台本概要
210 views
タイトル | アリスの館 |
---|---|
作者名 | Danzig |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
大雨の日、車のトラブルで困っていた男が一軒の洋館に助けを求める 案内をされて館の中に入る男、彼には隠している事があった・・・ サスペンスをというリクエストで書いた台本です。 210 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
拓哉 | 男 | 63 | 館を訪ねるトラブルで困っている男性。 |
アリス | 女 | 68 | 館の主人 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:大雨の日、車のトラブルで困っていた男が一軒の洋館を見つけるが・・・
:
0:【第1場】
:
拓哉(M):時折、雷も鳴る激しい雨の中、俺は大きなドアの前に立っている
拓哉(M):
拓哉(M):山の中にある一軒の洋館
拓哉(M):ホラー映画にでも出てきそうな、その佇(たたず)まいは、雨の中では、より一層不気味に見える
拓哉(M):まだ夕刻前の時間のはずだが、雨雲のせいだろうか、それとも他に建物が無いせいだろうか、周りの景色もかなり暗く感じる。
拓哉(M):
拓哉(M):俺はそのドアについている、ライオンの形のドアノッカーを、2回叩いた
:
0:(コンコン)
:
拓哉(M):少し待ったが、中から返事はない
拓哉(M):俺はもう一度、ドアノッカーを叩いた
:
0:(コンコン)
:
:
アリス:はい
:
拓哉(M):少しして、ドアの向こうから、女性の返事が聞こえた。
:
拓哉:すみません、山道で車のタイヤがパンクをしてしまって・・その・・
拓哉:助けて頂きたいのですが・・
:
アリス:・・・少しお待ちください
:
拓哉(M):落ち着いたその声の後、鍵を開(あ)ける音がして、ドガが開(ひら)いた。
拓哉(M):
拓哉(M):中から綺麗な女性が顔を出した
:
アリス:タイヤがパンクを?
:
拓哉:そうなんです
拓哉:ロードサービスを呼ぼうとしたのですが、携帯の電池が切れてしまって、どうしようかと途方にくれていたんです。
拓哉:そしてら、この建物が見えたので、電話を貸していただけないかと・・・
:
アリス:そうですか・・・
:
拓哉(M):女性は少しうつむいて、考える素振りを見せてから
:
アリス:どうぞ・・・お入りください
:
拓哉(M):そう言って、女性は俺を館の中に入れてくれた
拓哉(M):
拓哉(M):館の中は、外見と同様、映画に出てくるような立派な作りだった
拓哉(M):吹き抜けの広いエントランス、緩いカーブを描いた階段、古めかしい作りだが、綺麗に手入れされている。
拓哉(M):
拓哉(M):ただ、普通と違っているのは、家中に飾られている調度品だろう
拓哉(M):
拓哉(M):ニヤリと笑っている太った猫や、顔のあるキノコ、トランプの兵隊・・
拓哉(M):「不思議な国のアリス」に出てきそうなものばかりが飾られている。
拓哉(M):しかも妙にリアルで不気味だ
拓哉(M):
拓哉(M):
拓哉(M):キョロキョロと辺りを見渡していると
:
アリス:こちらへどうぞ
:
拓哉(M):そういって、女性は電話の場所まで俺を案内してくれた
:
アリス:この電話をお使いください。
:
拓哉:ありがとうございます。
:
拓哉(M):そして俺は、この家の奇妙な形の電話を借りて、ロードサービスに連絡をした
:
0:(電話中)
:
拓哉:そうですか・・わかりました。
拓哉:では、なるべく早くお願いします。
:
(電話を切り、ため息をつく男)
:
アリス:どうかしましたか?
:
拓哉:いや、実は・・・ロードサービスが言うには、ここの近くで土砂崩れがあったみたいで、
拓哉:日も暮れてしまっているので、復旧は明日の朝からになるだろうという事でした。
:
アリス:まぁ、それは大変ですね
:
拓哉:そうですね、
拓哉:ですが、ロードサービスに連絡して、場所を伝える事が出来ましたので、何とかなりそうです。
:
アリス:それは何よりでした。
:
拓哉:ええ、本当に助かりました。
、
アリス:いえ・・
アリス:それで、そのロードサービスが来るまで、あなたはどうするおつもりなのですか?
:
拓哉:車の中に居ようかと思います。
:
アリス:そうですか・・・大丈夫でしょうか?
:
拓哉:はい、朝までなら、多分大丈夫だと思います
:
アリス:それならいいのですが・・
:
拓哉:あの
:
アリス:はい
:
拓哉:それで、ご迷惑ついでといっては何なのですが、
拓哉:携帯の充電を、させていただけないでしょうか?
:
アリス:あ、はい・・・それくらいでしたら
:
拓哉:重ね重ねすみません。
:
アリス:いえ・・では、リビングの方にご案内いたします
アリス:こちらへどうぞ
:
拓哉:ありがとうございます。
:
拓哉(M):女性は俺をリビングまで案内してくれた
拓哉(M):
拓哉(M):リビングまで案内されている間、俺は彼処(かしこ)に飾られた奇妙なオブジェをキョロキョロと眺めながら歩いていた
拓哉(M):その俺の挙動が気になったのか
:
アリス:人形達が気になりますか?
:
拓哉:あ、いや、すみません。
拓哉:どのオブジェも、見慣れないものばかりで、中には、妙にリアルな感じのするものもあって、少し怖い感じもします。
:
アリス:そうですか・・・
:
拓哉:これらは「不思議な国のアリス」をモチーフにしたものですか?
