台本概要

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タイトル ワンウィーク・ハイスクール
作者名 瓶の人  (@binbintumeru)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 4人用台本(男2、女2)
時間 90 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 果たせなかった約束
消えてしまった思い出
離れてしまった手をもう1度掴む為に

※注意事項
●過度なアドリブ、改変をしたい場合(キャラクターの性転換、セリフを丸々変える等)はご連絡下さい。
●男性が女性キャラを女性として、女性が男性キャラを男性として演じる際や語尾等の軽微な改変はご連絡不要です。
●配信等でご利用される場合は、可能であれば作者名、作品名、掲載サイトのURLを提示して頂けると幸いです。
●全力で楽しんで下さると幸いです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
陸玖 314 鹿嶋陸玖(かしま りく)16歳 愛想が無く落ち着いてるように見えるが、意外と感情が表に出やすいタイプ
梨蘭 207 波奇梨蘭(なみき りらん)16歳 明るく誰にでもフレンドリーに接する 常に笑顔でいて周りの事をよく見ている
和真 165 藤巻和真(ふじまき かずま)17歳 声が大きくて元気が取り柄 こう見えて手先が器用 情に厚いタイプ
美澄 171 鹿嶋美澄(かしま みすみ)15歳 陸玖の妹 和真以外には気が強く素直じゃない 生意気に見えるが、実は心配性
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:夜道を歩く陸玖 陸玖:「はあ…今日も残業で遅くなった…明日も明後日も仕事…疲れたわ…」 0: 陸玖:【N】社会人になって早数年 陸玖:毎日仕事に追われ、学生の頃に憧れていた大人の世界は既に崩れ去っていた 陸玖:仲の良かった友人は既にこの生まれ育った町を出て、海外へと行ってしまった 0: 陸玖:「なんか俺だけ取り残された気分だよな…でもしょうがねえだろ…俺にはもう頑張る目的がねえんだから…」 0:道の片隅に小さな祠を見つける 陸玖:「……でもそうだな…もしまたアイツに会えたらもう一度頑張ってもいいかもな。」 0:財布から小銭をすべて取り出し、空の皿に置く 陸玖:「なんてな。さっさと帰って明日の準備すっかー」 0: 陸玖:【N】これは、深い夢の中を巡る記憶を探して 美澄:【N】みんなの心に残った想いを見つけて 和真:【N】掴んでも消えてしまう幻を求めて 梨蘭:【N】夏が残した陽炎(かげろう)を掴む、1週間の夏の思い出 陸玖:【N】ワンウィーク・ハイスクール 0: 0: 0: 0:9月6日(水) 0: 0: 0:学校の教室 和真:「………い…おい…」 陸玖:「…ん…」 和真:「おい、りっくん!起きろって!」 陸玖:「…っ!?」 和真:「やっと起きたか、りっくん。随分と寝てたな。もう昼休みだぞ?」 陸玖:「…お、お前は…?てかここは?」 和真:「なんだよ寝ぼけてんのか?大親友の俺を忘れるなんて、フリだとしても悲しいなあ。」 陸玖:「………その呼び方…まさかお前…和真?和真なのか?」 和真:「ああそうだよ。やっと目が覚めたか。」 0: 陸玖:【N】和真は高校時代に仲が良かった友人の1人 陸玖:いつも明るく、声がでかいムードメーカーだった 0: 陸玖:「でもお前…海外に行ったんじゃ……しかもなんだその見た目……それって高校の時の…」 和真:「高校の時のって…何言ってんだ?俺ら現在進行形で高校生だろ?まだ寝ぼけてんのか?」 陸玖:「高校…生?」 和真:「おいおい、大丈夫か?トイレで顔洗って目を覚ましてこいよ。」 陸玖:「…あ、ああ。そうだな、そうする…」 0: 0:トイレ内 陸玖:「な、なんだよこれ…なんなんだよこれ……」 0: 陸玖:【N】鏡に映っていたのは、疲れ切ったサラリーマンの顔ではなく、高校時代の俺の顔だった 陸玖:頬をつねってみても痛覚があり、夢ではない事が分かる 陸玖:どうしてこんな事になっているのか、何が何だか分からないままトイレを後にし廊下へと出る 0: 陸玖:【N】見覚えのある廊下、見慣れた教室、高校時代の友人。これは夢、そう思いたいが現実のようだ 陸玖:頭の中がパニックでどうにかなりそうだけど、今はとりあえず状況を整理していく必要がある。まずは教室へ戻ろう 0: 和真:「お、りっくん目が覚めたか?」 陸玖:「あ、ああ。大丈夫だ。」 和真:「にしてもりっくんが授業中に居眠りだなんて珍しいこともあるもんだなあ。夜更かしでもしてたんか?」 陸玖:「あー…まあ…そんな覚えはないんだけどな…?」 和真:「ほんとかあ?えっちい動画とか見てたんじゃないのかあ?」 陸玖:「ば…!んなもん見るわけないだろ!?」 和真:「おやおや?その反応怪しいなー?まあ、言ってもりっくんも男の子だしなぁ。」 陸玖:「だから違うって!」 和真:「んで?りっくんの好みの女子ってどんな子なのよ?」 陸玖:「なんでそんなの聞くんだよ。」 和真:「なんとなく?やっぱり波奇みたいなのが好きなん?」 陸玖:「…波奇?」 和真:「そうそう、波奇と仲いいじゃん?ああいう系の女子とか好きなのかなーって。違った?」 陸玖:「…波…奇……」 0: 陸玖:【N】懐かしいその名前を聞いて俺は思わず止まってしまった 0: 和真:「…りっくん?大丈夫か?」 0:教室のドアが開き1人の女子生徒が入ってくる 和真:「お、噂をすればなんとやらだな!」 陸玖:【N】教室に入ってきたその女子生徒を見て、俺の胸は締め付けられるような痛みを帯びた 陸玖:だってそいつは…… 0: 0: 0: 0: 梨蘭:「やっと目が覚めたんだね陸玖。」 0:  陸玖:【N】肩にかかるほどの赤茶けた髪を揺らしながら、優しく微笑むそいつは… 陸玖:元の時代では既に亡くなっているのだから 0: 0: 0: 0:9月7日(木) 0: 0: 0: 0:朝7時、目を覚ます陸玖 陸玖:「夢じゃない……か…」 0: 陸玖:【N】昨日は気持ちや現状の整理をしたかった為、体調不良と言って早退をさせてもらい家に帰った。実家の場所も家族も当時のままであることから、やはりここは過去で間違いない。 陸玖:日付は8年前の9月7日。なぜ過去に戻ってきたのか、どうやって過去へ来たのかは定かではない。 陸玖:記憶があやふやで断片的な個所が非常に多い…重要なことを忘れているようで仕方がない…とりあえず今は現代へ帰る方法を探しながらこの生活を続けるしかないか… 0: 0:学校の校舎へ着き上履きへ履き替える 0: 美澄:「あ、お兄ちゃんおはよう。遅かったね。」 陸玖:「…あ、美澄…おはよう。」 0: 陸玖:【N】美澄…俺の妹で歳は1つ下 陸玖:昔から怒りっぽくて生意気な性格をしている 0: 美澄:「なに、お兄ちゃんどうかしたの?昨日からなんか変だけど…」 陸玖:「え?ああ、どうもしてないよ?」 美澄:「そう?もし体調が悪かったら早めに先生に言いなよ?昨日も早退してんだし。」 陸玖:「ああ、ありがとうな美澄。」 美澄:「…別に。お兄ちゃんが体調崩すと尻拭いするのは藤巻先輩だからね。迷惑かけらんないでしょ。」 陸玖:「…?まあ、世話にはなってるけどなんで和真が出てくるんだ?」 美澄:「っ!うるさいなあ!何でもないよ!じゃ、私教室行くから!」 陸玖:「あ、ああ。なに怒ってるんだアイツ?今も昔も怒りっぽいのは変わらねえな。」 0: 陸玖:【N】怒りながら去っていく妹の後ろ姿を見送った後に俺も自分の教室へ向かった。教室のドアを開けると真っ先に声をかけてきたのは… 0: 梨蘭:「あ、陸玖。おはよ。」 陸玖:「梨蘭……」 梨蘭:「体調は大丈夫そうなの?」 陸玖:「ああ、なんとかな。心配かけてごめん。」 梨蘭:「ふーん、なんか変なのー。」 陸玖:「はあ?何が…?」 梨蘭:「体調崩してるのもあるんだろうけどさ、陸玖がしおらしいのは、なんかむず痒くなる…」 陸玖:「なっ!?なんだそれ!?俺だってしおらしくなるわ!」 梨蘭:「えーそう?今までそんなの見たことないけどー?」 陸玖:「くそ…迷惑かけたと思ったから言ったのに…」 梨蘭:「迷惑かけたって思ってるんだ。」 陸玖:「そりゃあな…」 梨蘭:「口とがらせてるー!やっぱ変!あはは!」 陸玖:「な!?なんなんだよ梨蘭!」 梨蘭:「ふふ、ごめんごめん。でもやっぱり陸玖とはこうして話してるのが楽しいなー!」 陸玖:「んだよ急に…」 梨蘭:「急はこっちだよ、早退なんてするんだもん。」 陸玖:「梨蘭…すまん。」 梨蘭:「ふふ、でも次からは無理しないようにね!わかった?」 陸玖:「あ、ああ。分かってるよ。」 梨蘭:「よし!いいこいいこ。」 陸玖:「ばっ!頭撫でるのやめろよ!」 梨蘭:「ふふっ。」 0: 陸玖:【N】ああ、そうだ。こいつはこういう奴だった。昔から、少し誕生日が先だからって俺の事を子ども扱いしてくる。梨蘭は、そういう奴だった… 0:和真が教室へ入ってくる 和真:「お、りっくん体調大丈夫なのか?」 陸玖:「あ、和真。昨日は悪かったな。ほら、貸してくれたノート返すよ。ありがとな。」 和真:「おう、いいってことよ。」 陸玖:「妹にも和真に迷惑かけるなって言われたから、体調管理はしっかりしないとだな。」 和真:「美澄ちゃんにそんなの言われたのか?」 陸玖:「ああ、今朝言われた。」 梨蘭:「美澄ちゃんなりのお兄ちゃんへの心配の仕方なんだね。」 和真:「ほー…んじゃあ、俺に迷惑がかからないように頑張ってくれよ?」 陸玖:「…く、わかったよ。」 和真:「あははは、よし。