台本概要
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タイトル | 約束の鐘楼(カンパニーレ) |
---|---|
作者名 | akodon (@akodon1) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
鐘を鳴らそう、あなたの為に。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ヨシュア | 男 | 120 | とある田舎町出身の男性。アンナより少し年下。 |
アンナ | 女 | 115 | 森番の小屋に住む未亡人。ヨシュアより少し年上。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
アンナ:鐘を鳴らそう。遠く、遠く、高らかに。
アンナ:その音があなたの元へ届くように。
アンナ:私の想いが届くように。
0:『約束の鐘楼(カンパニーレ)』
アンナ:小さな田舎町の、少し外れの丘にある古びた鐘楼(カンパニーレ)。
アンナ:いつしか誰も鳴らすことが無くなったその鐘を、ここ一年ずっと鳴らし続ける人がいる。
アンナ:そんな話を彼ーーーヨシュアが聞いたのは、とある用事を済ますため、故郷であるこの町に帰ってきた時のことだった。
ヨシュア:「毎日、正午になると鐘が鳴る?
ヨシュア:へぇ、いつの間にか町ではそんな決まりができたのかい?」
0:(少し間)
ヨシュア:「・・・え?誰が作ったでも無い?
ヨシュア:まぁ、確かに・・・あんな辺鄙(へんぴ)なところで鐘を鳴らさなくても、町の中央には時計台があるものなぁ・・・。
ヨシュア:わざわざ時間を知らせる鐘を鳴らすなんて、一体誰が・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「おいおい!やめてくれよ!
ヨシュア:そんな真っ昼間から幽霊なんて出るわけないだろ!
ヨシュア:いいや、怖がってなんかいないさ!
ヨシュア:・・・わかった!明日にでも確かめに行ってやるよ」
0:(少し間)
ヨシュア:「・・・と、酒の勢いで言ったものの、なんで俺はこんな所に来てしまったんだ・・・。
ヨシュア:それにしても、この町の人間は相変わらず呑気だよな。
ヨシュア:一年もの間、誰が鐘を鳴らしているのか気にもせず、毎日過ごしているなんて・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「まぁ・・・かと言って、その場で待ち構えているのも何だ・・・。
ヨシュア:近くにある・・・ああ、あの欅(けやき)の木の上にでも隠れて、こっそり様子を伺っておくか・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「さてさて・・・果たしてどんなヤツが来るのか・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「それにしても・・・せっかくのいい天気なのに、なんで俺はこんなことに時間を使っているのか・・・。
ヨシュア:どうせなら、家でのんびり昼寝でもしておけば良かったなぁ・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「ああ、ダメだ。思わず寝ちまいそうだ・・・。もうすぐ正午だっていうのに・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「(寝息)」
0:(鐘の音)
ヨシュア:「おわぁっ!?なんだ!?鐘の音!?
ヨシュア:あっ・・・う、うわぁああああ!!!」
ヨシュア:(ヨシュア、木から落ちる)
アンナ:「きゃあ!」
0:(少し間)
ヨシュア:「うう・・・痛てぇ・・・やらかした・・・。
ヨシュア:あぁ・・・ダメだ・・・痛みで意識が遠くなって・・・」
アンナ:「・・・ハァ・・・ハァ・・・そこの方、大丈夫ですか!?」
ヨシュア:「うう・・・」
アンナ:「大丈夫ですか!
アンナ:しっかり・・・しっかりしてください!」
0:(しばらくの間)
アンナ:「あっ・・・目が覚めました?
アンナ:大丈夫ですか?」
ヨシュア:「うーん・・・あれ?ここは・・・」
アンナ:「丘の上のカンパニーレの下です。
アンナ:あなたはそこの木の上から落ちて、気を失っていたんですよ?」
ヨシュア:「ああ、そうだった・・・。
ヨシュア:うっ、いてててて・・・」
アンナ:「ダメですよ!急に動いちゃ!
アンナ:頭は打ってなかったようですけど、念の為もう少しじっとしていてください」
ヨシュア:「いやぁ・・・すみません。
ヨシュア:もしかして、ずっと傍についててくれたんですか?」
アンナ:「当たり前ですよ。
アンナ:気を失った人を置いて、さっさと自分の家に帰ることなんてできませんから」
ヨシュア:「ご迷惑をおかけして申し訳ない・・・」
アンナ:「いいえ。
アンナ:・・・でも、なんであんな木の上にいらっしゃったんですか?
アンナ:木登りがご趣味?」
ヨシュア:「いやいや!そういうわけでは無いんです!
ヨシュア:実は・・・その、ここしばらく正午になるとカンパニーレから鐘の音がするというので、誰が鳴らしているのか気になってしまって」
アンナ:「あら、ごめんなさい。
アンナ:鳴らす前に町の方々へひと声かけるべきでしたか?」
ヨシュア:「うーん、古びてボロボロだし、今は誰も使っていないので、別に構わないと思いますが・・・」
アンナ:「ああ、良かった・・・
アンナ:みなさんのご迷惑になってたとしたら、なんだか申し訳なくて・・・」
ヨシュア:「では、正午を告げる鐘はあなたが?」
アンナ:「ええ、毎日決まった時間に鐘を鳴らしていたのは私です。
アンナ:もっとも、時間をお知らせしてるわけでは無かったのですが」
ヨシュア:「へぇー・・・そりゃまたどうして・・・」
アンナ:「・・・待って、いるんです」
ヨシュア:「えっ?」
アンナ:「さぁ、もう日も傾いてきました。
アンナ:木から落ちた上に、風邪までひいたら大変です。
アンナ:早く帰った方が良いですよ」
ヨシュア:「ああ・・・ははっ、そうですね。
ヨシュア:長い間引き止めちゃってすみません」
アンナ:「いえいえ。では、お気を付けて・・・」
ヨシュア:「あの!」
アンナ:「どうしました?」
ヨシュア:「その・・・明日もここに来ますか?」
アンナ:「ええ、来ます。
アンナ:また明日の正午、鐘を鳴らしに」
ヨシュア:「本当ですか!?
ヨシュア:あっ・・・いえ、大声を出して申し訳ない」
アンナ:「ふふっ、それだけ大きな声が出せれば大丈夫そうですね。
アンナ:ではお大事に。
アンナ:あと、木登りは程々に」
ヨシュア:「ははっ・・・気を付けます」
0:(少し間。アンナ、手を振りながら去っていく)
ヨシュア:「はぁ・・・素敵な人だったなぁ・・・。あっ、名前・・・聞いておけば良かった・・・」
0:(しばらくの間)
ヨシュア:「・・・あっ、来た来た!こんにちは」
アンナ:「あら、こんにちは。
アンナ:昨日はあの後、なんともありませんでしたか?」
ヨシュア:「大丈夫です!頑丈さだけが取り柄なので!」
アンナ:「ふふっ・・・でも無理はしちゃいけませんよ?
アンナ:命は一つしかないんですから」
ヨシュア:「そうですね。
ヨシュア:確かにあなたの言う通りだ。気を付けます」
アンナ:「そういえば、どうしてまたこちらに?
アンナ:木登りですか?」
ヨシュア:「違います!
ヨシュア:大の大人が、そんなに毎日木登りなんて・・・」
アンナ:「あら?では何を・・・」
ヨシュア:「いや、今日はその・・・あなたに昨日のお礼をしたくて」
アンナ:「昨日の・・・?ああ、いいんですよ。
アンナ:ただ傍に付いていただけで、何もしてないんですから」
ヨシュア:「そんなことないですよ!
