台本概要

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タイトル 2話『行燈照らすは 探偵「協争」』
作者名 野菜  (@irodlinatuyasai)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 キャラの性別解釈・役者様の性別は問いません。
今回長台詞多めの回となっております。また、二話ですがすっ飛ばして三話に行っても大丈夫です。

昼行燈探偵シリーズ第二話。
行く先々で不幸な事故や事件にあう学生はるか。彼の後見人として面倒を見る作家、椿。普段はぐうたら、編集担当には昼行燈よばわりを受ける彼女だが、はるかと共に事件に遭ううちに変わっていく。……いくのか?

【昼行燈ーひるあんどん】
《日中に行灯をともしても、うすぼんやりとしているところから》ぼんやりした人、役に立たない人をあざけっていう語。しかしそう呼ばれるあの人の本性は・・・?

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
椿 不問 50 末永椿(すえながつばき)。本名ではなく数あるペンネームのひとつ。小説家。探偵ではない。野木はるかの後見人。和服。昼行燈(ひるあんどん)を装っているのか、本当にダメ人間なのか謎。
はるか 不問 49 野木はるか(のぎはるか)。学生(年齢不問)。セリフ上では一人称俺なので性別変更の時は自由に変えてください。だらしのない椿の面倒を見るのが趣味。探偵でも助手でもない。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:椿・はるかの住む町の警察署、取調室にて。二人は旅行帰りの荷物を持ったまま、刑事と向き合い、会話している。 0: 椿:警察なんて嫌いだ…………刑事なんてもっと嫌いだ…………。 はるか:せんせ、諦めてください。刑事さんもお仕事なんですよ。 椿:証拠も犯人も私たちの方で見つけ、かつ推理までしたのに。なぜ同じことを説明しなくてはならないのかな。事後処理でもやっていればいいんだ。それが仕事だろうに。 はるか:座右の銘が「働いたら負け」のせんせが、何を言いますか。刑事さん、昼行燈……げふん、せんせもお疲れですし…………それとも、犯人の岩山さんからの証言では不足でもあるんですか? 椿:…………ほーう、なんだ、刑事が盗み聞きとは趣味の良いことで。 はるか:なぜせんせが、「殺人犯の岩山ではなく、」探偵とオーナーも犯人だと言ったか、ですか? 椿:…………なんということだ、その部分だけ聞いたのか。 はるか:警察さんの到着はせんせの推理の後、すべて片付いた直後だと思っていましたが。 椿:…………誤解だ、いや誤解とは違うが、分かるよ。そこだけしか聞こえなかったのなら混乱もするだろうね。 はるか:せんせ、見てください目の前の刑部(おさかべ)刑事の顔。この生まれたてのチワワのように無垢で期待に満ちた目を。 椿:(溜息)………わかった、降参だ。単純な事件ではないからねえ、今回も。今再び、ここであのホテルで起きた騒ぎの解説をしようじゃないか。 はるか:刑事さん、お時間いただいてしまいますが、一言一句、間違いのない報告、よろしくお願いします。 椿:と、いうわけだ。おまえさんや、任せた。 はるか:ええ!?………間違ってたら、せんせ、修正してくださいよ。 0: 0:タイトルコール 椿:『行燈(あんどん)照らすは』 はるか:『探偵協争(きょうそう)』 0: 椿:まあまずは、警察と我々の間に情報の齟齬(そご)がないか、すり合わせといこうか。ホテルでは何が行われていたかな? はるか:はい。大目玉は、幽霊狩り、という幽霊探しのイベントでした。百万円という懸賞金までかけられており、…………たしか、一、二年前から始めたとか。……幽霊を捕まえろ、なんて。無理だと思いましたけどね。 椿:ホテルは幽霊ホテルと有名だったね。それを売りにしていたし、幽霊狩りイベントで客引きを狙っていたのだろう。それはさておき。