:
アリス:ええ、そうです
アリス:フフフ、貴方はご存じなかったのですね。
:
拓哉:何をですか?
:
アリス:この館(やかた)の事です
アリス:
アリス:ここはアリスの館。
アリス:建物全体がアリスの世界なんですよ。
アリス:そして、私の名前はAlice(アリス)、この館の主(あるじ)ですわ。
:
拓哉:・・・
:
アリス:ここにいる人形達は、この世界の住人、みんな生きてますのよ。
アリス:オブジェとは言わないであげてください
:
拓哉:そ、それはすみません・・・
:
アリス:さぁ、こちらです
:
拓哉(M):そういって、アリスと名乗った女性は、俺をリビングに入れてくれた。
:
アリス:このコンセントを使って下さい。
アリス:そして、充電が終わるまでは、そこのソファーをお使い下さい。
:
拓哉:ありがとうございます。
:
アリス:今、お茶を入れてまいりますわね。
:
拓哉(M):そう言って女性はリビングを出て行った。
:
拓哉:ふー
:
拓哉(M):俺はソファーに腰を掛け、そして考える
:
拓哉:ここまでは、なんとかうまく行ったようだ
:
0:【第2場】
:
拓哉(M):俺がこの館に来たのは、偶然ではない。
拓哉(M):
拓哉(M):俺は、2週間前に行方不明になった、俺の恋人、沙織(さおり)を探しにここに来た
拓哉(M):雨の日を狙い、偶然を装って・・・
拓哉(M):
拓哉(M):2週間前、沙織は旅行先から「古い洋館で雨宿りをさせてもらう事にした」というメールを俺に送り、それを最後に、消息を絶った。
拓哉(M):俺は必死に沙織の足取りを追い、ようやくこの洋館を見つけた
拓哉(M):もし、沙織が事件に巻き込まれていたとしたら、普通に訪ねても教えてはもらえないだろう
拓哉(M):だから俺は、偶然を装って、この屋敷に潜入する事にしのだ
:
:
拓哉(M):俺は部屋を詮索(せんさく)する。 ここがリビングだとしたら、沙織もここにいた可能性も高い。
拓哉(M):念入りに、沙織の痕跡をさがす
拓哉(M):
拓哉(M):壁、床、暖炉・・・
拓哉(M):ん?
拓哉(M):
拓哉(M):暖炉の上に置いてある猫の人形が、俺の目に留まった。
拓哉(M):人間の顔にデフォルメされた猫、特に目が妙にリアルだ。
拓哉(M):まるで本当に人に見つめられているようだ
拓哉(M):
拓哉(M):俺は思わず人形に手を伸ばした
:
アリス:何をしているのですか?
:
拓哉:はぁうぁあ・・・(心臓が飛び出しそうになる)
:
アリス:その人形は、この館の大切な住人なのですから、あまり触られたくはないんです。
:
拓哉:そ、そうですか・・・すみません・・・
:
拓哉(M):俺は口から心臓が飛び出しそうになった
拓哉(M):自分の疚(やま)しさもあるだろうが、気配もなく突然後ろから声を掛けられたのは、生まれて初めてだった
:
アリス:紅茶を入れてきましたので、お召し上がりください。
:
拓哉:ありがとうございます。
拓哉:すみません、電話を貸して頂いただけではなく、お茶までご馳走になって
:
アリス:いえ、いいんです。
アリス:困っている人間を放っておくなと、御婆様に言われて育ちましたから
:
拓哉:そうですか・・・
拓哉:
拓哉:ところで、ここにはよく、私みたいな人間が訪ねてくるのでしょうか?
:
アリス:いえ、滅多には来ませんね
アリス:この館に来る人は、殆ど私がお招きした人ですから
:
拓哉:そうですか・・・
拓哉:滅多にはという事は、来ることもあるんですね。
:
アリス:そうですね、山の中の一軒家ですから
アリス:過去には、あなたのような方も、おみえになりましたよ。
:
拓哉:なるほど・・・
:
:
アリス:携帯電話の充電には結構な時間がかかるでしょう。
アリス:それまでは、ここに居て頂いて構いません
:
拓哉:ありがとうございます。
:
アリス:ただ、ここは、女性の私が一人で暮らしている所ですから、
アリス:見知らぬ男性に、館の中をウロウロされたりするのは、あまり気分のいいものではありません。
:
拓哉:そうですね、すみません
:
アリス:私は3階の自室に戻ります。
アリス:何かあれば、そこの白い電話を使って下さい、受話器を上げれば内線で私の部屋に繋がりますから
:
拓哉:分かりました
:
アリス:では、失礼します。
アリス:充電が終わるくらいの頃に、また来ます。
:
拓哉:はい
:
アリス:・・・では
:
拓哉(M):そう言って女性は部屋を出て行った
:
拓哉(M):女性が部屋を出てから、俺はもう一度部屋の中を詮索した。
拓哉(M):しかし、この部屋の中には、特に怪しいものは見つからなかった
拓哉(M):
拓哉(M):そして、俺は他の部屋を探そうと、部屋の外に出た
拓哉(M):大きな音が鳴らないように、そっと扉を閉め・・・
:
アリス:どこに行かれるんですか?
:
拓哉:はぁうぁあ・・・(心臓が飛び出しそうになる)
:
アリス:あまりウロウロして頂きたくないと申し上げたと思いますが・・・
:
拓哉:ど、どうして・・・
:
アリス:携帯電話の充電に時間がかかるようでしたら
アリス:ソファーで少し休まれてもいいかと、大き目のブランケットをお持ちしたんです。
:
拓哉(M):確かに彼女は、ブランケットらしきものを持っていた
:
アリス:それで、あなたはどこへ行こうとしていたのですか?