ヨシュア:あなたが傍に居てくれなかったら、俺は腹を空かせた熊に食べられていたかもしれない!」
アンナ:「やだ、この辺で熊を見たなんて話、聞いたことがありませんよ」
ヨシュア:「いいえ!もしかしたら居るかもしれないじゃないですか、サーカスから逃げ出した凶暴な人喰い熊が・・・
ヨシュア:こう・・・ガオーッ!と」
アンナ:「ふふ、面白い方。
アンナ:けど、お気遣いなさらず。
アンナ:私は当然の事をしたまでですから・・・」
ヨシュア:「そんな遠慮しないでください!
ヨシュア:俺がお礼をしたいんです!
ヨシュア:何でもいいので、できることがあれば、ぜひ!」
アンナ:「でも・・・」
ヨシュア:「ぜひ!!」
アンナ:「うーん・・・そこまで仰(おっしゃ)るなら・・・。
アンナ:でも、生憎(あいにく)、今は欲しいものも、して欲しいことも浮かばないんです」
ヨシュア:「そうですか・・・」
アンナ:「あらあら、そんなに肩を落とさないでください。
アンナ:お気持ちだけで充分なんですから・・・」
ヨシュア:「いいえ、それじゃあ俺の気が収まらなくて・・・
ヨシュア:あっ、そうだ!なら、この話は一旦保留にしておきましょう。
ヨシュア:もし、俺に何かできることがあれば、その時は遠慮なく仰ってください!
ヨシュア:なんでも叶えてみせますから!」
アンナ:「何でも?」
ヨシュア:「そう、何でもです。
ヨシュア:・・・まぁ、一生遊んで暮らせるほどの金銀財宝が欲しい、なんて言われたら、ちょっと困ってしまいますが・・・」
アンナ:「そんな図々しいお願いはしませんよ。
アンナ:でも、そういうことならそうですね・・・考えておきますね」
ヨシュア:「はい!よろしくお願いします!
ヨシュア:・・・あっ、そうそう、先日お会いした時、うっかり聞き忘れてしまったのですが・・・
ヨシュア:もしよろしければ、その・・・お名前をお伺いしても良いですか?」
アンナ:「私の・・・ですか?」
ヨシュア:「いや!昨日会ったばかりの男に教えるなんて、嫌ですよね!
ヨシュア:本当に失礼な事ばかり・・・ははっ・・・」
アンナ:「・・・アンナ。アンナといいます。私の名前」
ヨシュア:「アンナ・・・さん。素敵なお名前ですね」
アンナ:「ふふ、そうですか?」
ヨシュア:「ええ、本当に!お世辞や冗談ではなく!」
アンナ:「ありがとうございます。
アンナ:私もお名前、お伺いしても良いですか?」
ヨシュア:「あっ!そうだった・・・俺の名前はヨシュア。ヨシュアです」
アンナ:「ヨシュアさん・・・。素敵なお名前ね」
ヨシュア:「そうですか?」
アンナ:「ええ、お世辞や冗談ではなく」
ヨシュア:「あっ、いや!
ヨシュア:えーっと・・・その・・・ありがとうございます」
アンナ:「うふふ」
ヨシュア:「ははは・・・」
アンナ:「そういえば、ヨシュアさんは町の方?」
ヨシュア:「はい、そうです。
ヨシュア:しばらく町を離れていましたが、今少しの間だけ実家に帰ってきてまして・・・」
アンナ:「ああ、どうりで。
アンナ:初めてお会いした気がしたから」
ヨシュア:「アンナさんは町に住んでいらっしゃるんですか?」
アンナ:「いいえ。
アンナ:私はこの丘を下った先にある、小さな家で暮らしているんです」
ヨシュア:「小さな・・・あっ、もしかして森番(もりばん)の小屋ですか?」
アンナ:「ええ、そうです」
ヨシュア:「へぇ・・・あれ?あの家には確か、俺よりちょっと歳上の男が一人、住んでたはずじゃ・・・?」
アンナ:「ええ、その人は私の夫」
ヨシュア:「夫・・・夫・・・ええっ!?」
アンナ:「どうしたの?そんなに驚いて・・・」
ヨシュア:「いや、えーっと・・・アンナさん、結婚されてるんですね・・・はは・・・」
アンナ:「(うっすらと聞こえる小声で)正確には、『してた』んですけどね・・・」
ヨシュア:「・・・?どうかしました?」
アンナ:「いえ、何でもないわ。
アンナ:さて・・・そろそろ正午だし、鐘を鳴らさなきゃ」
ヨシュア:「ああ、申し訳ない、話し込んじゃって・・・。
ヨシュア:俺も手伝いましょうか?」
アンナ:「ううん、大丈夫です。
アンナ:これは私がやらなきゃいけないことだから」
ヨシュア:「ああ、すみません・・・出しゃばった真似を・・・」
アンナ:「いえ、では私はこれで。
アンナ:お約束の件、決まったらお返事しますね」
ヨシュア:「あっ・・・アンナさん・・・。行ってしまった・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「結婚してる、のかぁ・・・嘘だろ・・・はぁ・・・」
0:(しばらくの間。町にて)
アンナ:(アンナ、少し遠くからヨシュアに気付き呼びかける)
アンナ:「・・・あら?ヨシュアさーん!」
ヨシュア:「ああ、アンナさん・・・こんにちは」
アンナ:「こんにちは。
アンナ:町でお会いするのは初めてですね」
ヨシュア:「ええ、そうですね。
ヨシュア:・・・というかアンナさん、すごい荷物ですね。
ヨシュア:大丈夫ですか?一人で持てますか?」
アンナ:「大丈夫です。
アンナ:町に来た時は、毎回これくらい買い込んでいますから」
ヨシュア:「良ければ持ちましょうか?」
アンナ:「ええっ、そんな・・・」
ヨシュア:「良いんですよ!
ヨシュア:どうせ俺、今暇ですし、荷物持ちくらいなら全然やりますから」
アンナ:「でも・・・」
ヨシュア:「ほらほら、遠慮しないで!
ヨシュア:どこまで運べばいいですか?」
アンナ:「えっと・・・それじゃあ、いつものカンパニーレまでお願いしても良いですか?」
ヨシュア:「お易(やす)い御用です。
ヨシュア:じゃあ、行きましょうか?」
アンナ:「あっ、ごめんなさい。
アンナ:もう一件だけ寄りたいお店があるんです。
アンナ:少しだけ待ってもらっても良いですか?」
ヨシュア:「ああ、どうぞどうぞ。
ヨシュア:ちなみにどちらへ?」
アンナ:「花を・・・花を買いに行きたくて」
ヨシュア:「花、ですね。わかりました。
ヨシュア:ここで待ってますから、それが済んだら一緒にカンパニーレまで行きましょう」
アンナ:「ええ、ありがとうございます。
アンナ:すぐに買ってきますね」
0:(しばらくの間。丘の上を歩く二人)
ヨシュア:「・・・それでですね、その時、俺はうっかり鍵(かぎ)をかけ忘れてしまって・・・
ヨシュア:鳥小屋から脱走した鶏が町中を駆け回って、そりゃあ大騒ぎで・・・」
アンナ:「ふふっ・・・ああ、可笑しい。
アンナ:ヨシュアさんったら、結構そそっかしいのね」
ヨシュア:「そうなんですよ。
ヨシュア:昔から落ち着きがない、ってよく叱られてて」
アンナ:「でも、今はちゃんと立派にやってるんだから・・・
アンナ:あっ、この辺でもう大丈夫ですよ」
ヨシュア:「いやいや、ここまで来ればあと少しなので、家まで運びますよ。
ヨシュア:確か、この道を下っていった先ですよね?」
アンナ:「そんな・・・悪いわ・・・!」
ヨシュア:「大丈夫です!荷物降ろしたらすぐに帰りますから。
ヨシュア:・・・あっ、何かしようなんて考えてませんよ。
ヨシュア:俺、そんな度胸なんて無いですし」
アンナ:「そんなこと思ってないです!
