台本概要

 160 views 

タイトル 4話『貴方に贈る赤』
作者名 野菜  (@irodlinatuyasai)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(不問2) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 こちらのお話だけでも問題ありません。
また、キャラの性別解釈・役者様の性別は問いません。

昼行燈探偵シリーズ第四話。
行く先々で不幸な事故や事件にあう学生はるか。彼の後見人として面倒を見る作家、椿。普段はぐうたら、編集担当には昼行燈よばわりを受ける彼女だが、はるかと共に事件に遭ううちに変わっていく。……いくのか?

ラストに一回のみ「いただきます」を言う部分のみ兼ね役として入っています。ずれてばらばらになって大丈夫なので思い切りどうぞ。

【昼行燈ーひるあんどん】
《日中に行灯をともしても、うすぼんやりとしているところから》ぼんやりした人、役に立たない人をあざけっていう語。しかしそう呼ばれるあの人の本性は・・・?

 160 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
椿 不問 69 末永椿(すえながつばき)。本名ではなく数あるペンネームのひとつ。苗字は足吾(あしご)。小説家。野木はるかの後見人。和服。昼行燈を装っているのか、本当にダメ人間なのか謎。
はるか 不問 71 野木はるか(のぎはるか)。学生(年齢不問)。セリフ上では一人称俺なので性別変更の時は自由に変えてください。だらしのない椿の面倒を見るのが趣味。椿のことは基本的には「せんせ」と呼ぶ。
2人で 不問 - ラストに一回のみ「いただきます」。ずれてばらばらになって大丈夫なので思い切りどうぞ。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
椿:おやおや、こんなに昔に書いた小説まで置いてあるのかい。変わった本屋だねえ。 はるか:何言ってるんですか、どこの本屋でもそうですよ。 椿:彼は呆れたようにこちらを見る。 はるか:「先生たち」は、天才で有名で、人気な小説家、なんですよ? 0: 0:タイトルコール はるか:『貴方に贈る赤』 0: 0: 椿:それは、ちゃんと面白いかな。 はるか:俺は好きです。 椿:おまえさんや、せめて帰ってから読んでくれないかね。 はるか:…………。 椿:おまえさんや。 はるか:…………。 椿:えいっ、でこぴん。 はるか:あいてっ。あ、すみません。今なんと仰っていましたか? 椿:だからその小説の犯人は刑事だよ、と。 はるか:ええええ嘘でしょ!? 椿:今回は嘘だとも。 はるか:………(むくれる)。 椿:はっはっは。揶揄われる(からかわれる)のが嫌ならば、年長者の話はきちんと聞くことだよ? はるか:すみませんでした。 椿:気を付けたまえ。あと、作者の前でそんなに熱心に作品を読まれると、どうにも困ってしまうよ。 はるか:困る、ですか? 椿:ほら、顔、赤いだろう? はるか:いつもと同じに見えます。 椿:いつもと同じだからねえ。 はるか:あーもう分かりました!あとは帰ってから読みますから、俺で遊ばないでください! 椿:おまえさんと遊んでいたのだよ。 はるか:いーえっ!ぜったい俺「で」遊んでました! 椿:はっはっは。 はるか:それにしても、先生がデパートにおでかけとは、珍しいこともありますね。何の御用事で? 椿:ちょっとしたいことがあってね。それにここなら以前に遭った銃撃戦だの、乗っ取りだのと言ったことには出くわさないだろう? はるか:俺たち、遠出するたびに事件に遭ってばかりですからね。 椿:君の方は用事のひとつやふたつ、ないのかい?