:
拓哉:あ・・あの・・
拓哉:と、トイレに行こうと
:
アリス:・・・そうでしたか
アリス:お手洗いでしたら、ここを真っすぐ行かれて、左に曲がった所にあります。
:
拓哉:そ、そうですか・・・ありがとうございます。
:
アリス:では、私はブランケットをソファーの上に置いておきますので、
アリス:お手洗いから帰られたら、仮眠でも取っていてください。
アリス:先程も申し上げましたが、あまりウロウロしないで欲しいです。
:
拓哉:はい、わかりました。
:
アリス:では
:
拓哉(M):女性はそういって、リビングへと入って行った
拓哉(M):そして、俺は彼女に怪しまれぬよう、一旦トイレに行くことにした
拓哉(M):
拓哉(M):トイレから戻ると、リビングには彼女の姿はなかった
拓哉(M):ソファーの上には、先ほど彼女が持っていたブランケットが置いてある
拓哉(M):
拓哉(M):俺はまだ彼女がどこかで見ているかもしれないと警戒し、彼女の入れた紅茶を口にして、ソファーに横たわりブランケットをかけて目を閉じた
:
0:【第3場】
:
拓哉(M):何分目を目を閉じていただろう・・・
拓哉(M):俺は起き上がり、また詮索を始める事にした
拓哉(M):携帯の充電が終わる頃には、彼女が戻って来てしまう・・・猶予はあと1時間くらいか・・・
拓哉(M):
拓哉(M):もう一度リビングを出て、手あたり次第に、部屋を見て回る、
拓哉(M):だが、トイレに向かう廊下側には、特に怪しいものはなかった
拓哉(M):
拓哉(M):俺は、一旦リビングまで戻り、今度は、トイレとは反対側の廊下を進む
拓哉(M):しかし、こちら側にも、念入りに探してみたが、特に怪しい部屋は見つけられなかった・・・
:
拓哉:次は二階か・・・
:
拓哉(M):そう思って、引き返そうとした俺は、突き当りだと思っていた廊下の左側に、さらに通路がある事に気が付いた。
拓哉(M):その角を左側に曲がると、短い廊下と、不自然な扉があった。
拓哉(M):そっと扉を開くと、その先には地下へ降りていく階段があった
:
拓哉:ここかもしれないな
:
拓哉(M):俺は慎重に、そして極力音を立てないように、廊下を降りていく
拓哉(M):最後まで階段を降りると、そこには、短い廊下と、また扉があった
拓哉(M):
拓哉(M):この先に何かがある気がして仕方がない。 ひょっとして沙織が監禁されているかもしれない。
拓哉(M):
拓哉(M):俺は、持って来たバタフライナイフを右手にもって、ゆっくりと左手でドアノブを回した
:
拓哉:痛っ!
:
拓哉(M):その時、左手の掌(てのひら)に針で刺されたような痛みが走った
拓哉(M):よく見ると、ドアノブから針が突き出している
拓哉(M):
拓哉:こんな仕掛けがしてあるなんて・・・
拓哉(M):
拓哉(M):俺は、扉の中に必ず何かがあると確信した。
拓哉(M):そして、ドアノブにハンカチを巻き付け、慎重にドアノブを回してドアを開けた
:
:
拓哉(M):扉の向こうは部屋になっていた。
拓哉(M):
拓哉(M):部屋の壁は、一面が棚になっており、夥(おびただ)しい数のビンが並んでいる
拓哉(M):そのビンの中には、目、耳、指などの人間の部位が、赤味がかった透明な液体に付け込まれている
拓哉(M):部屋の所々に燭台(しょうだい)が置かれ、骸骨(がいこつ)の上に蝋燭(ろうそく)が立てられている
拓哉(M):
拓哉(M):そして、この不気味な部屋の中央の床には、カーペットに魔法陣らしき、奇妙な文様が描かれている。
拓哉(M):魔法陣の上には、テーブルが置かれ、テーブの上には、誰かが横たわっている。
:
拓哉:沙織(さおり)!
:
拓哉(M):俺は思わずテーブルに駆け寄った
拓哉(M):だが、テーブルに横たわっていたのは沙織ではなく、全身がつぎはぎだらけの女性だった
:
拓哉:これは、いったい・・・
:
アリス:それはお婆様です
:
拓哉:はっ、お前・・・
:
拓哉(M):声の主はアリスだった
:
アリス:あれほどウロつかないで下さいと言いましたのに・・・無礼な方ですね。
:
拓哉:これは一体、どういう事だ! あの死体は!
:
アリス:お婆様は死体なんかではありません。
アリス:少し眠っているだけです
:
拓哉:眠っているだけって・・・お前、気は確かか
:
アリス:この部屋は、お婆様の目覚めの儀式をする為の部屋なのです。
アリス:よそ者が、気安く入っていい場所ではないのですよ
:
拓哉:死者を復活させようとしているのか
:
アリス:何度もいいますが、お婆様は死者ではありません。
:
拓哉:あんな継ぎはぎだらけで、死体じゃないというのか
拓哉:どう見たって、死体じゃないか
:
アリス:あなたも分からない方ですね、死体ではないといいましたでしょ
アリス:お婆様が目覚めるのには条件があるのです。
アリス:その条件をそろえる為に、こうして人の部位を集めているのです。
:
拓哉:何!
