台本概要

 309 views 

タイトル 命の在処
作者名 白玉あずき  (@srtm_azk01)
ジャンル ホラー
演者人数 2人用台本(男2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 シリアスホラー。
演者の性別は不問。

 309 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
青年 21 青年(M)含む。 視える人。 二十代半ば。落ち着いた雰囲気。
28 男(M)含む。 チャラい感じ。 二十代前半。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:命の在処~いのちの ありか~ 0: 青年:よく、もてますね 男(M):前触れもなく、その男は言った。照りつける陽光の下、全身を黒一色に包んで。 男(M):黒いスーツに黒いネクタイ、髪も真っ黒。だが長い前髪の影に隠れるように見える瞳は赤茶がかっていて、シャツだけが眩しい程に白い。 男:なんすか、あんた 男(M):俺は思ったままを声に出した。 男(M):こんな都会の駅前広場で、多種多様の人間達が、よくわからんが目立つ銅像を目印に待ち合わせしている中。それでもその男だけは異質に見えたからだ。 男(M):一見すれば、ただの会社員か、葬儀の帰りって感じだが、何かが違う。何より、何で俺に声を掛けてきたのかが一番解らねぇ。 青年:ああ、失礼。自分はここで人待ちをしているのですが、中々相手が来なくて暇を持て余していた所、辺りを見渡していたら、先程からあなたの所が賑やかな事に気付きまして… 男(M):そこまで言われて、男が何を言おうとしてるのかが解った。俺はここに来てから、何度か逆ナンされている。 男(M):おれにとっては珍しい事ではないが、この女に無縁そうな野郎には、羨ましい光景だったらしい。 男:あ~、俺目立ってたか?悪ぃな、いつもの事なんで気にしないでくれ 男(M):ほんの少しの嫌味を込めて言ってやる。モテなくて可哀想な奴だと。 青年:そうなんですね。ですがどんな事も、節操を持って楽しまないと…それ以上はもてなくなるでしょうから 男(M):男は穏やかに笑いながら言った。何だそれ、俺の嫌味への当てつけのつもりか?アホくせぇ。 男:あっそ。まぁ気ぃつけるよ 男(M):あんまりにもつまんねぇ反応だったから、軽くあしらう。俺って寛大。 青年:ええ。是非とも、そうして下さい。では自分はこれで 男(M):男はそう言うと、ゆっくりと踵を返して駅の方に向かった。その目は最後に、俺ではなく、俺の背後を見ていた…。 0: 青年(M):困ったものだ。呼ばれて来てみたら、あそこまで沢山いるとは…。あれで何も気付いていないのだから、慣れとは怖い。 青年(M):…さて、どうしたものか。彼がどうなろうと、それは自業自得で仕方なしと思えるが、それでは『あの子達』があまりにも不憫だ。 青年(M):…嗚呼、まだ呼んでいる。解った。解ったよ。だから、泣かないでおくれ。 男:蒸し暑… 男(M):早朝だというのに、やたら蒸し暑い。 男(M):昨日はまぁ、良さげな女が二人釣れたから、一人は飯と短時間の快楽を共にして、時間を置いて釣れたもう一人は、さっきまでホテルで楽しくやってたんだが。 男(M):どうやらその一晩のうちに、ゲリラ豪雨でもあったらしい。外に出てみりゃ、濡れたコンクリートと肌に張り付くような蒸された空気。 男(M):ま、雨に打たれなかっただけマシっちゃあマシか。そう思い、ガラガラの電車に乗って帰路につく。三十分もすればガラリと景色は変わり、木々や民家が目立つようになった。 男(M):…ホント、つまんねぇ町。たった三十分離れただけで、こんなに差が出るもんかね。内心で悪態をつきながら家を目指す。 男(M):じめじめ。じめじめ。 男(M):肌にまで纏わり付く空気が、やけに重く感じる。