台本概要

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タイトル 不倫の代償
作者名 Danzig
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(女2)
時間 20 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 弁護士さんが死なないバージョンです。

女性サシ劇です。
とある休日、一人暮らしをしている詩織の元に、女性が訪ねてくる。
詩織は、その女性の名前は記憶に無かったが、自分が不倫をしている男性の妻と聞いて肝を冷やす
修羅場の予感・・・

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
詩織 94 とある上場企業に勤める、ごく普通のOL
美咲 91 不倫相手の妻
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
: 0:とあるマンション : 詩織(M):私は、とある上場企業に勤める、ごく普通のOL 詩織(M):今日は久しぶりに何もない休日だから、今までサボっていた部屋の掃除をしよう 詩織(M):そう思っていたところへ、玄関のチャイムが鳴った 詩織(M):インターフォンのモニターに映るのは、知らない女性・・・ 詩織(M):私はインターホンの受話器をとった : 詩織:はい・・・どちら様でしょうか? : 美咲:私、杉下 美咲(みさき)と申します。 : 詩織:美咲・・・さん・・・ですか? : 詩織(M):その名前にも、記憶がない : 美咲:はい、私、杉下の家内(かない)です : 詩織:え! 杉下部長の奥様? : 詩織(M):突然の訪問者に戸惑う私 詩織(M):だが、私には、杉下部長の奥様が私の家を訪ねて来る、心当たりがあった : 詩織:あの・・・ : 美咲:今日は、あなたと少しお話をしたくて、参りました : 詩織:そう・・ですか : 美咲:中に入れて頂けますか? : 詩織:あの・・・えーっと・・・ : 美咲:ここでは人目もありますし、中でお話させて下さいませんか : 詩織:そうですね・・・どうぞ・・・ : 詩織(M):私はドアを開けて、杉下部長の奥様を部屋に入れた、 詩織(M):そして、奥様には、リビングのソファーに座ってもらった : 0:居間の椅子に座る美咲 : 詩織:あの・・・お茶を・・ : 美咲:どうぞ、お構いなく : 詩織:はい・・・すみません 詩織:あの・・それで、お話というのは : 美咲:それは、あなたにも心当たりがあるでしょ? : 詩織:・・ええ・・・ : 美咲:杉下とあなたの関係の事です : 詩織:やっぱり・・・そうですよね : 美咲:ええ 美咲:詩織(しおり)さん、あなた、杉下と不倫してますよね : 詩織:あの、それは・・・ : 美咲:あなたと杉下の関係は、興信所(こうしんじょ)で調べて頂いています。 ヘタな隠し立ては、なさらないで下さい : 詩織:そう・・・ですか・・・ : 美咲:あなたの返答次第で、私の対応も変わってきますので、私の質問には正直に答えて下さい : 詩織:・・・はい、分かりました : 美咲:そう、よかった : 詩織:・・・ : 美咲:で、杉下とは、いつから? : 詩織:1年くらい前からです : 美咲:まぁ、随分と長いのね : 詩織:すみません : 美咲:杉下に家庭がある事は、知っていましたよね? : 詩織:はい・・・知っていました : 美咲:なら、どうして : 詩織:どうしてと言われましても・・・ : 美咲:答えられないのですか? : 詩織:いえ、そういう訳では・・・ : 美咲:そうですか、それはともかく 美咲:それで、あなたは、今回の事で責任はとれるのですか? : 詩織:え? 責任・・・ですか? : 美咲:ええ、責任です。 : 詩織:やっぱり・・・お金・・・ですか? : 美咲:そんな事じゃありませんよ : 詩織:では、どういう・・・ : 詩織(M):私は恐る恐る、杉下部長の奥様を見つめた 詩織(M):しかし、奥様が口にした言葉は意外なものだった・・・ : : : 美咲:杉下を引き取って下さい : 詩織:え? : 美咲:杉下を引き取って下さいと言っているんです : 詩織:ちょっと、何を言ってるんですか : 美咲:私は杉下と別れますから、あなたが引き取ってくださいな : 詩織:そんな! : 美咲:もう、うんざりなんですよ 美咲:家にお金を入れるだけで、家事を手伝う事もしないくせに、あそこが汚い、そこが散らかってると、いちいち難癖(なんくせ)を付けるわ 美咲:料理なんて出来もしないくせに、食事はいつも注文をつけてきて、 美咲:関心もないくせに、家計を何に幾ら使ったのか、いちいち詮索(せんさく)してくるし 美咲:いつも私をバカにして、何かあると、すぐに怒鳴(どな)るし、暴力もふるう 美咲:そのくせ、身体は求めて来るし 美咲:もう、ホントうんざりなんです : 詩織:はぁ・・・ : 美咲:心底うんざりしていたところへ、浮気相手がいると知って、これ幸いと、あの人の事をお願いしに来たんです : 詩織:そんな・・・ : 美咲:詩織さん、いいですよね、杉下を引き取ってくれますよね : 詩織:私だって、そんなの嫌ですよ : 美咲:何言ってるんですか! あなた、あの人と寝たんでしょ。 しかも、1年も付き合って来たんでしょ : 詩織:そんなの、仕方なかったんですよ、私、杉下部長にセクハラをされてるんです。 詩織:仕事の事で脅(おど)されて・・・ 詩織:やむにやまれずに、こんな関係になっただけで、私が望んだんじゃないんですよ : 美咲:まぁ、あなたも災難でしたわね : 詩織:でしょ、ですから・・・ : 美咲:それと、これとは、話が別です。 : 詩織:そんな! : 美咲:私の未来の為だと思って : 詩織:そんなの無理です! : : 美咲:そんな事、仰(おっしゃ)らないで 美咲:なんだかんだで、あなたと杉下の関係は、もう1年も続いているんでしょ 美咲:なら、あと10年くらい我慢(がまん)出来るでしょ : 詩織:そんなの酷すぎます! 我慢なんて出来ませんよ、私だって、直ぐにでも別れたいんですから : 美咲:そんな嫌々いうなら、慰謝料請求しますよ : 詩織:お金で解決するなら、払いますよ : 美咲:そんな事言わずに、あの人を引き取って下さいよ : 詩織:そんなの、嫌ですよ : 美咲:私だって嫌なのよ : 詩織:あなた、奥さんでしょ : 美咲:そんな事言っても、嫌なものは嫌なんです : 詩織:それなら、さっさと離婚しちゃえばいいじゃないですか : 美咲:あの人が、離婚になんて応じてくれるわけないでしょ、だから困ってるんですよ : 詩織:旦那さんの浮気は、立派な離婚理由になりますよ : 美咲:浮気をしても「反省してる」って言われてしまうと、離婚が成立するまでに時間がかかってしまうんですよ 美咲:離婚調停中に、あの人と一つ屋根の下に居なきゃいけないかと思うと、気が狂いそうになるんです : 詩織:確かに、不機嫌になった時の部長って、手が付けられませんからね・・・ : 美咲:でしょ? そうなんですよ、分かってもらえますか : 詩織:ええ、 詩織:では、まず別居されてから : 美咲:別居をするにしても、お金がいるでしょ、お部屋の敷金とか、引っ越し費用とか : 詩織:そうですね、やはり多少は・・・ : 美咲:私には収入がないんですよ。 あの人は、これまで、私を働かせてはくれませんでしたから。 美咲:財産とかも、あの人が全部管理しちゃってるから、勝手に多額のお金を持ち出す事は出来ないんですよ : 詩織:大変ですね : 美咲:だから、正式に離婚が成立しないと、部屋を借りるお金も手に入らないんですよ : 詩織:うーん、それは困りましたね : 美咲:ですから、お願いします 美咲:あなたが、あの人をそそのかして、私と離婚するように仕向けて下さいませんか? : 詩織:えー 詩織:そんな事したら、美咲さんと離婚した後に、私の所に来ちゃうじゃないですか : 美咲:私と離婚した後で、「そんな話は知らない」とでも言えば : 詩織:杉下部長は、同じ職場の上司なんですよ、私が会社に居られなくなっちゃうじゃないですか 詩織:だから、セクハラを断れずに、ズルズルこんな関係になっちゃってるんですから : 美咲:そうですか・・・ : 詩織:ですから、もう諦めて・・・ : 美咲:私を見捨てるんですか! : 詩織:いや・・・別にそういう訳では : 美咲:あなたが悪いんですよ、私に期待を持たせるから : 詩織:そんな事言われても、私も被害者ですし・・・ : 美咲:あなたは私の希望の光だったんです : 