台本概要

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タイトル 狂愛とミオソティス
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ミオは、森の奥の館の主である、ソティスに拾われた。
ミオは召使としてソティスに仕えるのだが、やがて恋情を抱くようになって…。

「この二人だけの楽園で、ずっと一緒にいよう。」

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ミオ 不問 65 ソティスに仕える召使い。 ※役名の表記が少し変わったら、演技を変えることを推奨します。
ソティス 不問 57 秘境の館に住まう主。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:とある辺境の館。召使の服装の人物が、寝ている主人風の人物を起こそうとしてる。 ミオ:ソティス様、もう朝ですよ、起きてくださいー。 ソティス:(寝言)うーん…。ふふ、今度こそ私はー……。 ミオ:ソティス様!もう、お寝坊さんはお布団引っぺがしますよー! ソティス:ん…、ふぁー…。ああ、ミオ…、おはよう。今日もかわいいね。 ミオ:なっ…、ちょ、ちょっと!寝ぼけるのも大概にしてください! ソティス:寝ぼけてなんかないよ…。ふふ、起き抜けにこういうこと言われて、不意打ちくらっちゃったかな? ミオ:くらってません…!というかそんなこと言えるくらい眠気が覚めてるんだったら、早く食卓まで来てください!ご飯が冷たくなっちゃいます! ソティス:ああ、それはいけないね。私の眠気と一緒に朝食まで“さめて”しまうなんて…。 ミオ:…それ、余計場が冷えるんじゃないですかー。 ソティス:アハハ、確かに。 ミオ:ちょっとー…。 ソティス:ごめんごめん、起き抜けにいいユーモアが浮かんだもんだからさ。さて、せっかくミオが真心こめて作ってくれた朝ごはんを冷ますわけにはいかないね。ミオは先に食卓で待っていてくれ、私も支度を済ませたらすぐ向かうよ。 ミオ:承知いたしました。でも、なるべく早くしてくださいね!今日はソティス様の好きなソーセージなんですから! ソティス:おぉ、それは余計楽しみだ! 0: ミオ:(M)僕の名前は『ミオ』。二週間ほど前にこの館で目が覚めて、それ以前の記憶はない。だからこの名前も、館の主であるソティス様に与えられたものだ。 0: ソティス:んー!やっぱりミオが作ってくれた食事は美味しいね!トーストに乗ったスクランブルエッグ、色鮮やかなサラダにソーセージ!いやあ、本当にミオは凄いなあ。料理を教えてまだ数日しか経っていないのにもう朝食を一人で作れるようになっちゃうなんて。 ミオ:あ、ありがとうございます!尖ってるのが怖くて、まだ包丁は使えなかったんですけど……。 ソティス:そっかあ。フフ。その調子ならきっとあと一週間もすれば、朝、昼、夜。全部任せてよさそうだね。 ミオ:全部!?でも僕、まだほんのちょっとしか料理覚えてませんし、現にこの朝食も簡単なものばかりで…! ソティス:大丈夫だよ、私がきちんとミスしない作り方を教えてあげるから。ミオが要領がとってもいいからね、ちょっと教えればきっと全部できちゃうよ。 ミオ:そ、そうですかぁ…? ソティス:うんうん、だから自信を持って―――、 0:すこし鈍い音が床から。 ソティス:おっと。スプーン落としちゃった。 ミオ:拾いますね。 0:そしてミオがスプーンを拾う。 ミオ:んしょ、っと。少し待っていてください、替えのスプーンを持ってきますので。 ソティス:ありがとう、すまないね。 0: ミオ:(M)話によると、僕はここから遠く離れた街に捨てられていて、そこをソティス様に拾われたらしい。そして記憶を失った僕の身元が判明するまで、僕はこの館に住まわせてもらうことになった。 0: ソティス:ごちそうさま。うん、ミオと食べるミオの作った朝食、やっぱり絶品だなあ。 ミオ:…えへへ、それは、良かったです…!あ、そういえばソティス様。