アンナ:ただ、申し訳なくて・・・」
ヨシュア:「良いんですって。ほら、もう家が見えてきた」
アンナ:「本当にごめんなさい。
アンナ:ここまで付き合ってもらっちゃって」
ヨシュア:「アンナさんは気にしすぎですよ。
ヨシュア:・・・さぁ、着いた。この荷物はどこへ置けば良いですか?」
アンナ:「えっと・・・あちらの倉庫の前に」
ヨシュア:「わかりました!倉庫の前・・・倉庫の前・・・っと。
ヨシュア:あれ、こんなところに何だ・・・墓?」
アンナ:「・・・そうです。お墓。私の夫の」
ヨシュア:「えっ・・・?」
アンナ:「一年前のことでした。
アンナ:兵として召集された彼は、見知らぬ異国の地で敵の銃弾を受けて・・・
アンナ:ここに帰ってくる事は無かった」
ヨシュア:「そんな・・・」
アンナ:「私も未だに実感が無いの。
アンナ:だって、彼の最期を見たわけじゃない。
アンナ:彼の亡骸(なきがら)を目にしたわけじゃない。
アンナ:・・・私の手元に戻ってきたのは、彼が最期に身に付けていた服の切れ端と、ほんの少しの遺品だけ」
ヨシュア:「・・・っ」
アンナ:「だからね、形としてお墓をつくってみたはいいものの、ここに彼が眠っているとは思えないの。
アンナ:もしかしたら、あの遺品は彼の物ではなく、ほかの誰かの物で・・・
アンナ:ひょっとすると、あれは何かの手違いで、いつかふらっと帰ってくるんじゃないかって」
ヨシュア:「アンナさん・・・」
アンナ:「ヨシュアさん、私があの鐘をどうして鳴らしているのか、理由を言ってなかったですよね。
アンナ:・・・あのカンパニーレはね、私と彼がよく二人で登った、思い出の場所なの」
ヨシュア:「そう、なんですか・・・」
アンナ:「ええ、だからね。
アンナ:もしかしたら、彼があの場所を目指して帰ってくるかもしれない。
アンナ:ごめんね、待たせたね、って照れくさそうに笑いながら、私の元に戻ってくるかもしれない・・・
アンナ:そう思って、私は鐘を鳴らしているの。
アンナ:私はここで待っている。
アンナ:いつまでもあなたを待ち続けていると、彼に伝える為に」
ヨシュア:「・・・」
アンナ:「・・・けど、先日手紙が届いたの。
アンナ:彼の上官だったという人から。
アンナ:そこには、彼がいつ、どこで、どんな風に最期を迎えたか、事細かに書かれていたわ」
ヨシュア:「・・・!」
アンナ:「でも、不思議ね・・・やっぱり認めることが出来ないの・・・。
アンナ:彼は死んでしまったとはっきり言われても、私は涙一つ流せない。
アンナ:こうしてお墓に花を供えて、祈りを捧げてみれば泣けるかと思ったけど、この頬は・・・ほら、今もこうして乾いたままなの。
アンナ:・・・ね?薄情な女でしょ?」
ヨシュア:「薄情なんて・・・違います。
ヨシュア:アンナさんは優しい人だ。
ヨシュア:勝手に木から落ちて伸びている見ず知らずの人間を、ずっと付きっきりで介抱してくれるような、そんな優しい人だ・・・」
アンナ:「ありがとう、ヨシュアさん。
アンナ:慰める為だとしても、そう言ってもらえて嬉しいわ」
ヨシュア:「いいえ、慰めなんかじゃない!」
アンナ:「えっ・・・?」
ヨシュア:「だって・・・考えてみてください。
ヨシュア:自分を薄情だと言う人が、一年もの間、帰ってくるかも分からない人を信じて、待ち続けることができますか?
ヨシュア:毎日のように、誰かを想って鐘を鳴らし続けることができますか?」
アンナ:「でも、でも・・・」
ヨシュア:「アンナさん、自分を卑下(ひげ)しないでください。
ヨシュア:別に泣けないから薄情なんてことはありません。
ヨシュア:きっと、あなたは今でも旦那さんが帰ってくると信じている。
ヨシュア:だから泣けないんじゃない。泣かないんです。
ヨシュア:そう思えば良いじゃないですか。
ヨシュア:そう思って、生きていけば良いじゃないですか」
アンナ:「・・・けれど、あの人はそれを許してくれるかしら。
アンナ:自分の為に、涙一つ流してくれない私のことを・・・」
ヨシュア:「大丈夫ですよ。
ヨシュア:亡くなった人が残された人に望むのは、立ち止まって悲しむことより、笑顔で前を向いて進むことです。
ヨシュア:俺はそう信じてます」
アンナ:「・・・っ」
ヨシュア:「・・・でも、涙は悲しみを押し流すものです。
ヨシュア:時には思う存分泣いてください。
ヨシュア:立ち上がれないほど泣いてしまいそうな時は、誰かに寄りかかれば良いんですから」
アンナ:「・・・うっ・・・ううっ・・・(アンナ、静かに泣く)」
ヨシュア:「・・・ああ、今日はとても良い天気ですね。
ヨシュア:きっと、涙もすぐに乾くことでしょう」
0:(しばらくの間。森番の小屋)
ヨシュア:「・・・こんにちは。アンナさん」
アンナ:「あら、ヨシュアさん・・・こんにちは」
ヨシュア:「・・・」
アンナ:「・・・」
0:(二人の間に微妙な空気が流れる)
アンナ:「あの、良いお天気ね・・・。
アンナ:ヨシュアさんはお散歩でもしに来たんですか?」
ヨシュア:「いえ、今日はアンナさんにお伝えしたいことがあって」
アンナ:「私に?何かしら?」
ヨシュア:「俺、実は三日後にこの町を発(た)つんです」
アンナ:「えっ・・・そう・・・なの?」
ヨシュア:「はい、だからご挨拶をしなければと思って。
ヨシュア:アンナさんには色々お世話になりましたから」
アンナ:「そんな・・・私、本当に大したことしてないわ。
アンナ:むしろ、私の方が色々・・・
アンナ:あっ・・・ねぇ、もし良ければお見送りに行きたいんだけど、行っても良いかしら?」
ヨシュア:「・・・いや、大丈夫です。
ヨシュア:当日は色々用事を済ませなければいけないので、ご挨拶する時間も無いんです」
アンナ:「そう・・・残念だわ・・・
アンナ:でも、そういうことなら仕方ないわよね。
アンナ:ご迷惑になってしまったら大変だし、それに・・・」
ヨシュア:(ヨシュア、遮るように)
ヨシュア:「アンナさん」
アンナ:「はい」
ヨシュア:「どうか・・・どうかお元気で。
ヨシュア:あなたが笑顔でいられることを、俺は心から願っています」
アンナ:「・・・ありがとう、ヨシュアさん。
アンナ:私もあなたの幸せをここでずっと祈っています」
ヨシュア:「ありがとうございます。・・・それでは」
アンナ:「あっ・・・」
0:(ヨシュア、去っていく)
アンナ:「・・・そういえば、何でも叶えてくれる、ってお願いのこと、すっかり忘れてしまっていたわ・・・」
0:(しばらくの間。三日後、町中にて)
アンナ:「今日はヨシュアさんが旅立つ日ね・・・
アンナ:見送りはいいって言われたけれど、なんとなく町まで来てしまった・・・」
0:(少し間)
アンナ:「・・・迷惑になってしまうわよね。
アンナ:忙しいって言ってたもの・・・」
0:(少し間)
アンナ:「やっぱり、今日は花だけ買って帰りましょう・・・
アンナ:この前、お別れはしたんだから」
0:(少し間)
アンナ:「すみません。花を頂けますか?
