台本概要

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タイトル 悪魔の証明
作者名 眞空  (@masora_kimama)
ジャンル ホラー
演者人数 3人用台本(不問3)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 「私達は、飽くまで『悪魔』だヨォ?

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3人用台本となっておりますが、2人用(ラプラス役・マクスウェル役のみ、もしくはラプラス役・マクスウェル役のいずれかが『私』役を兼役)台本としてご利用いただけます。

世界観の壊れない程度のアドリブ:〇
無理のない語尾の変更:〇

この作品を目に止めていただければ幸いです。
沢山の方に愛される台本でありますよう。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ラプラス 不問 64 悪魔。『全てのモノの物理的な状態』を支配する。
マクスウェル 不問 66 悪魔。『全ての気体分子の動き』を支配する。
『私』 不問 - 人間。英雄の末裔。 ト書きの部分を読む。(2人で演じる場合は読まなくても可)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:悪魔の証明  :・・・目を開くと、薄暗い店内が見えた。バー、だろうか・・・?  :  :カウンター席に座る二つの影ーー。  :  :片方が『私』に気付いたらしく、顔を上げる。 ラプラス:「・・・おや?お客さんですかねェ。」 マクスウェル:「ほう。こんな所に何用かね。」 ラプラス:「さぁて、ねェ・・・くくく。」 マクスウェル:「なァ、君ぃ。共に一杯どうかね?」 ラプラス:「あぁ善いね酔いねェ!どれ、何かの縁だ、私が奢ってやろう。」 マクスウェル:「(短く息を吐く)・・・ここは君の店ではないだろう?」 ラプラス:「細かいことは気にしないことだァ。」 マクスウェル:「はぁ・・・まァ善いが。」 ラプラス:「あァ、君がそう言うことは解っていたとも。」 マクスウェル:「・・・だろうねェ。」 ラプラス:「くくく・・・。」 マクスウェル:「あァ、君。見てのとおり、マスターは不在だ。善ければ私が酒を作るが。どうかね。」 ラプラス:「ひゅーウ。君の作る酒は美味いぞゥ!」 マクスウェル:「適正な温度で提供する酒こそ、飲む価値があるというモノ。それこそ、安酒でも、だ。」 ラプラス:「あァ。どおりでチィプな味がすると思ったヨ。」 マクスウェル:「君のは格段に安いモノを使っているとも。」 ラプラス:「くはは!あァ、そうだと思ったよォ。」 マクスウェル:「ふっ・・・ん?あァ、すまない。何を飲むかね、君。」  :ふと、思い浮かんだ酒の名前を告げる。 ラプラス:「・・・ほほゥ。君は善い趣味をしているねェ。」 マクスウェル:「ふむ、善かろう。私が作ってやろう。」  :ひとつの影が立ち上がり、手を前にかざすと、いくつかの中身の入った瓶がフワリと宙に浮く。 ラプラス:「・・・んう?何を驚いているんだい?」 ラプラス: ラプラス:「私たちは見てのとおり、『悪魔』だヨ?」 ラプラス: ラプラス:「くくく、私たちはその中でも(特異な存在でェーー。)」 マクスウェル:「(被せて)ラプラス。喋りすぎだ。」 ラプラス:「くはは!怒られちまったねェ!」 マクスウェル:「はァ・・・まったく・・・。」  :立ち上がった彼が指をパチンと鳴らすと、虚空からいくつかの氷が現れ、グラスの中にカランカランと落ちていく。  :  :宙に浮いた瓶から、グラスに中身が次々に注がれる。 ラプラス:「いやァ!いつ見ても見事なもんだァ!」 