:
アリス:お婆様は美しいお方ですから
アリス:お婆様の身体のすべてが美しい部位になった時に、お婆様は目覚めるのです。
アリス:その為に、目の綺麗な方、唇の美しい方、手のしなやかな方、耳の形が整った方、
アリス:そういう方を、この館にお招きして、部位を頂いているのです。
:
拓哉:あのビン・・・
:
アリス:そうです。
アリス:ですが、ただ他人の部位を付けただけでは、お婆様は目覚めません
アリス:頂いた部位を、まずお婆様の部位にしないといけないのです。
:
拓哉:部位にする?
:
アリス:ええ、あのビンの中には、お婆様の血が混ざったホルマリンが入っています。
アリス:その液に暫く付けておく事で、人から頂いた部位は、お婆様の部位となるのです
:
:
拓哉:狂ってる・・・
:
アリス:私が狂っているのではありません、あなたが理解できないだけなのです。
アリス:お婆様の書かれた儀式の書は完璧ですから
:
拓哉:あぁ、そうかい
拓哉:さっき、他人から部位を取ると言ったが、その中に沙織もいたのか
:
アリス:さぁ、沙織という方は存じ上げませんね
アリス:もっとも、部位を頂いた方のお名前は覚えておりませんが
:
拓哉:2週間前、この館に女性が来たはずだ
:
アリス:2週間前・・・・
アリス:さぁ、来たかもしれませんが、正直、よく覚えていません。
アリス:ですが、もし、その沙織という方を探すのでしたら、ここではなく、館中を探してみてはいかがですか?
:
拓哉:どういう事だ
:
アリス:お婆様のものとして、適さなかった部位は、レジンで固めて、この館の人形達に付けてあげるのです
アリス:そして、やがてこの世界は、美しいお婆様と、美しい住人達で満たされる事となるのですよ
アリス:ですから、探せば見つかるかもしれませんね、その沙織さんという名の女の部位も
:
拓哉:ちくしょう・・・
拓哉:この事を警察に通報して、お前のこの狂った儀式を終わりにしてやる
:
アリス:それは無理ですよ
:
拓哉:どうしてだ
:
アリス:どうして?
アリス:では、逆にお聞きしますが、どうして、私がわざわざこの館の秘密を貴方に教えたと思いますか?
:
拓哉:・・・
:
アリス:それは、あなたが、もうこの館からは出る事が出来ないからですよ
:
拓哉:どうして・・・そん・・くぅ・・・
:
拓哉(M):俺はその時、激しい眩暈(めまい)と眠気に襲われた
:
アリス:あなた、この部屋の扉を開ける時に、針に刺されましたね。
アリス:あの扉は、正しい手順を踏まないと、針が飛び出す仕掛けになっているんです。
アリス:そして、その針には睡眠薬が仕込んであるんですよ
:
拓哉:な・・・・
:
アリス:あなたは、もうすぐ眠ってしまいます。
アリス:あなたの意思とは関係なくね・・・ふふ
:
拓哉:く・・・
:
アリス:ふふふ、でも、不思議だと思いませんか?
アリス:毒薬なら簡単に殺せるのに、わざわざ睡眠薬だなんて
:
拓哉:・・・
:
アリス:どうしてドアノブに仕掛けた薬が、毒薬ではなく、睡眠薬なのか・・・
アリス:
アリス:あなたは「不思議な国のアリス」という物語をご存じですか?
アリス:あの物語は夢から覚める事で、現実にもどるのです。
アリス:ですから、このアリスの館でも、お客様には夢を見て頂くのですよ。
アリス:
アリス:さて、あなたが目覚めた時、あなたは、一体どうなっているのでしょうね?
アリス:もっとも、目覚められたらの話ですが・・・ふふふ
:
:
拓哉(M):俺は薄れゆく意識の中で、不用意に俺の前に立ったアリスを、思い切り蹴り飛ばした
:
拓哉:ふん!
