台本概要
450 views
タイトル | 百年の恋が醒める時 |
---|---|
作者名 | akodon (@akodon1) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
長い夢から目を醒まそう。 百年の時を経て、恋をするお話です。 450 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ミキ | 女 | 133 | コールドスリープから目覚めた女性。 |
ハル | 男 | 133 | ミキの元へ足繁く通う男性。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:☆マークの付いた台詞に関しては、ほんの少しだけ誤魔化すような、もしくは戸惑うような感じで読むと、雰囲気が出ると思います。
:
ミキ:長い夢から目を醒(さ)まそう。
ミキ:百年の長い恋の夢から。
0:『百年の恋が醒める時』
ハル:「いつか、未来でまた会おう、ミキ。
ハル:俺もその時まで、一緒にそばで眠るから」
ミキ:不安げにカプセルへ横たわる私の手を握り、彼が優しく囁(ささや)いた言葉ーーー
ミキ:その言葉を胸に、私は静かに目を閉じた。
ミキ:
ミキ:眠りについた後、彼と笑い合う夢を見た。
ミキ:遠い未来で、二人で手を繋いで歩く夢を、繰り返し、繰り返し。
ミキ:
ミキ:ああ、早く・・・早く彼に会いたい。
ミキ:長い間、願って、願い続けてーーー
ハル:「・・・ミキ」
ミキ:不意に、彼の声が聞こえた。
ミキ:優しく私を呼ぶ声が。
ミキ:重い瞼(まぶた )を開けると、微笑む彼がそこに居た。
ハル:「ミキ・・・おはよう」
ミキ:そう言って、私の手を握った彼。
ミキ:その手の温もりに、視界が滲(にじ)んだ。
ミキ:
ミキ:あの日から、ちょうど百年目の朝だった。
0:(しばらくの間。ミキの病室)
ハル:「ミキ」
ミキ:「・・・ハル、今日も来てくれたんだ」
ハル:「当たり前だろ?
ハル:ほら、これ今週の分、借りてきた」
ミキ:「ありがとう。助かる」
ハル:「重いんだから気を付けろよ。
ハル:まだリハビリだって始まったばかりなんだから」
ミキ:「大丈夫、大丈夫。
ミキ:こうやって本を持つだけでも、立派なリハビリになるよ」
ハル:「それにしたって、今時わざわざそんな分厚い本、好んで読む人間はいないぞ。
ハル:新聞も雑誌も、端末使って読むのが主流なのに」
ミキ:「・・・だって、まだこの時代の端末の使い方、わからないんだもん」
ハル:「なんか・・・おばあちゃんみたいだな」
ミキ:「おばあちゃんなんて酷い!確かに昔から機械音痴ではあったけど!」
ハル:「はは、怒るなって」
ミキ:「もう!それを言うならハルだっておじいちゃんだからね」
ハル:☆「・・・あー、そうかもな。
ハル:コールドスリープ状態だったとはいえ、俺たち百年の時を経て、この時代に居るんだもんなぁ・・・」
ミキ:「そうだね。不思議な感覚。
ミキ:身体も心もそのままなのにさ。
ミキ:私たち、正確な年齢は百歳越えてるんだよ」
ハル:「すごいよな。急に長寿になった気分」
ミキ:「ね、ビックリだよね。
ミキ:ほんの少し眠っていただけだと思ったのに、目が覚めた時には世界ががらっと変わってて。
ミキ:・・・街も、人も、私が少し前まで知っていたものは、ほとんど残ってない・・・」
ハル:「ミキ、大丈夫か?」
ミキ:「・・・うん、大丈夫。平気だよ」
ハル:「顔、少し青くなってる」
ミキ:「そう?自分では受け容れたつもりなんだけど。
ミキ:まだ心が追いついてないのかな?」
ハル:「当たり前だろ。
ハル:目が覚めて、突然百年後ですよ、なんて言われて、すぐに受け容れられるヤツの方が珍しいんだから」
ミキ:「でも、ハルは私より先に目覚めて、一人でも頑張って受け容れたんでしょ?」
ハル:☆「・・・ああ、まぁな」
ミキ:「だったら、私も大丈夫だよ。
ミキ:絶対に受け容れられる。
ミキ:・・・だって、私にはハルが居てくれるんだから」
ハル:「ミキ・・・」
ミキ:「だからね、まずたくさん本を読んで、私が眠っている間、なにがあったか知るの!
ミキ:リハビリも頑張って、今の時代のこといっぱい勉強して、百年前の人間なんだって分からないぐらいになる。
ミキ:そしたら、色んなことをしよう。
ミキ:あの時は出来なかったこと、いっぱい!」
ハル:「そうか・・・そうだな」
ミキ:「なのでなので!
ミキ:まず、私に先輩として、現代生活のあれこれをご教授ください!」
ハル:「うーん、そうだなぁ・・・
ハル:じゃあ、まず簡単なところからいくと、朝の挨拶は『おはようございます』」
ミキ:「・・・ねぇ、からかってる?」
ハル:「からかってないよ。
ハル:現代生活においても、挨拶は大事だろ?」
ミキ:「もー!絶対遊んでるでしょ!」
ハル:「いいじゃん、息抜き息抜き。
ハル:・・・はい、じゃあ感謝の言葉は?」
ミキ:「『ありがとうございます』?」
ハル:「ピンポーン!大正解!」
ミキ:「ふふっ、今の時代でもクイズに正解したら、その音が鳴るの?」
ハル:「そうそう。百年前から変わらぬ由緒正しき音なのです」
ミキ:「そっかぁ、じゃあクイズ番組を見る時は、ちょっと安心だね」
ハル:「ああ、大丈夫だよ。
ハル:心配するほど何もかも変わってない。
ハル:俺だってすぐに馴染めたんだから」
ミキ:「そう言ってもらえると心強い。
ミキ:・・・ありがとうございます」
ハル:「おっ、今学んだことをすぐに応用できたな!
ハル:すごいぞ、ミキ」
ミキ:「えへへ、すごいでしょ!もっと褒めてください!
ミキ:私は褒められて伸びる子ですから!」
ハル:「よし、その調子で次は端末の使い方でも覚えてみる?」
ミキ:「うっ・・・それはまた今度で・・・」
ハル:「ははは、仕方ない。
ハル:また今度、教えてしんぜよう」
ミキ:「なによぉ・・・ハルだって昔はスマホも上手く使えないくらいの機械音痴だったじゃない。
ミキ:私より、ほんの少しだけ早く使い方覚えたからって偉そうに・・・」
ハル:☆「・・・そうだったっけ?」
ミキ:「そうですー!
