台本概要
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タイトル | 黒いインク〜連続親殺し事件〜 |
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作者名 | 大輝宇宙@ひろきうちゅう (@hiro55308671) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
所轄の刑事として勤める黒岩の元に 交番勤務だった鉄が新人刑事として配属される。 そんな鉄の初仕事は、法で裁けない子供が母親を殺めるという重たいヤマだった。 少年の周囲を調べるうちに、鉄たちは少年の悩みを聞いていた心理カウンセラーと会う。 実在の法律、刑罰などと異なる点があるかと思います。 フィクションですので、この世界ではそうなんだなとご理解頂けますと幸いです。 事件シリーズとして数本書いています。この作品だけでも楽しんでいただけるよう作っているはずですので どうぞご利用下さい。 シリーズに興味を持たれた方がいましたらリリース順は異なりますが、現段階の時系列は下記です。 1黒いインク〜連続親殺し事件〜 2幸せの青いバラ〜連続薬物事件〜 3朱色の盃〜跡取り誘拐事件〜 4ダークレッドの婚姻〜許嫁ひき逃げ事件〜 5透明連鎖〜闇自殺サイト事件〜 ご利用の際、報告は不要ですが、作者名、タイトルは枠タイトルなどに明記してください。 投げ銭システムのある配信アプリなどでの上演可 最初から無料で聴けないものへ利用される際はトラブル回避のためにご連絡下さい。 1213 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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鉄 | 男 | 74 | 丸橋 鉄(まるはし てつ) 30歳位を想定。交番勤務を経て、所轄へ配属された刑事。 真面目、正義感が強い、誠実。 |
黒岩 | 男 | 80 | 黒岩 仁(くろいわ じん) 40代半ばを想定。本庁の刑事だったが、上の指示に納得できず独断で捜査を続けたヤマがあり所轄へ左遷されている。 洞察力があり刑事の勘が鋭い。妻は法医学者。 |
雪乃 | 女 | 34 | 黒岩 雪乃(くろいわ ゆきの) 黒岩仁の妻であり法医学者。警察に協力している民間機関クライムラボに勤めている。 |
日向 | 女 | 50 | 日向 千加枝(ひゅうが ちかえ) 区内の小中学校で心理カウンセラーとして働いている。今回事件を起こした少年たちの話を聞いていた。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:某区警察署刑事課
0:
黒岩:おぅ!来たか新人!
鉄:黒岩さん・・!
黒岩:ついに念願の刑事か。おめでとうな!
鉄:はい・・!
黒岩:まぁ、俺は前の1件で安藤警部に睨まれてここに飛ばされちまったが、自分の足で何でも調べられる所轄ってのは俺に合ってる気がしてな、仲間とも楽しくやってる。
鉄:お陰でこうして下で働けるので、俺としては嬉しいです。
黒岩:お、そうか?まぁ、それでもこのままっつーのも何だからよ、いずれお前連れて本庁に戻れるようにお前も気を引き締めてくれよ。
鉄:はいっ!よろしくお願いします。
黒岩:・・さっそくで悪いが初仕事だ。なかなか重いが・・取調室にきてくれや。
0:取調室隣。マジックミラー越しに取調室を見る2人。12歳くらいの子供が1人座らせられており、その向かいで婦人警官が話しかけている。
鉄:この子は・・?
黒岩:マスコミ発表はこれからだが、管内で起きた主婦殺しの重要参考人・・いや、星だ。
鉄:え・・?まさか。
黒岩:しかも、あの子はガイシャの息子だ。
鉄:母親殺し?
黒岩:ああ。でも俺はあんな殺人犯見た事ねぇよ。今朝から連れてきて話を聞いてるが、真っ白な紙みたいな顔して、「自分がやった」と言ったきり、なんも答えねぇ。
鉄:自ら通報したんですか?
黒岩:ああ。駆けつけた時には血まみれの母親に毛布をかけて、凶器を握りしめていた。
鉄:ずっと机を見つめていますね・・。婦人警官の言葉が届いてないみたいだ。かなりショックを受けている状態ですね。
黒岩:そうだな。こっちでの勾留は48時間だ。周囲への聞き込みから、家庭の状況や動機なんかを調べて、供述の裏取りだ。その後、検察から家庭裁判所へ送る。
鉄:分かりました。あの子、父親は?他に兄弟とかは?
黒岩:小学生の時に親は離婚して、母親と2人暮らしだったらしい。
鉄:彼は、いくつなんですか?
黒岩:13。中一だ。
鉄:中一・・。
黒岩:大きな壁があるなぁ。
鉄:壁?なんの事ですか?
黒岩:よし、鉄。学校関係者に話聞くぞ。車、表に回しとけ。
0:少年の中学校。カウンセリングルーム。
黒岩:カウンセリングルームつーのは、保健室と別なんですか?
日向:はい。区の新しい試みで、より子供の心に寄り添う取り組みを目指して試験運用されているんです。
鉄:あなたは・・
日向:わたし、心理カウンセラーの日向千加枝(ひゅうがちかえ)と申します。
鉄:この学校専属なんですか?
日向:いいえ、区内の小学校、中学校を4つ掛け持ちしています。この学校には火曜と偶数週の金曜に来ていました。
黒岩:少年は、あなたのカウンセリングを受けたことが?
