台本概要

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タイトル フラメッサ(Flamessa)男女版
作者名 Danzig
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 フラメッサの男×女版です。
男性が年上のバージョンです。

スラム街で育った、ロイとカーラ。
二人は、スラム街の解体と共に離れ離れになってしまう。
15年後に再開した二人だが、二人は当然のように、既に違う人生を歩んでいた、それでも・・・

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
カーラ 114 年下の女性
ロイ 111 年上の男性
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
: : カーラ:ふぅ、今回の仕事も、これでようやく終わりか・・・ : : カーラ(M):午後11時を回った頃、ようやく仕事が終わった : カーラ:はぁ、今回は疲れた・・・ : : カーラ(M):ハードなスケジュールは、いつもの事。 だから、身体が疲れているという訳ではない カーラ(M):今日も、気の乗らない仕事だったから、心底(しんそこ)、気持ちがくたびれた感じがしている カーラ(M):でも、私には、この仕事くらいしか、出来る事はないし、文句をいっても仕方がない : : カーラ:今日は金曜日か・・・ : カーラ(M):私は、おもむろに腕時計を見る。 時間は11時25分 : カーラ:まだ、居るかな : カーラ(M):私はタクシーに乗り、「B12地区」へと向かう カーラ(M):こんな、気持ちの落ち込む時には、特に会いたくなる人がいる カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):暫く走った後、タクシーは、「B12地区」の路地に私を降ろした カーラ(M): カーラ(M):降りたそこには、ビルがあり、地下に下りる狭い階段がある カーラ(M):私は少し重い足取りで、その階段を降りて行く カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):階段を降りた先には、扉がある。 カーラ(M):Tender(テンダー)と書かれた黒い木の扉 カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):私は徐(おもむろ)に扉を開く : : : カーラ(M):薄暗い店の中には、カウンターがあり、そこの光だけが店の中を照らしているように見える カーラ(M):その長いカウンターに、一人の男性が座っていた カーラ(M):淡い光に浮かび上がる、ブロンズの短い髪 カーラ(M):やはり、彼はここに居た : : ロイ:おや、カーラじゃないか : カーラ(M):彼の名は「ロイ・チャンドリー」、私が会いたかった人だ カーラ(M):ロイは、店の入り口で佇(たたず)んでいた私を見つけて、声を掛けてくれた : ロイ:そんな所に立ってないで、こっちに来て座りなよ : カーラ:うん・・・ : カーラ(M):私はロイに促(うなが)されるままに、ロイの隣に座った : ロイ:どうした? : カーラ:うん・・・ : : カーラ:なんか急に、ロイに会いたくなってさ : ロイ:そうか ロイ:仕事で何かあったのか? : カーラ:まぁ、そんな感じ : ロイ:そうか : : ロイ(M):この子の名前は「カーラ・リーバー」、俺にとっては妹のような存在だ ロイ(M):そんなカーラが、俺に会いたがる時は、決まって気分が落ち込んでいる時だ : : カーラ:最近・・・たまにさ、昔の事を思い出すんだよね : ロイ:ふーん : : : ロイ(M):この「B12地区」は、かつて「フラメッサ」と呼ばれたスラム街だった ロイ(M):フラメッサとは、物語に出てくる「正義を無くした魔女」の名前なのだと聞いたことがある ロイ(M):このフラメッサで、俺とカーラは育った、いや、育ったと言うよりは、ただ生きていたと言った方がいい ロイ(M): ロイ(M):俺もカーラも、いつからそこに居たのかすら分からない、当然、親の顔も知らない。 でも、ここに住む子供達は、そんな奴らばかりだった ロイ(M):ゴミを漁(あさ)り、畑からイモを盗み、物乞(ものご)いをし、運がいい日は、日雇いの僅(わず)かな金を稼ぐ。 ロイ(M):そんな暮らしが当たり前のこの街で、カーラは俺を兄のように慕(した)い、俺もカーラを妹のように可愛がった ロイ(M):少しの食べ物を、いつも二人で分け合い、寄り添って生きていた : : カーラ:昔はさ、食べる事さえ出来ない日が、幾らでもあって、あんなに苦しかったのに、あんなに抜け出したかったのに・・・ カーラ:何でだろう、あの頃が懐かしくなるのよ : ロイ:そうなんだ : カーラ:うん・・・ : ロイ(M):この国のトップが、スラム撲滅(ぼくめつ)を訴えて当選した事を機に、「B12地区」は再会発地区に指定された ロイ(M):そして、その時、フラメッサに住んでいた人達は、国から、住む家と金を用意され、この街からみんな出て行った ロイ(M): ロイ(M):俺やカーラのような孤児(みなしご)は、国が養育費を支払う条件で、ボランティアの家庭に引き取られて行った ロイ(M):この国にとっては、さぞ立派な政治家なのだろう、きっと、素晴らしい世界がきて、みんなが幸せになるとでも、本気で思っていたのだろう ロイ(M):だが、それが、俺とカーラの人生を大きく変えてしまった ロイ(M): ロイ(M):フラメッサが解体される時、俺はチャンドリー家に、カーラはリーバー家に、それぞれ、さらわれるように引き取られ、俺達は離れ離れになった ロイ(M):俺が14歳、カーラが12歳の時だった : : : : カーラ(M):私は、リーバー家に引き取られた後、リーバー家の職業訓練を受けさせられて、仕事をするようになった。 カーラ(M):良いも、悪いも、好きも、嫌いもない、ただそうする事が、フラメッサ以外で生きていく為の術(すべ)だった。 カーラ(M):ロイも含め、フラメッサに住んでいた子供達は、誰もが同じような境遇(きょうぐう)だっただろう。 : : ロイ(M):俺達が引き裂かれてから、15年の歳月が流れた頃、すっかり綺麗になってしまったこの街で、俺とカーラは再会した。 ロイ(M): ロイ(M):Tender(テンダー)という名のこの店で、俺が酒を飲んでいる時、ふらりとカーラが店に入って来た。 ロイ(M):二人とも、フラメッサに居た頃の、あの惨(みじ)めな面影などすっかり無くなり、普通の大人になっていたが、 ロイ(M):それでも、俺もカーラも、目の前の人間が誰なのかが、直ぐに分かった。 : カーラ(M):その時、15年の月日など、まるで無かったかと思えるほど、私は子どものようにロイに抱きついた カーラ(M):嬉し涙でぐちゃぐちゃになりながら、ただ無言で抱きついていた : : ロイ(M):その日から、カーラは何かあると、俺を訪ねてくるようになった、 ロイ(M):でも、カーラは自分の事を、あまり語りたがらなかった、勿論、俺の事も聞こうとはしない ロイ(M):まるで、何かを知ってしまう事に、いや、何かを知られてしまう事に怯(おび)えるかのように : : ロイ:カーラ、お前、何て顔してんだよ : カーラ:え? 