ホテルは大きな11階建てのものだったが、イベントに参加していた者は私たち以外に六人いた。いや、もっと言うと、この六人しかその日、泊まっていなかったんだ。 はるか:殺人事件が起きた後、ホテルスタッフさんに聞いてびっくりしましたよね。百部屋近くあるホテルに、僕らを入れて八人て。 椿:では、六人の名前と「異名」を覚えているかな? はるか:まず、そうですね…………。「札束探偵」こと、林さん。さっき警察に逮捕された岩山さんに殺されました。 椿:「……と、金持ちは思うよ!」が口癖の変な人だね。憎めない、なんだか愛嬌のある人だった。 はるか:その林さんを殺害した「眼鏡探偵」岩山さん。 椿:気弱そうなくせに、人を見下したような笑いのできる子だったねえ。探偵になんて、なぜなったのやら。 はるか:えーと、次に重要なのは「寺生まれの探偵」Yさん。いや、この人は…………。 椿:その解説は最後にしよう。他の人はサクサク進めたまえ。 はるか:あとは、「御宿(おやど)探偵」美香さん。ホテルの従業員さんからいい情報を引き出してくれました。「白巫女探偵」八卦(はっけ)さん。霊能力は怪しいですが、ちゃんと証言・証拠で話ができる人でした。「ビリヤード探偵」の零(れい)さんですが…………。 椿:おまえさんにもまだ彼について話してなかったね。だがこれも後で説明するよ。 はるか:あとは、オーナーの横長一悟(よこながいちご)さんですかね?イベントの主催者です。あー、幽霊はどうでもよくて、お客さんがイベント目的で増えること、知名度をあげること、とかの方が大事そうに話してました。 椿:そして一度も懸賞金は払われていない。幽霊騒ぎは解決していないからねえ。…………さて、ここまでちゃんとメモできてるかい?刑事さんや。 はるか:あ、ごめんなさい早く話してしまって。…………続き、ですね?わかりました。 0: 椿:まず、先ほど挙げた六人と、私たち二人の目的は別だった。六人の目標は、幽霊を除霊する、あるいは懸賞金をもらうこと。 はるか:そして俺たちは………守秘義務なので言っちゃダメ、なんですが。とある方々に頼まれて、「幽霊騒ぎが狂言であると証明すること」。あるいは「幽霊を使った商売をやめさせること」でした。 椿:………その顔を見るに、理解していないね?刑事さんや。つまり、殺人事件はほとんどの人にとって誤算だった。予想できていたのは被害者の林くらいだろうねえ。偶然起きた殺人の犯人は、林。そして私たちにとっての犯人、つまり幽霊騒ぎを起こしてる犯人。こんな感じで二人出ることになったんだよ。 はるか:あ、よかった。分かってもらえたようで。ホテルのためにも誤解のないように報告お願いしますね? 椿:では次は一晩で起きたことを、順番に説明していこうか。殺人事件の起きる前、殺人事件のこと、殺人事件の後の調査。こんな感じで、私たちの視点からの説明をするけど、それでいいかね? はるか:ありがとうございます、刑部(おさかべ)刑事。説明不足なところはいつも通りストップかけてくださいね。 椿:あ、刑事さんや。お茶かかつ丼をいただけるかな?両方でもいいのだけれども。 はるか:おなかすいたんですか、せんせ。すみませんが俺も水でもいいのでいただけますか?…………すみません、厚かましい二人で…………。 椿:おまえさんは良い子だなあ。 はるか:俺は、立派な大人になるんだ…………。 椿:はっはっは。目が死んでいるよ? 0: はるか:俺たちは荷物を置いた後、イベント参加の用紙に名前を書き、町で聞いたホテルの幽霊について調べ始めました。 椿:一、ポルターガイストが起きる。二、停電がよく起きる。三、夜中、窓に女の人が映る。四、三〇六号室に血まみれの死体がある。 椿:はい、まずポルターガイスト。 はるか:でたらめ、というか、そもそも発生しませんでした。他の六人も信じていませんでしたね。 椿:停電は? はるか:この地方は雷が激しい傾向があるとのことで、山の上の方にあるホテルは頻繁に被害を受けていたかと。昨日の晩、もっというと、事件の夜もひどい雷でした。 椿:このことを教えてくれたのは「寺生まれの探偵」Yさんだったね。また、「この四つのうわさを広めたのは、この地域に詳しい人間なのでは」、とも「眼鏡探偵」の岩山が言っていたね。 