本日のご予定はどうなさるんですか? ソティス:んー、そうだなあ。今日はお仕事はお休みして、図書館でゆっくり読書でもしようかな。 ミオ:あれ、薬剤師のお仕事ってそうやって軽く休んじゃっていいんですか? ソティス:うん。私はフリーランスの薬剤師だからね。 ミオ:フリーランス…、へぇ、そんなのもあるんですね。 ソティス:そうそう。だから今日は本の虫になろうかとねー。あ、ミオも一緒に本読むかい?良かったら私が読み聞かせしてあげようか。 ミオ:本当ですか!僕、ソティス様の読み聞かせ、大好きです! ソティス:アハハ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。さあて、それじゃあ一緒に図書館に行こうか。 ミオ:はい!…あ、ごめんなさいソティス様。僕、食器洗いと廊下のお掃除をやらなくちゃいけないのをすっかり忘れていました…。すぐ終わらせて図書館に向かうので、先に行っててもらってもいいですか…? ソティス:勿論、逆にこっちこそごめんね、ミオに全部任せてしまって。 ミオ:とんでもないです!僕はソティス様に命を助けられた身ですから。ソティス様の役に立てるなら、どんな辛い仕事だってしてみせます! ソティス:…フフ、アハハ。そこまで言ってくれるなんて、ありがとうミオ! ミオ:当然です!それでは、早く読み聞かせを聞くためにも、全速力で家事を終わらせてきます! ソティス:はーい、じゃあ読み聞かせる本を選んで待ってるよ。 0: ミオ:(M)初めは僕も本当の自分に戻りたかった。なぜ捨てられていたのか、両親はどんな人なのか、本当の僕は何者なのか。知りたかった。でも…、今は違う。今はただ、この生活があればそれでいい。ついでに、前の僕に戻ったってまた街に捨てられてしまう気がするし。 ミオ:(M)昔の「僕」には悪いけれど、今の僕は『僕』なんだ。この『ミオ』という名前も、この館の召使いであることも誇らしいから。…でも、もし僕の真実がわかってしまったら、ソティス様といる安心を失ってしまう。だから、最近はそれが少しだけ不安だ。 0: 0:場面転換。図書館にて。 ソティス:«―――そうして二人は生涯幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。» ミオ:おぉー…! ソティス:うんうん、やっぱり恋愛と冒険の話はいいね。心が躍る。 ミオ:僕も恋愛のお話好きです! ソティス:本当に? ミオ:はい!聞いてるこっちまでドキドキしてくるって言うか…。あの感じが好きで! ソティス:アハハ…。なるほどね。ちなみに難しいかもだけど、具体的にどんな感じの恋愛が好きってのはあるの? ミオ:えー、そうだなぁ…。でも、やっぱりお互いに惹かれ合ってケッコンする、みたいなのはとってもドキドキしますね。純愛?って言うのかな。 ソティス:……フフ、そっか。いいよね、純愛。私も憧れるんだ。 ミオ:へぇー…。そ、そういえば…、ソティス様には、好きな人、とか…、いないんですか? ソティス:私?そうだなあ…。アハハ。うーん、私は滅多にこの館から出ないし、友人とかも全然いないからなあ。 ミオ:そう、だったんですね。 ソティス:うん。だから今は、ミオが一番大好きだよ。 ミオ:! ホント…? ソティス:ホントさ。なんだか、私にできた唯一の家族、みたいでね。ちょっとネガティヴなことを言うと、実は私にはずっと心に空いていたぽっかり空いた穴…、不足感、って言うのかな。そういうのがあるんだけど、ミオといるとそれが埋まってる気がしてさ。もしかしたら私とミオは、運命の相手だったのかもしれないね?フフ…。 ミオ:う、運命の相手!?そ、そんな、ソティス様…。大袈裟すぎますよ…。 ソティス:…フフフフ。ミオ、顔真っ赤だよー? ミオ:そんなことないですー! ソティス:アハハ…。本当、ミオはかわいいな。そういうところも大好きだよ。 ミオ:もう、いい加減にしてください…っ! ソティス:フフフ…。ごめんね、いじめすぎたね。さあて、私はそろそろお腹が減った!ので、そろそろ晩御飯にしようか! ミオ:…はい。