台本概要

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タイトル ルドベキアの箱
作者名 机の上の地球儀  (@tsukuenoueno)
ジャンル その他
演者人数 3人用台本(男2、女1) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 劇中劇/学生時代の思い出

※こちらはススキドミノ様との合作になります。

商用・非商用利用に問わず連絡不要。
告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。
(その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください)
ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。
台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。
兼ね役OK。1人での演じ分けやアドリブ・語尾変・方言変換などもご自由に。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
和泉 46 和泉翔馬。16歳。咲坂高校の1年生。今まさに演劇部を立ち上げようとしている。
春野 37 春野結。27歳。咲坂高校の卒業生。元演劇部部長で、加藤の同級生。
加藤 62 26歳。咲坂高校の卒業生であり、教師。
フレデリック 35 フレデリック=ベルナルド。ベルナルド公爵の長男(劇中劇に出てきます)。和泉と兼ね役。
セシル 19 公爵家仕えのメイド(劇中劇に出てきます)。春野と兼ね役。
ボドワン 9 小太りな宰相(劇中劇に出てきます)。加藤と兼ね役。
ダミアン 5 ダミアン=ベルナルド。フレデリックの弟(劇中劇に出てきます)。加藤と兼ね役。
1 ナレーション。一箇所だけ。加藤と兼ね役(場合によっては春野が兼ねてもよいです)。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
 :   :   :   :『ルドベキアの箱』  :   作 ススキドミノ×机の上の地球儀  :    :   :  0:【台本開始】  :   :   :(学校の廊下・生徒は先生に声をかける)  :  和泉:あ!先生ー!今ちょっと良いすか!  加藤:ん?どうした、和泉(いずみ)。 和泉:ちょっと相談があるんですけど。 加藤:おう、なんだ。勉強……じゃないよな、お前のことだし。 和泉:そう……ですけど!その言い方なんですか、ったく。 加藤:(微笑んで)言われるのが嫌なら、少しは勉強にも身を入れろ。お前のバイタリティをいい方向に向ければ―― 和泉:その美声が俺の眠気を誘うんですよ。しゃーないでしょ、せーんせ。 加藤:褒めても単位はやらないぞ。 加藤:で、どうした? 和泉:ちぇ。ざーんねん。  :(間)  :  和泉:……えと、真面目な話なんですけど、俺、演劇部を立ち上げようと思ってて。桐山とか、何人か集めたんです。 加藤:へえ!演劇部ね。どうしてまた急に。 和泉:先生知らないの?舞台に立つと、客席からは三割増で格好良く見えるんだってさ。 加藤:(吹き出して)なんだぁ、お前。結局そういうのか? 加藤:まあ、男子高校生としては、まっとうと言えばまっとうな理由と言えるのかもしれないけどな。 和泉:……って、のは……まあ冗談で。 和泉:俺、演劇が好きなんです。もちろん、演技するのはこれからで、まだ何にもわかんないんすけど……。先生、在校生だった頃、演劇部だったって……。 加藤:…………っ。  :(間)  :  加藤:……ああ、悪い。そうか。うん。そういえば、俺が演劇部だったって前に言ったことあったっけか。 加藤:というと……あーつまり、顧問を探してるってとこか? 和泉:話早いっすね。そういうことです。お願いできますか。 加藤:……ああ。いいぞ。俺で良かったらな。 和泉:……!よっしゃあぁあ! 加藤:(遮って)おっと!まーだ喜ぶのは早い! 和泉:え。 加藤:部活動の申請には、色々と手続きが必要なんだよ。部室も確保しなきゃいけないから、会議にかけなきゃいけないし。後は―― 加藤:あー、和泉。お前が部長ってことでいいんだよな? 和泉:はい!そこはもちろん。 加藤:じゃあ、申請書を用意してくるから、他の部員に渡して、必要事項を記入して、俺のところへ持ってくること。いいな。 和泉:はい! 和泉:……先生ってほんと、授業が眠くなることを除けば良い先生ですよね。 加藤:おい。それ、褒めてないからな……。 加藤:……そうだ。演劇のことはよく知らないって言ったよな。 和泉:……あ、はい。まあそれで、天下の加藤大先生に一からご教授いただきたく……、 加藤:資料室に、昔俺たちが部活で使ってた戯曲が残ってるから、そのまま教室に持って行って好きに読んでていいぞ。 加藤:申請書を刷ったら、俺も教室に行くから。 和泉:先生たちの……? 和泉:え、そんなの残ってるんすか?!……腐ってません? 加藤:腐ってるか……!俺のこと何歳だと思ってる……!あのなあ、和泉……これから演劇をやるっていうなら、戯曲には敬意を払えよ!汚したり、無くしたりはするな!いいな! 和泉:……う。……は、はい。肝に銘じます。  和泉:(一転して真面目に)資料、お借りします!加藤先生。 加藤:(微笑んで)おう。まあ……なんだ。声かけてくれて、ありがとうな。良い部活になるように、俺も色々と手伝ってやるから。 加藤:……じゃあ、任せたぞ。  :   :   :   :(数分後・教室にダンボールを持って入る和泉)  :  和泉:……っしょ、と。 和泉:(ため息)つっかれたー。何キロあんだよこれ。紙って意外と重いのな……。 和泉:……で。読んでていいって言ってたよな?  :(和泉はダンボールを開ける)  :  和泉:えーと?……どれにすっかな。 和泉:へー。結構読み込んであるのな、どれもボロボ……ん?これはそうでもない、な……。他のやつとは雰囲気違う……。 和泉:えっと……「HARU(はる)」……作者の名前?……女の人かな。  :(和泉はパウチされている台本のページを開く)  :   :   :   :   :  N:舞台は中世。隣国との国境沿いに有るその街は、領主のベルナルドの治世の元、平穏な日々をおくっていた。ベルナルドの息子、フレデリックは、線は細いが聡明で、次代領主として領民達からの信頼も厚い。 N:しかし、フレデリックは幾度に渡る見合いを頑なに断っており、世継ぎはフレデリックの弟、ダミアンにするべきだという声も、ちらほらと聞こえてくるのだった。  :(ベルナルド公爵領・ガロの街)  :(フレデリックはベランダからガロの街をぼうと眺めている)  :  フレデリック:思いの外臆病な男だな、僕は……。  :(間)  :  ボドワン:フレデリック様。こんなところにいらしたんですか。 フレデリック:あぁ。……少し街を見ていた。 ボドワン:兵士長のジルベールが探しておりましたよ。訓練を休憩にした後、姿が見当たらないと。 