台本概要

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タイトル 水仙の記憶
作者名 akodon  (@akodon1)
ジャンル ミステリー
演者人数 3人用台本(男1、女1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 さぁ、思い出しましょう。あなたの記憶を。

一部、暴力的な表現があります。
とある女性の、忘れてしまった記憶のお話です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
案内人 不問 46 あんないにん。死出の水先案内をしている。
憂子 87 ゆうこ。記憶を無くした女性。
46 たける。憂子の彼氏。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:(薄暗い一本道、案内人と憂子が出会う) 案内人:「・・・おや、こんなところで何をなさってるんです?お嬢さん」 憂子:「花を・・・見ていました。道端に咲いた、この花を」 案内人:「ああ、それは水仙の花、ですね」 憂子:「水仙の・・・花?」 案内人:「お嬢さんはこの花がお好きなのですか?」 憂子:「・・・わかりません。好きなのか、嫌いなのか。 憂子:この花を知っているのかさえ、分からない・・・」 案内人:「ほう・・・なるほど、あなたには少々欠けている記憶があるようだ」 憂子:「記憶が欠けている・・・?」 案内人:「そうです。なんらかの原因で、あなたには思い出せない記憶がある。 案内人:だから、ここから先に進めず、この場所に留まり続けている」 憂子:「私の・・・記憶?思い出せない記憶・・・ 憂子:それは・・・いったい・・・」 案内人:「ああ、そう言われてもご自分ではよく分からないですよね? 案内人:でも、大丈夫。思い出すきっかけは、意外とすぐそこに転がっているもの。 案内人:私もお付き合いしますので、ゆっくりゆっくり思い出しましょう」 憂子:「はい・・・」 案内人:「・・・まず、初めに貴方のお名前は?」 憂子:「ゆうこ・・・憂いという字に子どもの子で憂子、です」 案内人:「ほう、とても素敵なお名前だ。憂子さんと呼ばせて頂いてもよろしいですか?」 憂子:「はぁ、お任せします・・・」 案内人:「ならば、憂子さん。あなたはどこのお生まれですか?」 憂子:「北の方・・・雪深い小さな村の生まれです」 案内人:「お歳は?」 憂子:「今年、23になりました」 案内人:「ご家族は?」 憂子:「実家には母と、妹が一人・・・父は幼い頃に亡くなりました」 案内人:「お仕事は?」 憂子:「小さな会社で事務の仕事をしていました」 案内人:「なるほどなるほど。ここまでの質問には言い淀(よど)むことなく、すらすらと答えてくださっている。 案内人:今のところ、それらの記憶に欠けやほつれは無さそうだ」 憂子:「そうですか・・・」 案内人:「おっと、胡乱(うろん)な目でこちらをご覧になっていますね。 案内人:大丈夫ですよ。私も興味本位であれこれ聞いているわけでは無いのです。 案内人:ただ、あなたがどんな方なのか、まずはそこから知らねばなりませんから」 憂子:「・・・そんなものでしょうか?」 案内人:「ええ、ジグソーパズルをご存知ですか? 案内人:あれは枠となる部分から形作るのがセオリーでしょう?それと同じです」 憂子:「私はジグソーパズルをしたことが無いので・・・」 案内人:「おやおや、それは失礼しました。 案内人:まぁ、人を知るには生い立ちから・・・その方の枠となる部分を知ってから、というのが私のやり方なのですよ」 憂子:「はぁ・・・」 案内人:「ああ、失敬失敬。すみません。ついつい話が長くなってしまった。 案内人:・・・さて、憂子さん。あなたのお勤め先は、生まれ故郷の村にあるのですか?」 憂子:「いいえ、違います。 憂子:うちの村にある仕事と言えば、農作業くらいです。 憂子:私は村から離れて、街で仕事をしていました」 案内人:「ほう、おいくつの時から?」 憂子:「高校を卒業してから、すぐに親元を離れたので・・・18の時でしょうか」 案内人:「それはそれは、お若いのに立派なことだ」 憂子:「そうでしょうか?」 案内人:「ええ、ええ。そうですとも。 案内人:ちなみに、街では一人で暮らしていたのですか?」 憂子:「初めは一人でした・・・小さな古いアパートで・・・」 案内人:「初めは?ということは、一人じゃなかった時もおありで?」 憂子:「はい。一人で暮らしていたのは初めだけです。