日向:賢斗君・・佐伯賢斗君です。
黒岩:失礼。佐伯くんは、あなたのカウンセリングを?
日向:ええ。母親との関係に悩んでいました。
黒岩:ほぅ。
日向:賢斗君は、金曜日に来ることが多かったです。彼は部活動をしていませんでしたから、授業が終わると夜6時近くまでここで話をしていきました。
黒岩:内容は?
日向:それは・・。
鉄:守秘義務は分かりますが・・
日向:彼はまだ13歳です。罪には問われませんよね?
鉄:あ・・。
黒岩:そうですね。彼は懲役刑になることはない。
日向:良かった・・。
鉄:彼は今、話が出来る状態にないんです。私たちは少しでも動機や彼の家庭環境に近づいて、事件の解明をしたいんです。
日向:それは、立派だと思いますけど・・。賢斗君、何も話さないんですか?
黒岩:母親が殺されたことに・・いや、殺してしまったことに大きなショックをうけているようです。
日向:そうですか。
鉄:無理もないですよね。
日向:ええ、そうですね。
鉄:しかし我々は、彼が犯人じゃないという視点も持って捜査をしないとならないんです。
日向:賢斗くんがやってないかもしれないんですか?
黒岩:色んな可能性を考えて捜査をするという話です。あなたに彼の話を聞きたいのも、そういうことです。
日向:残念ですけど・・私は彼がとうとうやったんだと思います。
鉄:とうとう?
日向:彼を見ましたよね?刑事さん。
鉄:はい。
日向:随分と痩せていますよね。
鉄:たしかに。正直、小学生が座っているのかと思いました。
日向:ええ、背も低くて痩せていて・・。
黒岩:それが何か?
日向:彼の母親は、彼に食事を与えていなかったんです。ネグレクト・・育児放棄だったんです。
鉄:え?
日向:学校の給食で、賢人君は生かされていました。
鉄:それは、児童相談所とかに報告したんですか?
日向:いいえ。勿論、その事実を知った以上行動はするべきだったと思います。でも、賢斗君がそれを嫌がったんです。どうしようか考えている矢先にこんなことに・・・。
鉄:いつからそんな状態だったんでしょうか?
日向:お父さんがいた頃は普通に食べられて、母親との関係も悪くなかったみたいなんですけど、離婚して母親と暮らすようになってからは、食事をまともに摂れないことも多いと話していました。
黒岩:なるほど。(スマホが鳴る)・・ちょっと失礼。
日向:賢斗君と話すことはできませんか?
鉄:それは、今の段階では難しいです。
日向:そうですか・・。あなたは間違ったことはしていないって言ってあげたいんですけど・・。
鉄:・・・・。
黒岩:鉄、一旦署に戻るぞ。
鉄:要請ですか?
黒岩:ああ、別の事件で自首してきた子供がいる。「母親を殺した」と話しているらしい。
鉄:え?
日向:また子供が?
黒岩:先生、有難うございました。また伺いますので。
日向:ええ・・。
0:数時間後、車の中。運転席に黒岩、助手席に鉄が乗っている。
鉄:どこに向かってるんですか?
黒岩:ああ?クライムラボだ。
鉄:ああ、科捜研みたいな民間の司法解剖や科学捜査の機関ですか。
黒岩:そうだ。今回殺された母親たちはあっちに送られたんだ。んで、二人の遺体に妙な共通点があるんだとよ。
鉄:共通点?
黒岩:・・さっき自首してきた子供、お前話してみてどう思った?
鉄:・・・似てると思いました。
黒岩:・・ああ。
鉄:佐伯賢斗君と、今回自首してきた真野奏汰(まのかなた)君、どちらも酷く憔悴していて、
黒岩:そうだな。
鉄:ふたりともどちらかと言うと小柄で、栄養が不足している印象です。真野君は腕にいくつか火傷の跡やアザが見られました。
黒岩:そして二人共13歳だ。
鉄:ギリギリ、法で裁けない年齢ですか・・。
黒岩:連続して同じ時期に母親殺しってだけでも違和感があるっつーのに、自称犯人の二人にも家庭環境なんかに共通点があって、そのうえ遺体にまであるとなるとな・・・。
鉄:ただの独立した母親殺しってわけじゃないんでしょうか?
黒岩:(考え込むため息)そうだなぁ・・・。まだ何とも言えねぇがな。違和感があんだよな。
鉄:誰かに脅されて自分を犯人だと言っているとか?離婚した父親が関係あるでしょうか?
黒岩:あの歳だからな。それも考えてはいるが・・。父親の件は、他のやつが調べてくれてる。お前も着任早々でけぇ山に当たったなぁ?
鉄:そうですね。でも、交番勤務じゃ関われない「真相」に近づけるというのは、やり甲斐は感じます。・・彼らのあの顔を見ると、とても辛いですけど。
黒岩:そうだな。やっちまったもんは変わらねぇが。救いがなにかあるかもしれん。少しでも拾っていくぞ。
鉄:はい。
0:クライムラボ。黒岩の妻、雪乃が職員室で二人を迎え入れる。
鉄:雪乃さん・・・。
雪乃:丸橋君、ご無沙汰!
鉄:ご無沙汰しています。あれ?雪乃さんって・・
雪乃:あら?知らなかった?私の仕事。
黒岩:話したことなかったか。
鉄:え?ここで働いているんですか?
