台本概要

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タイトル Go to Better world...
作者名 VAL  (@bakemonohouse)
ジャンル ホラー
演者人数 2人用台本(女1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 良い子でありたい女の子と本の精霊の話。
特に制限はございません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
礼央 81 本文参照
シキ 不問 79 本文参照
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:(登場人物紹介) 礼央:読み方は「れお」女子大学生。誰とでも分け隔てなく話す女の子。親元を離れて暮らしており、1人暮らし。周囲からはいい子認定されていて、自分もいい子を演じている。 シキ:本から出てきた精霊・・・と言っているが、どこか胡散臭く、禍々しさを感じる。礼央と契約し、夢の世界へ送り込む。男でも女でもどちらにも見える。 : 0:(本編) シキ:いやぁ皆さん。こんばんわ。私、シキと申します。本の精霊をやらせていただいております。 シキ:え?精霊っぽくない・・・ですか?まあまあ、細かいことはいいじゃないですか。精霊と言えば精霊なんですよ。 シキ:あ、そうそう。忘れるところでした。この度、私に契約者ができたんです~。いいでしょ?うらやましいでしょ? シキ:礼央っていういい子ぶってる・・・いえ、とってもいい子と契約できました~。今回はその話をさせていただこうと思います。 シキ:では・・・始まり始まり~。 : 礼央:「はあ・・・疲れた。顔痛い・・・」 : 礼央:私は自分で言うのもなんだけど、優等生だと思う。成績だって良い方だし、友達だって多い。先生からも良く頼られる。 礼央:今日も先輩達に連れられて、サークル活動という名の愚痴大会に参加したし・・・ただ、ずっと笑ってるのって本当に辛い。 礼央:でも頑張らないと。人と争っても何もいいことないって知ってるし。その為にはいい子でいないと・・・ : シキ:「こっちへいらっしゃい・・・」 礼央:「・・・え?・・・誰?」 : 礼央:ささやくような声が頭に響いた。 礼央:そんな声なんて無視すればいいのに、何で気になってしまったんだろ。どこかで見透かされてたのかな。 礼央:現状が嫌で仕方ないってことに・・・ 0:自宅― 礼央:「買っちゃった・・・なんだろこの本」 : 礼央:声のした方に行くと、古本屋があった。そこで何故だか目を引くような本があったんだ。 礼央:色もくすんでて、絶対目立つデザインでもないのに買って帰ってしまった。 : 礼央:「タイトルは・・・Better World・・・?」 シキ:「はい。その通り。いい世界という意味ですね~」 礼央:「・・・!?さっきの声・・・どこから?」 シキ:「こっちです。こっち。」 礼央:「え・・・本の中から?」 シキ:「そうですそうです。さあ開いて見てください。そこに私はおりますとも。」 礼央:「あなたは・・・誰?」 シキ:「私は・・・いえ、あなたが名前を付けてください。私を見て、あなたが思うままに・・・」 礼央:「私・・・が?」 シキ:「・・・怖いですか?なら、私はまた永い眠りに付きましょう。その本は処分しておいて――」 礼央:「ちょっと待って!開けるから・・・(深呼吸)開けるわよ。・・・っ!」 : 礼央:私は意を決して本を開いた。すると一瞬、激しい風が吹いて、顔を伏せた。 礼央:顔を上げると、目の前には長身で綺麗な顔立ちの中性的な人物が立っていた。 : シキ:「どうも初めまして。」 礼央:「は、初めまして・・・えっと。」 