台本概要
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タイトル | 3話『噓吐き双子 身代りねこ』 |
---|---|
作者名 | 野菜 (@irodlinatuyasai) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 3人用台本(不問3) ※兼役あり |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
キャラの性別解釈・役者様の性別は問いません。 ……が、ユキ役の方は「モブ」もすべてまとめて引き受けていただきます。声色とかクオリティなんて捨てて楽しんでいただければ作者は喜びますごめんなさい応援してます。 昼行燈探偵シリーズ第三話。 行く先々で不幸な事故や事件にあう学生はるか。彼の後見人として面倒を見る作家、椿。普段はぐうたら、編集担当には昼行燈よばわりを受ける彼女だが、はるかと共に事件に遭ううちに変わっていく。……いくのか? 役者的には鬼畜回ですが、お話のフラグ的にはとっても大事な回。 【昼行燈ーひるあんどん】 《日中に行灯をともしても、うすぼんやりとしているところから》ぼんやりした人、役に立たない人をあざけっていう語。しかしそう呼ばれるあの人の本性は・・・? 379 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
椿 | 不問 | 56 | 末永椿(すえながつばき)。本名ではなく数あるペンネームのひとつ。小説家。野木はるかの後見人。和服。昼行燈(ひるあんどん)を装っているのか、本当にダメ人間なのか謎。 |
はるか | 不問 | 57 | 野木はるか(のぎはるか)。学生(年齢不問)。セリフ上では一人称俺なので性別変更の時は自由に変えてください。義父のもとから逃げて、椿に会うまでいろいろなものから逃げてきた。 |
ユキ | 不問 | 24 | 森塚由紀(もりつかゆき)。僕っ娘or男の子。学生服。「神殺しの御子」と教団内で呼ばれる学生。特別でありたかったために、その言葉に惑わされ、教祖=神という危険団体にのめりこんでいる。モブと兼ね役。 |
モブ | 不問 | 16 | ユキと兼ね役。教祖、片割れ、店員などありますが全部「モブ」です。声や演じ分けはしなくても大丈夫です。モブなので。もちろん本気で演じ分けても楽しい。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:とある教団本部の立ち入り禁止の廊下。速足の椿とはるか。
椿:急がなくては。
はるか:つまり、ユキさんが教祖を襲うかもしれないってことですよね?でも、でも。彼女は確かに役職を言い渡されていましたが、あれはカウンセラーが使う手法の一つだってせんせが暴いたじゃないですか!教祖はただの政治利用や金銭目的でやってるって言ってたじゃないですか!………ユキさんは、逆恨みをするようなひとじゃないです。
椿:たとえ教祖の言葉が嘘でも真実でも。教祖はこの場所で、信者たちにとって間違いなく、信者にとっての「神」であった。思い込みが強く、そして、その役職でありたいと強く願ったユキさんにとって、あの偽教祖は「神」なのだよ。そして、「神」ができると言えば、できるのだよ。教祖の言い渡した役職、ユキさんは何と言っていた?
はるか:それは……
ユキ:僕、神様に言われたの。僕は「御子」だって!そして「神様を殺せる人間」なんだって!!
0:
はるか:ここが、最後の部屋です。
椿:…………遅かったか。
0:
0:血まみれの部屋に死体と、学生服の人物。
0:
ユキ:野木くん。先生。僕、できた。できたの。
椿:…………おまえさん、刑部(おさかべ)刑事を呼んできてくれたまえ。もうじきこの階に着くはずだから。
はるか:はい。先生、くれぐれも気をつけてください。
ユキ:これで、終わり。事件は終わり。僕は神を殺した御子になった。
椿:…………そんなに、嬉しいかい。震えるほどに。
ユキ:ねえ、先生。
椿:さっさと済ませよう。
ユキ:約束、守ってくれるよね?
0:
0:返り血で汚れたユキが椿に抱き着く。
0:
ユキ:神に誓って約束するって!先生言ってくれた!
椿:その神様、死んじゃっているけれど。
ユキ:神は、僕たち信者の中で永久に生き続けるから大丈夫!ね、守ってくれるよね、もちろん。
椿:そっちこそ、約束の内容を忘れていないだろうね?
ユキ:あはっ。もちろん!