:
アリス:きゃぁ
:
拓哉(M):アリスは幾つかの燭台(しょくだい)を倒して、机に頭をぶつけて倒れた
拓哉(M):倒れた蝋燭(ろうそく)の火が絨毯(じゅうたん)に燃え移り、部屋全体に広がろうとしていた
:
アリス:許さない・・・
:
拓哉(M):アリスが、ふら付きながら、ゆっくりと床から這いあがる
:
アリス:お前を絶対に許さない・・・・お婆様の目覚めを邪魔するなんて、絶対に許さない
:
拓哉(M):アリスが壁際にある戸棚から、解体用の大きな刃物を取り出し、ふら付く足でゆっくりとこっちに向かって来る。
拓哉(M):俺は意識を取り戻そうと、もっているナイフで自分の左腕を刺した
:
拓哉:ぐぁぁぁぁ・・・くぅ
:
アリス:殺してやる、お前を殺してやる
:
拓哉(M):そう言って、俺を切り捨てようとアリスが刃物を振り上げた
拓哉(M):だが、俺にはもう、アリスを蹴り飛ばす力は残ってはいなかった
:
アリス:死ね下郎
:
拓哉(M):刃物を振り下ろすアリスに対して、俺は、身体を預けるように、アルスにもたれかかり、彼女の胸を刺した。
:
アリス:うぐぅ
:
拓哉(M):アリスは胸から血を流し、俺と一緒に床に倒れた
拓哉(M):床に倒れながら、俺の意識は次第に薄れていった・・・
拓哉(M):
拓哉(M):薄れていく意識の中で、ぼんやりと俺は思っていた
拓哉(M):アリスが言ったように、いつか俺が目覚める事が出来たとしたら、この悪夢から解放されて、沙織と幸せな日々を過ごす事が出来るのだろうか・・・
拓哉(M):目覚める事が出来たとしたら・・・
:
0:完
0:大雨の日、車のトラブルで困っていた男が一軒の洋館を見つけるが・・・
:
0:【第1場】
:
拓哉(M):時折、雷も鳴る激しい雨の中、俺は大きなドアの前に立っている
拓哉(M):
拓哉(M):山の中にある一軒の洋館
拓哉(M):ホラー映画にでも出てきそうな、その佇(たたず)まいは、雨の中では、より一層不気味に見える
拓哉(M):まだ夕刻前の時間のはずだが、雨雲のせいだろうか、それとも他に建物が無いせいだろうか、周りの景色もかなり暗く感じる。
拓哉(M):
拓哉(M):俺はそのドアについている、ライオンの形のドアノッカーを、2回叩いた
:
0:(コンコン)
:
拓哉(M):少し待ったが、中から返事はない
拓哉(M):俺はもう一度、ドアノッカーを叩いた
:
0:(コンコン)
:
:
アリス:はい
:
拓哉(M):少しして、ドアの向こうから、女性の返事が聞こえた。
:
拓哉:すみません、山道で車のタイヤがパンクをしてしまって・・その・・
拓哉:助けて頂きたいのですが・・
:
アリス:・・・少しお待ちください
:
拓哉(M):落ち着いたその声の後、鍵を開(あ)ける音がして、ドガが開(ひら)いた。
拓哉(M):
拓哉(M):中から綺麗な女性が顔を出した
:
アリス:タイヤがパンクを?
:
拓哉:そうなんです
拓哉:ロードサービスを呼ぼうとしたのですが、携帯の電池が切れてしまって、どうしようかと途方にくれていたんです。
拓哉:そしてら、この建物が見えたので、電話を貸していただけないかと・・・
:
アリス:そうですか・・・
:
拓哉(M):女性は少しうつむいて、考える素振りを見せてから
:
アリス:どうぞ・・・お入りください
:
拓哉(M):そう言って、女性は俺を館の中に入れてくれた
拓哉(M):
拓哉(M):館の中は、外見と同様、映画に出てくるような立派な作りだった
拓哉(M):吹き抜けの広いエントランス、緩いカーブを描いた階段、古めかしい作りだが、綺麗に手入れされている。
拓哉(M):
拓哉(M):ただ、普通と違っているのは、家中に飾られている調度品だろう
拓哉(M):
拓哉(M):ニヤリと笑っている太った猫や、顔のあるキノコ、トランプの兵隊・・
拓哉(M):「不思議な国のアリス」に出てきそうなものばかりが飾られている。
拓哉(M):しかも妙にリアルで不気味だ
拓哉(M):
拓哉(M):
拓哉(M):キョロキョロと辺りを見渡していると
:
アリス:こちらへどうぞ
:
拓哉(M):そういって、女性は電話の場所まで俺を案内してくれた
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アリス:この電話をお使いください。
:
拓哉:ありがとうございます。
:
拓哉(M):そして俺は、この家の奇妙な形の電話を借りて、ロードサービスに連絡をした
:
0:(電話中)
:
拓哉:そうですか・・わかりました。
拓哉:では、なるべく早くお願いします。
:
(電話を切り、ため息をつく男)
:
アリス:どうかしましたか?
:
拓哉:いや、実は・・・ロードサービスが言うには、ここの近くで土砂崩れがあったみたいで、
拓哉:日も暮れてしまっているので、復旧は明日の朝からになるだろうという事でした。
:
アリス:まぁ、それは大変ですね
:
拓哉:そうですね、
拓哉:ですが、ロードサービスに連絡して、場所を伝える事が出来ましたので、何とかなりそうです。
:
アリス:それは何よりでした。
:
拓哉:ええ、本当に助かりました。
、
アリス:いえ・・
アリス:それで、そのロードサービスが来るまで、あなたはどうするおつもりなのですか?
:
拓哉:車の中に居ようかと思います。
:
アリス:そうですか・・・大丈夫でしょうか?
:
拓哉:はい、朝までなら、多分大丈夫だと思います
:
アリス:それならいいのですが・・
:
拓哉:あの
:
アリス:はい
:
拓哉:それで、ご迷惑ついでといっては何なのですが、
拓哉:携帯の充電を、させていただけないでしょうか?
:
アリス:あ、はい・・・それくらいでしたら
:
拓哉:重ね重ねすみません。
:
アリス:いえ・・では、リビングの方にご案内いたします
アリス:こちらへどうぞ
:
拓哉:ありがとうございます。
:
拓哉(M):女性は俺をリビングまで案内してくれた
拓哉(M):
拓哉(M):リビングまで案内されている間、俺は彼処(かしこ)に飾られた奇妙なオブジェをキョロキョロと眺めながら歩いていた
拓哉(M):その俺の挙動が気になったのか
:
アリス:人形達が気になりますか?
:
拓哉:あ、いや、すみません。
拓哉:どのオブジェも、見慣れないものばかりで、中には、妙にリアルな感じのするものもあって、少し怖い感じもします。
:
アリス:そうですか・・・
:
拓哉:これらは「不思議な国のアリス」をモチーフにしたものですか?
:
アリス:ええ、そうです
アリス:フフフ、貴方はご存じなかったのですね。
:
拓哉:何をですか?