照りつけ始めた太陽が、風景の輪郭を曖昧にさせていく。 男:……ハァ… 男(M):息苦しい。 男(M):歩を進めるごとに酸素が薄くなり、体が重くなっていく。歩きにくい。頭が痛てぇ。…何だこれ。 男:ハ…ハァ…… 男(M):気付けば、家の近くの舗装された橋の上にまで辿り着いていた。普段は殆ど水なんか流れていない名ばかりの川が、昨夜の豪雨の影響か、あり得ない程の激流に変わっていた。 男(M):橋には落下防止の為の金網が、自分の背丈よりも高くまで設置してある。日頃は必要ないように思えたが、なるほど、こんな事もあるのか。 男(M):流れていく水音が、濁りが、振動が、まるで俺を引き寄せているようで…。一歩、また一歩と川の底が見える位置へと、無意識に近付いていく。 男(M):蒸し暑さが思考を鈍らせる。あの中の水は冷たいだろうか…。もう少し、もう少しだけ覗いてみよう。 男(M):金網に手をつこうとした、その時。 男:へ…? 男(M):俺の手は、空を掴んだ。 男(M):金網があると信じていた脳は、足を大きく踏み出していて、俺は元々あった手摺りに身を乗り出す形となった。 男:あ…、うああっ…! 男(M):落ちる!そう思った時、何かが俺の体を橋へと引き寄せた。 男:でっ! 男(M):ドサリという音と共に、背中に衝撃が走る。何だ、何が起こったんだ?! 青年:その状態で水に近付くのは危険ですよ 男:!? 男(M):声のした方へと起き上がり見上げると、そこには見た事のある黒づくめの男がいた。 男:アンタ… 青年:呼び声が強くなったと思ったら…。とうとう実力行使に出てきましたね 男:は? 男(M):何、言ってんだコイツ。困惑していると、男はおもむろに俺の背に向かって手を伸ばし…。 青年:解っていないようなので、あなたにも見えるようにしてさしあげますよ 男(M):そう言って、その手が撫でるように動けば、何もなかったはずの空間に、すぅ…と何かが現れだした。 男(M):それは大きな、肉の塊のような…。 男:な!なん…っ、…う、うぇっ…! 男(M):見た瞬間、猛烈な寒気と吐き気に襲われた。 男(M):何だこれは!何だよ!男が見せた幻覚と思うには生々しくリアルすぎるモノ。 男(M):沢山の生肉を纏めて丸めたようなそれは、黒い霧のようなものを辺りに撒き散らしながら、ぬらぬらとてかり蠢(うごめ)いている。 男(M):ピンク色から赤黒い色まで、肉と内臓を混ぜ込んだようなモノからは、うっすら目のようなモノがいくつもこちらを見て、所々からは手や足のようなモノがはみ出し、その一部が俺の服を掴んでおぶさっていた 男(M):そう、俺の上に乗っているのだ。 男:ひっ…、はな、はなれろ!離れろっ!! 男(M):俺は一気にパニックに陥った。 青年:何を驚いているんですか。あなた、ずっとその子達を背負っていたじゃないですか、平気な顔して。…だから昨日言ったでしょう?『よくもてますね』と 男:知らない!俺はこんな化け物知らない!! 青年:知らない…なんて、酷い事を言うのですね。その子達は、あなたの子供じゃないですか。…ほら、先程からあなたを呼んでますよ 男:な…何言ってんだアンタ!早く!早くコレを何とかしてくれ!! 青年(M):半狂乱になっている彼には、あの子達の声は聞こえないらしい。ずっとずっと呼んでいるのに…。パパ。お父さん…と。たどたどしい幼き声で。 青年:…まぁ、無理もないですか。その子達が化け物に見えるのはね、あなたが子供を物としてしか見てないからですよ。しかもゴミとして 男:俺にガキなんて… 青年:沢山いるでしょう?色んな女性に命を宿らせて、…様々な方法で殺していった子供達が 青年(M):それを聞くと、彼はあからさまに動揺して目を泳がせた。 男:お…、俺は悪くないっ。勝手に妊娠したあいつらのせいだ!! 青年「M」:背後の『子供』から逃げようと、懸命に地面を這いながら彼は喚く。 青年:随分勝手な事を言う。