台本概要

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タイトル アンセリウム-I‘m Still Lovin' You.-
作者名 眞空  (@masora_kimama)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 「2番目に好きな人となら、上手くいくみたい」

占いのページを見せておどける君を、まだ愛してるーーー。

君と選んだ赤いアンセリウムの花を、枯らすことなく、咲かせ続けていく。

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大好きな曲からインスパイアされてできたオマージュ作品です。

世界観の壊れない程度のアドリブ:〇
無理のない語尾の変更:〇

この作品を目に止めていただければ幸いです。
沢山の方に愛される台本でありますよう。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ソウマ 183 桐原 奏真(きりはら そうま) 二十九歳。カフェ勤務。キッチン担当。
メグリ 175 日下部 愛理(くさかべ めぐり) 三十二歳。大手IT企業エンジニア。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:早朝のソウマの部屋。 0: ソウマ:(M)ーーうるさく鳴り続ける、スマホのアラームを止める。 ソウマ:ぼんやりとした意識のまま、ソファから体を起こして部屋を見回す。 ソウマ: ソウマ:「・・・。」 メグリ:「おはよ。ぐっすり寝てたね。朝ご飯、できてるよ。」 ソウマ:(M)彼女の声が聞こえた気がした。 ソウマ: ソウマ:「・・・さむ・・・っ。」 ソウマ: ソウマ:(M)窓を開け放したまま、寝てしまっていたらしい。四月の風が、部屋の中を通り抜けた。 ソウマ: ソウマ:ソファの小さなくぼみ。 ソウマ:ついこの間の強風で、骨が曲がってしまった、黄色い傘。 メグリ:「ふふふ。」 ソウマ:(M)小さな灯りを灯したような、笑い声。 ソウマ:まだケースに入ったままの、金色の細い指輪。 ソウマ: ソウマ:ようやく立ち上がり、ベランダに出る。 ソウマ:遠くに飛行機の飛ぶ音が聞こえる。 ソウマ: ソウマ:今日は、泣きそうになるくらい晴れた日だ。  : 0:【間】 0: 0:タイトルコール。 ソウマ:「アンセリウム」 0:【間】 0: 0:ソウマの部屋にて。  : メグリ:「・・・。(気まずそうに目を伏せる)」 ソウマ:「・・・。(ばつが悪そうに口元を覆ってベッドに腰掛ける)」 メグリ:「・・・。(恥ずかしそうに俯いている)」 ソウマ:「・・・あの・・・えと・・・。」 メグリ:「・・・っ。」 ソウマ:「・・・行きずりの関係、みたいなのは嫌だし、これも何かの縁ってことで・・・。」 メグリ:「・・・そりゃ・・・私も、そう、思います、ケド・・・。」 ソウマ:「えと、じゃあ、あの・・・とりあえず!・・・お友達から、ってことで!」 メグリ:「・・・あの・・・はい・・・。よろしくお願いします・・・。」 0:二人で微笑み合う。 ソウマ:(M)大学時代の先輩に無理矢理、連れて行かれた合コンで、彼女と出会った。 ソウマ:メグリも友達に無理に連れて来られたらしく、見事に意気投合した。 ソウマ: ソウマ:合コン解散後、酔っ払った二人は肩を組み、コンビニで追加のビールをとおつまみを買い込み、俺の部屋で飲み直し・・・そのまま俺のベッドで朝を迎えたのだ。 メグリ:「・・・あの、こうして泊めてもらった訳ですし、えーと・・・私、何かご飯作りますね!」 ソウマ:「え?でも、さすがにそこまでして(貰うのは悪いよ)」 メグリ:「(かぶせて)いいんです!・・・その、昨日はとても楽しく過ごせましたし、沢山お酒を飲んでハッキリとは覚えてないんですが・・・とても幸せな気持ちだった、・・・のを、覚えてますし・・・。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「・・・えっ、と・・・。」 ソウマ:「ああ、いや。・・・クサカベさん、だったよね。君、見た目によらず、随分、大胆なんだね。ふふふ。」 メグリ:「っ!・・・そ・・・っ。そうですよ!こう見えて私!素直で!大胆なんです!」 ソウマ:「・・・・・・ぷっ。ふふふ・・・(小さく笑い続ける)」 メグリ:「・・・ふふっ。」 0:二人で堪えきれずに笑う。 ソウマ:「あ、えっと。あらためて、俺はソウマ。桐原奏真(きりはらそうま)っていいます。」 メグリ:「あ・・・私は、日下部愛理(くさかべめぐり)です。」 ソウマ:「メグリさん、だね。俺のことは気軽にソウマって呼んで。」 メグリ:「はい!・・・ふふふ。・・・えっと、ソウマ、さん。台所、少しお借りしますね。」 ソウマ:(M)そう言って、メグリは台所へ、パタパタと向かって行った。 ソウマ:これが、俺とメグリが恋人同士になる、きっかけだったんだ。  : 0:【間】 0: 0:数日後の街中。  : メグリ:「ねぇ、ソウマくん。今日が私たちが付き合い始めて、初めてのデートになるんですけれども。」 ソウマ:「うん、そうだね。」 メグリ:「どこに連れて行ってくれるの?」 ソウマ:「ふふ。それは行ってからのお楽しみ。」 メグリ:(M)そう言って、ソウマくんは悪戯っぽく笑う。 ソウマ:「・・・はい、着いたよ。」 メグリ:「・・・ここは?」 ソウマ:「プラネタリウムだよ。メグリとなら、ゆっくり楽しく過ごせると思ってさ。」 メグリ:(M)私は、歩くのが遅い。頭の回転も遅くて、優柔不断だ。 メグリ:ソウマくんに出会うまでに、何人かとお付き合いをしたことはある。 メグリ: メグリ:私はとてもマイペースで、付き合ってきた誰をも、イライラさせてしまっていたらしい。 ソウマ:「さ。行こうか。・・・今日は人が多めだなぁ。」 メグリ:「ソウマくんも、人混みは苦手?」 ソウマ:「まぁ、ちょっと・・・ね。」 メグリ:「そっか、一緒だね!」 ソウマ:「あはは。そうだね。」 メグリ:「あれ、袖のところのボタン、取れかけてる。」 ソウマ:「え?・・・ほんとだ。あー・・・なんか恥ずかしいなぁ、初めてのデートでだらしない・・・。」 メグリ:「ふふふ。気にしないで。後で私が直してあげるよ。」 ソウマ:「ありがと。・・・ボタンはシャツから離れかけてるけど・・・この手は、離さないようにね。」 メグリ:「あ・・・。」 メグリ: メグリ:(M)そう言って、私の手を握り、ソウマくんは無邪気に微笑みかける。 メグリ: メグリ:その笑顔が、好きだ。 メグリ:私のペースに合わせて歩いてくれる人は、初めてだ。 メグリ: メグリ:彼の隣は、とても居心地が良くて、歯の浮くようなセリフも、とても愛おしい。 メグリ:そっか。そんなソウマくんに、初めて会ったあの日から、惹かれていたんだ。 ソウマ:「・・・メグリ?」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「おーい。メグリ、どうした?」 メグリ:「・・・えっ、ああごめん。何でもないよ。」 ソウマ:「疲れちゃった?人たくさんいるし、もう少し、落ち着いたところに行こうか?」 メグリ:「ううん、大丈夫だよ。」 ソウマ:「そう?ならいいけど・・・。」 メグリ:「・・・あの、ね。その、ソウマくんと初めて会った日のこと、思い出してたの。」 ソウマ:「っ・・・。あははは、そっか。」 メグリ:「・・・あんな風に出会って、今日、デートして・・・。」 