台本概要
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タイトル | マキとムクロ |
---|---|
作者名 | 冷凍みかん-光柑- (@mikanchilled) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 3人用台本(不問3) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
光を求める二つの小さな命の話です。性別不問。ご自由にお楽しみください
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
マキ | 不問 | 70 | 丁寧な口調。光に夢中になり、手に入れようとする |
ムクロ | 不問 | 74 | 気が強そうだが、実はかなりの寂しがり。マキと共に光を目指す |
光 | 不問 | 27 | ナレーション役。なんか色々諦めている感じ。ムクロとの会話もある |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
光:宵闇の。真っ暗な大地の上に、ちっぽけな命が二つあった
光:二つは身を寄せ合い、じっとしている
光:そうしている内に、片方が口を開いた
マキ:ねえ、見てよ
ムクロ:どうかした?
マキ:ほらあれ。何だろう。とつぜん現れた
ムクロ:光だよ
マキ:光?
ムクロ:光っているだろう
マキ:なるほど、光っているね
ムクロ:それがどうした
マキ:あれをさ
ムクロ:なんだよ
マキ:光を、捕まえることはできないだろうか
ムクロ:なんだって??
光:2人はその時初めて、顔を見合わせた
光:そして光に照らされた互いの顔を、ゆっくりと観察した
マキ:ムクロ、君は美しいね
ムクロ:急になんだよ
マキ:真っ白な歯も、吸い込むような瞳も、何もかも
マキ:ああ、僕はこんなに美しい君に寄りかかっていたのか
ムクロ:寄りかかっていたのは、お互い様さ
マキ:うん。よし、いこう
ムクロ:行くってどこへ?
マキ:あの光のもとへさ
ムクロ:立てない
マキ:手を貸してあげる。さあ、立って
光:ムクロはマキの手をとって、ゆっくりと立ち上がった
マキ:ね。立てるだろう
ムクロ:離れないでくれ
マキ:もちろん
ムクロ:独りはイヤだからな
マキ:僕もさ
光:二つの命はゆっくりと、光に向かって歩き出した
マキ:君となら、きっと光を捕まえられるよ
ムクロ:どうだかね
マキ:できるさ
ムクロ:どうして?
マキ:なぜだろうね。そんな気がするんだ
光:マキとムクロが光に近づくにつれて、光はいっそう強く輝いた
マキ:ああ、光とはなんて素晴らしいんだろう
ムクロ:光っているだけだ
マキ:その通り。おかげで色々見えてくる
ムクロ:光が照らしているのさ
マキ:あれは何?
ムクロ:蝶だよ
マキ:ひらひらと空を舞っている
ムクロ:蝶だからな
マキ:とても気持ちよさそうだ。あれは何?
ムクロ:トカゲだよ
マキ:あ、逃げちゃった
ムクロ:臆病なのさ
マキ:何もしないのに。
マキ:ねえムクロ、これは何かな
ムクロ:おお!でかした!これはイチゴだ
ムクロ:食事にしよう!
光:あまりにも夢中に食べたため、イチゴのしぶきがシミとなったが、
光:マキとムクロにはそれすら楽しかった
マキ:イチゴおいしいね
ムクロ:ああ。うまいはずさ
マキ:よし、いこう
ムクロ:もう行くのか
マキ:うん。もうすぐだからさ
光:マキとムクロが更に歩いていくと、光は山の陰に隠れた
ムクロ:ああ、見えなくなってしまった
マキ:山を越えれば、光はまた見えるだろう
ムクロ:この山を登るつもりか?
マキ:そうだよ
ムクロ:よそう。ほとんど崖じゃないか
マキ:僕は行くよ
ムクロ:イヤだぜ。戻ってイチゴを食べよう
マキ:あの光がいい。あの光じゃないとダメだ
ムクロ:どうしてそこまで拘る
マキ:最初に見つけたからだ。ここまで来れたのは、あれのお陰だからだよ
ムクロ:…独りはイヤだからな
マキ:大丈夫。一緒に行こう
光:険しい崖は、視界の悪さでマキとムクロに苦難を強いた
ムクロ:いたいっ…
マキ:ムクロ、大丈夫かい
ムクロ:ケガをしたみたいだ。これ以上登るのは出来ないよ
マキ:僕に捕まって。上まで運ぶよ
ムクロ:無理しないでくれ
マキ:いいやする。だってもうすぐじゃないか
光:ムクロを背負い、マキは再び登り始める
ムクロ:なあ、重くないか
マキ:大丈夫。平気さ
ムクロ:なあ、やっぱり降りようか
マキ:いいや、もうすぐだからね。…もうすぐなんだ
ムクロ:…
光:崖を昇り切るための、最後のとっかかりに手をかける。
光:背中におぶさるムクロは頂上の景色を目にして、ぞっとした
ムクロ:光が、消えている…
マキ:あれ?…光は?光はどこ?