詩織:そういう風に言われると、申し訳ない気にもなりますね : 美咲:じゃぁ : 詩織:でも、身代わりは嫌ですよ : 美咲:そうですよね・・・ : 詩織:美咲さんは、本当に自由になるお金って無いんですか? : 美咲:ええ、何年もかけて、コツコツ貯めたお金があったのですが、今回、興信所の調査に使ってしまいました : 詩織:それを聞くと、なんだか、ますます申し訳なくなってきましたね 詩織:何か私にお手伝い出来る事があれば・・・ : 美咲:では、私と一緒に、あの人を殺してくれませんか! : : 詩織:殺すなんて・・・そんなのダメですよ、絶対捕まっちゃいますよ : 美咲:でも私は、もう、いっそ刑務所の中の方が楽かもしれないと思えて来て・・・ : 詩織:そんな・・・私はどうなるんですか、私は嫌ですよ刑務所なんて : 美咲:そうですよね・・・ : 詩織:とにかく、あの人の為に人生を棒に振るなんて馬鹿げてますよ : 美咲:では、私はどうすれば・・・ : 詩織:やっぱり、杉下部長のような人には、社会的な制裁(せいさい)を加えなきゃいけませんよ : 美咲:でも、どうやって : 詩織:私と美咲さんで、被害者の会を作って、セクハラ訴訟と、離婚訴訟を同時に起こしましょう : 美咲:そんな事が出来るのですか? 弁護士さんとかは? : 詩織:弁護士さんには、心当たりがあります、費用も私が出しておきます、 詩織:美咲さんの分は、離婚が成立した後で返して下さればいいですから : 美咲:ええ・・・それは有難いですけど、上手く行くでしょうか? : 詩織:もう、信じてやるしかないでしょう 詩織:今のままでは、未来はありませんよ : 美咲:そうですね・・・分かりました、私、頑張ります : : 詩織(M):こうして、私達は、杉下部長を相手取り、セクハラ訴訟と、離婚訴訟を起こす事となった。 詩織(M):被害者の会と銘(めい)打って、全てを弁護士さんに任せ、私達が杉下部長と会わなくてもいいように手配をした 詩織(M): 詩織(M):私は会社を退職し、杉下部長に知られないように、引っ越しもした : 美咲(M):私も、杉下から逃げるように、家を飛び出し、詩織さんの部屋に一時的に住まわせてもらう事となった : : : 美咲:ただいまぁ : 詩織:お帰りなさい、どうでした? : 美咲:はい、決まりました。 あそこの角のお弁当屋さんで、働かせてもらえる事になりました。 : 詩織:よかったですね! : 美咲:ええ、 美咲:それと、そのお弁当屋さんが、居酒屋さんを紹介して下さって、夕方からのお仕事も見つかりました。 : 詩織:それは、良かったじゃないですか! : 美咲:これも、詩織さんのお陰ですよ、これで生活が出来そうです。 : 詩織:でも、まだまだ、これからですよ、離婚が決まってからが、再スタートですからね。 : 美咲:ええ : : 詩織(M):それから数日が経過した、ある日の朝 : 美咲:おはようございます : 詩織:おはようございます、今日も一日、頑張りましょうね : 美咲:ええ、もう私、毎日が楽しくて、楽しくて 美咲:もっと早く、詩織さんに出会えればよかったわ : 詩織:ふふふ、美咲さんが元気になって良かったです : 美咲:今日は私が、朝ごはんを作りますね。 美咲:テレビを付けてもいいですか。 : 詩織:はい、お願いします。 : : : 詩織:あれ? : 詩織(M):その時、私はふと携帯電話を見た 詩織(M):マナーモードにしていて、気付かなかったが、昨日の夜に、弁護士さんから着信があったようだ : 詩織:え!、何これ・・・ : 詩織(M):着信時間は真夜中、しかも、凄い数の着信履歴だった : 詩織:何かあったのかしら・・・ : 詩織(M):よく見ると、着信とは別にショートメッセージも送られて来ていた 詩織(M):そして、そのメッセージには、一言『逃げて下さい』と書かれていた : 詩織:え! 何があったの! : 詩織(M):私の手が震え始める : 美咲:詩織さん! 