:
アリス:この館(やかた)の事です
アリス:
アリス:ここはアリスの館。
アリス:建物全体がアリスの世界なんですよ。
アリス:そして、私の名前はAlice(アリス)、この館の主(あるじ)ですわ。
:
拓哉:・・・
:
アリス:ここにいる人形達は、この世界の住人、みんな生きてますのよ。
アリス:オブジェとは言わないであげてください
:
拓哉:そ、それはすみません・・・
:
アリス:さぁ、こちらです
:
拓哉(M):そういって、アリスと名乗った女性は、俺をリビングに入れてくれた。
:
アリス:このコンセントを使って下さい。
アリス:そして、充電が終わるまでは、そこのソファーをお使い下さい。
:
拓哉:ありがとうございます。
:
アリス:今、お茶を入れてまいりますわね。
:
拓哉(M):そう言って女性はリビングを出て行った。
:
拓哉:ふー
:
拓哉(M):俺はソファーに腰を掛け、そして考える
:
拓哉:ここまでは、なんとかうまく行ったようだ
:
0:【第2場】
:
拓哉(M):俺がこの館に来たのは、偶然ではない。
拓哉(M):
拓哉(M):俺は、2週間前に行方不明になった、俺の恋人、沙織(さおり)を探しにここに来た
拓哉(M):雨の日を狙い、偶然を装って・・・
拓哉(M):
拓哉(M):2週間前、沙織は旅行先から「古い洋館で雨宿りをさせてもらう事にした」というメールを俺に送り、それを最後に、消息を絶った。
拓哉(M):俺は必死に沙織の足取りを追い、ようやくこの洋館を見つけた
拓哉(M):もし、沙織が事件に巻き込まれていたとしたら、普通に訪ねても教えてはもらえないだろう
拓哉(M):だから俺は、偶然を装って、この屋敷に潜入する事にしのだ
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拓哉(M):俺は部屋を詮索(せんさく)する。 ここがリビングだとしたら、沙織もここにいた可能性も高い。
拓哉(M):念入りに、沙織の痕跡をさがす
拓哉(M):
拓哉(M):壁、床、暖炉・・・
拓哉(M):ん?
拓哉(M):
拓哉(M):暖炉の上に置いてある猫の人形が、俺の目に留まった。
拓哉(M):人間の顔にデフォルメされた猫、特に目が妙にリアルだ。
拓哉(M):まるで本当に人に見つめられているようだ
拓哉(M):
拓哉(M):俺は思わず人形に手を伸ばした
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アリス:何をしているのですか?
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拓哉:はぁうぁあ・・・(心臓が飛び出しそうになる)
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アリス:その人形は、この館の大切な住人なのですから、あまり触られたくはないんです。
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拓哉:そ、そうですか・・・すみません・・・
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拓哉(M):俺は口から心臓が飛び出しそうになった
拓哉(M):自分の疚(やま)しさもあるだろうが、気配もなく突然後ろから声を掛けられたのは、生まれて初めてだった
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アリス:紅茶を入れてきましたので、お召し上がりください。
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拓哉:ありがとうございます。
拓哉:すみません、電話を貸して頂いただけではなく、お茶までご馳走になって
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アリス:いえ、いいんです。
アリス:困っている人間を放っておくなと、御婆様に言われて育ちましたから
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拓哉:そうですか・・・
拓哉:
拓哉:ところで、ここにはよく、私みたいな人間が訪ねてくるのでしょうか?
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アリス:いえ、滅多には来ませんね
アリス:この館に来る人は、殆ど私がお招きした人ですから
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拓哉:そうですか・・・
拓哉:滅多にはという事は、来ることもあるんですね。
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アリス:そうですね、山の中の一軒家ですから
アリス:過去には、あなたのような方も、おみえになりましたよ。
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拓哉:なるほど・・・
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:
アリス:携帯電話の充電には結構な時間がかかるでしょう。
アリス:それまでは、ここに居て頂いて構いません
:
拓哉:ありがとうございます。
:
アリス:ただ、ここは、女性の私が一人で暮らしている所ですから、
アリス:見知らぬ男性に、館の中をウロウロされたりするのは、あまり気分のいいものではありません。
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拓哉:そうですね、すみません
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アリス:私は3階の自室に戻ります。
アリス:何かあれば、そこの白い電話を使って下さい、受話器を上げれば内線で私の部屋に繋がりますから
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拓哉:分かりました
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アリス:では、失礼します。
アリス:充電が終わるくらいの頃に、また来ます。
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拓哉:はい
:
アリス:・・・では
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拓哉(M):そう言って女性は部屋を出て行った
:
拓哉(M):女性が部屋を出てから、俺はもう一度部屋の中を詮索した。
拓哉(M):しかし、この部屋の中には、特に怪しいものは見つからなかった
拓哉(M):
拓哉(M):そして、俺は他の部屋を探そうと、部屋の外に出た
拓哉(M):大きな音が鳴らないように、そっと扉を閉め・・・
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アリス:どこに行かれるんですか?
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拓哉:はぁうぁあ・・・(心臓が飛び出しそうになる)
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アリス:あまりウロウロして頂きたくないと申し上げたと思いますが・・・
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拓哉:ど、どうして・・・
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アリス:携帯電話の充電に時間がかかるようでしたら
アリス:ソファーで少し休まれてもいいかと、大き目のブランケットをお持ちしたんです。
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拓哉(M):確かに彼女は、ブランケットらしきものを持っていた
:
アリス:それで、あなたはどこへ行こうとしていたのですか?