マクスウェル:「君は少しは静かにできないのかね?」 ラプラス:「くくく。長い付き合いだ、もう慣れたろォ?」 マクスウェル:「ふっ。まァな。」  :完成したらしいそれを手渡される。 マクスウェル:「さァ。マスターが不在ゆえな、私の奢りでもなんでもないが、まァ、飲みたまえよ。」 ラプラス:「いい感じに冷えてるだろうからねェ。」 マクスウェル:「あァ、そうだ。美味いうちに飲むことをオススメするとも。」 ラプラス:「ほらほらァ。グラスを持ってェ!ダウン・ザ・ハッチ!」 マクスウェル:「ダウン・ザ・ハッチ。」  :二つの影は、元々彼らの手元にあったグラスを口元に運び、グビグビと音を立てて飲み干す。 ラプラス:「・・・っっっはァ!解っちゃいても、君が作る酒は格別だねェ!」 マクスウェル:「くっふっふ。当然だ。」  :口元をニヤリと歪め、彼はまた一口、ぐびりとグラスを傾ける。 ラプラス:「でェ?どうして君は、こォんなところへェ?」  :そう尋ねる彼の口元が、ぐにゃりと嘲笑うような形に歪む。  :首を大きく傾けて、こちらの言葉を待っているようだ。  :  :得体の知れない不気味さに、『私』は思わず言葉を詰まらせーー・・・ぽつりぽつりと、言葉を紡いだ。 マクスウェル:「・・・ふむ。要約すると、だ。君は気付いたらここに居て、しかもこれまでの記憶が無い、と?」 ラプラス:「そういうことにィ、なるねェ。」 マクスウェル:「ここはねェ、『私達』のような者のみが存在できる空間だ。『人間』にとっては、毒沼のようなモノだろう。」 ラプラス:「ま、長くは居られないだろうなァ。」  :彼らは『悪魔』だから存在できるというのだろうか? マクスウェル:「・・・。」 ラプラス:「くくく、そう睨むなよォ。確かに口は滑ったけどよォ、どの道イレギュラーなんだ。仕方なかろォ?」 マクスウェル:「・・・はァ・・・まァ善い。致し方ない。」 ラプラス:「くくく・・・んー?君のこれから言おうとしていること、当ててあげよっかァ?」 ラプラス: ラプラス:「ズバリ『どうして口に出していないのに解るのか』ってことだろォ?んん?」  :ーーっ! マクスウェル:「くっふっふ・・・まさに図星、といった顔だねェ。」 ラプラス:「くくく・・・私達は『悪魔』だヨ。」 マクスウェル:「あァ、その通り。私達は『観測する者』だ。」  :ーー観測・・・?一体何を・・・。 ラプラス:「私は『全てのモノの物理的な状態』を。」 マクスウェル:「そして私は『全ての気体分子の動き』を。」  :ーーえぇと・・・どういうこと、だ・・・? ラプラス:「くくく、解らないかァ。」 マクスウェル:「簡単に言うと、だ。私は『熱エネルギーを支配』できる。」 ラプラス:「私は『未来を選び取れる』ってことだよ。」  :ーー・・・? ラプラス:「くくく!まァ、小難しい話はいいさァ。」 マクスウェル:「あァ、そうだな。」 ラプラス:「問題はァ。ここに何故、君がいるのか、だよォ。」 マクスウェル:「あァ。聞くまでもないが、君は此処が何処なのか、解っているのかね?」  :・・・見慣れないバーカウンター。  :当然だが、どうやら記憶喪失らしい『私』は首を横に振った。 ラプラス:「くくく、だろうねェ。」 マクスウェル:「記憶がない、ということらしいが。何処からこの『店』に入ったのか、解らないのだろう?」 ラプラス:「気付いたらここに居た、って言ってたねェ。」  :周りを見回すと、ちょうど『私』の真後ろに、扉がひとつ見えた。 ラプラス:「あァ。みなまで言わなくとも解るとも。」  :そうだ。この扉を通って入ってきた覚えはなかった。  :コクリ、と頷きを返す。 マクスウェル:「・・・ふむ。・・・ここは、事象の海を泳ぐ『鯨』の腹の中だ。」 ラプラス:「事象の海ってェのは、まァ、噛み砕いて言うと、だ。私達みたいな、『人ならざる者』のような、『人間』の理(ことわり)から外れた者だけが存在できるところだァ。」 