その後は・・・ 憂子:あれ・・・?」 案内人:「おや?何か?」 憂子:「・・・すみません。何故かこのあたりの記憶がぼんやりとしていて・・・」 案内人:「ああ、憂子さん。大丈夫ですよ。思い出せないのも当然です。 案内人:ぼんやりとしているのは、そこがあなたの記憶から零れ落ちてしまっているから」 憂子:「そう、なんですか・・・」 案内人:「不安そうな顔をなさらないでください。大丈夫、大丈夫。 案内人:言ったでしょ?思い出すきっかけは、すぐそこに転がっているものだと」 憂子:「なら、それはどこに・・・?」 案内人:「ふうむ・・・そうですねぇ・・・ 案内人:たとえば・・・ほら。そこにある燈籠(とうろう)の中。 案内人:たとえば、そちらにある柳の陰(かげ)。 案内人:たとえば・・・先程、あなたが見つめていた、黄色い水仙の花の中」 憂子:「・・・あっ」 案内人:「ふふ、私の勘も捨てたものじゃない。 案内人:(案内人、水仙の花を手折り、憂子に差し出す) 案内人:さぁ、どうぞ。これがあなたの無くした記憶です」 憂子:「ありがとうございます・・・ 憂子:えっ・・・?」 憂子:(憂子、差し出された水仙を受け取れず、戸惑う) 案内人:「どうしました?」 憂子:「わかりません・・・ 憂子:何故か受け取れない・・・受け取りたく、ないんです」 案内人:「ふうむ、どうやらコレはあなたにとっては取り戻したくない記憶なのでしょう」 憂子:「・・・取り戻したくない、記憶」 案内人:「心当たりが?」 憂子:「いえ・・・わかりません。 憂子:ただ、私はそれに触れたくない」 案内人:「ああ・・・困りましたねぇ。 案内人:でも、あなたはこのままだと、先に進めない。 案内人:かといって、この記憶を取り戻したくもない・・・いやはや、どうしたものか・・・」 憂子:「・・・」 案内人:「そうだ、ならばこの花に宿った記憶をご覧になりますか? 案内人:言うなれば記憶の断捨離です。 案内人:どうしても受け入れられない記憶ならば、特別サービス!私がこっそり処分して差し上げましょう」 憂子:「本当、ですか?」 案内人:「はい。ただし、ご本人の許可なしには処分できませんので、一度必ずご覧になって頂く必要があります。 案内人:確認もせず処分して、あとでクレームに発展しても困りますので」 憂子:「・・・わかりました。お願いします」 案内人:「承知致しました。ではでは・・・」 0:(しばしの間。憂子と尊の思い出) 憂子:「・・・あ、あの!すみません! 憂子:この場所に行くには、どうすれば良いですか?」 尊:「ん?なになに?・・・あっ、それならあっちの信号を左に曲がって・・・」 憂子:「あっ、ありがとうございます! 憂子:田舎から出てきたばかりで道に迷ってしまって・・・助かりました」 尊:「へぇ、田舎って・・・どのあたりから?」 憂子:「えーっと・・・この山の向こうにある・・・」 尊:「うっそ!そんな所から!?何?大学通う為とか?」 憂子:「いえ、就職先がこの街にある会社で・・・」 尊:「マジ?働いてんの? 尊:すげぇな・・・どう見たって俺より歳下じゃん・・・」 憂子:「すごくなんかないですよ。大学行くお金も無かったので・・・」 尊:「へー・・・苦労してるんだね。 尊:大丈夫?ほかに困ってることはない?」 憂子:「大丈夫です。ありがとうございます」 尊:「あっ、そうだ! 尊:・・・はい、コレ。さっき買ったばかりだから、まだ温かいと思う」 憂子:「えっ・・・そんな、頂けないです・・・」 尊:「いいっていいって!頑張ってるキミにプレゼント。 尊:あっ・・・それともコーヒー苦手だった?」 憂子:「い、いえ!大丈夫です。 憂子:・・・でも道案内してもらった上に、こんな・・・」 尊:「いやいや、気にしないでよ。 尊:俺、頑張ってる子見ると、応援したくなっちゃうからさ」 憂子:「本当にありがとうございます・・・一生懸命頑張ります」 尊:「うん。応援してる。じゃあね、頑張って」 0:(しばしの間) 尊:「あっ・・・憂子ー!こっちこっち」 憂子:「ハァ・・・ハァッ・・・ごめんね、尊。待たせちゃって・・・」 尊:「いーよいーよ。仕事忙しいんだろ?」 憂子:「うん・・・なかなか残業終わらなくて・・・」 尊:「はぁ〜あ。憂子は真面目だからなぁ。 尊:その歳でしっかり仕事任されてて、ホントすげーと思う」 憂子:「そんなことないよ・・・尊はどうなの? 憂子:仕事、上手くいってる?」 尊:「うーん、まぁ・・・ぼちぼち? 尊:ただ、俺のペースになかなか皆着いて来れないみたいでさぁ〜」 憂子:「そうなの?」 