はるか:せんせ。約束って、何ですか。
椿:………早かったね。
はるか:刑事さん、すぐそこにいたので。
椿:………そうか。
ユキ:約束したの!この事件が終ったら。先生が悪い人を見つけたら。
椿:「私は森塚由紀に、森塚由紀は末永椿になんでも命令していい」、と。
はるか:………噓でしょ、なんでそんな約束………
椿:ユキさんは不安定だった。目の前で死なれるのも、そして間違って私が襲われるのも御免被る(ごめんこうむる)。
はるか:約束、守るわけじゃないですよね?
椿:うーん、あのね。私はこの約束に乗るつもりでいるんだ。
はるか:は?
ユキ:さっすが先生!僕らの神に誓ったことだもの!絶対に守るよね!もちろん僕も絶対守るもの!
椿:ユキさん、君の命令は?
はるか:せんせー!!
ユキ:「僕と共に生きて!もう独りぼっちは嫌なの!!」
はるか:…………。
ユキ:もちろん聞いてくれるでしょ?
椿:とっても魅力的な命令だけど、「できません」。
はるか:………ああ、先生は、「嘘吐き」だ。
ユキ:どうして!?だって森塚由紀は末永椿になんでも命令していいって…………
椿:「末永椿って、誰ですか?」
ユキ:…………え?
はるか:ユキさん、「末永椿」というのは、偽名です。正確にはペンネームです。そういう人なんです、せんせって。
椿:この世界のどこかにいる「末永椿」さんは、ユキさんの命令を聞かなきゃいけないみたいだ。かわいそうに。
はるか:わあ白々しい。
椿:でも「私は森塚由紀に」、命令できるけどね。
はるか:噓吐きというか詐欺師になってませんか?
ユキ:あ……あ……あ…………
椿:ユキさん。僕らの神に誓ったことで、絶対に守る、ですよね?
ユキ:…………。
椿:命令です。「二度とこの宗教に関わらず、罪を償い、幸せになってください。」
ユキ:…………。
はるか:それは、きっとユキさんにとって、とてつもない呪いの言葉だったんじゃないかと俺は思う。
0:
0:
椿:『噓吐き双子』
はるか:『身代りねこ』
0:
0:
0:数日前、学校にて
0:
ユキ:「吾唯足知(われただたるをしる)」って、知ってる?
はるか:入学以来ほとんど話したことのないクラスメート、森塚由紀さん。突然話しかけてきた内容はひどく突拍子もなくて、ド直球だった。
ユキ:「私はただ、満ち足りていることを知っている」だって。
はるか:なにそれ。
ユキ:野木君。神様に会わせてあげるよ。
0:
椿:それで、このカルト教団「神の役者たち」をその娘に紹介されたんだね。
はるか:せんせに相談した俺も俺ですが、あの、なんで本部に来ちゃってるんですか俺たち。
椿:だって、おまえさんや。自分が人生においてどんな配役なのか教えてくれるというじゃないか。実に面白いだろう?ちゃんと小説家だと言ってもらえるだろうかね?
はるか:……はあ、せんせがこの体験をちゃんと執筆に生かしてくれるならいいですけど。
モブ:(教祖)おや、これはこれは珍しい役者がいらしたものだ。
椿:お邪魔しています。
はるか:ええと、教祖様でお間違いないですか?
モブ:(教祖)そうですね。役者を言い渡す「神」とも呼ばれておりますが。
椿:(小声)いいかいおまえさん。教祖=神とかいう宗教は距離を取るべきだよ。
はるか:(小声)人型の神様あんまり興味ないので大丈夫です。
モブ:(教祖)なにか?
椿:いいえ、なにも。して、私どもはこれから役を言い渡されるのですか?
モブ:(教祖)急ぎ足ですまないね。今日はとりわけ初めてのお客様が多いそうで。では、君、名前をきいてもいいかな?
はるか:野木です。
モブ:(教祖)野木さん。あなたは「身代わり」だ。
はるか:み、がわ、り…?