雪乃:そうよ?警察に協力している民間機関クライムラボ。ここで私は法医学者として働いているのです。(キリッと)
鉄:全然、知りませんでした。
雪乃:ただの刑事のお嫁さんじゃないのよ?
鉄:かっこいいですね。
雪乃:ふふ。ありがとう。丸橋くんも、刑事デビューおめでとう。
鉄:ありがとうございます。
黒岩:祝いの席は今度もうけてやっからよ。おい、雪乃(話を促す)
雪乃:そうだった。ごめんなさいね、来てもらっちゃって。
黒岩:母親二人の死体に共通点があるんだってな?
雪乃:そうなの、ご遺体19番は昨日午後、ご遺体23番は今朝ここで解剖したんだけど
鉄:19番が佐伯くん、23番が真野くんの母親ですね。
雪乃:えっと・・(資料を確認する)ええ、そうね。
黒岩:共通点つーのは何だった。
雪乃:二人共、睡眠薬を服用していたわ。
黒岩:睡眠薬?
雪乃:そして、致命傷もちょっと気になるのよ。
黒岩:なんだ。
雪乃:致命傷は右太ももの大きな傷ひとつ。どちらのご遺体も他に刺し傷が50以上あるんだけど、どれも命を奪う程のものではなかった。あと、傷跡の形状から、致命傷となった太ももを一番最初に刺していることがわかったわ。
黒岩:なんでそこが最初だと?
雪乃:刃物に歪みが生じているの。最初に刺した傷は、これを見て(写真を示す)正面からまっすぐ刃物が入っていった事がわかるでしょう?
鉄:そうですね。
雪乃:でも、どちらのご遺体も損傷が激しいのは主に手と顔なんだけど、傷の形状を見て?凶器の刃物が歪んでしまったため、傷跡がボロっとしたように見える。
黒岩:なるほどな。
鉄:どうして二人共ふとももを・・・?普通殺意を持っていたら、胸や首なんかを狙いますよね。
黒岩:そうだな・・・。だが、太ももにはふってぇ血管が通ってる。出血死させるには効率はいい。
鉄:そんな知識が二人にあったでしょうか?
黒岩:そいつは分からねぇ。鉄、お前は急いで佐伯少年と真野少年に接点がなかったかと母親二人の病歴、通院歴、睡眠薬の入手ルートをあたれ。
鉄:分かりました!
黒岩:俺はもう少し話を聞いて署に戻る。
雪乃:終わったら私の車で戻らせるから、丸橋くん車使っていいわよ。
鉄:ありがとうございます。じゃあ、先に戻ります。(去る)
雪乃:ここからは、法医学者の意見をちょっと超えた話をしてもいいかしら?
黒岩:ああ。参考程度として受け取る。聞かせてくれ。
雪乃:ご遺体を見た時、とても、悲しいご遺体だと思ったわ。・・・ハッキリと殺すという感情が見える致命傷があるのに、他についている傷はとても浅くて・・でもどちらのご遺体も顔が分からないくらい損傷はしてる。
黒岩:ああ。
雪乃:まず、傷を沢山つけるという方法を取りがちな犯人の心理だけど・・これは恨みの他には恐怖から来ることが多いの。
黒岩:経験上か?
雪乃:ええ。経験上。こういった細かい傷が沢山ある場合は怨みが深いことがまず疑われる。でも、現場の写真を見せてもらったら、ご遺体はどちらも毛布がキレイにかけられていた。
黒岩:後悔の毛布か・・・。
雪乃:私もそう思ったわ。ご遺体を隠すという行為は、犯人は心理的に「なかったことにしたい」という気持ちを表しているととれる。
雪乃:だからこの無数の傷は、恨みと言うより恐怖の傷なんじゃないかって思ったの。
黒岩:(考えるため息)
雪乃:女性や、若い人がつけることが多い傷よ。相手への「もう立ち上がってこないで」という心理から何度も何度もご遺体を傷つける。そういうご遺体かなって・・。
黒岩:立ち上がってこないで・・か。
雪乃:そう。明確に立ち上がって来ないでほしい、いなくなってほしいという意志を感じるのに、やってしまったという後悔も見える。
黒岩:ふん・・・なるほどな。参考になった。ありがとうな、雪乃。
雪乃:ねぇ、子供が事情を聞かれてるって本当?
黒岩:まぁな。
雪乃:そう・・・。
黒岩:こっからは、俺の仕事だ。睡眠薬が同一かどうかは調べがついてるか?
雪乃:ええ。まったく同じ成分が検出されたわ。
黒岩:そうか。・・・よし、もうちっとで真相を拝めるかもな。
0:真野奏汰の中学校。保健室。
鉄:真野くんの学校の心理カウンセラーもあなたでしたか。
日向:はい・・。
黒岩:真野少年もカウンセリングを受けてたんですか?
日向:はい。彼も、佐伯賢斗くんと同じように母親から虐待を受けていました。真野くんの場合は、ネグレクトだけでなく、日常的にヒステリーを起こす母親から暴力を振るわれていました。
鉄:たしかに彼の体には暴行の跡が認められました。
日向:二人は、何か話していますか?
鉄:いいえ、真野くんも佐伯くんと同じです。真っ白な顔をして呆然としています。
日向:そうですか・・可哀想に。
黒岩:我々警察は、あなたを疑っています。
日向:私を?何故ですか?