じゃあさっそく今回俺に迷惑をかけた罰を受けてもらおうか。」 陸玖:「はあ!?」 和真:「ふふん…今回受けてもらう罰は…一緒に遊園地に行く事だ!」 陸玖:「は?遊園地?」 和真:「ああ、もちろん波奇もな?」 梨蘭:「え、私も?」 和真:「チケットを4枚もらったんだけど、持て余しててな。よかったらどうだ?」 梨蘭:「えー!いいの?せっかくだし私は行きたいー!」 和真:「りっくんは?」 陸玖:「ああ、せっかく誘ってくれてるんだ俺も行くよ。」 和真:「よし、やったぜ!」 陸玖:「でも、4枚あるんだよな?あと1人は誰か決まってるのか?」 和真:「それが決まってなくてなー。」 陸玖:「そうか…」 梨蘭:「…ねえ?美澄ちゃんはどうかな?」 陸玖:「え、美澄?」 梨蘭:「うん、和真とも仲良いしさ。それに久しぶりに会いたいなって。」 和真:「なるほどな…それもそうだな!じゃあ、美澄ちゃんに決まりだ!」 陸玖:「な、まだ誘えると決まったわけじゃ…」 梨蘭:「ふふ、多分大丈夫だと思うよ?」 陸玖:「…どういうことだ?」 和真:「じゃあ、今週の土曜に現地集合な!」 梨蘭:「はーい!」 陸玖:「…はあ。了解。」 0: 0:学校から帰宅する陸玖、美澄と鉢合わせる 0: 陸玖:「ただいまー。」 美澄:「あ、お兄ちゃん。お帰り。」 陸玖:「美澄、今日部活じゃなかったのか?」 美澄:「うん、今日は無い。」 陸玖:「そか、あ。そういや和真が…」 美澄:「藤巻先輩が何!?」 陸玖:「なんでそんな食い気味なんだよ…」 美澄:「いいから、藤巻先輩が何なの?」 陸玖:「……チケット貰ったから土曜に遊園地行かないかって…」 美澄:「え!?遊園地!?藤巻先輩と!?やったあああ!」 陸玖:「あ、俺と梨蘭もいくぞ?」 美澄:「えー……波奇先輩とお兄ちゃんも来るの…?まあ、いいけどさ…」 陸玖:「良いならそんな顔すんなよ…」 美澄:「でも藤巻先輩と一緒に遊園地なんて夢みたい…!楽しみだなー!」 陸玖:「そんな遊園地に行きたかったのか?言えば連れて行ってやったのに。」 美澄:「は?誰もお兄ちゃんと行きたかったなんて言ってないでしょ?勘違いしないで。私は藤巻先輩と行きたいの!!」 陸玖:「ああ……梨蘭が言ってた事ってこういうことか…なるほどな…」 美澄:「なに?」 陸玖:「いや、何でもない。じゃあ、伝えたからな。」 美澄:「はーいお疲れお兄ちゃーん。」 0:2階へと階段を上っていく美澄 陸玖:「たくっ、あの妹は……にしてもそうだったのか、美澄は和真の事が… 陸玖:あれ…でも現実の2人はどうなっていた?だめだ、モヤがかかってうまく思い出せない…」 0: 0:9月8日(金) 0: 0:昼休み、中庭で昼食を食べている 梨蘭:「いよいよ明日、遊園地だねー。」 和真:「な!楽しみだなー!美澄ちゃんも来てくれるんだもんな?」 陸玖:「ああ、昨日即答で行くって言ってた。」 和真:「おー!やったー!」 梨蘭:「ふふ、やっぱりねー。」 和真:「なにがやっぱりなんだ?」 梨蘭:「なんでもないよ!」 0:陸玖、梨蘭に耳打ちをする 陸玖:「梨蘭、いつから知ってたんだ?」 梨蘭:「なにが?」 陸玖:「美澄の事だよ。」 梨蘭:「ふふ、女の感ってやつ?」 陸玖:「はあ、なるほど…わからん。」 和真:「そういえばさ、明日行く遊園地なんだけど面白い噂があるんだ。」 陸玖:「噂?」 和真:「なんでも、閉園30分前になると上がる花火に合わせて愛の告白をすると必ずその恋は実るとかなんとかって…」 陸玖:「ありきたりな噂だな…」 梨蘭:「へー…でもロマンチックだね!」 和真:「でもこれには条件があるらしくてな?」 梨蘭:「条件?」 和真:「ああ、パーク内の中央に湖があるんだけど。その湖畔(こはん)に居ること、そして花火が打ちあがったと同時に告白をし、その愛の言葉が相手に届いていること。だそうだ。」 陸玖:「ほー、なかなか面倒くさいのな…」 和真:「…りっくん、がんばれよ?」 陸玖:「何がだ?」 和真:「波奇に告白するチャンスだぞ…?」 陸玖:「ばっ!!何言ってるんだお前は!」 梨蘭:「どうしたの陸玖?」 陸玖:「な、なんでもない!」 梨蘭:「…?」 陸玖:「ほら、早く食わないと休み時間なくなるぞ!」 梨蘭:「え?あ、やば!もうこんな時間じゃん!早く言ってよ!」 陸玖:「知るか!食べるのが遅いからだろ!」 梨蘭:「女の子はゆっくり食べる生き物なんですー!」 陸玖:「いつもすごい勢いでかきこんでるだろ!」 梨蘭:「はあー!?そんなことありませんー!」 和真:「微笑ましいなぁ…今日も平和だ。」 0: 0:9月9日(土) 0: 0:遊園地、入口の門前で陸玖と美澄がすでに到着して話している 美澄:「はあぁ、緊張する……」 陸玖:「何が緊張することがあるんだよ。」 美澄:「だって藤巻先輩とデートだよ!?そりゃ緊張するでしょ!バカじゃないの!?」 陸玖:「あーはいはい。声でっか…」 美澄:「ねえ、お兄ちゃん私の髪変じゃない?服変じゃない?大丈夫かな!?」 陸玖:「それ何回聞くんだよ…今日だけで10回は聞かれたぞ…」 美澄:「だって綺麗な状態で会いたいじゃん!お兄ちゃんみたいに適当じゃないの!」 陸玖:「さいですか…お、来たみたいだぞ。」 美澄:「え!?」 0:和真と梨蘭が合流する 和真:「ごめんごめんおまたせー!」 梨蘭:「待たせてごめんねー!」 陸玖:「よ、梨蘭、和真。別に待ってないぞ。」 美澄:「あ、あ、あ、藤巻先輩…!」 和真:「お、美澄ちゃんこんにちは。久しぶりだね。」 美澄:「は、はい!お久しぶりです!」 和真:「今日は来てくれてありがとね。たくさん遊ぼうね!」 美澄:「もももちろんです!楽しみます!」 梨蘭:「陸玖も楽しもうね?」 陸玖:「ああ、もちろん。」 和真:「それじゃ、行こうか!」 0: 0:園内に入ると賑やかな広場が出迎える 0: 美澄:「わあ!!すごいすごい!」 陸玖:「そうかー?」 美澄:「私は初めてなの!全部がすごいの!」 和真:「そっか、美澄ちゃんは遊園地初めてかー。」 美澄:「そうなんです!」 梨蘭:「私は何度か来たことあるけど、何度来てもワクワクするよね。」 陸玖:「まあ、そうだな。」 美澄:「ほらほら、みんな早く行こ!!」 陸玖:「あ、美澄!走ると危ないぞ!」 和真:「よーし、全員美澄ちゃんに続けー!」 陸玖:「和真まで、おい!」 梨蘭:「ほーら、陸玖!早く行かないと置いてかれちゃうよ!」 陸玖:「ったく…待てよお前らー!」 0:ひとしきり遊び、日が傾き始め遊園地を赤く染める 美澄:「んー!いっぱい遊んだー!」 和真:「たくさんアトラクション乗ったねー。」 陸玖:「…お前らまだまだ元気そうだな…」 美澄:「お兄ちゃんが体力なさすぎなだけでしょ。」 陸玖:「んぐっ…」 梨蘭:「この後どうしようか?」 和真:「もちろん、閉園の花火見るっしょ?」 美澄:「わあ!花火見たいです!」 和真:「お、いいね。じゃあそれまで園内を回って時間を潰そっか。」 陸玖:「俺は疲れたからここのベンチで休んでるわ。」 梨蘭:「私も、少しゆっくりしたいかな。」 和真:「そうか?じゃあ美澄ちゃんと少し行ってくるわ。」 陸玖:「ほいほい。」 美澄:「いってきまーす!」 陸玖:「ほーい。」 梨蘭:「……。」 陸玖:「……。」 梨蘭:「ねえ、陸玖。久しぶりに遊園地来たけど、やっぱり楽しいね。」 陸玖:「…そうだな。いつぶりだっけ?」 梨蘭:「んーと、最後に2人で来たのは…確か小学生以来だから…6年位前になるのかな?」 陸玖:「そうか…小学生以来になるのか。」 梨蘭:「そうだよ。ねえ?あの時に話した事って覚えてる?」 陸玖:「話した事?」 梨蘭:「うん、覚えてない?」 0: 陸玖:【N】あの時に話した事…?小学生時代の頃に何を話した…?そもそも遊園地に来た事すらほぼ記憶にない 0: 梨蘭:「まあ、大したことじゃないから覚えてなくてもいいんだけどね!」 陸玖:「…すまん。」 梨蘭:「いいよいいよ!ねえ陸玖。あの観覧車乗りたい!」 陸玖:「はあ?観覧車?」 梨蘭:「そ、観覧車!もう充分休んだでしょ、ほらいこ!」 陸玖:「お、おいまてよ!腕引っ張んなって!」 0: 0:観覧車に乗っている陸玖と梨蘭 0: 梨蘭:「ほら見てよ、すっごい空綺麗!」 陸玖:「…そうだな。」 梨蘭:「なんか元気ないじゃん。どうしたの?」 陸玖:「いや、何でもない。」 梨蘭:「ふーん、ねえ、陸玖?」 陸玖:「なに?」 梨蘭:「最近の陸玖さ、前と少し違うよね。」 陸玖:「はっ?」 梨蘭:「なんかね、最近の陸玖見てるとなんか変だなーって思うんだ。いや、嫌な感じじゃないんだけど不思議な感じがするの。」 陸玖:「なんだよそれ…」 梨蘭:「なんかね、大人になったっていうか落ち着いてるっていうか…はは、なんだろうね?私もよくわかんない。」 陸玖:「……ほんとだよ、よくわかんねえ。」 梨蘭:「……陸玖…?本当にあの時した話覚えてない?」 陸玖:「…すまん。」 梨蘭:「そっか……。」 陸玖:「……。」 梨蘭:「…あ、もう降りなきゃ!」 陸玖:「あ、ああ。」  0:観覧車から降りる 梨蘭:「んー!すっかり日が落ちてきちゃったね!」 陸玖:「そうだな。」 梨蘭:「そろそろ2人に連絡して合流しよっか。」 陸玖:「ああ、そうだな。」 梨蘭:「ん?」 陸玖:「…?どうかしたか?」 梨蘭:「あれって…」 陸玖:「あれ?美澄か?1人で走ってどこに行くんだ…?トイレか?」 梨蘭:「ねえ?暗くてよく見えないけど、泣いてるように見えなかった?」 陸玖:「そうだったか?」 梨蘭:「そうだよ!ねえ、私美澄ちゃんを追いかけるから、陸玖は和真探して!」 陸玖:「はあ!?なんで…」 梨蘭:「いいから!」 陸玖:「あ、ああ。分かったよ。」 0: 0:少しさかのぼり、中央の湖で和真と美澄が談笑をしている 0: 和真:「いやーいっぱい乗ったねー!」 