台本概要

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タイトル 【切ない】思うに別れ。思いに添う
作者名 ゆる男  (@yuruyurumanno11)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明
☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜


自分の国を愛している仕立て屋のリリー
自分の国を愛している政府のパト
二人の望む未来は国のため。人のため
二人が愛し合うのは何のため?

儚くも絡み合う切ないファンタジーラブストーリー


☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜

恋愛サシ劇を書いてみました!
ちょっぴり切ないですが嫌いじゃなければ読んでみてください
男女サシ劇ですがキャラの性別を変えなければ異性のキャラを演じても良いです!
世界観が壊れない程度のアドリブもOK!

野良劇の場合はクレジット表記などしなくて大丈夫です。
タイトルの右上にX(ツイッター)でつぶやけるので、つぶやいてくれたら今後のモチベーションに繋がりますm(_ _)m

約束劇の場合はなんでもいいのでクレジット表記してもらえると助かります!

ぶっちゃけ何でもいいです!読んでもらえたら嬉しいです!



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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
リリー 200 グランデ・クオーレの仕立て屋を営んでいる 人々に愛を配る彼女は隠された一面もある。
パト 195 ルグレ・スワイスの政府。 様々な葛藤とリリーの思いを胸にある行動を移す
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
リリー:私は今日もディアンドルの服に袖を通す。さて、この国の人達が明日また幸せになれるように頑張らないと リリー:……頑張らないと… 0:【間】 リリー:それで?あなたは何回ここに来るんですか? パト:何回でも来るさ。俺に服を作って欲しい リリー:どうしてですか?あなたの素性は私にもわかってるんですよ?そんなことしたら私が捕まります パト:捕まらないようにこっそり作るとかすればいいだろ リリー:無理です パト:どうして リリー:それは言えません。あなた、1週間前から私のお店に来てなんなんですか?仕立て屋なら他にもあるでしょう? パト:この国の作る服を一度着てみたいんだ。俺のいる国もいずれ寒さがやってくるはずなんだ リリー:はあ。あなたの左胸に付いてるバッジはルグレ・スワイスの国章(こくしょう)ですよね?私たちの国と対外関係が破滅的なのはあなたもわかってるはずです パト:確かに君のいる国グランデ・クオーレは我が国と対立している。しかし、ルグレ・スワイスの天候はここ数年で急激に変化していて……恐らく3年後には、この国と同じく、コープフロイドに覆われ、国の気温が急激に下がるんだ リリー:だからってあなたに服は作れません パト:この国の仕立て屋が作る衣服は寒さも防げると聞いている。その服の生地から繊維(せんい)まで、事細かに教えて欲しい。国を守るためなんだ、頼む! リリー:………何度説明されても…私にはそれは出来ません。こうしてあなたと話しているのも、本当はいけないことなんです…わかったなら早く帰ってください パト:………わかった 0:パトは店を出る リリー:あなた…私がなぜディアンドルの服を着ているか、わかりませんよね……。私も…一般の民族になってみたいのですよ 0:ある日の事 リリー:……また来たのですか? パト:……いや、なんていうか…泊まれる宿も無くなった リリー:は、はあ?どうして!? パト:この国章を見た人達がみんな口を揃えてこう言うんだ。「栗色の髪はお断りしてます」と リリー:それは…そうに決まってます。みんなルグレの人達を恐れているのですよ リリー:……てか。宿が無くなったからって私のところに来ないでください! パト:俺だってこんなことしたくないさ。でも、外は雪も降ってる。少しの間だけ、ここに居させてくれないか? リリー:……それは パト:………頼む… リリー:……それなら、お店の奥に服の在庫を保管している場所があります。そこなら政府の方が来ても見つからないでしょう パト:……助かる。ありがとう リリー:………あなた、お名前はなんというのですか? パト:……パトリスだ。パトリス・フルク・シルビーナ。君の名前は? リリー:リリー・ランカ・アルバーノ。リリーでいいです パト:じゃあ俺もパトでいい。それより、民族の君の店になぜ政府が来るんだ? リリー:それは……。お店の衛生面などを管理してくれてるんですよ。国中の人々が、安心してお店に来れるように パト:そうなのか。それほどこの国の服が重宝されているってことなのか リリー:ええ。そういうことです。………あ パト:………っ! 0:リリーの店に政府が数名やってくる リリー:こんにちは。政府のみなさん。き、今日は何の御用でしょうか? リリー:………え? リリー:………私は…見てないです リリー:……はい。すみません。今後ともよろしくお願いします 0:政府は店を出る パト:……… リリー:……パトさん。あなた、指名手配されてるみたいですよ パト:……なんで犯罪者扱いなんだよ。……それに、どうして俺を庇った? リリー:それは…私のお店にいると、変に疑われるからですよ。……あなたの方こそ、ルグレの政府の方だったんですね リリー:政府が私に何の用ですか? パト:……隠してて悪かった リリー:隠す気なんてなかったでしょう!?どうしてこうなるリスクも考えずにこの国に来たんですか! パト:国のことを思うのに…リスクなんて考えてられないだろ…! リリー:……どうして パト:俺の国は鎖国している。異国の服なんて誰も作れはしない。……だから君に頼んでいるんだ リリー:ルグレの……フィリップ皇帝はあなたの行動を知ってるのですか? パト:フィリップ様には伝えてある……が、反対されたんだ。敵対している国の衣服を着ることは許されないと リリー:なら……あなたはここに居たら…! パト:ああ。ルグレに戻る頃には、きっと俺は死刑だ リリー:……そうまでして何故ここに… パト:……国のためさ リリー:……はあ。国の政府が自分の命を捨ててまで国のためと……聞いて呆れます パト:これが俺の信念だ リリー:わかりました。パトさんの信念に乗っかって私が服を作ります パト:……ほ、本当か!? リリー:はい。なので材料を調達しましょう。荷物も多いので手伝って貰えますか? パト:もちろんだ! リリー:お店を閉めるのでちょっと待っててください パト:わかった。ありがとう!俺は外で待ってる 0:リリーはお店を片付ける パト:………… 0:店の窓から見えない角度にパトは居る パト:こちらパト。ルートA完了だ。……しかし、グランデの政府に目をつけられてしまった。……ああ。想定内だ。続けて任務を実行する リリー:お待たせしました パト:……ああ リリー:もう!どうしてそんな格好で外に出ようとするんですか!?あなた指名手配されてるんですよ!?