台本概要
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タイトル | 7話『レプリカの闇を 行燈は照らして』 |
---|---|
作者名 | 野菜 (@irodlinatuyasai) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
役者様の性別は問いません。アレンジも大歓迎ですので演じやすいように変更してください。 昼行燈探偵シリーズ第七話。 行く先々で不幸な事故や事件にあう学生はるか。彼の新たな家族として面倒を見る作家、椿。 5話6話がシリアスだったので、今回ははるかに優しいおはなしに……おや、様子がおかしいですね……? 82 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
椿 | 女 | 79 | 末永椿(すえながつばき)。本名ではなく数あるペンネームのひとつ。小説家。野木はるかの養親。和服。昼行燈を装っているのか、本当にダメ人間なのか謎。 |
はるか | 男 | 77 | 野木はるか(のぎはるか)。学生(年齢不問)。だらしのない椿の面倒を見るのが趣味。椿のことは基本的には「せんせ」と呼ぶ。最近椿の養子になった。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
はるか:せんせ。
椿:はぁい。
はるか:せんせは俺に、現地集合と言いましたね。そう言っていたのはどうしてですか?
椿:それは、このビルが家よりおまえさんの学校に近いところにあるからだねえ。
はるか:せんせ。
椿:はぁい。
はるか:せんせは俺に、このビルに来るよう言いましたが、なぜでしたか?
椿:私の書いた小説をもとにしたイベントがあるから、一緒にリハーサルに出ようかと。
はるか:せんせ。
椿:はぁい。
はるか:待ち合わせは五時でしたね。今、何時ですか?
椿:…………お星さまが、きれいだねえ。
はるか:八時ですよ八時!!分かりますか!?二〇時過ぎなんです!!
椿:あっはっは。やってしまったねえ。
はるか:理由次第では怒りません。なんで遅れたんですか。
椿:寝坊してしまったよ。
はるか:残念、俺は怒っています。ハリセン作っておいてよかった。
椿:張り倒すための扇子?針千本飲ませる方?
はるか:張り倒す方ですよ。いくら何でも縫い針飲ませたりとか………なぜそういう発想に………。
椿:ハリセン作る方もどうかと思うけどねえ。おまえさん、編集の雨守(あまもり)に似てきてないかい?
はるか:よくわかりましたね。雨守さんに教わった、とても痛い作り方、叩き方です。
椿:雨守め…………。うちのこになんてものを教えてくれたものやら…………。
はるか:これ以上ボケられたら困りますから、頭でなく腰か背中をしとめろと聞いています。
椿:雨守め…………本当に余計な知識を…………。
はるか:はいはい、覚悟決めてください。せーのっ!
椿:いっ……たーーー!!!?
0:
0:
0:タイトルコール
はるか:『レプリカの闇を』
椿:『行燈(あんどん)は照らして』
0:
0:
はるか:会場へはまだは入れますよ。スタッフさんたちはさすがに皆さま帰ってしまいましたが。
椿:まだ痛む…………。
はるか:目が覚めたようでなによりです。
椿:何はともあれ。三時間も待たせてすまなかった。暖かくなってきたとはいえ、体調は平気かね?
はるか:俺は大丈夫ですよ。それより、明日のイベントではスタッフさんたちに謝ってくださいね。
椿:心得ているとも。時に、おまえさんはこのイベントの詳細などをすでに聞いているかね?
はるか:ええ、資料を見せてもらいましたが…………脱出ゲーム?推理ゲーム?みたいな体験型イベントですよね?
椿:ああ。だが推理や脱出は、おまけだ。
はるか:おまけですか。
椿:中に入れば分かるが…………(ドアを開け二人中へ)ほら、ドラマの舞台セットのようだろう?
はるか:おおお!もしかして、これが明日同時に発売される新作小説の舞台ですか!?
椿:そうとも。カーペットや壁紙の指定はもちろん、置いてある小瓶や布のしわ一つまで細かく決めさせてもらった。
はるか:あ、せんせは以前にもこちらへ?
椿:完成してから来るのは、今日が初めてだけれどね。
はるか:あ、ここにページが書いてある…………このページに出てくるシーンってことですね?
椿:そうとも。さて、遊んでいくかい?献本(けんぽん)をもってきてあるから今なら独占できるが。
はるか:いいえ!俺も明日並んで遊びますので!
