台本概要
601 views
タイトル | あるひと夏の思い出 |
---|---|
作者名 | ふらん☆くりん (@Frank_lin01) |
ジャンル | ホラー |
演者人数 | 6人用台本(男2、女4) ※兼役あり |
時間 | 80 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
【あらすじ】 とあるアルバイト情報がきっかけで山奥の温泉旅館に住み込みで働くことになった大学生5人。 彼らに待ち受ける悲劇とは・・・。 【著作権について】 本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。 また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。 【禁止事項】 ●商業目的での利用 ●台本の無断使用、無断転載、自作発言等 ●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等 【ご利用に際してのお願い】 ●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。 ●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。 ●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。 ※18禁ではありませんが、若干センシティブな表現を含みます 601 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
かおり | 女 | 163 | 坂本 かおり・・・都内の大学に通う女子大生。明るく面倒見が良い。※学生Aと兼役。 |
しずか | 女 | 76 | 山本 しずか・・・かおりと同じ大学に通う女子大生。ノリが良く、楽しいことが好き。 |
なおみ | 女 | 133 | 上原 なおみ・・・かおりと同じ大学に通う女子大生。明るい性格だが、慎重な面も持ち合わせている。※学生Bと兼役。 |
さとる | 男 | 59 | 大下 さとる・・・かおりと同じ大学に通う大学生。誰からも好かれる爽やかな好青年。※学生Cと兼役。 |
りょう | 男 | 51 | 田村 りょう・・・かおりと同じ大学に通う大学生。少しチャラい性格だが、意外と優しく真面目な性格。※学生Dと兼役。 |
みくり | 女 | 69 | 森山 みくり・・・温泉旅館「守り人の郷(もりびとのさと)」の管理人。人当たりが柔らかで優しい。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
タイトル:あるひと夏の思い出
:
登場人物:
かおり:坂本 かおり・・・都内の大学に通う女子大生。明るく面倒見が良い。※学生Aと兼役。
しずか:山本 しずか・・・かおりと同じ大学に通う女子大生。ノリが良く、楽しいことが好き。
なおみ:上原 なおみ・・・かおりと同じ大学に通う女子大生。明るい性格だが、慎重な面も持ち合わせている。※学生Bと兼役。
さとる:大下 さとる・・・かおりと同じ大学に通う大学生。誰からも好かれる爽やかな好青年。※学生Cと兼役。
りょう:田村 りょう・・・かおりと同じ大学に通う大学生。少しチャラい性格だが、意外と優しく真面目な性格。※学生Dと兼役。
みくり:森山 みくり・・・温泉旅館「*守り人の郷《もりびとのさと》」の管理人。人当たりが柔らかで優しい。
:
:(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。
:
本編:
かおり:ねぇみんな!私さ、この夏休みを満喫するとっておきの計画を思い付いたんだけど、聞きたい?
しずか:とっておきの計画?なになに?聞きたい!
なおみ:私も!めっちゃ興味あるんだけど。
かおり:えへん!では発表します!名付けて「夏休み限定!住み込みで働く魅惑の5日間!温泉旅館宿泊ツアー!」
さとる:おお!めっちゃ楽しそうじゃん!
りょう:いいねー!で、具体的にはどんな計画なんだ?
かおり:よくぞ聞いてくれました!それでは説明して進ぜよう。
なおみ:楽しみ~。
かおり:ゴホン〈咳払い〉。そもそも、我々学生はとにかくお金がない。
りょう:ほうほう。
かおり:でも旅行には行きたい!温泉にもつかりたい!
しずか:確かに。
かおり:でも今からバイトして貯めるには時間がなさすぎる!
さとる:そうだな。勉強やサークル活動もあるしな。
かおり:そこで私は考えた!時間を有効に使いながら安く旅行を満喫できて、さらにお金まで稼げちゃう方法を!
しずか:して、その方法とは?
かおり:じゃじゃーん!こんなのを見つけてしまいました!
さとる:ん?なになに?、「夏休みを利用して、緑豊かな温泉旅館に5日間住み込みでアルバイトしながら旅を満喫しませんか?」…ふーん、これってよくある住み込みバイトの広告じゃん。
かおり:ふふふ…そう思うでしょ?でも残念、違うんだよなぁ。
りょう:何が違うの?
かおり:実はね、通常の旅館の住み込みバイトだとアルバイト用の部屋は一般客とは別の部屋をあてがわれるんだけど、今回は従業員が足りなくなって急遽人が必要になったとかで、アルバイトも一般客と同じ部屋に泊まれるんだって。しかも聞いて驚け!行き帰りの交通費や滞在中の食費まで出してくれてなんと時給5,000円!!
しずか:ウソでしょ!そんな待遇の良いアルバイトなんかあるの?
なおみ:何か怪しくない?
かおり:ふふふ…その辺は事前に電話で確認済なのだよ。旅館の*女将《おかみ》さんも人手が足りないからぜひ来て欲しいって。しかもとっても優しそうな人だったよ。
さとる:ちなみに募集人数は?
かおり:ちょうど5人だって!
りょう:じゃあ俺たち全員行けるじゃん!
かおり:そういうこと!てことで、みんな行くよね?
しずか:あたし行きたーい!
りょう:俺も!
さとる:俺もタダで旅館に泊まれてお金まで稼げるなら行かない手はないな。
かおり:なおみはどうする?
なおみ:えー…私どうしようかなぁ。
しずか:一緒に行こうよー。みんなで行ったらきっと楽しいよ。
かおり:そうだよ。なおみだけいないのなんて寂しいよ。
なおみ:じゃ、じゃあ私も行くよ。
かおり:ありがとう!全員参加ってことで決まりね!それじゃあ今週土曜日の朝6時に駅前集合ね!
しずか:了解~!〈同時に〉
なおみ:了解~!〈同時に〉
さとる:了解~!〈同時に〉
りょう:了解~!〈同時に〉
:
:------------------(土曜日、駅前にて)
かおり:おっはよー!
さとる:おっす!
しずか:おはようかおり!
りょう:おはおは!
なおみ:おはよう。
かおり:よし!みんなそろったね。それじゃあ温泉旅館目指して出発なのだ!
さとる:なあ、その温泉旅館まではどれくらいかかるんだ?
かおり:うーんとね、電車とバスを乗り継いで大体5時間ってとこかな?
しずか:ほえ~!結構遠いね。
りょう:まあそれだけ山奥にあるってことだろ?楽しみじゃん!
なおみ:そうだね!せっかくだから私も楽しむ!ああ…早くゆったり温泉につかりたいよぉ。
かおり:ねー!早く着かないかなぁ。
:
:-------------------(温泉旅館「*守り人の郷《もりびとのさと》」にて)
しずか:ふぁぁ!やっと着いた!
かおり:思った以上に遠かったね。
さとる:俺もう体バキバキ。
りょう:右に同じ。
なおみ:私もヘトヘトだよ。
かおり:さあみんな、まずは旅館の*女将《おかみ》さんにご挨拶しましょ。ごめんくださーい!
みくり:あらあら、はるばる遠い所からよくいらしてくださいました。皆さん疲れたでしょう?ささ、*寂《さび》れた所ですけど中に入ってゆっくりしてくださいまし。
全員:よろしくお願いします!
みくり:とりあえずこちらの休憩室で休んでいてくださいな。30分ほどしましたらお迎えに上がりますので。
かおり:分かりました。ありがとうございます。
なおみ:へぇー、素敵な旅館ね。*趣《おもむき》があって。
しずか:ね、来てよかったでしょ?
なおみ:うん。私こういう雰囲気の旅館好きだなぁ。
かおり:私も。何か落ち着くよね。
さとる:ところでみんな、仕事終わったら何して遊ぶ?
りょう:あー、それなら俺花火持って来たよ。ほれ。
しずか:わぁ!こんなにたくさん!さすがりょう!気が利くじゃん。
かおり:ありがとう!今日の夜みんなでやろー!
さとる:それにしても、こんな山奥の旅館に客なんて来るのかな?
なおみ:何言ってんの。こういう山奥だからこそ都会の人達は憧れるんじゃないの。
さとる:そういうもんかなぁ。
かおり:そういうものよ。
:
:-------------------(30分後)
:〈休憩室のドアが開いて女将が入って来る〉
みくり:皆さん、少しはゆっくりできましたか?改めまして、私が当温泉旅館「*守り人の郷《もりびとのさと》」の*女将《おかみ》をしております森山 みくりと申します。気軽に下の名前で呼んでくださいね。それではこれから当温泉旅館の説明と皆さんにやっていただくお仕事について説明いたします。当温泉旅館は平安時代初期から1200年もの間この地に宿を構えてきました。
かおり:せ、1200年も!すごいわ。
なおみ:歴史を感じるわね。
みくり:特に旅館の一番の売りはなんと言っても温泉です。効能は、擦り傷をはじめとした外傷から内蔵疾患に至るまで幅広く効果があるとされており、今まで多くの方々に愛されてきました。まあこのような山奥ですので、各国の偉い方々がお忍びで来られたりもします。ですから皆さんにはお客様が滞在中気持ちよく過ごせますよう旅館の環境整備のお手伝いをお願いします。
しずか:あの、環境整備って具体的には何をすればいいんですか?
みくり:男性のお二人には庭の草刈りや薪割りといった力仕事をお願いいたします。
さとる:分かりました。
りょう:任せてください。
みくり:あと女性の方々にはお風呂場やお手洗い、館内の床清掃をお願いいたします。
かおり:分かりました。
なおみ:頑張ります。
しずか:了解しました。
みくり:なお。お仕事の時間は午前中が8時から12時までの4時間と午後は13時から17時までの4時間の計8時間となっております。それ以外の時間は自由に過ごしていただいて大丈夫です。
さとる:結構みっちりだなぁ。
かおり:こら。文句言わないの。
みくり:あと、これは一番大事なことなので、必ず守っていただきたいことがあります。一つ目は、決して他の部屋を覗いたり入ったりしないでください。先程も申しました通り、お客様はお忍びでいらっしゃる場合がほとんどですので、お客様との接触を避けるためにもこれは厳守していただきます。次に二つ目ですが、旅館近くでの花火等は厳禁です。これは火事を避けるためだけでなく、お客様に快適に過ごしていただくためにも必ず守ってください。
りょう:えー、せっかく持って来たのに。
なおみ:まあ仕方ないわよ。残念だけど諦めるしかないわね。
みくり:ただし、山を下りた所に広い空き地がありますから、そこであれば花火をやっていただいても構いません。
りょう:ほんとですか?良かったぁ。
みくり:最後に、三つ目としてお食事は決められた時間に召し上がっていただきますようお願いいたします。ちなみに、朝食は6時30分~7時30分、昼食は12時~13時、そして夕食は18時~19時となっております。説明は以上ですが、何か質問等はございますか?
しずか:あの、もし*女将《おかみ》さんに連絡を取りたい場合はどうすればいいですか?
みくり:お部屋にいらっしゃる場合は備え付けの内線電話で管理人室に掛けてください。それ以外の場合は、私の携帯電話に掛けていただければ大丈夫です。後で私の番号をお教えいたしますね。それと一点お伝えし忘れておりましたが、毎日のお仕事内容については当番表を皆さんのお部屋に掲示いたしますのでご確認くださいませ。それでは、他に質問がないようでしたらお部屋へとご案内いたします。
かおり:どんなお部屋かしらね。
しずか:私こんな旅館泊まったことないから超ドキドキなんだけど。
なおみ:しかもタダで泊まれるんでしょ?夢みたいだわ。
さとる:それにしても*女将《おかみ》さん太っ腹だよなぁ。
りょう:ほんとだよ。あ、そうだ。夜みんなで枕投げしようぜ!