その国章も隠してください! パト:俺はこのままでいい。国の証を隠すわけにはいかない リリー:背に腹はかえられないって言葉知ってますか!?そんなプライド捨ててください。私まで厄介事に巻き込まれるんですから。……はい、これ着てください パト:……これは リリー:この国の寒さを防ぐ、いわゆる防寒服って物です。パーカーも付いてるんで栗色の髪も隠せるはずですよ パト:……ありがとう。何から何まで助かる 0:二人は街を歩く リリー:パトさん パト:なんだ? リリー:その服、暖かいでしょう? パト:ああ。そうだな。これがこの国の衣服か リリー:そうです。私が作ったものですから、更に暖かいはずです パト:君が作ると何が違うんだ? リリー:私が作る服は、愛がこもってるからです パト:………… リリー:なんですか?その反応 パト:いや、良くしてくれてるから悪くは言えん リリー:悪く思ってたってことですか!? パト:そうだな リリー:言ってるじゃないですかー! パト:すまん リリー:全く リリー:……ところであなたは…グランデとルグレをどうしたいんですか? パト:……ああ。そうだな。別にどうしたいとかは無い。俺はただ、これを機に鎖国しているルグレが異国と交流を深めて国同士、手を取り合っていける国にしたいと思っている パト:だからこそ、対立しているグランデと共に、コープフロイドを乗り越えたいと思ってるんだ リリー:……それが実現出来たら、面倒なことも無くなるんですけどね パト:……まあ、そうだな 0:材料の調達が終わり店に戻る リリー:さあ。作りますよ パト:え?お、俺も作るのか? リリー:当たり前です。あなたが作れなかったら今後誰がルグレで防寒服を作るのですか?まあ、技術職なんでそう簡単には作れないですけどね。生地と繊維(せんい)だけ教わってルグレの仕立て屋に頼むといいですよ パト:……リリーはなぜそんなに優しいんだ? リリー:わ、私ですか?なんでと言われましても… パト:他の店は俺を見ただけで嫌な顔を浮かべていた。だけど、リリーはそうじゃなかった。だから俺はこの店に何度も来たんだ。もう君しか居ないと思っていたから リリー:パトさんだってお優しい方ですよ。国のために自らの命を懸けてここまでやってきたのですから。あなたのその命、私も一身に背負います パト:……どうしてそこまでしてくれるんだ? リリー:どうしてって、私も同じだからです。この国が好きだから パト:………… リリー:私とパトさんは自分の国が好きなんです。そう思ってる人には優しくするのが当たり前ですよ パト:そうだな。運命だと思ってしまいたいくらいだ リリー:……運命だなんて、そんな パト:ルグレとグランデ、共に手を取り合える関係になるには、俺に考えがある リリー:なんですか? パト:俺と結婚をして欲しい リリー:………はあ!? パト:それしかない リリー:ほ、本気で言ってるんですか!? パト:本気だ!俺は……嘘はつかない リリー:政略結婚…ではないですよね。私たちが勝手に決めていいことではありません。……それに パト:………? リリー:私は、政府の人間にはなりたくないので、あなたとは結婚は出来ません。 パト:………そんな リリー:もし本気で考えているのなら、そのいかにも貴族ですって格好はやめて、私のように民族の衣服を装ってください パト:………失礼なこと言って悪かった リリー:いえ、気持ちは嬉しいです パト:……他に宿があればそこで一晩過ごすよ。良かったらまた明日、服の作り方を教えて欲しい リリー:私でよければ 0:パトは店を出る パト:こちらパト…ルートB失敗だ。……え?いや、特に落ち込むことなんて……何もなかったが パト:明日からルートCに進行していく。よろしく頼んだ パト:……俺は…国を愛してるだけさ 0:【間】 パト:俺はリリーの素性は知っている。知った上で店に来たし、俺がグランデの政府に目を付けられる可能性があることも考慮していた パト:………しかし、国が好きなはずの彼女が何故…政府の人間になりたくないなどと…… パト:いいや、余計なことは考えずに、任務を全うするのみだ 0:次の日 リリー:……こんにちは パト:ああ。また服の作り方を教わりに来た リリー:わかりました。……その服は脱いでくださらなかったのですね パト:……ああ。俺はルグレの政府であることに誇りを持っているからな リリー:……ええ。あなたの服も喜んでいます パト:……え? リリー:人は身につけている物だけでその人の人生が見えてくるものです。そして身につけてる物も、その人に寄り添ってその人の人生を魅せてくれる パト:………… リリー:その服はあなたに相応しいんですよ。国に誇りを持っている政府なんて素敵じゃないですか リリー:……だからこそ、私はあなたに相応しい人間じゃないのです。あなたは政府で私は一般の民族。国も違えば地位も違う。私はあなたには寄り添えないんですよ パト:……何を言ってるんだ。君は……。いや、何でもない リリー:国を救えない地位など……ただの装いに過ぎませんから… パト:………… リリー:さあ、今日も作りますよ。 パト:………わかった 0:それから数時間後 リリー:ふぅー。相変わらず下手くそですね パト:く、くそ。なぜ上手くいかない… リリー:そう簡単には出来ないって言いましたよね?ミシンの使い方だって繊細なんですよ? パト:難しいな リリー:さて、息抜きに外に行きましょう。今日は私が奢ってあげます パト:お、奢り?馬鹿な真似はよせ、君は…一般民族だろ? リリー:だからですよ。政府のあなたに奢ってあげるんです パト:………なんという事だ 0:外に出る リリー:はい。これあげます パト:こ、これは リリー:パンケーキです パト:んー。見たことないな リリー:この国の特産品なんです。生クリームの上にベリージャムが乗ってます。このベリーもグランデ・クオーレでしか取れない貴重な木の実なのですよ パト:なるほどな。食べてもいいのか? リリー:はい。食べてください パト:いただきます。…っ。おー。美味いな! リリー:ですよね! パト:この上に乗ってるベリーが上手いな リリー:甘い香りがしますよね!気に入って貰えてよかったです パト:うん。少し甘い気もするが、俺は好きだ リリー:パトさんにもこの国を好きになってもらいたいです パト:ああ。好きになりそうだ リリー:見てください。街ゆく人々を パト:……ん? リリー:向こうに居る男性はフードの下にニット帽を被ってる。その方が風が入らなくて寒くないんです パト:なるほど、ああやって寒さを凌いでいたのか。俺は少し頭が寒い リリー:あの男性はきっと仕事の休憩中なんでしょうね。ちょっと安心してるような表情で優雅にコーヒーを飲んでます パト:確かに リリー:あそこの女性はコートの下にペンダント、そしてピアス付けてすごくおしゃれを楽しんでますね。時計も気にしてるし、少しウキウキした表情をしています。きっと大切な人と待ち合わせしてるのかも パト:そういう見方もあるのか。……それがどうかしたか? リリー:さっきも言いましたよね。服は人の人生に寄り添ってくれるって。こうやって生活をしていく上で服を着て楽しんだり、服を着て安心したり、そういう人達を見てると私も嬉しいのです パト:………君はなぜこんなに国の人が好きなのに政府が嫌いなんだ? リリー:嫌いだなんて、思ったことないですよ。……ただ、好きにはなれないだけです パト:……同じじゃないか リリー:私は…国を守ることが政府の仕事だとは思っていません。