フレデリック:こうでもしないと、一人にはなれないからな。見逃してくれ。 ボドワン:私は構いませんよ。ええ。フレデリック様は次代のベルナルド領を背負って立つお方。訓練などでお怪我をされる方がよっぽど心配ですから。 ボドワン:それよりも心配なのはお世継ぎのことです。先日の社交界でも……アンリ嬢のアプローチをにべもなくお躱(かわ)しになられたとお聞きしました。 フレデリック:アンリ嬢……?……あぁ。あの「宝石を散りばめた」というのを通り越して、埋もれていた御令嬢のことかな。 ボドワン:またそういうことを仰る。それだけお家柄が良いということですのに。  :(セシル、ワゴンを押しながら部屋に入ってくる)  :  セシル:あの……失礼致します。 ボドワン:おい、メイド。不躾ではないか。話の途中であるぞ。 フレデリック:……!いやボドワン、よいのだ。……どうしたのかな。 セシル:お話の途中にすみません……!綺麗なシーツをご用意致しました。フレデリック様に頼まれておりましたもので……その……。 ボドワン:ふむ。フレデリック様のお寝床(ねどこ)は、常に綺麗に清潔に、だ。 ボドワン:それではフレデリック様。明日の社交界は今まで以上に素晴らしい名家のお嬢さんがお見えになります。どうぞ前向きに、お話をお進めになってくださいませ。ジルベールには、お休みになられていると伝えておきますので。 フレデリック:あぁ。悪いな、ボドワン。  :(ボドワンはフレデリックの部屋を後にする)  :  セシル:それではあの……シーツの張替えを―― フレデリック:そうじゃないだろう?セシル。 セシル:そうじゃない……とは。なんでしょう、フレデリック様。 フレデリック:フレッド。 セシル:……そう、呼べと仰るのですか……。 フレデリック:もちろん。……小さい頃はそう呼んでくれた。あの頃は身分など気にせず、一緒に庭園で遊んだものだ。僕は草笛が大の得意だった。……覚えてるかい? セシル:最近はいつも、その話を致しますのね……。私が困るとわかっていて、あの頃と変わらず、だなんて。意地悪ではないですか……? フレデリック:どちらが意地悪かな?僕が「領主の後継ぎ」ではなく、ただの「フレッド」でいられるのは、君の前だけだというのに。  :(間)  :  セシル:(ため息)困らせないで、フレッド……。あの頃とは違うの。貴方はベルナルド公爵の長男で、私は―― セシル:……とにかく、宰相様が言っていたこと……考えたほうがいいわ。 フレデリック:……仕方ないさ。僕にはきつい香水を纏った女より、石鹸の香りをのせた君の方が、よほど魅力的に見えるのだから。僕は今、君がこうして名前を呼んでくれたことが、何より嬉しい。  :(フレッドはセシルに近づいて髪を手で撫でる)  :  セシル:フレッド、私は―― フレデリック:嫌でないのなら。 フレデリック:……その先は言わないで、セシル。  :(二人の顔がゆっくりと近づいていく)  :   :   :   :   :(職員室・コピー機の前に立つ加藤の肩を春野が叩く)  :  春野:どーーーん! 加藤:うわっ!? 春野:ふふ。スーツ、様になってるわね。加藤せんせ。 加藤:え?あれ……え!?春野!?なんで!? 春野:ちょっとね。 加藤:ちょっとって……お前なあ……。 春野:何よー。卒業生が母校に来ちゃ悪いっての?部長様のご帰還だぞ! 加藤:いや、別に悪くはないけど……。部長様のご帰還ったって……うちの高校、演劇部がなくなって随分だぜ? 春野:それよそれ!私が書き上げたあんな名作やこんな名作も、今や埃を被って箱の中。あーあ、悲し。 加藤:あー……それなんだけどな。実は……これ!なんだと思う?  :(加藤は手に持った部活動申請書を見せる)  :  春野:え、なにこれ!え、え!?咲坂(さきさか)高校演劇部、いよいよ復活?! 加藤:ってことになるな。実は本当についさっき、生徒から部を作りたいって相談されて……。 加藤:で、俺が、顧問。 春野:お!副部長から顧問に昇格?やるじゃん! 加藤:そう。この俺が演劇部の顧問だって。あの頃の俺達からすると信じられないよな。 春野:ほんとねえ。あの頃私とあんたで立ち上げた演劇部が、次世代に渡る、か。 春野:……あの台本も、また日の目を見るのかしら、ね……。 加藤:……ああ。かもな。  :   :   :   :   :  和泉:(N)読んでいて思う。この物語は恋愛の物語だ。演劇のことはよく知らないけど、でも、有名な演劇の物語はそれなりに知っている。 和泉:(N)この手の物語は――悲恋だったりするんだ。  :  和泉:(N)俺は夢中になって読み進める。二人は逢瀬を重ね、フレデリックはその後も見合いの話を断り続けた。周囲の人間たちは、妻を娶る気がないフレデリックの様子に、次第に苛立ちを募らせていく。 和泉:(N)ある夜だ。セシルと逢引をしようと部屋を出たフレデリック前に、弟のダミアンが立ち塞がる。  :   :   :   :   :  ダミアン:兄上。 フレデリック:……っ。何だダミアン、こんな時間に。 ダミアン:それは俺のセリフですよ。こんな夜更けにこそこそと部屋を抜け出すとは、一体どのようなご用事で? フレデリック:それは……、 ダミアン:そういえば、兄上。覚えておいでですか。先日の父上のお話ですよ。父上も次代の公爵には兄上をと仰っておりました。 ダミアン:ですが――問題もあると。 フレデリック:……父上のような立派な公爵となるべく、私は勉学に励んできた。驕るつもりはないが、父上の期待を裏切らない自信はあるさ。 フレデリック:その「問題」とやらが何を指すのかは分からないが……それをもし抱えていたとしても……私はベルナルド領地をしかと治めてみせよう。 ダミアン:ほう……では、兄上もようやく奥方を迎える気になったわけだ。なるほど!それは吉報だ!明日にも父上に報告しなければ。 フレデリック:……好きにするがいい。  :(ダミアンは憎々しげに舌打ちをする)  :  ダミアン:そうですか……それはそれは……。兄上にも深いお考えがあったご様子、出過ぎたことを申しました。 ダミアン:ただ……兄上。俺は兄上を尊敬していないわけではありませんが……兄上はどうでしょうな。領民は俺を愚鈍な次男坊だと噂をしていますが、そうではない……!俺の目は決して、馬小屋のわら屋根の中身を知らぬような節穴ではないのですよ。 ダミアン:それだけは、肝に命じておいていただきたい……。 フレデリック:……身に沁みているよ、ダミアン。  :(ダミアンはフレデリックをひと睨みすると、廊下を歩き去る)  :  フレデリック:天命と運命。……僕の心が向く先は……、  :(廊下の陰からセシルが出てくる)  :  セシル:フレッド……。 フレデリック:……!セシ、ル……一体いつからそこに……。 セシル:ずっとよフレッド……約束の時間になっても現れないから、扉を叩こうと思っていたの……。だからね、フレッド。ずっと、ずっと聴いていたのよ……!今の話を、ずっと……! フレデリック:セシル……。 フレデリック:……っ、セシル、お願いだ。僕の手を取ってくれ。共にベルナルドを出よう。 セシル:……!?な、何を馬鹿なことを言っているの。