美咲:・・あれ・・・ : : 詩織(M):美咲さんの悲鳴にも似た呼びかけに、私は美咲さんの方を見た 詩織(M):美咲さんは震えながらテレビを指さしていた 詩織(M): 詩織(M):美咲さんの見ていた朝のニュースは、被害者の会の弁護士さんが、意識不明の重体で発見された事を報じていた 詩織(M):昨日の夜、大きな声で扉を叩いている人がいるとの通報で、警察が駆け付けた時には、もう犯人はおらず、 詩織(M):弁護士は床に倒れて意識不明だったという : 美咲:杉下よ、絶対、あの人がやったんだわ! : 詩織(M):動揺する美咲さん、私も全身に鳥肌が立ってくるのが分かる : 美咲:詩織さん、どうしましょう・・・ : 詩織:と、と、とにかく、落ち着きましょう : 美咲:そんな事言っても・・・ : 詩織:弁護士さんからは「逃げろ」というメッセージが来てます。 とにかくここから逃げないと : コンコン : 詩織(M):私達が状況も把握できず、パニックになりかけた時、部屋の扉を叩く音がした : 美咲:ヒャァ! : 詩織:美咲さん、お、お、お、落ち着いて : コンコン : 詩織(M):ノックの音は続く : 詩織:私が見てきますから : 美咲:お、お願いします : 詩織(M):私は、物音を立てないように、そっと扉に近づき、のぞき穴から外を見た 詩織(M):ドアの外に居たのは、杉下部長だった : : : 詩織:はぁうぁ・・・ : 詩織(M):私は心臓が口から飛び出しそうだったが、何とか声を出さないように、手で口を押えた : コンコン : 詩織(M):ノックの音は続く : 詩織(M):私は美咲さんの元へ駆け寄った : 詩織:美咲さん、杉下部長です。 杉下部長がドアの向こうに : 美咲:ああああ、どどどどうしましょう・・・ : コンコン : 詩織:どどどうしましょう・・・・あ、そうだ警察、警察に連絡 : 美咲:わ、わかりました : 詩織(M):美咲さんが携帯電話で電話をかける : 美咲:て、手が震えてしまって・・・うまくボタンが押せない・・・ : コンコン : 詩織:美咲さん、急いで : 美咲:そ、そんな事いっても・・・ : コンコン : 詩織(M):ノックの音は段々と強くなってくる : 詩織:美咲さん : 美咲:あ、繋がりました・・・あぁ、早く出て・・・ : ドンドンドン、ドンドンドン : 詩織:美咲さん! : 美咲:あ、もしもし、警察ですか!、もしもし、もしもし・・・助けてぇ~ : : : : : 美咲:ただいまぁ : 詩織:お帰りなさい、どうでした? : 美咲:はい! ようやく離婚が成立しそうです。 : 詩織:よかったですね : 美咲:ええ、財産の整理も早めに片付きそうだと、弁護士さんが仰(おっしゃ)ってました 美咲:なるべく、現金で渡せるようにして下さるって : 詩織:良かったじゃないですか! : 美咲:ええ、これで新しいお部屋を探す事ができます。 美咲:これも詩織さんのお陰ですよ : 詩織:そんな事ないですよ、それは、美咲さんが頑張ったからですって : : 詩織(M):部長に襲われた時、ドアが破られる直前に、警察が到着し、私達は事なきを得た 詩織(M):意識不明だった弁護士は、なんとか命はとりとめたようだった 詩織(M):それから、被害者の会は、新しい弁護士に依頼し、セクハラ訴訟と、離婚訴訟を続けていった 詩織(M):部長が殺人未遂で捕まった事で、私達は、かなり有利に交渉を勧める事が出来ていた : 美咲:で、詩織さんの方は? : 詩織:私の方も順調ですよ。 詩織:部長が捕まった事で、会社としても、全面的に部長が悪いという立場で話をしてくれてます。 : 美咲:そうですか、それは良かったですね。 : 詩織:ええ、会社からは、「会社に復帰出来るように取り計らう」と言ってくれていますし、 詩織:会社に戻りづらかったら、退職金を多めに支払うとも言ってくれています。 : 美咲:よかったですね。 : 詩織:私は、今回の事で、少し疲れちゃったので、退職金と失業保険で、少しのんびりしてから、 詩織:ぼちぼち、新しい仕事を探す事にします。 : 美咲:それがいいかもしれませんね。 : : 詩織:でも、あの時は、本当に怖かったですね : 美咲:ええ、まさか、あの人が、弁護士さんを殺そうとしてまで、ここにやって来るなんて 美咲:しかも、斧で扉を壊そうとするなんて : 詩織:そうですよね、部長がそこまでやる人だったなんて、思いもよりませんでしたよ : 美咲:本当にそうですよね、 美咲:私も、あの人が、あそこまでやる人だったなんて、知りませんでした。 : 詩織:もし、美咲さんと会わずに、私だけで、部長に別れを切り出していたらと思うと、ゾッとします 詩織:これも、美咲さんが、押しかけて来てくれたお陰ですよ : 美咲:そんな、押しかけたなんて、詩織さんにお願いがしたかっただけなんですから : 詩織:あの時も、本当にビックリしたんですから 詩織:心臓飛び出そうだったんですよ、凄い怖い顔してたし : 美咲:私だって必死だったんですよ、詩織さんが希望の光だったんですから : 詩織:でも、奥さんと、不倫相手の女って、普通なら修羅場になるじゃないですか? 詩織:それを、男の押し付け合いだなんて、笑えますよね : 美咲:そうね、まるでコメディみたいね ふふふ : 詩織:ふふふ : 0:完 :