えっと、料理お手伝いします…! ソティス:フフ、今日はいいよ。ずっと前からミオにはお世話になってるしね。今日は学ぼうとかそういうの一切抜きで、私からのお礼ってことで、ミオにご馳走を作らせてほしいな。ダメ? ミオ:そ、そんな!僕にはソティス様からそんなものを受け取る資格はありません…! ソティス:何言ってるんだ、キミはたった一人で私の館の世話をし、毎日私を起こして朝食を作ってくれる。そんな素敵なミオに、私からのお礼を受け取る資格がないなんて、そんなことこそあるわけないだろう?だからミオ。大好きなキミに、恩返しをさせてよ。 ミオ:わ、わわ、わかり、ました…!で、でも!僕はこの屋敷の召使ですので!ソティス様が料理を作っている間、館をもっと隅々まで掃除しておきます! ソティス:いやいや、キミが仕事しちゃったら私がご馳走を作る意味がないだろう…?私はミオのことを労いたくてだね。 ミオ:でも、僕はこの館の召使いです…!主からのご褒美や労いの言葉を戴けるって言うのなら、その分だけ働かないといけないです!今から! ソティス:そ、そうか…。フフ…。本当キミは生真面目だね、ミオ。 ミオ:じゃないとソティス様に仕えられませんから! ソティス:…アハハハハ。OK、わかったよ。じゃあ、私が作ってる間だけ、館のお掃除をお願いしようかな。そのかわり、少しでも疲れたとも思ったらすぐやめること!私はミオが大事だからね、オーバーワークで身体を壊してほしくないのだけはわかってほしい。 ミオ:承知しました。それでは、行ってきます!できたら呼んでください! ソティス:はーい。…あっ、あともう一個だけ! ミオ:なんですか? ソティス:毎回言ってるけど、二階の黒い扉の部屋だけは開けないようにね。私のプライベートルームだから。 ミオ:もちろんですっ!…では! 0:そうしてミオが図書館を出ていく。 ソティス:…フフ。 0:場面転換。先ほどの場面の後、ミオが館を掃除している。 ミオ:…よし、一階はこんなもんでいいでしょ!二階も完璧に掃除して、ソティス様に褒められるぞー…! 0:そして、二階に足を踏み入れるミオ。 ミオ:よし、掃除ー…、っ。 0:ミオの視界に入ったのは。 ミオ:二階の、黒い扉……。 0: ミオ:(M)そこは、ソティス様のプライベートルーム。唯一、僕が入ることを許されない部屋。 0: ミオ:…いやいや、ご主人様のデリケートな部屋を勝手に覗くとか、絶対ダメだ。掃除に集中、集中……。 0: ミオ:(M)絶対にダメだ。覗いていいわけがない。……でも、今の僕は、少し浮かれていた。 0: ミオ:……少し、一秒覗くだけ、なら…。 0: ミオ:(M)大好きな人に大好きと言われて、ご褒美のごちそうまで作ってもらえて。僕の中の“好き”が抑えられなくて。そんな大好きな人のプライベートを。僕にも見せたことのない裏を。見てみたくなってしまった。 0: ミオ:……いい、よね。 0: ミオ:(M)そうして僕は、黒い扉を静かに開けた。ご主人様に気づかれないように、そぅっと。 0: ミオ:…これは? 0: ミオ:(M)そして僕の視界に広がったのは――――。 0: ミオ:倉庫…? 0:黒い扉の先は、いろいろなものが乱雑に、しかし所々丁寧に置いてある倉庫だった。 ミオ:机に、椅子に…、洋服にー…、カバン…?全部ソティス様の私物ってこと、だよね…。でもなんだか、とても懐かしい……?…気のせい、かな。…なんか変な気分だ。 ミオ:…ん?あの、一個だけ別にされてる四角くて小さいのは……。木箱?(木箱を開けようとしてみる)…鍵がかかってる。…もしかしたら、これの中身がソティス様のプライベートなのかも…!きっと近くに鍵が―――。 ソティス:(一階から)ミオー!もうそろそろご飯できるよー!お掃除切り上げて戻っておいでー! ミオ:わ、もうそんな時間…、……でも…、やっぱり気になる…!鍵を見つけて開けて閉めてすぐ戻るだけだから…、大丈夫、だよね…?…鍵、鍵ー…、どこだー…? ソティス:(一階から)ミオー? ミオ:まずい、急がなきゃ…、鍵、鍵……、あった、多分これだ!