貴方は……貴方は領主になるのでしょう!?……私は良いの、フレッド……。ひとときの夢を見せてもらった、幸せだった……! セシル:私は……私はこの思い出だけで生きていける。分は……弁えているつもりよ。 フレデリック:そんなことを言わないでくれ……。確かに僕は領主の息子として産まれた!でも、今は―― フレデリック:今ここにいるのはフレデリック・ベルナルドではなく、君を愛しているただの男。ただのフレッドだ……! フレデリック:そうだ……僕は君を愛しているんだ……!君のその顔――傷ついたようなその顔を見た瞬間に、僕は心からそれを思ったんだ……! セシル:今は!そうね、今はそうかもしれない!でも、ならこの時を過ぎたら……?この逢瀬の一瞬が過ぎたら、貴方はまたフレデリックに戻らなくてはならないのよ! セシル:……フレデリックとフレッド、その2つを……同じ箱に入れ続けることは出来ない。 分かるでしょう?……いえ、どうか。どうか……。分かって……フレッド。 フレデリック:わかるさ……どうしようもなくわかってしまうんだよ、セシル……。僕のわがままで君を巻き込んでしまった。そんな僕の弱さが、君をより一層愛おしくさせてしまっているんだ。どうしようもなくおかしくなってしまいそうなんだよ、セシル……! フレデリック:僕がどちらの箱に入るべきなのか……僕には……決められないんだ……。 セシル:私は――  :   :   :   :(職員室・昔話に花を咲かせる加藤と春野)  :  加藤:あーそうそう、村石が背景セットぶっ倒して。大変だったなー、あれ。お前が適当に補修したもんだから、俺が後で学校で直してさ。 春野:えー?結構上手く直したつもりだったけどなーあれ。あんたが細かいんだって。 加藤:そういうところがだな――あぁクソ。思い出したら腹立ってきた……! 加藤:あのなぁ!セットってのは演劇でも重要な要素なんだよ!お前が演技にしか気を使えないから、こっちは苦労したんだぞ!? 春野:(吹き出す) 加藤:……何故そこで笑う。 春野:いや、だって。……あんたがそう色々立ち回ってくれたから、私部長を……演劇できてたんだなって。……そう思ったら何か――  :(間)  :  春野:ありがとね。 加藤:……急に何言ってるんだか……。第一、春野が俺を演劇部に引きずりこんだんだろうが。そもそも、春野がいなかったら、俺は演劇部に入ってすらいなかったんだから。 春野:キッカケはね。……でもあんたは、結果どんどんと演劇にのめり込んでく。 加藤:一方で俺を引きずり込んだ張本人は、三年になると同時に、大学受験を理由にあっさりと引退しちまうわけだ。 春野:それは……まあ。人生かかってたし? 加藤:……人生ね。お前って本当、考えてないようで考えてるんだよな。いつも。 春野:んー?考えてないよ?考えてないから、考えないと考えられないんだよ。 加藤:また訳の分からないことを……。 春野:そうかなー、単純だよ。意外と。  :(春野は笑って頭を掻く)  :  春野:あーあ。私、あんたと同じ大学行きたかったんだけどな。  :(間)  :  春野:黙るなよ。オイ。 加藤:……俺は。俺はお前とずっと、舞台の上にいたかったよ。 春野:そうくるかぁ……。まあ、そうだよね。  :(間)  :  春野:同じ箱には、入れないんだもんね。  :   :   :   :   :   :  和泉:(N)演劇は、わからない。でも何故か、この物語がどうして産まれたのかは、なんとなくだけどわかる気がした。 和泉:(N)手書きの文字。少し癖はあるけれど綺麗な字。終わりに進むにつれて、何度も何度も消し直した痕が残っている。迷っているんだ、きっと。……この先がどうなるのか。 和泉:(N)フレデリックとセシルが、どうなるのかを――  :   :   :   :   :(ボドワンはフレデリックと共に屋敷の中を歩いている)  :  ボドワン:いやぁ! 実に安心しましたぞ!このボドワン、今日ほど明るい知らせを聴いたのは、フレデリック様とダミアン様がお産まれになった時以来です! フレデリック:あまりはしゃいでくれるなボドワン。……まだ婚約しただけだ。 ボドワン:何をおっしゃいます!リシャール公爵家といえば、西部の交易を取り仕切る大貴族!我が領にとって、リシャール公爵家と関係を結べるというのは、それだけでもありがたいことですぞ! ボドワン:それに、奥方様になるクラリス様は十三と若く、美しさはもちろんのこと、身体も丈夫だと伺っております。必ずや、立派なお世継ぎを産んでくださるでしょう! フレデリック:……そうだな。きっとそうなる。……そうするさ。 ボドワン:クラリス様がこちらに到着するのは明日の正午となっております。明後日には婚姻の儀を行い、それから盛大な披露宴を――まったくもって!いやはや忙しくなりますなぁ! ボドワン:こうしてはいられない!フレデリック様、体調を崩されてはかないませんからな!今日は風に当たるのも程々にしてくださいませ!  :(ボドワンは駆け足で廊下を走っていく)  :   :(間)  :  フレデリック:あぁ。……最後になるさ。自由に風を受けるのは……。  :(フレデリックはベランダの外に出て街を見下ろす)  :  フレデリック:……街ではこんなにも……皆、自由そうに歩いているというのに……。どうして僕はこんなところに――  :(視界の先にセシルを見つける)  :  フレデリック:あれは……!セシル!?  :  フレデリック:どうしてこちらを見ている。 フレデリック:どうしてそんな顔で僕を見上げている! フレデリック:何を言っている!何を思っている!……セシル!  :  フレデリック:その大荷物はなんだ!馬車を待っているのか!一体どこへいくと言うんだ! フレデリック:僕の見えないところへ行くというのか、セシル!  :(フレデリックは屋敷を飛び出す)  :  フレデリック:行かせはしない!どこにも!どこにも行かせはしない、セシル!セシル!待ってくれ、セシル……!  :(間)  :  セシル:……考えていました。貴方が来てくださる方がいいのか、会わずに馬車に乗った方がいいのか。  :(セシルはフレデリックに背を向けたまま言う)  :  セシル:本当は、きっと会わない方が良いんです。分かってます。でも。……でもフレッド。私は貴方がこうして追いかけてくれて、やはりどうしようもなく嬉しいの。 フレデリック:セシル……ああ、セシル……!固く両の目を閉じていても、君の姿が浮かんで暗闇を見ることができない! フレデリック:固く耳を塞いでいても、君の声と、幼い頃に共に吹いた草笛の甲高い音が、僕を孤独にさせないのだ! フレデリック:僕は……やはり僕は――どうしようもなく君を愛している!  :(間)  :  セシル:吹き過ぎた草笛はもう歌えない。子供の頃の甘く淡い記憶は……もう、ただ遠い残像でしかないの。フレッド……。 フレデリック:僕は……僕は君の言葉が欲しい!僕を惑わすすべてのものより、僕を操るすべてのことより!君の言葉が――君の言葉が欲しいのだ!セシル! セシル:目を閉じても、私には見えるわ。貴方が民に手を振る姿が。 セシル:耳を塞いでも、私には聴こえるわ。