美澄:「はい!すごく楽しかったですー!」 和真:「お、良かった良かった!花火まで時間あるけど…どうする?そろそろ2人と合流しようか?」 美澄:「そう…ですね…あ、あの!」 和真:「ん?どうしたの?」 美澄:「えっと、その…」 和真:「美澄ちゃん?」 美澄:「…花火、2人で見ませんか?」 和真:「え?2人で?」 美澄:「…はい。」 和真:「でもそれって…」 美澄:「……。」 和真:「……。」 美澄:「藤巻先輩、私…」 和真:「美澄ちゃん。」 美澄:「っ…はい…」 和真:「実はね、俺には好きな人がいてさ。」 美澄:「っ!」 和真:「そいつはさ、明るくて天然バカで。でも誰よりも人の事に懸命になれるお人好しなんだよね。俺にはない物をたくさん持っててさ。だから惹かれたんだと思う、無いものねだりって奴かな?」 美澄:「……。」 和真:「でも、そいつには好きな人がいてさ……俺の好きな人の好きな人もさ、愛想ないけどなんだかんだ人の為に動けるお人好しなんだよね。 和真:しかもそいつらさ、相思相愛なんだよね。でもお互いにお互いの気持ちに気づいてない両片思いって奴。笑っちゃうだろ?」 美澄:「それって…」 和真:「…俺にとって2人は大切な友人で…めちゃくちゃ大好きな奴らなんだよ。俺は2人を応援したい、ちゃんと見届けるまで俺は誰とも付き合えないかな。なんて、ごめんね急にこんな話しちゃって。それで…花火だっけ…?」 美澄:「藤巻先輩!それでいいんですか…?」 和真:「…なにが?」 美澄:「藤巻先輩の気持ちはどこに行っちゃうんですか…?」 和真:「…どこだろう?はは、分かんないや。」 美澄:「そんなの…辛すぎますよ…」 和真:「でも仕方ないよ。」 美澄:「…私じゃだめですか?」 和真:「…え?」 美澄:「私が先輩の心の寄り所になるのはだめですか?」 和真:「………ごめん。」 美澄:「っ!ですよね……私じゃ…」 和真:「美澄ちゃん…」 美澄:「ごめんなさい!!」 和真:「美澄ちゃん!」 0:去っていく美澄をただ眺めている和真 和真:「……はあ…追いかけられないなんて、ほんと情けないな。でも…どうしろってんだよ…」 0:ベンチに力なく座り込む 和真:「あーあ、無駄に星がよく見える。」 陸玖:「お兄さん、隣いいか?」 和真:「うわ!?りっくん、なんで!?」 陸玖:「まあ…色々とな。それで、お前はなんで1人で黄昏れてんの?」 和真:「…自己嫌悪に浸ってた。」 陸玖:「自己嫌悪…?」 和真:「うん…気づいてたけど気づかないふりしてさ、挙句傷つけたんだ。」 陸玖:「……。」 和真:「どうしようもないからってさ、もう少し考えてあげられたのかなって…ってごめんなりっくん。こんな話して…」 陸玖:「……多分な、傷はついただろうけど、その傷はすぐ塞がってカサブタになってくれると思うぞ…」 和真:「え?」 陸玖:「あー…えっと。とにかくお前がそんな落ち込む必要はないってことだ。」 和真:「…ぷ、あはははは!」 陸玖:「な、なんだよ!」 和真:「いや、ごめん。ほんとりっくんて下手だよな。」 陸玖:「な、なにがだよ。」 和真:「色々と。下手すぎなんだよりっくん。うん、下手くそ。でも、そういう所が羨ましいなって思う事があるよ。」 陸玖:「…?」 和真:「要はりっくんの事が好きって事だ!」 陸玖:「俺はそういう趣味はないぞ…」 和真:「またまたー。」 陸玖:「ちょ、寄るな!」 和真:「…なあ、りっくん。」 陸玖:「なんだよ…」 和真:「りっくんの事応援してっからな!」 陸玖:「な、なんのことだよ…」 和真:「へへ、よーし!このまま男2人で花火見るぞー!」 陸玖:「ちょ、なんでそうなるんだよ!」 0: 0:パークの出口付近で立ち止まって泣いている美澄 0: 美澄:「…思わず走って逃げてきちゃった……」 梨蘭:「美澄ちゃん!」 美澄:「っ!波奇先輩…!?なんで…」 梨蘭:「はあ…はあ…美澄ちゃんが走って行くのが見えたから、追いかけてきたの…」 美澄:「…そうですか……」 梨蘭:「…何かあったの?」 美澄:「いえ、なにもないですよ…」 梨蘭:「嘘。」 美澄:「嘘なんか…あ…」 0:美澄を抱きしめる梨蘭 梨蘭:「強がらないで…」 美澄:「……波奇先輩…」 梨蘭:「何があったのかは聞かない。でもね、強がらなくていいんだよ。」 美澄:「……う、うう…。」 梨蘭:「よしよし。」 美澄:「うああ…ああああ……」 0: 0:しばらく梨蘭の腕の中で泣いた後  0: 美澄:「…波奇先輩ありがとうございました。」 梨蘭:「もう大丈夫?」 美澄:「はい…泣いてばかりもいられませんし…」 梨蘭:「そっか。」 美澄:「私、負けませんから。」 梨蘭:「え?」 美澄:「波奇先輩。」 梨蘭:「な、なに?」 美澄:「波奇先輩は…お兄ちゃんの事…どう思ってるんですか?」 梨蘭:「…え?」 美澄:「好きなんですか?」 梨蘭:「え、ええ?急にどうしてそんなこと?」 美澄:「ずっと気になってたんです。波奇先輩はどう思ってるのかなって。少なくともお兄ちゃんは波奇先輩の事好きですよ。」 梨蘭:「…あはは、そうなんだー。そうだなあ…私も陸玖の事好きかな?」 美澄:「…ほんとですか?」 梨蘭:「うん、ほんと!美澄ちゃんの事も好きだし、和真の事も好きだよ!」 美澄:「そういう事じゃなくてですね…!」 0:閉園30分前を知らせる花火が打ちあがる 梨蘭:「……言えるわけないじゃん………だって…だってさ…」 美澄:「え?なんですか?」 0:美澄の頭を撫でる梨蘭 美澄:「わ、ちょなんですか急に…!」 梨蘭:「美澄ちゃんの事応援してるね。」 美澄:「……波奇先輩………ほんとあなたはズルいですね…」 0: 0: 0: 梨蘭:【N】私たちはそれぞれの複雑に絡み合う想いを胸に抱えながら、夜空を大きく鮮やかに彩る花火を眺めた後、別々に帰路へとついた。 0: 0:9月10日(日) 0: 陸玖:【N】昨日は和真の誘いで、俺、和真、梨蘭、美澄の4人で遊園地に遊び行った。 陸玖:途中までは楽しく遊んでいたが、俺、梨蘭と和真、美澄で別行動した際に少し問題があったらしく、帰りは別で帰ることになってしまった。 陸玖:美澄に何があったのかを聞いても「知らない」の一点張り……どうしたもんか… 0: 美澄:「ねえ、お兄ちゃん…」 陸玖:「あ、どうした?」 美澄:「アイス…買ってきて。」 陸玖:「は?」 美澄:「いいから!アイス買ってきてって!」 陸玖:「んな、やっと口開いたかと思えば…!たく…行きゃあいいんだろ…」 0:しぶしぶ外に出てコンビニへと向かう陸玖 陸玖:「あー…暑いな…さっさと買って涼しい世界に戻ろう…それにしてもホントうちの妹は人使いが荒いよなあ…もしかしたら今から更生させればワンチャン…!?」 梨蘭:「何がワンチャン?」 陸玖:「うお!?」 梨蘭:「そんなに驚かなくてもよくない?」 陸玖:「梨蘭か……驚かすなよ…」 梨蘭:「そっちが勝手に驚いただけでしょ?それにしても陸玖がこんな昼間から外に出るなんて珍しいね?」 陸玖:「人を引きこもりみたいに言うなよ……美澄にアイス買って来いって頼まれたんだよ。」 梨蘭:「あーなるほどねえ…」 陸玖:「あ…梨蘭この後時間あるか?」 梨蘭:「え?あーうん、あるけど?」 陸玖:「少し聞きたいことがあってさ。とりあえずここじゃなんだからファミレス行こうぜ。」 梨蘭:「うん…分かった。」 0: 0:陸玖、梨蘭ファミレスに入り席に着き話始める 0: 梨蘭:「それで?話って何?まあ大体予想はつくけど。」 陸玖:「ああ、遊園地の件なんだけどさ…」 梨蘭:「やっぱり…」 陸玖:「美澄から和真となにがあったか聞かなかったか?」 梨蘭:「何も聞いてないよ。」 陸玖:「そうか…」 梨蘭:「陸玖は和真から何も聞いてないの?」 陸玖:「ああ、何も聞いてない…けど何となくだけど分かるよ。」 梨蘭:「何?」 陸玖:「多分だけど、美澄が和真に告白したんだと思う。」 梨蘭:「うん。だろうね。」 陸玖:「梨蘭もそう思うか?」 梨蘭:「状況が状況だからね。誰だって察しはつくよ。」 陸玖:「それもそうだよな…」 梨蘭:「それで、陸玖は何かするつもりなの?」 陸玖:「いや、何もするつもりはない。ただ、応援はしていく。」 梨蘭:「そっか。ならよかった。」 陸玖:「え?」 梨蘭:「何か変なちょっかい出すって言いだしたらビンタしてたもん。」 陸玖:「ちょ、なんでだよ。」 梨蘭:「なんでも何もないよ。でもほら、ビンタされずに済んだでしょ?」 陸玖:「まあ、そうだけど…」 梨蘭:「はい、じゃあもうこの話は終わり!私はもうそろそろ帰るね。」 陸玖:「あ、ちょっと梨蘭!せっかく付き合ってもらったんだ、何か奢るよ。」 梨蘭:「え?ほんとー!?じゃあじゃあ、チーズケーキとティラミスとパンナコッタとー!」 陸玖:「おいおいおい!まて!まてったら!そんな頼むなんて聞いてないぞ!」 梨蘭:「奢ってくれるんでしょー?なら頼まないと損だよー!」 陸玖:「たくっ…お前って奴は…!」 0:梨蘭と別れファミレスから帰宅した陸玖 陸玖:「ただいまー。」 美澄:「お帰りお兄ちゃん。遅かったね。」 陸玖:「おー、ただいま美澄。色々あってなー。」 美澄:「ん。」 陸玖:「あ?なんだその手?」 美澄:「アイス、早く。」 陸玖:「あ。」 美澄:「…なに?買ってきてないの…?」 陸玖:「あー……すまん…」 美澄:「今までどこほっつき歩いてたの…!お兄ちゃんのバカーー!!」 陸玖:「すぐ買ってくるーー!!」 0: 0:9月11日(月) 0:  0:朝、陸玖が教室へ入ると和真が声をかけてくる 和真:「お、りっくんおはよう!」 陸玖:「お、おう。和真おはよう。」 和真:「土曜はありがとうなー!おかげで楽しかったわー!」 陸玖:「ああ、誘ってくれてありがとな。」 和真:「いいって事よー!あー、でも美澄ちゃんは大丈夫か?