台本概要
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タイトル | ラスト・ブラック |
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作者名 | 桜蛇あねり(おうじゃあねり) (@aneri_game_m) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女2) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
これは、ヒト族に忌み嫌われた魔女と、その魔女に拾われ一緒に暮らしてきた一人の男の子のお話。 ヴェント王国で繰り広げられる、ヒト族と魔族の物語。 ※前読み推奨です。 世界観を壊さないアドリブはOKです。 700 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
エルファ | 女 | 96 | 魔法を操ることのできる魔族。ヴェント王国のヒト族から忌み嫌われ、国のはずれの丘で暮らしている。 |
ルシア | 男 | 83 | 幼少のころ、故郷や家族を失った。その時にエルファに救われてから、ずっと一緒に暮らしている。 |
レイゲン | 男 | 59 | ヴェント王国の騎士団長。かつて、ヴェント王国の危機を救った英雄。 |
ソフィア | 女 | 41 | ヴェント王国の姫。魔女エルファのことを邪魔な存在だと思っている。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:ラスト・ブラック
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ルシア:(M)つらい、くるしい、かなしい。周りは黒い炎と苦しみながら息絶えた家族と友達。どうして?どうして?僕らは何も悪いことしてないのに。やめろ、やめろ、僕から奪わないでくれ。仲間を、家を、居場所を........。
ルシア:そんな絶望と孤独の中にいた僕をあなたは救い出してくれた。あなたに命を救われた。
ルシア:だから、僕は。ずっとあなたのそばにいようと、決意したんだ。
:
エルファ:(ナレーション)ここはヴェント王国。ヒト族と呼ばれる者たちが住む大きな国である。そして、国はずれの小さな丘に、ぽつんと建つ小さな家があった。そこには、ヒト族が忌み嫌う魔族の女と、一人の男の子が暮らしていた。
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0:丘
ルシア:先生!先生!エルファ先生!見てください!!
エルファ:なんじゃルシア。騒がしいのぉ。
ルシア:ついに!水の魔法を使えるようになったんです!見てくださいっ!
エルファ:ほう。1番苦手な水の魔法を、とな?
ルシア:はい!ちょうど畑の水やりの時間なので、そこでお見せします!どうぞ!畑へ!
エルファ:わかったわかった、そう急ぐでない。
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ルシア:それではいきますよ。........清き雫(しずく)の泡沫(うたかた)、白の空に集(つど)いて大地を濡らす、散れ、スティーラ!(水が小雨のように、畑全体に降り注ぐ)
エルファ:これは素晴らしい。ルシアの作った雨が畑全てに行き渡っておる。
ルシア:これなら、畑の水やりも一瞬で終わりますよ!
エルファ:よくやったのぅ。まさか水の魔法まで習得してしまうとは。
ルシア:先生の教えのおかげですよ!魔法が使えないと言われるヒト族の僕も、ちゃんと努力すれば魔法は使えるんですね!
エルファ:ふむ、そもそもそのヒト族に対する概念が間違っておる。......この世界の仕組みと魔法については覚えておるか?
ルシア:はい。この世界は、”蛇石(へびいし)”によって創造され、蛇石は生き物が暮らすために必要な自然のエネルギーを常に放出している。そのエネルギーを自在に操るのが魔法、ですよね。
エルファ:そうじゃ。その蛇石のエネルギーはこの世界に生きるもの全てに平等じゃ。わしら魔族でなくても、ヒト族、理解をすれば動物にだって魔法は扱える。ただ、ヒト族は魔法を使うことを禁忌として栄えてきた種族じゃ。そこから、ヒト族は魔法が使えない、と思い込むようになってしまったんじゃ。
ルシア:禁忌........だからヒト族は、魔法を使う魔族を嫌うのですね......。
エルファ:そうじゃ。お主も、街にいる時は魔法を使ってはいけぬぞ。......わしのように迫害の対象となってしまう。
ルシア:.....はい。
エルファ:よし、それじゃあ今夜は腕によりをかけたごちそうにしよう。ルシア、手伝え。
ルシア:はいっ!
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ソフィア:(ナレーション)ここはヴェント王国の中心にあるお城。
:
レイゲン:ソフィア姫。レイゲンです。よろしいでしょうか。
ソフィア:あら、レイゲン。鍵はあいてるわ。どうぞ。
レイゲン:失礼致します。王が、ソフィア姫をお呼びです。私と共にくるように、と。
ソフィア:お父様が?わかったわ。参りましょうか。あなたも一緒に、となると......結婚式のことかもしれないわね。
レイゲン:そうです。式典についてのことでお話したい、と。
ソフィア:ふふ、やっぱり。
レイゲン:いよいよ、ですね、姫。
ソフィア:ねぇ、レイ。今は2人きりよ。名前で呼んで?
レイゲン:いけません。結婚するまでは、私は騎士団長の身分。そして今はまだ職務中です。
ソフィア:真面目なのね。わかったわ、夜まで我慢しましょう。
レイゲン:さぁ、姫。王の元へまいりましょう。
:
ソフィア:この国も、平和になったものね。
レイゲン:はい。私がこの国に来た頃は....それは酷い有様でした。
ソフィア:10年前くらいかしら。魔族からの呪いで土地は痩せて作物は実らず、魔物が街を襲っていたあの頃。その呪いを解いてくれたのが、あなただったのよね、レイゲン。北の遺跡に縛られていた魔女を解放し、呪いを解いた。そして、残った魔物たちを殲滅し、この国には平和が訪れ、発展していった。
レイゲン:懐かしいですね。私はただ、この国を、この国の人たちを、そしてあなたを、護りたかっただけです。
ソフィア:あなたはこの国を救った英雄....そして、じきにこの国の王となる。きっと、この国もさらに発展していくのでしょう。ヒト族の発展は、この世界で1番ですから。
レイゲン:ええ、もちろん、これからですよ、この国も、ヒト族も。魔族に怯え暮らしていた時代はもう終わりです。
ソフィア:ようやく、ヒト族の時代がくるのね。魔法が使えない分、私たちには技術と進化がある......。昔からの魔法に頼っている魔族とは違うのです。
レイゲン:ヒト族は魔族よりも寿命が格段に短い分、世代交代が目まぐるしい。それは、進化のスピードが早いということ。もうすでに、ヒト族の文化は魔族の魔法を超えているでしょう。
ソフィア:魔族が滅んでしまうのも....時間の問題かもしれませんね。
レイゲン:..........さぁ、姫。奥で王がお待ちです。参りましょう。
ソフィア:はい、レイゲン。
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0:丘
エルファ:ルシア。お主も明日でついに20歳か。早いのぉ。
ルシア:はい!ついに僕も、大人の仲間入りです!
エルファ:拾った時はまだこんなに小さかったのにの。あれから、15年も経つのか。
ルシア:先生は…あの頃から全く変わりませんね。
エルファ:魔族は寿命が長いからのぅ。成人してから300年ほど姿は変わらん。
ルシア:…先生にあの地獄から救ってもらったから、今の僕がいる。先生は命の恩人です。
エルファ:.........あれは酷いものじゃった。わしが、もっと早く駆けつけていれば......お主の家族も仲間も......助けられたのかもしれぬ。
ルシア:先生、それは言わない約束ですよ。僕はこうして生きて、あなたと一緒に暮らしている。今はすごく幸せなんです。先生....エルファ先生。僕を救ってくれて、ありがとうございます。
エルファ:あぁ。わしも、わしもな、ルシア。お主と一緒に過ごせて、幸せじゃ。お主に会うまで、わしはずっと1人で生きてきた。ヒト族から忌み嫌われ、居場所もなく、ただ孤独に日々を過ごすだけじゃった。こうやって毎日笑えるのは、ルシアのお陰じゃ。
ルシア:先生...。先生、これからも僕はあなたのそばにいますから。誰になんと言われようと、僕はあなたの味方です。魔法ももっと頑張って身につけて、あなたを守れるようになりますから。だから..........。
エルファ:ありがとう、ルシア。お主は身体だけじゃなく、精神もしっかり成長しておる。......そうじゃ、明日、一緒に街にゆこうか。
ルシア:え、街に....?