はるか:はい。このとき………いや、殺人事件が起きるまでずっと、岩山さんと林さんは仲が悪いのに一緒に行動してましたね。 椿:おっと失礼。話がそれてしまったねえ。三つ目、窓に映る女性。 はるか:こちらは美香さんの協力で、「見間違いだった。」と証言してくれるホテルスタッフさんが見つかっています。 椿:そして最後の三〇六号室だが、調べようにも「札束探偵」の林がレンガで数か月分の宿泊を分捕っていたのさ。…………ストップ?ああ、言い方が悪かったよ。レンガって言うのは一千万円分の札束のことだ。金の力で、自分以外は入れないようにしていたのだよ。 はるか:そのときはお部屋に林さんがいなかったので、次の調査に変えたんですよね。 椿:警察はどこまで調べがついているんだい?…………はあ、話を聞くならある程度調べておいてくれると話が早いんだがねえ。昨日の今日だから、しかたないかなあ。 はるか:あのホテル、二年前に一度、一年前に一度、合計二回殺人事件が起きているんです。たぶんそのせいで、幽霊ホテル、なんて噂が。 椿:二年前の事件は探せばすぐに出てくるはずだよ。「僕だけを見てくれない探偵なんて要らない。」それが動機で、探偵助手が相棒をビリヤードのキューで殺害している。 はるか:一方、一年前の事件は未解決で、不明点が多い。じゃあ調べようかって時にです。事件が起きました。日付が変わったころです。 0: 0:【少し間】 0: はるか:美香さんの悲鳴が聞こえて向かうと、三〇六号室で、林さんが…………。あと部屋からうなり声のようなものが聞こえていました。 椿:その直後に停電が発生した。すると、何故か「業務用ライト」を抱えた「寺生まれの探偵」、Yさんが来て、最終的に八人全員が集合。探偵全員で捜査という奇妙な絵面が出来上がったねえ。ふふっ、彼らは現場保存を知らないらしい。 はるか:…………成果はあったのでいいじゃないですか。刑事さん、ほら、証拠品にあった金のレコーダー、聞きましたか?あれYさんが部屋に隠してあったのを見つけたんですよ。……聞いたんですね。ご存じの通り、レコーダーの内容は、「一年前の事件の犯人が岩山さんである」という話と、「見下していた林さんに犯人だとバレて逆上した」岩山さんが、犯行に及ぶ瞬間の音声でした。 椿:ホテルのオーナーにぐるぐる巻きに縛られた岩山について、調べようと提案したんだ。すると「ビリヤード探偵」零が、窓の外に投げ出したとも思われる場所に、血が付いた林の手袋を見つけた。たぶん爪のかけらとか林の血痕が出てくると思うから、そこは警察さん、よろしくね? 0: はるか:探偵が六人もいただけあって、スピード逮捕でしたね。でも俺たちの目的は「幽霊騒ぎ」を起こしてる人物を見つけることです。調査を続けました。他の探偵さんの部屋とか、空き室を見せてもらったんです。どの部屋にも不気味なお札が貼ってあったり、広い部屋には市松人形がいたりして不気味でした。 椿:ああ、あの安産祈願の。 はるか:へ? 椿:かなり達筆だったからね。神社の名前を見るに、厄除けの効果もあるにはあるだろうけど…………。安産祈願、って書いてあったよ、ふふ。 はるか:教えてくださいよ!めちゃくちゃびびったのに! 椿:うん、本気で怯えてたから、水を差しちゃいけないかなあ、と。 はるか:気の使い方がおかしい!!…………あ、すいません。部屋の調査ですよね。なんといくつかの部屋からスピーカーが出てきたんです。停電で動いてなかったんですけど。三〇六号室にもスピーカーがありました。市松人形の後ろ、お札に隠されて。 椿:殺人事件が起きたときに聞こえたうなり声の正体はこのスピーカーです。…………おや、まだわかりませんか。幽霊騒ぎの元凶が、誰なのか。 はるか:あれ、Yさんだって報告しませんでしたっけ? 椿:…………。(肘で小突く) はるか:いてっ、え?すみません??違いました? 椿:違わないよ。岩山が殺人犯、私たちの探していた人物は寺生まれのYさんこと、ホテルのオーナーの弟、横長雄二だからね。…………なんで横長弟が幽霊騒ぎを起こしていたか?ふふ、おまえさん、ばとんたっち、だ。 