台本概要

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タイトル Killing you
作者名 VAL  (@bakemonohouse)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 殺し屋と資産家の話。
特に制限はありません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ブライト 66 本文参照
フラン 69 本文参照
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:(登場人物) フラン:今作、主人公。ブライトの妻。専業主婦として、夫を支えている良妻。しかし殺し屋であり、夫婦になる前からブライトを監視してきた。 ブライト:資産家。フランの夫。一代で大企業を作り上げたやり手。抜けたところはあるが、察しもよく、フランの動向にも気付いている。 : 0:(本編) : 0:寝室― フラン:「永かったわね・・・貴方と出会って、もう何年経ったかしら。・・・明日でちょうど十年、結婚してからは5年ね。 フラン:楽しかったわ。毎日、色んな刺激があって、飽きない生活をありがとう。感謝してる。でもね、私は組織から逃げられない。あなたを殺す以外の価値は無いのよ。 フラン:・・・そろそろお別れね。強めの薬を飲ませておいたから、痛みも感じずに逝けるはずよ。・・・さよなら。」 0:布団の上からナイフを突き刺す。 フラン:「っ!!・・・嘘でしょ。どうしていないのよ!・・・何これ、手紙?」 : ブライト:『愛しの妻へ。この手紙を読んでいるってことは、暗殺に失敗したんだろうね。残念だよ。君といるのは楽しかったし、許されることなら、もっと一緒にいたかった。 ブライト:実は、君が殺し屋だってことは結婚するときには知ってたんだ。それでも愛していたから結婚したんだけど。 ブライト:ただ最近、さらに会社の規模が膨れ上がっただろ。だから、そろそろ来るんじゃないかと思ってた。 ブライト:・・・本当に言い辛いことだから、こうやって手紙に書いておくよ。 ブライト:僕は君を殺す。全財産をかけてでもね。 ブライト:今日は何もしないと約束するから、明日に備えてゆっくり休むといい。それでは、いい夜を。』 : フラン:「・・・ふふっ。してやられたわね。流石、私の愛した人。またミスしちゃったか・・・思い返せば、私達の出会いも私のミスから、だったわね・・・」 : 0:十年前― : フラン:私は孤児だった。物心ついたころには、孤児院で暮らしてた。十二歳の誕生日を迎えた日、里親が決まった。 フラン:十二歳を越えると孤児院にはいれない。1人で暮らすか、里親に引き取られ、育ててもらうかの2択・・・ フラン:私は迷わず、後者を取ったわ。1人で生きていく自信なんて無かったもの。 フラン:まさか、殺し屋の組織にもらわれるなんて、考えもしなかったけどね・・・ フラン:十八歳になった私は、組織の教育で1人前の殺し屋になってた。そこで与えられた任務は殺しではなく監視。ターゲットは若い実業家の男だった。 フラン:二十歳にして、親から受け継いだ会社を急成長させた男。それがブライトだった。私は彼の弱みを握るため、潜入させられていたのよ。ただの掃除婦としてね。 : ブライト:「やあみんな、おはよう!今日も決まってるね!元気そうで何よりだ!ははは!」 フラン:初めて彼を見たとき、聞いていた内容と全然そぐわなくて驚いてしまったのを覚えてるわ。 ブライト:「ジョニー!髪を切ったんだな!似合ってるぞ!メアリー!息子さんは元気かい?今度、会社にも遊びにおいでと伝えといてくれよ。」 