台本概要

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タイトル Camellia【2人用】
作者名 akodon  (@akodon1)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 それは、僕の好きな。

Camelliaのサシ劇用台本です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
レオナルド 118 庭師の青年。少し意地の悪い言い回しをすることがある。基本的には落ち着いた性格。
カメリア 107 レオナルドが勤める屋敷のお嬢様。明るく感情表現が豊か。少し寂しがり屋な面がある。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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レオナルド:カメリア。それは僕の一番好きな花。 カメリア:カメリア。それは貴方が好きな、私のーーー 0:(しばらくの間。場面転換。お嬢様幼少期。屋敷の庭先にてレオナルドと、メイドのマーサが話している) レオナルド:「・・・おや、マーサ。どうかしたんですか?」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「お嬢様がお部屋を抜け出した? レオナルド:・・・ああ、そうなんですか。それは大変ですね」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「そういえば、そろそろ先生がいらっしゃる時間ですよね? レオナルド:大丈夫ですよ、そんなに遠くには行ってないはずです。私も庭の手入れついでに探してみましょう」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「はい、わかりました。お任せを」 0:(マーサ、去っていく。少し間) レオナルド:「・・・と、いうわけで上手く誤魔化しておきましたよ。お嬢様」 カメリア:「誤魔化した、なんて言わないで、レオナルド。 カメリア:まるで私が悪いことをしているみたいじゃない」 レオナルド:「おや?お勉強が嫌だと部屋を抜け出すのは、悪いことでは無いんですか?」 カメリア:「別に嫌で抜け出したんじゃないわ。 カメリア:息抜きよ、息抜き」 レオナルド:「へぇ、お嬢様は息抜きという名目で部屋を抜け出す為に、せっせと仕事に励む真面目な庭師を自室の窓の下に呼びつけ、梯子(はしご)を運ばせ、その罪の片棒を担(かつ)がせたのですね?」 カメリア:「・・・」 レオナルド:「その上、憐れな庭師はお嬢様を庇うため、嘘までついてしまいました。 レオナルド:嗚呼・・・神よ。どうかお許しください・・・」 カメリア:「あーもう!わかったわよ!レオナルドの意地悪! カメリア:私は勉強が嫌で部屋を抜け出しました!それは認めます! カメリア:神様にも懺悔(ざんげ)するわ」 レオナルド:「なら、今すぐにでもご自分のお部屋に戻って・・・」 カメリア:「それは嫌!」 レオナルド:「何で?」 カメリア:「だって朝から晩までずーっと家の中に閉じ込められて・・・ピアノのお稽古(けいこ)、ダンスの練習、マナーの勉強・・・ カメリア:次から次へと、もううんざり!」 レオナルド:「そんなこと言ったって仕方ないでしょ? レオナルド:お嬢様は色々な教養を身に付けて、立派なレディにならなければいけないんですから」 カメリア:「こんなつまらない思いをするくらいなら、レディになんてなりたくない!」 レオナルド:「そんなワガママ言ったって・・・」 カメリア:「ワガママなんかじゃないわ! カメリア:知っているのよ。街に住んでる私と同じくらいの子は毎日、皆で楽しく駆け回って遊んでいるんでしょ? カメリア:ズルいわ!私だってお友達と遊びたい!」 レオナルド:「まぁ、そう言われると・・・その気持ちはわからないではないですが・・・」 カメリア:「でしょ?そうでしょ?だから、可哀想な私をこのまま見逃して! カメリア:少し息抜きするだけだから!」 レオナルド:「ちなみに聞きたいのですが、息抜きとは一体何をするんです?」 カメリア:「えーーーっと・・・そう! カメリア:ちょっと街へ遊びに行こうかな、なんて」 レオナルド:「おっと・・・それだけはご勘弁を。 レオナルド:私はもう既に、お嬢様が部屋を抜け出すお手伝いをしてしまったんですよ?」 カメリア:「少しだけ!ほんの少しだけよ! カメリア:日暮れまでには帰ってくるし、後でみんなには謝るわ! カメリア:それにレオナルドが手伝ってくれたことだって、絶対に言わない!」 レオナルド:「ダメです。そんなことをしたら旦那様も奥様も、マーサや他の使用人だって心配しますよ」 カメリア:「・・・心配、してくれるかしら・・・?」 レオナルド:「お嬢様?」 カメリア:「ねぇ、レオナルド。私がこんな風に居なくなったら、お父様とお母様は心配してくれるかしら? カメリア:寂しい思いをさせたね。ずっとそばに居るからね、って言ってくれるかしら?」 レオナルド:「どうかなさったんですか?」 カメリア:「・・・あのね、お父様とお母様、最近ほとんどお家にいないの。 カメリア:前はずっとそばにいて、絵本を読んでくれたり、一緒に編み物をしてくれたりしたのに、最近はお顔すらあんまり見ていない」 レオナルド:「なかなかお会い出来ないんですか?」 カメリア:「ええ、マーサに聞いたら、お父様もお母様もお忙しいんですよ、ってそればっかり。 カメリア:・・・でも・・・でも私、知ってるのよ。 カメリア:二人とも、実はお屋敷の外にいるお友達に会いに行ってるんだって」 レオナルド:「そう、なんですか・・・」 カメリア:「酷いでしょ?私はお屋敷に閉じ込められて、お友達も居ないのに。 カメリア:こんなに寂しい思いをしてるのに・・・!」 レオナルド:「・・・」 カメリア:「もう嫌!何もかも嫌!お父様もお母様も自分勝手よ! カメリア:私を一人置いていって、自分たちだけ楽しそうで・・・二人とも嫌い!大嫌いっ!」 レオナルド:「・・・お嬢様」 レオナルド:(レオナルド、一輪のカメリアを差し出す) カメリア:「・・・何、これ?」 レオナルド:「カメリアの花です。私が一番好きな花。 レオナルド:お嬢様に差し上げます」 カメリア:「これを私に?どうして?」 レオナルド:「その・・・女の子が泣いている時は、花を渡すのが一番だと、父が言っていたので」 カメリア:「そうなの?」 レオナルド:「あれ?違いましたか?」 カメリア:「ううん、嬉しいけど・・・ 」 レオナルド:「そうですか・・・これでもしダメだったら、私は危うく父と大喧嘩するところでした」 カメリア:「喧嘩はダメよ!良くないわ!」 レオナルド:「おや?涙は止まったようですね?」 カメリア:「あっ・・・」 レオナルド:「お嬢様、一つ提案があるのですが」 カメリア:「何?」 レオナルド:「もし・・・もしですよ? レオナルド:お嬢様が寂しくて、友達が欲しいと言うのなら、私が友達になるというのはどうですか?」 カメリア:「レオナルドと私が、友達?」 レオナルド:「ええ、そうです」 カメリア:「でも、貴方が叱られたりしない? カメリア:前にメイドのサラの子が遊んでくれた時、『使用人の子と遊ばせるなんて!』って、お母様がサラをすごく叱っていたの」 レオナルド:「それなら、私とお嬢様が友達なのは誰にも秘密です。 レオナルド:私は誰かと居る時、いつも通り使用人として接しますが、二人で居る時だけは、友達として過ごしましょう」 カメリア:「でも、でも・・・」 レオナルド:「あ、そうそう。