ミキ:昔の機械だったら、私の方が使いこなしてたんだからね」
ハル:「はいはい、悪かったよ。
ハル:・・・さて、もうすぐリハビリの時間だろ?
ハル:先生、呼びに来たみたいだぞ?」
ミキ:「あっ、ホントだ!行ってこなきゃ。
ミキ:じゃあね、ハル!また来てね!」
ハル:「ああ、行ってらっしゃい」
0:(少し間。ミキ、病室から出ていく)
ハル:「・・・上手いこと、誤魔化せてたかな・・・」
0:(しばらくの間。回想)
ミキ:「ハル、アイス買ってきたよ!」
ハル:「ありがとう、ミキ。
ハル:あっ・・・俺、そっちの味貰っていい?」
ミキ:「いいけど・・・あっ、そっか!ハルはーーー」
0:(しばらくの間。病院の中庭にて)
ハル:「おーい、ミキー!」
ミキ:「あっ、ハル・・・わわっ(ミキ、体勢を崩す)」
ハル:「(ハル、ミキを受け止めながら)おっと!
ハル:・・・気を付けろよ。まだ松葉杖無しで歩き始めたばかりなんだから」
ミキ:「ごめんごめん。
ミキ:歩けるようになってきたら、嬉しくなっちゃって」
ハル:「だからって、怪我でもしたら大変だろ?」
ミキ:「はーい、すみません・・・」
ハル:「別に怒ってる訳じゃないって。
ハル:そういうミキの頑張り屋なところ・・・俺好きだし」
ミキ:「ひゃっ・・・」
ハル:「わっ、なんだよ!?急に力抜くなよ!」
ミキ:「だって・・・ハルがいきなり好きだなんて言うから・・・」
ハル:「なんでそれで力が抜けるんだよ」
ミキ:「ビックリしたの!
ミキ:昔はそんなこと、恥ずかしがってあんまりストレートに言ってくれなかったから!」
ハル:☆「・・・えっ・・・ああ・・・」
ミキ:「もー!ハルはこの数年で変わったね。
ミキ:この時代に慣れると、さっきみたいなこともさらっと言えるようになっちゃうんだー」
ハル:☆「・・・違うよ。本音を口に出せるようになっただけだって」
ミキ:「えーそうなの?
ミキ:もしかして、私が寝てる間にほかの人と恋愛でもしたとか?」
ハル:「そんなことないって・・・
ハル:ほら、あそこのベンチ空いてる。ちょっと座れよ」
ミキ:「うん・・・よいしょっと。
ミキ:はーっ・・・やっぱりまだまだ身体が鈍(なま)ってるよー」
ハル:「よいしょっと、って。年寄りくさい」
ミキ:「またそういうこと言う・・・」
ハル:「むくれるなっての。
ハル:はい、今日の差し入れ」
ミキ:「あっ!美味しそうなクレープ!」
ハル:「だろ?ここのクレープ屋、美味いって評判なんだよ」
ミキ:「わー!嬉しい!えーっと・・・中身は・・・」
ハル:「チョコバナナとイチゴ」
ミキ:「あっ、じゃあ私はチョコバナナにするね!」
ハル:「ははっ、即答。はい、どうぞ」
ミキ:「いただきまーす!
ミキ:・・・うーん、美味しい〜!」
ハル:「うわー、美味そうに食べるなぁ〜。
ハル:なぁ、俺にも一口ちょうだい」
ミキ:「えっ・・・?あっ・・・」
ハル:「・・・美味い!やっぱり、あの店のクレープはどれも当たりだな〜」
ミキ:「・・・」
ハル:「ん?ミキ、どうした?」
ミキ:☆「・・・ううん!なんでもない!
ミキ:クレープ、美味しいね!」
ハル:「だろ?あっ、そうだ。
ハル:退院したら今度は二人で買いに行こう。
ハル:ほかのやつも美味いからさ」
ミキ:「・・・うん」
ハル:「あれ?どうした、元気ないな」
ミキ:「そ、そんなことないよ!」
ハル:「大丈夫か?あんまり根詰めすぎるのも良くないぞ。
ハル:焦らず、ゆっくりゆっくり頑張っていこう、な?」
ミキ:☆「そうだね・・・今日はこのぐらいにしておこうかな」
ハル:「ああ、クレープ食べ終わったら部屋まで送るから、ゆっくり休めよ」
ミキ:「うん・・・あのさ、ハル」
ハル:「どうした?」
ミキ:☆「・・・あ・・・えーと・・・ごめん。
ミキ:何か言おうと思ったんだけど、忘れちゃった・・・」
ハル:「おいおい、本当に大丈夫か?
ハル:具合悪いなら、診てもらうか?」
ミキ:「平気・・・平気だよ!
ミキ:でも、ちょっとお腹いっぱいになってきちゃったから、このクレープはまた後でいただくね」
ハル:「そっか、じゃあ部屋まで一緒に・・・」
ミキ:「あっ、そういえば、これから先生とお話しなきゃいけないんだった!
ミキ:すぐそこの診察室だから、もう行くね!」
ハル:「あ、ああ、わかった・・・」
ミキ:「いつもありがとう、ハル。
ミキ:クレープご馳走様!またね!」
ハル:「おう、じゃあ、また・・・」
0:(少し間。ミキ、建物の陰に蹲る)
ミキ:「・・・大丈夫、きっと私の考えすぎだよね・・・」
0:(しばらくの間。回想)
ミキ:「ねぇ、ハルはその色が好きなの?」
ハル:「ああ、そうだな。一番好きな色かもしれない」
ミキ:「ふふ、綺麗な色だもんね、そのーーー」
0:(しばらくの間。ミキの病室)
ハル:「ミキ、入るぞ?」
ミキ:「・・・どうぞー」
ハル:「うわっ、なんだコレ?毛糸?」
ミキ:「そう、先生にお願いして用意してもらったの。
ミキ:今でも手編みのマフラーは喜ばれるって聞いて」
ハル:「けど、こんなにたくさん・・・」
ミキ:「退院するまでにお世話になった人に編んで渡そうと思ってるんだ。
ミキ:先生や、看護師さんたちに・・・」
ハル:「大変じゃないか?」
ミキ:「全然!むしろ、喜んでもらえるんならいくらでも頑張れるよ」
ハル:「はぁー・・・すごいなぁ・・・。
ハル:そういうミキの人の為に頑張れるところ、尊敬する」
ミキ:「ふふ、ありがとう。
ミキ:・・・あっ、せっかくだしハルにも作ってあげようか?」
ハル:「えっ、いいの?」
ミキ:「いいよ!