買うものにもよるが、お小遣いの融通はきくよ? はるか:あー……いえ、大丈夫です。つい最近バイトの給料が入ったばかりなので。 椿:そうかね。おまえさんのことだから心配はしていないが、大事に備えなね? はるか:「だいじにつかえ」ではなく、「だいじにそなえよ」、なんですね。 椿:そうすれば、いざという時に働かなくて済むからね。 はるか:おでこ出してください。 椿:おや、先ほどの仕返しかね。ほれ。 はるか:ふんっ。 椿:あいて。ふふ、おまえさんは子供だねえ。 はるか:先生の真似をしただけです。 椿:いいねえ。模倣はすべての始まりだ。言語・芸術・箸さばきに……物書き。多くの成長の始まりであり、そびえたつ壁さ。 はるか:壁ですか。 椿:正しい模倣で才能は大きく伸びる。しかし人間はあるとき、模倣しかできなくなってしまう時がいつか訪れる。自分が何かの真似をしている、という自覚が才能の限界を匂わせる。 はるか:模倣を途中でやめなければいけない、ということであっているのでしょうか? 椿:答えはひとそれぞれさ。人間はどれとして同じ形の器や魂を持っていないのだから。 はるか:せんせ、ではその壁が訪れない人のことをどう思いますか。せんせは、出会ったこと、ありますか。 椿:あるとも。誰よりも私の近くにいて、誰よりもふざけた奴だった。 はるか:それは、もしかしてーー 椿:他の方を私はどうこういうつもりはない。しかし、もしあいつを表現するとしたらこうなるかね。 はるか:天才、ですか? 椿:いや。「あいつは人間じゃなかった」、のさ。 0: 0: はるか:せんせ、甘いものは嫌いではないですよね? 椿:おや、もう三時か。どこか喫茶にでも入ろうかね。 0: 0:入店、席に着席する二人。 0: はるか:せんせ、こちらのメニューでしたら、どれがお好きですか? 椿:ケーキに、焼き菓子に、和菓子、かあ。(ちらりとはるかを見て)ふぅん? はるか:………お、おなか、もしかしてすいていませんか? 椿:………ふっ。いや、そんなことはないよ。「今は」和菓子にしようかなあ。おまえさんは? はるか:あ、俺はココアだけでいいです。 椿:おや、おやつはいらないのかね。 はるか:ココアと他のお菓子だと、ちょっと甘すぎてしまう気がして。 椿:ほう、では注文しようか。…………ああ、お嬢さん。こちらの和菓子のセット、飲み物はほうじ茶で。あとココアをこの子に。うん、ありがとう。 はるか:……ふう(ほっとして)。 椿:話は変わるが、おまえさんや。 はるか:なんでしょうか? 椿:家のもので、道具の類(たぐい)を新調しようと思っているのだがね。古くなっているものか、壊れそうなものをいくつか教えてくれないかな。その中から選びたいから。 はるか:あーー、なるほど?もう、なんで今聞くんですか?家を出る前に言ってくれたら調べられたのに。 椿:わざとだとも。調べて分かるものは急ぎのものじゃないんだ。とっさに思いつくものこそ、必要な、「ほしいもの」じゃないかね? はるか:直感で答えろってことですか…………コーヒーメーカーを新しくされては?せんせ、毎朝使うじゃないですか。 椿:ふむ、他には? はるか:えーと、えーと。キッチンの戸の立て付けが悪い、ですかね。あ、でも新調するのとは違うか。 椿:覚えておこう。それにしても、キッチンばかりだね? はるか:そりゃあ、俺は足吾(あしご)の家の食事係ですからね!………あ、しいて欲を言うなら包丁か、包丁を研ぐ道具が欲しいですね。お肉がさくさくきれるの。 椿:そうかい。私も家のことを把握しきれていなくて悪いね。…………おや、飲み物が来たようだ。 はるか:あ、店員さんありがとうございます。…………せんせ、このあと行きたいところがあるのですが、寄る時間ありますか? 