: 0:とあるマンション : 詩織(M):私は、とある上場企業に勤める、ごく普通のOL 詩織(M):今日は久しぶりに何もない休日だから、今までサボっていた部屋の掃除をしよう 詩織(M):そう思っていたところへ、玄関のチャイムが鳴った 詩織(M):インターフォンのモニターに映るのは、知らない女性・・・ 詩織(M):私はインターホンの受話器をとった : 詩織:はい・・・どちら様でしょうか? : 美咲:私、杉下 美咲(みさき)と申します。 : 詩織:美咲・・・さん・・・ですか? : 詩織(M):その名前にも、記憶がない : 美咲:はい、私、杉下の家内(かない)です : 詩織:え! 杉下部長の奥様? : 詩織(M):突然の訪問者に戸惑う私 詩織(M):だが、私には、杉下部長の奥様が私の家を訪ねて来る、心当たりがあった : 詩織:あの・・・ : 美咲:今日は、あなたと少しお話をしたくて、参りました : 詩織:そう・・ですか : 美咲:中に入れて頂けますか? : 詩織:あの・・・えーっと・・・ : 美咲:ここでは人目もありますし、中でお話させて下さいませんか : 詩織:そうですね・・・どうぞ・・・ : 詩織(M):私はドアを開けて、杉下部長の奥様を部屋に入れた、 詩織(M):そして、奥様には、リビングのソファーに座ってもらった : 0:居間の椅子に座る美咲 : 詩織:あの・・・お茶を・・ : 美咲:どうぞ、お構いなく : 詩織:はい・・・すみません 詩織:あの・・それで、お話というのは : 美咲:それは、あなたにも心当たりがあるでしょ? : 詩織:・・ええ・・・ : 美咲:杉下とあなたの関係の事です : 詩織:やっぱり・・・そうですよね : 美咲:ええ 美咲:詩織(しおり)さん、あなた、杉下と不倫してますよね : 詩織:あの、それは・・・ : 美咲:あなたと杉下の関係は、興信所(こうしんじょ)で調べて頂いています。 ヘタな隠し立ては、なさらないで下さい : 詩織:そう・・・ですか・・・ : 美咲:あなたの返答次第で、私の対応も変わってきますので、私の質問には正直に答えて下さい : 詩織:・・・はい、分かりました : 美咲:そう、よかった : 詩織:・・・ : 美咲:で、杉下とは、いつから? : 詩織:1年くらい前からです : 美咲:まぁ、随分と長いのね : 詩織:すみません : 美咲:杉下に家庭がある事は、知っていましたよね? : 詩織:はい・・・知っていました : 美咲:なら、どうして : 詩織:どうしてと言われましても・・・ : 美咲:答えられないのですか? : 詩織:いえ、そういう訳では・・・ : 美咲:そうですか、それはともかく 美咲:それで、あなたは、今回の事で責任はとれるのですか? : 詩織:え? 責任・・・ですか? : 美咲:ええ、責任です。 : 詩織:やっぱり・・・お金・・・ですか? : 美咲:そんな事じゃありませんよ : 詩織:では、どういう・・・ : 詩織(M):私は恐る恐る、杉下部長の奥様を見つめた 詩織(M):しかし、奥様が口にした言葉は意外なものだった・・・ : : : 美咲:杉下を引き取って下さい : 詩織:え? : 美咲:杉下を引き取って下さいと言っているんです : 詩織:ちょっと、何を言ってるんですか : 美咲:私は杉下と別れますから、あなたが引き取ってくださいな : 詩織:そんな! : 美咲:もう、うんざりなんですよ 美咲:家にお金を入れるだけで、家事を手伝う事もしないくせに、あそこが汚い、そこが散らかってると、いちいち難癖(なんくせ)を付けるわ 美咲:料理なんて出来もしないくせに、食事はいつも注文をつけてきて、 美咲:関心もないくせに、家計を何に幾ら使ったのか、いちいち詮索(せんさく)してくるし 美咲:いつも私をバカにして、何かあると、すぐに怒鳴(どな)るし、暴力もふるう 美咲:そのくせ、身体は求めて来るし 美咲:もう、ホントうんざりなんです : 詩織:はぁ・・・ : 美咲:心底うんざりしていたところへ、浮気相手がいると知って、これ幸いと、あの人の事をお願いしに来たんです : 詩織:そんな・・・ : 美咲:詩織さん、いいですよね、杉下を引き取ってくれますよね : 詩織:私だって、そんなの嫌ですよ : 美咲:何言ってるんですか! あなた、あの人と寝たんでしょ。 