かおり:やんないわよ!修学旅行中の中学生じゃないんだから。
みくり:着きました。こちらが皆さんにお泊まりいただくお部屋です。
しずか:わぁー!すっごい広くて良い眺め!
なおみ:ほんと、見晴らし最高ね!
かおり:素敵なお部屋だわ!
みくり:男性の方々はこちらのお部屋になります。
りょう:はは…さすがに男女一緒なわけないか…。
さとる:まあな。でも俺ら二人でこんな広い部屋に泊まれるなんてラッキーじゃん。
りょう:はぁ…そうだな。まあそういうことにしとくよ。
みくり:気に入っていただけましたか?それではこれから昼食を召し上がっていただきますので私に着いて来てください。皆さんを食堂にご案内いたします。
さとる:ようやくメシかぁ。俺腹減ってたんだ。
かおり:私も!もうお腹ペコペコなんだ。
しずか:どんなご飯が食べられるんだろーね。
りょう:よーし、食うぞー!
なおみ:うふふ…りょうったら子供みたい。
:
:-------------------(食堂にて)
みくり:さて、こちらが食堂になります。基本的にお食事はここで召し上がっていただきますのでよろしくお願いいたします。なお、お食事が終わりましたら13時からそれぞれの持ち場にて業務を行なっていただきますので、よろしくお願いいたします。それではごゆっくり召し上がってくださいませ。
かおり:それじゃあみんな、いただきましょうか。
全員:いただきまーす!!
しずか:もぐもぐ…んー!美味しい!!
さとる:うん!うまい。これはいくらでも食べられるな。
なおみ:あぁ…幸せ。
かおり:美味し過ぎて箸が止まらないわ。
りょう:うめぇ!うめぇよ!
かおり:そんなにがっつかないの。喉に詰まるわよ。
なおみ:こんな美味しい食事がこれから毎食食べられるのね!
しずか:もう最高~!!
:
かおり:(M)こうして私たちの住み込みバイト温泉旅館宿泊ツアーは幕を開けたのだった。広いお部屋に美味しい食事、有り得ない程の高待遇に私たちは完全に舞い上がっていた。
:
:-------------------(1日目の夜)
りょう:みんな、仕事お疲れ様。晩メシも食ったし風呂も入ったから、予定通り花火やりに行かないか?
なおみ:うん!行こ行こ!
しずか:確かこの山を下りた所に空き地があるんだっけ?
さとる:*女将《おかみ》さんには言わなくて良いのか?
かおり:私から連絡入れとくから大丈夫よ。
りょう:よろしく!ってことで空き地に向けて出発しますか!
全員:おー!
:
:-------------------(空き地にて)
りょう:よし!到着っと!じゃあみんなそれぞれ好きな花火を持って行ってくれ。
なおみ:花火なんて久しぶりだわ。
しずか:私もよ。だからすごく楽しみ。
さとる:俺はこれにしようかな。何か綺麗そうだし。
かおり:私は…これかな?
りょう:全員行き渡ったみたいだな。それじゃ花火大会始めようぜ!
なおみ:わぁ!きれい…!
しずか:花火って良いよね。ずっと見ていられるもん。
りょう:きれいだろ?今日のは俺のベストセレクションだからな。
なおみ:そうなんだぁ!りょう、ありがとう!
りょう:良いってことよ!
かおり:ねぇねぇ、さとる。
さとる:ん?何だ?
かおり:私たちあっちでやらない?
さとる:別に良いけど。みんなと一緒じゃなくて良いのか?
かおり:大丈夫よ。みんなそれぞれ楽しんでるんだし。
りょう:おーい、聞こえてんぞー。ひゅー!カップル同士お熱いねぇ。
かおり:もう!冷やかさないでよ!
しずか:いーなー、私も彼氏ほしーなー。
なおみ:さとるみたいなイケメンの彼氏が良いよね。
りょう:俺なら絶賛募集中だぜ!
しずか:りょうはパス。
なおみ:私も~。
りょう:くっそー、何でだよー!
しずか:だって何かチャラいもん。
なおみ:ねー。
りょう:ぐぬぬ…お前らなぁ…。
しずか:あははは!
なおみ:うふふふ!
:-----------------------------
かおり:きれいね。
さとる:ああ、とってもきれいだな。
かおり:さとると付き合ってもう一年経つんだね。
さとる:早いもんだな。
かおり:私ね、本当はさとると二人でここに来たかったんだ。
さとる:そうなのか?
かおり:うん。私たち学部が違うから普段講義でも一緒にならないし、お互い勉強やバイトもあってサークル以外じゃあんまり会えてなかったから…正直、寂しかったんだ。
さとる:ごめんな。俺が時間合わせてやれなくて。
かおり:ううん。さとるのせいじゃないの。でもね、今回の企画にさとるも参加してくれて本当に嬉しかった。ありがとね!
さとる:俺の方こそ誘ってくれてありがとな。
かおり:さとる、愛してるよ。
さとる:俺もだ。かおり、愛してる。
かおり:さぁて、そろそろみんなの所に戻りますか!
さとる:そうだな。
:
かおり:(M)その後、旅館に帰った私たちは、初日の疲れと幸福感に包まれながら深い眠りに落ちて行った。
:
:-------------------(2日目の朝)
かおり:ふぁぁ!!よく寝たぁ!
しずか:おはようかおり!昨日は楽しかったね!
かおり:うん!今日から本格的にお仕事が始まるから頑張ってこーね!
しずか:そうだね。
なおみ:おはよぉ…二人とも早いね。
かおり:おはよう。なおみ、昨日は眠れた?
なおみ:うん。布団に入った瞬間に意識失ってたよ。
しずか:あはは!私もだよ。
かおり:私もー。じゃあそろそろ食堂に行こっか。
なおみ:うん!
しずか:今日の朝食は何だろなー♡
:
:-------------------(食堂にて)
さとる:おはよう。
りょう:おはよーさん!
かおり:おはよう!わぉ!今日の食事も豪勢だねー!
なおみ:私こんなに食べられるかな?
しずか:なおみは普段朝食べないもんね。
なおみ:そうなの。でも頑張って食べるよ。
りょう:あんま無理すんなよ。食べきれない分は俺が食ってやるから。
さとる:お前はただ食いたいだけだろ?
りょう:バレたか…。
かおり:それじゃ、食べよっか。
全員:いただきまーす!
:
かおり:(M)私たちは朝食を済ませ、それぞれが持ち場へと散って行った。仕事自体はとても忙しかったが、みくりさんが優しく指導してくれたおかげで単純な仕事も不思議と楽しく感じられた。そして気付けばあっという間に終業時刻を迎えていた。
:
:-------------------(温泉にて)
かおり:はぁー!良いお湯!生き返るわぁ!
なおみ:かおり、今日もお疲れ様!
かおり:お疲れ~。ここの温泉って最高だよね!
なおみ:ほんとほんと。疲れが一気に吹き飛ぶよね。
かおり:みくりさんは毎日温泉に入れていいなぁ。
なおみ:羨ましいよね。
かおり:そういやさ、みくりさんって素敵な香りしない?
なおみ:そう!私もずっと思ってたの!何の香水使ってるんだろうね?
かおり:めっちゃ気になるよね!今度みくりさんに会ったら聞いてみようかな?
なおみ:私も聞きたい!なんかさぁ、ずっとみくりさんの香りを嗅いでいたいよね。
かおり:その気持ちとっても分かる!みくりさんってさ、仕事は完璧で気遣いもできるし、おまけに優しくてスタイルも良いから、同じ女性として尊敬してるんだ。
なおみ:ほんと憧れるよね!私もあんな風になりたいなぁ。
かおり:ね!私もなりたい!はぁ…あと3日で帰っちゃうのかぁ。ずっとここにいられたら良いのに。
なおみ:あ!私も同じこと思ってた。
かおり:なんかさ、大学なんて辞めてみくりさんの家の子になりたくない?
なおみ:うんうん!なりたい!
かおり:なーんてね。冗談よ。
なおみ:もう、かおりったら!本気にしちゃったじゃない!
かおり:あはは!そんなのなれるわけないじゃない。
なおみ:だよね、あははは!
みくり:あら、お二人とも仲が良いのですね。何の話をしていらっしゃったの?
なおみ:あ!みくりさん!お疲れ様です。みくりさんも今からお風呂ですか?
みくり:ええ。
かおり:ちょうど良かった。お聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?
みくり:はい。何でも聞いてくださいませ。
かおり:みくりさんって何の香水使ってるんですか?
みくり:香水…ですか?
なおみ:はい!みくりさんからとっても素敵な香りがするって二人で話してたんです。
みくり:まぁ、素敵な香りだなんて…嬉しいです。でも私、香水なんて使っていませんよ。
かおり:えーー!!じゃあ普段どんなお肌のお手入れしてるんですか?
なおみ:みくりさんのお肌って色白でツヤツヤしてて憧れちゃいます!
みくり:特にお手入れなどはしてませんが、強いて言えば、ある特殊な食べ物をいただいているからでしょうかね。
かおり:特殊な食べ物って…一体何を食べたらそんなに綺麗になれるんですか?
みくり:それはですね…。
なおみ:それは?
みくり:企業秘密です。
なおみ:あー、みくりさんずるいです!私たちにも教えてくださいよぉ!
みくり:うふふ…じゃあお二人には特別に教えて差し上げますわ。
かおり:ほ、ほんとですか!!
なおみ:やったぁ!!
みくり:ではお風呂から上がって*火照り《ほてり》を冷ましたら私の部屋に来てくださいませ。表に「管理人室」と書いてありますので。
かおり:え?でも他のお部屋には入っちゃいけないんじゃ…。
みくり:お二人は特別です。
なおみ:特別だなんて…とても嬉しいです!
みくり:その代わり、他の人には内緒ですよ。
かおり:はい!もちろんです!
なおみ:じゃあ先に上がりますね。
かおり:あ、私も上がる!それじゃみくりさん、また後で。私たち1時間くらい経ったらお部屋にお伺いしますのでゆっくりお風呂入ってくださいね。
みくり:お気遣いありがとうございます。それではまた。
:
:-------------------(休憩室前にて)
さとる:なぁ、俺ここに来てからずっと気になってたことがあるんだけど。
りょう:俺も。
しずか:え?もしかして私が考えてることと同じかも。あのさ、みくりさんって…なんか変な臭いしない?
りょう:それな。俺も同じこと言おうと思ってた。
さとる:なんていうかさ…食べ物が腐ったような臭いっていうの?
しずか:そうそう!近くにいるだけで気持ち悪くなってくるの。
さとる:あー、俺もだわ。
りょう:俺さ、みくりさんが近づいて来たらさり気なく避けてたもん。
しずか:あ、りょうずるい。私なんて息止めて我慢してるのに。っていうかさ、かおりとなおみはいつもみくりさんの側にいるけどよく平気でいられるよね。
さとる:それは俺も思った。
りょう:俺なら1分と持たないけどな。
しずか:ほんとだよね!あーあ、早く終わらないかなぁ。
さとる:だな。もうバイト代とかいらないから早く帰りたいよ。
りょう:あー、3日後が待ち遠しいわ。
:
:-------------------(1時間後)
かおり:なんかドキドキするね!