エルファ:成人祝いじゃ。なんでも欲しいものを買ってやろう。何か欲しいものは、あるか?
ルシア:あっ......じゃ、じゃあ....その......。
エルファ:なんじゃ、言うてみ。遠慮はいらん。
ルシア:......なにか、身につけるものが欲しいです。エルファ先生が選んだ、なにかアクセサリーが。
エルファ:いいじゃろう。お主に似合うものを選んでやろう。
ルシア:....っ!あ、ありがとうございますっ!!
エルファ:ふふ、そんなに喜んで大げさな....。明日は早い時間から行くとしよう。
ルシア:わかりましたっ!楽しみにしています!それでは先生、おやすみなさい。
エルファ:あぁ、おやすみ。
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0:ヴェント王国城下町
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エルファ:やはりお主には黒色が似合うのぅ。
ルシア:えへへ、ありがとうございます!このブレスレット、一生大事にします!
エルファ:そのブレスレットにあしらわれている石は、魔力を増幅させる力があると言われておる。お主の魔法も少し強化されるかもしれんな。
ルシア:おぉ!それは!ならばこれでもっと強力な魔法を使えるよう鍛錬しますっ!........あ、先生、少し買いたいものがあるので、ここで待っていてもらえますか?
エルファ:ふむ、別にいいが......わしも行かなくて良いのか?
ルシア:はい。時間は取らせません。では、少し行ってきます!
0:ルシア去っていく
エルファ:1人で行動するとは珍しい.....。まぁよい、ここで街でも眺めておこうか。
:
レイゲン:ここに何の用だ、魔女よ。
:
エルファ:......っ!レイ、ゲン......!
レイゲン:忌まわしき魔族が、この俺の名を口にするな。
エルファ:わしはただ買い物に来ただけじゃ。すぐに立ち去る。
レイゲン:生活に必要な物資は届けさせているはずだ。汚らわしい魔族が、ヒト族の王国に立ち入るな!!
エルファ:........すまない、今日だけは見逃してくれぬか。
レイゲン:認めん!お前がいることで、ここに住む人々が怯えるのだ。さっさと立ち去れ!(エルファの腕をつかみ、強引に引っ張る)
エルファ:いっ....!ま、待て、わかった、すぐに立ち去る、離してくれっ!
レイゲン:黙れ。
:
ルシア:やめろっ!!切り裂け、風の刃ラミナ!!(風の魔法がレイゲンを襲う)
:
レイゲン:ぐっ!なんだお前は!
ルシア:先生、お怪我は..?
エルファ:ルシア....なんてことを....!
レイゲン:魔法を使ったな......お前も魔族か!ヒト族に危害を加えた魔族は、倒さねばならない......誰だか知らないが、死んでもらおう!
ルシア:先生を傷つけるのは許さない....!それに僕はヒト族だ!ヒト族だって、魔法を使えるんだよ!
エルファ:ルシア、やめろ、落ち着くんじゃ!
レイゲン:魔法を使う者はみな魔族だ!(剣を抜く)覚悟しろ、忌まわしき悪魔よ!
ルシア:魔族だからってなんなんだ!ヒト族と変わらないだろ!悪く言うな!
レイゲン:ヒト族こそが最も優れた者なのだ!はぁぁぁぁっ!!(剣を振るう)
エルファ:危ないっ!守れ岩壁よ、サクスムっ!(岩壁を作り攻撃を防ぐ)
レイゲン:ちっ!
エルファ:ルシア、走れ!逃げるぞ!
ルシア:だけど....!
エルファ:いいから!
ルシア:......くっ!(2人は走り去る)
:
レイゲン:ふん、逃がしたか。
ソフィア:レイゲン?こんなところにいたのね。.....あれは、魔女?ってレイゲン!腕、傷が!
レイゲン:大丈夫、かすり傷です。
ソフィア:許せないわ....魔族の分際でレイゲンを傷つけるなんて。.......ねぇ、レイゲン。いい加減あの魔女を追放しましょ?なぜいつまでもこの国に住むことを許しているの?
レイゲン:......そう、だな。俺が王になったら......あの魔族どもを殲滅することから始めようか。
ソフィア:えぇ。全力で応援しますわ。
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0:丘
エルファ:ルシア。言うたはずじゃ。街で魔法は使うな、と。
ルシア:しかし!アイツは先生に酷い言葉を投げ、挙句の果てに乱暴までっ!!
エルファ:ルシア!あれは、あの者の言い分が正しい。本来、わしはあの街に立ち入ることを禁ずると、城のヒト族から言われておった。それを破ったのはわしじゃ。
ルシア:そんな......!どうして!僕達はあの街で買い物することさえ許されないのですか!
エルファ:それほどまでに、ヒト族の魔族に対する嫌悪は凄まじいということじゃ。わしがここで生活できているのは、そう言った約束があるからなんじゃよ......。ヒト族の生活圏内に入らないから、ここで暮らさせてくれ、と。
ルシア:......そうまでして、ここで暮らす意味はあるのですか?
エルファ:お主と出会ったからじゃ、ルシア。
ルシア:....え?
エルファ:出会った時はまだ5歳の小さき子だったお主を、良い環境で育てたかった。ここは食料もキレイな水も豊富にあって、気候も穏やかで安全な土地なんじゃ。
ルシア:僕の..ため、ということですか...?
エルファ:言うつもりはなかったんじゃがの。まぁお主ももう大人じゃ。わしがここで暮らすために、現国王といろいろ約束を交わしとる。国から生活のための物資が届くのも、わしがこの国の薬を作り、おさめておるから。そう言った数々の盟約があり、わしらはここで暮らして行けるのじゃ。
ルシア:薬、を?
エルファ:魔族の薬は万病に効く。ヒト族の今の技術では、まだ薬は作れぬからの。
ルシア:待ってください....じゃあ、あの国の民が健康なのは......先生のおかげということですか?
エルファ:そうじゃ。......このことを知るのはわしと現国王だけじゃがな。
ルシア:........先生はそれで良いのですか?あの国を救っているのはあなただ!なのに、なのに......あの国の民はあんな仕打ちを.....っ!
エルファ:わしはあの国に感謝しておる。こうやってわしとルシアが健康でいられるからの。
ルシア:僕は......納得がいかない....っ!
エルファ:ふふ、ルシアよ。わしのために怒ってくれてありがとう。確かに、国の民から嫌われるのは辛いかもしれん。じゃが、わしにはお主がおる。ルシア、お主がおるなら、わしはそれだけで幸せじゃ。
ルシア:先、生......っ!!..........エルファ先生......僕は、大人になったら言おうと思っていたことがあるんです。
エルファ:うむ、聞こう。
ルシア:これを。
(ポケットからペンダントを取り出す)
エルファ:これはこれは。素敵なペンダントじゃのう。わしの好きな、透明な宝石があしらわれておる。
ルシア:僕は....これまで、あなたの弟子としてそばに居ました。毎日が幸せです。........でも、僕は......あなたの後ろをついていくのではなく......あなたの隣で......弟子ではなく、1人の男として見て欲しいんです!お願いです、僕を男として、そばにおいてください......エルファ先生、あなたを愛しています。このペンダントを....受け取ってください。
エルファ:..........愛、か。ルシアよ。立派になったのぅ。本当に、素敵な男になった。このペンダントは受け取ろう。
ルシア:....っ!先生っ!