椿:そうだね…………十六時にこの喫茶店の前に集合でもいいかね?夕食の前に編集が来る。時間が足りないかもしれないから別行動しよう。私にも寄りたいお店があってね。 はるか:はい、大丈夫です。時計は…………うん、スマホで確認しますね。 椿:知らない人についていかないんだよ? はるか:分かってます!!俺をいくつだと思ってるんですか! 椿:はっはっは。またあとでね。 0: 0: はるか:……はあ、めちゃくちゃ大変だった………。さっきせんせはこう言ってた。「今は」和菓子にしようかなあ。って。つまり、次以降はそれ以外の方がいいってことだと思う。でもよかった……和菓子って作るの難しいんだよなあ。ケーキで大丈夫、だよね。この前ビターチョコこそ至高!とかテレビ見て言ってたし、ホールケーキまるっと食べたいとか言ってたし。…………でもせんせ、嘘つきだからなあ。 0: はるか:俺は、日ごろの感謝を伝えるために、先生へのプレゼントを考えていた。かといって、散らかり放題の先生の部屋に新しいものを投入するのは気が引ける。そこで、お菓子にしようと思ったんだけど……先生との心理戦はたぶん完敗だ。 0: はるか:お待たせしました、せんせ。何か買えましたか? 椿:ああ。君も何か面倒ごとに巻き込まれたりはしなかったかな? はるか:はい。あ、帰る前にちょっとお手洗い行ってきます、すみません。 椿:ここにいるからね。 0: 0: はるか:せんせ、戻りました。 椿:随分と早かったね?トイレが見つからなかったのかい? はるか:警察を呼びます。あとダメもとで救急車も………死体を見つけました。 椿:おやおや、君は本当に何かに愛されているねえ。 0: 0:【間】 0: はるか:はい………はい、そうです。手前の個室を開けたらその女性が倒れてきて…顔色と首のあざを見て、椿さんに手伝ってもらって救急車と警察を先に呼びました。荷物検査ですか?はい、どうぞ…………ほら、せんせも、荷物。 椿:うーん、まさかこうなるとはねえ………黒いマフラーの警察官殿、おまえさんは私と会うの初めてだねえ。怪しいが害はないからびっくりしないでおくれ。 0: 0:椿のカバンから新品の包丁が出てくる。 0: はるか:せんせっ!?なんで包丁なんて持ってるんですか!!? 椿:どうどう、よく見たまえ。新品で、買ったばかり、封も開けられていないだろう?レシートだってあるぞ?…………はあ、普段頑張っているおまえさんのために買ったものなんだが、おそらくこれは押収されてしまうかもしれないねえ。 はるか:普通に不審者ですよ~! 椿:やれやれ、生きがたい世の中だ。………おまえさんや、仏のお嬢さんはどうなっていたんだね? はるか:俺の見た部分だけの説明になりますよ? 椿:よし。現場で説明してくれ。 はるか:………せんせって、羞恥心ないんですか? 椿:それを言うならおまえさんは危機感がないねえ。 はるか:こういう展開慣れちゃいましたから。 椿:警官の到着があまりに早くなかったかね? はるか:え? 椿:私たちはつけられていたのだよ。 0: 0: はるか:トイレ個室の扉を開けると、あちらの女性が倒れてきました。……もちろん、この「金髪の」お姉さんです。首にはマフラーが食い込んでいます。………お顔を見るに、苦しかったのでしょうね。先ほど警察官さんは自殺だと言っていました。荷物用のフックにひっかけて、首を…………。 椿:なるほど。「他殺」なんて、怖いねえ。 はるか:…………せんせ、俺はせんせの奇行に慣れましたが、皆さんは違います。警官さんたちがびっくりしていますよ。理由だけでも教えてください。 椿:まず一つ。このマフラーの材質ではこんなあざは首につかないよ。おそらく、「無線機」かなにかのコードでも巻いたら、ぴったり合うんじゃないかね? はるか:俺はさすがにまじまじと見れないので、警官さんに任せますね………。 