モブ:(教祖)誰にでも成り代われる。そして多くの病んだ人から必要とされるだろう。だが真の自分を見つめてくれるものは珍しい。見極めなさい。
はるか:…………。
椿:私は末永と申します。
モブ:(教祖)末永さん。……気分を害さないでほしい。そしてあくまで役の名前だと、受け入れてほしい。
椿:それは楽しみですねえ。
モブ:(教祖)あなたは、「嘘吐き」だ。
椿:…………続きを。
モブ:(教祖)あなたは嘘を吐かずには生きられないがために、その人生は苦難に満ちたものだろう。しかし、あなたの嘘は時に人を喜ばせるものでもある。嘘と折り合いをつけ、演じていきなさい。
0:
0:
はるか:あの変な勧誘の日から、ユキさんはよく俺に絡んできた。しゃべらなければ美形なのに。だから友達がいないんだぞ。
ユキ:ねえ野木君。僕、亜理子さんっていうお友達が「いた」んだ。
はるか:…………そう、なんだ。
ユキ:ねえ、野木君。
はるか:何。
ユキ:「ねこ」って、なあに?
0:
椿:そりゃあ変わったお嬢さんだ。亜理子さんや「ねこ」っていうのは、昔のおまえさんの知り合いかい?
はるか:俺が昔、逃亡生活をしていた時に何ヵ月かお世話になったのが、亜理子さんです。まさかまた名前を聞くことになるなんて…………
椿:その人は、今?
はるか:分かりません。逃げてきてしまったから。
椿:そうか。
はるか:そういえば。
椿:ん?
はるか:どうしてせんせは、俺の後見人になってくれたんですか。
椿:遠縁の親戚だったからさ。
はるか:それ、建前なんでしょ?
椿:………とにかく、ユキさんが心配だ。帰ってから話そう。次の階で最後のはずだよ。
0:
はるか:そして話は冒頭に戻り、
ユキ:僕は騙されていたことを知り、そして逮捕される。
0:
0:家に帰宅した椿、はるか
0:
はるか:先生は、なにか信仰してるんですか?
椿:そう思うかい?
はるか:熱心な教徒か、無神論者のどっちか極端かなって思いますけど。
椿:神様、信仰ってのは、杖だ。杖なしで歩める人もいれば、杖なしでは立つこともできぬ人もいる。杖を使うことは悪でも弱さでもないが、必要としない人がいるのも、当然のことだと思わないかい?
はるか:次の小説はレビュー欄荒れそうですね。ああ、そうだ。聞かせてくださいよ。俺の後見人になってくれた理由とか、いろいろ。
椿:君が最後に逃げ込んだ場所が、ただ私だったのかもしれないよ。
はるか:「働いたら負け」。そういって普段めったに執筆に関すること以外の全てを放棄するせんせが、後見人になるための面倒な手続きをした理由が、ずっと分からないんです。
椿:その通り。「私は」そんな手続きはしていないよ。
はるか:……え?
椿:すべては、私の双子の片割れの仕業さね。しかもあの子は、すべてを片付け終えると、事故でぽっくり、あっさりと私を置いて行ってしまった。
モブ:(片割れ)先に仕事終わったからー!コンビニで酒買ってくる!絶対分けてあげないんだー!やーいやーい!
椿:「私」の名前を使い、「私」の演技をしておまえさんを引き取った。まるで、自分がもう長くないと分かっていたかのように。
はるか:じゃあ、俺が初めて会った時のせんせは………
椿:私の片割れだよ。
はるか:お葬式があったなんて、俺、知らなかった。
椿:葬式はしなかったんだ。亡くなったことも、内緒にしていた。昔から、二人で一人の小説家として生き始めてから、決めていたからね。
はるか:もしかして、俺がここに来てからミステリーばかり書くようになったのは……
椿:何言ってるんだい。そりゃあおまえさん。おまえさんと私が次々に事件に遭遇してアイデアに事欠かないからだよ。ふふふ。………たしかに、一部のジャンルは私よりあの子の方が得意ではあったけれどね。…………ちょっと待ちなね。
0:
0:【少し間】
0:
椿:これを。あの子からだ。正式な遺言状と一緒に入っていたものだ。
はるか:俺が読んでもいいんですか?
椿:おまえさんも、読むべきなんだ。隠していたわけじゃあないが、遅くなってすまないね。
モブ:(片割れ)遺言状のような何か!
モブ:(片割れ)いいかい、まず野木はるかについて。この子は大事な…………大事な子だ!大事な家族でも、大事な友人でも、大事な弟子でも好きにするといいよ!