ここだけの話ですが、私と友達になるといい事がありますよ? レオナルド:お勉強が嫌になった時、こっそり梯子を持って部屋を抜け出すのを手伝うことができます。 レオナルド:おまけに庭の中なら他の使用人が知らない、秘密の隠れ場所も知っています」 カメリア:「・・・本当に・・・いいの?」 レオナルド:「いや、お嬢様が嫌なら無理強いは・・・」 カメリア:「・・・ううん!嬉しい!すっごく嬉しいわ!」 レオナルド:「そうですか、なら決まりですね。 レオナルド:今日から私とお嬢様はお友達です」 カメリア:「うん・・・うんっ!」 レオナルド:「良かった良かった。これでちょっとは寂しくないですね」 カメリア:「うふふ・・・あっ!レオナルド」 レオナルド:「なんでしょう?」 カメリア:「お友達になったついでに、一つだけお願いしてもいい?」 レオナルド:「お願い?」 カメリア:「うん!あのね、私のことを名前で呼んでくれない?」 レオナルド:「名前・・・ですか?」 カメリア:「そうよ!だって、お友達なのに『お嬢様』なんて呼ばれたら、今までとあまり変わらないじゃない。 カメリア:友達でいる時はお嬢様じゃなくて、普通の女の子として扱って欲しいの」 レオナルド:「・・・無礼者!とか言いませんよね?」 カメリア:「もう!言うわけないじゃない!」 レオナルド:「ははは、冗談ですよ。いい考えだ」 カメリア:「決まりね!あっ、じゃあ、私は貴方の事、レオって呼ぶわ! カメリア:それに二人でいる時は敬語も無しよ。いいわね?」 レオナルド:「わかりました」 カメリア:「敬語」 レオナルド:「・・・わかった」 カメリア:「あっ、ちなみに私の名前を知らないなんて事は・・・」 レオナルド:「あるわけないだろ? レオナルド:・・・カメリア。キミに手渡した、僕の一番好きな花の名前と同じだ」 カメリア:「ふふ、覚えててくれて嬉しいわ。 カメリア:ありがとう。これで私たち、友達ね」 レオナルド:「そうだね」 カメリア:「これからよろしくね、レオ」 レオナルド:「ああ、こちらこそ、カメリア」 0:(しばしの間。数年後の庭先にて) レオナルド:「・・・おや、マーサ。またお嬢様がどこかへ?」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「まぁまぁ、また時間が経てば、ふらっと戻ってきますよ。 レオナルド:私も探してみますから」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「わかりました。見つけたら、すぐにお屋敷に戻るよう、お伝えしますね」 0:(マーサ、屋敷の方へ去っていく。少し間) レオナルド:「・・・行ったよ。カメリア」 カメリア:「ふぅ、ありがとう、レオ。いつも上手く誤魔化してくれて」 レオナルド:「どういたしまして。 レオナルド:僕が手入れしたトピアリーの隠れ心地はどう?」 カメリア:「なかなか良いわ。造形が細かい上に、私が上手く隠れられる大きさなのが、何よりも良い」 レオナルド:「お褒めにあずかり光栄だよ」 カメリア:「ええ、さすが我が家の自慢の庭師」 レオナルド:「庭師?友達ではなく?」 カメリア:「もう!庭師であることには変わりないでしょ? カメリア:・・・さすが、私の自慢の友達」 レオナルド:「ははは」 カメリア:「・・・相変わらず、ちょっと意地悪なんだから、レオは」 レオナルド:「ん?何か言った?」 カメリア:「別に!」 レオナルド:「そういえば、今日は何で部屋を抜け出したんだい? レオナルド:またお勉強が嫌になった?」 カメリア:「違うわ。私、今年で十六歳よ。もうお勉強が嫌だ、なんて駄々をこねる歳じゃないもの」 レオナルド:「へぇ、じゃあどうして?」 カメリア:「・・・今日ね、これからリカルドが会いに来るの」 レオナルド:「リカルド?ああ、あの隣町のお坊ちゃん」 カメリア:「そう」 レオナルド:「良いじゃないか、キミとは歳も近いし、最近は頻繁に遊びに来てくれている。 レオナルド:どうして部屋を抜け出す理由になるんだい?」 カメリア:「私、あの人がなんだか苦手なの。 カメリア:確かに歳も近くて、私に優しくしてくれる。 カメリア:けど、話す事と言えば自分の自慢話か、誰かの悪口ばかり。 カメリア:使用人にも大柄(おおへい)な態度をとるし。 カメリア:話をしても、あんまり楽しくないの」 レオナルド:「うーん・・・まぁ、男なんてみんな自慢話が好きだし、人間だったら誰しも悪口くらい言ってしまうと思うけど」 カメリア:「でも・・・でもね!彼と話していると、なんだか胸のあたりがモヤモヤするの。 カメリア:同じ男の人でも、レオと話している時は楽しくて、胸が温かくなるのに」 レオナルド:「そう、僕と一緒に居る時、キミはそんな風に感じてくれていたんだ」 カメリア:「ええ、だから私は彼と一緒に居たくない。 カメリア:それなら、レオと一緒に居たいの」 レオナルド:「それは・・・ちょっと困ったな・・・」 カメリア:「困った?なんで?」 レオナルド:「いや、マーサがこの前話していたんだ。 レオナルド:旦那様はリカルド坊ちゃんをとても気に入っているから、キミの婚約者にしたいんじゃないか、って」 カメリア:「嘘!どうしてそんな話が?」 レオナルド:「いや、あくまで噂話好きのマーサのことだ、本当かどうかは分からないけど・・・」 カメリア:「嫌!嫌よ!考えられないわ。 カメリア:リカルドと結婚するなんて・・・」 レオナルド:「落ち着いて、カメリア。 レオナルド:まだ決まった訳じゃない。ただの噂話だから・・・」 カメリア:「(泣きだす)うっ・・・うう・・・」 レオナルド:「参ったな・・・そんなに嫌だった?」 カメリア:「だって、噂話だとしても、レオの口からそんな話を聞きたくなかった・・・!」 レオナルド:「僕の口から?それは、どういう?」 カメリア:「なんで・・・なんでわかってくれないの?私たち、友達なんでしょ? カメリア:お父様やお母様にも言ったことがない本音を私、たくさん喋ってきたのに」 レオナルド:「カメリア。どうしたんだい? レオナルド:急にそんなに感情的になって・・・僕が悪いなら謝るよ。 レオナルド:だから・・・ね、顔をあげて」 カメリア:「ぐすっ・・・うう・・・」 レオナルド:「あーぁ、可愛い顔が台無しだ。 レオナルド:ほらほら、目は擦らないで。 レオナルド:真っ赤になった目で帰ったら、マーサが心配するだろう?」 カメリア:「知らない!誰も心配なんてしてくれるわけないわ! カメリア:私はどうせお父様とお母様の道具なのよ!」 レオナルド:「カメリア、そんなに声を荒らげたら、誰かに見つかって・・・」 カメリア:「レオも自分のことばかりなのね・・・!」 レオナルド:「・・・そんなこと」 カメリア:「そんなこと?無いなんて言えないでしょ? カメリア:私と一緒に居るところを見つかったら、どんなお叱りを受けるかわからないものね!」 レオナルド:「・・・」 カメリア:「そう・・・何も言ってくれないのね。 カメリア:もういい・・・今日は帰る!さようなら!」 レオナルド:「・・・っ、カメリア!」 0:(カメリア去っていく) レオナルド:「・・・はぁ・・・なんで言葉が続かなかったんだ・・・。 レオナルド:らしくない・・・」 レオナルド:(膨らみかけたカメリアの蕾に触れ、目を瞑る) レオナルド:「カメリア・・・噂話であることを、僕も祈っているよ・・・」 0:(しばしの間) レオナルド:ーーーその数日後だった。お嬢様がリカルドと正式に婚約したと聞いたのは。 0:(しばしの間。場面転換。雪の降る夜。レオナルドの家) レオナルド:「ハァ・・・今日は冷え込むな・・・ああ、雪も降ってきた。 レオナルド:道理で寒いわけだ・・・」 レオナルド:(少し間) レオナルド:「・・・あの日から、ひと月。