台本概要

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タイトル ぼくらの星空
作者名 akodon  (@akodon1)
ジャンル その他
演者人数 4人用台本(男2、女2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 きっと忘れない、あの日見上げた星空を。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
和樹 120 かずき。大学四年生。就職が決まらず、悶々とした日々を送っている。
95 りつ。和樹とは腐れ縁。明るく朗らかな性格。
63 すばる。和樹と律の友人。宇宙飛行士を目指し、海外留学をしていた。人あたりのいい穏やかな性格。
美穂 43 みほ。和樹と律の友人。控えめな性格の美人。昴の彼女。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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和樹:あの日、見上げた星空を、俺は一生忘れない。 0:(しばらくの間。場面転換。大学構内) 和樹:「・・・はぁーあ、今回もまたダメだったかぁー」 律:「よう、和樹!なーに溜息ついてんの?」 和樹:「なんだ、律か・・・」 律:「もう!なんだとは何さ! 律:和樹が盛大に溜息なんかついてるから、心配して声をかけてあげたのに!」 和樹:「これを見れば溜息も出るっつの・・・ 和樹:ほら(一枚の用紙を律に向かって突き出す)」 律:「えーと、なになに・・・? 律:『厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回はご希望に添いかねる結果となりましたことをお伝え致します』・・・。 律:あー、この間、面接受けてた会社から?」 和樹:「そうだよ。今月入ってから三社目の不採用通知!」 律:「どんまいどんまい! 律:アタシの友達にもいるよ。十社以上受けてぜーんぶ落とされたー!って泣き叫んでた子。 律:それに比べたら、三社なんて・・・」 和樹:「それ、お前と同じサークルの安藤の話だろ? 和樹:一週間くらい前に内定もらったー!って食堂でガッツポーズ決めてるの見たぞ」 律:「ははは・・・まぁ、あの子、ここ最近ほとんど学校休んで就活してたからねぇ」 和樹:「俺だって毎日必死にやってるっつの・・・」 律:「まぁ、今は就職氷河期って言われてますし」 和樹:「そんな事言ってるけど、お前はどうなってんだよ。就活」 律:「あっ、そういえば聞いてよ! 律:なんと、先日、第一志望に内定頂いちゃいました!」 和樹:「・・・ふーん」 律:「あーーー!ごめん、ごめんってば! 律:悪気は無かったんだよー!」 和樹:「いや、別にいいよ。おめでとう。律」 律:「えへへ、ありがとう。 律:でもさ、下手な鉄砲数打ちゃ当たる、って言うくらいだから、和樹もそろそろ一社くらい内定出ても良さそうだけどね」 和樹:「ちなみに律はどれくらい面接受けに行ったんだよ?」 律:「うーん、と・・・本命含めて、三つくらい?」 和樹:「ハァ!?なんだよ、めちゃくちゃ受けに行ってる俺が馬鹿みたいじゃん!」 律:「そんなことないよ! 律:まぁ、アタシはやりたいことハッキリしてたから、ここしか無い!ってくらいの勢いで面接受けただけ」 和樹:「ここしか無い、って勢い・・・ねぇ・・・」 律:「そういえば、和樹は今までどんな会社の面接受けてきたの?」 和樹:「えーっと・・・IT企業に自動車メーカー、ホームセンターに印刷会社・・・」 律:「結構バラバラだね」 和樹:「目に付いた求人で、良さそうなところ片っ端から受けてるからな」 律:「・・・あのさ、和樹。 律:もしかして、ハッキリこれがやりたい!って希望、無かったりする?」 和樹:「いや、そんなこと・・・」 律:「じゃあさぁ、例えば、面接の『弊社(へいしゃ)を志望した理由は?』みたいな質問で言葉に詰まったこと、ない?」 和樹:「あー・・・」 律:「ほらぁ!やっぱりハッキリしてないじゃん!」 和樹:「うるせぇな!世の中、お前みたいにハッキリやりたいことが決まってる人間ばかりじゃねぇんだよ! 和樹:とりあえず、どこかに就職できればいいや、なんて考えのヤツ、ゴマンと居るっての!」 律:「そうかもしれないけど・・・和樹、言ってたじゃん。 律:高校生の時、『都会で俺の可能性を探す!』って。 律:それはこの四年間で見つからなかったの?」 和樹:「それは・・・」 律:「・・・和樹はさ、確かに休むことなくあちこち走り回って、毎日のように面接受けて、頑張ってると思うよ。 律:でも、そういうどこでもいいや、って気持ちが見抜かれちゃってるんじゃない? 律:だから、就活上手くいかないんじゃないの?」 和樹:「・・・」 律:「・・・ごめん。ちょっとキツいこと言った?」 和樹:「いや、別にいいよ。当たらずとも遠からず、って感じだから」 律:「あーもう!落ち込ませたかったわけじゃないんだよ〜! 律:えーと、あの・・・その・・・そうだっ! 律:和樹、たまには地元帰ってみない?」 和樹:「・・・なんだよ、唐突に」 律:「こういう時は原点に帰るのが大事というか、ほら、ちょっと気分転換すれば、何か変わるかもしれないじゃん!」 和樹:「この大変な時期にのんびりしてる場合じゃ・・・」 律:(律、食い気味に) 律:「あのねあのね!久々に美穂から連絡が来たの! 律:会いたいね、って話になったから、和樹も一緒にさ!」 和樹:「いや、俺は・・・」 律:「ねっ!行こうよ!一日だけでもいいから付き合って!お願い!」 和樹:「あー・・・わかったよ。一日だけだからな」 律:「やった!じゃあ、美穂の都合聞いてくるね!」 0:(律、去っていく) 和樹:「・・・はあ・・・原点に帰ったら、何か変わる・・・そう上手くいくもんかねぇ・・・」 0:(しばしの間。場面転換。とある駅にて) 美穂:「・・・あっ、律ー!」 律:「美穂〜!久しぶり〜!」 美穂:「元気そうで良かったー。和樹くんも、久しぶり」 和樹:「おう、久しぶり」 美穂:「ごめんね、忙しい時期なのに。 美穂:なんだか、久々に連絡取ったら、直接会いたくなっちゃって・・・」 和樹:「いいよ。俺もちょうど気分転換したかったし」 律:「あーっ!和樹!私が誘った時はそんな事言ってくれなかったじゃん!」 和樹:「・・・そうだったか?」 律:「とぼけないでよ、もーっ! 律:あれでしょ?美人な美穂の前だからでしょ!?」 和樹:「うるせぇヤツだなぁ・・・」 律:「なんだとー!」 美穂:「・・・ふふっ、相変わらず仲が良いね」 和樹:「はぁ?俺が?このサルと?」 律:「サルとはどういう意味だー!キィーッ!」 美穂:「あははっ。もーお腹痛い〜!」 和樹:「そんなに面白いか?」 美穂:「面白いよ。昴くんもよく『あの二人の会話は夫婦(めおと)漫才だ』って言ってたじゃない」 律:「め、夫婦じゃないもん!」 和樹:「お前と夫婦(ふうふ)なんかになったら、騒がしくて絶対ノイローゼになる」 律:「何その言い方!ムカつくー!」 和樹:「・・・あっ、そうだ。夫婦といえば、美穂は昴とまだ続いてんの?」 美穂:「えっ・・・うん。まだお付き合いさせてもらってるよ・・・」 律:「へぇ〜!そうなんだ! 律:昴くん、確か留学するって言ってたから、遠距離恋愛だったよね? 律:すごいなー。アタシは我慢できなくなりそう」 和樹:「律は堪え性がないから、絶対無理だな」 律:「和樹は一言余計だよ!」 