フラン:やり手のビジネスマンらしくもなく、誰とでも気さくに話す彼は、まるで玩具屋ではしゃぐ少年のようだったわ。・・・ここで私の最初のミスが起きたの。きっと彼に見蕩れていたせいね。 ブライト:「あれ?君・・・」 フラン:「え・・・あの。」 ブライト:「どうして顔を隠すんだい?」 フラン:「いや、えっと・・・」 ブライト:「大丈夫だよ。取って食おうってわけじゃないから、怖がらないで。」 フラン:・・・正直な話。終わったと思ったわ。まさか初日からターゲットに顔が割れるなんてね。だから、はんば投げやりに帽子を取って笑ってやったの。 ブライト:「あはは・・・驚いたな。すごく綺麗だ。どうして君が掃除婦を?」 フラン:「え?あ、あの・・・働くところが無くて・・・」 ブライト:「そいつはおかしいな。それが本当なら、人事の人間を変えなくちゃならない」 フラン:「それはっ!」 ブライト:「冗談だよ。そんなに驚かないで。とりあえず、その仕事は君じゃなくてもできる。どうだろう、広報なんて君にぴったりだと思うけど。」 フラン:「あの!私、人前に出るのが苦手で・・・だから、この仕事を選んだんです・・・ごめんなさい。」 ブライト:「そういうことか・・・なら合点がいくね。人事のテコ入れはとりあえず中止だ。では、秘書ならどうだろう。人前に出ることは少ないし、給料だってかなり高い。これなら、どうかな?」 フラン:逃げれる気がしなかったわ。あんなに真っ直ぐ目を見て話しかけてくれたのは、人生で初めてだったもの。 フラン:結局、断ることはできなくて。重い気持ちのまま、組織に報告することになった。結果はまさかの続行。1番近いところで監視しろって任務が命じられることになった。 0: ブライト:「すまない、フラン。次の会議の時間を教えてくれ」 フラン:「はい!十二時です!」 ブライト:「ってことは・・・あと5分か!今日は一段と詰め込みすぎだな。そのあとは?」 フラン:「十三時半から会食、十五時から商品会議、そのまま会議室は変わらず十七時から―――」 ブライト:「サボったりしちゃダメかな?」 フラン:「はい。ダメですよ」 ブライト:「ぐ・・・わかったよ。やってやるさ!」 フラン:「頑張ってください!応援してます、社長!」 ブライト:「んーそろそろ名前で呼んでくれないか?社長って言われるのあんまり好きじゃないんだけど」 フラン:「そうですね・・・今日を乗り切ったら、考えておきますね。」 ブライト:「ははっ。あんまり期待せずにいるよ。じゃあ、行ってくる」 フラン:秘書となって2年の月日が経ったわ。もう秘書の仕事もお手の物。最初は急に秘書になった私に結構反対の声もあったけど、真剣にやってると落ち着くものね。そんな声もいつしか聞かなくなったわ。 フラン:それよりも意外だったのは、会社はドンドン大きくなるのに、組織からの指令は全く降りてこなかった。私に出来ることは、彼の動向を逐一報告する。それだけ。 0: ブライト:「ふぅ・・・」 フラン:「お疲れ様です社長」 ブライト:「フラン・・・また戻ってるぞ。僕の名前はブライトだ。」 フラン:「あ、ごめんなさい。癖って怖いわね」 ブライト:「全く。もう付き合い始めて2年だぞ?」 フラン:「そうね。でも秘書になって5年よ。仕事中は呼べないし、仕方ないじゃない」 ブライト:「まあ、確かに・・・今日はもう仕事入ってないよな?」 フラン:「えっと、1件だけ入ってるわね。十九時から・・・何かしら?概要が書いてないわね」 ブライト:「ああ、それはいいんだ。別件で空けてるだけだから。」 フラン:「そうなのね。・・・どうしたのかしら?手なんて差し出して。」 ブライト:「何も聞かないで、僕についてきてくれないか?」 フラン:「どうしたのよいきなり。」 ブライト:「大丈夫。悪いようにはしないさ。」 