黒岩:佐伯少年と、真野少年に直接的な接点はありませんでした。二人に共通したことは、同じ区内でそれぞれ家庭環境に悩み、あなたに相談していたことだ。
鉄:あなたが二人を結ぶ点なんです。
日向:そんなたまたま・・言いがかりもいいところです。
鉄:あなた、二人に睡眠薬を渡していますよね?
日向:それは・・ふたりとも眠れないくらい悩んでいましたから、試しに飲んで寝てみたら?って言って渡したんです。
鉄:医師でもないのにですか?
日向:出すぎたことだったと思います。でも・・まさかそれを母親に使うなんて・・。刑事さん?私、彼らが母親達を殺した朝、犬の散歩をいつも通りして、いつも通りカフェに寄って過ごしています。アリバイがあるんですよ?
黒岩:あなたは、自分の手を汚さずに殺人を行ったんだろう。
日向:仰っていることが飛躍しすぎです。
黒岩:あんたは、少年たちに母親を殺すしかないという強迫観念を植え付けるようなカウンセリングを繰り返してきたんじゃないか?
日向:そんな・・言いがかりです。私は彼らが母親からの虐待に苦しんでいたから、助けてあげたいと思ったんです。一緒に解決法を模索していただけです。
黒岩:あんたは、彼らを助けたかったんじゃねぇよな。
鉄:日向千加枝(ひゅうがちかえ)さん・・ちかえって珍しい名前ですよね。当時小学生だった俺でもニュースで何回か観たから何となく覚えてました。調べたらすぐに出てきました。
日向:やめてください・・。
鉄:3兄妹虐待殺傷事件。あなたは親・・母親からの虐待を受けてましたね。二人のお兄さんは熱湯をかけられ殺されている。あなたは暴力を振るわれることはなかったが、まるでいないかのように放置され、食事は兄達からこっそり与えられていた。
日向:やめてください!だからなんだって言うんですか!私は、兄達と同じような子供を救いたくてこの仕事に就いてるんです!
鉄:あなたは!あの時果たせなかった母親への復讐を、同じような境遇の子供に被せて果たしているんじゃないですか!?
日向:私はもう立ち直ってるんです。私のことは関係ありません!母親のことなんて何とも思っていません。
黒岩:私が最初に抱いた違和感は、それです。
日向:は?
黒岩:佐伯少年の家庭環境のことを聞いた時、あなた父親のことは「お父さん」と表現したのに、母親のことは終始一貫して「母親」と言っていた。
日向:・・・。
黒岩:お母さんと、無意識に呼べないんじゃありませんか?あなたの中では、まだ何も終わってやいない。
日向:・・・だったら・・だったらなんだって言うんですか?私はやってない!あの子たちが勝手にやった事じゃない!
鉄:子供にとって、大人の言葉・・特にあなたみたいな「先生」の言葉は影響力が強いんです!
日向:殺しなさいなんて言ってないわ。
鉄:じゃあなんて言ったんだ!
日向:・・そうね、「いなくなったら楽なのにね」とは言ったかもしれないわ。殺しなさいとは言ってない!
黒岩:殺人教唆(さつじんきょうさ)・・殺人を仕向けてはいないと?
日向:そうよ!それに良かったじゃない!
鉄:良かった?
日向:ネグレクトや暴力に苦しむ日々はもう終わったんだから!
鉄:お前・・
日向:それに、あの子たちは懲役刑にはならない。少年法が守ってくれるもの!何もあの子たちに落ち度はな・・(鉄のセリフが遮る)
鉄:あの子たちに!
日向:!?
鉄:あの子たちにそれを面と向かって言えるのか!あんな・・真っ白になってしまった子達に!お前を頼って相談していた子達に!そんなことが言えるのか!
日向:・・・。
黒岩:法で裁けないギリギリの子供に、なんてことしやがったんだ・・。
鉄:お前は、もっと違う方法で救ってやるべきだったろう?なぁ・・。お前が一番・・あなたが一番彼らの苦しみを分かってやれるんだから・・。
日向:・・そう・・ね。私・・助けてあげられたと・・そう思って・・。
黒岩:・・日向千加枝、処方薬を他人に譲渡した、医薬品医療機器法違反の容疑で逮捕する。少年たちへの殺人教唆の追求も免れない(まぬがれない)からな。
日向:・・・はい。
0:少年たちへの鉄の語り。
鉄:君がしたことに変わりはないし、取り返しのつかないことではあるけれど、
0:
鉄:君が少しずつ、やったことを理解してきちんと反省して社会へ貢献する人になることを
0:
鉄:私は期待しています。
0:
鉄:そして今度は、あなたと同じように苦しむ人を
0:
鉄:あなたとは別の方法で救ってあげてください。
0:
0:
0:黒岩の家。リビング。風呂上がりの黒岩が新聞に目を通しながら缶ビールを飲んでいる。うしろから風呂上がりの雪乃が近づく。
雪乃:お疲れ様。
黒岩:ああ。
雪乃:やるせない事件だったわね。
黒岩:やるせなくない方が少ねぇんだが・・後味はものすごく悪いヤマだった。
雪乃:子供たちはどうだった?