モブ:(片割れ)私は今まで好きに生きた。好きにやった。幸せだった。
モブ:(片割れ)君も好きに生きなよ。好きにやりなよ。幸せになれ。
モブ:(片割れ)そして、野木はるかに幸せを教えてやってくれ。
モブ:(片割れ)…………君の、ただ一人の片割れより。
0:
はるか:確かに、出会った時のせんせはずいぶんハイテンションだと思ってましたけど。本当に、別人だったんですね。
椿:ねえ。私は、おまえさんをあの子の代わりにしてしまっているかな?
はるか:分かりません。そうなんですか?
椿:私も分からないや。………ああ、いい機会だ。今まで伝えたことがなかったね。私たちの名前を。
はるか:知ってますよ。足吾唯(あしごゆい)せんせ、そして足吾知(あしごとも)せんせ。
椿:よく覚えていたね。そう、そしてあの本棚の金庫の中には、片割れの書いた、私の名前入りの書類が入っている。
椿:ああ、私は、どっちなんだろうね?ゆいか、ともか。死んでいたのは私だったのではないか。あの子が死んでしまってから私はあの子だと、自分に嘘を吐いているのではないか、と。
はるか:だから、お二人で共有していたペンネームで生活を?
椿:ああ。おまえさんと私が事件に巻き込まれ続ける限り、私は「ミステリー系作品担当」の「末永椿」だよ。恋愛ものを書くなら「花里晶(はなざとあきら)」、ホラーを書くなら「的場中(まとばあたる)」、学園ものなら「井上まりあ(あまりあ)」。しばらくは、椿かもしれないね?
椿:…………嫌かな、こんな後見人では。
はるか:せんせーは、ゆいも、ともも、失いたくないんでしょう?だからずっと、どっちつかずでやってきた。
椿:そうかもしれない。
モブ:(片割れ)えー?おまえさんも小説家になんの?やだよ、おまえさんのライバルとか。ああ、そうだこうしよう!
はるか:ゆいも、ともも失いたくないのであればそれでもいいと、俺は思います。別に困ってないんでしょう?
モブ:(片割れ)ペンネームいっぱい作って、一緒に使おう!分かるか?どっちが売れても、どれが売れても、二人の手柄だ!チーム戦にしよう!
はるか:せんせは誰にでもなれるのだから、誰にだってなればいい。でも、あなたが誰であっても。
はるか:あなたは。あなたたちは。
モブ:(片割れ)ずっと一緒だ!
はるか:俺のせんせ、です。
0:
0:【間】
0:
椿:今日の夕ご飯はなんだい?
はるか:なにがいいですか?
椿:キャベツ。
はるか:いつも具材でのリクエスト、ありがとうございます。
椿:いつも夕ご飯係、ありがとうございます。
はるか:…………せんせ、ここでしゃがんでください。
椿:え、なにかね?
はるか:そしてあちらをご覧ください。
モブ:(店員)キャー!レジ強盗よー!!
モブ:(店員二号)包丁を持っているわー!
椿:はっはっは。………通報して?
はるか:慣れてきちゃいましたね。
0:
0:
0:
モブ:(?)足吾(あしご)の双子は小説家
モブ:(?)人の悪意に詳しい子と
モブ:(?)人の愛に詳しい子
モブ:(?)足吾の双子はもう独り
モブ:(?)生きているのは
モブ:(?)果たして、どちら?
0:とある教団本部の立ち入り禁止の廊下。速足の椿とはるか。
椿:急がなくては。
はるか:つまり、ユキさんが教祖を襲うかもしれないってことですよね?でも、でも。彼女は確かに役職を言い渡されていましたが、あれはカウンセラーが使う手法の一つだってせんせが暴いたじゃないですか!教祖はただの政治利用や金銭目的でやってるって言ってたじゃないですか!………ユキさんは、逆恨みをするようなひとじゃないです。
椿:たとえ教祖の言葉が嘘でも真実でも。教祖はこの場所で、信者たちにとって間違いなく、信者にとっての「神」であった。思い込みが強く、そして、その役職でありたいと強く願ったユキさんにとって、あの偽教祖は「神」なのだよ。そして、「神」ができると言えば、できるのだよ。教祖の言い渡した役職、ユキさんは何と言っていた?
はるか:それは……
ユキ:僕、神様に言われたの。僕は「御子」だって!そして「神様を殺せる人間」なんだって!!