尊:「そうそう。なんて言うの? 尊:みんなちょっとした事でピリピリしたりしてさぁ・・・ 尊:俺だけだよ。どっしり構えてんの。 尊:なんつーか器が違う、みたいな?」 憂子:「へぇ、尊のところも色々あるんだね・・・」 尊:「まぁなー。 尊:・・・っていうか、もう仕事の話は無し無し! 尊:久々のデートなんだから、もっと楽しい話しようぜ!」 憂子:「うんっ!」 0:(しばらくの間) 憂子:「・・・ねぇ、尊。そろそろ私たち、付き合って3年になるね」 尊:「ん?ああ、そうだな」 憂子:「あのさ・・・尊さえ良ければ、なんだけどさ。一緒に暮らさない? 憂子:そろそろこのアパート、更新の時期だし・・・」 尊:「うーん・・・まぁ、良いよ。 尊:どうせほとんど一緒に暮らしてるようなモンだし・・・」 憂子:「ホント・・・!」 尊:「その代わり、家事とかは今までどおり全部やってくれよ? 尊:俺、全くダメだからさ」 憂子:「大丈夫!私、絶対頑張るから!」 尊:「よし、じゃあ今週末、不動産屋でも行ってみるかぁ〜」 憂子:「嬉しい!すごく楽しみ!」 尊:「ははは、どんな所に住みたいか、ちゃんと考えておけよ」 0:(しばらくの間) 憂子:「尊・・・?」 尊:「・・・あー、ごめん。起こした?」 憂子:「ううん。今日は随分遅かったね。また飲み会?」 尊:「・・・まぁな。大変だよ、人付き合いってのは」 憂子:「そうだね。・・・あっ、ご飯あるけど、どうする?」 尊:「あー・・・今日はいいわ。もう寝る。 尊:風呂は?沸いてる?」 憂子:「ごめん・・・ちょっと温くなってるかも・・・今沸かし直すね」 尊:「はぁ?今から沸かすの? 尊:じゃ、いいわ・・・明日の朝、シャワーで済ますから・・・」 憂子:「ごめん・・・ごめんね。尊・・・」 尊:「もーいいって。・・・じゃ、おやすみ」 0:(しばらくの間) 憂子:「ねぇ、尊・・・話があるんだけど・・・」 尊:「ああ?なに?」 憂子:「あのね・・・最近、家賃の滞納(たいのう)があるんですけど、って大家さんから言われてね。 憂子:このままだと、ここに住めなくなりますよ、って・・・」 尊:「はぁ?じゃあ、すぐ払ってこいよ」 憂子:「無理だよ・・・だって、私のお給料だけじゃ全部払いきれないもん・・・」 尊:「そんなことねぇだろ?貯金は?下ろせばなんとか・・・」 憂子:「もうほとんど下ろしちゃったよ。 憂子:尊がお小遣いが欲しいって何度も言うから・・・」 尊:「なんだよそれ・・・無いんなら無いってハッキリ言えば良かっただろ?」 憂子:「無いって言ったよ・・・何度も何度も・・・。 憂子:でも、今無いと困るんだ、って言うから・・・」 尊:「はぁ、俺のせいかよ?」 憂子:「そんなこと・・・でも、尊、最近全然仕事してないから、私のお給料だけじゃ・・・もう・・・」 尊:「あーーー!うるせぇな!」 憂子:「ヒッ・・・」 尊:「なんだよ、話聞いてりゃ、俺だけが悪いみたいに言いやがって! 尊:そもそも、一緒に住みたいって言ったのはお前だろ? 尊:俺はお前にそう言われたから一緒に住んでやってるの! 尊:だったらお前が一生懸命働いて、どうにかするのが当たり前だろ!ああ!?」 憂子:「やめて・・・やめて・・・大きな声出さないで・・・」 尊:「ムカつくんだよ、お前!いつもビクビクおどおどしてて! 尊:言いたいことがあるならハッキリ言えよ!」 憂子:「痛い・・・痛いよ・・・尊、許して・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 0:(しばらくの間) 尊:「・・・どうした。憂子、急にこんなところに連れてきて」 憂子:「うん・・・最近ね、ずっとどこも出掛けて無かったでしょ? 憂子:だから、たまには良いかなって思って」 尊:「はぁ〜・・・まぁ良いけどさ・・・こんな山中(やまなか)に何があるんだよ?」 憂子:「あのね、この辺、私の生まれ故郷なの。 憂子:一度、尊にも来てもらいたくて・・・」 尊:「あー、そういえばそんなこと言ってたっけ。 尊:・・・でも、見事に何もねぇな。あるのは雪と、山と、畑だけ」 憂子:「そんなことないよ。ここにはね、綺麗な湖があるの。 憂子:この時期になると周りに水仙の花がたくさん咲く、綺麗な湖が」 尊:「へぇ・・・まぁ、花なんか興味ねぇけど・・・」 憂子:「大丈夫、とっても綺麗なところだから、尊もきっと気に入るよ・・・」 0:(しばらくの間) 尊:「へぇー、ここが例の湖ねぇ・・・ 尊:ん?これが水仙ってやつ? 尊:うわ・・・めちゃくちゃ咲いてるじゃん」 憂子:「すごいでしょ?