椿:ほう。
はるか:末永せんせの作品のファンのひとりとして、他の方々と同じ視点で楽しみたいので!!
椿:…………そりゃあ、作者冥利に尽きるがねえ…………ほんとにいい子に育って。誰に似たのやら。
はるか:フライングで覗けただけ十分です!俺は先に外に出てますね。
椿:…………そうかい。まあおまえさんがそれでいいのなら……
はるか:あ、言っときますけど、本も自分で買うので!へへ、明日が楽し(みです)
0:停電が起きる
はるか:うおっ!!?停電!?せんせ!無事ですか!?
椿:大丈夫だよ。落ち着きたまえ。スマホくらい持っているだろう?転ばないようにライトつけなさい。
はるか:……すみません、取り乱しました。…………ニュース見る限り、地域の停電じゃないですね。せんせ、帰りましょう?
椿:そうだね。(小声)ブレーカーが落ちたにしては、不自然だが…………
椿:……ん?どうしたね?外に出ないのかね?
はるか:…………まさかとは思いますが、オートロックまで再現してたり?
椿:…………再現してたね、そういえば。でも中から、つまりこちら側から出る分には問題ないはずだよ?
はるか:開かないんですよ。鍵開けるあそこ、ツマミが回らないというか…………
椿:見せてごらん。…………(すぽっ)あ、サムターン取れた。
はるか:見る限り、明らかに取れてはいけない部分ですね??
椿:電気が復旧したら、外側…………まあつまり向こう側からだが、外からカードキーで開けられるだろう。こちらからは出れないわけだが。
はるか:オートロックってそういうものなんですか?
椿:まさか本物を用意するわけにもいかなくてね、高性能のおもちゃ、程度なのだよ、これは。
はるか:どうしましょうか、これから。
椿:どうするっておまえさん、まっとうな手段で出るしかあるまいよ。
はるか:と、いいますと?
椿:リアル脱出ゲームの始まり、というわけだ。
0:
0:
椿:推理小説、『行燈照らす闇』の舞台は、成金野郎の屋敷だ。ここで四人の人物が、復讐をされて命を落とす。このイベントでは三人しか出てこないがね。今回レプリカとして再現されたシーン、つまりステージはリビングと寝室の二部屋。凶器の側に次の部屋へつながる鍵がある。
はるか:小説を読んでいなくても大丈夫ですか?
椿:正直、しらみつぶしで簡単に出れるレベルだ。隠されている場所に理由はあるが、知っている必要はないね。
はるか:推理や脱出がおまけ、というのはそういうことですか。
椿:あくまで世界観を楽しんでもらうのさ。…………その前に。
はるか:行燈、ですか。けっこうな数がありますね。数字も書いてありますが…………
椿:ふふ、解説という名のネタバレをしてやろうか?
はるか:ダメです!
椿:ごめんよ、ふふふ。あ、ちなみに全部電池で動いてるから蹴っ飛ばしても問題ないよ。行燈の数字は気にしなくていい。
0:
はるか:さて、凶器の近くに鍵、ということは、アレに目を向けないといけませんね。
椿:設定としては、おまえさんたちお客人は新米刑事だ。
はるか:倒れている人を囲うように白いテープが貼ってありますね…………赤黒いしみが頭の周辺に広がっているのを見ると、撲殺か、失血死か。
椿:新米とは思えないくらい慣れているねえ。
はるか:…………せんせ、なにしてんですか。
椿:何をしているように見える?
はるか:ソファーに横になって眠そうにくつろいでます。
椿:当たり。…………こらこら無言でハリセンを取り出すんじゃない。凶器を探したまえ。
はるか:…………それもそうですね。難しい推理ではない、ということは単純に考えていいんですよね、きっと。この部屋にある硬い物、重い物…………この三つでしょうか。
椿:ガラスの置時計、大理石の灰皿、酒のボトル………だね。
はるか:酒のボトルですが、論外ですね。割れてしまった場合完全に片付けられるとは限らないですし。
椿:もう一本あったかもしれないよ?
はるか:実際の事件ではいろいろな可能性を考えるべきでしょうけど、素人にも分かるように今回は謎が作られているんでしょう?
