台本概要
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タイトル | 1話『月夜に提灯 昼行燈に鍵』 |
---|---|
作者名 | 野菜 (@irodlinatuyasai) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(不問2) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
こちらのお話だけでも問題ありません。 また、キャラの性別解釈・役者様の性別は問いません。 昼行燈探偵シリーズ第一話。 行く先々で不幸な事故や事件にあう学生はるか。彼の後見人として面倒を見る作家、椿。普段はぐうたら、編集担当には昼行燈よばわりを受ける彼女だが、はるかと共に事件に遭ううちに変わっていく。……いくのか? 【昼行燈ーひるあんどん】 《日中に行灯をともしても、うすぼんやりとしているところから》ぼんやりした人、役に立たない人をあざけっていう語。しかしそう呼ばれるあの人の本性は・・・? 408 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
椿 | 不問 | 74 | 末永椿(すえながつばき)。本名ではなく数あるペンネームのひとつ。小説家。野木はるかの後見人。和服。昼行燈を装っているのか、本当にダメ人間なのか謎。 |
はるか | 不問 | 77 | 野木はるか(のぎはるか)。学生(年齢不問)。セリフ上では一人称俺なので性別変更の時は自由に変えてください。だらしのない椿の面倒を見るのが趣味。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
はるか:ただいま帰りましたー。せんせ。
椿:ああ、おかえり。手を洗っておいで。
はるか:はーい。せんせ、また休憩ですか?また編集の雨守(あまもり)さんにイジメられますよ。
椿:うん。仕事ね、うん。
はるか:どうかされたんですか。それともいつもの「働いたら負け」ですか?………って、なんですか、その鍵。
椿:おまえさんも分からないかあ。
はるか:どこの鍵か分からない、と。困りましたね。とりあえず俺のではないです。鍵かけるようなもの持ってないし、家の鍵はさっき使って入ってきたし。
椿:うーん、困ったねえ。
はるか:……ほんとに困ってますか?
椿:おまえさんが帰ってきたからー、それほどでもないかな。
はるか:そりゃあ、助けますけど。全部俺任せにしないでくださいね。
0:
0:タイトルコール
はるか:『月夜に提灯(ちょうちん)』
椿:『昼行燈(ひるあんどん)に鍵』
0:
はるか:せんせ。とりあえずこの家で鍵のかかってるものって何がありますか?鍵、試しましたか?
椿:試してないかな。おまえさんの鍵だったら即解決で楽だなって。
はるか:ではひとつひとつ試していきますね。違うだろうけど玄関と、せんせーの仕事部屋?
椿:あとは金庫と、車と、あーフルートのケースも鍵かけてたっけな。
はるか:玄関から、外出て車見て、金庫のある仕事部屋の順に回りましょう。家主はせんせーなんですからついてきてくださいね。
椿:はあい。
0:
はるか:案の定玄関は違いますね。
椿:無理やり力をこめないようにね。………たぶん鍵が折れるか曲がるだろうから。
はるか:うーん、大きさ的には近い気がするんだけどな。
椿:ふふ。じゃあ車の鍵空けるね。
はるか:………開きましたね。この謎の鍵、使わずに。
椿:そうだね。
はるか:車の合鍵って、普通、作りませんよね?で、今お持ちの別の鍵で開きましたね、車のドア。
椿:エンジンかけてみる?
はるか:かかりませんでしたとも!!
0:
はるか:仕事部屋の鍵だといいんですが……。残りの金庫とフルートは明らかに違う気がします。
椿:この鍵、久々に使うねえ。
はるか:小説家だからって仕事部屋に鍵つけたのに、そもそもせんせー施錠しませんよね。
椿:面倒でねえ。……ああ、ここの鍵でもないね。
はるか:………金庫の鍵、ダイヤル錠ですよ?
椿:あ、そっちの大きい方じゃなくてね、これ。
はるか:その著者献本(ちょしゃけんぽん)の棚、本以外にも物があったんですね。
椿:後見人になる時におまえさんや裁判所とやりとりした書類一式だよ。これだけは失くしたくないからね。
はるか:…………ずいぶん昔の出来事に感じます。
椿:少しは前より幸せだと思ってもらえてるのかな?………ああ、でもやはり鍵穴の大きさが数ミリ小さいね。違ったようだ。
0:
はるか:フルートの方は論外でしたね。フルートの鍵の方をせんせーが失くしていたことは置いておいて。
椿:ふふっ。
はるか:せんせーはこの鍵、どう思います?
