台本概要
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タイトル | 〇〇大全(まるまるたいぜん) |
---|---|
作者名 | 机の上の地球儀 (@tsukuenoueno) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 1人用台本(女1) ※兼役あり |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
5分程度/サスペンスホラー/男性読み手の朗読も可 商用・非商用利用に問わず連絡不要。 告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。 (その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください) ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。 台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。 229 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
女 | 女 | 14 | 無口な恋人がいる女。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
:
:
:
女:だからね。なおちゃんの結婚式、ドレスどうしようかなって。あの赤いの、詩織の式にも着て行ったし。それになおちゃん赤好きじゃない。もしお色直しと色が被ったら……、
:(間)
:
女:ねえ、話聞いてる?
:
女:(M)「うん」と、男の喉が低く返事をする。思わず何度目かのため息が漏れる。本を読みながら空返事をするこの男と連れ添って5年。男の視線は手元の本から微動だにせず、どうやら私の言葉は右から左へ耳の穴をすり抜けていったらしい。
:
女:右から左へ抜けるには脳みそを通るはずなんだけど。よほど脳が小さいか、はたまたスカスカで穴だらけなのね、きっと。
:
女:(M)嫌味を言いながら隣に腰をおろしても男の視線は動かない。
:
女:何を読んでるの?
:
女:(M)表紙を覗き込むと4文字の漢字が並んでいた。……が、1文字目がどうも見慣れず、読むことができない。自分の学の無さに呆れてしまう。私は他の3文字から推測し、タイトルを読み上げた。
:
女:『燻製大全』?
:
女:(M)男が珍しくフッと微笑む。笑った顔なんていつぶりに見ただろうか。デートらしいデートもなければ、誕生日のお祝いや記念日のディナーもない。特に趣味や性格が合う訳でもないし、顔がタイプな訳でもない。お互い一体どこを好きになったのかサッパリだ。
女:……でも、この笑った顔は悪くない。
女:会話らしい会話はないが、風呂掃除や皿洗いなど、面倒な家事は率先して引き受けてくれるし、鞄や買い物後の袋も必ず持ってくれる。私はいつも手ぶらで、そもそも彼と付き合ってから、重い荷物を持ち上げたことは一度としてないかもしれないと思い至る。
女:それに。……それに一度だけ、付き合いたての頃にプレゼントを貰ったこともあったっけ。あの手袋は、こいつにしては趣味が良かった。
女:
女:燻製なんて好きだったっけ?と訊くと、驚くことに間髪入れずに答えが返ってくる。
女:
女:「あんたの為だよ」
:
女:私の為?……え、私燻製好きだなんて言ったっけ?まあ嫌いじゃないけど。
:(間)
:
女:……あは。でも嬉しいな。珍しいね、私の為に何かしてくれるなんて。
:
女:(M)返事は、ない。もし、これが彼の照れ隠しだとしたら。……なーんだ、最近もう私のこと好きじゃないのかなと思っていたのに。途端にその無愛想な横顔が愛おしくなる。
女:彼の読んでいる本には、所々に説明写真が載っているようであった。くしゃくしゃの肌色の何かが目に入り、何だろうとよくよく目を凝らした私は、その写真が何か気付いてしまった瞬間、反射で声を上げそうになった。
女:まるで解剖学の参考書のような写真だった。もしくは、猟奇殺人の参考資料、とか。
女:写真の中で、人間の顔や手足がまるで鞣(なめ)した虎のカーペットのように、皮だけになって広げられていた。
女:頭を殴られたかのように、ぐわん、と世界が回る。歪んでいく視界を尻目に、脳は過去の彼との会話を思い返していた。
女:
女:新歓の自己紹介で、「いやあ、他の可愛い女性陣と違って、ブスで音痴で運動下手!何の取り柄もなくてすみませぇん!」と笑いを取った私に、彼の視線だけが冷ややかで。
女:それなのにくじ引きで隣になったものだから私の心臓はもうバクバクで。恐る恐る横に座ると、予想とは裏腹にすぐさま握手を求められ、滅多に笑わない彼がにこやかにこう言った。
女:
女:「手、綺麗ですね」
女:
女:心臓の音が脳に響く。
女:
女:……そう、そうだった。初対面でそう言った彼に、私はおちゃらけて「口説いてんの?」と返した。それなのに、彼は「えぇ、そうですよ」と真顔で言うものだからとても驚いて。
女:……そうだった。彼が好きなのは、私の……私の……、
女:
女:先ほどは思い出せなかった、本のタイトルの1文字目。……あれは燻製ではなく、もしかして……。
女:思わず立ち上がった瞬間、机の上のガラスグラスを引っ掛け倒してしまう。うすはりのそれは、鋭利な破片となってカーペットに散らばった。
:
女:ごめんなさい……!
:
女:(M)咄嗟に手を伸ばすと、右から彼がそれをすごい勢いで制止した。
女:
女:「気をつけろ!危ないだろ!」
女:
女:脈拍が早まっていくのを感じる。
女:彼の声がエコーがかって脳に響く。
女:大丈夫、ほら、心配してくれているじゃない。そう。心配してくれているだけ。私を。だから……!