ミキ:むしろ、いつもお世話になってるんだもん。作らせてよ」
ハル:「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
ミキ:「あっ、色はどうする?ハルの好きな色、選んでよ」
ハル:「そうだなぁ・・・じゃあ、この赤にしようかな」
ミキ:☆「・・・赤にするの?」
ハル:「ああ、夕暮れの空みたいな綺麗な色だから」
ミキ:☆「・・・夕暮れの、空。
ミキ:・・・そういえば、好きだったよね」
ハル:「うん、あの夕日が沈む前の赤く染まった空を見上げるの、好きなんだ」
ミキ:☆「・・・そうだね・・・そうだったね・・・」
ハル:「手編みのマフラーかぁ、きっと温かいんだろうな。
ハル:出来上がり、楽しみにしてるよ」
ミキ:「わかった、頑張って作るからね」
ハル:「ありがとう、ミキ。
ハル:でも、本当に無理しすぎるなよ。
ハル:俺はこれからいつだって、そばに居るんだからさ」
ミキ:「・・・うん」
0:(しばらくの間。病院の入口にて)
ハル:「準備できた?」
ミキ:「大丈夫。荷物は全部持ったし、手続きも終わったよ」
ハル:「・・・よし、じゃあ行こうか。
ハル:まず、車で家まで帰って、そこから・・・」
ミキ:「あっ!あの、ハル・・・
ミキ:家に行く前に寄ってほしい場所があるんだけど・・・」
ハル:「いいけど、どこへ?」
ミキ:「あのねーーー」
0:(しばらくの間。海にて)
ハル:「・・・足元大丈夫?ミキ」
ミキ:「うん、大丈夫」
ハル:「気を付けろよ。ほら、手貸して」
ミキ:「ううん、平気。
ミキ:波打ち際まで一人で歩きたいの」
ハル:「砂浜、歩きづらいぞ?」
ミキ:「ゆっくり行くから・・・
ミキ:ね、だからお願い」
ハル:「わかった。転ぶなよ」
ミキ:「うん」
ハル:「・・・しかし、海なんて久々に来たなぁ」
ミキ:「そうだね。
ミキ:私も久々・・・っていうか、最後に来たのはコールドスリープに入る前だから、百年以上前になるんだよね・・・」
ハル:「そっか・・・そうなるよなぁ。
ハル:どう?百年前の海と比べた感想は?」
ミキ:「思ったより変わってない。
ミキ:潮の匂いも、ちょっとベタつくような風も、寄せては返す波の音も。
ミキ:相変わらず海は広いまま」
ハル:「だな。百年も経てば、もっと色々世界は変わると思ってたけど・・・
ハル:こうやって変わらないものもあるっていうのは良いな。安心する」
ミキ:「・・・」
ハル:「・・・ほら、あとちょっとで波打ち際まで・・・
ハル:ミキ?どうした?」
ミキ:「・・・変わらないものばかりじゃない」
ハル:「えっ?」
ミキ:「・・・ハル、あのね。マフラー出来上がったの。
ミキ:今、ここで渡して良いかな?」
ハル:「本当か!楽しみにしてたんだ」
ミキ:「ほら、巻いてあげる。ちょっと屈(かが)んで」
ハル:「・・・やっぱり、思った通り綺麗な色だな。
ハル:丁寧に編まれてるし、温かい。
ハル:ありがとう、ミキ・・・
ハル:(ミキにマフラーを引かれ、体勢を崩す)うわっ!?」
ミキ:「・・・右耳の後ろにある、小さな黒子(ほくろ)」
ハル:「えっ・・・?」
ミキ:「ねぇ、世界は確実に変わってたよ、ハル。
ミキ:窓の外の街並みは見たことも無い景色で、流行りの歌は全部聞き慣れない曲で、テレビに映る芸能人はみんな知らない人ばかりで。
ミキ:分かってはいたけど、私だけ置いてきぼりにされたようで、怖かった」
ハル:「・・・ミキ?」
ミキ:「覚悟はしてたよ。
ミキ:目が覚めた時、そこが私の知らない世界でも、一生懸命頑張ろうって。
ミキ:百年後の世界で、私は病気を治して、あの時出来なかったことをたくさんするんだから、って思ってた。
ミキ:・・・ハルと一緒に」
ハル:「なんだよ、改めて・・・知ってるよ。
ハル:だから、今もこうやって・・・」
ミキ:「違う、私があの時一緒に居たいと思ったのは、アナタじゃない」
ハル:「え・・・?」
ミキ:「私の知ってるハルはね。とっても機械音痴なの。
ミキ:・・・そして、チョコレートが苦手で、好きな色は夕暮れの空のような赤じゃなくて、青。
ミキ:青空を映したような、海の青」
ハル:「・・・!」
ミキ:「ねぇ、アナタは誰?
ミキ:ハルにそっくりな顔と声をしたアナタは、一体誰?」
ハル:「何言ってるんだよ・・・俺は・・・」
ミキ:「黒子は?」
ハル:「はっ・・・?」
ミキ:「ハルはね、右耳の後ろに小さな黒子があったの。
ミキ:髪で隠れて普段は誰も気付かないから、私だけが知ってる秘密みたいで嬉しかった。
ミキ:・・・でも、アナタにはそれが無い」
ハル:「・・・」
ミキ:「アナタはハルじゃない。
ミキ:私の知ってるハルじゃない・・・そうでしょ?」
ハル:「・・・俺は・・・」
ミキ:「これ以上、誤魔化さないでよ・・・」
ハル:「・・・っ」
ミキ:「アナタ、ずっと私を騙(だま)してたんでしょ?ハルのフリをして・・・
ミキ:ねぇ、私が勘違いしてる姿を見るの、楽しかった?
ミキ:騙される私は滑稽(こっけい)だった?」
ハル:「そんな風に思ったことなんて無い!」
ミキ:「じゃあ、何でずっと黙ってたの!?」
ハル:「!」
ミキ:「思ってなくても、嘘をついてたなら一緒だよ・・・。
ミキ:アナタは間違いなく、私のことを騙してたんだ・・・」
ハル:「ミキ・・・」
ミキ:「ねぇ、私の知ってるハルはどこ?
ミキ:どこに行けば会えるの?
ミキ:どこで私を待っているの?