隠れた名所だから、地元の人間しか知らないの。 憂子:ほら、湖の水もすごく透明で、とても綺麗なんだよ」 尊:「ふぅん・・・まぁ、こんな辺鄙(へんぴ)なところじゃなぁ・・・」 憂子:「・・・ねぇ、尊。私ね、ここに来たら聞こうと思ってたんだ」 尊:「んー?何?」 憂子:「あのね・・・私、この前見ちゃったんだ。 憂子:尊が女の人と歩いてる姿」 尊:「・・・はぁ?こんなところで急に何だよ?見間違いじゃねーの」 憂子:「そうかなぁ・・・あんなに仲良く寄り添っていたのに?」 尊:「ちげぇよ。お前の気のせいだって。 尊:ほら、似たような服着た、同じ身長くらいの男と間違えたんだろ?」 憂子:「そう・・・かな・・・?」 尊:「そうだって! 尊:ほら、そんなことより、お前もこっち来てみろよ。 尊:湖にまるで鏡みたいに顔が映るぜ」 憂子:「・・・ホント?」 尊:「ああ、すげえよ。 尊:後ろに立つお前の姿もハッキリ・・・ 尊:って、お前・・・手に何持って・・・!」 0:(少し間。金槌を振りかぶる憂子) 憂子:「・・・ごめんね。尊」 0:(しばらくの間。案内人と憂子) 案内人:「おやおや・・・これはなんとも、素晴らしく悲しい記憶でしたねぇ・・・」 憂子:「うっ・・・ううっ・・・(泣き声)」 案内人:「ん?どうしたんです? 案内人:この記憶は、今あなたの中に存在していないはずです。 案内人:言うなれば、一つのドラマを視聴者目線で見たようなもの。 案内人:自分のものでは無いと割り切れば、涙を流す必要もないんですよ?」 憂子:「わかってます・・・私の中に今、この記憶は存在していないと。 憂子:あまりにもつらすぎるから、自分で捨ててしまったんだと・・・わかっています」 案内人:「ならば、この記憶はそのまま棄(す)ててよろしいですね? 案内人:今なら私は何も知らない振りをして、この記憶を消し去ってしまうことだってできますので」 憂子:「・・・いいえ、待ってください。棄てないでください」 案内人:「どうしてですか?これを棄てれば、あなたは楽になれるのに・・・」 尊:(尊、案内人の台詞を引き継ぐように) 尊:「俺を殺した罪を忘れて、この道を先へ進むことができるのに」 憂子:「尊・・・」 案内人:「ふうむ・・・あなたはあんなにつらい思いをしたのに、まだ彼の声を聞くと名前を呼んでしまうのですね。 案内人:これは記憶じゃないなぁ・・・ 案内人:無意識の反射?刷り込み?パブロフの犬というやつですか?」 憂子:「いえ・・・いえ・・・違います・・・。 憂子:これは刷り込みや反射なんかじゃない。 憂子:もっと違う別の・・・私の魂が・・・心が彼のことを覚えている」 案内人:「それはどういうことでしょう? 案内人:彼の支配による恐怖が魂に刻まれているから? 案内人:それとも、強い強い憎しみのせい? 案内人:それとも、あなたは・・・」 尊:(尊、案内人の台詞を引き継ぐように) 尊:「・・・俺のことを、愛していた?」 憂子:「ええ・・・ええ・・・私は心からあなたを愛していた。 憂子:どんなにつらい思いをしても、傷付けられても、あなたのことをずっと、ずっと。 憂子:だから、私以外の人の元へ行くあなたが許せなかった。 憂子:なんでもいい、私と一緒にいてほしかった。 憂子:優しかったあの頃に戻って、私の元へ・・・帰ってきてほしかった」 案内人:「ふーむ・・・なるほど、なるほど。 案内人:では、憂子さん。再度お伺いしましょう・・・ 案内人:あなたはこの記憶をどうされますか?」 憂子:「・・・受け入れます。 憂子:一度は耐えられず捨ててしまいましたが、これは決して忘れてはいけない記憶。 憂子:私が償わなければならない、罪の記憶」 案内人:「そうですか。ならば、この記憶はこの水仙と共に、あなたへ」 案内人:(案内人、憂子に水仙を渡す) 憂子:「・・・ああ。今ならわかる。私はこの花が好きでした。 憂子:寒さにも負けず、凛と咲き誇るこの花が」 案内人:「そうですか、思い出せて何よりだ」 憂子:「ええ、ありがとう・・・これで私は前へ進んで行けるのですね」 案内人:「その通り。さぁ、あなたが向かうべきはあちらの道になります。 案内人:どうぞ、足元に気を付けて」 憂子:「はい・・・わかりました。お手数をおかけしました」 案内人:「いえいえ、私もこれが仕事ですので。 案内人:ああ、最期に一つだけ・・・と、おやおや、もう聞こえてないようですね。 案内人:まぁ、ここからは私の独り言だと聞き流してください」 0:(ほんの少し間) 案内人:「『私の元へ帰って』・・・黄色い水仙の花言葉、だそうですよ。 案内人:ああ、なんてピッタリだ。 案内人:最初から棄てる気なんて、毛頭なかったあなたには」 0:(少し間) 案内人:「やれやれ、人間とはかくも不思議な生き物だ・・・ 案内人:裏切られても、傷付けられても、相手を愛してる、なんて言えるとは・・・私には到底(とうてい)・・・ 案内人:(ほんの少し間) 案内人:おや、そうこうしているうちに、次の仕事が来たようですね。 案内人:さて、次の方はどのようなーーー」 0:〜FIN〜