シキ:「まず、名前をいただけますか?お嬢さん?」 礼央:「名前・・・えっと・・・シキとかどうですか?」 シキ:「・・・っ!?」 礼央:「だ、ダメ・・・でしたか?」 シキ:「いえいえ!そんなことはありません。そうですか・・・シキと。由来をお聞きしても?」 礼央:「え・・・あの。いい世界って色とりどりな世界って気がして・・・安直だったかな・・・」 シキ:「なるほど。四季か・・・とってもいい名です。ありがとう。お嬢さんの名前もお聞きしていいですか?」 礼央:「私は礼央といいます。」 シキ:「礼央ですね。これからよろしくお願いします。」 礼央:「えっと・・・これからって。というかあなたは何者なんですか?」 シキ:「あなただなんてやめてくださいよ。私はシキです。」 礼央:「じゃあシキさん。あなたは何者なんですか?」 シキ:「ノンノン!もっと親しみを込めて呼び捨てに!それからタメ口で!」 礼央:「・・・シキ。あなたは何なの?」 シキ:「私は本の精霊です。」 礼央:「本の精霊・・・?」 シキ:「はい!この本に宿る精霊でして、沢山の人を渡ってここに来たんです。礼央のために。」 礼央:「私のため?」 シキ:「はい!あなたには誰にもいえないような悩みがある。私の勘がそう言ってます。」 礼央:「別に・・・そんなことは・・・」 シキ:「では、なぜ礼央は私の声に釣られたんでしょうね?何も悩みがなければ、私の声は聞こえませんよ?」 礼央:「そ、それは――」 シキ:「私に隠し事は無意味ですよー。」 礼央:「・・・・・」 シキ:「ほら、話してみてください。私に受け止められないことはありませんから。」 礼央:「・・・わかった。」 シキ:「いい子ですね。さあ話して。」 礼央:「私・・・その、いい子でいたいと思ってるんだけど・・・最近はそうでもないっていうか・・・疲れたというか」 シキ:「ふむ。なるほど。色んな人にいい子って思われるのは本望ではあるのだけれど、実際はそうじゃないから本当の自分でいたいという葛藤が渦巻いて、生きる気力そのものが減退していると。」 礼央:「・・・え?何でわかるの?いや、そこまでは思ってないけどさ。」 シキ:「隠さないで良いんですって。私はあなたに呼ばれたようなものなんですから。」 礼央:「私に?」 シキ:「はい!礼央の心が助けを求めてたのです。それを聞いた私があなた自身を呼んだというわけなんですよ。」 礼央:「私の・・・心・・・」 シキ:「その通り!だから私があなたの願いを叶えてあげましょう!」 礼央:「願いを・・・叶えてくれるの?」 シキ:「はい!私は好きな夢を見させてあげれるんです。あなたの願いである、本当の自分でいたい。というのを叶えることができるわけですよ~」 礼央:「でもそれって夢の中の話だよね。」 シキ:「ええ。でも、実際してはならないことだとしても夢の中なら許されますからね。素敵な話じゃありませんか?」 礼央:「それは・・・確かに。」 シキ:「それこそ、あなたが望んだ色とりどりの世界だって見れるわけです。」 礼央:「本当!?それは素敵ね!」 シキ:「そうでしょう!どうですか?試しに1度、夢の世界に入ってみますか?」 礼央:「え。急に言われても、まだ明るいし・・・」 シキ:「もし願うのなら、私がお連れしましょう!」 礼央:「じゃあ、少しだけ――」 シキ:「では行きましょう!!レッツドリーム!!」 礼央:「ちょ!まだ心の準備・・・が・・・(寝息)」 シキ:「はーい。(暗めに)いってらっしゃーい。」 : 0:夢の中―― : 礼央:「ここは・・・私、何してたんだっけ?」 シキ:「いらっしゃいませ~私の世界へ。」 礼央:「シキ・・・そっか。これ夢なんだ。」 シキ:「飲み込みが良くて助かりますね~。そう。ここは夢の世界。全てが私と礼央の想いのままの世界ですよ。」 