エルファ:じゃがな、ルシア。わしは、愛というものがわからぬまま、これまで過ごしてきた。孤独に、独りで。じゃから、お主の愛を、受け止め切れるのか、そしてそれを返せるのか、わからぬのじゃ。すぐに返事が出来なくてすまぬが......少し、待ってくれぬか?
ルシア:もちろんです。僕はずっと待ちます。僕の気持ちはずっと変わりませんから。この気持ちを受け取って貰えただけで、僕は幸せです.....!
エルファ:ふふ......ルシア、こっちに来い。
ルシア:は、はい......!(ルシアはエルファの隣に座る)
エルファ:愛、かは分からんが、わしはお主のこと、好いてはおる。いつもわしに幸せをくれて、ありがとう。(そっと口にキスをする)
ルシア:.........っ!!あっ......先、......
エルファ:名前で呼ぶことを許そう。弟子は嫌なんじゃろう?
ルシア:............エ、エル.....エルファ.....。
エルファ:お主に名前を呼ばれるのも、悪くないのぉ。さぁ。もっと近くへ。
ルシア:エルファ......っ!
:
0:ヴェント王国城
レイゲン:(ノック音)入るぞ、ソフィ。
ソフィア:どうぞ、レイ。
レイゲン:遅くなったな。悪い。
ソフィア:ふふ、じゃあお詫びのキス、して?
レイゲン:いつもそれをねだるよな、甘えん坊のお姫様。
0:(2人は軽く口付けを交わす)
ソフィア:ようやく、私たちの結婚式とあなたの戴冠式の日程が決まったわね。
レイゲン:あぁ。1ヶ月後......第3のソルの日だ。その日に、ようやく夫婦となれる。
ソフィア:そして新たな王、レイゲン・ヴェント王の統治が始まるのね。あぁ、あなたの妻として支える毎日が待ち遠しいわ。
レイゲン:今の国王に負けないくらい、良い国にしてみせるさ。
ソフィア:ふふふ、それは頼もしいわ。お父様も素敵な王ですが…一つだけ、わからないことがあるの。
レイゲン:……魔女のことか。
ソフィア:ええ。魔族はこの国には不要。早く殲滅して欲しいのに、お父様は“何も殺すことはない”の一点張り…。あの魔女が、いつその魔力を暴走させてこの国の人を襲うかわからないのに。
レイゲン:あんな魔女ごときに、俺らが遅れをとることはない。…だがまぁ、ソフィのように不安に思う民もいるだろう。俺が王になったら、なんとかしよう。
ソフィア:ふふっ!約束よ!魔族なんて、この世界にはいらない。滅ぼしましょう、共に。
レイゲン:そうだな。……さ、せっかくの甘い夜なんだ。他の女の話はこれくらいにしよう。
ソフィア:そうね。レイ、愛しているわ。
レイゲン:……ありがとう。(2人は口付けを交わす)好きだ、ソフィ。
ソフィア:……また、それ。あなたは“愛してる“って言ってくれないのね。
レイゲン:悪い、まだ俺にはその”愛“という感情がわからない。そんな不明瞭な気持ちのまま、君に言いたくないだけだ。”好き“という感情はわかるのに。
ソフィア:真面目ね、レイは本当に。…いいわ、これからたくさん私があなたを愛して、教えてあげる。
レイゲン:あぁ、教えてくれ、ソフィ。
:
0:丘
ルシア:(M)あぁ、僕は幸せだ…。こんなに満たされた幸せな夜は初めてだ。夜は好きではなかった。あの日、僕を、僕の故郷を襲ったのは黒い炎だったから、それを思い出してしまう。でも、あなたと…エルファと出会って、その恐怖は小さくなっていった。その代わり、大きくなっていったあなたへの想い。それを伝えることができた。…まだ、エルファは僕のことを男として見られないかもしれないけど、少しづつでいい。あなたに見てもらえるよう、努力しよう。今、隣にはあなたが寝ている。僕の思い上がりかもしれないが、とても幸せそうに。あなたの幸せは、必ず僕が守るから、だから…
エルファ:……っ!…う、あ…っ!(苦しそうにうめき始める)
ルシア:せんせ…エルファ!?
エルファ:あ、あ…あああああっ!!
ルシア:エルファ!どうしたんですか!?エルファ!!起きて!エルファ!!
エルファ:あああああっ!…っ!…はぁ、はぁ…っ!ルシ、ア…?
ルシア:エルファ、大丈夫?悪い夢…?
エルファ:……夢、そうじゃ、夢…。
ルシア:大丈夫、僕がいるから。ここは現実。
エルファ:違うんじゃ、ルシア…。この夢…この感覚…これは予知、じゃ。
ルシア:予知…?
エルファ:この国に、災厄が起こる…。
ルシア:えっ!?
エルファ:どんな災厄までかはわからんが…国が滅びてしまう規模の災厄が…!
ルシア:災厄…!?そ、それはいったい…!
エルファ:いつじゃ……この日は…第3のソルの日…!一月(ひとつき)後!
ルシア:一月、後……?まだ、時間はあります、エルファ、ここから逃げよう!
エルファ:ダメじゃ!この国を守らねば…!
ルシア:でもっ!この国はっ!
エルファ:ルシア!
ルシア:…っ!
エルファ:この国は、わしらに、生活をくれたのじゃ。その恩恵を、忘れてはならぬ。
ルシア:……わかり、ました。エルファと過ごしたこの土地…僕も、僕もまもります!
エルファ:ありがとう、ルシア。わしとお主の魔力を使えば、この国を守るための魔法陣を作ることができるじゃろう。災厄の日までの一月(ひとつき)で完成させるぞ!わしらの居場所を、守るのじゃ!
ルシア:はいっ!
:
ソフィア:(ナレーション)そして、1ヶ月の時が経ち、ついに第3のソルの日がやってきました。
:
0:丘
エルファ:ついに…この日が来た。
ルシア:魔法陣、完成、しましたね…。
エルファ:今日は街が騒がしい…なにか祭典でもやっておるのかもしれぬな。
ルシア:……彼らの平和を、護りましょう。
エルファ:あぁ。必ず成功させよう。ルシア、発動を頼めるか。
ルシア:はい。
エルファ:わしはエネルギーがぶれないよう、バランスを保つ。何も考えなくてよい、自分の持てる最大の魔力で発動させてくれ。
ルシア:わかりました。それでは、いきます…!
エルファ:頼むぞ…!
ルシア:大地よ、海よ、大空よ!我が力を糧とし、この国を護りたまえ…!ディレ・マギア!
:
:
0:ヴェント王国城
ソフィア:あぁ、見てください、レイゲン。国中の人が、私たちを祝福しておりますわ。
レイゲン:嬉しいことです。こんなにも、我々は街の人々から愛されているのかと実感できます。
ソフィア:この国が平和に、そして幸せになったのは、あなたのおかげよ、レイゲン。あなたこそ、この国の王にふさわしい。
レイゲン:もったいないお言葉。皆の期待に恥じぬよう、これからは王としてこの国を導いていきましょう。
ソフィア:ふふっ、そんなに固くならないで。あなたは王でもあるけれど、私の夫でもあるのよ。
レイゲン:そうだな。あぁ、今日は一段と美しいよ、ソフィ。ウェディングドレス、似合っている。
ソフィア:ありがとう、嬉しい!さぁ、みんな待っているわ。いきましょう、レイ。今日は最高の日だわ。
レイゲン:あぁ、最高の日にしよう。
:
:
0:丘
ルシア:エルファ.........?なにか様子がおかしくないですか......?なんていうか、禍々しいというか、嫌な感じが.........する......。
エルファ:問題ない。そろそろ準備も整う頃じゃ。.........さて、仕上げといこうか。(ルシアを魔法陣の中へ突き落とす)
ルシア:えっ......?う、うわぁぁぁっ!!