すぐ見てすぐ戻ればバレない、はず…!…ふぅ…、…オープン。 0:そして木箱の中身は―――。 ミオ:っ、ひ…っ。これ、注射器…っ。 0:ミオは注射器に怯える。 ミオ:う、ぁ…。なんで僕、注射器が怖いんだ…?…だって、注射器はきっと、ソティス様がお仕事に使う道具、で…、だからここに、あって…。 ミオ:…頭が、痛い……。 ミオ:…待て、よ?この館、何か、おかし、い……? ミオ:(M)考えてみれば、最初から変だったんだ。なんで気づかなかったんだ。 0: ミオ:(M)絶対に外に出ない主様と、危ないから外に出ないでほしいと言われた僕。時計と鏡が見当たらなくて、人が誰も訪ねて来ないこの館。僕以外に誰も居ない召使い………。 0: ミオ:(M)…ソティス様は、僕の正体を知って、隠そうと、していた…?でもなんで、ソティス…、ソティス……? 0: ソティス:(回想)私がどれだけ愛しても、キミは拒絶するんだね。 0: ミオ:(M)ぐ、ぁ…。 0: ソティス:(回想)このクスリで、全部忘れようね。そうしたらきっと、二人で幸せになれるはずだからさ。 0: ミオ:(M)ぼく、は…。 0: ソティス:(回想)安心して。キミはすべてを手放して、委ねるだけでいいんだよ……。 0: ミオ:違う……。 0: 「ミオ」:[俺]は、誰だ…? ソティス:…あーあ、あともう少しだったのに。……また戻ってしまったんだね。 0:いつの間にか現れ、「ミオ」に悲しげに話しかけるソティス。「ミオ」の顔は恐怖に歪む。 「ミオ」:…おっ、おま、えは…っ。 ソティス:素振りを見せずに綺麗な嘘をいっぱいついて、ボロが出ないように全部全部隠したのに…、コレでも、ダメだったんだ。…今回は本当に惜しかったな。あと一歩だったのにね。 「ミオ」:ぜんぶ、ぜんぶ、思い出した…っ。 ソティス:そっか。じゃあ、また全部忘れようね。このお注射をすれば、またリセットできるからさ。 「ミオ」:ま、待ってっ、来るな、来ないでくれ…っ、その、その『注射器』を俺に向けないでくれ…っ。 ソティス:嫌だよ。だって記憶を取り戻してしまったキミは、私のことを拒絶するだろう? 「ミオ」:当たり前だっ…。お前の愛は、狂ってる…! ソティス:アハハ、そうだね。だって、記憶を消せるクスリをわざわざ創って、キミが私を好きになって愛の告白をしてくれるまでまっさらなキミとの生活を何度も何度も何度も何度も繰り返しちゃうくらいには、トチ狂ってる。 ソティス:でもさあ。狂っていたとしてもこんなにも私が愛しているんだから、最早これは純愛と言えるとは思わないかい? 「ミオ」:そんなわけ、ない…! ソティス:フフフフフ。そうだよね、だってキミに選択権がないもんね。だから記憶を取り戻したキミと私は永遠にわかり合えない。だからわざわざ私は記憶を消して、大好きなキミの新しい記憶と恋をするんだあ。 「ミオ」:い、いやだ…っ。 ソティス:アハハ、大丈夫だよ。今のキミは嫌でも、次の「ミオ」はきっと、私のことを受け入れてくれるはずだから。 「ミオ」:ま、って…。 ソティス:おやすみ。次の「ミオ」は、きっと、私のことを愛してくれるよね。 0: 0: 0: ソティス:“同タイミングで家族が警察に捜索届提出、行方不明者二名、誘拐事件として捜査”……、か。アハハ…、アハハハハ。 ソティス:大丈夫だよ。この館は絶対に見つからない。二人だけの秘密の国だから。誰にも邪魔はさせないからね。 ソティス:それにしても、まさか「ミオ」が黒い扉を開いちゃうなんてね。いつもなら絶対に開けないのに…、私の秘密がとっても知りたかったんだろうなあ…、アハハハ。想像しただけで震えるほどかわいい。 ソティス:んー、でもこうなっちゃうなら、あの部屋にはきちんと鍵をかけないといけなくなるなあ…。古い館だからいろいろと難しいんだけど…、これもキミと私の育む純愛のため、だもんね。フフフ。 ソティス:…それにしても、本当に可愛い寝顔だなあ。…キミとの愛を手に入れられるなら、私は何もかもを投げ捨ててみせるよ。…だからさ。 0: 0: 0: ミオ:……ん、あれ…、ここ、は…? ソティス:あ、目が覚めた!良かった、もしかしたらこのまま起きないんじゃないかと思って心配したよ…。 ミオ:…え、っと…、あなたは…、あれ…?僕って、誰なんだっけ…? ソティス:…アハハ。もしかして、記憶喪失なのかな…、キミはね―――? 0: 0: 0: ソティス:私たちの間に、水色の花が、真実の愛が咲いて、いつか枯れるまで。 ソティス:この二人ぼっちの楽園で。ずぅーっと一緒にいようね。 ソティス:「ミオ」。 0:End

