうは言っても。 ケビン:僕の妹のなんです。結婚を機に他国に渡りました。だから気にしないでください。 テレサ:そういうことなら、妹さんに感謝するわ。 ケビン:そうしてやってください。ああ、それからコレもどうぞ。 テレサ:スープ?ここってイタリアンレストランだったかしら? ケビン:ただの趣味ですよ。身体は中から温めないと。 テレサ:優しいのね。雨宿りに来たつもりが、根付いてしまいそう。 ケビン:ふふ。ほら、冷めないうちに。 テレサ:ええ。頂くわ。 テレサ:・・・美味しい。すごく美味しいわ。 ケビン:それは良かった。 テレサ:街のレストランにも負けてないわ。 ケビン:・・・・・ テレサ:バーじゃなくて、そっちの方が絶対向いてるわよ。スープでこんなに美味しいんだもの。他の料理も食べてみたいわ。 ケビン:スパゲッティならすぐ用意できますが、食べますか? テレサ:いいの?ぜひお願いするわ。これで美味しかったら、シェフになることを薦めるわね。 ケビン:・・・元シェフなんです。多分、お客様が言っているレストランの。 テレサ:ああ、そうなのね。どうしてやめてしまったの? ケビン:高級志向が身体に合わなかっただけですよ。 テレサ:そう・・・勿体無いわね。 ケビン:・・・クリームとトマト。どっちが好きですか? テレサ:トマトでお願いするわ。 ケビン:わかりました。少しお待ちくださいませ。 0:間― ケビン:彼女は僕の料理を食べると、子供のように目を輝かせてた。それがとても眩しくて ケビン:昔、妹に振舞った時のことを思い出させた。ずぶ濡れの理由は、気になったが聞くのはやめた。 ケビン:聞いたところで教えてくれないだろうし、聞いちゃいけない気がしてた。 テレサ:彼の作る料理は美味しかった。愛情がこもってて、冷え切った心にも、身体にも染み込んでいく感じがした。 テレサ:それから、彼が言っていた高級志向が合わない。その意味も理解できたわ。 テレサ:結局、彼は私から、私の飲んだ1杯と彼の飲んだ1杯分の料金しか請求しなかった。 テレサ:これは趣味だからって。 テレサ:・・・無意識に自分の婚約者と比べてしまったわ。あの人が彼みたいに暖かい人だったら。優しい笑顔で話してくれる人だったら。目を見て、私の話を聞いてくれる人だったら・・・なんて。 テレサ:でも私は帰らないといけなかった。婚約者が待つ家へ。 0:間― ケビン:いらっしゃいませ。今日は濡れてないんですね。 テレサ:ふふ。今日は傘を持ってきたの。 ケビン:傘をお持ちなんですか?てっきりお嫌いなのかと。 テレサ:確かにあまり傘は好きじゃないけれど、せっかく乾いたものをもう一度、濡らしたくは無いわ。 ケビン:それは? テレサ:この間借りた服よ。返しにきたの。 ケビン:処分してくれても大丈夫でしたのに。 テレサ:ダメよ。あなたのじゃなくて、妹さんのでしょ?いくら嫁いだと言っても、帰る場所は残してあげたほうがいいわ。 ケビン:そういうもの・・・ですかね。 テレサ:そういうものよ。ほら、受け取って。 ケビン:はい。 テレサ:それにしても、今日も客はいないのね。 ケビン:雨の日はこんなものですよ。 テレサ:そうなのね。・・・それじゃあ。 ケビン:これだけ手が空いてると、どんな料理でも作れそうですね。 テレサ:本当?それはすごく嬉しいわ・・・でも。 ケビン:ん?どうされました? テレサ:ちゃんと料金は取って欲しいの。 ケビン:しかしメニューではありませんし・・・ テレサ:私は施しを受けるほど困ってないわよ。 ケビン:ですが・・・ テレサ:言い訳は無しよ。ちゃんと払わせて。 ケビン:はあ・・・わかりましたよ。えっと・・・ テレサ:テレサよ。それから敬語もやめて。堅苦しいわ。 ケビン:じゃあ、テレサさん。 テレサ:テレサ。 ケビン:テレサ・・・ テレサ:うん。あなたは? ケビン:僕はケビンだよ。 テレサ:ケビンね。これからよろしくね、ケビン。 0:間― テレサ:今日も美味しかったわ。 ケビン:そう?ありがとう。 テレサ:本当、毎日でも食べたくなるくらい。 ケビン:同じような料金払うなら、レストランに行った方が食材も良いのを使ってると思うけど? テレサ:ふーん。ケビン、あなたって中々自信の無い人ね。あなたの作った料理を食べたいから来てるのよ? ケビン:少し照れるね。ありがとう。 テレサ:家からもそう遠くないし。最高の場所だわ。 ケビン:そうなんだ。もしかしたらご近所さんかもね。 テレサ:それは・・・嬉しいけど、嬉しくないわ。 ケビン:どうして? テレサ:私ね。婚約者がいるの。 ケビン:婚約者・・・ テレサ:そう。