黒岩:無事、家庭裁判所へ送られた。
雪乃:そう。
黒岩:鉄がな・・最後に少年たちに語りかけたんだ。同じようなやつを救ってやれる人になってくれってな。
雪乃:そう・・。
黒岩:二人とも真っ白な顔が一瞬意識を取り戻したみたいになってよ、それから佐伯少年はワーッと、真野少年は静かに泣いてたよ。
雪乃:そう・・。
黒岩:鉄は、刑事の一番持ってなきゃなんねぇもんを持ってるやつだ。
雪乃:なあに?それ。
黒岩:おめぇは刑事じゃねぇから、教えねぇ。
雪乃:あら!イジワルね(笑う)
黒岩:まぁな(笑う)
黒岩:日向千加枝も、二人に殺人を勧めたと供述し始めている。お前の気にしてた、太ももが致命傷になることも自分が教えたと言ってる。
雪乃:やっぱりそうだったのね。
黒岩:雪乃、もう一本・・いや二本出して、お前も呑まないか?付き合ってくれ。
雪乃:ふふ。りょうかいっ。おつまみに昨日冷やしたお漬物出しましょ。
黒岩:おっ?いいなぁ。
0:
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0:終わり
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0:某区警察署刑事課
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黒岩:おぅ!来たか新人!
鉄:黒岩さん・・!
黒岩:ついに念願の刑事か。おめでとうな!
鉄:はい・・!
黒岩:まぁ、俺は前の1件で安藤警部に睨まれてここに飛ばされちまったが、自分の足で何でも調べられる所轄ってのは俺に合ってる気がしてな、仲間とも楽しくやってる。
鉄:お陰でこうして下で働けるので、俺としては嬉しいです。
黒岩:お、そうか?まぁ、それでもこのままっつーのも何だからよ、いずれお前連れて本庁に戻れるようにお前も気を引き締めてくれよ。
鉄:はいっ!よろしくお願いします。
黒岩:・・さっそくで悪いが初仕事だ。なかなか重いが・・取調室にきてくれや。
0:取調室隣。マジックミラー越しに取調室を見る2人。12歳くらいの子供が1人座らせられており、その向かいで婦人警官が話しかけている。
鉄:この子は・・?
黒岩:マスコミ発表はこれからだが、管内で起きた主婦殺しの重要参考人・・いや、星だ。
鉄:え・・?まさか。
黒岩:しかも、あの子はガイシャの息子だ。
鉄:母親殺し?
黒岩:ああ。でも俺はあんな殺人犯見た事ねぇよ。今朝から連れてきて話を聞いてるが、真っ白な紙みたいな顔して、「自分がやった」と言ったきり、なんも答えねぇ。
鉄:自ら通報したんですか?
黒岩:ああ。駆けつけた時には血まみれの母親に毛布をかけて、凶器を握りしめていた。
鉄:ずっと机を見つめていますね・・。婦人警官の言葉が届いてないみたいだ。かなりショックを受けている状態ですね。
黒岩:そうだな。こっちでの勾留は48時間だ。周囲への聞き込みから、家庭の状況や動機なんかを調べて、供述の裏取りだ。その後、検察から家庭裁判所へ送る。
鉄:分かりました。あの子、父親は?他に兄弟とかは?
黒岩:小学生の時に親は離婚して、母親と2人暮らしだったらしい。
鉄:彼は、いくつなんですか?
黒岩:13。中一だ。
鉄:中一・・。
黒岩:大きな壁があるなぁ。
鉄:壁?なんの事ですか?
黒岩:よし、鉄。学校関係者に話聞くぞ。車、表に回しとけ。
0:少年の中学校。カウンセリングルーム。
黒岩:カウンセリングルームつーのは、保健室と別なんですか?
日向:はい。区の新しい試みで、より子供の心に寄り添う取り組みを目指して試験運用されているんです。
鉄:あなたは・・
日向:わたし、心理カウンセラーの日向千加枝(ひゅうがちかえ)と申します。
鉄:この学校専属なんですか?
日向:いいえ、区内の小学校、中学校を4つ掛け持ちしています。この学校には火曜と偶数週の金曜に来ていました。
黒岩:少年は、あなたのカウンセリングを受けたことが?
日向:賢斗君・・佐伯賢斗君です。
黒岩:失礼。佐伯くんは、あなたのカウンセリングを?
日向:ええ。母親との関係に悩んでいました。
黒岩:ほぅ。
日向:賢斗君は、金曜日に来ることが多かったです。彼は部活動をしていませんでしたから、授業が終わると夜6時近くまでここで話をしていきました。
黒岩:内容は?
日向:それは・・。
鉄:守秘義務は分かりますが・・
日向:彼はまだ13歳です。罪には問われませんよね?
鉄:あ・・。
黒岩:そうですね。彼は懲役刑になることはない。
日向:良かった・・。
鉄:彼は今、話が出来る状態にないんです。私たちは少しでも動機や彼の家庭環境に近づいて、事件の解明をしたいんです。
日向:それは、立派だと思いますけど・・。賢斗君、何も話さないんですか?
黒岩:母親が殺されたことに・・いや、殺してしまったことに大きなショックをうけているようです。
日向:そうですか。
鉄:無理もないですよね。
日向:ええ、そうですね。
鉄:しかし我々は、彼が犯人じゃないという視点も持って捜査をしないとならないんです。
日向:賢斗くんがやってないかもしれないんですか?