なおみ:うん!まさかみくりさんのお部屋にお呼ばれするなんて思ってもみなかったよ。
かおり:ねー!どんなお部屋なんだろうね!
なおみ:はぁ…わくわくが止まらないよぉ。
かおり:私もだよぉ。あ、ここじゃないかな?
なおみ:そうだね。「管理人室」って書いてあるから間違いないよ。
かおり:(コンコン)
みくり:はーい。どうぞお入りになって。
かおり:失礼します。
なおみ:お邪魔します。
みくり:お待ちしておりましたよ。ささ、こちらにどうぞ。
かおり:わぁ!素敵なお部屋ですね。
なおみ:(クンクン)なんかとっても良い香りがする。
みくり:気に入っていただけて良かったです。さぁ、お茶をどうぞ。ゆっくりと*寛《くつろ》いでいってくださいね。
かおり:いただきます。〈同時に〉
なおみ:いただきます。〈同時に〉
かおり:(お茶を飲む)あぁ…このお茶すごく美味しい。
なおみ:(お茶を飲む)はぁ…とっても気分が落ち着くわ。
みくり:ではそろそろ、お二人からのご質問にお答えしましょうかね。
かおり:はい!(いよいよみくりさんの美貌の秘密が聞けるのね。)
なおみ:教えてください!(どんな食べ物だろう。楽しみだわ)
みくり:実は、私が食べているのは生き物の「魂」です。
かおり:魂?
なおみ:それってよくある「食べ物の命をいただいてます」的な?
みくり:いえ、私が言っているのは紛れもない「魂そのもの」です。
かおり:まさか。
なおみ:そんなのどうやって食べるんですか?
みくり:まあ、お二人には信じていただけないかと思います。では実際に食べる所をお見せしましょう。ここに一匹のネズミがいます。
かおり:ひ!ネズミ?
なおみ:ま、まさかみくりさん、本当に食べたりしませんよね?
みくり:いただきます。ちゅっ…。〈ネズミにキスをする〉
かおり:え!?ウソでしょ…。
なおみ:ネズミの口からモヤモヤした光が出てみくりさんの口に入っていく…。
みくり:んん…ごくり。はぁ…とっても美味しゅうございました。ご馳走様。
かおり:信じられない…。
なおみ:私も。夢でも見てるみたいだわ。あ!ネズミはどうなったの?
みくり:この通りです。
かおり:…ピクリとも動かないわ。
なおみ:本当に死んじゃったんですか?
みくり:ええ。このネズミの魂は私が全ていただきましたので、ここにあるのはただの抜け殻です。
かおり:はぁ…〈深いため息〉。あの、正直すごいとしか言いようがないです。でも、今のを見て改めて思い知らされました。私たちがどんなにみくりさんみたいになりたいと願っても、それは絶対に不可能なんだって。私たちなんかとは次元が違う…。私、本当にみくりさんのことを心から尊敬していて、いつか私もみくりさんのような素敵な女性になりたいと思って期待してここに来ました。でも…こんなの見せられても私には真似なんてできない!何だかとても悔しいです!…うう…。〈涙を流す〉
なおみ:私もかおりと同じ気持ちです。みくりさんは私の憧れの存在で、みくりさんの秘密を知れば少しでもみくりさんに近づけるかもってわくわくしながら来ました。でも今はすごく裏切られた気持ちでいっぱいです。こんなことなら、みくりさんの秘密なんて知ろうとしなければ良かった。そうすれば、こんな気持ちになることもなかったのに。私たちもう帰ります。ありがとうございました。
みくり:ごめんなさい。あなたたちに私の秘密を知ってもらいたくてやったことだったのに、結果としてお二人を傷付けることになってしまって…。全部私のせいね。
なおみ:いえ、気にしないでください。教えて欲しいと言ったのは私達の方ですから。それに、改めてみくりさんはすごい人だってことが理解できたので満足です。では、失礼します。かおり、行こう。
かおり:うん…。ううう…。
みくり:あの、ちょっと待ってください。
なおみ:まだ何か?
みくり:これは私からの提案なのですが。
かおり:提案…?
みくり:お二人とも、私の家族になりませんか?
なおみ:はぁ?何を言ってるんですか?散々私たちの気持ちを*弄《もてあそ》んでおいて、まだ傷付けるつもりなんですか?
みくり:*弄《もてあそ》ぶだなんて、そんな…。
なおみ:だってそうじゃないですか!どうせ真似なんてできるわけないって分かっていて私達に教えたんでしょ?
かおり:なおみ、ちょっと言い過ぎよ。みくりさん、せっかくのご提案ですが、私たちはこれ以上あなたの*戯言《ざれごと》に付き合うことはできません。
みくり:そうですか…では質問を変えましょう。『かおりさん、本当のあなたはどうしたいの?』
かおり:え…?〈虚ろな表情になって〉…あぁ…本当の私は…みくりさんの子供になりたいです…。そして、ずっとここにいたいです…。
なおみ:ちょ、ちょっとかおり!急にどうしたのよ!みくりさん!かおりに何をしたの!
みくり:そう…良いですよ。私があなたのお母さんになってあげます。
かおり:ほんと…?嬉しい…!
なおみ:かおり!しっかりして!正気に戻ってよ!
みくり:あら、あなたもですよ。『なおみさん、本当のあなたはどうしたいの?』
なおみ:あ…。〈虚ろな表情になって〉…私も…みくりさんの娘になりたいです。ずっとずっと、みくりさんの香りに包まれていたいです…。
みくり:あら…そうだったの。よく打ち明けてくれましたね。あなたの願いも叶えてあげましょう。
なおみ:わぁ…!とっても嬉しいわ…!
みくり:じゃあ二人ともこっちに来てください。
かおり:はい…。〈同時に〉
なおみ:はい…。〈同時に〉
みくり:それではこれから私たちが正式に家族になるための儀式を始めましょう。かおりさん、右手の手の平を私の左手に合わせてください。
かおり:はい…。
みくり:次になおみさん、あなたは左手の手の平を私の右手に合わせてください。
なおみ:これで良いですか…?
みくり:ええ。そして残った手の平をお互い合わせてくださいませ。
かおり:はい…。〈同時に〉
なおみ:はい…。〈同時に〉
みくり:よろしい。ではその状態のまま、これから私が言うことに対して、「*守り人《もりびと》様の仰せのままに」と返事をしてください。
かおり:分かりました…。〈同時に〉
なおみ:分かりました…。〈同時に〉
みくり:それではいきますね。「我、守り人みくりは、*古《いにしえ》の習わしに従い、かおり、なおみ両名を我らが同胞として迎え入れたし。ついてはかおり、*汝《なんじ》は守り人としての*命《めい》を受け入れ、我と共に永遠に生き続けることを誓うか?」
かおり:守り人様の仰せのままに…。
みくり:「次になおみ、汝は守り人としての*命《めい》を受け入れ、我と共に永遠に生き続けることを誓うか?」
なおみ:守り人様の仰せのままに…。
みくり:「これにて盟約の儀は滞りなく行なわれた!我らの新たな同胞に大いなる祝福を!」
かおり:…あああ!!手の平から黒い炎が!熱い!!
なおみ:…うう!!合わせた手が離れない!熱い!熱いよぉ!!
みくり:安心して。それはあなたたちを人間から守り人に生まれ変わらせてくれる祝福の炎よ。恐れることなく体いっぱいに感じなさい。
かおり:炎がどんどん広がって!体が!心が燃えていく!
なおみ:ああ!熱くて死んじゃう!!
みくり:全身が漆黒の炎に包まれた時…あなたたちは私の娘へと生まれ変わるの。
かおり:きゃあああああ!!!
なおみ:あああああああ!!!
かおり:……。
なおみ:……。
みくり:うふふ…どうやら転生は無事に終わったようね。さぁ二人とも目覚めなさい。
かおり:はい…みくりお母様。〈同時に〉
なおみ:はい…みくりお母様。〈同時に〉
みくり:これで私とあなたたちは立派な家族になったわ。あとは…そうねぇ。かおり、あなたはしっかり者だから姉としてなおみを引っ張ってあげなさい。
かおり:お母様、承知しました。
みくり:それからなおみ、あなたは妹としてかおりお姉ちゃんを支えるのよ。
なおみ:分かりました。お母様。
みくり:とっても良い子たちね。それじゃあ早速だけど二人には私のために働いてもらおうかしら。
かおり:何なりとお申し付けください。
なおみ:お母様のためならどんなことでもやりますわ。
みくり:うふふ。頼もしいわね、実はあなたたちと一緒に来た三人のことだけど、「しずか」って子にはこの小瓶に入っている私の血を飲ませてからここに連れて来なさい。あとの二人は用済みだから好きにして良いわよ。
かおり:分かりました。なおみ、可愛いあなたには私のさとるを譲ってあげる。
なおみ:えっ!いいの?ありがとう!かおりお姉ちゃん大好き!
かおり:うふふ。終わったらお部屋で合流しましょう。そしたら一緒にしずかを…ね?
なおみ:分かったわ。
かおり:それではお母様、行ってまいります。
なおみ:楽しみに待っていてくださいね。
みくり:行ってらっしゃい。気をつけてね。
:
:-------------------(館内にある自販機コーナーにて)
りょう:今日も仕事終了っと…。あー、めっちゃ疲れた。明日に備えて今日は早く寝るかな。
かおり:よっ!
りょう:ひっ!…なんだ、かおりかよ。びっくりさせんなよ。。
かおり:えへへ、ごめんごめん。たまたまりょうが一人だったからさ、思わず声掛けちゃった。
りょう:俺に何か用?
かおり:うん。実はさ…私、りょうのことが好きになっちゃったみたいなの。
りょう:えっ?俺のことが?そう…なんだ。でもさ、お前にはさとるがいるじゃん。
かおり:そうなんだけどさ…ほら、私とさとるって学部が違うでしょ?だから普段全然会えなくて、ずっと寂しい想いをしてたんだ。
りょう:そうだったのか。それは辛いよな。
かおり:うん。だから私の中では正直もう終わりにしたいなって思ってるの。それにね、私、りょうの優しい所とか、人を楽しませる所とか本当に素敵だなって思ってて、りょうならきっと私のこと満たしてくれるって信じてるんだ。だから、その…、もし良かったら私と付き合って欲しいな…なんて。えへへ…でもこんな浮気性の女なんかダメだよね。
りょう:そんなことないよ。かおりの気持ち、とっても嬉しかった。俺で良かったら付き合ってくれないか?
かおり:ほんと?嬉しい!あのね…私、りょうへの気持ちが抑えきれないの…だから…ちょうだい。
りょう:え!?あ、あのさ…それはさすがにちょっと急過ぎないか?俺もまだ気持ちの整理が…。
かおり:りょうの全てが欲しいの!それとも、やっぱり私のこと…嫌い?
りょう:嫌いだなんて…お、俺もかおりのこと…好きだよ。
かおり:じゃあ…ここで証明して見せてよ。
りょう:証明って…どうやって?
かおり:キスして。
りょう:キス?お、おう…それくらいなら。じゃあ目を閉じて。
かおり:うん。
りょう:いくよ。んっ…〈かおりにキスをする〉
かおり:んっ…。
りょう:ん?んんん!(な、なんだ?俺の中から全てが吸い出されるような感覚は!)
かおり:んん…ごくん。(ああ!なんて美味しいの!病みつきになりそうだわ!)
