台本概要

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タイトル 20年目の花火
作者名 Danzig
ジャンル その他
演者人数 3人用台本(女3) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 女性×3 台本(兼ね役あり)

都会で暮らすルミとミサは幼馴染、地元の夏祭りを楽しむ為に久しぶりに帰省をする。
地元で暮らすサエと合流して、20年間楽しみにしていた大きな花火大会を楽しもうとするが・・・

注意:兼ね役があります。
登場人物に、ルミの母と、ミサの母が登場しますが、セリフが非常に少ない為に兼ね役と考えています。
兼ね役が難しい場合は、女性5人劇になります。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ルミ 116 主人公の一人
ミサ 97 主人公の一人
サエ 48 主人公の一人
ルミの母 12 兼ね役。 
ミサの母 2 兼ね役。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
: ルミ(M):8月17日、私は実家に向かう列車に乗っていた ルミ(M):何もない海辺の田舎町は、正直、今の私には、それほど魅力的な所ではない ルミ(M):東京には普通にあるような、スタバもマックも、おしゃれなカフェも、ここにはない ルミ(M):それが嫌で、実家に帰るのも何年かに一度程度、親に催促された時くらいかなぁ・・・ ルミ(M):でも、私には、今日、絶対に帰りたい理由があった : ミサ(M):久しぶりに、私はこの町に帰って来た、 ミサ(M):帰省は、もう何年振りになるだろう ミサ(M):何もない町・・・潮の香りがする温暖な海辺の町 ミサ(M):でも、その風景が、私にとってはとても懐かしい ミサ(M):私にはこの町に忘れられない思い出がある、 ミサ(M):今日はその思い出を求めて、私はこの町に帰って来た ミサ(M):明日の8月18日のお祭りの日の為に : サエ(M):磯の匂いがするこの町は、毎年夏に納涼の夏祭りが開かれている サエ(M):祭りと言っても、どこの町でもやっているような、小さな祭り サエ(M):数件の屋台と、どこにでもありそうな花火 サエ(M):それでも、何もないこの町の人達にとっては、毎年の楽しみな行事の一つになっている サエ(M):でも、この町の祭りは、他の町にはない大きな特徴がある サエ(M):20年に一度だけ、非常に大きな祭りとなるのだ : : ミサ(M):私は、電車を降りた後、駅舎の中で改札を出るルミを見つけた : ミサ:ルミ! : ルミ:あぁ! ミサじゃない ルミ:久しぶり! : ミサ:ホント久しぶりだね、何年ぶり? : ルミ:えーー、何年ぶりだろう・・・・わかんないw : ミサ:ははは、ひっどーいw : ルミ:そんな事いいじゃない、でも、ミサもやっぱり来たのね : ミサ:そりゃそうよ、20年ぶりの花火だもんね : ルミ:そうよね、絶対来なきゃ : ミサ:だよね : ルミ:私さ、20年前の花火が忘れられなくてさ ルミ:他の事はあんまり覚えてないけど : ミサ:ははは、ルミらしいね ミサ:あの時は、私達小学生だったけど、やっぱり忘れられないよね : ルミ:うん : サエ:あ、ルミとミサじゃない? サエ:久しぶり : ミサ:サエ! : ルミ:やっぱり、あなたも来たのね : サエ:うん、そりゃね : ミサ:サエも絶対来ると思ってた : ルミ:私も : サエ:ははは、やっぱり? : ルミ:そりゃね : ミサ:でも、懐かしいよね : サエ:そうね。 サエ:久しぶりに三人で会えたわね サエ:あぁ、嬉しいなぁ : ミサ:どうしたのよ、泣きそうな顔して : サエ:だってさ、もう二人には会えないかと思ってたから : ミサ:もう、大げさだな ミサ:別に会おうと思えば、東京でもどこでも、いつだって会えるじゃない : サエ:うん・・・ : ルミ:でも、私達も、もう29だしさ、結婚とかしちゃうと、なかなか会えなくなるよね : ミサ:そうだね、 : サエ:でも、29になっても二人とも未婚とはね : ミサ:サエだってそうじゃない : サエ:そうだよねw : ルミ:そりゃ、私たちは愛情よりも友情派だからね : ミサ:そうかなぁ? : ルミ:ミサ、ひどーい、ははは ルミ:でも私、こんなに早く二人に会えるなんて、思ってなかったよ : ミサ:私も! ミサ:まさか、祭りの初日に会えるとはね : サエ:そうだね、花火は二日目だもんね : ルミ:うん : サエ:で、今日は二人は何か用事があるの? : ミサ:いや、特にないけど・・・ : ルミ:私もないわよ : サエ:じゃぁ、今からどうする? サエ:昼間の屋台でも見ながらブラブラする? : ルミ:そうね、屋台とかは明日見られるし、 ルミ:久しぶりに三人で会えたんだから、どこかでお茶でもしない? : サエ:お茶ってどこで? : ルミ:どこって、別にどもでも、その辺の・・・あ : サエ:でしょ? : ルミ:そういえば、無いねこの町・・・ ルミ:ってか、20年で少しはオシャレなお店とか出来たんじゃない? : サエ:あんまり変わらないみたいよ : ルミ:そっか・・・都会はどんどん都会に、田舎はどんどん田舎になっていくのね・・・・ ルミ:じゃぁ、どうしようか、やっぱりぶらぶらする? : ミサ:それなんだけどさ : ルミ:どうしたのミサ、何かやりたい事でもあるの? : ミサ:うん・・・やりたいっていうか : サエ:何かあるの? : ミサ:ちょっと思い出せない事があって : ルミ:思い出せない事? : ミサ:うん、私、今日ここに来るのが楽しみでさ ミサ:昨日も興奮して眠れなくて、いろいろ昔の事を思い出してたんだけど ミサ:どうしても思い出せない事があるのよ : ルミ:なにそれ? どんな事? : ミサ:20年前のあの時、私達って、どこで花火を見たか覚えてる? : : ルミ:どこでって、サエの家で見たんじゃなかったっけ? : ミサ:そうだっけ? : サエ:えー、違うわよ : ミサ:じゃぁ、どこ? : サエ:そう言われれば : ルミ:サエの家だったと思うわよ、窓から見たんじゃなかったっけ? : ミサ:私も窓から見たような記憶はあるんだけど、でも、それが重要なんじゃなくて : サエ:じゃぁ、何が重要なの? : ミサ:花火って、どんな感じだった? : ルミ:どんな感じって? : ミサ:ほら、風景っていうか、どんな感じで花火を見てたか : ルミ:うーん、海を見下ろしていたような、海が花火の光を反射させて・・・ : ミサ:そうなのよ : サエ:それがどうしたの? : ミサ:だってさ、もし本当に私達がその風景を見てたとしたら、山から見てた事になるわよね? : ルミ:そうね、それがどうしたの? : ミサ:あの山に家なんてあったっけ? : ルミ:あったっけって・・・あれ? : サエ:・・・ : ミサ:ないよね? ミサ:というか、少なくとも当時はなかったよね? : ルミ:私はサエの家で見てた記憶なんだけど : サエ:私の家は、酒屋さんの裏にあるから、花火は見えない場所よ : ルミ:あれ? そういえばそうだよね : ミサ:そうなのよ、それがどうしても思い出せないの : ルミ:確かにそうよね ルミ:でも、20年前の記憶だから、何かとごっちゃになってるのよ、きっと : ミサ:あなたは、相変らず気楽よね : ルミ:ひどいわね : サエ:でも、どうしてそれが重要なの? : ミサ:どうせなら、同じ場所で見たいじゃない : ルミ:確かにね ルミ:じゃぁ、明日の為に、今からその場所を探しにいく? ルミ:今日中に見つければ、明日の朝早くから場所取りできるじゃない : ミサ:そうね、サエはそれでいい? : サエ:いいわよ : ミサ(M):それから、私達は三人で、記憶を頼りに、20年前に私達が花火をみた場所を探した ミサ(M):海、花火、高い場所、これらを手掛かりに、私達は時間の限り探して回った : ルミ(M):花火の実行委員会の方に、20年前の花火の打ち上げ場所を聞いて、地図と照らし合わせたり ルミ(M):町の人に、どこか高くて見晴らしがいい場所がないか、聞きいたり ルミ(M):漁師さんに、海からそれらしい建物を見たことがないか、聞いたりもした : サエ(M):それでも、私達はその場所を見つける事は出来なかった サエ(M):そして、日もすっかり暮れ、時間も午後10時を回った頃、 サエ(M):場所探しは、18日の早朝から再開する事にして、解散となった : ミサ:ただいま : ミサの母:お帰りなさい、随分遅かったわね、ミサ、ご飯は? : ミサ:ルミ達と食べたから : ミサの母:そう・・・お風呂入りなさい、お布団敷いてあるわよ : ミサ:ありがとう : ミサ(M):私は自分の部屋に入ると、布団に倒れ込んだ : ミサ:本当に・・・あれは何処だったんだろう・・ : ミサ(M):なぜ、私がこんなに必死になったかは分からない ミサ(M):花火を見るだけなら、どこだっていいはずなのに・・・ ミサ(M):でも、どうしても、私はその場所を知りたいと思っていた ミサ(M): ミサ(M):そう思うと、胸のざわめきが収まらなくなり、私は布団から起きた ミサ(M):そして、小学生時代の記憶を呼び戻す何かがないか、押し入れの中を探し始めた : ルミ:ただいま : ルミの母:あら、お帰りなさい。 こんな時間まで遊んでたの? : ルミ:遊んでた訳じゃないわよ、20年前に花火を見た場所を探してたの : ルミの母:あら、そう : ルミ:ねぇ、お母さん知らない? 20年前に私達が花火を見た場所 : ルミの母:20年前の花火って、あなた覚えてないの? : ルミ:覚えてないから、探してるんじゃない : ルミの母:そうじゃないわよ、20年前の花火の日、あなた達、迷子になったのよ? : ルミ:え? : ルミの母:覚えてないのね。 ルミの母:もう・・海に落ちたんじゃないかって、町の人達と必死に探したんだから : ルミ:ホントに? : ルミの母:そうよ、それで花火が終わった後に、ミサちゃんとひょっこり帰って来て、 ルミの母:もう、本当にあの時は肝が冷えたわよ : ルミ:そうだったんだ・・で、私達は何処にいたって? : ルミの母:あなた達二人に、何処にいたのか何度も聞たけど、秘密としか言わなかったわよ : ルミ:あれ? ルミ:お母さん、今、ミサと二人って言わなかった? : ルミの母:ええ、ミサちゃんと二人よ : ルミ:サエは? : ルミの母:居なかったわよ、 : ルミ:そんな、あの日はサエも居たじゃない : ルミの母:うーん、覚えてないわね : ルミ:そんな・・・ : ルミの母:だってあなた、いつもミサちゃんと二人だったから : ルミ:その日はサエも一緒だったのよ : ルミの母:そうだった? 覚えてないわね : ルミ:もういいわよ、おやすみなさい : : ルミ(M):次の日の朝早く、待ち合わせの場所に向かう為に、私は家の玄関にいた ルミ(M):タイムリミットは、今日の午後7時頃の花火が始まるまでの時間 ルミ(M):私は焦りながら扉を開いて外へ出た ルミ(M): ルミ(M):すると、玄関の前にはサエがいた : ルミ:サエどうしたの? : サエ:ルミ、私ちょっと気になる事があるの : ルミ:どんな事? : サエ:まだハッキリとは分からないから、ちょっと私一人で確かめて来ようと思うの : ルミ:それなら三人で行けばいいじゃない : サエ:もし私の勘違いだったら、時間がもったいないでしょ サエ:ルミはミサと二人で探して欲しいの : ルミ:それもそうね、分かった、ミサには伝えておくわ : サエ:うん、お願いね : ルミ(M):私はサエと別れて、待ち合わせ場所に向かった ルミ(M):待ち合わせの場所には、ミサが遅れてやってきた : ミサ:ごめん、遅くなって : ルミ:いいけど、珍しいわね、ミサが遅れるなんて : ミサ:いろいろ考え事をしててさ ミサ:つい寝坊しちゃってた : ルミ:そうだったんだ : ミサ:あれ、サエは? : ルミ:サエなら、確かめたい事があるって、一人で先に行ったわよ : ミサ:そっか・・・ : ルミ:どうしたの? : ミサ:いや、大した事じゃないから : ルミ:そう、じゃぁ行こうか、時間も勿体ないし : ミサ:そうね : ミサ(M):私達は昨日と同じように、20年前に花火をみた場所を探した ミサ(M):しかし、どれだけ探しても見つからない ミサ(M):午後3時を過ぎた頃、花火の空砲(くうほう)が鳴り始めた : ルミ:見つからないね ルミ:空砲の音を聞くと、焦っちゃうよね : ミサ:ねぇルミ、おかしいと思わない? : ルミ:何が? : ミサ:こんなに探して見つからないなんてさ ミサ:だって、小学生が行ける場所でしょ? : ルミ:それは秘密の場所だったとか : ミサ:あの時、あんなに大きな花火大会だったのに、私達って三人だけで花火見てたよね : ルミ:うん、確かそうだった : ミサ:そんな場所ってある? こんな小さな町で : ルミ:うーん、子供だから偶然発見できたとか ルミ:それか、私達が思い違いをしてるとか : ミサ:三人で同じ思い違いをする? : ルミ:普通しないよね : ミサ:ルミ、ちょっと私の家に来てくれない : ルミ:え? どうしたの? 場所探しは? : ミサ:どうせ、このまま闇雲(やみくも)に探したって見つからないよ : ルミ:まぁ、そうだけど : ミサ:とにかく、私の家に来て : ルミ:分かった : ミサ(M):そして、私はルミを連れて、家に帰った : ミサ:ルミ、これを見て : ルミ(M):ミサが見せたのは、20年前にミサが描いた絵だった : ルミ:花火の時の絵? : ミサ:そう、よく見て : ルミ(M):絵では、私とミサとサエの三人が手を繋いでいた ルミ(M):そして、山と花火と海と、海に写る花火が描かれていた : ルミ:懐かしいわね ルミ:これ、花火を見ている時の絵でしょ? : ミサ:そう、私達三人が描かれてるよね? : ルミ:そうね、それがどうしたの? : ミサ:これを見て : ルミ:ん? アルバム? : ミサ:そう、よく見て : ルミ:よく見てって・・ : ルミ(M):私はミサに言われて、アルバムを注意深く見た ルミ(M):アルバムには、ミサと二人で写った写真は沢山あったが、サエが写ったものは無かった : ルミ:あれ? サエが写った写真がないわね : ミサ:不思議だと思わない? ミサ:私達って小学生の頃、ずっと一緒に遊んでたよね : ルミ:そうよ、三人でいつも一緒だった : ミサ:じゃぁ、サエが写った写真がないのって不思議だと思わない : ルミ:偶然とか : ミサ:ルミ、私達って、ここに20年ぶりの花火を見る為に帰って来たのよね? : ルミ:そうよ、当たり前じゃない : ミサ:本当に? : ルミ:本当にってどういう事? ミサは違うの? : ミサ:私もそう : ルミ:だったら : ミサ:でも、私達って、花火の事を詳しく覚えてないじゃない : ルミ:そういえば、そうね : ミサ:20年よ、20年もの間、私達って「よく覚えてもいない花火」の事を楽しみにしてたの? : ルミ:うーん、何となく「凄かったなー」っていうぼんやりした記憶で : ミサ:それで20年も? : ルミ:うーん : ミサ:私ね、今日のお祭りには、絶対に来たかったのよ、絶対に来なきゃいけないって、ずっと思ってたの : ルミ:私も、絶対に来なきゃって思ってた : ミサ:私ね、花火よりも、もっと何か大切な事がある気がするの ミサ:絶対に思い出さなきゃいけない、絶対に忘れてはいけない何かが : ルミ:そう言われれば、私もそんな気がする : ミサ:それが何なのか、サエは知っている気がするの : ルミ:そっか : ミサ:とにかくサエを探しましょう : : ミサ(M):こうして、私達はサエにあって真相を確かめる事にした : ルミ:ミサ、さっきからサエに連絡してるんだけど、出ないのよ : ミサ:じゃぁ、とりあえずサエの家に行ってみましょう。 ミサ:サエの家族なら何か知っているかもしれないし : ルミ:そうね : : ミサ(M):そして、私達はサエの家に行くことにした : ルミ:酒屋の裏ってこの辺りだよね ルミ:昔、よくサエの家に遊びに行ったけど、昔の事だから記憶が曖昧で・・・ : ミサ:ルミ、酒屋の裏って確か・・・・ : : ルミ:あれ? 神社・・・ : ミサ(M):私達の記憶にある、サエの家が建っているはずの場所には、古い神社があった : ルミ:おかしいなぁ、確かこの辺りだったと思ったんだけど : ミサ(M):私はその神社を見た時、私の記憶の中の歯車が少しだけ動いたような気がした ミサ(M):でも、肝心の何かがどうしても思い出せない ミサ(M):何か大切なものが、黒い霧の中に隠されているような感覚だった ミサ(M):その時 : ルミ:あれ、この狛犬、面白いね : ミサ:ルミ、何を呑気な事を言ってるのよ、今はそれどころじゃないでしょ : ルミ:だってさ、狛犬って普通、正面を見てるか、お互いを見てるでしょ? ルミ:この子達、全然違う所を見てるからさ・・・ : ミサ:そんな事、今はどうでも・・・・ : ミサ(M):ルミのいうように、狛犬は確かにおかしな方向を向いていた ミサ(M):かなり古い狛犬のようだから、そういうものもあるのかと思ったが : ルミ:この子達、何か見つめているような顔しているけど、何見てるのかな? : ミサ:え? : ミサ(M):ルミの言うよに、確かに狛犬は何かを見つめているようだった ミサ(M):そして、その目線の先は、切り立った山の中腹だった : ミサ:あの山・・・ : ルミ:ミサどうしたの? : ミサ:狛犬が見ているあの山ってさ、まだ、探してないよね : ルミ:だって、あそこは木も鬱蒼(うっそう)と茂っていて、昔から建物なんて何もないし、足場も悪いから危険だよって言われたじゃない : ミサ:でもさ、あそこなら海が見下ろせる高台になるでしょ? : ルミ:あ、確かにそうだね : ミサ:行ってみようよ : ルミ:そうだね、もう6時も過ぎちゃったし、他に探す所もなさそうだし、行ってみるしかないよね : ミサ(M):そして、私達は狛犬の見つめる山の中腹を目指した ミサ(M):しかし、山は、道もなく、坂も急で、足場も悪かった、 ミサ(M):私は記憶の中の霧が少し晴れていくような感じはしていたが、子供がここを登るのは、少々無理があるようにも思えた