礼央:「本当に何でも出来るの?」 シキ:「ん~何でもという訳じゃないんですよねえ・・・」 礼央:「え?夢なのに?」 シキ:「大抵のことはできますよ!?ただ、時間の流れるスピードは止めれないですし、楽しめば楽しむほど、早く時間が過ぎてしまうデメリットがあります。」 礼央:「まあ、確かに楽しい時間は一瞬に感じるもんね。」 シキ:「そう捉えていただけると助かりますね。」 礼央:「他には何かあるの?制限とか。」 シキ:「特にはありませんが、起きるときは起きたいと願ってくださいね。そうすると起きますから。」 礼央:「なんか怖いね。わかった。」 シキ:「まあ説明はこの辺にして、そろそろ礼央の見たかった世界をご覧入れましょう!(指を鳴らす)」 礼央:「・・・すごい。こんなの、こんなの見たことない!」 シキ:「そうでしょうね。桜と紅葉は現実世界では相容れないですし、暖かい雪なんてありえないですからね。」 礼央:「素敵・・・ありがとうシキ。」 シキ:「いえ、まだ始まったばかりですよ。礼央の気が済むまで、堪能してください。思い描いたモノがドンドン出てきますから。あっ時間には注意してくださいね。聞いていただければ、すぐお教えいたしますので」 礼央:「うん!ありがと!何しようかなぁ・・・んー!迷う!」 シキ:「まあまあ眠るたびに来れますから。・・・君次第だけどね・・・」 : シキ:ほーら。凄く良い子でしょ?綺麗な心を持ってるんですよねぇ。この時は。 シキ:人間の欲望ってね。際限なく溢れるでしょう?その時溢れた分って何処に行くと思う? シキ:心の中に溜まっていくんだよ。膿みたいな感じでさ。その膿は心を染めるんだよ。黒く汚くね・・・ シキ:どんなに良い子に見えたところで、芯の部分はみんな一緒・・・薄汚い!愚かで!どうしようもないゴミ! シキ:・・・それが。人間だからさぁ。ははははははは!!!! : 0:半年後―― 礼央:「ねえシキ!どこ?いないの?」 シキ:「どうしたんですか?そんなに大きな声を出して――」 礼央:「早く眠らせて!もう我慢できないの!」 シキ:「今日は何があったんです?」 礼央:「あいついたでしょ?あの高飛車な先輩!聞いてもないのに、自慢ばっかで。そのくせ、何にもできないクズ女!」 シキ:「あー彼女ですか。」 礼央:「今日も人の容姿についてガタガタ言いやがって。こっちは学ぶために大学行ってんだよ。男に股開くしか能無いくせに鬱陶しい!」 シキ:「ということは、またあの夢・・・ですか。」 礼央:「そうよ。何か文句あるの?夢の中なら何だって許されるって言ったのはあんたじゃない。私が夢の中であの女をどうしようが私の勝手!違う!?」 シキ:「いえ、何も間違えてはおりませんよ。夢はあなたの意のままに――」 礼央:「だったら、早く眠らせてよ!」 シキ:「・・・わかりました。(指を鳴らして、出来るだけ笑顔で)いってらしゃあああああい!」 0:夢の中―― 礼央:「・・・さあ、楽しもっと!出て来いよクソ先輩!」 シキ:近頃はこういう夢ばかりを望むようになりましたね~。 礼央:「ははっ!本当にどうしようもないお前に、私が色々教えてあげるね!」 シキ:最初はただ綺麗な風景や、ネットで調べてきた世界の名所なんかを思い描いて、夢の中で観光したりとか、すごくささやかな夢だったんですよ。 礼央:「死ねよ!お前なんか生きててもみんなの迷惑なんだよ!」 シキ:いつからだったでしょうか・・・歪んだ夢ばかり見るようになって・・・ 礼央:「死ね!死ね死ね死ね!ゴミ女!ブス!クソビッチ!」 シキ:最高ですよねえええ!こんなに落ちぶれてしまう人間も久々ですよおお!あ、もう終わりそうですね。 礼央:「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ。シキ。今何時?」 シキ:「朝の6時ですね。