エルファ:お主の黒の魔力を持って、この魔法陣は完成する。すまぬが、生贄となってくれ、ルシアよ。
ルシア:な、なんだこれっ!魔法陣の黒い炎が巻きついて....っ!エルファっ!これはどういう……ぐあっ....く、くるし....
エルファ:これは、国を救う魔法陣ではない。........国を焼き尽くす魔法陣じゃ。
ルシア:なに......を....?
エルファ:わしはの、ルシア。あの国のヒト族に家族を、故郷を、尊厳を、奪われたのじゃ。わしの全てを、あの国は奪った。
ルシア:えっ?
エルファ:じゃから、わしはあいつらを絶望の底へたたき落として滅ぼしてやろうとずっと準備してきたんじゃ。この魔法陣は、お主に会う前から完成していた。じゃが、発動に必要なものが足りず、ずっと探しておった。そして、お主を見つけた。この魔法陣を発動させるために必要なお主を。
ルシア:僕、が。魔法陣を発動させるために必要?
エルファ:ルシア。お主はヒト族ではない。お主は黒族(くろぞく)の生き残り、闇の魔力を有し他者の絶望を原動力とする魔族、黒族のな。
ルシア:なん、だって....?黒、族?
エルファ:15年前。黒族の住む集落...お主の故郷をとある国のヒト族が殲滅しようと戦争を起こした。黒族は壊滅に追い込まれ、ヒト族が勝利かと思われた時、1人の魔力が暴走し、敵味方関係なく、その集落を絶望の黒い炎で覆い尽くした。その1人を除き、黒族もヒト族もみーんな死んでしもうた。
ルシア:....まさか、その、その1人が...。
エルファ:そう、お主じゃ、ルシア。
ルシア:僕が、故郷を、滅ぼした....?
エルファ:その絶大な黒の魔力。絶望を増幅させ、吸収し、魔力とする力。それが、お主の力じゃ。そして、この魔法陣の発動に必要なのが、膨大な黒の魔力と絶望。
ルシア:そんな......。………じゃあ、僕を拾ってくれたのも、育ててくれたのも......一緒に過ごした15年間も.....全てこの時のため..?
エルファ:そうじゃ。お主が成人するまで、しっかりその魔力を鍛えてやった。そして、時は満ちた。
ルシア:......っ!僕にくれた優しい言葉も、笑顔も、そしてあの......口付けも......全部嘘だったんですか......?
エルファ:1番の要(かなめ)となるのがお主の絶望じゃ。お主の絶望が増幅すればするほど、この黒い炎は威力を増す。全て、この時のためじゃ。
ルシア:......っ!!僕はあなたのことを本気で愛していたのにっ!
エルファ:あぁ。お主の想いはちゃんと届いておる。じゃがの........おっと、そろそろ準備が出来た頃じゃ。ルシア、しばし苦しいじゃろうが、耐えてくれ。
:
:
0:ヴェント王国城
ソフィア:みなさん!本日は、私たちの祝福の日、そして新たな王の誕生の日です!ここ、ヴェント王国が平和に、豊かに栄えてこられたのは、紛れもない、ヴェントの英雄、レイゲンのおかげです!
0:(歓声があがる)
ソフィア:さぁ、レイゲン。みなに挨拶を。
レイゲン:あぁ。……ヴェント王国の民よ!今日、私、レイゲンは!この国をさらなる繁栄に導く、王となる!……私はもとはこの国をまもる騎士の1人に過ぎなかった。王としての責務を全うできるか、些(いささ)か不安ではある。だから!ヴェント王国の民よ!みなの協力が必要だ!私に力を貸してくれ…!共に、ヴェント王国を良き国にしていこう!
0:(歓声があがる)
ソフィア:あぁ…素晴らしいですわ。今、この国は皆の思いが一つになっている…。これこそ、最高の王国の形ですわ……。
レイゲン:今日というこの日を、どれだけ待ち侘びたことか…!王になった今、私にはまず成すべき事がある!それは!
:
レイゲン:この国の殲滅だ。
:
0:(歓声が止む)
ソフィア:……え?
0:(突然黒い炎が、街を覆い尽くす)
:
ソフィア:な、なんですの!?これは…っ!黒い…炎…?
レイゲン:さぁ、絶望の始まりだ。
ソフィア:レイ!これはなに!?
レイゲン:見ての通りだ。今からこの国を滅ぼす。
ソフィア:何を言っているの!?レイ、あなたは一体…?(黒い炎がソフィアを襲う)…あぁっ!炎が、ここ、にまで…くっ…レイ、たすけ…
レイゲン:ソフィ。お前は前に、「どうして愛してると言わないのか」と聞いたな。
ソフィア:レ…イ…?
レイゲン:理由は一つ。俺が愛しているのは、この世界で1人しかいないからだ。
ソフィア:……っ!?
レイゲン:俺は、かつて、ヒト族に故郷を奪われた……魔族。
ソフィア:レイ、が……魔族…?…あ、ああぁ…(黒い炎の威力が増していく)
レイゲン:仕上げだ。
:
エルファ:始めよう、絶望の儀式を。……黒き星が地に堕ちて
:
レイゲン:黒の輝きは世界を統べる
:
エルファ:暗黒の地と化した大地に
:
レイゲン:絶望よよみがえれ
:
エルファ:闇と終焉(しゅうえん)の焔(ほむら)は全てを包み
:
レイゲン:厭世(えんせい)に満ちた魂を捧げよ
:
エルファ:ラスト・ブラック
レイゲン:ラスト・ブラック
:
ソフィア:いやあああああああっ!!!
ルシア:ぐああぁぁぁぁぁぁっ!!!
:
エルファ:絶景じゃのう。黒い炎が、国を焼き尽くしておる。
ルシア:あああああっ!!
エルファ:話の途中であったな。ルシア、お主の想いはちゃんと受け取っておる。わしのことをどれだけ愛してくれていたかもわかっておる。じゃがの、わしはお主を愛することはできん。なぜなら……
レイゲン:彼女が愛しているのはこの俺だから、さ。
エルファ:レイゲン。早かったのぅ。
ルシア:あ…あ……エル…ファ……。
エルファ:わしとレイゲンは同じ故郷で生まれ育った魔族、そして……レイゲンは、わしの夫じゃ。
ルシア:…な…そん…な…あ…あ…あぁ……
エルファ:さよならじゃ、ルシア。この国を焼き尽くすための絶望となってくれ。
ルシア:あぁぁぁぁぁぁぁ……!
:
レイゲン:やっと終わったな。……おや、そのペンダントは?
エルファ:ルシアからもらったものじゃ。彼の気持ちと共にな。
レイゲン:なんだ、情でもうつったか?
エルファ:……あぁ。久しぶりに、燃え上がる恋というものを経験した。
レイゲン:それはそれは、お楽しみだったようだな。身体は重ねたのか?
エルファ:それは秘密じゃ。そういうお前こそどうなんじゃ。あのお姫様に絆(ほだ)されたのではないか?