一度もカメリアは姿を見せてないな。 レオナルド:それもそうか・・・あんなに怒って帰ったんだ。そんな簡単に来てくれる訳ないよな・・・」 レオナルド:(ほんの少し間。机の上の花瓶に挿されたカメリアの花を見つめる) レオナルド:「それに、婚約者も出来たんだ・・・ レオナルド:使用人で、友達扱いされているとはいえ、男の所に来るなんて許されないよな」 レオナルド:(少し間) レオナルド:「さぁ・・・今日はもう遅い。 レオナルド:明日は雪かきもしなければならないだろうし、もう寝るとするか・・・」 0:(ノックの音) レオナルド:「・・・ん?こんな夜更けに、誰だ・・・?」 0:(扉を開ける音) レオナルド:「・・・ッ!カメリア・・・」 カメリア:「ごめんなさい、レオ。こんな夜遅くに・・・」 レオナルド:「夜遅くも何も・・・こんな雪が降る中、どうしてこんな所へ・・・! レオナルド:とりあえず部屋に入って! レオナルド:ああ、こんなに冷え切って・・・さぁ、暖炉の前に座って・・・」 カメリア:「・・・っ、レオ!」 カメリア:(カメリア、レオに縋り付く) レオナルド:「カメリア・・・?どうしたんだ・・・?」 カメリア:「あのね・・・決まったの。私とリカルドの結婚が」 レオナルド:「・・・ッ」 カメリア:「お父様がね、こういう事は早い方が良いと仰って、私の意見も聞かずに、決めてしまったの」 レオナルド:「そう、なのか・・・」 カメリア:「私ね、生まれて初めてお父様に向かって叫んだわ。 カメリア:どうして私の意見を聞いてくれないんですか?私はお人形じゃないのに!って。 カメリア:そうしたら、そうしたらね・・・」 レオナルド:「・・・」 カメリア:「うちにはたくさんの借金がある。 カメリア:お前を育ててきたのは、リカルドのような裕福な家から婿(むこ)をとって、この家を立て直す為だ、って・・・」 レオナルド:「・・・!」 カメリア:「ねぇ・・・レオ。あのね・・・実は私も分かってたのよ。 カメリア:お父様やお母様がここまで私を育ててきてくれたのは、きっとこういう時の為だろうって」 レオナルド:「何で、そんなこと」 カメリア:「私ね、だいぶ前に気付いてしまったの。 カメリア:お父様とお母様が出掛けた時、何をしていたか。 カメリア:・・・二人とも、外で愛人を作ったり、賭け事に手を出したりして、遊び呆けていたの」 レオナルド:「酷い・・・あんまりじゃないか。 レオナルド:君を家に閉じ込めて、自分たちはそんなことをしていたなんて」 カメリア:「でも、私は知らないフリをしていた。 カメリア:お父様とお母様の言うことを聞いていれば、いつかまた一緒に過ごせるだろう、って。 カメリア:私が立派なレディになれば、小さい頃みたいに頭を撫でて、褒めてくれるだろう、って」 レオナルド:「・・・ッ」 カメリア:「馬鹿みたい・・・私はずっと叶わない夢を見ていたのね・・・ カメリア:その夢に囚われたままで居たから、好きでもない人と結婚する羽目になっちゃった・・・」 レオナルド:「・・・リカルドとは、上手くいってないのかい?」 カメリア:「彼はね、すごく傲慢(ごうまん)な人。プライドが高くて、自分の事しか考えてないの」 レオナルド:「そうなのか・・・」 カメリア:「でも、私の事を少なくとも気に入ってくれたみたい。 カメリア:だからね、結婚すれば家を援助してくれると、約束してくれたわ」 レオナルド:「けど、キミは・・・彼の事を・・・」 カメリア:「あのね、愛がなくても結婚はできるのよ、レオ。 カメリア:お父様とお母様のように、互いに背を向けていても。 カメリア:私とリカルドのように、利害だけで成り立つ関係だったとしても」 レオナルド:「そんな・・・そんなの悲しすぎる・・・」 カメリア:「だからね、私も悲しくて堪らなくなったから、また部屋を抜け出してしまったわ。 カメリア:レオの顔が見たくなって。レオの声が、ちょっと意地悪だけど、優しい貴方の言葉が聞きたくて・・・ カメリア:これが、きっと最後になるかもしれないから」 レオナルド:「カメリア・・・!」 レオナルド:(レオナルド、カメリアを抱きしめる) カメリア:「レオ・・・?」 レオナルド:「なんで・・・なんでそんな事を言いに、わざわざ来たんだ・・・。 レオナルド:そんなの、黙って僕が聞き流せる訳が無いだろう? レオナルド:キミが・・・キミが寂しがりながらも、必死に頑張っていた姿を見てきた僕が・・・」 カメリア:「・・・っ、レオ・・・私も、私だってこんなこと貴方に伝えたく無かった・・・! カメリア:一番の友達に、こんな悲しい顔、見せたくなかった・・・!」 レオナルド:「ねぇ、この後に及んで、まだ僕を友達扱いするの?カメリア?」 カメリア:「えっ・・・?」 レオナルド:「言ってくれよ。素直な気持ちを。 レオナルド:キミがどうしてこんな雪の中、僕の元に来てくれたのか、その理由を」 カメリア:「・・・っ、私は・・・」 レオナルド:「僕はカメリアが好きだよ。大好きだ。 レオナルド:友達として、人として、そして・・・一人の女の子として大好きだ。愛している」 カメリア:「・・・!」 レオナルド:「キミは?キミにとって僕は、ただの友達?」 カメリア:「なんで・・・そんなにあっさり言ってしまうの・・・」 レオナルド:「カメリア?」 カメリア:「せっかくお別れしようと思ったのに・・・! カメリア:最後にこうやって声が聞ければ、諦められると思ったのに・・・!」 レオナルド:「ほら、泣かないで。可愛い顔が台無しだ」 カメリア:「・・・っ、私も、レオが好き・・・! カメリア:友達として、人として、一人の男性として、大好き・・・愛してるわ・・・!」 0:(しばしの間。場面転換。暖炉の前、ソファで寄り添うように座る二人) レオナルド:「落ち着いた?カメリア?」 カメリア:「・・・泣き疲れちゃった」 レオナルド:「だろうね、眠そうな顔してる」 カメリア:「もう・・・泣きすぎて酷い顔になってるんだから、あんまり覗きこまないで・・・」 レオナルド:「大丈夫、キミの泣いてる顔なんて、小さい頃からずっと見てきてるんだから」 カメリア:「・・・やっぱり、レオは少し意地が悪い」 レオナルド:「どうも」 カメリア:「褒めてない」 レオナルド:「ねぇ、これからどうなるかな?」 カメリア:「そうね・・・朝になったら、私が居ないことに気付いて、みんな大騒ぎで探すかもしれない」 レオナルド:「それは大変だ。キミを連れて逃げなくちゃ。 レオナルド:どこがいいかな?ここは寒いから、もっと南の方へ行こうか? レオナルド:静かな農村で、二人で小さな家を買って暮らす・・・なんてどうかな?」 カメリア:「・・・ううん。私、一度家に帰るわ」 レオナルド:「どうして?そんな必要ないじゃないか」 カメリア:「必要なんて無いかもしれない。 カメリア:けど、私はもうこそこそと貴方に会うのは嫌なの。 カメリア:家を追い出される覚悟で、お父様とお母様に自分の気持ちを伝えてくるわ。 カメリア:リカルドとの婚約も無かったことにしてもらう」 レオナルド:「・・・もしかしたら、今度はもう部屋から出してもらえなくなるかもしれない」 カメリア:「そうなった時は、梯子を抱えて助けに来てくれるでしょ?レオ」 レオナルド:「ああ、参った・・・キミならそう言いそうな気はしてたけど」 カメリア:「ふふ、さすが私の友達。私の事をよく分かってる」 レオナルド:「もう友達じゃないだろ?」 カメリア:「ええ、そうね・・・」 レオナルド:「迎えに行くよ。すぐに荷物をまとめて、キミの事を」 カメリア:「ありがとう、レオ。 カメリア:・・・ねぇ、一つお願いをしてもいい?」 レオナルド:「なんだい?」 カメリア:「まだ少し、勇気が足りないの。 