和樹:「ところで昴、どうしてんの?向こうでも元気にやってる?」 美穂:「あっ・・・えっと、昴くんね、今こっちに帰ってきてて」 律:「えっ!ホント?会いたい会いたい!」 和樹:「だな。俺も高校卒業以来、全然会ってないからなー。 和樹:美穂、昴に声掛けてもらえたりするか? 和樹:・・・美穂?」 美穂:「あの・・・あのね!その事なんだけどね・・・!」 0:(しばらくの間。場面転換。とある病院にて) 0:(ノックの音) 昴:「はーい。どうぞー」 美穂:「・・・こんにちは、昴くん。お見舞い来たよ」 昴:「あぁ、美穂。いつも悪いな」 美穂:「ううん、いいの。今日は調子どう?」 昴:「絶好調。天気が良いから、外で走りたいくらい」 美穂:「もー、ダメだよ。寒いんだから、風邪でもひいちゃったら大変」 昴:「ははっ、大丈夫。冗談だよ」 美穂:「わかってるけど、昴くん、たまに突拍子のないことするから・・・」 昴:「しないしない。 昴:・・・あっ、そういえば今日は何か持ってきてくれる、って言ってたよね?」 美穂:「えっとね、持ってくる、って言うより、連れて来るって言うか・・・ 美穂:二人とも、入っていいよ」 0:(和樹と律、病室に入る) 昴:「・・・和樹!それに律!」 和樹:「よぉ」 律:「久しぶり、昴くん!」 昴:「うわー!何年ぶりだろう?久しぶり!元気だった?」 律:「えへへー。見ての通り元気だよ!ねー、和樹」 和樹:「・・・ああ」 美穂:「二人ともね、昴くんが帰ってきてるって話をしたら、会いたいって言ってくれたの。 美穂:だから、着いてきてもらっちゃったんだ」 昴:「それは嬉しいな。わざわざこんなところまで来てくれて、ありがとう」 律:「いいよいいよ!それより、身体は大丈夫?」 昴:「大丈夫だよ。心配するほどの事じゃないんだけど、大事をとって入院しろ、って言われちゃって」 和樹:「そうか・・・」 昴:「それより、二人は今どうしてるんだい? 昴:こっちでは、そろそろ卒論書き始める時期じゃない?」 律:「あー!言わないで! 律:アタシ、まだ全然手を付けてないから!」 美穂:「律はいっつも夏休みの課題とか間に合わなくて、学校でやってたもんね」 律:「うう・・・卒業かかってるもん・・・徹夜してでも終わらせるよ・・・」 昴:「ははは。頑張れ、律」 律:「ねぇねぇ、そういえば向こうの大学も卒論あるの?」 昴:「いや、ありがたいことに卒論は無いんだ。 昴:ただ、四年生になっても授業はそれなりにあるから、こっちみたいに残りの一年遊んで過ごそうって感じにはなれないかな」 律:「うわ、大変だね〜・・・ 律:アタシだったら絶対頑張れないや・・・」 昴:「そんなことないよ。誰だってやろうと思えばできるさ」 律:「ハァ〜・・・やっぱり、昴くんは言うことが違うなァ・・・ 律:さすが、宇宙飛行士目指してるだけ・・・」 和樹:(和樹、食い気味に) 和樹:「おい、律!」 律:「あっ・・・」 0:(少しの間。気まずい空気が四人の間に漂う) 昴:「おいおい、どうしたんだよ。みんな気まずそうな顔しちゃって! 昴:さぁ、俺の話はこの辺にしてさ。もっと別の話を・・・」 0:(ノックの音) 美穂:「あっ、はーい! 美穂:(ほんの少し間) 美穂:・・・わかりました。すぐに出ますね。 美穂:・・・昴くん、検診の時間だって」 昴:「わかった。すぐに準備するよ」 律:「そ、そういうことなら、アタシたち、そろそろお暇(いとま)した方がいいかな?」 昴:「ごめん。せっかく来てくれたのに、ゆっくり話もできなくて」 律:「ううん!こっちこそごめんね。急に押しかけちゃって」 昴:「いや、久々に会えて嬉しかったよ。 昴:また機会があれば、今度はゆっくり話そう」 律:「うん!じゃあ、また会おうね!お大事に!」 昴:「ありがとう、律。和樹と美穂も。 昴:じゃあ、また」 和樹:「・・・ああ」 0:(しばらくの間。場面転換。病院前のバス停にて) 律:「ごめん・・・美穂。アタシ、話聞いてたのに、無神経な事言っちゃった・・・」 美穂:「ううん。私こそごめん。 美穂:気まずいだろうな、って分かってはいたんだけど・・・」 和樹:「・・・なぁ、美穂。昴の病気、そんなに悪いのか?」 美穂:「ううん。初期の脳腫瘍(のうしゅよう)だから、早急に処置すれば命に別状は無いって話なの。 美穂:だけどね、腫瘍ができた場所がちょっと悪くて・・・手術しなかったら、手や足に麻痺が出るかも、って」 和樹:「じゃあ、手術すれば・・・」 美穂:「あのね。お医者さんの話だと、手術しても、もしかしたらほんの少しだけど、手足に痺(しび)れが残るかもしれない、って言われてるの・・・」 律:「嘘・・・」 和樹:「でも、アイツ。そんな素振り全く見せないじゃないか。 和樹:前と変わらず穏やかににこにこ笑って・・・愚痴の一つも零さないで・・・」 美穂:「そうなの。昴くんね、病気になってから、人前で一回もつらい顔見せないんだ。 美穂:家族の前でも、私の前でも『大丈夫だよ』っていつも笑ってくれる」 律:「何で?大丈夫な訳ないよ・・・ 律:だって、夢を諦める事になったんでしょ?宇宙飛行士になるって夢を・・・!」 美穂:「そうだよ・・・全然大丈夫じゃない!」 律:「美穂・・・?」 美穂:「私ね、見ちゃったの。前にお見舞いに来た時、開いた扉の隙間から、泣いてる昴くんの姿を。 美穂:拳を固く握って、静かに身体を震わせて、声もあげずに泣いていた」 和樹:「・・・」 美穂:「なんで・・・なんで昴くんがこんな目にあうんだろ? 美穂:宇宙飛行士は子どもの頃からの夢なんだ、ってあんなにキラキラした顔で言ってたのに、こんな形で諦めなきゃならないなんて・・・」 律:「美穂、ごめんね・・・アタシ、気の利いた事、何一つ言えなかった・・・」 美穂:「ううん。律は悪くない。 美穂:ただ、私ももうどうしたらいいかわからなくなっちゃって。 美穂:一人で悩んでた時、律と和樹くんの顔が浮かんだの」 和樹:「俺と、律の?」 美穂:「・・・あのね。一週間後、昴くん、手術を受ける事が決まったの。 美穂:けど、手術を受けたくない、って本人から話があった、ってご両親が・・・」 和樹:「なんでだよ!受けなきゃマズいんだろ?」 美穂:「うん・・・だけど、何で受けたくないの?って聞いても、昴くん笑ってはぐらかすだけなの・・・! 美穂:もう私どうしたら良いかわからなくて・・・」 律:「だから、アタシと和樹をここに呼んで・・・」 和樹:「・・・っ!」 和樹:(和樹、病院へ向かってかけ出す) 律:「ちょ、和樹!?」 和樹:「悪い、律!美穂と二人で先に行っててくれ!」 律:「でも、早くしないと今日中に帰れなくなるよ!」 和樹:「明日帰ることにした!」 律:「えええ!?ちょっと待ってよー!もー!」 0:(しばらくの間。場面転換。昴の病室) 0:(ノックの音) 昴:「・・・はーい。どうぞ・・・って、和樹? 昴:どうしたんだ、みんなで帰ったはずじゃ・・・」 和樹:「・・・昴。お前、言ったんだって?手術を受けないって」 昴:「ああ・・・美穂から聞いた?」 和樹:「聞いた、全部。・・・お前が実は隠れて泣いてた事も」 昴:「参ったなぁ・・・見られてたのかぁ・・・」 和樹:「なぁ、何でだよ、昴」 昴:「うーん。まぁ、大した理由じゃないよ。 昴:しいて言うなら、頭を切るのってちょっと怖いなぁーって思って・・・」 和樹:「誤魔化すなよ。お前、そんなガキみたいなワガママで、周囲を困らせるヤツじゃないだろ?」 昴:「はは、俺はガキだよ。和樹が思ってるより、ずっとガキだ」 和樹:「それなら、もっとガキみたいに泣き喚けよ! 和樹:なんで自分がこんな目に合うんだ!