台本概要
574 views
タイトル | Fragrance |
---|---|
作者名 | VAL (@bakemonohouse) |
ジャンル | ホラー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
Smellの性別逆転シナリオです。 特に制限はございません。 574 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ケイト | 女 | 147 | 本文参照 |
テリー | 男 | 147 | 本文参照 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:(登場人物紹介)
ケイト:バーテンダー。酒はあまり強くない。お人好しで商売上手とは言えない。
テリー:バーに来た客。不思議な香りを纏っている。その香りがケイトを惑わせる。
:
0:(本編)
:
ケイト:・・・今日もいい香りね。テリー、愛してるわ。
テリー:本当に?こんな僕を愛してくれるのかい?
ケイト:ええ。私はもう貴方以外を愛せないわ。
テリー:僕もだ・・・愛してるよ。ケイト。
:
ケイト:どうして彼とこんな関係になってしまったのか・・・全てはあの夜から始まった。
ケイト:彼が大雨の中、涙か雨かわからないほどずぶ濡れで、私のバーに来た、あの夜から。
:
0:間―
:
ケイト:いらっしゃいませ。・・・っ。
テリー:1人なんだけど。空いてるかい?
ケイト:席は空いておりますが・・・傘をささずに来たんですか?
テリー:ああ。急に降り出してしまって。
ケイト:そう・・・ですか。
テリー:床を汚してしまう客は、お呼びでないかな。
ケイト:いえ、歓迎しますよ。今日は朝からずっと大雨ですから。客足が全く伸びないんです。
ケイト:どれだけ不思議な人でも、ずぶ濡れの人でも、喉から手が出るほど欲しいところですよ。
テリー:ははっ。なら、お言葉に甘えさせてもらうよ。
ケイト:カウンターでよろしいですか?
テリー:構わないよ。僕の話を聞いてくれるんだろ?Dead of the night lady.
ケイト:もちろん。あなたの気が済むまでお相手いたしましょう。Get soaked man.
テリー:素敵だね。
ケイト:貴方も。・・・私の服でよければ、お貸ししましょうか?
テリー:気持ちは嬉しいけど。流石にちょっと・・・
ケイト:大丈夫ですよ。こんな天気な上、深夜ですから。
テリー:生憎だけど、僕はドラッグクイーンになるつもりはないよ。
ケイト:ふふ。冗談ですよ。元従業員の服が置きっぱなしになっているので、そちらをお使いください。
テリー:そうか。なら遠慮なく借りることにするよ。ありがとう。
テリー:着替えは何処ですればいいかな?
ケイト:こっちにゲストルームがありますので、そちらをお使いください。
テリー:ありがとう。あ、それと――
ケイト:ビニール袋でよろしいでしょうか?
テリー:気が利くね。
ケイト:別料金ですけど。
テリー:いいよ。服のレンタル料も貰ってくれるかい?
ケイト:わかりました。では・・・私と乾杯してください。
テリー:そんなのでいいの?
ケイト:ええ。それがいいんです。さ、早く着替えてください。風邪をひいてしまいますよ。
0:間―
テリー:似合ってる?って聞くのはおかしいかな。
ケイト:いえ、とても似合ってますよ。
テリー:でもこの服、結構高そうだけど本当に借りて大丈夫?
ケイト:かなり前にいた従業員の服なので、気にしないでください。
テリー:そうは言っても。
ケイト:私の兄のなんです。結婚を機に他国に渡りました。だから気にしないでください。
テリー:そういうことなら、お兄さんに感謝するよ。
ケイト:そうしてやってください。ああ、それからコレもどうぞ。
テリー:スープ?ここはイタリアンレストランだったかな?
ケイト:ただの趣味ですよ。身体は中から温めないと。
テリー:優しいね。雨宿りに来たつもりが、根付いてしまいそうだ。
ケイト:ふふ。ほら、冷めないうちに。
テリー:ああ。頂くよ。
テリー:・・・美味しい。すごく美味しいよ。
ケイト:それは良かった。
テリー:街のレストランにも負けてないね。
ケイト:・・・・・
テリー:バーじゃなくて、そっちの方が絶対向いてるよ。スープでこんなに美味しいんだから、他の料理も食べてみたいくらいだ。
ケイト:スパゲッティならすぐ用意できますが、食べますか?
テリー:いいのかい?ぜひお願いしたい。これで美味しかったら、シェフになることを薦めるよ。
ケイト:・・・元シェフなんです。多分、お客様が言っているレストランの。
テリー:ああ、そうなのか。どうしてやめてしまったんだい?
ケイト:高級志向が身体に合わなかっただけですよ。
テリー:そうか・・・勿体無いね。
ケイト:・・・クリームとトマト。どっちが好きですか?