ソウマ:「そう、だね。」 メグリ:「順番は逆になっちゃったけど、私、ソウマくんと出会えて、幸せだよ。」 ソウマ:「(頬を掻きつつ)・・・なんだよ。照れるなぁ。」 メグリ:「ふふ。だからさ、こうやって、ソウマくんと一緒に居られるのが嬉しい。」 ソウマ:「そっか。俺も、メグリとこうやって恋人として傍に居られて、幸せだよ。」 0:二人で微笑み合う。 ソウマ:「・・・あ、メグリはプラネタリウム、初めて?」 メグリ:「うん、初めてだね。」 ソウマ:「そっか。ここには一人で何回か来たことあるからさ。案内するよ。」 メグリ:「ありがとう。」 ソウマ:「今日はね、プラネタリウムのシアターでね、双子座の神話の解説をするんだって。」 メグリ:「え?双子座?」 ソウマ:「そう。俺ね、六月一日生まれの双子座なんだ。」 メグリ:「・・・え?」 ソウマ:「ん?どうした?」 メグリ:「私も!私も六月一日生まれなの!」 ソウマ:「えっ?!マジで?!」 メグリ:「マジ!」 ソウマ:「こんなことある?!」 メグリ:「ね、びっくりだよ!」 0:二人で顔を見合わせて笑い合う。 メグリ:「じゃあ、同じ誕生日同士、シアターの解説、しっかり聞かないとね!」 ソウマ:「そうだな。二人の星座だもんな。」 メグリ:「ふふふ。」 ソウマ:「よし!行こっか!」 0:【間】 0: 0:プラネタリウム観賞後に入ったカフェ。 メグリ:「はぁー。双子座のお話、本当に良かったなぁー。」 ソウマ:「あははは。メグリったら、さっきからそればっかり。」 メグリ:「だって!本当に素敵なお話だったんだもん!」 ソウマ:「わかったわかった。そうだな、俺も感動したなぁ。」 メグリ:「でしょ?」 ソウマ:「なんでメグリが得意気なんだよ。」 メグリ:「ふふふ。良いじゃない。私、双子座なんだから。」 ソウマ:「それなら俺だって双子座だよ。」 メグリ:「そうだったね。」 0:二人で笑い合う。 メグリ:「・・・たしか、双子座の神話は・・・いつも二人一緒に戦場を駆け巡って沢山の戦果を上げていた兄弟・・・。兄のカストルは矢を受けて死んじゃったけど、」 ソウマ:「ん?さっきのおさらい?」 メグリ:「そう!・・・弟のポルックスは、ゼウスに『死ぬときは兄と一緒がいい。だから私の不死を解いてくれ。』って頼み込む、だったよね。」 ソウマ:「ゼウスはポルックスの兄の死を悲しむ姿に心打たれて、願いを叶えるんだよな。」 メグリ:「そうして、兄弟は二人で夜空にのぼって、星座になった。」 ソウマ:「素敵な兄弟愛だよね。」 メグリ:「ポルックスのゼウスに頼み込むシーンはすごく印象的だけど、」 ソウマ:「弟にそう言われるほど、カストルはいいお兄さんだったんだろうなぁ。」 メグリ:「うん!きっとそうだね。」 0:二人でコーヒーを啜る。 ソウマ:「それにしても。まさか俺らが同じ星座で、しかも同じ誕生日だったなんてなぁ。」 メグリ:「もしかしたら私たち、前世は双子だったのかもね。」 ソウマ:「あははは。そうかもな。」 メグリ:「ふふふ。夜空のカストルとポルックスみたいに、ずっと一緒に居たいね。」 ソウマ:「だな。」 メグリ:「うん。」 0:メグリ、コーヒーを啜る。 ソウマ:「・・・あの、さ。」 メグリ:「ん?」 ソウマ:「今日、初めてのデートだし、こんな話、展開が早いのとかも、分かってるんだけど・・・。」 メグリ:「うん?どうしたの?」 ソウマ:「もちろん、今すぐって話じゃないんだけど、さ・・・。」 メグリ:「うん。」 ソウマ:「その。・・・同棲・・・してみませんか、・・・なんて、思ったり。」 メグリ:(M)この時の私は、どんな表情をしていただろう。 メグリ: メグリ:思わぬソウマくんの言葉に、目を白黒させていただろうか。 メグリ:ああ、きっと間抜けな顔をしていたに違いない。 ソウマ:「・・・。」 メグリ:(M)ソウマくんと、一緒に暮らせる。 メグリ:まだ付き合い始めてそんなに時間は経ってないし、彼のこともまだ知らないことがたくさんあるのだけど。 ソウマ:「・・・あの・・・?」 メグリ:(M)それでも、ソウマくんと一緒に居られることが、間違いなく幸福なことなのだ、ということは直感的に分かっていた。 ソウマ:「・・・あれ、聞こえてなかったかな。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「えっと・・・メグリ。俺と・・・そのうち、同棲(しませんか)。」 メグリ:「(かぶせて)します!」 ソウマ:「・・・・・・え?」 メグリ:「私、ソウマくんと一緒に居たい!」 ソウマ:「・・・えっ?ホントに?いいの?」 メグリ:「・・・うん!」 ソウマ:「!・・・そっか・・・そっか!」 メグリ:「ふふふ。不束者ですが、よろしくお願いします。」 ソウマ:「あ、いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「・・・ふふっ。」 0:二人で笑い合う。 メグリ:(M)それから、仕事に追われつつ、引越しの準備を進め・・・とても慌ただしくなった。 メグリ: メグリ:この初デートの日から約四ヶ月後、私はソウマくんの住む部屋で、一緒に生活を始めたのだった。  : 0:【間】 0: 0:半年後のソウマの部屋。  : ソウマ:(M)同棲にも慣れてきた頃。 ソウマ: ソウマ:メグリは、大手IT企業のエンジニアだ。エンジニア、なんて単語が似合わないくらい、とても優しい彼女。 ソウマ:俺には勿体無いくらい、素敵な恋人だ。 メグリ:「・・・ただいまー。」 ソウマ:「おかえり。」 0:二人で抱き合う。 ソウマ:「今日も残業大変だったね。」 メグリ:「うん。」 ソウマ:「連日だもんなぁ。体キツくない?」 メグリ:「うん。でも、私がやりたいことだから。頑張らなきゃ。」 ソウマ:「そっか・・・けど、無理すんなよ。」 メグリ:「ありがと。」 ソウマ:「ご飯できてるからさ、着替えといで。」 メグリ:「うん。今日のご飯は?」 ソウマ:「『桐原』特製、エビレタスチャーハン!」 メグリ:「ほんと?!」 ソウマ:「クルトン入りのシーザーサラダも作ってみた。」 メグリ:「すぐ着替えてくる!」 ソウマ:「あはは。お待ちしてますよ、お客様。」 0:【短い間】 0: 0:夕食後、片付けを終えて。 0: 0:二人でソファに座り、お茶を飲みながら。 ソウマ:「当店自慢の食事はいかがでしたか、お客様?」 メグリ:「とても美味しかったです!エビのプリプリ感も、サクサクのクルトンも・・・手作りのシーザードレッシングも最高でした!」 ソウマ:「ありがとうございます。私の恋人の、大好物でして。」 メグリ:「・・・ふふっ。」 ソウマ:「ふっ。」 0:二人で笑い合う。 メグリ:「・・・あれ、ところでさ。あんな花、あったっけ?」 ソウマ:「ん?あー、あれね。今日早めに仕事終わってさ。帰り道にある花屋の前を通りかかったとき、一目惚れしちゃってさ。今が開花時期なんだってさ。」 メグリ:「へぇ。なんでまた花を?」 ソウマ:「俺ら、荷物多い方じゃないだろ?少し、部屋が殺風景かなぁ、と前々から思っててさ。」 メグリ:「そっか。・・・うん。確かに、赤い花があると映えるねぇ。」 ソウマ:「でしょ?俺の目に狂いはなかった。」 メグリ:「あっ。ドヤ顔してるぅ。」 ソウマ:「そりゃあ、自分の店持ちたいからね。こういうセンスは磨いておかないと、ね。」 メグリ:「ふふふ。そうだね。なんていう花?」 ソウマ:「アンセリウム、だよ。」 メグリ:「アンセリウム・・・。綺麗だね。」 ソウマ:「うん。花言葉は・・・たしか『情熱』『印象深い』、だったかな。」 