椿:どう、ねぇ。
はるか:ほら、せんせー色々謎の知識持ってますから。俺には見覚えあるし、家の鍵っぽいのになーくらいしか感想ないですけど。
椿:そうだね。恐らく扉の鍵だけれど、ここの鍵ではないかな。ディンプルキーじゃないし。見た限り、ディスクタンブラーっぽいけどそこまで詳しくないからなあ。
はるか:………へーえ?そこまで察しがついていながら、黙ってたんですね?
椿:おまえさんが楽しんでくれるかなって。
はるか:そんなその場限りのちゃらんぽらんだから雨守さんに「昼行燈」呼ばわりされるんですよ!
椿:どうどう。
はるか:なんでこんな人が世間では天才人気小説家なんだろう…………。俺もう何も信じたくない…………。
椿:はっはっは。おまえさんが来てからはネタに事欠かないからねえ。
はるか:そもそも、この鍵どこで見つけたんですか。外だったら俺今日夕食係サボりますよ。
椿:外ではないが、勤勉なるおまえさんは怒るかもしれないね。
はるか:せんせ、正座。
椿:はあい。
はるか:どこにあったの。
椿:以前刑事さんたちにコピーをもらった資料の山。
はるか:………は?
椿:机の上に山積みにしておいたものを、床の隅に移動させようとしたら、こう、するっと紙の間から出て床にころーんと。
はるか:証拠品じゃないかっっ!!
椿:はっはっは。困ったねえ。
はるか:過去のものとはいえ重要書類なんですから!床に!置かないの!!今書類はどちらに?
椿:その辺かなあ。
はるか:早くも曖昧なのは何故!?ああああ雪崩起こしてるじゃないですか!
0:
0:【間】
0:
はるか:こういう場合って、やっぱり警察署に行くべきですよね。
椿:まあ待ちたまえよ。いきなり謎の鍵を持ちこんでも向こうさんも困ってしまうだろう?かといって鍵屋に相談しようにも、鍵屋といったってこの国中の鍵の中から錠前を特定するなんてこと、出来ないし出来てはならない。それは分かるね?
はるか:確かに簡単にそれができてしまったら、落とした鍵を拾った悪い人が、悪いことに使いやすくなってしまうかも?しれません。
椿:つまり、鍵屋に頼らないで、ある程度いつの事件の、どこの鍵っぽい、という程度には思い出さないと、迷惑をかけてしまうね?
はるか:………せんせ、楽しんでますね。
椿:当たり前だろう?「働いたら負け」。いかに楽しく仕事をサボるか。これほど重要なことがあるかね?
はるか:あると思います。そりゃもう、たくさん。
椿:おまえさんが良い子で私は嬉しいよ。
はるか:この書類はどういった順番で山積みになってますか?
椿:もらった順に乗せたはずだから、書類は上から最近のものが積まれているはずだよ。
はるか:では、上の書類から目を通していって、扉の鍵をもらうような事件が出てこないか記憶を辿りましょう。いいですねホームズ殿?
椿:頼りにしているよ、ワトソンくん?
0:
はるか:まずは……先月のみのり銀行強盗未遂事件の資料ですね。お金目的の犯人三人が、平日の小さな銀行に襲撃したということになってます。
椿:あったねえ。学校が開校記念日でお休みだった君を連れて、生活費を下ろしに行った時だね。ふふ、トイレから戻ってきたらおまえさん、捕まっているんだもの。
はるか:笑いごとじゃないですよ、まったく。俺がおばあちゃんかばって、土下座状態で銃突きつけられてたのに。せんせ、なんて言ったか覚えてます?きょとん、として、
はるか:「おや、お邪魔だったかな」って!!
椿:はっはっは。そうだったけね?無事解決したのだからいいじゃないか。
はるか:…………そうですね、終わったことです。銀行で鍵とか拾ってませんよね?