レイゲン:ま、身体の相性は最高だったな。あれをもう味わえないかと思うと少し寂しい。
エルファ:ふん、クズめ。
レイゲン:それはお互い様、だろ?
エルファ:いくぞ。今回ので十分な絶望の生贄を捧げられた。“黒蛇(くろへび)様”もお目覚めになるじゃろう。
レイゲン:そうだな。帰ろうか。
エルファ:あぁ。…ヒト族の終わりも、すぐそこじゃ。
:
0:終
0:ラスト・ブラック
:
ルシア:(M)つらい、くるしい、かなしい。周りは黒い炎と苦しみながら息絶えた家族と友達。どうして?どうして?僕らは何も悪いことしてないのに。やめろ、やめろ、僕から奪わないでくれ。仲間を、家を、居場所を........。
ルシア:そんな絶望と孤独の中にいた僕をあなたは救い出してくれた。あなたに命を救われた。
ルシア:だから、僕は。ずっとあなたのそばにいようと、決意したんだ。
:
エルファ:(ナレーション)ここはヴェント王国。ヒト族と呼ばれる者たちが住む大きな国である。そして、国はずれの小さな丘に、ぽつんと建つ小さな家があった。そこには、ヒト族が忌み嫌う魔族の女と、一人の男の子が暮らしていた。
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0:丘
ルシア:先生!先生!エルファ先生!見てください!!
エルファ:なんじゃルシア。騒がしいのぉ。
ルシア:ついに!水の魔法を使えるようになったんです!見てくださいっ!
エルファ:ほう。1番苦手な水の魔法を、とな?
ルシア:はい!ちょうど畑の水やりの時間なので、そこでお見せします!どうぞ!畑へ!
エルファ:わかったわかった、そう急ぐでない。
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ルシア:それではいきますよ。........清き雫(しずく)の泡沫(うたかた)、白の空に集(つど)いて大地を濡らす、散れ、スティーラ!(水が小雨のように、畑全体に降り注ぐ)
エルファ:これは素晴らしい。ルシアの作った雨が畑全てに行き渡っておる。
ルシア:これなら、畑の水やりも一瞬で終わりますよ!
エルファ:よくやったのぅ。まさか水の魔法まで習得してしまうとは。
ルシア:先生の教えのおかげですよ!魔法が使えないと言われるヒト族の僕も、ちゃんと努力すれば魔法は使えるんですね!
エルファ:ふむ、そもそもそのヒト族に対する概念が間違っておる。......この世界の仕組みと魔法については覚えておるか?
ルシア:はい。この世界は、”蛇石(へびいし)”によって創造され、蛇石は生き物が暮らすために必要な自然のエネルギーを常に放出している。そのエネルギーを自在に操るのが魔法、ですよね。
エルファ:そうじゃ。その蛇石のエネルギーはこの世界に生きるもの全てに平等じゃ。わしら魔族でなくても、ヒト族、理解をすれば動物にだって魔法は扱える。ただ、ヒト族は魔法を使うことを禁忌として栄えてきた種族じゃ。そこから、ヒト族は魔法が使えない、と思い込むようになってしまったんじゃ。
ルシア:禁忌........だからヒト族は、魔法を使う魔族を嫌うのですね......。
エルファ:そうじゃ。お主も、街にいる時は魔法を使ってはいけぬぞ。......わしのように迫害の対象となってしまう。
ルシア:.....はい。
エルファ:よし、それじゃあ今夜は腕によりをかけたごちそうにしよう。ルシア、手伝え。
ルシア:はいっ!
:
ソフィア:(ナレーション)ここはヴェント王国の中心にあるお城。
:
レイゲン:ソフィア姫。レイゲンです。よろしいでしょうか。
ソフィア:あら、レイゲン。鍵はあいてるわ。どうぞ。
レイゲン:失礼致します。王が、ソフィア姫をお呼びです。私と共にくるように、と。
ソフィア:お父様が?わかったわ。参りましょうか。あなたも一緒に、となると......結婚式のことかもしれないわね。
レイゲン:そうです。式典についてのことでお話したい、と。
ソフィア:ふふ、やっぱり。
レイゲン:いよいよ、ですね、姫。
ソフィア:ねぇ、レイ。今は2人きりよ。名前で呼んで?
レイゲン:いけません。結婚するまでは、私は騎士団長の身分。そして今はまだ職務中です。
ソフィア:真面目なのね。わかったわ、夜まで我慢しましょう。
レイゲン:さぁ、姫。王の元へまいりましょう。
:
ソフィア:この国も、平和になったものね。
レイゲン:はい。私がこの国に来た頃は....それは酷い有様でした。
ソフィア:10年前くらいかしら。魔族からの呪いで土地は痩せて作物は実らず、魔物が街を襲っていたあの頃。その呪いを解いてくれたのが、あなただったのよね、レイゲン。北の遺跡に縛られていた魔女を解放し、呪いを解いた。そして、残った魔物たちを殲滅し、この国には平和が訪れ、発展していった。
レイゲン:懐かしいですね。私はただ、この国を、この国の人たちを、そしてあなたを、護りたかっただけです。
ソフィア:あなたはこの国を救った英雄....そして、じきにこの国の王となる。きっと、この国もさらに発展していくのでしょう。ヒト族の発展は、この世界で1番ですから。
レイゲン:ええ、もちろん、これからですよ、この国も、ヒト族も。魔族に怯え暮らしていた時代はもう終わりです。
ソフィア:ようやく、ヒト族の時代がくるのね。魔法が使えない分、私たちには技術と進化がある......。昔からの魔法に頼っている魔族とは違うのです。
レイゲン:ヒト族は魔族よりも寿命が格段に短い分、世代交代が目まぐるしい。それは、進化のスピードが早いということ。もうすでに、ヒト族の文化は魔族の魔法を超えているでしょう。
ソフィア:魔族が滅んでしまうのも....時間の問題かもしれませんね。
レイゲン:..........さぁ、姫。奥で王がお待ちです。参りましょう。
ソフィア:はい、レイゲン。
:
0:丘
エルファ:ルシア。お主も明日でついに20歳か。早いのぉ。
ルシア:はい!ついに僕も、大人の仲間入りです!
エルファ:拾った時はまだこんなに小さかったのにの。あれから、15年も経つのか。
ルシア:先生は…あの頃から全く変わりませんね。
エルファ:魔族は寿命が長いからのぅ。成人してから300年ほど姿は変わらん。
ルシア:…先生にあの地獄から救ってもらったから、今の僕がいる。先生は命の恩人です。
エルファ:.........あれは酷いものじゃった。わしが、もっと早く駆けつけていれば......お主の家族も仲間も......助けられたのかもしれぬ。
ルシア:先生、それは言わない約束ですよ。僕はこうして生きて、あなたと一緒に暮らしている。今はすごく幸せなんです。先生....エルファ先生。僕を救ってくれて、ありがとうございます。
エルファ:あぁ。わしも、わしもな、ルシア。お主と一緒に過ごせて、幸せじゃ。お主に会うまで、わしはずっと1人で生きてきた。ヒト族から忌み嫌われ、居場所もなく、ただ孤独に日々を過ごすだけじゃった。こうやって毎日笑えるのは、ルシアのお陰じゃ。
ルシア:先生...。先生、これからも僕はあなたのそばにいますから。誰になんと言われようと、僕はあなたの味方です。魔法ももっと頑張って身につけて、あなたを守れるようになりますから。だから..........。
エルファ:ありがとう、ルシア。お主は身体だけじゃなく、精神もしっかり成長しておる。......そうじゃ、明日、一緒に街にゆこうか。
ルシア:え、街に....?
