台本概要

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タイトル 平成34年
作者名 VAL  (@bakemonohouse)
ジャンル ミステリー
演者人数 5人用台本(男2、女3) ※兼役あり
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 少し拗れた5人劇サスペンスです。
ナレーションだけ兼役してください。
特に制限は設けておりません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
118
杏奈 52
皐月 122
雪人 90
44
N 不問 7
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:(登場人物紹介) 恵:三岳恵(みたけめぐみ) 杏奈:倉木杏奈(くらきあんな) 皐月:木原皐月(きはらさつき) 雪人:唐沢雪人(からさわゆきと) 章:黒田章(くろだあきら) N:ナレーション。誰かが兼任。 : 0:(本編) 皐月:なあ2人とも知ってる? 雪人:えっと、何を? 恵:いつも主語が無いのよね。皐月って。 皐月:そんなのどうだっていいんだよ!これだよこれ。 恵:何よ。新聞なんて珍しい。 皐月:恵は読まねーの? 雪人:逆に皐月ちゃんが読むことが意外だよ。 皐月:馬鹿にしすぎでは?てかコーラ飲みすぎ。糖尿になるよ。 雪人:好きだから大丈夫だよ。 皐月:どんな理屈だよ。 恵:それで、その新聞がどうしたの? 皐月:あ、そうそう。この記事なんだけど。 雪人:流星群? 皐月:そう!今週末に見れるんだってさ。しかも今回のは、かなり綺麗に見れるらしいよ。 雪人:皐月ちゃんってそんなの好きだったっけ? 恵:たまに女の子っぽいところあるからね。 皐月:いいだろ別に。それでさ、みんな週末何してる? 恵:今のところ予定は無いけど。 雪人:俺はちょっと用事あるけど。 皐月:え。マジ?そっかあ・・・ 雪人:あー・・・早く終わらせて向かうよ。 皐月:本当!? 恵:雪人は皐月に甘すぎるかもね。 雪人:少しは自覚してるよ。 恵:それは良かった。 皐月:じゃあさ!どこで見よっか!高い場所が良いよな?学校の屋上とかどうよ。 0:間― N:10年前、彼女たちは同じ学校に通う同級生だった。いつも一緒に集まって、どうでもいい話をよくしてた。 N:この時も、一緒に流星群を見ようって約束をして、こんな時間が永遠に続くものだと思ってた。 N:・・・続いて、欲しかった。 0:間― 皐月:恵!無事なの!? 恵:こっちは大丈夫!そっちは? 皐月:こっちも大丈夫だよ。 恵:じゃあ今からそっちに―― 皐月:来ないで! 恵:・・・え? 皐月:足場が崩れやすくなってるの。だから来ちゃダメ。 恵:嘘でしょ。今助けてあげるから―― 皐月:無理なんだって。・・・瓦礫に腰から下が挟まれて感覚が無い。 恵:そんな・・・ 皐月:恵、落ち着いて聞いて?早くここを出て雪人に伝えて欲しいの。・・・一生好きって。 恵:・・・わかった。 皐月:ありがと。聞き分けがいいのは恵の良い所だよ。辛いこと頼んでごめんね。 恵:1番辛いのは・・・あんたでしょうが。 皐月:・・・早く行って。いつ崩れるか、もしかしたらまた何かが飛んでくるかもしれない。 恵:皐月、絶対助けるから。 皐月:・・・うん。待ってる。 0:走り出す恵 恵:(息切れ) 雪人:恵!大丈夫か!? 恵:ゆ、雪人・・・うん。でも・・・ 雪人:酷い息切れだ。深呼吸して、そう。ゆっくり。 恵:・・・・・ 雪人:落ち着いた? 恵:雪人!皐月が! 雪人:皐月ちゃん?皐月ちゃんは・・・まさか。 恵:学校に取り残されてる。 雪人:俺、行って来る。 恵:私も行く―― 雪人:恵はここにいて欲しい。絶対連れて帰ってくるから。 恵:でも・・・ 雪人:じゃあ念のために助けを呼んでて。ね? 恵:・・・わかった。 雪人:うん。ありがとう。・・・行って来るよ。 0:間― N:この日、流れ星を願った彼女達のもとに落ちたのは、どこかの国の航空機。 N:これが全ての始まりだった。・・・それと、雪人と皐月の終わりの日。 N:救命隊が到着する直前、航空機が爆発し、校舎もろとも吹き飛ばした。 N:3人ずっと一緒。という願いは、唱えることも叶うことも無かった・・・ 0:間― 杏奈:明日で10年ね。あの事件から。 恵:そうですね。 杏奈:もう慣れたかしら? 恵:かなり前を向いて歩けるようにはなりましたよ。 杏奈:それは良いことね。 恵:でも、あの日が近づくと胸が痛みますね。多分これは一生ですけど。 杏奈:それは、あなたが優しいからよ。悪いことじゃないわ。 恵:ありがとうございます部長。 杏奈:・・・部長って呼ぶなって言ったでしょ?何か響きがおっさんみたいで嫌なのよね。 恵:ふふっ。そうでしたね。でも杏奈さんは女性社員の憧れなんですよ? 杏奈:ありがたいね。あっそういえば、新入社員に可愛い女性社員がいるそうじゃない。一度お茶してみたいわぁ。 恵:杏奈さん。おっさん出てますよ。 杏奈:おっといけないいけない。あ、もうこんな時間じゃん。帰らなきゃ。 恵:何か予定ですか?あっもしかして流星群ですか?10年ぶりに急接近だそうですね。 杏奈:ん?違う違う。ビールが私を待ってるだけよ。 恵:あぁ・・・やっぱりおっさん―― 杏奈:何か言った? 恵:いえ、何も。 杏奈:ふーん。まあいいでしょう。あなたも早く帰りなさいね。じゃ、私はお先に。 恵:はい。お疲れ様です。また明日。 杏奈:明日?会社は休みじゃなかったかしら? 恵:恋人のプレゼント、買いに行くの付き合えって言ってたじゃないですか。 杏奈:あー・・・忘れてた。あはは。 恵:仕事は出来るのに、何で私生活はこうなんですかね・・・ 杏奈:ごめんなさいって。じゃあ・・・10時。10時に駅前でよろしく。 恵:わかりました。また連絡しますね。 杏奈:ええ。待ってるわ。 0:間― 恵:今日は良く見えそうだね。あの日は星どころじゃなくて、気付いたら終わってた。 恵:皐月、雪人。あの星のどれかはあなた達だったりするのかな。だったらいいなあ。 恵:やっぱり1人で見るのは寂しいね・・・ 恵:ずっと3人でいたかったな・・・今も願い事は変わらないよ。 恵:・・・そろそろ寝ないと。約束に間に合わなくなっちゃう。・・・おやすみ。皐月、雪人。 0:間― 恵:・・・うるさ。電話?・・・もしもし―― 杏奈:三岳!今何時だと思ってる! 恵:あ、杏奈さん?いきなり大きい声出さないでくださいよ・・・ 杏奈:杏奈?私のことは倉木部長と呼べと言ったはずだが? 恵:え?いつもその呼び方は嫌だと―― 杏奈:いいから早く来い!遅刻だぞ! 恵:あ、切られた。え?まだ8時じゃん。・・・ボケちゃった?まさかね。 0:間― 杏奈:では、約1名ほど遅刻者が出たようだが、朝礼のほうを始めていくぞ。皆、おはよう! 皐月:おはようございます。 雪人:おはようございます。 杏奈:本日は、我が部署に新しい職員が来ている。挨拶を。 章:みなさん、おはようございます。黒田章です。本部からの推薦により、こちら対テロ組織犯罪防止課に配属となりました。本日より、よろしくお願いいたします。 杏奈:黒田君は本部でも優秀な職員であったが、最近増加傾向にあるテロの原因を突き止めるべく、こちらに配属の運びとなった。何か質問のあるものはいるか? 雪人:はい。 杏奈:では、唐沢。 雪人:黒田さんは本部でどの役職にいたのですか? 章:役職というのは? 雪人:まさか平社員ということはないでしょう?ここは言わば最前線です。