テリー:トマトでお願いするよ。
ケイト:わかりました。少しお待ちくださいませ。
0:間―
ケイト:彼は私の料理を食べると、子供のように目を輝かせてた。それがとても眩しくて
ケイト:昔、兄に振舞った時のことを思い出させた。ずぶ濡れの理由は、気になったけど、聞くのはやめた。
ケイト:聞いたところで教えてくれないだろうし、聞いちゃいけない気がしてた。
テリー:彼女の作る料理は美味しかった。愛情がこもってて、冷え切った心にも、身体にも染み込んでいく感じがした。
テリー:それから、彼女が言っていた高級志向が合わない。その意味も理解できた。
テリー:結局、彼女は僕から、僕の飲んだ1杯と彼女の飲んだ1杯分の料金しか請求しなかった。
テリー:これは趣味だからって。
テリー:・・・無意識に自分の婚約者と比べてしまったよ。あの人が彼女みたいに暖かい人だったら。優しい笑顔で話してくれる人だったら。目を見て、僕の話を聞いてくれる人だったら・・・なんて。
テリー:でも僕は帰らないといけなかった。婚約者が待つ家へ。
0:間―
ケイト:いらっしゃいませ。今日は濡れてないんですね。
テリー:今日は傘を持ってきたからね。
ケイト:傘をお持ちなんですか?てっきりお嫌いなのかと。
テリー:確かにあまり傘は好きじゃないけれど、せっかく買ったプレゼントを濡らしたくは無いよ。
ケイト:それは?
テリー:この間服を借りたお礼。
ケイト:気になさらなくて大丈夫でしたのに。
テリー:ダメだよ。男としてのプライドがあるからね。
ケイト:そういうもの・・・ですかね。
テリー:そういうものだよ。ほら、受け取って。
ケイト:はい。
テリー:それにしても、今日も客はいないな。
ケイト:雨の日はこんなものですよ。
テリー:そうなんだ。・・・それじゃあ。
ケイト:これだけ手が空いてると、どんな料理でも作れそうですね。
テリー:本当かい?それはすごく嬉しいなあ・・・でも。
ケイト:ん?どうされました?
テリー:ちゃんと料金は取って欲しいんだ。
ケイト:しかしメニューではありませんし・・・
テリー:僕は施しを受けるほど困ってないよ。
ケイト:ですが・・・
テリー:言い訳は聞かないよ。ちゃんと払わせてくれ。
ケイト:はあ・・・わかりましたよ。えっと・・・
テリー:テリーだよ。それから敬語もやめて欲しい。堅苦しくて苦手なんだ。
ケイト:じゃあ、テリーさん。
テリー:テリー。
ケイト:テリー・・・
テリー:いいね。君は?
ケイト:私はケイトよ。
テリー:ケイトだね。よろしく、ケイト。
0:間―
テリー:今日も美味しかったよ。
ケイト:そう?ありがとう。
テリー:本当、毎日でも食べたくなるくらいだ。
ケイト:同じような料金払うなら、レストランに行った方が食材も良いのを使ってると思うけど?
テリー:へえ。ケイト、君って中々自信の無い人みたいだね。君の作った料理を食べたいから来てるんだよ。
ケイト:少し照れるわね。ありがとう。
テリー:家からもそう遠くないし。最高の場所さ。
ケイト:そうなのね。もしかしたらご近所さんかも。
テリー:それは・・・嬉しいけど、嬉しくないな。
ケイト:どうして?
テリー:僕、婚約者がいるんだけど。
ケイト:婚約者・・・
テリー:そう。一緒に住んでるんだ。
ケイト:そう・・・なのね。
テリー:ああ。彼女、凄く嫉妬深いんだ。もし、ばったり会ったりしたら・・・と思うだけでもゾッとするよ。
ケイト:会っただけで?
テリー:そう。その場では優しく振舞うだろうけど。彼女、外面だけは良いから。
ケイト:家では違うの?
テリー:まっ・・・たく違うよ!別人って言って差し支えないレベルだね。
ケイト:そんなに?
テリー:あの女は誰!何処で知り合ったの!何故仲良くなったの!住所は!仕事は!年齢は!・・・って間髪入れずにまくし立ててくるね。
ケイト:相当ね。・・・あの、テリー。
テリー:ん、何?
ケイト:いえ、何でもないわ。
テリー:何だよ。一世一代の告白でもするつもりかい?
ケイト:そうじゃなくて・・・
テリー:はっきり言ってくれ。堅苦しいのは苦手だ。
ケイト:・・・貴方、幸せなの?
テリー:もちろん。って言えたら良いんだけど。
ケイト:・・・・・
テリー:流石にちょっと疲れてきたかもね。
ケイト:何でそんな人と結婚しようなんて。
テリー:最初は素敵な人と思ったんだ。ほら、外面はいいから。それが段々とメッキが剥げてきたって感じだね。
ケイト:婚約破棄とかは?
テリー:したいけど、そんなこと言い出したら何しでかすかわかったもんじゃない。
ケイト:でも今のままじゃ・・・ごめんなさい。踏み込みすぎたわね。
テリー:いいんだ。話し出したのは僕だよ。
ケイト:・・・・・
テリー:ああ。もうこんな時間だ。帰らないと。
ケイト:本当ね。貴方と話してると時間を忘れてしまうわ。
テリー:僕もだよ。ケイト。・・・あのさ。
ケイト:ん?
テリー:1度だけ抱きしめさせてくれない?
ケイト:え?
テリー:1度だけでいいんだ。
ケイト:わかったわ。別料金だけど、構わないかしら?
テリー:ははっ。良いよ。いくらでも。
ケイト:じゃあ、来て?
テリー:ありがと。
ケイト:・・・貴方っていい香りがするのね。
テリー:そう?フェロモンかな。
ケイト:かもしれないわね。私は好きよ。
テリー:香りが?それとも僕自身が?
ケイト:さあ、どうかしら。
テリー:意外と意地悪だね。
ケイト:そんなことはないわよ。気のいい看板娘って評判なんだから。
テリー:その割には、客足が伸びないみたいだけど?
ケイト:痛いところを突くわね。雨の日は基本、こんなものよ。
テリー:そうか。じゃあ次の雨の日の夜にまた来るよ。
ケイト:楽しみにしてるわね。
テリー:雨の多い地域で良かったよ。
ケイト:私もそう思うわ。最近になって、だけどね。
テリー:・・・それじゃあケイト。またね。
ケイト:ええ、また。気をつけて。
0:間―
ケイト:テリーに抱きしめられた瞬間から、胸が高鳴った。恋なのかはわからないけど、離れたくないと感じたわ。
ケイト:私は雨が嫌いだったのに、その日から雨が降るのが楽しみになった。
テリー:僕はケイトに癒しを求めてた。彼女と勝手に比べて、優しく美しいケイトに甘えてた。
テリー:・・・僕はそろそろ決めなくちゃならない。ケイトに僕の罪を話すかどうかを。
0:間―
テリー:今日は雨なのに結構忙しいみたいだ。
ケイト:世間は連休中だからかも。私には関係ないけど。
テリー:僕にも関係ないよ。自宅で出来る仕事だと余計に。
ケイト:そう言えば聞いてなかったわね。貴方の仕事。
テリー:気になるかい?
ケイト:教えてくれるなら是非。
テリー:デザイナーをしてるんだ。
ケイト:だからオシャレなのね。
テリー:よく言うよ。出会った時の格好を忘れたのかい?
ケイト:あれはああいうコンセプトでしょ?
テリー:そうだね。差し詰め、Norway rat.とでも言ったところかな。
ケイト:貴方がネズミ?私にはそうは見えなかったわね。例えるなら、Lonely wolf.みたいな。
テリー:ははっ。そんな感じに見えたの?
ケイト:そうね。どこか愛情を求めてるような――ごめんなさい、注文みたい。少し待ってて。
テリー:ああ、わかったよ。
0:間―
テリー:ケイトはとてもいい人だ。僕の目をまっすぐ見て話を聞いてくれる。きっとどれだけくだらない話でもしっかり聞いてくれるんだ。
テリー:・・・僕は、何がしたいんだろうか。何もかも中途半端。どうしたら正解なんだ?
テリー:何度もケイトに尋ねようと思った。だけど、言葉が出てこないんだ。もし嫌われたら、拒否されたら・・・って。
テリー:こんなに臆病な男じゃ無かったはずなのにな。笑い話にもなりやしないな。
ケイト:・・・どうしたの?
テリー:え?いつから・・・
ケイト:ずっと居たわよ。何度も話しかけてたのに。
テリー:少し、考え事をね。
ケイト:どんなこと?
テリー:大したことじゃないよ。
ケイト:にしては、凄く深刻そうな顔してたけど?
テリー:・・・・・
ケイト:テリー?
テリー:・・・次会った時に話すよ。それまで少しだけ時間をくれないか?
ケイト:言い辛いなら無理に聞かないわよ。
テリー:ううん。いつかは話したいと思ってたから。
ケイト:そう。じゃあ次会うときに聞くわ。
テリー:ありがとう。あ、ほら。また呼んでるよ。珍しいお客さんが。
ケイト:ほんとね。行ってくるわ。
テリー:今日はもう帰るよ。
ケイト:え?いいの?まだ何も作れてないのに。
テリー:また次にするよ。お代はここに置いておくね。
ケイト:ごめんなさい。ありがとう。
テリー:ううん。またねケイト。
0:間―
ケイト:ふう。そろそろ片付けなきゃ――ん?コート・・・テリーの忘れ物ね。全然気付かなかったわ。
ケイト:・・・何?この香り。・・・美しい香り。このコート?
ケイト:これだわ。・・・ああ。テリーの香り。この間より濃い香り・・・香水かしら。
ケイト:ずっと嗅いでいたいわ・・・テリー・・・愛してるわ。テリー・・・
テリー:雨は僕を隠してくれる。雨は彼女を溶かしてくれる。雨は、雨だけは僕の味方。
テリー:今週末は確か大雨だね。その日に僕はケイトと会う。僕の全てをケイトに知って欲しい。
テリー:・・・きっと僕はケイトに恋をしてる。そんな資格は無いのに。でも、気持ちは本物なんだ・・・
0:間―
テリー:CLOSED・・・もうそんな時間か。まさか閉店してるなんて。
ケイト:テリー。待ってたわよ。
テリー:ケイト、いたのかい。もう帰ってしまったのかと思ったよ。
ケイト:今日は早めに店仕舞いしたの。どうせ客足は億劫だろうけど、貴方に料理を作ってあげたくて。
テリー:・・・ずるいね。言い出せなくなりそうだ。
ケイト:ゆっくりで構わないわよ。ほら、中に入って。
テリー:ああ。
テリー:今日は何を作ってくれるんだい?
ケイト:私の得意料理をご馳走しようと思って。
テリー:それは楽しみだね。どんな料理なの?
ケイト:ハンバーグ。子供の頃から好きなのよ。
テリー:良いね。僕も好きだよ。
ケイト:・・・両親が早くに亡くなったの。だから私がいつも料理を作ってた。
テリー:だからそんなに上手なんだ。
ケイト:卒業式の日も誕生日も、兄が他国に行く前夜も、特別な日はハンバーグを作ったわ。
テリー:思い出の料理か。僕が食べてもいいのかい?