椿:うん。それにあの緊急事態の中、銀行の中のどこかの鍵をもらった覚えもないかな。鍵のかかった扉も私たちは近づかなかったし。これは後日いただいたざっくりとした報告書だから、鍵が添付されているのもおかしいね。
はるか:では、次の資料に行きましょう。
0:
椿:おや、「血まみれBAR事件」じゃないか。これ刑事さんがちゃんと現場写真くれた資料なんだよ、見てごらん。
はるか:や・め・て・ください。思い出したくもないです。
椿:新作のミステリーを書くときに、BARの裏側やバーテンダーさんに関する資料が欲しくてね。どこのBARに取材しようか迷ってたんだよね。そうしたらおまえさんがネットでいいBARを見つけてくれたものだから、一緒に行ったんだよね。
はるか:なんであのBAR見つけちゃったんでしょう…………。まさかせんせとマスターが席を外してる間に警察とスタッフさんが殺し合いを始めちゃうなんて………。
椿:いやあ、うまいことマスターを説得できてよかったよ。おまえさんが時間稼ぎしてくれなきゃ、証拠集めできなかったなあ。
はるか:お店のスタッフさんたちがマスターに内緒でよくないクスリを売(っていたなんて)
椿:(さえぎって)ストップ。ホットケーキミックス。りぴーと。あふたあ。みー。ホットケーキミックス。
はるか:ホットケーキミックス。
椿:良い子だ。続けて。
はるか:お店のスタッフさんたちがマスターに内緒でよくないホットケーキミックスを売っていたなんて…………。
椿:悲しい、事件だったね…
はるか:鍵、関係ありませんよね?
椿:ないね。ダイヤル錠やナンバーロックはあったけど、それだけかな。
0:
はるか:はい、冬山のロッジ密室殺人の資料です。俺たちの泊まっていた部屋の隣で密室殺人が起きましたね。
椿:不思議だったねえ。そもそもそのロッジじゃなくて、あくまで山を越えた先の街に用事があったのに。バスが止まってしまったんだもの。狙ったみたいにロッジの近くで。
はるか:証拠がないから証明はできませんでしたけど、あの時せんせーはそれも犯人の狙い通りだと言ってましたね。
椿:バスの運転手さんがわざとガソリンの補給をしなかった、と言いたかったけれどね。雪でバスが滑って、真っ先に亡くなってしまったのは運転手さんだったから。
はるか:なんか、嫌な予感がするんですけども。
椿:どうしたのかな。
はるか:最後帰る時。やっと到着した警察や刑事さんに詰め寄られてわたわたしていましたが。俺たちの泊まった部屋の鍵、返しましたか?
椿:そういえば。
はるか:…………。(次の言葉を待っている)
椿:…………。(眉間を押さえて何か考えている)
はるか:…………。(そわそわしている)
椿:なあ、おまえさんや。
はるか:なんですか。
椿:結局、密室殺人事件は解決扱いだったかな?
はるか:いいえ、この資料によれば、せんせの推理では犯行が可能なものの、よくある証拠不十分で片付けられています。まだ時効は先ですね。
椿:いつもの仲のいい刑事さんじゃなく、私のことを目の敵にしている刑事が担当したからね。
はるか:お仕事ですから、仕方ないです。
椿:ところで私の推理…犯行方法は、覚えているかな?
はるか:このロッジの鍵には、それぞれどの部屋のものか分かるようにキーホルダーがつけられている。しかしこのキーホルダーはとても外れやすいため、二つ以上鍵があれば、交換して、見た目だけは他の部屋の鍵に見せかけることができる。犯人は自分の鍵、あるいは空き室の鍵と事件の起きた部屋の鍵を交換してごまかした。
椿:よく覚えていたね。事件当時のことはどうかな。
はるか:ロッジに泊まっていた人は皆、食事の前にスタッフに鍵を預けた。そのあとスタッフが殺され、二階に行ったら密室殺人が起きていた。皆自分の部屋に帰ろうとしたとき、すべての鍵はキーホルダーが外され、どこの部屋のものか分からなくなっていた。結局警察の到着までロビーで過ごして……あ。
椿:結局荷物を置いた部屋に戻れなかったため、荷物は一週間後、この事件の資料と一緒に刑事に届けられた。
はるか:この鍵、もしかして…………。
椿:この鍵が本当に私たちの部屋のものだったら問題ない。しかし、もし、事件の起きた部屋の鍵だったら?