本部のような安全な要塞でもなく、普通の会社に紛れているだけ。 雪人:そんなところに急に配属されるのは・・・余程、有能な方。もしくは、使い物にならないから左遷された。と考えるのは自然ではないですか? 杏奈:おい、唐沢―― 章:面白いね。唐沢君だったかな?下の名前はなんと言うんだい? 雪人:雪人です。 章:あー思い出した。資料で見たよ。毎月素晴らしい働きをしていると。名前の通り、冷たい目をしているね。 章:君の問いに応えよう。私は本部で関西司令部の長をしていた。勤続こそ短いが、大阪の通天閣爆破を止めたのは私だ。 皐月:雪人、関西司令部って・・・ 雪人:・・・超エリートだ。 章:満足のいく答えを提供できたかな? 雪人:ええ。ありがとうございます。黒田さんのような優秀な方と仕事が出来て、光栄です。 章:はっはっ。清々しい程の手のひら返しだね。 雪人:切り替えが早いとよく言われます。 章:いいね。この仕事には最も必要なことだ。適応能力は高ければ高いほどいい。 章:倉木部長。少し時間を頂いてもよろしいですか? 杏奈:ええ。どうぞ。 章:ありがとうございます。・・・諸君、我々はこの日本の盾である。この中には、家族や友人をテロにより亡くしたものも居るだろう。 章:私も妻と娘を失った。その時は怒りで震え、復讐が頭の中を支配した。しかし、私の宝物を壊した当人はこの世に居ない。 章:途方に暮れたよ。感情はマグマのように煮えたぎり、今にも噴き出そうとしているのに、その行き場所が無い。何日も考えた。 章:ふと空を見上げたんだ。娘が好きだった鳩が飛んでいた。鳩は平和の象徴だといわれている。この街でも沢山の鳩を見かけたよ。 章:今日まで、君たちが平和を守ってきてくれているからだ。本当にありがとう。 章:そして今日からは、私も君たちの仲間に入れてもらいたい。どうかよろしく頼む。 杏奈:(拍手) 雪人:(遅めの拍手) 皐月:(激しい拍手) 章:ありがとう。改めて皆さん。一緒に日本を守りましょう! 皐月:はい!一緒に頑張りましょう! 雪人:・・・皐月ちゃん。ちょっと―― 杏奈:では!そろそろ業務に――っと電話だ。・・・はあ!?駅前だと?・・・わかった。今すぐ迎えをやるからそこにいろ!あの馬鹿・・・ 皐月:何かあったんですか? 杏奈:三岳の馬鹿が駅前に着きました。だと。今日のあいつはどこかおかしい。だから木原。 皐月:な、何でしょう。 杏奈:ちょっと迎えに行ってやってくれ。 皐月:ですよね・・・はい。行ってまいります。 杏奈:すまないが、よろしく頼む。三岳は私がこってり絞ってやるから。 皐月:お手柔らかにしてやってください。では行ってきます。 雪人:皐月ちゃん、帰ってきたら少し時間ある? 皐月:え?うん、多分。どうしたの? 雪人:・・・あとで話すよ。 皐月:ん?まあいいや。わかった。またあとでね。 章:・・・皐月ちゃんね・・・ 雪人:何か? 章:いいや?何も言ってないが? 雪人:・・・・・ 章:肩に力が入りすぎだな。あまり良くないぞ?リラックスだ。リラーーーーックス。な?はっはっは。 雪人:・・・ちっ。 0:間― 恵:なんか今日の杏奈さん怒りっぽいんだよね。更年期・・・なのかな。 皐月:あ、いた。全然、気付かないな。クラクション鳴らしてみよ。 恵:ん?あれかな?迎えって。 皐月:あ、気付いた。おまたせー! 恵:・・・え? N:周りから見れば、ただの待ち合わせ。皐月から見てもその程度なのは間違いない。 N:しかし恵にとっては大事件だった。死んだはずの友人がそこにいるのだ。 N:昔の面影そのままに皐月が目の前にいる。そして自分を呼んでいる。10年分の感情が恵を押し潰した。 0:間― 皐月:落ち着いた? 恵:・・・ん。 皐月:びっくりしたよ。急に座り込んで号泣しちゃうんだからさあ。 恵:そりゃびっくりするよ!皐月が、皐月があ・・・ 皐月:ちょっと!また泣かないでよ!・・・部長の言った通りだわ。あんたちょっとおかしいよ? 恵:そんなこと―― 皐月:あるよ。全然会社に来ないし、めっちゃ泣くし。 恵:私だって混乱してるの!休みのはずだったし、杏奈さんは怒りっぽいし、何より皐月がいるし。で、もう何が何だか。 皐月:・・・よし。ちょっと止まって整理しよ。・・・恵、真っ直ぐ私を見て。 恵:え。でも会社が―― 皐月:いいから。まず今日は何年の何月何日? 恵:えっと2022年の5月9日・・・だよね。 皐月:うん。合ってるね。じゃあ私の名前は? 恵:木原皐月。 皐月:自分の名前。 恵:三岳恵。 皐月:私たちが通ってた高校は? 恵:私立飛鳥学院。 皐月:じゃあ最後。私達の会社は? 恵:株式会社テクノ―― 皐月:ストップ。もう一度お願い。 恵:株式会社―― 皐月:防衛会社シールドテクノロジー。通称、DST。民間軍事企業。 恵:え、は?防衛・・・軍事? 皐月:そうよ。10年前、他国の航空機が私達の高校に落ちた事件は知ってる? 恵:知ってる!私たちはそれに巻き込まれて・・・ないの? 皐月:うん。あの日は雪人がもっと空が見やすい場所があるからって、私たちは学校に行かなかった。 恵:雪人・・・雪人も生きてるんだね? 皐月:うん。うちのエース。あとで会わせてあげる。ちょっと話を戻すよ?あのテロから日本は軍を持たない代わりに、民間企業の銃器、自衛兵器の運用を許可した。それほどまでにテロが日常化してきたの。 皐月:1番最近のテロは2週間前。場所は京都。修学旅行のしおりから清水寺が消えた。 恵:え・・・あの事件は結局事故って・・・ 皐月:・・・ねぇ恵。あんた、一体どこから来たの? 恵:わからない。私、何もわからないよ・・・ 皐月:とりあえず会社に行こう。倉木部長には私から説明するよ。あと、私に聞かれたことは他の人に聞かれても答えないこと。わかった? 恵:うん、わかった・・・ 皐月:ふふっ。聞きわけがいいのは昨日までと変わってなくてホッとした。 恵:私の良い所だから。 0:2人笑い合った後、間― 皐月:ただいま戻りました。 恵:す、すみません遅刻しました! 杏奈:三岳、どうし・・・本当にどうしたんだ? 恵:え、あの。何かおかしいでしょうか? 杏奈:何か・・・というより―― 皐月:部長。それは後ほど私から報告させていただきます。 杏奈:・・・わかった。木原に任せるよ。今日1日、三岳に付き添ってやってくれ。 皐月:かしこまりました。では少し応接室を借りさせていただきます。 杏奈:ああ。許可する。 皐月:ありがとうございます。恵、行くよ。 恵:あ、うん。し、失礼します。 0:間― 皐月:さ、座って。 恵:う、うん。 皐月:現時点で何か気になったことはある? 恵:何か・・・目に映るもの全部が知ってるはずなのに、知らないみたいな変な感じ。 皐月:そっか。・・・あのさ恵。 恵:ん? 皐月:さっきは聞き飛ばしたんだけど、あんたが知ってる世界では私と雪人は死んでるの? 恵:それは・・・ 皐月:隠しても意味無いでしょ。 恵:・・・うん、死んでる。 皐月:10年前のテロで? 恵:うん。だけど私の知ってる中では、あれは事故だった。それにあの日から今日まで、日本でテロなんて起こってなかったよ。 皐月:・・・口に出すのも馬鹿馬鹿しいけど、もしかしたらパラレルワールドかもしれない。 恵:パラレルワールド・・・ 皐月:そう。聞いたことはあるでしょ? 恵:うん。SF小説が好きだったから・・・でも、本当にあるの? 皐月:そうでもして結論付けないと、どうやったって説明が出来ないの。私だって納得いかないよ。 雪人:(ノックする)失礼します。 恵:雪人だ・・・雪人がいる! 皐月:ちょっと恵、落ち着いて。 雪人:・・・どうしたの? 皐月:軽く説明するからちょっと待って―― 0:間― 雪人:なるほどね。