0:
はるか:ここが、最後の部屋です。
椿:…………遅かったか。
0:
0:血まみれの部屋に死体と、学生服の人物。
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ユキ:野木くん。先生。僕、できた。できたの。
椿:…………おまえさん、刑部(おさかべ)刑事を呼んできてくれたまえ。もうじきこの階に着くはずだから。
はるか:はい。先生、くれぐれも気をつけてください。
ユキ:これで、終わり。事件は終わり。僕は神を殺した御子になった。
椿:…………そんなに、嬉しいかい。震えるほどに。
ユキ:ねえ、先生。
椿:さっさと済ませよう。
ユキ:約束、守ってくれるよね?
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0:返り血で汚れたユキが椿に抱き着く。
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ユキ:神に誓って約束するって!先生言ってくれた!
椿:その神様、死んじゃっているけれど。
ユキ:神は、僕たち信者の中で永久に生き続けるから大丈夫!ね、守ってくれるよね、もちろん。
椿:そっちこそ、約束の内容を忘れていないだろうね?
ユキ:あはっ。もちろん!
はるか:せんせ。約束って、何ですか。
椿:………早かったね。
はるか:刑事さん、すぐそこにいたので。
椿:………そうか。
ユキ:約束したの!この事件が終ったら。先生が悪い人を見つけたら。
椿:「私は森塚由紀に、森塚由紀は末永椿になんでも命令していい」、と。
はるか:………噓でしょ、なんでそんな約束………
椿:ユキさんは不安定だった。目の前で死なれるのも、そして間違って私が襲われるのも御免被る(ごめんこうむる)。
はるか:約束、守るわけじゃないですよね?
椿:うーん、あのね。私はこの約束に乗るつもりでいるんだ。
はるか:は?
ユキ:さっすが先生!僕らの神に誓ったことだもの!絶対に守るよね!もちろん僕も絶対守るもの!
椿:ユキさん、君の命令は?
はるか:せんせー!!
ユキ:「僕と共に生きて!もう独りぼっちは嫌なの!!」
はるか:…………。
ユキ:もちろん聞いてくれるでしょ?
椿:とっても魅力的な命令だけど、「できません」。
はるか:………ああ、先生は、「嘘吐き」だ。
ユキ:どうして!?だって森塚由紀は末永椿になんでも命令していいって…………
椿:「末永椿って、誰ですか?」
ユキ:…………え?
はるか:ユキさん、「末永椿」というのは、偽名です。正確にはペンネームです。そういう人なんです、せんせって。
椿:この世界のどこかにいる「末永椿」さんは、ユキさんの命令を聞かなきゃいけないみたいだ。かわいそうに。
はるか:わあ白々しい。
椿:でも「私は森塚由紀に」、命令できるけどね。
はるか:噓吐きというか詐欺師になってませんか?
ユキ:あ……あ……あ…………
椿:ユキさん。僕らの神に誓ったことで、絶対に守る、ですよね?
ユキ:…………。
椿:命令です。「二度とこの宗教に関わらず、罪を償い、幸せになってください。」
ユキ:…………。
はるか:それは、きっとユキさんにとって、とてつもない呪いの言葉だったんじゃないかと俺は思う。
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椿:『噓吐き双子』
はるか:『身代りねこ』
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0:数日前、学校にて
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ユキ:「吾唯足知(われただたるをしる)」って、知ってる?
はるか:入学以来ほとんど話したことのないクラスメート、森塚由紀さん。突然話しかけてきた内容はひどく突拍子もなくて、ド直球だった。
ユキ:「私はただ、満ち足りていることを知っている」だって。
はるか:なにそれ。
ユキ:野木君。神様に会わせてあげるよ。
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椿:それで、このカルト教団「神の役者たち」をその娘に紹介されたんだね。
はるか:せんせに相談した俺も俺ですが、あの、なんで本部に来ちゃってるんですか俺たち。
椿:だって、おまえさんや。自分が人生においてどんな配役なのか教えてくれるというじゃないか。実に面白いだろう?ちゃんと小説家だと言ってもらえるだろうかね?
はるか:……はあ、せんせがこの体験をちゃんと執筆に生かしてくれるならいいですけど。
モブ:(教祖)おや、これはこれは珍しい役者がいらしたものだ。
椿:お邪魔しています。
はるか:ええと、教祖様でお間違いないですか?