マクスウェル:「しかし。見たところ、君は『人間』のようだが。」 ラプラス:「あァ。『鯨』の腹の中でも平気で居られるたァ、アイツしか居ねェ。」 マクスウェル:「ふむ。神代(じんだい)であれば、彼らこそ重宝されそうだが。」 ラプラス:「くくく、現代はねェ。本当に便利な時代になったねェ。」 マクスウェル:「くっふっふ・・・確か、スマホ、といったか?アレは善いな。」 ラプラス:「だねェ。私達が生まれた頃には無かったモノだ。」  :二つの影は笑い合っている。  :  :子供の成長を喜ぶようでいて、しかし、どこか嘲笑を含んでいるような、そんな表情だった。  :  :その様子が、彼らが『人ならざる者』であることの証明のように感じた。 マクスウェル:「あァ。そういえば、まだ名乗っていなかったねェ。」 ラプラス:「私は、ラプラスだよォ。」 マクスウェル:「マクスウェルだ。」  :ーーあ、えっと、私はーー■■■と申します。 ラプラス:「んン?名前を聞き取れないねェ?」  :私は、■■■・・・名前が・・・言えない? マクスウェル:「・・・ふむ。おそらく、君の記憶がないことが関係しているのだろうねェ。」 ラプラス:「あァ。私もそう思うよォ。」  :・・・一体『私』はどうすれば・・・。 マクスウェル:「・・・ふむ。ここはねェ、君達『人間』のいる世界とは切り離された『鯨』の腹の中だ。」  :ーーあぁ、それは先ほど聞きました。 マクスウェル:「まァ最後まで聞きたまえよ。」 ラプラス:「くくく・・・神代(じんだい)から『鯨』の腹の中でも平気でいられる『人間』とはァ、決まってるんだよォ。」 マクスウェル:「それはねェ、君。『英雄』だよ。」  :ーー『英雄』・・・?『私』が・・・? ラプラス:「あァ。そうさァ。正確には『英雄』の血をひく・・・つまり、末裔だろうねェ。」 マクスウェル:「ふむ。どの『英雄』の末裔かは解らんが、ねェ。」  :ーー『英雄』・・・うっ・・・ぐっ・・・。 ラプラス:「んン?頭が痛いのかいィ?」 マクスウェル:「一杯飲んで落ち着くと善いだろう。」  :先ほど手渡されたグラスを一気に飲み干す。  :  :ーーっ!・・・そうか・・・『私』は・・・! マクスウェル:「ふむ。落ち着いたかね。」 ラプラス:「おンやァ?何か思い出したようだねェ?」  :ーーあぁ・・・思い出した・・・。 ラプラス:「くっくっく!そりゃあ良かった!」  :ーー・・・『私』は・・・もうこの世界に必要ないのか・・・? マクスウェル:「くっふっふ・・・この時代に、化け物退治をした『英雄』は、必要ない。」 ラプラス:「もうこの世界に、魔物も、怪物も、存在しないねェ。」 マクスウェル:「ならば『英雄』の末裔よ。」 ラプラス:「この世界に。」 マクスウェル:「『英雄』たらんとするならば。」 ラプラス:「私達と契約してみないかィ?」  :ーー・・・契約・・・だと・・・? マクスウェル:「あァ。そうだ。」 ラプラス:「君は、両親から英雄譚(えいゆうたん)を聴かせてもらったことはあるねィ?」  :コクリ、と頷く。 マクスウェル:「ふむ。であるなら。君もまた、その英雄譚に憧れたはずだ。そうだろうゥ?」 ラプラス:「くくく・・・だが。『英雄』の血は、度重なる交配の末、力を弱めてしまったァ・・・。」 マクスウェル:「ならば。」 ラプラス:「私達が。」 マクスウェル:「力を与えてやろう。」  :ーーっ?! ラプラス:「契約すれば、君は間違いなく『英雄』の力を取り戻せるだろうねェ。」 マクスウェル:「或いは、私達の力を上乗せすれば・・・過去最高の『英雄』にだってなれるだろうさァ。」 ラプラス:「ただしィ、無論、対価は払って貰うよォ?」  :ーー・・・何を・・・。 ラプラス:「くっくっく!代わりに、私達を連れて行って貰おうじゃあないかねェ。」 