皆が貴方に送る喝采が。 セシル:貴方にはまだ見えなくても、貴方にはまだ聴こえなくても。貴方以外のみんなには見えて、そして聴こえてる。 セシル:貴方が……フレデリック様が、立派な領主になるその未来が。 フレデリック:セシル……。 セシル:でも。でも私は……このベルナルドという舞台で、貴方が私の横で、私と共に立ってくれることを夢見てた。……いえ、まだ見ている。……馬鹿よね、ほんと……。 フレデリック:…………。 セシル:……ねえ。同じ箱には入れないのなら。貴方は一体誰なの……?フレデリック様?それとも……それとも……フレッド? フレデリック:僕は――  :   :   :   :   :   :  和泉:あれ……この先は……?この先は――どこにも、ない……? 和泉:嘘だろ!?めっちゃ気になる!どうなるんだよ!セシルは!フレデリックは!?  :(教室のドアが開く)  :  春野:わーーーーー!なっつかし!教室ぜんっぜん変わってない! 和泉:あ、え。 春野:あ!君が期待の新星くんかな?ふふ。ごめんねー突然。びっくりしたよね。私はここの演劇部のOBで、春野って言います。はじめまして。 和泉:あ、俺はその……和泉です。えっと、春野、さん……は、加藤先生と同じってことっすよね……?……ん? 和泉:あー!ハル!ハルだ!も、もしかして!? 春野:ん?ハル? 和泉:えっと……これです!この台本!これ、ハルって署名が入ってて……春野さんが書いたんじゃないっすか!? 春野:ええっと……? 和泉:これ、最後の方のページがなくって!めちゃくちゃ続き気になって!だから続き……!教えて下さい!お願いします! 春野:……あー。  :(加藤が教室に入ってくる)  :  加藤:おいお前!勝手に校内歩き回んな……!っていうか勝手に教室入んな! 春野:え〜?だって、初代部長としては〜、やっぱり次代の部長さんには挨拶しときたいじゃん? 加藤:ったく……。すまんなぁ、和泉。変なやつに絡ませちまって……。 和泉:いや、それはいいっすけど……。 春野:変な奴とは何よ、変な奴とは! 春野:……ね!ってか見てよこれ!懐かしくない?これ卒業公演のやつ……だよね? 春野:……良いなあ、私演れてないもんなあ。 和泉:え……? 加藤:ん?……あああああ!それ!なんでんなもんがそこに! 春野:へへ。和泉くん。それ、最後まで読めなかったでしょ。実はこれのラストのページね……私が持ってるの。 春野:卒業公演の後に、持って帰ってちゃった。 加藤:(ため息)やっぱお前か……。 春野:だって、欲しかったんだもん。 加藤:演者で演ってりゃ、春野の分の本も刷ってやったのにな。 春野:試験と丸かぶりだったからねー。 和泉:卒業公演……。え、じゃあ春野さん!この台本って最後どうなるんすか!?あとこれタイトルとかもないし……! 春野:ん?んー……ふふ。だーめ。教えてあげない。 和泉:は、嘘!?なんでだよ! 加藤:おい春野……お前―― 春野:あ。そういえば私もう、春野じゃないから。 加藤:は? 春野:結婚したの。今日は、先生方にその挨拶に来たんだ。  :(加藤は目を見開いた後、頭を掻く)  :  加藤:おう……そっか。おめでとう――あー、えっと……。 春野:確かに名字は変わったけどさぁ〜、そんな露骨に困るなよぉ。 加藤:結婚おめでとう。結(ゆい)。  :(春野は驚いた顔をした後、笑う)  :  春野:……それ、あの頃そう呼んで欲しかったな。 加藤:(笑って)うるせえ、幸せになれよ。バーカ。 春野:言われなくてもなるよ。バーカ。 春野:(和泉に向き直って)和泉くん。演劇、楽しいよ。……楽しんでね! 和泉:は、はい……。 春野:じゃあ、私行くわ。……またね、和泉くん!晴太(はるた)!  :(春野は手を振りながら教室を出ていく)  :  和泉:(小声で)ハル、タ……? 加藤:(頭を抱えて)……悪い、和泉。ここであったことは、忘れてもらってもいいか……。 和泉:わかんないすけど……わかんないなりに、わかりました。はい。 加藤:そしたら部活動の申請書コピーしてきたから――ん?なんだ、その顔。 和泉:あの、ハルタ、って……。 加藤:え?……俺の名前だけど? 和泉:……え。 加藤:だから、俺の名前。加藤晴太(はるた)――いや……確かに加藤で覚えやすいからそれでいいんだけどな……?ちょっと寂しいものがあるぞ……。 和泉:加藤、晴太……。えと、この台本のハルって、もしかして……。 加藤:ああ。この本を書いたのは……俺だよ。  :(加藤は台本を手に取る)  :  加藤:懐かしいなぁ。俺さ、最初はさっきの――結に引きずられて演劇部に入ったんだ。それで、高校三年のときにはすっかりハマっちまってな。 加藤:受験勉強そっちのけで、後輩と一緒に卒業公演やろうって息巻いて……それまではまあ、部員で順番に本書いちゃあいたものの戯曲集が中心だったんだが……最後は絶対オリジナルだ!俺がイチから全部書くぞ!なんて大口叩いて――あ、いや!別にお前にそうしろって言ってるわけじゃないぞ!?……勉強第一だからな、一応。  :(間)  :  加藤:それで、書き始めてみたら……これが難産も難産でな。最初は良かったんだが、どんどんこう……先が見えなくなっていって……。出来上がったころには公演も近くてさ。練習の時間も取れないし、当然公演はボロボロでさ。 加藤:まあ……若気の至りってやつだよ。 和泉:……あの。 加藤:ん? 和泉:俺、演劇はまだ全然……これから始めるところで。台本がどう産まれるとか、そういうのもまるでわかんなくて。でも……途中までだけどこれを読んで、その……。 和泉:間違ってたらごめんなさい。……これ!これってもしかして……先生の―― 加藤:俺の? 和泉:(言い淀んで)……逆、じゃないですか。書いてて先が見えなくなったんじゃなくて、先生は……! 和泉:これを書くことで、自分の中にあった……まとまらない気持ちを整理しようとしたんじゃないですか……? 加藤:……和泉。  :(間)  :  加藤:俺は正直、フレデリックがどうとか、セシルがどうとか、書き始めたときにはきっと考えちゃいなかったんだよ。  :(間)  :  加藤:でも、そうだな……。お前の感じたことは、あの時の俺が感じたことに近いのかもしれない。  :(間)  :  加藤:俺は――俺達は、一緒に居たかったのかもしれない。俺は、この本を書いたとき、それに気が付いたのかもしれない。 加藤:(笑って)でも。……それを演劇に乗っけちまったら、そりゃあ駄作だよ。  :(間)  :  和泉:先生……。 加藤:だからだ!お前らが演劇部をやるっていうなら!しっかりとした戯曲から、みっちり始めてもらうぞ? 加藤:覚悟しておけ!俺が演劇の楽しさってやつを、その身に刻み込んでやる!ふ、ふははは……! 和泉:うげ……。や、やばい。一皮剥いたらとんでもない演劇馬鹿が出てきた……。 加藤:馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 和泉:い、いやぁ……俺はもうちょっとゆるいところからでも―― 加藤:(話を聞かずに)ああ、あと和泉!お前の読解力には光るものがある。俺の本を読んで出たあの推察!