そろそろ用意する時間かと。」 礼央:「ちっ!もうそんな時間かよ・・・まあいいや。起きて大学行かないと。」 シキ:「では、目覚めてください。おはようございます。」 礼央:「はぁ・・・お風呂入ってくる。しんど・・・」 シキ:「そりゃあ脳は覚醒状態なわけなのですから、ほどほどにしないと精神的な疲れが――」 礼央:「私の勝手って言ったでしょ!説教しないでよ!」 シキ:「これはこれは失礼。」 礼央:「・・・はぁ。もういい。とりあえずほっといて。」 シキ:「・・・はい。喜んで。」 : シキ:それからすぐの事でしたねぇ。あんなことになっちゃったのは・・・ふふふ。 0:大学屋上―― 礼央:「へえ~あんたでも血は赤いんだね~。人間の振りしたゴミ虫のクセに。・・・あーもう。動かなくなっちゃった。いつもより良く鳴いてくれるから、ついついやりすぎちゃったよ」 シキ:「あらあら、今日も楽しんでましたね~」 礼央:「なんだシキか。今何時?」 シキ:「昼の1時を過ぎた辺りですね~」 礼央:「え。寝すぎでしょ。もっと早くに声かけてくれても良かったんじゃない?」 シキ:「礼央が言ったんじゃないですか。ほっておいてくれと。」 礼央:「確かにそうだけどさ・・・ねえ。そろそろ起こしてくれない?」 シキ:「・・・既に起きておりますが。」 礼央:「は?・・・ちょっと待って。何・・・言ってるの?」 シキ:「本当のことなんですけど?」 礼央:「え・・・?そんな・・・おかしいじゃない。こいつまだいるのよ?」 シキ:「はい。あなたが殺した人間ですね。」 礼央:「これは夢なんでしょ!?早く出してよ!」 シキ:「だから、言ってるじゃないですか。これは現実です。」 礼央:「そんな、そんなわけ――」 シキ:「もう気付いているでしょう?あなたは現実と夢の境を間違えた。そこにいる人間だったモノはあなたが殺した。今ここ。現実世界で。」 礼央:「嘘よ!だって・・・そうよ。私は起きたいと願ってない!なのに、夢が終わってる訳無いじゃない!」 シキ:「確かに起きたい時は願えと言いましたが・・・目覚めないといった覚えは無いですね。」 礼央:「そんな・・・あなたまさかわざと起こしたの?私が夢と現実をわからなくなってると思って・・・だから、こいつを殺すときも止めなかったのね!」 シキ:「違いますよ。私が何も言わなかったのは、あなたにほっておいて言われたからですし、あなたはちゃんと8時間寝てますから、適正の長さですよ。」 礼央:「い、嫌よ。何で私が・・・あなたが。あなたが――」 シキ:「いい加減にしろよ。人間。お前が勝手にやったことだ。俺が言ったか?そいつを殺せと。」 礼央:「・・・それは――」 シキ:「言い訳はもう良いんだよ。お前が悪い。お前だけが。なぜかって?お前は殺人犯だからさ!」 礼央:「私が・・・殺人犯?」 シキ:「ああ。その通りだ。お前は人を殺した。それも私利私欲のためだけに。最低の犯罪者さ!」 礼央:「嫌よ・・・そんなの嫌・・・」 シキ:「それが通ると思うか?これは夢じゃないんだぞ?」 礼央:「夢・・・そうよ。これは夢。夢なのよ!・・・っ!」 シキ:「おいおいそっちは柵だぞ?どうするつもりだ?」 礼央:「きっとここから飛び降りれば、夢は覚めるのよ!」 シキ:「だから現実だって――」 礼央:「うるさい!お前みたいなのもう知らない!私は優等生なんだ。こんなところで死ぬわけが無いのよ!あははははは!」 シキ:「・・・あーあ。こんな高いところから飛び降りちゃったら、色んなところに飛び散っちゃうじゃん。汚いなぁ・・・ま、中々楽しめたよ。ありがとうね礼央。あはははは!」 : シキ:まあこんな末路ですよね。名前のセンスは気に入っていたのですが、それ以外はダメダメでしたねぇ。 シキ:改めまして、死の鬼と書いて、シキと言います。人間の死期を早めるために指揮を執っております。 シキ:さて、ではそろそろ私はお暇するとしましょう。次の人間の元へ行かなくては。 シキ:あ、1つだけ注意しておきますね。知らない声が聞こえたならそれは死鬼の声です。傾けてはいけません。 シキ:もし夢で会ったとしても、気づかない振りをおすすめします。それでは。 シキ:Go to a better world. : : 0:Fin―