りょう:んー!!!(や、やばい!かおりから離れられない!!このままじゃ…)
かおり:んふふふ!!(あなたの魂、最後の一滴まで吸い尽くしてあげる!)
りょう:ん…。(もう…ダメだ、意識が…あ…)
かおり:ん…ごくん。んはぁ!美味しかったぁ!人間の魂がこんなにも美味しい物だとは思わなかったわ!うふふ…ご馳走様。
:
:-------------------(館内廊下にて)
さとる:あー、今日も疲れたなぁ。ん?あれはなおみか?
なおみ:あ、さとる。お疲れ様。
さとる:お疲れ。こんなとこで何してんだ。
なおみ:ずっとさとるが通るのを待ってたの。
さとる:俺を…?
なおみ:さとる!〈さとるに抱きつく〉
さとる:お、おい。急にどうした。
なおみ:ううう…ぐすん。
さとる:もしかして、泣いてんのか?何が辛いことでもあったのか?
なおみ:ううん。ようやく二人っきりになれたのが嬉しくて。
さとる:そ、そっか…。でも抱きつくのはよしてくれ。誰かに見られると変な誤解されるから。
なおみ:誰かって、例えばかおりお姉ちゃんとか?
さとる:かおりお姉ちゃん?ま、まあそうだな。とにかく離れてくれないか?
なおみ:やだ。
さとる:なんでだよ。
なおみ:だってせっかく二人っきりになれたのに。私ね、さとるのことが大好きなの。
さとる:お前…何言って…。
なおみ:好きで好きでたまらないの。それにね、もしかおりお姉ちゃんに見られても大丈夫だよ。
さとる:え?どうして?
なおみ:かおりお姉ちゃんがね、さとるのこと私に譲ってくれるって。
さとる:は?…お前な、さっきから言ってることが変だぞ。そもそもかおりはお前の友達だろうが。何だよ「かおりお姉ちゃん」って。今までかおりのことそんな風に呼んでなかっただろ?
なおみ:私の言ってることが変?うふふ…全然変じゃないよ。だって私たち家族になったんだもん。
さとる:家族?どういう意味だ?
なおみ:いいの。さとるはそんなこと気にする必要ないんだから。それよりさ、しばらくこのままいさせて。
さとる:うーん…参ったなぁ。
なおみ:あー…幸せ。私ね、こうしてさとるにギュってするのが夢だったの。
さとる:や、やっぱり恥ずかしいから一旦離れてくれ…って、ぐあ!なんて力だ!体が締め付けられる!
なおみ:だーめ♡ 離してあげない。もっと、も〜っと抱きしめてあげる。
さとる:ぐああああ!な、なおみ…苦しい…息が、できない…。
なおみ:あはは!さとるが苦しむ顔ってさいこー!
さとる:はぁ…はぁ、頼むから…少し緩めてくれ。
なおみ:いいよ。じゃあさ、私のお願い聞いてくれたら緩めてあげる。
さとる:聞く…聞くから…。
なおみ:ほんと?じゃあさ…キスしていい?
さとる:え…そ、それは…。
なおみ:じゃあ緩めてあげない!
さとる:ぐああ!!分かった!分かったから。キスでも何でもしてくれていいから!
なおみ:うふふ、取り引き成立ね!んっ…。〈さとるにキスをする〉
さとる:んっ…。(仕方ない、とりあえずここはなおみの言う通りにして様子を見よう)
なおみ:んん!(うふふ…お楽しみはこれからよ)
さとる:ん!んん!!(ぐわぁぁ!!約束が違っ…ぐっ、苦しい…それに口から何か吸い取られてるような…)
なおみ:んんん!!ごくん。(美味しい!これが魂の味なのね!)
さとる:んん…。(あ…うう…俺が…なおみの中に消えていく。死にたく…ない…かおり…助け…)
なおみ:ん…ごくり。はぁ…。最高ぉ!死の苦しみから逃れようとするあなたの魂の味、格別だったわ!あははは!愛してるわ、さとる。
:
:-------------------(女性部屋にて)
しずか:あー、暇だなぁ。夜のこの時間って何していいか分かんないんだよね。そうだ、りょうとさとるを呼び出しておしゃべりでもしようかしら。〈りょうに電話する〉…あれ、出ない。もう寝ちゃったかなぁ。じゃあさとるはどうだろ。〈さとるに電話する〉…ん?さとるも出ないなぁ。お風呂でも入ってんのかな…。
かおり:あら?しずか、部屋に戻ってたんだ。
しずか:かおり!良かったぁ。ちょうど暇してたとこだったんだ。ねぇ、一緒におしゃべりでもしない?
かおり:いいよ。もうすぐなおみも戻って来ると思うし。何について話そっか?
しずか:うーん、そうねぇ…女子トークと言えば、やっぱり恋バナかな?
かおり:良いね!で、最近しずかはどうなの?好きな人でもできた?
しずか:えへへ…実は気になっている人はいる…かな。
かおり:えー!誰?誰?
しずか:これ誰にも内緒だよ。
かおり:もちろん!
しずか:実は私…最近りょうのこと良いなぁってちょっと思ってるんだ。
かおり:へぇ…そうなんだぁ。ちなみにりょうのどんな所が良いなって思うの?
しずか:うーんとね…りょうって一見チャラい感じするじゃん?
かおり:そうね。
しずか:でも本当は繊細で優しくて、印象と全然違うの!そこがまた良くってさぁ。ギャップ萌え?っていうのかな。
かおり:確かに、思ってたより滑らかでとろけるような舌触りだったわ。
しずか:え?とろけるような舌触りって…何の話してんの?
かおり:ん?りょうの話だけど?
しずか:もう、かおりってば冗談やめてよね。何それ?新しいお菓子?
かおり:違うよ。
しずか:え…?どういうこと?
なおみ:ただいま~っと!
かおり:お!なおみ、おかえり~。どうだった?
なおみ:うん!もうね、最高だったよ!
かおり:それは良かったわ。私もね、ちょうど今その話してたところなの。
しずか:ちょっと…二人とも何を言ってるの?
かおり:うふふ…実は私たちさっき食べてきたんだ。
なおみ:超美味しかったよね!
しずか:食べてきたって…もしかして!あんたいつの間にりょうとそんな関係に?
かおり:ん?そんな関係?
しずか:はぐらかさないでよ!だって…かおりはさとるの彼女でしょ!それなのに…。
かおり:あー、さとるならついさっき、なおみにあげたわ。
なおみ:ねー!
しずか:あげたって…と、ともかく!二人とも私の知らない所でそんなことしてたの!信じられない…。
なおみ:ねぇ、そろそろネタバラシしてもいいんじゃない?
かおり:そうね、何か誤解してるみたいだしね。
しずか:え…?ネタバラシ?…あー!さてはドッキリだな?なによもう!本当かと思ってマジでびっくりしたんだからね!
かおり:りょうを食べたのは本当よ。ただし、食べたのは「魂」だけどね。
しずか:えっ…魂…?
なおみ:そうだよ。私はねー、さとるの魂を食べたんだぁ!あぁ…思い出しただけでもヨダレが出ちゃうくらい美味しかったのぉ!
しずか:私…二人が何言ってるか理解できない…。
かおり:つまりね、こういうことよ。〈しずかにりょうの残骸の写真を見せる〉
なおみ:こっちも見て見て!〈しずかにさとるの残骸の写真を見せる〉
しずか:なに…これ?りょうとさとるの写真…。まさか…あんたたち二人を…。
かおり:そうよ。ここに写ってるのはただの抜け殻。
なおみ:魂を食べたあとの残骸だよ。
しずか:そんな…いや…いやあああ!!嘘よ!こんなの絶対嘘よ!だって人間の魂を食べるなんて、そんなこと出来るわけないじゃない!
かおり:うふふ…そうよね。私たちも最初はそう思ったわ。
なおみ:でも実際に食べてみて分かったの。なんて美味しいんだろうって!世界中のどんな食べ物よりも美味しくて、一度食べたらやめられないわ♡
しずか:あんたたち…どうしちゃったのよ。二人ともこんなことするような人間じゃなかったでしょ?
なおみ:うふふ…さぁて、しずかの魂は一体どんな味がするのかしら。
かおり:なおみ、二人で仲良くいただきましょうか。
しずか:やだ…来ないで!こっちに来ないでよぉ!!
かおり:だーめ。逃がしてあげない。
なおみ:しずかの魂、とっても美味しそう…。
しずか:うう…お願い…助けて!何でもするから!
かおり:うーん、どうしよっかなー?
なおみ:本当に何でもする?
しずか:うん…うん!
かおり:じゃあこれを飲んでくれたら助けてあげる。〈小瓶を取り出す〉
しずか:え…本当?
かおり:ええ、本当よ。
しずか:わ、分かったわ…これを飲めばいいのね?(ごくり)〈小瓶を受け取り飲む〉
かおり:うふふ…飲んだわね。
なおみ:飲んだねー。
しずか:がはっ!なに…これ?あんたたち…私に何を飲ませたの?
かおり:あなたに飲ませたのは、みくりお母様の血よ。
しずか:みくりお母様…ってまさか、みくりさんの!…ぐぁ!!喉が…焼ける!!
なおみ:その通りよ。
しずか:があああ!!体が…焼けるように熱い!!どうして…?助けてくれるって…言ったじゃない…!
かおり:安心して、もう少しの辛抱よ。ほら、だんだんとお母様の血が全身に行き渡って来たでしょ?
しずか:うぁ…あぁ…だんだん…私が…私じゃなくなっていく…。
なおみ:うふふ…。
しずか:…。
かおり:さて…そろそろ頃合かしらね。
なおみ:しずかどうなっちゃったの?
かおり:よく見てなさい。しずか、私の声が聞こえる?
しずか:…はい、かおり様。
かおり:あなたはだぁれ?
しずか:私はしずか。みくり様、かおり様、なおみ様にお仕えする人形です。
なおみ:あは!お人形さんになっちゃった!可愛い♡
かおり:しずか、あなたに命令するわ。これからあなたをお母様の元に連れて行くから一緒に着いてきなさい。
しずか:はい。かおり様、承知しました。
:
:-------------------(みくりの部屋にて)
かおり:お母様、ただ今戻りました。〈同時に〉
なおみ:お母様、ただ今戻りました。〈同時に〉
みくり:二人ともおかえりなさい。初めての人間の味はどうだった?
かおり:最高でした!!
なおみ:とっても美味しかったです!!
みくり:それは良かったわ。それに、私がお願いした通りちゃんと連れて来てくれたみたいね。
かおり:はい。お母様のお望みのままに。
なおみ:ほら、ちゃんと挨拶しなさい。
しずか:しずかと申します。私はみくり様、かおり様、なおみ様にお仕えする人形です。
みくり:まあ!可愛らしいお人形さんですこと!二人ともよく頑張りましたね。
かおり:ありがとうございます。お母様のご期待に応えることが出来て幸せです。
なおみ:お母様の喜ぶ顔が見られてとっても嬉しいです!
みくり:うふふ…。さすがは私の愛する娘たちだわ。それではしずか。あなたにやってもらいたいことがあるの…。
:
:-------------------(大学にて)
しずか:みんな聞いて聞いて!私めっちゃ素敵なアルバイト見つけちゃったの!
学生A:何?見せて見せて!
学生B:私も知りたい!