俺は非常に感動した!お前の国語の成績は今後間違いなく伸びる! 和泉:いやほんと!落ち着いてって加藤先生! 加藤:よおおし!職員会議なんて待てん!すぐに話しをつけてくる! 和泉:うわー、なんか変なテンションになってるし……! 和泉:(小声で)春野さんが結婚してたのショックだったんかな……。  :(和泉は教室から飛び出そうとする加藤の肩を掴む) 和泉:あ!ちょーっと待った、先生! 加藤:お?なんだ? 和泉:結末は――内緒って言われたから、いいんだけどさ。 和泉:(少し考えて)……うん。先生の書いた、あの台本。……タイトルくらいは、教えてくださいよ。 加藤:あー、うん。タイトル、タイトルな……。 加藤:そう、だな。  :(加藤は困ったように笑う)  :  加藤:タイトルは――  :   :   :   :   :   :   :   :   :   :『ルドベキアの箱』  :   : ルドベキア:あなたを見つめる。  :       正しい選択。  :   :   :   :【台本終了】  :   :   :   :   : 

 :   :   :   :『ルドベキアの箱』  :   作 ススキドミノ×机の上の地球儀  :    :   :  0:【台本開始】  :   :   :(学校の廊下・生徒は先生に声をかける)  :  和泉:あ!先生ー!今ちょっと良いすか!  加藤:ん?どうした、和泉(いずみ)。 和泉:ちょっと相談があるんですけど。 加藤:おう、なんだ。勉強……じゃないよな、お前のことだし。 和泉:そう……ですけど!その言い方なんですか、ったく。 加藤:(微笑んで)言われるのが嫌なら、少しは勉強にも身を入れろ。お前のバイタリティをいい方向に向ければ―― 和泉:その美声が俺の眠気を誘うんですよ。しゃーないでしょ、せーんせ。 加藤:褒めても単位はやらないぞ。 加藤:で、どうした? 和泉:ちぇ。ざーんねん。  :(間)  :  和泉:……えと、真面目な話なんですけど、俺、演劇部を立ち上げようと思ってて。桐山とか、何人か集めたんです。 加藤:へえ!演劇部ね。どうしてまた急に。 和泉:先生知らないの?舞台に立つと、客席からは三割増で格好良く見えるんだってさ。 加藤:(吹き出して)なんだぁ、お前。結局そういうのか? 加藤:まあ、男子高校生としては、まっとうと言えばまっとうな理由と言えるのかもしれないけどな。 和泉:……って、のは……まあ冗談で。 和泉:俺、演劇が好きなんです。もちろん、演技するのはこれからで、まだ何にもわかんないんすけど……。先生、在校生だった頃、演劇部だったって……。 加藤:…………っ。  :(間)  :  加藤:……ああ、悪い。そうか。うん。そういえば、俺が演劇部だったって前に言ったことあったっけか。 加藤:というと……あーつまり、顧問を探してるってとこか? 和泉:話早いっすね。そういうことです。お願いできますか。 加藤:……ああ。いいぞ。俺で良かったらな。 和泉:……!よっしゃあぁあ! 加藤:(遮って)おっと!まーだ喜ぶのは早い! 和泉:え。 加藤:部活動の申請には、色々と手続きが必要なんだよ。部室も確保しなきゃいけないから、会議にかけなきゃいけないし。後は―― 加藤:あー、和泉。お前が部長ってことでいいんだよな? 和泉:はい!そこはもちろん。 加藤:じゃあ、申請書を用意してくるから、他の部員に渡して、必要事項を記入して、俺のところへ持ってくること。いいな。 和泉:はい! 和泉:……先生ってほんと、授業が眠くなることを除けば良い先生ですよね。 加藤:おい。それ、褒めてないからな……。 加藤:……そうだ。演劇のことはよく知らないって言ったよな。 和泉:……あ、はい。まあそれで、天下の加藤大先生に一からご教授いただきたく……、 加藤:資料室に、昔俺たちが部活で使ってた戯曲が残ってるから、そのまま教室に持って行って好きに読んでていいぞ。 加藤:申請書を刷ったら、俺も教室に行くから。 和泉:先生たちの……? 和泉:え、そんなの残ってるんすか?!……腐ってません? 加藤:腐ってるか……!俺のこと何歳だと思ってる……!あのなあ、和泉……これから演劇をやるっていうなら、戯曲には敬意を払えよ!汚したり、無くしたりはするな!いいな! 和泉:……う。……は、はい。肝に銘じます。  和泉:(一転して真面目に)資料、お借りします!加藤先生。 加藤:(微笑んで)おう。まあ……なんだ。声かけてくれて、ありがとうな。良い部活になるように、俺も色々と手伝ってやるから。 加藤:……じゃあ、任せたぞ。  :   :   :   :(数分後・教室にダンボールを持って入る和泉)  :  和泉:……っしょ、と。 和泉:(ため息)つっかれたー。何キロあんだよこれ。紙って意外と重いのな……。 和泉:……で。読んでていいって言ってたよな?  :(和泉はダンボールを開ける)  :  和泉:えーと?……どれにすっかな。 和泉:へー。結構読み込んであるのな、どれもボロボ……ん?これはそうでもない、な……。他のやつとは雰囲気違う……。 和泉:えっと……「HARU(はる)」……作者の名前?……女の人かな。  :(和泉はパウチされている台本のページを開く)  :   :   :   :   :  N:舞台は中世。隣国との国境沿いに有るその街は、領主のベルナルドの治世の元、平穏な日々をおくっていた。ベルナルドの息子、フレデリックは、線は細いが聡明で、次代領主として領民達からの信頼も厚い。 N:しかし、フレデリックは幾度に渡る見合いを頑なに断っており、世継ぎはフレデリックの弟、ダミアンにするべきだという声も、ちらほらと聞こえてくるのだった。  :(ベルナルド公爵領・ガロの街)  :(フレデリックはベランダからガロの街をぼうと眺めている)  :  フレデリック:思いの外臆病な男だな、僕は……。  :(間)  :  ボドワン:フレデリック様。こんなところにいらしたんですか。 フレデリック:あぁ。……少し街を見ていた。 ボドワン:兵士長のジルベールが探しておりましたよ。訓練を休憩にした後、姿が見当たらないと。 フレデリック:こうでもしないと、一人にはなれないからな。見逃してくれ。 ボドワン:私は構いませんよ。ええ。フレデリック様は次代のベルナルド領を背負って立つお方。訓練などでお怪我をされる方がよっぽど心配ですから。 ボドワン:それよりも心配なのはお世継ぎのことです。先日の社交界でも……アンリ嬢のアプローチをにべもなくお躱(かわ)しになられたとお聞きしました。 フレデリック:アンリ嬢……?……あぁ。あの「宝石を散りばめた」というのを通り越して、埋もれていた御令嬢のことかな。 ボドワン:またそういうことを仰る。それだけお家柄が良いということですのに。  :(セシル、ワゴンを押しながら部屋に入ってくる)  :  セシル:あの……失礼致します。 ボドワン:おい、メイド。不躾ではないか。話の途中であるぞ。 フレデリック:……!いやボドワン、よいのだ。……どうしたのかな。 セシル:お話の途中にすみません……!綺麗なシーツをご用意致しました。フレデリック様に頼まれておりましたもので……その……。 ボドワン:ふむ。