はるか:………キーホルダー、ついていませんね。
椿:そもそも、事件の資料に隠して、チェックアウトしたロッジの鍵を送り付けてくるなんて普通ありえない。当時、これを警察にもっていっていたら、どうなっていたと思う?
はるか:………逮捕、そうでなくても、とてつもなく疑わしいですよね。容疑者ですね。
椿:終わった事件だと思って、いつか密室系小説を書く参考にしようとほっといたんだけどね。やだなあ、こういう悪意あるの。
はるか:犯人のしわざでしょうか?………まさか、警察の中に俺たちのことを…………。
椿:警戒はする、程度にとどめようね。完全なる悪も、完全なる善も存在しないのだから。
はるか:あーー……気が重いです。どうするんですかこの鍵。
椿:ではここで私流の処世術をお見せしよう。
はるか:解決策があるんですか!?
椿:そこで見ていたまえよ。
はるか:…………。(少しわくわくしている)
椿:窓を開けます。
はるか:もう夜になってしまいましたね。
椿:利き手に鍵をこのように持ちます。
はるか:せんせ、両利きじゃなかったですか?
椿:バイバーイ(鍵を全力で投げる)
はるか:コラーーーー!!!?
椿:窓を閉めます。
はるか:ええ!?うそ、うそでしょ!?ここそれなりに高層マンションだよ!?危なくない!?下の人とか車とか大丈夫!?
椿:おまえさん、私はおなかがすいてしまったよ。あと今日は魚がいい。
はるか:高速で忘却しないでください!
椿:逃げるということは生物にとって失くしてはならない選択肢である。
はるか:…………俺が、せんせに初めて会った時に聞きましたね。
椿:野生動物であれば、生き残るためには逃げることこそ王道だ。食べることの次にね。でもどうして人間だけが、逃げることを悪だと断じるようになったのか。実に嘆かわしいよ。
はるか:…………。
椿:おまえさんは、今、しあわせかい?
はるか:幸せですよ、それは。
椿:逃げてきたから。
はるか:…………ええ。俺は、義父やら、事件の犯人やら、いろんなものから逃げてきました。だから生き残ってここにいて、いることができて、幸せです。
椿:良いことだ。
はるか:ここまでならいい話なんですけどね。いつもこの話のオチ、納得いかないんですよね。だって次に出るセリフ、あれでしょう?
椿:ふふ、「働いたら負け」、だよ?
はるか:ただいま帰りましたー。せんせ。
椿:ああ、おかえり。手を洗っておいで。
はるか:はーい。せんせ、また休憩ですか?また編集の雨守(あまもり)さんにイジメられますよ。
椿:うん。仕事ね、うん。
はるか:どうかされたんですか。それともいつもの「働いたら負け」ですか?………って、なんですか、その鍵。
椿:おまえさんも分からないかあ。
はるか:どこの鍵か分からない、と。困りましたね。とりあえず俺のではないです。鍵かけるようなもの持ってないし、家の鍵はさっき使って入ってきたし。
椿:うーん、困ったねえ。
はるか:……ほんとに困ってますか?
椿:おまえさんが帰ってきたからー、それほどでもないかな。
はるか:そりゃあ、助けますけど。全部俺任せにしないでくださいね。
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0:タイトルコール
はるか:『月夜に提灯(ちょうちん)』
椿:『昼行燈(ひるあんどん)に鍵』
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はるか:せんせ。とりあえずこの家で鍵のかかってるものって何がありますか?鍵、試しましたか?
椿:試してないかな。おまえさんの鍵だったら即解決で楽だなって。
はるか:ではひとつひとつ試していきますね。違うだろうけど玄関と、せんせーの仕事部屋?