私? : ロイ:そう、お前 ロイ:今にも、高いところから飛び降りそうな顔してるじゃないか : カーラ:私、そんな顔してるの? : ロイ:あぁ : カーラ:・・・ : : ロイ:なぁ、カーラ : カーラ:ん? : ロイ:辞めちまえよ、そんな仕事 : カーラ:・・・ : ロイ:お前が、今、どんな仕事をしてるかは知らないし、聞かないけどな ロイ:イヤになったのなら、そんなもん全部、捨てちまえばいいんだよ : カーラ:でも・・・私はこの仕事くらいしか出来ないから : ロイ:怖いのか? : カーラ:・・・うん : ロイ:そうか : カーラ:・・・うん : : ロイ:でも、心配なんていらねぇよ、俺がいるじゃないか : カーラ:ロイ : ロイ:昔みたいにさ、いつでも俺がお前の側に居てやるよ : カーラ:・・・ : ロイ:それに、例え全部無くなったって、あの頃に戻るだけだろ? ロイ:いや、どこに行ったって、あの頃よりは、少しはマシさ : カーラ:うん : ロイ:あの頃はさ、苦しくて、惨めで、どうしようもなかったけど、それなりに楽しい事もあったじゃないか : カーラ:そうだけど・・・ : ロイ:もし、お前が、あの頃に戻るのが怖いって言うのなら、俺も一緒に、全部捨ててやるよ : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:今の生活も、今持っている物も全部捨てて、お前と一緒に、あの頃に戻ってやるさ ロイ:それでも、怖いか? : カーラ:ありがとう・・・でも : ロイ:でも? : カーラ:ううん、ロイとあの頃に戻る事は怖くない・・・ : ロイ:だったら : カーラ:私さ、まだ、ロイに話していない事があって・・・ カーラ:それをロイに知られるのが怖い : : ロイ:ははは、何を言うかと思えば : カーラ:そんな・・・私はホントに・・・ : ロイ:カーラ、何、子供みたいな事を言ってるんだよ : カーラ:え? : ロイ:何もかも、包み隠さずに、全部話さないと信用できないなんて ロイ:俺はそんなに子供じゃねえよ : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:話したくないなら、話さなきゃいいじゃないか ロイ:今のお前が、どんな人間になっていたって ロイ:俺は、今のカーラを全部受け入れてやるよ : カーラ:ロイ・・・でも、どうして : ロイ:どうして? ロイ: ロイ: ロイ:ふ・・・ははは : カーラ:そんな・・・笑わないでよ : ロイ:じゃぁさ、もし、俺がお前に、隠し事があったとしたら、お前は、俺を信じてくれないのか? : カーラ:え? : ロイ:やっぱり、全部話さないと、信じられないのか? : カーラ:ううん、そんな事ない カーラ:ロイがどんな人間だって、私は構わない : ロイ:ははは、なんだい、じゃぁ、同じじゃねぇか : カーラ:うん・・・ : ロイ:そういう事だよ : : カーラ:ロイ、ありがとう カーラ:本当に嬉しい : ロイ:フフ、どういたしまして : : カーラ:でも、私、もう少しだけやってみようと思う : ロイ:そうか : カーラ:もし、今度ダメだったら・・・ : ロイ:あぁ、いつだっていいよ ロイ:その気になったら、また来いよ : カーラ:うん、わかった : : ロイ(M):そう言って、カーラは少しの微笑みを残して、店を出て行った : : : : カーラ(M):私はまた、いつもの日常に戻った カーラ(M):いつもの生活、いつもの仕事、いつものやるせない気持ち・・ カーラ(M):気持ちが心底(しんそこ)くたびれた時には カーラ(M):私と一緒に、「あの頃に戻ってもいい」と言ってくれた、ロイの言葉と カーラ(M):そんなロイには、もう、苦しい思いをして欲しくないという、想いが、私を支えていた : : : ロイ(M):カーラが俺を慕(した)ってくれる。 それが凄く嬉しい ロイ(M):フラメッサで、あの頃の俺が生きていけたのは、カーラが俺を慕ってくれていたからだ ロイ(M):この妹のような存在を、死なせる訳にはいかない・・・その想いが、俺を支えていた ロイ(M):だから、15年ぶりにカーラと再会した時、涙を流して抱きつきたかったのは、カーラよりも、俺の方だったかもしれない : : カーラ(M):あれから、何日経っただろう カーラ(M):ある日の金曜日、私は、とある家のリビングで、ぼんやりと佇(たたず)んで、部屋の様子を眺めていた カーラ(M):部屋の壁には、テレビがあり、恋愛映画のような映像が映し出されている カーラ(M):私の目の前には、カーペットと、ローテーブル、二人掛けのソファー・・・ カーラ(M): カーラ(M):そして、そのソファーには、穴の開いた男女二人の死体があった : : : ロイ(M):今の生活を全部捨てて、カーラと一緒にあの頃に戻ってもいいと言った、俺の言葉に嘘はない ロイ(M):だが、それは、俺自身を偽(いつわ)った言葉でもあった ロイ(M):俺は、カーラが居なくても、今の生活を全部捨てたいと、いつも思っていたのだから・・ ロイ(M): ロイ(M):だが、それをカーラに知られる訳にはいかない ロイ(M):カーラの前では、俺は強い男でいなければならない ロイ(M):そうでなければ、きっと、カーラの心は、守ってやれない : : : カーラ(M):部屋の惨状(さんじょう)を見て、私は電話を掛ける : : カーラ:もしもし・・・はい、そうです・・・はい・・・ええ、終わりました : : カーラ(M):電話を持つ、私の反対の手には、銀色のベレッタが握られている。 カーラ(M): カーラ(M):ソファーの二人を殺したのは私・・・ カーラ(M):殺し屋・・・そう、それが私の仕事 カーラ(M):私は、組織からの指令で人を殺す。 殺す理由は教えてもらえない・・・ただ、言われた通りに人を殺し続ける カーラ(M):恨みもしない人の命を奪(うば)って、自分の命を生き永(なが)らえさせている・・・私は、そんな忌(い)み嫌われる悪魔のような存在 カーラ(M): カーラ(M):出来る事なら、こんな私の姿を、ロイには知られたくはない・・ カーラ(M):でも、私の心はどんどん壊れていく : : : ロイ(M):今日も俺は、仕事終わりに、バーで酒を飲む、Tender(テンダー)という名の、いつものバーで ロイ(M):この店は、昔、フラメッサで暮らしていた「ヒュース」という男が、バーテンダーをしている店だ ロイ(M):フラメッサに居た奴らの習性なのだろうか、彼は、何も聞こうとはしないし、何も話さない・・・ ロイ(M):そのせいか、店にはあまり客がいない、でも、そういうところが、俺には居心地がいい : : : カーラ(M):今日殺した二人の映像が、殺す前の、幸せそうに肩を組みながらテレビを見ていた、二人の映像が、私の頭から離れない。 カーラ(M):あの二人はどれだけ幸せだったのだろう、これから先、二人にはどんな幸せが待っていたのだろう カーラ(M):そういった感情が、止めどもなく湧き上がってくる・・・人を殺した後はいつも・・・いつも・・・ : : カーラ(M):気が付けば、私は「B12地区」へと足を運んでいた カーラ(M):暫くは行かないでおこうと決めていた筈(はず)の、ロイの所へ カーラ(M):ロイに全てを打ち明ける決心も、出来ていないのに・・・ : : : ロイ(M):俺は、酒を飲む時は、あまり、あれこれと考える事はしない、なるべく頭の中を空っぽにして酒を飲む ロイ(M):それは、ただ、好きな酒の味を味わっていたいからか・・ ロイ(M):いや、嫌な事を思い出したくないだけなのかもしれないな ロイ(M): ロイ(M):でも、最近は、よくカーラの事が脳裏をよぎる、そして今日も : : : カーラ(M):私は、地下へと降りる階段を進み、その先にある黒い木の扉を、そっと開ける カーラ(M):薄暗い店の中に、カウンターの光に浮かび上がる、ブロンズの短い髪を見つけた カーラ(M):その瞬間、安堵感(あんどかん)にも似た気持ちが、私の胸を満たして行くのが分かった : カーラ:・・・ロイ・・・ : ロイ:カーラ : ロイ(M):カーラは、まるで、俺の脳裏から現れたかのように、そこに立っていた。 : : : : ロイ(M):俺は、扉の前に佇(たたず)むカーラに声を掛ける : ロイ:どうした? : カーラ:うん・・・なんだか、ロイに会いたくなって・・・ カーラ:気が付いたら、ここに来てた : ロイ:そうか ロイ:じゃぁ、こっちに来て座りなよ? : カーラ:うん・・・ : ロイ(M):カーラは俺の言葉に頷(うなづ)いて、俺の隣に座った : ロイ:何か飲むか? : カーラ:・・・じゃぁ、ディアブロを・・・ : ロイ:ディアブロ? そんなんじゃ、酔えないぞ : カーラ:ううん、いいの、今日は酔いたくないのよ カーラ:今日は・・・酔ってしまうのが怖いから : ロイ:そうか : カーラ:・・・うん・・・ : ロイ(M):それから、俺とカーラは、少しの間、無言のままに、酒を飲んだ ロイ(M):まるで、カウンターに、グラスと氷の音だけが、静かに染みていくかと思うくらい ロイ(M): ロイ(M): ロイ(M):カーラがディアブロを半分ほど飲んだ頃、カーラのため息が沈黙の終わりを告げた : カーラ:ふぅ・・・ : ロイ:・・・ ロイ: ロイ: ロイ:今日は何かあったのか? : カーラ:・・・まぁ・・・・ : ロイ:ふーん ロイ:で、気持ちは決まったか? 仕事を辞める : カーラ:それは・・・まだ・・・ : ロイ:そうか・・・ : カーラ:ごめんね・・・「今度」って言っておきながら、私・・・ : ロイ:別に気にする事はないさ、言っただろ?