ミサ(M):やはり違ったのだろうか・・・と思い始めた、そんな時 : ルミ:私さ、ここに来た事があるような気がする ルミ:この道もさ、三人で登ったような気がしてるの、その時はもっと楽に登ってたと思うんだけど・・・ : ミサ:ルミ・・・ : ルミ:なんか少しづつ霧が晴れていくような感じするの ルミ:だから、ここだよきっと : ミサ:うん、私もそう思う : ミサ(M):ルミも同じ感じがしてたんだ・・・ ミサ(M):そして、ルミの言葉が私の背中を押してくれた気がして、凄く嬉しかった・・・ : ルミ:でも、もう体力の限界かも・・・ : ミサ:少し休憩する? : ルミ:いや、もう時間もないしさ、もしサエがこの先で待ってるなら、早く会いたいじゃない : ミサ:そうね、じゃぁ頑張ろう : ミサ(M):私も、正直もう体力は限界だったが、ルミの言葉に励まされて、何とか進んでいた : ミサ(M):木が鬱蒼(うっそう)と茂る山道は、ただでさえ薄暗い ミサ(M):それが夕日の落ちかけた夕方ともなると、一層暗くなる ミサ(M):これ以上暗くなると、足元も見えなくなると思い始めていた、その時 : サエ:ルミ、ミサ・・・ : ミサ(M):サエの呼ぶ声がした : ルミ:サエ! いた! : ミサ:サエ : ミサ(M):もう少し坂を登った先で、サエが私達を見つめていた ミサ(M):私とルミが、サエを見つけた瞬間、私の中で、全ての記憶が蘇(よみがえ)った ミサ(M):まるで霧が晴れていくように ミサ(M):20年前の花火の日に何があったのか・・・ ミサ(M):おそらくルミも同じだろう : サエ:二人とも、よくここまで来てくれたわね : : ルミ:当たり前でしょ、約束したじゃない、20年後の花火の日にもう一度会いに来るって ルミ:どんな事があっても、絶対に来るって。 : ミサ:そうよ、私も絶対に来なきゃって思ってたわ : サエ:でも20年よ、あの時二人は9歳だったし、この町を離れると記憶はどんどん薄れていくから サエ:もう二度と二人には会えないって思ってた : ルミ:サエ : サエ:昨日、駅で二人を見つけた時は、本当に涙が出そうになったわ サエ:二人が約束を守ってくれて、本当にうれしかった : ミサ:サエ : サエ:でも、この場所は教えられないし、ここに来れるかどうか不安だったの サエ:二人とも、ありがとう : ルミ:でさ、サエ、あの時「次に会った時に話す」って言ってた、あなたの事だけど、 ルミ:あなたは、どうしてここにいるの? : サエ:そうね、話さなきゃね : サエ:私は260年ほど前に、ここに祀(まつ)られた人柱の巫女(みこ)なの サエ:そして、二人の後ろにあるのが、私を祀っている祠(ほこら)なの : ミサ:260年前の人柱・・・ : ルミ:祠って、もうボロボロで、木に飲み込まれそうじゃない : サエ:ええ、そうなの : ルミ:でも、人柱って言ったら、キチンと代々供養して貰えるんじゃないの? : サエ:実は、当時ここを収めていたお殿様が、人柱を禁止していたの サエ:でも、どうしても海が荒れて、毎年何人もの漁師が命を落とすから、お殿様に内緒で人柱の儀式を行ったの サエ:その時に巫女に選ばれたのが、9歳の私 : ルミ:サエ、9歳だったんだ : サエ:うん サエ:その時は、海の見えるこの高台が一番見晴らしのいい所だったから サエ:ここに、小さいけど丁寧に祠を作って貰えたのよ : ミサ:でも、今は : サエ:仕方がないのよ サエ:祠は、お殿様に知られないように、小さくひっそり建てたし サエ:神社にも、人柱の記録を一切残さなかったから サエ:だから、次第にこの祠は、人の記憶から消えていったの : ルミ:そうだったんだ : サエ:当時の村の人達は、私を忘れないようにって20年に一度、大きな祭りを開いてくれるようになったの サエ:私ね、そのお祭りの間だけ、人の姿になれるのよ : ミサ:そうだったの、だから、私達とも一緒に居られたのね : サエ:でもね、この祠の事が段々人の記憶から消えていくと、私を「お化け」だっていう人もいて、次第に人が来なくなってしまって : ルミ:折角、人の姿になれるのに、それって、さみしいね : サエ:うん、私ずっと寂しかった サエ:だから、20年前、あなた達が、二日間だけでも私と友達になってくれて、とっても嬉しかった サエ:そして、20年経った今も、こうして会いに来てくれるなんて : ミサ:そんなの当たり前じゃない、サエは命の恩人なんだし : ルミ:そうよ、ちゃんと思い出しわ : ルミ:祭りの初日に、ミサが足を踏み外して、海に落ちちゃって ルミ:それを助けようとした、私も溺れちゃって : ミサ:そこにサエが来て、海に飛び込んで助けてくれたのよね。 : サエ:うん : ルミ:それから、祭りの間中、一緒に遊んだのよね : サエ:うん、本当に楽しかった サエ:でも、私の事を怖がられたくなかったから、嘘をついていたの サエ:私の事は、昔からずっと一緒に遊んでいた、幼馴染だって思ってもらってたの サエ:ルミやミサのお父さんや、お母さんや、街の人にも・・・ごめんなさい : ルミ:そんな嘘をつかなくたって、私達にとってサエは、サエ ルミ:幼い頃からずっと一緒に遊んでたサエなのよ : サエ:ありがとう : ミサ:サエ、あなたはこれからも、ずっと私達の友達のサエだよ : サエ:うん : サエ(M):その時、空を染める七色の花火が上がり始めた : ルミ:あ、花火 : ミサ:綺麗 : ルミ:うん、間違いないよ、私達この景色を見てたんだよ : ミサ:うん : ルミ(M):高い空に星が輝き、低い空に花火が輝く ルミ(M):見下ろす真っ黒な海には、花火が反射して、波の形に揺れている : ミサ(M):花火の光が、山肌を照らし ミサ(M):私とルミの顔も照らす : サエ(M):花火を見ながら、二人が私の手を握ってくれた、20年前と全く同じように サエ(M):まぎれもなく、ここには20年前の三人の少女がいた : ルミ:私、次の花火の時も絶対に来るからね ルミ:20年後も絶対 : サエ(M):花火を見ながらルミは言った : サエ:20年後って、二人はもう49歳よ : ミサ:それでも、絶対にくるよ ミサ:例え結婚して、子供が出来てたとしても、絶対に私は来るよ : ルミ:20年後、もう一度会えるんだよね ルミ:私達がここに来れば : サエ:ええ、会えるわ : ミサ:それなら大丈夫 : ルミ:そりゃ、私たちは愛情よりも友情派だからね : ミサ:そうかなぁ : ルミ:ミサひどーい : サエ:ふふふ : ルミ:ははは ミサ:ははは : ルミ(M):そして20年の時を超えた、永遠とも思える三人の時間が過ぎていった : ミサ(M):20年後のこの時間を、もう一度心に誓いながら : 完