学生C:俺にも教えてよ。
学生D:僕も知りたいです。
しずか:じゃあ、みんなにだけ特別に教えちゃいます!実はね、土日を利用して温泉旅館に住み込みで働くってやつなんだけどさ、時給5,000円で交通費、食費も旅館持ち!しかも温泉入り放題という夢のような高待遇なの!それでね、急なんだけど今度の週末にみんなで行ってみない?
学生A:わー!行く行く!
学生B:行きたい!私も連れてって!
学生C:めっちゃ良いじゃん!俺も行くよ!
学生D:僕も参加します。
しずか:決まりね!それじゃあ土曜日の朝6時に駅前集合ってことで!
学生A:おっけー!
学生B:了解!私、朝起きれるかな?
学生C:すっげー楽しみ!
学生D:土曜日が待ち遠しいです。
:
しずか:…ほんと、私も待ち遠しいわ。これであの方たちに極上のお食事を献上できるんですもの。うふふ…。
:
:~完~
タイトル:あるひと夏の思い出
:
登場人物:
かおり:坂本 かおり・・・都内の大学に通う女子大生。明るく面倒見が良い。※学生Aと兼役。
しずか:山本 しずか・・・かおりと同じ大学に通う女子大生。ノリが良く、楽しいことが好き。
なおみ:上原 なおみ・・・かおりと同じ大学に通う女子大生。明るい性格だが、慎重な面も持ち合わせている。※学生Bと兼役。
さとる:大下 さとる・・・かおりと同じ大学に通う大学生。誰からも好かれる爽やかな好青年。※学生Cと兼役。
りょう:田村 りょう・・・かおりと同じ大学に通う大学生。少しチャラい性格だが、意外と優しく真面目な性格。※学生Dと兼役。
みくり:森山 みくり・・・温泉旅館「*守り人の郷《もりびとのさと》」の管理人。人当たりが柔らかで優しい。
:
:(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。
:
本編:
かおり:ねぇみんな!私さ、この夏休みを満喫するとっておきの計画を思い付いたんだけど、聞きたい?
しずか:とっておきの計画?なになに?聞きたい!
なおみ:私も!めっちゃ興味あるんだけど。
かおり:えへん!では発表します!名付けて「夏休み限定!住み込みで働く魅惑の5日間!温泉旅館宿泊ツアー!」
さとる:おお!めっちゃ楽しそうじゃん!
りょう:いいねー!で、具体的にはどんな計画なんだ?
かおり:よくぞ聞いてくれました!それでは説明して進ぜよう。
なおみ:楽しみ~。
かおり:ゴホン〈咳払い〉。そもそも、我々学生はとにかくお金がない。
りょう:ほうほう。
かおり:でも旅行には行きたい!温泉にもつかりたい!
しずか:確かに。
かおり:でも今からバイトして貯めるには時間がなさすぎる!
さとる:そうだな。勉強やサークル活動もあるしな。
かおり:そこで私は考えた!時間を有効に使いながら安く旅行を満喫できて、さらにお金まで稼げちゃう方法を!
しずか:して、その方法とは?
かおり:じゃじゃーん!こんなのを見つけてしまいました!
さとる:ん?なになに?、「夏休みを利用して、緑豊かな温泉旅館に5日間住み込みでアルバイトしながら旅を満喫しませんか?」…ふーん、これってよくある住み込みバイトの広告じゃん。
かおり:ふふふ…そう思うでしょ?でも残念、違うんだよなぁ。
りょう:何が違うの?
かおり:実はね、通常の旅館の住み込みバイトだとアルバイト用の部屋は一般客とは別の部屋をあてがわれるんだけど、今回は従業員が足りなくなって急遽人が必要になったとかで、アルバイトも一般客と同じ部屋に泊まれるんだって。しかも聞いて驚け!行き帰りの交通費や滞在中の食費まで出してくれてなんと時給5,000円!!
しずか:ウソでしょ!そんな待遇の良いアルバイトなんかあるの?
なおみ:何か怪しくない?
かおり:ふふふ…その辺は事前に電話で確認済なのだよ。旅館の*女将《おかみ》さんも人手が足りないからぜひ来て欲しいって。しかもとっても優しそうな人だったよ。
さとる:ちなみに募集人数は?
かおり:ちょうど5人だって!
りょう:じゃあ俺たち全員行けるじゃん!
かおり:そういうこと!てことで、みんな行くよね?
しずか:あたし行きたーい!
りょう:俺も!
さとる:俺もタダで旅館に泊まれてお金まで稼げるなら行かない手はないな。
かおり:なおみはどうする?
なおみ:えー…私どうしようかなぁ。
しずか:一緒に行こうよー。みんなで行ったらきっと楽しいよ。
かおり:そうだよ。なおみだけいないのなんて寂しいよ。
なおみ:じゃ、じゃあ私も行くよ。
かおり:ありがとう!全員参加ってことで決まりね!それじゃあ今週土曜日の朝6時に駅前集合ね!
しずか:了解~!〈同時に〉
なおみ:了解~!〈同時に〉
さとる:了解~!〈同時に〉
りょう:了解~!〈同時に〉
:
:------------------(土曜日、駅前にて)
かおり:おっはよー!
さとる:おっす!
しずか:おはようかおり!
りょう:おはおは!
なおみ:おはよう。
かおり:よし!みんなそろったね。それじゃあ温泉旅館目指して出発なのだ!
さとる:なあ、その温泉旅館まではどれくらいかかるんだ?
かおり:うーんとね、電車とバスを乗り継いで大体5時間ってとこかな?
しずか:ほえ~!結構遠いね。
りょう:まあそれだけ山奥にあるってことだろ?楽しみじゃん!
なおみ:そうだね!せっかくだから私も楽しむ!ああ…早くゆったり温泉につかりたいよぉ。
かおり:ねー!早く着かないかなぁ。
:
:-------------------(温泉旅館「*守り人の郷《もりびとのさと》」にて)
しずか:ふぁぁ!やっと着いた!
かおり:思った以上に遠かったね。
さとる:俺もう体バキバキ。
りょう:右に同じ。
なおみ:私もヘトヘトだよ。
かおり:さあみんな、まずは旅館の*女将《おかみ》さんにご挨拶しましょ。ごめんくださーい!
みくり:あらあら、はるばる遠い所からよくいらしてくださいました。皆さん疲れたでしょう?ささ、*寂《さび》れた所ですけど中に入ってゆっくりしてくださいまし。
全員:よろしくお願いします!
みくり:とりあえずこちらの休憩室で休んでいてくださいな。30分ほどしましたらお迎えに上がりますので。
かおり:分かりました。ありがとうございます。
なおみ:へぇー、素敵な旅館ね。*趣《おもむき》があって。
しずか:ね、来てよかったでしょ?
なおみ:うん。私こういう雰囲気の旅館好きだなぁ。
かおり:私も。何か落ち着くよね。
さとる:ところでみんな、仕事終わったら何して遊ぶ?
りょう:あー、それなら俺花火持って来たよ。ほれ。
しずか:わぁ!こんなにたくさん!さすがりょう!気が利くじゃん。
かおり:ありがとう!今日の夜みんなでやろー!
さとる:それにしても、こんな山奥の旅館に客なんて来るのかな?
なおみ:何言ってんの。こういう山奥だからこそ都会の人達は憧れるんじゃないの。
さとる:そういうもんかなぁ。
かおり:そういうものよ。
:
:-------------------(30分後)
:〈休憩室のドアが開いて女将が入って来る〉
みくり:皆さん、少しはゆっくりできましたか?改めまして、私が当温泉旅館「*守り人の郷《もりびとのさと》」の*女将《おかみ》をしております森山 みくりと申します。気軽に下の名前で呼んでくださいね。それではこれから当温泉旅館の説明と皆さんにやっていただくお仕事について説明いたします。当温泉旅館は平安時代初期から1200年もの間この地に宿を構えてきました。
かおり:せ、1200年も!すごいわ。
なおみ:歴史を感じるわね。
みくり:特に旅館の一番の売りはなんと言っても温泉です。効能は、擦り傷をはじめとした外傷から内蔵疾患に至るまで幅広く効果があるとされており、今まで多くの方々に愛されてきました。まあこのような山奥ですので、各国の偉い方々がお忍びで来られたりもします。ですから皆さんにはお客様が滞在中気持ちよく過ごせますよう旅館の環境整備のお手伝いをお願いします。
しずか:あの、環境整備って具体的には何をすればいいんですか?
みくり:男性のお二人には庭の草刈りや薪割りといった力仕事をお願いいたします。
さとる:分かりました。
りょう:任せてください。
みくり:あと女性の方々にはお風呂場やお手洗い、館内の床清掃をお願いいたします。
かおり:分かりました。
なおみ:頑張ります。
しずか:了解しました。
みくり:なお。お仕事の時間は午前中が8時から12時までの4時間と午後は13時から17時までの4時間の計8時間となっております。それ以外の時間は自由に過ごしていただいて大丈夫です。
さとる:結構みっちりだなぁ。
かおり:こら。文句言わないの。
みくり:あと、これは一番大事なことなので、必ず守っていただきたいことがあります。一つ目は、決して他の部屋を覗いたり入ったりしないでください。先程も申しました通り、お客様はお忍びでいらっしゃる場合がほとんどですので、お客様との接触を避けるためにもこれは厳守していただきます。次に二つ目ですが、旅館近くでの花火等は厳禁です。これは火事を避けるためだけでなく、お客様に快適に過ごしていただくためにも必ず守ってください。
りょう:えー、せっかく持って来たのに。
なおみ:まあ仕方ないわよ。残念だけど諦めるしかないわね。
みくり:ただし、山を下りた所に広い空き地がありますから、そこであれば花火をやっていただいても構いません。
りょう:ほんとですか?良かったぁ。
みくり:最後に、三つ目としてお食事は決められた時間に召し上がっていただきますようお願いいたします。ちなみに、朝食は6時30分~7時30分、昼食は12時~13時、そして夕食は18時~19時となっております。説明は以上ですが、何か質問等はございますか?
しずか:あの、もし*女将《おかみ》さんに連絡を取りたい場合はどうすればいいですか?
みくり:お部屋にいらっしゃる場合は備え付けの内線電話で管理人室に掛けてください。それ以外の場合は、私の携帯電話に掛けていただければ大丈夫です。後で私の番号をお教えいたしますね。それと一点お伝えし忘れておりましたが、毎日のお仕事内容については当番表を皆さんのお部屋に掲示いたしますのでご確認くださいませ。それでは、他に質問がないようでしたらお部屋へとご案内いたします。
かおり:どんなお部屋かしらね。
しずか:私こんな旅館泊まったことないから超ドキドキなんだけど。
なおみ:しかもタダで泊まれるんでしょ?夢みたいだわ。
さとる:それにしても*女将《おかみ》さん太っ腹だよなぁ。
りょう:ほんとだよ。あ、そうだ。夜みんなで枕投げしようぜ!
かおり:やんないわよ!修学旅行中の中学生じゃないんだから。
みくり:着きました。こちらが皆さんにお泊まりいただくお部屋です。
しずか:わぁー!すっごい広くて良い眺め!
なおみ:ほんと、見晴らし最高ね!
かおり:素敵なお部屋だわ!