って泣けばいいだろ! 和樹:無理して笑ってんじゃねぇよ!」 昴:「・・・じゃあ、泣き喚いたら、夢を諦めなくて済むのか?」 和樹:「・・・それは・・・」 昴:「泣いたところで俺の夢はもう、叶えられないんだよ、和樹。 昴:どんなに泣いて、嫌だと叫んだところで、この病気は治らない。 昴:病気になる前には戻れない」 和樹:「だからと言って、手術しなけりゃ、お前は・・・」 昴:「わかってるよ。このまま放置しておけば、俺は思うように身体を動かせなくなるんだろ? 昴:だけど・・・それがどうした? 昴:結局、俺が今まで必死に目指してきた夢は、手術しようがしまいが、一生手の届かないところへ行ってしまったんだ。 昴:・・・それならいっそ、このまま何もしなくたって同じじゃないか」 和樹:「けど・・・けど、美穂だって、お前の親だって、律だってお前の事、心配してんだぞ?俺だって・・・」 昴:(昴、食い気味に) 昴:「なら、俺の病気をどうにかしてくれる? 昴:誰か俺の病気を治して、また夢に向かって頑張れ、って言ってくれるのかい?」 和樹:「・・・っ」 昴:「ほらね。俺は、みんなが思うほど強くないし、大人じゃない。 昴:少しでも気を抜くと、こうやってドロドロした汚い気持ちが湧き上がってくるような、弱い人間なんだよ。 昴:夢を失って、初めてそれがよく分かった」 和樹:「そんな・・・そんなこと」 昴:「だからさ、和樹。俺はできればこのまま死にたいんだ。 昴:目標が無いまま生きるのは・・・つらすぎるから」 和樹:「お前・・・ッ!」 和樹:(和樹、昴の胸ぐらをつかむ) 昴:「・・・いいよ。殴っても。 昴:自分でも自分を殴りたくなるような、情けない事を言ってるのは分かってるから」 和樹:「・・・ちくしょう!」 和樹:(和樹、昴の胸ぐらから乱暴に手を離し、踵を返す) 昴:「・・・和樹。見損なったかい?俺のこと」 和樹:「・・・見損なう事なんて出来るかよ。 和樹:俺も偉そうに言える立場じゃないからな」 昴:「和樹?」 和樹:「悪かったな、乱暴な真似して」 昴:「いや、大丈夫だよ。・・・じゃあ、元気で」 和樹:「・・・っ」 和樹:(和樹、病室を去る) 昴:「ああ・・・今日は夕日が綺麗だ。明日もきっと、よく晴れるだろうな・・・」 0:(しばしの間。場面転換。高校時代) 和樹:「うう・・・さみぃ・・・ 和樹:何だってこんな真冬の夜に、学校の屋上へ集まるんだよ?」 昴:「はは、今日は空気が澄んでいるからね。 昴:綺麗に流星群が見えそうだと思って、みんなを誘ったんだ」 和樹:「はぁー、本当に昴は星が好きだな・・・さすが、未来の宇宙飛行士」 昴:「まぁ、なれるかどうかはまだ未定だけどね」 和樹:「なれるだろ。我が校始まって以来の秀才。 和樹:それに加えて運動もできて、イケメンで、おまけに可愛い彼女まで居る。 和樹:天はお前に何物(なんぶつ)与えれば気が済むんだ?」 昴:「大袈裟(おおげさ)だよ。 昴:まぁ、可愛い彼女がいるのは結構自慢だけど」 和樹:「ほーーーう?今の台詞で全校の男子、半分以上を敵に回したなぁ、昴」 昴:「痛い痛い!肩を組む振りをして首を絞めるのは止めてくれよ。 昴:望遠鏡の倍率合わせてるところなんだから・・・」 律:「こーら!昴くんをいじめるな!和樹!」 律:(律、和樹の頭を叩く) 和樹:「いってぇ!何すんだよ、律!」 律:「アンタが乱暴なことしてるからですぅ〜! 律:大丈夫?昴くん、怪我してない?」 和樹:「くっそ・・・律も所詮は面食いか・・・」 律:「そりゃあ、和樹と昴くんが並んだら、大抵の女の子は昴くんの味方だよ」 和樹:「へぇへぇ、どうせ俺はイケメンには勝てませんよー」 美穂:「ふふっ・・・まぁまぁ、喧嘩しないで。 美穂:コンビニで暖かい飲み物と食べ物買ってきたから、みんなで食べよ?」 和樹:「おっ、さすが美穂。美人な上に気が利く!」 律:「・・・それ、アタシもお金出して買ったんだけど、和樹はいらないって考えてオッケー?」 和樹:「・・・悪かった。凍え死にそうなので、恵んでください」 律:「はっはっは、分かればよろしい」 昴:「くくく・・・やっぱり、和樹と律の会話は面白いなぁ〜。 昴:夫婦漫才やれば売れるんじゃないか?」 和樹:「冗談!学校卒業してもコイツと一緒なんて、ゾッとするね」 律:「ざーんねん。アタシ、和樹と同じ大学受かっちゃったから」 和樹:「嘘・・・だろ・・・?」 美穂:「わー!おめでとう律!受験勉強、頑張ってたもんね〜」 昴:「確か都内のスポーツ学部だっけ? 昴:良かったな、律」 律:「へへへ、ありがとう〜!アタシ、四月から東京で女子大生になっちゃいます!」 和樹:「ハァ〜・・・」 律:「何?その溜息は。大学は一緒だけど、アンタ経済学部なんだから別にいいでしょ? 律:文句あるなら、肉まんは没収!」 和樹:「ないない!全然無いです!」 美穂:「そっかぁ、私は地元の大学の教育学部だし、昴くんは海外に留学・・・ 美穂:みんなとこんな風に気軽に会えるのも、あと少しなんだね」 和樹:「なんだよ。昴は可愛い彼女を置いて海外留学なんて、大丈夫か?」 昴:「大丈夫、美穂の事信じてるからね」 美穂:「えへへ・・・」 和樹:「はいはい・・・聞いた俺が馬鹿でした」 昴:「そういう和樹は経済学部入って、将来何かやりたい事でもあるの?」 和樹:「あー・・・まぁ、まだハッキリとは決まってねぇんだけどさ」 律:「うわ・・・大丈夫なの?和樹」 和樹:「うるせぇな。そういう律は決まってんのかよ?」 律:「残念でした!アタシはもう目指してる場所があるんだよー。 律:あっ、美穂は学校の先生だっけ?」 美穂:「うん。小学校の先生になりたくて」 和樹:「くそー・・・みんな将来の夢まで考えてんのかよ・・・」 昴:「まぁ、和樹も勉強してるうちに何か見つかるよ」 和樹:「そうだな!せっかく都内に行くんだ!都会で俺の可能性を探す!」 律:「(棒読み)見つかるといいねー」 和樹:「棒読み!腹立つなぁ!」 美穂:「・・・あっ、そろそろ時間だよ!」 和樹:「おっ、今一つ流れたぞ!」 律:「えっ、どこどこ?」 昴:「ほら、あっちだよ。右の空」 美穂:「ねぇねぇ、ついでに願い事してみようよ」 律:「えーっ、でもこんなに早いスピードじゃ、アタシ三回もお願い言えないよー」 和樹:「よし、じゃあ屋上の床にこうして・・・」 律:「ちょっと和樹、何してんの!落書きなんかしちゃダメじゃん!」 和樹:「そんなにでっかく書かないから大丈夫だって!」 昴:「でも、こんな大きさじゃ星からは見えないだろ。 昴:しかも暗いし・・・」 和樹:「いいんだよ!俺らから星が見えてるんなら、星もきっと俺らのこと、見てくれてるって!」 律:「何その暴論〜」 昴:「それは一理あるかもな・・・じゃあ俺も書こう」 律:「えっ、昴くんも!?」 美穂:「私も書いてみようかな・・・」 律:「ちょっと、美穂まで〜!」 昴:「はは、諦めた方がいいよ。 昴:はい、律の番」 律:「もー!怒られても知らないからね!」 和樹:「・・・よし、みんな準備できたか?おーい、流れ星よー!ーーー」 0:(しばしの間。場面転換。数年後、母校の屋上) 和樹:「・・・あの後、結局俺らが書いた文字は先生に見つかって、この屋上は立ち入り禁止になった上、こっぴどく叱られたんだよな」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「なんでだろうな・・・やっぱりこんな不精(ぶしょう)な方法で願いを叶えよう、なんて言ったから、罰(ばち)が当たったのかな・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「あークソ!