理解はしたよ。 皐月:私も理解はしてる。でも納得がいかないの。 雪人:何か心当たりは無いの? 恵:考えてみたけど、昨日普通に寝て、起きたらこうなってたから・・・ 雪人:ふーん。嘘をつくようなやつじゃないもんねえ。 恵:馬鹿が付くくらい正直だもんね。 雪人:悪魔に願ったとかなら信じるかも―― 恵:それだ! 雪人:え? 皐月:本当に悪魔呼んじゃったの? 恵:そっちじゃなくて!私、願い事した!流れ星に! 雪人:・・・最近あったか? 恵:昨日、10年ぶりの大流星群が・・・こっちは来てない? 雪人:その流星群なら確か2週間後だと思うけど・・・ 皐月:ズレてるね。 雪人:恵が知ってる世界とは、もうかなりズレてるんだろ? 恵:うん・・・本当に別世界みたい。 雪人:恐らく、別世界だね。10年前から枝分かれした違う未来だと考えたほうがいい。 皐月:黒田さんの言うとおり、すぐ適応できるのは尊敬するよ。 雪人:そうだ。黒田のことで皐月ちゃんに話があったんだ。 皐月:良い人そうじゃん。熱意もあって、超エリートなのに一般社員の私たちにも頭下げれるなんて、最近いないよ、あんな人。 雪人:表面上はな?俺だってあれくらい取り繕える。 皐月:本当かなあ?開口一番から喧嘩売ってたくせに。 雪人:こんな時期にわざわざここに来るか?絶対に何かあるって。 皐月:海外ドラマの見すぎだと思うけどなあ。 恵:あの・・・ 皐月:ん?どうしたの? 恵:黒田って、もしかして黒田章? 雪人:知ってるのか? 恵:うん。元の世界にもいた。 雪人:どんな奴だった? 恵:他部署から異動してきた主任で、最初は凄くいい人に見えたんだけど・・・業務上横領で逮捕された。余罪も沢山出てきて、今も服役中のはず。 雪人:なるほどね。やっぱり要注意だな。 皐月:でも恵の世界の黒田さんとは違うじゃん。 雪人:可能性は捨てきれないよ。倉木部長は向こうでも恵の上司だったんだろ? 恵:うん。ちょっと感じは違うけど。 雪人:なら、同じようなことをするかもしれない。しかも、こっちは向こうより危険な世界だ。横領で済まないかもしれないだろ。 皐月:考えすぎだって。ほらリラックス―― 雪人:やめろよ!誰のために・・・ 皐月:私、守ってくれなんて頼んだ覚えないけど。守られる歳でもないし。 雪人:でも女だろ。 皐月:女だって強くならなきゃいけない時代なんだよ。わかるでしょ? 雪人:そういうところ、苦手だわ。 恵:ちょっと、2人とも・・・ 皐月:気にしないでいいよ。いつものことだから。 雪人:皐月ちゃんが意地っ張りすぎなんだよな。 皐月:いやいや、雪人がねちっこいんだよ。 恵:ダメだ。また泣きそう。 皐月:また?今度は何で。 恵:凄く懐かしくて・・・ずっと会いたかったから。嬉しくて・・・ 皐月:あー泣いちゃった。そんなに泣き虫だったっけ?・・・ねえ雪人。 雪人:ん、何? 皐月:私、部長に報告しに行かなきゃいけないの。 雪人:うん。・・・え? 皐月:恵のことお願いね!すぐ戻ってくるから!よろしく! 雪人:ちょ!・・・馬鹿皐月。・・・えっと恵、落ち着いて?な? 0:間― 章:・・・ああ。私だ。まあどうにでも出来そうな部署だな。・・・あーいたよ。優秀を絵に描いたような奴だったよ。 章:よくわかってるじゃないか。私はああいうヒーロー気質というか、正義の味方気取りが1番嫌いだよ。私が使える全てを使って踏み潰してやりたいほどにね。 章:ははっ、心配は要らないよ。私がここに来た時点で大方の準備は終わってるんだ。あとは中から蝕むだけさ。 章:そうだ、木原皐月という女の情報を詳しく調べておいてくれ。なに、使えるものは全部使ってみたいタチでね。 章:あとそれから、前々から思っていたが、君の日本語は酷すぎるぞ。もう少し学び直すか、担当を変えて欲しいものだ。 章:If you cannot...disappear quickly. 章:はっはっは。ジョークだよ。Japanese joke.・・・だが、気には止めておいてくれ。な?ではまた連絡する。 章:君は賢い選択が出来るかな?唐沢雪人くん。はっはっは・・・ 0:間― 皐月:(ノックする)失礼いたします。 杏奈:どうだ?三岳の様子は。 皐月:それが・・・ 杏奈:・・・なるほど。一時の記憶障害などでは無さそうだな。 皐月:はい。それにしては話が出来すぎていますし、10年以上前の記憶は私と一致しています。 杏奈:・・・パラレルワールドか。にわかには信じがたい話だが、Truth is stranger than fiction.ってことか。 皐月:・・・何ですか?それ。 杏奈:知らないか?事実は小説よりも奇なり。イギリスの詩人バイロンの言葉だ。 皐月:日本語の方は聞いたことがあると思います。 杏奈:文面通りの意味だが、とても共感できることだ。我々は全てをわかり切ったような顔をして生きているが、その実。自分の身体のことすらよく理解していない。世に起こる事象など何が起ころうと不思議ではないのだよ。 皐月:何かよくわからないですけど、小難しい科学者みたいですね。 杏奈:それは褒めてるのか? 皐月:はい!それはもう!全力で! 杏奈:まあ、そういうことにしておいてやる。・・・三岳のことだが、元の世界に帰れないのなら、どうしたいのか尋ねておいてくれ。 杏奈:私たちは人の命を扱う。敵とは言えど、命を奪うこともある。その覚悟が三岳にあるならいいが。無いのなら、平和に過ごさせてやりたい。 皐月:恵は愛されてますね。 杏奈:私は君たち全員を愛してるつもりだよ。家族同然にな。 皐月:ありがとうございます。では、そろそろ失礼いたします。 杏奈:ああ。 皐月:あ、倉木部長。1つお願いがあるんですが。 杏奈:ん?何だ? 皐月:あのですね―― 0:間― 雪人:そろそろ落ち着いたかな? 恵:ん。ごめん、泣いてばっかりで。 雪人:まあしょうがないと思うよ。俺も逆の立場だったらそうなるだろうし。 恵:ありがとう。昔から優しいね。 雪人:皐月ちゃん曰く、優しすぎらしいけどね。 恵:確かに皐月に対しては優しすぎるかもね。 皐月:ただいま!泣き止んだ? 雪人:噂をすれば帰ってきた。 恵:おかえり、皐月。 皐月:部長からの伝言をもらってきました。 恵:私に? 皐月:そう。戻れそうに無いなら、会社に居続けるかどうか決めなきゃいけない。 恵:やっぱり私がいたら迷惑かな・・・ 皐月:そうじゃないよ。恵は人間を殺せる? 恵:・・・え? 雪人:俺も皐月ちゃんも人を殺して、今日まで生き延びてきた。 皐月:民間軍事企業はね。戦闘も業務に含まれるの。明確な敵だけど、私たちと同じ人間・・・それを殺さないといけない時もある。 恵:人を・・・殺す・・・ 皐月:もしダメなら違う仕事もある。飲食産業も介護や看護。この会社以外にもやりがいのある仕事は無数にあるの。帰れないのなら、何かは選ばなきゃいけない。 恵:・・・私は―― 雪人:いや、もしかしたら帰れるかもしれないよ。 皐月:え、どうやって? 雪人:2週間後の流星群だよ。星に願ってここに来たなら、もう1度願えば帰れるかもしれないだろ? 皐月:そんな安直なものかな。 雪人:今はそれしか可能性が無いんだから仕方ない。 恵:私は、皐月と雪人と一緒にいたいよ・・・ 皐月:恵・・・ 雪人:まあまだ時間はあるから、よく考えるといい。ただ、人の命は結構重いよ。それだけは覚えてて?じゃあまた。 皐月:雪人はああ言ってるけど、恵のことを思ってるんだよ?もちろん私も、倉木部長だって恵のことを思ってる。だから、ゆっくり考えよ。 恵:うん。ありがとね。 0:間― N:この時は2人と再会できたことが何より嬉しかったのだろう。3人一緒にいる。