一緒に住んでるわ。 ケビン:そう・・・なんだ。 テレサ:ええ。あの人、凄く嫉妬深いの。もし、ばったり会ったりしたら・・・ゾッとするわ。 ケビン:会っただけで? テレサ:そうよ。その場では優しく振舞うけど。彼、外面だけは良いの。 ケビン:家では違うのかい? テレサ:まっ・・・たく違うわ!別人って言って差し支えないレベルよ。 ケビン:そんなに? テレサ:あの男は誰だ!何処で知り合った!何故仲良くなった!住所は!仕事は!年齢は!・・・って間髪入れずにまくし立ててくるわね。 ケビン:相当だね。・・・あの、テレサ。 テレサ:ん、何? ケビン:いや、あの・・・ テレサ:何よ。一世一代の告白でもするつもり? ケビン:そうじゃなくて・・・ テレサ:はっきり言って。堅苦しいのは嫌いって言ったでしょ? ケビン:・・・君、暴力とか受けてないよね? テレサ:もちろん。受けてるわよ。 ケビン:・・・・・ テレサ:今までの話の流れで、受けてないほうが不思議でしょ? ケビン:何でそんな人と結婚しようなんて。 テレサ:最初は素敵な人と思ったの。ほら、外面はいいから。それが段々とメッキが剥げてきたって感じね。 ケビン:婚約破棄とかは? テレサ:したいけど、そんなこと言い出したら何されるかわかったもんじゃないわ。 ケビン:でも今だって・・・ごめん。踏み込みすぎたよ。 テレサ:ううん。いいの。話し出したのは私よ。 ケビン:・・・・・ テレサ:ああ。もうこんな時間ね。帰らないと。 ケビン:本当だね。テレサと話してると時間を忘れてしまうよ。 テレサ:私もよ。ケビン。・・・ねえ ケビン:ん? テレサ:1度だけ抱きしめてくれない? ケビン:え? テレサ:お願い。1度だけでいいの。 ケビン:わかったよ。別料金だけど、構わない? テレサ:ふふっ。良いわよ。払ってあげる。 ケビン:じゃあ、おいで? テレサ:ありがと。 ケビン:・・・テレサっていい香りがするね。 テレサ:そう?フェロモンかしら。 ケビン:かもしれないね。僕は好きだよ。 テレサ:香りが?それとも私自身が? ケビン:さあ、どうだろうね。 テレサ:意外と意地悪なのね。 ケビン:そんなことはないよ。優しいマスターって評判さ。 テレサ:その割には、客足が伸びないみたいだけど? ケビン:痛いところを突くね。雨の日は基本、こんなものだよ。 テレサ:そう。じゃあ次の雨の日の夜にまた来るわ。 ケビン:楽しみにしてるよ。 テレサ:雨の多い地域で良かったわ。 ケビン:僕もそう思うよ。最近になって、だけどね。 テレサ:ふふ、それじゃあケビン。またね。 ケビン:うん、また。お気をつけて。 0:間― ケビン:テレサを抱きしめた瞬間から、胸が高鳴った。恋なのかはわからないけど、離れたくないと感じた。 ケビン:僕は雨が嫌いだったのに、その日から雨が降るのが楽しみになった。 テレサ:私はケビンに癒しを求めてた。彼と勝手に比べて、優しいケビンに甘えてた。 テレサ:・・・私はそろそろ決めなくちゃいけない。ケビンに私の抱える闇を話すかどうかを。 0:間― テレサ:今日は結構忙しいみたいね。雨なのに。 ケビン:世間では、連休中だからね。僕には関係ないけど。 テレサ:私も関係ないわ。自宅で出来る仕事だと余計に。 ケビン:へえ。そう言えば聞いてなかったね。君の仕事。 テレサ:気になる? ケビン:教えてくれるなら是非。 テレサ:私ね、デザイナーをしてるの。 ケビン:デザイナーか。だからオシャレなんだね。 テレサ:よく言うわ。出会った時の格好を忘れたの? ケビン:いや、あれはああいうコンセプトだろ? テレサ:そうね。差し詰め、Norway rat.とでも言ったところかしら。 ケビン:君がネズミ?僕にはそうは見えなかったな。例えるなら、Lonely cat.みたいな。 テレサ:ふふっ。そんな可愛らしく見えたの? ケビン:そうだね。助けを求めてるような――すまない。注文みたいだ。少し待ってて。 テレサ:ええ。わかったわ。 0:間― テレサ:ケビンはとてもいい人。私の目をまっすぐ見て話を聞いてくれる。きっとどれだけくだらない話でもしっかり聞いてくれる。 テレサ:・・・私は、何がしたいんだろう。何もかも中途半端。どうしたら正解なの? テレサ:何度もケビンに尋ねようと思った。だけど、言葉が出てこないの。もし嫌われたら、拒否されたら・・・って。 テレサ:こんなに臆病な女じゃ無かったはずなのにね。笑い話にもなりやしないわ。 ケビン:・・・どうしたの? テレサ:え?いつから・・・ ケビン:ずっと居たよ。何度も話しかけてた。 テレサ:少し、考え事をね。 