だからって昴に罰を当てることねぇだろ! 和樹:アイツはただ純粋に夢を叶えようと、必死に努力してただけなのに・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「・・・でも、励ます言葉も、背中を押してやる資格も、俺にはない。 和樹:こんな中途半端な俺じゃ・・・アイツみたいに叶えたい夢も無い俺じゃ、どうしようも・・・」 和樹:(少し間。和樹、屋上に書かれた文字に気付く) 和樹:「・・・あれ、なんだコレ・・・?文字?」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「そういえばこの辺りだった・・・確か四年前、みんなで星を見たのは・・・ってことは・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「・・・あった。四人で書いた、あの時の・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「これは美穂、これは律、これは俺、これは・・・昴・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「『健康第一!』 和樹:『昴くんとずっと一緒にいられますように』 和樹:・・・ははは、あの時は暗くてよく見えなかったけど、アイツらこんな願い事、書いてたんだな」 和樹:(少し間) 和樹:「待て・・・あの日、昴が書いた願い事って・・・」 和樹:(少し長めに間。和樹、スマホを取り出し、律に電話をかける) 和樹:「・・・ああ、律。悪い、ちょっと頼みたい事があるんだけどさ・・・」 0:(しばしの間。場面転換。夜、病院の屋上にて) 美穂:「うわぁ、息真っ白・・・。 美穂:昴くん、大丈夫?寒くない?」 昴:「大丈夫だよ。それにしても、こんな時間に病院の屋上に行こうだなんて・・・ 昴:よく許可がとれたね」 美穂:「ちょっとだけなら、って先生が許してくれたの。 美穂:昴くん、こうやって星空を見上げるの、好きでしょ?」 昴:「うん、こういう風に空気が澄んだ日は、よく星が見えるからね。 昴:うわぁ・・・満天の星空だ・・・。 昴:おかげで良いものが見れたよ。ありがとう」 美穂:「あの・・・あのね、実は昴くんにもう一つ見せたいものがあるの!」 昴:「もう一つ?それは何?」 律:「・・・じゃじゃーん!これでーす!」 昴:「うわぁ!律・・・それに和樹。 昴:何してるんだ?」 和樹:「何してるって、見れば分かるだろ? 和樹:これからロケットを打ち上げるんだよ」 昴:「ロケット・・・ ?」 和樹:「まぁ、ロケットって言っても、見ての通り手作りのペットボトルロケットなんだけどさ」 昴:「どうしてわざわざこんな場所で、そんな物・・・」 和樹:「あのな、昴。俺らは知ってるからな。 和樹:お前がどれだけ必死に夢を追ってきたのか。 和樹:星が大好きで、いつか宇宙に行きたいんだ、って楽しそうに語ってたお前の夢のこと」 昴:「だから、そんな事言われたって・・・俺はもう・・・」 和樹:「わかってるよ。急に今まで頑張ってきたものを全部諦めろ、って言われて苦しいんだろ? 和樹:諦めたくないんだろ?」 昴:「そうだよ・・・諦めたくなんかない。 昴:・・・だから苦しいんじゃないか、ずっとその為だけに頑張ってきたのに、こんな病気ひとつで奪われて・・・ 昴:俺は星が好きなだけで・・・大好きだからこそ、ずっと関わって生きていこうと思ってたのに・・・」 和樹:「あのさ・・・俺、そんな風に言えるお前の事、ずっとすげーと思ってきたんだよ。 和樹:夢に向かっていつも真っ直ぐで、楽しそうで・・・ 和樹:自分のやりたい事すら決められない俺にとって、お前はいつも輝いて見えた」 昴:「でも・・・でも俺は・・・」 和樹:「なぁ、昴。星に関わる為には宇宙飛行士じゃなきゃダメなのか? 和樹:宇宙飛行士になれなきゃ、人生さえも終わっちまうのか?」 昴:「・・・っ」 和樹:「『ずっと星と関わって生きて行けますように』」 昴:「・・・それは」 和樹:「四年前、昴が流れ星に願った、願い事」 昴:「はは・・・そういえば、そんな事、願ったなぁ。あの時の俺は・・・」 和樹:「・・・確かに、お前は夢を諦めることになったのかもしれない。 和樹:でも、あの時みんなで書いたこの願いは、まだ叶えられるんじゃないのか?」 律:「そうだよ!まだ全然叶えられるよ!」 美穂:「うん・・・うん・・・」 和樹:「・・・だから、頼むから死にたいなんて言わないでくれよ、昴」 律:「病気を治して、またこんな風にみんなで星を見ようよ!昴くん!」 美穂:「怖いかもしれないけど・・・私、ずっと側に居るから・・・何があっても支えるから・・・ 美穂:だから、お願い・・・昴くん」 昴:(少し間) 昴:「・・・ああ、参ったなぁ・・・ 昴:もうどうでもいいや、って思ってたのに、これじゃあ諦めるわけにはいかなくなったじゃないか・・・」 律:「それじゃあ・・・!」 昴:「・・・受けるよ、手術。 昴:例え、何があっても俺は星と関わって生きていければ、それでいい」 美穂:「良かった・・・そう言ってくれて・・・本当に良かった・・・」 和樹:「ったく・・・ほら、可愛い彼女はずっとお前の事、心配してたんだぞ」 昴:「ごめん、美穂。たくさん心配をかけて・・・ 昴:律と和樹も、本当にごめん」 律:「・・・あーもう!謝るのはもう無し無し! 律:そんな事より、せっかく作ったロケット、打ち上げないの?」 和樹:「ああ、そうだな。よし、一発打ち上げるか!」 美穂:「そうだね、そうしよう」 律:「ほらほら!昴くんもこっち来て!打ち上げはお願いします!」 昴:「えっ、いいのか?俺が打ち上げて」 和樹:「当たり前だろ。誰の為に用意したと思ってんだ」 美穂:「さぁ、行こう、昴くん」 律:「よーし!準備できた? 律:・・・じゃあ行くよー!スリー!トゥー!ワーン!ーーー」 0:(しばらくの間。場面転換。大学構内にて) 和樹:「・・・はい・・・はい。わかりました。じゃあ、後で書類を受け取りに来ます」 律:「・・・ん?あっ、いたいたー! 律:おーい和樹ー!」 和樹:「でかい声出すなよ、律。ここ、学生課だぞ」 律:「あっ・・・ごめんごめんー。和樹にどうしても知らせなきゃいけない事があったからさぁ」 和樹:「なんだよ?」 律:「へへへ、なんと昴くん、手術大成功だそうです!」 和樹:「ホントか!良かったなぁ!」 律:「しーっ!和樹、声でかい!」 和樹:「あっ・・・」 律:「もー、人の事言えないんだからぁ」 和樹:「悪い、つい・・・」 律:「でも良かったよねー。 律:なんとか後遺症も残らないだろうって、美穂も嬉しそうに言ってた」 和樹:「そうか・・・安心した。 和樹:そのうち落ち着いたら、また会いに行かなきゃな」 律:「あらあら?この間誘った時は全然乗り気じゃ無かった和樹が、今度は自分から誘ってくるなんて〜」 和樹:「友だちの見舞いに行くのに、乗り気も何も無いだろうが・・・」 律:「あっ、そういえば和樹、なんで学生課にいたの?就活の件で何かあった?」 和樹:「ああ、それなんだけどな・・・俺、学校辞めることにしたから」 律:「へぇーそうなんだー・・・って、えええ!?」 和樹:「だから、構内ででかい声出すなって・・・」 律:「いや、声だってでかくなるよ! 律:なんで?この時期に辞めるなんて・・・ 律:まさか、就活が上手くいかないから、ヤケになって放浪の旅に出るとか・・・」 和樹:「そんなわけねぇだろ。大学辞めて、専門学校入り直すの。 和樹:・・・やりたいことができたから」 律:「えっ、ホントに?どんなこと?」 和樹:「・・・なんかお前に一番に教えるの、ちょっと癪(しゃく)だなぁ・・・」 律:「なんだとー!?」 和樹:「いてて・・・殴るなって・・・」 和樹:(和樹の手元から一冊の本が落ちる) 律:「ん?なんか落ちたよ、和樹。 律:あれ・・・この本って・・・」 和樹:「あーもう、勝手に見るんじゃねーよ」 律:「理学療法士・・・ねぇ、それって、もしかして・・・」 和樹:「・・・さぁ、そろそろ俺、帰るからなー」 律:「ああもう!ちょっと待ってよ!和樹ー!」 0:〜FIN〜N〜