それは、10年越しの悲願。 N:それが叶ったのだから、帰る理由なんて思いつかないだろう。だが・・・それは何も知らないからなのだ。 N:こちらの世界の平和の基準は、元の世界より遥かに下がっている。それを恵は思い知ることとなる。 0:間― 杏奈:それでは朝礼を始める。みんなおはよう。突然だが、凶報だ。今朝方、会社のデータベースにハッキングされた形跡を発見した。 杏奈:恐らく先日、京都から名所を1つ奪った奴らの犯行だろう。詳しく説明できるか?黒田くん。 章:はい。今、説明にもあった通り、彼らの犯行と類似するものが見受けられる。どこのハッカーにも言えることだが、手口にクセがあるんだ。 章:このハッカーは本部にもアクセスをしていたが、厳重なガードに弾かれ、こっちに狙いを変えたようだ。 章:もちろんこの部署が弱いわけではない。その証拠に破れてはいないからね。ただプログラムの再編は必至だが・・・唐沢くん。 雪人:・・・はい。 章:君なら容易いだろう?頼まれてくれないか? 雪人:俺ですか? 章:ああ。生憎だが、私はハッカーの痕跡を追わなければならない。逆探知で大方の場所は特定できたが、あとは人力ってところだな。 雪人:そうですか。わかりました。すぐに取り掛かります。 章:では倉木部長。行って参りますが、補佐を1人つけていただいてもよろしいでしょうか? 杏奈:ああ。構わないぞ。 章:では木原さん。手伝ってくれるかな? 皐月:わ、私ですか? 雪人:・・・っ 章:ああ。君だ。私は運転が苦手でね。車の運転を任せたいんだ。 皐月:わかりました。よろしくお願いします。 恵:わ、私も!ご一緒してよろしいでしょうか! 章:君は・・・三岳さんだったかな? 恵:はい! 皐月:ちょっと恵、危険だよ? 恵:知ってる。でも、いつまでも守られてるわけにはいかないから。黒田さん、よろしくお願いします。 章:ああ、わかったよ。よろしくね。じゃあ行こうか2人とも。 杏奈:では、任務に当たるもの、通常の業務に戻るもの。今日も1日よろしく頼む。以上! 雪人:恵。早く終わらせて合流するから、それまで頼む。 恵:うん。次は絶対、皐月を守るって決めてるから。雪人も頑張って。 雪人:ああ、了解。 0:間― 皐月:黒田さんっていつからこの会社にいるんですか? 章:私か?そうだなあ、もうすぐ3年になる頃だ。 皐月:へえ意外と最近なんですね。 章:元は違う民間企業にいたんだが、引き抜きでね。出身がこっちの方っていうのもあって転職したんだよ。 皐月:エリート街道一直線って感じですね。 章:そんなことないよ。若いときは結構苦労したものさ。・・・ところで三岳さん。 恵:は、はい。どうしましたか? 章:私の顔はそんなに珍しいかな?そんなに見つめられると穴があきそうだが。 恵:あ、すみません。知り合いに似ていたもので。 章:・・・まあどこにでもいる顔だからね。あ、木原さん。そこに車を停めてくれ。・・・もうすぐ近くだから。 0:間― 雪人:・・・どういうことだ?まさか・・・ 杏奈:どうかしたか? 雪人:・・・部長。このハッカーは・・・内部犯です。 杏奈:何だと?間違いないのか? 雪人:ええ。ここのセキュリティは特殊です。外部からアクセスするには何重ものパスワードを全て1回で通さなければいけません。一日そこらで破れるものではない。 雪人:ですが裏を返せば、こいつは何の反撃もしないんです。ただ強固な盾。なのにプログラムは傷付いている。 雪人:内部で、しかもここのセキュリティをよく知らない人物が犯人です。そしてそれはきっと―― 杏奈:黒田章。木原に頼まれて調べてたんだ。この資料を見て欲しい。 雪人:これは・・・妻子ともに記録なし。両親は海外に移住済み・・・ 杏奈:みんなの前でご高説してたのも嘘。そのプログラムのことも含めれば・・・こいつは黒だな。くそ。私を出し抜くとは。 雪人:・・・皐月ちゃんが危ない・・・ 杏奈:ああ。私も黒田のことを本部に報告次第すぐ向かう。 0:間― 皐月:ここ・・・ですか?暗いし、人の気配も無さそうですが。 章:ああ。探知ではこの建物の奥になっている。もう少し進んでみよう・・・ 恵:・・・っ!皐月!危ない!! 0:銃声― 皐月:・・・っ。恵・・・ 章:外したか・・・おいおい三岳さん。邪魔しないでくれよ。別に殺すつもりは無いんだ。逃げられないように足を打ち抜くだけさ。 恵:今度は・・・今度は見捨てたりしない! 章:よくわからんが・・・あまり抵抗されると、手元が狂ってしまうよ? 皐月:・・・黒田さん、何が目的ですか? 章:私はね。ビジネスをしにここに来たんだ。だが、とても邪魔な奴が1人いてねえ・・・ 皐月:雪人ですか。 章:ご名答。彼には本部から何度も何度も誘いをかけているのに、一向にここを離れる気がない。何故か・・・君だよ。木原皐月さん。 皐月:・・・・・ 章:最初は男女の関係でもあるのかと思ったが、調べたら幼少からずっと共にいることがわかった。君たち3人だ。きっと家族のような間柄なのだろうね。 章:だから私は君を組織に渡すことにしたんだ。きっと彼は助けに来るだろう。無謀にも1人で。それで邪魔者はいなくなる・・・はっはっは! 皐月:雪人は、あなたの思い通りになんてならない。彼はあなたより優秀で賢い人だから。 章:・・・別に渡すのは死体でも構わないか。その方があいつも絶望するだろう。 恵:・・・・・ 章:どけ。 恵:嫌だ・・・皐月は殺させない。 章:どけと言ってるんだ! 恵:嫌だ!私は、3人で一緒に生きていくんだ! 章:・・・そうか。なら順番に送ってやる。まずはお前からだ! 0:銃声― 章:ぐ・・・がはっ・・・ 雪人:ふう・・・ギリギリだったね。 恵:雪人・・・ 雪人:ありがとう恵。皐月ちゃんを守ってくれて。 恵:でも私、何も・・・ 皐月:恵が突き飛ばしてくれなきゃきっと撃たれてたよ。ありがと。 章:く、そどもが・・・ 雪人:黒田章。お前の嘘で塗り固めた経歴はもう調べがついてる。ハッキングの件も本部に報告済みだ。 章:・・・は?何を言ってる・・・ 雪人:残念だったな。お前はここまでだ。 章:・・・そうか。切られたか・・・はははは。 雪人:何を笑ってる・・・ 章:おい唐沢。私がこれから何の罪に問われるかわかるか? 雪人:・・・さあな。たくさん余罪はあるだろう。 章:私の罪は1つだけだ。・・・外患誘致罪。日本国において最も重い罪であり、未遂であろうが用意された罰は1つ。死刑のみだ。 雪人:な・・・まさかお前・・・ 章:私が死んでも、何も変わらん。それほどまでに、この国の闇は・・・深く暗い。先に行って待ってるよ。じゃあな。 雪人:っ!待て! 0:銃声― N:黒田は自らの命を絶った。最後の表情は何ともいえない、恨みとも怒りとも、嘲笑にもとれるような顔をしていた。 N:そして少し時は流れ、DST屋上にて。皐月、雪人、恵の3人が10年の時を経て、空を見上げていた。 皐月:あ!来たよ!流れ星! 恵:本当だ。綺麗・・・ 雪人:決めたの?どうするか。 恵:うん。・・・私、ここに残るよ。 皐月:いいの?またあんな目に逢うかもしれないよ? 恵:うん。でも2人と一緒にいたいから。 雪人:そっか。・・・次は置いていかないようにするから。1人で残してごめんな。 恵:え・・・雪人、それって・・・ 雪人:しー。内緒。 皐月:ちょっと!2人でこそこそしてないで早く願い事しないと! 恵:私の願い事は叶ってるから。 雪人:うん。俺も。 皐月:じゃあ私が2人の分までお願いしとくね! 皐月:・・・ずっと3人一緒にいれますように! N:きっとその願いは叶うだろう。どんな形であれど、きっと・・・ : : 杏奈:はい、もしもし。倉木です。・・・はい。迅速に処理しました。ええ。滑稽でしたね。私たちが敷いたレールをただ転がっているに過ぎないのに 杏奈:どうしてあそこまで横柄になれるのかが不思議です。次は黒田よりも上手く踊ってくれるものがいいですね。 杏奈:・・・ええ。わかっております。この平成34年度はきっと大きな節目になるでしょう。 杏奈:おまかせください。日本は我々のものです。全ては、あなた方の意のままに・・・ : 0:Fin―