急に居なくなっちゃったからさ。」 陸玖:「大丈夫、昨日もいつも通りのお姫様っぷりだったよ。」 和真:「そか、なら良かった。」 陸玖:「………なあ和真、土曜に美澄と…」 梨蘭:「おはよう陸玖、和真。」 和真:「おー、波奇!おはよー!陸玖?今なんか言いかけたか?」 陸玖:「…いや、なんでもない。」 和真:「そうか?波奇、土曜はありがとな。帰りはバラバラになってごめんな?」 梨蘭:「ううん、すっごく楽しかった!誘ってくれてありがと!陸玖?どしたの?」 陸玖:「あ、いやどうもしないよ。」 梨蘭:「そう?」 0: 0:放課後、陸玖委員会の仕事中 0: 陸玖:「めんどくさいな…なんで当時の俺は緑化委員なんかに入ってたんだ?ガラじゃないだろ…さっさと終わらせて帰…ん?」 0: 梨蘭:「なに和真?話って。」 0: 陸玖:【N】梨蘭…それに和真…?なんで2人がこんな所に…? 0: 和真:「波奇。1つ聞きたいことがあるんだ。」 梨蘭:「うん。」 和真:「りっくんに告白はしないのか?」 梨蘭:「え?」 和真:「波奇はりっくんの事好きなんだろ?」 梨蘭:「…なんでそんな事聞くの?」 和真:「好きじゃないのか?…」 梨蘭:「仮に好きだとしても、それは和真に何か関係あるの?」 和真:「それは…大切な友達の恋は応援したいから…」 梨蘭:「応援したいならそっとしておいてよ…!」 和真:「波奇…」 梨蘭:「もういい?私…行くから…」 和真:「波奇…待ってくれ!」 梨蘭:「なに和真?」 和真:「俺は、お前の事が好きなんだ。」 梨蘭:「…!」 和真:「本当はこの気持ちは伝える気はなかった。波奇は陸玖の事が好きで、陸玖は波奇の事が好き。誰が見ても丸わかりだ。 和真:俺にとって大切な2人が両想いなんだ。おとなしく退くつもりだった。いや…退くよ。」 梨蘭:「……勝手に決めないでよ。」 和真:「じゃあ違うのか?」 梨蘭:「……。」 和真:「土曜の遊園地の日にさ、美澄ちゃんから思いを伝えられそうになって思わず好きな人がいるって言っちゃったんだ。 和真:その時に美澄ちゃんにさ、俺のこの気持ちはどこ行くんだって言われてさ…なんも答えられなかった。 和真:でも、このままこれでいいのかって…思ってさ。伝えないで腐らすなら、いっそのこと伝えて砕けさせた方がいいかなって思ってさ。今伝えた。ごめん。勝手で。」 梨蘭:「……ほんと…」 和真:「…え?」 梨蘭:「自分勝手だよね、和真。」 和真:「ええ?」 梨蘭:「私の気持ちも考えないで1人で勝手に話して、気持ち伝えてさ。」 和真:「…ごめん。」 梨蘭:「謝るなら目閉じて。」 和真:「えっ?」 梨蘭:「いいから。」 和真:「あ、はい。」 梨蘭:「ふん!」 0:脛を思い切り蹴る 和真:「あがぁ!!?」 梨蘭:「私、和真の気持ちに応えられない。ごめんね。」 和真:「いってぇええ…ああ、初めからわかってるよ…そんなことくらい。」 梨蘭:「なーに?泣いてるの?和真?」 和真:「別に…蹴られた痛みで泣いてんだよ…!」 梨蘭:「えー、ほんとにー?」 和真:「ホントだよ。」 梨蘭:「ふふ…そっか。気持ち伝えてくれてありがとね。」 和真:「…おう。」 梨蘭:「じゃあ、私行くね。」 和真:「ああ…聞いてくれてありがとな波奇。」 0: 陸玖:【N】和真…そうかお前…梨蘭の事が… 0: 和真:「りっくん。」 陸玖:「っ!?」 和真:「途中からだけど気づいてたよ。」 陸玖:「……すまん、聞くつもりはなかった。」 和真:「いいよいいよ。りっくんが居るって気づいたから告ったんだし。」 陸玖:「はあ?」 和真:「俺なりのけじめだよ。これでやっと、ちゃんと向き合える。」 陸玖:「ちゃんと?」 和真:「そう、ちゃんと向き合える。」 陸玖:「…?」 和真:「りっくんはりっくんの恋を成就できるよう頑張れよ!ていうかもう両想いなんだからあとは告るだけじゃんね!」 陸玖:「痛い痛い叩くな!そんな簡単じゃないだろ…」 和真:「どこが?パパっと告っちゃえよ!」 陸玖:「あのなぁ…」 和真:「まあ俺は応援してるし、何かあったら力になるからな。」 陸玖:「…おう、ありがとうな和真。」 0: 0:9月12日(火) 0: 陸玖:【N】もう少しで過去に戻ってきてもうすぐ1週間が経とうとしている。未だに元の時代に戻れる手立ては見つかっていない。色んな本や資料を探しても当然タイムスリップに関する事は書いていない。 陸玖:だが気づいた事がある、俺はいくつか記憶を忘れている事だ。美澄が和真を好きな事、遊園地に行った事、そして梨蘭とした会話 陸玖:他愛もない事が多く、忘れたといっても完全に忘れたわけではなくうっすらと思い出せる程度には覚えている、しかし梨蘭との会話だけは一切思い出せないのだ。手がかりさえあれば思い出せるかもしれないけど… 0:夜、陸玖の部屋。押入れを漁っている 陸玖:「なんで最初からここを探してないんだ俺…小学生からの付き合いならもしかしたら梨蘭との思い出の何かがあるかもしれないよな。」 0:部屋のドアがノックされ美澄が入ってくる 美澄:「ねえ、お兄ちゃん!さっきからうるさいんだけど?」 陸玖:「あ、ああ。すまん。ちょい探し物をな。」 美澄:「探し物?そんな押入れの物を全部引っ張り出してまで探すものって何?」 陸玖:「小学生の頃の奴をな…アルバムでもなんでもいいんだけど…」 美澄:「小学生の頃のアルバム?あー…それならあるよ。」 陸玖:「え?ほんとか!?」 美澄:「うん、私が持ってる。」 陸玖:「なんで美澄が…?」 美澄:「なんでって…お兄ちゃんが俺だと無くすから代わりに持っていてくれって渡したんじゃん。忘れたの…?」 陸玖:「あ、あー…そうだ。そうだったな…!すまん、ド忘れしてた!」 美澄:「まったく…持ってくるから待ってて。」 陸玖:「ああ、ありがとう。」 0: 陸玖:【N】そうか、そういえばそうだった。アルバムは美澄に預かってもらっていたんだ。アルバムに限らず大切なものは美澄の部屋に置いてもらっていたんだ。 0: 美澄:「お待たせ。はい、アルバム。」 陸玖:「ありがとう美澄。」 美澄:「で?なんで今更そんなものが見たいわけ?」 陸玖:「思い出したい事があるんだ。」 美澄:「思い出したい事?」 陸玖:「梨蘭の事…かな。」 美澄:「波奇先輩…の事……ねえ、お兄ちゃん。」 陸玖:「なんだ?」 美澄:「お兄ちゃんは波奇先輩の事好きなんだよね?」 陸玖:「なんだよ急に。」 美澄:「どうなの?」 陸玖:「……好きだと思う。」 美澄:「思うって……曖昧だなぁ…まあ見てたら分かるけど。」 陸玖:「んだよお前。」 美澄:「ほら、思い出したい事は思い出せたの?」 陸玖:「お前が変な事聞くから…あ、これは…?」 美澄:「ん?どうしたのお兄ちゃん?」 陸玖:「手紙…?いや、メモ…?」 美澄:「メモ?なんの?」 0:そっとメモを見る 陸玖:「これは…」 美澄:「お兄ちゃん?」 陸玖:「そうか…そういう事か……どうして今までこんな大事な事を…」 美澄:「お兄ちゃん?どうしたの?」 陸玖:「ありがとう美澄。探し物は見つかった。」 美澄:「え?今のメモの事だったの?」 陸玖:「ああ、これで全部思い出せた。」 美澄:「……そっか。良かったね、お兄ちゃん。」 0: 0:9月13日(水) 0: 0:いつものように登校する準備をする陸玖 陸玖:「よし、今日も学生生活を頑張りますかぁ…今日は梨蘭にあの事を…」 0:大きな足音を響かせながら美澄がドアを開ける 美澄:「はあ、はあ、お兄ちゃん!!」 陸玖:「うわっ!なんだ!?」 美澄:「お兄ちゃん、梨蘭さんが…!」 陸玖:「梨蘭?梨蘭がどうかしたのか?」 美澄:「居なくなったって…!!」 陸玖:「居なくなった!?」 美澄:「うん、藤巻先輩から連絡あって…お兄ちゃんの方にも来てるんじゃない?」 陸玖:「そういや、起きてから電源をつけ忘れてた…!うわ、ほんとだ。」 0:和真に電話をかける陸玖 陸玖:「あ、和真!梨蘭が居なくなったってどういうことだ!?」 和真:『それは俺だって聞きたいよ!変なメッセージが今朝届いててさ。気になって家に行ったら出かけたって言われたし、学校にもまだ来てないみたいだし…わけわかんねえよ。』 陸玖:「変なメッセージってどんなのなんだ?」 和真:『「最後を告げる花は鏡を波打つ」って来たんだ。』 陸玖:「なんだそれ…?」 和真:『とりあえず俺は思い当たる所を探してっから、りっくん達は普通に学校に…』 陸玖:「いや、俺も探す!多分…俺が探さなきゃいけない気がするんだ。」 美澄:「お兄ちゃん…私も心当たり探してみる…!」 和真:『2人共…わかった、俺も何かわかったらすぐ連絡する!』 陸玖:「ああ!」 美澄:「はい!」 0: 0: 0: 0: 和真:【N】俺が波奇を意識し始めたのは高校に上がって直ぐの事だった。 和真:俺と波奇は1年生の頃に同じクラスだった。波奇は明るい笑顔と誰にでも気さくに話しかけるフレンドリーな性格をしていてすぐに誰とでも仲良くなっていった。 和真:俺もでかい声と持ち前の明るさを武器にクラスに溶け込むのは容易だった。だが、彼女と距離を詰めるのは例外だった。 和真:近づけなかった。いや、会話は簡単だった。だが親密…と言える所までは出来なかった。彼女の心はたった1人にしか向いていなかったのだから 0: 和真:「はあ、はあ…波奇の奴…どこに行ったんだよ…!」 0: 和真:【N】俺は町の中を再び駆け出した。 0: 0: 0: 美澄:【N】私は波奇先輩の事がそんなに好きじゃない。あの人はずるい。お兄ちゃんの気持ちを知っていながら素知らぬふりをしているんだから。 美澄:ずるい、ずるいのに羨ましい。藤巻先輩に好意を持たれていることが。あの余裕が。私が欲しいものを全部持ってるのが… 美澄:本当は弱いくせに、強がって気丈に振舞って、なのにみんなに優しくしてるのが…すごくずるい 0: 美澄:「気づいてほしいのに、なんでこんな事するの…バカな人。」 