メグリ:「ふぅん。確かに、この赤い花は印象深い、かも。」 ソウマ:「でしょ?」 メグリ:「うん。いいね。」 ソウマ:「・・・メグリは?何読んでるの?」 メグリ:「ん?今朝、出勤の時に寄ったコンビニに売ってた、女性週刊誌。」 ソウマ:「めずらし。何か気になる見出しでもあった?」 メグリ:「ううん。休憩中、気分転換に読もうかと思って。結局、読む暇なかったけど。」 ソウマ:「そっか。大変だったね。」 メグリ:「他の案件がね、トラブっちゃって。まぁそれは良いんだけどさ。」 ソウマ:「ん?」 メグリ:「ちょっとシツレイ。」 0:メグリ、ソウマの膝の上に座る。 ソウマ:「おう・・・?どうした?」 メグリ:「ちょっと甘えてみた。」 ソウマ:「ははは、そっか。よしよし。今日もお疲れ様。」 メグリ:「ふふ。ありがと。・・・あ、ねぇねぇ。」 ソウマ:「ん?」 メグリ:「占いのページ見てたんだけど、見てこれ。」 ソウマ:「双子座のとこ?・・・『二番目に好きな誰かとなら上手くいくかも!ラッキーカラーは赤』。」 メグリ:「二番目がいないからうまくいかないねぇ。」 ソウマ:「ふふ、そうだなぁ。あ、でもアンセリウム。」 メグリ:「あっ。赤い花だね。」 ソウマ:「ラッキーカラーだね。」 メグリ:「そうだね。」 ソウマ:「二番目の人なんていないから、俺一人じゃきっと、枯らしちゃうかもなぁ。」 メグリ:「一番目の私もお世話するよ。ソウマくんが見つけてきた、素敵なお花。」 ソウマ:「気に入った?」 メグリ:「うん。すっごく。」 ソウマ:「ふふふ。良かった。・・・占い、良い結果なのか、悪い結果なのか、よくわかんないね。」 メグリ:「そうだねぇ。でも、こうしてるだけで幸せだから、良い結果なんだよ。」 ソウマ:「だな。メグリが居てくれれば、俺もそれで幸せだよ。」 0:そのまま二人で抱きしめ合う。 ソウマ:(M)抱きしめたメグリの温もりを感じる度に、あたたかい気持ちになった。 ソウマ: ソウマ:アンセリウムの花のように、赤く咲いている、メグリへの愛情。 ソウマ:ーーいつまでも枯らすことなく、赤い花が咲き続けていると、そう思ってたんだ。  : 0:【間】 0: 0:数ヶ月後。  : ソウマ:(M)季節は巡って、厳しい冬を越え、春の訪れを待つ二月末。 メグリ:「・・・部長から電話?なんだろう・・・はい、お疲れ様です。」 ソウマ:(M)いつまでも続くと思っていた彼女との日々は。 メグリ:「・・・はい・・・はい。・・・え?現プロジェクトリーダーが・・・事故・・・。」 ソウマ:(M)思っていた以上に、奇跡の連続で成り立っていて。 メグリ:「・・・大丈夫なんですか?・・・そうですか・・・はい・・・はい・・・え、私が?!・・・プロジェクトのですか?!」 ソウマ:(M)線香花火のように、フッと吹けば消えてしまいそうで。 メグリ:「ありがとうございます!・・・はい!・・・・・・え?」 ソウマ:(M)かけがえのないものほど、儚く、脆いものなのだと。 メグリ:「・・・海外転勤・・・ですか・・・?!」 ソウマ:(M)彼女との日々が当たり前に続いていたから。 ソウマ:目の前の幸福を掴みたい俺は、まだ知らなかったんだ。 メグリ:(M)夢を追いかけたい私も、まだ知らなかったんだ。 ソウマ:「・・・あの。すみません。この指輪、見せてもらって良いですか?」 メグリ:(M)夢を追いかけたい私と。 ソウマ:「・・・え?ええ、まぁ、はい・・・。」 メグリ:(M)目の前の幸福を掴みたい彼と。 ソウマ:「・・・あはは、実は、彼女にプロポーズ・・・しようと、思って、まして・・・。」 メグリ:(M)現実は、とても希望に満ち溢れていて。 ソウマ:「・・・きっと似合うだろうなぁ・・・あの!この指輪、ください!」 メグリ:(M)現実は、とても残酷だった。 ソウマ:(M)俺は・・・俺たちは、いつまでも枯らすことなく、赤い花が咲き続けていると、そう思ってたんだ。  : 0:【間】 0: 0:ソウマの部屋。  : メグリ:「・・・。」 ソウマ:「・・・おう?!びっくりした・・・おかえり。」 メグリ:「あ・・・(薄く笑いつつ)ただいま。」 ソウマ:「そんなところに、ぼーっと突っ立って、どうした?なんかあった?」 メグリ:「ううん。なんでもない。」 ソウマ:「そうか?」 メグリ:「うん。大丈夫。」 ソウマ:「今日はメグリの好きなエビレタスチャーハンだぞぅ。ミモザサラダも作ってみた!」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「ドレッシングはナッツ(をふんだんに使った)」 メグリ:「(さえぎって)あのね、ソウマくん。」 ソウマ:「・・・メグリはわかりやすいなぁ。」 メグリ:「え?」 ソウマ:「そりゃあね、明らかに何かあったー、って顔してんだもん。」 メグリ:「・・・っ。」 ソウマ:「なに?上司に怒られた?」 メグリ:「ソウマくんっ。(ソウマに抱きつきながら)」 ソウマ:「・・・っ。・・・どうしたぁ?」 メグリ:「っ・・・。」 ソウマ:「・・・(微笑みながら)よしよし。大丈夫。」 メグリ:「・・・あの。あのね。」 ソウマ:「いいよ。ゆっくりで。とりあえず、座るか?」 メグリ:「・・・うん。」 0:【短い間】 0: 0:事情を聞いた後、ソファに並んで座る二人。 ソウマ:「・・・そっか。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「・・・っ。・・・おめでとう!」 メグリ:「え?」 ソウマ:「だってさ、メグリのやりたいこと、できるんだろ?」 メグリ:「それは、そう、だけど。」 ソウマ:「だろ?恋人が、海外転勤で、現場のプロジェクトリーダーに昇進するわけでしょ?そりゃあ、俺も鼻が高いよ。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「すげーじゃん!メグリ!おめでとう!」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「あー、でも。海外ってことは、引っ越さなきゃなのか。あー・・・リーダーだから・・・年一回くらいは、帰ってこれるんかな?」 メグリ:「っ!」 ソウマ:「まぁ・・・そりゃ寂しいけどさ、会えないわけ(じゃないんだからさ)」 メグリ:「(かぶせて)ソウマくん。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「・・・・・・の。」 ソウマ:「・・・ん?」 メグリ:「・・・いつ帰って来られるか、わからないの。」 ソウマ:「え。」 メグリ:「私のやりたいプロジェクトだし、私の子供の頃からの夢だから、叶えたい。だけど・・・このプロジェクトは、数年単位・・・いやもしかしたら、十年以上・・・長期的に続けていかなきゃいけないものなの。だから・・・。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「でも・・・ソウマくんと離れたくないよ・・・。」 ソウマ:「・・・わかったよ。」 メグリ:「ソウマくん・・・。」 ソウマ:「これがチャンスなんだろ?長年の、メグリの夢なんだろ?じゃあ、叶えなきゃだろ。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「そりゃ、めちゃくちゃ寂しいよ?けどさ。メグリが、今までずーっと頑張ってきたの知ってるからさ。俺は、応援したいって思ってるんだ。」 メグリ:「・・・ソウマくん・・・。」 ソウマ:「だからさ。頑張ってこいよ!」 