椿:ふふ、そうとも。
はるか:ガラスの置時計も傷一つついていないので違うでしょうね。それに、下手をしたら壊れて時計が止まってしまいます。
椿:うんうん、その時計は八時四十一分、ちゃんと動いているね。
はるか:で、灰皿ですが。
椿:うん。
はるか:べっとりと血が。
椿:あっはっはっはっは!!
はるか:裏面にテープが貼ってありますね。「三・五・八・四」ですか。
椿:それが「鍵」さね。では、次のステージに行こう。
0:
0:
椿:さて、今度はバスルーム付きの寝室だよ。さすがに水は出ないけれどね。
はるか:ステージはここで最後、死体は二つ、ですか?
椿:よく覚えていたね。そうとも、そして今回もナンバーロックだよ。
はるか:じゃあちょっといろいろ見てきます。
椿:うんうん、楽しんでおいで~
0:
はるか:なんとなく分かりました。
椿:おお、では新米刑事殿、見解を。
はるか:まず死体ですが、バスルームでひとり、包丁で。そしてベッドの上でひとり、おそらくひもで絞められて。凶器は探すまでもなく近くに落ちていて、番号が書かれていました。「二・九・三」と「八・八・二」です。
椿:だが、ナンバーキーはひとつだよ?
はるか:ええ、でもどちらかひとつ、とはならないはずです。どちらかを先に、両方つなげてひとつのキーなのかと。
椿:試してみるかい?時間はかからないだろうよ。
はるか:でも、先生は見解を聞きたいんでしょう?なぜその順番になるのか、理由を。
椿:もちろん。
はるか:俺、二人は順番に死んだんだと思ってます。
椿:それはなぜ?
はるか:バスルームの女性は不意打ちとしても………その時同時にベッドのもう一人の方がいたとしたら、バスルームで襲われてることに気が付かなかったなんてことないと思います。復讐されて三人は命を落としたんですよね?ではあとを追っての自殺、もないでしょう。
椿:いい調子だ。ではナンバーロックとはどうつなげる?
はるか:犯行の順番です。二人は順番にこの部屋に呼び出されるか、やってくるかしますよね。部屋に入ってすぐのベッドに、血まみれのシーツに寝てる人がいたら気が付くでしょう。単純に考えるなら、バスルームのナンバー、ベッドのナンバーという順番になるかと。
椿:犯人はバスルームで不意打ちをかけ、部屋で待機し、もう一人の寝込みを襲った、と。
はるか:犯人が絞れそうですよね。か弱い方だったのでしょうか。とにかくナンバーロックは、「二・九・三・八・八・二」です。
椿:ふふ、では試してごらん。
はるか:これ外れてたらだいぶ恥ずかしいですね…………あ、開いた!
椿:新米刑事殿、おみごと。解説は………おまえさんが小説を読んでからの方が嬉しいかな?
はるか:ええ、ネタバレ厳禁ですよ。
椿:ちなみにバスルームの死体が女性だとなぜ推理したんだい?
はるか:…………えーと。
椿:ねえねえおまえさんや、見たんだねバスルームのアレを。
はるか:あーもううるさいセクハラですよ!!
椿:はっはっは、ちゃんと色とかデザインまで彼女の趣味に合わせ……
はるか:やーめーてーくーだーさーい!!
0:
0:
はるか:一階も真っ暗ですねー…って、当たり前か。
椿:ああ、すまない。ちょっと寄っていくよ。
はるか:え?早く帰りましょうよ…………って、せんせ!ストップ!そこ入っちゃダメですよ!?
椿:なに、確認するだけさ。
はるか:何をですか?
椿:ブレーカーだよ。
0:
0:
椿:…………あった。いいかいおまえさんや。家にあるブレーカーはともかく、こういった大きい専門的なものは資格持ちでないといじってはいけない、見るだけだよ。
はるか:はい、せんせ。…………なにか、分かりましたか?
椿:思った通りだったよ。おまえさんや、私たちがここに来た時、このビルの明かりは一階のここ警備室しか電気がついていなかったね?