エルファ:成人祝いじゃ。なんでも欲しいものを買ってやろう。何か欲しいものは、あるか?
ルシア:あっ......じゃ、じゃあ....その......。
エルファ:なんじゃ、言うてみ。遠慮はいらん。
ルシア:......なにか、身につけるものが欲しいです。エルファ先生が選んだ、なにかアクセサリーが。
エルファ:いいじゃろう。お主に似合うものを選んでやろう。
ルシア:....っ!あ、ありがとうございますっ!!
エルファ:ふふ、そんなに喜んで大げさな....。明日は早い時間から行くとしよう。
ルシア:わかりましたっ!楽しみにしています!それでは先生、おやすみなさい。
エルファ:あぁ、おやすみ。
:
0:ヴェント王国城下町
:
エルファ:やはりお主には黒色が似合うのぅ。
ルシア:えへへ、ありがとうございます!このブレスレット、一生大事にします!
エルファ:そのブレスレットにあしらわれている石は、魔力を増幅させる力があると言われておる。お主の魔法も少し強化されるかもしれんな。
ルシア:おぉ!それは!ならばこれでもっと強力な魔法を使えるよう鍛錬しますっ!........あ、先生、少し買いたいものがあるので、ここで待っていてもらえますか?
エルファ:ふむ、別にいいが......わしも行かなくて良いのか?
ルシア:はい。時間は取らせません。では、少し行ってきます!
0:ルシア去っていく
エルファ:1人で行動するとは珍しい.....。まぁよい、ここで街でも眺めておこうか。
:
レイゲン:ここに何の用だ、魔女よ。
:
エルファ:......っ!レイ、ゲン......!
レイゲン:忌まわしき魔族が、この俺の名を口にするな。
エルファ:わしはただ買い物に来ただけじゃ。すぐに立ち去る。
レイゲン:生活に必要な物資は届けさせているはずだ。汚らわしい魔族が、ヒト族の王国に立ち入るな!!
エルファ:........すまない、今日だけは見逃してくれぬか。
レイゲン:認めん!お前がいることで、ここに住む人々が怯えるのだ。さっさと立ち去れ!(エルファの腕をつかみ、強引に引っ張る)
エルファ:いっ....!ま、待て、わかった、すぐに立ち去る、離してくれっ!
レイゲン:黙れ。
:
ルシア:やめろっ!!切り裂け、風の刃ラミナ!!(風の魔法がレイゲンを襲う)
:
レイゲン:ぐっ!なんだお前は!
ルシア:先生、お怪我は..?
エルファ:ルシア....なんてことを....!
レイゲン:魔法を使ったな......お前も魔族か!ヒト族に危害を加えた魔族は、倒さねばならない......誰だか知らないが、死んでもらおう!
ルシア:先生を傷つけるのは許さない....!それに僕はヒト族だ!ヒト族だって、魔法を使えるんだよ!
エルファ:ルシア、やめろ、落ち着くんじゃ!
レイゲン:魔法を使う者はみな魔族だ!(剣を抜く)覚悟しろ、忌まわしき悪魔よ!
ルシア:魔族だからってなんなんだ!ヒト族と変わらないだろ!悪く言うな!
レイゲン:ヒト族こそが最も優れた者なのだ!はぁぁぁぁっ!!(剣を振るう)
エルファ:危ないっ!守れ岩壁よ、サクスムっ!(岩壁を作り攻撃を防ぐ)
レイゲン:ちっ!
エルファ:ルシア、走れ!逃げるぞ!
ルシア:だけど....!
エルファ:いいから!
ルシア:......くっ!(2人は走り去る)
:
レイゲン:ふん、逃がしたか。
ソフィア:レイゲン?こんなところにいたのね。.....あれは、魔女?ってレイゲン!腕、傷が!
レイゲン:大丈夫、かすり傷です。
ソフィア:許せないわ....魔族の分際でレイゲンを傷つけるなんて。.......ねぇ、レイゲン。いい加減あの魔女を追放しましょ?なぜいつまでもこの国に住むことを許しているの?
レイゲン:......そう、だな。俺が王になったら......あの魔族どもを殲滅することから始めようか。
ソフィア:えぇ。全力で応援しますわ。
:
0:丘
エルファ:ルシア。言うたはずじゃ。街で魔法は使うな、と。
ルシア:しかし!アイツは先生に酷い言葉を投げ、挙句の果てに乱暴までっ!!
エルファ:ルシア!あれは、あの者の言い分が正しい。本来、わしはあの街に立ち入ることを禁ずると、城のヒト族から言われておった。それを破ったのはわしじゃ。
ルシア:そんな......!どうして!僕達はあの街で買い物することさえ許されないのですか!
エルファ:それほどまでに、ヒト族の魔族に対する嫌悪は凄まじいということじゃ。わしがここで生活できているのは、そう言った約束があるからなんじゃよ......。ヒト族の生活圏内に入らないから、ここで暮らさせてくれ、と。
ルシア:......そうまでして、ここで暮らす意味はあるのですか?
エルファ:お主と出会ったからじゃ、ルシア。
ルシア:....え?
エルファ:出会った時はまだ5歳の小さき子だったお主を、良い環境で育てたかった。ここは食料もキレイな水も豊富にあって、気候も穏やかで安全な土地なんじゃ。
ルシア:僕の..ため、ということですか...?
エルファ:言うつもりはなかったんじゃがの。まぁお主ももう大人じゃ。わしがここで暮らすために、現国王といろいろ約束を交わしとる。国から生活のための物資が届くのも、わしがこの国の薬を作り、おさめておるから。そう言った数々の盟約があり、わしらはここで暮らして行けるのじゃ。
ルシア:薬、を?
エルファ:魔族の薬は万病に効く。ヒト族の今の技術では、まだ薬は作れぬからの。
ルシア:待ってください....じゃあ、あの国の民が健康なのは......先生のおかげということですか?
エルファ:そうじゃ。......このことを知るのはわしと現国王だけじゃがな。
ルシア:........先生はそれで良いのですか?あの国を救っているのはあなただ!なのに、なのに......あの国の民はあんな仕打ちを.....っ!
エルファ:わしはあの国に感謝しておる。こうやってわしとルシアが健康でいられるからの。
ルシア:僕は......納得がいかない....っ!
エルファ:ふふ、ルシアよ。わしのために怒ってくれてありがとう。確かに、国の民から嫌われるのは辛いかもしれん。じゃが、わしにはお主がおる。ルシア、お主がおるなら、わしはそれだけで幸せじゃ。
ルシア:先、生......っ!!..........エルファ先生......僕は、大人になったら言おうと思っていたことがあるんです。
エルファ:うむ、聞こう。
ルシア:これを。
(ポケットからペンダントを取り出す)
エルファ:これはこれは。素敵なペンダントじゃのう。わしの好きな、透明な宝石があしらわれておる。
ルシア:僕は....これまで、あなたの弟子としてそばに居ました。毎日が幸せです。........でも、僕は......あなたの後ろをついていくのではなく......あなたの隣で......弟子ではなく、1人の男として見て欲しいんです!お願いです、僕を男として、そばにおいてください......エルファ先生、あなたを愛しています。このペンダントを....受け取ってください。
エルファ:..........愛、か。ルシアよ。立派になったのぅ。本当に、素敵な男になった。このペンダントは受け取ろう。
ルシア:....っ!先生っ!