ムクロ:マキ…あのな
マキ:嘘だ…せっかく登ったのに…
ムクロ:マキ…平気だよ!じつはな、光は消えたり点いたりするんだ
マキ:そう、なんだ
ムクロ:そうだよ!だから、また点くまで待てばいいのさ
マキ:うん、そうだね…
ムクロ:マキ?
マキ:大丈夫だよ。
マキ:少し、疲れただけ
ムクロ:ちょうどいいや、少し休もう!うん、そうしよう!
マキ:…
光:闇の中、マキとムクロは一つに固まって、押し黙りながら、しばらくの時を過ごした
マキ:光はまだかな
ムクロ:まだだよ。それに今はケガしてるしさ
マキ:早くよくなってね。ムクロ
光:ムクロの足は次第に良くなった。ところがその一方で、マキはみるみると元気を失った
マキ:光は、まだかな…
ムクロ:もう少しじゃないかな
マキ:いつまで待てばいいんだろう
ムクロ:…そうだ、マキ!さっきの風、イチゴの香りがしたよね
マキ:そうだったかな
ムクロ:崖の上にもなっているんだな、きっと!
マキ:そうかもね
ムクロ:なあ、摘みに行こうよ
マキ:無理だよ…暗くて…
マキ:何も見えないんだ…
0:ーー
光:やがてムクロの言う通り、再び光が現れた
ムクロ:マキ!やったな!光だ!また光が現れたぞ!
マキ:う、ん…
ムクロ:おいしっかりしろ!光だぞ!さあ、歩き出そう!
マキ:無理だよ…
ムクロ:どうして!?
マキ:見てくれよ、僕の体を。すっかりなまってしまったみたいだ
ムクロ:それなら今度は僕に捕まれよ。負ぶってやるから
マキ:そんなの悪いよ…
ムクロ:気にするな
マキ:いや…だって…
ムクロ:なんだよ?しっかりしろよ!
マキ:眩しいんだ…
マキ:今の僕には、あの光が眩しすぎる
ムクロ:なんだよ、それ…
マキ:ごめんね…
ムクロ:…変わってしまったな、お前
マキ:そうかな。そうかも…
ムクロ:いいさ。
光:不意にムクロが立ち上がる
マキ:ムクロ…?
ムクロ:僕は行くからな
マキ:ムクロ…
ムクロ:じゃあな、マキ
光:ムクロにとって孤独の旅は、意外と苦ではなかった。
光:孤独の時間は、喜びもなく煩わしさもない。何も感じない。ただただ空虚な、無であった。
光:ほとんど抜け殻のようなムクロが、それでも歩き続けたのは、ある種の使命感によるものだった
ムクロ:見つけたぞ
光:…
ムクロ:案外小さいんだな
光:ははは。ああ、待っていたよ
ムクロ:一緒に来てもらうぞ
光:どこへ?あの子の所へかな?
ムクロ:その通りだ。マキにも見せてやるんだ
ムクロ:それで終わらせる
光:それもいいかもしれないね
光:けれど無理かな
ムクロ:無理?無理って…?なんだよどいつもこいつも
光:そうじゃないんだ
光:僕もまた消える。その内ね。
光:マキの所へたどり着く前に、きっと消えてしまうだろう
ムクロ:どうしても間に合わないのか
光:ああ。燃料が足りないんだ
光:今までの光がそうだったように、燃やすものが尽きれば消えてしまう
ムクロ:なるほど…
光:ごめんね
ムクロ:いいや、それなら話は簡単だ。
ムクロ:燃やすものがあればいいんだろう?
光:まさか…なるほど。
光:それもいいかもしれないね
マキ:ムクロは帰ってこなかった
マキ:光の方へ眼をやると、ムクロの話した通り、イチゴの木が植わっていた
マキ:種だ…イチゴの種が光へと続いている
マキ:ムクロ…!ああ、ムクロ!!