「いつでもいい」って : カーラ:うん、ありがとう・・・でも・・・ : ロイ:カーラ、何か仕事をやめられない理由でもあるのか? : カーラ:・・・ : ロイ:・・・ ロイ:まぁ、それは聞かないよ : カーラ:ごめん : ロイ:いいさ、今日はゆっくり飲もう : カーラ:うん : ロイ(M):それから、夜が更けていくまで、俺達は、たどたどしくも、昔の話と、たわいのない話を繰り返しながら酒を飲んだ。 : : カーラ:じゃぁ、私、そろそろ帰るよ : ロイ:あぁ、またな : カーラ:うん・・・ カーラ:ロイ、もう少しだけまって・・・今度はキチンと連絡する : ロイ:あぁ、わかったよ ロイ:でも、無理はするなよ : カーラ:・・・うん、ありがとう : ロイ(M):そして、かなり夜も更けた頃、俺とカーラは、再会してから初めて、お互いの携帯電話の番号を交換して別れた : : : カーラ(M):私はまた、あの日常に戻った カーラ(M):人を殺す度に、自分の心が壊れていくのが分かる カーラ(M):もう限界なのかもしれない・・・何もない自分の部屋の天井を見ながら、私は、ぼんやりとそんな事を考えていた カーラ(M):そんな時、ローテーブルの上に置いてあった、携帯電話が鳴った : : カーラ:もしもし・・・はい、そうです・・・はい、分かりました、では、今から、そちらに行きます : カーラ(M):電話は、組織からだった・・・今から組織の事務所に来るようにとの指示が出された カーラ(M):組織の事務所に行けば、きっとまた、殺人の指令が下(くだ)る。 カーラ(M):そう思うと、人を殺した時の、あの憎悪が、私の胸の中に蘇(よみがえ)ってくる カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):私には、もう耐えられそうにない カーラ(M):組織の仕事は、もうこれで最後にしよう・・・そう思い、私はロイに電話をかけた : : ロイ:はい・・・ : カーラ:もしもし、ロイ? : ロイ:あぁ、カーラか、どうした? : カーラ:この前言っていた話・・・私、やっぱり、そろそろダメみたい : ロイ:そうか・・大丈夫か? : カーラ:うん、まだ少しは大丈夫 カーラ:また近いうちに仕事があるの、その仕事が終わったら、私の事、ロイに全部話すよ : ロイ:あぁ、分かった : カーラ:ロイ・・・私・・・ : ロイ:大丈夫さ、心配しなくても ロイ:俺は何があっても、お前の味方でいてやるよ ロイ:また、昔みたいに、一緒に暮らせばいいさ : カーラ:うん・・・ありがとう、ロイ、 カーラ:でもきっと、ロイには、話を聞いて貰うだけになりそうな気がする : ロイ:カーラ、それって、どういう事なんだ? : カーラ:また連絡するね : ロイ:カーラ? ロイ:・・・ : ロイ(M):そう言って、カーラは電話を切った ロイ(M):カーラの最後の言葉が妙に気になる・・・何もなければいいが・・ : : : カーラ(M):ロイへの電話から、およそ1時間後、私は組織の事務所に来ていた カーラ(M):私の前には大きな黒いテーブルと、そのテーブルの向こうには、椅子に座った上司がいる カーラ(M):上司は、いつも私に指令を出す時と同じ仕草で、テーブルの上に写真を置き、そしてターゲットの名前を私に告げた : : : : カーラ(M):私は組織の事務所で、次のターゲットの名前を告げられた カーラ(M):告げられたターゲットの名前は「レックス・チャンドリー」、知らない名前の人・・・ カーラ(M):また知らない人を殺すのか・・・そう思って、私は机の上の写真を手に取って見た カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):私は一瞬、目を疑った、写真にはあの「ロイ」が写っていたのだ : カーラ:これは・・・ : カーラ(M):思わずロイの名前が口から出そうになった・・・ カーラ(M):私はその時、私が写真の人物と知り合いだという事を、悟(さと)られないようにするのに必死だった : : : ロイ(M):今日は仕事のない一日だった、特にやる事もなく、部屋でのんびりしていたところへ、カーラからの電話があった。 ロイ(M):どうやら、カーラが仕事を辞める決心をしたようだった ロイ(M):まぁ、どんな仕事をしているかは知らないが、あんなに心が荒(すさ)んでしまう仕事なら、さっさと辞めた方がいい ロイ(M): ロイ(M):俺は、カーラの最後の言葉が妙に気にはなったが、俺も早く今の仕事をやめる支度(したく)をしないと・・・ ロイ(M):そう思っていた矢先、もう一度、俺の携帯電話が鳴った ロイ(M): ロイ(M):電話は俺の上司からだった、そして、電話の向こうの上司は、俺に向かってこう言った ロイ(M):「カーラ・リーバーを知っているか?」と : : : カーラ(M):いつも私は、ターゲットを殺す理由を教えてもらえない、 カーラ(M):だが、写真の人物は、チャンドリー家が、裏で糸を引いている犯罪組織の、エージェントである事を教えられた。 カーラ(M):私の所属する組織は、リーバー家が取り仕切る犯罪組織。 ロイのいるチャンドリー家とは敵対関係にあるらしい カーラ(M):それだけで、大体の察(さっ)しはつく・・・ : : ロイ(M):フラメッサが解体された時、そこで暮らしていた人達は、国から家と金を与えられて、街を出て行った ロイ(M):しかし、その後、街を出て行った多くの人達が、犯罪に手を染めている ロイ(M):その理由は、働き方や、普通の生活をする、知識や知恵を持っていなかった、フラメッサ出身の人達を、 ロイ(M):言葉巧みに騙(だま)して、国から与えられた家や金を奪(うば)ってしまう、悪党達がいたからだ ロイ(M): ロイ(M):その代表的な奴らが、リーバー家や、チャンドリー家のような、古い一族。 ロイ(M):奴らは大人だけではなく、フラメッサの子供達も引き取って、犯罪を教え、自分達の組織の道具として使っていた。 ロイ(M):俺やカーラも、その内の一人だった。 : : カーラ(M):私は自分の部屋に戻り、ソファーに座って、事務所から持ち帰ったロイの写真を見つめていた カーラ(M):ロイと過ごした、フラメッサの日々が、走馬灯(そうまとう)のように、私の頭の中を駆け巡る カーラ(M):こんな形で、ロイと別れる事になるなんて・・・ カーラ(M):こんな事なら、15年ぶりの再会なんて、なかった方がよかった・・・ カーラ(M):涙が止めどなく溢(あふ)れて来る カーラ(M):私は、涙を止める術(すべ)もなく、泣きながら夜を過ごした : : カーラ(M):そして、散々泣いて、夜を明かした、その日の午後、私はロイに電話を掛けた : : ロイ:はい・・・ : カーラ:もしもし、ロイ? : ロイ:あぁ、カーラか・・どうした? : カーラ:今から、ロイに、私の事を聞いて欲しいと思って、電話したの : ロイ:そうか ロイ:それはいいけど、仕事はもう終わったのか? : カーラ:ううん、それは、まだだけど、仕事の前にロイに聞いて欲しくて : ロイ:あぁ、わかった ロイ:で、どんな話? : カーラ:私の仕事の話 : ロイ:・・そうか : : カーラ:私ね、殺し屋なの、リーバー家の : ロイ:そう・・なんだ : カーラ:うん・・・でも、人を殺すほど、どんどん、自分の心が壊れていくの・・ カーラ:今まで、そんな事なかったんだけど、ロイと再会してから、そう感じるようになっちゃって : ロイ:・・・ : カーラ:もうそろそろ限界だなぁって : ロイ:そうだったんだ・・・俺と再会してから・・ : カーラ:うん・・それで、今度の仕事を最後にしようと思ったの : ロイ:そうか : カーラ:本当は、仕事が終わってから、ゆっくり、ロイに聞いてもらおうと思ってたんだけど カーラ:そうもいかなくなっちゃってさ : ロイ:どういう事なんだ? : カーラ:それでね、今度の私の仕事なんだけど、ターゲットは・・ : ロイ:おい、カーラ、そんな事、俺に話して・・ : カーラ:レックス・チャンドリー : ロイ:え? : カーラ:今度のターゲットは、レックス・チャンドリーっていう人なの : ロイ:・・・ : カーラ:もしかして、これってロイの事? : ロイ:・・あぁ、そうだよ : : : : カーラ(M):「レックス・チャンドリー」は、やはり、ロイだった : カーラ:ロイって、そんな名前だったの? : ロイ:いや、チャンドリー家に引き取られた時に、名付けられた名前だよ ロイ:レックスでも、愛称はロイだから・・・ : カーラ:そうだったの・・・ : ロイ:あぁ、 ロイ:でも、カーラの前では、あの頃のロイでいたかったからね、お前と居る時は、その名前を使いたくなかったのさ : カーラ:そう・・・ : ロイ:じゃぁ、カーラは、もう俺の事は知ってるんだな : カーラ:ううん、そんなに詳しくは知らない。 