台本概要

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タイトル 「全部乗せ」のその先に
作者名 ふらん☆くりん  (@Frank_lin01)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【あらすじ】
「ああ嘆かわしい!」…声劇サークル部長、影山は今日も悩んでいた。

【著作権について】
本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。
また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。

【禁止事項】
●商業目的での利用
●台本の無断使用、無断転載、自作発言等
●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等

【ご利用に際してのお願い】
●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。
●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。
●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
影山 70 声劇サークルの部長。演技のことに対しては妥協を許さない熱血タイプ。
山田 67 影山の声劇サークルに所属する部員。いつも影山の暴走に振り回され飽き飽きしている。基本ツッコミ役。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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タイトル:「全部乗せ」のその先に : 登場人物: 影山:声劇サークルの部長。演技のことに対しては妥協を許さない熱血タイプ。 山田:影山の声劇サークルに所属する部員。いつも影山の暴走に振り回され飽き飽きしている。基本ツッコミ役。 : 本編: 影山:ああ嘆かわしい!なんと嘆かわしいことだ! 山田:…また始まったよ。部長の「嘆かわしやタイム」が。…で、今度はどうしたんすか? 影山:よくぞ聞いてくれた山田君!私はこれまで長きにわたり、我が声劇サークルで数々の台本を書き、そして演じてきた。しかし今、そんな私をもってしても乗り越えられない難題に直面しているのだ! 山田:へー、そうなんですね。ちなみにその難題とはいかに? 影山:それは…表現者として私は全てを表現しきれていないのではないかということだ。 山田:は?どゆこと? 影山:ここに、私が書いたラブストーリーの一部を抜粋した物があるわ。 山田:ほら来た…いつも急に話が始まるんだもんなぁ。 影山:まずはこれを一緒に演じてみてくれないかしら? 山田:まぁ…良いですけど。 影山:よし!じゃあ始めるわよ。ラブストーリー開始まで3・2・1アクト! : :(寸劇ラブストーリースタート) 影山:まぁ!ここから見える夜景、とってもきれいね。 山田:あぁ、そうだな。でも、さゆりの幸せそうな笑顔の前ではこんな夜景の輝きなんて一瞬でくすんでしまうよ。 影山:うふふ…光一ったら、どこでそんなセリフ覚えてきたのかしら。 山田:なぁに、生まれる前から頭にインプットされていた言葉さ。 影山:まぁ!それは優秀だこと。 山田:それよりさゆり、今日君をここに連れて来た訳を聞かないのかい? 影山:聞かなくても雰囲気で分かるわ。こう見えて私、勘は鋭い方なのよ。 山田:ほう…それじゃ当ててごらん。 影山:つまり…こういうことでしょ? 山田:ぐっ!さ、さゆり…何の真似だ? 影山:あら、残念ね。言ったでしよ?勘は鋭い方だって。あなたが某国のエージェントだってことぐらい見抜けないとでも思った? 山田:さゆり…何を言ってるんだ…? 影山:この期に及んでまだ彼氏役を演じるつもりかしら?大方、夜景の綺麗な場所に連れ出して、良い雰囲気になった所で私を始末するつもりだったんでしょうが…惜しかったわね。 山田:はぁ…はぁ、お前、誰と勘違いしてるんだ?俺は…エージェントでもないし、ましてやさゆりの命を奪うなんて…する訳がないだろう? 影山:光一…まさかあなた本当に私の事を…。 山田:あぁ…愛してるさ。 影山:そ、そんな…わ、私…何てことを…。 山田:…なぁに、この程度の傷で…俺は死んだり…しないさ。 影山:光一…私、あなたのことが大好きよ!だからお願い…死なないで!! 山田:は、はは…可愛いさゆりを残して死ねるわけない…じゃないか。 影山:うう…光一。 山田:さゆり…俺のお願い…聞いて…くれるか? 影山:うん…なに? 