フレデリック様のお寝床(ねどこ)は、常に綺麗に清潔に、だ。 ボドワン:それではフレデリック様。明日の社交界は今まで以上に素晴らしい名家のお嬢さんがお見えになります。どうぞ前向きに、お話をお進めになってくださいませ。ジルベールには、お休みになられていると伝えておきますので。 フレデリック:あぁ。悪いな、ボドワン。  :(ボドワンはフレデリックの部屋を後にする)  :  セシル:それではあの……シーツの張替えを―― フレデリック:そうじゃないだろう?セシル。 セシル:そうじゃない……とは。なんでしょう、フレデリック様。 フレデリック:フレッド。 セシル:……そう、呼べと仰るのですか……。 フレデリック:もちろん。……小さい頃はそう呼んでくれた。あの頃は身分など気にせず、一緒に庭園で遊んだものだ。僕は草笛が大の得意だった。……覚えてるかい? セシル:最近はいつも、その話を致しますのね……。私が困るとわかっていて、あの頃と変わらず、だなんて。意地悪ではないですか……? フレデリック:どちらが意地悪かな?僕が「領主の後継ぎ」ではなく、ただの「フレッド」でいられるのは、君の前だけだというのに。  :(間)  :  セシル:(ため息)困らせないで、フレッド……。あの頃とは違うの。貴方はベルナルド公爵の長男で、私は―― セシル:……とにかく、宰相様が言っていたこと……考えたほうがいいわ。 フレデリック:……仕方ないさ。僕にはきつい香水を纏った女より、石鹸の香りをのせた君の方が、よほど魅力的に見えるのだから。僕は今、君がこうして名前を呼んでくれたことが、何より嬉しい。  :(フレッドはセシルに近づいて髪を手で撫でる)  :  セシル:フレッド、私は―― フレデリック:嫌でないのなら。 フレデリック:……その先は言わないで、セシル。  :(二人の顔がゆっくりと近づいていく)  :   :   :   :   :(職員室・コピー機の前に立つ加藤の肩を春野が叩く)  :  春野:どーーーん! 加藤:うわっ!? 春野:ふふ。スーツ、様になってるわね。加藤せんせ。 加藤:え?あれ……え!?春野!?なんで!? 春野:ちょっとね。 加藤:ちょっとって……お前なあ……。 春野:何よー。卒業生が母校に来ちゃ悪いっての?部長様のご帰還だぞ! 加藤:いや、別に悪くはないけど……。部長様のご帰還ったって……うちの高校、演劇部がなくなって随分だぜ? 春野:それよそれ!私が書き上げたあんな名作やこんな名作も、今や埃を被って箱の中。あーあ、悲し。 加藤:あー……それなんだけどな。実は……これ!なんだと思う?  :(加藤は手に持った部活動申請書を見せる)  :  春野:え、なにこれ!え、え!?咲坂(さきさか)高校演劇部、いよいよ復活?! 加藤:ってことになるな。実は本当についさっき、生徒から部を作りたいって相談されて……。 加藤:で、俺が、顧問。 春野:お!副部長から顧問に昇格?やるじゃん! 加藤:そう。この俺が演劇部の顧問だって。あの頃の俺達からすると信じられないよな。 春野:ほんとねえ。あの頃私とあんたで立ち上げた演劇部が、次世代に渡る、か。 春野:……あの台本も、また日の目を見るのかしら、ね……。 加藤:……ああ。かもな。  :   :   :   :   :  和泉:(N)読んでいて思う。この物語は恋愛の物語だ。演劇のことはよく知らないけど、でも、有名な演劇の物語はそれなりに知っている。 和泉:(N)この手の物語は――悲恋だったりするんだ。  :  和泉:(N)俺は夢中になって読み進める。二人は逢瀬を重ね、フレデリックはその後も見合いの話を断り続けた。周囲の人間たちは、妻を娶る気がないフレデリックの様子に、次第に苛立ちを募らせていく。 和泉:(N)ある夜だ。セシルと逢引をしようと部屋を出たフレデリック前に、弟のダミアンが立ち塞がる。  :   :   :   :   :  ダミアン:兄上。 フレデリック:……っ。何だダミアン、こんな時間に。 ダミアン:それは俺のセリフですよ。こんな夜更けにこそこそと部屋を抜け出すとは、一体どのようなご用事で? フレデリック:それは……、 ダミアン:そういえば、兄上。覚えておいでですか。先日の父上のお話ですよ。父上も次代の公爵には兄上をと仰っておりました。 ダミアン:ですが――問題もあると。 フレデリック:……父上のような立派な公爵となるべく、私は勉学に励んできた。驕るつもりはないが、父上の期待を裏切らない自信はあるさ。 フレデリック:その「問題」とやらが何を指すのかは分からないが……それをもし抱えていたとしても……私はベルナルド領地をしかと治めてみせよう。 ダミアン:ほう……では、兄上もようやく奥方を迎える気になったわけだ。なるほど!それは吉報だ!明日にも父上に報告しなければ。 フレデリック:……好きにするがいい。  :(ダミアンは憎々しげに舌打ちをする)  :  ダミアン:そうですか……それはそれは……。兄上にも深いお考えがあったご様子、出過ぎたことを申しました。 ダミアン:ただ……兄上。俺は兄上を尊敬していないわけではありませんが……兄上はどうでしょうな。領民は俺を愚鈍な次男坊だと噂をしていますが、そうではない……!俺の目は決して、馬小屋のわら屋根の中身を知らぬような節穴ではないのですよ。 ダミアン:それだけは、肝に命じておいていただきたい……。 フレデリック:……身に沁みているよ、ダミアン。  :(ダミアンはフレデリックをひと睨みすると、廊下を歩き去る)  :  フレデリック:天命と運命。……僕の心が向く先は……、  :(廊下の陰からセシルが出てくる)  :  セシル:フレッド……。 フレデリック:……!セシ、ル……一体いつからそこに……。 セシル:ずっとよフレッド……約束の時間になっても現れないから、扉を叩こうと思っていたの……。だからね、フレッド。ずっと、ずっと聴いていたのよ……!今の話を、ずっと……! フレデリック:セシル……。 フレデリック:……っ、セシル、お願いだ。僕の手を取ってくれ。共にベルナルドを出よう。 セシル:……!?な、何を馬鹿なことを言っているの。貴方は……貴方は領主になるのでしょう!?……私は良いの、フレッド……。ひとときの夢を見せてもらった、幸せだった……! セシル:私は……私はこの思い出だけで生きていける。分は……弁えているつもりよ。 フレデリック:そんなことを言わないでくれ……。確かに僕は領主の息子として産まれた!でも、今は―― フレデリック:今ここにいるのはフレデリック・ベルナルドではなく、君を愛しているただの男。ただのフレッドだ……! フレデリック:そうだ……僕は君を愛しているんだ……!君のその顔――傷ついたようなその顔を見た瞬間に、僕は心からそれを思ったんだ……! セシル:今は!そうね、今はそうかもしれない!でも、ならこの時を過ぎたら……?この逢瀬の一瞬が過ぎたら、貴方はまたフレデリックに戻らなくてはならないのよ! セシル:……フレデリックとフレッド、その2つを……同じ箱に入れ続けることは出来ない。 分かるでしょう?……いえ、どうか。どうか……。分かって……フレッド。 フレデリック:わかるさ……どうしようもなくわかってしまうんだよ、セシル……。