しかも、1年も付き合って来たんでしょ : 詩織:そんなの、仕方なかったんですよ、私、杉下部長にセクハラをされてるんです。 詩織:仕事の事で脅(おど)されて・・・ 詩織:やむにやまれずに、こんな関係になっただけで、私が望んだんじゃないんですよ : 美咲:まぁ、あなたも災難でしたわね : 詩織:でしょ、ですから・・・ : 美咲:それと、これとは、話が別です。 : 詩織:そんな! : 美咲:私の未来の為だと思って : 詩織:そんなの無理です! : : 美咲:そんな事、仰(おっしゃ)らないで 美咲:なんだかんだで、あなたと杉下の関係は、もう1年も続いているんでしょ 美咲:なら、あと10年くらい我慢(がまん)出来るでしょ : 詩織:そんなの酷すぎます! 我慢なんて出来ませんよ、私だって、直ぐにでも別れたいんですから : 美咲:そんな嫌々いうなら、慰謝料請求しますよ : 詩織:お金で解決するなら、払いますよ : 美咲:そんな事言わずに、あの人を引き取って下さいよ : 詩織:そんなの、嫌ですよ : 美咲:私だって嫌なのよ : 詩織:あなた、奥さんでしょ : 美咲:そんな事言っても、嫌なものは嫌なんです : 詩織:それなら、さっさと離婚しちゃえばいいじゃないですか : 美咲:あの人が、離婚になんて応じてくれるわけないでしょ、だから困ってるんですよ : 詩織:旦那さんの浮気は、立派な離婚理由になりますよ : 美咲:浮気をしても「反省してる」って言われてしまうと、離婚が成立するまでに時間がかかってしまうんですよ 美咲:離婚調停中に、あの人と一つ屋根の下に居なきゃいけないかと思うと、気が狂いそうになるんです : 詩織:確かに、不機嫌になった時の部長って、手が付けられませんからね・・・ : 美咲:でしょ? そうなんですよ、分かってもらえますか : 詩織:ええ、 詩織:では、まず別居されてから : 美咲:別居をするにしても、お金がいるでしょ、お部屋の敷金とか、引っ越し費用とか : 詩織:そうですね、やはり多少は・・・ : 美咲:私には収入がないんですよ。 あの人は、これまで、私を働かせてはくれませんでしたから。 美咲:財産とかも、あの人が全部管理しちゃってるから、勝手に多額のお金を持ち出す事は出来ないんですよ : 詩織:大変ですね : 美咲:だから、正式に離婚が成立しないと、部屋を借りるお金も手に入らないんですよ : 詩織:うーん、それは困りましたね : 美咲:ですから、お願いします 美咲:あなたが、あの人をそそのかして、私と離婚するように仕向けて下さいませんか? : 詩織:えー 詩織:そんな事したら、美咲さんと離婚した後に、私の所に来ちゃうじゃないですか : 美咲:私と離婚した後で、「そんな話は知らない」とでも言えば : 詩織:杉下部長は、同じ職場の上司なんですよ、私が会社に居られなくなっちゃうじゃないですか 詩織:だから、セクハラを断れずに、ズルズルこんな関係になっちゃってるんですから : 美咲:そうですか・・・ : 詩織:ですから、もう諦めて・・・ : 美咲:私を見捨てるんですか! : 詩織:いや・・・別にそういう訳では : 美咲:あなたが悪いんですよ、私に期待を持たせるから : 詩織:そんな事言われても、私も被害者ですし・・・ : 美咲:あなたは私の希望の光だったんです : 詩織:そういう風に言われると、申し訳ない気にもなりますね : 美咲:じゃぁ : 詩織:でも、身代わりは嫌ですよ : 美咲:そうですよね・・・ : 詩織:美咲さんは、本当に自由になるお金って無いんですか? : 美咲:ええ、何年もかけて、コツコツ貯めたお金があったのですが、今回、興信所の調査に使ってしまいました : 詩織:それを聞くと、なんだか、ますます申し訳なくなってきましたね 詩織:何か私にお手伝い出来る事があれば・・・ : 美咲:では、私と一緒に、あの人を殺してくれませんか! : : 