人々の幸せを守ることが本当の政府だと思ってます。……けれど、それが出来ない人間は政府なんかじゃない パト:……なら、なぜ君は人々の幸せを願い、人々と触れ合い、寄り添って生きているんだ? リリー:………それは パト:君のその目も、着ているその服も、心も、全てが美しく、素敵だ。そんな君だから君の服を買う人達、皆の心が暖かくなれるんじゃないのか? リリー:……ええ。そうですね。そうだと嬉しいです パト:こんなにも国を思うのに、何か理由でもあるのか? リリー:………そうですね。理由はあります パト:………なんだ? リリー:私、政府の娘なんです パト:……… リリー:あら、案外驚かないんですね パト:いや、驚いてるよ。でも、何となく想像は付いていた。しかしなぜ民族服を着ているんだ リリー:私は政府の娘でも…グランデの幸せを願い続けることは出来ないからですよ パト:どうして!?政府だからこそじゃないのか? リリー:………私が、女だからです パト:……それが関係あるのか? リリー:ありますよ。政府の娘は政治に口を挟むことは許されない。せいぜい他国の政府と政略結婚を申し込んでそれを繋げる為の鎖にしかならないんです リリー:だから私は政府と結婚なんて嫌なんです。こうしてディアンドルの服を着て、一般民族に成り下がったのですよ パト:君は……こんなにも国を愛しているのに…それでも鎖にしかならないと? リリー:……ええ。私は国を愛してますが、政府でいる限り国には愛されません パト:こんなにも優しい君が…!こんな目に遭うのなんておかしい! リリー:……それはあなただって同じですよ。国のためを思って行動しているのにこの国を出たらあなたは国から死刑を受けるんですから。こんなにも優しい…あなたが パト:……それは……そうだが リリー:それに、私はもう政府を名乗るのをやめた身です。今は仕立て屋として沢山の人達に愛を与えることが私は何よりも楽しくて、私にとっての幸福なのですから パト:……君がそれなら、いいんだけどね リリー:はい!じゃあお店に戻りましょう。 0:二人は店に戻る リリー:………え? パト:……… リリー:あ、あの。政府さん。私のお店に何の用ですか? リリー:………え?取り壊しって…なんですか? パト:……なんだって? リリー:な、なんで急に!?お父さんのことは関係ないじゃないですか!やめてください! パト:……… リリー:私は…絶対に政略結婚はしないって誓いました。だから一般の民族に成り下がったのです!どうして政府の望むことに従わなきゃいけないのですか!? パト:………くっ リリー:やめてください!……きゃ!! 0:リリーは突き飛ばされる パト:……っ!! 0:パトは一人の政府の頬を拳で殴った リリー:……パトさん パト:もうやめろ!! リリー:……パトさん!何してるんですか! パト:この娘の生き方を貴様ら政府に決められてたまるか!この娘の大切なものを奪うな!! リリー:…パトさん!あなたは今…! パト:リリーがどれだけ服を愛し、どれだけ人を愛し、どれだけ国を愛しているか、彼女の暖かさを知らぬ貴様らにはわからんだろう。 リリー:…………っ パト:俺の名はルグレ・スワイスのルソー。パトリス・フルク・シルビーナだ!これ以上リリーから何も奪うな!! リリー:……パトさん!逃げますよ! 0:二人はその場から離れる 0:場面転換 リリー:……ここなら誰にも見られない パト:……… リリー:どうしてあんなことしたんですか! パト:………君の大事なものを壊されるのが見ていられなかった リリー:それでも、あなたが政府に手を上げたら……ルグレとグランデは…… パト:………ああ。対立関係がより深刻になるな リリー:それをわかっててなぜ! パト:黙って見ていられないだろ! リリー:………っ! パト:仕立て屋は君にとっての幸福な場だったはず。それでもあの政府共…君の大事なものを壊したんだ。それを見ていられないと言ってるんだ リリー:私のことはほっといてください!あなたの身の危険が心配だと言っているのです! パト:君は!もう十分にほっとかれてただろ! リリー:………っ パト:今まで誰が君を助けてくれたと言うんだ。……君は、人々に愛を与えていながら、誰からの愛も受けず一人で居たはずだ。そんな君を俺はほっとけるはずがない! リリー:………あなたは…どうして、私を…… パト:………リリーのためだ リリー:………どうして! パト:俺は!ルグレ・スワイスのルソー。国の中でも高い地位にいる。だから政府の娘である君と婚約することによって、ルグレとグランデの対立関係を良好にすることが目的だ リリー:………え? パト:しかしそれは君の求める思想とは違う。政府の妻など君は望んでいない。 リリー:………どういうこと? パト:………俺も、国のために君との結婚を申し込んだ。これはフィリップ皇帝も他の政府も周知している。フィリップ様の命令だ リリー:……前に話した時は、あなたは反対されたと パト:君を騙すためだった。この身に危険を犯してでも、死刑だとわかってても君に会い、君を愛したいと。そうやって君を揺さぶらせるのが目的だった リリー:………それは… パト:つまり……俺は最初から君が政府の娘だと知っていて、仕立て屋の技術を持ってる君と婚約し、国の防寒服も作ってもらうのが目的だ。……君を利用しようとしたんだ。我が国のために リリー:……あなた!それを私に伝えてどうするのですか! パト:もう手遅れだろう リリー:当たり前じゃないですか… パト:だからこそ……俺は君に伝えたいんだ…… 0:パトは着ている服を脱ぎ出す パト:俺は……君と婚約をする! リリー:……パトさん… パト:グランデの政府に手を上げたんだ。今度こそ本当にルグレから追放されるだろう。……俺は政府なんかでは無くなる リリー:……… パト:もう地位も名誉も地に捨てる!君を利用することももうしないさ。仕立て屋もまた一から作り直そう。君を巻き込んでしまったことは申し訳ないとは思ってるが、また一からだ リリー:……何言ってるんですか。もうあなたも私もお互いの国には戻れないかもしれません。結婚だって……出来ませんよ パト:……そうだろうな リリー:後先のこと考えてください パト:………すまない。感情的になるといつもこうなんだ リリー:……ふふっ。私はあなたのそういう所も素敵だと思います パト:………リリー リリー:1晩だけなら宿が見つかるはずです。あなたもまたフードで顔を隠してください パト:……わかった リリー:はい。じゃあ行きますよ 0:2人は宿の部屋に入る パト:………なぜベットがひとつしかない? リリー:………知りませんよ。ここに案内されたんですから パト:……まあいい。先風呂入っていいぞ。今日も寒かっただろ リリー:ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて 0:リリーは浴室に入る パト:………こちらパト。任務は全て失敗だ。……グランデの政府と揉めてしまった。……俺はもう、後戻りは出来ないのだろうか…?……ああ。そうだな。……その通りだ パト:俺の心はもう、国ではなく、リリーのものになっている。そんな状態で……俺はルグレには戻れないだろう。 パト:……え?……しかし!彼女は政府の娘だ。俺はこの国で既に無法者扱いだ。それでもなぜ……。……そうか。3年。3年待てばいいんだな? 