0:(登場人物紹介) 礼央:読み方は「れお」女子大学生。誰とでも分け隔てなく話す女の子。親元を離れて暮らしており、1人暮らし。周囲からはいい子認定されていて、自分もいい子を演じている。 シキ:本から出てきた精霊・・・と言っているが、どこか胡散臭く、禍々しさを感じる。礼央と契約し、夢の世界へ送り込む。男でも女でもどちらにも見える。 : 0:(本編) シキ:いやぁ皆さん。こんばんわ。私、シキと申します。本の精霊をやらせていただいております。 シキ:え?精霊っぽくない・・・ですか?まあまあ、細かいことはいいじゃないですか。精霊と言えば精霊なんですよ。 シキ:あ、そうそう。忘れるところでした。この度、私に契約者ができたんです~。いいでしょ?うらやましいでしょ? シキ:礼央っていういい子ぶってる・・・いえ、とってもいい子と契約できました~。今回はその話をさせていただこうと思います。 シキ:では・・・始まり始まり~。 : 礼央:「はあ・・・疲れた。顔痛い・・・」 : 礼央:私は自分で言うのもなんだけど、優等生だと思う。成績だって良い方だし、友達だって多い。先生からも良く頼られる。 礼央:今日も先輩達に連れられて、サークル活動という名の愚痴大会に参加したし・・・ただ、ずっと笑ってるのって本当に辛い。 礼央:でも頑張らないと。人と争っても何もいいことないって知ってるし。その為にはいい子でいないと・・・ : シキ:「こっちへいらっしゃい・・・」 礼央:「・・・え?・・・誰?」 : 礼央:ささやくような声が頭に響いた。 礼央:そんな声なんて無視すればいいのに、何で気になってしまったんだろ。どこかで見透かされてたのかな。 礼央:現状が嫌で仕方ないってことに・・・ 0:自宅― 礼央:「買っちゃった・・・なんだろこの本」 : 礼央:声のした方に行くと、古本屋があった。そこで何故だか目を引くような本があったんだ。 礼央:色もくすんでて、絶対目立つデザインでもないのに買って帰ってしまった。 : 礼央:「タイトルは・・・Better World・・・?」 シキ:「はい。その通り。いい世界という意味ですね~」 礼央:「・・・!?さっきの声・・・どこから?」 シキ:「こっちです。こっち。」 礼央:「え・・・本の中から?」 シキ:「そうですそうです。さあ開いて見てください。そこに私はおりますとも。」 礼央:「あなたは・・・誰?」 シキ:「私は・・・いえ、あなたが名前を付けてください。私を見て、あなたが思うままに・・・」 礼央:「私・・・が?」 シキ:「・・・怖いですか?なら、私はまた永い眠りに付きましょう。その本は処分しておいて――」 礼央:「ちょっと待って!開けるから・・・(深呼吸)開けるわよ。・・・っ!」 : 礼央:私は意を決して本を開いた。すると一瞬、激しい風が吹いて、顔を伏せた。 礼央:顔を上げると、目の前には長身で綺麗な顔立ちの中性的な人物が立っていた。 : シキ:「どうも初めまして。」 礼央:「は、初めまして・・・えっと。」 シキ:「まず、名前をいただけますか?お嬢さん?」 礼央:「名前・・・えっと・・・シキとかどうですか?」 シキ:「・・・っ!?」 礼央:「だ、ダメ・・・でしたか?」 シキ:「いえいえ!そんなことはありません。そうですか・・・シキと。由来をお聞きしても?」 礼央:「え・・・あの。いい世界って色とりどりな世界って気がして・・・安直だったかな・・・」 シキ:「なるほど。