私が教えられたのは、チャンドリー家のエージェントという事くらい・・・ : ロイ:そう・・・ ロイ:でも、エージェントというよりは、殺し屋なのさ、俺も : カーラ:え? : ロイ:奇遇じゃないか、俺達、同じ殺し屋同士なんてな : カーラ:そうだね・・良かった・・・ : : ロイ(M):俺とカーラの間に、少しの間、沈黙が流れた : : ロイ:で、どうするんだ? : カーラ:・・・ : ロイ:ただ、事情を聴いて欲しかった訳じゃないんだろ : カーラ:うん・・・ カーラ:ロイにお願いがあるの : ロイ:何だよ、お願いって : カーラ:ロイに会いたい・・・ : ロイ:・・・あぁ、分かった。 いいよ。 : カーラ:でも、私はリーバー家の・・・ : ロイ:いいよ、そんな事。 ロイ:言っただろ? 今のお前が、どんな人間になってたって ロイ:俺は、今のカーラを全部受け入れてやるって : カーラ:ロイ・・・ありがとう : ロイ:それで、会ってどうするんだ? : カーラ:ロイの手で私を殺して欲しいの : ロイ:カーラ・・・ : カーラ:ロイが殺し屋で良かった : ロイ:・・・ : ロイ:で、どこへ行けばいい? : カーラ(M):私はロイに場所を伝えた : ロイ:わかった、じゃぁ、今からそこへ向かうよ : カーラ:うん、気を付けて・・・ : : カーラ(M):そう言って、私は電話を切った・・・リーバー家の5人の男に見つめられながら カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):私とロイの関係は、組織には既に全部知られていた、 カーラ(M):私はロイを指定の場所に呼び出すように、組織から命令をされていたのだった : カーラ:ロイ・・・お願い、来ないで・・・ : : : ロイ(M):俺はカーラに教えられた場所に来ていた。 とあるビルの一室 ロイ(M):俺は扉を開けて、中に入る。 すると、部屋の中央にカーラが立っていた : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:カーラ : ロイ(M):カーラは、今までに無いほど、悲し気な顔をしていた ロイ(M):俺が、そんなカーラの顔に気を取られ、不用意に近づいた時、後ろに隠れていた3人の男が扉を閉めて鍵をかけた ロイ(M):そして、前方の物陰から2人の男が現れ、俺とカーラは5人の男達に囲まれた : : カーラ:ロイ、ごめんなさい : : ロイ(M):俺はこの状況を直ぐに飲み込めた、しかし、俺は特に慌てる事はなかった : ロイ:別に謝らなくてもいいよ : カーラ:でも : ロイ:カーラが殺してくれと言ったから、俺もカーラと一緒に死ぬつもりで、ここに来たんだ ロイ:だから、謝らなくていい : カーラ:そんな・・・ : ロイ(M):リーバー家の男達は、ニヤニヤと笑っている : ロイ:だが、どうせ殺されるなら、俺はカーラに殺してもらいたいな : カーラ:それは・・・ : ロイ:それで、カーラ、 ロイ:お前も死にたいんだろ? だったら、俺が殺してやるよ : カーラ:え? : : カーラ(M):ロイは男達の方に向かって言った : ロイ:なぁ、折角だから、俺とカーラで勝負をさせてくれよ。 ロイ:たとえ、俺が勝ったとしても、お前達が俺をハチの巣にすればいいだろ? ロイ:どうだ? : カーラ(M):男達は、ロイの提案に、まるで、何かのショーでも見るかのように、ニヤつきながら頷(うなづ)いた : ロイ:じゃぁ、話はそれでいいな。 ロイ:カーラ、お前の願い、ここで叶えてやるよ。 : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:カーラ、銃を抜きな ロイ:運が良ければ、一緒に死ねるぜ : カーラ:・・・分かった・・・ : カーラ(M):私は手に持っていたバッグから、ベレッタを取り出して、バッグを棄(す)てた : ロイ:勝負は、コインを投げて、床に落ちた時が合図だ、それでいいな? : カーラ:うん : ロイ:カーラ、しっかり狙うんだぞ : カーラ(M):そういって、ロイはコインを手のひらに乗せて、私を見た : ロイ:カーラ、最後にお前に会えてよかったよ : カーラ(M):そう言って、ロイは私を見ながら、口角(こうかく)を左に曲げて微笑んだ、 カーラ(M):あれは、ロイの昔からのクセだ。 私はあの頃のロイの笑顔を思い出した : ロイ:じゃぁ、勝負だ : ロイ(M):そう言って、俺はコインをトスした : : : : カーラ(M):ロイの指に弾(はじ)かれたコインが、くるくると回りながら宙を舞う カーラ(M):その映像が、私には、まるでスローモーションのように見えていた : : ロイ(M):コインは天井スレスレまで上がってから、落下を始めた ロイ(M):このコインが床に落ちた時、全てにカタが付く : : カーラ(M):落下するコインを見ながら、ベレッタを持つ手に力が入る カーラ(M):放り投げたコインが床に落ちるまでの、短い筈(はず)の時間が、何故か、とても長く感じる : : ロイ(M):落下したコインは、ようやく床に到着し、高い金属音を立てて弾んだ : カーラ(M):その瞬間、私は素早くロイに向かって数歩近づいた、ロイも私の方に向かって来る : ロイ(M):近づいた二人は、同時に後ろを振り返り、互いの背中を合わせて銃を構(かま)える : カーラ(M):私は、私の後ろにいた、部屋の奥に立つ2人の男を、 : ロイ(M):そして、俺は、扉側に立つ3人の男を、それぞれの銃で打ち抜いた : : : カーラ(M):5人の男達は、全員が完全に油断をしていた為、自分たちの銃に手をかける事も出来ないまま、その場に倒れた : : ロイ(M):その後の数秒間、俺とカーラは、倒れた男達に銃を向けたまま、動かなかった ロイ(M):男達が死んだ事を確信できるまで・・・ : 0:(しばしの間) : : カーラ(M):暫くの沈黙の後、ロイが身体の緊張を解いた事を、私は背中越しに感じた : ロイ:ふぅ・・・何とかなったな : カーラ(M):その声に私の緊張も解けていく : ロイ:でも、よく分かってくれたな : カーラ:うん、コインを投げる時に、ロイが笑ったでしょ、あの時、フラメッサに居た頃のロイの事を思い出したんだ カーラ:あの笑顔って、ロイの「こんな所で死んでたまるかよ」って言う時の顔だったもん カーラ:あの頃の、ロイの口癖だったじゃない : ロイ:覚えててくれたんだな : カーラ:当たり前でしょ、警察に追われて、バラバラに逃げる時にも、よく目配せに使ってたし、忘れる訳ないよ : ロイ:ははは、そうだったな : カーラ:でも、ロイは私がそれに気付かなかったら、どうするつもりだったの? : ロイ:どうもしないさ、言っただろ?「死ぬつもりで来た」って ロイ:だから、その時は、死ぬだけだったのさ : カーラ:死ぬだけって・・・ : ロイ:俺が死んだって、カーラはリーバー家の人間なんだから、ここでは殺されないだろ ロイ:だから、どう転んだって、俺にとっては良かったのさ : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:そんな事より、カーラは、これからどうするつもりなんだ? : カーラ:何も考えてない、とっさの事だったし、私も死ぬつもりだったから・・・ カーラ:私はもう、組織を裏切っちゃったし、帰る場所もないから、どうしていいかも、よく分からない : ロイ:そうか・・・じゃぁ、俺もカーラと一緒にいるよ ロイ:カーラが全部捨てたのなら、俺も全部捨てるさ : カーラ:でも、ロイはまだ、チャンドリー家に帰れるじゃない : ロイ:帰りたくねぇよ、あんな所 ロイ:俺も、お前と同じで、全部捨てたかったのさ : カーラ:でも、組織を裏切ったら・・・ : ロイ:それはカーラも同じだろ : カーラ:それは、そうだけど・・・ : ロイ:これで、二つの組織から追われる事になれば、直ぐに殺されるかもしれないけど、 ロイ:どうせ野垂れ死ぬ(のたれじぬ)のなら、それまでは、一緒に居ればいいさ、あの頃みたいにな : カーラ:ありがとう、ロイ・・・私・・・ : ロイ:さぁ、とにかく、もうここは離れよう ロイ:組織に追われてたって、大人しく死んでやる気はないからな、最後まで足掻(あが)いてやろうぜ : カーラ:うん、そうだね : ロイ:じゃぁ、行こうか、カーラ : カーラ:うん : : ロイ(M):そして、俺達は5人の男達の死体を残して、この部屋を後にした : : : カーラ(M):後(のち)に、この街の「B12地区」に、フラメッサと呼ばれる組織が現れる事となる カーラ(M):これは、その少し前の話 : : 0:完 :