僕のわがままで君を巻き込んでしまった。そんな僕の弱さが、君をより一層愛おしくさせてしまっているんだ。どうしようもなくおかしくなってしまいそうなんだよ、セシル……! フレデリック:僕がどちらの箱に入るべきなのか……僕には……決められないんだ……。 セシル:私は――  :   :   :   :(職員室・昔話に花を咲かせる加藤と春野)  :  加藤:あーそうそう、村石が背景セットぶっ倒して。大変だったなー、あれ。お前が適当に補修したもんだから、俺が後で学校で直してさ。 春野:えー?結構上手く直したつもりだったけどなーあれ。あんたが細かいんだって。 加藤:そういうところがだな――あぁクソ。思い出したら腹立ってきた……! 加藤:あのなぁ!セットってのは演劇でも重要な要素なんだよ!お前が演技にしか気を使えないから、こっちは苦労したんだぞ!? 春野:(吹き出す) 加藤:……何故そこで笑う。 春野:いや、だって。……あんたがそう色々立ち回ってくれたから、私部長を……演劇できてたんだなって。……そう思ったら何か――  :(間)  :  春野:ありがとね。 加藤:……急に何言ってるんだか……。第一、春野が俺を演劇部に引きずりこんだんだろうが。そもそも、春野がいなかったら、俺は演劇部に入ってすらいなかったんだから。 春野:キッカケはね。……でもあんたは、結果どんどんと演劇にのめり込んでく。 加藤:一方で俺を引きずり込んだ張本人は、三年になると同時に、大学受験を理由にあっさりと引退しちまうわけだ。 春野:それは……まあ。人生かかってたし? 加藤:……人生ね。お前って本当、考えてないようで考えてるんだよな。いつも。 春野:んー?考えてないよ?考えてないから、考えないと考えられないんだよ。 加藤:また訳の分からないことを……。 春野:そうかなー、単純だよ。意外と。  :(春野は笑って頭を掻く)  :  春野:あーあ。私、あんたと同じ大学行きたかったんだけどな。  :(間)  :  春野:黙るなよ。オイ。 加藤:……俺は。俺はお前とずっと、舞台の上にいたかったよ。 春野:そうくるかぁ……。まあ、そうだよね。  :(間)  :  春野:同じ箱には、入れないんだもんね。  :   :   :   :   :   :  和泉:(N)演劇は、わからない。でも何故か、この物語がどうして産まれたのかは、なんとなくだけどわかる気がした。 和泉:(N)手書きの文字。少し癖はあるけれど綺麗な字。終わりに進むにつれて、何度も何度も消し直した痕が残っている。迷っているんだ、きっと。……この先がどうなるのか。 和泉:(N)フレデリックとセシルが、どうなるのかを――  :   :   :   :   :(ボドワンはフレデリックと共に屋敷の中を歩いている)  :  ボドワン:いやぁ! 実に安心しましたぞ!このボドワン、今日ほど明るい知らせを聴いたのは、フレデリック様とダミアン様がお産まれになった時以来です! フレデリック:あまりはしゃいでくれるなボドワン。……まだ婚約しただけだ。 ボドワン:何をおっしゃいます!リシャール公爵家といえば、西部の交易を取り仕切る大貴族!我が領にとって、リシャール公爵家と関係を結べるというのは、それだけでもありがたいことですぞ! ボドワン:それに、奥方様になるクラリス様は十三と若く、美しさはもちろんのこと、身体も丈夫だと伺っております。必ずや、立派なお世継ぎを産んでくださるでしょう! フレデリック:……そうだな。きっとそうなる。……そうするさ。 ボドワン:クラリス様がこちらに到着するのは明日の正午となっております。明後日には婚姻の儀を行い、それから盛大な披露宴を――まったくもって!いやはや忙しくなりますなぁ! ボドワン:こうしてはいられない!フレデリック様、体調を崩されてはかないませんからな!今日は風に当たるのも程々にしてくださいませ!  :(ボドワンは駆け足で廊下を走っていく)  :   :(間)  :  フレデリック:あぁ。……最後になるさ。自由に風を受けるのは……。  :(フレデリックはベランダの外に出て街を見下ろす)  :  フレデリック:……街ではこんなにも……皆、自由そうに歩いているというのに……。どうして僕はこんなところに――  :(視界の先にセシルを見つける)  :  フレデリック:あれは……!セシル!?  :  フレデリック:どうしてこちらを見ている。 フレデリック:どうしてそんな顔で僕を見上げている! フレデリック:何を言っている!何を思っている!……セシル!  :  フレデリック:その大荷物はなんだ!馬車を待っているのか!一体どこへいくと言うんだ! フレデリック:僕の見えないところへ行くというのか、セシル!  :(フレデリックは屋敷を飛び出す)  :  フレデリック:行かせはしない!どこにも!どこにも行かせはしない、セシル!セシル!待ってくれ、セシル……!  :(間)  :  セシル:……考えていました。貴方が来てくださる方がいいのか、会わずに馬車に乗った方がいいのか。  :(セシルはフレデリックに背を向けたまま言う)  :  セシル:本当は、きっと会わない方が良いんです。分かってます。でも。……でもフレッド。私は貴方がこうして追いかけてくれて、やはりどうしようもなく嬉しいの。 フレデリック:セシル……ああ、セシル……!固く両の目を閉じていても、君の姿が浮かんで暗闇を見ることができない! フレデリック:固く耳を塞いでいても、君の声と、幼い頃に共に吹いた草笛の甲高い音が、僕を孤独にさせないのだ! フレデリック:僕は……やはり僕は――どうしようもなく君を愛している!  :(間)  :  セシル:吹き過ぎた草笛はもう歌えない。子供の頃の甘く淡い記憶は……もう、ただ遠い残像でしかないの。フレッド……。 フレデリック:僕は……僕は君の言葉が欲しい!僕を惑わすすべてのものより、僕を操るすべてのことより!君の言葉が――君の言葉が欲しいのだ!セシル! セシル:目を閉じても、私には見えるわ。貴方が民に手を振る姿が。 セシル:耳を塞いでも、私には聴こえるわ。皆が貴方に送る喝采が。 セシル:貴方にはまだ見えなくても、貴方にはまだ聴こえなくても。貴方以外のみんなには見えて、そして聴こえてる。 セシル:貴方が……フレデリック様が、立派な領主になるその未来が。 フレデリック:セシル……。 セシル:でも。でも私は……このベルナルドという舞台で、貴方が私の横で、私と共に立ってくれることを夢見てた。……いえ、まだ見ている。……馬鹿よね、ほんと……。 フレデリック:…………。 セシル:……ねえ。同じ箱には入れないのなら。貴方は一体誰なの……?フレデリック様?それとも……それとも……フレッド? フレデリック:僕は――  :   :   :   :   :   :  和泉:あれ……この先は……?この先は――どこにも、ない……? 和泉:嘘だろ!?めっちゃ気になる!どうなるんだよ!セシルは!フレデリックは!?  :(教室のドアが開く)  :  春野:わーーーーー!なっつかし!教室ぜんっぜん変わってない! 和泉:あ、え。 春野:あ!君が期待の新星くんかな?ふふ。ごめんねー突然。びっくりしたよね。