フラン:「ふふっ。信じてるわ。あなたが行くところなら、どこへでも。」 0: フラン:「ここは・・・?」 ブライト:「教会だよ。この街で1番大きな教会。」 フラン:「それはわかるけど、どうしてここへ?」 ブライト:「今日は君と出会ってちょうど5年。・・・今は、時間が取れなくて式をあげたりは出来ないけど、僕は君とずっといたい。結婚してくれないか?」 フラン:「・・・本当に私でいいの?」 ブライト:「君じゃないと嫌なんだ。フランじゃなきゃ意味が無い。・・・受けてくれるかい?」 フラン:「ええ。喜んで!好きよ、ブライト。」 ブライト:「僕もだよ。フラン、愛してる。」 フラン:この時は組織のことなんて、一切考えていなかったわ。・・・馬鹿ね。ここで断っておけば、まだ平静に任務を遂行できたでしょうに。 フラン:組織からは褒められたわ。よく懐に入り込んだってね。そこで痛感したわ・・・どこまで行っても、住む世界は違うんだって・・・ね。 フラン:私は、殺し屋なのよ・・・。 0: ブライト:僕が妻、フランと出会ったのは、掃除婦として会社に潜入していた彼女を見つけた時だった。 ブライト:突然だが、僕は人間を信用していない。父は他人を信用した結果、心を病んで死んでしまったからね。 ブライト:だからこそ、人事は僕が全部目を通してた。掃除婦を雇った記憶なんて無かったから、すぐに君に気付いたよ。悪意を持って近づく連中があらわれることは危惧していたしね。 ブライト:君の笑顔を見たとき、心底驚いた。それほどまでに理想的で、安っぽい表現だけど、天使に見えた。 ブライト:気付いたら口が勝手に動いてた。誰でもわかる刺客だというのに、近くに置いておきたくて仕方が無かったんだ。 0: ブライト:「今日の予定は?」 フラン:「あ、えっと・・・」 ブライト:「大丈夫、焦らなくていいから。ゆっくり覚えていけばいい」 フラン:「はい。すみません・・・」 ブライト:彼女のひたむきに頑張ろうとする姿に、より惹かれた。人間を信じないって決めたのに、段々と心を許してる自分がいたんだ。 0: フラン:「社長、次の商談まで二十分です。急がないとダメですよ!」 ブライト:「オーケー!車は用意してあるか?」 フラン:「もちろんです!」 ブライト:日に日に円滑に仕事を回せるようになっていく彼女を見て、言いようの無い気持ちになったのを鮮明に覚えてる。 0: ブライト:「あー疲れた・・・今日はもう何も出来る気がしないよ」 フラン:「お疲れ様です、社長。本日は全ての予定が終了しましたので安心してください」 ブライト:「・・・・・」 フラン:「どうしました?何か気になることでもありましたか?」 ブライト:「いや、社長呼びやめてくれないんだなって」 フラン:「・・・期待しないのでは無かったですか?」 ブライト:「せっかく地獄を乗り切ったってのに、何にもご褒美がないのはおかしいよ」 フラン:「はぁ・・・わかりました。言っておきますけど仕事中は呼べませんからね」 ブライト:「わかってる。それでいいから」 フラン:「じゃあ・・・ブライト。」 ブライト:「うん。なんだい?フラン。」 フラン:「・・・何か、照れますね」 ブライト:頬を赤らめた彼女は、演技をしているように見えなかった。もし騙されていたとしても、彼女になら構わないと思い始めていたんだ。 0: フラン:「ブライト、また会社で寝てたの?」 ブライト:「ん・・・今、何時だ?」 フラン:「もう8時よ。」 ブライト:「結構寝たな。今日の予定は何時からだっけ?」 フラン:「今日は十時からよ。もう少し寝れるわね。」 ブライト:「いや、1度シャワーを浴びに帰るよ。」 フラン:「そう。資料はもう出来てるのかしら。」 ブライト:「ああ。もうデスクに置いてある。」 フラン:「なら、心配いらないわね。」 