:
拓哉:あ・・あの・・
拓哉:と、トイレに行こうと
:
アリス:・・・そうでしたか
アリス:お手洗いでしたら、ここを真っすぐ行かれて、左に曲がった所にあります。
:
拓哉:そ、そうですか・・・ありがとうございます。
:
アリス:では、私はブランケットをソファーの上に置いておきますので、
アリス:お手洗いから帰られたら、仮眠でも取っていてください。
アリス:先程も申し上げましたが、あまりウロウロしないで欲しいです。
:
拓哉:はい、わかりました。
:
アリス:では
:
拓哉(M):女性はそういって、リビングへと入って行った
拓哉(M):そして、俺は彼女に怪しまれぬよう、一旦トイレに行くことにした
拓哉(M):
拓哉(M):トイレから戻ると、リビングには彼女の姿はなかった
拓哉(M):ソファーの上には、先ほど彼女が持っていたブランケットが置いてある
拓哉(M):
拓哉(M):俺はまだ彼女がどこかで見ているかもしれないと警戒し、彼女の入れた紅茶を口にして、ソファーに横たわりブランケットをかけて目を閉じた
:
0:【第3場】
:
拓哉(M):何分目を目を閉じていただろう・・・
拓哉(M):俺は起き上がり、また詮索を始める事にした
拓哉(M):携帯の充電が終わる頃には、彼女が戻って来てしまう・・・猶予はあと1時間くらいか・・・
拓哉(M):
拓哉(M):もう一度リビングを出て、手あたり次第に、部屋を見て回る、
拓哉(M):だが、トイレに向かう廊下側には、特に怪しいものはなかった
拓哉(M):
拓哉(M):俺は、一旦リビングまで戻り、今度は、トイレとは反対側の廊下を進む
拓哉(M):しかし、こちら側にも、念入りに探してみたが、特に怪しい部屋は見つけられなかった・・・
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拓哉:次は二階か・・・
:
拓哉(M):そう思って、引き返そうとした俺は、突き当りだと思っていた廊下の左側に、さらに通路がある事に気が付いた。
拓哉(M):その角を左側に曲がると、短い廊下と、不自然な扉があった。
拓哉(M):そっと扉を開くと、その先には地下へ降りていく階段があった
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拓哉:ここかもしれないな
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拓哉(M):俺は慎重に、そして極力音を立てないように、廊下を降りていく
拓哉(M):最後まで階段を降りると、そこには、短い廊下と、また扉があった
拓哉(M):
拓哉(M):この先に何かがある気がして仕方がない。 ひょっとして沙織が監禁されているかもしれない。
拓哉(M):
拓哉(M):俺は、持って来たバタフライナイフを右手にもって、ゆっくりと左手でドアノブを回した
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拓哉:痛っ!
:
拓哉(M):その時、左手の掌(てのひら)に針で刺されたような痛みが走った
拓哉(M):よく見ると、ドアノブから針が突き出している
拓哉(M):
拓哉:こんな仕掛けがしてあるなんて・・・
拓哉(M):
拓哉(M):俺は、扉の中に必ず何かがあると確信した。
拓哉(M):そして、ドアノブにハンカチを巻き付け、慎重にドアノブを回してドアを開けた
:
:
拓哉(M):扉の向こうは部屋になっていた。
拓哉(M):
拓哉(M):部屋の壁は、一面が棚になっており、夥(おびただ)しい数のビンが並んでいる
拓哉(M):そのビンの中には、目、耳、指などの人間の部位が、赤味がかった透明な液体に付け込まれている
拓哉(M):部屋の所々に燭台(しょうだい)が置かれ、骸骨(がいこつ)の上に蝋燭(ろうそく)が立てられている
拓哉(M):
拓哉(M):そして、この不気味な部屋の中央の床には、カーペットに魔法陣らしき、奇妙な文様が描かれている。
拓哉(M):魔法陣の上には、テーブルが置かれ、テーブの上には、誰かが横たわっている。
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拓哉:沙織(さおり)!
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拓哉(M):俺は思わずテーブルに駆け寄った
拓哉(M):だが、テーブルに横たわっていたのは沙織ではなく、全身がつぎはぎだらけの女性だった
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拓哉:これは、いったい・・・
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アリス:それはお婆様です
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拓哉:はっ、お前・・・
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拓哉(M):声の主はアリスだった
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アリス:あれほどウロつかないで下さいと言いましたのに・・・無礼な方ですね。
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拓哉:これは一体、どういう事だ! あの死体は!
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アリス:お婆様は死体なんかではありません。
アリス:少し眠っているだけです
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拓哉:眠っているだけって・・・お前、気は確かか
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アリス:この部屋は、お婆様の目覚めの儀式をする為の部屋なのです。
アリス:よそ者が、気安く入っていい場所ではないのですよ
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拓哉:死者を復活させようとしているのか
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アリス:何度もいいますが、お婆様は死者ではありません。
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拓哉:あんな継ぎはぎだらけで、死体じゃないというのか
拓哉:どう見たって、死体じゃないか
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アリス:あなたも分からない方ですね、死体ではないといいましたでしょ
アリス:お婆様が目覚めるのには条件があるのです。
アリス:その条件をそろえる為に、こうして人の部位を集めているのです。
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拓哉:何!