黒岩:色んな可能性を考えて捜査をするという話です。あなたに彼の話を聞きたいのも、そういうことです。
日向:残念ですけど・・私は彼がとうとうやったんだと思います。
鉄:とうとう?
日向:彼を見ましたよね?刑事さん。
鉄:はい。
日向:随分と痩せていますよね。
鉄:たしかに。正直、小学生が座っているのかと思いました。
日向:ええ、背も低くて痩せていて・・。
黒岩:それが何か?
日向:彼の母親は、彼に食事を与えていなかったんです。ネグレクト・・育児放棄だったんです。
鉄:え?
日向:学校の給食で、賢人君は生かされていました。
鉄:それは、児童相談所とかに報告したんですか?
日向:いいえ。勿論、その事実を知った以上行動はするべきだったと思います。でも、賢斗君がそれを嫌がったんです。どうしようか考えている矢先にこんなことに・・・。
鉄:いつからそんな状態だったんでしょうか?
日向:お父さんがいた頃は普通に食べられて、母親との関係も悪くなかったみたいなんですけど、離婚して母親と暮らすようになってからは、食事をまともに摂れないことも多いと話していました。
黒岩:なるほど。(スマホが鳴る)・・ちょっと失礼。
日向:賢斗君と話すことはできませんか?
鉄:それは、今の段階では難しいです。
日向:そうですか・・。あなたは間違ったことはしていないって言ってあげたいんですけど・・。
鉄:・・・・。
黒岩:鉄、一旦署に戻るぞ。
鉄:要請ですか?
黒岩:ああ、別の事件で自首してきた子供がいる。「母親を殺した」と話しているらしい。
鉄:え?
日向:また子供が?
黒岩:先生、有難うございました。また伺いますので。
日向:ええ・・。
0:数時間後、車の中。運転席に黒岩、助手席に鉄が乗っている。
鉄:どこに向かってるんですか?
黒岩:ああ?クライムラボだ。
鉄:ああ、科捜研みたいな民間の司法解剖や科学捜査の機関ですか。
黒岩:そうだ。今回殺された母親たちはあっちに送られたんだ。んで、二人の遺体に妙な共通点があるんだとよ。
鉄:共通点?
黒岩:・・さっき自首してきた子供、お前話してみてどう思った?
鉄:・・・似てると思いました。
黒岩:・・ああ。
鉄:佐伯賢斗君と、今回自首してきた真野奏汰(まのかなた)君、どちらも酷く憔悴していて、
黒岩:そうだな。
鉄:ふたりともどちらかと言うと小柄で、栄養が不足している印象です。真野君は腕にいくつか火傷の跡やアザが見られました。
黒岩:そして二人共13歳だ。
鉄:ギリギリ、法で裁けない年齢ですか・・。
黒岩:連続して同じ時期に母親殺しってだけでも違和感があるっつーのに、自称犯人の二人にも家庭環境なんかに共通点があって、そのうえ遺体にまであるとなるとな・・・。
鉄:ただの独立した母親殺しってわけじゃないんでしょうか?
黒岩:(考え込むため息)そうだなぁ・・・。まだ何とも言えねぇがな。違和感があんだよな。
鉄:誰かに脅されて自分を犯人だと言っているとか?離婚した父親が関係あるでしょうか?
黒岩:あの歳だからな。それも考えてはいるが・・。父親の件は、他のやつが調べてくれてる。お前も着任早々でけぇ山に当たったなぁ?
鉄:そうですね。でも、交番勤務じゃ関われない「真相」に近づけるというのは、やり甲斐は感じます。・・彼らのあの顔を見ると、とても辛いですけど。
黒岩:そうだな。やっちまったもんは変わらねぇが。救いがなにかあるかもしれん。少しでも拾っていくぞ。
鉄:はい。
0:クライムラボ。黒岩の妻、雪乃が職員室で二人を迎え入れる。
鉄:雪乃さん・・・。
雪乃:丸橋君、ご無沙汰!
鉄:ご無沙汰しています。あれ?雪乃さんって・・
雪乃:あら?知らなかった?私の仕事。
黒岩:話したことなかったか。
鉄:え?ここで働いているんですか?
雪乃:そうよ?警察に協力している民間機関クライムラボ。ここで私は法医学者として働いているのです。(キリッと)
鉄:全然、知りませんでした。
雪乃:ただの刑事のお嫁さんじゃないのよ?
鉄:かっこいいですね。
雪乃:ふふ。ありがとう。丸橋くんも、刑事デビューおめでとう。
鉄:ありがとうございます。
黒岩:祝いの席は今度もうけてやっからよ。おい、雪乃(話を促す)
雪乃:そうだった。ごめんなさいね、来てもらっちゃって。
黒岩:母親二人の死体に共通点があるんだってな?
雪乃:そうなの、ご遺体19番は昨日午後、ご遺体23番は今朝ここで解剖したんだけど
鉄:19番が佐伯くん、23番が真野くんの母親ですね。
雪乃:えっと・・(資料を確認する)ええ、そうね。
黒岩:共通点つーのは何だった。
雪乃:二人共、睡眠薬を服用していたわ。
黒岩:睡眠薬?