マクスウェル:「そうだなァ。ラプラスとは無二の友であるが、いささかこの店にも飽いた。」 ラプラス:「あァ。違いない。」  :ーーふざけるな!!『私』は『英雄』だぞ!! マクスウェル:「くっふっふ!まァ、落ち着きたまえよ。」  :ーー『英雄』が・・・『悪魔』と契約だと?!  :  :ーー我が祖国の象徴たるクローバーに誓い、そんなことする筈が無いだろう!! ラプラス:「くっくっく!力無き『英雄』様が。」 マクスウェル:「一体此処で、何ができるのだね?んン?」  :ーーっ・・・。 ラプラス:「くくく!ぐうの音も出ないようだねェ!」 ラプラス:「そォれェにィ、だ。」 マクスウェル:「君、先程のグラスを飲み干したねェ?」 ラプラス:「いけないねェ。『悪魔』から受け取ったモノを、簡単に口にしちゃァ。」 マクスウェル:「くっはっは!君がいくら抗おうと、これにて契約は成立、だなァ。」  :ーーぐっ・・・?!熱いっ・・・がああああああ!!! ラプラス:「おやおやァ、こいつはツラそうだねェ。」 マクスウェル:「あァ・・・君も善い声で哭くのだなァ。」 ラプラス:「『英雄』さんよォ。その手の甲に表れたのがァ、契約印さァ。」 マクスウェル:「そうとも。君は私達の契約者、解りやすく言えば、私達の奴隷ということだ。」  :ーーなっ?!奴隷・・・だと?! マクスウェル:「つまり、だ。先ほど君が口にしたアレは、『悪魔』が『人間』を従えるための契約の儀に使うモノ、というワケだ。」 ラプラス:「くっくっく!さァ、『英雄』殿!力は得た!!」 マクスウェル:「一般的にクローバーの花言葉は『幸運』である、とあるが、他の花言葉は識っているかねェ?」  :ーーう・・・ぐっ・・・一体、何を・・・? マクスウェル:「・・・『復讐』だよ。」  :ーーひっ・・・?! マクスウェル:「くっはっはっは!善い顔だ!『英雄』殿ォ!!」 ラプラス:「私達は、飽くまで『悪魔』だヨォ?」  :ーーくっ・・・来るなっ!! マクスウェル:「くっふっふ!契約は完了した。あとは君の願いを叶えるだけ、だなァ。」 ラプラス:「君を不要とした『人間』共の首をォ。」 マクスウェル:「『英雄』の聖剣でェ、首を跳ねて回ろうでは無いかね!!」 ラプラス:「くっくっく!なァ、『英雄』殿ォ・・・さァ!!さァさァさァさァ!!!」 マクスウェル:「我らが権能を以って!!」 ラプラス:「君を『反英雄』にしてやろう!!!」 マクスウェル:「あァ、そうだ。『英雄』ここに有り、と!!『人間』共に証明してやろうではないか!!!」 ラプラス・マクスウェル:「「くっはははははははは!!!!」」  : 0:END.

0:悪魔の証明  :・・・目を開くと、薄暗い店内が見えた。バー、だろうか・・・?  :  :カウンター席に座る二つの影ーー。  :  :片方が『私』に気付いたらしく、顔を上げる。 ラプラス:「・・・おや?お客さんですかねェ。」 マクスウェル:「ほう。こんな所に何用かね。」 ラプラス:「さぁて、ねェ・・・くくく。」 マクスウェル:「なァ、君ぃ。共に一杯どうかね?」 ラプラス:「あぁ善いね酔いねェ!どれ、何かの縁だ、私が奢ってやろう。」 マクスウェル:「(短く息を吐く)・・・ここは君の店ではないだろう?」 ラプラス:「細かいことは気にしないことだァ。」 マクスウェル:「はぁ・・・まァ善いが。」 ラプラス:「あァ、君がそう言うことは解っていたとも。」 マクスウェル:「・・・だろうねェ。」 ラプラス:「くくく・・・。」 マクスウェル:「あァ、君。見てのとおり、マスターは不在だ。善ければ私が酒を作るが。どうかね。」 ラプラス:「ひゅーウ。君の作る酒は美味いぞゥ!」 マクスウェル:「適正な温度で提供する酒こそ、飲む価値があるというモノ。それこそ、安酒でも、だ。」 ラプラス:「あァ。どおりでチィプな味がすると思ったヨ。」 