0: 美澄:【N】波奇先輩がいるであろう場所に向かって私は走り出した。 0: 0: 0: 陸玖:【N】高校生の頃にこんな事があったか?こんな事件があったか?今思い返しても何1つ記憶が見えない。 陸玖:ただ1つ思い出したのは、梨蘭とのあの約束の事。現実世界では思い出せなかった大切な約束 陸玖:この約束を、伝えられなかった俺の想いを伝える為に早くアイツの元へ行かねばならない 0: 陸玖:「あのバカ、どこにいるんだよ…」 0: 陸玖:【N】すると俺のケータイに1つの着信が鳴り響いた 0: 0: 0: 梨蘭:【N】なんで逃げちゃったんだろうな。なんて今更考えても仕方ない。 梨蘭:9月13日この日は私にとって大事な日。期待しても仕方ないのに、彼が思い出してくれる事を期待してしまっている 梨蘭:ちゃんと伝えればこんな思いはしなかったのかな?でもわがままな事に、本人に自力で思い出してほしかった 0: 梨蘭:「ほんと、色々とずるいよね私…」 美澄:「ええ。あなたはずるいです波奇先輩。今更気づいたんですか?」 梨蘭:「…!美澄ちゃんどうしてここに…?なんでわかったの?」 美澄:「女の感って奴ですかね?」 梨蘭:「…そっか。すごいね美澄ちゃん。」 美澄:「波奇先輩。一言かましてもいいですか?」 梨蘭:「うん…いいよ。」 美澄:「私、あなたの事が嫌いです。」 梨蘭:「……っ!ふふ……そっか。」 美澄:「っ!そういう所も嫌いなんですよ!なんでそんな余裕ぶってるんですか!?本当は弱いくせにどうして強がるんですか!全然余裕じゃないのに余裕ぶらないでくださいよ!」 梨蘭:「………別に私は強がってないよ?」 美澄:「嘘っ…!いつもニコニコして隙を見せなくて、お兄ちゃんが好きなの知ってるのに知らないふりして…! 美澄:藤巻先輩にも好意持たれてて…色んな事に気が付いてるのに気が付かない振りして、遠巻きに傍観して、達観して、ホントにずるい!!」 梨蘭:「和真の事は知らないよ…!それは私関係ないでしょ?」 美澄:「先輩が!ちゃんとした態度を取ってればよかったんですよ!」 梨蘭:「そんなこと言われたって!」 美澄:「…もう一度あの時の質問します…波奇先輩はお兄ちゃんの事が好きですか?」 梨蘭:「……なんでまた…」 美澄:「波奇先輩…!」 梨蘭:「好きだよ。大好きに決まってるじゃん。でも言えないんだよ…」 美澄:「何でですか?」 梨蘭:「約束したから…」 美澄:「約束?」 梨蘭:「うん…小学生の頃に陸玖とした約束。」 美澄:「あ…」 梨蘭:「でも陸玖は忘れちゃったみたいだから、ここで待ってるのは無意味なんだけどね。わがままだよ、私の。」 美澄:「…それなら大丈夫です。」 梨蘭:「え?」 美澄:「あのバカ兄、昨日思い出したんで。」 梨蘭:「うそ…」 美澄:「まあ、場所までは思い出せてないみたいですけどね。」 梨蘭:「……そうだよね。」 美澄:「だから、教えちゃいます。私もずるい女なんで。」 梨蘭:「…ふふ、そっか。」 0: 0: 0: 陸玖:「ん?着信?誰からだ?美澄…?もしもし、何かわかったのか?」 美澄:『やっほお兄ちゃん。波奇先輩の場所教えようか?』 陸玖:「梨蘭がどこにいるかわかったのか!?」 美澄:『割とすぐにね。』 陸玖:「早く教えてくれ!」 美澄:『「最後を告げる花は鏡を波打つ」だよ。』 陸玖:「それって梨蘭が残したメッセージじゃないか…」 美澄:『わからないならヒントあげる。お兄ちゃんが波奇先輩と小学生の頃に約束をした場所だよ。』 陸玖:「俺が…約束……」 美澄:『最後に大きな花が空に咲く所だよ。』 陸玖:「花が空に……もしかして…」 美澄:『もう大丈夫そうかな。』 陸玖:「ああ、多分分かった。ありがとう美澄!そうだ、梨蘭に伝えて欲しい事があるんだけどいいか?」 美澄:『ん?』 陸玖:「今から約束を果たしに行くから待ってろって。」 美澄:『なにかっこつけてんの…うん。伝えておく。』 陸玖:「ありがとう。さて、日没までそんなに時間はない…行こう。遊園地に。」 0: 0: 0: 梨蘭:「陸玖、なんて?」 美澄:「今から約束を果たしに行くから待ってろ、ってかっこつけてました。」 梨蘭:「…そっか。」 美澄:「じゃあ、私はお兄ちゃんが来る前に帰りますね。」 梨蘭:「え、なんで?」 美澄:「当たり前じゃないですか。2人きりで話さなきゃいけない大事な事があるんでしょう?邪魔者は退きますよ。」 梨蘭:「…ありがとね、美澄ちゃん。」 美澄:「別に、あなたの為でも、お兄ちゃんの為でもないです。藤巻先輩にこれ以上迷惑が掛からないように動いただけですので。」 梨蘭:「それでもありがとね。」 美澄:「……それじゃあ。私はこれで。」 0: 美澄:「でも、このまま会わせるわけにはいかない。ちゃんとお兄ちゃんの気持ちも確かめなきゃ……」 0:電話を掛ける美澄 0: 0:遊園地に着いた陸玖、門前で和真が出迎える 0: 和真:「よ、りっくん。」 陸玖:「和真…お前なんで…」 和真:「美澄ちゃんから連絡が来てなー。」 陸玖:「そういう事か…じゃあ和真一緒に…」 和真:「悪い陸玖、それは出来ない。」 陸玖:「は?どういうことだ?」 和真:「美澄ちゃんから頼まれてね、お兄ちゃんの気持ちをもう一度確かめてくれってね。」 陸玖:「なんだそれ…どうしてそんな事を…」 和真:「陸玖。陸玖は波奇の事をどう思ってる?」 陸玖:「なんでそんなことを今言わなきゃ…こんな事をしてる暇はないだろ!それに俺の気持ちはもうわかってるだろ?」 和真:「分からない。俺はお前からちゃんと聞いたことはない。」 陸玖:「でも…」 和真:「どうなんだ?」 0: 陸玖:【N】こんなまっすぐな目をした和真は初めて見るかもしれない… 0: 和真:「陸玖…!」 陸玖:「…俺は…梨蘭の事が好きだ。大好きだ。昔交わした約束を果たす為に、この気持ちを伝える為ににここまで来たんだ。梨蘭を思う気持ちに偽りはない。」 和真:「……そうか。素直になるのがおせえんだよ……バーカ… 和真:よーっし!湖にさっさと行け!あと少しで花火あがるぞ!急げ急げ!」 陸玖:「和真…ありがとう…!」 和真:「良いってことよ!!頑張れよー!りっくん!」 0:園内の奥へ走り消えていく陸玖 和真:「あーあ!まったくもー、損な役回りさせんじゃん?美澄ちゃん。」 0:物陰から出てくる美澄 美澄:「ふふ、私をフッた罰です藤巻先輩。」 和真:「たはー、言うねー。」 美澄:「でもある意味、ちゃんとけじめはつけられたんじゃないですか?お兄ちゃんも、藤巻先輩も。」 和真:「ま、そうだね…」 美澄:「さ、私たちはどうします?帰りますか?それとも…」 和真:「ねえ、美澄ちゃん。」 美澄:「…なんです?」 和真:「あの時の返事、まだちゃんとしてないよね。」 美澄:「え?」 和真:「今更かもしれないけど、今俺が出せる返事を出してもいいかな?」 美澄:「……はい。」 和真:「ごめんね。もう少し時間をくれないかな?」 美澄:「……どういう事ですか。」 和真:「俺の中でもっとちゃんと整理が出来たら、その時に必ず返事をする。 和真:美澄ちゃんの事を、美澄ちゃんの気持ちを大切にしたいから…生半可な気持ちで答えを出したくないんだ…だめかな?」 美澄:「なんですかそれ…返事を出すって言ったり待ってくれって言ったり…訳わかんないです…」 和真:「ごめん、俺でも何言ってんだって感じ。でも、美澄ちゃんに対して真剣になりたいんだ。」 美澄:「そんなの…期待しちゃうじゃないですか。」 和真:「期待してなんて言えない。でも大切に考えて答えを出すから、もう少し待ってて。」 美澄:「…仕方ないですね……待っててあげます。」 和真:「うん、ありがと。」 0:閉園30分前を知らせる花火が上がる 美澄:「あ…」 和真:「花火、上がったね。」 美澄:「次この花火を2人で見る時は…友達の妹じゃなくて……」 和真:「え?何か言った?」 美澄:「…ふふ。いーえ、なんでもありませーん!」 0: 0: 0: 梨蘭:「花火まであと10分…もう…ダメかな…」 陸玖:「はあ、はあ…梨蘭!…梨蘭!!」 梨蘭:「っ!陸玖…!本当に来たの…」 陸玖:「梨蘭…やっと見つけた…」 梨蘭:「…思い出したの?」 陸玖:「ああ、思い出した。ちゃんと思い出したよ。」 梨蘭:「そっか…」 陸玖:「その前に…」 0:梨蘭の額にデコピンをする陸玖 梨蘭:「痛っ!」 陸玖:「こんな事をして、色んな人に迷惑をかけるな。どれだけ心配したと思ってんだ!」 梨蘭:「うう…ごめんなさい。」 陸玖:「たく、お前は昔からそうだよな。」 梨蘭:「そうかな…?」 陸玖:「思ったらすぐ行動。周りのみんなはそれに巻き込まれる。」 梨蘭:「うう…」 陸玖:「でもそういう所も含めて梨蘭だから。」 梨蘭:「陸玖…」 陸玖:「小学生の頃にした約束、果たすよ。」 梨蘭:「…うん。」 陸玖:「6年後の9月13日、梨蘭の誕生日に、この遊園地の花火を一緒に見る。」 梨蘭:「でも、それだけじゃ…」 陸玖:「わかってる。」 梨蘭:「え?」 0:花火が上がり2人を照らす 陸玖:「梨蘭、好きだ。」 梨蘭:「…陸玖…」 陸玖:「花火が上がったと同時に、お互いの気落ちを伝える。だろ?ごめんな、ずっと忘れてて。」 梨蘭:「んーん。大丈夫。」 陸玖:「ちゃんと思い出せてよかった。」 梨蘭:「なんで思い出せたの?」 陸玖:「…これ。」 0:ポケットからメモを取り出す 梨蘭:「これって…」 陸玖:「この日の事を書いたメモ。誕生日と俺の気持ちが書いてある。」 梨蘭:「『9月13日はリランの誕生日、おれは、リランが好き、ぜったいに伝える』…ふふ、なんかおかしい。」 陸玖:「な、なんだよ…」 梨蘭:「えー?照れてるの?」 陸玖:「そんなんじゃねえよ。」 