: ルミ(M):8月17日、私は実家に向かう列車に乗っていた ルミ(M):何もない海辺の田舎町は、正直、今の私には、それほど魅力的な所ではない ルミ(M):東京には普通にあるような、スタバもマックも、おしゃれなカフェも、ここにはない ルミ(M):それが嫌で、実家に帰るのも何年かに一度程度、親に催促された時くらいかなぁ・・・ ルミ(M):でも、私には、今日、絶対に帰りたい理由があった : ミサ(M):久しぶりに、私はこの町に帰って来た、 ミサ(M):帰省は、もう何年振りになるだろう ミサ(M):何もない町・・・潮の香りがする温暖な海辺の町 ミサ(M):でも、その風景が、私にとってはとても懐かしい ミサ(M):私にはこの町に忘れられない思い出がある、 ミサ(M):今日はその思い出を求めて、私はこの町に帰って来た ミサ(M):明日の8月18日のお祭りの日の為に : サエ(M):磯の匂いがするこの町は、毎年夏に納涼の夏祭りが開かれている サエ(M):祭りと言っても、どこの町でもやっているような、小さな祭り サエ(M):数件の屋台と、どこにでもありそうな花火 サエ(M):それでも、何もないこの町の人達にとっては、毎年の楽しみな行事の一つになっている サエ(M):でも、この町の祭りは、他の町にはない大きな特徴がある サエ(M):20年に一度だけ、非常に大きな祭りとなるのだ : : ミサ(M):私は、電車を降りた後、駅舎の中で改札を出るルミを見つけた : ミサ:ルミ! : ルミ:あぁ! ミサじゃない ルミ:久しぶり! : ミサ:ホント久しぶりだね、何年ぶり? : ルミ:えーー、何年ぶりだろう・・・・わかんないw : ミサ:ははは、ひっどーいw : ルミ:そんな事いいじゃない、でも、ミサもやっぱり来たのね : ミサ:そりゃそうよ、20年ぶりの花火だもんね : ルミ:そうよね、絶対来なきゃ : ミサ:だよね : ルミ:私さ、20年前の花火が忘れられなくてさ ルミ:他の事はあんまり覚えてないけど : ミサ:ははは、ルミらしいね ミサ:あの時は、私達小学生だったけど、やっぱり忘れられないよね : ルミ:うん : サエ:あ、ルミとミサじゃない? サエ:久しぶり : ミサ:サエ! : ルミ:やっぱり、あなたも来たのね : サエ:うん、そりゃね : ミサ:サエも絶対来ると思ってた : ルミ:私も : サエ:ははは、やっぱり? : ルミ:そりゃね : ミサ:でも、懐かしいよね : サエ:そうね。 サエ:久しぶりに三人で会えたわね サエ:あぁ、嬉しいなぁ : ミサ:どうしたのよ、泣きそうな顔して : サエ:だってさ、もう二人には会えないかと思ってたから : ミサ:もう、大げさだな ミサ:別に会おうと思えば、東京でもどこでも、いつだって会えるじゃない : サエ:うん・・・ : ルミ:でも、私達も、もう29だしさ、結婚とかしちゃうと、なかなか会えなくなるよね : ミサ:そうだね、 : サエ:でも、29になっても二人とも未婚とはね : ミサ:サエだってそうじゃない : サエ:そうだよねw : ルミ:そりゃ、私たちは愛情よりも友情派だからね : ミサ:そうかなぁ? : ルミ:ミサ、ひどーい、ははは ルミ:でも私、こんなに早く二人に会えるなんて、思ってなかったよ : ミサ:私も! ミサ:まさか、祭りの初日に会えるとはね : サエ:そうだね、花火は二日目だもんね : ルミ:うん : サエ:で、今日は二人は何か用事があるの? : ミサ:いや、特にないけど・・・ : ルミ:私もないわよ : サエ:じゃぁ、今からどうする? サエ:昼間の屋台でも見ながらブラブラする? : ルミ:そうね、屋台とかは明日見られるし、 ルミ:久しぶりに三人で会えたんだから、どこかでお茶でもしない? : サエ:お茶ってどこで? : ルミ:どこって、別にどもでも、その辺の・・・あ : サエ:でしょ? : ルミ:そういえば、無いねこの町・・・ ルミ:ってか、20年で少しはオシャレなお店とか出来たんじゃない? : サエ:あんまり変わらないみたいよ : ルミ:そっか・・・都会はどんどん都会に、田舎はどんどん田舎になっていくのね・・・・ ルミ:じゃぁ、どうしようか、やっぱりぶらぶらする? : ミサ:それなんだけどさ : ルミ:どうしたのミサ、何かやりたい事でもあるの? : ミサ:うん・・・やりたいっていうか : サエ:何かあるの? : ミサ:ちょっと思い出せない事があって : ルミ:思い出せない事? : ミサ:うん、私、今日ここに来るのが楽しみでさ ミサ:昨日も興奮して眠れなくて、いろいろ昔の事を思い出してたんだけど ミサ:どうしても思い出せない事があるのよ : ルミ:なにそれ? どんな事? : ミサ:20年前のあの時、私達って、どこで花火を見たか覚えてる? : : ルミ:どこでって、サエの家で見たんじゃなかったっけ? : ミサ:そうだっけ? : サエ:えー、違うわよ : ミサ:じゃぁ、どこ? : サエ:そう言われれば : ルミ:サエの家だったと思うわよ、窓から見たんじゃなかったっけ? : ミサ:私も窓から見たような記憶はあるんだけど、でも、それが重要なんじゃなくて : サエ:じゃぁ、何が重要なの? : ミサ:花火って、どんな感じだった? : ルミ:どんな感じって? : ミサ:ほら、風景っていうか、どんな感じで花火を見てたか : ルミ:うーん、海を見下ろしていたような、海が花火の光を反射させて・・・ : ミサ:そうなのよ : サエ:それがどうしたの? : ミサ:だってさ、もし本当に私達がその風景を見てたとしたら、山から見てた事になるわよね? : ルミ:そうね、それがどうしたの? : ミサ:あの山に家なんてあったっけ? : ルミ:あったっけって・・・あれ? : サエ:・・・ : ミサ:ないよね? ミサ:というか、少なくとも当時はなかったよね? : ルミ:私はサエの家で見てた記憶なんだけど : サエ:私の家は、酒屋さんの裏にあるから、花火は見えない場所よ : ルミ:あれ? そういえばそうだよね : ミサ:そうなのよ、それがどうしても思い出せないの : ルミ:確かにそうよね ルミ:でも、20年前の記憶だから、何かとごっちゃになってるのよ、きっと : ミサ:あなたは、相変らず気楽よね : ルミ:ひどいわね : サエ:でも、どうしてそれが重要なの? : ミサ:どうせなら、同じ場所で見たいじゃない : ルミ:確かにね ルミ:じゃぁ、明日の為に、今からその場所を探しにいく? ルミ:今日中に見つければ、明日の朝早くから場所取りできるじゃない : ミサ:そうね、サエはそれでいい? : サエ:いいわよ : ミサ(M):それから、私達は三人で、記憶を頼りに、20年前に私達が花火をみた場所を探した ミサ(M):海、花火、高い場所、これらを手掛かりに、私達は時間の限り探して回った : ルミ(M):花火の実行委員会の方に、20年前の花火の打ち上げ場所を聞いて、地図と照らし合わせたり ルミ(M):町の人に、どこか高くて見晴らしがいい場所がないか、聞きいたり ルミ(M):漁師さんに、海からそれらしい建物を見たことがないか、聞いたりもした : サエ(M):それでも、私達はその場所を見つける事は出来なかった サエ(M):そして、日もすっかり暮れ、時間も午後10時を回った頃、 サエ(M):場所探しは、18日の早朝から再開する事にして、解散となった : ミサ:ただいま : ミサの母:お帰りなさい、随分遅かったわね、ミサ、ご飯は? : ミサ:ルミ達と食べたから : ミサの母:そう・・・お風呂入りなさい、お布団敷いてあるわよ : ミサ:ありがとう : ミサ(M):私は自分の部屋に入ると、布団に倒れ込んだ : ミサ:本当に・・・あれは何処だったんだろう・・ : ミサ(M):なぜ、私がこんなに必死になったかは分からない ミサ(M):花火を見るだけなら、どこだっていいはずなのに・・・ ミサ(M):でも、どうしても、私はその場所を知りたいと思っていた ミサ(M): ミサ(M):そう思うと、胸のざわめきが収まらなくなり、私は布団から起きた ミサ(M):そして、小学生時代の記憶を呼び戻す何かがないか、押し入れの中を探し始めた : ルミ:ただいま : ルミの母:あら、お帰りなさい。 こんな時間まで遊んでたの? : ルミ:遊んでた訳じゃないわよ、20年前に花火を見た場所を探してたの : ルミの母:あら、そう : ルミ:ねぇ、お母さん知らない? 20年前に私達が花火を見た場所 : ルミの母:20年前の花火って、あなた覚えてないの? : ルミ:覚えてないから、探してるんじゃない : ルミの母:そうじゃないわよ、20年前の花火の日、あなた達、迷子になったのよ? : ルミ:え? : ルミの母:覚えてないのね。 ルミの母:もう・・海に落ちたんじゃないかって、町の人達と必死に探したんだから : ルミ:ホントに? : ルミの母:そうよ、それで花火が終わった後に、ミサちゃんとひょっこり帰って来て、 ルミの母:もう、本当にあの時は肝が冷えたわよ : ルミ:そうだったんだ・・で、私達は何処にいたって? : ルミの母:あなた達二人に、何処にいたのか何度も聞たけど、秘密としか言わなかったわよ : ルミ:あれ? ルミ:お母さん、今、ミサと二人って言わなかった? : ルミの母:ええ、ミサちゃんと二人よ : ルミ:サエは? : ルミの母:居なかったわよ、 : ルミ:そんな、あの日はサエも居たじゃない : ルミの母:うーん、覚えてないわね : ルミ:そんな・・・ : ルミの母:だってあなた、いつもミサちゃんと二人だったから : ルミ:その日はサエも一緒だったのよ : ルミの母:そうだった? 覚えてないわね : ルミ:もういいわよ、おやすみなさい : : ルミ(M):次の日の朝早く、待ち合わせの場所に向かう為に、私は家の玄関にいた ルミ(M):タイムリミットは、今日の午後7時頃の花火が始まるまでの時間 ルミ(M):私は焦りながら扉を開いて外へ出た ルミ(M): ルミ(M):すると、玄関の前にはサエがいた : ルミ:サエどうしたの? : サエ:ルミ、私ちょっと気になる事があるの : ルミ:どんな事? : サエ:まだハッキリとは分からないから、ちょっと私一人で確かめて来ようと思うの : ルミ:それなら三人で行けばいいじゃない : サエ:もし私の勘違いだったら、時間がもったいないでしょ サエ:ルミはミサと二人で探して欲しいの : ルミ:それもそうね、分かった、ミサには伝えておくわ : サエ:うん、お願いね : ルミ(M):私はサエと別れて、待ち合わせ場所に向かった ルミ(M):待ち合わせの場所には、ミサが遅れてやってきた : ミサ:ごめん、遅くなって : ルミ:いいけど、珍しいわね、ミサが遅れるなんて : ミサ:いろいろ考え事をしててさ ミサ:つい寝坊しちゃってた : ルミ:そうだったんだ : ミサ:あれ、サエは? : ルミ:サエなら、確かめたい事があるって、一人で先に行ったわよ : ミサ:そっか・・・ : ルミ:どうしたの? : ミサ:いや、大した事じゃないから : ルミ:そう、じゃぁ行こうか、時間も勿体ないし : ミサ:そうね : ミサ(M):私達は昨日と同じように、20年前に花火をみた場所を探した ミサ(M):しかし、どれだけ探しても見つからない ミサ(M):午後3時を過ぎた頃、花火の空砲(くうほう)が鳴り始めた : ルミ:見つからないね ルミ:空砲の音を聞くと、焦っちゃうよね : ミサ:ねぇルミ、おかしいと思わない? : ルミ:何が? : ミサ:こんなに探して見つからないなんてさ ミサ:だって、小学生が行ける場所でしょ? : ルミ:それは秘密の場所だったとか : ミサ:あの時、あんなに大きな花火大会だったのに、私達って三人だけで花火見てたよね : ルミ:うん、確かそうだった : ミサ:そんな場所ってある? こんな小さな町で : ルミ:うーん、子供だから偶然発見できたとか ルミ:それか、私達が思い違いをしてるとか : ミサ:三人で同じ思い違いをする? : ルミ:普通しないよね : ミサ:ルミ、ちょっと私の家に来てくれない : ルミ:え? どうしたの? 