はるか:突然仕事を投げないでくださいよ………。まずですね、刑事さん。先生が推理した幽霊騒ぎをしている者の条件。殺人事件の混乱中にスピーカーの電源を落とせた人です。ところがこの条件では、三〇六号室を捜索した探偵全員…………黙って見ていたせんせ以外犯人になってしまいます。 椿:観察していた、と言いたまえよ?次に、雷で停電することを知っていた人物。これはこの地域に住む人間はもちろんそうだが、もう一人。何故か業務用ライトを持ち歩ていたあの人だ。彼は、幽霊騒ぎで儲けを得る男に協力していた。 はるか:「名前を隠していたのは、地域の知り合いにばれてはいけないからなのでは?」と、Yさんについて詳しいホテルスタッフさんから話を聞いています。 椿:捜査にとても協力的であったこと、本当に幽霊におびえていたこと。この二点においてスタッフさんたちはおそらく何も知らされていない。 はるか:俺たちはロビーに人を集めました。そして、幽霊騒ぎの犯人は横長兄弟です、と伝えたところ、二人はすぐ認めましたよ。ここからはたぶんご存じですよね? 椿:懸賞金は口座に振り込んでもらえるようだし、依頼人に報告に行かなければいけないから、そろそろ帰っていいかな? はるか:また気になる点があればご連絡ください。 椿:あ、いつも通り資料のコピーよろしくねえ。関わった以上は結末が気になるし、(小声で)確認しなくてえらい目に合うところだったから………… 0: 0:【間】 0: はるか:依頼人……町役場の人にも洗いざらい話すことになっちゃいましたね。 椿:疲れた…もうこの手の依頼は絶対に受けないぞ…………。 はるか:楽しんでませんでしたか?俺と違って。 椿:ふふっ、どうだろうね?今回も犯人とするには根拠が弱いが、犯人が自首しているのだし、ちゃんと解決で終わるだろう。 はるか:そうなりますよ、きっと。すっかり日が暮れてきましたね、夕ご飯ですが、ハンバーグでいいですか? 椿:君もメンタル強くなったねえ。 はるか:俺は生きてる。それだけで御の字です。 椿:生きてる………か。警察はこれから大変だろうなあ。 はるか:え、事件は解決したじゃないですか? 椿:六人チェックインしたはずの探偵が、一人、絶対に見つからないからさ。 はるか:それって、何か後ろめたいことがあって逃げたってことですか!? 椿:むしろ、気がかりだったことが消えていなくなった、という方が正しいかな。ほら、帰り際に私が「白巫女探偵」の八卦と話していたの、気が付かなかったかい? はるか:そういえば………俺はその時「ビリヤード探偵」の零さんに捕まって雑談してましたけど。 椿:成仏、できたってさ。二年前に殺された探偵さん。あ、捕まった助手の方じゃなくてね? はるか:本物の幽霊、いたってことですか!? 椿:見るどころか話をしてたじゃないか。ビリヤード好きの探偵、小松零(こまつれい)は………… 0: 0: 椿:二年前に亡くなっているのだから。

0:椿・はるかの住む町の警察署、取調室にて。二人は旅行帰りの荷物を持ったまま、刑事と向き合い、会話している。 0: 椿:警察なんて嫌いだ…………刑事なんてもっと嫌いだ…………。 はるか:せんせ、諦めてください。刑事さんもお仕事なんですよ。 椿:証拠も犯人も私たちの方で見つけ、かつ推理までしたのに。なぜ同じことを説明しなくてはならないのかな。事後処理でもやっていればいいんだ。それが仕事だろうに。 はるか:座右の銘が「働いたら負け」のせんせが、何を言いますか。刑事さん、昼行燈……げふん、せんせもお疲れですし…………それとも、犯人の岩山さんからの証言では不足でもあるんですか? 椿:…………ほーう、なんだ、刑事が盗み聞きとは趣味の良いことで。 はるか:なぜせんせが、「殺人犯の岩山ではなく、」探偵とオーナーも犯人だと言ったか、ですか? 椿:…………なんということだ、その部分だけ聞いたのか。 はるか:警察さんの到着はせんせの推理の後、すべて片付いた直後だと思っていましたが。 椿:…………誤解だ、いや誤解とは違うが、分かるよ。そこだけしか聞こえなかったのなら混乱もするだろうね。 はるか:せんせ、見てください目の前の刑部(おさかべ)刑事の顔。