女:
女:「手に傷が出来たらどうするんだ」
女:
女:彼が投げ捨てた本の表紙が手に入る。
女:
女:
女:『剥製大全』
女:
女:
女:そのまま私の視界は、ぐにゃり、と暗転した。
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女:だからね。なおちゃんの結婚式、ドレスどうしようかなって。あの赤いの、詩織の式にも着て行ったし。それになおちゃん赤好きじゃない。もしお色直しと色が被ったら……、
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女:ねえ、話聞いてる?
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女:(M)「うん」と、男の喉が低く返事をする。思わず何度目かのため息が漏れる。本を読みながら空返事をするこの男と連れ添って5年。男の視線は手元の本から微動だにせず、どうやら私の言葉は右から左へ耳の穴をすり抜けていったらしい。
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女:右から左へ抜けるには脳みそを通るはずなんだけど。よほど脳が小さいか、はたまたスカスカで穴だらけなのね、きっと。
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女:(M)嫌味を言いながら隣に腰をおろしても男の視線は動かない。
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女:何を読んでるの?
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女:(M)表紙を覗き込むと4文字の漢字が並んでいた。……が、1文字目がどうも見慣れず、読むことができない。自分の学の無さに呆れてしまう。私は他の3文字から推測し、タイトルを読み上げた。
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女:『燻製大全』?
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女:(M)男が珍しくフッと微笑む。笑った顔なんていつぶりに見ただろうか。デートらしいデートもなければ、誕生日のお祝いや記念日のディナーもない。特に趣味や性格が合う訳でもないし、顔がタイプな訳でもない。お互い一体どこを好きになったのかサッパリだ。
女:……でも、この笑った顔は悪くない。
女:会話らしい会話はないが、風呂掃除や皿洗いなど、面倒な家事は率先して引き受けてくれるし、鞄や買い物後の袋も必ず持ってくれる。私はいつも手ぶらで、そもそも彼と付き合ってから、重い荷物を持ち上げたことは一度としてないかもしれないと思い至る。
女:それに。……それに一度だけ、付き合いたての頃にプレゼントを貰ったこともあったっけ。あの手袋は、こいつにしては趣味が良かった。
女:
女:燻製なんて好きだったっけ?と訊くと、驚くことに間髪入れずに答えが返ってくる。
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女:「あんたの為だよ」
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女:私の為?……え、私燻製好きだなんて言ったっけ?まあ嫌いじゃないけど。
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女:……あは。でも嬉しいな。珍しいね、私の為に何かしてくれるなんて。
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女:(M)返事は、ない。もし、これが彼の照れ隠しだとしたら。……なーんだ、最近もう私のこと好きじゃないのかなと思っていたのに。途端にその無愛想な横顔が愛おしくなる。
女:彼の読んでいる本には、所々に説明写真が載っているようであった。くしゃくしゃの肌色の何かが目に入り、何だろうとよくよく目を凝らした私は、その写真が何か気付いてしまった瞬間、反射で声を上げそうになった。
女:まるで解剖学の参考書のような写真だった。もしくは、猟奇殺人の参考資料、とか。
女:写真の中で、人間の顔や手足がまるで鞣(なめ)した虎のカーペットのように、皮だけになって広げられていた。
女:頭を殴られたかのように、ぐわん、と世界が回る。歪んでいく視界を尻目に、脳は過去の彼との会話を思い返していた。
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女:新歓の自己紹介で、「いやあ、他の可愛い女性陣と違って、ブスで音痴で運動下手!何の取り柄もなくてすみませぇん!」と笑いを取った私に、彼の視線だけが冷ややかで。
女:それなのにくじ引きで隣になったものだから私の心臓はもうバクバクで。恐る恐る横に座ると、予想とは裏腹にすぐさま握手を求められ、滅多に笑わない彼がにこやかにこう言った。
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女:「手、綺麗ですね」
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女:心臓の音が脳に響く。
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女:……そう、そうだった。初対面でそう言った彼に、私はおちゃらけて「口説いてんの?」と返した。それなのに、彼は「えぇ、そうですよ」と真顔で言うものだからとても驚いて。
女:……そうだった。彼が好きなのは、私の……私の……、
女:
女:先ほどは思い出せなかった、本のタイトルの1文字目。……あれは燻製ではなく、もしかして……。
女:思わず立ち上がった瞬間、机の上のガラスグラスを引っ掛け倒してしまう。うすはりのそれは、鋭利な破片となってカーペットに散らばった。
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女:ごめんなさい……!
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女:(M)咄嗟に手を伸ばすと、右から彼がそれをすごい勢いで制止した。
女:
女:「気をつけろ!危ないだろ!」
女:
女:脈拍が早まっていくのを感じる。
女:彼の声がエコーがかって脳に響く。
女:大丈夫、ほら、心配してくれているじゃない。そう。心配してくれているだけ。私を。だから……!
女:
女:「手に傷が出来たらどうするんだ」
女:
女:彼が投げ捨てた本の表紙が手に入る。
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女:
女:『剥製大全』
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女:
女:そのまま私の視界は、ぐにゃり、と暗転した。
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