0:とある辺境の館。召使の服装の人物が、寝ている主人風の人物を起こそうとしてる。 ミオ:ソティス様、もう朝ですよ、起きてくださいー。 ソティス:(寝言)うーん…。ふふ、今度こそ私はー……。 ミオ:ソティス様!もう、お寝坊さんはお布団引っぺがしますよー! ソティス:ん…、ふぁー…。ああ、ミオ…、おはよう。今日もかわいいね。 ミオ:なっ…、ちょ、ちょっと!寝ぼけるのも大概にしてください! ソティス:寝ぼけてなんかないよ…。ふふ、起き抜けにこういうこと言われて、不意打ちくらっちゃったかな? ミオ:くらってません…!というかそんなこと言えるくらい眠気が覚めてるんだったら、早く食卓まで来てください!ご飯が冷たくなっちゃいます! ソティス:ああ、それはいけないね。私の眠気と一緒に朝食まで“さめて”しまうなんて…。 ミオ:…それ、余計場が冷えるんじゃないですかー。 ソティス:アハハ、確かに。 ミオ:ちょっとー…。 ソティス:ごめんごめん、起き抜けにいいユーモアが浮かんだもんだからさ。さて、せっかくミオが真心こめて作ってくれた朝ごはんを冷ますわけにはいかないね。ミオは先に食卓で待っていてくれ、私も支度を済ませたらすぐ向かうよ。 ミオ:承知いたしました。でも、なるべく早くしてくださいね!今日はソティス様の好きなソーセージなんですから! ソティス:おぉ、それは余計楽しみだ! 0: ミオ:(M)僕の名前は『ミオ』。二週間ほど前にこの館で目が覚めて、それ以前の記憶はない。だからこの名前も、館の主であるソティス様に与えられたものだ。 0: ソティス:んー!やっぱりミオが作ってくれた食事は美味しいね!トーストに乗ったスクランブルエッグ、色鮮やかなサラダにソーセージ!いやあ、本当にミオは凄いなあ。料理を教えてまだ数日しか経っていないのにもう朝食を一人で作れるようになっちゃうなんて。 ミオ:あ、ありがとうございます!尖ってるのが怖くて、まだ包丁は使えなかったんですけど……。 ソティス:そっかあ。フフ。その調子ならきっとあと一週間もすれば、朝、昼、夜。全部任せてよさそうだね。 ミオ:全部!?でも僕、まだほんのちょっとしか料理覚えてませんし、現にこの朝食も簡単なものばかりで…! ソティス:大丈夫だよ、私がきちんとミスしない作り方を教えてあげるから。ミオが要領がとってもいいからね、ちょっと教えればきっと全部できちゃうよ。 ミオ:そ、そうですかぁ…? ソティス:うんうん、だから自信を持って―――、 0:すこし鈍い音が床から。 ソティス:おっと。スプーン落としちゃった。 ミオ:拾いますね。 0:そしてミオがスプーンを拾う。 ミオ:んしょ、っと。少し待っていてください、替えのスプーンを持ってきますので。 ソティス:ありがとう、すまないね。 0: ミオ:(M)話によると、僕はここから遠く離れた街に捨てられていて、そこをソティス様に拾われたらしい。そして記憶を失った僕の身元が判明するまで、僕はこの館に住まわせてもらうことになった。 0: ソティス:ごちそうさま。うん、ミオと食べるミオの作った朝食、やっぱり絶品だなあ。 ミオ:…えへへ、それは、良かったです…!あ、そういえばソティス様。本日のご予定はどうなさるんですか? ソティス:んー、そうだなあ。今日はお仕事はお休みして、図書館でゆっくり読書でもしようかな。 ミオ:あれ、薬剤師のお仕事ってそうやって軽く休んじゃっていいんですか? ソティス:うん。私はフリーランスの薬剤師だからね。 ミオ:フリーランス…、へぇ、そんなのもあるんですね。 ソティス:そうそう。だから今日は本の虫になろうかとねー。あ、ミオも一緒に本読むかい?