山田:…さゆりのキスで眠らせて…くれないか? 影山:…いや!死なないでって言ったじゃない! 山田:あぁ…死なないさ。ただ…今はさゆりの傍で眠りたい気分…なんだ。ダメ…かな? 影山:ううん…ダメじゃないわ。ぐすん…じゃあ目が覚めたらデートしましょう!…今度はちゃんと恋人同士として…ね? 山田:ああ…約束だよ…。 影山:光一…。 :----------------------------- : 影山:はいカットー!! 山田:ちょっ!何で一番良い所で切るんですか!あと少しだったのに…。 影山:まあまあ、それは置いといて。 山田:置いとけませんよ! 影山:それよりも、演じてみてどうだった? 山田:うーん…てか、なんすか?コレ。 影山:なんすかって何よ!純然たるラブストーリーじゃないの。 山田:これのどこが純然たるラブストーリーですか!彼女のうっかりで間違えて彼氏を刺しちゃっただけの話でしょうが! 影山:ん?もう一回言って? 山田:だから、これのどこが純然たるラブストーリーですか! 影山:そこじゃなくて、もうちょい先。 山田:あーもう!彼女がうっかり間違えて彼氏を刺しちゃっただけの話でしょうが! 影山:誰が刺したって言った? 山田:え…でも、さゆりが光一に近づいて、グサッと…。 影山:ううん。全然違うわよ。私の頭の中ではさゆりはその場から動くことなく、拳銃で光一のことを撃ったのよ。 山田:だって台本には銃声はおろか、拳銃を取り出すシーンすら書かれていなかったじゃないですか? 影山:つまり、そういうことよ。 山田:へ? 影山:私たちがいくら上手に表現しても、どうしても伝え切れない部分が生じてしまう。私はそれが悔しくてたまらないの! 山田:じゃあ台本に書いとけば良いだけの話でしょう? 影山:チッチッ…甘いなぁ山田君は。 山田:何が甘いんですか? 影山:台本に書いたって演者には分かってもリスナーには伝わらないでしょうが! 山田:それを伝えるのが役者の仕事でしょうに。 影山:ぐっ…痛い所を突くわね。と、とにかく、このままではダメなのよ! 山田:はいはい、分かりましたよ。で、何か良いアイデアとかあるんですか? 影山:ふふん!もっちろん!あるに決まってんでしょ?要は、セリフ以外の隠された情報を声にして伝えれば良いのよ! 山田:つまり…どういうことです? 影山:もう、わっかんないかなぁ!つまり「全部乗せ」よ、「全部乗せ」! 山田:は?ますます分からなくなったんですけど…。 影山:あーもう!じゃあさっきの台本に「全部乗せ」してみた物があるから一緒にやってみましょう! 山田:嫌です。 影山:はぁ?なんでよ? 山田:だって嫌な予感しかしないから。 影山:つべこべ言わずにやる! 山田:はぁ…しょうがないなぁ。 影山:じゃあ説明するわね。内容はさっきと同じ。違うのはセリフ以外の情報も盛り込まれているということね。まず、「」(カギカッコ)はト書き、『』(二重カギカッコ)は効果音、(M)(カッコМ)はモノローグ、そして()(ただのカッコ)は心の声を表しているわ。 山田:ふーん。で、これを全部読めと。 影山:ピンポーン!そゆこと。 山田:ほんとにこんなので上手くいくのかなぁ。 影山:またぶつくさ文句言ってる。で、どうすんの?やるの?やらないの? 山田:へいへい。分かりましたよ…仕方ないなぁ。 影山:それじゃあキュー出しするわね。『ラブストーリー「全部乗せバージョン」』開始まで3・2・1アクト! : :(寸劇ラブストーリー「全部乗せバージョン」スタート) 影山:(M)今日、私は彼に誘われ久しぶりのデートに来ていた。 影山:「さゆり、夜景を前にわざとらしく感激したフリをする」 影山:まぁ!ここから見える夜景、とってもきれいね。 影山:『キラキラ~!』 山田:(M)ここで俺は、さゆりが期待していた以上の反応を示してくれたことに対し、自分のチョイスが間違っていなかったことを確信した。 山田:「光一、さゆりの感激っぷりに完全に乗せられる」 山田:(おお!さゆりがめっちゃ喜んでくれてるー!!…でもここは慎重に、あくまでクールにいかないとな。) 山田:あぁ、そうだな。でも、さゆりの幸せそうな笑顔の前ではこんな夜景の輝きなんて一瞬でくすんでしまうよ。 山田:『きゅぴーん!』 山田:(ふっ…決まったな、俺) 影山:(M)ちょろい…ちょろすぎる。まさか私が夜景ごときで簡単になびくと本気で思っているのだろうか。だとしたら心外だわ。 影山:「さゆり、光一のドヤ顔に心底嫌悪感を抱きつつも」 影山:うふふ…光一ったら、どこでそんなセリフ覚えてきたのかしら。 影山:(仕方がないから乗ってやったわよ。さぁ光一、あなたはどう来る?) 山田:(M)俺はさゆりの反応に確かな手応えを感じていた。 山田:(よーし!良い感じだ!じゃあここは一丁男らしくバシッと決めとかないとな!) 