梨蘭:「ふふ…ありがとね陸玖。」 陸玖:「なにがだよ。」 梨蘭:「約束守ってくれて。」 陸玖:「…まあ、遅くなったけどな。」 梨蘭:「それでも、うれしい。思い出してくれなかったら、もう会えないと思ったから…」 陸玖:「どういう事だよ?」 梨蘭:「実は私ね、病気なんだ。明日から治療の為に入院するの…ずっと黙っててごめん…」 陸玖:「…は?なんだよそれ、なんで黙ってたんだよ!」 梨蘭:「心配かけたくなかったんだもん、言えないよ…こんなの…」 陸玖:「だからって……っ!」 0: 陸玖:【N】そうだ、この時代に慣れてしまったせいで忘れかけていた 陸玖:現実世界の梨蘭は難病によって命を落とした 陸玖:俺は病気の存在も、今まで梨蘭がどうしていたのかも知らされず、亡くなってから全てを知らされた 0: 梨蘭:「陸玖…?」 陸玖:「……治るのか?」 梨蘭:「分かんない、回復したらすごくラッキーだって。」 陸玖:「そうか………大丈夫だ、お前は絶対に良くなる。」 梨蘭:「え?」 陸玖:「絶対に病気は治る!何年かかったとしても絶対に良くなる!俺がずっとそばに居て元気にしてやる!約束だ!」 梨蘭:「……陸玖…」 陸玖:「こうして約束を果たしたんだ、この約束も必ず守る。だから安心しろ。」 梨蘭:「……絶対守ってね?今度は忘れないでね?」 陸玖:「任せろ。」 梨蘭:「ふふ……ありがと…ねえ、陸玖? 陸玖:「なんだ?」 梨蘭:「抱きしめてほしいな?」 陸玖:「はっ!?な、なんでだよ…!」 梨蘭:「はずかしいーのー?」 陸玖:「な、なわけないだろ。」 梨蘭:「じゃあ、ほら早く。」 陸玖:「ああもう……ほら、これでいいか?」 梨蘭:「ん。」 陸玖:「……いつまでしてればいいんだ…?」 梨蘭:「もう少し…」 陸玖:「……。」 梨蘭:「陸玖。」 陸玖:「…なに?」 梨蘭:「好きだよ。」 陸玖:「……俺も、好きだ。」 梨蘭:「えへへ。」 陸玖:「…あはは。」 梨蘭:「絶対、病気を治すからね。」 0: 0:しばらく笑いあった後、2人は遊園地から出ると美澄と和真が出迎える 0: 和真:「よ、お2人さん。」 陸玖:「和真。」 美澄:「おかえりなさい、波奇先輩。お兄ちゃん。」 梨蘭:「美澄ちゃん。2人共どうして…」 和真:「ま、いろいろとな。その顔から察するに、無事に済んだみたいだな。」 陸玖:「おかげさまでな。」 梨蘭:「……みんな。」 和真:「ん?」 美澄:「なんですか?」 梨蘭:「色々ありがとう。それと沢山迷惑をかけてごめんなさい。」 陸玖:「梨蘭…」 美澄:「……ほんと、大迷惑です。」 和真:「美澄ちゃん…」 美澄:「あなたの身勝手な行動でこっちはいい迷惑です。」 梨蘭:「うん…ごめん。」 美澄:「でも………別にいいです。許してあげます。」 梨蘭:「え?」 美澄:「まあそういう事です。これからもお兄ちゃんの事をよろしくお願いしますね。このバカ兄の傍に居れるのはあなただけですので。」 陸玖:「美澄…」 梨蘭:「うん…わかった。ありがとね美澄ちゃん。陸玖の事は私に任せて。」 和真:「美澄ちゃん、成長したねよしよし。」 美澄:「んもう、私だって成長してるんですよー!」 和真:「ははは、そっかそっかー。」 美澄:「もう…!藤巻先輩のバカ!」 0: 0:その後全員で遊園地を後にした 0: 陸玖:【N】この時代に戻って来た時に何か重要な事を忘れているかもしれないとずっと突っかかっていたモヤの正体、それは梨蘭との約束だった 陸玖:病気の事など、まだまだ問題は多いけれど、その約束を思い出し、果たしたことで突っかかりが無くなり晴れやかな気分になった 陸玖:すっきりしたのか、ベッドに横になると同時に次第に瞼が重くなり…深い眠りにいざなわれていった… 0: 0: 0: 0: 0: 陸玖:「はっ!やばい、寝てた……学校いかなきゃ…!ってあれ…?」 0: 陸玖:【N】勢いよく起きた俺は、違和感を覚えた。なぜならここは俺の部屋ではないからだ。 陸玖:いや、正確に言えば『高校時代の俺の部屋』ではない。 0: 陸玖:「戻ってきたのか…?元の世界に…?」 0: 陸玖:【N】ケータイの画面を見ると、間違いなく元の時代の日付になっており驚くことに俺が過去に行く前の日付から1晩しか経っていなかった。 陸玖:夢だった?でもあの感覚は夢ではないはず。そう考えていると1つの着信が鳴り響いた 0: 美澄:『もしもしお兄ちゃん!?』 陸玖:「あ、ああ。美澄か、そんな急いでどうかしたか?」 美澄:『早く病院に来て!』 陸玖:「病院?なんで?」 美澄:『朗報だよ!』 陸玖:「朗報?」 美澄:『目を覚ましたんだよ!』 陸玖:「目を覚ました?」 美澄:『梨蘭さんが!』 陸玖:「っ!!?」 0: 陸玖:【N】梨蘭が目を覚ました?どういうことだ?確かにあいつは現実世界で数年前に病気で亡くなったはず 陸玖:過去に行った事で亡くなるという未来が改変された? 陸玖:状況が未だ掴めていない頭をフル回転させながら病院へと走った 0: 0:病院にて息を切らしながら陸玖が病室の扉を開ける 0: 陸玖:「はあ、はあ!梨蘭!」 美澄:「ちょっとお兄ちゃん!静かにしてよ!」 陸玖:「す、すまん。」 美澄:「もう…梨蘭さん、お兄ちゃん来たよ。」 陸玖:「梨蘭…」 0: 陸玖:【N】ベッドには横になって柔らかく微笑む梨蘭の姿があった 0: 梨蘭:「ねえ…陸玖?」 陸玖:「なんだ…?」 梨蘭:「私ね、夢を見ていたの。」 陸玖:「夢?」 梨蘭:「昔、私と陸玖がした約束の夢。」 陸玖:「…っ!そっか、お前も見たのか。俺もな、その夢見たよ。」 梨蘭:「ほんと…?」 陸玖:「ほんとだ。」 梨蘭:「えへへ、なんか嬉しい。」 陸玖:「俺の言った通り病気、治ったろ?」 梨蘭:「…うん。」 陸玖:「約束、これで全部果たした。」 梨蘭:「うん…ありがとう陸玖…」 陸玖:「なあ、梨蘭。」 梨蘭:「…なに?」 陸玖:「俺ともう1つ約束をして欲しい。」 梨蘭:「もう1つ?」 陸玖:「これからも俺の傍に居て、ずっと幸せでいて欲しい。」 梨蘭:「え、それって…」 陸玖:「俺と……結婚してください。」 梨蘭:「……っ!うん…うん…!もちろん、喜んで…!」 0:そこに和真が駆け込んでくる 和真:「梨蘭ー!大丈夫か梨蘭!!」 陸玖:「和真!?お前どうしてここに…」 和真:「りっくん、居たのか!梨蘭、梨蘭は大丈夫なのか!?」 美澄:「いいから落ち着いてよ、和真さん。梨蘭さんはそこに居るでしょ。」 和真:「へ?」 梨蘭:「久しぶり、和真。」 和真:「お前…やっと目を覚まして……良かったぁあああ…」 美澄:「ちょ、なにへたり込んでるのよ。」 和真:「いやぁ、安心したら腰が抜けて…」 陸玖:「和真、お前海外に行ってたんじゃないのか?どうやってすぐ来れたんだ?」 和真:「は?海外?行ってないよ?」 陸玖:「え、いや大学卒業後に海外にって…」 和真:「行かない行かない!美澄ちゃんと付き合ってんのに置いていくわけないでしょ!」 陸玖:「付きあ……えっ!?」 美澄:「なに驚いてんの…知ってたじゃんお兄ちゃん…それにお腹に子供がいて今度結婚することも。」 陸玖:「……えええええっ!?」 美澄:「ちょ、うるさい!」 梨蘭:「陸玖は忘れっぽいからね。おめでとう、美澄ちゃん。」 美澄:「うん、ありがと梨蘭さん。」 和真:「ま、りっくんの事はほっといて、梨蘭が退院したら快復パーティーすっか!」 0: 陸玖:【N】無くしたはずの夢は、またこの腕の中で光り輝き始めた 陸玖:どこの誰が再び輝きを取り戻させてくれたのか分からない、通りすがりの神様か、気まぐれの魔法使いなのか皆目見当もつかない 陸玖:でも、どこの誰でもいい、俺に大切な約束を思い出させてくれた事、大切な人の命に輝きを与えてくれた事、大切な人達の繋がりを取り戻させてくれた事、その全てに感謝をしている 0: 0: 0: 0: 0: 陸玖:これは、陽炎が見せた熱い残夏(ざんげ)の記憶 0: 和真:置いてきてしまった約束を果たすため 0: 美澄:欠けてしまったピースを探すため 0: 梨蘭:誰かが見せた1週間の淡い夢 0: 0: 0:FIN

0:夜道を歩く陸玖 陸玖:「はあ…今日も残業で遅くなった…明日も明後日も仕事…疲れたわ…」 0: 陸玖:【N】社会人になって早数年 陸玖:毎日仕事に追われ、学生の頃に憧れていた大人の世界は既に崩れ去っていた 陸玖:仲の良かった友人は既にこの生まれ育った町を出て、海外へと行ってしまった 0: 陸玖:「なんか俺だけ取り残された気分だよな…でもしょうがねえだろ…俺にはもう頑張る目的がねえんだから…」 0:道の片隅に小さな祠を見つける 陸玖:「……でもそうだな…もしまたアイツに会えたらもう一度頑張ってもいいかもな。」 0:財布から小銭をすべて取り出し、空の皿に置く 陸玖:「なんてな。さっさと帰って明日の準備すっかー」 0: 陸玖:【N】これは、深い夢の中を巡る記憶を探して 美澄:【N】みんなの心に残った想いを見つけて 和真:【N】掴んでも消えてしまう幻を求めて 梨蘭:【N】夏が残した陽炎(かげろう)を掴む、1週間の夏の思い出 陸玖:【N】ワンウィーク・ハイスクール 0: 0: 0: 0:9月6日(水) 0: 0: 0:学校の教室 和真:「………い…おい…」 陸玖:「…ん…」 和真:「おい、りっくん!起きろって!」 陸玖:「…っ!?」 和真:「やっと起きたか、りっくん。随分と寝てたな。もう昼休みだぞ?」 陸玖:「…お、お前は…?てかここは?」 和真:「なんだよ寝ぼけてんのか?大親友の俺を忘れるなんて、フリだとしても悲しいなあ。」 陸玖:「………その呼び方…まさかお前…和真?和真なのか?」 和真:「ああそうだよ。やっと目が覚めたか。」 