ミキ:教えてよ・・・ねぇ・・・」
ハル:「・・・っ・・・ハルは・・・
ハル:君が探しているハルは・・・『遥人(はるひと)』は・・・」
0:(ほんの少し間)
ハル:「・・・もう、この世には居ないんだよ」
0:(少し間)
ミキ:「・・・えっ・・・?」
ハル:「ごめん・・・ずっと言い出せなくて・・・」
ミキ:「嘘・・・だって、ハルは・・・
ミキ:私と未来で暮らすため、自分もコールドスリープ状態で過ごすって・・・」
ハル:「ダメだったんだ・・・
ハル:国の法律で、病気の治療目的以外でのコールドスリープは使用禁止になって・・・
ハル:遥人は君と一緒に眠ることができなかった」
ミキ:「そんな・・・嘘・・・嘘だよ・・・」
ハル:「嘘じゃないんだ・・・
ハル:彼は君が目覚める前に亡くなった。
ハル:・・・もう二十年近く前の話だ・・・」
ミキ:「・・・っ!」
ハル:「待って!どこに行くんだ!」
ミキ:「離して!離してよ!私はハルの所へ行くの!」
ハル:「ダメだ!
ハル:こんな冷たい冬の海に入ったら、死んでしまう!」
ミキ:「死なせてよ!!」
ハル:「・・・っ」
ミキ:「お願いだから・・・死なせてよ・・・
ミキ:私、ハルの居ない世界で生きてたって、仕方ないもの・・・」
ハル:「・・・ダメだ。それはできない」
ミキ:「どうして!アナタには関係ない!」
ハル:「関係なくなんてない!君には生きててほしいと遥人が言っていたから!」
ミキ:「え・・・?」
ハル:「遥人は・・・彼は言っていた。
ハル:カプセルで眠る君を見つめながら、口癖のように。
ハル:彼女が病気を治して、未来で健やかに暮らしてくれるのが、一番の望みだと・・・」
ミキ:「何それ・・・なんでアナタがそんなこと知って・・・」
ハル:「遥人は・・・俺の大叔父(おおおじ)だから」
ミキ:「・・・!」
ハル:「彼は、ずっと君が目覚めるのを待っていたよ。
ハル:毎日毎日、何年も、何十年もの間、病院に通いながら。
ハル:ただ、君の病気はなかなか治療薬の開発が進まなくてね。
ハル:待ち続けている間に、遥人自身が病に倒れてしまった」
ミキ:「・・・」
ハル:「・・・つらかったと思う。
ハル:愛する人との約束を守れず、君を一人遺して逝かなければならないのは。
ハル:けど、彼は俺に言ったんだ。
ハル:自分が居なくても『生きててほしい』
ハル:・・・彼女にそれだけ伝えてくれと」
ミキ:「・・・っ、だったら、最初からそれだけ言ってくれれば良かったじゃない・・・!
ミキ:なんでわざわざハルのフリをして、アナタは私のそばに居たの!?
ミキ:最初から本当のことを言ってくれれば・・・こんな・・・」
ハル:「・・・俺に、勇気が無かったから」
ミキ:「えっ・・・?」
ハル:「分かってる。
ハル:最初から君に本当のことを伝えれば、君をこんなに傷付けることは無かったって。
ハル:けど、俺はどうしても言うことができなかった。
ハル:もし、それを伝えて、君が生きる希望を無くしたらと思うと・・・怖くて」
ミキ:「生きる希望なんて・・・ハルが居ないなら・・・私は・・・」
ハル:「だから!俺が代わりになればいいと思ったんだ!」
ミキ:「・・・」
ハル:「・・・大叔父の若い頃の写真を見たんだ。
ハル:ビックリするぐらい、俺は彼と似ているだろう?
ハル:だから、若い頃の彼がどんな人物だったか色んな人に聞いて、口調や容姿を真似て、目覚めた君のそばに居ようと思った。
ハル:嘘をつくことになってもいい・・・それで、君が死ななくて済むのなら」
ミキ:「なんで・・・?
ミキ:そんなの頼んでないよ・・・
ミキ:そんなの・・・アナタにとって、何の得にもならないじゃない」
ハル:「なるんだ。
ハル:・・・俺は、君のことが好きだから・・・」
ミキ:「え・・・?」
ハル:「最初は確かに、君を死なせてしまうのが怖かったからかもしれない。
ハル:けど、一緒に居るうち、二人で過ごすうち、君のその前向きさに・・・ひたむきに生きようとするその姿に心を動かされた。
ハル:いつしか、俺自身の意思で君と居たいと願ってしまったんだ」
ミキ:「・・・そんなこと・・・今更、言われたって困るよ・・・」
ハル:「けど、困らせても、君に言いたいんだ。
ハル:俺は、百年の時を越えて出逢えた君と・・・ミキと一緒に居たいから」
ミキ:「・・・っ、分かんないよ・・・どうすれば・・・」
ハル:「ミキ?」
ミキ:「なんで、なんでハルとそっくりな顔で・・・そっくりな声でそんなこと言うの・・・
ミキ:ハルはもう居ないのに・・・
ミキ:私がここに居る意味なんて、もう無いのに・・・!」
ハル:「ごめん・・・酷いことを言ってるのは分かってる。
ハル:でも、君が好きなんだ。
ハル:苦しい想いをさせると分かっていても、君のことが好きなんだ」
ミキ:「私は・・・アナタなんか・・・アナタなんか嫌い・・・大嫌いだよぉ・・・!」
ハル:「・・・大嫌いでも構わない。
ハル:いつか、君が好きになってくれるまで、百年でも二百年でもそばに居続けるから」
ミキ:「・・・うっ・・・ううっ・・・うわぁあん・・・」
0:(しばらくの間)
ミキ:「・・・手、離してよ」
ハル:「嫌だ。離さない」
ミキ:「もう今日は、逃げる気力も無いから」
ハル:「嫌だ。それでも離さない」
ミキ:「・・・ハルは、そんな風にしつこくなかった」
ハル:「だって、俺は君の言っているハルじゃない」
ミキ:「・・・本当に、ずっとそばに居るつもり?」
ハル:「居るよ。君が生きている限り・・・ずっとずっとそばに居る」
ミキ:「アナタは何でもストレートすぎる」
ハル:「だって、それが俺だもの」
ミキ:「そんなの知らないよ」
ハル:「これから知ってもらうから、大丈夫」
ミキ:「・・・あのまま、眠っておけば良かったな・・・」
ハル:「じゃあ、君がその眠りから醒めるまで待つよ。
ハル:そして、目覚めた君と恋をする」
ミキ:「・・・現代っ子怖い」
ハル:「いつの時代も変わらないよ」
ミキ:「・・・ねぇ、教えて」
ハル:「何を?」
ミキ:「アナタの名前・・・本当の名前。
ミキ:いつまでもハル、って呼ぶ訳にはいかないから」
ハル:「それは、前向きに検討して頂けるということで良いですか?」
ミキ:「・・・いいから、教えてよ」
ハル:「ああ、俺の名前はーーー」
0:(少し間)
ミキ:長い夢から目を醒まそう。
ミキ:百年の長い恋の夢から。
ハル:そして、また始めよう。
ハル:長い時を刻む、愛の物語を。
0:〜FIN〜
0:☆マークの付いた台詞に関しては、ほんの少しだけ誤魔化すような、もしくは戸惑うような感じで読むと、雰囲気が出ると思います。
:
ミキ:長い夢から目を醒(さ)まそう。
ミキ:百年の長い恋の夢から。
0:『百年の恋が醒める時』
ハル:「いつか、未来でまた会おう、ミキ。
ハル:俺もその時まで、一緒にそばで眠るから」
ミキ:不安げにカプセルへ横たわる私の手を握り、彼が優しく囁(ささや)いた言葉ーーー
ミキ:その言葉を胸に、私は静かに目を閉じた。
ミキ:
ミキ:眠りについた後、彼と笑い合う夢を見た。
ミキ:遠い未来で、二人で手を繋いで歩く夢を、繰り返し、繰り返し。
ミキ:
ミキ:ああ、早く・・・早く彼に会いたい。
ミキ:長い間、願って、願い続けてーーー
ハル:「・・・ミキ」
ミキ:不意に、彼の声が聞こえた。
ミキ:優しく私を呼ぶ声が。
ミキ:重い瞼(まぶた )を開けると、微笑む彼がそこに居た。
ハル:「ミキ・・・おはよう」
ミキ:そう言って、私の手を握った彼。
ミキ:その手の温もりに、視界が滲(にじ)んだ。
ミキ:
ミキ:あの日から、ちょうど百年目の朝だった。
0:(しばらくの間。ミキの病室)
ハル:「ミキ」
ミキ:「・・・ハル、今日も来てくれたんだ」
ハル:「当たり前だろ?