メグリ:「・・・うん。」 0:二人で抱きしめ合う。 ソウマ:「大丈夫だって!メグリならやれる!」 メグリ:(M)そう言って励ますソウマくんの笑顔は、とても、悲しそうで。 メグリ:赤く咲かせたアンセリウムは、変わらず美しかった。  : 0:【間】  : ソウマ:(M)本当は、嫌だった。 ソウマ: ソウマ:メグリに離れてほしくなんかない。 ソウマ:でも、メグリには夢を叶えてほしい。 ソウマ:そんな二つの感情が、俺の中でぐらぐらと揺れている。 ソウマ: ソウマ:メグリの人生は、メグリのものだ。 ソウマ: ソウマ:だから、諦めてほしくないから。 ソウマ:だから、俺は身を引くことにして。 ソウマ:だから、俺は笑顔でメグリを送ろうと決めたんだ。 ソウマ: ソウマ:・・・だから・・・メグリへのプロポーズのために買った金色の指輪は、まだ渡せないままだった。  : 0:【間】  : メグリ:(M)ーーもう間も無く・・・ーー数日後、私はこの国を発つ。 ソウマ:(M)お互いに悲しい気持ちに蓋をして。 メグリ:(M)お互いに顔に笑みを貼り付けて。 ソウマ:(M)祝福したい気持ちと。 メグリ:(M)離れるのを拒みたい気持ちが。 ソウマ:(M)心の中でぶつかり合って、痛みを伴う。 メグリ:(M)ズキズキと痛んだその気持ちを持ったまま、私は旅立って良いのだろうか。 ソウマ:(M)ズキズキと痛むこの胸の内を、メグリに伝えなくて良いのだろうか。 メグリ:(M)私たちは。 ソウマ:(M)俺たちは。 メグリ:(M)お互いに迷い続けたまま、時間を重ねてしまった。  : 0:【間】 0: 0:メグリが出発の日。  : ソウマ:(M)ーーあの日から、俺も彼女も、どこかぎこちなく日々を過ごした。 ソウマ: ソウマ:何か伝えたいことがあるのだろうかと思いつつ、どうしてもそれを聞けなかった。 メグリ:「おはよ。」 ソウマ:「・・・ああ、おはよ。」 メグリ:「朝ごはん、できてるよ。」 ソウマ:「あぁ、ありがとう。でも出発の日ぐらい、俺がご飯作るのにィ。」 メグリ:「ふふ。いいの。今までの習慣だからね。」 ソウマ:「そっか、ありがと。じゃあ、いただこうかな。」 メグリ:「うん。私、日用品とかキャリーケースに入れてきちゃうね。」 ソウマ:「・・・うん。」 メグリ:(M)そう言って微笑む彼の顔は、寂しそうだった。 0:【短い間】 ソウマ:(M)彼女の作った朝食を、口に運ぶ。 ソウマ:今日も変わらず、美味しかった。 0:【短い間】 メグリ:(M)キャリーケースに入れるものを取りに、寝室に行く。 メグリ:ーー彼が今日着ていく服、だろうか。 メグリ:初デートの日に着ていたシャツ。 メグリ: メグリ:「・・・あ・・・。」 メグリ: メグリ:(M)あの日、同棲の話が出たから舞い上がって失念していた。シャツのボタンは、ずっと取れかけたままだ。 0:【短い間】 ソウマ:「・・・ごちそうさま。」 ソウマ: ソウマ:(M)彼女はまだ荷造りをしているだろうか。誰もいない台所にそう呟く。 ソウマ: ソウマ:「・・・っ。」 ソウマ: ソウマ:(M)ーー不意に、視界が潤む。 ソウマ:頬を流れそうになる涙を、必死に堪えた。 ソウマ:・・・そうだ。今日で、彼女とはーーお別れなのだ。 0:【短い間】 メグリ:「・・・それじゃあ、まだ少し早いけど、行くね。」 ソウマ:「・・・うん。」 ソウマ:(M)大きなキャリーケースを抱えて、彼女がこちらを振り返る。 メグリ:「・・・っ。・・・ソウマくん・・・!」 ソウマ:「・・・!」 ソウマ: ソウマ:(M)彼女の持っていたバッグが、床に落ちる。 ソウマ:彼女が、腕の中に飛び込んでくる。 メグリ:「・・・ソウマくん・・・今までありがとう。」 ソウマ:「・・・うん。」 メグリ:(M)ーー言いたいこと、伝えたいことは沢山あるのに。 ソウマ:「俺の方こそ、ありがとう。」 メグリ:(M)声に、言葉に、なってくれない。 ソウマ:「・・・メグリ。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「メグリ。」 メグリ:「・・・うん。」 ソウマ:「・・・あのね・・・。」 メグリ:「うん・・・。」 ソウマ:「・・・本当は・・・。本当は、行ってほしくなかった。」 メグリ:「っ。・・・うん。」 ソウマ:「・・・もっとずっと、一緒にいたかった!」 メグリ:「・・・う、ん。」 ソウマ:「だけど・・・メグリに夢を、諦めてほしくない。」 メグリ:「・・・ごめんね。」 ソウマ:「良いんだ。良いんだよ・・・。」 メグリ:「・・・私も。」 ソウマ:「ん?」 メグリ:「私だって・・・一緒にいたかった!」 ソウマ:「・・・っ!」 メグリ:「ソウマくんと一緒なら、夢だって諦めて良いって思ったの。」 ソウマ:「メグリ・・・。」 メグリ:「・・・でも。諦めてしまったら、ソウマくん、絶対気にするから・・・。ソウマくんには、笑っていてほしいから。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「ソウマくんの、笑った顔が、大好きなの。」 ソウマ:「・・・俺も・・・俺も、メグリに、ずっと笑っていてほしくて・・・。」 メグリ:「うん。ちゃんと伝わってるよ。」 ソウマ:「うん・・・。」 メグリ:「・・・ぁ・・・アンセリウム・・・。」 ソウマ:「・・・ああ。ちゃんと、枯らさずに育てるよ。」 メグリ:「そっか。なら、安心だね。」 ソウマ:「・・・うん。」 メグリ:「ソウマくん・・・。」 ソウマ:「メグリ・・・。」 メグリ:「愛してる。」 ソウマ:(M)メグリの潤んだ瞳が、視界いっぱいに広がる。 メグリ:(M)それから私たちは、今までぎこちなく過ごした時間を埋めるように。 ソウマ:(M)何度も、何度も、キスをした。 0:【短い間】 ソウマ:「・・・体に気をつけてな。」 メグリ:「うん。」 ソウマ:「・・・。」 ソウマ: ソウマ:(M)何かを思いついたようにメグリは、アンセリウムに近付いていく。 メグリ:「君とも、これでお別れだね。・・・元気でね。」 ソウマ:「・・・。」 0:メグリはソウマに向き直る メグリ:「・・・それじゃあ、行くね。」 ソウマ:「(どうにか笑顔を作りながら)・・・うん。」 メグリ:「(泣き顔を堪えて微笑みながら)・・・バイバイ。」 ソウマ:「・・・バイバイ。・・・・・・この部屋から、応援してるよ。アンセリウムの花と一緒に。」 ソウマ: ソウマ:(M)雫型の青いピアスを揺らして・・・彼女は、背を向けて行った。  : 0:【長めの間】  : ソウマ:(M)ーーうるさく鳴り続ける、スマホのアラームを止める。 ソウマ:ぼんやりとした意識のまま、ソファから体を起こして部屋を見回す。 ソウマ: ソウマ:「・・・。」 ソウマ: メグリ:「おはよ。ぐっすり寝てたね。朝ご飯、できてるよ。」 ソウマ:(M)彼女の声が聞こえた気がした。 ソウマ: ソウマ:「・・・・・・さむ・・・っ。」 ソウマ: ソウマ:(M)窓を開け放したまま寝てしまっていたらしい。四月の風が、部屋の中を通り抜けた。 ソウマ: ソウマ:ソファの小さなくぼみ。 ソウマ:いつかの強風で、骨が曲がってしまった、黄色い傘。 メグリ:「ふふふ。」 ソウマ:(M)小さな灯りを灯したような、笑い声。 ソウマ:渡すことのできなかった、金色の細い指輪。 ソウマ: ソウマ:ようやく立ち上がり、ベランダに出る。 ソウマ:遠くに飛行機の飛ぶ音が聞こえる。 ソウマ: ソウマ:今日も、泣きそうになるくらい晴れた日だ。 ソウマ: ソウマ:「ーーメグリ。もうすぐ、アンセリウムの季節になるよ。」 0:END.