和樹:あの日、見上げた星空を、俺は一生忘れない。 0:(しばらくの間。場面転換。大学構内) 和樹:「・・・はぁーあ、今回もまたダメだったかぁー」 律:「よう、和樹!なーに溜息ついてんの?」 和樹:「なんだ、律か・・・」 律:「もう!なんだとは何さ! 律:和樹が盛大に溜息なんかついてるから、心配して声をかけてあげたのに!」 和樹:「これを見れば溜息も出るっつの・・・ 和樹:ほら(一枚の用紙を律に向かって突き出す)」 律:「えーと、なになに・・・? 律:『厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回はご希望に添いかねる結果となりましたことをお伝え致します』・・・。 律:あー、この間、面接受けてた会社から?」 和樹:「そうだよ。今月入ってから三社目の不採用通知!」 律:「どんまいどんまい! 律:アタシの友達にもいるよ。十社以上受けてぜーんぶ落とされたー!って泣き叫んでた子。 律:それに比べたら、三社なんて・・・」 和樹:「それ、お前と同じサークルの安藤の話だろ? 和樹:一週間くらい前に内定もらったー!って食堂でガッツポーズ決めてるの見たぞ」 律:「ははは・・・まぁ、あの子、ここ最近ほとんど学校休んで就活してたからねぇ」 和樹:「俺だって毎日必死にやってるっつの・・・」 律:「まぁ、今は就職氷河期って言われてますし」 和樹:「そんな事言ってるけど、お前はどうなってんだよ。就活」 律:「あっ、そういえば聞いてよ! 律:なんと、先日、第一志望に内定頂いちゃいました!」 和樹:「・・・ふーん」 律:「あーーー!ごめん、ごめんってば! 律:悪気は無かったんだよー!」 和樹:「いや、別にいいよ。おめでとう。律」 律:「えへへ、ありがとう。 律:でもさ、下手な鉄砲数打ちゃ当たる、って言うくらいだから、和樹もそろそろ一社くらい内定出ても良さそうだけどね」 和樹:「ちなみに律はどれくらい面接受けに行ったんだよ?」 律:「うーん、と・・・本命含めて、三つくらい?」 和樹:「ハァ!?なんだよ、めちゃくちゃ受けに行ってる俺が馬鹿みたいじゃん!」 律:「そんなことないよ! 律:まぁ、アタシはやりたいことハッキリしてたから、ここしか無い!ってくらいの勢いで面接受けただけ」 和樹:「ここしか無い、って勢い・・・ねぇ・・・」 律:「そういえば、和樹は今までどんな会社の面接受けてきたの?」 和樹:「えーっと・・・IT企業に自動車メーカー、ホームセンターに印刷会社・・・」 律:「結構バラバラだね」 和樹:「目に付いた求人で、良さそうなところ片っ端から受けてるからな」 律:「・・・あのさ、和樹。 律:もしかして、ハッキリこれがやりたい!って希望、無かったりする?」 和樹:「いや、そんなこと・・・」 律:「じゃあさぁ、例えば、面接の『弊社(へいしゃ)を志望した理由は?』みたいな質問で言葉に詰まったこと、ない?」 和樹:「あー・・・」 律:「ほらぁ!やっぱりハッキリしてないじゃん!」 和樹:「うるせぇな!世の中、お前みたいにハッキリやりたいことが決まってる人間ばかりじゃねぇんだよ! 和樹:とりあえず、どこかに就職できればいいや、なんて考えのヤツ、ゴマンと居るっての!」 律:「そうかもしれないけど・・・和樹、言ってたじゃん。 律:高校生の時、『都会で俺の可能性を探す!』って。 律:それはこの四年間で見つからなかったの?」 和樹:「それは・・・」 律:「・・・和樹はさ、確かに休むことなくあちこち走り回って、毎日のように面接受けて、頑張ってると思うよ。 律:でも、そういうどこでもいいや、って気持ちが見抜かれちゃってるんじゃない? 律:だから、就活上手くいかないんじゃないの?」 和樹:「・・・」 律:「・・・ごめん。ちょっとキツいこと言った?」 和樹:「いや、別にいいよ。当たらずとも遠からず、って感じだから」 律:「あーもう!落ち込ませたかったわけじゃないんだよ〜! 律:えーと、あの・・・その・・・そうだっ! 律:和樹、たまには地元帰ってみない?」 和樹:「・・・なんだよ、唐突に」 律:「こういう時は原点に帰るのが大事というか、ほら、ちょっと気分転換すれば、何か変わるかもしれないじゃん!」 和樹:「この大変な時期にのんびりしてる場合じゃ・・・」 律:(律、食い気味に) 律:「あのねあのね!久々に美穂から連絡が来たの! 律:会いたいね、って話になったから、和樹も一緒にさ!」 和樹:「いや、俺は・・・」 律:「ねっ!行こうよ!一日だけでもいいから付き合って!お願い!」 和樹:「あー・・・わかったよ。一日だけだからな」 律:「やった!じゃあ、美穂の都合聞いてくるね!」 0:(律、去っていく) 和樹:「・・・はあ・・・原点に帰ったら、何か変わる・・・そう上手くいくもんかねぇ・・・」 0:(しばしの間。場面転換。とある駅にて) 美穂:「・・・あっ、律ー!」 律:「美穂〜!久しぶり〜!」 美穂:「元気そうで良かったー。和樹くんも、久しぶり」 和樹:「おう、久しぶり」 美穂:「ごめんね、忙しい時期なのに。 美穂:なんだか、久々に連絡取ったら、直接会いたくなっちゃって・・・」 和樹:「いいよ。俺もちょうど気分転換したかったし」 律:「あーっ!和樹!私が誘った時はそんな事言ってくれなかったじゃん!」 和樹:「・・・そうだったか?」 律:「とぼけないでよ、もーっ! 律:あれでしょ?美人な美穂の前だからでしょ!?」 和樹:「うるせぇヤツだなぁ・・・」 律:「なんだとー!」 美穂:「・・・ふふっ、相変わらず仲が良いね」 和樹:「はぁ?俺が?このサルと?」 律:「サルとはどういう意味だー!キィーッ!」 美穂:「あははっ。もーお腹痛い〜!」 和樹:「そんなに面白いか?」 美穂:「面白いよ。昴くんもよく『あの二人の会話は夫婦(めおと)漫才だ』って言ってたじゃない」 律:「め、夫婦じゃないもん!」 和樹:「お前と夫婦(ふうふ)なんかになったら、騒がしくて絶対ノイローゼになる」 律:「何その言い方!ムカつくー!」 和樹:「・・・あっ、そうだ。夫婦といえば、美穂は昴とまだ続いてんの?」 美穂:「えっ・・・うん。まだお付き合いさせてもらってるよ・・・」 律:「へぇ〜!そうなんだ! 律:昴くん、確か留学するって言ってたから、遠距離恋愛だったよね? 律:すごいなー。アタシは我慢できなくなりそう」 和樹:「律は堪え性がないから、絶対無理だな」 律:「和樹は一言余計だよ!」 和樹:「ところで昴、どうしてんの?向こうでも元気にやってる?」 美穂:「あっ・・・えっと、昴くんね、今こっちに帰ってきてて」 律:「えっ!ホント?会いたい会いたい!」 和樹:「だな。俺も高校卒業以来、全然会ってないからなー。 和樹:美穂、昴に声掛けてもらえたりするか? 和樹:・・・美穂?」 美穂:「あの・・・あのね!その事なんだけどね・・・!」 0:(しばらくの間。場面転換。とある病院にて) 0:(ノックの音) 昴:「はーい。どうぞー」 美穂:「・・・こんにちは、昴くん。