マクスウェル:「君のは格段に安いモノを使っているとも。」 ラプラス:「くはは!あァ、そうだと思ったよォ。」 マクスウェル:「ふっ・・・ん?あァ、すまない。何を飲むかね、君。」  :ふと、思い浮かんだ酒の名前を告げる。 ラプラス:「・・・ほほゥ。君は善い趣味をしているねェ。」 マクスウェル:「ふむ、善かろう。私が作ってやろう。」  :ひとつの影が立ち上がり、手を前にかざすと、いくつかの中身の入った瓶がフワリと宙に浮く。 ラプラス:「・・・んう?何を驚いているんだい?」 ラプラス: ラプラス:「私たちは見てのとおり、『悪魔』だヨ?」 ラプラス: ラプラス:「くくく、私たちはその中でも(特異な存在でェーー。)」 マクスウェル:「(被せて)ラプラス。喋りすぎだ。」 ラプラス:「くはは!怒られちまったねェ!」 マクスウェル:「はァ・・・まったく・・・。」  :立ち上がった彼が指をパチンと鳴らすと、虚空からいくつかの氷が現れ、グラスの中にカランカランと落ちていく。  :  :宙に浮いた瓶から、グラスに中身が次々に注がれる。 ラプラス:「いやァ!いつ見ても見事なもんだァ!」 マクスウェル:「君は少しは静かにできないのかね?」 ラプラス:「くくく。長い付き合いだ、もう慣れたろォ?」 マクスウェル:「ふっ。まァな。」  :完成したらしいそれを手渡される。 マクスウェル:「さァ。マスターが不在ゆえな、私の奢りでもなんでもないが、まァ、飲みたまえよ。」 ラプラス:「いい感じに冷えてるだろうからねェ。」 マクスウェル:「あァ、そうだ。美味いうちに飲むことをオススメするとも。」 ラプラス:「ほらほらァ。グラスを持ってェ!ダウン・ザ・ハッチ!」 マクスウェル:「ダウン・ザ・ハッチ。」  :二つの影は、元々彼らの手元にあったグラスを口元に運び、グビグビと音を立てて飲み干す。 ラプラス:「・・・っっっはァ!解っちゃいても、君が作る酒は格別だねェ!」 マクスウェル:「くっふっふ。当然だ。」  :口元をニヤリと歪め、彼はまた一口、ぐびりとグラスを傾ける。 ラプラス:「でェ?どうして君は、こォんなところへェ?」  :そう尋ねる彼の口元が、ぐにゃりと嘲笑うような形に歪む。  :首を大きく傾けて、こちらの言葉を待っているようだ。  :  :得体の知れない不気味さに、『私』は思わず言葉を詰まらせーー・・・ぽつりぽつりと、言葉を紡いだ。 マクスウェル:「・・・ふむ。要約すると、だ。君は気付いたらここに居て、しかもこれまでの記憶が無い、と?」 ラプラス:「そういうことにィ、なるねェ。」 マクスウェル:「ここはねェ、『私達』のような者のみが存在できる空間だ。『人間』にとっては、毒沼のようなモノだろう。」 ラプラス:「ま、長くは居られないだろうなァ。」  :彼らは『悪魔』だから存在できるというのだろうか? マクスウェル:「・・・。」 ラプラス:「くくく、そう睨むなよォ。確かに口は滑ったけどよォ、どの道イレギュラーなんだ。仕方なかろォ?」 マクスウェル:「・・・はァ・・・まァ善い。致し方ない。」 ラプラス:「くくく・・・んー?君のこれから言おうとしていること、当ててあげよっかァ?」 ラプラス: ラプラス:「ズバリ『どうして口に出していないのに解るのか』ってことだろォ?んん?」  :ーーっ! マクスウェル:「くっふっふ・・・まさに図星、といった顔だねェ。」 ラプラス:「くくく・・・私達は『悪魔』だヨ。」 マクスウェル:「あァ、その通り。私達は『観測する者』だ。」  :ーー観測・・・?一体何を・・・。 ラプラス:「私は『全てのモノの物理的な状態』を。」 マクスウェル:「そして私は『全ての気体分子の動き』を。」  :ーーえぇと・・・どういうこと、だ・・・? ラプラス:「くくく、解らないかァ。」 マクスウェル:「簡単に言うと、だ。私は『熱エネルギーを支配』できる。」 