0:早朝のソウマの部屋。 0: ソウマ:(M)ーーうるさく鳴り続ける、スマホのアラームを止める。 ソウマ:ぼんやりとした意識のまま、ソファから体を起こして部屋を見回す。 ソウマ: ソウマ:「・・・。」 メグリ:「おはよ。ぐっすり寝てたね。朝ご飯、できてるよ。」 ソウマ:(M)彼女の声が聞こえた気がした。 ソウマ: ソウマ:「・・・さむ・・・っ。」 ソウマ: ソウマ:(M)窓を開け放したまま、寝てしまっていたらしい。四月の風が、部屋の中を通り抜けた。 ソウマ: ソウマ:ソファの小さなくぼみ。 ソウマ:ついこの間の強風で、骨が曲がってしまった、黄色い傘。 メグリ:「ふふふ。」 ソウマ:(M)小さな灯りを灯したような、笑い声。 ソウマ:まだケースに入ったままの、金色の細い指輪。 ソウマ: ソウマ:ようやく立ち上がり、ベランダに出る。 ソウマ:遠くに飛行機の飛ぶ音が聞こえる。 ソウマ: ソウマ:今日は、泣きそうになるくらい晴れた日だ。  : 0:【間】 0: 0:タイトルコール。 ソウマ:「アンセリウム」 0:【間】 0: 0:ソウマの部屋にて。  : メグリ:「・・・。(気まずそうに目を伏せる)」 ソウマ:「・・・。(ばつが悪そうに口元を覆ってベッドに腰掛ける)」 メグリ:「・・・。(恥ずかしそうに俯いている)」 ソウマ:「・・・あの・・・えと・・・。」 メグリ:「・・・っ。」 ソウマ:「・・・行きずりの関係、みたいなのは嫌だし、これも何かの縁ってことで・・・。」 メグリ:「・・・そりゃ・・・私も、そう、思います、ケド・・・。」 ソウマ:「えと、じゃあ、あの・・・とりあえず!・・・お友達から、ってことで!」 メグリ:「・・・あの・・・はい・・・。よろしくお願いします・・・。」 0:二人で微笑み合う。 ソウマ:(M)大学時代の先輩に無理矢理、連れて行かれた合コンで、彼女と出会った。 ソウマ:メグリも友達に無理に連れて来られたらしく、見事に意気投合した。 ソウマ: ソウマ:合コン解散後、酔っ払った二人は肩を組み、コンビニで追加のビールをとおつまみを買い込み、俺の部屋で飲み直し・・・そのまま俺のベッドで朝を迎えたのだ。 メグリ:「・・・あの、こうして泊めてもらった訳ですし、えーと・・・私、何かご飯作りますね!」 ソウマ:「え?でも、さすがにそこまでして(貰うのは悪いよ)」 メグリ:「(かぶせて)いいんです!・・・その、昨日はとても楽しく過ごせましたし、沢山お酒を飲んでハッキリとは覚えてないんですが・・・とても幸せな気持ちだった、・・・のを、覚えてますし・・・。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「・・・えっ、と・・・。」 ソウマ:「ああ、いや。・・・クサカベさん、だったよね。君、見た目によらず、随分、大胆なんだね。ふふふ。」 メグリ:「っ!・・・そ・・・っ。そうですよ!こう見えて私!素直で!大胆なんです!」 ソウマ:「・・・・・・ぷっ。ふふふ・・・(小さく笑い続ける)」 メグリ:「・・・ふふっ。」 0:二人で堪えきれずに笑う。 ソウマ:「あ、えっと。あらためて、俺はソウマ。桐原奏真(きりはらそうま)っていいます。」 メグリ:「あ・・・私は、日下部愛理(くさかべめぐり)です。」 ソウマ:「メグリさん、だね。俺のことは気軽にソウマって呼んで。」 メグリ:「はい!・・・ふふふ。・・・えっと、ソウマ、さん。台所、少しお借りしますね。」 ソウマ:(M)そう言って、メグリは台所へ、パタパタと向かって行った。 ソウマ:これが、俺とメグリが恋人同士になる、きっかけだったんだ。  : 0:【間】 0: 0:数日後の街中。  : メグリ:「ねぇ、ソウマくん。今日が私たちが付き合い始めて、初めてのデートになるんですけれども。」 ソウマ:「うん、そうだね。」 メグリ:「どこに連れて行ってくれるの?」 ソウマ:「ふふ。それは行ってからのお楽しみ。」 メグリ:(M)そう言って、ソウマくんは悪戯っぽく笑う。 ソウマ:「・・・はい、着いたよ。」 メグリ:「・・・ここは?」 ソウマ:「プラネタリウムだよ。メグリとなら、ゆっくり楽しく過ごせると思ってさ。」 メグリ:(M)私は、歩くのが遅い。頭の回転も遅くて、優柔不断だ。 メグリ:ソウマくんに出会うまでに、何人かとお付き合いをしたことはある。 メグリ: メグリ:私はとてもマイペースで、付き合ってきた誰をも、イライラさせてしまっていたらしい。 ソウマ:「さ。行こうか。・・・今日は人が多めだなぁ。」 メグリ:「ソウマくんも、人混みは苦手?」 ソウマ:「まぁ、ちょっと・・・ね。」 メグリ:「そっか、一緒だね!」 ソウマ:「あはは。そうだね。」 メグリ:「あれ、袖のところのボタン、取れかけてる。」 ソウマ:「え?・・・ほんとだ。あー・・・なんか恥ずかしいなぁ、初めてのデートでだらしない・・・。」 メグリ:「ふふふ。気にしないで。後で私が直してあげるよ。」 ソウマ:「ありがと。・・・ボタンはシャツから離れかけてるけど・・・この手は、離さないようにね。」 メグリ:「あ・・・。」 メグリ: メグリ:(M)そう言って、私の手を握り、ソウマくんは無邪気に微笑みかける。 メグリ: メグリ:その笑顔が、好きだ。 メグリ:私のペースに合わせて歩いてくれる人は、初めてだ。 メグリ: メグリ:彼の隣は、とても居心地が良くて、歯の浮くようなセリフも、とても愛おしい。 メグリ:そっか。そんなソウマくんに、初めて会ったあの日から、惹かれていたんだ。 ソウマ:「・・・メグリ?」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「おーい。メグリ、どうした?」 メグリ:「・・・えっ、ああごめん。何でもないよ。」 ソウマ:「疲れちゃった?人たくさんいるし、もう少し、落ち着いたところに行こうか?」 メグリ:「ううん、大丈夫だよ。」 ソウマ:「そう?ならいいけど・・・。」 メグリ:「・・・あの、ね。その、ソウマくんと初めて会った日のこと、思い出してたの。」 ソウマ:「っ・・・。あははは、そっか。」 メグリ:「・・・あんな風に出会って、今日、デートして・・・。」 ソウマ:「そう、だね。」 メグリ:「順番は逆になっちゃったけど、私、ソウマくんと出会えて、幸せだよ。」 ソウマ:「(頬を掻きつつ)・・・なんだよ。照れるなぁ。」 メグリ:「ふふ。だからさ、こうやって、ソウマくんと一緒に居られるのが嬉しい。」 ソウマ:「そっか。俺も、メグリとこうやって恋人として傍に居られて、幸せだよ。」 0:二人で微笑み合う。 ソウマ:「・・・あ、メグリはプラネタリウム、初めて?」 メグリ:「うん、初めてだね。」 ソウマ:「そっか。ここには一人で何回か来たことあるからさ。案内するよ。」 メグリ:「ありがとう。」 ソウマ:「今日はね、プラネタリウムのシアターでね、双子座の神話の解説をするんだって。」 メグリ:「え?双子座?」 ソウマ:「そう。俺ね、六月一日生まれの双子座なんだ。」 メグリ:「・・・え?」 ソウマ:「ん?どうした?」 メグリ:「私も!私も六月一日生まれなの!」 ソウマ:「えっ?!マジで?!」 メグリ:「マジ!」 ソウマ:「こんなことある?!」 