椿:あとは金庫と、車と、あーフルートのケースも鍵かけてたっけな。
はるか:玄関から、外出て車見て、金庫のある仕事部屋の順に回りましょう。家主はせんせーなんですからついてきてくださいね。
椿:はあい。
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はるか:案の定玄関は違いますね。
椿:無理やり力をこめないようにね。………たぶん鍵が折れるか曲がるだろうから。
はるか:うーん、大きさ的には近い気がするんだけどな。
椿:ふふ。じゃあ車の鍵空けるね。
はるか:………開きましたね。この謎の鍵、使わずに。
椿:そうだね。
はるか:車の合鍵って、普通、作りませんよね?で、今お持ちの別の鍵で開きましたね、車のドア。
椿:エンジンかけてみる?
はるか:かかりませんでしたとも!!
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はるか:仕事部屋の鍵だといいんですが……。残りの金庫とフルートは明らかに違う気がします。
椿:この鍵、久々に使うねえ。
はるか:小説家だからって仕事部屋に鍵つけたのに、そもそもせんせー施錠しませんよね。
椿:面倒でねえ。……ああ、ここの鍵でもないね。
はるか:………金庫の鍵、ダイヤル錠ですよ?
椿:あ、そっちの大きい方じゃなくてね、これ。
はるか:その著者献本(ちょしゃけんぽん)の棚、本以外にも物があったんですね。
椿:後見人になる時におまえさんや裁判所とやりとりした書類一式だよ。これだけは失くしたくないからね。
はるか:…………ずいぶん昔の出来事に感じます。
椿:少しは前より幸せだと思ってもらえてるのかな?………ああ、でもやはり鍵穴の大きさが数ミリ小さいね。違ったようだ。
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はるか:フルートの方は論外でしたね。フルートの鍵の方をせんせーが失くしていたことは置いておいて。
椿:ふふっ。
はるか:せんせーはこの鍵、どう思います?
椿:どう、ねぇ。
はるか:ほら、せんせー色々謎の知識持ってますから。俺には見覚えあるし、家の鍵っぽいのになーくらいしか感想ないですけど。
椿:そうだね。恐らく扉の鍵だけれど、ここの鍵ではないかな。ディンプルキーじゃないし。見た限り、ディスクタンブラーっぽいけどそこまで詳しくないからなあ。
はるか:………へーえ?そこまで察しがついていながら、黙ってたんですね?
椿:おまえさんが楽しんでくれるかなって。
はるか:そんなその場限りのちゃらんぽらんだから雨守さんに「昼行燈」呼ばわりされるんですよ!
椿:どうどう。
はるか:なんでこんな人が世間では天才人気小説家なんだろう…………。俺もう何も信じたくない…………。
椿:はっはっは。おまえさんが来てからはネタに事欠かないからねえ。
はるか:そもそも、この鍵どこで見つけたんですか。外だったら俺今日夕食係サボりますよ。
椿:外ではないが、勤勉なるおまえさんは怒るかもしれないね。
はるか:せんせ、正座。
椿:はあい。
はるか:どこにあったの。
椿:以前刑事さんたちにコピーをもらった資料の山。
はるか:………は?
椿:机の上に山積みにしておいたものを、床の隅に移動させようとしたら、こう、するっと紙の間から出て床にころーんと。
はるか:証拠品じゃないかっっ!!
椿:はっはっは。困ったねえ。
はるか:過去のものとはいえ重要書類なんですから!床に!置かないの!!今書類はどちらに?
椿:その辺かなあ。
はるか:早くも曖昧なのは何故!?ああああ雪崩起こしてるじゃないですか!
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0:【間】
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はるか:こういう場合って、やっぱり警察署に行くべきですよね。
椿:まあ待ちたまえよ。いきなり謎の鍵を持ちこんでも向こうさんも困ってしまうだろう?かといって鍵屋に相談しようにも、鍵屋といったってこの国中の鍵の中から錠前を特定するなんてこと、出来ないし出来てはならない。それは分かるね?
はるか:確かに簡単にそれができてしまったら、落とした鍵を拾った悪い人が、悪いことに使いやすくなってしまうかも?しれません。
椿:つまり、鍵屋に頼らないで、ある程度いつの事件の、どこの鍵っぽい、という程度には思い出さないと、迷惑をかけてしまうね?