ケビン:ふーん、どんなこと? テレサ:大したことじゃないわよ。 ケビン:にしては、凄く深刻そうな顔してたけど? テレサ:・・・・・ ケビン:テレサ? テレサ:次・・・次会った時に話すわ。それまで少しだけ時間をちょうだい? ケビン:言い辛いなら無理には聞かないよ。 テレサ:ううん。いつかは話したいと思ってたから。 ケビン:そっか。わかったよ。次会うときに聞く。 テレサ:ありがとう。あ、ほら。また呼んでるわよ。珍しいお客さんが。 ケビン:ああ。いってくるよ。 テレサ:私、今日はもう帰るわ。 ケビン:え?いいのかい?まだ何も作れてないけど。 テレサ:ええ。また次にするわ。お代はここに置いておくわね。 ケビン:ごめん。ありがとう。 テレサ:いいえ。またねケビン。 0:間― ケビン:よし、そろそろ片付けなきゃ――ん?コート・・・テレサの忘れ物だな。全然気付かなかった。 ケビン:・・・何だ?この匂い。・・・美しい香りだ。コートか? ケビン:・・・間違いない。これだ。・・・ああ。テレサの香りだ。この間より濃い香り・・・香水か? ケビン:ずっと嗅いでたい・・・テレサ・・・愛してるよ。テレサ・・・ テレサ:雨は私を隠してくれる。雨は彼を溶かしてくれる。雨は、雨だけは私の味方。 テレサ:今週末は確か大雨ね。その日に私はケビンと会う。私の全てをケビンに知って欲しい。 テレサ:・・・きっと私はケビンに恋をしてる。そんな資格は無いのに。でも、気持ちは本物なのよ・・・ 0:間― テレサ:CLOSED・・・もうそんな時間かしら。まさか閉店してるなんて。 ケビン:やあテレサ。待ってたよ。 テレサ:ケビン、いたのね。もう帰ってしまったのかと思ったわ。 ケビン:今日は早めに店仕舞いしたんだ。どうせ客足は億劫だろうけど、君に料理を作ってあげたくて。 テレサ:・・・ずるい人ね。言い出せなくなりそうよ。 ケビン:まあ、ゆっくりで構わないよ。ほら、中に入って。 テレサ:ええ。 テレサ:今日は何を作ってくれるの? ケビン:僕の得意料理をご馳走しようと思ってね。 テレサ:それは楽しみね。どんな料理なの? ケビン:ハンバーグ。子供の頃から好きなんだ。 テレサ:良いわね。私も好きよ。 ケビン:・・・両親が早くに亡くなってね。妹にいつも料理を作ってたんだ。 テレサ:妹さんのお気に入りってわけね。 ケビン:そう。体育祭の日も、卒業式の日も、他国に行く前夜も、ハンバーグを作った。 テレサ:思い出の料理・・・ね。私がいただいてもいいの? ケビン:テレサにだから食べて欲しいんだ。 テレサ:・・・私、あの日ここに来て良かったわ。あなたに、ケビンに出会えて幸せよ。 ケビン:僕もだよ。じゃあ、作ってくる。 テレサ:ええ。待ってるわ。 0:間― ケビン:お待たせ。どうぞ、召し上がれ。 テレサ:・・・いい香り。絶対美味しいって言う自信があるわ。 ケビン:僕も絶対言わせる自信があるよ。 テレサ:ふふ。じゃあ、いただきます。 ケビン:・・・どう? テレサ:私、妹さんが心から羨ましいと思ったわ。こんなハンバーグ食べたこと無い。最高よあなた。 ケビン:お褒めに預かり光栄です。お客様。 : テレサ:・・・本当に美味しかったわ。ありがとうケビン。 ケビン:僕の方こそ、人のために料理する楽しさを思い出せたよ。ありがと。 テレサ:・・・それじゃあ私の番ね。 ケビン:無理しなくても良いんだよ? テレサ:ありがとう。・・・ふう・・・ テレサ:ケビン。 ケビン:なんだい? テレサ:今から私の家に着いて来てくれない? ケビン:君の家って、婚約者と住んでる? テレサ:そうよ。 ケビン:・・・僕はそこに行ってどうすれば? テレサ:もし私の全てを受け止める自信があるなら来て欲しい。そうじゃないならここにいて。その時は、もうあなたには会いに来ないわ。 ケビン:究極の選択だね・・・ テレサ:それくらいの覚悟がいることなのよ。 ケビン:・・・行くよ。君の全てを知りたい。 テレサ:嬉しいわ。・・・好きよ、ケビン。 ケビン:僕もだよ、テレサ。 : テレサ:この選択が全てを変えたわ。私とケビンの何もかもを。 ケビン:でも僕は何度同じ選択を迫られても、同じ道を歩んだと思うよ。 0:間― ケビン:本当にご近所さんだとは思わなかったよ。 テレサ:そうなの?ここからどのくらい? ケビン:あそこに白いアパートメントがあるでしょ?僕はあそこに住んでるんだ。 テレサ:近いわね。でも、歩いて2分でベッドは言い過ぎよ? ケビン:よく覚えてるね。僕だって格好つけたい時はあるよ。にしても、こんなに近いのに1度も会わなかったね。 