みくり:男性の方々はこちらのお部屋になります。
りょう:はは…さすがに男女一緒なわけないか…。
さとる:まあな。でも俺ら二人でこんな広い部屋に泊まれるなんてラッキーじゃん。
りょう:はぁ…そうだな。まあそういうことにしとくよ。
みくり:気に入っていただけましたか?それではこれから昼食を召し上がっていただきますので私に着いて来てください。皆さんを食堂にご案内いたします。
さとる:ようやくメシかぁ。俺腹減ってたんだ。
かおり:私も!もうお腹ペコペコなんだ。
しずか:どんなご飯が食べられるんだろーね。
りょう:よーし、食うぞー!
なおみ:うふふ…りょうったら子供みたい。
:
:-------------------(食堂にて)
みくり:さて、こちらが食堂になります。基本的にお食事はここで召し上がっていただきますのでよろしくお願いいたします。なお、お食事が終わりましたら13時からそれぞれの持ち場にて業務を行なっていただきますので、よろしくお願いいたします。それではごゆっくり召し上がってくださいませ。
かおり:それじゃあみんな、いただきましょうか。
全員:いただきまーす!!
しずか:もぐもぐ…んー!美味しい!!
さとる:うん!うまい。これはいくらでも食べられるな。
なおみ:あぁ…幸せ。
かおり:美味し過ぎて箸が止まらないわ。
りょう:うめぇ!うめぇよ!
かおり:そんなにがっつかないの。喉に詰まるわよ。
なおみ:こんな美味しい食事がこれから毎食食べられるのね!
しずか:もう最高~!!
:
かおり:(M)こうして私たちの住み込みバイト温泉旅館宿泊ツアーは幕を開けたのだった。広いお部屋に美味しい食事、有り得ない程の高待遇に私たちは完全に舞い上がっていた。
:
:-------------------(1日目の夜)
りょう:みんな、仕事お疲れ様。晩メシも食ったし風呂も入ったから、予定通り花火やりに行かないか?
なおみ:うん!行こ行こ!
しずか:確かこの山を下りた所に空き地があるんだっけ?
さとる:*女将《おかみ》さんには言わなくて良いのか?
かおり:私から連絡入れとくから大丈夫よ。
りょう:よろしく!ってことで空き地に向けて出発しますか!
全員:おー!
:
:-------------------(空き地にて)
りょう:よし!到着っと!じゃあみんなそれぞれ好きな花火を持って行ってくれ。
なおみ:花火なんて久しぶりだわ。
しずか:私もよ。だからすごく楽しみ。
さとる:俺はこれにしようかな。何か綺麗そうだし。
かおり:私は…これかな?
りょう:全員行き渡ったみたいだな。それじゃ花火大会始めようぜ!
なおみ:わぁ!きれい…!
しずか:花火って良いよね。ずっと見ていられるもん。
りょう:きれいだろ?今日のは俺のベストセレクションだからな。
なおみ:そうなんだぁ!りょう、ありがとう!
りょう:良いってことよ!
かおり:ねぇねぇ、さとる。
さとる:ん?何だ?
かおり:私たちあっちでやらない?
さとる:別に良いけど。みんなと一緒じゃなくて良いのか?
かおり:大丈夫よ。みんなそれぞれ楽しんでるんだし。
りょう:おーい、聞こえてんぞー。ひゅー!カップル同士お熱いねぇ。
かおり:もう!冷やかさないでよ!
しずか:いーなー、私も彼氏ほしーなー。
なおみ:さとるみたいなイケメンの彼氏が良いよね。
りょう:俺なら絶賛募集中だぜ!
しずか:りょうはパス。
なおみ:私も~。
りょう:くっそー、何でだよー!
しずか:だって何かチャラいもん。
なおみ:ねー。
りょう:ぐぬぬ…お前らなぁ…。
しずか:あははは!
なおみ:うふふふ!
:-----------------------------
かおり:きれいね。
さとる:ああ、とってもきれいだな。
かおり:さとると付き合ってもう一年経つんだね。
さとる:早いもんだな。
かおり:私ね、本当はさとると二人でここに来たかったんだ。
さとる:そうなのか?
かおり:うん。私たち学部が違うから普段講義でも一緒にならないし、お互い勉強やバイトもあってサークル以外じゃあんまり会えてなかったから…正直、寂しかったんだ。
さとる:ごめんな。俺が時間合わせてやれなくて。
かおり:ううん。さとるのせいじゃないの。でもね、今回の企画にさとるも参加してくれて本当に嬉しかった。ありがとね!
さとる:俺の方こそ誘ってくれてありがとな。
かおり:さとる、愛してるよ。
さとる:俺もだ。かおり、愛してる。
かおり:さぁて、そろそろみんなの所に戻りますか!
さとる:そうだな。
:
かおり:(M)その後、旅館に帰った私たちは、初日の疲れと幸福感に包まれながら深い眠りに落ちて行った。
:
:-------------------(2日目の朝)
かおり:ふぁぁ!!よく寝たぁ!
しずか:おはようかおり!昨日は楽しかったね!
かおり:うん!今日から本格的にお仕事が始まるから頑張ってこーね!
しずか:そうだね。
なおみ:おはよぉ…二人とも早いね。
かおり:おはよう。なおみ、昨日は眠れた?
なおみ:うん。布団に入った瞬間に意識失ってたよ。
しずか:あはは!私もだよ。
かおり:私もー。じゃあそろそろ食堂に行こっか。
なおみ:うん!
しずか:今日の朝食は何だろなー♡
:
:-------------------(食堂にて)
さとる:おはよう。
りょう:おはよーさん!
かおり:おはよう!わぉ!今日の食事も豪勢だねー!
なおみ:私こんなに食べられるかな?
しずか:なおみは普段朝食べないもんね。
なおみ:そうなの。でも頑張って食べるよ。
りょう:あんま無理すんなよ。食べきれない分は俺が食ってやるから。
さとる:お前はただ食いたいだけだろ?
りょう:バレたか…。
かおり:それじゃ、食べよっか。
全員:いただきまーす!
:
かおり:(M)私たちは朝食を済ませ、それぞれが持ち場へと散って行った。仕事自体はとても忙しかったが、みくりさんが優しく指導してくれたおかげで単純な仕事も不思議と楽しく感じられた。そして気付けばあっという間に終業時刻を迎えていた。
:
:-------------------(温泉にて)
かおり:はぁー!良いお湯!生き返るわぁ!
なおみ:かおり、今日もお疲れ様!
かおり:お疲れ~。ここの温泉って最高だよね!
なおみ:ほんとほんと。疲れが一気に吹き飛ぶよね。
かおり:みくりさんは毎日温泉に入れていいなぁ。
なおみ:羨ましいよね。
かおり:そういやさ、みくりさんって素敵な香りしない?
なおみ:そう!私もずっと思ってたの!何の香水使ってるんだろうね?
かおり:めっちゃ気になるよね!今度みくりさんに会ったら聞いてみようかな?
なおみ:私も聞きたい!なんかさぁ、ずっとみくりさんの香りを嗅いでいたいよね。
かおり:その気持ちとっても分かる!みくりさんってさ、仕事は完璧で気遣いもできるし、おまけに優しくてスタイルも良いから、同じ女性として尊敬してるんだ。
なおみ:ほんと憧れるよね!私もあんな風になりたいなぁ。
かおり:ね!私もなりたい!はぁ…あと3日で帰っちゃうのかぁ。ずっとここにいられたら良いのに。
なおみ:あ!私も同じこと思ってた。
かおり:なんかさ、大学なんて辞めてみくりさんの家の子になりたくない?
なおみ:うんうん!なりたい!
かおり:なーんてね。冗談よ。
なおみ:もう、かおりったら!本気にしちゃったじゃない!
かおり:あはは!そんなのなれるわけないじゃない。
なおみ:だよね、あははは!
みくり:あら、お二人とも仲が良いのですね。何の話をしていらっしゃったの?
なおみ:あ!みくりさん!お疲れ様です。みくりさんも今からお風呂ですか?
みくり:ええ。
かおり:ちょうど良かった。お聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?
みくり:はい。何でも聞いてくださいませ。
かおり:みくりさんって何の香水使ってるんですか?
みくり:香水…ですか?
なおみ:はい!みくりさんからとっても素敵な香りがするって二人で話してたんです。
みくり:まぁ、素敵な香りだなんて…嬉しいです。でも私、香水なんて使っていませんよ。
かおり:えーー!!じゃあ普段どんなお肌のお手入れしてるんですか?
なおみ:みくりさんのお肌って色白でツヤツヤしてて憧れちゃいます!
みくり:特にお手入れなどはしてませんが、強いて言えば、ある特殊な食べ物をいただいているからでしょうかね。
かおり:特殊な食べ物って…一体何を食べたらそんなに綺麗になれるんですか?
みくり:それはですね…。
なおみ:それは?
みくり:企業秘密です。
なおみ:あー、みくりさんずるいです!私たちにも教えてくださいよぉ!
みくり:うふふ…じゃあお二人には特別に教えて差し上げますわ。
かおり:ほ、ほんとですか!!
なおみ:やったぁ!!
みくり:ではお風呂から上がって*火照り《ほてり》を冷ましたら私の部屋に来てくださいませ。表に「管理人室」と書いてありますので。
かおり:え?でも他のお部屋には入っちゃいけないんじゃ…。
みくり:お二人は特別です。
なおみ:特別だなんて…とても嬉しいです!
みくり:その代わり、他の人には内緒ですよ。
かおり:はい!もちろんです!
なおみ:じゃあ先に上がりますね。
かおり:あ、私も上がる!それじゃみくりさん、また後で。私たち1時間くらい経ったらお部屋にお伺いしますのでゆっくりお風呂入ってくださいね。
みくり:お気遣いありがとうございます。それではまた。
:
:-------------------(休憩室前にて)
さとる:なぁ、俺ここに来てからずっと気になってたことがあるんだけど。
りょう:俺も。
しずか:え?もしかして私が考えてることと同じかも。あのさ、みくりさんって…なんか変な臭いしない?
りょう:それな。俺も同じこと言おうと思ってた。
さとる:なんていうかさ…食べ物が腐ったような臭いっていうの?
しずか:そうそう!近くにいるだけで気持ち悪くなってくるの。
さとる:あー、俺もだわ。
りょう:俺さ、みくりさんが近づいて来たらさり気なく避けてたもん。
しずか:あ、りょうずるい。私なんて息止めて我慢してるのに。っていうかさ、かおりとなおみはいつもみくりさんの側にいるけどよく平気でいられるよね。
さとる:それは俺も思った。
りょう:俺なら1分と持たないけどな。
しずか:ほんとだよね!あーあ、早く終わらないかなぁ。
さとる:だな。もうバイト代とかいらないから早く帰りたいよ。
りょう:あー、3日後が待ち遠しいわ。
:
:-------------------(1時間後)
かおり:なんかドキドキするね!
なおみ:うん!まさかみくりさんのお部屋にお呼ばれするなんて思ってもみなかったよ。
かおり:ねー!どんなお部屋なんだろうね!
なおみ:はぁ…わくわくが止まらないよぉ。
かおり:私もだよぉ。あ、ここじゃないかな?