0:【間】 リリー:上がりましたよ。パトさんもお風呂入ってください パト:ああ。ありがとう 0:パトも浴室に入る リリー:………はあ。なんでこうなっちゃったんだろ リリー:私はわかっていたはず。それなのに自分を守ろうと必死になっていた。もう誰も信用しないように、疑いながら生きていた リリー:でも……あなたからは、どうしようもなく伝わってしまうんです…… 0:リリーは電話を手に取る リリー:もしもし?お父さん?……ええ。彼と一緒に居るわ。……とってもいい人だった。……けど…お父さんの言う通りにするしかないんでしょう?だから…彼を助けたい。彼を許してあげて リリー:………3年後に……また会えるなら…そうするわ。 0:【間】 0:そして…… リリー:そろそろ寝ましょ? パト:ああ。俺は床で寝るからベッド使っていいぞ リリー:ダメですよ!せっかく広いベッドなんですから私に遠慮せず使ってください パト:………君はいつもそうだな 0:同じベッドに横たわる リリー:この国の夜は、家族も友達も恋人も同じ布団の中で眠るのが日常なんですよ パト:………そうか リリー:はい パト:……俺とリリーはどこに当てはまるんだろうな? リリー:……何がです? パト:友達か…知り合いか……恋人か リリー:……どっちでもいいじゃないですか パト:……まあ、そうだな。 パト:リリー。俺の話を聞いてくれるか? リリー:なんですか? パト:俺は明日の朝、港町まで行って船を待つ リリー:……なぜです? パト:ルグレに戻るんだ リリー:……戻れるのですか? パト:戻らないといけないんだ。政府という立場は変わらず今回の件についての罰が下される リリー:……罰…ですか? パト:ああ。恐らく3年後にはコープフロイドで国の気温が急激に下がる。その時に…君はルグレに入国してもらうことになった リリー:……どうしてです? パト:元はリリーは政府の妻になる予定だったからだ。もっと言えば…俺の妻になる予定でな。しかし、俺がグランデで事件を起こしたことによって婚約の話は無くなり、防寒具だけを配るだけになった リリー:……そう…ですか パト:本当にすまない リリー:いえ、私は政府の娘ですが今は一般の民族です。あなたと婚約する訳にはいかないです パト:……ならば、今の俺たちの関係は……なんなんだ? リリー:……そうですね、なんなんでしょう? パト:………このまま政府を辞められたら…君と結婚出来たのかな? リリー:私は……あなたとなら結婚出来ましたよ パト:政府が嫌いなのにか? リリー:……あなたは特別です パト:……ならば…キスしてもいいか? リリー:……冗談はやめてください パト:……ふっ。すまない リリー:寝ますよ パト:ああ リリー:……私は…明日にならないで欲しいですけど パト:……… 0:次の日。港町に着く リリー:海の方はもっと寒いですね パト:……ああ。もう時期に船が来る リリー:そうですね パト:……… リリー:パトさん、見てください。今日の私何かが違うと思いませんか? パト:……なんだ? リリー:わからないんですか?ほら、顔ですよ パト:ん? リリー:リップ塗ってみたんです。どうですか? パト:おお。似合ってるじゃないか リリー:グロスも塗ったんでツヤツヤなんですよ パト:素敵だな リリー:はい。ありがとうございます パト:……… リリー:………パトさん パト:なんだ? リリー:……キス、してくださらないのですか? パト:………なんの冗談だ。……それに… リリー:……はい。キスなんかしたらまた会いたくなってしまいます。だから…これを受け取ってください パト:これは? リリー:マフラーです パト:……マフラーか。これも防寒服だな リリー:はい パト:ありがとう。大切に使うよ 0:パトはマフラー受け取る リリー:………っ パト:………っ 0:その瞬間にリリーはパトにキスをした パト:………なにを リリー:また会いたくなりました? パト:………ああ。なったよ。なるに決まってる…! リリー:また…会いましょう パト:………ああ。ありがとう 0:パトは船に向かう パト:(振り返ってはいけない。振り返ってしまうと……ルグレには戻れなくなってしまいそうだ。……どうして消えてくれないんだ) パト:(君のリップの感触が唇に残る…この香りもベリーの香りだ。……いつまでもこの感触は…残るに決まってる……拭っても拭っても……消えてくれない) リリー:パトさん! パト:っ! 0:リリーは後ろからパトに抱きついた パト:リリー……? リリー:……ごめんなさい。わがままかもしれないですが…行かないでください パト:……3年後にまた会えるさ リリー:待てないです!……3年後には…私は…… パト:………どうした? リリー:……すみません。私は…今まで何度も結婚相手を紹介されました。その人たちは皆、私の父の名前を聞いて結婚を申し込んできた人達です。何度お話をしても何度その手に触れても感じ取れるのは富と名声を欲しがる、その欲だけでした リリー:当然です。仕立て屋の私は服を売っているのではなく、愛を売っているのですから、触れたものに愛があるかどうかなんて簡単にわかります リリー:けど、あなたからは確かな愛を感じました。 パト:……くっ… リリー:あなたに出会えてあなたと時を共にして、あなたに沢山のことを学び、あなたに愛をもらいました。この感謝は忘れません。こんなにも素敵なあなたを私はいつまでも愛してます。この気持ちは…何年経っても変わりません パト:………リリー…俺も…リリーを愛してる リリー:……はい パト:君の優しさに触れて、君の暖かさを感じられてよかった。君に出会わなければ俺はずっと自分の国だけしか見ることが出来なかった。俺はリリーを愛してる リリー:……うっ……うぅ………ううぅぅ パト:……泣かないでくれ リリー:……いいえ、あなたとの別れが怖いのです パト:……怖いなんて……別れは悲しむものだ リリー:私は……私として…もうあなたには会えないのですから… パト:……どういう事だ? リリー:……お元気でいてください パト:……また…会えるんだよな? リリー:はい。……また会えます。それだけは約束します パト:……わかった。 0:二人は離れる 0:【間】 0:3年後 リリー:(私は、とある契約を結ぶために彼とルグレ・スワイスに入国した。ルグレにもコープフロイドが訪れ、気温もグランデ・クオーレと同じくらいに下がっている。彼の言っていたことは本当だった) リリー:(彼はこの国で育ったんだ。そう考えると、建物やお店、行き交う人々など、全てが好ましく思える。本当に素敵な国だと私はそう思える) リリー:(……もうすぐで、シルビーナの家の前に着く……シルビーナの家にはベリーが沢山実っていた。誰の趣味かはわからないけど、とてもいい趣味をしている。……そっか。きっとその人はパンケーキが好きだったりするのかも) リリー:(約束の3年が経った今、私はずっとあなたを思っていました。私は今でもあなたを愛してます。……けれど、リリー・ランカ・アルバーノとしては…もう会えません。今度は私があなたをお守りしないといけませんから) リリー:(今にも溢れ出しそうなこの愛を止められる自信がありません。…だから、あなたには会えません) パト:(我が国ではコープフロイドと呼ばれる寒波に覆われ気温が急激に下がってしまった。だから今日はグランデ・クオーレに住む一人の女性に防寒服を届けてもらう日だ) パト:(待ちわびていた。踊るような心を抑えて毎日毎日……。柄にもないがベリーの香りの香水でも付けて、俺はリリー・ランカ・アルバーノに会いにいく……しかし) パト:(遠くの方から見つけてしまった。彼女は左手の薬指に指輪をはめていた。誰との指輪かはひと目でわかる。彼女の隣には政府の防寒服を着た男が一人、彼女を抱き寄せていた) パト:(そうか…そうだよな……。君はもう…俺では無い誰かと……そうだ。たったそれだけの事。3年も経つのだから、心は変わってしまうものだ) パト:(寒さでは無い何かで、震えが止まらなくなりながらも。俺は彼女に挨拶をした) パト:……こんにちは。パトリス・フルク・シルビーナです。今日は遠いところからありがとうございます リリー:…こんにちは。リリー・ランカ・リオンヌです。いいえ、私も…この国に一度来てみたかったですから パト:………そのリップ、素敵ですね リリー:……あなたも、そのマフラー、素敵です パト:……行きましょうか リリー:………はい 0:〜END〜