カメリア:だから、ほんの少しでいい。私に貴方の勇気を分けて」 レオナルド:「ああ、少しと言わず、いくらでも」 レオナルド:(レオナルド、カメリアに口付ける) レオナルド:「いかがでしょうか?」 カメリア:「敬語、禁止だって言ったのに・・・」 レオナルド:「ははは、ごめん。つい」 カメリア:「・・・じゃあ、私。夜が明けたら家に帰るね」 レオナルド:「ああ・・・カメリア。ついでにこれを」 レオナルド:(レオナルド、カメリアの花を差し出す) カメリア:「カメリアの・・・花?」 レオナルド:「お守り代わりに持っててほしい。 レオナルド:僕の大好きな花を、大好きなキミに」 カメリア:「レオ・・・ありがとう」 レオナルド:「心はいつもそばに居る。すぐにまた会おう」 カメリア:「うん・・・!」 0:(しばしの間。場面転換。屋敷の入口付近) レオナルド:「さて・・・荷物は全て荷馬車に積んだ・・・。 レオナルド:あとはカメリアを迎えに行くだけだ」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「ああ、マーサ・・・? レオナルド:どうしたんですか?そんなに息を切らして レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:・・・えっ・・・?」 0:(しばしの間。場面転換。屋敷内) レオナルド:ーーーそこに辿り着くまで、動悸(どうき)が止まらなかった。 レオナルド:静かすぎる屋敷の中、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえた。 レオナルド:気分が悪い。目眩がする。 レオナルド:早くそこに行かなければならないのに、行きたくないーーー レオナルド:ぐちゃぐちゃになった思考を必死に巡らせて、僕はその扉を開けた。 レオナルド: レオナルド:そこには男が立っていた。 レオナルド:品のいいスーツに身を包み、にこやかに笑う男が。 レオナルド:男は僕を見るなり、白い歯を見せて笑った・・・顔を真っ赤な血に染めて。 レオナルド: レオナルド:吐き気がする。 レオナルド:足元がぐらぐらと揺れる。 レオナルド:心臓が痛いほど脈打つ。 レオナルド: レオナルド:部屋に一歩踏み込んだところで、漂う硝煙(しょうえん)の臭いに気付いた。 レオナルド:男の右手には拳銃が握られていた。 レオナルド: レオナルド:ーーーそして、その左手には。 レオナルド: レオナルド:血が沸騰(ふっとう)しそうに熱い。 レオナルド:喉がからからに乾いて、息をするのも苦しい。 レオナルド: レオナルド:美しく艶やかだったその髪を乱暴に掴んで、男はその顔を仰向かせる。 レオナルド:抵抗することなくこちらを向いたその顔は血の気を失って陶器のように白く、虚ろに開かれた目はまるで人形のようでーーー レオナルド: レオナルド:やめろ、やめろ。これ以上、僕に何も見せるな。 レオナルド:・・・見てしまったら、僕は。 レオナルド: レオナルド:不意に、男が何かに気付いたように、それを拾い上げた。 レオナルド:それは花だった。 レオナルド:僕が彼女に渡した、あのカメリアの花。 レオナルド:男は汚い物をみるような目でそれを見て、床に放(ほう)った。 レオナルド:つられて視線を落とした僕の目に、それは映った。 レオナルド: レオナルド:・・・花が咲いていた。 レオナルド:白いブラウスを着たその胸に、真っ赤なカメリアの花が。 レオナルド: レオナルド:男は狂ったように笑った。笑いながら踏みつけた。 レオナルド:力なく萎(しお)れた一輪のカメリアの花を。 レオナルド: レオナルド:ーーーその瞬間、目の前が赤く弾けた。 0:(しばしの間。場面転換。雪の降る庭) レオナルド:「ハァ・・・ハアッ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:振り積もった雪の中を僕はひたすら歩く。 レオナルド:動かなくなった彼女を背負い、ただひたすら。 レオナルド:雪の冷たさは感じない。背中に背負った彼女の、氷のような冷たさだけが、今僕が感じる唯一の感覚だった。 レオナルド: レオナルド:「ハァ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:二人で一緒に時を共有した庭は、美しい白に覆われていた。 レオナルド:僕が手入れをした庭木も、四季の花が咲く花壇もーーー レオナルド:彼女が隠れるのにちょうどいいと喜んでくれた、あのトピアリーも。 レオナルド: レオナルド:「ハァ・・・ぐぅっ・・・」 レオナルド: レオナルド:足が縺(もつ)れた。 レオナルド:彼女と一緒に僕は雪の上に倒れ込む。 レオナルド: レオナルド:「ハァ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:投げ出され、力なく横たわる彼女に向かって手を伸ばし、僕はそっとその頬に触れた。 カメリア:『・・・心配、してくれるかしら・・・?』 カメリア:『私はお屋敷に閉じ込められて、お友達も居ないのに。こんなに寂しい思いをしてるのに・・・!』 カメリア:『もう嫌!何もかも嫌!お父様もお母様も自分勝手よ!』 レオナルド:最初は哀れみのようなものだった。 レオナルド:孤独に震える幼い少女を慰めるための、ほんの気まぐれだった。 レオナルド: レオナルド:「・・・ッ・・・ハァ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:彼女を再び背負い。歩き出す。 レオナルド:白い雪には点々と血の跡が残っていた。 カメリア:『・・・相変わらず、ちょっと意地悪なんだから、レオは』 カメリア:『レオと一緒に居たいの』 カメリア:『これで私たち、友達ね』 レオナルド:いつしか、哀れみは愛情へと変わっていた。 レオナルド:無垢な笑顔を見せながら、僕の元へやってくる彼女の。 レオナルド:時々見せる拗(す)ねたような顔が可愛い彼女の事が、何よりも大事になっていた。 レオナルド: レオナルド:「ハァ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:身体中から力が抜けそうになる。 レオナルド:腹の辺りから、血が流れていく感覚がある。 レオナルド:それは相手の命を奪ってしまった代償のようだった。 カメリア:『・・・っ、私も、レオが好き・・・! カメリア:友達として、人として、一人の男性として、大好き・・・愛してるわ・・・!』 レオナルド:せっかく想いが通じ合った・・・それなのに。 レオナルド: レオナルド:「くっ・・・」 レオナルド: レオナルド:最後の力を振り絞り、その木のーーー二人で初めて約束を交わした木の元へ辿り着く。 レオナルド:花は美しく咲いていた。 レオナルド:赤い花弁を綻ばせ、冷たい雪が降り積もっても、生き生きと。鮮やかに。 レオナルド: レオナルド:「ああ・・・ああ・・・」 レオナルド: レオナルド:真っ白に染まった世界で、その色だけが鮮烈で。 レオナルド: レオナルド:「うう・・・ああ・・・あああ・・・」 レオナルド: レオナルド:膝を着き、彼女を抱き抱えて、声にならない声をあげた。 レオナルド:後悔、怒り、悲しみーーー レオナルド:次々と湧き上がるどす黒い感情を噛み締めて、僕は花に手を伸ばした。 レオナルド:これは僕への罰だ。 レオナルド:このどす黒く、僕の身体を引き裂くような感情は、彼女を救えなかった、僕への。 レオナルド:だから、彼女にはせめて・・・最期に美しい花を。 レオナルド: レオナルド:「カメリア・・・僕の一番、好きな花」 レオナルド: レオナルド:一際(ひときわ)鮮やかに咲いたその花を手折り、口付ける。 レオナルド:冷たい花弁が唇に触れた。 レオナルド: レオナルド:「この花を・・・キミに贈るよ」 レオナルド: レオナルド:口付けた花を彼女の胸の上に置いて、色を無くしたその唇に口付ける。 レオナルド:花よりも冷たくなったそれが、僕の唇に触れた。 レオナルド: レオナルド:「カメリア・・・僕の一番、好きな人」 レオナルド: レオナルド:細い身体を抱き締めて、僕は静かに目を閉じた。 カメリア:『レオ、愛してるわ』 レオナルド:遠くなる意識の中、愛しい彼女の声がした。 0:〜FIN〜