テレサ:私は在宅ワークだし、彼は仕事してないから。 ケビン:え。君が生計を立ててるってこと? テレサ:・・・1つ約束して? ケビン:どんな? テレサ:今から見たことや話したこと、もしそれが原因で私を嫌いになったとしても、誰にも言わないで? ケビン:・・・わかった。約束する。 テレサ:ありがとう・・・じゃあ入って。 ケビン:・・・この匂い。テレサの匂いだ。 テレサ:私の? ケビン:ああ。店に忘れていったコートと・・・いや、それ以上にいい匂いだ。 テレサ:・・・ケビン? ケビン:あっちだ・・・あっちの方からする。 テレサ:ちょっとケビン。あなた変よ? ケビン:ごめん。何だかこの匂いを嗅ぐと、頭が痺れるようで・・・いい気分になるんだ。 テレサ:私にはわからないけど・・・どこからするの? ケビン:こっち・・・こっちだ。 テレサ:・・・っ!そっちは! ケビン:あれだ・・・あの冷蔵庫。 テレサ:ケビン!ちょっと待って―― ケビン:これは・・・死体? テレサ:・・・そう。私の婚約者。 ケビン:テレサ・・・君がやったのかい? テレサ:ええ。そうよ・・・ ケビン:そうか・・・理由はある程度、予想は出来るけど・・・ テレサ:その察しのとおりよ。もう限界だったの・・・ ケビン:・・・1つ質問しても良いかな? テレサ:何? ケビン:この死体、欠損だらけなんだけど・・・どうしたの? テレサ:雨の日、少しずつ持ち出して下水に流してたのよ。この地域は雨の日の人通りが少ないしね。 ケビン:そっか。この残りも処理するのかい? テレサ:ええ。出来るだけ早く。彼の知り合いから捜索願いが出されるまでには―― ケビン:僕の店に運ぼう。 テレサ:・・・え? ケビン:店には大きな鍋がある。煮込んでしまえばすぐ下水に流せるよ。 テレサ:ケビン。あなたまで犯罪者になってしまうわよ? ケビン:わかってるよ。でも僕は君と生きていきたいんだ。 テレサ:・・・ケビン。好きよ。愛してるわ。 ケビン:僕も愛してるよ。テレサ。 : 0:間― : テレサ:雨の降る深夜。私とケビンは婚約者だった肉塊をケビンのバーまで運んだ。 テレサ:ケビンは慣れた手つきで、豚でも解体するかのように、細切れを大鍋に入れて煮込んでいたわ。 テレサ:さっきまでわからなかった匂いが店中に充満して、私はめまいと吐き気で立っていられなくなった。 テレサ:でもケビンは、笑顔で幸せそうに鍋をかき回していた。その時だけは、出会った誰よりも怖かったわ。 テレサ:怖くてたまらなくて、殺してしまった婚約者よりもね・・・ : ケビン:もう匂いが消えてしまったね。残念だ。 テレサ:ケビンの店はこびりついた悪臭で、休業せざるを得なかった。当のケビンは満足そうだったけれど。 ケビン:今日もテレサはいい匂いだね・・・好きだよ。 テレサ:今は、私に移ったわずかな残り香を毎日嗅いでいる。 ケビン:愛してるよテレサ。何処にも行かないで・・・ テレサ:きっと彼が愛してるのは私自身じゃない・・・ : ケビン:テレサ・・・ テレサ:匂いが私から薄れた時。 ケビン:君からはどんな匂いがするんだろうね。 テレサ:次は私の番かもしれない。 : : 0:Fin――

0:(登場人物紹介) ケビン:バーテンダー。酒はあまり強くない。お人好しで商売上手とは言えない。 テレサ:バーに来た客。不思議な香りを纏っている。その香りがケビンを惑わせる。 : 0:(本編) : ケビン:・・・今日もいい香りだ。テレサ、愛してるよ。 テレサ:本当?こんな私を愛してくれるの? ケビン:ああ。僕はもう君以外を愛せないよ。 テレサ:私もよ・・・愛してるわ。ケビン。 : ケビン:どうして彼女とこういう関係になってしまったのか・・・全てはあの夜から始まった。 ケビン:彼女が大雨の中、涙か雨かわからないほどずぶ濡れで、僕のバーに来た、あの夜から。 : 0:間― : ケビン:いらっしゃいませ。・・・っ。 テレサ:1人なの。空いてるかしら? ケビン:席は空いておりますが・・・傘をささずに来たんですか? テレサ:ええ。急に降り出してしまって。 ケビン:そう・・・ですか。 テレサ:床を汚してしまう客は、お呼びでないかしら。 ケビン:いえ、歓迎しますとも。今日は朝からずっと大雨ですから。客足が全く伸びないのです。 ケビン:どれだけ不思議な人でも、ずぶ濡れの人でも、喉から手が出るほど欲しいところですよ。 テレサ:ふふっ。なら、お言葉に甘えさせてもらうわ。 ケビン:カウンターでよろしいですか? テレサ:いいわ。私の話を聞いてくださるのでしょう?Dead of the night gentleman. ケビン:もちろん。