お見舞い来たよ」 昴:「あぁ、美穂。いつも悪いな」 美穂:「ううん、いいの。今日は調子どう?」 昴:「絶好調。天気が良いから、外で走りたいくらい」 美穂:「もー、ダメだよ。寒いんだから、風邪でもひいちゃったら大変」 昴:「ははっ、大丈夫。冗談だよ」 美穂:「わかってるけど、昴くん、たまに突拍子のないことするから・・・」 昴:「しないしない。 昴:・・・あっ、そういえば今日は何か持ってきてくれる、って言ってたよね?」 美穂:「えっとね、持ってくる、って言うより、連れて来るって言うか・・・ 美穂:二人とも、入っていいよ」 0:(和樹と律、病室に入る) 昴:「・・・和樹!それに律!」 和樹:「よぉ」 律:「久しぶり、昴くん!」 昴:「うわー!何年ぶりだろう?久しぶり!元気だった?」 律:「えへへー。見ての通り元気だよ!ねー、和樹」 和樹:「・・・ああ」 美穂:「二人ともね、昴くんが帰ってきてるって話をしたら、会いたいって言ってくれたの。 美穂:だから、着いてきてもらっちゃったんだ」 昴:「それは嬉しいな。わざわざこんなところまで来てくれて、ありがとう」 律:「いいよいいよ!それより、身体は大丈夫?」 昴:「大丈夫だよ。心配するほどの事じゃないんだけど、大事をとって入院しろ、って言われちゃって」 和樹:「そうか・・・」 昴:「それより、二人は今どうしてるんだい? 昴:こっちでは、そろそろ卒論書き始める時期じゃない?」 律:「あー!言わないで! 律:アタシ、まだ全然手を付けてないから!」 美穂:「律はいっつも夏休みの課題とか間に合わなくて、学校でやってたもんね」 律:「うう・・・卒業かかってるもん・・・徹夜してでも終わらせるよ・・・」 昴:「ははは。頑張れ、律」 律:「ねぇねぇ、そういえば向こうの大学も卒論あるの?」 昴:「いや、ありがたいことに卒論は無いんだ。 昴:ただ、四年生になっても授業はそれなりにあるから、こっちみたいに残りの一年遊んで過ごそうって感じにはなれないかな」 律:「うわ、大変だね〜・・・ 律:アタシだったら絶対頑張れないや・・・」 昴:「そんなことないよ。誰だってやろうと思えばできるさ」 律:「ハァ〜・・・やっぱり、昴くんは言うことが違うなァ・・・ 律:さすが、宇宙飛行士目指してるだけ・・・」 和樹:(和樹、食い気味に) 和樹:「おい、律!」 律:「あっ・・・」 0:(少しの間。気まずい空気が四人の間に漂う) 昴:「おいおい、どうしたんだよ。みんな気まずそうな顔しちゃって! 昴:さぁ、俺の話はこの辺にしてさ。もっと別の話を・・・」 0:(ノックの音) 美穂:「あっ、はーい! 美穂:(ほんの少し間) 美穂:・・・わかりました。すぐに出ますね。 美穂:・・・昴くん、検診の時間だって」 昴:「わかった。すぐに準備するよ」 律:「そ、そういうことなら、アタシたち、そろそろお暇(いとま)した方がいいかな?」 昴:「ごめん。せっかく来てくれたのに、ゆっくり話もできなくて」 律:「ううん!こっちこそごめんね。急に押しかけちゃって」 昴:「いや、久々に会えて嬉しかったよ。 昴:また機会があれば、今度はゆっくり話そう」 律:「うん!じゃあ、また会おうね!お大事に!」 昴:「ありがとう、律。和樹と美穂も。 昴:じゃあ、また」 和樹:「・・・ああ」 0:(しばらくの間。場面転換。病院前のバス停にて) 律:「ごめん・・・美穂。アタシ、話聞いてたのに、無神経な事言っちゃった・・・」 美穂:「ううん。私こそごめん。 美穂:気まずいだろうな、って分かってはいたんだけど・・・」 和樹:「・・・なぁ、美穂。昴の病気、そんなに悪いのか?」 美穂:「ううん。初期の脳腫瘍(のうしゅよう)だから、早急に処置すれば命に別状は無いって話なの。 美穂:だけどね、腫瘍ができた場所がちょっと悪くて・・・手術しなかったら、手や足に麻痺が出るかも、って」 和樹:「じゃあ、手術すれば・・・」 美穂:「あのね。お医者さんの話だと、手術しても、もしかしたらほんの少しだけど、手足に痺(しび)れが残るかもしれない、って言われてるの・・・」 律:「嘘・・・」 和樹:「でも、アイツ。そんな素振り全く見せないじゃないか。 和樹:前と変わらず穏やかににこにこ笑って・・・愚痴の一つも零さないで・・・」 美穂:「そうなの。昴くんね、病気になってから、人前で一回もつらい顔見せないんだ。 美穂:家族の前でも、私の前でも『大丈夫だよ』っていつも笑ってくれる」 律:「何で?大丈夫な訳ないよ・・・ 律:だって、夢を諦める事になったんでしょ?宇宙飛行士になるって夢を・・・!」 美穂:「そうだよ・・・全然大丈夫じゃない!」 律:「美穂・・・?」 美穂:「私ね、見ちゃったの。前にお見舞いに来た時、開いた扉の隙間から、泣いてる昴くんの姿を。 美穂:拳を固く握って、静かに身体を震わせて、声もあげずに泣いていた」 和樹:「・・・」 美穂:「なんで・・・なんで昴くんがこんな目にあうんだろ? 美穂:宇宙飛行士は子どもの頃からの夢なんだ、ってあんなにキラキラした顔で言ってたのに、こんな形で諦めなきゃならないなんて・・・」 律:「美穂、ごめんね・・・アタシ、気の利いた事、何一つ言えなかった・・・」 美穂:「ううん。律は悪くない。 美穂:ただ、私ももうどうしたらいいかわからなくなっちゃって。 美穂:一人で悩んでた時、律と和樹くんの顔が浮かんだの」 和樹:「俺と、律の?」 美穂:「・・・あのね。一週間後、昴くん、手術を受ける事が決まったの。 美穂:けど、手術を受けたくない、って本人から話があった、ってご両親が・・・」 和樹:「なんでだよ!受けなきゃマズいんだろ?」 美穂:「うん・・・だけど、何で受けたくないの?って聞いても、昴くん笑ってはぐらかすだけなの・・・! 美穂:もう私どうしたら良いかわからなくて・・・」 律:「だから、アタシと和樹をここに呼んで・・・」 和樹:「・・・っ!」 和樹:(和樹、病院へ向かってかけ出す) 律:「ちょ、和樹!?」 和樹:「悪い、律!美穂と二人で先に行っててくれ!」 律:「でも、早くしないと今日中に帰れなくなるよ!」 和樹:「明日帰ることにした!」 律:「えええ!?ちょっと待ってよー!もー!」 0:(しばらくの間。場面転換。昴の病室) 0:(ノックの音) 昴:「・・・はーい。どうぞ・・・って、和樹? 昴:どうしたんだ、みんなで帰ったはずじゃ・・・」 和樹:「・・・昴。お前、言ったんだって?手術を受けないって」 昴:「ああ・・・美穂から聞いた?」 和樹:「聞いた、全部。・・・お前が実は隠れて泣いてた事も」 昴:「参ったなぁ・・・見られてたのかぁ・・・」 和樹:「なぁ、何でだよ、昴」 昴:「うーん。まぁ、大した理由じゃないよ。 昴:しいて言うなら、頭を切るのってちょっと怖いなぁーって思って・・・」 和樹:「誤魔化すなよ。お前、そんなガキみたいなワガママで、周囲を困らせるヤツじゃないだろ?」 昴:「はは、俺はガキだよ。和樹が思ってるより、ずっとガキだ」 和樹:「それなら、もっとガキみたいに泣き喚けよ! 和樹:なんで自分がこんな目に合うんだ!って泣けばいいだろ! 和樹:無理して笑ってんじゃねぇよ!」 昴:「・・・じゃあ、泣き喚いたら、夢を諦めなくて済むのか?」 和樹:「・・・それは・・・」 昴:「泣いたところで俺の夢はもう、叶えられないんだよ、和樹。 昴:どんなに泣いて、嫌だと叫んだところで、この病気は治らない。 昴:病気になる前には戻れない」 和樹:「だからと言って、手術しなけりゃ、お前は・・・」 昴:「わかってるよ。このまま放置しておけば、俺は思うように身体を動かせなくなるんだろ? 昴:だけど・・・それがどうした? 