リリー:私は今日もディアンドルの服に袖を通す。さて、この国の人達が明日また幸せになれるように頑張らないと リリー:……頑張らないと… 0:【間】 リリー:それで?あなたは何回ここに来るんですか? パト:何回でも来るさ。俺に服を作って欲しい リリー:どうしてですか?あなたの素性は私にもわかってるんですよ?そんなことしたら私が捕まります パト:捕まらないようにこっそり作るとかすればいいだろ リリー:無理です パト:どうして リリー:それは言えません。あなた、1週間前から私のお店に来てなんなんですか?仕立て屋なら他にもあるでしょう? パト:この国の作る服を一度着てみたいんだ。俺のいる国もいずれ寒さがやってくるはずなんだ リリー:はあ。あなたの左胸に付いてるバッジはルグレ・スワイスの国章(こくしょう)ですよね?私たちの国と対外関係が破滅的なのはあなたもわかってるはずです パト:確かに君のいる国グランデ・クオーレは我が国と対立している。しかし、ルグレ・スワイスの天候はここ数年で急激に変化していて……恐らく3年後には、この国と同じく、コープフロイドに覆われ、国の気温が急激に下がるんだ リリー:だからってあなたに服は作れません パト:この国の仕立て屋が作る衣服は寒さも防げると聞いている。その服の生地から繊維(せんい)まで、事細かに教えて欲しい。国を守るためなんだ、頼む! リリー:………何度説明されても…私にはそれは出来ません。こうしてあなたと話しているのも、本当はいけないことなんです…わかったなら早く帰ってください パト:………わかった 0:パトは店を出る リリー:あなた…私がなぜディアンドルの服を着ているか、わかりませんよね……。私も…一般の民族になってみたいのですよ 0:ある日の事 リリー:……また来たのですか? パト:……いや、なんていうか…泊まれる宿も無くなった リリー:は、はあ?どうして!? パト:この国章を見た人達がみんな口を揃えてこう言うんだ。「栗色の髪はお断りしてます」と リリー:それは…そうに決まってます。みんなルグレの人達を恐れているのですよ リリー:……てか。宿が無くなったからって私のところに来ないでください! パト:俺だってこんなことしたくないさ。でも、外は雪も降ってる。少しの間だけ、ここに居させてくれないか? リリー:……それは パト:………頼む… リリー:……それなら、お店の奥に服の在庫を保管している場所があります。そこなら政府の方が来ても見つからないでしょう パト:……助かる。ありがとう リリー:………あなた、お名前はなんというのですか? パト:……パトリスだ。パトリス・フルク・シルビーナ。君の名前は? リリー:リリー・ランカ・アルバーノ。リリーでいいです パト:じゃあ俺もパトでいい。それより、民族の君の店になぜ政府が来るんだ? リリー:それは……。お店の衛生面などを管理してくれてるんですよ。国中の人々が、安心してお店に来れるように パト:そうなのか。それほどこの国の服が重宝されているってことなのか リリー:ええ。そういうことです。………あ パト:………っ! 0:リリーの店に政府が数名やってくる リリー:こんにちは。政府のみなさん。き、今日は何の御用でしょうか? リリー:………え? リリー:………私は…見てないです リリー:……はい。すみません。今後ともよろしくお願いします 0:政府は店を出る パト:……… リリー:……パトさん。あなた、指名手配されてるみたいですよ パト:……なんで犯罪者扱いなんだよ。……それに、どうして俺を庇った? リリー:それは…私のお店にいると、変に疑われるからですよ。……あなたの方こそ、ルグレの政府の方だったんですね リリー:政府が私に何の用ですか? パト:……隠してて悪かった リリー:隠す気なんてなかったでしょう!?どうしてこうなるリスクも考えずにこの国に来たんですか! パト:国のことを思うのに…リスクなんて考えてられないだろ…! リリー:……どうして パト:俺の国は鎖国している。異国の服なんて誰も作れはしない。……だから君に頼んでいるんだ リリー:ルグレの……フィリップ皇帝はあなたの行動を知ってるのですか? パト:フィリップ様には伝えてある……が、反対されたんだ。敵対している国の衣服を着ることは許されないと リリー:なら……あなたはここに居たら…! パト:ああ。ルグレに戻る頃には、きっと俺は死刑だ リリー:……そうまでして何故ここに… パト:……国のためさ リリー:……はあ。国の政府が自分の命を捨ててまで国のためと……聞いて呆れます パト:これが俺の信念だ リリー:わかりました。パトさんの信念に乗っかって私が服を作ります パト:……ほ、本当か!? リリー:はい。なので材料を調達しましょう。荷物も多いので手伝って貰えますか? パト:もちろんだ! リリー:お店を閉めるのでちょっと待っててください パト:わかった。ありがとう!俺は外で待ってる 0:リリーはお店を片付ける パト:………… 0:店の窓から見えない角度にパトは居る パト:こちらパト。ルートA完了だ。……しかし、グランデの政府に目をつけられてしまった。……ああ。想定内だ。続けて任務を実行する リリー:お待たせしました パト:……ああ リリー:もう!どうしてそんな格好で外に出ようとするんですか!?あなた指名手配されてるんですよ!?その国章も隠してください! パト:俺はこのままでいい。国の証を隠すわけにはいかない リリー:背に腹はかえられないって言葉知ってますか!?そんなプライド捨ててください。私まで厄介事に巻き込まれるんですから。……はい、これ着てください パト:……これは リリー:この国の寒さを防ぐ、いわゆる防寒服って物です。パーカーも付いてるんで栗色の髪も隠せるはずですよ パト:……ありがとう。何から何まで助かる 0:二人は街を歩く リリー:パトさん パト:なんだ? リリー:その服、暖かいでしょう? パト:ああ。そうだな。これがこの国の衣服か リリー:そうです。私が作ったものですから、更に暖かいはずです パト:君が作ると何が違うんだ? リリー:私が作る服は、愛がこもってるからです パト:………… リリー:なんですか?その反応 パト:いや、良くしてくれてるから悪くは言えん リリー:悪く思ってたってことですか!? パト:そうだな リリー:言ってるじゃないですかー! パト:すまん リリー:全く リリー:……ところであなたは…グランデとルグレをどうしたいんですか? パト:……ああ。