山田:なぁに、生まれる前から頭にインプットされていた言葉さ。 山田:『バキューン!!』 山田:(ふふっ…今ので完全に落ちたな。) 影山:(M)男って生き物は本当に馬鹿だ。乗せれば乗せただけツケ上がる。私はあまりの気色悪さに吐きそうになる自分を理性で何とか押さえつけた。 影山:(うっぷ…よくもまあこんなキザなセリフを思い付くもんだわ。まあいいわ。どうせあと少しの命だものね。暇つぶし程度に付き合ってあげる) 影山:まぁ!それは優秀だこと。 影山:『シャラララン!』 影山:(さぁ!乗ってこい!お前がどこまで気色悪く変化するか見届けてやろうじゃないの!) 山田:「光一、ここでふとあることが気になり始める。」 山田:(あれ?さゆりが喜んでくれてるのは嬉しいんだけど、落ち着いて観察するとなんかこう…本心じゃないというか…上辺だけっていうか。) 山田:(M)そこで俺はさゆりの気持ちを探るため、彼女にある質問を投げかけてみることにした。 山田:それよりさゆり、今日君をここに連れて来た訳を聞かないのかい? 影山:『ビクッ!』 影山:(M)光一の予想外の反応に私は一瞬うろたえた。 影山:(な!何だと!おかしい…ヤツが乗って来ない。それに何だこの質問は?もしや気付かれたか?…いや、そんなはずはない。ではこちらもあえて大人な女性で対応してやろう。) 影山:「さゆり、大人の色気を全面に出しながら」 影山:聞かなくても雰囲気で分かるわ。こう見えて私、勘は鋭い方なのよ。 影山:『ほわわわーん』 山田:(え?気付いてる?もしかして、俺の目的に気付いてる?い、いや…待て待て。ここで焦ったら全てが台無しになる。ここは念には念を入れて) 山田:『ズゴゴゴゴ!』 山田:(M)俺は頭をフル回転させてある質問を思い付いた。それは…。 山田:ほう…それじゃ当ててごらん。 山田:『シャキーン!』 山田:(こ…これでどうだァァァ!!) 影山:(うふふ…てっきり思わせぶりな私の態度に釣られて本性を現すかと思ったけど、よく我慢したわね。褒めてあげる。でもこのやり取りもそろそろ飽きたわ。ここらで茶番も終わりにしましょう) 影山:(M)そう言って私は懐から拳銃を取り出した。 影山:つまり…こういうことでしょ? 影山:『チャキ…』 影山:(じゃあね、光一。) 影山:「さゆり、光一に向けて拳銃の引き金を引く」 影山:『パシュ…』 影山:「サイレンサー付きの拳銃から間の抜けた発砲音が響く」 山田:『ドッ!』 山田:(え…?) 山田:(M)重い衝撃とともに一瞬頭の中が真っ白になる。そして皮肉にも、じわじわと沸き起こる痛みによって俺は自分の身に何が起きたのかを理解することとなった。 山田:ぐっ!さ、さゆり…何の真似だ? 山田:『ドサッ…』 山田:「光一、痛みに耐えかねて膝から崩れ落ちる」 山田:(俺はただ…さゆりを愛していただけなのに…。) 影山:(M)胸を押さえながら膝をつく光一を前にして、私は何とも言えない高揚感に浸っていた。 影山:(ふふふ…これよ!この感覚よ!) 影山:『ザッ…ザッ…』 影山:「さゆり、ゆっくりと光一に近づく。」 影山:あら、残念ね。言ったでしよ?勘は鋭い方だって。あなたが某国のエージェントだってことぐらい見抜けないとでも思った? 影山:『キラキラリン!』 影山:(はぁ…最高♡相手を出し抜き、疑問と恐怖で満ち溢れた眼差しを向けられながらこのセリフを叩き付ける瞬間がたまんないのよねぇ♡) 山田:『ドヨドヨドヨ…』 山田:(某国?エージェント?) 山田:(M)薄れ行く意識の中で、同じ単語が何度も頭の中を駆け巡った。 山田:さゆり…何を言ってるんだ…? 影山:『ザワザワ…』 影山:(違う、間違ってる。今あなたが言うべき言葉はそれじゃない!) 影山:(M)私は光一から期待通りの言葉が出て来ないことに疑問と苛立ちを覚えていた。 影山:『ぐもももも!』 影山:(早く!早く負けを認めなさいよ!) 影山:この期に及んでまだ彼氏役を演じるつもりかしら?大方、夜景の綺麗な場所に連れ出して良い雰囲気になった所で私を始末するつもりだったんでしょうが…惜しかったわね。 影山:(あーもう!よりによって私自ら解説役に回るなんて…最悪の気分だわ!) 影山:「さゆり、不満げに目を逸らす。」 山田:『サラサラサラ…』 山田:(M)さゆりの言葉を聞きながら、俺はどことなく安堵にも似た感覚を覚えていた。 山田:(そうか…俺は単に間違われただけなのか。) 山田:はぁ…はぁ、お前、誰と勘違いしてるんだ?俺は…エージェントでもないし、ましてやさゆりの命を奪うなんて…する訳がないだろう? 影山:『ドキン!』 影山:(この反応…嘘を付いている感じじゃない。これってもしかして…。) 影山:(M)私はこの時、もう一つ別の可能性に気付き初めていた。