0: 陸玖:【N】和真は高校時代に仲が良かった友人の1人 陸玖:いつも明るく、声がでかいムードメーカーだった 0: 陸玖:「でもお前…海外に行ったんじゃ……しかもなんだその見た目……それって高校の時の…」 和真:「高校の時のって…何言ってんだ?俺ら現在進行形で高校生だろ?まだ寝ぼけてんのか?」 陸玖:「高校…生?」 和真:「おいおい、大丈夫か?トイレで顔洗って目を覚ましてこいよ。」 陸玖:「…あ、ああ。そうだな、そうする…」 0: 0:トイレ内 陸玖:「な、なんだよこれ…なんなんだよこれ……」 0: 陸玖:【N】鏡に映っていたのは、疲れ切ったサラリーマンの顔ではなく、高校時代の俺の顔だった 陸玖:頬をつねってみても痛覚があり、夢ではない事が分かる 陸玖:どうしてこんな事になっているのか、何が何だか分からないままトイレを後にし廊下へと出る 0: 陸玖:【N】見覚えのある廊下、見慣れた教室、高校時代の友人。これは夢、そう思いたいが現実のようだ 陸玖:頭の中がパニックでどうにかなりそうだけど、今はとりあえず状況を整理していく必要がある。まずは教室へ戻ろう 0: 和真:「お、りっくん目が覚めたか?」 陸玖:「あ、ああ。大丈夫だ。」 和真:「にしてもりっくんが授業中に居眠りだなんて珍しいこともあるもんだなあ。夜更かしでもしてたんか?」 陸玖:「あー…まあ…そんな覚えはないんだけどな…?」 和真:「ほんとかあ?えっちい動画とか見てたんじゃないのかあ?」 陸玖:「ば…!んなもん見るわけないだろ!?」 和真:「おやおや?その反応怪しいなー?まあ、言ってもりっくんも男の子だしなぁ。」 陸玖:「だから違うって!」 和真:「んで?りっくんの好みの女子ってどんな子なのよ?」 陸玖:「なんでそんなの聞くんだよ。」 和真:「なんとなく?やっぱり波奇みたいなのが好きなん?」 陸玖:「…波奇?」 和真:「そうそう、波奇と仲いいじゃん?ああいう系の女子とか好きなのかなーって。違った?」 陸玖:「…波…奇……」 0: 陸玖:【N】懐かしいその名前を聞いて俺は思わず止まってしまった 0: 和真:「…りっくん?大丈夫か?」 0:教室のドアが開き1人の女子生徒が入ってくる 和真:「お、噂をすればなんとやらだな!」 陸玖:【N】教室に入ってきたその女子生徒を見て、俺の胸は締め付けられるような痛みを帯びた 陸玖:だってそいつは…… 0: 0: 0: 0: 梨蘭:「やっと目が覚めたんだね陸玖。」 0:  陸玖:【N】肩にかかるほどの赤茶けた髪を揺らしながら、優しく微笑むそいつは… 陸玖:元の時代では既に亡くなっているのだから 0: 0: 0: 0:9月7日(木) 0: 0: 0: 0:朝7時、目を覚ます陸玖 陸玖:「夢じゃない……か…」 0: 陸玖:【N】昨日は気持ちや現状の整理をしたかった為、体調不良と言って早退をさせてもらい家に帰った。実家の場所も家族も当時のままであることから、やはりここは過去で間違いない。 陸玖:日付は8年前の9月7日。なぜ過去に戻ってきたのか、どうやって過去へ来たのかは定かではない。 陸玖:記憶があやふやで断片的な個所が非常に多い…重要なことを忘れているようで仕方がない…とりあえず今は現代へ帰る方法を探しながらこの生活を続けるしかないか… 0: 0:学校の校舎へ着き上履きへ履き替える 0: 美澄:「あ、お兄ちゃんおはよう。遅かったね。」 陸玖:「…あ、美澄…おはよう。」 0: 陸玖:【N】美澄…俺の妹で歳は1つ下 陸玖:昔から怒りっぽくて生意気な性格をしている 0: 美澄:「なに、お兄ちゃんどうかしたの?昨日からなんか変だけど…」 陸玖:「え?ああ、どうもしてないよ?」 美澄:「そう?もし体調が悪かったら早めに先生に言いなよ?昨日も早退してんだし。」 陸玖:「ああ、ありがとうな美澄。」 美澄:「…別に。お兄ちゃんが体調崩すと尻拭いするのは藤巻先輩だからね。迷惑かけらんないでしょ。」 陸玖:「…?まあ、世話にはなってるけどなんで和真が出てくるんだ?」 美澄:「っ!うるさいなあ!何でもないよ!じゃ、私教室行くから!」 陸玖:「あ、ああ。なに怒ってるんだアイツ?今も昔も怒りっぽいのは変わらねえな。」 0: 陸玖:【N】怒りながら去っていく妹の後ろ姿を見送った後に俺も自分の教室へ向かった。教室のドアを開けると真っ先に声をかけてきたのは… 0: 梨蘭:「あ、陸玖。おはよ。」 陸玖:「梨蘭……」 梨蘭:「体調は大丈夫そうなの?」 陸玖:「ああ、なんとかな。心配かけてごめん。」 梨蘭:「ふーん、なんか変なのー。」 陸玖:「はあ?何が…?」 梨蘭:「体調崩してるのもあるんだろうけどさ、陸玖がしおらしいのは、なんかむず痒くなる…」 陸玖:「なっ!?なんだそれ!?俺だってしおらしくなるわ!」 梨蘭:「えーそう?今までそんなの見たことないけどー?」 陸玖:「くそ…迷惑かけたと思ったから言ったのに…」 梨蘭:「迷惑かけたって思ってるんだ。」 陸玖:「そりゃあな…」 梨蘭:「口とがらせてるー!やっぱ変!あはは!」 陸玖:「な!?なんなんだよ梨蘭!」 梨蘭:「ふふ、ごめんごめん。でもやっぱり陸玖とはこうして話してるのが楽しいなー!」 陸玖:「んだよ急に…」 梨蘭:「急はこっちだよ、早退なんてするんだもん。」 陸玖:「梨蘭…すまん。」 梨蘭:「ふふ、でも次からは無理しないようにね!わかった?」 陸玖:「あ、ああ。分かってるよ。」 梨蘭:「よし!いいこいいこ。」 陸玖:「ばっ!頭撫でるのやめろよ!」 梨蘭:「ふふっ。」 0: 陸玖:【N】ああ、そうだ。こいつはこういう奴だった。昔から、少し誕生日が先だからって俺の事を子ども扱いしてくる。梨蘭は、そういう奴だった… 0:和真が教室へ入ってくる 和真:「お、りっくん体調大丈夫なのか?」 陸玖:「あ、和真。昨日は悪かったな。ほら、貸してくれたノート返すよ。ありがとな。」 和真:「おう、いいってことよ。」 陸玖:「妹にも和真に迷惑かけるなって言われたから、体調管理はしっかりしないとだな。」 和真:「美澄ちゃんにそんなの言われたのか?」 陸玖:「ああ、今朝言われた。」 梨蘭:「美澄ちゃんなりのお兄ちゃんへの心配の仕方なんだね。」 和真:「ほー…んじゃあ、俺に迷惑がかからないように頑張ってくれよ?」 陸玖:「…く、わかったよ。」 和真:「あははは、よし。じゃあさっそく今回俺に迷惑をかけた罰を受けてもらおうか。」 陸玖:「はあ!?」 和真:「ふふん…今回受けてもらう罰は…一緒に遊園地に行く事だ!」 陸玖:「は?遊園地?」 和真:「ああ、もちろん波奇もな?」 梨蘭:「え、私も?」 和真:「チケットを4枚もらったんだけど、持て余しててな。よかったらどうだ?」 梨蘭:「えー!いいの?せっかくだし私は行きたいー!」 和真:「りっくんは?」 陸玖:「ああ、せっかく誘ってくれてるんだ俺も行くよ。」 和真:「よし、やったぜ!」 陸玖:「でも、4枚あるんだよな?あと1人は誰か決まってるのか?」 和真:「それが決まってなくてなー。」 陸玖:「そうか…」 梨蘭:「…ねえ?美澄ちゃんはどうかな?」 陸玖:「え、美澄?」 梨蘭:「うん、和真とも仲良いしさ。それに久しぶりに会いたいなって。」 和真:「なるほどな…それもそうだな!じゃあ、美澄ちゃんに決まりだ!」 陸玖:「な、まだ誘えると決まったわけじゃ…」 梨蘭:「ふふ、多分大丈夫だと思うよ?」 陸玖:「…どういうことだ?」 和真:「じゃあ、今週の土曜に現地集合な!」 梨蘭:「はーい!」 陸玖:「…はあ。了解。」 0: 0:学校から帰宅する陸玖、美澄と鉢合わせる 0: 陸玖:「ただいまー。」 美澄:「あ、お兄ちゃん。お帰り。」 陸玖:「美澄、今日部活じゃなかったのか?」 美澄:「うん、今日は無い。」 陸玖:「そか、あ。そういや和真が…」 美澄:「藤巻先輩が何!?」 陸玖:「なんでそんな食い気味なんだよ…」 美澄:「いいから、藤巻先輩が何なの?」 陸玖:「……チケット貰ったから土曜に遊園地行かないかって…」 美澄:「え!?遊園地!?藤巻先輩と!?やったあああ!」 陸玖:「あ、俺と梨蘭もいくぞ?」 美澄:「えー……波奇先輩とお兄ちゃんも来るの…?まあ、いいけどさ…」 陸玖:「良いならそんな顔すんなよ…」 美澄:「でも藤巻先輩と一緒に遊園地なんて夢みたい…!楽しみだなー!」 陸玖:「そんな遊園地に行きたかったのか?言えば連れて行ってやったのに。」 美澄:「は?誰もお兄ちゃんと行きたかったなんて言ってないでしょ?勘違いしないで。私は藤巻先輩と行きたいの!!」 陸玖:「ああ……梨蘭が言ってた事ってこういうことか…なるほどな…」 美澄:「なに?」 陸玖:「いや、何でもない。じゃあ、伝えたからな。」 美澄:「はーいお疲れお兄ちゃーん。」 0:2階へと階段を上っていく美澄 陸玖:「たくっ、あの妹は……にしてもそうだったのか、美澄は和真の事が… 陸玖:あれ…でも現実の2人はどうなっていた?だめだ、モヤがかかってうまく思い出せない…」 0: 0:9月8日(金) 0: 0:昼休み、中庭で昼食を食べている 梨蘭:「いよいよ明日、遊園地だねー。」 和真:「な!楽しみだなー!美澄ちゃんも来てくれるんだもんな?」 陸玖:「ああ、昨日即答で行くって言ってた。」 和真:「おー!やったー!」 梨蘭:「ふふ、やっぱりねー。」 和真:「なにがやっぱりなんだ?」 梨蘭:「なんでもないよ!」 0:陸玖、梨蘭に耳打ちをする 陸玖:「梨蘭、いつから知ってたんだ?」 梨蘭:「なにが?」 陸玖:「美澄の事だよ。」 梨蘭:「ふふ、女の感ってやつ?」 陸玖:「はあ、なるほど…わからん。」 和真:「そういえばさ、明日行く遊園地なんだけど面白い噂があるんだ。」 陸玖:「噂?」 和真:「なんでも、閉園30分前になると上がる花火に合わせて愛の告白をすると必ずその恋は実るとかなんとかって…」 陸玖:「ありきたりな噂だな…」 梨蘭:「へー…でもロマンチックだね!」 和真:「でもこれには条件があるらしくてな?」 