そうだな。別にどうしたいとかは無い。俺はただ、これを機に鎖国しているルグレが異国と交流を深めて国同士、手を取り合っていける国にしたいと思っている パト:だからこそ、対立しているグランデと共に、コープフロイドを乗り越えたいと思ってるんだ リリー:……それが実現出来たら、面倒なことも無くなるんですけどね パト:……まあ、そうだな 0:材料の調達が終わり店に戻る リリー:さあ。作りますよ パト:え?お、俺も作るのか? リリー:当たり前です。あなたが作れなかったら今後誰がルグレで防寒服を作るのですか?まあ、技術職なんでそう簡単には作れないですけどね。生地と繊維(せんい)だけ教わってルグレの仕立て屋に頼むといいですよ パト:……リリーはなぜそんなに優しいんだ? リリー:わ、私ですか?なんでと言われましても… パト:他の店は俺を見ただけで嫌な顔を浮かべていた。だけど、リリーはそうじゃなかった。だから俺はこの店に何度も来たんだ。もう君しか居ないと思っていたから リリー:パトさんだってお優しい方ですよ。国のために自らの命を懸けてここまでやってきたのですから。あなたのその命、私も一身に背負います パト:……どうしてそこまでしてくれるんだ? リリー:どうしてって、私も同じだからです。この国が好きだから パト:………… リリー:私とパトさんは自分の国が好きなんです。そう思ってる人には優しくするのが当たり前ですよ パト:そうだな。運命だと思ってしまいたいくらいだ リリー:……運命だなんて、そんな パト:ルグレとグランデ、共に手を取り合える関係になるには、俺に考えがある リリー:なんですか? パト:俺と結婚をして欲しい リリー:………はあ!? パト:それしかない リリー:ほ、本気で言ってるんですか!? パト:本気だ!俺は……嘘はつかない リリー:政略結婚…ではないですよね。私たちが勝手に決めていいことではありません。……それに パト:………? リリー:私は、政府の人間にはなりたくないので、あなたとは結婚は出来ません。 パト:………そんな リリー:もし本気で考えているのなら、そのいかにも貴族ですって格好はやめて、私のように民族の衣服を装ってください パト:………失礼なこと言って悪かった リリー:いえ、気持ちは嬉しいです パト:……他に宿があればそこで一晩過ごすよ。良かったらまた明日、服の作り方を教えて欲しい リリー:私でよければ 0:パトは店を出る パト:こちらパト…ルートB失敗だ。……え?いや、特に落ち込むことなんて……何もなかったが パト:明日からルートCに進行していく。よろしく頼んだ パト:……俺は…国を愛してるだけさ 0:【間】 パト:俺はリリーの素性は知っている。知った上で店に来たし、俺がグランデの政府に目を付けられる可能性があることも考慮していた パト:………しかし、国が好きなはずの彼女が何故…政府の人間になりたくないなどと…… パト:いいや、余計なことは考えずに、任務を全うするのみだ 0:次の日 リリー:……こんにちは パト:ああ。また服の作り方を教わりに来た リリー:わかりました。……その服は脱いでくださらなかったのですね パト:……ああ。俺はルグレの政府であることに誇りを持っているからな リリー:……ええ。あなたの服も喜んでいます パト:……え? リリー:人は身につけている物だけでその人の人生が見えてくるものです。そして身につけてる物も、その人に寄り添ってその人の人生を魅せてくれる パト:………… リリー:その服はあなたに相応しいんですよ。国に誇りを持っている政府なんて素敵じゃないですか リリー:……だからこそ、私はあなたに相応しい人間じゃないのです。あなたは政府で私は一般の民族。国も違えば地位も違う。私はあなたには寄り添えないんですよ パト:……何を言ってるんだ。君は……。いや、何でもない リリー:国を救えない地位など……ただの装いに過ぎませんから… パト:………… リリー:さあ、今日も作りますよ。 パト:………わかった 0:それから数時間後 リリー:ふぅー。相変わらず下手くそですね パト:く、くそ。なぜ上手くいかない… リリー:そう簡単には出来ないって言いましたよね?ミシンの使い方だって繊細なんですよ? パト:難しいな リリー:さて、息抜きに外に行きましょう。今日は私が奢ってあげます パト:お、奢り?馬鹿な真似はよせ、君は…一般民族だろ? リリー:だからですよ。政府のあなたに奢ってあげるんです パト:………なんという事だ 0:外に出る リリー:はい。これあげます パト:こ、これは リリー:パンケーキです パト:んー。見たことないな リリー:この国の特産品なんです。生クリームの上にベリージャムが乗ってます。このベリーもグランデ・クオーレでしか取れない貴重な木の実なのですよ パト:なるほどな。食べてもいいのか? リリー:はい。食べてください パト:いただきます。…っ。おー。美味いな! リリー:ですよね! パト:この上に乗ってるベリーが上手いな リリー:甘い香りがしますよね!気に入って貰えてよかったです パト:うん。少し甘い気もするが、俺は好きだ リリー:パトさんにもこの国を好きになってもらいたいです パト:ああ。好きになりそうだ リリー:見てください。街ゆく人々を パト:……ん? リリー:向こうに居る男性はフードの下にニット帽を被ってる。その方が風が入らなくて寒くないんです パト:なるほど、ああやって寒さを凌いでいたのか。俺は少し頭が寒い リリー:あの男性はきっと仕事の休憩中なんでしょうね。ちょっと安心してるような表情で優雅にコーヒーを飲んでます パト:確かに リリー:あそこの女性はコートの下にペンダント、そしてピアス付けてすごくおしゃれを楽しんでますね。時計も気にしてるし、少しウキウキした表情をしています。きっと大切な人と待ち合わせしてるのかも パト:そういう見方もあるのか。……それがどうかしたか? リリー:さっきも言いましたよね。服は人の人生に寄り添ってくれるって。こうやって生活をしていく上で服を着て楽しんだり、服を着て安心したり、そういう人達を見てると私も嬉しいのです パト:………君はなぜこんなに国の人が好きなのに政府が嫌いなんだ? リリー:嫌いだなんて、思ったことないですよ。……ただ、好きにはなれないだけです パト:……同じじゃないか リリー:私は…国を守ることが政府の仕事だとは思っていません。人々の幸せを守ることが本当の政府だと思ってます。……けれど、それが出来ない人間は政府なんかじゃない パト:……なら、なぜ君は人々の幸せを願い、人々と触れ合い、寄り添って生きているんだ? リリー:………それは パト:君のその目も、着ているその服も、心も、全てが美しく、素敵だ。そんな君だから君の服を買う人達、皆の心が暖かくなれるんじゃないのか? リリー:……ええ。そうですね。そうだと嬉しいです パト:こんなにも国を思うのに、何か理由でもあるのか? リリー:………そうですね。理由はあります パト:………なんだ? リリー:私、政府の娘なんです パト:……… リリー:あら、案外驚かないんですね パト:いや、驚いてるよ。でも、何となく想像は付いていた。しかしなぜ民族服を着ているんだ リリー:私は政府の娘でも…グランデの幸せを願い続けることは出来ないからですよ パト:どうして!?