モブ:(教祖)そうですね。役者を言い渡す「神」とも呼ばれておりますが。
椿:(小声)いいかいおまえさん。教祖=神とかいう宗教は距離を取るべきだよ。
はるか:(小声)人型の神様あんまり興味ないので大丈夫です。
モブ:(教祖)なにか?
椿:いいえ、なにも。して、私どもはこれから役を言い渡されるのですか?
モブ:(教祖)急ぎ足ですまないね。今日はとりわけ初めてのお客様が多いそうで。では、君、名前をきいてもいいかな?
はるか:野木です。
モブ:(教祖)野木さん。あなたは「身代わり」だ。
はるか:み、がわ、り…?
モブ:(教祖)誰にでも成り代われる。そして多くの病んだ人から必要とされるだろう。だが真の自分を見つめてくれるものは珍しい。見極めなさい。
はるか:…………。
椿:私は末永と申します。
モブ:(教祖)末永さん。……気分を害さないでほしい。そしてあくまで役の名前だと、受け入れてほしい。
椿:それは楽しみですねえ。
モブ:(教祖)あなたは、「嘘吐き」だ。
椿:…………続きを。
モブ:(教祖)あなたは嘘を吐かずには生きられないがために、その人生は苦難に満ちたものだろう。しかし、あなたの嘘は時に人を喜ばせるものでもある。嘘と折り合いをつけ、演じていきなさい。
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はるか:あの変な勧誘の日から、ユキさんはよく俺に絡んできた。しゃべらなければ美形なのに。だから友達がいないんだぞ。
ユキ:ねえ野木君。僕、亜理子さんっていうお友達が「いた」んだ。
はるか:…………そう、なんだ。
ユキ:ねえ、野木君。
はるか:何。
ユキ:「ねこ」って、なあに?
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椿:そりゃあ変わったお嬢さんだ。亜理子さんや「ねこ」っていうのは、昔のおまえさんの知り合いかい?
はるか:俺が昔、逃亡生活をしていた時に何ヵ月かお世話になったのが、亜理子さんです。まさかまた名前を聞くことになるなんて…………
椿:その人は、今?
はるか:分かりません。逃げてきてしまったから。
椿:そうか。
はるか:そういえば。
椿:ん?
はるか:どうしてせんせは、俺の後見人になってくれたんですか。
椿:遠縁の親戚だったからさ。
はるか:それ、建前なんでしょ?
椿:………とにかく、ユキさんが心配だ。帰ってから話そう。次の階で最後のはずだよ。
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はるか:そして話は冒頭に戻り、
ユキ:僕は騙されていたことを知り、そして逮捕される。
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0:家に帰宅した椿、はるか
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はるか:先生は、なにか信仰してるんですか?
椿:そう思うかい?
はるか:熱心な教徒か、無神論者のどっちか極端かなって思いますけど。
椿:神様、信仰ってのは、杖だ。杖なしで歩める人もいれば、杖なしでは立つこともできぬ人もいる。杖を使うことは悪でも弱さでもないが、必要としない人がいるのも、当然のことだと思わないかい?
はるか:次の小説はレビュー欄荒れそうですね。ああ、そうだ。聞かせてくださいよ。俺の後見人になってくれた理由とか、いろいろ。
椿:君が最後に逃げ込んだ場所が、ただ私だったのかもしれないよ。
はるか:「働いたら負け」。そういって普段めったに執筆に関すること以外の全てを放棄するせんせが、後見人になるための面倒な手続きをした理由が、ずっと分からないんです。
椿:その通り。「私は」そんな手続きはしていないよ。
はるか:……え?
椿:すべては、私の双子の片割れの仕業さね。しかもあの子は、すべてを片付け終えると、事故でぽっくり、あっさりと私を置いて行ってしまった。
モブ:(片割れ)先に仕事終わったからー!コンビニで酒買ってくる!絶対分けてあげないんだー!やーいやーい!