ブライト:「・・・来ないのか?」 フラン:「え?」 ブライト:「どうせ僕が帰ってくるまでやることなんて無いだろ?」 フラン:「それは・・・まあ」 ブライト:「だったらおいで。気に入ったなら住むといい」 フラン:「・・・本気で言ってるの?」 ブライト:「僕はいつだって本気さ。」 フラン:「・・・・・」 ブライト:「ほら、行くよ」 フラン:「あ、わかったわよ」 ブライト:この日から、フランは僕の部屋に住むことになった。一緒にいたかったのもあるんだけど、本当は・・・彼女が敵じゃないと信じたかったから。 ブライト:結果は・・・黒だった。彼女は殺し屋で、僕を殺すために会社に潜入していた。回線を傍受した結果、たくさんのことがわかった。 ブライト:彼女は孤児育ちで、殺し屋を育てる組織に引き取られたこと。組織の合図で僕を殺す機会を待っていること。何度か、僕を殺す人間を変えて欲しいと言っていたことも・・・ ブライト:全てを知った僕は2つのことを決めた。彼女と結婚すること。それと・・・彼女を殺すことだ。 0: フラン:彼はきっと全部知ってたのね。知った上で私と結婚した。 フラン:ねぇブライト。どうして?あなたはどうして私と結婚したの?どうしてこんな汚れた私を愛してくれたの?それとも、偽りなの? フラン:「はぁ・・・考えても答えなんて出ないわね。明日は結婚記念日・・・か。」 フラン:私は考えるのを止めて眠ることにした。彼の香りがまだ残るベッドで最後の眠りを・・・ 0:朝を迎える。 フラン:「・・・っ!何この音。時計?とにかくここを出ないと!」 フラン:私が家を飛び出すと、寝室から火が上がった。 フラン:「あはは・・・本当に殺しに来てるのね。んんっ・・・」 フラン:突然、背後から口に布を押し当てられて意識が途切れた。薄れ行く意識の中、彼の顔が見えた気がしたわ・・・ フラン:「ん・・・ここは?・・・っ!ブライト!」 ブライト:「お目覚めかい?」 フラン:「あなた・・・その格好。」 ブライト:「今日のために作ったんだこのタキシード。君のドレスもね。」 フラン:「・・・ウェディングドレス。」 0:手を差し出すブライト ブライト:「さあ、そろそろ時間だ。行くよ。」 フラン:「・・・え?いったい何が起こってるの?」 ブライト:「僕の行くところなら、どこへでも着いてきてくれるんだろ?ほら、手を取って」 フラン:「ふふっ。きっと夢ね。いいわ、最期にいい夢を見れて幸せよ」 ブライト:「じゃあ、扉を開けるよ。」 フラン:「綺麗・・・こんなところで式を挙げてみたかったわ・・・」 ブライト:「今から挙げるんじゃないか。」 フラン:「そうね。夢でも嬉しいわ。素敵な結婚記念日ね。」 ブライト:「ははっ、これは現実だよ。」 フラン:「え?何を言ってるのよ。私は・・・」 ブライト:「確かに君は死んだよ。僕と一緒にね。」 フラン:「あ、あなたも一緒に死んでしまったの?」 ブライト:「ああ。でも本当に死んだわけじゃない。殺し屋フランと資産家ブライトが死んだだけさ。」 フラン:「ごめんなさい。理解が追いつかないわ。・・・これは現実なの?」 ブライト:「そうだよ。事故で2人とも死んだことになってる。・・・君はもう自由だ。」 フラン:「・・・本当に?あなたを殺さなくていいの?」 ブライト:「ああ。もうターゲットである僕はいないよ。ただの君の夫だ。」 フラン:「そう・・・そうなのね。嬉しい・・・でも、どうしても1つだけ聞きたいことがあるの。・・・本当に私でいいの?」 ブライト:「君じゃなきゃ嫌なんだ。フランじゃなきゃ意味が無い。今でもこれは変わらないよ。」 フラン:「どうして!?私はあなたを殺そうと・・・」 ブライト:「結果、殺したのは僕だったけどね。」 フラン:「そういうことじゃなくて!」 ブライト:「気にすることじゃない。君に惚れた僕の負けなんだ。それとも、僕の妻でいるのは嫌かい?」 フラン:「嫌なわけないじゃない。私はあなたと生きていたい。」 ブライト:「ああ。僕も同じ気持ちだ。・・・改めて言うよ。僕と死ぬまで一緒にいてくれますか?」 フラン:「・・・ええ。喜んで!!」 : : 0:Fin―