政府だからこそじゃないのか? リリー:………私が、女だからです パト:……それが関係あるのか? リリー:ありますよ。政府の娘は政治に口を挟むことは許されない。せいぜい他国の政府と政略結婚を申し込んでそれを繋げる為の鎖にしかならないんです リリー:だから私は政府と結婚なんて嫌なんです。こうしてディアンドルの服を着て、一般民族に成り下がったのですよ パト:君は……こんなにも国を愛しているのに…それでも鎖にしかならないと? リリー:……ええ。私は国を愛してますが、政府でいる限り国には愛されません パト:こんなにも優しい君が…!こんな目に遭うのなんておかしい! リリー:……それはあなただって同じですよ。国のためを思って行動しているのにこの国を出たらあなたは国から死刑を受けるんですから。こんなにも優しい…あなたが パト:……それは……そうだが リリー:それに、私はもう政府を名乗るのをやめた身です。今は仕立て屋として沢山の人達に愛を与えることが私は何よりも楽しくて、私にとっての幸福なのですから パト:……君がそれなら、いいんだけどね リリー:はい!じゃあお店に戻りましょう。 0:二人は店に戻る リリー:………え? パト:……… リリー:あ、あの。政府さん。私のお店に何の用ですか? リリー:………え?取り壊しって…なんですか? パト:……なんだって? リリー:な、なんで急に!?お父さんのことは関係ないじゃないですか!やめてください! パト:……… リリー:私は…絶対に政略結婚はしないって誓いました。だから一般の民族に成り下がったのです!どうして政府の望むことに従わなきゃいけないのですか!? パト:………くっ リリー:やめてください!……きゃ!! 0:リリーは突き飛ばされる パト:……っ!! 0:パトは一人の政府の頬を拳で殴った リリー:……パトさん パト:もうやめろ!! リリー:……パトさん!何してるんですか! パト:この娘の生き方を貴様ら政府に決められてたまるか!この娘の大切なものを奪うな!! リリー:…パトさん!あなたは今…! パト:リリーがどれだけ服を愛し、どれだけ人を愛し、どれだけ国を愛しているか、彼女の暖かさを知らぬ貴様らにはわからんだろう。 リリー:…………っ パト:俺の名はルグレ・スワイスのルソー。パトリス・フルク・シルビーナだ!これ以上リリーから何も奪うな!! リリー:……パトさん!逃げますよ! 0:二人はその場から離れる 0:場面転換 リリー:……ここなら誰にも見られない パト:……… リリー:どうしてあんなことしたんですか! パト:………君の大事なものを壊されるのが見ていられなかった リリー:それでも、あなたが政府に手を上げたら……ルグレとグランデは…… パト:………ああ。対立関係がより深刻になるな リリー:それをわかっててなぜ! パト:黙って見ていられないだろ! リリー:………っ! パト:仕立て屋は君にとっての幸福な場だったはず。それでもあの政府共…君の大事なものを壊したんだ。それを見ていられないと言ってるんだ リリー:私のことはほっといてください!あなたの身の危険が心配だと言っているのです! パト:君は!もう十分にほっとかれてただろ! リリー:………っ パト:今まで誰が君を助けてくれたと言うんだ。……君は、人々に愛を与えていながら、誰からの愛も受けず一人で居たはずだ。そんな君を俺はほっとけるはずがない! リリー:………あなたは…どうして、私を…… パト:………リリーのためだ リリー:………どうして! パト:俺は!ルグレ・スワイスのルソー。国の中でも高い地位にいる。だから政府の娘である君と婚約することによって、ルグレとグランデの対立関係を良好にすることが目的だ リリー:………え? パト:しかしそれは君の求める思想とは違う。政府の妻など君は望んでいない。 リリー:………どういうこと? パト:………俺も、国のために君との結婚を申し込んだ。これはフィリップ皇帝も他の政府も周知している。フィリップ様の命令だ リリー:……前に話した時は、あなたは反対されたと パト:君を騙すためだった。この身に危険を犯してでも、死刑だとわかってても君に会い、君を愛したいと。そうやって君を揺さぶらせるのが目的だった リリー:………それは… パト:つまり……俺は最初から君が政府の娘だと知っていて、仕立て屋の技術を持ってる君と婚約し、国の防寒服も作ってもらうのが目的だ。……君を利用しようとしたんだ。我が国のために リリー:……あなた!それを私に伝えてどうするのですか! パト:もう手遅れだろう リリー:当たり前じゃないですか… パト:だからこそ……俺は君に伝えたいんだ…… 0:パトは着ている服を脱ぎ出す パト:俺は……君と婚約をする! リリー:……パトさん… パト:グランデの政府に手を上げたんだ。今度こそ本当にルグレから追放されるだろう。……俺は政府なんかでは無くなる リリー:……… パト:もう地位も名誉も地に捨てる!君を利用することももうしないさ。仕立て屋もまた一から作り直そう。君を巻き込んでしまったことは申し訳ないとは思ってるが、また一からだ リリー:……何言ってるんですか。もうあなたも私もお互いの国には戻れないかもしれません。結婚だって……出来ませんよ パト:……そうだろうな リリー:後先のこと考えてください パト:………すまない。感情的になるといつもこうなんだ リリー:……ふふっ。私はあなたのそういう所も素敵だと思います パト:………リリー リリー:1晩だけなら宿が見つかるはずです。あなたもまたフードで顔を隠してください パト:……わかった リリー:はい。じゃあ行きますよ 0:2人は宿の部屋に入る パト:………なぜベットがひとつしかない? リリー:………知りませんよ。ここに案内されたんですから パト:……まあいい。先風呂入っていいぞ。今日も寒かっただろ リリー:ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて 0:リリーは浴室に入る パト:………こちらパト。任務は全て失敗だ。……グランデの政府と揉めてしまった。……俺はもう、後戻りは出来ないのだろうか…?……ああ。そうだな。……その通りだ パト:俺の心はもう、国ではなく、リリーのものになっている。そんな状態で……俺はルグレには戻れないだろう。 パト:……え?……しかし!彼女は政府の娘だ。俺はこの国で既に無法者扱いだ。それでもなぜ……。……そうか。3年。3年待てばいいんだな? 0:【間】 リリー:上がりましたよ。パトさんもお風呂入ってください パト:ああ。ありがとう 0:パトも浴室に入る リリー:………はあ。なんでこうなっちゃったんだろ リリー:私はわかっていたはず。それなのに自分を守ろうと必死になっていた。もう誰も信用しないように、疑いながら生きていた リリー:でも……あなたからは、どうしようもなく伝わってしまうんです…… 0:リリーは電話を手に取る リリー:もしもし?お父さん?……ええ。彼と一緒に居るわ。……とってもいい人だった。……けど…お父さんの言う通りにするしかないんでしょう?だから…彼を助けたい。彼を許してあげて リリー:………3年後に……また会えるなら…そうするわ。 0:【間】 0:そして…… リリー:そろそろ寝ましょ? パト:ああ。俺は床で寝るからベッド使っていいぞ リリー:ダメですよ!