ケイト:テリーにだから食べて欲しいのよ。
テリー:・・・僕、あの日ここに来て良かったよ。君に、ケイトに出会えて幸せだ。
ケイト:私もよ。それじゃあ、作ってくるわね。
テリー:うん。待ってるよ。
0:間―
ケイト:お待たせ。どうぞ、召し上がれ。
テリー:・・・いい香りだ。絶対美味しいって言う自信があるよ。
ケイト:私も絶対言わせる自信があるわ。
テリー:じゃあ・・・いただきます。
ケイト:・・・どう?
テリー:お兄さんが心から羨ましいと思ったよ。こんなハンバーグ食べたこと無い。最高だよケイト。
ケイト:お褒めに預かり光栄です。お客様。
:
テリー:・・・本当に美味しかった。ありがとうケイト。
ケイト:私の方こそ、人のために料理する楽しさを思い出せたわ。ありがと。
テリー:・・・次は僕の番だね。
ケイト:無理しなくても良いのよ?
テリー:ありがとう。・・・ふう・・・
テリー:ケイト。
ケイト:何?
テリー:今から僕の家に着いて来てくれないか?
ケイト:貴方の家って、婚約者と住んでる?
テリー:そう。
ケイト:・・・私はそこに行ってどうすれば?
テリー:もし僕の全てを受け止める自信があるなら来て欲しい。そうじゃないならここにいてくれ。その時は、もう君には会いに来ない。
ケイト:究極の選択ね・・・
テリー:それくらいの覚悟がいることなんだ。
ケイト:・・・行くわ。貴方の全てを知りたい。
テリー:嬉しいよ。・・・好きだよ、ケイト。
ケイト:私もよ、テリー。
:
テリー:この選択が全てを変えた。僕とケイトの何もかもを。
ケイト:でも私は何度同じ選択を迫られても、同じ道を歩んだと思うわ。
0:間―
ケイト:本当にご近所さんだとは思わなかったわ。
テリー:そうなの?ここからどのくらい?
ケイト:あそこに黒いアパートメントがあるでしょ?私はあそこに住んでるの。
テリー:本当に近いね。
ケイト:でもこんなに近いのに1度も会わなかったのは不思議ね。
テリー:僕は在宅ワークだし、彼女は仕事してないから。
ケイト:貴方が全部支えてるの?
テリー:・・・1つだけ約束してくれる?
ケイト:どんな約束?
テリー:今から見たことや話したこと、もしそれが原因で僕を嫌いになったとしても、誰にも言わないで欲しいんだ。
ケイト:・・・わかった。約束するわ。
テリー:ありがとう・・・じゃあ入って。
ケイト:・・・この香り。テリーの香りだわ。
テリー:僕の香り?
ケイト:ええ。店に忘れていったコートと・・・でも、それ以上にいい香りよ。
テリー:・・・ケイト?
ケイト:あっち・・・あっちの方からする。
テリー:ケイト。君ちょっと変だよ?
ケイト:ごめんなさい。何だかこの匂いを嗅ぐと、頭が痺れるようで・・・いい気分になるのよ。
テリー:僕にはわからないけど・・・どこからするの?
ケイト:こっち・・・こっちよ。
テリー:・・・っ!そっちは!
ケイト:あれだわ・・・あの冷蔵庫。
テリー:ケイト!ちょっと待って――
ケイト:これは・・・死体?
テリー:・・・僕の婚約者だ。
ケイト:テリー・・・貴方がやったの?
テリー:ああ。そうだよ・・・
ケイト:そう・・・理由はある程度、予想は出来るけど・・・
テリー:その察しの通りだよ。もう限界だったんだ・・・
ケイト:・・・1つだけ聞いてもいい?
テリー:何だい?
ケイト:この死体、欠損だらけなんだけど・・・どうしたの?
テリー:雨の日、少しずつ持ち出して下水に流してたんだ。この地域は雨の日の人通りが少ないから。
ケイト:そうなのね。この残りも処理するの?
テリー:ああ。出来るだけ早く。彼女の知り合いから捜索願いが出されるまでには――
ケイト:私の店に運びましょう。
テリー:・・・え?
ケイト:店には大きな鍋があるわ。煮込んでしまえばすぐ下水に流せるわよ。
テリー:ケイト。君まで犯罪者になってしまうよ?
ケイト:わかってる。でも私は貴方と生きていきたいの。
テリー:・・・ケイト。好きだ。愛してる。
ケイト:私も愛してるわ。テリー。
:
0:間―
:
テリー:雨の降る深夜。僕とケイトは婚約者だった肉塊をケイトのバーまで運んだ。
テリー:ケイトは慣れた手つきで、豚でも解体するかのように、細切れを大鍋に入れて煮込んでた。
テリー:さっきまでわからなかった香りが店中に充満して、僕はめまいと吐き気で立っていられなくなった。
テリー:でもケイトは、笑顔で幸せそうに鍋をかき回していた。その時だけは、出会った誰よりも怖かったよ。
テリー:怖くてたまらなくて、殺してしまった婚約者よりもね・・・
:
ケイト:もう香りが消えてしまったのね。残念だわ。
テリー:ケイトの店はこびりついた悪臭で、休業せざるを得なかった。当のケイトは満足そうだったけれど。
ケイト:今日もテリーはいい香りね・・・好きよ。
テリー:今は、僕に移ったわずかな残り香を毎日嗅いでいる。
ケイト:愛してるわよテリー。何処にも行かないでね・・・
テリー:きっと彼女が愛してるのは僕自身じゃない・・・
:
ケイト:テリー・・・
テリー:香りが僕から薄れた時。
ケイト:貴方からはどんな香りがするんでしょうね。
テリー:次はケイトを殺さなきゃいけないかもしれない。
:
:
0:Fin――
0:(登場人物紹介)
ケイト:バーテンダー。酒はあまり強くない。お人好しで商売上手とは言えない。
テリー:バーに来た客。不思議な香りを纏っている。その香りがケイトを惑わせる。
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0:(本編)
:
ケイト:・・・今日もいい香りね。テリー、愛してるわ。
テリー:本当に?こんな僕を愛してくれるのかい?
ケイト:ええ。私はもう貴方以外を愛せないわ。
テリー:僕もだ・・・愛してるよ。ケイト。
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ケイト:どうして彼とこんな関係になってしまったのか・・・全てはあの夜から始まった。
ケイト:彼が大雨の中、涙か雨かわからないほどずぶ濡れで、私のバーに来た、あの夜から。
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0:間―
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ケイト:いらっしゃいませ。・・・っ。
テリー:1人なんだけど。空いてるかい?
ケイト:席は空いておりますが・・・傘をささずに来たんですか?
テリー:ああ。急に降り出してしまって。
ケイト:そう・・・ですか。
テリー:床を汚してしまう客は、お呼びでないかな。
ケイト:いえ、歓迎しますよ。今日は朝からずっと大雨ですから。客足が全く伸びないんです。
ケイト:どれだけ不思議な人でも、ずぶ濡れの人でも、喉から手が出るほど欲しいところですよ。
テリー:ははっ。なら、お言葉に甘えさせてもらうよ。
ケイト:カウンターでよろしいですか?
テリー:構わないよ。僕の話を聞いてくれるんだろ?Dead of the night lady.
ケイト:もちろん。あなたの気が済むまでお相手いたしましょう。Get soaked man.
テリー:素敵だね。
ケイト:貴方も。・・・私の服でよければ、お貸ししましょうか?
テリー:気持ちは嬉しいけど。流石にちょっと・・・
ケイト:大丈夫ですよ。こんな天気な上、深夜ですから。
テリー:生憎だけど、僕はドラッグクイーンになるつもりはないよ。
ケイト:ふふ。冗談ですよ。元従業員の服が置きっぱなしになっているので、そちらをお使いください。
テリー:そうか。なら遠慮なく借りることにするよ。ありがとう。
テリー:着替えは何処ですればいいかな?
ケイト:こっちにゲストルームがありますので、そちらをお使いください。
テリー:ありがとう。あ、それと――
ケイト:ビニール袋でよろしいでしょうか?
テリー:気が利くね。
ケイト:別料金ですけど。
テリー:いいよ。服のレンタル料も貰ってくれるかい?
ケイト:わかりました。では・・・私と乾杯してください。
テリー:そんなのでいいの?
ケイト:ええ。それがいいんです。さ、早く着替えてください。風邪をひいてしまいますよ。
0:間―
テリー:似合ってる?って聞くのはおかしいかな。
ケイト:いえ、とても似合ってますよ。
テリー:でもこの服、結構高そうだけど本当に借りて大丈夫?
ケイト:かなり前にいた従業員の服なので、気にしないでください。
テリー:そうは言っても。
ケイト:私の兄のなんです。結婚を機に他国に渡りました。だから気にしないでください。
テリー:そういうことなら、お兄さんに感謝するよ。
ケイト:そうしてやってください。ああ、それからコレもどうぞ。
テリー:スープ?ここはイタリアンレストランだったかな?
ケイト:ただの趣味ですよ。身体は中から温めないと。
テリー:優しいね。雨宿りに来たつもりが、根付いてしまいそうだ。
ケイト:ふふ。ほら、冷めないうちに。
テリー:ああ。頂くよ。
テリー:・・・美味しい。すごく美味しいよ。
ケイト:それは良かった。
テリー:街のレストランにも負けてないね。
ケイト:・・・・・
テリー:バーじゃなくて、そっちの方が絶対向いてるよ。スープでこんなに美味しいんだから、他の料理も食べてみたいくらいだ。
ケイト:スパゲッティならすぐ用意できますが、食べますか?
テリー:いいのかい?ぜひお願いしたい。これで美味しかったら、シェフになることを薦めるよ。
ケイト:・・・元シェフなんです。多分、お客様が言っているレストランの。
テリー:ああ、そうなのか。どうしてやめてしまったんだい?
ケイト:高級志向が身体に合わなかっただけですよ。
テリー:そうか・・・勿体無いね。
ケイト:・・・クリームとトマト。どっちが好きですか?
テリー:トマトでお願いするよ。
ケイト:わかりました。少しお待ちくださいませ。
0:間―
ケイト:彼は私の料理を食べると、子供のように目を輝かせてた。それがとても眩しくて
ケイト:昔、兄に振舞った時のことを思い出させた。ずぶ濡れの理由は、気になったけど、聞くのはやめた。
ケイト:聞いたところで教えてくれないだろうし、聞いちゃいけない気がしてた。
テリー:彼女の作る料理は美味しかった。愛情がこもってて、冷え切った心にも、身体にも染み込んでいく感じがした。
テリー:それから、彼女が言っていた高級志向が合わない。その意味も理解できた。
テリー:結局、彼女は僕から、僕の飲んだ1杯と彼女の飲んだ1杯分の料金しか請求しなかった。
テリー:これは趣味だからって。
テリー:・・・無意識に自分の婚約者と比べてしまったよ。あの人が彼女みたいに暖かい人だったら。優しい笑顔で話してくれる人だったら。目を見て、僕の話を聞いてくれる人だったら・・・なんて。
テリー:でも僕は帰らないといけなかった。婚約者が待つ家へ。
0:間―
ケイト:いらっしゃいませ。今日は濡れてないんですね。
テリー:今日は傘を持ってきたからね。
ケイト:傘をお持ちなんですか?てっきりお嫌いなのかと。
テリー:確かにあまり傘は好きじゃないけれど、せっかく買ったプレゼントを濡らしたくは無いよ。
ケイト:それは?