メグリ:「ね、びっくりだよ!」 0:二人で顔を見合わせて笑い合う。 メグリ:「じゃあ、同じ誕生日同士、シアターの解説、しっかり聞かないとね!」 ソウマ:「そうだな。二人の星座だもんな。」 メグリ:「ふふふ。」 ソウマ:「よし!行こっか!」 0:【間】 0: 0:プラネタリウム観賞後に入ったカフェ。 メグリ:「はぁー。双子座のお話、本当に良かったなぁー。」 ソウマ:「あははは。メグリったら、さっきからそればっかり。」 メグリ:「だって!本当に素敵なお話だったんだもん!」 ソウマ:「わかったわかった。そうだな、俺も感動したなぁ。」 メグリ:「でしょ?」 ソウマ:「なんでメグリが得意気なんだよ。」 メグリ:「ふふふ。良いじゃない。私、双子座なんだから。」 ソウマ:「それなら俺だって双子座だよ。」 メグリ:「そうだったね。」 0:二人で笑い合う。 メグリ:「・・・たしか、双子座の神話は・・・いつも二人一緒に戦場を駆け巡って沢山の戦果を上げていた兄弟・・・。兄のカストルは矢を受けて死んじゃったけど、」 ソウマ:「ん?さっきのおさらい?」 メグリ:「そう!・・・弟のポルックスは、ゼウスに『死ぬときは兄と一緒がいい。だから私の不死を解いてくれ。』って頼み込む、だったよね。」 ソウマ:「ゼウスはポルックスの兄の死を悲しむ姿に心打たれて、願いを叶えるんだよな。」 メグリ:「そうして、兄弟は二人で夜空にのぼって、星座になった。」 ソウマ:「素敵な兄弟愛だよね。」 メグリ:「ポルックスのゼウスに頼み込むシーンはすごく印象的だけど、」 ソウマ:「弟にそう言われるほど、カストルはいいお兄さんだったんだろうなぁ。」 メグリ:「うん!きっとそうだね。」 0:二人でコーヒーを啜る。 ソウマ:「それにしても。まさか俺らが同じ星座で、しかも同じ誕生日だったなんてなぁ。」 メグリ:「もしかしたら私たち、前世は双子だったのかもね。」 ソウマ:「あははは。そうかもな。」 メグリ:「ふふふ。夜空のカストルとポルックスみたいに、ずっと一緒に居たいね。」 ソウマ:「だな。」 メグリ:「うん。」 0:メグリ、コーヒーを啜る。 ソウマ:「・・・あの、さ。」 メグリ:「ん?」 ソウマ:「今日、初めてのデートだし、こんな話、展開が早いのとかも、分かってるんだけど・・・。」 メグリ:「うん?どうしたの?」 ソウマ:「もちろん、今すぐって話じゃないんだけど、さ・・・。」 メグリ:「うん。」 ソウマ:「その。・・・同棲・・・してみませんか、・・・なんて、思ったり。」 メグリ:(M)この時の私は、どんな表情をしていただろう。 メグリ: メグリ:思わぬソウマくんの言葉に、目を白黒させていただろうか。 メグリ:ああ、きっと間抜けな顔をしていたに違いない。 ソウマ:「・・・。」 メグリ:(M)ソウマくんと、一緒に暮らせる。 メグリ:まだ付き合い始めてそんなに時間は経ってないし、彼のこともまだ知らないことがたくさんあるのだけど。 ソウマ:「・・・あの・・・?」 メグリ:(M)それでも、ソウマくんと一緒に居られることが、間違いなく幸福なことなのだ、ということは直感的に分かっていた。 ソウマ:「・・・あれ、聞こえてなかったかな。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「えっと・・・メグリ。俺と・・・そのうち、同棲(しませんか)。」 メグリ:「(かぶせて)します!」 ソウマ:「・・・・・・え?」 メグリ:「私、ソウマくんと一緒に居たい!」 ソウマ:「・・・えっ?ホントに?いいの?」 メグリ:「・・・うん!」 ソウマ:「!・・・そっか・・・そっか!」 メグリ:「ふふふ。不束者ですが、よろしくお願いします。」 ソウマ:「あ、いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「・・・ふふっ。」 0:二人で笑い合う。 メグリ:(M)それから、仕事に追われつつ、引越しの準備を進め・・・とても慌ただしくなった。 メグリ: メグリ:この初デートの日から約四ヶ月後、私はソウマくんの住む部屋で、一緒に生活を始めたのだった。  : 0:【間】 0: 0:半年後のソウマの部屋。  : ソウマ:(M)同棲にも慣れてきた頃。 ソウマ: ソウマ:メグリは、大手IT企業のエンジニアだ。エンジニア、なんて単語が似合わないくらい、とても優しい彼女。 ソウマ:俺には勿体無いくらい、素敵な恋人だ。 メグリ:「・・・ただいまー。」 ソウマ:「おかえり。」 0:二人で抱き合う。 ソウマ:「今日も残業大変だったね。」 メグリ:「うん。」 ソウマ:「連日だもんなぁ。体キツくない?」 メグリ:「うん。でも、私がやりたいことだから。頑張らなきゃ。」 ソウマ:「そっか・・・けど、無理すんなよ。」 メグリ:「ありがと。」 ソウマ:「ご飯できてるからさ、着替えといで。」 メグリ:「うん。今日のご飯は?」 ソウマ:「『桐原』特製、エビレタスチャーハン!」 メグリ:「ほんと?!」 ソウマ:「クルトン入りのシーザーサラダも作ってみた。」 メグリ:「すぐ着替えてくる!」 ソウマ:「あはは。お待ちしてますよ、お客様。」 0:【短い間】 0: 0:夕食後、片付けを終えて。 0: 0:二人でソファに座り、お茶を飲みながら。 ソウマ:「当店自慢の食事はいかがでしたか、お客様?」 メグリ:「とても美味しかったです!エビのプリプリ感も、サクサクのクルトンも・・・手作りのシーザードレッシングも最高でした!」 ソウマ:「ありがとうございます。私の恋人の、大好物でして。」 メグリ:「・・・ふふっ。」 ソウマ:「ふっ。」 0:二人で笑い合う。 メグリ:「・・・あれ、ところでさ。あんな花、あったっけ?」 ソウマ:「ん?あー、あれね。今日早めに仕事終わってさ。帰り道にある花屋の前を通りかかったとき、一目惚れしちゃってさ。今が開花時期なんだってさ。」 メグリ:「へぇ。なんでまた花を?」 ソウマ:「俺ら、荷物多い方じゃないだろ?少し、部屋が殺風景かなぁ、と前々から思っててさ。」 メグリ:「そっか。・・・うん。確かに、赤い花があると映えるねぇ。」 ソウマ:「でしょ?俺の目に狂いはなかった。」 メグリ:「あっ。ドヤ顔してるぅ。」 ソウマ:「そりゃあ、自分の店持ちたいからね。こういうセンスは磨いておかないと、ね。」 メグリ:「ふふふ。そうだね。なんていう花?」 ソウマ:「アンセリウム、だよ。」 メグリ:「アンセリウム・・・。綺麗だね。」 ソウマ:「うん。花言葉は・・・たしか『情熱』『印象深い』、だったかな。」 メグリ:「ふぅん。確かに、この赤い花は印象深い、かも。」 ソウマ:「でしょ?」 メグリ:「うん。いいね。」 ソウマ:「・・・メグリは?何読んでるの?」 メグリ:「ん?今朝、出勤の時に寄ったコンビニに売ってた、女性週刊誌。」 ソウマ:「めずらし。何か気になる見出しでもあった?」 メグリ:「ううん。休憩中、気分転換に読もうかと思って。結局、読む暇なかったけど。」 ソウマ:「そっか。大変だったね。」 メグリ:「他の案件がね、トラブっちゃって。まぁそれは良いんだけどさ。」 ソウマ:「ん?」 メグリ:「ちょっとシツレイ。」 