: : カーラ:ふぅ、今回の仕事も、これでようやく終わりか・・・ : : カーラ(M):午後11時を回った頃、ようやく仕事が終わった : カーラ:はぁ、今回は疲れた・・・ : : カーラ(M):ハードなスケジュールは、いつもの事。 だから、身体が疲れているという訳ではない カーラ(M):今日も、気の乗らない仕事だったから、心底(しんそこ)、気持ちがくたびれた感じがしている カーラ(M):でも、私には、この仕事くらいしか、出来る事はないし、文句をいっても仕方がない : : カーラ:今日は金曜日か・・・ : カーラ(M):私は、おもむろに腕時計を見る。 時間は11時25分 : カーラ:まだ、居るかな : カーラ(M):私はタクシーに乗り、「B12地区」へと向かう カーラ(M):こんな、気持ちの落ち込む時には、特に会いたくなる人がいる カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):暫く走った後、タクシーは、「B12地区」の路地に私を降ろした カーラ(M): カーラ(M):降りたそこには、ビルがあり、地下に下りる狭い階段がある カーラ(M):私は少し重い足取りで、その階段を降りて行く カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):階段を降りた先には、扉がある。 カーラ(M):Tender(テンダー)と書かれた黒い木の扉 カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):私は徐(おもむろ)に扉を開く : : : カーラ(M):薄暗い店の中には、カウンターがあり、そこの光だけが店の中を照らしているように見える カーラ(M):その長いカウンターに、一人の男性が座っていた カーラ(M):淡い光に浮かび上がる、ブロンズの短い髪 カーラ(M):やはり、彼はここに居た : : ロイ:おや、カーラじゃないか : カーラ(M):彼の名は「ロイ・チャンドリー」、私が会いたかった人だ カーラ(M):ロイは、店の入り口で佇(たたず)んでいた私を見つけて、声を掛けてくれた : ロイ:そんな所に立ってないで、こっちに来て座りなよ : カーラ:うん・・・ : カーラ(M):私はロイに促(うなが)されるままに、ロイの隣に座った : ロイ:どうした? : カーラ:うん・・・ : : カーラ:なんか急に、ロイに会いたくなってさ : ロイ:そうか ロイ:仕事で何かあったのか? : カーラ:まぁ、そんな感じ : ロイ:そうか : : ロイ(M):この子の名前は「カーラ・リーバー」、俺にとっては妹のような存在だ ロイ(M):そんなカーラが、俺に会いたがる時は、決まって気分が落ち込んでいる時だ : : カーラ:最近・・・たまにさ、昔の事を思い出すんだよね : ロイ:ふーん : : : ロイ(M):この「B12地区」は、かつて「フラメッサ」と呼ばれたスラム街だった ロイ(M):フラメッサとは、物語に出てくる「正義を無くした魔女」の名前なのだと聞いたことがある ロイ(M):このフラメッサで、俺とカーラは育った、いや、育ったと言うよりは、ただ生きていたと言った方がいい ロイ(M): ロイ(M):俺もカーラも、いつからそこに居たのかすら分からない、当然、親の顔も知らない。 でも、ここに住む子供達は、そんな奴らばかりだった ロイ(M):ゴミを漁(あさ)り、畑からイモを盗み、物乞(ものご)いをし、運がいい日は、日雇いの僅(わず)かな金を稼ぐ。 ロイ(M):そんな暮らしが当たり前のこの街で、カーラは俺を兄のように慕(した)い、俺もカーラを妹のように可愛がった ロイ(M):少しの食べ物を、いつも二人で分け合い、寄り添って生きていた : : カーラ:昔はさ、食べる事さえ出来ない日が、幾らでもあって、あんなに苦しかったのに、あんなに抜け出したかったのに・・・ カーラ:何でだろう、あの頃が懐かしくなるのよ : ロイ:そうなんだ : カーラ:うん・・・ : ロイ(M):この国のトップが、スラム撲滅(ぼくめつ)を訴えて当選した事を機に、「B12地区」は再会発地区に指定された ロイ(M):そして、その時、フラメッサに住んでいた人達は、国から、住む家と金を用意され、この街からみんな出て行った ロイ(M): ロイ(M):俺やカーラのような孤児(みなしご)は、国が養育費を支払う条件で、ボランティアの家庭に引き取られて行った ロイ(M):この国にとっては、さぞ立派な政治家なのだろう、きっと、素晴らしい世界がきて、みんなが幸せになるとでも、本気で思っていたのだろう ロイ(M):だが、それが、俺とカーラの人生を大きく変えてしまった ロイ(M): ロイ(M):フラメッサが解体される時、俺はチャンドリー家に、カーラはリーバー家に、それぞれ、さらわれるように引き取られ、俺達は離れ離れになった ロイ(M):俺が14歳、カーラが12歳の時だった : : : : カーラ(M):私は、リーバー家に引き取られた後、リーバー家の職業訓練を受けさせられて、仕事をするようになった。 カーラ(M):良いも、悪いも、好きも、嫌いもない、ただそうする事が、フラメッサ以外で生きていく為の術(すべ)だった。 カーラ(M):ロイも含め、フラメッサに住んでいた子供達は、誰もが同じような境遇(きょうぐう)だっただろう。 : : ロイ(M):俺達が引き裂かれてから、15年の歳月が流れた頃、すっかり綺麗になってしまったこの街で、俺とカーラは再会した。 ロイ(M): ロイ(M):Tender(テンダー)という名のこの店で、俺が酒を飲んでいる時、ふらりとカーラが店に入って来た。 ロイ(M):二人とも、フラメッサに居た頃の、あの惨(みじ)めな面影などすっかり無くなり、普通の大人になっていたが、 ロイ(M):それでも、俺もカーラも、目の前の人間が誰なのかが、直ぐに分かった。 : カーラ(M):その時、15年の月日など、まるで無かったかと思えるほど、私は子どものようにロイに抱きついた カーラ(M):嬉し涙でぐちゃぐちゃになりながら、ただ無言で抱きついていた : : ロイ(M):その日から、カーラは何かあると、俺を訪ねてくるようになった、 ロイ(M):でも、カーラは自分の事を、あまり語りたがらなかった、勿論、俺の事も聞こうとはしない ロイ(M):まるで、何かを知ってしまう事に、いや、何かを知られてしまう事に怯(おび)えるかのように : : ロイ:カーラ、お前、何て顔してんだよ : カーラ:え? 私? : ロイ:そう、お前 ロイ:今にも、高いところから飛び降りそうな顔してるじゃないか : カーラ:私、そんな顔してるの? : ロイ:あぁ : カーラ:・・・ : : ロイ:なぁ、カーラ : カーラ:ん? : ロイ:辞めちまえよ、そんな仕事 : カーラ:・・・ : ロイ:お前が、今、どんな仕事をしてるかは知らないし、聞かないけどな ロイ:イヤになったのなら、そんなもん全部、捨てちまえばいいんだよ : カーラ:でも・・・私はこの仕事くらいしか出来ないから : ロイ:怖いのか? : カーラ:・・・うん : ロイ:そうか : カーラ:・・・うん : : ロイ:でも、心配なんていらねぇよ、俺がいるじゃないか : カーラ:ロイ : ロイ:昔みたいにさ、いつでも俺がお前の側に居てやるよ : カーラ:・・・ : ロイ:それに、例え全部無くなったって、あの頃に戻るだけだろ? ロイ:いや、どこに行ったって、あの頃よりは、少しはマシさ : カーラ:うん : ロイ:あの頃はさ、苦しくて、惨めで、どうしようもなかったけど、それなりに楽しい事もあったじゃないか : カーラ:そうだけど・・・ : ロイ:もし、お前が、あの頃に戻るのが怖いって言うのなら、俺も一緒に、全部捨ててやるよ : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:今の生活も、今持っている物も全部捨てて、お前と一緒に、あの頃に戻ってやるさ ロイ:それでも、怖いか? : カーラ:ありがとう・・・でも : ロイ:でも? : カーラ:ううん、ロイとあの頃に戻る事は怖くない・・・ : ロイ:だったら : カーラ:私さ、まだ、ロイに話していない事があって・・・ カーラ:それをロイに知られるのが怖い : : ロイ:ははは、何を言うかと思えば : カーラ:そんな・・・私はホントに・・・ : ロイ:カーラ、何、子供みたいな事を言ってるんだよ : カーラ:え? : ロイ:何もかも、包み隠さずに、全部話さないと信用できないなんて ロイ:俺はそんなに子供じゃねえよ : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:話したくないなら、話さなきゃいいじゃないか ロイ:今のお前が、どんな人間になっていたって ロイ:俺は、今のカーラを全部受け入れてやるよ : カーラ:ロイ・・・でも、どうして : ロイ:どうして? ロイ: ロイ: ロイ:ふ・・・ははは : カーラ:そんな・・・笑わないでよ : ロイ:じゃぁさ、もし、俺がお前に、隠し事があったとしたら、お前は、俺を信じてくれないのか? : カーラ:え? : ロイ:やっぱり、全部話さないと、信じられないのか? : カーラ:ううん、そんな事ない カーラ:ロイがどんな人間だって、私は構わない : ロイ:ははは、なんだい、じゃぁ、同じじゃねぇか : カーラ:うん・・・ : ロイ:そういう事だよ : : カーラ:ロイ、ありがとう カーラ:本当に嬉しい : ロイ:フフ、どういたしまして : : カーラ:でも、私、もう少しだけやってみようと思う : ロイ:そうか : カーラ:もし、今度ダメだったら・・・ : ロイ:あぁ、いつだっていいよ ロイ:その気になったら、また来いよ : カーラ:うん、わかった : : ロイ(M):そう言って、カーラは少しの微笑みを残して、店を出て行った : : : : カーラ(M):私はまた、いつもの日常に戻った カーラ(M):いつもの生活、いつもの仕事、いつものやるせない気持ち・・ カーラ(M):気持ちが心底(しんそこ)くたびれた時には カーラ(M):私と一緒に、「あの頃に戻ってもいい」と言ってくれた、ロイの言葉と カーラ(M):そんなロイには、もう、苦しい思いをして欲しくないという、想いが、私を支えていた : : : ロイ(M):カーラが俺を慕(した)ってくれる。 それが凄く嬉しい ロイ(M):フラメッサで、あの頃の俺が生きていけたのは、カーラが俺を慕ってくれていたからだ ロイ(M):この妹のような存在を、死なせる訳にはいかない・・・その想いが、俺を支えていた ロイ(M):だから、15年ぶりにカーラと再会した時、涙を流して抱きつきたかったのは、カーラよりも、俺の方だったかもしれない : : カーラ(M):あれから、何日経っただろう カーラ(M):ある日の金曜日、私は、とある家のリビングで、ぼんやりと佇(たたず)んで、部屋の様子を眺めていた カーラ(M):部屋の壁には、テレビがあり、恋愛映画のような映像が映し出されている カーラ(M):私の目の前には、カーペットと、ローテーブル、二人掛けのソファー・・・ カーラ(M): カーラ(M):そして、そのソファーには、穴の開いた男女二人の死体があった : : : ロイ(M):今の生活を全部捨てて、カーラと一緒にあの頃に戻ってもいいと言った、俺の言葉に嘘はない ロイ(M):だが、それは、俺自身を偽(いつわ)った言葉でもあった ロイ(M):俺は、カーラが居なくても、今の生活を全部捨てたいと、いつも思っていたのだから・・ ロイ(M): ロイ(M):だが、それをカーラに知られる訳にはいかない ロイ(M):カーラの前では、俺は強い男でいなければならない ロイ(M):そうでなければ、きっと、カーラの心は、守ってやれない : : : カーラ(M):部屋の惨状(さんじょう)を見て、私は電話を掛ける : : カーラ:もしもし・・・はい、そうです・・・はい・・・ええ、終わりました : : カーラ(M):電話を持つ、私の反対の手には、銀色のベレッタが握られている。 カーラ(M): カーラ(M):ソファーの二人を殺したのは私・・・ カーラ(M):殺し屋・・・そう、それが私の仕事 カーラ(M):私は、組織からの指令で人を殺す。 殺す理由は教えてもらえない・・・ただ、言われた通りに人を殺し続ける カーラ(M):恨みもしない人の命を奪(うば)って、自分の命を生き永(なが)らえさせている・・・私は、そんな忌(い)み嫌われる悪魔のような存在 カーラ(M): カーラ(M):出来る事なら、こんな私の姿を、ロイには知られたくはない・・ カーラ(M):でも、私の心はどんどん壊れていく : : : ロイ(M):今日も俺は、仕事終わりに、バーで酒を飲む、Tender(テンダー)という名の、いつものバーで ロイ(M):この店は、昔、フラメッサで暮らしていた「ヒュース」という男が、バーテンダーをしている店だ ロイ(M):フラメッサに居た奴らの習性なのだろうか、彼は、何も聞こうとはしないし、何も話さない・・・ ロイ(M):そのせいか、店にはあまり客がいない、でも、そういうところが、俺には居心地がいい : : : カーラ(M):今日殺した二人の映像が、殺す前の、幸せそうに肩を組みながらテレビを見ていた、二人の映像が、私の頭から離れない。 カーラ(M):あの二人はどれだけ幸せだったのだろう、これから先、二人にはどんな幸せが待っていたのだろう カーラ(M):そういった感情が、止めどもなく湧き上がってくる・・・人を殺した後はいつも・・・いつも・・・ : : カーラ(M):気が付けば、私は「B12地区」へと足を運んでいた カーラ(M):暫くは行かないでおこうと決めていた筈(はず)の、ロイの所へ カーラ(M):ロイに全てを打ち明ける決心も、出来ていないのに・・・ : : : ロイ(M):俺は、酒を飲む時は、あまり、あれこれと考える事はしない、なるべく頭の中を空っぽにして酒を飲む ロイ(M):それは、ただ、好きな酒の味を味わっていたいからか・・ ロイ(M):いや、嫌な事を思い出したくないだけなのかもしれないな ロイ(M): ロイ(M):でも、最近は、よくカーラの事が脳裏をよぎる、そして今日も : : : カーラ(M):私は、地下へと降りる階段を進み、その先にある黒い木の扉を、そっと開ける カーラ(M):薄暗い店の中に、カウンターの光に浮かび上がる、ブロンズの短い髪を見つけた カーラ(M):その瞬間、安堵感(あんどかん)にも似た気持ちが、私の胸を満たして行くのが分かった : カーラ:・・・ロイ・・・ : ロイ:カーラ : ロイ(M):カーラは、まるで、俺の脳裏から現れたかのように、そこに立っていた。 : : : : ロイ(M):俺は、扉の前に佇(たたず)むカーラに声を掛ける : ロイ:どうした? : カーラ:うん・・・なんだか、ロイに会いたくなって・・・ カーラ:気が付いたら、ここに来てた : ロイ:そうか ロイ:じゃぁ、こっちに来て座りなよ? : カーラ:うん・・・ : ロイ(M):カーラは俺の言葉に頷(うなづ)いて、俺の隣に座った : ロイ:何か飲むか? : カーラ:・・・じゃぁ、ディアブロを・・・ : ロイ:ディアブロ? そんなんじゃ、酔えないぞ : カーラ:ううん、いいの、今日は酔いたくないのよ カーラ:今日は・・・酔ってしまうのが怖いから : ロイ:そうか : カーラ:・・・うん・・・ : ロイ(M):それから、俺とカーラは、少しの間、無言のままに、酒を飲んだ ロイ(M):まるで、カウンターに、グラスと氷の音だけが、静かに染みていくかと思うくらい ロイ(M): ロイ(M): ロイ(M):カーラがディアブロを半分ほど飲んだ頃、カーラのため息が沈黙の終わりを告げた : カーラ:ふぅ・・・ : ロイ:・・・ ロイ: ロイ: ロイ:今日は何かあったのか? : カーラ:・・・まぁ・・・・ : ロイ:ふーん ロイ:で、気持ちは決まったか? 仕事を辞める : カーラ:それは・・・まだ・・・ : ロイ:そうか・・・ : カーラ:ごめんね・・・「今度」って言っておきながら、私・・・ : ロイ:別に気にする事はないさ、言っただろ?「いつでもいい」って : カーラ:うん、ありがとう・・・でも・・・ : ロイ:カーラ、何か仕事をやめられない理由でもあるのか? : カーラ:・・・ : ロイ:・・・ ロイ:まぁ、それは聞かないよ : カーラ:ごめん : ロイ:いいさ、今日はゆっくり飲もう : カーラ:うん : ロイ(M):それから、夜が更けていくまで、俺達は、たどたどしくも、昔の話と、たわいのない話を繰り返しながら酒を飲んだ。 : : カーラ:じゃぁ、私、そろそろ帰るよ : ロイ:あぁ、またな : カーラ:うん・・・ カーラ:ロイ、もう少しだけまって・・・今度はキチンと連絡する : ロイ:あぁ、わかったよ ロイ:でも、無理はするなよ : カーラ:・・・うん、ありがとう : ロイ(M):そして、かなり夜も更けた頃、俺とカーラは、再会してから初めて、お互いの携帯電話の番号を交換して別れた : : : カーラ(M):私はまた、あの日常に戻った カーラ(M):人を殺す度に、自分の心が壊れていくのが分かる カーラ(M):もう限界なのかもしれない・・・何もない自分の部屋の天井を見ながら、私は、ぼんやりとそんな事を考えていた カーラ(M):そんな時、ローテーブルの上に置いてあった、携帯電話が鳴った : : カーラ:もしもし・・・はい、そうです・・・はい、分かりました、では、今から、そちらに行きます : カーラ(M):電話は、組織からだった・・・今から組織の事務所に来るようにとの指示が出された カーラ(M):組織の事務所に行けば、きっとまた、殺人の指令が下(くだ)る。 カーラ(M):そう思うと、人を殺した時の、あの憎悪が、私の胸の中に蘇(よみがえ)ってくる カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):私には、もう耐えられそうにない カーラ(M):組織の仕事は、もうこれで最後にしよう・・・そう思い、私はロイに電話をかけた : : ロイ:はい・・・ : カーラ:もしもし、ロイ? : ロイ:あぁ、カーラか、どうした? : カーラ:この前言っていた話・・・私、やっぱり、そろそろダメみたい : ロイ:そうか・・大丈夫か? : カーラ:うん、まだ少しは大丈夫 カーラ:また近いうちに仕事があるの、その仕事が終わったら、私の事、ロイに全部話すよ : ロイ:あぁ、分かった : カーラ:ロイ・・・私・・・ : ロイ:大丈夫さ、心配しなくても ロイ:俺は何があっても、お前の味方でいてやるよ ロイ:また、昔みたいに、一緒に暮らせばいいさ : カーラ:うん・・・ありがとう、ロイ、 カーラ:でもきっと、ロイには、話を聞いて貰うだけになりそうな気がする : ロイ:カーラ、それって、どういう事なんだ? : カーラ:また連絡するね : ロイ:カーラ? ロイ:・・・ : ロイ(M):そう言って、カーラは電話を切った ロイ(M):カーラの最後の言葉が妙に気になる・・・何もなければいいが・・ : : : カーラ(M):ロイへの電話から、およそ1時間後、私は組織の事務所に来ていた カーラ(M):私の前には大きな黒いテーブルと、そのテーブルの向こうには、椅子に座った上司がいる カーラ(M):上司は、いつも私に指令を出す時と同じ仕草で、テーブルの上に写真を置き、そしてターゲットの名前を私に告げた : : : : カーラ(M):私は組織の事務所で、次のターゲットの名前を告げられた カーラ(M):告げられたターゲットの名前は「レックス・チャンドリー」、知らない名前の人・・・ カーラ(M):また知らない人を殺すのか・・・そう思って、私は机の上の写真を手に取って見た カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):私は一瞬、目を疑った、写真にはあの「ロイ」が写っていたのだ : カーラ:これは・・・ : カーラ(M):思わずロイの名前が口から出そうになった・・・ カーラ(M):私はその時、私が写真の人物と知り合いだという事を、悟(さと)られないようにするのに必死だった : : : ロイ(M):今日は仕事のない一日だった、特にやる事もなく、部屋でのんびりしていたところへ、カーラからの電話があった。 ロイ(M):どうやら、カーラが仕事を辞める決心をしたようだった ロイ(M):まぁ、どんな仕事をしているかは知らないが、あんなに心が荒(すさ)んでしまう仕事なら、さっさと辞めた方がいい ロイ(M): ロイ(M):俺は、カーラの最後の言葉が妙に気にはなったが、俺も早く今の仕事をやめる支度(したく)をしないと・・・ ロイ(M):そう思っていた矢先、もう一度、俺の携帯電話が鳴った ロイ(M): ロイ(M):電話は俺の上司からだった、そして、電話の向こうの上司は、俺に向かってこう言った ロイ(M):「カーラ・リーバーを知っているか?」と : : : カーラ(M):いつも私は、ターゲットを殺す理由を教えてもらえない、 カーラ(M):だが、写真の人物は、チャンドリー家が、裏で糸を引いている犯罪組織の、エージェントである事を教えられた。 カーラ(M):私の所属する組織は、リーバー家が取り仕切る犯罪組織。 ロイのいるチャンドリー家とは敵対関係にあるらしい カーラ(M):それだけで、大体の察(さっ)しはつく・・・ : : ロイ(M):フラメッサが解体された時、そこで暮らしていた人達は、国から家と金を与えられて、街を出て行った ロイ(M):しかし、その後、街を出て行った多くの人達が、犯罪に手を染めている ロイ(M):その理由は、働き方や、普通の生活をする、知識や知恵を持っていなかった、フラメッサ出身の人達を、 ロイ(M):言葉巧みに騙(だま)して、国から与えられた家や金を奪(うば)ってしまう、悪党達がいたからだ ロイ(M): ロイ(M):その代表的な奴らが、リーバー家や、チャンドリー家のような、古い一族。 ロイ(M):奴らは大人だけではなく、フラメッサの子供達も引き取って、犯罪を教え、自分達の組織の道具として使っていた。 ロイ(M):俺やカーラも、その内の一人だった。 : : カーラ(M):私は自分の部屋に戻り、ソファーに座って、事務所から持ち帰ったロイの写真を見つめていた カーラ(M):ロイと過ごした、フラメッサの日々が、走馬灯(そうまとう)のように、私の頭の中を駆け巡る カーラ(M):こんな形で、ロイと別れる事になるなんて・・・ カーラ(M):こんな事なら、15年ぶりの再会なんて、なかった方がよかった・・・ カーラ(M):涙が止めどなく溢(あふ)れて来る カーラ(M):私は、涙を止める術(すべ)もなく、泣きながら夜を過ごした : : カーラ(M):そして、散々泣いて、夜を明かした、その日の午後、私はロイに電話を掛けた : : ロイ:はい・・・ : カーラ:もしもし、ロイ? : ロイ:あぁ、カーラか・・どうした? : カーラ:今から、ロイに、私の事を聞いて欲しいと思って、電話したの : ロイ:そうか ロイ:それはいいけど、仕事はもう終わったのか? : カーラ:ううん、それは、まだだけど、仕事の前にロイに聞いて欲しくて : ロイ:あぁ、わかった ロイ:で、どんな話? : カーラ:私の仕事の話 : ロイ:・・そうか : : カーラ:私ね、殺し屋なの、リーバー家の : ロイ:そう・・なんだ : カーラ:うん・・・でも、人を殺すほど、どんどん、自分の心が壊れていくの・・ カーラ:今まで、そんな事なかったんだけど、ロイと再会してから、そう感じるようになっちゃって : ロイ:・・・ : カーラ:もうそろそろ限界だなぁって : ロイ:そうだったんだ・・・俺と再会してから・・ : カーラ:うん・・それで、今度の仕事を最後にしようと思ったの : ロイ:そうか : カーラ:本当は、仕事が終わってから、ゆっくり、ロイに聞いてもらおうと思ってたんだけど カーラ:そうもいかなくなっちゃってさ : ロイ:どういう事なんだ? : カーラ:それでね、今度の私の仕事なんだけど、ターゲットは・・ : ロイ:おい、カーラ、そんな事、俺に話して・・ : カーラ:レックス・チャンドリー : ロイ:え? : カーラ:今度のターゲットは、レックス・チャンドリーっていう人なの : ロイ:・・・ : カーラ:もしかして、これってロイの事? : ロイ:・・あぁ、そうだよ : : : : カーラ(M):「レックス・チャンドリー」は、やはり、ロイだった : カーラ:ロイって、そんな名前だったの? : ロイ:いや、チャンドリー家に引き取られた時に、名付けられた名前だよ ロイ:レックスでも、愛称はロイだから・・・ : カーラ:そうだったの・・・ : ロイ:あぁ、 ロイ:でも、カーラの前では、あの頃のロイでいたかったからね、お前と居る時は、その名前を使いたくなかったのさ : カーラ:そう・・・ : ロイ:じゃぁ、カーラは、もう俺の事は知ってるんだな : カーラ:ううん、そんなに詳しくは知らない。 