テリー:この間服を借りたお礼。
ケイト:気になさらなくて大丈夫でしたのに。
テリー:ダメだよ。男としてのプライドがあるからね。
ケイト:そういうもの・・・ですかね。
テリー:そういうものだよ。ほら、受け取って。
ケイト:はい。
テリー:それにしても、今日も客はいないな。
ケイト:雨の日はこんなものですよ。
テリー:そうなんだ。・・・それじゃあ。
ケイト:これだけ手が空いてると、どんな料理でも作れそうですね。
テリー:本当かい?それはすごく嬉しいなあ・・・でも。
ケイト:ん?どうされました?
テリー:ちゃんと料金は取って欲しいんだ。
ケイト:しかしメニューではありませんし・・・
テリー:僕は施しを受けるほど困ってないよ。
ケイト:ですが・・・
テリー:言い訳は聞かないよ。ちゃんと払わせてくれ。
ケイト:はあ・・・わかりましたよ。えっと・・・
テリー:テリーだよ。それから敬語もやめて欲しい。堅苦しくて苦手なんだ。
ケイト:じゃあ、テリーさん。
テリー:テリー。
ケイト:テリー・・・
テリー:いいね。君は?
ケイト:私はケイトよ。
テリー:ケイトだね。よろしく、ケイト。
0:間―
テリー:今日も美味しかったよ。
ケイト:そう?ありがとう。
テリー:本当、毎日でも食べたくなるくらいだ。
ケイト:同じような料金払うなら、レストランに行った方が食材も良いのを使ってると思うけど?
テリー:へえ。ケイト、君って中々自信の無い人みたいだね。君の作った料理を食べたいから来てるんだよ。
ケイト:少し照れるわね。ありがとう。
テリー:家からもそう遠くないし。最高の場所さ。
ケイト:そうなのね。もしかしたらご近所さんかも。
テリー:それは・・・嬉しいけど、嬉しくないな。
ケイト:どうして?
テリー:僕、婚約者がいるんだけど。
ケイト:婚約者・・・
テリー:そう。一緒に住んでるんだ。
ケイト:そう・・・なのね。
テリー:ああ。彼女、凄く嫉妬深いんだ。もし、ばったり会ったりしたら・・・と思うだけでもゾッとするよ。
ケイト:会っただけで?
テリー:そう。その場では優しく振舞うだろうけど。彼女、外面だけは良いから。
ケイト:家では違うの?
テリー:まっ・・・たく違うよ!別人って言って差し支えないレベルだね。
ケイト:そんなに?
テリー:あの女は誰!何処で知り合ったの!何故仲良くなったの!住所は!仕事は!年齢は!・・・って間髪入れずにまくし立ててくるね。
ケイト:相当ね。・・・あの、テリー。
テリー:ん、何?
ケイト:いえ、何でもないわ。
テリー:何だよ。一世一代の告白でもするつもりかい?
ケイト:そうじゃなくて・・・
テリー:はっきり言ってくれ。堅苦しいのは苦手だ。
ケイト:・・・貴方、幸せなの?
テリー:もちろん。って言えたら良いんだけど。
ケイト:・・・・・
テリー:流石にちょっと疲れてきたかもね。
ケイト:何でそんな人と結婚しようなんて。
テリー:最初は素敵な人と思ったんだ。ほら、外面はいいから。それが段々とメッキが剥げてきたって感じだね。
ケイト:婚約破棄とかは?
テリー:したいけど、そんなこと言い出したら何しでかすかわかったもんじゃない。
ケイト:でも今のままじゃ・・・ごめんなさい。踏み込みすぎたわね。
テリー:いいんだ。話し出したのは僕だよ。
ケイト:・・・・・
テリー:ああ。もうこんな時間だ。帰らないと。
ケイト:本当ね。貴方と話してると時間を忘れてしまうわ。
テリー:僕もだよ。ケイト。・・・あのさ。
ケイト:ん?
テリー:1度だけ抱きしめさせてくれない?
ケイト:え?
テリー:1度だけでいいんだ。
ケイト:わかったわ。別料金だけど、構わないかしら?
テリー:ははっ。良いよ。いくらでも。
ケイト:じゃあ、来て?
テリー:ありがと。
ケイト:・・・貴方っていい香りがするのね。
テリー:そう?フェロモンかな。
ケイト:かもしれないわね。私は好きよ。
テリー:香りが?それとも僕自身が?
ケイト:さあ、どうかしら。
テリー:意外と意地悪だね。
ケイト:そんなことはないわよ。気のいい看板娘って評判なんだから。
テリー:その割には、客足が伸びないみたいだけど?