はるか:はい、人がいるかまでは分かりませんでしたが、二階の会場は俺たちが入った時に電気を付けました。
椿:ブレーカーの落ちる原因はいろいろあるにしても、多くは電気の使い過ぎが原因だ。そして、電気の使い過ぎが原因でブレーカーが落ちたかどうかは、ブレーカーのつまみの位置を見ればわかる。つまり、自然に落ちたか、人為的に落とされたか。
はるか:おかしいですね。このビルの一つの階で電気をつけただけで、ブレーカーが落ちるなんて。…………警備の人、帰っちゃったんでしょうか?
椿:それにしたって、妙なタイミングではなかったかね?私たちが入った時間は八時を過ぎていたが、九時には遠い。残業していたにしても…………毎日帰る際にブレーカーをわざわざ落として帰るものかね?
はるか:ブレーカー、人為的に落とされていたんですね?
椿:ああ。今回のは偶然巻き込まれた事故じゃない。…………地味で悪趣味な、いやがらせだよ。
0:
0:
はるか:翌日、なにごともなかったかのようにイベントは始まった。
椿:今日から二週間、予約いっぱい満員御礼。手が取れるほど書かされたサイン本も、売れ残ることはなさそうだ。強いて変更点をあげるならば。
はるか:(小声)せ…………母さん、会場、暗めに設定したんですね?
椿:(小声)本来は明るい室内で行う予定だったのだがね。行燈が存外いい雰囲気を出すと昨晩感じたものだから。
はるか:(小声)せ…………母さんは本当に人前に出ないんですね。
椿:(小声)末永椿は、一人じゃないからね?
0:
椿:推理小説『行燈照らす闇』
椿:物語は前半は犯人視点、後半は被害者視点で進む。少女は幼いころ自分をさらい、売り払い、家族と引き離した誘拐犯たちに復讐を誓った。ターゲットは四人。最後の一人を書斎で仕留めたとき、少女はやけにたくさんある行燈に目が留まる。行燈にはすべて少女の名前が彫り込まれ、少女がさらわれた三歳からの数字が記されていた。少女は復讐に目がくらみ、気が付かなかったのだ。机の上に飾られた、幼い少女と家族、それを照らす行燈の写った、写真立てに。屋敷の主は、少女の父親だったのだ。なぜ父親が誘拐犯のリーダーだったのか?どうして行燈を数え、娘を想っていたのか?新米刑事は少女と共に、事件のあった屋敷を訪れた。
0:
0:
はるか:防犯カメラ、どうでした?
椿:うつっていなかったよ。どうも窓から出入りしたようだが…………さすがに指紋を調べたとて、だよ。実害はほぼなかったから、どうにもね。
はるか:…………せんせ、初日以外まったく外出していませんけど、イベント、いいんですか?
椿:義務は果たした。
はるか:もしかして今回のイベント、せんせの中で「労働」にカウントされてます?
椿:「働いたら負け」、だよ。
はるか:せんせ。
椿:はぁい。
はるか:せんせは俺に、現地集合と言いましたね。そう言っていたのはどうしてですか?
椿:それは、このビルが家よりおまえさんの学校に近いところにあるからだねえ。
はるか:せんせ。
椿:はぁい。
はるか:せんせは俺に、このビルに来るよう言いましたが、なぜでしたか?
椿:私の書いた小説をもとにしたイベントがあるから、一緒にリハーサルに出ようかと。
はるか:せんせ。
椿:はぁい。
はるか:待ち合わせは五時でしたね。今、何時ですか?
椿:…………お星さまが、きれいだねえ。
はるか:八時ですよ八時!!分かりますか!?二〇時過ぎなんです!!
椿:あっはっは。やってしまったねえ。
はるか:理由次第では怒りません。なんで遅れたんですか。
椿:寝坊してしまったよ。
はるか:残念、俺は怒っています。ハリセン作っておいてよかった。
椿:張り倒すための扇子?針千本飲ませる方?
はるか:張り倒す方ですよ。いくら何でも縫い針飲ませたりとか………なぜそういう発想に………。
椿:ハリセン作る方もどうかと思うけどねえ。おまえさん、編集の雨守(あまもり)に似てきてないかい?
はるか:よくわかりましたね。雨守さんに教わった、とても痛い作り方、叩き方です。
椿:雨守め…………。うちのこになんてものを教えてくれたものやら…………。
はるか:これ以上ボケられたら困りますから、頭でなく腰か背中をしとめろと聞いています。
椿:雨守め…………本当に余計な知識を…………。
はるか:はいはい、覚悟決めてください。せーのっ!