0:(薄暗い一本道、案内人と憂子が出会う) 案内人:「・・・おや、こんなところで何をなさってるんです?お嬢さん」 憂子:「花を・・・見ていました。道端に咲いた、この花を」 案内人:「ああ、それは水仙の花、ですね」 憂子:「水仙の・・・花?」 案内人:「お嬢さんはこの花がお好きなのですか?」 憂子:「・・・わかりません。好きなのか、嫌いなのか。 憂子:この花を知っているのかさえ、分からない・・・」 案内人:「ほう・・・なるほど、あなたには少々欠けている記憶があるようだ」 憂子:「記憶が欠けている・・・?」 案内人:「そうです。なんらかの原因で、あなたには思い出せない記憶がある。 案内人:だから、ここから先に進めず、この場所に留まり続けている」 憂子:「私の・・・記憶?思い出せない記憶・・・ 憂子:それは・・・いったい・・・」 案内人:「ああ、そう言われてもご自分ではよく分からないですよね? 案内人:でも、大丈夫。思い出すきっかけは、意外とすぐそこに転がっているもの。 案内人:私もお付き合いしますので、ゆっくりゆっくり思い出しましょう」 憂子:「はい・・・」 案内人:「・・・まず、初めに貴方のお名前は?」 憂子:「ゆうこ・・・憂いという字に子どもの子で憂子、です」 案内人:「ほう、とても素敵なお名前だ。憂子さんと呼ばせて頂いてもよろしいですか?」 憂子:「はぁ、お任せします・・・」 案内人:「ならば、憂子さん。あなたはどこのお生まれですか?」 憂子:「北の方・・・雪深い小さな村の生まれです」 案内人:「お歳は?」 憂子:「今年、23になりました」 案内人:「ご家族は?」 憂子:「実家には母と、妹が一人・・・父は幼い頃に亡くなりました」 案内人:「お仕事は?」 憂子:「小さな会社で事務の仕事をしていました」 案内人:「なるほどなるほど。ここまでの質問には言い淀(よど)むことなく、すらすらと答えてくださっている。 案内人:今のところ、それらの記憶に欠けやほつれは無さそうだ」 憂子:「そうですか・・・」 案内人:「おっと、胡乱(うろん)な目でこちらをご覧になっていますね。 案内人:大丈夫ですよ。私も興味本位であれこれ聞いているわけでは無いのです。 案内人:ただ、あなたがどんな方なのか、まずはそこから知らねばなりませんから」 憂子:「・・・そんなものでしょうか?」 案内人:「ええ、ジグソーパズルをご存知ですか? 案内人:あれは枠となる部分から形作るのがセオリーでしょう?それと同じです」 憂子:「私はジグソーパズルをしたことが無いので・・・」 案内人:「おやおや、それは失礼しました。 案内人:まぁ、人を知るには生い立ちから・・・その方の枠となる部分を知ってから、というのが私のやり方なのですよ」 憂子:「はぁ・・・」 案内人:「ああ、失敬失敬。すみません。ついつい話が長くなってしまった。 案内人:・・・さて、憂子さん。あなたのお勤め先は、生まれ故郷の村にあるのですか?」 憂子:「いいえ、違います。 憂子:うちの村にある仕事と言えば、農作業くらいです。 憂子:私は村から離れて、街で仕事をしていました」 案内人:「ほう、おいくつの時から?」 憂子:「高校を卒業してから、すぐに親元を離れたので・・・18の時でしょうか」 案内人:「それはそれは、お若いのに立派なことだ」 憂子:「そうでしょうか?」 案内人:「ええ、ええ。そうですとも。 案内人:ちなみに、街では一人で暮らしていたのですか?」 憂子:「初めは一人でした・・・小さな古いアパートで・・・」 案内人:「初めは?ということは、一人じゃなかった時もおありで?」 憂子:「はい。一人で暮らしていたのは初めだけです。その後は・・・ 憂子:あれ・・・?」 案内人:「おや?何か?」 憂子:「・・・すみません。何故かこのあたりの記憶がぼんやりとしていて・・・」 案内人:「ああ、憂子さん。大丈夫ですよ。思い出せないのも当然です。 案内人:ぼんやりとしているのは、そこがあなたの記憶から零れ落ちてしまっているから」 憂子:「そう、なんですか・・・」 案内人:「不安そうな顔をなさらないでください。大丈夫、大丈夫。 