ハル:ほら、これ今週の分、借りてきた」
ミキ:「ありがとう。助かる」
ハル:「重いんだから気を付けろよ。
ハル:まだリハビリだって始まったばかりなんだから」
ミキ:「大丈夫、大丈夫。
ミキ:こうやって本を持つだけでも、立派なリハビリになるよ」
ハル:「それにしたって、今時わざわざそんな分厚い本、好んで読む人間はいないぞ。
ハル:新聞も雑誌も、端末使って読むのが主流なのに」
ミキ:「・・・だって、まだこの時代の端末の使い方、わからないんだもん」
ハル:「なんか・・・おばあちゃんみたいだな」
ミキ:「おばあちゃんなんて酷い!確かに昔から機械音痴ではあったけど!」
ハル:「はは、怒るなって」
ミキ:「もう!それを言うならハルだっておじいちゃんだからね」
ハル:☆「・・・あー、そうかもな。
ハル:コールドスリープ状態だったとはいえ、俺たち百年の時を経て、この時代に居るんだもんなぁ・・・」
ミキ:「そうだね。不思議な感覚。
ミキ:身体も心もそのままなのにさ。
ミキ:私たち、正確な年齢は百歳越えてるんだよ」
ハル:「すごいよな。急に長寿になった気分」
ミキ:「ね、ビックリだよね。
ミキ:ほんの少し眠っていただけだと思ったのに、目が覚めた時には世界ががらっと変わってて。
ミキ:・・・街も、人も、私が少し前まで知っていたものは、ほとんど残ってない・・・」
ハル:「ミキ、大丈夫か?」
ミキ:「・・・うん、大丈夫。平気だよ」
ハル:「顔、少し青くなってる」
ミキ:「そう?自分では受け容れたつもりなんだけど。
ミキ:まだ心が追いついてないのかな?」
ハル:「当たり前だろ。
ハル:目が覚めて、突然百年後ですよ、なんて言われて、すぐに受け容れられるヤツの方が珍しいんだから」
ミキ:「でも、ハルは私より先に目覚めて、一人でも頑張って受け容れたんでしょ?」
ハル:☆「・・・ああ、まぁな」
ミキ:「だったら、私も大丈夫だよ。
ミキ:絶対に受け容れられる。
ミキ:・・・だって、私にはハルが居てくれるんだから」
ハル:「ミキ・・・」
ミキ:「だからね、まずたくさん本を読んで、私が眠っている間、なにがあったか知るの!
ミキ:リハビリも頑張って、今の時代のこといっぱい勉強して、百年前の人間なんだって分からないぐらいになる。
ミキ:そしたら、色んなことをしよう。
ミキ:あの時は出来なかったこと、いっぱい!」
ハル:「そうか・・・そうだな」
ミキ:「なのでなので!
ミキ:まず、私に先輩として、現代生活のあれこれをご教授ください!」
ハル:「うーん、そうだなぁ・・・
ハル:じゃあ、まず簡単なところからいくと、朝の挨拶は『おはようございます』」
ミキ:「・・・ねぇ、からかってる?」
ハル:「からかってないよ。
ハル:現代生活においても、挨拶は大事だろ?」
ミキ:「もー!絶対遊んでるでしょ!」
ハル:「いいじゃん、息抜き息抜き。
ハル:・・・はい、じゃあ感謝の言葉は?」
ミキ:「『ありがとうございます』?」
ハル:「ピンポーン!大正解!」
ミキ:「ふふっ、今の時代でもクイズに正解したら、その音が鳴るの?」
ハル:「そうそう。百年前から変わらぬ由緒正しき音なのです」
ミキ:「そっかぁ、じゃあクイズ番組を見る時は、ちょっと安心だね」
ハル:「ああ、大丈夫だよ。
ハル:心配するほど何もかも変わってない。
ハル:俺だってすぐに馴染めたんだから」
ミキ:「そう言ってもらえると心強い。
ミキ:・・・ありがとうございます」
ハル:「おっ、今学んだことをすぐに応用できたな!
ハル:すごいぞ、ミキ」
ミキ:「えへへ、すごいでしょ!もっと褒めてください!
ミキ:私は褒められて伸びる子ですから!」
ハル:「よし、その調子で次は端末の使い方でも覚えてみる?」
ミキ:「うっ・・・それはまた今度で・・・」
ハル:「ははは、仕方ない。
ハル:また今度、教えてしんぜよう」
ミキ:「なによぉ・・・ハルだって昔はスマホも上手く使えないくらいの機械音痴だったじゃない。
ミキ:私より、ほんの少しだけ早く使い方覚えたからって偉そうに・・・」
ハル:☆「・・・そうだったっけ?」
ミキ:「そうですー!
ミキ:昔の機械だったら、私の方が使いこなしてたんだからね」
ハル:「はいはい、悪かったよ。
ハル:・・・さて、もうすぐリハビリの時間だろ?