アンナ:・・・えっ、ヨシュアさんの見送り、ですか?
アンナ:いえ、私は・・・」
0:(少し間)
アンナ:「・・・えっ・・・?
アンナ:あの、そのお話、本当ですか・・・!?」
0:(しばらくの間。町の入口にて)
ヨシュア:「・・・よし、お世話になった人への挨拶は全部済んだし。必要な物以外は全て処分した。
ヨシュア:これで万が一のことがあっても、心残りは無いな・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「いや・・・嘘だな。心残りが無いわけじゃない。
ヨシュア:ケニーとジェシカの結婚式にも出てやりたかったし、フレッドのところの生まれたばかりのチビが、大きくなる姿も見たかった。
ヨシュア:親父とお袋にもっと親孝行してやりたかったし・・・それに・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「ははっ、あの人に・・・やっぱりひと目会いたかったなんて・・・
ヨシュア:俺も大概(たいがい)未練がましいや」
0:(少し間)
ヨシュア:「さぁ、行こう・・・いつまでもここで立ち止まってるわけにはいかない。
ヨシュア:もう決まったことだ。
ヨシュア:・・・もう、決まったことなんだから」
アンナ:(アンナ、ヨシュアの元へ駆け寄る)
アンナ:「・・・待って!待って!お願い!ヨシュアさん!!」
ヨシュア:「アンナさん!?どうしてここに・・・
ヨシュア:見送りは良いって言ったのに(アンナが胸に縋り付いてくる)・・・っと」
アンナ:「どうして!どうして言ってくれなかったんですか!
アンナ:この町を出て行く理由を!」
ヨシュア:「まさか、聞いたんですか・・・?
ヨシュア:俺が戦争に行くことを・・・」
アンナ:「ええ・・・聞きました。
アンナ:町でヨシュアさんが兵士として、戦地に赴(おもむ)くと・・・
アンナ:向かう先は激戦区で、もしかしたら帰って来れないかもしれないことも・・・」
ヨシュア:「参ったな・・・アンナさんにだけは教えたくなかったのに・・・」
アンナ:「何故ですか!
アンナ:何故私にだけ、それを隠して出て行こうとしたんですか!」
ヨシュア:「・・・アンナさんをこれ以上、悲しませたくなかったんですよ」
アンナ:「えっ・・・」
ヨシュア:「だってそうでしょ?あなたは、ただでさえ旦那さんを戦争で亡くしているんだ。
ヨシュア:その傷も癒えないうちにこんな話をするなんて、俺にはとてもできなかった」
アンナ:「・・・っ」
ヨシュア:「でも、これは言い訳ですね。
ヨシュア:もし、あなたの事を思うのならば、わざわざ別れを告げに行かなければ良かった。
ヨシュア:けど、どうしても欲が出た。
ヨシュア:最後にあなたの顔が見たいと思ってしまった。
ヨシュア:だから、結局こんな・・・」
アンナ:「もし・・・もし、あなたが何も言わずに居なくなってしまったら、私はきっとあなたの事を一生許しませんでした」
ヨシュア:「・・・」
アンナ:「帰って・・・来れないんですか?
アンナ:例えほんの少しでも良い。
アンナ:生きて帰ってこられる可能性は無いんですか?」
ヨシュア:「・・・厳しいかもしれません。
ヨシュア:俺が送り込まれるのは、最前戦だそうです。
ヨシュア:無事に帰って来るのは、なかなか難しいでしょう」
アンナ:「いいえ、無事に帰ってきてください」
ヨシュア:「えっ・・・」
アンナ:「あの日の約束、覚えてますか?
アンナ:ヨシュアさんは言ってましたよね。
アンナ:自分にできることがあったら、何でも叶えてみせると」
ヨシュア:「・・・!」
アンナ:「それなら、私の叶えて欲しい願いはそれです。
アンナ:あなたが無事に生きて帰ってくること。
アンナ:それが私の望みです」
ヨシュア:「もっとほかの事にしてくれれば良かったのに・・・」
アンナ:「でも、最初に約束したのはあなたよ。ヨシュアさん」
ヨシュア:「・・・何年待たせるか分かりませんよ?」
アンナ:「構いません。待つことには慣れています」
ヨシュア:「五体満足とはいかないかもしれない」
アンナ:「だったら、私が支えます。
アンナ:目を失ったら私があなたの目になります。
アンナ:腕を失ったら、私があなたの腕になります。
アンナ:脚を失ったら、私があなたの脚になります」
ヨシュア:「ああ・・・そんなことを言われたら、何が何でも帰ってくるしかないじゃないですか」
アンナ:「そうですよ。
アンナ:私、こう見えてもとても我儘(わがまま)で頑固なんです」
ヨシュア:「はは・・・はははっ」
アンナ:「ふふふ・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「・・・アンナさん。俺からも一つお願いをして良いですか?」
アンナ:「はい」
ヨシュア:「鐘を・・・あのカンパニーレで鐘を鳴らしてください。
ヨシュア:毎日なんて贅沢は言わない。
ヨシュア:けど、鐘を鳴らしてくれるなら、俺はそれを目指してあなたへ会いに来ますから」
アンナ:「・・・ええ、鳴らします。
アンナ:あなたの無事を祈って何日でも、何年でも」
ヨシュア:「・・・ありがとう。必ず戻ります。
ヨシュア:あなたの元へ。例え何があろうとも」
アンナ:「はい、待っています。
アンナ:あなたが私の元へ帰るのを、ずっとずっと・・・あのカンパニーレで」
ヨシュア:「・・・では、行ってきます。いつかきっと、また会えると信じて」
アンナ:「ええ、必ず会えると信じてます。
アンナ:・・・行ってらっしゃい」
0:(しばらくの間)
アンナ:あの日から、私はずっと彼を待っている。
アンナ:彼との約束を今日も信じ、カンパニーレに続く丘を登る。
アンナ:
アンナ:「・・・ヨシュアさん、あなたも見ていますか?