案内人:言ったでしょ?思い出すきっかけは、すぐそこに転がっているものだと」 憂子:「なら、それはどこに・・・?」 案内人:「ふうむ・・・そうですねぇ・・・ 案内人:たとえば・・・ほら。そこにある燈籠(とうろう)の中。 案内人:たとえば、そちらにある柳の陰(かげ)。 案内人:たとえば・・・先程、あなたが見つめていた、黄色い水仙の花の中」 憂子:「・・・あっ」 案内人:「ふふ、私の勘も捨てたものじゃない。 案内人:(案内人、水仙の花を手折り、憂子に差し出す) 案内人:さぁ、どうぞ。これがあなたの無くした記憶です」 憂子:「ありがとうございます・・・ 憂子:えっ・・・?」 憂子:(憂子、差し出された水仙を受け取れず、戸惑う) 案内人:「どうしました?」 憂子:「わかりません・・・ 憂子:何故か受け取れない・・・受け取りたく、ないんです」 案内人:「ふうむ、どうやらコレはあなたにとっては取り戻したくない記憶なのでしょう」 憂子:「・・・取り戻したくない、記憶」 案内人:「心当たりが?」 憂子:「いえ・・・わかりません。 憂子:ただ、私はそれに触れたくない」 案内人:「ああ・・・困りましたねぇ。 案内人:でも、あなたはこのままだと、先に進めない。 案内人:かといって、この記憶を取り戻したくもない・・・いやはや、どうしたものか・・・」 憂子:「・・・」 案内人:「そうだ、ならばこの花に宿った記憶をご覧になりますか? 案内人:言うなれば記憶の断捨離です。 案内人:どうしても受け入れられない記憶ならば、特別サービス!私がこっそり処分して差し上げましょう」 憂子:「本当、ですか?」 案内人:「はい。ただし、ご本人の許可なしには処分できませんので、一度必ずご覧になって頂く必要があります。 案内人:確認もせず処分して、あとでクレームに発展しても困りますので」 憂子:「・・・わかりました。お願いします」 案内人:「承知致しました。ではでは・・・」 0:(しばしの間。憂子と尊の思い出) 憂子:「・・・あ、あの!すみません! 憂子:この場所に行くには、どうすれば良いですか?」 尊:「ん?なになに?・・・あっ、それならあっちの信号を左に曲がって・・・」 憂子:「あっ、ありがとうございます! 憂子:田舎から出てきたばかりで道に迷ってしまって・・・助かりました」 尊:「へぇ、田舎って・・・どのあたりから?」 憂子:「えーっと・・・この山の向こうにある・・・」 尊:「うっそ!そんな所から!?何?大学通う為とか?」 憂子:「いえ、就職先がこの街にある会社で・・・」 尊:「マジ?働いてんの? 尊:すげぇな・・・どう見たって俺より歳下じゃん・・・」 憂子:「すごくなんかないですよ。大学行くお金も無かったので・・・」 尊:「へー・・・苦労してるんだね。 尊:大丈夫?ほかに困ってることはない?」 憂子:「大丈夫です。ありがとうございます」 尊:「あっ、そうだ! 尊:・・・はい、コレ。さっき買ったばかりだから、まだ温かいと思う」 憂子:「えっ・・・そんな、頂けないです・・・」 尊:「いいっていいって!頑張ってるキミにプレゼント。 尊:あっ・・・それともコーヒー苦手だった?」 憂子:「い、いえ!大丈夫です。 憂子:・・・でも道案内してもらった上に、こんな・・・」 尊:「いやいや、気にしないでよ。 尊:俺、頑張ってる子見ると、応援したくなっちゃうからさ」 憂子:「本当にありがとうございます・・・一生懸命頑張ります」 尊:「うん。応援してる。じゃあね、頑張って」 0:(しばしの間) 尊:「あっ・・・憂子ー!こっちこっち」 憂子:「ハァ・・・ハァッ・・・ごめんね、尊。待たせちゃって・・・」 尊:「いーよいーよ。仕事忙しいんだろ?」 憂子:「うん・・・なかなか残業終わらなくて・・・」 尊:「はぁ〜あ。憂子は真面目だからなぁ。 尊:その歳でしっかり仕事任されてて、ホントすげーと思う」 憂子:「そんなことないよ・・・尊はどうなの? 憂子:仕事、上手くいってる?」 尊:「うーん、まぁ・・・ぼちぼち? 尊:ただ、俺のペースになかなか皆着いて来れないみたいでさぁ〜」 憂子:「そうなの?」 尊:「そうそう。なんて言うの? 尊:みんなちょっとした事でピリピリしたりしてさぁ・・・ 尊:俺だけだよ。どっしり構えてんの。 尊:なんつーか器が違う、みたいな?」 憂子:「へぇ、尊のところも色々あるんだね・・・」 尊:「まぁなー。 尊:・・・っていうか、もう仕事の話は無し無し! 尊:久々のデートなんだから、もっと楽しい話しようぜ!」 憂子:「うんっ!」 0:(しばらくの間) 憂子:「・・・ねぇ、尊。