レオナルド:カメリア。それは僕の一番好きな花。 カメリア:カメリア。それは貴方が好きな、私のーーー 0:(しばらくの間。場面転換。お嬢様幼少期。屋敷の庭先にてレオナルドと、メイドのマーサが話している) レオナルド:「・・・おや、マーサ。どうかしたんですか?」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「お嬢様がお部屋を抜け出した? レオナルド:・・・ああ、そうなんですか。それは大変ですね」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「そういえば、そろそろ先生がいらっしゃる時間ですよね? レオナルド:大丈夫ですよ、そんなに遠くには行ってないはずです。私も庭の手入れついでに探してみましょう」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「はい、わかりました。お任せを」 0:(マーサ、去っていく。少し間) レオナルド:「・・・と、いうわけで上手く誤魔化しておきましたよ。お嬢様」 カメリア:「誤魔化した、なんて言わないで、レオナルド。 カメリア:まるで私が悪いことをしているみたいじゃない」 レオナルド:「おや?お勉強が嫌だと部屋を抜け出すのは、悪いことでは無いんですか?」 カメリア:「別に嫌で抜け出したんじゃないわ。 カメリア:息抜きよ、息抜き」 レオナルド:「へぇ、お嬢様は息抜きという名目で部屋を抜け出す為に、せっせと仕事に励む真面目な庭師を自室の窓の下に呼びつけ、梯子(はしご)を運ばせ、その罪の片棒を担(かつ)がせたのですね?」 カメリア:「・・・」 レオナルド:「その上、憐れな庭師はお嬢様を庇うため、嘘までついてしまいました。 レオナルド:嗚呼・・・神よ。どうかお許しください・・・」 カメリア:「あーもう!わかったわよ!レオナルドの意地悪! カメリア:私は勉強が嫌で部屋を抜け出しました!それは認めます! カメリア:神様にも懺悔(ざんげ)するわ」 レオナルド:「なら、今すぐにでもご自分のお部屋に戻って・・・」 カメリア:「それは嫌!」 レオナルド:「何で?」 カメリア:「だって朝から晩までずーっと家の中に閉じ込められて・・・ピアノのお稽古(けいこ)、ダンスの練習、マナーの勉強・・・ カメリア:次から次へと、もううんざり!」 レオナルド:「そんなこと言ったって仕方ないでしょ? レオナルド:お嬢様は色々な教養を身に付けて、立派なレディにならなければいけないんですから」 カメリア:「こんなつまらない思いをするくらいなら、レディになんてなりたくない!」 レオナルド:「そんなワガママ言ったって・・・」 カメリア:「ワガママなんかじゃないわ! カメリア:知っているのよ。街に住んでる私と同じくらいの子は毎日、皆で楽しく駆け回って遊んでいるんでしょ? カメリア:ズルいわ!私だってお友達と遊びたい!」 レオナルド:「まぁ、そう言われると・・・その気持ちはわからないではないですが・・・」 カメリア:「でしょ?そうでしょ?だから、可哀想な私をこのまま見逃して! カメリア:少し息抜きするだけだから!」 レオナルド:「ちなみに聞きたいのですが、息抜きとは一体何をするんです?」 カメリア:「えーーーっと・・・そう! カメリア:ちょっと街へ遊びに行こうかな、なんて」 レオナルド:「おっと・・・それだけはご勘弁を。 レオナルド:私はもう既に、お嬢様が部屋を抜け出すお手伝いをしてしまったんですよ?」 カメリア:「少しだけ!ほんの少しだけよ! カメリア:日暮れまでには帰ってくるし、後でみんなには謝るわ! カメリア:それにレオナルドが手伝ってくれたことだって、絶対に言わない!」 レオナルド:「ダメです。そんなことをしたら旦那様も奥様も、マーサや他の使用人だって心配しますよ」 カメリア:「・・・心配、してくれるかしら・・・?」 レオナルド:「お嬢様?」 カメリア:「ねぇ、レオナルド。私がこんな風に居なくなったら、お父様とお母様は心配してくれるかしら? カメリア:寂しい思いをさせたね。ずっとそばに居るからね、って言ってくれるかしら?」 レオナルド:「どうかなさったんですか?」 カメリア:「・・・あのね、お父様とお母様、最近ほとんどお家にいないの。 カメリア:前はずっとそばにいて、絵本を読んでくれたり、一緒に編み物をしてくれたりしたのに、最近はお顔すらあんまり見ていない」 レオナルド:「なかなかお会い出来ないんですか?」 カメリア:「ええ、マーサに聞いたら、お父様もお母様もお忙しいんですよ、ってそればっかり。 カメリア:・・・でも・・・でも私、知ってるのよ。 カメリア:二人とも、実はお屋敷の外にいるお友達に会いに行ってるんだって」 レオナルド:「そう、なんですか・・・」 カメリア:「酷いでしょ?私はお屋敷に閉じ込められて、お友達も居ないのに。 カメリア:こんなに寂しい思いをしてるのに・・・!」 レオナルド:「・・・」 カメリア:「もう嫌!何もかも嫌!お父様もお母様も自分勝手よ! カメリア:私を一人置いていって、自分たちだけ楽しそうで・・・二人とも嫌い!大嫌いっ!」 レオナルド:「・・・お嬢様」 レオナルド:(レオナルド、一輪のカメリアを差し出す) カメリア:「・・・何、これ?」 レオナルド:「カメリアの花です。私が一番好きな花。 レオナルド:お嬢様に差し上げます」 カメリア:「これを私に?どうして?」 レオナルド:「その・・・女の子が泣いている時は、花を渡すのが一番だと、父が言っていたので」 カメリア:「そうなの?」 レオナルド:「あれ?違いましたか?」 カメリア:「ううん、嬉しいけど・・・ 」 レオナルド:「そうですか・・・これでもしダメだったら、私は危うく父と大喧嘩するところでした」 カメリア:「喧嘩はダメよ!良くないわ!」 レオナルド:「おや?涙は止まったようですね?」 カメリア:「あっ・・・」 レオナルド:「お嬢様、一つ提案があるのですが」 カメリア:「何?」 レオナルド:「もし・・・もしですよ? レオナルド:お嬢様が寂しくて、友達が欲しいと言うのなら、私が友達になるというのはどうですか?」 カメリア:「レオナルドと私が、友達?」 レオナルド:「ええ、そうです」 カメリア:「でも、貴方が叱られたりしない? カメリア:前にメイドのサラの子が遊んでくれた時、『使用人の子と遊ばせるなんて!』って、お母様がサラをすごく叱っていたの」 レオナルド:「それなら、私とお嬢様が友達なのは誰にも秘密です。 レオナルド:私は誰かと居る時、いつも通り使用人として接しますが、二人で居る時だけは、友達として過ごしましょう」 カメリア:「でも、でも・・・」 レオナルド:「あ、そうそう。ここだけの話ですが、私と友達になるといい事がありますよ? レオナルド:お勉強が嫌になった時、こっそり梯子を持って部屋を抜け出すのを手伝うことができます。 レオナルド:おまけに庭の中なら他の使用人が知らない、秘密の隠れ場所も知っています」 カメリア:「・・・本当に・・・いいの?」 レオナルド:「いや、お嬢様が嫌なら無理強いは・・・」 カメリア:「・・・ううん!嬉しい!