四季か・・・とってもいい名です。ありがとう。お嬢さんの名前もお聞きしていいですか?」 礼央:「私は礼央といいます。」 シキ:「礼央ですね。これからよろしくお願いします。」 礼央:「えっと・・・これからって。というかあなたは何者なんですか?」 シキ:「あなただなんてやめてくださいよ。私はシキです。」 礼央:「じゃあシキさん。あなたは何者なんですか?」 シキ:「ノンノン!もっと親しみを込めて呼び捨てに!それからタメ口で!」 礼央:「・・・シキ。あなたは何なの?」 シキ:「私は本の精霊です。」 礼央:「本の精霊・・・?」 シキ:「はい!この本に宿る精霊でして、沢山の人を渡ってここに来たんです。礼央のために。」 礼央:「私のため?」 シキ:「はい!あなたには誰にもいえないような悩みがある。私の勘がそう言ってます。」 礼央:「別に・・・そんなことは・・・」 シキ:「では、なぜ礼央は私の声に釣られたんでしょうね?何も悩みがなければ、私の声は聞こえませんよ?」 礼央:「そ、それは――」 シキ:「私に隠し事は無意味ですよー。」 礼央:「・・・・・」 シキ:「ほら、話してみてください。私に受け止められないことはありませんから。」 礼央:「・・・わかった。」 シキ:「いい子ですね。さあ話して。」 礼央:「私・・・その、いい子でいたいと思ってるんだけど・・・最近はそうでもないっていうか・・・疲れたというか」 シキ:「ふむ。なるほど。色んな人にいい子って思われるのは本望ではあるのだけれど、実際はそうじゃないから本当の自分でいたいという葛藤が渦巻いて、生きる気力そのものが減退していると。」 礼央:「・・・え?何でわかるの?いや、そこまでは思ってないけどさ。」 シキ:「隠さないで良いんですって。私はあなたに呼ばれたようなものなんですから。」 礼央:「私に?」 シキ:「はい!礼央の心が助けを求めてたのです。それを聞いた私があなた自身を呼んだというわけなんですよ。」 礼央:「私の・・・心・・・」 シキ:「その通り!だから私があなたの願いを叶えてあげましょう!」 礼央:「願いを・・・叶えてくれるの?」 シキ:「はい!私は好きな夢を見させてあげれるんです。あなたの願いである、本当の自分でいたい。というのを叶えることができるわけですよ~」 礼央:「でもそれって夢の中の話だよね。」 シキ:「ええ。でも、実際してはならないことだとしても夢の中なら許されますからね。素敵な話じゃありませんか?」 礼央:「それは・・・確かに。」 シキ:「それこそ、あなたが望んだ色とりどりの世界だって見れるわけです。」 礼央:「本当!?それは素敵ね!」 シキ:「そうでしょう!どうですか?試しに1度、夢の世界に入ってみますか?」 礼央:「え。急に言われても、まだ明るいし・・・」 シキ:「もし願うのなら、私がお連れしましょう!」 礼央:「じゃあ、少しだけ――」 シキ:「では行きましょう!!レッツドリーム!!」 礼央:「ちょ!まだ心の準備・・・が・・・(寝息)」 シキ:「はーい。(暗めに)いってらっしゃーい。」 : 0:夢の中―― : 礼央:「ここは・・・私、何してたんだっけ?」 シキ:「いらっしゃいませ~私の世界へ。」 礼央:「シキ・・・そっか。これ夢なんだ。」 シキ:「飲み込みが良くて助かりますね~。そう。ここは夢の世界。全てが私と礼央の想いのままの世界ですよ。」 礼央:「本当に何でも出来るの?」 シキ:「ん~何でもという訳じゃないんですよねえ・・・」 礼央:「え?夢なのに?」 シキ:「大抵のことはできますよ!?ただ、時間の流れるスピードは止めれないですし、楽しめば楽しむほど、早く時間が過ぎてしまうデメリットがあります。」 礼央:「まあ、確かに楽しい時間は一瞬に感じるもんね。」 シキ:「そう捉えていただけると助かりますね。」 