昴:結局、俺が今まで必死に目指してきた夢は、手術しようがしまいが、一生手の届かないところへ行ってしまったんだ。 昴:・・・それならいっそ、このまま何もしなくたって同じじゃないか」 和樹:「けど・・・けど、美穂だって、お前の親だって、律だってお前の事、心配してんだぞ?俺だって・・・」 昴:(昴、食い気味に) 昴:「なら、俺の病気をどうにかしてくれる? 昴:誰か俺の病気を治して、また夢に向かって頑張れ、って言ってくれるのかい?」 和樹:「・・・っ」 昴:「ほらね。俺は、みんなが思うほど強くないし、大人じゃない。 昴:少しでも気を抜くと、こうやってドロドロした汚い気持ちが湧き上がってくるような、弱い人間なんだよ。 昴:夢を失って、初めてそれがよく分かった」 和樹:「そんな・・・そんなこと」 昴:「だからさ、和樹。俺はできればこのまま死にたいんだ。 昴:目標が無いまま生きるのは・・・つらすぎるから」 和樹:「お前・・・ッ!」 和樹:(和樹、昴の胸ぐらをつかむ) 昴:「・・・いいよ。殴っても。 昴:自分でも自分を殴りたくなるような、情けない事を言ってるのは分かってるから」 和樹:「・・・ちくしょう!」 和樹:(和樹、昴の胸ぐらから乱暴に手を離し、踵を返す) 昴:「・・・和樹。見損なったかい?俺のこと」 和樹:「・・・見損なう事なんて出来るかよ。 和樹:俺も偉そうに言える立場じゃないからな」 昴:「和樹?」 和樹:「悪かったな、乱暴な真似して」 昴:「いや、大丈夫だよ。・・・じゃあ、元気で」 和樹:「・・・っ」 和樹:(和樹、病室を去る) 昴:「ああ・・・今日は夕日が綺麗だ。明日もきっと、よく晴れるだろうな・・・」 0:(しばしの間。場面転換。高校時代) 和樹:「うう・・・さみぃ・・・ 和樹:何だってこんな真冬の夜に、学校の屋上へ集まるんだよ?」 昴:「はは、今日は空気が澄んでいるからね。 昴:綺麗に流星群が見えそうだと思って、みんなを誘ったんだ」 和樹:「はぁー、本当に昴は星が好きだな・・・さすが、未来の宇宙飛行士」 昴:「まぁ、なれるかどうかはまだ未定だけどね」 和樹:「なれるだろ。我が校始まって以来の秀才。 和樹:それに加えて運動もできて、イケメンで、おまけに可愛い彼女まで居る。 和樹:天はお前に何物(なんぶつ)与えれば気が済むんだ?」 昴:「大袈裟(おおげさ)だよ。 昴:まぁ、可愛い彼女がいるのは結構自慢だけど」 和樹:「ほーーーう?今の台詞で全校の男子、半分以上を敵に回したなぁ、昴」 昴:「痛い痛い!肩を組む振りをして首を絞めるのは止めてくれよ。 昴:望遠鏡の倍率合わせてるところなんだから・・・」 律:「こーら!昴くんをいじめるな!和樹!」 律:(律、和樹の頭を叩く) 和樹:「いってぇ!何すんだよ、律!」 律:「アンタが乱暴なことしてるからですぅ〜! 律:大丈夫?昴くん、怪我してない?」 和樹:「くっそ・・・律も所詮は面食いか・・・」 律:「そりゃあ、和樹と昴くんが並んだら、大抵の女の子は昴くんの味方だよ」 和樹:「へぇへぇ、どうせ俺はイケメンには勝てませんよー」 美穂:「ふふっ・・・まぁまぁ、喧嘩しないで。 美穂:コンビニで暖かい飲み物と食べ物買ってきたから、みんなで食べよ?」 和樹:「おっ、さすが美穂。美人な上に気が利く!」 律:「・・・それ、アタシもお金出して買ったんだけど、和樹はいらないって考えてオッケー?」 和樹:「・・・悪かった。凍え死にそうなので、恵んでください」 律:「はっはっは、分かればよろしい」 昴:「くくく・・・やっぱり、和樹と律の会話は面白いなぁ〜。 昴:夫婦漫才やれば売れるんじゃないか?」 和樹:「冗談!学校卒業してもコイツと一緒なんて、ゾッとするね」 律:「ざーんねん。アタシ、和樹と同じ大学受かっちゃったから」 和樹:「嘘・・・だろ・・・?」 美穂:「わー!おめでとう律!受験勉強、頑張ってたもんね〜」 昴:「確か都内のスポーツ学部だっけ? 昴:良かったな、律」 律:「へへへ、ありがとう〜!アタシ、四月から東京で女子大生になっちゃいます!」 和樹:「ハァ〜・・・」 律:「何?その溜息は。大学は一緒だけど、アンタ経済学部なんだから別にいいでしょ? 律:文句あるなら、肉まんは没収!」 和樹:「ないない!全然無いです!」 美穂:「そっかぁ、私は地元の大学の教育学部だし、昴くんは海外に留学・・・ 美穂:みんなとこんな風に気軽に会えるのも、あと少しなんだね」 和樹:「なんだよ。昴は可愛い彼女を置いて海外留学なんて、大丈夫か?」 昴:「大丈夫、美穂の事信じてるからね」 美穂:「えへへ・・・」 和樹:「はいはい・・・聞いた俺が馬鹿でした」 昴:「そういう和樹は経済学部入って、将来何かやりたい事でもあるの?」 和樹:「あー・・・まぁ、まだハッキリとは決まってねぇんだけどさ」 律:「うわ・・・大丈夫なの?和樹」 和樹:「うるせぇな。そういう律は決まってんのかよ?」 律:「残念でした!アタシはもう目指してる場所があるんだよー。 律:あっ、美穂は学校の先生だっけ?」 美穂:「うん。小学校の先生になりたくて」 和樹:「くそー・・・みんな将来の夢まで考えてんのかよ・・・」 昴:「まぁ、和樹も勉強してるうちに何か見つかるよ」 和樹:「そうだな!せっかく都内に行くんだ!都会で俺の可能性を探す!」 律:「(棒読み)見つかるといいねー」 和樹:「棒読み!腹立つなぁ!」 美穂:「・・・あっ、そろそろ時間だよ!」 和樹:「おっ、今一つ流れたぞ!」 律:「えっ、どこどこ?」 昴:「ほら、あっちだよ。右の空」 美穂:「ねぇねぇ、ついでに願い事してみようよ」 律:「えーっ、でもこんなに早いスピードじゃ、アタシ三回もお願い言えないよー」 和樹:「よし、じゃあ屋上の床にこうして・・・」 律:「ちょっと和樹、何してんの!落書きなんかしちゃダメじゃん!」 和樹:「そんなにでっかく書かないから大丈夫だって!」 昴:「でも、こんな大きさじゃ星からは見えないだろ。 昴:しかも暗いし・・・」 和樹:「いいんだよ!俺らから星が見えてるんなら、星もきっと俺らのこと、見てくれてるって!」 律:「何その暴論〜」 昴:「それは一理あるかもな・・・じゃあ俺も書こう」 律:「えっ、昴くんも!?」 美穂:「私も書いてみようかな・・・」 律:「ちょっと、美穂まで〜!」 昴:「はは、諦めた方がいいよ。 昴:はい、律の番」 律:「もー!怒られても知らないからね!」 和樹:「・・・よし、みんな準備できたか?おーい、流れ星よー!ーーー」 0:(しばしの間。場面転換。数年後、母校の屋上) 和樹:「・・・あの後、結局俺らが書いた文字は先生に見つかって、この屋上は立ち入り禁止になった上、こっぴどく叱られたんだよな」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「なんでだろうな・・・やっぱりこんな不精(ぶしょう)な方法で願いを叶えよう、なんて言ったから、罰(ばち)が当たったのかな・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「あークソ!だからって昴に罰を当てることねぇだろ! 和樹:アイツはただ純粋に夢を叶えようと、必死に努力してただけなのに・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「・・・でも、励ます言葉も、背中を押してやる資格も、俺にはない。 和樹:こんな中途半端な俺じゃ・・・アイツみたいに叶えたい夢も無い俺じゃ、どうしようも・・・」 和樹:(少し間。和樹、屋上に書かれた文字に気付く) 和樹:「・・・あれ、なんだコレ・・・?