アンナ:この綺麗な空を。
アンナ:あなたと出会った日のような、美しい青空を」
アンナ:
アンナ:そう話しかけながら、私は今日も願う。
アンナ:彼のことを想い、そこに立つ。
アンナ:
アンナ:鐘を鳴らそう。遠く、遠く、高らかに。
アンナ:その音があなたの元へ届くように。
アンナ:私の想いが届くように。
アンナ:
アンナ:あなたがいつか私の元へ帰る、その日まで。
0:(少し間)
ヨシュア:「・・・ただいま戻りました」
アンナ:「おかえりなさい」
0:〜Fin〜
アンナ:鐘を鳴らそう。遠く、遠く、高らかに。
アンナ:その音があなたの元へ届くように。
アンナ:私の想いが届くように。
0:『約束の鐘楼(カンパニーレ)』
アンナ:小さな田舎町の、少し外れの丘にある古びた鐘楼(カンパニーレ)。
アンナ:いつしか誰も鳴らすことが無くなったその鐘を、ここ一年ずっと鳴らし続ける人がいる。
アンナ:そんな話を彼ーーーヨシュアが聞いたのは、とある用事を済ますため、故郷であるこの町に帰ってきた時のことだった。
ヨシュア:「毎日、正午になると鐘が鳴る?
ヨシュア:へぇ、いつの間にか町ではそんな決まりができたのかい?」
0:(少し間)
ヨシュア:「・・・え?誰が作ったでも無い?
ヨシュア:まぁ、確かに・・・あんな辺鄙(へんぴ)なところで鐘を鳴らさなくても、町の中央には時計台があるものなぁ・・・。
ヨシュア:わざわざ時間を知らせる鐘を鳴らすなんて、一体誰が・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「おいおい!やめてくれよ!
ヨシュア:そんな真っ昼間から幽霊なんて出るわけないだろ!
ヨシュア:いいや、怖がってなんかいないさ!
ヨシュア:・・・わかった!明日にでも確かめに行ってやるよ」
0:(少し間)
ヨシュア:「・・・と、酒の勢いで言ったものの、なんで俺はこんな所に来てしまったんだ・・・。
ヨシュア:それにしても、この町の人間は相変わらず呑気だよな。
ヨシュア:一年もの間、誰が鐘を鳴らしているのか気にもせず、毎日過ごしているなんて・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「まぁ・・・かと言って、その場で待ち構えているのも何だ・・・。
ヨシュア:近くにある・・・ああ、あの欅(けやき)の木の上にでも隠れて、こっそり様子を伺っておくか・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「さてさて・・・果たしてどんなヤツが来るのか・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「それにしても・・・せっかくのいい天気なのに、なんで俺はこんなことに時間を使っているのか・・・。
ヨシュア:どうせなら、家でのんびり昼寝でもしておけば良かったなぁ・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「ああ、ダメだ。思わず寝ちまいそうだ・・・。もうすぐ正午だっていうのに・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「(寝息)」
0:(鐘の音)
ヨシュア:「おわぁっ!?なんだ!?鐘の音!?
ヨシュア:あっ・・・う、うわぁああああ!!!」
ヨシュア:(ヨシュア、木から落ちる)
アンナ:「きゃあ!」
0:(少し間)
ヨシュア:「うう・・・痛てぇ・・・やらかした・・・。
ヨシュア:あぁ・・・ダメだ・・・痛みで意識が遠くなって・・・」
アンナ:「・・・ハァ・・・ハァ・・・そこの方、大丈夫ですか!?」
ヨシュア:「うう・・・」
アンナ:「大丈夫ですか!
アンナ:しっかり・・・しっかりしてください!」
0:(しばらくの間)
アンナ:「あっ・・・目が覚めました?
アンナ:大丈夫ですか?」
ヨシュア:「うーん・・・あれ?ここは・・・」
アンナ:「丘の上のカンパニーレの下です。
アンナ:あなたはそこの木の上から落ちて、気を失っていたんですよ?」
ヨシュア:「ああ、そうだった・・・。
ヨシュア:うっ、いてててて・・・」
アンナ:「ダメですよ!急に動いちゃ!
アンナ:頭は打ってなかったようですけど、念の為もう少しじっとしていてください」
ヨシュア:「いやぁ・・・すみません。
ヨシュア:もしかして、ずっと傍についててくれたんですか?」
アンナ:「当たり前ですよ。
アンナ:気を失った人を置いて、さっさと自分の家に帰ることなんてできませんから」
ヨシュア:「ご迷惑をおかけして申し訳ない・・・」
アンナ:「いいえ。
アンナ:・・・でも、なんであんな木の上にいらっしゃったんですか?
アンナ:木登りがご趣味?」
ヨシュア:「いやいや!そういうわけでは無いんです!
ヨシュア:実は・・・その、ここしばらく正午になるとカンパニーレから鐘の音がするというので、誰が鳴らしているのか気になってしまって」
アンナ:「あら、ごめんなさい。
アンナ:鳴らす前に町の方々へひと声かけるべきでしたか?」
ヨシュア:「うーん、古びてボロボロだし、今は誰も使っていないので、別に構わないと思いますが・・・」
アンナ:「ああ、良かった・・・
アンナ:みなさんのご迷惑になってたとしたら、なんだか申し訳なくて・・・」
ヨシュア:「では、正午を告げる鐘はあなたが?」
アンナ:「ええ、毎日決まった時間に鐘を鳴らしていたのは私です。
アンナ:もっとも、時間をお知らせしてるわけでは無かったのですが」
ヨシュア:「へぇー・・・そりゃまたどうして・・・」
アンナ:「・・・待って、いるんです」
ヨシュア:「えっ?」
アンナ:「さぁ、もう日も傾いてきました。
アンナ:木から落ちた上に、風邪までひいたら大変です。
アンナ:早く帰った方が良いですよ」
ヨシュア:「ああ・・・ははっ、そうですね。
ヨシュア:長い間引き止めちゃってすみません」
アンナ:「いえいえ。では、お気を付けて・・・」
ヨシュア:「あの!」
アンナ:「どうしました?」
ヨシュア:「その・・・明日もここに来ますか?」
アンナ:「ええ、来ます。
アンナ:また明日の正午、鐘を鳴らしに」
ヨシュア:「本当ですか!?
ヨシュア:あっ・・・いえ、大声を出して申し訳ない」
アンナ:「ふふっ、それだけ大きな声が出せれば大丈夫そうですね。
アンナ:ではお大事に。
アンナ:あと、木登りは程々に」
ヨシュア:「ははっ・・・気を付けます」
0:(少し間。アンナ、手を振りながら去っていく)
ヨシュア:「はぁ・・・素敵な人だったなぁ・・・。あっ、名前・・・聞いておけば良かった・・・」
0:(しばらくの間)
ヨシュア:「・・・あっ、来た来た!こんにちは」
アンナ:「あら、こんにちは。
アンナ:昨日はあの後、なんともありませんでしたか?」
ヨシュア:「大丈夫です!頑丈さだけが取り柄なので!」
アンナ:「ふふっ・・・でも無理はしちゃいけませんよ?
アンナ:命は一つしかないんですから」
ヨシュア:「そうですね。
ヨシュア:確かにあなたの言う通りだ。気を付けます」
アンナ:「そういえば、どうしてまたこちらに?
アンナ:木登りですか?」
ヨシュア:「違います!
ヨシュア:大の大人が、そんなに毎日木登りなんて・・・」
アンナ:「あら?では何を・・・」
ヨシュア:「いや、今日はその・・・あなたに昨日のお礼をしたくて」
アンナ:「昨日の・・・?ああ、いいんですよ。
アンナ:ただ傍に付いていただけで、何もしてないんですから」
ヨシュア:「そんなことないですよ!