この生まれたてのチワワのように無垢で期待に満ちた目を。 椿:(溜息)………わかった、降参だ。単純な事件ではないからねえ、今回も。今再び、ここであのホテルで起きた騒ぎの解説をしようじゃないか。 はるか:刑事さん、お時間いただいてしまいますが、一言一句、間違いのない報告、よろしくお願いします。 椿:と、いうわけだ。おまえさんや、任せた。 はるか:ええ!?………間違ってたら、せんせ、修正してくださいよ。 0: 0:タイトルコール 椿:『行燈(あんどん)照らすは』 はるか:『探偵協争(きょうそう)』 0: 椿:まあまずは、警察と我々の間に情報の齟齬(そご)がないか、すり合わせといこうか。ホテルでは何が行われていたかな? はるか:はい。大目玉は、幽霊狩り、という幽霊探しのイベントでした。百万円という懸賞金までかけられており、…………たしか、一、二年前から始めたとか。……幽霊を捕まえろ、なんて。無理だと思いましたけどね。 椿:ホテルは幽霊ホテルと有名だったね。それを売りにしていたし、幽霊狩りイベントで客引きを狙っていたのだろう。それはさておき。ホテルは大きな11階建てのものだったが、イベントに参加していた者は私たち以外に六人いた。いや、もっと言うと、この六人しかその日、泊まっていなかったんだ。 はるか:殺人事件が起きた後、ホテルスタッフさんに聞いてびっくりしましたよね。百部屋近くあるホテルに、僕らを入れて八人て。 椿:では、六人の名前と「異名」を覚えているかな? はるか:まず、そうですね…………。「札束探偵」こと、林さん。さっき警察に逮捕された岩山さんに殺されました。 椿:「……と、金持ちは思うよ!」が口癖の変な人だね。憎めない、なんだか愛嬌のある人だった。 はるか:その林さんを殺害した「眼鏡探偵」岩山さん。 椿:気弱そうなくせに、人を見下したような笑いのできる子だったねえ。探偵になんて、なぜなったのやら。 はるか:えーと、次に重要なのは「寺生まれの探偵」Yさん。いや、この人は…………。 椿:その解説は最後にしよう。他の人はサクサク進めたまえ。 はるか:あとは、「御宿(おやど)探偵」美香さん。ホテルの従業員さんからいい情報を引き出してくれました。「白巫女探偵」八卦(はっけ)さん。霊能力は怪しいですが、ちゃんと証言・証拠で話ができる人でした。「ビリヤード探偵」の零(れい)さんですが…………。 椿:おまえさんにもまだ彼について話してなかったね。だがこれも後で説明するよ。 はるか:あとは、オーナーの横長一悟(よこながいちご)さんですかね?イベントの主催者です。あー、幽霊はどうでもよくて、お客さんがイベント目的で増えること、知名度をあげること、とかの方が大事そうに話してました。 椿:そして一度も懸賞金は払われていない。幽霊騒ぎは解決していないからねえ。…………さて、ここまでちゃんとメモできてるかい?刑事さんや。 はるか:あ、ごめんなさい早く話してしまって。…………続き、ですね?わかりました。 0: 椿:まず、先ほど挙げた六人と、私たち二人の目的は別だった。六人の目標は、幽霊を除霊する、あるいは懸賞金をもらうこと。 はるか:そして俺たちは………守秘義務なので言っちゃダメ、なんですが。とある方々に頼まれて、「幽霊騒ぎが狂言であると証明すること」。あるいは「幽霊を使った商売をやめさせること」でした。 椿:………その顔を見るに、理解していないね?刑事さんや。つまり、殺人事件はほとんどの人にとって誤算だった。予想できていたのは被害者の林くらいだろうねえ。偶然起きた殺人の犯人は、林。そして私たちにとっての犯人、つまり幽霊騒ぎを起こしてる犯人。こんな感じで二人出ることになったんだよ。 はるか:あ、よかった。分かってもらえたようで。ホテルのためにも誤解のないように報告お願いしますね? 椿:では次は一晩で起きたことを、順番に説明していこうか。殺人事件の起きる前、殺人事件のこと、殺人事件の後の調査。こんな感じで、私たちの視点からの説明をするけど、それでいいかね? はるか:ありがとうございます、刑部(おさかべ)刑事。