一度目、二度目と繰り返すうちに、どうやら命を軽んじるようになったようだ。出来たら殺せばいい…と 男:俺じゃない!殺したのは女の方だろ!最初から遊びで付き合ってたんだからな! 青年:それはあなたのエゴでしょう?中にはあなたと本気でお付き合いしていた方もいたでしょうに。それを簡単に裏切り、殺させて捨てた。…いや、それだけじゃない。その中には、『母親自身』もいるようですね… 男:な、なに…を… 青年(M):俺の言葉に、彼が怖々と振り向けば、ドチャリと音がして大人の細い腕が縋るように彼の服を掴んだ。 男:うわぁあああああっ!! 青年(M):恐怖で叫ぶ男は、あまりにも無様で、こんな男に沢山の命が散らされたのかと思うと、憤りさえ感じてしまう。 青年(M):…だが、それでも。あの子達は求めているのだ、女性も。…父親を。 青年:話を聞いて下さい。あなたは多くの大罪を犯した。子供達も女性も、あなたを求めるがために、これからはもっとあなたを死の世界へと誘い込もうとするでしょう。悪霊となって、誰も手がつけられぬ形となって 男:あ、お…お祓い、は…? 青年:その方々を負の存在にしているのはあなただ。正しい供養を行って下さい。くれぐれも、途中で投げ出したり、不誠実な行いをなさらないように 男:供養って…!! 青年:それがあなたの責任です!!あなたのその不誠実さが沢山の命を奪った…。中には恨みを持つ魂もあるでしょう。でなければ、こんな歪な形であなたに憑いたりはしない! 青年(M):初めて怒気を現にした俺に、男は怯む。これでも我慢していた方なんだがな…。 男:ア、アンタじゃ…出来ないのか…? 青年(M):その言葉に、ふと自嘲がもれる。 青年:…俺には視る事、聞く事、ほんの少し触れる事しか出来ないですよ。…何より、原因は俺ではないので 男(M):そう言う男の目は、塊の出す黒い霧の中でもはっきりと解る程底光りしていた。まるで血のような色の瞳で…。 男(M):これはヒトの目じゃない、逆らっては駄目だ!…そう直感する。 男:…っ、ぐ…ぅ、解った…よ。俺は…どうすればいいんだ?…供養なんて、やった事ねぇんだ、どうすればいいかなんて、何一つ解らねぇ… 男(M):やれと言われても、そんな知識は一つも持っちゃいない事にうな垂れる。そうすると男は俺に近付き手を取ると、何かを握らせた。 青年:これを肌身離さず持っていて下さい。今のあなたは何処に行っても引きずり込まれて行ってしまうでしょう。これは、それらの事から身を守るものです。 青年:……ですが、効果があるのは約一日と短い。その間に、ここから下り三駅行った所にある、水子寺に行き、供養してあげて下さい。必ず 男(M):真剣な目と声で俺に伝えると、男は俺から手を離した。手のひらには、白い小さなお守りらしき物が握らされていた。 男:…わかった… 男(M):俺がそれを了承すると、徐々に黒い霧が晴れていき、背に乗っていた不気味な塊が姿を消していった…。 男:…き、消えた…? 男(M):俺が安堵の息を吐こうとすると、すかさず男が口を挟んできた。 青年:消えてませんよ。見えなくなっただけです。今もあなたに縋り付いたままです 男(M):その言葉に息を呑む。霧が無くなった事で、思い出したように照りだした陽光に全身が焼かれていく。 男(M):じりじり。 男(M):じりじり…。 男(M):男は立ち上がると、もう用はないとでもいうように歩き出した。突然置いて行かれる恐怖に、俺は思わず叫んでいた。 男:ちょっ、…ま、待ってくれ! 男(M):だが男は振り返ると、冷たい声音で言葉を放つ。 青年:命の灯火(ともしび)を消したくないのなら、早急に寺へ向かいなさい。俺自身は、きみがどうなっても構わないのだから 男(M):恐らく初めての本音であろう男の言葉に、俺は一瞬凍てつき…そして、恐ろしさに汗を噴き出し、足をもつらせながら駅へと駆け出していた。 0: 青年(M):駆けていく足音に、心が凪いでいく…。 青年(M):あの男の言動が、とても苛立たしかった。遊びだと割り切っていたのは、確かに相手側にも居ただろう。 青年(M):だが、それでも…居たのだ、中には。本気で男を愛した女性が。 青年(M):そして、死んだのも。子と一緒に…。 青年(M):願わくば、どうか成仏してほしい。生まれ変わって、幸せになって欲しい。 青年:俺にあるのは…魂ごと、消してしまう力だけだから…