礼央:「他には何かあるの?制限とか。」 シキ:「特にはありませんが、起きるときは起きたいと願ってくださいね。そうすると起きますから。」 礼央:「なんか怖いね。わかった。」 シキ:「まあ説明はこの辺にして、そろそろ礼央の見たかった世界をご覧入れましょう!(指を鳴らす)」 礼央:「・・・すごい。こんなの、こんなの見たことない!」 シキ:「そうでしょうね。桜と紅葉は現実世界では相容れないですし、暖かい雪なんてありえないですからね。」 礼央:「素敵・・・ありがとうシキ。」 シキ:「いえ、まだ始まったばかりですよ。礼央の気が済むまで、堪能してください。思い描いたモノがドンドン出てきますから。あっ時間には注意してくださいね。聞いていただければ、すぐお教えいたしますので」 礼央:「うん!ありがと!何しようかなぁ・・・んー!迷う!」 シキ:「まあまあ眠るたびに来れますから。・・・君次第だけどね・・・」 : シキ:ほーら。凄く良い子でしょ?綺麗な心を持ってるんですよねぇ。この時は。 シキ:人間の欲望ってね。際限なく溢れるでしょう?その時溢れた分って何処に行くと思う? シキ:心の中に溜まっていくんだよ。膿みたいな感じでさ。その膿は心を染めるんだよ。黒く汚くね・・・ シキ:どんなに良い子に見えたところで、芯の部分はみんな一緒・・・薄汚い!愚かで!どうしようもないゴミ! シキ:・・・それが。人間だからさぁ。ははははははは!!!! : 0:半年後―― 礼央:「ねえシキ!どこ?いないの?」 シキ:「どうしたんですか?そんなに大きな声を出して――」 礼央:「早く眠らせて!もう我慢できないの!」 シキ:「今日は何があったんです?」 礼央:「あいついたでしょ?あの高飛車な先輩!聞いてもないのに、自慢ばっかで。そのくせ、何にもできないクズ女!」 シキ:「あー彼女ですか。」 礼央:「今日も人の容姿についてガタガタ言いやがって。こっちは学ぶために大学行ってんだよ。男に股開くしか能無いくせに鬱陶しい!」 シキ:「ということは、またあの夢・・・ですか。」 礼央:「そうよ。何か文句あるの?夢の中なら何だって許されるって言ったのはあんたじゃない。私が夢の中であの女をどうしようが私の勝手!違う!?」 シキ:「いえ、何も間違えてはおりませんよ。夢はあなたの意のままに――」 礼央:「だったら、早く眠らせてよ!」 シキ:「・・・わかりました。(指を鳴らして、出来るだけ笑顔で)いってらしゃあああああい!」 0:夢の中―― 礼央:「・・・さあ、楽しもっと!出て来いよクソ先輩!」 シキ:近頃はこういう夢ばかりを望むようになりましたね~。 礼央:「ははっ!本当にどうしようもないお前に、私が色々教えてあげるね!」 シキ:最初はただ綺麗な風景や、ネットで調べてきた世界の名所なんかを思い描いて、夢の中で観光したりとか、すごくささやかな夢だったんですよ。 礼央:「死ねよ!お前なんか生きててもみんなの迷惑なんだよ!」 シキ:いつからだったでしょうか・・・歪んだ夢ばかり見るようになって・・・ 礼央:「死ね!死ね死ね死ね!ゴミ女!ブス!クソビッチ!」 シキ:最高ですよねえええ!こんなに落ちぶれてしまう人間も久々ですよおお!あ、もう終わりそうですね。 礼央:「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ。シキ。今何時?」 シキ:「朝の6時ですね。そろそろ用意する時間かと。」 礼央:「ちっ!もうそんな時間かよ・・・まあいいや。起きて大学行かないと。」 シキ:「では、目覚めてください。おはようございます。」 礼央:「はぁ・・・お風呂入ってくる。しんど・・・」 シキ:「そりゃあ脳は覚醒状態なわけなのですから、ほどほどにしないと精神的な疲れが――」 礼央:「私の勝手って言ったでしょ!