ヨシュア:あなたが傍に居てくれなかったら、俺は腹を空かせた熊に食べられていたかもしれない!」
アンナ:「やだ、この辺で熊を見たなんて話、聞いたことがありませんよ」
ヨシュア:「いいえ!もしかしたら居るかもしれないじゃないですか、サーカスから逃げ出した凶暴な人喰い熊が・・・
ヨシュア:こう・・・ガオーッ!と」
アンナ:「ふふ、面白い方。
アンナ:けど、お気遣いなさらず。
アンナ:私は当然の事をしたまでですから・・・」
ヨシュア:「そんな遠慮しないでください!
ヨシュア:俺がお礼をしたいんです!
ヨシュア:何でもいいので、できることがあれば、ぜひ!」
アンナ:「でも・・・」
ヨシュア:「ぜひ!!」
アンナ:「うーん・・・そこまで仰(おっしゃ)るなら・・・。
アンナ:でも、生憎(あいにく)、今は欲しいものも、して欲しいことも浮かばないんです」
ヨシュア:「そうですか・・・」
アンナ:「あらあら、そんなに肩を落とさないでください。
アンナ:お気持ちだけで充分なんですから・・・」
ヨシュア:「いいえ、それじゃあ俺の気が収まらなくて・・・
ヨシュア:あっ、そうだ!なら、この話は一旦保留にしておきましょう。
ヨシュア:もし、俺に何かできることがあれば、その時は遠慮なく仰ってください!
ヨシュア:なんでも叶えてみせますから!」
アンナ:「何でも?」
ヨシュア:「そう、何でもです。
ヨシュア:・・・まぁ、一生遊んで暮らせるほどの金銀財宝が欲しい、なんて言われたら、ちょっと困ってしまいますが・・・」
アンナ:「そんな図々しいお願いはしませんよ。
アンナ:でも、そういうことならそうですね・・・考えておきますね」
ヨシュア:「はい!よろしくお願いします!
ヨシュア:・・・あっ、そうそう、先日お会いした時、うっかり聞き忘れてしまったのですが・・・
ヨシュア:もしよろしければ、その・・・お名前をお伺いしても良いですか?」
アンナ:「私の・・・ですか?」
ヨシュア:「いや!昨日会ったばかりの男に教えるなんて、嫌ですよね!
ヨシュア:本当に失礼な事ばかり・・・ははっ・・・」
アンナ:「・・・アンナ。アンナといいます。私の名前」
ヨシュア:「アンナ・・・さん。素敵なお名前ですね」
アンナ:「ふふ、そうですか?」
ヨシュア:「ええ、本当に!お世辞や冗談ではなく!」
アンナ:「ありがとうございます。
アンナ:私もお名前、お伺いしても良いですか?」
ヨシュア:「あっ!そうだった・・・俺の名前はヨシュア。ヨシュアです」
アンナ:「ヨシュアさん・・・。素敵なお名前ね」
ヨシュア:「そうですか?」
アンナ:「ええ、お世辞や冗談ではなく」
ヨシュア:「あっ、いや!
ヨシュア:えーっと・・・その・・・ありがとうございます」
アンナ:「うふふ」
ヨシュア:「ははは・・・」
アンナ:「そういえば、ヨシュアさんは町の方?」
ヨシュア:「はい、そうです。
ヨシュア:しばらく町を離れていましたが、今少しの間だけ実家に帰ってきてまして・・・」
アンナ:「ああ、どうりで。
アンナ:初めてお会いした気がしたから」
ヨシュア:「アンナさんは町に住んでいらっしゃるんですか?」
アンナ:「いいえ。
アンナ:私はこの丘を下った先にある、小さな家で暮らしているんです」
ヨシュア:「小さな・・・あっ、もしかして森番(もりばん)の小屋ですか?」
アンナ:「ええ、そうです」
ヨシュア:「へぇ・・・あれ?あの家には確か、俺よりちょっと歳上の男が一人、住んでたはずじゃ・・・?」
アンナ:「ええ、その人は私の夫」
ヨシュア:「夫・・・夫・・・ええっ!?」
アンナ:「どうしたの?そんなに驚いて・・・」
ヨシュア:「いや、えーっと・・・アンナさん、結婚されてるんですね・・・はは・・・」
アンナ:「(うっすらと聞こえる小声で)正確には、『してた』んですけどね・・・」
ヨシュア:「・・・?どうかしました?」
アンナ:「いえ、何でもないわ。
アンナ:さて・・・そろそろ正午だし、鐘を鳴らさなきゃ」
ヨシュア:「ああ、申し訳ない、話し込んじゃって・・・。
ヨシュア:俺も手伝いましょうか?」
アンナ:「ううん、大丈夫です。
アンナ:これは私がやらなきゃいけないことだから」
ヨシュア:「ああ、すみません・・・出しゃばった真似を・・・」
アンナ:「いえ、では私はこれで。
アンナ:お約束の件、決まったらお返事しますね」
ヨシュア:「あっ・・・アンナさん・・・。行ってしまった・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「結婚してる、のかぁ・・・嘘だろ・・・はぁ・・・」
0:(しばらくの間。町にて)
アンナ:(アンナ、少し遠くからヨシュアに気付き呼びかける)
アンナ:「・・・あら?ヨシュアさーん!」
ヨシュア:「ああ、アンナさん・・・こんにちは」
アンナ:「こんにちは。
アンナ:町でお会いするのは初めてですね」
ヨシュア:「ええ、そうですね。
ヨシュア:・・・というかアンナさん、すごい荷物ですね。
ヨシュア:大丈夫ですか?一人で持てますか?」
アンナ:「大丈夫です。
アンナ:町に来た時は、毎回これくらい買い込んでいますから」
ヨシュア:「良ければ持ちましょうか?」
アンナ:「ええっ、そんな・・・」
ヨシュア:「良いんですよ!
ヨシュア:どうせ俺、今暇ですし、荷物持ちくらいなら全然やりますから」
アンナ:「でも・・・」
ヨシュア:「ほらほら、遠慮しないで!
ヨシュア:どこまで運べばいいですか?」
アンナ:「えっと・・・それじゃあ、いつものカンパニーレまでお願いしても良いですか?」
ヨシュア:「お易(やす)い御用です。
ヨシュア:じゃあ、行きましょうか?」
アンナ:「あっ、ごめんなさい。
アンナ:もう一件だけ寄りたいお店があるんです。
アンナ:少しだけ待ってもらっても良いですか?」
ヨシュア:「ああ、どうぞどうぞ。
ヨシュア:ちなみにどちらへ?」
アンナ:「花を・・・花を買いに行きたくて」
ヨシュア:「花、ですね。わかりました。
ヨシュア:ここで待ってますから、それが済んだら一緒にカンパニーレまで行きましょう」
アンナ:「ええ、ありがとうございます。
アンナ:すぐに買ってきますね」
0:(しばらくの間。丘の上を歩く二人)
ヨシュア:「・・・それでですね、その時、俺はうっかり鍵(かぎ)をかけ忘れてしまって・・・
ヨシュア:鳥小屋から脱走した鶏が町中を駆け回って、そりゃあ大騒ぎで・・・」
アンナ:「ふふっ・・・ああ、可笑しい。
アンナ:ヨシュアさんったら、結構そそっかしいのね」
ヨシュア:「そうなんですよ。
ヨシュア:昔から落ち着きがない、ってよく叱られてて」
アンナ:「でも、今はちゃんと立派にやってるんだから・・・
アンナ:あっ、この辺でもう大丈夫ですよ」
ヨシュア:「いやいや、ここまで来ればあと少しなので、家まで運びますよ。
ヨシュア:確か、この道を下っていった先ですよね?」
アンナ:「そんな・・・悪いわ・・・!」
ヨシュア:「大丈夫です!荷物降ろしたらすぐに帰りますから。
ヨシュア:・・・あっ、何かしようなんて考えてませんよ。
ヨシュア:俺、そんな度胸なんて無いですし」
アンナ:「そんなこと思ってないです!