エルファ:じゃがな、ルシア。わしは、愛というものがわからぬまま、これまで過ごしてきた。孤独に、独りで。じゃから、お主の愛を、受け止め切れるのか、そしてそれを返せるのか、わからぬのじゃ。すぐに返事が出来なくてすまぬが......少し、待ってくれぬか?
ルシア:もちろんです。僕はずっと待ちます。僕の気持ちはずっと変わりませんから。この気持ちを受け取って貰えただけで、僕は幸せです.....!
エルファ:ふふ......ルシア、こっちに来い。
ルシア:は、はい......!(ルシアはエルファの隣に座る)
エルファ:愛、かは分からんが、わしはお主のこと、好いてはおる。いつもわしに幸せをくれて、ありがとう。(そっと口にキスをする)
ルシア:.........っ!!あっ......先、......
エルファ:名前で呼ぶことを許そう。弟子は嫌なんじゃろう?
ルシア:............エ、エル.....エルファ.....。
エルファ:お主に名前を呼ばれるのも、悪くないのぉ。さぁ。もっと近くへ。
ルシア:エルファ......っ!
:
0:ヴェント王国城
レイゲン:(ノック音)入るぞ、ソフィ。
ソフィア:どうぞ、レイ。
レイゲン:遅くなったな。悪い。
ソフィア:ふふ、じゃあお詫びのキス、して?
レイゲン:いつもそれをねだるよな、甘えん坊のお姫様。
0:(2人は軽く口付けを交わす)
ソフィア:ようやく、私たちの結婚式とあなたの戴冠式の日程が決まったわね。
レイゲン:あぁ。1ヶ月後......第3のソルの日だ。その日に、ようやく夫婦となれる。
ソフィア:そして新たな王、レイゲン・ヴェント王の統治が始まるのね。あぁ、あなたの妻として支える毎日が待ち遠しいわ。
レイゲン:今の国王に負けないくらい、良い国にしてみせるさ。
ソフィア:ふふふ、それは頼もしいわ。お父様も素敵な王ですが…一つだけ、わからないことがあるの。
レイゲン:……魔女のことか。
ソフィア:ええ。魔族はこの国には不要。早く殲滅して欲しいのに、お父様は“何も殺すことはない”の一点張り…。あの魔女が、いつその魔力を暴走させてこの国の人を襲うかわからないのに。
レイゲン:あんな魔女ごときに、俺らが遅れをとることはない。…だがまぁ、ソフィのように不安に思う民もいるだろう。俺が王になったら、なんとかしよう。
ソフィア:ふふっ!約束よ!魔族なんて、この世界にはいらない。滅ぼしましょう、共に。
レイゲン:そうだな。……さ、せっかくの甘い夜なんだ。他の女の話はこれくらいにしよう。
ソフィア:そうね。レイ、愛しているわ。
レイゲン:……ありがとう。(2人は口付けを交わす)好きだ、ソフィ。
ソフィア:……また、それ。あなたは“愛してる“って言ってくれないのね。
レイゲン:悪い、まだ俺にはその”愛“という感情がわからない。そんな不明瞭な気持ちのまま、君に言いたくないだけだ。”好き“という感情はわかるのに。
ソフィア:真面目ね、レイは本当に。…いいわ、これからたくさん私があなたを愛して、教えてあげる。
レイゲン:あぁ、教えてくれ、ソフィ。
:
0:丘
ルシア:(M)あぁ、僕は幸せだ…。こんなに満たされた幸せな夜は初めてだ。夜は好きではなかった。あの日、僕を、僕の故郷を襲ったのは黒い炎だったから、それを思い出してしまう。でも、あなたと…エルファと出会って、その恐怖は小さくなっていった。その代わり、大きくなっていったあなたへの想い。それを伝えることができた。…まだ、エルファは僕のことを男として見られないかもしれないけど、少しづつでいい。あなたに見てもらえるよう、努力しよう。今、隣にはあなたが寝ている。僕の思い上がりかもしれないが、とても幸せそうに。あなたの幸せは、必ず僕が守るから、だから…
エルファ:……っ!…う、あ…っ!(苦しそうにうめき始める)
ルシア:せんせ…エルファ!?
エルファ:あ、あ…あああああっ!!
ルシア:エルファ!どうしたんですか!?エルファ!!起きて!エルファ!!
エルファ:あああああっ!…っ!…はぁ、はぁ…っ!ルシ、ア…?
ルシア:エルファ、大丈夫?悪い夢…?
エルファ:……夢、そうじゃ、夢…。
ルシア:大丈夫、僕がいるから。ここは現実。
エルファ:違うんじゃ、ルシア…。この夢…この感覚…これは予知、じゃ。
ルシア:予知…?
エルファ:この国に、災厄が起こる…。
ルシア:えっ!?
エルファ:どんな災厄までかはわからんが…国が滅びてしまう規模の災厄が…!
ルシア:災厄…!?そ、それはいったい…!
エルファ:いつじゃ……この日は…第3のソルの日…!一月(ひとつき)後!
ルシア:一月、後……?まだ、時間はあります、エルファ、ここから逃げよう!
エルファ:ダメじゃ!この国を守らねば…!
ルシア:でもっ!この国はっ!
エルファ:ルシア!
ルシア:…っ!
エルファ:この国は、わしらに、生活をくれたのじゃ。その恩恵を、忘れてはならぬ。
ルシア:……わかり、ました。エルファと過ごしたこの土地…僕も、僕もまもります!
エルファ:ありがとう、ルシア。わしとお主の魔力を使えば、この国を守るための魔法陣を作ることができるじゃろう。災厄の日までの一月(ひとつき)で完成させるぞ!わしらの居場所を、守るのじゃ!
ルシア:はいっ!
:
ソフィア:(ナレーション)そして、1ヶ月の時が経ち、ついに第3のソルの日がやってきました。
:
0:丘
エルファ:ついに…この日が来た。
ルシア:魔法陣、完成、しましたね…。
エルファ:今日は街が騒がしい…なにか祭典でもやっておるのかもしれぬな。
ルシア:……彼らの平和を、護りましょう。
エルファ:あぁ。必ず成功させよう。ルシア、発動を頼めるか。
ルシア:はい。
エルファ:わしはエネルギーがぶれないよう、バランスを保つ。何も考えなくてよい、自分の持てる最大の魔力で発動させてくれ。
ルシア:わかりました。それでは、いきます…!
エルファ:頼むぞ…!
ルシア:大地よ、海よ、大空よ!我が力を糧とし、この国を護りたまえ…!ディレ・マギア!
:
:
0:ヴェント王国城
ソフィア:あぁ、見てください、レイゲン。国中の人が、私たちを祝福しておりますわ。
レイゲン:嬉しいことです。こんなにも、我々は街の人々から愛されているのかと実感できます。
ソフィア:この国が平和に、そして幸せになったのは、あなたのおかげよ、レイゲン。あなたこそ、この国の王にふさわしい。
レイゲン:もったいないお言葉。皆の期待に恥じぬよう、これからは王としてこの国を導いていきましょう。
ソフィア:ふふっ、そんなに固くならないで。あなたは王でもあるけれど、私の夫でもあるのよ。
レイゲン:そうだな。あぁ、今日は一段と美しいよ、ソフィ。ウェディングドレス、似合っている。
ソフィア:ありがとう、嬉しい!さぁ、みんな待っているわ。いきましょう、レイ。今日は最高の日だわ。
レイゲン:あぁ、最高の日にしよう。
:
:
0:丘
ルシア:エルファ.........?なにか様子がおかしくないですか......?なんていうか、禍々しいというか、嫌な感じが.........する......。
エルファ:問題ない。そろそろ準備も整う頃じゃ。.........さて、仕上げといこうか。(ルシアを魔法陣の中へ突き落とす)
ルシア:えっ......?う、うわぁぁぁっ!!