ケイト:痛いところを突くわね。雨の日は基本、こんなものよ。
テリー:そうか。じゃあ次の雨の日の夜にまた来るよ。
ケイト:楽しみにしてるわね。
テリー:雨の多い地域で良かったよ。
ケイト:私もそう思うわ。最近になって、だけどね。
テリー:・・・それじゃあケイト。またね。
ケイト:ええ、また。気をつけて。
0:間―
ケイト:テリーに抱きしめられた瞬間から、胸が高鳴った。恋なのかはわからないけど、離れたくないと感じたわ。
ケイト:私は雨が嫌いだったのに、その日から雨が降るのが楽しみになった。
テリー:僕はケイトに癒しを求めてた。彼女と勝手に比べて、優しく美しいケイトに甘えてた。
テリー:・・・僕はそろそろ決めなくちゃならない。ケイトに僕の罪を話すかどうかを。
0:間―
テリー:今日は雨なのに結構忙しいみたいだ。
ケイト:世間は連休中だからかも。私には関係ないけど。
テリー:僕にも関係ないよ。自宅で出来る仕事だと余計に。
ケイト:そう言えば聞いてなかったわね。貴方の仕事。
テリー:気になるかい?
ケイト:教えてくれるなら是非。
テリー:デザイナーをしてるんだ。
ケイト:だからオシャレなのね。
テリー:よく言うよ。出会った時の格好を忘れたのかい?
ケイト:あれはああいうコンセプトでしょ?
テリー:そうだね。差し詰め、Norway rat.とでも言ったところかな。
ケイト:貴方がネズミ?私にはそうは見えなかったわね。例えるなら、Lonely wolf.みたいな。
テリー:ははっ。そんな感じに見えたの?
ケイト:そうね。どこか愛情を求めてるような――ごめんなさい、注文みたい。少し待ってて。
テリー:ああ、わかったよ。
0:間―
テリー:ケイトはとてもいい人だ。僕の目をまっすぐ見て話を聞いてくれる。きっとどれだけくだらない話でもしっかり聞いてくれるんだ。
テリー:・・・僕は、何がしたいんだろうか。何もかも中途半端。どうしたら正解なんだ?
テリー:何度もケイトに尋ねようと思った。だけど、言葉が出てこないんだ。もし嫌われたら、拒否されたら・・・って。
テリー:こんなに臆病な男じゃ無かったはずなのにな。笑い話にもなりやしないな。
ケイト:・・・どうしたの?
テリー:え?いつから・・・
ケイト:ずっと居たわよ。何度も話しかけてたのに。
テリー:少し、考え事をね。
ケイト:どんなこと?
テリー:大したことじゃないよ。
ケイト:にしては、凄く深刻そうな顔してたけど?
テリー:・・・・・
ケイト:テリー?
テリー:・・・次会った時に話すよ。それまで少しだけ時間をくれないか?
ケイト:言い辛いなら無理に聞かないわよ。
テリー:ううん。いつかは話したいと思ってたから。
ケイト:そう。じゃあ次会うときに聞くわ。
テリー:ありがとう。あ、ほら。また呼んでるよ。珍しいお客さんが。
ケイト:ほんとね。行ってくるわ。
テリー:今日はもう帰るよ。
ケイト:え?いいの?まだ何も作れてないのに。
テリー:また次にするよ。お代はここに置いておくね。
ケイト:ごめんなさい。ありがとう。
テリー:ううん。またねケイト。
0:間―
ケイト:ふう。そろそろ片付けなきゃ――ん?コート・・・テリーの忘れ物ね。全然気付かなかったわ。
ケイト:・・・何?この香り。・・・美しい香り。このコート?
ケイト:これだわ。・・・ああ。テリーの香り。この間より濃い香り・・・香水かしら。
ケイト:ずっと嗅いでいたいわ・・・テリー・・・愛してるわ。テリー・・・
テリー:雨は僕を隠してくれる。雨は彼女を溶かしてくれる。雨は、雨だけは僕の味方。
テリー:今週末は確か大雨だね。その日に僕はケイトと会う。僕の全てをケイトに知って欲しい。
テリー:・・・きっと僕はケイトに恋をしてる。そんな資格は無いのに。でも、気持ちは本物なんだ・・・
0:間―
テリー:CLOSED・・・もうそんな時間か。まさか閉店してるなんて。
ケイト:テリー。待ってたわよ。
テリー:ケイト、いたのかい。もう帰ってしまったのかと思ったよ。
ケイト:今日は早めに店仕舞いしたの。どうせ客足は億劫だろうけど、貴方に料理を作ってあげたくて。
テリー:・・・ずるいね。言い出せなくなりそうだ。
ケイト:ゆっくりで構わないわよ。ほら、中に入って。
テリー:ああ。
テリー:今日は何を作ってくれるんだい?
ケイト:私の得意料理をご馳走しようと思って。
テリー:それは楽しみだね。どんな料理なの?
ケイト:ハンバーグ。子供の頃から好きなのよ。
テリー:良いね。僕も好きだよ。
ケイト:・・・両親が早くに亡くなったの。だから私がいつも料理を作ってた。
テリー:だからそんなに上手なんだ。
ケイト:卒業式の日も誕生日も、兄が他国に行く前夜も、特別な日はハンバーグを作ったわ。
テリー:思い出の料理か。僕が食べてもいいのかい?
ケイト:テリーにだから食べて欲しいのよ。
テリー:・・・僕、あの日ここに来て良かったよ。君に、ケイトに出会えて幸せだ。
ケイト:私もよ。それじゃあ、作ってくるわね。
テリー:うん。待ってるよ。
0:間―
ケイト:お待たせ。どうぞ、召し上がれ。
テリー:・・・いい香りだ。絶対美味しいって言う自信があるよ。
ケイト:私も絶対言わせる自信があるわ。
テリー:じゃあ・・・いただきます。
ケイト:・・・どう?