説明不足なところはいつも通りストップかけてくださいね。 椿:あ、刑事さんや。お茶かかつ丼をいただけるかな?両方でもいいのだけれども。 はるか:おなかすいたんですか、せんせ。すみませんが俺も水でもいいのでいただけますか?…………すみません、厚かましい二人で…………。 椿:おまえさんは良い子だなあ。 はるか:俺は、立派な大人になるんだ…………。 椿:はっはっは。目が死んでいるよ? 0: はるか:俺たちは荷物を置いた後、イベント参加の用紙に名前を書き、町で聞いたホテルの幽霊について調べ始めました。 椿:一、ポルターガイストが起きる。二、停電がよく起きる。三、夜中、窓に女の人が映る。四、三〇六号室に血まみれの死体がある。 椿:はい、まずポルターガイスト。 はるか:でたらめ、というか、そもそも発生しませんでした。他の六人も信じていませんでしたね。 椿:停電は? はるか:この地方は雷が激しい傾向があるとのことで、山の上の方にあるホテルは頻繁に被害を受けていたかと。昨日の晩、もっというと、事件の夜もひどい雷でした。 椿:このことを教えてくれたのは「寺生まれの探偵」Yさんだったね。また、「この四つのうわさを広めたのは、この地域に詳しい人間なのでは」、とも「眼鏡探偵」の岩山が言っていたね。 はるか:はい。このとき………いや、殺人事件が起きるまでずっと、岩山さんと林さんは仲が悪いのに一緒に行動してましたね。 椿:おっと失礼。話がそれてしまったねえ。三つ目、窓に映る女性。 はるか:こちらは美香さんの協力で、「見間違いだった。」と証言してくれるホテルスタッフさんが見つかっています。 椿:そして最後の三〇六号室だが、調べようにも「札束探偵」の林がレンガで数か月分の宿泊を分捕っていたのさ。…………ストップ?ああ、言い方が悪かったよ。レンガって言うのは一千万円分の札束のことだ。金の力で、自分以外は入れないようにしていたのだよ。 はるか:そのときはお部屋に林さんがいなかったので、次の調査に変えたんですよね。 椿:警察はどこまで調べがついているんだい?…………はあ、話を聞くならある程度調べておいてくれると話が早いんだがねえ。昨日の今日だから、しかたないかなあ。 はるか:あのホテル、二年前に一度、一年前に一度、合計二回殺人事件が起きているんです。たぶんそのせいで、幽霊ホテル、なんて噂が。 椿:二年前の事件は探せばすぐに出てくるはずだよ。「僕だけを見てくれない探偵なんて要らない。」それが動機で、探偵助手が相棒をビリヤードのキューで殺害している。 はるか:一方、一年前の事件は未解決で、不明点が多い。じゃあ調べようかって時にです。事件が起きました。日付が変わったころです。 0: 0:【少し間】 0: はるか:美香さんの悲鳴が聞こえて向かうと、三〇六号室で、林さんが…………。あと部屋からうなり声のようなものが聞こえていました。 椿:その直後に停電が発生した。すると、何故か「業務用ライト」を抱えた「寺生まれの探偵」、Yさんが来て、最終的に八人全員が集合。探偵全員で捜査という奇妙な絵面が出来上がったねえ。ふふっ、彼らは現場保存を知らないらしい。 はるか:…………成果はあったのでいいじゃないですか。刑事さん、ほら、証拠品にあった金のレコーダー、聞きましたか?あれYさんが部屋に隠してあったのを見つけたんですよ。……聞いたんですね。ご存じの通り、レコーダーの内容は、「一年前の事件の犯人が岩山さんである」という話と、「見下していた林さんに犯人だとバレて逆上した」岩山さんが、犯行に及ぶ瞬間の音声でした。 椿:ホテルのオーナーにぐるぐる巻きに縛られた岩山について、調べようと提案したんだ。すると「ビリヤード探偵」零が、窓の外に投げ出したとも思われる場所に、血が付いた林の手袋を見つけた。たぶん爪のかけらとか林の血痕が出てくると思うから、そこは警察さん、よろしくね? 0: はるか:探偵が六人もいただけあって、スピード逮捕でしたね。でも俺たちの目的は「幽霊騒ぎ」を起こしてる人物を見つけることです。調査を続けました。他の探偵さんの部屋とか、空き室を見せてもらったんです。どの部屋にも不気味なお札が貼ってあったり、広い部屋には市松人形がいたりして不気味でした。 