椿:続いて二つ。首を吊った、と言いたいのなら、あざはこんな風に首輪のように水平にはつかないだろう。罰当たりだが、試しにひっかけなおしてみるかい?あざは今と違う曲線を描くはずだよ。 はるか:試さないでくださいね、後生(ごしょう)ですから。 椿:最後に。床に転がったフックを見てごらん。 はるか:…………割れてますね。 椿:それだけかい? はるか:…………あ!これ家でも使ってますね!デザインはいいんですけど、一キロしか重量耐えてくれないんです。 椿:そんなやわな代物で、そこそこ長い時間ぶら下がれると思うかい?…………以上が、「他殺である」ことの推理材料だよ。あとはおまえさんたちのお仕事だろう?帰らせてもらうね。 はるか:…………。 椿:ああ、急がないとまた編集の雨守(あまもり)にどやされる。 はるか:…………。あの、先生。警察の方が、ぜひ犯人探しにご協力を、と…………。 椿:ああ、まったく。働いたら負けだよ。交換条件だ。さっき渡した、私の贈り物の包丁。返しておくれ。………ありがとう。では、さっさと終わらせよう。 はるか:犯人が誰か分かるんですか!? 椿:ヒントをやるだけさ。………やあ、さっきの、初めましての警官君。従う上司は選んだ方がいいよ?まあ、誰かは?聞かないけれどね。では他の警察官殿も一緒に、お互い確認し合ってくれ。 椿:犯人は無線機のコードがみんなより伸びている。 椿:犯人はまだ服のどこかに被害者の、染めた金髪の毛をつけたままにしている可能性が高い。 0: 0: はるか:やっぱりせんせはすごいです。またスピード解決ですね。 椿:珍しいトリックじゃない。私もまた、先人の名探偵の模倣をしたまでさ。 はるか:あと、包丁、ありがとうございました。これでこれからも、おいしいごはん作れるように頑張ります。……プレゼントとして持ち歩くのは、もう気を付けてくださいね。 椿:あんなこと誰が予想できるかね、まったく。結局遅刻して雨守にはどやされたし。 はるか:まあまあ。脱稿のお祝いと、いつもの感謝の贈り物です。……せんせの贈り物ほど値が張るようなものじゃないですが。 椿:赤い箱に椿のイラストとは………贈り物の相談はおまえさんにした方がよさそうだね?ほーう、チョコレートケーキか。いいね、実にいい。 はるか:それは良かったです。ではいただいた包丁で切り分けますね、お待ちくだ(さい) 椿:スプーン。 はるか:………は? 椿:スプーンを、ふたつだ。 はるか:正気ですか。 椿:いっちどやってみたかったんだあ!もちろんおまえさんもやるだろう? はるか:もう………下品ですよ? 椿:だからこそ、この私たちだけの空間で試すのだよ!さあ、早く! はるか:もう………しかたないですね。 椿:そうは言うが、笑ってるじゃないか。 はるか:あはは、うん。俺も、楽しいです。 椿:それでは手を合わせて、せーの 二人:いただきます。

椿:おやおや、こんなに昔に書いた小説まで置いてあるのかい。変わった本屋だねえ。 はるか:何言ってるんですか、どこの本屋でもそうですよ。 椿:彼は呆れたようにこちらを見る。 はるか:「先生たち」は、天才で有名で、人気な小説家、なんですよ? 0: 0:タイトルコール はるか:『貴方に贈る赤』 0: 0: 椿:それは、ちゃんと面白いかな。 はるか:俺は好きです。 椿:おまえさんや、せめて帰ってから読んでくれないかね。 はるか:…………。 椿:おまえさんや。 はるか:…………。 椿:えいっ、でこぴん。 はるか:あいてっ。あ、すみません。今なんと仰っていましたか? 椿:だからその小説の犯人は刑事だよ、と。 はるか:ええええ嘘でしょ!? 椿:今回は嘘だとも。 はるか:………(むくれる)。 椿:はっはっは。揶揄われる(からかわれる)のが嫌ならば、年長者の話はきちんと聞くことだよ? はるか:すみませんでした。 