0:(登場人物) フラン:今作、主人公。ブライトの妻。専業主婦として、夫を支えている良妻。しかし殺し屋であり、夫婦になる前からブライトを監視してきた。 ブライト:資産家。フランの夫。一代で大企業を作り上げたやり手。抜けたところはあるが、察しもよく、フランの動向にも気付いている。 : 0:(本編) : 0:寝室― フラン:「永かったわね・・・貴方と出会って、もう何年経ったかしら。・・・明日でちょうど十年、結婚してからは5年ね。 フラン:楽しかったわ。毎日、色んな刺激があって、飽きない生活をありがとう。感謝してる。でもね、私は組織から逃げられない。あなたを殺す以外の価値は無いのよ。 フラン:・・・そろそろお別れね。強めの薬を飲ませておいたから、痛みも感じずに逝けるはずよ。・・・さよなら。」 0:布団の上からナイフを突き刺す。 フラン:「っ!!・・・嘘でしょ。どうしていないのよ!・・・何これ、手紙?」 : ブライト:『愛しの妻へ。この手紙を読んでいるってことは、暗殺に失敗したんだろうね。残念だよ。君といるのは楽しかったし、許されることなら、もっと一緒にいたかった。 ブライト:実は、君が殺し屋だってことは結婚するときには知ってたんだ。それでも愛していたから結婚したんだけど。 ブライト:ただ最近、さらに会社の規模が膨れ上がっただろ。だから、そろそろ来るんじゃないかと思ってた。 ブライト:・・・本当に言い辛いことだから、こうやって手紙に書いておくよ。 ブライト:僕は君を殺す。全財産をかけてでもね。 ブライト:今日は何もしないと約束するから、明日に備えてゆっくり休むといい。それでは、いい夜を。』 : フラン:「・・・ふふっ。してやられたわね。流石、私の愛した人。またミスしちゃったか・・・思い返せば、私達の出会いも私のミスから、だったわね・・・」 : 0:十年前― : フラン:私は孤児だった。物心ついたころには、孤児院で暮らしてた。十二歳の誕生日を迎えた日、里親が決まった。 フラン:十二歳を越えると孤児院にはいれない。1人で暮らすか、里親に引き取られ、育ててもらうかの2択・・・ フラン:私は迷わず、後者を取ったわ。1人で生きていく自信なんて無かったもの。 フラン:まさか、殺し屋の組織にもらわれるなんて、考えもしなかったけどね・・・ フラン:十八歳になった私は、組織の教育で1人前の殺し屋になってた。そこで与えられた任務は殺しではなく監視。ターゲットは若い実業家の男だった。 フラン:二十歳にして、親から受け継いだ会社を急成長させた男。それがブライトだった。私は彼の弱みを握るため、潜入させられていたのよ。ただの掃除婦としてね。 : ブライト:「やあみんな、おはよう!今日も決まってるね!元気そうで何よりだ!ははは!」 フラン:初めて彼を見たとき、聞いていた内容と全然そぐわなくて驚いてしまったのを覚えてるわ。 ブライト:「ジョニー!髪を切ったんだな!似合ってるぞ!メアリー!息子さんは元気かい?今度、会社にも遊びにおいでと伝えといてくれよ。」 フラン:やり手のビジネスマンらしくもなく、誰とでも気さくに話す彼は、まるで玩具屋ではしゃぐ少年のようだったわ。・・・ここで私の最初のミスが起きたの。きっと彼に見蕩れていたせいね。 ブライト:「あれ?君・・・」 フラン:「え・・・あの。」 ブライト:「どうして顔を隠すんだい?」 フラン:「いや、えっと・・・」 ブライト:「大丈夫だよ。