台本概要

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タイトル 桜舞い散りし時
作者名 白玉あずき  (@srtm_azk01)
ジャンル ホラー
演者人数 2人用台本(男1、女1) ※兼役あり
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 しっとり系ホラー。
演者の性別は不問。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
青年 3 青年(N)含む。男と兼ね役。視える人。 落ち着いた雰囲気。二十代半ば。
8 女(N)含む。大人の美しい女性。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
青年(N):女が一人立っている。大きな枝垂れ桜(しだれざくら)の木の下。月影に照らされ、妖しく光を放つ花にも劣らぬ、艶(あで)やかな夜桜をちりばめた着物を身に纏い、美しい女が一人立っている。 青年(N):顔は正面を見据え、遥か彼方、見つめる先にあるのは、唯々(ただただ)闇ばかり。その闇と同じ色の長く美しい髪を無造作に風に流しながら、憂いを帯びた瞳は、闇の中の何を見ているのだろうか。 0: 女(N):そこに、男が一人近付いて来た。女とは違う、こちらは真の闇とでも呼ぶべきだろうか、そんな色の髪をした、二十代半ばの青年。 女(N):白と黒のみに彩られた衣は、まるで喪服のようだ。青年は女に問うた。 青年:人待ちですか? 青年(N):かけられた声に、女が振り向き答える。 女:もう随分と長いこと待っているの。 青年(N):答えるその声もまた美しく、人気のない、がらんどうの夜道に何処まで響いていくようだった。青年は女の傍らに立つと、彼女の見つめていた先を同じように見つめる。 女(N):瞳に映るは月の光すら吸い込む程の、闇、闇、闇。それとも今ここにいる二人には、何か別の物が見えているのだろうか。 0: 青年(N):そこへ女が口を開いた。 女:…あの人、もう此処へは来ないのかもしれない。 青年(N):言葉とは裏腹に、彼女の表情は穏やかに笑みを湛えている。時折吹く静かな風に、その盛りを終え始めた花は、はらり、はらりと、花びらを二人の頭上へと舞い散らせる。 0: 女:あの時も花びらが舞っていたわね。 青年(N):女がぽそりと呟く。呟いてからは溢れる水のように、その口からは言葉が零れ始めた。 青年(N):青年は嫌な顔一つせずに黙って聞いている。慈愛に満ちた緋色(ひいろ)の瞳で花びらの雪を見つめながら…。 0: 女:昔、愛し合う男と女がいたの。どのくらい昔かって言うと…そうね、目の前のこの灰色の道が、まだ綺麗な川だった頃。 女:私は大きな料亭で男達にお酌をして、彼はそこの跡取り息子だったわ。 女:そんな二人が恋に落ちる。ふふ、よくある話でしょう? 女:切っ掛けなんて、他愛のない事。ほんの少し、私の袖が客の零した酒に濡れていたのを、彼が気に掛けてしまっただけ…。 女:それを知った回りの人間は、勿論反対したわ。 女:何故って?彼には許嫁(いいなずけ)がいたのよ。これもよくある話よね許されない恋ってやつかしら。 女:でもその時の二人には、そんなもの関係なかった。お互いがいれば、それだけで良かったの。 女:…でもね、あの人は結婚してしまった。件(くだん)の許嫁と。 女:…資産家の娘だったのよ。その時、お店の経営が傾きかけていたらしいの。本当、三文小説並によくある話だわ。 女:あの人私に言った。舞い散る花びらの中。 0: 男:僕の愛している人は君だけだ。今は親の顔を立て、店の皆(みな)の為にも結婚するが、いつか必ず君を迎えに行く。 0: 女:馬鹿で勝手な話だと思ったわ。だけどその時の私はそれを信じていた。いつか必ず彼が迎えに来る。二人がいつも逢瀬を繰り返していた、この枝垂れ桜の木の下で。 女:私、待っていた。 女:何年も。何年も…。 女:私の体がなくなってしまっても。 0: 女:待っていたの 0: 女(N):花が降る。 女(N):はらり、はらり。舞台の終わりを告げる紙吹雪のように。 女:私、そろそろいくわ 青年(N):女が振り向く。 女:あの人はとうとう来なかったけれど、最後に貴方のような人に逢えて良かった。 青年(N):ふわりと微笑む女の顔はとても美しく、だけども何処か寂しげで…。青年は暫く何かを思案していたが、ふと何かに気付いたようで、柔らかな声音で女に言った。 青年:貴女がいく前に、一つお願いがあります。いえ難しい事ではありません。俺の姿が見えなくなるまで、どうか見送って頂けませんか。 青年:手を振る必要はありません。ただ、見送るだけでいい。貴女のような美しい人に見送られてみたいのです。俺、そんな経験一度もないんで 女(N):はにかみながら言う青年の言葉に、女は小さく頷いて。そんな事でいいのなら。花のように笑った。 0: 女(N):枝垂れ桜と女を背に残し、青年は歩く。瞳は真っ直ぐ闇の中の『何か』を捉えて。近付くにつれ、その『何か』がぼんやりと形を成してきた。 女(N):…人影だ。向こうもこちらに向かい歩いているようだ。 女(N):さらに歩みを進めて距離が近付くと、それが品の良い黒い外套(がいとう)を身に纏った老人であることが解った。 女(N):すれ違い様、軽く会釈をすると、老人もまたそれを返してそのまま枝垂れ桜の方へと歩いて行ってしまった。 0: 女(N):振り向かず、歩みながら青年は呟く。口元を綻(ほころ)ばせて。 青年:また、逢えたじゃないですか。 女(N):大きな枝垂れ桜の木の下。老人が一人立っている。「やっと迎えに来れたよ」囁きながら…。