すっごく嬉しいわ!」 レオナルド:「そうですか、なら決まりですね。 レオナルド:今日から私とお嬢様はお友達です」 カメリア:「うん・・・うんっ!」 レオナルド:「良かった良かった。これでちょっとは寂しくないですね」 カメリア:「うふふ・・・あっ!レオナルド」 レオナルド:「なんでしょう?」 カメリア:「お友達になったついでに、一つだけお願いしてもいい?」 レオナルド:「お願い?」 カメリア:「うん!あのね、私のことを名前で呼んでくれない?」 レオナルド:「名前・・・ですか?」 カメリア:「そうよ!だって、お友達なのに『お嬢様』なんて呼ばれたら、今までとあまり変わらないじゃない。 カメリア:友達でいる時はお嬢様じゃなくて、普通の女の子として扱って欲しいの」 レオナルド:「・・・無礼者!とか言いませんよね?」 カメリア:「もう!言うわけないじゃない!」 レオナルド:「ははは、冗談ですよ。いい考えだ」 カメリア:「決まりね!あっ、じゃあ、私は貴方の事、レオって呼ぶわ! カメリア:それに二人でいる時は敬語も無しよ。いいわね?」 レオナルド:「わかりました」 カメリア:「敬語」 レオナルド:「・・・わかった」 カメリア:「あっ、ちなみに私の名前を知らないなんて事は・・・」 レオナルド:「あるわけないだろ? レオナルド:・・・カメリア。キミに手渡した、僕の一番好きな花の名前と同じだ」 カメリア:「ふふ、覚えててくれて嬉しいわ。 カメリア:ありがとう。これで私たち、友達ね」 レオナルド:「そうだね」 カメリア:「これからよろしくね、レオ」 レオナルド:「ああ、こちらこそ、カメリア」 0:(しばしの間。数年後の庭先にて) レオナルド:「・・・おや、マーサ。またお嬢様がどこかへ?」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「まぁまぁ、また時間が経てば、ふらっと戻ってきますよ。 レオナルド:私も探してみますから」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「わかりました。見つけたら、すぐにお屋敷に戻るよう、お伝えしますね」 0:(マーサ、屋敷の方へ去っていく。少し間) レオナルド:「・・・行ったよ。カメリア」 カメリア:「ふぅ、ありがとう、レオ。いつも上手く誤魔化してくれて」 レオナルド:「どういたしまして。 レオナルド:僕が手入れしたトピアリーの隠れ心地はどう?」 カメリア:「なかなか良いわ。造形が細かい上に、私が上手く隠れられる大きさなのが、何よりも良い」 レオナルド:「お褒めにあずかり光栄だよ」 カメリア:「ええ、さすが我が家の自慢の庭師」 レオナルド:「庭師?友達ではなく?」 カメリア:「もう!庭師であることには変わりないでしょ? カメリア:・・・さすが、私の自慢の友達」 レオナルド:「ははは」 カメリア:「・・・相変わらず、ちょっと意地悪なんだから、レオは」 レオナルド:「ん?何か言った?」 カメリア:「別に!」 レオナルド:「そういえば、今日は何で部屋を抜け出したんだい? レオナルド:またお勉強が嫌になった?」 カメリア:「違うわ。私、今年で十六歳よ。もうお勉強が嫌だ、なんて駄々をこねる歳じゃないもの」 レオナルド:「へぇ、じゃあどうして?」 カメリア:「・・・今日ね、これからリカルドが会いに来るの」 レオナルド:「リカルド?ああ、あの隣町のお坊ちゃん」 カメリア:「そう」 レオナルド:「良いじゃないか、キミとは歳も近いし、最近は頻繁に遊びに来てくれている。 レオナルド:どうして部屋を抜け出す理由になるんだい?」 カメリア:「私、あの人がなんだか苦手なの。 カメリア:確かに歳も近くて、私に優しくしてくれる。 カメリア:けど、話す事と言えば自分の自慢話か、誰かの悪口ばかり。 カメリア:使用人にも大柄(おおへい)な態度をとるし。 カメリア:話をしても、あんまり楽しくないの」 レオナルド:「うーん・・・まぁ、男なんてみんな自慢話が好きだし、人間だったら誰しも悪口くらい言ってしまうと思うけど」 カメリア:「でも・・・でもね!彼と話していると、なんだか胸のあたりがモヤモヤするの。 カメリア:同じ男の人でも、レオと話している時は楽しくて、胸が温かくなるのに」 レオナルド:「そう、僕と一緒に居る時、キミはそんな風に感じてくれていたんだ」 カメリア:「ええ、だから私は彼と一緒に居たくない。 カメリア:それなら、レオと一緒に居たいの」 レオナルド:「それは・・・ちょっと困ったな・・・」 カメリア:「困った?なんで?」 レオナルド:「いや、マーサがこの前話していたんだ。 レオナルド:旦那様はリカルド坊ちゃんをとても気に入っているから、キミの婚約者にしたいんじゃないか、って」 カメリア:「嘘!どうしてそんな話が?」 レオナルド:「いや、あくまで噂話好きのマーサのことだ、本当かどうかは分からないけど・・・」 カメリア:「嫌!嫌よ!考えられないわ。 カメリア:リカルドと結婚するなんて・・・」 レオナルド:「落ち着いて、カメリア。 レオナルド:まだ決まった訳じゃない。ただの噂話だから・・・」 カメリア:「(泣きだす)うっ・・・うう・・・」 レオナルド:「参ったな・・・そんなに嫌だった?」 カメリア:「だって、噂話だとしても、レオの口からそんな話を聞きたくなかった・・・!」 レオナルド:「僕の口から?それは、どういう?」 カメリア:「なんで・・・なんでわかってくれないの?私たち、友達なんでしょ? カメリア:お父様やお母様にも言ったことがない本音を私、たくさん喋ってきたのに」 レオナルド:「カメリア。どうしたんだい? レオナルド:急にそんなに感情的になって・・・僕が悪いなら謝るよ。 レオナルド:だから・・・ね、顔をあげて」 カメリア:「ぐすっ・・・うう・・・」 レオナルド:「あーぁ、可愛い顔が台無しだ。 レオナルド:ほらほら、目は擦らないで。 レオナルド:真っ赤になった目で帰ったら、マーサが心配するだろう?」 カメリア:「知らない!誰も心配なんてしてくれるわけないわ! カメリア:私はどうせお父様とお母様の道具なのよ!」 レオナルド:「カメリア、そんなに声を荒らげたら、誰かに見つかって・・・」 カメリア:「レオも自分のことばかりなのね・・・!」 レオナルド:「・・・そんなこと」 カメリア:「そんなこと?無いなんて言えないでしょ? カメリア:私と一緒に居るところを見つかったら、どんなお叱りを受けるかわからないものね!」 レオナルド:「・・・」 カメリア:「そう・・・何も言ってくれないのね。 カメリア:もういい・・・今日は帰る!さようなら!」 レオナルド:「・・・っ、カメリア!」 0:(カメリア去っていく) レオナルド:「・・・はぁ・・・なんで言葉が続かなかったんだ・・・。 レオナルド:らしくない・・・」 レオナルド:(膨らみかけたカメリアの蕾に触れ、目を瞑る) レオナルド:「カメリア・・・噂話であることを、僕も祈っているよ・・・」 0:(しばしの間) レオナルド:ーーーその数日後だった。お嬢様がリカルドと正式に婚約したと聞いたのは。 0:(しばしの間。場面転換。雪の降る夜。レオナルドの家) レオナルド:「ハァ・・・今日は冷え込むな・・・ああ、雪も降ってきた。 レオナルド:道理で寒いわけだ・・・」 レオナルド:(少し間) レオナルド:「・・・あの日から、ひと月。一度もカメリアは姿を見せてないな。 レオナルド:それもそうか・・・あんなに怒って帰ったんだ。そんな簡単に来てくれる訳ないよな・・・」 レオナルド:(ほんの少し間。机の上の花瓶に挿されたカメリアの花を見つめる) レオナルド:「それに、婚約者も出来たんだ・・・ レオナルド:使用人で、友達扱いされているとはいえ、男の所に来るなんて許されないよな」 レオナルド:(少し間) レオナルド:「さぁ・・・今日はもう遅い。 