0:(登場人物紹介) 恵:三岳恵(みたけめぐみ) 杏奈:倉木杏奈(くらきあんな) 皐月:木原皐月(きはらさつき) 雪人:唐沢雪人(からさわゆきと) 章:黒田章(くろだあきら) N:ナレーション。誰かが兼任。 : 0:(本編) 皐月:なあ2人とも知ってる? 雪人:えっと、何を? 恵:いつも主語が無いのよね。皐月って。 皐月:そんなのどうだっていいんだよ!これだよこれ。 恵:何よ。新聞なんて珍しい。 皐月:恵は読まねーの? 雪人:逆に皐月ちゃんが読むことが意外だよ。 皐月:馬鹿にしすぎでは?てかコーラ飲みすぎ。糖尿になるよ。 雪人:好きだから大丈夫だよ。 皐月:どんな理屈だよ。 恵:それで、その新聞がどうしたの? 皐月:あ、そうそう。この記事なんだけど。 雪人:流星群? 皐月:そう!今週末に見れるんだってさ。しかも今回のは、かなり綺麗に見れるらしいよ。 雪人:皐月ちゃんってそんなの好きだったっけ? 恵:たまに女の子っぽいところあるからね。 皐月:いいだろ別に。それでさ、みんな週末何してる? 恵:今のところ予定は無いけど。 雪人:俺はちょっと用事あるけど。 皐月:え。マジ?そっかあ・・・ 雪人:あー・・・早く終わらせて向かうよ。 皐月:本当!? 恵:雪人は皐月に甘すぎるかもね。 雪人:少しは自覚してるよ。 恵:それは良かった。 皐月:じゃあさ!どこで見よっか!高い場所が良いよな?学校の屋上とかどうよ。 0:間― N:10年前、彼女たちは同じ学校に通う同級生だった。いつも一緒に集まって、どうでもいい話をよくしてた。 N:この時も、一緒に流星群を見ようって約束をして、こんな時間が永遠に続くものだと思ってた。 N:・・・続いて、欲しかった。 0:間― 皐月:恵!無事なの!? 恵:こっちは大丈夫!そっちは? 皐月:こっちも大丈夫だよ。 恵:じゃあ今からそっちに―― 皐月:来ないで! 恵:・・・え? 皐月:足場が崩れやすくなってるの。だから来ちゃダメ。 恵:嘘でしょ。今助けてあげるから―― 皐月:無理なんだって。・・・瓦礫に腰から下が挟まれて感覚が無い。 恵:そんな・・・ 皐月:恵、落ち着いて聞いて?早くここを出て雪人に伝えて欲しいの。・・・一生好きって。 恵:・・・わかった。 皐月:ありがと。聞き分けがいいのは恵の良い所だよ。辛いこと頼んでごめんね。 恵:1番辛いのは・・・あんたでしょうが。 皐月:・・・早く行って。いつ崩れるか、もしかしたらまた何かが飛んでくるかもしれない。 恵:皐月、絶対助けるから。 皐月:・・・うん。待ってる。 0:走り出す恵 恵:(息切れ) 雪人:恵!大丈夫か!? 恵:ゆ、雪人・・・うん。でも・・・ 雪人:酷い息切れだ。深呼吸して、そう。ゆっくり。 恵:・・・・・ 雪人:落ち着いた? 恵:雪人!皐月が! 雪人:皐月ちゃん?皐月ちゃんは・・・まさか。 恵:学校に取り残されてる。 雪人:俺、行って来る。 恵:私も行く―― 雪人:恵はここにいて欲しい。絶対連れて帰ってくるから。 恵:でも・・・ 雪人:じゃあ念のために助けを呼んでて。ね? 恵:・・・わかった。 雪人:うん。ありがとう。・・・行って来るよ。 0:間― N:この日、流れ星を願った彼女達のもとに落ちたのは、どこかの国の航空機。 N:これが全ての始まりだった。・・・それと、雪人と皐月の終わりの日。 N:救命隊が到着する直前、航空機が爆発し、校舎もろとも吹き飛ばした。 N:3人ずっと一緒。という願いは、唱えることも叶うことも無かった・・・ 0:間― 杏奈:明日で10年ね。あの事件から。 恵:そうですね。 杏奈:もう慣れたかしら? 恵:かなり前を向いて歩けるようにはなりましたよ。 杏奈:それは良いことね。 恵:でも、あの日が近づくと胸が痛みますね。多分これは一生ですけど。 杏奈:それは、あなたが優しいからよ。悪いことじゃないわ。 恵:ありがとうございます部長。 杏奈:・・・部長って呼ぶなって言ったでしょ?何か響きがおっさんみたいで嫌なのよね。 恵:ふふっ。そうでしたね。でも杏奈さんは女性社員の憧れなんですよ? 杏奈:ありがたいね。あっそういえば、新入社員に可愛い女性社員がいるそうじゃない。一度お茶してみたいわぁ。 恵:杏奈さん。おっさん出てますよ。 杏奈:おっといけないいけない。あ、もうこんな時間じゃん。帰らなきゃ。 恵:何か予定ですか?あっもしかして流星群ですか?10年ぶりに急接近だそうですね。 杏奈:ん?違う違う。ビールが私を待ってるだけよ。 恵:あぁ・・・やっぱりおっさん―― 杏奈:何か言った? 恵:いえ、何も。 杏奈:ふーん。まあいいでしょう。あなたも早く帰りなさいね。じゃ、私はお先に。 恵:はい。お疲れ様です。また明日。 杏奈:明日?会社は休みじゃなかったかしら? 恵:恋人のプレゼント、買いに行くの付き合えって言ってたじゃないですか。 杏奈:あー・・・忘れてた。あはは。 恵:仕事は出来るのに、何で私生活はこうなんですかね・・・ 杏奈:ごめんなさいって。じゃあ・・・10時。10時に駅前でよろしく。 恵:わかりました。また連絡しますね。 杏奈:ええ。待ってるわ。 0:間― 恵:今日は良く見えそうだね。あの日は星どころじゃなくて、気付いたら終わってた。 恵:皐月、雪人。あの星のどれかはあなた達だったりするのかな。だったらいいなあ。 恵:やっぱり1人で見るのは寂しいね・・・ 恵:ずっと3人でいたかったな・・・今も願い事は変わらないよ。 恵:・・・そろそろ寝ないと。約束に間に合わなくなっちゃう。・・・おやすみ。皐月、雪人。 0:間― 恵:・・・うるさ。電話?・・・もしもし―― 杏奈:三岳!今何時だと思ってる! 恵:あ、杏奈さん?いきなり大きい声出さないでくださいよ・・・ 杏奈:杏奈?私のことは倉木部長と呼べと言ったはずだが? 恵:え?いつもその呼び方は嫌だと―― 杏奈:いいから早く来い!遅刻だぞ! 恵:あ、切られた。え?まだ8時じゃん。・・・ボケちゃった?まさかね。 0:間― 杏奈:では、約1名ほど遅刻者が出たようだが、朝礼のほうを始めていくぞ。皆、おはよう! 皐月:おはようございます。 雪人:おはようございます。 杏奈:本日は、我が部署に新しい職員が来ている。挨拶を。 章:みなさん、おはようございます。黒田章です。本部からの推薦により、こちら対テロ組織犯罪防止課に配属となりました。本日より、よろしくお願いいたします。 杏奈:黒田君は本部でも優秀な職員であったが、最近増加傾向にあるテロの原因を突き止めるべく、こちらに配属の運びとなった。何か質問のあるものはいるか? 雪人:はい。 杏奈:では、唐沢。 雪人:黒田さんは本部でどの役職にいたのですか? 章:役職というのは? 雪人:まさか平社員ということはないでしょう?ここは言わば最前線です。本部のような安全な要塞でもなく、普通の会社に紛れているだけ。 雪人:そんなところに急に配属されるのは・・・余程、有能な方。もしくは、使い物にならないから左遷された。と考えるのは自然ではないですか? 杏奈:おい、唐沢―― 章:面白いね。唐沢君だったかな?下の名前はなんと言うんだい? 雪人:雪人です。 章:あー思い出した。資料で見たよ。毎月素晴らしい働きをしていると。名前の通り、冷たい目をしているね。 