そう、気付きたくもなかった最悪の可能性に…。) 影山:光一…まさかあなた本当に私の事を…。 山田:『パァァァァ!』 山田:(ああ…良かった。さゆりがやっと俺のことを見てくれた。) 山田:(M)俺はようやく訪れた理想の流れに対し、想いの全てをぶつけるようにこう答えた。 山田:あぁ…愛してるさ。 影山:『グサッ…!』 影山:「さゆり、呆然と立ち尽くす。」 影山:(M)光一から語られた愛の言葉は、本来の目的とは違うベクトルで私の心に突き刺さった。 影山:『ゾワワワ』 影山:そ、そんな…わ、私…何てことを…。 山田:(M)さゆりの顔がみるみる青ざめていく。俺はさゆりの中で罪の意識が高まっていくのを肌で感じていた。 山田:(さゆり、お前は何も悪くない。だからそんな顔をしないでくれ!) 山田:『ピト…。』 山田:「光一、血の付いていない左手でさゆりの頬に優しく触れる。」 山田:…なぁに、この程度の傷で…俺は死んだり…しないさ。 影山:『きゅわわわーん!』 影山:(ああ…なんて事。私はあなたにこんなにも酷いことをしたのに、それでも私を受け入れてくれると言うの?) 影山:(M)気付けば今まで光一に対して抱いていたどす黒い感情はいつの間にか消え去っていた。 影山:(ああ…神様。もしこの罪が許されるのならば、私はこの人と一緒に生きていきたい。どうか、彼を助けて…。) 影山:光一…私、あなたのことが大好きよ!だからお願い…死なないで!! 影山:「さゆり、両手で光一の左手を優しく包み込む。」 山田:『ほわほわほわーん』 山田:(なんて温かい手なんだ。) 山田:(M)俺は左手から伝わる温もりを通して、さゆりの心から闇が完全に取り払われたことを悟った。 山田:は、はは…可愛いさゆりを残して死ねるわけない…じゃないか。 影山:『しょぼぼぼん…』 影山:(M)強がってはいるものの、徐々に光一から生気がなくなっていることは火を見るより明らかだった。 影山:(ああ…傷口からこんなに血が!私、一体どうしたら良いの?) 影山:うう…光一。 山田:『ポタ…』 山田:(M)彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。 山田:(ごめんな。俺、もう…限界かも…。) 山田:さゆり…俺のお願い…聞いて…くれるか? 影山:『ドックン…ドックン』 影山:(え…お願い…?) 影山:(M)死亡フラグ…一瞬よぎった言葉を即座にかき消し、私は落ち着いている雰囲気を装いながら聞き返す。 影山:うん…なに? 山田:(M)さゆりにお願い事か…きっと最初で最後になるかもしれないが、それでも俺は満足だった。 山田:(…この想いを伝えるんだ。) 山田:…さゆりのキスで眠らせて…くれないか? 影山:『ガガーン!』 影山:(M)私の読みは当たっていた。この時ばかりは自分の勘の鋭さを心の底から恨んだ。 影山:(これを叶えてしまったら…光一はもう…。) 影山:…いや!死なないでって言ったじゃない! 影山:『サッ…』 影山:「さゆり、光一の背中をそっと抱く」 山田:(M)背中から感じるさゆりの愛情が今の俺には何より嬉しかった。 山田:(そうだ…俺はもうこれ以上さゆりを悲しませちゃいけないんだ。) 山田:『ピカーン!』 山田:あぁ…死なないさ。ただ…今はさゆりの傍で眠りたい気分…なんだ。ダメ…かな? 影山:『ドガガガガ!』 影山:(M)心の中で巻き起こる激しい葛藤。でも…答えなんて初めから決まっていた。 影山:(この選択が間違っていたとしても私は後悔なんてしないわ。だって、私は光一の傍にいるって決めたんだもの!) 影山:『シャッキーン!』 影山:ううん…ダメじゃないわ。ぐすん…じゃあ目が覚めたらデートしましょう!…今度はちゃんと恋人同士として…ね? 山田:『キラキラキラ…』 山田:(M)この時俺は人生で最高の幸せを噛み締めていた。 山田:(ありがとう…さゆり。俺はなんて幸せ者なんだ。) 山田:ああ…約束だよ…。 山田:「光一、そっと瞼を閉じる」 影山:『ふわふわふわ~』 影山:(M)私の心に爽やかな風が吹き抜ける。 影山:(私を愛してくれてありがとう…。) 影山:光一…。 影山:「さゆりの唇がゆっくりと近づいていく…」 :----------------------------- : 山田:うっ…うう…。なんて感動的な話なんだ!部長、俺が間違ってました! 影山:……。 山田:…ぐすん。あれ?部長? 影山:やりにくい…。 山田:え? 影山:だから、演じにくいって言ってんの!はぁ…やっぱりアレよね。何でもかんでも詰めこみゃ良いって話じゃないわよね。 山田:そんなことないっすよ!同じ内容でも最初にやった物とは伝わる情報量が段違いでしたもん! 影山:そう?じゃああの効果音、いる? 