なおみ:そうだね。「管理人室」って書いてあるから間違いないよ。
かおり:(コンコン)
みくり:はーい。どうぞお入りになって。
かおり:失礼します。
なおみ:お邪魔します。
みくり:お待ちしておりましたよ。ささ、こちらにどうぞ。
かおり:わぁ!素敵なお部屋ですね。
なおみ:(クンクン)なんかとっても良い香りがする。
みくり:気に入っていただけて良かったです。さぁ、お茶をどうぞ。ゆっくりと*寛《くつろ》いでいってくださいね。
かおり:いただきます。〈同時に〉
なおみ:いただきます。〈同時に〉
かおり:(お茶を飲む)あぁ…このお茶すごく美味しい。
なおみ:(お茶を飲む)はぁ…とっても気分が落ち着くわ。
みくり:ではそろそろ、お二人からのご質問にお答えしましょうかね。
かおり:はい!(いよいよみくりさんの美貌の秘密が聞けるのね。)
なおみ:教えてください!(どんな食べ物だろう。楽しみだわ)
みくり:実は、私が食べているのは生き物の「魂」です。
かおり:魂?
なおみ:それってよくある「食べ物の命をいただいてます」的な?
みくり:いえ、私が言っているのは紛れもない「魂そのもの」です。
かおり:まさか。
なおみ:そんなのどうやって食べるんですか?
みくり:まあ、お二人には信じていただけないかと思います。では実際に食べる所をお見せしましょう。ここに一匹のネズミがいます。
かおり:ひ!ネズミ?
なおみ:ま、まさかみくりさん、本当に食べたりしませんよね?
みくり:いただきます。ちゅっ…。〈ネズミにキスをする〉
かおり:え!?ウソでしょ…。
なおみ:ネズミの口からモヤモヤした光が出てみくりさんの口に入っていく…。
みくり:んん…ごくり。はぁ…とっても美味しゅうございました。ご馳走様。
かおり:信じられない…。
なおみ:私も。夢でも見てるみたいだわ。あ!ネズミはどうなったの?
みくり:この通りです。
かおり:…ピクリとも動かないわ。
なおみ:本当に死んじゃったんですか?
みくり:ええ。このネズミの魂は私が全ていただきましたので、ここにあるのはただの抜け殻です。
かおり:はぁ…〈深いため息〉。あの、正直すごいとしか言いようがないです。でも、今のを見て改めて思い知らされました。私たちがどんなにみくりさんみたいになりたいと願っても、それは絶対に不可能なんだって。私たちなんかとは次元が違う…。私、本当にみくりさんのことを心から尊敬していて、いつか私もみくりさんのような素敵な女性になりたいと思って期待してここに来ました。でも…こんなの見せられても私には真似なんてできない!何だかとても悔しいです!…うう…。〈涙を流す〉
なおみ:私もかおりと同じ気持ちです。みくりさんは私の憧れの存在で、みくりさんの秘密を知れば少しでもみくりさんに近づけるかもってわくわくしながら来ました。でも今はすごく裏切られた気持ちでいっぱいです。こんなことなら、みくりさんの秘密なんて知ろうとしなければ良かった。そうすれば、こんな気持ちになることもなかったのに。私たちもう帰ります。ありがとうございました。
みくり:ごめんなさい。あなたたちに私の秘密を知ってもらいたくてやったことだったのに、結果としてお二人を傷付けることになってしまって…。全部私のせいね。
なおみ:いえ、気にしないでください。教えて欲しいと言ったのは私達の方ですから。それに、改めてみくりさんはすごい人だってことが理解できたので満足です。では、失礼します。かおり、行こう。
かおり:うん…。ううう…。
みくり:あの、ちょっと待ってください。
なおみ:まだ何か?
みくり:これは私からの提案なのですが。
かおり:提案…?
みくり:お二人とも、私の家族になりませんか?
なおみ:はぁ?何を言ってるんですか?散々私たちの気持ちを*弄《もてあそ》んでおいて、まだ傷付けるつもりなんですか?
みくり:*弄《もてあそ》ぶだなんて、そんな…。
なおみ:だってそうじゃないですか!どうせ真似なんてできるわけないって分かっていて私達に教えたんでしょ?
かおり:なおみ、ちょっと言い過ぎよ。みくりさん、せっかくのご提案ですが、私たちはこれ以上あなたの*戯言《ざれごと》に付き合うことはできません。
みくり:そうですか…では質問を変えましょう。『かおりさん、本当のあなたはどうしたいの?』
かおり:え…?〈虚ろな表情になって〉…あぁ…本当の私は…みくりさんの子供になりたいです…。そして、ずっとここにいたいです…。
なおみ:ちょ、ちょっとかおり!急にどうしたのよ!みくりさん!かおりに何をしたの!
みくり:そう…良いですよ。私があなたのお母さんになってあげます。
かおり:ほんと…?嬉しい…!
なおみ:かおり!しっかりして!正気に戻ってよ!
みくり:あら、あなたもですよ。『なおみさん、本当のあなたはどうしたいの?』
なおみ:あ…。〈虚ろな表情になって〉…私も…みくりさんの娘になりたいです。ずっとずっと、みくりさんの香りに包まれていたいです…。
みくり:あら…そうだったの。よく打ち明けてくれましたね。あなたの願いも叶えてあげましょう。
なおみ:わぁ…!とっても嬉しいわ…!
みくり:じゃあ二人ともこっちに来てください。
かおり:はい…。〈同時に〉
なおみ:はい…。〈同時に〉
みくり:それではこれから私たちが正式に家族になるための儀式を始めましょう。かおりさん、右手の手の平を私の左手に合わせてください。
かおり:はい…。
みくり:次になおみさん、あなたは左手の手の平を私の右手に合わせてください。
なおみ:これで良いですか…?
みくり:ええ。そして残った手の平をお互い合わせてくださいませ。
かおり:はい…。〈同時に〉
なおみ:はい…。〈同時に〉
みくり:よろしい。ではその状態のまま、これから私が言うことに対して、「*守り人《もりびと》様の仰せのままに」と返事をしてください。
かおり:分かりました…。〈同時に〉
なおみ:分かりました…。〈同時に〉
みくり:それではいきますね。「我、守り人みくりは、*古《いにしえ》の習わしに従い、かおり、なおみ両名を我らが同胞として迎え入れたし。ついてはかおり、*汝《なんじ》は守り人としての*命《めい》を受け入れ、我と共に永遠に生き続けることを誓うか?」
かおり:守り人様の仰せのままに…。
みくり:「次になおみ、汝は守り人としての*命《めい》を受け入れ、我と共に永遠に生き続けることを誓うか?」
なおみ:守り人様の仰せのままに…。
みくり:「これにて盟約の儀は滞りなく行なわれた!我らの新たな同胞に大いなる祝福を!」
かおり:…あああ!!手の平から黒い炎が!熱い!!
なおみ:…うう!!合わせた手が離れない!熱い!熱いよぉ!!
みくり:安心して。それはあなたたちを人間から守り人に生まれ変わらせてくれる祝福の炎よ。恐れることなく体いっぱいに感じなさい。
かおり:炎がどんどん広がって!体が!心が燃えていく!
なおみ:ああ!熱くて死んじゃう!!
みくり:全身が漆黒の炎に包まれた時…あなたたちは私の娘へと生まれ変わるの。
かおり:きゃあああああ!!!
なおみ:あああああああ!!!
かおり:……。
なおみ:……。
みくり:うふふ…どうやら転生は無事に終わったようね。さぁ二人とも目覚めなさい。
かおり:はい…みくりお母様。〈同時に〉
なおみ:はい…みくりお母様。〈同時に〉
みくり:これで私とあなたたちは立派な家族になったわ。あとは…そうねぇ。かおり、あなたはしっかり者だから姉としてなおみを引っ張ってあげなさい。
かおり:お母様、承知しました。
みくり:それからなおみ、あなたは妹としてかおりお姉ちゃんを支えるのよ。
なおみ:分かりました。お母様。
みくり:とっても良い子たちね。それじゃあ早速だけど二人には私のために働いてもらおうかしら。
かおり:何なりとお申し付けください。
なおみ:お母様のためならどんなことでもやりますわ。
みくり:うふふ。頼もしいわね、実はあなたたちと一緒に来た三人のことだけど、「しずか」って子にはこの小瓶に入っている私の血を飲ませてからここに連れて来なさい。あとの二人は用済みだから好きにして良いわよ。
かおり:分かりました。なおみ、可愛いあなたには私のさとるを譲ってあげる。
なおみ:えっ!いいの?ありがとう!かおりお姉ちゃん大好き!
かおり:うふふ。終わったらお部屋で合流しましょう。そしたら一緒にしずかを…ね?
なおみ:分かったわ。
かおり:それではお母様、行ってまいります。
なおみ:楽しみに待っていてくださいね。
みくり:行ってらっしゃい。気をつけてね。
:
:-------------------(館内にある自販機コーナーにて)
りょう:今日も仕事終了っと…。あー、めっちゃ疲れた。明日に備えて今日は早く寝るかな。
かおり:よっ!
りょう:ひっ!…なんだ、かおりかよ。びっくりさせんなよ。。
かおり:えへへ、ごめんごめん。たまたまりょうが一人だったからさ、思わず声掛けちゃった。
りょう:俺に何か用?
かおり:うん。実はさ…私、りょうのことが好きになっちゃったみたいなの。
りょう:えっ?俺のことが?そう…なんだ。でもさ、お前にはさとるがいるじゃん。
かおり:そうなんだけどさ…ほら、私とさとるって学部が違うでしょ?だから普段全然会えなくて、ずっと寂しい想いをしてたんだ。
りょう:そうだったのか。それは辛いよな。
かおり:うん。だから私の中では正直もう終わりにしたいなって思ってるの。それにね、私、りょうの優しい所とか、人を楽しませる所とか本当に素敵だなって思ってて、りょうならきっと私のこと満たしてくれるって信じてるんだ。だから、その…、もし良かったら私と付き合って欲しいな…なんて。えへへ…でもこんな浮気性の女なんかダメだよね。
りょう:そんなことないよ。かおりの気持ち、とっても嬉しかった。俺で良かったら付き合ってくれないか?
かおり:ほんと?嬉しい!あのね…私、りょうへの気持ちが抑えきれないの…だから…ちょうだい。
りょう:え!?あ、あのさ…それはさすがにちょっと急過ぎないか?俺もまだ気持ちの整理が…。
かおり:りょうの全てが欲しいの!それとも、やっぱり私のこと…嫌い?
りょう:嫌いだなんて…お、俺もかおりのこと…好きだよ。
かおり:じゃあ…ここで証明して見せてよ。
りょう:証明って…どうやって?
かおり:キスして。
りょう:キス?お、おう…それくらいなら。じゃあ目を閉じて。
かおり:うん。
りょう:いくよ。んっ…〈かおりにキスをする〉
かおり:んっ…。
りょう:ん?んんん!(な、なんだ?俺の中から全てが吸い出されるような感覚は!)
かおり:んん…ごくん。(ああ!なんて美味しいの!病みつきになりそうだわ!)
りょう:んー!!!(や、やばい!かおりから離れられない!!このままじゃ…)
かおり:んふふふ!!(あなたの魂、最後の一滴まで吸い尽くしてあげる!)
りょう:ん…。(もう…ダメだ、意識が…あ…)
かおり:ん…ごくん。んはぁ!美味しかったぁ!人間の魂がこんなにも美味しい物だとは思わなかったわ!うふふ…ご馳走様。
:
:-------------------(館内廊下にて)
さとる:あー、今日も疲れたなぁ。ん?あれはなおみか?
なおみ:あ、さとる。お疲れ様。
さとる:お疲れ。こんなとこで何してんだ。
なおみ:ずっとさとるが通るのを待ってたの。
さとる:俺を…?
なおみ:さとる!〈さとるに抱きつく〉
さとる:お、おい。急にどうした。
なおみ:ううう…ぐすん。
さとる:もしかして、泣いてんのか?何が辛いことでもあったのか?