章:君の問いに応えよう。私は本部で関西司令部の長をしていた。勤続こそ短いが、大阪の通天閣爆破を止めたのは私だ。 皐月:雪人、関西司令部って・・・ 雪人:・・・超エリートだ。 章:満足のいく答えを提供できたかな? 雪人:ええ。ありがとうございます。黒田さんのような優秀な方と仕事が出来て、光栄です。 章:はっはっ。清々しい程の手のひら返しだね。 雪人:切り替えが早いとよく言われます。 章:いいね。この仕事には最も必要なことだ。適応能力は高ければ高いほどいい。 章:倉木部長。少し時間を頂いてもよろしいですか? 杏奈:ええ。どうぞ。 章:ありがとうございます。・・・諸君、我々はこの日本の盾である。この中には、家族や友人をテロにより亡くしたものも居るだろう。 章:私も妻と娘を失った。その時は怒りで震え、復讐が頭の中を支配した。しかし、私の宝物を壊した当人はこの世に居ない。 章:途方に暮れたよ。感情はマグマのように煮えたぎり、今にも噴き出そうとしているのに、その行き場所が無い。何日も考えた。 章:ふと空を見上げたんだ。娘が好きだった鳩が飛んでいた。鳩は平和の象徴だといわれている。この街でも沢山の鳩を見かけたよ。 章:今日まで、君たちが平和を守ってきてくれているからだ。本当にありがとう。 章:そして今日からは、私も君たちの仲間に入れてもらいたい。どうかよろしく頼む。 杏奈:(拍手) 雪人:(遅めの拍手) 皐月:(激しい拍手) 章:ありがとう。改めて皆さん。一緒に日本を守りましょう! 皐月:はい!一緒に頑張りましょう! 雪人:・・・皐月ちゃん。ちょっと―― 杏奈:では!そろそろ業務に――っと電話だ。・・・はあ!?駅前だと?・・・わかった。今すぐ迎えをやるからそこにいろ!あの馬鹿・・・ 皐月:何かあったんですか? 杏奈:三岳の馬鹿が駅前に着きました。だと。今日のあいつはどこかおかしい。だから木原。 皐月:な、何でしょう。 杏奈:ちょっと迎えに行ってやってくれ。 皐月:ですよね・・・はい。行ってまいります。 杏奈:すまないが、よろしく頼む。三岳は私がこってり絞ってやるから。 皐月:お手柔らかにしてやってください。では行ってきます。 雪人:皐月ちゃん、帰ってきたら少し時間ある? 皐月:え?うん、多分。どうしたの? 雪人:・・・あとで話すよ。 皐月:ん?まあいいや。わかった。またあとでね。 章:・・・皐月ちゃんね・・・ 雪人:何か? 章:いいや?何も言ってないが? 雪人:・・・・・ 章:肩に力が入りすぎだな。あまり良くないぞ?リラックスだ。リラーーーーックス。な?はっはっは。 雪人:・・・ちっ。 0:間― 恵:なんか今日の杏奈さん怒りっぽいんだよね。更年期・・・なのかな。 皐月:あ、いた。全然、気付かないな。クラクション鳴らしてみよ。 恵:ん?あれかな?迎えって。 皐月:あ、気付いた。おまたせー! 恵:・・・え? N:周りから見れば、ただの待ち合わせ。皐月から見てもその程度なのは間違いない。 N:しかし恵にとっては大事件だった。死んだはずの友人がそこにいるのだ。 N:昔の面影そのままに皐月が目の前にいる。そして自分を呼んでいる。10年分の感情が恵を押し潰した。 0:間― 皐月:落ち着いた? 恵:・・・ん。 皐月:びっくりしたよ。急に座り込んで号泣しちゃうんだからさあ。 恵:そりゃびっくりするよ!皐月が、皐月があ・・・ 皐月:ちょっと!また泣かないでよ!・・・部長の言った通りだわ。あんたちょっとおかしいよ? 恵:そんなこと―― 皐月:あるよ。全然会社に来ないし、めっちゃ泣くし。 恵:私だって混乱してるの!休みのはずだったし、杏奈さんは怒りっぽいし、何より皐月がいるし。で、もう何が何だか。 皐月:・・・よし。ちょっと止まって整理しよ。・・・恵、真っ直ぐ私を見て。 恵:え。でも会社が―― 皐月:いいから。まず今日は何年の何月何日? 恵:えっと2022年の5月9日・・・だよね。 皐月:うん。合ってるね。じゃあ私の名前は? 恵:木原皐月。 皐月:自分の名前。 恵:三岳恵。 皐月:私たちが通ってた高校は? 恵:私立飛鳥学院。 皐月:じゃあ最後。私達の会社は? 恵:株式会社テクノ―― 皐月:ストップ。もう一度お願い。 恵:株式会社―― 皐月:防衛会社シールドテクノロジー。通称、DST。民間軍事企業。 恵:え、は?防衛・・・軍事? 皐月:そうよ。10年前、他国の航空機が私達の高校に落ちた事件は知ってる? 恵:知ってる!私たちはそれに巻き込まれて・・・ないの? 皐月:うん。あの日は雪人がもっと空が見やすい場所があるからって、私たちは学校に行かなかった。 恵:雪人・・・雪人も生きてるんだね? 皐月:うん。うちのエース。あとで会わせてあげる。ちょっと話を戻すよ?あのテロから日本は軍を持たない代わりに、民間企業の銃器、自衛兵器の運用を許可した。それほどまでにテロが日常化してきたの。 皐月:1番最近のテロは2週間前。場所は京都。修学旅行のしおりから清水寺が消えた。 恵:え・・・あの事件は結局事故って・・・ 皐月:・・・ねぇ恵。あんた、一体どこから来たの? 恵:わからない。私、何もわからないよ・・・ 皐月:とりあえず会社に行こう。倉木部長には私から説明するよ。あと、私に聞かれたことは他の人に聞かれても答えないこと。わかった? 恵:うん、わかった・・・ 皐月:ふふっ。聞きわけがいいのは昨日までと変わってなくてホッとした。 恵:私の良い所だから。 0:2人笑い合った後、間― 皐月:ただいま戻りました。 恵:す、すみません遅刻しました! 杏奈:三岳、どうし・・・本当にどうしたんだ? 恵:え、あの。何かおかしいでしょうか? 杏奈:何か・・・というより―― 皐月:部長。それは後ほど私から報告させていただきます。 杏奈:・・・わかった。木原に任せるよ。今日1日、三岳に付き添ってやってくれ。 皐月:かしこまりました。では少し応接室を借りさせていただきます。 杏奈:ああ。許可する。 皐月:ありがとうございます。恵、行くよ。 恵:あ、うん。し、失礼します。 0:間― 皐月:さ、座って。 恵:う、うん。 皐月:現時点で何か気になったことはある? 恵:何か・・・目に映るもの全部が知ってるはずなのに、知らないみたいな変な感じ。 皐月:そっか。・・・あのさ恵。 恵:ん? 皐月:さっきは聞き飛ばしたんだけど、あんたが知ってる世界では私と雪人は死んでるの? 恵:それは・・・ 皐月:隠しても意味無いでしょ。 恵:・・・うん、死んでる。 皐月:10年前のテロで? 恵:うん。だけど私の知ってる中では、あれは事故だった。それにあの日から今日まで、日本でテロなんて起こってなかったよ。 皐月:・・・口に出すのも馬鹿馬鹿しいけど、もしかしたらパラレルワールドかもしれない。 恵:パラレルワールド・・・ 皐月:そう。聞いたことはあるでしょ? 恵:うん。SF小説が好きだったから・・・でも、本当にあるの? 皐月:そうでもして結論付けないと、どうやったって説明が出来ないの。私だって納得いかないよ。 雪人:(ノックする)失礼します。 恵:雪人だ・・・雪人がいる! 皐月:ちょっと恵、落ち着いて。 雪人:・・・どうしたの? 皐月:軽く説明するからちょっと待って―― 0:間― 雪人:なるほどね。理解はしたよ。 皐月:私も理解はしてる。でも納得がいかないの。 雪人:何か心当たりは無いの? 恵:考えてみたけど、昨日普通に寝て、起きたらこうなってたから・・・ 雪人:ふーん。嘘をつくようなやつじゃないもんねえ。 恵:馬鹿が付くくらい正直だもんね。 雪人:悪魔に願ったとかなら信じるかも―― 恵:それだ! 雪人:え? 皐月:本当に悪魔呼んじゃったの? 