そろそろ私たち、付き合って3年になるね」 尊:「ん?ああ、そうだな」 憂子:「あのさ・・・尊さえ良ければ、なんだけどさ。一緒に暮らさない? 憂子:そろそろこのアパート、更新の時期だし・・・」 尊:「うーん・・・まぁ、良いよ。 尊:どうせほとんど一緒に暮らしてるようなモンだし・・・」 憂子:「ホント・・・!」 尊:「その代わり、家事とかは今までどおり全部やってくれよ? 尊:俺、全くダメだからさ」 憂子:「大丈夫!私、絶対頑張るから!」 尊:「よし、じゃあ今週末、不動産屋でも行ってみるかぁ〜」 憂子:「嬉しい!すごく楽しみ!」 尊:「ははは、どんな所に住みたいか、ちゃんと考えておけよ」 0:(しばらくの間) 憂子:「尊・・・?」 尊:「・・・あー、ごめん。起こした?」 憂子:「ううん。今日は随分遅かったね。また飲み会?」 尊:「・・・まぁな。大変だよ、人付き合いってのは」 憂子:「そうだね。・・・あっ、ご飯あるけど、どうする?」 尊:「あー・・・今日はいいわ。もう寝る。 尊:風呂は?沸いてる?」 憂子:「ごめん・・・ちょっと温くなってるかも・・・今沸かし直すね」 尊:「はぁ?今から沸かすの? 尊:じゃ、いいわ・・・明日の朝、シャワーで済ますから・・・」 憂子:「ごめん・・・ごめんね。尊・・・」 尊:「もーいいって。・・・じゃ、おやすみ」 0:(しばらくの間) 憂子:「ねぇ、尊・・・話があるんだけど・・・」 尊:「ああ?なに?」 憂子:「あのね・・・最近、家賃の滞納(たいのう)があるんですけど、って大家さんから言われてね。 憂子:このままだと、ここに住めなくなりますよ、って・・・」 尊:「はぁ?じゃあ、すぐ払ってこいよ」 憂子:「無理だよ・・・だって、私のお給料だけじゃ全部払いきれないもん・・・」 尊:「そんなことねぇだろ?貯金は?下ろせばなんとか・・・」 憂子:「もうほとんど下ろしちゃったよ。 憂子:尊がお小遣いが欲しいって何度も言うから・・・」 尊:「なんだよそれ・・・無いんなら無いってハッキリ言えば良かっただろ?」 憂子:「無いって言ったよ・・・何度も何度も・・・。 憂子:でも、今無いと困るんだ、って言うから・・・」 尊:「はぁ、俺のせいかよ?」 憂子:「そんなこと・・・でも、尊、最近全然仕事してないから、私のお給料だけじゃ・・・もう・・・」 尊:「あーーー!うるせぇな!」 憂子:「ヒッ・・・」 尊:「なんだよ、話聞いてりゃ、俺だけが悪いみたいに言いやがって! 尊:そもそも、一緒に住みたいって言ったのはお前だろ? 尊:俺はお前にそう言われたから一緒に住んでやってるの! 尊:だったらお前が一生懸命働いて、どうにかするのが当たり前だろ!ああ!?」 憂子:「やめて・・・やめて・・・大きな声出さないで・・・」 尊:「ムカつくんだよ、お前!いつもビクビクおどおどしてて! 尊:言いたいことがあるならハッキリ言えよ!」 憂子:「痛い・・・痛いよ・・・尊、許して・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 0:(しばらくの間) 尊:「・・・どうした。憂子、急にこんなところに連れてきて」 憂子:「うん・・・最近ね、ずっとどこも出掛けて無かったでしょ? 憂子:だから、たまには良いかなって思って」 尊:「はぁ〜・・・まぁ良いけどさ・・・こんな山中(やまなか)に何があるんだよ?」 憂子:「あのね、この辺、私の生まれ故郷なの。 憂子:一度、尊にも来てもらいたくて・・・」 尊:「あー、そういえばそんなこと言ってたっけ。 尊:・・・でも、見事に何もねぇな。あるのは雪と、山と、畑だけ」 憂子:「そんなことないよ。ここにはね、綺麗な湖があるの。 憂子:この時期になると周りに水仙の花がたくさん咲く、綺麗な湖が」 尊:「へぇ・・・まぁ、花なんか興味ねぇけど・・・」 憂子:「大丈夫、とっても綺麗なところだから、尊もきっと気に入るよ・・・」 0:(しばらくの間) 尊:「へぇー、ここが例の湖ねぇ・・・ 尊:ん?これが水仙ってやつ? 尊:うわ・・・めちゃくちゃ咲いてるじゃん」 憂子:「すごいでしょ?隠れた名所だから、地元の人間しか知らないの。 憂子:ほら、湖の水もすごく透明で、とても綺麗なんだよ」 尊:「ふぅん・・・まぁ、こんな辺鄙(へんぴ)なところじゃなぁ・・・」 憂子:「・・・ねぇ、尊。私ね、ここに来たら聞こうと思ってたんだ」 尊:「んー?何?」 憂子:「あのね・・・私、この前見ちゃったんだ。 憂子:尊が女の人と歩いてる姿」 尊:「・・・はぁ?こんなところで急に何だよ?