マキ:僕はなんてバカだったんだろう
マキ:光にばかり囚われて、君との思い出を忘れていた!
マキ:あれはイチゴだ!君が教えてくれたんだ!!
マキ:光だってそうだ。
マキ:君がいなければ!憧れることすらなかった!
ムクロ:〈以下、モノローグ〉
ムクロ:マキ…マキ…
ムクロ:どうか自分の足でたどり着いてくれ
ムクロ:お願いだ。光を掴んでくれ
ムクロ:君の意志で、君の力で…
マキ:足が震える…それでも
ムクロ:一度は諦めた光なのかもしれない。それでも…
マキ:君とじゃなきゃ…
ムクロ:君でなきゃ…
マキ:あの光に、意味はないだろう!!
光:光の形が見えた時、マキは一心に駆け寄った
光:マキが目指した光の正体は、燃え盛るムクロだったのだ
ムクロ:ああ、待っていたよ…
マキ:ムクロ!そんな、どうして…?
光:美しかったムクロは、もはや白い歯も吸い込むような瞳も失っていた
光:かつて口や眼であった穴の奥からは、熱い炎の橙色が漏れる
ムクロ:マキ、君を待っていたんだ…
ムクロ:おめでとう…
ムクロ:信じていたよ…必ず、立ち直ると…
マキ:ムクロ…どうすればいい?
ムクロ:どうしようもない…やがて僕は燃え尽きる
マキ:君は死ぬのかい?本当にどうしようもないのかい?
ムクロ:いいんだ。僕は満足さ…
ムクロ:でも、ああ…君のこれからが気がかりで…
ムクロ:マキ、君を独り残すなんて…
マキ:ムクロ…僕も光を継ぐよ
マキ:君が僕の光でいてくれたように
マキ:僕も誰かの光になる…
ムクロ:そうかい。わかった
ムクロ:手を出して…
光:マキが手を差し出すと、ムクロは大事に両手で包んだ
光:ムクロの炎が、マキへと伝播していく
ムクロ:永く燃えるにはね、コツがいるんだ…
ムクロ:深く息を吸ってから、細く長く吐くんだよ…
光:宵闇の。真っ暗な大地の上に、小さな光があった
光:その燃え盛る薪のそばには、既に燃え尽きた骸が転がっている
光:夜の静寂には、唯一、呼吸の音が響くのだった
マキ:すううーーー・・・はぁーーー・・・
マキ:すううーーー・・・
マキ:はぁーーー・・・
0:終わり
光:宵闇の。真っ暗な大地の上に、ちっぽけな命が二つあった
光:二つは身を寄せ合い、じっとしている
光:そうしている内に、片方が口を開いた
マキ:ねえ、見てよ
ムクロ:どうかした?
マキ:ほらあれ。何だろう。とつぜん現れた
ムクロ:光だよ
マキ:光?
ムクロ:光っているだろう
マキ:なるほど、光っているね
ムクロ:それがどうした
マキ:あれをさ
ムクロ:なんだよ
マキ:光を、捕まえることはできないだろうか
ムクロ:なんだって??
光:2人はその時初めて、顔を見合わせた
光:そして光に照らされた互いの顔を、ゆっくりと観察した
マキ:ムクロ、君は美しいね
ムクロ:急になんだよ
マキ:真っ白な歯も、吸い込むような瞳も、何もかも
マキ:ああ、僕はこんなに美しい君に寄りかかっていたのか
ムクロ:寄りかかっていたのは、お互い様さ
マキ:うん。よし、いこう
ムクロ:行くってどこへ?
マキ:あの光のもとへさ
ムクロ:立てない
マキ:手を貸してあげる。さあ、立って
光:ムクロはマキの手をとって、ゆっくりと立ち上がった
マキ:ね。立てるだろう
ムクロ:離れないでくれ
マキ:もちろん
ムクロ:独りはイヤだからな
マキ:僕もさ
光:二つの命はゆっくりと、光に向かって歩き出した
マキ:君となら、きっと光を捕まえられるよ
ムクロ:どうだかね
マキ:できるさ
ムクロ:どうして?
マキ:なぜだろうね。そんな気がするんだ
光:マキとムクロが光に近づくにつれて、光はいっそう強く輝いた
マキ:ああ、光とはなんて素晴らしいんだろう
ムクロ:光っているだけだ
マキ:その通り。おかげで色々見えてくる
ムクロ:光が照らしているのさ
マキ:あれは何?