山田:えっと…途中からそこだけ浮いてる気がしました。 影山:心の声は? 山田:あー…正直セリフと混同しちゃう感じがして…。 影山:だよね。ト書きは? 山田:うーん…演技の勢いにブレーキを掛けちゃってる気がします。 影山:モノローグは? 山田:あそこまで入れると逆にウザイですね。 影山:つまりこれらを総合すると? 山田:何事もほどほどが一番…ですか? 影山:そうなのよー!!そのほどほどが分かんないのよー!ああ!嘆かわしい!何と嘆かわしいことだ! 山田:あの、部長。 影山:ん?何よ? 山田:俺、そろそろ帰っても良いっすか? 影山:さあ山田君。これから私と一緒に「台本におけるほどほどの情報量とは何か」について考えるわよ!そもそも必要な情報とそうでない情報はどうやって見分けるべきか?それを考える上でここに私が書いた一冊の台本があります。これを使って… 山田:もう勘弁してくださーい!! : :~完~

タイトル:「全部乗せ」のその先に : 登場人物: 影山:声劇サークルの部長。演技のことに対しては妥協を許さない熱血タイプ。 山田:影山の声劇サークルに所属する部員。いつも影山の暴走に振り回され飽き飽きしている。基本ツッコミ役。 : 本編: 影山:ああ嘆かわしい!なんと嘆かわしいことだ! 山田:…また始まったよ。部長の「嘆かわしやタイム」が。…で、今度はどうしたんすか? 影山:よくぞ聞いてくれた山田君!私はこれまで長きにわたり、我が声劇サークルで数々の台本を書き、そして演じてきた。しかし今、そんな私をもってしても乗り越えられない難題に直面しているのだ! 山田:へー、そうなんですね。ちなみにその難題とはいかに? 影山:それは…表現者として私は全てを表現しきれていないのではないかということだ。 山田:は?どゆこと? 影山:ここに、私が書いたラブストーリーの一部を抜粋した物があるわ。 山田:ほら来た…いつも急に話が始まるんだもんなぁ。 影山:まずはこれを一緒に演じてみてくれないかしら? 山田:まぁ…良いですけど。 影山:よし!じゃあ始めるわよ。ラブストーリー開始まで3・2・1アクト! : :(寸劇ラブストーリースタート) 影山:まぁ!ここから見える夜景、とってもきれいね。 山田:あぁ、そうだな。でも、さゆりの幸せそうな笑顔の前ではこんな夜景の輝きなんて一瞬でくすんでしまうよ。 影山:うふふ…光一ったら、どこでそんなセリフ覚えてきたのかしら。 山田:なぁに、生まれる前から頭にインプットされていた言葉さ。 影山:まぁ!それは優秀だこと。 山田:それよりさゆり、今日君をここに連れて来た訳を聞かないのかい? 影山:聞かなくても雰囲気で分かるわ。こう見えて私、勘は鋭い方なのよ。 山田:ほう…それじゃ当ててごらん。 影山:つまり…こういうことでしょ? 山田:ぐっ!さ、さゆり…何の真似だ? 影山:あら、残念ね。言ったでしよ?勘は鋭い方だって。あなたが某国のエージェントだってことぐらい見抜けないとでも思った? 山田:さゆり…何を言ってるんだ…? 影山:この期に及んでまだ彼氏役を演じるつもりかしら?大方、夜景の綺麗な場所に連れ出して、良い雰囲気になった所で私を始末するつもりだったんでしょうが…惜しかったわね。 山田:はぁ…はぁ、お前、誰と勘違いしてるんだ?俺は…エージェントでもないし、ましてやさゆりの命を奪うなんて…する訳がないだろう? 影山:光一…まさかあなた本当に私の事を…。 山田:あぁ…愛してるさ。 影山:そ、そんな…わ、私…何てことを…。 山田:…なぁに、この程度の傷で…俺は死んだり…しないさ。 影山:光一…私、あなたのことが大好きよ!だからお願い…死なないで!! 山田:は、はは…可愛いさゆりを残して死ねるわけない…じゃないか。 影山:うう…光一。 山田:さゆり…俺のお願い…聞いて…くれるか? 影山:うん…なに? 山田:…さゆりのキスで眠らせて…くれないか? 影山:…いや!死なないでって言ったじゃない! 山田:あぁ…死なないさ。ただ…今はさゆりの傍で眠りたい気分…なんだ。ダメ…かな? 影山:ううん…ダメじゃないわ。ぐすん…じゃあ目が覚めたらデートしましょう!…今度はちゃんと恋人同士として…ね? 山田:ああ…約束だよ…。 影山:光一…。 :----------------------------- : 影山:はいカットー!! 山田:ちょっ!何で一番良い所で切るんですか!あと少しだったのに…。 影山:まあまあ、それは置いといて。 山田:置いとけませんよ! 影山:それよりも、演じてみてどうだった? 山田:うーん…てか、なんすか?コレ。 影山:なんすかって何よ!純然たるラブストーリーじゃないの。 山田:これのどこが純然たるラブストーリーですか!彼女のうっかりで間違えて彼氏を刺しちゃっただけの話でしょうが! 