取って食おうってわけじゃないから、怖がらないで。」 フラン:・・・正直な話。終わったと思ったわ。まさか初日からターゲットに顔が割れるなんてね。だから、はんば投げやりに帽子を取って笑ってやったの。 ブライト:「あはは・・・驚いたな。すごく綺麗だ。どうして君が掃除婦を?」 フラン:「え?あ、あの・・・働くところが無くて・・・」 ブライト:「そいつはおかしいな。それが本当なら、人事の人間を変えなくちゃならない」 フラン:「それはっ!」 ブライト:「冗談だよ。そんなに驚かないで。とりあえず、その仕事は君じゃなくてもできる。どうだろう、広報なんて君にぴったりだと思うけど。」 フラン:「あの!私、人前に出るのが苦手で・・・だから、この仕事を選んだんです・・・ごめんなさい。」 ブライト:「そういうことか・・・なら合点がいくね。人事のテコ入れはとりあえず中止だ。では、秘書ならどうだろう。人前に出ることは少ないし、給料だってかなり高い。これなら、どうかな?」 フラン:逃げれる気がしなかったわ。あんなに真っ直ぐ目を見て話しかけてくれたのは、人生で初めてだったもの。 フラン:結局、断ることはできなくて。重い気持ちのまま、組織に報告することになった。結果はまさかの続行。1番近いところで監視しろって任務が命じられることになった。 0: ブライト:「すまない、フラン。次の会議の時間を教えてくれ」 フラン:「はい!十二時です!」 ブライト:「ってことは・・・あと5分か!今日は一段と詰め込みすぎだな。そのあとは?」 フラン:「十三時半から会食、十五時から商品会議、そのまま会議室は変わらず十七時から―――」 ブライト:「サボったりしちゃダメかな?」 フラン:「はい。ダメですよ」 ブライト:「ぐ・・・わかったよ。やってやるさ!」 フラン:「頑張ってください!応援してます、社長!」 ブライト:「んーそろそろ名前で呼んでくれないか?社長って言われるのあんまり好きじゃないんだけど」 フラン:「そうですね・・・今日を乗り切ったら、考えておきますね。」 ブライト:「ははっ。あんまり期待せずにいるよ。じゃあ、行ってくる」 フラン:秘書となって2年の月日が経ったわ。もう秘書の仕事もお手の物。最初は急に秘書になった私に結構反対の声もあったけど、真剣にやってると落ち着くものね。そんな声もいつしか聞かなくなったわ。 フラン:それよりも意外だったのは、会社はドンドン大きくなるのに、組織からの指令は全く降りてこなかった。私に出来ることは、彼の動向を逐一報告する。それだけ。 0: ブライト:「ふぅ・・・」 フラン:「お疲れ様です社長」 ブライト:「フラン・・・また戻ってるぞ。僕の名前はブライトだ。」 フラン:「あ、ごめんなさい。癖って怖いわね」 ブライト:「全く。もう付き合い始めて2年だぞ?」 フラン:「そうね。でも秘書になって5年よ。仕事中は呼べないし、仕方ないじゃない」 ブライト:「まあ、確かに・・・今日はもう仕事入ってないよな?」 フラン:「えっと、1件だけ入ってるわね。十九時から・・・何かしら?概要が書いてないわね」 ブライト:「ああ、それはいいんだ。別件で空けてるだけだから。」 フラン:「そうなのね。・・・どうしたのかしら?手なんて差し出して。」 ブライト:「何も聞かないで、僕についてきてくれないか?」 フラン:「どうしたのよいきなり。」 ブライト:「大丈夫。悪いようにはしないさ。」 フラン:「ふふっ。信じてるわ。あなたが行くところなら、どこへでも。」 0: フラン:「ここは・・・?」 ブライト:「教会だよ。この街で1番大きな教会。」 フラン:「それはわかるけど、どうしてここへ?」 ブライト:「今日は君と出会ってちょうど5年。・・・今は、時間が取れなくて式をあげたりは出来ないけど、僕は君とずっといたい。