ハル:先生、呼びに来たみたいだぞ?」
ミキ:「あっ、ホントだ!行ってこなきゃ。
ミキ:じゃあね、ハル!また来てね!」
ハル:「ああ、行ってらっしゃい」
0:(少し間。ミキ、病室から出ていく)
ハル:「・・・上手いこと、誤魔化せてたかな・・・」
0:(しばらくの間。回想)
ミキ:「ハル、アイス買ってきたよ!」
ハル:「ありがとう、ミキ。
ハル:あっ・・・俺、そっちの味貰っていい?」
ミキ:「いいけど・・・あっ、そっか!ハルはーーー」
0:(しばらくの間。病院の中庭にて)
ハル:「おーい、ミキー!」
ミキ:「あっ、ハル・・・わわっ(ミキ、体勢を崩す)」
ハル:「(ハル、ミキを受け止めながら)おっと!
ハル:・・・気を付けろよ。まだ松葉杖無しで歩き始めたばかりなんだから」
ミキ:「ごめんごめん。
ミキ:歩けるようになってきたら、嬉しくなっちゃって」
ハル:「だからって、怪我でもしたら大変だろ?」
ミキ:「はーい、すみません・・・」
ハル:「別に怒ってる訳じゃないって。
ハル:そういうミキの頑張り屋なところ・・・俺好きだし」
ミキ:「ひゃっ・・・」
ハル:「わっ、なんだよ!?急に力抜くなよ!」
ミキ:「だって・・・ハルがいきなり好きだなんて言うから・・・」
ハル:「なんでそれで力が抜けるんだよ」
ミキ:「ビックリしたの!
ミキ:昔はそんなこと、恥ずかしがってあんまりストレートに言ってくれなかったから!」
ハル:☆「・・・えっ・・・ああ・・・」
ミキ:「もー!ハルはこの数年で変わったね。
ミキ:この時代に慣れると、さっきみたいなこともさらっと言えるようになっちゃうんだー」
ハル:☆「・・・違うよ。本音を口に出せるようになっただけだって」
ミキ:「えーそうなの?
ミキ:もしかして、私が寝てる間にほかの人と恋愛でもしたとか?」
ハル:「そんなことないって・・・
ハル:ほら、あそこのベンチ空いてる。ちょっと座れよ」
ミキ:「うん・・・よいしょっと。
ミキ:はーっ・・・やっぱりまだまだ身体が鈍(なま)ってるよー」
ハル:「よいしょっと、って。年寄りくさい」
ミキ:「またそういうこと言う・・・」
ハル:「むくれるなっての。
ハル:はい、今日の差し入れ」
ミキ:「あっ!美味しそうなクレープ!」
ハル:「だろ?ここのクレープ屋、美味いって評判なんだよ」
ミキ:「わー!嬉しい!えーっと・・・中身は・・・」
ハル:「チョコバナナとイチゴ」
ミキ:「あっ、じゃあ私はチョコバナナにするね!」
ハル:「ははっ、即答。はい、どうぞ」
ミキ:「いただきまーす!
ミキ:・・・うーん、美味しい〜!」
ハル:「うわー、美味そうに食べるなぁ〜。
ハル:なぁ、俺にも一口ちょうだい」
ミキ:「えっ・・・?あっ・・・」
ハル:「・・・美味い!やっぱり、あの店のクレープはどれも当たりだな〜」
ミキ:「・・・」
ハル:「ん?ミキ、どうした?」
ミキ:☆「・・・ううん!なんでもない!
ミキ:クレープ、美味しいね!」
ハル:「だろ?あっ、そうだ。
ハル:退院したら今度は二人で買いに行こう。
ハル:ほかのやつも美味いからさ」
ミキ:「・・・うん」
ハル:「あれ?どうした、元気ないな」
ミキ:「そ、そんなことないよ!」
ハル:「大丈夫か?あんまり根詰めすぎるのも良くないぞ。
ハル:焦らず、ゆっくりゆっくり頑張っていこう、な?」
ミキ:☆「そうだね・・・今日はこのぐらいにしておこうかな」
ハル:「ああ、クレープ食べ終わったら部屋まで送るから、ゆっくり休めよ」
ミキ:「うん・・・あのさ、ハル」
ハル:「どうした?」
ミキ:☆「・・・あ・・・えーと・・・ごめん。
ミキ:何か言おうと思ったんだけど、忘れちゃった・・・」
ハル:「おいおい、本当に大丈夫か?
ハル:具合悪いなら、診てもらうか?」
ミキ:「平気・・・平気だよ!
ミキ:でも、ちょっとお腹いっぱいになってきちゃったから、このクレープはまた後でいただくね」
ハル:「そっか、じゃあ部屋まで一緒に・・・」
ミキ:「あっ、そういえば、これから先生とお話しなきゃいけないんだった!
ミキ:すぐそこの診察室だから、もう行くね!」
ハル:「あ、ああ、わかった・・・」
ミキ:「いつもありがとう、ハル。
ミキ:クレープご馳走様!またね!」
ハル:「おう、じゃあ、また・・・」
0:(少し間。ミキ、建物の陰に蹲る)
ミキ:「・・・大丈夫、きっと私の考えすぎだよね・・・」
0:(しばらくの間。回想)
ミキ:「ねぇ、ハルはその色が好きなの?」
ハル:「ああ、そうだな。一番好きな色かもしれない」
ミキ:「ふふ、綺麗な色だもんね、そのーーー」
0:(しばらくの間。ミキの病室)
ハル:「ミキ、入るぞ?」
ミキ:「・・・どうぞー」
ハル:「うわっ、なんだコレ?毛糸?」
ミキ:「そう、先生にお願いして用意してもらったの。
ミキ:今でも手編みのマフラーは喜ばれるって聞いて」
ハル:「けど、こんなにたくさん・・・」
ミキ:「退院するまでにお世話になった人に編んで渡そうと思ってるんだ。
ミキ:先生や、看護師さんたちに・・・」
ハル:「大変じゃないか?」
ミキ:「全然!むしろ、喜んでもらえるんならいくらでも頑張れるよ」
ハル:「はぁー・・・すごいなぁ・・・。
ハル:そういうミキの人の為に頑張れるところ、尊敬する」
ミキ:「ふふ、ありがとう。
ミキ:・・・あっ、せっかくだしハルにも作ってあげようか?」
ハル:「えっ、いいの?」
ミキ:「いいよ!