影山:ん?もう一回言って? 山田:だから、これのどこが純然たるラブストーリーですか! 影山:そこじゃなくて、もうちょい先。 山田:あーもう!彼女がうっかり間違えて彼氏を刺しちゃっただけの話でしょうが! 影山:誰が刺したって言った? 山田:え…でも、さゆりが光一に近づいて、グサッと…。 影山:ううん。全然違うわよ。私の頭の中ではさゆりはその場から動くことなく、拳銃で光一のことを撃ったのよ。 山田:だって台本には銃声はおろか、拳銃を取り出すシーンすら書かれていなかったじゃないですか? 影山:つまり、そういうことよ。 山田:へ? 影山:私たちがいくら上手に表現しても、どうしても伝え切れない部分が生じてしまう。私はそれが悔しくてたまらないの! 山田:じゃあ台本に書いとけば良いだけの話でしょう? 影山:チッチッ…甘いなぁ山田君は。 山田:何が甘いんですか? 影山:台本に書いたって演者には分かってもリスナーには伝わらないでしょうが! 山田:それを伝えるのが役者の仕事でしょうに。 影山:ぐっ…痛い所を突くわね。と、とにかく、このままではダメなのよ! 山田:はいはい、分かりましたよ。で、何か良いアイデアとかあるんですか? 影山:ふふん!もっちろん!あるに決まってんでしょ?要は、セリフ以外の隠された情報を声にして伝えれば良いのよ! 山田:つまり…どういうことです? 影山:もう、わっかんないかなぁ!つまり「全部乗せ」よ、「全部乗せ」! 山田:は?ますます分からなくなったんですけど…。 影山:あーもう!じゃあさっきの台本に「全部乗せ」してみた物があるから一緒にやってみましょう! 山田:嫌です。 影山:はぁ?なんでよ? 山田:だって嫌な予感しかしないから。 影山:つべこべ言わずにやる! 山田:はぁ…しょうがないなぁ。 影山:じゃあ説明するわね。内容はさっきと同じ。違うのはセリフ以外の情報も盛り込まれているということね。まず、「」(カギカッコ)はト書き、『』(二重カギカッコ)は効果音、(M)(カッコМ)はモノローグ、そして()(ただのカッコ)は心の声を表しているわ。 山田:ふーん。で、これを全部読めと。 影山:ピンポーン!そゆこと。 山田:ほんとにこんなので上手くいくのかなぁ。 影山:またぶつくさ文句言ってる。で、どうすんの?やるの?やらないの? 山田:へいへい。分かりましたよ…仕方ないなぁ。 影山:それじゃあキュー出しするわね。『ラブストーリー「全部乗せバージョン」』開始まで3・2・1アクト! : :(寸劇ラブストーリー「全部乗せバージョン」スタート) 影山:(M)今日、私は彼に誘われ久しぶりのデートに来ていた。 影山:「さゆり、夜景を前にわざとらしく感激したフリをする」 影山:まぁ!ここから見える夜景、とってもきれいね。 影山:『キラキラ~!』 山田:(M)ここで俺は、さゆりが期待していた以上の反応を示してくれたことに対し、自分のチョイスが間違っていなかったことを確信した。 山田:「光一、さゆりの感激っぷりに完全に乗せられる」 山田:(おお!さゆりがめっちゃ喜んでくれてるー!!…でもここは慎重に、あくまでクールにいかないとな。) 山田:あぁ、そうだな。でも、さゆりの幸せそうな笑顔の前ではこんな夜景の輝きなんて一瞬でくすんでしまうよ。 山田:『きゅぴーん!』 山田:(ふっ…決まったな、俺) 影山:(M)ちょろい…ちょろすぎる。まさか私が夜景ごときで簡単になびくと本気で思っているのだろうか。だとしたら心外だわ。 影山:「さゆり、光一のドヤ顔に心底嫌悪感を抱きつつも」 影山:うふふ…光一ったら、どこでそんなセリフ覚えてきたのかしら。 影山:(仕方がないから乗ってやったわよ。さぁ光一、あなたはどう来る?) 山田:(M)俺はさゆりの反応に確かな手応えを感じていた。 山田:(よーし!良い感じだ!じゃあここは一丁男らしくバシッと決めとかないとな!) 山田:なぁに、生まれる前から頭にインプットされていた言葉さ。 山田:『バキューン!!』 山田:(ふふっ…今ので完全に落ちたな。) 影山:(M)男って生き物は本当に馬鹿だ。乗せれば乗せただけツケ上がる。私はあまりの気色悪さに吐きそうになる自分を理性で何とか押さえつけた。 影山:(うっぷ…よくもまあこんなキザなセリフを思い付くもんだわ。まあいいわ。どうせあと少しの命だものね。暇つぶし程度に付き合ってあげる) 影山:まぁ!それは優秀だこと。 影山:『シャラララン!』 影山:(さぁ!乗ってこい!お前がどこまで気色悪く変化するか見届けてやろうじゃないの!) 山田:「光一、ここでふとあることが気になり始める。」 山田:(あれ?さゆりが喜んでくれてるのは嬉しいんだけど、落ち着いて観察するとなんかこう…本心じゃないというか…上辺だけっていうか。) 