雪乃:そして、致命傷もちょっと気になるのよ。
黒岩:なんだ。
雪乃:致命傷は右太ももの大きな傷ひとつ。どちらのご遺体も他に刺し傷が50以上あるんだけど、どれも命を奪う程のものではなかった。あと、傷跡の形状から、致命傷となった太ももを一番最初に刺していることがわかったわ。
黒岩:なんでそこが最初だと?
雪乃:刃物に歪みが生じているの。最初に刺した傷は、これを見て(写真を示す)正面からまっすぐ刃物が入っていった事がわかるでしょう?
鉄:そうですね。
雪乃:でも、どちらのご遺体も損傷が激しいのは主に手と顔なんだけど、傷の形状を見て?凶器の刃物が歪んでしまったため、傷跡がボロっとしたように見える。
黒岩:なるほどな。
鉄:どうして二人共ふとももを・・・?普通殺意を持っていたら、胸や首なんかを狙いますよね。
黒岩:そうだな・・・。だが、太ももにはふってぇ血管が通ってる。出血死させるには効率はいい。
鉄:そんな知識が二人にあったでしょうか?
黒岩:そいつは分からねぇ。鉄、お前は急いで佐伯少年と真野少年に接点がなかったかと母親二人の病歴、通院歴、睡眠薬の入手ルートをあたれ。
鉄:分かりました!
黒岩:俺はもう少し話を聞いて署に戻る。
雪乃:終わったら私の車で戻らせるから、丸橋くん車使っていいわよ。
鉄:ありがとうございます。じゃあ、先に戻ります。(去る)
雪乃:ここからは、法医学者の意見をちょっと超えた話をしてもいいかしら?
黒岩:ああ。参考程度として受け取る。聞かせてくれ。
雪乃:ご遺体を見た時、とても、悲しいご遺体だと思ったわ。・・・ハッキリと殺すという感情が見える致命傷があるのに、他についている傷はとても浅くて・・でもどちらのご遺体も顔が分からないくらい損傷はしてる。
黒岩:ああ。
雪乃:まず、傷を沢山つけるという方法を取りがちな犯人の心理だけど・・これは恨みの他には恐怖から来ることが多いの。
黒岩:経験上か?
雪乃:ええ。経験上。こういった細かい傷が沢山ある場合は怨みが深いことがまず疑われる。でも、現場の写真を見せてもらったら、ご遺体はどちらも毛布がキレイにかけられていた。
黒岩:後悔の毛布か・・・。
雪乃:私もそう思ったわ。ご遺体を隠すという行為は、犯人は心理的に「なかったことにしたい」という気持ちを表しているととれる。
雪乃:だからこの無数の傷は、恨みと言うより恐怖の傷なんじゃないかって思ったの。
黒岩:(考えるため息)
雪乃:女性や、若い人がつけることが多い傷よ。相手への「もう立ち上がってこないで」という心理から何度も何度もご遺体を傷つける。そういうご遺体かなって・・。
黒岩:立ち上がってこないで・・か。
雪乃:そう。明確に立ち上がって来ないでほしい、いなくなってほしいという意志を感じるのに、やってしまったという後悔も見える。
黒岩:ふん・・・なるほどな。参考になった。ありがとうな、雪乃。
雪乃:ねぇ、子供が事情を聞かれてるって本当?
黒岩:まぁな。
雪乃:そう・・・。
黒岩:こっからは、俺の仕事だ。睡眠薬が同一かどうかは調べがついてるか?
雪乃:ええ。まったく同じ成分が検出されたわ。
黒岩:そうか。・・・よし、もうちっとで真相を拝めるかもな。
0:真野奏汰の中学校。保健室。
鉄:真野くんの学校の心理カウンセラーもあなたでしたか。
日向:はい・・。
黒岩:真野少年もカウンセリングを受けてたんですか?
日向:はい。彼も、佐伯賢斗くんと同じように母親から虐待を受けていました。真野くんの場合は、ネグレクトだけでなく、日常的にヒステリーを起こす母親から暴力を振るわれていました。
鉄:たしかに彼の体には暴行の跡が認められました。
日向:二人は、何か話していますか?
鉄:いいえ、真野くんも佐伯くんと同じです。真っ白な顔をして呆然としています。
日向:そうですか・・可哀想に。
黒岩:我々警察は、あなたを疑っています。
日向:私を?何故ですか?
黒岩:佐伯少年と、真野少年に直接的な接点はありませんでした。二人に共通したことは、同じ区内でそれぞれ家庭環境に悩み、あなたに相談していたことだ。
鉄:あなたが二人を結ぶ点なんです。
日向:そんなたまたま・・言いがかりもいいところです。
鉄:あなた、二人に睡眠薬を渡していますよね?
日向:それは・・ふたりとも眠れないくらい悩んでいましたから、試しに飲んで寝てみたら?って言って渡したんです。
鉄:医師でもないのにですか?
日向:出すぎたことだったと思います。でも・・まさかそれを母親に使うなんて・・。刑事さん?私、彼らが母親達を殺した朝、犬の散歩をいつも通りして、いつも通りカフェに寄って過ごしています。アリバイがあるんですよ?
黒岩:あなたは、自分の手を汚さずに殺人を行ったんだろう。
日向:仰っていることが飛躍しすぎです。
黒岩:あんたは、少年たちに母親を殺すしかないという強迫観念を植え付けるようなカウンセリングを繰り返してきたんじゃないか?