はるか:………せんせ、楽しんでますね。
椿:当たり前だろう?「働いたら負け」。いかに楽しく仕事をサボるか。これほど重要なことがあるかね?
はるか:あると思います。そりゃもう、たくさん。
椿:おまえさんが良い子で私は嬉しいよ。
はるか:この書類はどういった順番で山積みになってますか?
椿:もらった順に乗せたはずだから、書類は上から最近のものが積まれているはずだよ。
はるか:では、上の書類から目を通していって、扉の鍵をもらうような事件が出てこないか記憶を辿りましょう。いいですねホームズ殿?
椿:頼りにしているよ、ワトソンくん?
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はるか:まずは……先月のみのり銀行強盗未遂事件の資料ですね。お金目的の犯人三人が、平日の小さな銀行に襲撃したということになってます。
椿:あったねえ。学校が開校記念日でお休みだった君を連れて、生活費を下ろしに行った時だね。ふふ、トイレから戻ってきたらおまえさん、捕まっているんだもの。
はるか:笑いごとじゃないですよ、まったく。俺がおばあちゃんかばって、土下座状態で銃突きつけられてたのに。せんせ、なんて言ったか覚えてます?きょとん、として、
はるか:「おや、お邪魔だったかな」って!!
椿:はっはっは。そうだったけね?無事解決したのだからいいじゃないか。
はるか:…………そうですね、終わったことです。銀行で鍵とか拾ってませんよね?
椿:うん。それにあの緊急事態の中、銀行の中のどこかの鍵をもらった覚えもないかな。鍵のかかった扉も私たちは近づかなかったし。これは後日いただいたざっくりとした報告書だから、鍵が添付されているのもおかしいね。
はるか:では、次の資料に行きましょう。
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椿:おや、「血まみれBAR事件」じゃないか。これ刑事さんがちゃんと現場写真くれた資料なんだよ、見てごらん。
はるか:や・め・て・ください。思い出したくもないです。
椿:新作のミステリーを書くときに、BARの裏側やバーテンダーさんに関する資料が欲しくてね。どこのBARに取材しようか迷ってたんだよね。そうしたらおまえさんがネットでいいBARを見つけてくれたものだから、一緒に行ったんだよね。
はるか:なんであのBAR見つけちゃったんでしょう…………。まさかせんせとマスターが席を外してる間に警察とスタッフさんが殺し合いを始めちゃうなんて………。
椿:いやあ、うまいことマスターを説得できてよかったよ。おまえさんが時間稼ぎしてくれなきゃ、証拠集めできなかったなあ。
はるか:お店のスタッフさんたちがマスターに内緒でよくないクスリを売(っていたなんて)
椿:(さえぎって)ストップ。ホットケーキミックス。りぴーと。あふたあ。みー。ホットケーキミックス。
はるか:ホットケーキミックス。
椿:良い子だ。続けて。
はるか:お店のスタッフさんたちがマスターに内緒でよくないホットケーキミックスを売っていたなんて…………。
椿:悲しい、事件だったね…
はるか:鍵、関係ありませんよね?
椿:ないね。ダイヤル錠やナンバーロックはあったけど、それだけかな。
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はるか:はい、冬山のロッジ密室殺人の資料です。俺たちの泊まっていた部屋の隣で密室殺人が起きましたね。
椿:不思議だったねえ。そもそもそのロッジじゃなくて、あくまで山を越えた先の街に用事があったのに。バスが止まってしまったんだもの。狙ったみたいにロッジの近くで。
はるか:証拠がないから証明はできませんでしたけど、あの時せんせーはそれも犯人の狙い通りだと言ってましたね。
椿:バスの運転手さんがわざとガソリンの補給をしなかった、と言いたかったけれどね。雪でバスが滑って、真っ先に亡くなってしまったのは運転手さんだったから。
はるか:なんか、嫌な予感がするんですけども。
椿:どうしたのかな。
はるか:最後帰る時。やっと到着した警察や刑事さんに詰め寄られてわたわたしていましたが。俺たちの泊まった部屋の鍵、返しましたか?