説教しないでよ!」 シキ:「これはこれは失礼。」 礼央:「・・・はぁ。もういい。とりあえずほっといて。」 シキ:「・・・はい。喜んで。」 : シキ:それからすぐの事でしたねぇ。あんなことになっちゃったのは・・・ふふふ。 0:大学屋上―― 礼央:「へえ~あんたでも血は赤いんだね~。人間の振りしたゴミ虫のクセに。・・・あーもう。動かなくなっちゃった。いつもより良く鳴いてくれるから、ついついやりすぎちゃったよ」 シキ:「あらあら、今日も楽しんでましたね~」 礼央:「なんだシキか。今何時?」 シキ:「昼の1時を過ぎた辺りですね~」 礼央:「え。寝すぎでしょ。もっと早くに声かけてくれても良かったんじゃない?」 シキ:「礼央が言ったんじゃないですか。ほっておいてくれと。」 礼央:「確かにそうだけどさ・・・ねえ。そろそろ起こしてくれない?」 シキ:「・・・既に起きておりますが。」 礼央:「は?・・・ちょっと待って。何・・・言ってるの?」 シキ:「本当のことなんですけど?」 礼央:「え・・・?そんな・・・おかしいじゃない。こいつまだいるのよ?」 シキ:「はい。あなたが殺した人間ですね。」 礼央:「これは夢なんでしょ!?早く出してよ!」 シキ:「だから、言ってるじゃないですか。これは現実です。」 礼央:「そんな、そんなわけ――」 シキ:「もう気付いているでしょう?あなたは現実と夢の境を間違えた。そこにいる人間だったモノはあなたが殺した。今ここ。現実世界で。」 礼央:「嘘よ!だって・・・そうよ。私は起きたいと願ってない!なのに、夢が終わってる訳無いじゃない!」 シキ:「確かに起きたい時は願えと言いましたが・・・目覚めないといった覚えは無いですね。」 礼央:「そんな・・・あなたまさかわざと起こしたの?私が夢と現実をわからなくなってると思って・・・だから、こいつを殺すときも止めなかったのね!」 シキ:「違いますよ。私が何も言わなかったのは、あなたにほっておいて言われたからですし、あなたはちゃんと8時間寝てますから、適正の長さですよ。」 礼央:「い、嫌よ。何で私が・・・あなたが。あなたが――」 シキ:「いい加減にしろよ。人間。お前が勝手にやったことだ。俺が言ったか?そいつを殺せと。」 礼央:「・・・それは――」 シキ:「言い訳はもう良いんだよ。お前が悪い。お前だけが。なぜかって?お前は殺人犯だからさ!」 礼央:「私が・・・殺人犯?」 シキ:「ああ。その通りだ。お前は人を殺した。それも私利私欲のためだけに。最低の犯罪者さ!」 礼央:「嫌よ・・・そんなの嫌・・・」 シキ:「それが通ると思うか?これは夢じゃないんだぞ?」 礼央:「夢・・・そうよ。これは夢。夢なのよ!・・・っ!」 シキ:「おいおいそっちは柵だぞ?どうするつもりだ?」 礼央:「きっとここから飛び降りれば、夢は覚めるのよ!」 シキ:「だから現実だって――」 礼央:「うるさい!お前みたいなのもう知らない!私は優等生なんだ。こんなところで死ぬわけが無いのよ!あははははは!」 シキ:「・・・あーあ。こんな高いところから飛び降りちゃったら、色んなところに飛び散っちゃうじゃん。汚いなぁ・・・ま、中々楽しめたよ。ありがとうね礼央。あはははは!」 : シキ:まあこんな末路ですよね。名前のセンスは気に入っていたのですが、それ以外はダメダメでしたねぇ。 シキ:改めまして、死の鬼と書いて、シキと言います。人間の死期を早めるために指揮を執っております。 シキ:さて、ではそろそろ私はお暇するとしましょう。次の人間の元へ行かなくては。 シキ:あ、1つだけ注意しておきますね。知らない声が聞こえたならそれは死鬼の声です。傾けてはいけません。 シキ:もし夢で会ったとしても、気づかない振りをおすすめします。それでは。 シキ:Go to a better world. : : 0:Fin―