青年(N):女が一人立っている。大きな枝垂れ桜(しだれざくら)の木の下。月影に照らされ、妖しく光を放つ花にも劣らぬ、艶(あで)やかな夜桜をちりばめた着物を身に纏い、美しい女が一人立っている。 青年(N):顔は正面を見据え、遥か彼方、見つめる先にあるのは、唯々(ただただ)闇ばかり。その闇と同じ色の長く美しい髪を無造作に風に流しながら、憂いを帯びた瞳は、闇の中の何を見ているのだろうか。 0: 女(N):そこに、男が一人近付いて来た。女とは違う、こちらは真の闇とでも呼ぶべきだろうか、そんな色の髪をした、二十代半ばの青年。 女(N):白と黒のみに彩られた衣は、まるで喪服のようだ。青年は女に問うた。 青年:人待ちですか? 青年(N):かけられた声に、女が振り向き答える。 女:もう随分と長いこと待っているの。 青年(N):答えるその声もまた美しく、人気のない、がらんどうの夜道に何処まで響いていくようだった。青年は女の傍らに立つと、彼女の見つめていた先を同じように見つめる。 女(N):瞳に映るは月の光すら吸い込む程の、闇、闇、闇。それとも今ここにいる二人には、何か別の物が見えているのだろうか。 0: 青年(N):そこへ女が口を開いた。 女:…あの人、もう此処へは来ないのかもしれない。 青年(N):言葉とは裏腹に、彼女の表情は穏やかに笑みを湛えている。時折吹く静かな風に、その盛りを終え始めた花は、はらり、はらりと、花びらを二人の頭上へと舞い散らせる。 0: 女:あの時も花びらが舞っていたわね。 青年(N):女がぽそりと呟く。呟いてからは溢れる水のように、その口からは言葉が零れ始めた。 青年(N):青年は嫌な顔一つせずに黙って聞いている。慈愛に満ちた緋色(ひいろ)の瞳で花びらの雪を見つめながら…。 0: 女:昔、愛し合う男と女がいたの。どのくらい昔かって言うと…そうね、目の前のこの灰色の道が、まだ綺麗な川だった頃。 女:私は大きな料亭で男達にお酌をして、彼はそこの跡取り息子だったわ。 女:そんな二人が恋に落ちる。ふふ、よくある話でしょう? 女:切っ掛けなんて、他愛のない事。ほんの少し、私の袖が客の零した酒に濡れていたのを、彼が気に掛けてしまっただけ…。 女:それを知った回りの人間は、勿論反対したわ。 女:何故って?彼には許嫁(いいなずけ)がいたのよ。これもよくある話よね許されない恋ってやつかしら。 女:でもその時の二人には、そんなもの関係なかった。お互いがいれば、それだけで良かったの。 女:…でもね、あの人は結婚してしまった。件(くだん)の許嫁と。 女:…資産家の娘だったのよ。その時、お店の経営が傾きかけていたらしいの。本当、三文小説並によくある話だわ。 女:あの人私に言った。舞い散る花びらの中。 0: 男:僕の愛している人は君だけだ。今は親の顔を立て、店の皆(みな)の為にも結婚するが、いつか必ず君を迎えに行く。 0: 女:馬鹿で勝手な話だと思ったわ。だけどその時の私はそれを信じていた。いつか必ず彼が迎えに来る。二人がいつも逢瀬を繰り返していた、この枝垂れ桜の木の下で。 女:私、待っていた。 女:何年も。何年も…。 女:私の体がなくなってしまっても。 0: 女:待っていたの 0: 女(N):花が降る。 女(N):はらり、はらり。舞台の終わりを告げる紙吹雪のように。 女:私、そろそろいくわ 青年(N):女が振り向く。 女:あの人はとうとう来なかったけれど、最後に貴方のような人に逢えて良かった。 青年(N):ふわりと微笑む女の顔はとても美しく、だけども何処か寂しげで…。青年は暫く何かを思案していたが、ふと何かに気付いたようで、柔らかな声音で女に言った。 青年:貴女がいく前に、一つお願いがあります。いえ難しい事ではありません。俺の姿が見えなくなるまで、どうか見送って頂けませんか。 青年:手を振る必要はありません。ただ、見送るだけでいい。貴女のような美しい人に見送られてみたいのです。俺、そんな経験一度もないんで 女(N):はにかみながら言う青年の言葉に、女は小さく頷いて。そんな事でいいのなら。花のように笑った。 0: 女(N):枝垂れ桜と女を背に残し、青年は歩く。瞳は真っ直ぐ闇の中の『何か』を捉えて。近付くにつれ、その『何か』がぼんやりと形を成してきた。 女(N):…人影だ。向こうもこちらに向かい歩いているようだ。 女(N):さらに歩みを進めて距離が近付くと、それが品の良い黒い外套(がいとう)を身に纏った老人であることが解った。 女(N):すれ違い様、軽く会釈をすると、老人もまたそれを返してそのまま枝垂れ桜の方へと歩いて行ってしまった。 0: 女(N):振り向かず、歩みながら青年は呟く。口元を綻(ほころ)ばせて。 青年:また、逢えたじゃないですか。 女(N):大きな枝垂れ桜の木の下。老人が一人立っている。「やっと迎えに来れたよ」囁きながら…。