テリー:お兄さんが心から羨ましいと思ったよ。こんなハンバーグ食べたこと無い。最高だよケイト。
ケイト:お褒めに預かり光栄です。お客様。
:
テリー:・・・本当に美味しかった。ありがとうケイト。
ケイト:私の方こそ、人のために料理する楽しさを思い出せたわ。ありがと。
テリー:・・・次は僕の番だね。
ケイト:無理しなくても良いのよ?
テリー:ありがとう。・・・ふう・・・
テリー:ケイト。
ケイト:何?
テリー:今から僕の家に着いて来てくれないか?
ケイト:貴方の家って、婚約者と住んでる?
テリー:そう。
ケイト:・・・私はそこに行ってどうすれば?
テリー:もし僕の全てを受け止める自信があるなら来て欲しい。そうじゃないならここにいてくれ。その時は、もう君には会いに来ない。
ケイト:究極の選択ね・・・
テリー:それくらいの覚悟がいることなんだ。
ケイト:・・・行くわ。貴方の全てを知りたい。
テリー:嬉しいよ。・・・好きだよ、ケイト。
ケイト:私もよ、テリー。
:
テリー:この選択が全てを変えた。僕とケイトの何もかもを。
ケイト:でも私は何度同じ選択を迫られても、同じ道を歩んだと思うわ。
0:間―
ケイト:本当にご近所さんだとは思わなかったわ。
テリー:そうなの?ここからどのくらい?
ケイト:あそこに黒いアパートメントがあるでしょ?私はあそこに住んでるの。
テリー:本当に近いね。
ケイト:でもこんなに近いのに1度も会わなかったのは不思議ね。
テリー:僕は在宅ワークだし、彼女は仕事してないから。
ケイト:貴方が全部支えてるの?
テリー:・・・1つだけ約束してくれる?
ケイト:どんな約束?
テリー:今から見たことや話したこと、もしそれが原因で僕を嫌いになったとしても、誰にも言わないで欲しいんだ。
ケイト:・・・わかった。約束するわ。
テリー:ありがとう・・・じゃあ入って。
ケイト:・・・この香り。テリーの香りだわ。
テリー:僕の香り?
ケイト:ええ。店に忘れていったコートと・・・でも、それ以上にいい香りよ。
テリー:・・・ケイト?
ケイト:あっち・・・あっちの方からする。
テリー:ケイト。君ちょっと変だよ?
ケイト:ごめんなさい。何だかこの匂いを嗅ぐと、頭が痺れるようで・・・いい気分になるのよ。
テリー:僕にはわからないけど・・・どこからするの?
ケイト:こっち・・・こっちよ。
テリー:・・・っ!そっちは!
ケイト:あれだわ・・・あの冷蔵庫。
テリー:ケイト!ちょっと待って――
ケイト:これは・・・死体?
テリー:・・・僕の婚約者だ。
ケイト:テリー・・・貴方がやったの?
テリー:ああ。そうだよ・・・
ケイト:そう・・・理由はある程度、予想は出来るけど・・・
テリー:その察しの通りだよ。もう限界だったんだ・・・
ケイト:・・・1つだけ聞いてもいい?
テリー:何だい?
ケイト:この死体、欠損だらけなんだけど・・・どうしたの?
テリー:雨の日、少しずつ持ち出して下水に流してたんだ。この地域は雨の日の人通りが少ないから。
ケイト:そうなのね。この残りも処理するの?
テリー:ああ。出来るだけ早く。彼女の知り合いから捜索願いが出されるまでには――
ケイト:私の店に運びましょう。
テリー:・・・え?
ケイト:店には大きな鍋があるわ。煮込んでしまえばすぐ下水に流せるわよ。
テリー:ケイト。君まで犯罪者になってしまうよ?
ケイト:わかってる。でも私は貴方と生きていきたいの。
テリー:・・・ケイト。好きだ。愛してる。
ケイト:私も愛してるわ。テリー。
:
0:間―
:
テリー:雨の降る深夜。僕とケイトは婚約者だった肉塊をケイトのバーまで運んだ。
テリー:ケイトは慣れた手つきで、豚でも解体するかのように、細切れを大鍋に入れて煮込んでた。
テリー:さっきまでわからなかった香りが店中に充満して、僕はめまいと吐き気で立っていられなくなった。
テリー:でもケイトは、笑顔で幸せそうに鍋をかき回していた。その時だけは、出会った誰よりも怖かったよ。
テリー:怖くてたまらなくて、殺してしまった婚約者よりもね・・・
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ケイト:もう香りが消えてしまったのね。残念だわ。
テリー:ケイトの店はこびりついた悪臭で、休業せざるを得なかった。当のケイトは満足そうだったけれど。
ケイト:今日もテリーはいい香りね・・・好きよ。
テリー:今は、僕に移ったわずかな残り香を毎日嗅いでいる。
ケイト:愛してるわよテリー。何処にも行かないでね・・・
テリー:きっと彼女が愛してるのは僕自身じゃない・・・
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ケイト:テリー・・・
テリー:香りが僕から薄れた時。
ケイト:貴方からはどんな香りがするんでしょうね。
テリー:次はケイトを殺さなきゃいけないかもしれない。
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0:Fin――