見間違いじゃねーの」 憂子:「そうかなぁ・・・あんなに仲良く寄り添っていたのに?」 尊:「ちげぇよ。お前の気のせいだって。 尊:ほら、似たような服着た、同じ身長くらいの男と間違えたんだろ?」 憂子:「そう・・・かな・・・?」 尊:「そうだって! 尊:ほら、そんなことより、お前もこっち来てみろよ。 尊:湖にまるで鏡みたいに顔が映るぜ」 憂子:「・・・ホント?」 尊:「ああ、すげえよ。 尊:後ろに立つお前の姿もハッキリ・・・ 尊:って、お前・・・手に何持って・・・!」 0:(少し間。金槌を振りかぶる憂子) 憂子:「・・・ごめんね。尊」 0:(しばらくの間。案内人と憂子) 案内人:「おやおや・・・これはなんとも、素晴らしく悲しい記憶でしたねぇ・・・」 憂子:「うっ・・・ううっ・・・(泣き声)」 案内人:「ん?どうしたんです? 案内人:この記憶は、今あなたの中に存在していないはずです。 案内人:言うなれば、一つのドラマを視聴者目線で見たようなもの。 案内人:自分のものでは無いと割り切れば、涙を流す必要もないんですよ?」 憂子:「わかってます・・・私の中に今、この記憶は存在していないと。 憂子:あまりにもつらすぎるから、自分で捨ててしまったんだと・・・わかっています」 案内人:「ならば、この記憶はそのまま棄(す)ててよろしいですね? 案内人:今なら私は何も知らない振りをして、この記憶を消し去ってしまうことだってできますので」 憂子:「・・・いいえ、待ってください。棄てないでください」 案内人:「どうしてですか?これを棄てれば、あなたは楽になれるのに・・・」 尊:(尊、案内人の台詞を引き継ぐように) 尊:「俺を殺した罪を忘れて、この道を先へ進むことができるのに」 憂子:「尊・・・」 案内人:「ふうむ・・・あなたはあんなにつらい思いをしたのに、まだ彼の声を聞くと名前を呼んでしまうのですね。 案内人:これは記憶じゃないなぁ・・・ 案内人:無意識の反射?刷り込み?パブロフの犬というやつですか?」 憂子:「いえ・・・いえ・・・違います・・・。 憂子:これは刷り込みや反射なんかじゃない。 憂子:もっと違う別の・・・私の魂が・・・心が彼のことを覚えている」 案内人:「それはどういうことでしょう? 案内人:彼の支配による恐怖が魂に刻まれているから? 案内人:それとも、強い強い憎しみのせい? 案内人:それとも、あなたは・・・」 尊:(尊、案内人の台詞を引き継ぐように) 尊:「・・・俺のことを、愛していた?」 憂子:「ええ・・・ええ・・・私は心からあなたを愛していた。 憂子:どんなにつらい思いをしても、傷付けられても、あなたのことをずっと、ずっと。 憂子:だから、私以外の人の元へ行くあなたが許せなかった。 憂子:なんでもいい、私と一緒にいてほしかった。 憂子:優しかったあの頃に戻って、私の元へ・・・帰ってきてほしかった」 案内人:「ふーむ・・・なるほど、なるほど。 案内人:では、憂子さん。再度お伺いしましょう・・・ 案内人:あなたはこの記憶をどうされますか?」 憂子:「・・・受け入れます。 憂子:一度は耐えられず捨ててしまいましたが、これは決して忘れてはいけない記憶。 憂子:私が償わなければならない、罪の記憶」 案内人:「そうですか。ならば、この記憶はこの水仙と共に、あなたへ」 案内人:(案内人、憂子に水仙を渡す) 憂子:「・・・ああ。今ならわかる。私はこの花が好きでした。 憂子:寒さにも負けず、凛と咲き誇るこの花が」 案内人:「そうですか、思い出せて何よりだ」 憂子:「ええ、ありがとう・・・これで私は前へ進んで行けるのですね」 案内人:「その通り。さぁ、あなたが向かうべきはあちらの道になります。 案内人:どうぞ、足元に気を付けて」 憂子:「はい・・・わかりました。お手数をおかけしました」 案内人:「いえいえ、私もこれが仕事ですので。 案内人:ああ、最期に一つだけ・・・と、おやおや、もう聞こえてないようですね。 案内人:まぁ、ここからは私の独り言だと聞き流してください」 0:(ほんの少し間) 案内人:「『私の元へ帰って』・・・黄色い水仙の花言葉、だそうですよ。 案内人:ああ、なんてピッタリだ。 案内人:最初から棄てる気なんて、毛頭なかったあなたには」 0:(少し間) 案内人:「やれやれ、人間とはかくも不思議な生き物だ・・・ 案内人:裏切られても、傷付けられても、相手を愛してる、なんて言えるとは・・・私には到底(とうてい)・・・ 案内人:(ほんの少し間) 案内人:おや、そうこうしているうちに、次の仕事が来たようですね。 案内人:さて、次の方はどのようなーーー」 0:〜FIN〜