ラプラス:「私は『未来を選び取れる』ってことだよ。」  :ーー・・・? ラプラス:「くくく!まァ、小難しい話はいいさァ。」 マクスウェル:「あァ、そうだな。」 ラプラス:「問題はァ。ここに何故、君がいるのか、だよォ。」 マクスウェル:「あァ。聞くまでもないが、君は此処が何処なのか、解っているのかね?」  :・・・見慣れないバーカウンター。  :当然だが、どうやら記憶喪失らしい『私』は首を横に振った。 ラプラス:「くくく、だろうねェ。」 マクスウェル:「記憶がない、ということらしいが。何処からこの『店』に入ったのか、解らないのだろう?」 ラプラス:「気付いたらここに居た、って言ってたねェ。」  :周りを見回すと、ちょうど『私』の真後ろに、扉がひとつ見えた。 ラプラス:「あァ。みなまで言わなくとも解るとも。」  :そうだ。この扉を通って入ってきた覚えはなかった。  :コクリ、と頷きを返す。 マクスウェル:「・・・ふむ。・・・ここは、事象の海を泳ぐ『鯨』の腹の中だ。」 ラプラス:「事象の海ってェのは、まァ、噛み砕いて言うと、だ。私達みたいな、『人ならざる者』のような、『人間』の理(ことわり)から外れた者だけが存在できるところだァ。」 マクスウェル:「しかし。見たところ、君は『人間』のようだが。」 ラプラス:「あァ。『鯨』の腹の中でも平気で居られるたァ、アイツしか居ねェ。」 マクスウェル:「ふむ。神代(じんだい)であれば、彼らこそ重宝されそうだが。」 ラプラス:「くくく、現代はねェ。本当に便利な時代になったねェ。」 マクスウェル:「くっふっふ・・・確か、スマホ、といったか?アレは善いな。」 ラプラス:「だねェ。私達が生まれた頃には無かったモノだ。」  :二つの影は笑い合っている。  :  :子供の成長を喜ぶようでいて、しかし、どこか嘲笑を含んでいるような、そんな表情だった。  :  :その様子が、彼らが『人ならざる者』であることの証明のように感じた。 マクスウェル:「あァ。そういえば、まだ名乗っていなかったねェ。」 ラプラス:「私は、ラプラスだよォ。」 マクスウェル:「マクスウェルだ。」  :ーーあ、えっと、私はーー■■■と申します。 ラプラス:「んン?名前を聞き取れないねェ?」  :私は、■■■・・・名前が・・・言えない? マクスウェル:「・・・ふむ。おそらく、君の記憶がないことが関係しているのだろうねェ。」 ラプラス:「あァ。私もそう思うよォ。」  :・・・一体『私』はどうすれば・・・。 マクスウェル:「・・・ふむ。ここはねェ、君達『人間』のいる世界とは切り離された『鯨』の腹の中だ。」  :ーーあぁ、それは先ほど聞きました。 マクスウェル:「まァ最後まで聞きたまえよ。」 ラプラス:「くくく・・・神代(じんだい)から『鯨』の腹の中でも平気でいられる『人間』とはァ、決まってるんだよォ。」 マクスウェル:「それはねェ、君。『英雄』だよ。」  :ーー『英雄』・・・?『私』が・・・? ラプラス:「あァ。そうさァ。正確には『英雄』の血をひく・・・つまり、末裔だろうねェ。」 マクスウェル:「ふむ。どの『英雄』の末裔かは解らんが、ねェ。」  :ーー『英雄』・・・うっ・・・ぐっ・・・。 ラプラス:「んン?頭が痛いのかいィ?」 マクスウェル:「一杯飲んで落ち着くと善いだろう。」  :先ほど手渡されたグラスを一気に飲み干す。  :  :ーーっ!・・・そうか・・・『私』は・・・! マクスウェル:「ふむ。落ち着いたかね。」 ラプラス:「おンやァ?何か思い出したようだねェ?」  :ーーあぁ・・・思い出した・・・。 ラプラス:「くっくっく!そりゃあ良かった!」  :ーー・・・『私』は・・・もうこの世界に必要ないのか・・・? マクスウェル:「くっふっふ・・・この時代に、化け物退治をした『英雄』は、必要ない。」 