椿:気を付けたまえ。あと、作者の前でそんなに熱心に作品を読まれると、どうにも困ってしまうよ。 はるか:困る、ですか? 椿:ほら、顔、赤いだろう? はるか:いつもと同じに見えます。 椿:いつもと同じだからねえ。 はるか:あーもう分かりました!あとは帰ってから読みますから、俺で遊ばないでください! 椿:おまえさんと遊んでいたのだよ。 はるか:いーえっ!ぜったい俺「で」遊んでました! 椿:はっはっは。 はるか:それにしても、先生がデパートにおでかけとは、珍しいこともありますね。何の御用事で? 椿:ちょっとしたいことがあってね。それにここなら以前に遭った銃撃戦だの、乗っ取りだのと言ったことには出くわさないだろう? はるか:俺たち、遠出するたびに事件に遭ってばかりですからね。 椿:君の方は用事のひとつやふたつ、ないのかい?買うものにもよるが、お小遣いの融通はきくよ? はるか:あー……いえ、大丈夫です。つい最近バイトの給料が入ったばかりなので。 椿:そうかね。おまえさんのことだから心配はしていないが、大事に備えなね? はるか:「だいじにつかえ」ではなく、「だいじにそなえよ」、なんですね。 椿:そうすれば、いざという時に働かなくて済むからね。 はるか:おでこ出してください。 椿:おや、先ほどの仕返しかね。ほれ。 はるか:ふんっ。 椿:あいて。ふふ、おまえさんは子供だねえ。 はるか:先生の真似をしただけです。 椿:いいねえ。模倣はすべての始まりだ。言語・芸術・箸さばきに……物書き。多くの成長の始まりであり、そびえたつ壁さ。 はるか:壁ですか。 椿:正しい模倣で才能は大きく伸びる。しかし人間はあるとき、模倣しかできなくなってしまう時がいつか訪れる。自分が何かの真似をしている、という自覚が才能の限界を匂わせる。 はるか:模倣を途中でやめなければいけない、ということであっているのでしょうか? 椿:答えはひとそれぞれさ。人間はどれとして同じ形の器や魂を持っていないのだから。 はるか:せんせ、ではその壁が訪れない人のことをどう思いますか。せんせは、出会ったこと、ありますか。 椿:あるとも。誰よりも私の近くにいて、誰よりもふざけた奴だった。 はるか:それは、もしかしてーー 椿:他の方を私はどうこういうつもりはない。しかし、もしあいつを表現するとしたらこうなるかね。 はるか:天才、ですか? 椿:いや。「あいつは人間じゃなかった」、のさ。 0: 0: はるか:せんせ、甘いものは嫌いではないですよね? 椿:おや、もう三時か。どこか喫茶にでも入ろうかね。 0: 0:入店、席に着席する二人。 0: はるか:せんせ、こちらのメニューでしたら、どれがお好きですか? 椿:ケーキに、焼き菓子に、和菓子、かあ。(ちらりとはるかを見て)ふぅん? はるか:………お、おなか、もしかしてすいていませんか? 椿:………ふっ。いや、そんなことはないよ。「今は」和菓子にしようかなあ。おまえさんは? はるか:あ、俺はココアだけでいいです。 椿:おや、おやつはいらないのかね。 はるか:ココアと他のお菓子だと、ちょっと甘すぎてしまう気がして。 椿:ほう、では注文しようか。…………ああ、お嬢さん。こちらの和菓子のセット、飲み物はほうじ茶で。あとココアをこの子に。うん、ありがとう。 はるか:……ふう(ほっとして)。 椿:話は変わるが、おまえさんや。 はるか:なんでしょうか? 椿:家のもので、道具の類(たぐい)を新調しようと思っているのだがね。古くなっているものか、壊れそうなものをいくつか教えてくれないかな。その中から選びたいから。 はるか:あーー、なるほど?もう、なんで今聞くんですか?家を出る前に言ってくれたら調べられたのに。 椿:わざとだとも。