ムクロ:蝶だよ
マキ:ひらひらと空を舞っている
ムクロ:蝶だからな
マキ:とても気持ちよさそうだ。あれは何?
ムクロ:トカゲだよ
マキ:あ、逃げちゃった
ムクロ:臆病なのさ
マキ:何もしないのに。
マキ:ねえムクロ、これは何かな
ムクロ:おお!でかした!これはイチゴだ
ムクロ:食事にしよう!
光:あまりにも夢中に食べたため、イチゴのしぶきがシミとなったが、
光:マキとムクロにはそれすら楽しかった
マキ:イチゴおいしいね
ムクロ:ああ。うまいはずさ
マキ:よし、いこう
ムクロ:もう行くのか
マキ:うん。もうすぐだからさ
光:マキとムクロが更に歩いていくと、光は山の陰に隠れた
ムクロ:ああ、見えなくなってしまった
マキ:山を越えれば、光はまた見えるだろう
ムクロ:この山を登るつもりか?
マキ:そうだよ
ムクロ:よそう。ほとんど崖じゃないか
マキ:僕は行くよ
ムクロ:イヤだぜ。戻ってイチゴを食べよう
マキ:あの光がいい。あの光じゃないとダメだ
ムクロ:どうしてそこまで拘る
マキ:最初に見つけたからだ。ここまで来れたのは、あれのお陰だからだよ
ムクロ:…独りはイヤだからな
マキ:大丈夫。一緒に行こう
光:険しい崖は、視界の悪さでマキとムクロに苦難を強いた
ムクロ:いたいっ…
マキ:ムクロ、大丈夫かい
ムクロ:ケガをしたみたいだ。これ以上登るのは出来ないよ
マキ:僕に捕まって。上まで運ぶよ
ムクロ:無理しないでくれ
マキ:いいやする。だってもうすぐじゃないか
光:ムクロを背負い、マキは再び登り始める
ムクロ:なあ、重くないか
マキ:大丈夫。平気さ
ムクロ:なあ、やっぱり降りようか
マキ:いいや、もうすぐだからね。…もうすぐなんだ
ムクロ:…
光:崖を昇り切るための、最後のとっかかりに手をかける。
光:背中におぶさるムクロは頂上の景色を目にして、ぞっとした
ムクロ:光が、消えている…
マキ:あれ?…光は?光はどこ?
ムクロ:マキ…あのな
マキ:嘘だ…せっかく登ったのに…
ムクロ:マキ…平気だよ!じつはな、光は消えたり点いたりするんだ
マキ:そう、なんだ
ムクロ:そうだよ!だから、また点くまで待てばいいのさ
マキ:うん、そうだね…
ムクロ:マキ?
マキ:大丈夫だよ。
マキ:少し、疲れただけ
ムクロ:ちょうどいいや、少し休もう!うん、そうしよう!
マキ:…
光:闇の中、マキとムクロは一つに固まって、押し黙りながら、しばらくの時を過ごした
マキ:光はまだかな
ムクロ:まだだよ。それに今はケガしてるしさ
マキ:早くよくなってね。ムクロ
光:ムクロの足は次第に良くなった。ところがその一方で、マキはみるみると元気を失った
マキ:光は、まだかな…
ムクロ:もう少しじゃないかな
マキ:いつまで待てばいいんだろう
ムクロ:…そうだ、マキ!さっきの風、イチゴの香りがしたよね
マキ:そうだったかな
ムクロ:崖の上にもなっているんだな、きっと!
マキ:そうかもね
ムクロ:なあ、摘みに行こうよ
マキ:無理だよ…暗くて…
マキ:何も見えないんだ…
0:ーー
光:やがてムクロの言う通り、再び光が現れた
ムクロ:マキ!やったな!光だ!また光が現れたぞ!
マキ:う、ん…
ムクロ:おいしっかりしろ!光だぞ!さあ、歩き出そう!
マキ:無理だよ…
ムクロ:どうして!?
マキ:見てくれよ、僕の体を。すっかりなまってしまったみたいだ
ムクロ:それなら今度は僕に捕まれよ。負ぶってやるから
マキ:そんなの悪いよ…
ムクロ:気にするな
マキ:いや…だって…
ムクロ:なんだよ?しっかりしろよ!