あなたの気が済むまでお相手いたしましょう。Get soaked lady. テレサ:素敵ね。 ケビン:あなたも。・・・僕の服でよければ、お貸ししましょうか? テレサ:嬉しいけど。あなたの着替えが無くなってしまうわ。 ケビン:大丈夫ですよ。僕の家はここから歩いて、2時間もすれば着きますから。 テレサ:この雨の中を?随分とマゾヒストなのね。 ケビン:ははは、冗談ですよ。僕は歩くのが嫌いでして、2分もあればベッドの中です。 テレサ:そう。なら遠慮なく借りることにするわ。ありがとう。 テレサ:着替えは何処ですればいいかしら? ケビン:こっちにゲストルームがありますので、そちらをお使いください。 テレサ:ありがと。あ、それと―― ケビン:ビニール袋でよろしいでしょうか? テレサ:あら、気が利くわね。 ケビン:別料金ですがね。 テレサ:いいわ。服のレンタル料も取ってちょうだい。 ケビン:わかりました。では・・・僕と乾杯してください。 テレサ:そんなのでいいの? ケビン:ええ。それがいいんです。さ、早く着替えてください。風邪をひいてしまいますよ。 0:間― テレサ:おまたせ。似合ってる?って聞くのはおかしいかしら。 ケビン:いえ、とても似合ってますよ。 テレサ:でもこの服、どう考えてもあなたの服じゃ無いわよね。サイズもデザインもレディースだし。 ケビン:前にいた従業員の服です。もう来ないので気にしないでください。 テレサ:そうは言っても。 ケビン:僕の妹のなんです。結婚を機に他国に渡りました。だから気にしないでください。 テレサ:そういうことなら、妹さんに感謝するわ。 ケビン:そうしてやってください。ああ、それからコレもどうぞ。 テレサ:スープ?ここってイタリアンレストランだったかしら? ケビン:ただの趣味ですよ。身体は中から温めないと。 テレサ:優しいのね。雨宿りに来たつもりが、根付いてしまいそう。 ケビン:ふふ。ほら、冷めないうちに。 テレサ:ええ。頂くわ。 テレサ:・・・美味しい。すごく美味しいわ。 ケビン:それは良かった。 テレサ:街のレストランにも負けてないわ。 ケビン:・・・・・ テレサ:バーじゃなくて、そっちの方が絶対向いてるわよ。スープでこんなに美味しいんだもの。他の料理も食べてみたいわ。 ケビン:スパゲッティならすぐ用意できますが、食べますか? テレサ:いいの?ぜひお願いするわ。これで美味しかったら、シェフになることを薦めるわね。 ケビン:・・・元シェフなんです。多分、お客様が言っているレストランの。 テレサ:ああ、そうなのね。どうしてやめてしまったの? ケビン:高級志向が身体に合わなかっただけですよ。 テレサ:そう・・・勿体無いわね。 ケビン:・・・クリームとトマト。どっちが好きですか? テレサ:トマトでお願いするわ。 ケビン:わかりました。少しお待ちくださいませ。 0:間― ケビン:彼女は僕の料理を食べると、子供のように目を輝かせてた。それがとても眩しくて ケビン:昔、妹に振舞った時のことを思い出させた。ずぶ濡れの理由は、気になったが聞くのはやめた。 ケビン:聞いたところで教えてくれないだろうし、聞いちゃいけない気がしてた。 テレサ:彼の作る料理は美味しかった。愛情がこもってて、冷え切った心にも、身体にも染み込んでいく感じがした。 テレサ:それから、彼が言っていた高級志向が合わない。その意味も理解できたわ。 テレサ:結局、彼は私から、私の飲んだ1杯と彼の飲んだ1杯分の料金しか請求しなかった。 テレサ:これは趣味だからって。 テレサ:・・・無意識に自分の婚約者と比べてしまったわ。あの人が彼みたいに暖かい人だったら。優しい笑顔で話してくれる人だったら。目を見て、私の話を聞いてくれる人だったら・・・なんて。 テレサ:でも私は帰らないといけなかった。婚約者が待つ家へ。 0:間― ケビン:いらっしゃいませ。今日は濡れてないんですね。 テレサ:ふふ。今日は傘を持ってきたの。 ケビン:傘をお持ちなんですか?てっきりお嫌いなのかと。 テレサ:確かにあまり傘は好きじゃないけれど、せっかく乾いたものをもう一度、濡らしたくは無いわ。 ケビン:それは? テレサ:この間借りた服よ。返しにきたの。 ケビン:処分してくれても大丈夫でしたのに。 テレサ:ダメよ。あなたのじゃなくて、妹さんのでしょ?いくら嫁いだと言っても、帰る場所は残してあげたほうがいいわ。 ケビン:そういうもの・・・ですかね。 テレサ:そういうものよ。ほら、受け取って。 ケビン:はい。 テレサ:それにしても、今日も客はいないのね。 ケビン:雨の日はこんなものですよ。 