せっかく広いベッドなんですから私に遠慮せず使ってください パト:………君はいつもそうだな 0:同じベッドに横たわる リリー:この国の夜は、家族も友達も恋人も同じ布団の中で眠るのが日常なんですよ パト:………そうか リリー:はい パト:……俺とリリーはどこに当てはまるんだろうな? リリー:……何がです? パト:友達か…知り合いか……恋人か リリー:……どっちでもいいじゃないですか パト:……まあ、そうだな。 パト:リリー。俺の話を聞いてくれるか? リリー:なんですか? パト:俺は明日の朝、港町まで行って船を待つ リリー:……なぜです? パト:ルグレに戻るんだ リリー:……戻れるのですか? パト:戻らないといけないんだ。政府という立場は変わらず今回の件についての罰が下される リリー:……罰…ですか? パト:ああ。恐らく3年後にはコープフロイドで国の気温が急激に下がる。その時に…君はルグレに入国してもらうことになった リリー:……どうしてです? パト:元はリリーは政府の妻になる予定だったからだ。もっと言えば…俺の妻になる予定でな。しかし、俺がグランデで事件を起こしたことによって婚約の話は無くなり、防寒具だけを配るだけになった リリー:……そう…ですか パト:本当にすまない リリー:いえ、私は政府の娘ですが今は一般の民族です。あなたと婚約する訳にはいかないです パト:……ならば、今の俺たちの関係は……なんなんだ? リリー:……そうですね、なんなんでしょう? パト:………このまま政府を辞められたら…君と結婚出来たのかな? リリー:私は……あなたとなら結婚出来ましたよ パト:政府が嫌いなのにか? リリー:……あなたは特別です パト:……ならば…キスしてもいいか? リリー:……冗談はやめてください パト:……ふっ。すまない リリー:寝ますよ パト:ああ リリー:……私は…明日にならないで欲しいですけど パト:……… 0:次の日。港町に着く リリー:海の方はもっと寒いですね パト:……ああ。もう時期に船が来る リリー:そうですね パト:……… リリー:パトさん、見てください。今日の私何かが違うと思いませんか? パト:……なんだ? リリー:わからないんですか?ほら、顔ですよ パト:ん? リリー:リップ塗ってみたんです。どうですか? パト:おお。似合ってるじゃないか リリー:グロスも塗ったんでツヤツヤなんですよ パト:素敵だな リリー:はい。ありがとうございます パト:……… リリー:………パトさん パト:なんだ? リリー:……キス、してくださらないのですか? パト:………なんの冗談だ。……それに… リリー:……はい。キスなんかしたらまた会いたくなってしまいます。だから…これを受け取ってください パト:これは? リリー:マフラーです パト:……マフラーか。これも防寒服だな リリー:はい パト:ありがとう。大切に使うよ 0:パトはマフラー受け取る リリー:………っ パト:………っ 0:その瞬間にリリーはパトにキスをした パト:………なにを リリー:また会いたくなりました? パト:………ああ。なったよ。なるに決まってる…! リリー:また…会いましょう パト:………ああ。ありがとう 0:パトは船に向かう パト:(振り返ってはいけない。振り返ってしまうと……ルグレには戻れなくなってしまいそうだ。……どうして消えてくれないんだ) パト:(君のリップの感触が唇に残る…この香りもベリーの香りだ。……いつまでもこの感触は…残るに決まってる……拭っても拭っても……消えてくれない) リリー:パトさん! パト:っ! 0:リリーは後ろからパトに抱きついた パト:リリー……? リリー:……ごめんなさい。わがままかもしれないですが…行かないでください パト:……3年後にまた会えるさ リリー:待てないです!……3年後には…私は…… パト:………どうした? リリー:……すみません。私は…今まで何度も結婚相手を紹介されました。その人たちは皆、私の父の名前を聞いて結婚を申し込んできた人達です。何度お話をしても何度その手に触れても感じ取れるのは富と名声を欲しがる、その欲だけでした リリー:当然です。仕立て屋の私は服を売っているのではなく、愛を売っているのですから、触れたものに愛があるかどうかなんて簡単にわかります リリー:けど、あなたからは確かな愛を感じました。 パト:……くっ… リリー:あなたに出会えてあなたと時を共にして、あなたに沢山のことを学び、あなたに愛をもらいました。この感謝は忘れません。こんなにも素敵なあなたを私はいつまでも愛してます。この気持ちは…何年経っても変わりません パト:………リリー…俺も…リリーを愛してる リリー:……はい パト:君の優しさに触れて、君の暖かさを感じられてよかった。君に出会わなければ俺はずっと自分の国だけしか見ることが出来なかった。俺はリリーを愛してる リリー:……うっ……うぅ………ううぅぅ パト:……泣かないでくれ リリー:……いいえ、あなたとの別れが怖いのです パト:……怖いなんて……別れは悲しむものだ リリー:私は……私として…もうあなたには会えないのですから… パト:……どういう事だ? リリー:……お元気でいてください パト:……また…会えるんだよな? リリー:はい。……また会えます。それだけは約束します パト:……わかった。 0:二人は離れる 0:【間】 0:3年後 リリー:(私は、とある契約を結ぶために彼とルグレ・スワイスに入国した。ルグレにもコープフロイドが訪れ、気温もグランデ・クオーレと同じくらいに下がっている。彼の言っていたことは本当だった) リリー:(彼はこの国で育ったんだ。そう考えると、建物やお店、行き交う人々など、全てが好ましく思える。本当に素敵な国だと私はそう思える) リリー:(……もうすぐで、シルビーナの家の前に着く……シルビーナの家にはベリーが沢山実っていた。誰の趣味かはわからないけど、とてもいい趣味をしている。……そっか。きっとその人はパンケーキが好きだったりするのかも) リリー:(約束の3年が経った今、私はずっとあなたを思っていました。私は今でもあなたを愛してます。……けれど、リリー・ランカ・アルバーノとしては…もう会えません。今度は私があなたをお守りしないといけませんから) リリー:(今にも溢れ出しそうなこの愛を止められる自信がありません。…だから、あなたには会えません) パト:(我が国ではコープフロイドと呼ばれる寒波に覆われ気温が急激に下がってしまった。だから今日はグランデ・クオーレに住む一人の女性に防寒服を届けてもらう日だ) パト:(待ちわびていた。踊るような心を抑えて毎日毎日……。柄にもないがベリーの香りの香水でも付けて、俺はリリー・ランカ・アルバーノに会いにいく……しかし) パト:(遠くの方から見つけてしまった。彼女は左手の薬指に指輪をはめていた。誰との指輪かはひと目でわかる。彼女の隣には政府の防寒服を着た男が一人、彼女を抱き寄せていた) パト:(そうか…そうだよな……。君はもう…俺では無い誰かと……そうだ。たったそれだけの事。3年も経つのだから、心は変わってしまうものだ) パト:(寒さでは無い何かで、震えが止まらなくなりながらも。俺は彼女に挨拶をした) パト:……こんにちは。パトリス・フルク・シルビーナです。今日は遠いところからありがとうございます リリー:…こんにちは。リリー・ランカ・リオンヌです。いいえ、私も…この国に一度来てみたかったですから パト:………そのリップ、素敵ですね リリー:……あなたも、そのマフラー、素敵です パト:……行きましょうか リリー:………はい 0:〜END〜