アンナ:ただ、申し訳なくて・・・」
ヨシュア:「良いんですって。ほら、もう家が見えてきた」
アンナ:「本当にごめんなさい。
アンナ:ここまで付き合ってもらっちゃって」
ヨシュア:「アンナさんは気にしすぎですよ。
ヨシュア:・・・さぁ、着いた。この荷物はどこへ置けば良いですか?」
アンナ:「えっと・・・あちらの倉庫の前に」
ヨシュア:「わかりました!倉庫の前・・・倉庫の前・・・っと。
ヨシュア:あれ、こんなところに何だ・・・墓?」
アンナ:「・・・そうです。お墓。私の夫の」
ヨシュア:「えっ・・・?」
アンナ:「一年前のことでした。
アンナ:兵として召集された彼は、見知らぬ異国の地で敵の銃弾を受けて・・・
アンナ:ここに帰ってくる事は無かった」
ヨシュア:「そんな・・・」
アンナ:「私も未だに実感が無いの。
アンナ:だって、彼の最期を見たわけじゃない。
アンナ:彼の亡骸(なきがら)を目にしたわけじゃない。
アンナ:・・・私の手元に戻ってきたのは、彼が最期に身に付けていた服の切れ端と、ほんの少しの遺品だけ」
ヨシュア:「・・・っ」
アンナ:「だからね、形としてお墓をつくってみたはいいものの、ここに彼が眠っているとは思えないの。
アンナ:もしかしたら、あの遺品は彼の物ではなく、ほかの誰かの物で・・・
アンナ:ひょっとすると、あれは何かの手違いで、いつかふらっと帰ってくるんじゃないかって」
ヨシュア:「アンナさん・・・」
アンナ:「ヨシュアさん、私があの鐘をどうして鳴らしているのか、理由を言ってなかったですよね。
アンナ:・・・あのカンパニーレはね、私と彼がよく二人で登った、思い出の場所なの」
ヨシュア:「そう、なんですか・・・」
アンナ:「ええ、だからね。
アンナ:もしかしたら、彼があの場所を目指して帰ってくるかもしれない。
アンナ:ごめんね、待たせたね、って照れくさそうに笑いながら、私の元に戻ってくるかもしれない・・・
アンナ:そう思って、私は鐘を鳴らしているの。
アンナ:私はここで待っている。
アンナ:いつまでもあなたを待ち続けていると、彼に伝える為に」
ヨシュア:「・・・」
アンナ:「・・・けど、先日手紙が届いたの。
アンナ:彼の上官だったという人から。
アンナ:そこには、彼がいつ、どこで、どんな風に最期を迎えたか、事細かに書かれていたわ」
ヨシュア:「・・・!」
アンナ:「でも、不思議ね・・・やっぱり認めることが出来ないの・・・。
アンナ:彼は死んでしまったとはっきり言われても、私は涙一つ流せない。
アンナ:こうしてお墓に花を供えて、祈りを捧げてみれば泣けるかと思ったけど、この頬は・・・ほら、今もこうして乾いたままなの。
アンナ:・・・ね?薄情な女でしょ?」
ヨシュア:「薄情なんて・・・違います。
ヨシュア:アンナさんは優しい人だ。
ヨシュア:勝手に木から落ちて伸びている見ず知らずの人間を、ずっと付きっきりで介抱してくれるような、そんな優しい人だ・・・」
アンナ:「ありがとう、ヨシュアさん。
アンナ:慰める為だとしても、そう言ってもらえて嬉しいわ」
ヨシュア:「いいえ、慰めなんかじゃない!」
アンナ:「えっ・・・?」
ヨシュア:「だって・・・考えてみてください。
ヨシュア:自分を薄情だと言う人が、一年もの間、帰ってくるかも分からない人を信じて、待ち続けることができますか?
ヨシュア:毎日のように、誰かを想って鐘を鳴らし続けることができますか?」
アンナ:「でも、でも・・・」
ヨシュア:「アンナさん、自分を卑下(ひげ)しないでください。
ヨシュア:別に泣けないから薄情なんてことはありません。
ヨシュア:きっと、あなたは今でも旦那さんが帰ってくると信じている。
ヨシュア:だから泣けないんじゃない。泣かないんです。
ヨシュア:そう思えば良いじゃないですか。
ヨシュア:そう思って、生きていけば良いじゃないですか」
アンナ:「・・・けれど、あの人はそれを許してくれるかしら。
アンナ:自分の為に、涙一つ流してくれない私のことを・・・」
ヨシュア:「大丈夫ですよ。
ヨシュア:亡くなった人が残された人に望むのは、立ち止まって悲しむことより、笑顔で前を向いて進むことです。
ヨシュア:俺はそう信じてます」
アンナ:「・・・っ」
ヨシュア:「・・・でも、涙は悲しみを押し流すものです。
ヨシュア:時には思う存分泣いてください。
ヨシュア:立ち上がれないほど泣いてしまいそうな時は、誰かに寄りかかれば良いんですから」
アンナ:「・・・うっ・・・ううっ・・・(アンナ、静かに泣く)」
ヨシュア:「・・・ああ、今日はとても良い天気ですね。
ヨシュア:きっと、涙もすぐに乾くことでしょう」
0:(しばらくの間。森番の小屋)
ヨシュア:「・・・こんにちは。アンナさん」
アンナ:「あら、ヨシュアさん・・・こんにちは」
ヨシュア:「・・・」
アンナ:「・・・」
0:(二人の間に微妙な空気が流れる)
アンナ:「あの、良いお天気ね・・・。
アンナ:ヨシュアさんはお散歩でもしに来たんですか?」
ヨシュア:「いえ、今日はアンナさんにお伝えしたいことがあって」
アンナ:「私に?何かしら?」
ヨシュア:「俺、実は三日後にこの町を発(た)つんです」
アンナ:「えっ・・・そう・・・なの?」
ヨシュア:「はい、だからご挨拶をしなければと思って。
ヨシュア:アンナさんには色々お世話になりましたから」
アンナ:「そんな・・・私、本当に大したことしてないわ。
アンナ:むしろ、私の方が色々・・・
アンナ:あっ・・・ねぇ、もし良ければお見送りに行きたいんだけど、行っても良いかしら?」
ヨシュア:「・・・いや、大丈夫です。
ヨシュア:当日は色々用事を済ませなければいけないので、ご挨拶する時間も無いんです」
アンナ:「そう・・・残念だわ・・・
アンナ:でも、そういうことなら仕方ないわよね。
アンナ:ご迷惑になってしまったら大変だし、それに・・・」
ヨシュア:(ヨシュア、遮るように)
ヨシュア:「アンナさん」
アンナ:「はい」
ヨシュア:「どうか・・・どうかお元気で。
ヨシュア:あなたが笑顔でいられることを、俺は心から願っています」
アンナ:「・・・ありがとう、ヨシュアさん。
アンナ:私もあなたの幸せをここでずっと祈っています」
ヨシュア:「ありがとうございます。・・・それでは」
アンナ:「あっ・・・」
0:(ヨシュア、去っていく)
アンナ:「・・・そういえば、何でも叶えてくれる、ってお願いのこと、すっかり忘れてしまっていたわ・・・」
0:(しばらくの間。三日後、町中にて)
アンナ:「今日はヨシュアさんが旅立つ日ね・・・
アンナ:見送りはいいって言われたけれど、なんとなく町まで来てしまった・・・」
0:(少し間)
アンナ:「・・・迷惑になってしまうわよね。
アンナ:忙しいって言ってたもの・・・」
0:(少し間)
アンナ:「やっぱり、今日は花だけ買って帰りましょう・・・
アンナ:この前、お別れはしたんだから」
0:(少し間)
アンナ:「すみません。花を頂けますか?