テレサ:そうなのね。・・・それじゃあ。 ケビン:これだけ手が空いてると、どんな料理でも作れそうですね。 テレサ:本当?それはすごく嬉しいわ・・・でも。 ケビン:ん?どうされました? テレサ:ちゃんと料金は取って欲しいの。 ケビン:しかしメニューではありませんし・・・ テレサ:私は施しを受けるほど困ってないわよ。 ケビン:ですが・・・ テレサ:言い訳は無しよ。ちゃんと払わせて。 ケビン:はあ・・・わかりましたよ。えっと・・・ テレサ:テレサよ。それから敬語もやめて。堅苦しいわ。 ケビン:じゃあ、テレサさん。 テレサ:テレサ。 ケビン:テレサ・・・ テレサ:うん。あなたは? ケビン:僕はケビンだよ。 テレサ:ケビンね。これからよろしくね、ケビン。 0:間― テレサ:今日も美味しかったわ。 ケビン:そう?ありがとう。 テレサ:本当、毎日でも食べたくなるくらい。 ケビン:同じような料金払うなら、レストランに行った方が食材も良いのを使ってると思うけど? テレサ:ふーん。ケビン、あなたって中々自信の無い人ね。あなたの作った料理を食べたいから来てるのよ? ケビン:少し照れるね。ありがとう。 テレサ:家からもそう遠くないし。最高の場所だわ。 ケビン:そうなんだ。もしかしたらご近所さんかもね。 テレサ:それは・・・嬉しいけど、嬉しくないわ。 ケビン:どうして? テレサ:私ね。婚約者がいるの。 ケビン:婚約者・・・ テレサ:そう。一緒に住んでるわ。 ケビン:そう・・・なんだ。 テレサ:ええ。あの人、凄く嫉妬深いの。もし、ばったり会ったりしたら・・・ゾッとするわ。 ケビン:会っただけで? テレサ:そうよ。その場では優しく振舞うけど。彼、外面だけは良いの。 ケビン:家では違うのかい? テレサ:まっ・・・たく違うわ!別人って言って差し支えないレベルよ。 ケビン:そんなに? テレサ:あの男は誰だ!何処で知り合った!何故仲良くなった!住所は!仕事は!年齢は!・・・って間髪入れずにまくし立ててくるわね。 ケビン:相当だね。・・・あの、テレサ。 テレサ:ん、何? ケビン:いや、あの・・・ テレサ:何よ。一世一代の告白でもするつもり? ケビン:そうじゃなくて・・・ テレサ:はっきり言って。堅苦しいのは嫌いって言ったでしょ? ケビン:・・・君、暴力とか受けてないよね? テレサ:もちろん。受けてるわよ。 ケビン:・・・・・ テレサ:今までの話の流れで、受けてないほうが不思議でしょ? ケビン:何でそんな人と結婚しようなんて。 テレサ:最初は素敵な人と思ったの。ほら、外面はいいから。それが段々とメッキが剥げてきたって感じね。 ケビン:婚約破棄とかは? テレサ:したいけど、そんなこと言い出したら何されるかわかったもんじゃないわ。 ケビン:でも今だって・・・ごめん。踏み込みすぎたよ。 テレサ:ううん。いいの。話し出したのは私よ。 ケビン:・・・・・ テレサ:ああ。もうこんな時間ね。帰らないと。 ケビン:本当だね。テレサと話してると時間を忘れてしまうよ。 テレサ:私もよ。ケビン。・・・ねえ ケビン:ん? テレサ:1度だけ抱きしめてくれない? ケビン:え? テレサ:お願い。1度だけでいいの。 ケビン:わかったよ。別料金だけど、構わない? テレサ:ふふっ。良いわよ。払ってあげる。 ケビン:じゃあ、おいで? テレサ:ありがと。 ケビン:・・・テレサっていい香りがするね。 テレサ:そう?フェロモンかしら。 ケビン:かもしれないね。僕は好きだよ。 テレサ:香りが?それとも私自身が? ケビン:さあ、どうだろうね。 テレサ:意外と意地悪なのね。 ケビン:そんなことはないよ。優しいマスターって評判さ。 テレサ:その割には、客足が伸びないみたいだけど? ケビン:痛いところを突くね。雨の日は基本、こんなものだよ。 テレサ:そう。じゃあ次の雨の日の夜にまた来るわ。 ケビン:楽しみにしてるよ。 テレサ:雨の多い地域で良かったわ。 ケビン:僕もそう思うよ。最近になって、だけどね。 テレサ:ふふ、それじゃあケビン。またね。 ケビン:うん、また。お気をつけて。 0:間― ケビン:テレサを抱きしめた瞬間から、胸が高鳴った。恋なのかはわからないけど、離れたくないと感じた。 ケビン:僕は雨が嫌いだったのに、その日から雨が降るのが楽しみになった。 テレサ:私はケビンに癒しを求めてた。彼と勝手に比べて、優しいケビンに甘えてた。 テレサ:・・・私はそろそろ決めなくちゃいけない。ケビンに私の抱える闇を話すかどうかを。 0:間― テレサ:今日は結構忙しいみたいね。雨なのに。 ケビン:世間では、連休中だからね。