良かったら私が読み聞かせしてあげようか。 ミオ:本当ですか!僕、ソティス様の読み聞かせ、大好きです! ソティス:アハハ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。さあて、それじゃあ一緒に図書館に行こうか。 ミオ:はい!…あ、ごめんなさいソティス様。僕、食器洗いと廊下のお掃除をやらなくちゃいけないのをすっかり忘れていました…。すぐ終わらせて図書館に向かうので、先に行っててもらってもいいですか…? ソティス:勿論、逆にこっちこそごめんね、ミオに全部任せてしまって。 ミオ:とんでもないです!僕はソティス様に命を助けられた身ですから。ソティス様の役に立てるなら、どんな辛い仕事だってしてみせます! ソティス:…フフ、アハハ。そこまで言ってくれるなんて、ありがとうミオ! ミオ:当然です!それでは、早く読み聞かせを聞くためにも、全速力で家事を終わらせてきます! ソティス:はーい、じゃあ読み聞かせる本を選んで待ってるよ。 0: ミオ:(M)初めは僕も本当の自分に戻りたかった。なぜ捨てられていたのか、両親はどんな人なのか、本当の僕は何者なのか。知りたかった。でも…、今は違う。今はただ、この生活があればそれでいい。ついでに、前の僕に戻ったってまた街に捨てられてしまう気がするし。 ミオ:(M)昔の「僕」には悪いけれど、今の僕は『僕』なんだ。この『ミオ』という名前も、この館の召使いであることも誇らしいから。…でも、もし僕の真実がわかってしまったら、ソティス様といる安心を失ってしまう。だから、最近はそれが少しだけ不安だ。 0: 0:場面転換。図書館にて。 ソティス:«―――そうして二人は生涯幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。» ミオ:おぉー…! ソティス:うんうん、やっぱり恋愛と冒険の話はいいね。心が躍る。 ミオ:僕も恋愛のお話好きです! ソティス:本当に? ミオ:はい!聞いてるこっちまでドキドキしてくるって言うか…。あの感じが好きで! ソティス:アハハ…。なるほどね。ちなみに難しいかもだけど、具体的にどんな感じの恋愛が好きってのはあるの? ミオ:えー、そうだなぁ…。でも、やっぱりお互いに惹かれ合ってケッコンする、みたいなのはとってもドキドキしますね。純愛?って言うのかな。 ソティス:……フフ、そっか。いいよね、純愛。私も憧れるんだ。 ミオ:へぇー…。そ、そういえば…、ソティス様には、好きな人、とか…、いないんですか? ソティス:私?そうだなあ…。アハハ。うーん、私は滅多にこの館から出ないし、友人とかも全然いないからなあ。 ミオ:そう、だったんですね。 ソティス:うん。だから今は、ミオが一番大好きだよ。 ミオ:! ホント…? ソティス:ホントさ。なんだか、私にできた唯一の家族、みたいでね。ちょっとネガティヴなことを言うと、実は私にはずっと心に空いていたぽっかり空いた穴…、不足感、って言うのかな。そういうのがあるんだけど、ミオといるとそれが埋まってる気がしてさ。もしかしたら私とミオは、運命の相手だったのかもしれないね?フフ…。 ミオ:う、運命の相手!?そ、そんな、ソティス様…。大袈裟すぎますよ…。 ソティス:…フフフフ。ミオ、顔真っ赤だよー? ミオ:そんなことないですー! ソティス:アハハ…。本当、ミオはかわいいな。そういうところも大好きだよ。 ミオ:もう、いい加減にしてください…っ! ソティス:フフフ…。ごめんね、いじめすぎたね。さあて、私はそろそろお腹が減った!ので、そろそろ晩御飯にしようか! ミオ:…はい。えっと、料理お手伝いします…! ソティス:フフ、今日はいいよ。ずっと前からミオにはお世話になってるしね。今日は学ぼうとかそういうの一切抜きで、私からのお礼ってことで、ミオにご馳走を作らせてほしいな。ダメ? ミオ:そ、そんな!僕にはソティス様からそんなものを受け取る資格はありません…! ソティス:何言ってるんだ、キミはたった一人で私の館の世話をし、毎日私を起こして朝食を作ってくれる。