マキ:眩しいんだ…
マキ:今の僕には、あの光が眩しすぎる
ムクロ:なんだよ、それ…
マキ:ごめんね…
ムクロ:…変わってしまったな、お前
マキ:そうかな。そうかも…
ムクロ:いいさ。
光:不意にムクロが立ち上がる
マキ:ムクロ…?
ムクロ:僕は行くからな
マキ:ムクロ…
ムクロ:じゃあな、マキ
光:ムクロにとって孤独の旅は、意外と苦ではなかった。
光:孤独の時間は、喜びもなく煩わしさもない。何も感じない。ただただ空虚な、無であった。
光:ほとんど抜け殻のようなムクロが、それでも歩き続けたのは、ある種の使命感によるものだった
ムクロ:見つけたぞ
光:…
ムクロ:案外小さいんだな
光:ははは。ああ、待っていたよ
ムクロ:一緒に来てもらうぞ
光:どこへ?あの子の所へかな?
ムクロ:その通りだ。マキにも見せてやるんだ
ムクロ:それで終わらせる
光:それもいいかもしれないね
光:けれど無理かな
ムクロ:無理?無理って…?なんだよどいつもこいつも
光:そうじゃないんだ
光:僕もまた消える。その内ね。
光:マキの所へたどり着く前に、きっと消えてしまうだろう
ムクロ:どうしても間に合わないのか
光:ああ。燃料が足りないんだ
光:今までの光がそうだったように、燃やすものが尽きれば消えてしまう
ムクロ:なるほど…
光:ごめんね
ムクロ:いいや、それなら話は簡単だ。
ムクロ:燃やすものがあればいいんだろう?
光:まさか…なるほど。
光:それもいいかもしれないね
マキ:ムクロは帰ってこなかった
マキ:光の方へ眼をやると、ムクロの話した通り、イチゴの木が植わっていた
マキ:種だ…イチゴの種が光へと続いている
マキ:ムクロ…!ああ、ムクロ!!
マキ:僕はなんてバカだったんだろう
マキ:光にばかり囚われて、君との思い出を忘れていた!
マキ:あれはイチゴだ!君が教えてくれたんだ!!
マキ:光だってそうだ。
マキ:君がいなければ!憧れることすらなかった!
ムクロ:〈以下、モノローグ〉
ムクロ:マキ…マキ…
ムクロ:どうか自分の足でたどり着いてくれ
ムクロ:お願いだ。光を掴んでくれ
ムクロ:君の意志で、君の力で…
マキ:足が震える…それでも
ムクロ:一度は諦めた光なのかもしれない。それでも…
マキ:君とじゃなきゃ…
ムクロ:君でなきゃ…
マキ:あの光に、意味はないだろう!!
光:光の形が見えた時、マキは一心に駆け寄った
光:マキが目指した光の正体は、燃え盛るムクロだったのだ
ムクロ:ああ、待っていたよ…
マキ:ムクロ!そんな、どうして…?
光:美しかったムクロは、もはや白い歯も吸い込むような瞳も失っていた
光:かつて口や眼であった穴の奥からは、熱い炎の橙色が漏れる
ムクロ:マキ、君を待っていたんだ…
ムクロ:おめでとう…
ムクロ:信じていたよ…必ず、立ち直ると…
マキ:ムクロ…どうすればいい?
ムクロ:どうしようもない…やがて僕は燃え尽きる
マキ:君は死ぬのかい?本当にどうしようもないのかい?
ムクロ:いいんだ。僕は満足さ…
ムクロ:でも、ああ…君のこれからが気がかりで…
ムクロ:マキ、君を独り残すなんて…
マキ:ムクロ…僕も光を継ぐよ
マキ:君が僕の光でいてくれたように
マキ:僕も誰かの光になる…
ムクロ:そうかい。わかった
ムクロ:手を出して…
光:マキが手を差し出すと、ムクロは大事に両手で包んだ
光:ムクロの炎が、マキへと伝播していく
ムクロ:永く燃えるにはね、コツがいるんだ…
ムクロ:深く息を吸ってから、細く長く吐くんだよ…
光:宵闇の。真っ暗な大地の上に、小さな光があった
光:その燃え盛る薪のそばには、既に燃え尽きた骸が転がっている
光:夜の静寂には、唯一、呼吸の音が響くのだった
マキ:すううーーー・・・はぁーーー・・・
マキ:すううーーー・・・
マキ:はぁーーー・・・
0:終わり