詩織:殺すなんて・・・そんなのダメですよ、絶対捕まっちゃいますよ : 美咲:でも私は、もう、いっそ刑務所の中の方が楽かもしれないと思えて来て・・・ : 詩織:そんな・・・私はどうなるんですか、私は嫌ですよ刑務所なんて : 美咲:そうですよね・・・ : 詩織:とにかく、あの人の為に人生を棒に振るなんて馬鹿げてますよ : 美咲:では、私はどうすれば・・・ : 詩織:やっぱり、杉下部長のような人には、社会的な制裁(せいさい)を加えなきゃいけませんよ : 美咲:でも、どうやって : 詩織:私と美咲さんで、被害者の会を作って、セクハラ訴訟と、離婚訴訟を同時に起こしましょう : 美咲:そんな事が出来るのですか? 弁護士さんとかは? : 詩織:弁護士さんには、心当たりがあります、費用も私が出しておきます、 詩織:美咲さんの分は、離婚が成立した後で返して下さればいいですから : 美咲:ええ・・・それは有難いですけど、上手く行くでしょうか? : 詩織:もう、信じてやるしかないでしょう 詩織:今のままでは、未来はありませんよ : 美咲:そうですね・・・分かりました、私、頑張ります : : 詩織(M):こうして、私達は、杉下部長を相手取り、セクハラ訴訟と、離婚訴訟を起こす事となった。 詩織(M):被害者の会と銘(めい)打って、全てを弁護士さんに任せ、私達が杉下部長と会わなくてもいいように手配をした 詩織(M): 詩織(M):私は会社を退職し、杉下部長に知られないように、引っ越しもした : 美咲(M):私も、杉下から逃げるように、家を飛び出し、詩織さんの部屋に一時的に住まわせてもらう事となった : : : 美咲:ただいまぁ : 詩織:お帰りなさい、どうでした? : 美咲:はい、決まりました。 あそこの角のお弁当屋さんで、働かせてもらえる事になりました。 : 詩織:よかったですね! : 美咲:ええ、 美咲:それと、そのお弁当屋さんが、居酒屋さんを紹介して下さって、夕方からのお仕事も見つかりました。 : 詩織:それは、良かったじゃないですか! : 美咲:これも、詩織さんのお陰ですよ、これで生活が出来そうです。 : 詩織:でも、まだまだ、これからですよ、離婚が決まってからが、再スタートですからね。 : 美咲:ええ : : 詩織(M):それから数日が経過した、ある日の朝 : 美咲:おはようございます : 詩織:おはようございます、今日も一日、頑張りましょうね : 美咲:ええ、もう私、毎日が楽しくて、楽しくて 美咲:もっと早く、詩織さんに出会えればよかったわ : 詩織:ふふふ、美咲さんが元気になって良かったです : 美咲:今日は私が、朝ごはんを作りますね。 美咲:テレビを付けてもいいですか。 : 詩織:はい、お願いします。 : : : 詩織:あれ? : 詩織(M):その時、私はふと携帯電話を見た 詩織(M):マナーモードにしていて、気付かなかったが、昨日の夜に、弁護士さんから着信があったようだ : 詩織:え!、何これ・・・ : 詩織(M):着信時間は真夜中、しかも、凄い数の着信履歴だった : 詩織:何かあったのかしら・・・ : 詩織(M):よく見ると、着信とは別にショートメッセージも送られて来ていた 詩織(M):そして、そのメッセージには、一言『逃げて下さい』と書かれていた : 詩織:え! 何があったの! : 詩織(M):私の手が震え始める : 美咲:詩織さん! 美咲:・・あれ・・・ : : 詩織(M):美咲さんの悲鳴にも似た呼びかけに、私は美咲さんの方を見た 詩織(M):美咲さんは震えながらテレビを指さしていた 詩織(M): 詩織(M):美咲さんの見ていた朝のニュースは、被害者の会の弁護士さんが、意識不明の重体で発見された事を報じていた 詩織(M):昨日の夜、大きな声で扉を叩いている人がいるとの通報で、警察が駆け付けた時には、もう犯人はおらず、 詩織(M):弁護士は床に倒れて意識不明だったという : 美咲:杉下よ、絶対、あの人がやったんだわ! : 詩織(M):動揺する美咲さん、私も全身に鳥肌が立ってくるのが分かる : 美咲:詩織さん、どうしましょう・・・ : 詩織:と、と、とにかく、落ち着きましょう : 美咲:そんな事言っても・・・ : 詩織:弁護士さんからは「逃げろ」というメッセージが来てます。 