レオナルド:明日は雪かきもしなければならないだろうし、もう寝るとするか・・・」 0:(ノックの音) レオナルド:「・・・ん?こんな夜更けに、誰だ・・・?」 0:(扉を開ける音) レオナルド:「・・・ッ!カメリア・・・」 カメリア:「ごめんなさい、レオ。こんな夜遅くに・・・」 レオナルド:「夜遅くも何も・・・こんな雪が降る中、どうしてこんな所へ・・・! レオナルド:とりあえず部屋に入って! レオナルド:ああ、こんなに冷え切って・・・さぁ、暖炉の前に座って・・・」 カメリア:「・・・っ、レオ!」 カメリア:(カメリア、レオに縋り付く) レオナルド:「カメリア・・・?どうしたんだ・・・?」 カメリア:「あのね・・・決まったの。私とリカルドの結婚が」 レオナルド:「・・・ッ」 カメリア:「お父様がね、こういう事は早い方が良いと仰って、私の意見も聞かずに、決めてしまったの」 レオナルド:「そう、なのか・・・」 カメリア:「私ね、生まれて初めてお父様に向かって叫んだわ。 カメリア:どうして私の意見を聞いてくれないんですか?私はお人形じゃないのに!って。 カメリア:そうしたら、そうしたらね・・・」 レオナルド:「・・・」 カメリア:「うちにはたくさんの借金がある。 カメリア:お前を育ててきたのは、リカルドのような裕福な家から婿(むこ)をとって、この家を立て直す為だ、って・・・」 レオナルド:「・・・!」 カメリア:「ねぇ・・・レオ。あのね・・・実は私も分かってたのよ。 カメリア:お父様やお母様がここまで私を育ててきてくれたのは、きっとこういう時の為だろうって」 レオナルド:「何で、そんなこと」 カメリア:「私ね、だいぶ前に気付いてしまったの。 カメリア:お父様とお母様が出掛けた時、何をしていたか。 カメリア:・・・二人とも、外で愛人を作ったり、賭け事に手を出したりして、遊び呆けていたの」 レオナルド:「酷い・・・あんまりじゃないか。 レオナルド:君を家に閉じ込めて、自分たちはそんなことをしていたなんて」 カメリア:「でも、私は知らないフリをしていた。 カメリア:お父様とお母様の言うことを聞いていれば、いつかまた一緒に過ごせるだろう、って。 カメリア:私が立派なレディになれば、小さい頃みたいに頭を撫でて、褒めてくれるだろう、って」 レオナルド:「・・・ッ」 カメリア:「馬鹿みたい・・・私はずっと叶わない夢を見ていたのね・・・ カメリア:その夢に囚われたままで居たから、好きでもない人と結婚する羽目になっちゃった・・・」 レオナルド:「・・・リカルドとは、上手くいってないのかい?」 カメリア:「彼はね、すごく傲慢(ごうまん)な人。プライドが高くて、自分の事しか考えてないの」 レオナルド:「そうなのか・・・」 カメリア:「でも、私の事を少なくとも気に入ってくれたみたい。 カメリア:だからね、結婚すれば家を援助してくれると、約束してくれたわ」 レオナルド:「けど、キミは・・・彼の事を・・・」 カメリア:「あのね、愛がなくても結婚はできるのよ、レオ。 カメリア:お父様とお母様のように、互いに背を向けていても。 カメリア:私とリカルドのように、利害だけで成り立つ関係だったとしても」 レオナルド:「そんな・・・そんなの悲しすぎる・・・」 カメリア:「だからね、私も悲しくて堪らなくなったから、また部屋を抜け出してしまったわ。 カメリア:レオの顔が見たくなって。レオの声が、ちょっと意地悪だけど、優しい貴方の言葉が聞きたくて・・・ カメリア:これが、きっと最後になるかもしれないから」 レオナルド:「カメリア・・・!」 レオナルド:(レオナルド、カメリアを抱きしめる) カメリア:「レオ・・・?」 レオナルド:「なんで・・・なんでそんな事を言いに、わざわざ来たんだ・・・。 レオナルド:そんなの、黙って僕が聞き流せる訳が無いだろう? レオナルド:キミが・・・キミが寂しがりながらも、必死に頑張っていた姿を見てきた僕が・・・」 カメリア:「・・・っ、レオ・・・私も、私だってこんなこと貴方に伝えたく無かった・・・! カメリア:一番の友達に、こんな悲しい顔、見せたくなかった・・・!」 レオナルド:「ねぇ、この後に及んで、まだ僕を友達扱いするの?カメリア?」 カメリア:「えっ・・・?」 レオナルド:「言ってくれよ。素直な気持ちを。 レオナルド:キミがどうしてこんな雪の中、僕の元に来てくれたのか、その理由を」 カメリア:「・・・っ、私は・・・」 レオナルド:「僕はカメリアが好きだよ。大好きだ。 レオナルド:友達として、人として、そして・・・一人の女の子として大好きだ。愛している」 カメリア:「・・・!」 レオナルド:「キミは?キミにとって僕は、ただの友達?」 カメリア:「なんで・・・そんなにあっさり言ってしまうの・・・」 レオナルド:「カメリア?」 カメリア:「せっかくお別れしようと思ったのに・・・! カメリア:最後にこうやって声が聞ければ、諦められると思ったのに・・・!」 レオナルド:「ほら、泣かないで。可愛い顔が台無しだ」 カメリア:「・・・っ、私も、レオが好き・・・! カメリア:友達として、人として、一人の男性として、大好き・・・愛してるわ・・・!」 0:(しばしの間。場面転換。暖炉の前、ソファで寄り添うように座る二人) レオナルド:「落ち着いた?カメリア?」 カメリア:「・・・泣き疲れちゃった」 レオナルド:「だろうね、眠そうな顔してる」 カメリア:「もう・・・泣きすぎて酷い顔になってるんだから、あんまり覗きこまないで・・・」 レオナルド:「大丈夫、キミの泣いてる顔なんて、小さい頃からずっと見てきてるんだから」 カメリア:「・・・やっぱり、レオは少し意地が悪い」 レオナルド:「どうも」 カメリア:「褒めてない」 レオナルド:「ねぇ、これからどうなるかな?」 カメリア:「そうね・・・朝になったら、私が居ないことに気付いて、みんな大騒ぎで探すかもしれない」 レオナルド:「それは大変だ。キミを連れて逃げなくちゃ。 レオナルド:どこがいいかな?ここは寒いから、もっと南の方へ行こうか? レオナルド:静かな農村で、二人で小さな家を買って暮らす・・・なんてどうかな?」 カメリア:「・・・ううん。私、一度家に帰るわ」 レオナルド:「どうして?そんな必要ないじゃないか」 カメリア:「必要なんて無いかもしれない。 カメリア:けど、私はもうこそこそと貴方に会うのは嫌なの。 カメリア:家を追い出される覚悟で、お父様とお母様に自分の気持ちを伝えてくるわ。 カメリア:リカルドとの婚約も無かったことにしてもらう」 レオナルド:「・・・もしかしたら、今度はもう部屋から出してもらえなくなるかもしれない」 カメリア:「そうなった時は、梯子を抱えて助けに来てくれるでしょ?レオ」 レオナルド:「ああ、参った・・・キミならそう言いそうな気はしてたけど」 カメリア:「ふふ、さすが私の友達。私の事をよく分かってる」 レオナルド:「もう友達じゃないだろ?」 カメリア:「ええ、そうね・・・」 レオナルド:「迎えに行くよ。すぐに荷物をまとめて、キミの事を」 カメリア:「ありがとう、レオ。 カメリア:・・・ねぇ、一つお願いをしてもいい?」 レオナルド:「なんだい?」 カメリア:「まだ少し、勇気が足りないの。 カメリア:だから、ほんの少しでいい。私に貴方の勇気を分けて」 レオナルド:「ああ、少しと言わず、いくらでも」 レオナルド:(レオナルド、カメリアに口付ける) レオナルド:「いかがでしょうか?」 カメリア:「敬語、禁止だって言ったのに・・・」 レオナルド:「ははは、ごめん。つい」 カメリア:「・・・じゃあ、私。夜が明けたら家に帰るね」 レオナルド:「ああ・・・カメリア。