0:命の在処~いのちの ありか~ 0: 青年:よく、もてますね 男(M):前触れもなく、その男は言った。照りつける陽光の下、全身を黒一色に包んで。 男(M):黒いスーツに黒いネクタイ、髪も真っ黒。だが長い前髪の影に隠れるように見える瞳は赤茶がかっていて、シャツだけが眩しい程に白い。 男:なんすか、あんた 男(M):俺は思ったままを声に出した。 男(M):こんな都会の駅前広場で、多種多様の人間達が、よくわからんが目立つ銅像を目印に待ち合わせしている中。それでもその男だけは異質に見えたからだ。 男(M):一見すれば、ただの会社員か、葬儀の帰りって感じだが、何かが違う。何より、何で俺に声を掛けてきたのかが一番解らねぇ。 青年:ああ、失礼。自分はここで人待ちをしているのですが、中々相手が来なくて暇を持て余していた所、辺りを見渡していたら、先程からあなたの所が賑やかな事に気付きまして… 男(M):そこまで言われて、男が何を言おうとしてるのかが解った。俺はここに来てから、何度か逆ナンされている。 男(M):おれにとっては珍しい事ではないが、この女に無縁そうな野郎には、羨ましい光景だったらしい。 男:あ~、俺目立ってたか?悪ぃな、いつもの事なんで気にしないでくれ 男(M):ほんの少しの嫌味を込めて言ってやる。モテなくて可哀想な奴だと。 青年:そうなんですね。ですがどんな事も、節操を持って楽しまないと…それ以上はもてなくなるでしょうから 男(M):男は穏やかに笑いながら言った。何だそれ、俺の嫌味への当てつけのつもりか?アホくせぇ。 男:あっそ。まぁ気ぃつけるよ 男(M):あんまりにもつまんねぇ反応だったから、軽くあしらう。俺って寛大。 青年:ええ。是非とも、そうして下さい。では自分はこれで 男(M):男はそう言うと、ゆっくりと踵を返して駅の方に向かった。その目は最後に、俺ではなく、俺の背後を見ていた…。 0: 青年(M):困ったものだ。呼ばれて来てみたら、あそこまで沢山いるとは…。あれで何も気付いていないのだから、慣れとは怖い。 青年(M):…さて、どうしたものか。彼がどうなろうと、それは自業自得で仕方なしと思えるが、それでは『あの子達』があまりにも不憫だ。 青年(M):…嗚呼、まだ呼んでいる。解った。解ったよ。だから、泣かないでおくれ。 男:蒸し暑… 男(M):早朝だというのに、やたら蒸し暑い。 男(M):昨日はまぁ、良さげな女が二人釣れたから、一人は飯と短時間の快楽を共にして、時間を置いて釣れたもう一人は、さっきまでホテルで楽しくやってたんだが。 男(M):どうやらその一晩のうちに、ゲリラ豪雨でもあったらしい。外に出てみりゃ、濡れたコンクリートと肌に張り付くような蒸された空気。 男(M):ま、雨に打たれなかっただけマシっちゃあマシか。そう思い、ガラガラの電車に乗って帰路につく。三十分もすればガラリと景色は変わり、木々や民家が目立つようになった。 男(M):…ホント、つまんねぇ町。たった三十分離れただけで、こんなに差が出るもんかね。内心で悪態をつきながら家を目指す。 男(M):じめじめ。じめじめ。 男(M):肌にまで纏わり付く空気が、やけに重く感じる。照りつけ始めた太陽が、風景の輪郭を曖昧にさせていく。 男:……ハァ… 男(M):息苦しい。 男(M):歩を進めるごとに酸素が薄くなり、体が重くなっていく。歩きにくい。頭が痛てぇ。…何だこれ。 男:ハ…ハァ…… 男(M):気付けば、家の近くの舗装された橋の上にまで辿り着いていた。