僕には関係ないけど。 テレサ:私も関係ないわ。自宅で出来る仕事だと余計に。 ケビン:へえ。そう言えば聞いてなかったね。君の仕事。 テレサ:気になる? ケビン:教えてくれるなら是非。 テレサ:私ね、デザイナーをしてるの。 ケビン:デザイナーか。だからオシャレなんだね。 テレサ:よく言うわ。出会った時の格好を忘れたの? ケビン:いや、あれはああいうコンセプトだろ? テレサ:そうね。差し詰め、Norway rat.とでも言ったところかしら。 ケビン:君がネズミ?僕にはそうは見えなかったな。例えるなら、Lonely cat.みたいな。 テレサ:ふふっ。そんな可愛らしく見えたの? ケビン:そうだね。助けを求めてるような――すまない。注文みたいだ。少し待ってて。 テレサ:ええ。わかったわ。 0:間― テレサ:ケビンはとてもいい人。私の目をまっすぐ見て話を聞いてくれる。きっとどれだけくだらない話でもしっかり聞いてくれる。 テレサ:・・・私は、何がしたいんだろう。何もかも中途半端。どうしたら正解なの? テレサ:何度もケビンに尋ねようと思った。だけど、言葉が出てこないの。もし嫌われたら、拒否されたら・・・って。 テレサ:こんなに臆病な女じゃ無かったはずなのにね。笑い話にもなりやしないわ。 ケビン:・・・どうしたの? テレサ:え?いつから・・・ ケビン:ずっと居たよ。何度も話しかけてた。 テレサ:少し、考え事をね。 ケビン:ふーん、どんなこと? テレサ:大したことじゃないわよ。 ケビン:にしては、凄く深刻そうな顔してたけど? テレサ:・・・・・ ケビン:テレサ? テレサ:次・・・次会った時に話すわ。それまで少しだけ時間をちょうだい? ケビン:言い辛いなら無理には聞かないよ。 テレサ:ううん。いつかは話したいと思ってたから。 ケビン:そっか。わかったよ。次会うときに聞く。 テレサ:ありがとう。あ、ほら。また呼んでるわよ。珍しいお客さんが。 ケビン:ああ。いってくるよ。 テレサ:私、今日はもう帰るわ。 ケビン:え?いいのかい?まだ何も作れてないけど。 テレサ:ええ。また次にするわ。お代はここに置いておくわね。 ケビン:ごめん。ありがとう。 テレサ:いいえ。またねケビン。 0:間― ケビン:よし、そろそろ片付けなきゃ――ん?コート・・・テレサの忘れ物だな。全然気付かなかった。 ケビン:・・・何だ?この匂い。・・・美しい香りだ。コートか? ケビン:・・・間違いない。これだ。・・・ああ。テレサの香りだ。この間より濃い香り・・・香水か? ケビン:ずっと嗅いでたい・・・テレサ・・・愛してるよ。テレサ・・・ テレサ:雨は私を隠してくれる。雨は彼を溶かしてくれる。雨は、雨だけは私の味方。 テレサ:今週末は確か大雨ね。その日に私はケビンと会う。私の全てをケビンに知って欲しい。 テレサ:・・・きっと私はケビンに恋をしてる。そんな資格は無いのに。でも、気持ちは本物なのよ・・・ 0:間― テレサ:CLOSED・・・もうそんな時間かしら。まさか閉店してるなんて。 ケビン:やあテレサ。待ってたよ。 テレサ:ケビン、いたのね。もう帰ってしまったのかと思ったわ。 ケビン:今日は早めに店仕舞いしたんだ。どうせ客足は億劫だろうけど、君に料理を作ってあげたくて。 テレサ:・・・ずるい人ね。言い出せなくなりそうよ。 ケビン:まあ、ゆっくりで構わないよ。ほら、中に入って。 テレサ:ええ。 テレサ:今日は何を作ってくれるの? ケビン:僕の得意料理をご馳走しようと思ってね。 テレサ:それは楽しみね。どんな料理なの? ケビン:ハンバーグ。子供の頃から好きなんだ。 テレサ:良いわね。私も好きよ。 ケビン:・・・両親が早くに亡くなってね。妹にいつも料理を作ってたんだ。 テレサ:妹さんのお気に入りってわけね。 ケビン:そう。体育祭の日も、卒業式の日も、他国に行く前夜も、ハンバーグを作った。 テレサ:思い出の料理・・・ね。私がいただいてもいいの? ケビン:テレサにだから食べて欲しいんだ。 テレサ:・・・私、あの日ここに来て良かったわ。あなたに、ケビンに出会えて幸せよ。 ケビン:僕もだよ。じゃあ、作ってくる。 テレサ:ええ。待ってるわ。 0:間― ケビン:お待たせ。どうぞ、召し上がれ。 テレサ:・・・いい香り。絶対美味しいって言う自信があるわ。 ケビン:僕も絶対言わせる自信があるよ。 テレサ:ふふ。じゃあ、いただきます。 ケビン:・・・どう? テレサ:私、妹さんが心から羨ましいと思ったわ。こんなハンバーグ食べたこと無い。最高よあなた。 ケビン:お褒めに預かり光栄です。お客様。 : テレサ:・・・本当に美味しかったわ。ありがとうケビン。 ケビン:僕の方こそ、人のために料理する楽しさを思い出せたよ。ありがと。 テレサ:・・・それじゃあ私の番ね。 ケビン:無理しなくても良いんだよ? テレサ:ありがとう。・・・ふう・・・ テレサ:ケビン。 ケビン:なんだい? テレサ:今から私の家に着いて来てくれない? ケビン:君の家って、婚約者と住んでる? テレサ:そうよ。 ケビン:・・・僕はそこに行ってどうすれば? テレサ:もし私の全てを受け止める自信があるなら来て欲しい。そうじゃないならここにいて。その時は、もうあなたには会いに来ないわ。 ケビン:究極の選択だね・・・ テレサ:それくらいの覚悟がいることなのよ。 ケビン:・・・行くよ。君の全てを知りたい。 テレサ:嬉しいわ。・・・好きよ、ケビン。 ケビン:僕もだよ、テレサ。 : テレサ:この選択が全てを変えたわ。私とケビンの何もかもを。 ケビン:でも僕は何度同じ選択を迫られても、同じ道を歩んだと思うよ。 0:間― ケビン:本当にご近所さんだとは思わなかったよ。 テレサ:そうなの?ここからどのくらい? ケビン:あそこに白いアパートメントがあるでしょ?僕はあそこに住んでるんだ。 テレサ:近いわね。でも、歩いて2分でベッドは言い過ぎよ? ケビン:よく覚えてるね。僕だって格好つけたい時はあるよ。にしても、こんなに近いのに1度も会わなかったね。 テレサ:私は在宅ワークだし、彼は仕事してないから。 ケビン:え。君が生計を立ててるってこと? テレサ:・・・1つ約束して? ケビン:どんな? テレサ:今から見たことや話したこと、もしそれが原因で私を嫌いになったとしても、誰にも言わないで? ケビン:・・・わかった。約束する。 テレサ:ありがとう・・・じゃあ入って。 ケビン:・・・この匂い。テレサの匂いだ。 テレサ:私の? ケビン:ああ。店に忘れていったコートと・・・いや、それ以上にいい匂いだ。 テレサ:・・・ケビン? ケビン:あっちだ・・・あっちの方からする。 テレサ:ちょっとケビン。あなた変よ? ケビン:ごめん。何だかこの匂いを嗅ぐと、頭が痺れるようで・・・いい気分になるんだ。 テレサ:私にはわからないけど・・・どこからするの? ケビン:こっち・・・こっちだ。 テレサ:・・・っ!そっちは! ケビン:あれだ・・・あの冷蔵庫。 テレサ:ケビン!ちょっと待って―― ケビン:これは・・・死体? テレサ:・・・そう。私の婚約者。 ケビン:テレサ・・・君がやったのかい? テレサ:ええ。そうよ・・・ ケビン:そうか・・・理由はある程度、予想は出来るけど・・・ テレサ:その察しのとおりよ。もう限界だったの・・・ ケビン:・・・1つ質問しても良いかな? テレサ:何? ケビン:この死体、欠損だらけなんだけど・・・どうしたの? テレサ:雨の日、少しずつ持ち出して下水に流してたのよ。この地域は雨の日の人通りが少ないしね。 ケビン:そっか。この残りも処理するのかい? テレサ:ええ。出来るだけ早く。彼の知り合いから捜索願いが出されるまでには―― ケビン:僕の店に運ぼう。 テレサ:・・・え? ケビン:店には大きな鍋がある。煮込んでしまえばすぐ下水に流せるよ。 テレサ:ケビン。あなたまで犯罪者になってしまうわよ? ケビン:わかってるよ。でも僕は君と生きていきたいんだ。 テレサ:・・・ケビン。好きよ。愛してるわ。 ケビン:僕も愛してるよ。テレサ。 : 0:間― : テレサ:雨の降る深夜。私とケビンは婚約者だった肉塊をケビンのバーまで運んだ。 テレサ:ケビンは慣れた手つきで、豚でも解体するかのように、細切れを大鍋に入れて煮込んでいたわ。 テレサ:さっきまでわからなかった匂いが店中に充満して、私はめまいと吐き気で立っていられなくなった。 テレサ:でもケビンは、笑顔で幸せそうに鍋をかき回していた。その時だけは、出会った誰よりも怖かったわ。 テレサ:怖くてたまらなくて、殺してしまった婚約者よりもね・・・ : ケビン:もう匂いが消えてしまったね。残念だ。 テレサ:ケビンの店はこびりついた悪臭で、休業せざるを得なかった。当のケビンは満足そうだったけれど。 ケビン:今日もテレサはいい匂いだね・・・好きだよ。 テレサ:今は、私に移ったわずかな残り香を毎日嗅いでいる。 ケビン:愛してるよテレサ。何処にも行かないで・・・ テレサ:きっと彼が愛してるのは私自身じゃない・・・ : ケビン:テレサ・・・ テレサ:匂いが私から薄れた時。 ケビン:君からはどんな匂いがするんだろうね。 テレサ:次は私の番かもしれない。 : : 0:Fin――