ついでにこれを」 レオナルド:(レオナルド、カメリアの花を差し出す) カメリア:「カメリアの・・・花?」 レオナルド:「お守り代わりに持っててほしい。 レオナルド:僕の大好きな花を、大好きなキミに」 カメリア:「レオ・・・ありがとう」 レオナルド:「心はいつもそばに居る。すぐにまた会おう」 カメリア:「うん・・・!」 0:(しばしの間。場面転換。屋敷の入口付近) レオナルド:「さて・・・荷物は全て荷馬車に積んだ・・・。 レオナルド:あとはカメリアを迎えに行くだけだ」 レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:「ああ、マーサ・・・? レオナルド:どうしたんですか?そんなに息を切らして レオナルド:(ほんの少し間) レオナルド:・・・えっ・・・?」 0:(しばしの間。場面転換。屋敷内) レオナルド:ーーーそこに辿り着くまで、動悸(どうき)が止まらなかった。 レオナルド:静かすぎる屋敷の中、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえた。 レオナルド:気分が悪い。目眩がする。 レオナルド:早くそこに行かなければならないのに、行きたくないーーー レオナルド:ぐちゃぐちゃになった思考を必死に巡らせて、僕はその扉を開けた。 レオナルド: レオナルド:そこには男が立っていた。 レオナルド:品のいいスーツに身を包み、にこやかに笑う男が。 レオナルド:男は僕を見るなり、白い歯を見せて笑った・・・顔を真っ赤な血に染めて。 レオナルド: レオナルド:吐き気がする。 レオナルド:足元がぐらぐらと揺れる。 レオナルド:心臓が痛いほど脈打つ。 レオナルド: レオナルド:部屋に一歩踏み込んだところで、漂う硝煙(しょうえん)の臭いに気付いた。 レオナルド:男の右手には拳銃が握られていた。 レオナルド: レオナルド:ーーーそして、その左手には。 レオナルド: レオナルド:血が沸騰(ふっとう)しそうに熱い。 レオナルド:喉がからからに乾いて、息をするのも苦しい。 レオナルド: レオナルド:美しく艶やかだったその髪を乱暴に掴んで、男はその顔を仰向かせる。 レオナルド:抵抗することなくこちらを向いたその顔は血の気を失って陶器のように白く、虚ろに開かれた目はまるで人形のようでーーー レオナルド: レオナルド:やめろ、やめろ。これ以上、僕に何も見せるな。 レオナルド:・・・見てしまったら、僕は。 レオナルド: レオナルド:不意に、男が何かに気付いたように、それを拾い上げた。 レオナルド:それは花だった。 レオナルド:僕が彼女に渡した、あのカメリアの花。 レオナルド:男は汚い物をみるような目でそれを見て、床に放(ほう)った。 レオナルド:つられて視線を落とした僕の目に、それは映った。 レオナルド: レオナルド:・・・花が咲いていた。 レオナルド:白いブラウスを着たその胸に、真っ赤なカメリアの花が。 レオナルド: レオナルド:男は狂ったように笑った。笑いながら踏みつけた。 レオナルド:力なく萎(しお)れた一輪のカメリアの花を。 レオナルド: レオナルド:ーーーその瞬間、目の前が赤く弾けた。 0:(しばしの間。場面転換。雪の降る庭) レオナルド:「ハァ・・・ハアッ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:振り積もった雪の中を僕はひたすら歩く。 レオナルド:動かなくなった彼女を背負い、ただひたすら。 レオナルド:雪の冷たさは感じない。背中に背負った彼女の、氷のような冷たさだけが、今僕が感じる唯一の感覚だった。 レオナルド: レオナルド:「ハァ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:二人で一緒に時を共有した庭は、美しい白に覆われていた。 レオナルド:僕が手入れをした庭木も、四季の花が咲く花壇もーーー レオナルド:彼女が隠れるのにちょうどいいと喜んでくれた、あのトピアリーも。 レオナルド: レオナルド:「ハァ・・・ぐぅっ・・・」 レオナルド: レオナルド:足が縺(もつ)れた。 レオナルド:彼女と一緒に僕は雪の上に倒れ込む。 レオナルド: レオナルド:「ハァ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:投げ出され、力なく横たわる彼女に向かって手を伸ばし、僕はそっとその頬に触れた。 カメリア:『・・・心配、してくれるかしら・・・?』 カメリア:『私はお屋敷に閉じ込められて、お友達も居ないのに。こんなに寂しい思いをしてるのに・・・!』 カメリア:『もう嫌!何もかも嫌!お父様もお母様も自分勝手よ!』 レオナルド:最初は哀れみのようなものだった。 レオナルド:孤独に震える幼い少女を慰めるための、ほんの気まぐれだった。 レオナルド: レオナルド:「・・・ッ・・・ハァ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:彼女を再び背負い。歩き出す。 レオナルド:白い雪には点々と血の跡が残っていた。 カメリア:『・・・相変わらず、ちょっと意地悪なんだから、レオは』 カメリア:『レオと一緒に居たいの』 カメリア:『これで私たち、友達ね』 レオナルド:いつしか、哀れみは愛情へと変わっていた。 レオナルド:無垢な笑顔を見せながら、僕の元へやってくる彼女の。 レオナルド:時々見せる拗(す)ねたような顔が可愛い彼女の事が、何よりも大事になっていた。 レオナルド: レオナルド:「ハァ・・・ハァ・・・」 レオナルド: レオナルド:身体中から力が抜けそうになる。 レオナルド:腹の辺りから、血が流れていく感覚がある。 レオナルド:それは相手の命を奪ってしまった代償のようだった。 カメリア:『・・・っ、私も、レオが好き・・・! カメリア:友達として、人として、一人の男性として、大好き・・・愛してるわ・・・!』 レオナルド:せっかく想いが通じ合った・・・それなのに。 レオナルド: レオナルド:「くっ・・・」 レオナルド: レオナルド:最後の力を振り絞り、その木のーーー二人で初めて約束を交わした木の元へ辿り着く。 レオナルド:花は美しく咲いていた。 レオナルド:赤い花弁を綻ばせ、冷たい雪が降り積もっても、生き生きと。鮮やかに。 レオナルド: レオナルド:「ああ・・・ああ・・・」 レオナルド: レオナルド:真っ白に染まった世界で、その色だけが鮮烈で。 レオナルド: レオナルド:「うう・・・ああ・・・あああ・・・」 レオナルド: レオナルド:膝を着き、彼女を抱き抱えて、声にならない声をあげた。 レオナルド:後悔、怒り、悲しみーーー レオナルド:次々と湧き上がるどす黒い感情を噛み締めて、僕は花に手を伸ばした。 レオナルド:これは僕への罰だ。 レオナルド:このどす黒く、僕の身体を引き裂くような感情は、彼女を救えなかった、僕への。 レオナルド:だから、彼女にはせめて・・・最期に美しい花を。 レオナルド: レオナルド:「カメリア・・・僕の一番、好きな花」 レオナルド: レオナルド:一際(ひときわ)鮮やかに咲いたその花を手折り、口付ける。 レオナルド:冷たい花弁が唇に触れた。 レオナルド: レオナルド:「この花を・・・キミに贈るよ」 レオナルド: レオナルド:口付けた花を彼女の胸の上に置いて、色を無くしたその唇に口付ける。 レオナルド:花よりも冷たくなったそれが、僕の唇に触れた。 レオナルド: レオナルド:「カメリア・・・僕の一番、好きな人」 レオナルド: レオナルド:細い身体を抱き締めて、僕は静かに目を閉じた。 カメリア:『レオ、愛してるわ』 レオナルド:遠くなる意識の中、愛しい彼女の声がした。 0:〜FIN〜