調べて分かるものは急ぎのものじゃないんだ。とっさに思いつくものこそ、必要な、「ほしいもの」じゃないかね? はるか:直感で答えろってことですか…………コーヒーメーカーを新しくされては?せんせ、毎朝使うじゃないですか。 椿:ふむ、他には? はるか:えーと、えーと。キッチンの戸の立て付けが悪い、ですかね。あ、でも新調するのとは違うか。 椿:覚えておこう。それにしても、キッチンばかりだね? はるか:そりゃあ、俺は足吾(あしご)の家の食事係ですからね!………あ、しいて欲を言うなら包丁か、包丁を研ぐ道具が欲しいですね。お肉がさくさくきれるの。 椿:そうかい。私も家のことを把握しきれていなくて悪いね。…………おや、飲み物が来たようだ。 はるか:あ、店員さんありがとうございます。…………せんせ、このあと行きたいところがあるのですが、寄る時間ありますか? 椿:そうだね…………十六時にこの喫茶店の前に集合でもいいかね?夕食の前に編集が来る。時間が足りないかもしれないから別行動しよう。私にも寄りたいお店があってね。 はるか:はい、大丈夫です。時計は…………うん、スマホで確認しますね。 椿:知らない人についていかないんだよ? はるか:分かってます!!俺をいくつだと思ってるんですか! 椿:はっはっは。またあとでね。 0: 0: はるか:……はあ、めちゃくちゃ大変だった………。さっきせんせはこう言ってた。「今は」和菓子にしようかなあ。って。つまり、次以降はそれ以外の方がいいってことだと思う。でもよかった……和菓子って作るの難しいんだよなあ。ケーキで大丈夫、だよね。この前ビターチョコこそ至高!とかテレビ見て言ってたし、ホールケーキまるっと食べたいとか言ってたし。…………でもせんせ、嘘つきだからなあ。 0: はるか:俺は、日ごろの感謝を伝えるために、先生へのプレゼントを考えていた。かといって、散らかり放題の先生の部屋に新しいものを投入するのは気が引ける。そこで、お菓子にしようと思ったんだけど……先生との心理戦はたぶん完敗だ。 0: はるか:お待たせしました、せんせ。何か買えましたか? 椿:ああ。君も何か面倒ごとに巻き込まれたりはしなかったかな? はるか:はい。あ、帰る前にちょっとお手洗い行ってきます、すみません。 椿:ここにいるからね。 0: 0: はるか:せんせ、戻りました。 椿:随分と早かったね?トイレが見つからなかったのかい? はるか:警察を呼びます。あとダメもとで救急車も………死体を見つけました。 椿:おやおや、君は本当に何かに愛されているねえ。 0: 0:【間】 0: はるか:はい………はい、そうです。手前の個室を開けたらその女性が倒れてきて…顔色と首のあざを見て、椿さんに手伝ってもらって救急車と警察を先に呼びました。荷物検査ですか?はい、どうぞ…………ほら、せんせも、荷物。 椿:うーん、まさかこうなるとはねえ………黒いマフラーの警察官殿、おまえさんは私と会うの初めてだねえ。怪しいが害はないからびっくりしないでおくれ。 0: 0:椿のカバンから新品の包丁が出てくる。 0: はるか:せんせっ!?なんで包丁なんて持ってるんですか!!? 椿:どうどう、よく見たまえ。新品で、買ったばかり、封も開けられていないだろう?レシートだってあるぞ?…………はあ、普段頑張っているおまえさんのために買ったものなんだが、おそらくこれは押収されてしまうかもしれないねえ。 はるか:普通に不審者ですよ~! 椿:やれやれ、生きがたい世の中だ。………おまえさんや、仏のお嬢さんはどうなっていたんだね? はるか:俺の見た部分だけの説明になりますよ? 椿:よし。現場で説明してくれ。 はるか:………せんせって、羞恥心ないんですか? 椿:それを言うならおまえさんは危機感がないねえ。 はるか:こういう展開慣れちゃいましたから。 