椿:そういえば。
はるか:…………。(次の言葉を待っている)
椿:…………。(眉間を押さえて何か考えている)
はるか:…………。(そわそわしている)
椿:なあ、おまえさんや。
はるか:なんですか。
椿:結局、密室殺人事件は解決扱いだったかな?
はるか:いいえ、この資料によれば、せんせの推理では犯行が可能なものの、よくある証拠不十分で片付けられています。まだ時効は先ですね。
椿:いつもの仲のいい刑事さんじゃなく、私のことを目の敵にしている刑事が担当したからね。
はるか:お仕事ですから、仕方ないです。
椿:ところで私の推理…犯行方法は、覚えているかな?
はるか:このロッジの鍵には、それぞれどの部屋のものか分かるようにキーホルダーがつけられている。しかしこのキーホルダーはとても外れやすいため、二つ以上鍵があれば、交換して、見た目だけは他の部屋の鍵に見せかけることができる。犯人は自分の鍵、あるいは空き室の鍵と事件の起きた部屋の鍵を交換してごまかした。
椿:よく覚えていたね。事件当時のことはどうかな。
はるか:ロッジに泊まっていた人は皆、食事の前にスタッフに鍵を預けた。そのあとスタッフが殺され、二階に行ったら密室殺人が起きていた。皆自分の部屋に帰ろうとしたとき、すべての鍵はキーホルダーが外され、どこの部屋のものか分からなくなっていた。結局警察の到着までロビーで過ごして……あ。
椿:結局荷物を置いた部屋に戻れなかったため、荷物は一週間後、この事件の資料と一緒に刑事に届けられた。
はるか:この鍵、もしかして…………。
椿:この鍵が本当に私たちの部屋のものだったら問題ない。しかし、もし、事件の起きた部屋の鍵だったら?
はるか:………キーホルダー、ついていませんね。
椿:そもそも、事件の資料に隠して、チェックアウトしたロッジの鍵を送り付けてくるなんて普通ありえない。当時、これを警察にもっていっていたら、どうなっていたと思う?
はるか:………逮捕、そうでなくても、とてつもなく疑わしいですよね。容疑者ですね。
椿:終わった事件だと思って、いつか密室系小説を書く参考にしようとほっといたんだけどね。やだなあ、こういう悪意あるの。
はるか:犯人のしわざでしょうか?………まさか、警察の中に俺たちのことを…………。
椿:警戒はする、程度にとどめようね。完全なる悪も、完全なる善も存在しないのだから。
はるか:あーー……気が重いです。どうするんですかこの鍵。
椿:ではここで私流の処世術をお見せしよう。
はるか:解決策があるんですか!?
椿:そこで見ていたまえよ。
はるか:…………。(少しわくわくしている)
椿:窓を開けます。
はるか:もう夜になってしまいましたね。
椿:利き手に鍵をこのように持ちます。
はるか:せんせ、両利きじゃなかったですか?
椿:バイバーイ(鍵を全力で投げる)
はるか:コラーーーー!!!?
椿:窓を閉めます。
はるか:ええ!?うそ、うそでしょ!?ここそれなりに高層マンションだよ!?危なくない!?下の人とか車とか大丈夫!?
椿:おまえさん、私はおなかがすいてしまったよ。あと今日は魚がいい。
はるか:高速で忘却しないでください!
椿:逃げるということは生物にとって失くしてはならない選択肢である。
はるか:…………俺が、せんせに初めて会った時に聞きましたね。
椿:野生動物であれば、生き残るためには逃げることこそ王道だ。食べることの次にね。でもどうして人間だけが、逃げることを悪だと断じるようになったのか。実に嘆かわしいよ。
はるか:…………。
椿:おまえさんは、今、しあわせかい?
はるか:幸せですよ、それは。
椿:逃げてきたから。
はるか:…………ええ。俺は、義父やら、事件の犯人やら、いろんなものから逃げてきました。だから生き残ってここにいて、いることができて、幸せです。
椿:良いことだ。
はるか:ここまでならいい話なんですけどね。いつもこの話のオチ、納得いかないんですよね。だって次に出るセリフ、あれでしょう?
椿:ふふ、「働いたら負け」、だよ?