そんな素敵なミオに、私からのお礼を受け取る資格がないなんて、そんなことこそあるわけないだろう?だからミオ。大好きなキミに、恩返しをさせてよ。 ミオ:わ、わわ、わかり、ました…!で、でも!僕はこの屋敷の召使ですので!ソティス様が料理を作っている間、館をもっと隅々まで掃除しておきます! ソティス:いやいや、キミが仕事しちゃったら私がご馳走を作る意味がないだろう…?私はミオのことを労いたくてだね。 ミオ:でも、僕はこの館の召使いです…!主からのご褒美や労いの言葉を戴けるって言うのなら、その分だけ働かないといけないです!今から! ソティス:そ、そうか…。フフ…。本当キミは生真面目だね、ミオ。 ミオ:じゃないとソティス様に仕えられませんから! ソティス:…アハハハハ。OK、わかったよ。じゃあ、私が作ってる間だけ、館のお掃除をお願いしようかな。そのかわり、少しでも疲れたとも思ったらすぐやめること!私はミオが大事だからね、オーバーワークで身体を壊してほしくないのだけはわかってほしい。 ミオ:承知しました。それでは、行ってきます!できたら呼んでください! ソティス:はーい。…あっ、あともう一個だけ! ミオ:なんですか? ソティス:毎回言ってるけど、二階の黒い扉の部屋だけは開けないようにね。私のプライベートルームだから。 ミオ:もちろんですっ!…では! 0:そうしてミオが図書館を出ていく。 ソティス:…フフ。 0:場面転換。先ほどの場面の後、ミオが館を掃除している。 ミオ:…よし、一階はこんなもんでいいでしょ!二階も完璧に掃除して、ソティス様に褒められるぞー…! 0:そして、二階に足を踏み入れるミオ。 ミオ:よし、掃除ー…、っ。 0:ミオの視界に入ったのは。 ミオ:二階の、黒い扉……。 0: ミオ:(M)そこは、ソティス様のプライベートルーム。唯一、僕が入ることを許されない部屋。 0: ミオ:…いやいや、ご主人様のデリケートな部屋を勝手に覗くとか、絶対ダメだ。掃除に集中、集中……。 0: ミオ:(M)絶対にダメだ。覗いていいわけがない。……でも、今の僕は、少し浮かれていた。 0: ミオ:……少し、一秒覗くだけ、なら…。 0: ミオ:(M)大好きな人に大好きと言われて、ご褒美のごちそうまで作ってもらえて。僕の中の“好き”が抑えられなくて。そんな大好きな人のプライベートを。僕にも見せたことのない裏を。見てみたくなってしまった。 0: ミオ:……いい、よね。 0: ミオ:(M)そうして僕は、黒い扉を静かに開けた。ご主人様に気づかれないように、そぅっと。 0: ミオ:…これは? 0: ミオ:(M)そして僕の視界に広がったのは――――。 0: ミオ:倉庫…? 0:黒い扉の先は、いろいろなものが乱雑に、しかし所々丁寧に置いてある倉庫だった。 ミオ:机に、椅子に…、洋服にー…、カバン…?全部ソティス様の私物ってこと、だよね…。でもなんだか、とても懐かしい……?…気のせい、かな。…なんか変な気分だ。 ミオ:…ん?あの、一個だけ別にされてる四角くて小さいのは……。木箱?(木箱を開けようとしてみる)…鍵がかかってる。…もしかしたら、これの中身がソティス様のプライベートなのかも…!きっと近くに鍵が―――。 ソティス:(一階から)ミオー!もうそろそろご飯できるよー!お掃除切り上げて戻っておいでー! ミオ:わ、もうそんな時間…、……でも…、やっぱり気になる…!鍵を見つけて開けて閉めてすぐ戻るだけだから…、大丈夫、だよね…?…鍵、鍵ー…、どこだー…? ソティス:(一階から)ミオー? ミオ:まずい、急がなきゃ…、鍵、鍵……、あった、多分これだ!すぐ見てすぐ戻ればバレない、はず…!…ふぅ…、…オープン。 0:そして木箱の中身は―――。 ミオ:っ、ひ…っ。これ、注射器…っ。 0:ミオは注射器に怯える。 ミオ:う、ぁ…。なんで僕、注射器が怖いんだ…?…だって、注射器はきっと、ソティス様がお仕事に使う道具、で…、だからここに、あって…。 ミオ:…頭が、痛い……。 ミオ:…待て、よ?この館、何か、おかし、い……? ミオ:(M)考えてみれば、最初から変だったんだ。