普段は殆ど水なんか流れていない名ばかりの川が、昨夜の豪雨の影響か、あり得ない程の激流に変わっていた。 男(M):橋には落下防止の為の金網が、自分の背丈よりも高くまで設置してある。日頃は必要ないように思えたが、なるほど、こんな事もあるのか。 男(M):流れていく水音が、濁りが、振動が、まるで俺を引き寄せているようで…。一歩、また一歩と川の底が見える位置へと、無意識に近付いていく。 男(M):蒸し暑さが思考を鈍らせる。あの中の水は冷たいだろうか…。もう少し、もう少しだけ覗いてみよう。 男(M):金網に手をつこうとした、その時。 男:へ…? 男(M):俺の手は、空を掴んだ。 男(M):金網があると信じていた脳は、足を大きく踏み出していて、俺は元々あった手摺りに身を乗り出す形となった。 男:あ…、うああっ…! 男(M):落ちる!そう思った時、何かが俺の体を橋へと引き寄せた。 男:でっ! 男(M):ドサリという音と共に、背中に衝撃が走る。何だ、何が起こったんだ?! 青年:その状態で水に近付くのは危険ですよ 男:!? 男(M):声のした方へと起き上がり見上げると、そこには見た事のある黒づくめの男がいた。 男:アンタ… 青年:呼び声が強くなったと思ったら…。とうとう実力行使に出てきましたね 男:は? 男(M):何、言ってんだコイツ。困惑していると、男はおもむろに俺の背に向かって手を伸ばし…。 青年:解っていないようなので、あなたにも見えるようにしてさしあげますよ 男(M):そう言って、その手が撫でるように動けば、何もなかったはずの空間に、すぅ…と何かが現れだした。 男(M):それは大きな、肉の塊のような…。 男:な!なん…っ、…う、うぇっ…! 男(M):見た瞬間、猛烈な寒気と吐き気に襲われた。 男(M):何だこれは!何だよ!男が見せた幻覚と思うには生々しくリアルすぎるモノ。 男(M):沢山の生肉を纏めて丸めたようなそれは、黒い霧のようなものを辺りに撒き散らしながら、ぬらぬらとてかり蠢(うごめ)いている。 男(M):ピンク色から赤黒い色まで、肉と内臓を混ぜ込んだようなモノからは、うっすら目のようなモノがいくつもこちらを見て、所々からは手や足のようなモノがはみ出し、その一部が俺の服を掴んでおぶさっていた 男(M):そう、俺の上に乗っているのだ。 男:ひっ…、はな、はなれろ!離れろっ!! 男(M):俺は一気にパニックに陥った。 青年:何を驚いているんですか。あなた、ずっとその子達を背負っていたじゃないですか、平気な顔して。…だから昨日言ったでしょう?『よくもてますね』と 男:知らない!俺はこんな化け物知らない!! 青年:知らない…なんて、酷い事を言うのですね。その子達は、あなたの子供じゃないですか。…ほら、先程からあなたを呼んでますよ 男:な…何言ってんだアンタ!早く!早くコレを何とかしてくれ!! 青年(M):半狂乱になっている彼には、あの子達の声は聞こえないらしい。ずっとずっと呼んでいるのに…。パパ。お父さん…と。たどたどしい幼き声で。 青年:…まぁ、無理もないですか。その子達が化け物に見えるのはね、あなたが子供を物としてしか見てないからですよ。しかもゴミとして 男:俺にガキなんて… 青年:沢山いるでしょう?色んな女性に命を宿らせて、…様々な方法で殺していった子供達が 青年(M):それを聞くと、彼はあからさまに動揺して目を泳がせた。 男:お…、俺は悪くないっ。勝手に妊娠したあいつらのせいだ!! 青年「M」:背後の『子供』から逃げようと、懸命に地面を這いながら彼は喚く。 青年:随分勝手な事を言う。一度目、二度目と繰り返すうちに、どうやら命を軽んじるようになったようだ。出来たら殺せばいい…と 男:俺じゃない!殺したのは女の方だろ!最初から遊びで付き合ってたんだからな! 青年:それはあなたのエゴでしょう?中にはあなたと本気でお付き合いしていた方もいたでしょうに。それを簡単に裏切り、殺させて捨てた。…いや、それだけじゃない。