椿:いっ……たーーー!!!?
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はるか:『レプリカの闇を』
椿:『行燈(あんどん)は照らして』
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はるか:会場へはまだは入れますよ。スタッフさんたちはさすがに皆さま帰ってしまいましたが。
椿:まだ痛む…………。
はるか:目が覚めたようでなによりです。
椿:何はともあれ。三時間も待たせてすまなかった。暖かくなってきたとはいえ、体調は平気かね?
はるか:俺は大丈夫ですよ。それより、明日のイベントではスタッフさんたちに謝ってくださいね。
椿:心得ているとも。時に、おまえさんはこのイベントの詳細などをすでに聞いているかね?
はるか:ええ、資料を見せてもらいましたが…………脱出ゲーム?推理ゲーム?みたいな体験型イベントですよね?
椿:ああ。だが推理や脱出は、おまけだ。
はるか:おまけですか。
椿:中に入れば分かるが…………(ドアを開け二人中へ)ほら、ドラマの舞台セットのようだろう?
はるか:おおお!もしかして、これが明日同時に発売される新作小説の舞台ですか!?
椿:そうとも。カーペットや壁紙の指定はもちろん、置いてある小瓶や布のしわ一つまで細かく決めさせてもらった。
はるか:あ、せんせは以前にもこちらへ?
椿:完成してから来るのは、今日が初めてだけれどね。
はるか:あ、ここにページが書いてある…………このページに出てくるシーンってことですね?
椿:そうとも。さて、遊んでいくかい?献本(けんぽん)をもってきてあるから今なら独占できるが。
はるか:いいえ!俺も明日並んで遊びますので!
椿:ほう。
はるか:末永せんせの作品のファンのひとりとして、他の方々と同じ視点で楽しみたいので!!
椿:…………そりゃあ、作者冥利に尽きるがねえ…………ほんとにいい子に育って。誰に似たのやら。
はるか:フライングで覗けただけ十分です!俺は先に外に出てますね。
椿:…………そうかい。まあおまえさんがそれでいいのなら……
はるか:あ、言っときますけど、本も自分で買うので!へへ、明日が楽し(みです)
0:停電が起きる
はるか:うおっ!!?停電!?せんせ!無事ですか!?
椿:大丈夫だよ。落ち着きたまえ。スマホくらい持っているだろう?転ばないようにライトつけなさい。
はるか:……すみません、取り乱しました。…………ニュース見る限り、地域の停電じゃないですね。せんせ、帰りましょう?
椿:そうだね。(小声)ブレーカーが落ちたにしては、不自然だが…………
椿:……ん?どうしたね?外に出ないのかね?
はるか:…………まさかとは思いますが、オートロックまで再現してたり?
椿:…………再現してたね、そういえば。でも中から、つまりこちら側から出る分には問題ないはずだよ?
はるか:開かないんですよ。鍵開けるあそこ、ツマミが回らないというか…………
椿:見せてごらん。…………(すぽっ)あ、サムターン取れた。
はるか:見る限り、明らかに取れてはいけない部分ですね??
椿:電気が復旧したら、外側…………まあつまり向こう側からだが、外からカードキーで開けられるだろう。こちらからは出れないわけだが。
はるか:オートロックってそういうものなんですか?
椿:まさか本物を用意するわけにもいかなくてね、高性能のおもちゃ、程度なのだよ、これは。
はるか:どうしましょうか、これから。
椿:どうするっておまえさん、まっとうな手段で出るしかあるまいよ。
はるか:と、いいますと?
椿:リアル脱出ゲームの始まり、というわけだ。
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椿:推理小説、『行燈照らす闇』の舞台は、成金野郎の屋敷だ。ここで四人の人物が、復讐をされて命を落とす。このイベントでは三人しか出てこないがね。今回レプリカとして再現されたシーン、つまりステージはリビングと寝室の二部屋。凶器の側に次の部屋へつながる鍵がある。
はるか:小説を読んでいなくても大丈夫ですか?