0:メグリ、ソウマの膝の上に座る。 ソウマ:「おう・・・?どうした?」 メグリ:「ちょっと甘えてみた。」 ソウマ:「ははは、そっか。よしよし。今日もお疲れ様。」 メグリ:「ふふ。ありがと。・・・あ、ねぇねぇ。」 ソウマ:「ん?」 メグリ:「占いのページ見てたんだけど、見てこれ。」 ソウマ:「双子座のとこ?・・・『二番目に好きな誰かとなら上手くいくかも!ラッキーカラーは赤』。」 メグリ:「二番目がいないからうまくいかないねぇ。」 ソウマ:「ふふ、そうだなぁ。あ、でもアンセリウム。」 メグリ:「あっ。赤い花だね。」 ソウマ:「ラッキーカラーだね。」 メグリ:「そうだね。」 ソウマ:「二番目の人なんていないから、俺一人じゃきっと、枯らしちゃうかもなぁ。」 メグリ:「一番目の私もお世話するよ。ソウマくんが見つけてきた、素敵なお花。」 ソウマ:「気に入った?」 メグリ:「うん。すっごく。」 ソウマ:「ふふふ。良かった。・・・占い、良い結果なのか、悪い結果なのか、よくわかんないね。」 メグリ:「そうだねぇ。でも、こうしてるだけで幸せだから、良い結果なんだよ。」 ソウマ:「だな。メグリが居てくれれば、俺もそれで幸せだよ。」 0:そのまま二人で抱きしめ合う。 ソウマ:(M)抱きしめたメグリの温もりを感じる度に、あたたかい気持ちになった。 ソウマ: ソウマ:アンセリウムの花のように、赤く咲いている、メグリへの愛情。 ソウマ:ーーいつまでも枯らすことなく、赤い花が咲き続けていると、そう思ってたんだ。  : 0:【間】 0: 0:数ヶ月後。  : ソウマ:(M)季節は巡って、厳しい冬を越え、春の訪れを待つ二月末。 メグリ:「・・・部長から電話?なんだろう・・・はい、お疲れ様です。」 ソウマ:(M)いつまでも続くと思っていた彼女との日々は。 メグリ:「・・・はい・・・はい。・・・え?現プロジェクトリーダーが・・・事故・・・。」 ソウマ:(M)思っていた以上に、奇跡の連続で成り立っていて。 メグリ:「・・・大丈夫なんですか?・・・そうですか・・・はい・・・はい・・・え、私が?!・・・プロジェクトのですか?!」 ソウマ:(M)線香花火のように、フッと吹けば消えてしまいそうで。 メグリ:「ありがとうございます!・・・はい!・・・・・・え?」 ソウマ:(M)かけがえのないものほど、儚く、脆いものなのだと。 メグリ:「・・・海外転勤・・・ですか・・・?!」 ソウマ:(M)彼女との日々が当たり前に続いていたから。 ソウマ:目の前の幸福を掴みたい俺は、まだ知らなかったんだ。 メグリ:(M)夢を追いかけたい私も、まだ知らなかったんだ。 ソウマ:「・・・あの。すみません。この指輪、見せてもらって良いですか?」 メグリ:(M)夢を追いかけたい私と。 ソウマ:「・・・え?ええ、まぁ、はい・・・。」 メグリ:(M)目の前の幸福を掴みたい彼と。 ソウマ:「・・・あはは、実は、彼女にプロポーズ・・・しようと、思って、まして・・・。」 メグリ:(M)現実は、とても希望に満ち溢れていて。 ソウマ:「・・・きっと似合うだろうなぁ・・・あの!この指輪、ください!」 メグリ:(M)現実は、とても残酷だった。 ソウマ:(M)俺は・・・俺たちは、いつまでも枯らすことなく、赤い花が咲き続けていると、そう思ってたんだ。  : 0:【間】 0: 0:ソウマの部屋。  : メグリ:「・・・。」 ソウマ:「・・・おう?!びっくりした・・・おかえり。」 メグリ:「あ・・・(薄く笑いつつ)ただいま。」 ソウマ:「そんなところに、ぼーっと突っ立って、どうした?なんかあった?」 メグリ:「ううん。なんでもない。」 ソウマ:「そうか?」 メグリ:「うん。大丈夫。」 ソウマ:「今日はメグリの好きなエビレタスチャーハンだぞぅ。ミモザサラダも作ってみた!」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「ドレッシングはナッツ(をふんだんに使った)」 メグリ:「(さえぎって)あのね、ソウマくん。」 ソウマ:「・・・メグリはわかりやすいなぁ。」 メグリ:「え?」 ソウマ:「そりゃあね、明らかに何かあったー、って顔してんだもん。」 メグリ:「・・・っ。」 ソウマ:「なに?上司に怒られた?」 メグリ:「ソウマくんっ。(ソウマに抱きつきながら)」 ソウマ:「・・・っ。・・・どうしたぁ?」 メグリ:「っ・・・。」 ソウマ:「・・・(微笑みながら)よしよし。大丈夫。」 メグリ:「・・・あの。あのね。」 ソウマ:「いいよ。ゆっくりで。とりあえず、座るか?」 メグリ:「・・・うん。」 0:【短い間】 0: 0:事情を聞いた後、ソファに並んで座る二人。 ソウマ:「・・・そっか。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「・・・っ。・・・おめでとう!」 メグリ:「え?」 ソウマ:「だってさ、メグリのやりたいこと、できるんだろ?」 メグリ:「それは、そう、だけど。」 ソウマ:「だろ?恋人が、海外転勤で、現場のプロジェクトリーダーに昇進するわけでしょ?そりゃあ、俺も鼻が高いよ。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「すげーじゃん!メグリ!おめでとう!」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「あー、でも。海外ってことは、引っ越さなきゃなのか。あー・・・リーダーだから・・・年一回くらいは、帰ってこれるんかな?」 メグリ:「っ!」 ソウマ:「まぁ・・・そりゃ寂しいけどさ、会えないわけ(じゃないんだからさ)」 メグリ:「(かぶせて)ソウマくん。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「・・・・・・の。」 ソウマ:「・・・ん?」 メグリ:「・・・いつ帰って来られるか、わからないの。」 ソウマ:「え。」 メグリ:「私のやりたいプロジェクトだし、私の子供の頃からの夢だから、叶えたい。だけど・・・このプロジェクトは、数年単位・・・いやもしかしたら、十年以上・・・長期的に続けていかなきゃいけないものなの。だから・・・。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「でも・・・ソウマくんと離れたくないよ・・・。」 ソウマ:「・・・わかったよ。」 メグリ:「ソウマくん・・・。」 ソウマ:「これがチャンスなんだろ?長年の、メグリの夢なんだろ?じゃあ、叶えなきゃだろ。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「そりゃ、めちゃくちゃ寂しいよ?けどさ。メグリが、今までずーっと頑張ってきたの知ってるからさ。俺は、応援したいって思ってるんだ。」 メグリ:「・・・ソウマくん・・・。」 ソウマ:「だからさ。頑張ってこいよ!」 メグリ:「・・・うん。」 0:二人で抱きしめ合う。 ソウマ:「大丈夫だって!メグリならやれる!」 メグリ:(M)そう言って励ますソウマくんの笑顔は、とても、悲しそうで。 メグリ:赤く咲かせたアンセリウムは、変わらず美しかった。  : 0:【間】  : ソウマ:(M)本当は、嫌だった。 ソウマ: ソウマ:メグリに離れてほしくなんかない。 ソウマ:でも、メグリには夢を叶えてほしい。 ソウマ:そんな二つの感情が、俺の中でぐらぐらと揺れている。 ソウマ: ソウマ:メグリの人生は、メグリのものだ。 ソウマ: ソウマ:だから、諦めてほしくないから。 ソウマ:だから、俺は身を引くことにして。 ソウマ:だから、俺は笑顔でメグリを送ろうと決めたんだ。 ソウマ: ソウマ:・・・だから・・・メグリへのプロポーズのために買った金色の指輪は、まだ渡せないままだった。  : 0:【間】  : メグリ:(M)ーーもう間も無く・・・ーー数日後、私はこの国を発つ。 ソウマ:(M)お互いに悲しい気持ちに蓋をして。 メグリ:(M)お互いに顔に笑みを貼り付けて。 ソウマ:(M)祝福したい気持ちと。 メグリ:(M)離れるのを拒みたい気持ちが。 ソウマ:(M)心の中でぶつかり合って、痛みを伴う。 メグリ:(M)ズキズキと痛んだその気持ちを持ったまま、私は旅立って良いのだろうか。 ソウマ:(M)ズキズキと痛むこの胸の内を、メグリに伝えなくて良いのだろうか。 メグリ:(M)私たちは。 ソウマ:(M)俺たちは。 メグリ:(M)お互いに迷い続けたまま、時間を重ねてしまった。  : 0:【間】 0: 0:メグリが出発の日。  : ソウマ:(M)ーーあの日から、俺も彼女も、どこかぎこちなく日々を過ごした。 ソウマ: ソウマ:何か伝えたいことがあるのだろうかと思いつつ、どうしてもそれを聞けなかった。 メグリ:「おはよ。」 ソウマ:「・・・ああ、おはよ。」 メグリ:「朝ごはん、できてるよ。」 ソウマ:「あぁ、ありがとう。でも出発の日ぐらい、俺がご飯作るのにィ。」 メグリ:「ふふ。いいの。今までの習慣だからね。」 ソウマ:「そっか、ありがと。じゃあ、いただこうかな。」 メグリ:「うん。私、日用品とかキャリーケースに入れてきちゃうね。」 ソウマ:「・・・うん。」 メグリ:(M)そう言って微笑む彼の顔は、寂しそうだった。 0:【短い間】 ソウマ:(M)彼女の作った朝食を、口に運ぶ。 ソウマ:今日も変わらず、美味しかった。 0:【短い間】 メグリ:(M)キャリーケースに入れるものを取りに、寝室に行く。 メグリ:ーー彼が今日着ていく服、だろうか。 メグリ:初デートの日に着ていたシャツ。 メグリ: メグリ:「・・・あ・・・。」 メグリ: メグリ:(M)あの日、同棲の話が出たから舞い上がって失念していた。シャツのボタンは、ずっと取れかけたままだ。 0:【短い間】 ソウマ:「・・・ごちそうさま。」 ソウマ: ソウマ:(M)彼女はまだ荷造りをしているだろうか。誰もいない台所にそう呟く。 ソウマ: ソウマ:「・・・っ。」 ソウマ: ソウマ:(M)ーー不意に、視界が潤む。 ソウマ:頬を流れそうになる涙を、必死に堪えた。 ソウマ:・・・そうだ。今日で、彼女とはーーお別れなのだ。 0:【短い間】 メグリ:「・・・それじゃあ、まだ少し早いけど、行くね。」 ソウマ:「・・・うん。」 ソウマ:(M)大きなキャリーケースを抱えて、彼女がこちらを振り返る。 メグリ:「・・・っ。・・・ソウマくん・・・!」 ソウマ:「・・・!」 ソウマ: ソウマ:(M)彼女の持っていたバッグが、床に落ちる。 ソウマ:彼女が、腕の中に飛び込んでくる。 メグリ:「・・・ソウマくん・・・今までありがとう。」 ソウマ:「・・・うん。」 メグリ:(M)ーー言いたいこと、伝えたいことは沢山あるのに。 ソウマ:「俺の方こそ、ありがとう。」 メグリ:(M)声に、言葉に、なってくれない。 ソウマ:「・・・メグリ。」 メグリ:「・・・。」 ソウマ:「メグリ。」 メグリ:「・・・うん。」 ソウマ:「・・・あのね・・・。」 メグリ:「うん・・・。」 ソウマ:「・・・本当は・・・。本当は、行ってほしくなかった。」 メグリ:「っ。・・・うん。」 ソウマ:「・・・もっとずっと、一緒にいたかった!」 メグリ:「・・・う、ん。」 ソウマ:「だけど・・・メグリに夢を、諦めてほしくない。」 メグリ:「・・・ごめんね。」 ソウマ:「良いんだ。良いんだよ・・・。」 メグリ:「・・・私も。」 ソウマ:「ん?」 メグリ:「私だって・・・一緒にいたかった!」 ソウマ:「・・・っ!」 メグリ:「ソウマくんと一緒なら、夢だって諦めて良いって思ったの。」 ソウマ:「メグリ・・・。」 メグリ:「・・・でも。諦めてしまったら、ソウマくん、絶対気にするから・・・。ソウマくんには、笑っていてほしいから。」 ソウマ:「・・・。」 メグリ:「ソウマくんの、笑った顔が、大好きなの。」 ソウマ:「・・・俺も・・・俺も、メグリに、ずっと笑っていてほしくて・・・。」 メグリ:「うん。ちゃんと伝わってるよ。」 ソウマ:「うん・・・。」 メグリ:「・・・ぁ・・・アンセリウム・・・。」 ソウマ:「・・・ああ。ちゃんと、枯らさずに育てるよ。」 メグリ:「そっか。なら、安心だね。」 ソウマ:「・・・うん。」 メグリ:「ソウマくん・・・。」 ソウマ:「メグリ・・・。」 メグリ:「愛してる。」 ソウマ:(M)メグリの潤んだ瞳が、視界いっぱいに広がる。 メグリ:(M)それから私たちは、今までぎこちなく過ごした時間を埋めるように。 ソウマ:(M)何度も、何度も、キスをした。 0:【短い間】 ソウマ:「・・・体に気をつけてな。」 メグリ:「うん。」 ソウマ:「・・・。」 ソウマ: ソウマ:(M)何かを思いついたようにメグリは、アンセリウムに近付いていく。 メグリ:「君とも、これでお別れだね。・・・元気でね。」 ソウマ:「・・・。」 0:メグリはソウマに向き直る メグリ:「・・・それじゃあ、行くね。」 ソウマ:「(どうにか笑顔を作りながら)・・・うん。」 メグリ:「(泣き顔を堪えて微笑みながら)・・・バイバイ。」 ソウマ:「・・・バイバイ。・・・・・・この部屋から、応援してるよ。アンセリウムの花と一緒に。」 ソウマ: ソウマ:(M)雫型の青いピアスを揺らして・・・彼女は、背を向けて行った。  : 0:【長めの間】  : ソウマ:(M)ーーうるさく鳴り続ける、スマホのアラームを止める。 ソウマ:ぼんやりとした意識のまま、ソファから体を起こして部屋を見回す。 ソウマ: ソウマ:「・・・。」 ソウマ: メグリ:「おはよ。ぐっすり寝てたね。朝ご飯、できてるよ。」 ソウマ:(M)彼女の声が聞こえた気がした。 ソウマ: ソウマ:「・・・・・・さむ・・・っ。」 ソウマ: ソウマ:(M)窓を開け放したまま寝てしまっていたらしい。四月の風が、部屋の中を通り抜けた。 ソウマ: ソウマ:ソファの小さなくぼみ。 ソウマ:いつかの強風で、骨が曲がってしまった、黄色い傘。 メグリ:「ふふふ。」 ソウマ:(M)小さな灯りを灯したような、笑い声。 ソウマ:渡すことのできなかった、金色の細い指輪。 ソウマ: ソウマ:ようやく立ち上がり、ベランダに出る。 ソウマ:遠くに飛行機の飛ぶ音が聞こえる。 ソウマ: ソウマ:今日も、泣きそうになるくらい晴れた日だ。 ソウマ: ソウマ:「ーーメグリ。もうすぐ、アンセリウムの季節になるよ。」 0:END.