椿:警官の到着があまりに早くなかったかね? はるか:え? 椿:私たちはつけられていたのだよ。 0: 0: はるか:トイレ個室の扉を開けると、あちらの女性が倒れてきました。……もちろん、この「金髪の」お姉さんです。首にはマフラーが食い込んでいます。………お顔を見るに、苦しかったのでしょうね。先ほど警察官さんは自殺だと言っていました。荷物用のフックにひっかけて、首を…………。 椿:なるほど。「他殺」なんて、怖いねえ。 はるか:…………せんせ、俺はせんせの奇行に慣れましたが、皆さんは違います。警官さんたちがびっくりしていますよ。理由だけでも教えてください。 椿:まず一つ。このマフラーの材質ではこんなあざは首につかないよ。おそらく、「無線機」かなにかのコードでも巻いたら、ぴったり合うんじゃないかね? はるか:俺はさすがにまじまじと見れないので、警官さんに任せますね………。 椿:続いて二つ。首を吊った、と言いたいのなら、あざはこんな風に首輪のように水平にはつかないだろう。罰当たりだが、試しにひっかけなおしてみるかい?あざは今と違う曲線を描くはずだよ。 はるか:試さないでくださいね、後生(ごしょう)ですから。 椿:最後に。床に転がったフックを見てごらん。 はるか:…………割れてますね。 椿:それだけかい? はるか:…………あ!これ家でも使ってますね!デザインはいいんですけど、一キロしか重量耐えてくれないんです。 椿:そんなやわな代物で、そこそこ長い時間ぶら下がれると思うかい?…………以上が、「他殺である」ことの推理材料だよ。あとはおまえさんたちのお仕事だろう?帰らせてもらうね。 はるか:…………。 椿:ああ、急がないとまた編集の雨守(あまもり)にどやされる。 はるか:…………。あの、先生。警察の方が、ぜひ犯人探しにご協力を、と…………。 椿:ああ、まったく。働いたら負けだよ。交換条件だ。さっき渡した、私の贈り物の包丁。返しておくれ。………ありがとう。では、さっさと終わらせよう。 はるか:犯人が誰か分かるんですか!? 椿:ヒントをやるだけさ。………やあ、さっきの、初めましての警官君。従う上司は選んだ方がいいよ?まあ、誰かは?聞かないけれどね。では他の警察官殿も一緒に、お互い確認し合ってくれ。 椿:犯人は無線機のコードがみんなより伸びている。 椿:犯人はまだ服のどこかに被害者の、染めた金髪の毛をつけたままにしている可能性が高い。 0: 0: はるか:やっぱりせんせはすごいです。またスピード解決ですね。 椿:珍しいトリックじゃない。私もまた、先人の名探偵の模倣をしたまでさ。 はるか:あと、包丁、ありがとうございました。これでこれからも、おいしいごはん作れるように頑張ります。……プレゼントとして持ち歩くのは、もう気を付けてくださいね。 椿:あんなこと誰が予想できるかね、まったく。結局遅刻して雨守にはどやされたし。 はるか:まあまあ。脱稿のお祝いと、いつもの感謝の贈り物です。……せんせの贈り物ほど値が張るようなものじゃないですが。 椿:赤い箱に椿のイラストとは………贈り物の相談はおまえさんにした方がよさそうだね?ほーう、チョコレートケーキか。いいね、実にいい。 はるか:それは良かったです。ではいただいた包丁で切り分けますね、お待ちくだ(さい) 椿:スプーン。 はるか:………は? 椿:スプーンを、ふたつだ。 はるか:正気ですか。 椿:いっちどやってみたかったんだあ!もちろんおまえさんもやるだろう? はるか:もう………下品ですよ? 椿:だからこそ、この私たちだけの空間で試すのだよ!さあ、早く! はるか:もう………しかたないですね。 椿:そうは言うが、笑ってるじゃないか。 はるか:あはは、うん。俺も、楽しいです。 椿:それでは手を合わせて、せーの 二人:いただきます。