場所探しは? : ミサ:どうせ、このまま闇雲(やみくも)に探したって見つからないよ : ルミ:まぁ、そうだけど : ミサ:とにかく、私の家に来て : ルミ:分かった : ミサ(M):そして、私はルミを連れて、家に帰った : ミサ:ルミ、これを見て : ルミ(M):ミサが見せたのは、20年前にミサが描いた絵だった : ルミ:花火の時の絵? : ミサ:そう、よく見て : ルミ(M):絵では、私とミサとサエの三人が手を繋いでいた ルミ(M):そして、山と花火と海と、海に写る花火が描かれていた : ルミ:懐かしいわね ルミ:これ、花火を見ている時の絵でしょ? : ミサ:そう、私達三人が描かれてるよね? : ルミ:そうね、それがどうしたの? : ミサ:これを見て : ルミ:ん? アルバム? : ミサ:そう、よく見て : ルミ:よく見てって・・ : ルミ(M):私はミサに言われて、アルバムを注意深く見た ルミ(M):アルバムには、ミサと二人で写った写真は沢山あったが、サエが写ったものは無かった : ルミ:あれ? サエが写った写真がないわね : ミサ:不思議だと思わない? ミサ:私達って小学生の頃、ずっと一緒に遊んでたよね : ルミ:そうよ、三人でいつも一緒だった : ミサ:じゃぁ、サエが写った写真がないのって不思議だと思わない : ルミ:偶然とか : ミサ:ルミ、私達って、ここに20年ぶりの花火を見る為に帰って来たのよね? : ルミ:そうよ、当たり前じゃない : ミサ:本当に? : ルミ:本当にってどういう事? ミサは違うの? : ミサ:私もそう : ルミ:だったら : ミサ:でも、私達って、花火の事を詳しく覚えてないじゃない : ルミ:そういえば、そうね : ミサ:20年よ、20年もの間、私達って「よく覚えてもいない花火」の事を楽しみにしてたの? : ルミ:うーん、何となく「凄かったなー」っていうぼんやりした記憶で : ミサ:それで20年も? : ルミ:うーん : ミサ:私ね、今日のお祭りには、絶対に来たかったのよ、絶対に来なきゃいけないって、ずっと思ってたの : ルミ:私も、絶対に来なきゃって思ってた : ミサ:私ね、花火よりも、もっと何か大切な事がある気がするの ミサ:絶対に思い出さなきゃいけない、絶対に忘れてはいけない何かが : ルミ:そう言われれば、私もそんな気がする : ミサ:それが何なのか、サエは知っている気がするの : ルミ:そっか : ミサ:とにかくサエを探しましょう : : ミサ(M):こうして、私達はサエにあって真相を確かめる事にした : ルミ:ミサ、さっきからサエに連絡してるんだけど、出ないのよ : ミサ:じゃぁ、とりあえずサエの家に行ってみましょう。 ミサ:サエの家族なら何か知っているかもしれないし : ルミ:そうね : : ミサ(M):そして、私達はサエの家に行くことにした : ルミ:酒屋の裏ってこの辺りだよね ルミ:昔、よくサエの家に遊びに行ったけど、昔の事だから記憶が曖昧で・・・ : ミサ:ルミ、酒屋の裏って確か・・・・ : : ルミ:あれ? 神社・・・ : ミサ(M):私達の記憶にある、サエの家が建っているはずの場所には、古い神社があった : ルミ:おかしいなぁ、確かこの辺りだったと思ったんだけど : ミサ(M):私はその神社を見た時、私の記憶の中の歯車が少しだけ動いたような気がした ミサ(M):でも、肝心の何かがどうしても思い出せない ミサ(M):何か大切なものが、黒い霧の中に隠されているような感覚だった ミサ(M):その時 : ルミ:あれ、この狛犬、面白いね : ミサ:ルミ、何を呑気な事を言ってるのよ、今はそれどころじゃないでしょ : ルミ:だってさ、狛犬って普通、正面を見てるか、お互いを見てるでしょ? ルミ:この子達、全然違う所を見てるからさ・・・ : ミサ:そんな事、今はどうでも・・・・ : ミサ(M):ルミのいうように、狛犬は確かにおかしな方向を向いていた ミサ(M):かなり古い狛犬のようだから、そういうものもあるのかと思ったが : ルミ:この子達、何か見つめているような顔しているけど、何見てるのかな? : ミサ:え? : ミサ(M):ルミの言うよに、確かに狛犬は何かを見つめているようだった ミサ(M):そして、その目線の先は、切り立った山の中腹だった : ミサ:あの山・・・ : ルミ:ミサどうしたの? : ミサ:狛犬が見ているあの山ってさ、まだ、探してないよね : ルミ:だって、あそこは木も鬱蒼(うっそう)と茂っていて、昔から建物なんて何もないし、足場も悪いから危険だよって言われたじゃない : ミサ:でもさ、あそこなら海が見下ろせる高台になるでしょ? : ルミ:あ、確かにそうだね : ミサ:行ってみようよ : ルミ:そうだね、もう6時も過ぎちゃったし、他に探す所もなさそうだし、行ってみるしかないよね : ミサ(M):そして、私達は狛犬の見つめる山の中腹を目指した ミサ(M):しかし、山は、道もなく、坂も急で、足場も悪かった、 ミサ(M):私は記憶の中の霧が少し晴れていくような感じはしていたが、子供がここを登るのは、少々無理があるようにも思えた ミサ(M):やはり違ったのだろうか・・・と思い始めた、そんな時 : ルミ:私さ、ここに来た事があるような気がする ルミ:この道もさ、三人で登ったような気がしてるの、その時はもっと楽に登ってたと思うんだけど・・・ : ミサ:ルミ・・・ : ルミ:なんか少しづつ霧が晴れていくような感じするの ルミ:だから、ここだよきっと : ミサ:うん、私もそう思う : ミサ(M):ルミも同じ感じがしてたんだ・・・ ミサ(M):そして、ルミの言葉が私の背中を押してくれた気がして、凄く嬉しかった・・・ : ルミ:でも、もう体力の限界かも・・・ : ミサ:少し休憩する? : ルミ:いや、もう時間もないしさ、もしサエがこの先で待ってるなら、早く会いたいじゃない : ミサ:そうね、じゃぁ頑張ろう : ミサ(M):私も、正直もう体力は限界だったが、ルミの言葉に励まされて、何とか進んでいた : ミサ(M):木が鬱蒼(うっそう)と茂る山道は、ただでさえ薄暗い ミサ(M):それが夕日の落ちかけた夕方ともなると、一層暗くなる ミサ(M):これ以上暗くなると、足元も見えなくなると思い始めていた、その時 : サエ:ルミ、ミサ・・・ : ミサ(M):サエの呼ぶ声がした : ルミ:サエ! いた! : ミサ:サエ : ミサ(M):もう少し坂を登った先で、サエが私達を見つめていた ミサ(M):私とルミが、サエを見つけた瞬間、私の中で、全ての記憶が蘇(よみがえ)った ミサ(M):まるで霧が晴れていくように ミサ(M):20年前の花火の日に何があったのか・・・ ミサ(M):おそらくルミも同じだろう : サエ:二人とも、よくここまで来てくれたわね : : ルミ:当たり前でしょ、約束したじゃない、20年後の花火の日にもう一度会いに来るって ルミ:どんな事があっても、絶対に来るって。 : ミサ:そうよ、私も絶対に来なきゃって思ってたわ : サエ:でも20年よ、あの時二人は9歳だったし、この町を離れると記憶はどんどん薄れていくから サエ:もう二度と二人には会えないって思ってた : ルミ:サエ : サエ:昨日、駅で二人を見つけた時は、本当に涙が出そうになったわ サエ:二人が約束を守ってくれて、本当にうれしかった : ミサ:サエ : サエ:でも、この場所は教えられないし、ここに来れるかどうか不安だったの サエ:二人とも、ありがとう : ルミ:でさ、サエ、あの時「次に会った時に話す」って言ってた、あなたの事だけど、 ルミ:あなたは、どうしてここにいるの? : サエ:そうね、話さなきゃね : サエ:私は260年ほど前に、ここに祀(まつ)られた人柱の巫女(みこ)なの サエ:そして、二人の後ろにあるのが、私を祀っている祠(ほこら)なの : ミサ:260年前の人柱・・・ : ルミ:祠って、もうボロボロで、木に飲み込まれそうじゃない : サエ:ええ、そうなの : ルミ:でも、人柱って言ったら、キチンと代々供養して貰えるんじゃないの? : サエ:実は、当時ここを収めていたお殿様が、人柱を禁止していたの サエ:でも、どうしても海が荒れて、毎年何人もの漁師が命を落とすから、お殿様に内緒で人柱の儀式を行ったの サエ:その時に巫女に選ばれたのが、9歳の私 : ルミ:サエ、9歳だったんだ : サエ:うん サエ:その時は、海の見えるこの高台が一番見晴らしのいい所だったから サエ:ここに、小さいけど丁寧に祠を作って貰えたのよ : ミサ:でも、今は : サエ:仕方がないのよ サエ:祠は、お殿様に知られないように、小さくひっそり建てたし サエ:神社にも、人柱の記録を一切残さなかったから サエ:だから、次第にこの祠は、人の記憶から消えていったの : ルミ:そうだったんだ : サエ:当時の村の人達は、私を忘れないようにって20年に一度、大きな祭りを開いてくれるようになったの サエ:私ね、そのお祭りの間だけ、人の姿になれるのよ : ミサ:そうだったの、だから、私達とも一緒に居られたのね : サエ:でもね、この祠の事が段々人の記憶から消えていくと、私を「お化け」だっていう人もいて、次第に人が来なくなってしまって : ルミ:折角、人の姿になれるのに、それって、さみしいね : サエ:うん、私ずっと寂しかった サエ:だから、20年前、あなた達が、二日間だけでも私と友達になってくれて、とっても嬉しかった サエ:そして、20年経った今も、こうして会いに来てくれるなんて : ミサ:そんなの当たり前じゃない、サエは命の恩人なんだし : ルミ:そうよ、ちゃんと思い出しわ : ルミ:祭りの初日に、ミサが足を踏み外して、海に落ちちゃって ルミ:それを助けようとした、私も溺れちゃって : ミサ:そこにサエが来て、海に飛び込んで助けてくれたのよね。 : サエ:うん : ルミ:それから、祭りの間中、一緒に遊んだのよね : サエ:うん、本当に楽しかった サエ:でも、私の事を怖がられたくなかったから、嘘をついていたの サエ:私の事は、昔からずっと一緒に遊んでいた、幼馴染だって思ってもらってたの サエ:ルミやミサのお父さんや、お母さんや、街の人にも・・・ごめんなさい : ルミ:そんな嘘をつかなくたって、私達にとってサエは、サエ ルミ:幼い頃からずっと一緒に遊んでたサエなのよ : サエ:ありがとう : ミサ:サエ、あなたはこれからも、ずっと私達の友達のサエだよ : サエ:うん : サエ(M):その時、空を染める七色の花火が上がり始めた : ルミ:あ、花火 : ミサ:綺麗 : ルミ:うん、間違いないよ、私達この景色を見てたんだよ : ミサ:うん : ルミ(M):高い空に星が輝き、低い空に花火が輝く ルミ(M):見下ろす真っ黒な海には、花火が反射して、波の形に揺れている : ミサ(M):花火の光が、山肌を照らし ミサ(M):私とルミの顔も照らす : サエ(M):花火を見ながら、二人が私の手を握ってくれた、20年前と全く同じように サエ(M):まぎれもなく、ここには20年前の三人の少女がいた : ルミ:私、次の花火の時も絶対に来るからね ルミ:20年後も絶対 : サエ(M):花火を見ながらルミは言った : サエ:20年後って、二人はもう49歳よ : ミサ:それでも、絶対にくるよ ミサ:例え結婚して、子供が出来てたとしても、絶対に私は来るよ : ルミ:20年後、もう一度会えるんだよね ルミ:私達がここに来れば : サエ:ええ、会えるわ : ミサ:それなら大丈夫 : ルミ:そりゃ、私たちは愛情よりも友情派だからね : ミサ:そうかなぁ : ルミ:ミサひどーい : サエ:ふふふ : ルミ:ははは ミサ:ははは : ルミ(M):そして20年の時を超えた、永遠とも思える三人の時間が過ぎていった : ミサ(M):20年後のこの時間を、もう一度心に誓いながら : 完