椿:正直、しらみつぶしで簡単に出れるレベルだ。隠されている場所に理由はあるが、知っている必要はないね。
はるか:推理や脱出がおまけ、というのはそういうことですか。
椿:あくまで世界観を楽しんでもらうのさ。…………その前に。
はるか:行燈、ですか。けっこうな数がありますね。数字も書いてありますが…………
椿:ふふ、解説という名のネタバレをしてやろうか?
はるか:ダメです!
椿:ごめんよ、ふふふ。あ、ちなみに全部電池で動いてるから蹴っ飛ばしても問題ないよ。行燈の数字は気にしなくていい。
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はるか:さて、凶器の近くに鍵、ということは、アレに目を向けないといけませんね。
椿:設定としては、おまえさんたちお客人は新米刑事だ。
はるか:倒れている人を囲うように白いテープが貼ってありますね…………赤黒いしみが頭の周辺に広がっているのを見ると、撲殺か、失血死か。
椿:新米とは思えないくらい慣れているねえ。
はるか:…………せんせ、なにしてんですか。
椿:何をしているように見える?
はるか:ソファーに横になって眠そうにくつろいでます。
椿:当たり。…………こらこら無言でハリセンを取り出すんじゃない。凶器を探したまえ。
はるか:…………それもそうですね。難しい推理ではない、ということは単純に考えていいんですよね、きっと。この部屋にある硬い物、重い物…………この三つでしょうか。
椿:ガラスの置時計、大理石の灰皿、酒のボトル………だね。
はるか:酒のボトルですが、論外ですね。割れてしまった場合完全に片付けられるとは限らないですし。
椿:もう一本あったかもしれないよ?
はるか:実際の事件ではいろいろな可能性を考えるべきでしょうけど、素人にも分かるように今回は謎が作られているんでしょう?
椿:ふふ、そうとも。
はるか:ガラスの置時計も傷一つついていないので違うでしょうね。それに、下手をしたら壊れて時計が止まってしまいます。
椿:うんうん、その時計は八時四十一分、ちゃんと動いているね。
はるか:で、灰皿ですが。
椿:うん。
はるか:べっとりと血が。
椿:あっはっはっはっは!!
はるか:裏面にテープが貼ってありますね。「三・五・八・四」ですか。
椿:それが「鍵」さね。では、次のステージに行こう。
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椿:さて、今度はバスルーム付きの寝室だよ。さすがに水は出ないけれどね。
はるか:ステージはここで最後、死体は二つ、ですか?
椿:よく覚えていたね。そうとも、そして今回もナンバーロックだよ。
はるか:じゃあちょっといろいろ見てきます。
椿:うんうん、楽しんでおいで~
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はるか:なんとなく分かりました。
椿:おお、では新米刑事殿、見解を。
はるか:まず死体ですが、バスルームでひとり、包丁で。そしてベッドの上でひとり、おそらくひもで絞められて。凶器は探すまでもなく近くに落ちていて、番号が書かれていました。「二・九・三」と「八・八・二」です。
椿:だが、ナンバーキーはひとつだよ?
はるか:ええ、でもどちらかひとつ、とはならないはずです。どちらかを先に、両方つなげてひとつのキーなのかと。
椿:試してみるかい?時間はかからないだろうよ。
はるか:でも、先生は見解を聞きたいんでしょう?なぜその順番になるのか、理由を。
椿:もちろん。
はるか:俺、二人は順番に死んだんだと思ってます。
椿:それはなぜ?
はるか:バスルームの女性は不意打ちとしても………その時同時にベッドのもう一人の方がいたとしたら、バスルームで襲われてることに気が付かなかったなんてことないと思います。復讐されて三人は命を落としたんですよね?ではあとを追っての自殺、もないでしょう。
椿:いい調子だ。ではナンバーロックとはどうつなげる?
はるか:犯行の順番です。二人は順番にこの部屋に呼び出されるか、やってくるかしますよね。部屋に入ってすぐのベッドに、血まみれのシーツに寝てる人がいたら気が付くでしょう。単純に考えるなら、バスルームのナンバー、ベッドのナンバーという順番になるかと。
椿:犯人はバスルームで不意打ちをかけ、部屋で待機し、もう一人の寝込みを襲った、と。
はるか:犯人が絞れそうですよね。か弱い方だったのでしょうか。とにかくナンバーロックは、「二・九・三・八・八・二」です。
椿:ふふ、では試してごらん。
はるか:これ外れてたらだいぶ恥ずかしいですね…………あ、開いた!