椿:「私」の名前を使い、「私」の演技をしておまえさんを引き取った。まるで、自分がもう長くないと分かっていたかのように。
はるか:じゃあ、俺が初めて会った時のせんせは………
椿:私の片割れだよ。
はるか:お葬式があったなんて、俺、知らなかった。
椿:葬式はしなかったんだ。亡くなったことも、内緒にしていた。昔から、二人で一人の小説家として生き始めてから、決めていたからね。
はるか:もしかして、俺がここに来てからミステリーばかり書くようになったのは……
椿:何言ってるんだい。そりゃあおまえさん。おまえさんと私が次々に事件に遭遇してアイデアに事欠かないからだよ。ふふふ。………たしかに、一部のジャンルは私よりあの子の方が得意ではあったけれどね。…………ちょっと待ちなね。
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0:【少し間】
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椿:これを。あの子からだ。正式な遺言状と一緒に入っていたものだ。
はるか:俺が読んでもいいんですか?
椿:おまえさんも、読むべきなんだ。隠していたわけじゃあないが、遅くなってすまないね。
モブ:(片割れ)遺言状のような何か!
モブ:(片割れ)いいかい、まず野木はるかについて。この子は大事な…………大事な子だ!大事な家族でも、大事な友人でも、大事な弟子でも好きにするといいよ!
モブ:(片割れ)私は今まで好きに生きた。好きにやった。幸せだった。
モブ:(片割れ)君も好きに生きなよ。好きにやりなよ。幸せになれ。
モブ:(片割れ)そして、野木はるかに幸せを教えてやってくれ。
モブ:(片割れ)…………君の、ただ一人の片割れより。
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はるか:確かに、出会った時のせんせはずいぶんハイテンションだと思ってましたけど。本当に、別人だったんですね。
椿:ねえ。私は、おまえさんをあの子の代わりにしてしまっているかな?
はるか:分かりません。そうなんですか?
椿:私も分からないや。………ああ、いい機会だ。今まで伝えたことがなかったね。私たちの名前を。
はるか:知ってますよ。足吾唯(あしごゆい)せんせ、そして足吾知(あしごとも)せんせ。
椿:よく覚えていたね。そう、そしてあの本棚の金庫の中には、片割れの書いた、私の名前入りの書類が入っている。
椿:ああ、私は、どっちなんだろうね?ゆいか、ともか。死んでいたのは私だったのではないか。あの子が死んでしまってから私はあの子だと、自分に嘘を吐いているのではないか、と。
はるか:だから、お二人で共有していたペンネームで生活を?
椿:ああ。おまえさんと私が事件に巻き込まれ続ける限り、私は「ミステリー系作品担当」の「末永椿」だよ。恋愛ものを書くなら「花里晶(はなざとあきら)」、ホラーを書くなら「的場中(まとばあたる)」、学園ものなら「井上まりあ(あまりあ)」。しばらくは、椿かもしれないね?
椿:…………嫌かな、こんな後見人では。
はるか:せんせーは、ゆいも、ともも、失いたくないんでしょう?だからずっと、どっちつかずでやってきた。
椿:そうかもしれない。
モブ:(片割れ)えー?おまえさんも小説家になんの?やだよ、おまえさんのライバルとか。ああ、そうだこうしよう!
はるか:ゆいも、ともも失いたくないのであればそれでもいいと、俺は思います。別に困ってないんでしょう?
モブ:(片割れ)ペンネームいっぱい作って、一緒に使おう!分かるか?どっちが売れても、どれが売れても、二人の手柄だ!チーム戦にしよう!
はるか:せんせは誰にでもなれるのだから、誰にだってなればいい。でも、あなたが誰であっても。
はるか:あなたは。あなたたちは。
モブ:(片割れ)ずっと一緒だ!
はるか:俺のせんせ、です。
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0:【間】
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椿:今日の夕ご飯はなんだい?
はるか:なにがいいですか?
椿:キャベツ。
はるか:いつも具材でのリクエスト、ありがとうございます。
椿:いつも夕ご飯係、ありがとうございます。
はるか:…………せんせ、ここでしゃがんでください。
椿:え、なにかね?
はるか:そしてあちらをご覧ください。
モブ:(店員)キャー!レジ強盗よー!!
モブ:(店員二号)包丁を持っているわー!
椿:はっはっは。………通報して?
はるか:慣れてきちゃいましたね。
0:
0:
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モブ:(?)足吾(あしご)の双子は小説家
モブ:(?)人の悪意に詳しい子と
モブ:(?)人の愛に詳しい子
モブ:(?)足吾の双子はもう独り
モブ:(?)生きているのは
モブ:(?)果たして、どちら?