なおみ:ううん。ようやく二人っきりになれたのが嬉しくて。
さとる:そ、そっか…。でも抱きつくのはよしてくれ。誰かに見られると変な誤解されるから。
なおみ:誰かって、例えばかおりお姉ちゃんとか?
さとる:かおりお姉ちゃん?ま、まあそうだな。とにかく離れてくれないか?
なおみ:やだ。
さとる:なんでだよ。
なおみ:だってせっかく二人っきりになれたのに。私ね、さとるのことが大好きなの。
さとる:お前…何言って…。
なおみ:好きで好きでたまらないの。それにね、もしかおりお姉ちゃんに見られても大丈夫だよ。
さとる:え?どうして?
なおみ:かおりお姉ちゃんがね、さとるのこと私に譲ってくれるって。
さとる:は?…お前な、さっきから言ってることが変だぞ。そもそもかおりはお前の友達だろうが。何だよ「かおりお姉ちゃん」って。今までかおりのことそんな風に呼んでなかっただろ?
なおみ:私の言ってることが変?うふふ…全然変じゃないよ。だって私たち家族になったんだもん。
さとる:家族?どういう意味だ?
なおみ:いいの。さとるはそんなこと気にする必要ないんだから。それよりさ、しばらくこのままいさせて。
さとる:うーん…参ったなぁ。
なおみ:あー…幸せ。私ね、こうしてさとるにギュってするのが夢だったの。
さとる:や、やっぱり恥ずかしいから一旦離れてくれ…って、ぐあ!なんて力だ!体が締め付けられる!
なおみ:だーめ♡ 離してあげない。もっと、も〜っと抱きしめてあげる。
さとる:ぐああああ!な、なおみ…苦しい…息が、できない…。
なおみ:あはは!さとるが苦しむ顔ってさいこー!
さとる:はぁ…はぁ、頼むから…少し緩めてくれ。
なおみ:いいよ。じゃあさ、私のお願い聞いてくれたら緩めてあげる。
さとる:聞く…聞くから…。
なおみ:ほんと?じゃあさ…キスしていい?
さとる:え…そ、それは…。
なおみ:じゃあ緩めてあげない!
さとる:ぐああ!!分かった!分かったから。キスでも何でもしてくれていいから!
なおみ:うふふ、取り引き成立ね!んっ…。〈さとるにキスをする〉
さとる:んっ…。(仕方ない、とりあえずここはなおみの言う通りにして様子を見よう)
なおみ:んん!(うふふ…お楽しみはこれからよ)
さとる:ん!んん!!(ぐわぁぁ!!約束が違っ…ぐっ、苦しい…それに口から何か吸い取られてるような…)
なおみ:んんん!!ごくん。(美味しい!これが魂の味なのね!)
さとる:んん…。(あ…うう…俺が…なおみの中に消えていく。死にたく…ない…かおり…助け…)
なおみ:ん…ごくり。はぁ…。最高ぉ!死の苦しみから逃れようとするあなたの魂の味、格別だったわ!あははは!愛してるわ、さとる。
:
:-------------------(女性部屋にて)
しずか:あー、暇だなぁ。夜のこの時間って何していいか分かんないんだよね。そうだ、りょうとさとるを呼び出しておしゃべりでもしようかしら。〈りょうに電話する〉…あれ、出ない。もう寝ちゃったかなぁ。じゃあさとるはどうだろ。〈さとるに電話する〉…ん?さとるも出ないなぁ。お風呂でも入ってんのかな…。
かおり:あら?しずか、部屋に戻ってたんだ。
しずか:かおり!良かったぁ。ちょうど暇してたとこだったんだ。ねぇ、一緒におしゃべりでもしない?
かおり:いいよ。もうすぐなおみも戻って来ると思うし。何について話そっか?
しずか:うーん、そうねぇ…女子トークと言えば、やっぱり恋バナかな?
かおり:良いね!で、最近しずかはどうなの?好きな人でもできた?
しずか:えへへ…実は気になっている人はいる…かな。
かおり:えー!誰?誰?
しずか:これ誰にも内緒だよ。
かおり:もちろん!
しずか:実は私…最近りょうのこと良いなぁってちょっと思ってるんだ。
かおり:へぇ…そうなんだぁ。ちなみにりょうのどんな所が良いなって思うの?
しずか:うーんとね…りょうって一見チャラい感じするじゃん?
かおり:そうね。
しずか:でも本当は繊細で優しくて、印象と全然違うの!そこがまた良くってさぁ。ギャップ萌え?っていうのかな。
かおり:確かに、思ってたより滑らかでとろけるような舌触りだったわ。
しずか:え?とろけるような舌触りって…何の話してんの?
かおり:ん?りょうの話だけど?
しずか:もう、かおりってば冗談やめてよね。何それ?新しいお菓子?
かおり:違うよ。
しずか:え…?どういうこと?
なおみ:ただいま~っと!
かおり:お!なおみ、おかえり~。どうだった?
なおみ:うん!もうね、最高だったよ!
かおり:それは良かったわ。私もね、ちょうど今その話してたところなの。
しずか:ちょっと…二人とも何を言ってるの?
かおり:うふふ…実は私たちさっき食べてきたんだ。
なおみ:超美味しかったよね!
しずか:食べてきたって…もしかして!あんたいつの間にりょうとそんな関係に?
かおり:ん?そんな関係?
しずか:はぐらかさないでよ!だって…かおりはさとるの彼女でしょ!それなのに…。
かおり:あー、さとるならついさっき、なおみにあげたわ。
なおみ:ねー!
しずか:あげたって…と、ともかく!二人とも私の知らない所でそんなことしてたの!信じられない…。
なおみ:ねぇ、そろそろネタバラシしてもいいんじゃない?
かおり:そうね、何か誤解してるみたいだしね。
しずか:え…?ネタバラシ?…あー!さてはドッキリだな?なによもう!本当かと思ってマジでびっくりしたんだからね!
かおり:りょうを食べたのは本当よ。ただし、食べたのは「魂」だけどね。
しずか:えっ…魂…?
なおみ:そうだよ。私はねー、さとるの魂を食べたんだぁ!あぁ…思い出しただけでもヨダレが出ちゃうくらい美味しかったのぉ!
しずか:私…二人が何言ってるか理解できない…。
かおり:つまりね、こういうことよ。〈しずかにりょうの残骸の写真を見せる〉
なおみ:こっちも見て見て!〈しずかにさとるの残骸の写真を見せる〉
しずか:なに…これ?りょうとさとるの写真…。まさか…あんたたち二人を…。
かおり:そうよ。ここに写ってるのはただの抜け殻。
なおみ:魂を食べたあとの残骸だよ。
しずか:そんな…いや…いやあああ!!嘘よ!こんなの絶対嘘よ!だって人間の魂を食べるなんて、そんなこと出来るわけないじゃない!
かおり:うふふ…そうよね。私たちも最初はそう思ったわ。
なおみ:でも実際に食べてみて分かったの。なんて美味しいんだろうって!世界中のどんな食べ物よりも美味しくて、一度食べたらやめられないわ♡
しずか:あんたたち…どうしちゃったのよ。二人ともこんなことするような人間じゃなかったでしょ?
なおみ:うふふ…さぁて、しずかの魂は一体どんな味がするのかしら。
かおり:なおみ、二人で仲良くいただきましょうか。
しずか:やだ…来ないで!こっちに来ないでよぉ!!
かおり:だーめ。逃がしてあげない。
なおみ:しずかの魂、とっても美味しそう…。
しずか:うう…お願い…助けて!何でもするから!
かおり:うーん、どうしよっかなー?
なおみ:本当に何でもする?
しずか:うん…うん!
かおり:じゃあこれを飲んでくれたら助けてあげる。〈小瓶を取り出す〉
しずか:え…本当?
かおり:ええ、本当よ。
しずか:わ、分かったわ…これを飲めばいいのね?(ごくり)〈小瓶を受け取り飲む〉
かおり:うふふ…飲んだわね。
なおみ:飲んだねー。
しずか:がはっ!なに…これ?あんたたち…私に何を飲ませたの?
かおり:あなたに飲ませたのは、みくりお母様の血よ。
しずか:みくりお母様…ってまさか、みくりさんの!…ぐぁ!!喉が…焼ける!!
なおみ:その通りよ。
しずか:があああ!!体が…焼けるように熱い!!どうして…?助けてくれるって…言ったじゃない…!
かおり:安心して、もう少しの辛抱よ。ほら、だんだんとお母様の血が全身に行き渡って来たでしょ?
しずか:うぁ…あぁ…だんだん…私が…私じゃなくなっていく…。
なおみ:うふふ…。
しずか:…。
かおり:さて…そろそろ頃合かしらね。
なおみ:しずかどうなっちゃったの?
かおり:よく見てなさい。しずか、私の声が聞こえる?
しずか:…はい、かおり様。
かおり:あなたはだぁれ?
しずか:私はしずか。みくり様、かおり様、なおみ様にお仕えする人形です。
なおみ:あは!お人形さんになっちゃった!可愛い♡
かおり:しずか、あなたに命令するわ。これからあなたをお母様の元に連れて行くから一緒に着いてきなさい。
しずか:はい。かおり様、承知しました。
:
:-------------------(みくりの部屋にて)
かおり:お母様、ただ今戻りました。〈同時に〉
なおみ:お母様、ただ今戻りました。〈同時に〉
みくり:二人ともおかえりなさい。初めての人間の味はどうだった?
かおり:最高でした!!
なおみ:とっても美味しかったです!!
みくり:それは良かったわ。それに、私がお願いした通りちゃんと連れて来てくれたみたいね。
かおり:はい。お母様のお望みのままに。
なおみ:ほら、ちゃんと挨拶しなさい。
しずか:しずかと申します。私はみくり様、かおり様、なおみ様にお仕えする人形です。
みくり:まあ!可愛らしいお人形さんですこと!二人ともよく頑張りましたね。
かおり:ありがとうございます。お母様のご期待に応えることが出来て幸せです。
なおみ:お母様の喜ぶ顔が見られてとっても嬉しいです!
みくり:うふふ…。さすがは私の愛する娘たちだわ。それではしずか。あなたにやってもらいたいことがあるの…。
:
:-------------------(大学にて)
しずか:みんな聞いて聞いて!私めっちゃ素敵なアルバイト見つけちゃったの!
学生A:何?見せて見せて!
学生B:私も知りたい!
学生C:俺にも教えてよ。
学生D:僕も知りたいです。
しずか:じゃあ、みんなにだけ特別に教えちゃいます!実はね、土日を利用して温泉旅館に住み込みで働くってやつなんだけどさ、時給5,000円で交通費、食費も旅館持ち!しかも温泉入り放題という夢のような高待遇なの!それでね、急なんだけど今度の週末にみんなで行ってみない?
学生A:わー!行く行く!
学生B:行きたい!私も連れてって!
学生C:めっちゃ良いじゃん!俺も行くよ!
学生D:僕も参加します。
しずか:決まりね!それじゃあ土曜日の朝6時に駅前集合ってことで!
学生A:おっけー!
学生B:了解!私、朝起きれるかな?
学生C:すっげー楽しみ!
学生D:土曜日が待ち遠しいです。
:
しずか:…ほんと、私も待ち遠しいわ。これであの方たちに極上のお食事を献上できるんですもの。うふふ…。
:
:~完~