ミキ:むしろ、いつもお世話になってるんだもん。作らせてよ」
ハル:「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
ミキ:「あっ、色はどうする?ハルの好きな色、選んでよ」
ハル:「そうだなぁ・・・じゃあ、この赤にしようかな」
ミキ:☆「・・・赤にするの?」
ハル:「ああ、夕暮れの空みたいな綺麗な色だから」
ミキ:☆「・・・夕暮れの、空。
ミキ:・・・そういえば、好きだったよね」
ハル:「うん、あの夕日が沈む前の赤く染まった空を見上げるの、好きなんだ」
ミキ:☆「・・・そうだね・・・そうだったね・・・」
ハル:「手編みのマフラーかぁ、きっと温かいんだろうな。
ハル:出来上がり、楽しみにしてるよ」
ミキ:「わかった、頑張って作るからね」
ハル:「ありがとう、ミキ。
ハル:でも、本当に無理しすぎるなよ。
ハル:俺はこれからいつだって、そばに居るんだからさ」
ミキ:「・・・うん」
0:(しばらくの間。病院の入口にて)
ハル:「準備できた?」
ミキ:「大丈夫。荷物は全部持ったし、手続きも終わったよ」
ハル:「・・・よし、じゃあ行こうか。
ハル:まず、車で家まで帰って、そこから・・・」
ミキ:「あっ!あの、ハル・・・
ミキ:家に行く前に寄ってほしい場所があるんだけど・・・」
ハル:「いいけど、どこへ?」
ミキ:「あのねーーー」
0:(しばらくの間。海にて)
ハル:「・・・足元大丈夫?ミキ」
ミキ:「うん、大丈夫」
ハル:「気を付けろよ。ほら、手貸して」
ミキ:「ううん、平気。
ミキ:波打ち際まで一人で歩きたいの」
ハル:「砂浜、歩きづらいぞ?」
ミキ:「ゆっくり行くから・・・
ミキ:ね、だからお願い」
ハル:「わかった。転ぶなよ」
ミキ:「うん」
ハル:「・・・しかし、海なんて久々に来たなぁ」
ミキ:「そうだね。
ミキ:私も久々・・・っていうか、最後に来たのはコールドスリープに入る前だから、百年以上前になるんだよね・・・」
ハル:「そっか・・・そうなるよなぁ。
ハル:どう?百年前の海と比べた感想は?」
ミキ:「思ったより変わってない。
ミキ:潮の匂いも、ちょっとベタつくような風も、寄せては返す波の音も。
ミキ:相変わらず海は広いまま」
ハル:「だな。百年も経てば、もっと色々世界は変わると思ってたけど・・・
ハル:こうやって変わらないものもあるっていうのは良いな。安心する」
ミキ:「・・・」
ハル:「・・・ほら、あとちょっとで波打ち際まで・・・
ハル:ミキ?どうした?」
ミキ:「・・・変わらないものばかりじゃない」
ハル:「えっ?」
ミキ:「・・・ハル、あのね。マフラー出来上がったの。
ミキ:今、ここで渡して良いかな?」
ハル:「本当か!楽しみにしてたんだ」
ミキ:「ほら、巻いてあげる。ちょっと屈(かが)んで」
ハル:「・・・やっぱり、思った通り綺麗な色だな。
ハル:丁寧に編まれてるし、温かい。
ハル:ありがとう、ミキ・・・
ハル:(ミキにマフラーを引かれ、体勢を崩す)うわっ!?」
ミキ:「・・・右耳の後ろにある、小さな黒子(ほくろ)」
ハル:「えっ・・・?」
ミキ:「ねぇ、世界は確実に変わってたよ、ハル。
ミキ:窓の外の街並みは見たことも無い景色で、流行りの歌は全部聞き慣れない曲で、テレビに映る芸能人はみんな知らない人ばかりで。
ミキ:分かってはいたけど、私だけ置いてきぼりにされたようで、怖かった」
ハル:「・・・ミキ?」
ミキ:「覚悟はしてたよ。
ミキ:目が覚めた時、そこが私の知らない世界でも、一生懸命頑張ろうって。
ミキ:百年後の世界で、私は病気を治して、あの時出来なかったことをたくさんするんだから、って思ってた。
ミキ:・・・ハルと一緒に」
ハル:「なんだよ、改めて・・・知ってるよ。
ハル:だから、今もこうやって・・・」
ミキ:「違う、私があの時一緒に居たいと思ったのは、アナタじゃない」
ハル:「え・・・?」
ミキ:「私の知ってるハルはね。とっても機械音痴なの。
ミキ:・・・そして、チョコレートが苦手で、好きな色は夕暮れの空のような赤じゃなくて、青。
ミキ:青空を映したような、海の青」
ハル:「・・・!」
ミキ:「ねぇ、アナタは誰?
ミキ:ハルにそっくりな顔と声をしたアナタは、一体誰?」
ハル:「何言ってるんだよ・・・俺は・・・」
ミキ:「黒子は?」
ハル:「はっ・・・?」
ミキ:「ハルはね、右耳の後ろに小さな黒子があったの。
ミキ:髪で隠れて普段は誰も気付かないから、私だけが知ってる秘密みたいで嬉しかった。
ミキ:・・・でも、アナタにはそれが無い」
ハル:「・・・」
ミキ:「アナタはハルじゃない。
ミキ:私の知ってるハルじゃない・・・そうでしょ?」
ハル:「・・・俺は・・・」
ミキ:「これ以上、誤魔化さないでよ・・・」
ハル:「・・・っ」
ミキ:「アナタ、ずっと私を騙(だま)してたんでしょ?ハルのフリをして・・・
ミキ:ねぇ、私が勘違いしてる姿を見るの、楽しかった?
ミキ:騙される私は滑稽(こっけい)だった?」
ハル:「そんな風に思ったことなんて無い!」
ミキ:「じゃあ、何でずっと黙ってたの!?」
ハル:「!」
ミキ:「思ってなくても、嘘をついてたなら一緒だよ・・・。
ミキ:アナタは間違いなく、私のことを騙してたんだ・・・」
ハル:「ミキ・・・」
ミキ:「ねぇ、私の知ってるハルはどこ?
ミキ:どこに行けば会えるの?
ミキ:どこで私を待っているの?
ミキ:教えてよ・・・ねぇ・・・」
ハル:「・・・っ・・・ハルは・・・
ハル:君が探しているハルは・・・『遥人(はるひと)』は・・・」
0:(ほんの少し間)
ハル:「・・・もう、この世には居ないんだよ」
0:(少し間)
ミキ:「・・・えっ・・・?」
ハル:「ごめん・・・ずっと言い出せなくて・・・」
ミキ:「嘘・・・だって、ハルは・・・
ミキ:私と未来で暮らすため、自分もコールドスリープ状態で過ごすって・・・」
ハル:「ダメだったんだ・・・
ハル:国の法律で、病気の治療目的以外でのコールドスリープは使用禁止になって・・・
ハル:遥人は君と一緒に眠ることができなかった」
ミキ:「そんな・・・嘘・・・嘘だよ・・・」
ハル:「嘘じゃないんだ・・・
ハル:彼は君が目覚める前に亡くなった。
ハル:・・・もう二十年近く前の話だ・・・」
ミキ:「・・・っ!」
ハル:「待って!どこに行くんだ!」
ミキ:「離して!離してよ!私はハルの所へ行くの!」
ハル:「ダメだ!