日向:そんな・・言いがかりです。私は彼らが母親からの虐待に苦しんでいたから、助けてあげたいと思ったんです。一緒に解決法を模索していただけです。
黒岩:あんたは、彼らを助けたかったんじゃねぇよな。
鉄:日向千加枝(ひゅうがちかえ)さん・・ちかえって珍しい名前ですよね。当時小学生だった俺でもニュースで何回か観たから何となく覚えてました。調べたらすぐに出てきました。
日向:やめてください・・。
鉄:3兄妹虐待殺傷事件。あなたは親・・母親からの虐待を受けてましたね。二人のお兄さんは熱湯をかけられ殺されている。あなたは暴力を振るわれることはなかったが、まるでいないかのように放置され、食事は兄達からこっそり与えられていた。
日向:やめてください!だからなんだって言うんですか!私は、兄達と同じような子供を救いたくてこの仕事に就いてるんです!
鉄:あなたは!あの時果たせなかった母親への復讐を、同じような境遇の子供に被せて果たしているんじゃないですか!?
日向:私はもう立ち直ってるんです。私のことは関係ありません!母親のことなんて何とも思っていません。
黒岩:私が最初に抱いた違和感は、それです。
日向:は?
黒岩:佐伯少年の家庭環境のことを聞いた時、あなた父親のことは「お父さん」と表現したのに、母親のことは終始一貫して「母親」と言っていた。
日向:・・・。
黒岩:お母さんと、無意識に呼べないんじゃありませんか?あなたの中では、まだ何も終わってやいない。
日向:・・・だったら・・だったらなんだって言うんですか?私はやってない!あの子たちが勝手にやった事じゃない!
鉄:子供にとって、大人の言葉・・特にあなたみたいな「先生」の言葉は影響力が強いんです!
日向:殺しなさいなんて言ってないわ。
鉄:じゃあなんて言ったんだ!
日向:・・そうね、「いなくなったら楽なのにね」とは言ったかもしれないわ。殺しなさいとは言ってない!
黒岩:殺人教唆(さつじんきょうさ)・・殺人を仕向けてはいないと?
日向:そうよ!それに良かったじゃない!
鉄:良かった?
日向:ネグレクトや暴力に苦しむ日々はもう終わったんだから!
鉄:お前・・
日向:それに、あの子たちは懲役刑にはならない。少年法が守ってくれるもの!何もあの子たちに落ち度はな・・(鉄のセリフが遮る)
鉄:あの子たちに!
日向:!?
鉄:あの子たちにそれを面と向かって言えるのか!あんな・・真っ白になってしまった子達に!お前を頼って相談していた子達に!そんなことが言えるのか!
日向:・・・。
黒岩:法で裁けないギリギリの子供に、なんてことしやがったんだ・・。
鉄:お前は、もっと違う方法で救ってやるべきだったろう?なぁ・・。お前が一番・・あなたが一番彼らの苦しみを分かってやれるんだから・・。
日向:・・そう・・ね。私・・助けてあげられたと・・そう思って・・。
黒岩:・・日向千加枝、処方薬を他人に譲渡した、医薬品医療機器法違反の容疑で逮捕する。少年たちへの殺人教唆の追求も免れない(まぬがれない)からな。
日向:・・・はい。
0:少年たちへの鉄の語り。
鉄:君がしたことに変わりはないし、取り返しのつかないことではあるけれど、
0:
鉄:君が少しずつ、やったことを理解してきちんと反省して社会へ貢献する人になることを
0:
鉄:私は期待しています。
0:
鉄:そして今度は、あなたと同じように苦しむ人を
0:
鉄:あなたとは別の方法で救ってあげてください。
0:
0:
0:黒岩の家。リビング。風呂上がりの黒岩が新聞に目を通しながら缶ビールを飲んでいる。うしろから風呂上がりの雪乃が近づく。
雪乃:お疲れ様。
黒岩:ああ。
雪乃:やるせない事件だったわね。
黒岩:やるせなくない方が少ねぇんだが・・後味はものすごく悪いヤマだった。
雪乃:子供たちはどうだった?
黒岩:無事、家庭裁判所へ送られた。
雪乃:そう。
黒岩:鉄がな・・最後に少年たちに語りかけたんだ。同じようなやつを救ってやれる人になってくれってな。
雪乃:そう・・。
黒岩:二人とも真っ白な顔が一瞬意識を取り戻したみたいになってよ、それから佐伯少年はワーッと、真野少年は静かに泣いてたよ。
雪乃:そう・・。
黒岩:鉄は、刑事の一番持ってなきゃなんねぇもんを持ってるやつだ。
雪乃:なあに?それ。
黒岩:おめぇは刑事じゃねぇから、教えねぇ。
雪乃:あら!イジワルね(笑う)
黒岩:まぁな(笑う)
黒岩:日向千加枝も、二人に殺人を勧めたと供述し始めている。お前の気にしてた、太ももが致命傷になることも自分が教えたと言ってる。
雪乃:やっぱりそうだったのね。
黒岩:雪乃、もう一本・・いや二本出して、お前も呑まないか?付き合ってくれ。
雪乃:ふふ。りょうかいっ。おつまみに昨日冷やしたお漬物出しましょ。
黒岩:おっ?いいなぁ。
0:
0:
0:終わり