恵:そっちじゃなくて!私、願い事した!流れ星に! 雪人:・・・最近あったか? 恵:昨日、10年ぶりの大流星群が・・・こっちは来てない? 雪人:その流星群なら確か2週間後だと思うけど・・・ 皐月:ズレてるね。 雪人:恵が知ってる世界とは、もうかなりズレてるんだろ? 恵:うん・・・本当に別世界みたい。 雪人:恐らく、別世界だね。10年前から枝分かれした違う未来だと考えたほうがいい。 皐月:黒田さんの言うとおり、すぐ適応できるのは尊敬するよ。 雪人:そうだ。黒田のことで皐月ちゃんに話があったんだ。 皐月:良い人そうじゃん。熱意もあって、超エリートなのに一般社員の私たちにも頭下げれるなんて、最近いないよ、あんな人。 雪人:表面上はな?俺だってあれくらい取り繕える。 皐月:本当かなあ?開口一番から喧嘩売ってたくせに。 雪人:こんな時期にわざわざここに来るか?絶対に何かあるって。 皐月:海外ドラマの見すぎだと思うけどなあ。 恵:あの・・・ 皐月:ん?どうしたの? 恵:黒田って、もしかして黒田章? 雪人:知ってるのか? 恵:うん。元の世界にもいた。 雪人:どんな奴だった? 恵:他部署から異動してきた主任で、最初は凄くいい人に見えたんだけど・・・業務上横領で逮捕された。余罪も沢山出てきて、今も服役中のはず。 雪人:なるほどね。やっぱり要注意だな。 皐月:でも恵の世界の黒田さんとは違うじゃん。 雪人:可能性は捨てきれないよ。倉木部長は向こうでも恵の上司だったんだろ? 恵:うん。ちょっと感じは違うけど。 雪人:なら、同じようなことをするかもしれない。しかも、こっちは向こうより危険な世界だ。横領で済まないかもしれないだろ。 皐月:考えすぎだって。ほらリラックス―― 雪人:やめろよ!誰のために・・・ 皐月:私、守ってくれなんて頼んだ覚えないけど。守られる歳でもないし。 雪人:でも女だろ。 皐月:女だって強くならなきゃいけない時代なんだよ。わかるでしょ? 雪人:そういうところ、苦手だわ。 恵:ちょっと、2人とも・・・ 皐月:気にしないでいいよ。いつものことだから。 雪人:皐月ちゃんが意地っ張りすぎなんだよな。 皐月:いやいや、雪人がねちっこいんだよ。 恵:ダメだ。また泣きそう。 皐月:また?今度は何で。 恵:凄く懐かしくて・・・ずっと会いたかったから。嬉しくて・・・ 皐月:あー泣いちゃった。そんなに泣き虫だったっけ?・・・ねえ雪人。 雪人:ん、何? 皐月:私、部長に報告しに行かなきゃいけないの。 雪人:うん。・・・え? 皐月:恵のことお願いね!すぐ戻ってくるから!よろしく! 雪人:ちょ!・・・馬鹿皐月。・・・えっと恵、落ち着いて?な? 0:間― 章:・・・ああ。私だ。まあどうにでも出来そうな部署だな。・・・あーいたよ。優秀を絵に描いたような奴だったよ。 章:よくわかってるじゃないか。私はああいうヒーロー気質というか、正義の味方気取りが1番嫌いだよ。私が使える全てを使って踏み潰してやりたいほどにね。 章:ははっ、心配は要らないよ。私がここに来た時点で大方の準備は終わってるんだ。あとは中から蝕むだけさ。 章:そうだ、木原皐月という女の情報を詳しく調べておいてくれ。なに、使えるものは全部使ってみたいタチでね。 章:あとそれから、前々から思っていたが、君の日本語は酷すぎるぞ。もう少し学び直すか、担当を変えて欲しいものだ。 章:If you cannot...disappear quickly. 章:はっはっは。ジョークだよ。Japanese joke.・・・だが、気には止めておいてくれ。な?ではまた連絡する。 章:君は賢い選択が出来るかな?唐沢雪人くん。はっはっは・・・ 0:間― 皐月:(ノックする)失礼いたします。 杏奈:どうだ?三岳の様子は。 皐月:それが・・・ 杏奈:・・・なるほど。一時の記憶障害などでは無さそうだな。 皐月:はい。それにしては話が出来すぎていますし、10年以上前の記憶は私と一致しています。 杏奈:・・・パラレルワールドか。にわかには信じがたい話だが、Truth is stranger than fiction.ってことか。 皐月:・・・何ですか?それ。 杏奈:知らないか?事実は小説よりも奇なり。イギリスの詩人バイロンの言葉だ。 皐月:日本語の方は聞いたことがあると思います。 杏奈:文面通りの意味だが、とても共感できることだ。我々は全てをわかり切ったような顔をして生きているが、その実。自分の身体のことすらよく理解していない。世に起こる事象など何が起ころうと不思議ではないのだよ。 皐月:何かよくわからないですけど、小難しい科学者みたいですね。 杏奈:それは褒めてるのか? 皐月:はい!それはもう!全力で! 杏奈:まあ、そういうことにしておいてやる。・・・三岳のことだが、元の世界に帰れないのなら、どうしたいのか尋ねておいてくれ。 杏奈:私たちは人の命を扱う。敵とは言えど、命を奪うこともある。その覚悟が三岳にあるならいいが。無いのなら、平和に過ごさせてやりたい。 皐月:恵は愛されてますね。 杏奈:私は君たち全員を愛してるつもりだよ。家族同然にな。 皐月:ありがとうございます。では、そろそろ失礼いたします。 杏奈:ああ。 皐月:あ、倉木部長。1つお願いがあるんですが。 杏奈:ん?何だ? 皐月:あのですね―― 0:間― 雪人:そろそろ落ち着いたかな? 恵:ん。ごめん、泣いてばっかりで。 雪人:まあしょうがないと思うよ。俺も逆の立場だったらそうなるだろうし。 恵:ありがとう。昔から優しいね。 雪人:皐月ちゃん曰く、優しすぎらしいけどね。 恵:確かに皐月に対しては優しすぎるかもね。 皐月:ただいま!泣き止んだ? 雪人:噂をすれば帰ってきた。 恵:おかえり、皐月。 皐月:部長からの伝言をもらってきました。 恵:私に? 皐月:そう。戻れそうに無いなら、会社に居続けるかどうか決めなきゃいけない。 恵:やっぱり私がいたら迷惑かな・・・ 皐月:そうじゃないよ。恵は人間を殺せる? 恵:・・・え? 雪人:俺も皐月ちゃんも人を殺して、今日まで生き延びてきた。 皐月:民間軍事企業はね。戦闘も業務に含まれるの。明確な敵だけど、私たちと同じ人間・・・それを殺さないといけない時もある。 恵:人を・・・殺す・・・ 皐月:もしダメなら違う仕事もある。飲食産業も介護や看護。この会社以外にもやりがいのある仕事は無数にあるの。帰れないのなら、何かは選ばなきゃいけない。 恵:・・・私は―― 雪人:いや、もしかしたら帰れるかもしれないよ。 皐月:え、どうやって? 雪人:2週間後の流星群だよ。星に願ってここに来たなら、もう1度願えば帰れるかもしれないだろ? 皐月:そんな安直なものかな。 雪人:今はそれしか可能性が無いんだから仕方ない。 恵:私は、皐月と雪人と一緒にいたいよ・・・ 皐月:恵・・・ 雪人:まあまだ時間はあるから、よく考えるといい。ただ、人の命は結構重いよ。それだけは覚えてて?じゃあまた。 皐月:雪人はああ言ってるけど、恵のことを思ってるんだよ?もちろん私も、倉木部長だって恵のことを思ってる。だから、ゆっくり考えよ。 恵:うん。ありがとね。 0:間― N:この時は2人と再会できたことが何より嬉しかったのだろう。3人一緒にいる。それは、10年越しの悲願。 N:それが叶ったのだから、帰る理由なんて思いつかないだろう。だが・・・それは何も知らないからなのだ。 N:こちらの世界の平和の基準は、元の世界より遥かに下がっている。それを恵は思い知ることとなる。 0:間― 杏奈:それでは朝礼を始める。みんなおはよう。突然だが、凶報だ。今朝方、会社のデータベースにハッキングされた形跡を発見した。 