なんで気づかなかったんだ。 0: ミオ:(M)絶対に外に出ない主様と、危ないから外に出ないでほしいと言われた僕。時計と鏡が見当たらなくて、人が誰も訪ねて来ないこの館。僕以外に誰も居ない召使い………。 0: ミオ:(M)…ソティス様は、僕の正体を知って、隠そうと、していた…?でもなんで、ソティス…、ソティス……? 0: ソティス:(回想)私がどれだけ愛しても、キミは拒絶するんだね。 0: ミオ:(M)ぐ、ぁ…。 0: ソティス:(回想)このクスリで、全部忘れようね。そうしたらきっと、二人で幸せになれるはずだからさ。 0: ミオ:(M)ぼく、は…。 0: ソティス:(回想)安心して。キミはすべてを手放して、委ねるだけでいいんだよ……。 0: ミオ:違う……。 0: 「ミオ」:[俺]は、誰だ…? ソティス:…あーあ、あともう少しだったのに。……また戻ってしまったんだね。 0:いつの間にか現れ、「ミオ」に悲しげに話しかけるソティス。「ミオ」の顔は恐怖に歪む。 「ミオ」:…おっ、おま、えは…っ。 ソティス:素振りを見せずに綺麗な嘘をいっぱいついて、ボロが出ないように全部全部隠したのに…、コレでも、ダメだったんだ。…今回は本当に惜しかったな。あと一歩だったのにね。 「ミオ」:ぜんぶ、ぜんぶ、思い出した…っ。 ソティス:そっか。じゃあ、また全部忘れようね。このお注射をすれば、またリセットできるからさ。 「ミオ」:ま、待ってっ、来るな、来ないでくれ…っ、その、その『注射器』を俺に向けないでくれ…っ。 ソティス:嫌だよ。だって記憶を取り戻してしまったキミは、私のことを拒絶するだろう? 「ミオ」:当たり前だっ…。お前の愛は、狂ってる…! ソティス:アハハ、そうだね。だって、記憶を消せるクスリをわざわざ創って、キミが私を好きになって愛の告白をしてくれるまでまっさらなキミとの生活を何度も何度も何度も何度も繰り返しちゃうくらいには、トチ狂ってる。 ソティス:でもさあ。狂っていたとしてもこんなにも私が愛しているんだから、最早これは純愛と言えるとは思わないかい? 「ミオ」:そんなわけ、ない…! ソティス:フフフフフ。そうだよね、だってキミに選択権がないもんね。だから記憶を取り戻したキミと私は永遠にわかり合えない。だからわざわざ私は記憶を消して、大好きなキミの新しい記憶と恋をするんだあ。 「ミオ」:い、いやだ…っ。 ソティス:アハハ、大丈夫だよ。今のキミは嫌でも、次の「ミオ」はきっと、私のことを受け入れてくれるはずだから。 「ミオ」:ま、って…。 ソティス:おやすみ。次の「ミオ」は、きっと、私のことを愛してくれるよね。 0: 0: 0: ソティス:“同タイミングで家族が警察に捜索届提出、行方不明者二名、誘拐事件として捜査”……、か。アハハ…、アハハハハ。 ソティス:大丈夫だよ。この館は絶対に見つからない。二人だけの秘密の国だから。誰にも邪魔はさせないからね。 ソティス:それにしても、まさか「ミオ」が黒い扉を開いちゃうなんてね。いつもなら絶対に開けないのに…、私の秘密がとっても知りたかったんだろうなあ…、アハハハ。想像しただけで震えるほどかわいい。 ソティス:んー、でもこうなっちゃうなら、あの部屋にはきちんと鍵をかけないといけなくなるなあ…。古い館だからいろいろと難しいんだけど…、これもキミと私の育む純愛のため、だもんね。フフフ。 ソティス:…それにしても、本当に可愛い寝顔だなあ。…キミとの愛を手に入れられるなら、私は何もかもを投げ捨ててみせるよ。…だからさ。 0: 0: 0: ミオ:……ん、あれ…、ここ、は…? ソティス:あ、目が覚めた!良かった、もしかしたらこのまま起きないんじゃないかと思って心配したよ…。 ミオ:…え、っと…、あなたは…、あれ…?僕って、誰なんだっけ…? ソティス:…アハハ。もしかして、記憶喪失なのかな…、キミはね―――? 0: 0: 0: ソティス:私たちの間に、水色の花が、真実の愛が咲いて、いつか枯れるまで。 ソティス:この二人ぼっちの楽園で。ずぅーっと一緒にいようね。 ソティス:「ミオ」。 0:End