ラプラス:「もうこの世界に、魔物も、怪物も、存在しないねェ。」 マクスウェル:「ならば『英雄』の末裔よ。」 ラプラス:「この世界に。」 マクスウェル:「『英雄』たらんとするならば。」 ラプラス:「私達と契約してみないかィ?」  :ーー・・・契約・・・だと・・・? マクスウェル:「あァ。そうだ。」 ラプラス:「君は、両親から英雄譚(えいゆうたん)を聴かせてもらったことはあるねィ?」  :コクリ、と頷く。 マクスウェル:「ふむ。であるなら。君もまた、その英雄譚に憧れたはずだ。そうだろうゥ?」 ラプラス:「くくく・・・だが。『英雄』の血は、度重なる交配の末、力を弱めてしまったァ・・・。」 マクスウェル:「ならば。」 ラプラス:「私達が。」 マクスウェル:「力を与えてやろう。」  :ーーっ?! ラプラス:「契約すれば、君は間違いなく『英雄』の力を取り戻せるだろうねェ。」 マクスウェル:「或いは、私達の力を上乗せすれば・・・過去最高の『英雄』にだってなれるだろうさァ。」 ラプラス:「ただしィ、無論、対価は払って貰うよォ?」  :ーー・・・何を・・・。 ラプラス:「くっくっく!代わりに、私達を連れて行って貰おうじゃあないかねェ。」 マクスウェル:「そうだなァ。ラプラスとは無二の友であるが、いささかこの店にも飽いた。」 ラプラス:「あァ。違いない。」  :ーーふざけるな!!『私』は『英雄』だぞ!! マクスウェル:「くっふっふ!まァ、落ち着きたまえよ。」  :ーー『英雄』が・・・『悪魔』と契約だと?!  :  :ーー我が祖国の象徴たるクローバーに誓い、そんなことする筈が無いだろう!! ラプラス:「くっくっく!力無き『英雄』様が。」 マクスウェル:「一体此処で、何ができるのだね?んン?」  :ーーっ・・・。 ラプラス:「くくく!ぐうの音も出ないようだねェ!」 ラプラス:「そォれェにィ、だ。」 マクスウェル:「君、先程のグラスを飲み干したねェ?」 ラプラス:「いけないねェ。『悪魔』から受け取ったモノを、簡単に口にしちゃァ。」 マクスウェル:「くっはっは!君がいくら抗おうと、これにて契約は成立、だなァ。」  :ーーぐっ・・・?!熱いっ・・・がああああああ!!! ラプラス:「おやおやァ、こいつはツラそうだねェ。」 マクスウェル:「あァ・・・君も善い声で哭くのだなァ。」 ラプラス:「『英雄』さんよォ。その手の甲に表れたのがァ、契約印さァ。」 マクスウェル:「そうとも。君は私達の契約者、解りやすく言えば、私達の奴隷ということだ。」  :ーーなっ?!奴隷・・・だと?! マクスウェル:「つまり、だ。先ほど君が口にしたアレは、『悪魔』が『人間』を従えるための契約の儀に使うモノ、というワケだ。」 ラプラス:「くっくっく!さァ、『英雄』殿!力は得た!!」 マクスウェル:「一般的にクローバーの花言葉は『幸運』である、とあるが、他の花言葉は識っているかねェ?」  :ーーう・・・ぐっ・・・一体、何を・・・? マクスウェル:「・・・『復讐』だよ。」  :ーーひっ・・・?! マクスウェル:「くっはっはっは!善い顔だ!『英雄』殿ォ!!」 ラプラス:「私達は、飽くまで『悪魔』だヨォ?」  :ーーくっ・・・来るなっ!! マクスウェル:「くっふっふ!契約は完了した。あとは君の願いを叶えるだけ、だなァ。」 ラプラス:「君を不要とした『人間』共の首をォ。」 マクスウェル:「『英雄』の聖剣でェ、首を跳ねて回ろうでは無いかね!!」 ラプラス:「くっくっく!なァ、『英雄』殿ォ・・・さァ!!さァさァさァさァ!!!」 マクスウェル:「我らが権能を以って!!」 ラプラス:「君を『反英雄』にしてやろう!!!」 マクスウェル:「あァ、そうだ。『英雄』ここに有り、と!!『人間』共に証明してやろうではないか!!!」 ラプラス・マクスウェル:「「くっはははははははは!!!!」」  : 0:END.