結婚してくれないか?」 フラン:「・・・本当に私でいいの?」 ブライト:「君じゃないと嫌なんだ。フランじゃなきゃ意味が無い。・・・受けてくれるかい?」 フラン:「ええ。喜んで!好きよ、ブライト。」 ブライト:「僕もだよ。フラン、愛してる。」 フラン:この時は組織のことなんて、一切考えていなかったわ。・・・馬鹿ね。ここで断っておけば、まだ平静に任務を遂行できたでしょうに。 フラン:組織からは褒められたわ。よく懐に入り込んだってね。そこで痛感したわ・・・どこまで行っても、住む世界は違うんだって・・・ね。 フラン:私は、殺し屋なのよ・・・。 0: ブライト:僕が妻、フランと出会ったのは、掃除婦として会社に潜入していた彼女を見つけた時だった。 ブライト:突然だが、僕は人間を信用していない。父は他人を信用した結果、心を病んで死んでしまったからね。 ブライト:だからこそ、人事は僕が全部目を通してた。掃除婦を雇った記憶なんて無かったから、すぐに君に気付いたよ。悪意を持って近づく連中があらわれることは危惧していたしね。 ブライト:君の笑顔を見たとき、心底驚いた。それほどまでに理想的で、安っぽい表現だけど、天使に見えた。 ブライト:気付いたら口が勝手に動いてた。誰でもわかる刺客だというのに、近くに置いておきたくて仕方が無かったんだ。 0: ブライト:「今日の予定は?」 フラン:「あ、えっと・・・」 ブライト:「大丈夫、焦らなくていいから。ゆっくり覚えていけばいい」 フラン:「はい。すみません・・・」 ブライト:彼女のひたむきに頑張ろうとする姿に、より惹かれた。人間を信じないって決めたのに、段々と心を許してる自分がいたんだ。 0: フラン:「社長、次の商談まで二十分です。急がないとダメですよ!」 ブライト:「オーケー!車は用意してあるか?」 フラン:「もちろんです!」 ブライト:日に日に円滑に仕事を回せるようになっていく彼女を見て、言いようの無い気持ちになったのを鮮明に覚えてる。 0: ブライト:「あー疲れた・・・今日はもう何も出来る気がしないよ」 フラン:「お疲れ様です、社長。本日は全ての予定が終了しましたので安心してください」 ブライト:「・・・・・」 フラン:「どうしました?何か気になることでもありましたか?」 ブライト:「いや、社長呼びやめてくれないんだなって」 フラン:「・・・期待しないのでは無かったですか?」 ブライト:「せっかく地獄を乗り切ったってのに、何にもご褒美がないのはおかしいよ」 フラン:「はぁ・・・わかりました。言っておきますけど仕事中は呼べませんからね」 ブライト:「わかってる。それでいいから」 フラン:「じゃあ・・・ブライト。」 ブライト:「うん。なんだい?フラン。」 フラン:「・・・何か、照れますね」 ブライト:頬を赤らめた彼女は、演技をしているように見えなかった。もし騙されていたとしても、彼女になら構わないと思い始めていたんだ。 0: フラン:「ブライト、また会社で寝てたの?」 ブライト:「ん・・・今、何時だ?」 フラン:「もう8時よ。」 ブライト:「結構寝たな。今日の予定は何時からだっけ?」 フラン:「今日は十時からよ。もう少し寝れるわね。」 ブライト:「いや、1度シャワーを浴びに帰るよ。」 フラン:「そう。資料はもう出来てるのかしら。」 ブライト:「ああ。もうデスクに置いてある。」 フラン:「なら、心配いらないわね。」 ブライト:「・・・来ないのか?」 フラン:「え?」 ブライト:「どうせ僕が帰ってくるまでやることなんて無いだろ?」 フラン:「それは・・・まあ」 ブライト:「だったらおいで。気に入ったなら住むといい」 フラン:「・・・本気で言ってるの?」 ブライト:「僕はいつだって本気さ。」 