私はここの演劇部のOBで、春野って言います。はじめまして。 和泉:あ、俺はその……和泉です。えっと、春野、さん……は、加藤先生と同じってことっすよね……?……ん? 和泉:あー!ハル!ハルだ!も、もしかして!? 春野:ん?ハル? 和泉:えっと……これです!この台本!これ、ハルって署名が入ってて……春野さんが書いたんじゃないっすか!? 春野:ええっと……? 和泉:これ、最後の方のページがなくって!めちゃくちゃ続き気になって!だから続き……!教えて下さい!お願いします! 春野:……あー。  :(加藤が教室に入ってくる)  :  加藤:おいお前!勝手に校内歩き回んな……!っていうか勝手に教室入んな! 春野:え〜?だって、初代部長としては〜、やっぱり次代の部長さんには挨拶しときたいじゃん? 加藤:ったく……。すまんなぁ、和泉。変なやつに絡ませちまって……。 和泉:いや、それはいいっすけど……。 春野:変な奴とは何よ、変な奴とは! 春野:……ね!ってか見てよこれ!懐かしくない?これ卒業公演のやつ……だよね? 春野:……良いなあ、私演れてないもんなあ。 和泉:え……? 加藤:ん?……あああああ!それ!なんでんなもんがそこに! 春野:へへ。和泉くん。それ、最後まで読めなかったでしょ。実はこれのラストのページね……私が持ってるの。 春野:卒業公演の後に、持って帰ってちゃった。 加藤:(ため息)やっぱお前か……。 春野:だって、欲しかったんだもん。 加藤:演者で演ってりゃ、春野の分の本も刷ってやったのにな。 春野:試験と丸かぶりだったからねー。 和泉:卒業公演……。え、じゃあ春野さん!この台本って最後どうなるんすか!?あとこれタイトルとかもないし……! 春野:ん?んー……ふふ。だーめ。教えてあげない。 和泉:は、嘘!?なんでだよ! 加藤:おい春野……お前―― 春野:あ。そういえば私もう、春野じゃないから。 加藤:は? 春野:結婚したの。今日は、先生方にその挨拶に来たんだ。  :(加藤は目を見開いた後、頭を掻く)  :  加藤:おう……そっか。おめでとう――あー、えっと……。 春野:確かに名字は変わったけどさぁ〜、そんな露骨に困るなよぉ。 加藤:結婚おめでとう。結(ゆい)。  :(春野は驚いた顔をした後、笑う)  :  春野:……それ、あの頃そう呼んで欲しかったな。 加藤:(笑って)うるせえ、幸せになれよ。バーカ。 春野:言われなくてもなるよ。バーカ。 春野:(和泉に向き直って)和泉くん。演劇、楽しいよ。……楽しんでね! 和泉:は、はい……。 春野:じゃあ、私行くわ。……またね、和泉くん!晴太(はるた)!  :(春野は手を振りながら教室を出ていく)  :  和泉:(小声で)ハル、タ……? 加藤:(頭を抱えて)……悪い、和泉。ここであったことは、忘れてもらってもいいか……。 和泉:わかんないすけど……わかんないなりに、わかりました。はい。 加藤:そしたら部活動の申請書コピーしてきたから――ん?なんだ、その顔。 和泉:あの、ハルタ、って……。 加藤:え?……俺の名前だけど? 和泉:……え。 加藤:だから、俺の名前。加藤晴太(はるた)――いや……確かに加藤で覚えやすいからそれでいいんだけどな……?ちょっと寂しいものがあるぞ……。 和泉:加藤、晴太……。えと、この台本のハルって、もしかして……。 加藤:ああ。この本を書いたのは……俺だよ。  :(加藤は台本を手に取る)  :  加藤:懐かしいなぁ。俺さ、最初はさっきの――結に引きずられて演劇部に入ったんだ。それで、高校三年のときにはすっかりハマっちまってな。 加藤:受験勉強そっちのけで、後輩と一緒に卒業公演やろうって息巻いて……それまではまあ、部員で順番に本書いちゃあいたものの戯曲集が中心だったんだが……最後は絶対オリジナルだ!俺がイチから全部書くぞ!なんて大口叩いて――あ、いや!別にお前にそうしろって言ってるわけじゃないぞ!?……勉強第一だからな、一応。  :(間)  :  加藤:それで、書き始めてみたら……これが難産も難産でな。最初は良かったんだが、どんどんこう……先が見えなくなっていって……。出来上がったころには公演も近くてさ。練習の時間も取れないし、当然公演はボロボロでさ。 加藤:まあ……若気の至りってやつだよ。 和泉:……あの。 加藤:ん? 和泉:俺、演劇はまだ全然……これから始めるところで。台本がどう産まれるとか、そういうのもまるでわかんなくて。でも……途中までだけどこれを読んで、その……。 和泉:間違ってたらごめんなさい。……これ!これってもしかして……先生の―― 加藤:俺の? 和泉:(言い淀んで)……逆、じゃないですか。書いてて先が見えなくなったんじゃなくて、先生は……! 和泉:これを書くことで、自分の中にあった……まとまらない気持ちを整理しようとしたんじゃないですか……? 加藤:……和泉。  :(間)  :  加藤:俺は正直、フレデリックがどうとか、セシルがどうとか、書き始めたときにはきっと考えちゃいなかったんだよ。  :(間)  :  加藤:でも、そうだな……。お前の感じたことは、あの時の俺が感じたことに近いのかもしれない。  :(間)  :  加藤:俺は――俺達は、一緒に居たかったのかもしれない。俺は、この本を書いたとき、それに気が付いたのかもしれない。 加藤:(笑って)でも。……それを演劇に乗っけちまったら、そりゃあ駄作だよ。  :(間)  :  和泉:先生……。 加藤:だからだ!お前らが演劇部をやるっていうなら!しっかりとした戯曲から、みっちり始めてもらうぞ? 加藤:覚悟しておけ!俺が演劇の楽しさってやつを、その身に刻み込んでやる!ふ、ふははは……! 和泉:うげ……。や、やばい。一皮剥いたらとんでもない演劇馬鹿が出てきた……。 加藤:馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 和泉:い、いやぁ……俺はもうちょっとゆるいところからでも―― 加藤:(話を聞かずに)ああ、あと和泉!お前の読解力には光るものがある。俺の本を読んで出たあの推察!俺は非常に感動した!お前の国語の成績は今後間違いなく伸びる! 和泉:いやほんと!落ち着いてって加藤先生! 加藤:よおおし!職員会議なんて待てん!すぐに話しをつけてくる! 和泉:うわー、なんか変なテンションになってるし……! 和泉:(小声で)春野さんが結婚してたのショックだったんかな……。  :(和泉は教室から飛び出そうとする加藤の肩を掴む) 和泉:あ!ちょーっと待った、先生! 加藤:お?なんだ? 和泉:結末は――内緒って言われたから、いいんだけどさ。 和泉:(少し考えて)……うん。先生の書いた、あの台本。……タイトルくらいは、教えてくださいよ。 加藤:あー、うん。タイトル、タイトルな……。 加藤:そう、だな。  :(加藤は困ったように笑う)  :  加藤:タイトルは――  :   :   :   :   :   :   :   :   :   :『ルドベキアの箱』  :   : ルドベキア:あなたを見つめる。  :       正しい選択。  :   :   :   :【台本終了】  :   :   :   :   :