山田:(M)そこで俺はさゆりの気持ちを探るため、彼女にある質問を投げかけてみることにした。 山田:それよりさゆり、今日君をここに連れて来た訳を聞かないのかい? 影山:『ビクッ!』 影山:(M)光一の予想外の反応に私は一瞬うろたえた。 影山:(な!何だと!おかしい…ヤツが乗って来ない。それに何だこの質問は?もしや気付かれたか?…いや、そんなはずはない。ではこちらもあえて大人な女性で対応してやろう。) 影山:「さゆり、大人の色気を全面に出しながら」 影山:聞かなくても雰囲気で分かるわ。こう見えて私、勘は鋭い方なのよ。 影山:『ほわわわーん』 山田:(え?気付いてる?もしかして、俺の目的に気付いてる?い、いや…待て待て。ここで焦ったら全てが台無しになる。ここは念には念を入れて) 山田:『ズゴゴゴゴ!』 山田:(M)俺は頭をフル回転させてある質問を思い付いた。それは…。 山田:ほう…それじゃ当ててごらん。 山田:『シャキーン!』 山田:(こ…これでどうだァァァ!!) 影山:(うふふ…てっきり思わせぶりな私の態度に釣られて本性を現すかと思ったけど、よく我慢したわね。褒めてあげる。でもこのやり取りもそろそろ飽きたわ。ここらで茶番も終わりにしましょう) 影山:(M)そう言って私は懐から拳銃を取り出した。 影山:つまり…こういうことでしょ? 影山:『チャキ…』 影山:(じゃあね、光一。) 影山:「さゆり、光一に向けて拳銃の引き金を引く」 影山:『パシュ…』 影山:「サイレンサー付きの拳銃から間の抜けた発砲音が響く」 山田:『ドッ!』 山田:(え…?) 山田:(M)重い衝撃とともに一瞬頭の中が真っ白になる。そして皮肉にも、じわじわと沸き起こる痛みによって俺は自分の身に何が起きたのかを理解することとなった。 山田:ぐっ!さ、さゆり…何の真似だ? 山田:『ドサッ…』 山田:「光一、痛みに耐えかねて膝から崩れ落ちる」 山田:(俺はただ…さゆりを愛していただけなのに…。) 影山:(M)胸を押さえながら膝をつく光一を前にして、私は何とも言えない高揚感に浸っていた。 影山:(ふふふ…これよ!この感覚よ!) 影山:『ザッ…ザッ…』 影山:「さゆり、ゆっくりと光一に近づく。」 影山:あら、残念ね。言ったでしよ?勘は鋭い方だって。あなたが某国のエージェントだってことぐらい見抜けないとでも思った? 影山:『キラキラリン!』 影山:(はぁ…最高♡相手を出し抜き、疑問と恐怖で満ち溢れた眼差しを向けられながらこのセリフを叩き付ける瞬間がたまんないのよねぇ♡) 山田:『ドヨドヨドヨ…』 山田:(某国?エージェント?) 山田:(M)薄れ行く意識の中で、同じ単語が何度も頭の中を駆け巡った。 山田:さゆり…何を言ってるんだ…? 影山:『ザワザワ…』 影山:(違う、間違ってる。今あなたが言うべき言葉はそれじゃない!) 影山:(M)私は光一から期待通りの言葉が出て来ないことに疑問と苛立ちを覚えていた。 影山:『ぐもももも!』 影山:(早く!早く負けを認めなさいよ!) 影山:この期に及んでまだ彼氏役を演じるつもりかしら?大方、夜景の綺麗な場所に連れ出して良い雰囲気になった所で私を始末するつもりだったんでしょうが…惜しかったわね。 影山:(あーもう!よりによって私自ら解説役に回るなんて…最悪の気分だわ!) 影山:「さゆり、不満げに目を逸らす。」 山田:『サラサラサラ…』 山田:(M)さゆりの言葉を聞きながら、俺はどことなく安堵にも似た感覚を覚えていた。 山田:(そうか…俺は単に間違われただけなのか。) 山田:はぁ…はぁ、お前、誰と勘違いしてるんだ?俺は…エージェントでもないし、ましてやさゆりの命を奪うなんて…する訳がないだろう? 影山:『ドキン!』 影山:(この反応…嘘を付いている感じじゃない。これってもしかして…。) 影山:(M)私はこの時、もう一つ別の可能性に気付き初めていた。そう、気付きたくもなかった最悪の可能性に…。) 影山:光一…まさかあなた本当に私の事を…。 山田:『パァァァァ!』 山田:(ああ…良かった。さゆりがやっと俺のことを見てくれた。) 山田:(M)俺はようやく訪れた理想の流れに対し、想いの全てをぶつけるようにこう答えた。 山田:あぁ…愛してるさ。 影山:『グサッ…!』 影山:「さゆり、呆然と立ち尽くす。」 影山:(M)光一から語られた愛の言葉は、本来の目的とは違うベクトルで私の心に突き刺さった。 影山:『ゾワワワ』 影山:そ、そんな…わ、私…何てことを…。 山田:(M)さゆりの顔がみるみる青ざめていく。俺はさゆりの中で罪の意識が高まっていくのを肌で感じていた。 山田:(さゆり、お前は何も悪くない。だからそんな顔をしないでくれ!) 山田:『ピト…。』 山田:「光一、血の付いていない左手でさゆりの頬に優しく触れる。」 