アンナ:・・・えっ、ヨシュアさんの見送り、ですか?
アンナ:いえ、私は・・・」
0:(少し間)
アンナ:「・・・えっ・・・?
アンナ:あの、そのお話、本当ですか・・・!?」
0:(しばらくの間。町の入口にて)
ヨシュア:「・・・よし、お世話になった人への挨拶は全部済んだし。必要な物以外は全て処分した。
ヨシュア:これで万が一のことがあっても、心残りは無いな・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「いや・・・嘘だな。心残りが無いわけじゃない。
ヨシュア:ケニーとジェシカの結婚式にも出てやりたかったし、フレッドのところの生まれたばかりのチビが、大きくなる姿も見たかった。
ヨシュア:親父とお袋にもっと親孝行してやりたかったし・・・それに・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「ははっ、あの人に・・・やっぱりひと目会いたかったなんて・・・
ヨシュア:俺も大概(たいがい)未練がましいや」
0:(少し間)
ヨシュア:「さぁ、行こう・・・いつまでもここで立ち止まってるわけにはいかない。
ヨシュア:もう決まったことだ。
ヨシュア:・・・もう、決まったことなんだから」
アンナ:(アンナ、ヨシュアの元へ駆け寄る)
アンナ:「・・・待って!待って!お願い!ヨシュアさん!!」
ヨシュア:「アンナさん!?どうしてここに・・・
ヨシュア:見送りは良いって言ったのに(アンナが胸に縋り付いてくる)・・・っと」
アンナ:「どうして!どうして言ってくれなかったんですか!
アンナ:この町を出て行く理由を!」
ヨシュア:「まさか、聞いたんですか・・・?
ヨシュア:俺が戦争に行くことを・・・」
アンナ:「ええ・・・聞きました。
アンナ:町でヨシュアさんが兵士として、戦地に赴(おもむ)くと・・・
アンナ:向かう先は激戦区で、もしかしたら帰って来れないかもしれないことも・・・」
ヨシュア:「参ったな・・・アンナさんにだけは教えたくなかったのに・・・」
アンナ:「何故ですか!
アンナ:何故私にだけ、それを隠して出て行こうとしたんですか!」
ヨシュア:「・・・アンナさんをこれ以上、悲しませたくなかったんですよ」
アンナ:「えっ・・・」
ヨシュア:「だってそうでしょ?あなたは、ただでさえ旦那さんを戦争で亡くしているんだ。
ヨシュア:その傷も癒えないうちにこんな話をするなんて、俺にはとてもできなかった」
アンナ:「・・・っ」
ヨシュア:「でも、これは言い訳ですね。
ヨシュア:もし、あなたの事を思うのならば、わざわざ別れを告げに行かなければ良かった。
ヨシュア:けど、どうしても欲が出た。
ヨシュア:最後にあなたの顔が見たいと思ってしまった。
ヨシュア:だから、結局こんな・・・」
アンナ:「もし・・・もし、あなたが何も言わずに居なくなってしまったら、私はきっとあなたの事を一生許しませんでした」
ヨシュア:「・・・」
アンナ:「帰って・・・来れないんですか?
アンナ:例えほんの少しでも良い。
アンナ:生きて帰ってこられる可能性は無いんですか?」
ヨシュア:「・・・厳しいかもしれません。
ヨシュア:俺が送り込まれるのは、最前戦だそうです。
ヨシュア:無事に帰って来るのは、なかなか難しいでしょう」
アンナ:「いいえ、無事に帰ってきてください」
ヨシュア:「えっ・・・」
アンナ:「あの日の約束、覚えてますか?
アンナ:ヨシュアさんは言ってましたよね。
アンナ:自分にできることがあったら、何でも叶えてみせると」
ヨシュア:「・・・!」
アンナ:「それなら、私の叶えて欲しい願いはそれです。
アンナ:あなたが無事に生きて帰ってくること。
アンナ:それが私の望みです」
ヨシュア:「もっとほかの事にしてくれれば良かったのに・・・」
アンナ:「でも、最初に約束したのはあなたよ。ヨシュアさん」
ヨシュア:「・・・何年待たせるか分かりませんよ?」
アンナ:「構いません。待つことには慣れています」
ヨシュア:「五体満足とはいかないかもしれない」
アンナ:「だったら、私が支えます。
アンナ:目を失ったら私があなたの目になります。
アンナ:腕を失ったら、私があなたの腕になります。
アンナ:脚を失ったら、私があなたの脚になります」
ヨシュア:「ああ・・・そんなことを言われたら、何が何でも帰ってくるしかないじゃないですか」
アンナ:「そうですよ。
アンナ:私、こう見えてもとても我儘(わがまま)で頑固なんです」
ヨシュア:「はは・・・はははっ」
アンナ:「ふふふ・・・」
0:(少し間)
ヨシュア:「・・・アンナさん。俺からも一つお願いをして良いですか?」
アンナ:「はい」
ヨシュア:「鐘を・・・あのカンパニーレで鐘を鳴らしてください。
ヨシュア:毎日なんて贅沢は言わない。
ヨシュア:けど、鐘を鳴らしてくれるなら、俺はそれを目指してあなたへ会いに来ますから」
アンナ:「・・・ええ、鳴らします。
アンナ:あなたの無事を祈って何日でも、何年でも」
ヨシュア:「・・・ありがとう。必ず戻ります。
ヨシュア:あなたの元へ。例え何があろうとも」
アンナ:「はい、待っています。
アンナ:あなたが私の元へ帰るのを、ずっとずっと・・・あのカンパニーレで」
ヨシュア:「・・・では、行ってきます。いつかきっと、また会えると信じて」
アンナ:「ええ、必ず会えると信じてます。
アンナ:・・・行ってらっしゃい」
0:(しばらくの間)
アンナ:あの日から、私はずっと彼を待っている。
アンナ:彼との約束を今日も信じ、カンパニーレに続く丘を登る。
アンナ:
アンナ:「・・・ヨシュアさん、あなたも見ていますか?
アンナ:この綺麗な空を。
アンナ:あなたと出会った日のような、美しい青空を」
アンナ:
アンナ:そう話しかけながら、私は今日も願う。
アンナ:彼のことを想い、そこに立つ。
アンナ:
アンナ:鐘を鳴らそう。遠く、遠く、高らかに。
アンナ:その音があなたの元へ届くように。
アンナ:私の想いが届くように。
アンナ:
アンナ:あなたがいつか私の元へ帰る、その日まで。
0:(少し間)
ヨシュア:「・・・ただいま戻りました」
アンナ:「おかえりなさい」
0:〜Fin〜