杏奈:恐らく先日、京都から名所を1つ奪った奴らの犯行だろう。詳しく説明できるか?黒田くん。 章:はい。今、説明にもあった通り、彼らの犯行と類似するものが見受けられる。どこのハッカーにも言えることだが、手口にクセがあるんだ。 章:このハッカーは本部にもアクセスをしていたが、厳重なガードに弾かれ、こっちに狙いを変えたようだ。 章:もちろんこの部署が弱いわけではない。その証拠に破れてはいないからね。ただプログラムの再編は必至だが・・・唐沢くん。 雪人:・・・はい。 章:君なら容易いだろう?頼まれてくれないか? 雪人:俺ですか? 章:ああ。生憎だが、私はハッカーの痕跡を追わなければならない。逆探知で大方の場所は特定できたが、あとは人力ってところだな。 雪人:そうですか。わかりました。すぐに取り掛かります。 章:では倉木部長。行って参りますが、補佐を1人つけていただいてもよろしいでしょうか? 杏奈:ああ。構わないぞ。 章:では木原さん。手伝ってくれるかな? 皐月:わ、私ですか? 雪人:・・・っ 章:ああ。君だ。私は運転が苦手でね。車の運転を任せたいんだ。 皐月:わかりました。よろしくお願いします。 恵:わ、私も!ご一緒してよろしいでしょうか! 章:君は・・・三岳さんだったかな? 恵:はい! 皐月:ちょっと恵、危険だよ? 恵:知ってる。でも、いつまでも守られてるわけにはいかないから。黒田さん、よろしくお願いします。 章:ああ、わかったよ。よろしくね。じゃあ行こうか2人とも。 杏奈:では、任務に当たるもの、通常の業務に戻るもの。今日も1日よろしく頼む。以上! 雪人:恵。早く終わらせて合流するから、それまで頼む。 恵:うん。次は絶対、皐月を守るって決めてるから。雪人も頑張って。 雪人:ああ、了解。 0:間― 皐月:黒田さんっていつからこの会社にいるんですか? 章:私か?そうだなあ、もうすぐ3年になる頃だ。 皐月:へえ意外と最近なんですね。 章:元は違う民間企業にいたんだが、引き抜きでね。出身がこっちの方っていうのもあって転職したんだよ。 皐月:エリート街道一直線って感じですね。 章:そんなことないよ。若いときは結構苦労したものさ。・・・ところで三岳さん。 恵:は、はい。どうしましたか? 章:私の顔はそんなに珍しいかな?そんなに見つめられると穴があきそうだが。 恵:あ、すみません。知り合いに似ていたもので。 章:・・・まあどこにでもいる顔だからね。あ、木原さん。そこに車を停めてくれ。・・・もうすぐ近くだから。 0:間― 雪人:・・・どういうことだ?まさか・・・ 杏奈:どうかしたか? 雪人:・・・部長。このハッカーは・・・内部犯です。 杏奈:何だと?間違いないのか? 雪人:ええ。ここのセキュリティは特殊です。外部からアクセスするには何重ものパスワードを全て1回で通さなければいけません。一日そこらで破れるものではない。 雪人:ですが裏を返せば、こいつは何の反撃もしないんです。ただ強固な盾。なのにプログラムは傷付いている。 雪人:内部で、しかもここのセキュリティをよく知らない人物が犯人です。そしてそれはきっと―― 杏奈:黒田章。木原に頼まれて調べてたんだ。この資料を見て欲しい。 雪人:これは・・・妻子ともに記録なし。両親は海外に移住済み・・・ 杏奈:みんなの前でご高説してたのも嘘。そのプログラムのことも含めれば・・・こいつは黒だな。くそ。私を出し抜くとは。 雪人:・・・皐月ちゃんが危ない・・・ 杏奈:ああ。私も黒田のことを本部に報告次第すぐ向かう。 0:間― 皐月:ここ・・・ですか?暗いし、人の気配も無さそうですが。 章:ああ。探知ではこの建物の奥になっている。もう少し進んでみよう・・・ 恵:・・・っ!皐月!危ない!! 0:銃声― 皐月:・・・っ。恵・・・ 章:外したか・・・おいおい三岳さん。邪魔しないでくれよ。別に殺すつもりは無いんだ。逃げられないように足を打ち抜くだけさ。 恵:今度は・・・今度は見捨てたりしない! 章:よくわからんが・・・あまり抵抗されると、手元が狂ってしまうよ? 皐月:・・・黒田さん、何が目的ですか? 章:私はね。ビジネスをしにここに来たんだ。だが、とても邪魔な奴が1人いてねえ・・・ 皐月:雪人ですか。 章:ご名答。彼には本部から何度も何度も誘いをかけているのに、一向にここを離れる気がない。何故か・・・君だよ。木原皐月さん。 皐月:・・・・・ 章:最初は男女の関係でもあるのかと思ったが、調べたら幼少からずっと共にいることがわかった。君たち3人だ。きっと家族のような間柄なのだろうね。 章:だから私は君を組織に渡すことにしたんだ。きっと彼は助けに来るだろう。無謀にも1人で。それで邪魔者はいなくなる・・・はっはっは! 皐月:雪人は、あなたの思い通りになんてならない。彼はあなたより優秀で賢い人だから。 章:・・・別に渡すのは死体でも構わないか。その方があいつも絶望するだろう。 恵:・・・・・ 章:どけ。 恵:嫌だ・・・皐月は殺させない。 章:どけと言ってるんだ! 恵:嫌だ!私は、3人で一緒に生きていくんだ! 章:・・・そうか。なら順番に送ってやる。まずはお前からだ! 0:銃声― 章:ぐ・・・がはっ・・・ 雪人:ふう・・・ギリギリだったね。 恵:雪人・・・ 雪人:ありがとう恵。皐月ちゃんを守ってくれて。 恵:でも私、何も・・・ 皐月:恵が突き飛ばしてくれなきゃきっと撃たれてたよ。ありがと。 章:く、そどもが・・・ 雪人:黒田章。お前の嘘で塗り固めた経歴はもう調べがついてる。ハッキングの件も本部に報告済みだ。 章:・・・は?何を言ってる・・・ 雪人:残念だったな。お前はここまでだ。 章:・・・そうか。切られたか・・・はははは。 雪人:何を笑ってる・・・ 章:おい唐沢。私がこれから何の罪に問われるかわかるか? 雪人:・・・さあな。たくさん余罪はあるだろう。 章:私の罪は1つだけだ。・・・外患誘致罪。日本国において最も重い罪であり、未遂であろうが用意された罰は1つ。死刑のみだ。 雪人:な・・・まさかお前・・・ 章:私が死んでも、何も変わらん。それほどまでに、この国の闇は・・・深く暗い。先に行って待ってるよ。じゃあな。 雪人:っ!待て! 0:銃声― N:黒田は自らの命を絶った。最後の表情は何ともいえない、恨みとも怒りとも、嘲笑にもとれるような顔をしていた。 N:そして少し時は流れ、DST屋上にて。皐月、雪人、恵の3人が10年の時を経て、空を見上げていた。 皐月:あ!来たよ!流れ星! 恵:本当だ。綺麗・・・ 雪人:決めたの?どうするか。 恵:うん。・・・私、ここに残るよ。 皐月:いいの?またあんな目に逢うかもしれないよ? 恵:うん。でも2人と一緒にいたいから。 雪人:そっか。・・・次は置いていかないようにするから。1人で残してごめんな。 恵:え・・・雪人、それって・・・ 雪人:しー。内緒。 皐月:ちょっと!2人でこそこそしてないで早く願い事しないと! 恵:私の願い事は叶ってるから。 雪人:うん。俺も。 皐月:じゃあ私が2人の分までお願いしとくね! 皐月:・・・ずっと3人一緒にいれますように! N:きっとその願いは叶うだろう。どんな形であれど、きっと・・・ : : 杏奈:はい、もしもし。倉木です。・・・はい。迅速に処理しました。ええ。滑稽でしたね。私たちが敷いたレールをただ転がっているに過ぎないのに 杏奈:どうしてあそこまで横柄になれるのかが不思議です。次は黒田よりも上手く踊ってくれるものがいいですね。 杏奈:・・・ええ。わかっております。この平成34年度はきっと大きな節目になるでしょう。 杏奈:おまかせください。日本は我々のものです。全ては、あなた方の意のままに・・・ : 0:Fin―