山田:…なぁに、この程度の傷で…俺は死んだり…しないさ。 影山:『きゅわわわーん!』 影山:(ああ…なんて事。私はあなたにこんなにも酷いことをしたのに、それでも私を受け入れてくれると言うの?) 影山:(M)気付けば今まで光一に対して抱いていたどす黒い感情はいつの間にか消え去っていた。 影山:(ああ…神様。もしこの罪が許されるのならば、私はこの人と一緒に生きていきたい。どうか、彼を助けて…。) 影山:光一…私、あなたのことが大好きよ!だからお願い…死なないで!! 影山:「さゆり、両手で光一の左手を優しく包み込む。」 山田:『ほわほわほわーん』 山田:(なんて温かい手なんだ。) 山田:(M)俺は左手から伝わる温もりを通して、さゆりの心から闇が完全に取り払われたことを悟った。 山田:は、はは…可愛いさゆりを残して死ねるわけない…じゃないか。 影山:『しょぼぼぼん…』 影山:(M)強がってはいるものの、徐々に光一から生気がなくなっていることは火を見るより明らかだった。 影山:(ああ…傷口からこんなに血が!私、一体どうしたら良いの?) 影山:うう…光一。 山田:『ポタ…』 山田:(M)彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。 山田:(ごめんな。俺、もう…限界かも…。) 山田:さゆり…俺のお願い…聞いて…くれるか? 影山:『ドックン…ドックン』 影山:(え…お願い…?) 影山:(M)死亡フラグ…一瞬よぎった言葉を即座にかき消し、私は落ち着いている雰囲気を装いながら聞き返す。 影山:うん…なに? 山田:(M)さゆりにお願い事か…きっと最初で最後になるかもしれないが、それでも俺は満足だった。 山田:(…この想いを伝えるんだ。) 山田:…さゆりのキスで眠らせて…くれないか? 影山:『ガガーン!』 影山:(M)私の読みは当たっていた。この時ばかりは自分の勘の鋭さを心の底から恨んだ。 影山:(これを叶えてしまったら…光一はもう…。) 影山:…いや!死なないでって言ったじゃない! 影山:『サッ…』 影山:「さゆり、光一の背中をそっと抱く」 山田:(M)背中から感じるさゆりの愛情が今の俺には何より嬉しかった。 山田:(そうだ…俺はもうこれ以上さゆりを悲しませちゃいけないんだ。) 山田:『ピカーン!』 山田:あぁ…死なないさ。ただ…今はさゆりの傍で眠りたい気分…なんだ。ダメ…かな? 影山:『ドガガガガ!』 影山:(M)心の中で巻き起こる激しい葛藤。でも…答えなんて初めから決まっていた。 影山:(この選択が間違っていたとしても私は後悔なんてしないわ。だって、私は光一の傍にいるって決めたんだもの!) 影山:『シャッキーン!』 影山:ううん…ダメじゃないわ。ぐすん…じゃあ目が覚めたらデートしましょう!…今度はちゃんと恋人同士として…ね? 山田:『キラキラキラ…』 山田:(M)この時俺は人生で最高の幸せを噛み締めていた。 山田:(ありがとう…さゆり。俺はなんて幸せ者なんだ。) 山田:ああ…約束だよ…。 山田:「光一、そっと瞼を閉じる」 影山:『ふわふわふわ~』 影山:(M)私の心に爽やかな風が吹き抜ける。 影山:(私を愛してくれてありがとう…。) 影山:光一…。 影山:「さゆりの唇がゆっくりと近づいていく…」 :----------------------------- : 山田:うっ…うう…。なんて感動的な話なんだ!部長、俺が間違ってました! 影山:……。 山田:…ぐすん。あれ?部長? 影山:やりにくい…。 山田:え? 影山:だから、演じにくいって言ってんの!はぁ…やっぱりアレよね。何でもかんでも詰めこみゃ良いって話じゃないわよね。 山田:そんなことないっすよ!同じ内容でも最初にやった物とは伝わる情報量が段違いでしたもん! 影山:そう?じゃああの効果音、いる? 山田:えっと…途中からそこだけ浮いてる気がしました。 影山:心の声は? 山田:あー…正直セリフと混同しちゃう感じがして…。 影山:だよね。ト書きは? 山田:うーん…演技の勢いにブレーキを掛けちゃってる気がします。 影山:モノローグは? 山田:あそこまで入れると逆にウザイですね。 影山:つまりこれらを総合すると? 山田:何事もほどほどが一番…ですか? 影山:そうなのよー!!そのほどほどが分かんないのよー!ああ!嘆かわしい!何と嘆かわしいことだ! 山田:あの、部長。 影山:ん?何よ? 山田:俺、そろそろ帰っても良いっすか? 影山:さあ山田君。これから私と一緒に「台本におけるほどほどの情報量とは何か」について考えるわよ!そもそも必要な情報とそうでない情報はどうやって見分けるべきか?それを考える上でここに私が書いた一冊の台本があります。これを使って… 山田:もう勘弁してくださーい!! : :~完~