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アリス:お婆様は美しいお方ですから
アリス:お婆様の身体のすべてが美しい部位になった時に、お婆様は目覚めるのです。
アリス:その為に、目の綺麗な方、唇の美しい方、手のしなやかな方、耳の形が整った方、
アリス:そういう方を、この館にお招きして、部位を頂いているのです。
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拓哉:あのビン・・・
:
アリス:そうです。
アリス:ですが、ただ他人の部位を付けただけでは、お婆様は目覚めません
アリス:頂いた部位を、まずお婆様の部位にしないといけないのです。
:
拓哉:部位にする?
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アリス:ええ、あのビンの中には、お婆様の血が混ざったホルマリンが入っています。
アリス:その液に暫く付けておく事で、人から頂いた部位は、お婆様の部位となるのです
:
:
拓哉:狂ってる・・・
:
アリス:私が狂っているのではありません、あなたが理解できないだけなのです。
アリス:お婆様の書かれた儀式の書は完璧ですから
:
拓哉:あぁ、そうかい
拓哉:さっき、他人から部位を取ると言ったが、その中に沙織もいたのか
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アリス:さぁ、沙織という方は存じ上げませんね
アリス:もっとも、部位を頂いた方のお名前は覚えておりませんが
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拓哉:2週間前、この館に女性が来たはずだ
:
アリス:2週間前・・・・
アリス:さぁ、来たかもしれませんが、正直、よく覚えていません。
アリス:ですが、もし、その沙織という方を探すのでしたら、ここではなく、館中を探してみてはいかがですか?
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拓哉:どういう事だ
:
アリス:お婆様のものとして、適さなかった部位は、レジンで固めて、この館の人形達に付けてあげるのです
アリス:そして、やがてこの世界は、美しいお婆様と、美しい住人達で満たされる事となるのですよ
アリス:ですから、探せば見つかるかもしれませんね、その沙織さんという名の女の部位も
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拓哉:ちくしょう・・・
拓哉:この事を警察に通報して、お前のこの狂った儀式を終わりにしてやる
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アリス:それは無理ですよ
:
拓哉:どうしてだ
:
アリス:どうして?
アリス:では、逆にお聞きしますが、どうして、私がわざわざこの館の秘密を貴方に教えたと思いますか?
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拓哉:・・・
:
アリス:それは、あなたが、もうこの館からは出る事が出来ないからですよ
:
拓哉:どうして・・・そん・・くぅ・・・
:
拓哉(M):俺はその時、激しい眩暈(めまい)と眠気に襲われた
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アリス:あなた、この部屋の扉を開ける時に、針に刺されましたね。
アリス:あの扉は、正しい手順を踏まないと、針が飛び出す仕掛けになっているんです。
アリス:そして、その針には睡眠薬が仕込んであるんですよ
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拓哉:な・・・・
:
アリス:あなたは、もうすぐ眠ってしまいます。
アリス:あなたの意思とは関係なくね・・・ふふ
:
拓哉:く・・・
:
アリス:ふふふ、でも、不思議だと思いませんか?
アリス:毒薬なら簡単に殺せるのに、わざわざ睡眠薬だなんて
:
拓哉:・・・
:
アリス:どうしてドアノブに仕掛けた薬が、毒薬ではなく、睡眠薬なのか・・・
アリス:
アリス:あなたは「不思議な国のアリス」という物語をご存じですか?
アリス:あの物語は夢から覚める事で、現実にもどるのです。
アリス:ですから、このアリスの館でも、お客様には夢を見て頂くのですよ。
アリス:
アリス:さて、あなたが目覚めた時、あなたは、一体どうなっているのでしょうね?
アリス:もっとも、目覚められたらの話ですが・・・ふふふ
:
:
拓哉(M):俺は薄れゆく意識の中で、不用意に俺の前に立ったアリスを、思い切り蹴り飛ばした
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拓哉:ふん!
:
アリス:きゃぁ
:
拓哉(M):アリスは幾つかの燭台(しょくだい)を倒して、机に頭をぶつけて倒れた
拓哉(M):倒れた蝋燭(ろうそく)の火が絨毯(じゅうたん)に燃え移り、部屋全体に広がろうとしていた
:
アリス:許さない・・・
:
拓哉(M):アリスが、ふら付きながら、ゆっくりと床から這いあがる
:
アリス:お前を絶対に許さない・・・・お婆様の目覚めを邪魔するなんて、絶対に許さない
:
拓哉(M):アリスが壁際にある戸棚から、解体用の大きな刃物を取り出し、ふら付く足でゆっくりとこっちに向かって来る。
拓哉(M):俺は意識を取り戻そうと、もっているナイフで自分の左腕を刺した
:
拓哉:ぐぁぁぁぁ・・・くぅ
:
アリス:殺してやる、お前を殺してやる
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拓哉(M):そう言って、俺を切り捨てようとアリスが刃物を振り上げた
拓哉(M):だが、俺にはもう、アリスを蹴り飛ばす力は残ってはいなかった
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アリス:死ね下郎
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拓哉(M):刃物を振り下ろすアリスに対して、俺は、身体を預けるように、アルスにもたれかかり、彼女の胸を刺した。
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アリス:うぐぅ
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拓哉(M):アリスは胸から血を流し、俺と一緒に床に倒れた
拓哉(M):床に倒れながら、俺の意識は次第に薄れていった・・・
拓哉(M):
拓哉(M):薄れていく意識の中で、ぼんやりと俺は思っていた
拓哉(M):アリスが言ったように、いつか俺が目覚める事が出来たとしたら、この悪夢から解放されて、沙織と幸せな日々を過ごす事が出来るのだろうか・・・
拓哉(M):目覚める事が出来たとしたら・・・
:
0:完