私が教えられたのは、チャンドリー家のエージェントという事くらい・・・ : ロイ:そう・・・ ロイ:でも、エージェントというよりは、殺し屋なのさ、俺も : カーラ:え? : ロイ:奇遇じゃないか、俺達、同じ殺し屋同士なんてな : カーラ:そうだね・・良かった・・・ : : ロイ(M):俺とカーラの間に、少しの間、沈黙が流れた : : ロイ:で、どうするんだ? : カーラ:・・・ : ロイ:ただ、事情を聴いて欲しかった訳じゃないんだろ : カーラ:うん・・・ カーラ:ロイにお願いがあるの : ロイ:何だよ、お願いって : カーラ:ロイに会いたい・・・ : ロイ:・・・あぁ、分かった。 いいよ。 : カーラ:でも、私はリーバー家の・・・ : ロイ:いいよ、そんな事。 ロイ:言っただろ? 今のお前が、どんな人間になってたって ロイ:俺は、今のカーラを全部受け入れてやるって : カーラ:ロイ・・・ありがとう : ロイ:それで、会ってどうするんだ? : カーラ:ロイの手で私を殺して欲しいの : ロイ:カーラ・・・ : カーラ:ロイが殺し屋で良かった : ロイ:・・・ : ロイ:で、どこへ行けばいい? : カーラ(M):私はロイに場所を伝えた : ロイ:わかった、じゃぁ、今からそこへ向かうよ : カーラ:うん、気を付けて・・・ : : カーラ(M):そう言って、私は電話を切った・・・リーバー家の5人の男に見つめられながら カーラ(M): カーラ(M): カーラ(M):私とロイの関係は、組織には既に全部知られていた、 カーラ(M):私はロイを指定の場所に呼び出すように、組織から命令をされていたのだった : カーラ:ロイ・・・お願い、来ないで・・・ : : : ロイ(M):俺はカーラに教えられた場所に来ていた。 とあるビルの一室 ロイ(M):俺は扉を開けて、中に入る。 すると、部屋の中央にカーラが立っていた : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:カーラ : ロイ(M):カーラは、今までに無いほど、悲し気な顔をしていた ロイ(M):俺が、そんなカーラの顔に気を取られ、不用意に近づいた時、後ろに隠れていた3人の男が扉を閉めて鍵をかけた ロイ(M):そして、前方の物陰から2人の男が現れ、俺とカーラは5人の男達に囲まれた : : カーラ:ロイ、ごめんなさい : : ロイ(M):俺はこの状況を直ぐに飲み込めた、しかし、俺は特に慌てる事はなかった : ロイ:別に謝らなくてもいいよ : カーラ:でも : ロイ:カーラが殺してくれと言ったから、俺もカーラと一緒に死ぬつもりで、ここに来たんだ ロイ:だから、謝らなくていい : カーラ:そんな・・・ : ロイ(M):リーバー家の男達は、ニヤニヤと笑っている : ロイ:だが、どうせ殺されるなら、俺はカーラに殺してもらいたいな : カーラ:それは・・・ : ロイ:それで、カーラ、 ロイ:お前も死にたいんだろ? だったら、俺が殺してやるよ : カーラ:え? : : カーラ(M):ロイは男達の方に向かって言った : ロイ:なぁ、折角だから、俺とカーラで勝負をさせてくれよ。 ロイ:たとえ、俺が勝ったとしても、お前達が俺をハチの巣にすればいいだろ? ロイ:どうだ? : カーラ(M):男達は、ロイの提案に、まるで、何かのショーでも見るかのように、ニヤつきながら頷(うなづ)いた : ロイ:じゃぁ、話はそれでいいな。 ロイ:カーラ、お前の願い、ここで叶えてやるよ。 : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:カーラ、銃を抜きな ロイ:運が良ければ、一緒に死ねるぜ : カーラ:・・・分かった・・・ : カーラ(M):私は手に持っていたバッグから、ベレッタを取り出して、バッグを棄(す)てた : ロイ:勝負は、コインを投げて、床に落ちた時が合図だ、それでいいな? : カーラ:うん : ロイ:カーラ、しっかり狙うんだぞ : カーラ(M):そういって、ロイはコインを手のひらに乗せて、私を見た : ロイ:カーラ、最後にお前に会えてよかったよ : カーラ(M):そう言って、ロイは私を見ながら、口角(こうかく)を左に曲げて微笑んだ、 カーラ(M):あれは、ロイの昔からのクセだ。 私はあの頃のロイの笑顔を思い出した : ロイ:じゃぁ、勝負だ : ロイ(M):そう言って、俺はコインをトスした : : : : カーラ(M):ロイの指に弾(はじ)かれたコインが、くるくると回りながら宙を舞う カーラ(M):その映像が、私には、まるでスローモーションのように見えていた : : ロイ(M):コインは天井スレスレまで上がってから、落下を始めた ロイ(M):このコインが床に落ちた時、全てにカタが付く : : カーラ(M):落下するコインを見ながら、ベレッタを持つ手に力が入る カーラ(M):放り投げたコインが床に落ちるまでの、短い筈(はず)の時間が、何故か、とても長く感じる : : ロイ(M):落下したコインは、ようやく床に到着し、高い金属音を立てて弾んだ : カーラ(M):その瞬間、私は素早くロイに向かって数歩近づいた、ロイも私の方に向かって来る : ロイ(M):近づいた二人は、同時に後ろを振り返り、互いの背中を合わせて銃を構(かま)える : カーラ(M):私は、私の後ろにいた、部屋の奥に立つ2人の男を、 : ロイ(M):そして、俺は、扉側に立つ3人の男を、それぞれの銃で打ち抜いた : : : カーラ(M):5人の男達は、全員が完全に油断をしていた為、自分たちの銃に手をかける事も出来ないまま、その場に倒れた : : ロイ(M):その後の数秒間、俺とカーラは、倒れた男達に銃を向けたまま、動かなかった ロイ(M):男達が死んだ事を確信できるまで・・・ : 0:(しばしの間) : : カーラ(M):暫くの沈黙の後、ロイが身体の緊張を解いた事を、私は背中越しに感じた : ロイ:ふぅ・・・何とかなったな : カーラ(M):その声に私の緊張も解けていく : ロイ:でも、よく分かってくれたな : カーラ:うん、コインを投げる時に、ロイが笑ったでしょ、あの時、フラメッサに居た頃のロイの事を思い出したんだ カーラ:あの笑顔って、ロイの「こんな所で死んでたまるかよ」って言う時の顔だったもん カーラ:あの頃の、ロイの口癖だったじゃない : ロイ:覚えててくれたんだな : カーラ:当たり前でしょ、警察に追われて、バラバラに逃げる時にも、よく目配せに使ってたし、忘れる訳ないよ : ロイ:ははは、そうだったな : カーラ:でも、ロイは私がそれに気付かなかったら、どうするつもりだったの? : ロイ:どうもしないさ、言っただろ?「死ぬつもりで来た」って ロイ:だから、その時は、死ぬだけだったのさ : カーラ:死ぬだけって・・・ : ロイ:俺が死んだって、カーラはリーバー家の人間なんだから、ここでは殺されないだろ ロイ:だから、どう転んだって、俺にとっては良かったのさ : カーラ:ロイ・・・ : ロイ:そんな事より、カーラは、これからどうするつもりなんだ? : カーラ:何も考えてない、とっさの事だったし、私も死ぬつもりだったから・・・ カーラ:私はもう、組織を裏切っちゃったし、帰る場所もないから、どうしていいかも、よく分からない : ロイ:そうか・・・じゃぁ、俺もカーラと一緒にいるよ ロイ:カーラが全部捨てたのなら、俺も全部捨てるさ : カーラ:でも、ロイはまだ、チャンドリー家に帰れるじゃない : ロイ:帰りたくねぇよ、あんな所 ロイ:俺も、お前と同じで、全部捨てたかったのさ : カーラ:でも、組織を裏切ったら・・・ : ロイ:それはカーラも同じだろ : カーラ:それは、そうだけど・・・ : ロイ:これで、二つの組織から追われる事になれば、直ぐに殺されるかもしれないけど、 ロイ:どうせ野垂れ死ぬ(のたれじぬ)のなら、それまでは、一緒に居ればいいさ、あの頃みたいにな : カーラ:ありがとう、ロイ・・・私・・・ : ロイ:さぁ、とにかく、もうここは離れよう ロイ:組織に追われてたって、大人しく死んでやる気はないからな、最後まで足掻(あが)いてやろうぜ : カーラ:うん、そうだね : ロイ:じゃぁ、行こうか、カーラ : カーラ:うん : : ロイ(M):そして、俺達は5人の男達の死体を残して、この部屋を後にした : : : カーラ(M):後(のち)に、この街の「B12地区」に、フラメッサと呼ばれる組織が現れる事となる カーラ(M):これは、その少し前の話 : : 0:完 :