文字?」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「そういえばこの辺りだった・・・確か四年前、みんなで星を見たのは・・・ってことは・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「・・・あった。四人で書いた、あの時の・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「これは美穂、これは律、これは俺、これは・・・昴・・・」 和樹:(ほんの少し間) 和樹:「『健康第一!』 和樹:『昴くんとずっと一緒にいられますように』 和樹:・・・ははは、あの時は暗くてよく見えなかったけど、アイツらこんな願い事、書いてたんだな」 和樹:(少し間) 和樹:「待て・・・あの日、昴が書いた願い事って・・・」 和樹:(少し長めに間。和樹、スマホを取り出し、律に電話をかける) 和樹:「・・・ああ、律。悪い、ちょっと頼みたい事があるんだけどさ・・・」 0:(しばしの間。場面転換。夜、病院の屋上にて) 美穂:「うわぁ、息真っ白・・・。 美穂:昴くん、大丈夫?寒くない?」 昴:「大丈夫だよ。それにしても、こんな時間に病院の屋上に行こうだなんて・・・ 昴:よく許可がとれたね」 美穂:「ちょっとだけなら、って先生が許してくれたの。 美穂:昴くん、こうやって星空を見上げるの、好きでしょ?」 昴:「うん、こういう風に空気が澄んだ日は、よく星が見えるからね。 昴:うわぁ・・・満天の星空だ・・・。 昴:おかげで良いものが見れたよ。ありがとう」 美穂:「あの・・・あのね、実は昴くんにもう一つ見せたいものがあるの!」 昴:「もう一つ?それは何?」 律:「・・・じゃじゃーん!これでーす!」 昴:「うわぁ!律・・・それに和樹。 昴:何してるんだ?」 和樹:「何してるって、見れば分かるだろ? 和樹:これからロケットを打ち上げるんだよ」 昴:「ロケット・・・ ?」 和樹:「まぁ、ロケットって言っても、見ての通り手作りのペットボトルロケットなんだけどさ」 昴:「どうしてわざわざこんな場所で、そんな物・・・」 和樹:「あのな、昴。俺らは知ってるからな。 和樹:お前がどれだけ必死に夢を追ってきたのか。 和樹:星が大好きで、いつか宇宙に行きたいんだ、って楽しそうに語ってたお前の夢のこと」 昴:「だから、そんな事言われたって・・・俺はもう・・・」 和樹:「わかってるよ。急に今まで頑張ってきたものを全部諦めろ、って言われて苦しいんだろ? 和樹:諦めたくないんだろ?」 昴:「そうだよ・・・諦めたくなんかない。 昴:・・・だから苦しいんじゃないか、ずっとその為だけに頑張ってきたのに、こんな病気ひとつで奪われて・・・ 昴:俺は星が好きなだけで・・・大好きだからこそ、ずっと関わって生きていこうと思ってたのに・・・」 和樹:「あのさ・・・俺、そんな風に言えるお前の事、ずっとすげーと思ってきたんだよ。 和樹:夢に向かっていつも真っ直ぐで、楽しそうで・・・ 和樹:自分のやりたい事すら決められない俺にとって、お前はいつも輝いて見えた」 昴:「でも・・・でも俺は・・・」 和樹:「なぁ、昴。星に関わる為には宇宙飛行士じゃなきゃダメなのか? 和樹:宇宙飛行士になれなきゃ、人生さえも終わっちまうのか?」 昴:「・・・っ」 和樹:「『ずっと星と関わって生きて行けますように』」 昴:「・・・それは」 和樹:「四年前、昴が流れ星に願った、願い事」 昴:「はは・・・そういえば、そんな事、願ったなぁ。あの時の俺は・・・」 和樹:「・・・確かに、お前は夢を諦めることになったのかもしれない。 和樹:でも、あの時みんなで書いたこの願いは、まだ叶えられるんじゃないのか?」 律:「そうだよ!まだ全然叶えられるよ!」 美穂:「うん・・・うん・・・」 和樹:「・・・だから、頼むから死にたいなんて言わないでくれよ、昴」 律:「病気を治して、またこんな風にみんなで星を見ようよ!昴くん!」 美穂:「怖いかもしれないけど・・・私、ずっと側に居るから・・・何があっても支えるから・・・ 美穂:だから、お願い・・・昴くん」 昴:(少し間) 昴:「・・・ああ、参ったなぁ・・・ 昴:もうどうでもいいや、って思ってたのに、これじゃあ諦めるわけにはいかなくなったじゃないか・・・」 律:「それじゃあ・・・!」 昴:「・・・受けるよ、手術。 昴:例え、何があっても俺は星と関わって生きていければ、それでいい」 美穂:「良かった・・・そう言ってくれて・・・本当に良かった・・・」 和樹:「ったく・・・ほら、可愛い彼女はずっとお前の事、心配してたんだぞ」 昴:「ごめん、美穂。たくさん心配をかけて・・・ 昴:律と和樹も、本当にごめん」 律:「・・・あーもう!謝るのはもう無し無し! 律:そんな事より、せっかく作ったロケット、打ち上げないの?」 和樹:「ああ、そうだな。よし、一発打ち上げるか!」 美穂:「そうだね、そうしよう」 律:「ほらほら!昴くんもこっち来て!打ち上げはお願いします!」 昴:「えっ、いいのか?俺が打ち上げて」 和樹:「当たり前だろ。誰の為に用意したと思ってんだ」 美穂:「さぁ、行こう、昴くん」 律:「よーし!準備できた? 律:・・・じゃあ行くよー!スリー!トゥー!ワーン!ーーー」 0:(しばらくの間。場面転換。大学構内にて) 和樹:「・・・はい・・・はい。わかりました。じゃあ、後で書類を受け取りに来ます」 律:「・・・ん?あっ、いたいたー! 律:おーい和樹ー!」 和樹:「でかい声出すなよ、律。ここ、学生課だぞ」 律:「あっ・・・ごめんごめんー。和樹にどうしても知らせなきゃいけない事があったからさぁ」 和樹:「なんだよ?」 律:「へへへ、なんと昴くん、手術大成功だそうです!」 和樹:「ホントか!良かったなぁ!」 律:「しーっ!和樹、声でかい!」 和樹:「あっ・・・」 律:「もー、人の事言えないんだからぁ」 和樹:「悪い、つい・・・」 律:「でも良かったよねー。 律:なんとか後遺症も残らないだろうって、美穂も嬉しそうに言ってた」 和樹:「そうか・・・安心した。 和樹:そのうち落ち着いたら、また会いに行かなきゃな」 律:「あらあら?この間誘った時は全然乗り気じゃ無かった和樹が、今度は自分から誘ってくるなんて〜」 和樹:「友だちの見舞いに行くのに、乗り気も何も無いだろうが・・・」 律:「あっ、そういえば和樹、なんで学生課にいたの?就活の件で何かあった?」 和樹:「ああ、それなんだけどな・・・俺、学校辞めることにしたから」 律:「へぇーそうなんだー・・・って、えええ!?」 和樹:「だから、構内ででかい声出すなって・・・」 律:「いや、声だってでかくなるよ! 律:なんで?この時期に辞めるなんて・・・ 律:まさか、就活が上手くいかないから、ヤケになって放浪の旅に出るとか・・・」 和樹:「そんなわけねぇだろ。大学辞めて、専門学校入り直すの。 和樹:・・・やりたいことができたから」 律:「えっ、ホントに?どんなこと?」 和樹:「・・・なんかお前に一番に教えるの、ちょっと癪(しゃく)だなぁ・・・」 律:「なんだとー!?」 和樹:「いてて・・・殴るなって・・・」 和樹:(和樹の手元から一冊の本が落ちる) 律:「ん?なんか落ちたよ、和樹。 律:あれ・・・この本って・・・」 和樹:「あーもう、勝手に見るんじゃねーよ」 律:「理学療法士・・・ねぇ、それって、もしかして・・・」 和樹:「・・・さぁ、そろそろ俺、帰るからなー」 律:「ああもう!ちょっと待ってよ!和樹ー!」 0:〜FIN〜N〜