椿:新米刑事殿、おみごと。解説は………おまえさんが小説を読んでからの方が嬉しいかな?
はるか:ええ、ネタバレ厳禁ですよ。
椿:ちなみにバスルームの死体が女性だとなぜ推理したんだい?
はるか:…………えーと。
椿:ねえねえおまえさんや、見たんだねバスルームのアレを。
はるか:あーもううるさいセクハラですよ!!
椿:はっはっは、ちゃんと色とかデザインまで彼女の趣味に合わせ……
はるか:やーめーてーくーだーさーい!!
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はるか:一階も真っ暗ですねー…って、当たり前か。
椿:ああ、すまない。ちょっと寄っていくよ。
はるか:え?早く帰りましょうよ…………って、せんせ!ストップ!そこ入っちゃダメですよ!?
椿:なに、確認するだけさ。
はるか:何をですか?
椿:ブレーカーだよ。
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椿:…………あった。いいかいおまえさんや。家にあるブレーカーはともかく、こういった大きい専門的なものは資格持ちでないといじってはいけない、見るだけだよ。
はるか:はい、せんせ。…………なにか、分かりましたか?
椿:思った通りだったよ。おまえさんや、私たちがここに来た時、このビルの明かりは一階のここ警備室しか電気がついていなかったね?
はるか:はい、人がいるかまでは分かりませんでしたが、二階の会場は俺たちが入った時に電気を付けました。
椿:ブレーカーの落ちる原因はいろいろあるにしても、多くは電気の使い過ぎが原因だ。そして、電気の使い過ぎが原因でブレーカーが落ちたかどうかは、ブレーカーのつまみの位置を見ればわかる。つまり、自然に落ちたか、人為的に落とされたか。
はるか:おかしいですね。このビルの一つの階で電気をつけただけで、ブレーカーが落ちるなんて。…………警備の人、帰っちゃったんでしょうか?
椿:それにしたって、妙なタイミングではなかったかね?私たちが入った時間は八時を過ぎていたが、九時には遠い。残業していたにしても…………毎日帰る際にブレーカーをわざわざ落として帰るものかね?
はるか:ブレーカー、人為的に落とされていたんですね?
椿:ああ。今回のは偶然巻き込まれた事故じゃない。…………地味で悪趣味な、いやがらせだよ。
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はるか:翌日、なにごともなかったかのようにイベントは始まった。
椿:今日から二週間、予約いっぱい満員御礼。手が取れるほど書かされたサイン本も、売れ残ることはなさそうだ。強いて変更点をあげるならば。
はるか:(小声)せ…………母さん、会場、暗めに設定したんですね?
椿:(小声)本来は明るい室内で行う予定だったのだがね。行燈が存外いい雰囲気を出すと昨晩感じたものだから。
はるか:(小声)せ…………母さんは本当に人前に出ないんですね。
椿:(小声)末永椿は、一人じゃないからね?
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椿:推理小説『行燈照らす闇』
椿:物語は前半は犯人視点、後半は被害者視点で進む。少女は幼いころ自分をさらい、売り払い、家族と引き離した誘拐犯たちに復讐を誓った。ターゲットは四人。最後の一人を書斎で仕留めたとき、少女はやけにたくさんある行燈に目が留まる。行燈にはすべて少女の名前が彫り込まれ、少女がさらわれた三歳からの数字が記されていた。少女は復讐に目がくらみ、気が付かなかったのだ。机の上に飾られた、幼い少女と家族、それを照らす行燈の写った、写真立てに。屋敷の主は、少女の父親だったのだ。なぜ父親が誘拐犯のリーダーだったのか?どうして行燈を数え、娘を想っていたのか?新米刑事は少女と共に、事件のあった屋敷を訪れた。
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はるか:防犯カメラ、どうでした?
椿:うつっていなかったよ。どうも窓から出入りしたようだが…………さすがに指紋を調べたとて、だよ。実害はほぼなかったから、どうにもね。
はるか:…………せんせ、初日以外まったく外出していませんけど、イベント、いいんですか?
椿:義務は果たした。
はるか:もしかして今回のイベント、せんせの中で「労働」にカウントされてます?
椿:「働いたら負け」、だよ。