その中には、『母親自身』もいるようですね… 男:な、なに…を… 青年(M):俺の言葉に、彼が怖々と振り向けば、ドチャリと音がして大人の細い腕が縋るように彼の服を掴んだ。 男:うわぁあああああっ!! 青年(M):恐怖で叫ぶ男は、あまりにも無様で、こんな男に沢山の命が散らされたのかと思うと、憤りさえ感じてしまう。 青年(M):…だが、それでも。あの子達は求めているのだ、女性も。…父親を。 青年:話を聞いて下さい。あなたは多くの大罪を犯した。子供達も女性も、あなたを求めるがために、これからはもっとあなたを死の世界へと誘い込もうとするでしょう。悪霊となって、誰も手がつけられぬ形となって 男:あ、お…お祓い、は…? 青年:その方々を負の存在にしているのはあなただ。正しい供養を行って下さい。くれぐれも、途中で投げ出したり、不誠実な行いをなさらないように 男:供養って…!! 青年:それがあなたの責任です!!あなたのその不誠実さが沢山の命を奪った…。中には恨みを持つ魂もあるでしょう。でなければ、こんな歪な形であなたに憑いたりはしない! 青年(M):初めて怒気を現にした俺に、男は怯む。これでも我慢していた方なんだがな…。 男:ア、アンタじゃ…出来ないのか…? 青年(M):その言葉に、ふと自嘲がもれる。 青年:…俺には視る事、聞く事、ほんの少し触れる事しか出来ないですよ。…何より、原因は俺ではないので 男(M):そう言う男の目は、塊の出す黒い霧の中でもはっきりと解る程底光りしていた。まるで血のような色の瞳で…。 男(M):これはヒトの目じゃない、逆らっては駄目だ!…そう直感する。 男:…っ、ぐ…ぅ、解った…よ。俺は…どうすればいいんだ?…供養なんて、やった事ねぇんだ、どうすればいいかなんて、何一つ解らねぇ… 男(M):やれと言われても、そんな知識は一つも持っちゃいない事にうな垂れる。そうすると男は俺に近付き手を取ると、何かを握らせた。 青年:これを肌身離さず持っていて下さい。今のあなたは何処に行っても引きずり込まれて行ってしまうでしょう。これは、それらの事から身を守るものです。 青年:……ですが、効果があるのは約一日と短い。その間に、ここから下り三駅行った所にある、水子寺に行き、供養してあげて下さい。必ず 男(M):真剣な目と声で俺に伝えると、男は俺から手を離した。手のひらには、白い小さなお守りらしき物が握らされていた。 男:…わかった… 男(M):俺がそれを了承すると、徐々に黒い霧が晴れていき、背に乗っていた不気味な塊が姿を消していった…。 男:…き、消えた…? 男(M):俺が安堵の息を吐こうとすると、すかさず男が口を挟んできた。 青年:消えてませんよ。見えなくなっただけです。今もあなたに縋り付いたままです 男(M):その言葉に息を呑む。霧が無くなった事で、思い出したように照りだした陽光に全身が焼かれていく。 男(M):じりじり。 男(M):じりじり…。 男(M):男は立ち上がると、もう用はないとでもいうように歩き出した。突然置いて行かれる恐怖に、俺は思わず叫んでいた。 男:ちょっ、…ま、待ってくれ! 男(M):だが男は振り返ると、冷たい声音で言葉を放つ。 青年:命の灯火(ともしび)を消したくないのなら、早急に寺へ向かいなさい。俺自身は、きみがどうなっても構わないのだから 男(M):恐らく初めての本音であろう男の言葉に、俺は一瞬凍てつき…そして、恐ろしさに汗を噴き出し、足をもつらせながら駅へと駆け出していた。 0: 青年(M):駆けていく足音に、心が凪いでいく…。 青年(M):あの男の言動が、とても苛立たしかった。遊びだと割り切っていたのは、確かに相手側にも居ただろう。 青年(M):だが、それでも…居たのだ、中には。本気で男を愛した女性が。 青年(M):そして、死んだのも。子と一緒に…。 青年(M):願わくば、どうか成仏してほしい。生まれ変わって、幸せになって欲しい。 青年:俺にあるのは…魂ごと、消してしまう力だけだから…