フラン:「・・・・・」 ブライト:「ほら、行くよ」 フラン:「あ、わかったわよ」 ブライト:この日から、フランは僕の部屋に住むことになった。一緒にいたかったのもあるんだけど、本当は・・・彼女が敵じゃないと信じたかったから。 ブライト:結果は・・・黒だった。彼女は殺し屋で、僕を殺すために会社に潜入していた。回線を傍受した結果、たくさんのことがわかった。 ブライト:彼女は孤児育ちで、殺し屋を育てる組織に引き取られたこと。組織の合図で僕を殺す機会を待っていること。何度か、僕を殺す人間を変えて欲しいと言っていたことも・・・ ブライト:全てを知った僕は2つのことを決めた。彼女と結婚すること。それと・・・彼女を殺すことだ。 0: フラン:彼はきっと全部知ってたのね。知った上で私と結婚した。 フラン:ねぇブライト。どうして?あなたはどうして私と結婚したの?どうしてこんな汚れた私を愛してくれたの?それとも、偽りなの? フラン:「はぁ・・・考えても答えなんて出ないわね。明日は結婚記念日・・・か。」 フラン:私は考えるのを止めて眠ることにした。彼の香りがまだ残るベッドで最後の眠りを・・・ 0:朝を迎える。 フラン:「・・・っ!何この音。時計?とにかくここを出ないと!」 フラン:私が家を飛び出すと、寝室から火が上がった。 フラン:「あはは・・・本当に殺しに来てるのね。んんっ・・・」 フラン:突然、背後から口に布を押し当てられて意識が途切れた。薄れ行く意識の中、彼の顔が見えた気がしたわ・・・ フラン:「ん・・・ここは?・・・っ!ブライト!」 ブライト:「お目覚めかい?」 フラン:「あなた・・・その格好。」 ブライト:「今日のために作ったんだこのタキシード。君のドレスもね。」 フラン:「・・・ウェディングドレス。」 0:手を差し出すブライト ブライト:「さあ、そろそろ時間だ。行くよ。」 フラン:「・・・え?いったい何が起こってるの?」 ブライト:「僕の行くところなら、どこへでも着いてきてくれるんだろ?ほら、手を取って」 フラン:「ふふっ。きっと夢ね。いいわ、最期にいい夢を見れて幸せよ」 ブライト:「じゃあ、扉を開けるよ。」 フラン:「綺麗・・・こんなところで式を挙げてみたかったわ・・・」 ブライト:「今から挙げるんじゃないか。」 フラン:「そうね。夢でも嬉しいわ。素敵な結婚記念日ね。」 ブライト:「ははっ、これは現実だよ。」 フラン:「え?何を言ってるのよ。私は・・・」 ブライト:「確かに君は死んだよ。僕と一緒にね。」 フラン:「あ、あなたも一緒に死んでしまったの?」 ブライト:「ああ。でも本当に死んだわけじゃない。殺し屋フランと資産家ブライトが死んだだけさ。」 フラン:「ごめんなさい。理解が追いつかないわ。・・・これは現実なの?」 ブライト:「そうだよ。事故で2人とも死んだことになってる。・・・君はもう自由だ。」 フラン:「・・・本当に?あなたを殺さなくていいの?」 ブライト:「ああ。もうターゲットである僕はいないよ。ただの君の夫だ。」 フラン:「そう・・・そうなのね。嬉しい・・・でも、どうしても1つだけ聞きたいことがあるの。・・・本当に私でいいの?」 ブライト:「君じゃなきゃ嫌なんだ。フランじゃなきゃ意味が無い。今でもこれは変わらないよ。」 フラン:「どうして!?私はあなたを殺そうと・・・」 ブライト:「結果、殺したのは僕だったけどね。」 フラン:「そういうことじゃなくて!」 ブライト:「気にすることじゃない。君に惚れた僕の負けなんだ。それとも、僕の妻でいるのは嫌かい?」 フラン:「嫌なわけないじゃない。私はあなたと生きていたい。」 ブライト:「ああ。僕も同じ気持ちだ。・・・改めて言うよ。僕と死ぬまで一緒にいてくれますか?」 フラン:「・・・ええ。喜んで!!」 : : 0:Fin―