とにかくここから逃げないと : コンコン : 詩織(M):私達が状況も把握できず、パニックになりかけた時、部屋の扉を叩く音がした : 美咲:ヒャァ! : 詩織:美咲さん、お、お、お、落ち着いて : コンコン : 詩織(M):ノックの音は続く : 詩織:私が見てきますから : 美咲:お、お願いします : 詩織(M):私は、物音を立てないように、そっと扉に近づき、のぞき穴から外を見た 詩織(M):ドアの外に居たのは、杉下部長だった : : : 詩織:はぁうぁ・・・ : 詩織(M):私は心臓が口から飛び出しそうだったが、何とか声を出さないように、手で口を押えた : コンコン : 詩織(M):ノックの音は続く : 詩織(M):私は美咲さんの元へ駆け寄った : 詩織:美咲さん、杉下部長です。 杉下部長がドアの向こうに : 美咲:ああああ、どどどどうしましょう・・・ : コンコン : 詩織:どどどうしましょう・・・・あ、そうだ警察、警察に連絡 : 美咲:わ、わかりました : 詩織(M):美咲さんが携帯電話で電話をかける : 美咲:て、手が震えてしまって・・・うまくボタンが押せない・・・ : コンコン : 詩織:美咲さん、急いで : 美咲:そ、そんな事いっても・・・ : コンコン : 詩織(M):ノックの音は段々と強くなってくる : 詩織:美咲さん : 美咲:あ、繋がりました・・・あぁ、早く出て・・・ : ドンドンドン、ドンドンドン : 詩織:美咲さん! : 美咲:あ、もしもし、警察ですか!、もしもし、もしもし・・・助けてぇ~ : : : : : 美咲:ただいまぁ : 詩織:お帰りなさい、どうでした? : 美咲:はい! ようやく離婚が成立しそうです。 : 詩織:よかったですね : 美咲:ええ、財産の整理も早めに片付きそうだと、弁護士さんが仰(おっしゃ)ってました 美咲:なるべく、現金で渡せるようにして下さるって : 詩織:良かったじゃないですか! : 美咲:ええ、これで新しいお部屋を探す事ができます。 美咲:これも詩織さんのお陰ですよ : 詩織:そんな事ないですよ、それは、美咲さんが頑張ったからですって : : 詩織(M):部長に襲われた時、ドアが破られる直前に、警察が到着し、私達は事なきを得た 詩織(M):意識不明だった弁護士は、なんとか命はとりとめたようだった 詩織(M):それから、被害者の会は、新しい弁護士に依頼し、セクハラ訴訟と、離婚訴訟を続けていった 詩織(M):部長が殺人未遂で捕まった事で、私達は、かなり有利に交渉を勧める事が出来ていた : 美咲:で、詩織さんの方は? : 詩織:私の方も順調ですよ。 詩織:部長が捕まった事で、会社としても、全面的に部長が悪いという立場で話をしてくれてます。 : 美咲:そうですか、それは良かったですね。 : 詩織:ええ、会社からは、「会社に復帰出来るように取り計らう」と言ってくれていますし、 詩織:会社に戻りづらかったら、退職金を多めに支払うとも言ってくれています。 : 美咲:よかったですね。 : 詩織:私は、今回の事で、少し疲れちゃったので、退職金と失業保険で、少しのんびりしてから、 詩織:ぼちぼち、新しい仕事を探す事にします。 : 美咲:それがいいかもしれませんね。 : : 詩織:でも、あの時は、本当に怖かったですね : 美咲:ええ、まさか、あの人が、弁護士さんを殺そうとしてまで、ここにやって来るなんて 美咲:しかも、斧で扉を壊そうとするなんて : 詩織:そうですよね、部長がそこまでやる人だったなんて、思いもよりませんでしたよ : 美咲:本当にそうですよね、 美咲:私も、あの人が、あそこまでやる人だったなんて、知りませんでした。 : 詩織:もし、美咲さんと会わずに、私だけで、部長に別れを切り出していたらと思うと、ゾッとします 詩織:これも、美咲さんが、押しかけて来てくれたお陰ですよ : 美咲:そんな、押しかけたなんて、詩織さんにお願いがしたかっただけなんですから : 詩織:あの時も、本当にビックリしたんですから 詩織:心臓飛び出そうだったんですよ、凄い怖い顔してたし : 美咲:私だって必死だったんですよ、詩織さんが希望の光だったんですから : 詩織:でも、奥さんと、不倫相手の女って、普通なら修羅場になるじゃないですか? 詩織:それを、男の押し付け合いだなんて、笑えますよね : 美咲:そうね、まるでコメディみたいね ふふふ : 詩織:ふふふ : 0:完 :