エルファ:お主の黒の魔力を持って、この魔法陣は完成する。すまぬが、生贄となってくれ、ルシアよ。
ルシア:な、なんだこれっ!魔法陣の黒い炎が巻きついて....っ!エルファっ!これはどういう……ぐあっ....く、くるし....
エルファ:これは、国を救う魔法陣ではない。........国を焼き尽くす魔法陣じゃ。
ルシア:なに......を....?
エルファ:わしはの、ルシア。あの国のヒト族に家族を、故郷を、尊厳を、奪われたのじゃ。わしの全てを、あの国は奪った。
ルシア:えっ?
エルファ:じゃから、わしはあいつらを絶望の底へたたき落として滅ぼしてやろうとずっと準備してきたんじゃ。この魔法陣は、お主に会う前から完成していた。じゃが、発動に必要なものが足りず、ずっと探しておった。そして、お主を見つけた。この魔法陣を発動させるために必要なお主を。
ルシア:僕、が。魔法陣を発動させるために必要?
エルファ:ルシア。お主はヒト族ではない。お主は黒族(くろぞく)の生き残り、闇の魔力を有し他者の絶望を原動力とする魔族、黒族のな。
ルシア:なん、だって....?黒、族?
エルファ:15年前。黒族の住む集落...お主の故郷をとある国のヒト族が殲滅しようと戦争を起こした。黒族は壊滅に追い込まれ、ヒト族が勝利かと思われた時、1人の魔力が暴走し、敵味方関係なく、その集落を絶望の黒い炎で覆い尽くした。その1人を除き、黒族もヒト族もみーんな死んでしもうた。
ルシア:....まさか、その、その1人が...。
エルファ:そう、お主じゃ、ルシア。
ルシア:僕が、故郷を、滅ぼした....?
エルファ:その絶大な黒の魔力。絶望を増幅させ、吸収し、魔力とする力。それが、お主の力じゃ。そして、この魔法陣の発動に必要なのが、膨大な黒の魔力と絶望。
ルシア:そんな......。………じゃあ、僕を拾ってくれたのも、育ててくれたのも......一緒に過ごした15年間も.....全てこの時のため..?
エルファ:そうじゃ。お主が成人するまで、しっかりその魔力を鍛えてやった。そして、時は満ちた。
ルシア:......っ!僕にくれた優しい言葉も、笑顔も、そしてあの......口付けも......全部嘘だったんですか......?
エルファ:1番の要(かなめ)となるのがお主の絶望じゃ。お主の絶望が増幅すればするほど、この黒い炎は威力を増す。全て、この時のためじゃ。
ルシア:......っ!!僕はあなたのことを本気で愛していたのにっ!
エルファ:あぁ。お主の想いはちゃんと届いておる。じゃがの........おっと、そろそろ準備が出来た頃じゃ。ルシア、しばし苦しいじゃろうが、耐えてくれ。
:
:
0:ヴェント王国城
ソフィア:みなさん!本日は、私たちの祝福の日、そして新たな王の誕生の日です!ここ、ヴェント王国が平和に、豊かに栄えてこられたのは、紛れもない、ヴェントの英雄、レイゲンのおかげです!
0:(歓声があがる)
ソフィア:さぁ、レイゲン。みなに挨拶を。
レイゲン:あぁ。……ヴェント王国の民よ!今日、私、レイゲンは!この国をさらなる繁栄に導く、王となる!……私はもとはこの国をまもる騎士の1人に過ぎなかった。王としての責務を全うできるか、些(いささ)か不安ではある。だから!ヴェント王国の民よ!みなの協力が必要だ!私に力を貸してくれ…!共に、ヴェント王国を良き国にしていこう!
0:(歓声があがる)
ソフィア:あぁ…素晴らしいですわ。今、この国は皆の思いが一つになっている…。これこそ、最高の王国の形ですわ……。
レイゲン:今日というこの日を、どれだけ待ち侘びたことか…!王になった今、私にはまず成すべき事がある!それは!
:
レイゲン:この国の殲滅だ。
:
0:(歓声が止む)
ソフィア:……え?
0:(突然黒い炎が、街を覆い尽くす)
:
ソフィア:な、なんですの!?これは…っ!黒い…炎…?
レイゲン:さぁ、絶望の始まりだ。
ソフィア:レイ!これはなに!?
レイゲン:見ての通りだ。今からこの国を滅ぼす。
ソフィア:何を言っているの!?レイ、あなたは一体…?(黒い炎がソフィアを襲う)…あぁっ!炎が、ここ、にまで…くっ…レイ、たすけ…
レイゲン:ソフィ。お前は前に、「どうして愛してると言わないのか」と聞いたな。
ソフィア:レ…イ…?
レイゲン:理由は一つ。俺が愛しているのは、この世界で1人しかいないからだ。
ソフィア:……っ!?
レイゲン:俺は、かつて、ヒト族に故郷を奪われた……魔族。
ソフィア:レイ、が……魔族…?…あ、ああぁ…(黒い炎の威力が増していく)
レイゲン:仕上げだ。
:
エルファ:始めよう、絶望の儀式を。……黒き星が地に堕ちて
:
レイゲン:黒の輝きは世界を統べる
:
エルファ:暗黒の地と化した大地に
:
レイゲン:絶望よよみがえれ
:
エルファ:闇と終焉(しゅうえん)の焔(ほむら)は全てを包み
:
レイゲン:厭世(えんせい)に満ちた魂を捧げよ
:
エルファ:ラスト・ブラック
レイゲン:ラスト・ブラック
:
ソフィア:いやあああああああっ!!!
ルシア:ぐああぁぁぁぁぁぁっ!!!
:
エルファ:絶景じゃのう。黒い炎が、国を焼き尽くしておる。
ルシア:あああああっ!!
エルファ:話の途中であったな。ルシア、お主の想いはちゃんと受け取っておる。わしのことをどれだけ愛してくれていたかもわかっておる。じゃがの、わしはお主を愛することはできん。なぜなら……
レイゲン:彼女が愛しているのはこの俺だから、さ。
エルファ:レイゲン。早かったのぅ。
ルシア:あ…あ……エル…ファ……。
エルファ:わしとレイゲンは同じ故郷で生まれ育った魔族、そして……レイゲンは、わしの夫じゃ。
ルシア:…な…そん…な…あ…あ…あぁ……
エルファ:さよならじゃ、ルシア。この国を焼き尽くすための絶望となってくれ。
ルシア:あぁぁぁぁぁぁぁ……!
:
レイゲン:やっと終わったな。……おや、そのペンダントは?
エルファ:ルシアからもらったものじゃ。彼の気持ちと共にな。
レイゲン:なんだ、情でもうつったか?
エルファ:……あぁ。久しぶりに、燃え上がる恋というものを経験した。
レイゲン:それはそれは、お楽しみだったようだな。身体は重ねたのか?
エルファ:それは秘密じゃ。そういうお前こそどうなんじゃ。あのお姫様に絆(ほだ)されたのではないか?
レイゲン:ま、身体の相性は最高だったな。あれをもう味わえないかと思うと少し寂しい。
エルファ:ふん、クズめ。
レイゲン:それはお互い様、だろ?
エルファ:いくぞ。今回ので十分な絶望の生贄を捧げられた。“黒蛇(くろへび)様”もお目覚めになるじゃろう。
レイゲン:そうだな。帰ろうか。
エルファ:あぁ。…ヒト族の終わりも、すぐそこじゃ。
:
0:終