椿:ああ、あの安産祈願の。 はるか:へ? 椿:かなり達筆だったからね。神社の名前を見るに、厄除けの効果もあるにはあるだろうけど…………。安産祈願、って書いてあったよ、ふふ。 はるか:教えてくださいよ!めちゃくちゃびびったのに! 椿:うん、本気で怯えてたから、水を差しちゃいけないかなあ、と。 はるか:気の使い方がおかしい!!…………あ、すいません。部屋の調査ですよね。なんといくつかの部屋からスピーカーが出てきたんです。停電で動いてなかったんですけど。三〇六号室にもスピーカーがありました。市松人形の後ろ、お札に隠されて。 椿:殺人事件が起きたときに聞こえたうなり声の正体はこのスピーカーです。…………おや、まだわかりませんか。幽霊騒ぎの元凶が、誰なのか。 はるか:あれ、Yさんだって報告しませんでしたっけ? 椿:…………。(肘で小突く) はるか:いてっ、え?すみません??違いました? 椿:違わないよ。岩山が殺人犯、私たちの探していた人物は寺生まれのYさんこと、ホテルのオーナーの弟、横長雄二だからね。…………なんで横長弟が幽霊騒ぎを起こしていたか?ふふ、おまえさん、ばとんたっち、だ。 はるか:突然仕事を投げないでくださいよ………。まずですね、刑事さん。先生が推理した幽霊騒ぎをしている者の条件。殺人事件の混乱中にスピーカーの電源を落とせた人です。ところがこの条件では、三〇六号室を捜索した探偵全員…………黙って見ていたせんせ以外犯人になってしまいます。 椿:観察していた、と言いたまえよ?次に、雷で停電することを知っていた人物。これはこの地域に住む人間はもちろんそうだが、もう一人。何故か業務用ライトを持ち歩ていたあの人だ。彼は、幽霊騒ぎで儲けを得る男に協力していた。 はるか:「名前を隠していたのは、地域の知り合いにばれてはいけないからなのでは?」と、Yさんについて詳しいホテルスタッフさんから話を聞いています。 椿:捜査にとても協力的であったこと、本当に幽霊におびえていたこと。この二点においてスタッフさんたちはおそらく何も知らされていない。 はるか:俺たちはロビーに人を集めました。そして、幽霊騒ぎの犯人は横長兄弟です、と伝えたところ、二人はすぐ認めましたよ。ここからはたぶんご存じですよね? 椿:懸賞金は口座に振り込んでもらえるようだし、依頼人に報告に行かなければいけないから、そろそろ帰っていいかな? はるか:また気になる点があればご連絡ください。 椿:あ、いつも通り資料のコピーよろしくねえ。関わった以上は結末が気になるし、(小声で)確認しなくてえらい目に合うところだったから………… 0: 0:【間】 0: はるか:依頼人……町役場の人にも洗いざらい話すことになっちゃいましたね。 椿:疲れた…もうこの手の依頼は絶対に受けないぞ…………。 はるか:楽しんでませんでしたか?俺と違って。 椿:ふふっ、どうだろうね?今回も犯人とするには根拠が弱いが、犯人が自首しているのだし、ちゃんと解決で終わるだろう。 はるか:そうなりますよ、きっと。すっかり日が暮れてきましたね、夕ご飯ですが、ハンバーグでいいですか? 椿:君もメンタル強くなったねえ。 はるか:俺は生きてる。それだけで御の字です。 椿:生きてる………か。警察はこれから大変だろうなあ。 はるか:え、事件は解決したじゃないですか? 椿:六人チェックインしたはずの探偵が、一人、絶対に見つからないからさ。 はるか:それって、何か後ろめたいことがあって逃げたってことですか!? 椿:むしろ、気がかりだったことが消えていなくなった、という方が正しいかな。ほら、帰り際に私が「白巫女探偵」の八卦と話していたの、気が付かなかったかい? はるか:そういえば………俺はその時「ビリヤード探偵」の零さんに捕まって雑談してましたけど。 椿:成仏、できたってさ。二年前に殺された探偵さん。あ、捕まった助手の方じゃなくてね? はるか:本物の幽霊、いたってことですか!? 椿:見るどころか話をしてたじゃないか。ビリヤード好きの探偵、小松零(こまつれい)は………… 0: 0: 椿:二年前に亡くなっているのだから。