ハル:こんな冷たい冬の海に入ったら、死んでしまう!」
ミキ:「死なせてよ!!」
ハル:「・・・っ」
ミキ:「お願いだから・・・死なせてよ・・・
ミキ:私、ハルの居ない世界で生きてたって、仕方ないもの・・・」
ハル:「・・・ダメだ。それはできない」
ミキ:「どうして!アナタには関係ない!」
ハル:「関係なくなんてない!君には生きててほしいと遥人が言っていたから!」
ミキ:「え・・・?」
ハル:「遥人は・・・彼は言っていた。
ハル:カプセルで眠る君を見つめながら、口癖のように。
ハル:彼女が病気を治して、未来で健やかに暮らしてくれるのが、一番の望みだと・・・」
ミキ:「何それ・・・なんでアナタがそんなこと知って・・・」
ハル:「遥人は・・・俺の大叔父(おおおじ)だから」
ミキ:「・・・!」
ハル:「彼は、ずっと君が目覚めるのを待っていたよ。
ハル:毎日毎日、何年も、何十年もの間、病院に通いながら。
ハル:ただ、君の病気はなかなか治療薬の開発が進まなくてね。
ハル:待ち続けている間に、遥人自身が病に倒れてしまった」
ミキ:「・・・」
ハル:「・・・つらかったと思う。
ハル:愛する人との約束を守れず、君を一人遺して逝かなければならないのは。
ハル:けど、彼は俺に言ったんだ。
ハル:自分が居なくても『生きててほしい』
ハル:・・・彼女にそれだけ伝えてくれと」
ミキ:「・・・っ、だったら、最初からそれだけ言ってくれれば良かったじゃない・・・!
ミキ:なんでわざわざハルのフリをして、アナタは私のそばに居たの!?
ミキ:最初から本当のことを言ってくれれば・・・こんな・・・」
ハル:「・・・俺に、勇気が無かったから」
ミキ:「えっ・・・?」
ハル:「分かってる。
ハル:最初から君に本当のことを伝えれば、君をこんなに傷付けることは無かったって。
ハル:けど、俺はどうしても言うことができなかった。
ハル:もし、それを伝えて、君が生きる希望を無くしたらと思うと・・・怖くて」
ミキ:「生きる希望なんて・・・ハルが居ないなら・・・私は・・・」
ハル:「だから!俺が代わりになればいいと思ったんだ!」
ミキ:「・・・」
ハル:「・・・大叔父の若い頃の写真を見たんだ。
ハル:ビックリするぐらい、俺は彼と似ているだろう?
ハル:だから、若い頃の彼がどんな人物だったか色んな人に聞いて、口調や容姿を真似て、目覚めた君のそばに居ようと思った。
ハル:嘘をつくことになってもいい・・・それで、君が死ななくて済むのなら」
ミキ:「なんで・・・?
ミキ:そんなの頼んでないよ・・・
ミキ:そんなの・・・アナタにとって、何の得にもならないじゃない」
ハル:「なるんだ。
ハル:・・・俺は、君のことが好きだから・・・」
ミキ:「え・・・?」
ハル:「最初は確かに、君を死なせてしまうのが怖かったからかもしれない。
ハル:けど、一緒に居るうち、二人で過ごすうち、君のその前向きさに・・・ひたむきに生きようとするその姿に心を動かされた。
ハル:いつしか、俺自身の意思で君と居たいと願ってしまったんだ」
ミキ:「・・・そんなこと・・・今更、言われたって困るよ・・・」
ハル:「けど、困らせても、君に言いたいんだ。
ハル:俺は、百年の時を越えて出逢えた君と・・・ミキと一緒に居たいから」
ミキ:「・・・っ、分かんないよ・・・どうすれば・・・」
ハル:「ミキ?」
ミキ:「なんで、なんでハルとそっくりな顔で・・・そっくりな声でそんなこと言うの・・・
ミキ:ハルはもう居ないのに・・・
ミキ:私がここに居る意味なんて、もう無いのに・・・!」
ハル:「ごめん・・・酷いことを言ってるのは分かってる。
ハル:でも、君が好きなんだ。
ハル:苦しい想いをさせると分かっていても、君のことが好きなんだ」
ミキ:「私は・・・アナタなんか・・・アナタなんか嫌い・・・大嫌いだよぉ・・・!」
ハル:「・・・大嫌いでも構わない。
ハル:いつか、君が好きになってくれるまで、百年でも二百年でもそばに居続けるから」
ミキ:「・・・うっ・・・ううっ・・・うわぁあん・・・」
0:(しばらくの間)
ミキ:「・・・手、離してよ」
ハル:「嫌だ。離さない」
ミキ:「もう今日は、逃げる気力も無いから」
ハル:「嫌だ。それでも離さない」
ミキ:「・・・ハルは、そんな風にしつこくなかった」
ハル:「だって、俺は君の言っているハルじゃない」
ミキ:「・・・本当に、ずっとそばに居るつもり?」
ハル:「居るよ。君が生きている限り・・・ずっとずっとそばに居る」
ミキ:「アナタは何でもストレートすぎる」
ハル:「だって、それが俺だもの」
ミキ:「そんなの知らないよ」
ハル:「これから知ってもらうから、大丈夫」
ミキ:「・・・あのまま、眠っておけば良かったな・・・」
ハル:「じゃあ、君がその眠りから醒めるまで待つよ。
ハル:そして、目覚めた君と恋をする」
ミキ:「・・・現代っ子怖い」
ハル:「いつの時代も変わらないよ」
ミキ:「・・・ねぇ、教えて」
ハル:「何を?」
ミキ:「アナタの名前・・・本当の名前。
ミキ:いつまでもハル、って呼ぶ訳にはいかないから」
ハル:「それは、前向きに検討して頂けるということで良いですか?」
ミキ:「・・・いいから、教えてよ」
ハル:「ああ、俺の名前はーーー」
0:(少し間)
ミキ:長い夢から目を醒まそう。
ミキ:百年の長い恋の夢から。
ハル:そして、また始めよう。
ハル:長い時を刻む、愛の物語を。
0:〜FIN〜