梨蘭:「条件?」 和真:「ああ、パーク内の中央に湖があるんだけど。その湖畔(こはん)に居ること、そして花火が打ちあがったと同時に告白をし、その愛の言葉が相手に届いていること。だそうだ。」 陸玖:「ほー、なかなか面倒くさいのな…」 和真:「…りっくん、がんばれよ?」 陸玖:「何がだ?」 和真:「波奇に告白するチャンスだぞ…?」 陸玖:「ばっ!!何言ってるんだお前は!」 梨蘭:「どうしたの陸玖?」 陸玖:「な、なんでもない!」 梨蘭:「…?」 陸玖:「ほら、早く食わないと休み時間なくなるぞ!」 梨蘭:「え?あ、やば!もうこんな時間じゃん!早く言ってよ!」 陸玖:「知るか!食べるのが遅いからだろ!」 梨蘭:「女の子はゆっくり食べる生き物なんですー!」 陸玖:「いつもすごい勢いでかきこんでるだろ!」 梨蘭:「はあー!?そんなことありませんー!」 和真:「微笑ましいなぁ…今日も平和だ。」 0: 0:9月9日(土) 0: 0:遊園地、入口の門前で陸玖と美澄がすでに到着して話している 美澄:「はあぁ、緊張する……」 陸玖:「何が緊張することがあるんだよ。」 美澄:「だって藤巻先輩とデートだよ!?そりゃ緊張するでしょ!バカじゃないの!?」 陸玖:「あーはいはい。声でっか…」 美澄:「ねえ、お兄ちゃん私の髪変じゃない?服変じゃない?大丈夫かな!?」 陸玖:「それ何回聞くんだよ…今日だけで10回は聞かれたぞ…」 美澄:「だって綺麗な状態で会いたいじゃん!お兄ちゃんみたいに適当じゃないの!」 陸玖:「さいですか…お、来たみたいだぞ。」 美澄:「え!?」 0:和真と梨蘭が合流する 和真:「ごめんごめんおまたせー!」 梨蘭:「待たせてごめんねー!」 陸玖:「よ、梨蘭、和真。別に待ってないぞ。」 美澄:「あ、あ、あ、藤巻先輩…!」 和真:「お、美澄ちゃんこんにちは。久しぶりだね。」 美澄:「は、はい!お久しぶりです!」 和真:「今日は来てくれてありがとね。たくさん遊ぼうね!」 美澄:「もももちろんです!楽しみます!」 梨蘭:「陸玖も楽しもうね?」 陸玖:「ああ、もちろん。」 和真:「それじゃ、行こうか!」 0: 0:園内に入ると賑やかな広場が出迎える 0: 美澄:「わあ!!すごいすごい!」 陸玖:「そうかー?」 美澄:「私は初めてなの!全部がすごいの!」 和真:「そっか、美澄ちゃんは遊園地初めてかー。」 美澄:「そうなんです!」 梨蘭:「私は何度か来たことあるけど、何度来てもワクワクするよね。」 陸玖:「まあ、そうだな。」 美澄:「ほらほら、みんな早く行こ!!」 陸玖:「あ、美澄!走ると危ないぞ!」 和真:「よーし、全員美澄ちゃんに続けー!」 陸玖:「和真まで、おい!」 梨蘭:「ほーら、陸玖!早く行かないと置いてかれちゃうよ!」 陸玖:「ったく…待てよお前らー!」 0:ひとしきり遊び、日が傾き始め遊園地を赤く染める 美澄:「んー!いっぱい遊んだー!」 和真:「たくさんアトラクション乗ったねー。」 陸玖:「…お前らまだまだ元気そうだな…」 美澄:「お兄ちゃんが体力なさすぎなだけでしょ。」 陸玖:「んぐっ…」 梨蘭:「この後どうしようか?」 和真:「もちろん、閉園の花火見るっしょ?」 美澄:「わあ!花火見たいです!」 和真:「お、いいね。じゃあそれまで園内を回って時間を潰そっか。」 陸玖:「俺は疲れたからここのベンチで休んでるわ。」 梨蘭:「私も、少しゆっくりしたいかな。」 和真:「そうか?じゃあ美澄ちゃんと少し行ってくるわ。」 陸玖:「ほいほい。」 美澄:「いってきまーす!」 陸玖:「ほーい。」 梨蘭:「……。」 陸玖:「……。」 梨蘭:「ねえ、陸玖。久しぶりに遊園地来たけど、やっぱり楽しいね。」 陸玖:「…そうだな。いつぶりだっけ?」 梨蘭:「んーと、最後に2人で来たのは…確か小学生以来だから…6年位前になるのかな?」 陸玖:「そうか…小学生以来になるのか。」 梨蘭:「そうだよ。ねえ?あの時に話した事って覚えてる?」 陸玖:「話した事?」 梨蘭:「うん、覚えてない?」 0: 陸玖:【N】あの時に話した事…?小学生時代の頃に何を話した…?そもそも遊園地に来た事すらほぼ記憶にない 0: 梨蘭:「まあ、大したことじゃないから覚えてなくてもいいんだけどね!」 陸玖:「…すまん。」 梨蘭:「いいよいいよ!ねえ陸玖。あの観覧車乗りたい!」 陸玖:「はあ?観覧車?」 梨蘭:「そ、観覧車!もう充分休んだでしょ、ほらいこ!」 陸玖:「お、おいまてよ!腕引っ張んなって!」 0: 0:観覧車に乗っている陸玖と梨蘭 0: 梨蘭:「ほら見てよ、すっごい空綺麗!」 陸玖:「…そうだな。」 梨蘭:「なんか元気ないじゃん。どうしたの?」 陸玖:「いや、何でもない。」 梨蘭:「ふーん、ねえ、陸玖?」 陸玖:「なに?」 梨蘭:「最近の陸玖さ、前と少し違うよね。」 陸玖:「はっ?」 梨蘭:「なんかね、最近の陸玖見てるとなんか変だなーって思うんだ。いや、嫌な感じじゃないんだけど不思議な感じがするの。」 陸玖:「なんだよそれ…」 梨蘭:「なんかね、大人になったっていうか落ち着いてるっていうか…はは、なんだろうね?私もよくわかんない。」 陸玖:「……ほんとだよ、よくわかんねえ。」 梨蘭:「……陸玖…?本当にあの時した話覚えてない?」 陸玖:「…すまん。」 梨蘭:「そっか……。」 陸玖:「……。」 梨蘭:「…あ、もう降りなきゃ!」 陸玖:「あ、ああ。」  0:観覧車から降りる 梨蘭:「んー!すっかり日が落ちてきちゃったね!」 陸玖:「そうだな。」 梨蘭:「そろそろ2人に連絡して合流しよっか。」 陸玖:「ああ、そうだな。」 梨蘭:「ん?」 陸玖:「…?どうかしたか?」 梨蘭:「あれって…」 陸玖:「あれ?美澄か?1人で走ってどこに行くんだ…?トイレか?」 梨蘭:「ねえ?暗くてよく見えないけど、泣いてるように見えなかった?」 陸玖:「そうだったか?」 梨蘭:「そうだよ!ねえ、私美澄ちゃんを追いかけるから、陸玖は和真探して!」 陸玖:「はあ!?なんで…」 梨蘭:「いいから!」 陸玖:「あ、ああ。分かったよ。」 0: 0:少しさかのぼり、中央の湖で和真と美澄が談笑をしている 0: 和真:「いやーいっぱい乗ったねー!」 美澄:「はい!すごく楽しかったですー!」 和真:「お、良かった良かった!花火まで時間あるけど…どうする?そろそろ2人と合流しようか?」 美澄:「そう…ですね…あ、あの!」 和真:「ん?どうしたの?」 美澄:「えっと、その…」 和真:「美澄ちゃん?」 美澄:「…花火、2人で見ませんか?」 和真:「え?2人で?」 美澄:「…はい。」 和真:「でもそれって…」 美澄:「……。」 和真:「……。」 美澄:「藤巻先輩、私…」 和真:「美澄ちゃん。」 美澄:「っ…はい…」 和真:「実はね、俺には好きな人がいてさ。」 美澄:「っ!」 和真:「そいつはさ、明るくて天然バカで。でも誰よりも人の事に懸命になれるお人好しなんだよね。俺にはない物をたくさん持っててさ。だから惹かれたんだと思う、無いものねだりって奴かな?」 美澄:「……。」 和真:「でも、そいつには好きな人がいてさ……俺の好きな人の好きな人もさ、愛想ないけどなんだかんだ人の為に動けるお人好しなんだよね。 和真:しかもそいつらさ、相思相愛なんだよね。でもお互いにお互いの気持ちに気づいてない両片思いって奴。笑っちゃうだろ?」 美澄:「それって…」 和真:「…俺にとって2人は大切な友人で…めちゃくちゃ大好きな奴らなんだよ。俺は2人を応援したい、ちゃんと見届けるまで俺は誰とも付き合えないかな。なんて、ごめんね急にこんな話しちゃって。それで…花火だっけ…?」 美澄:「藤巻先輩!それでいいんですか…?」 和真:「…なにが?」 美澄:「藤巻先輩の気持ちはどこに行っちゃうんですか…?」 和真:「…どこだろう?はは、分かんないや。」 美澄:「そんなの…辛すぎますよ…」 和真:「でも仕方ないよ。」 美澄:「…私じゃだめですか?」 和真:「…え?」 美澄:「私が先輩の心の寄り所になるのはだめですか?」 和真:「………ごめん。」 美澄:「っ!ですよね……私じゃ…」 和真:「美澄ちゃん…」 美澄:「ごめんなさい!!」 和真:「美澄ちゃん!」 0:去っていく美澄をただ眺めている和真 和真:「……はあ…追いかけられないなんて、ほんと情けないな。でも…どうしろってんだよ…」 0:ベンチに力なく座り込む 和真:「あーあ、無駄に星がよく見える。」 陸玖:「お兄さん、隣いいか?」 和真:「うわ!?りっくん、なんで!?」 陸玖:「まあ…色々とな。それで、お前はなんで1人で黄昏れてんの?」 和真:「…自己嫌悪に浸ってた。」 陸玖:「自己嫌悪…?」 和真:「うん…気づいてたけど気づかないふりしてさ、挙句傷つけたんだ。」 陸玖:「……。」 和真:「どうしようもないからってさ、もう少し考えてあげられたのかなって…ってごめんなりっくん。こんな話して…」 陸玖:「……多分な、傷はついただろうけど、その傷はすぐ塞がってカサブタになってくれると思うぞ…」 和真:「え?」 陸玖:「あー…えっと。とにかくお前がそんな落ち込む必要はないってことだ。」 和真:「…ぷ、あはははは!」 陸玖:「な、なんだよ!」 和真:「いや、ごめん。ほんとりっくんて下手だよな。」 陸玖:「な、なにがだよ。」 和真:「色々と。下手すぎなんだよりっくん。うん、下手くそ。でも、そういう所が羨ましいなって思う事があるよ。」 陸玖:「…?」 和真:「要はりっくんの事が好きって事だ!」 陸玖:「俺はそういう趣味はないぞ…」 和真:「またまたー。」 陸玖:「ちょ、寄るな!」 和真:「…なあ、りっくん。」 陸玖:「なんだよ…」 和真:「りっくんの事応援してっからな!」 陸玖:「な、なんのことだよ…」 和真:「へへ、よーし!このまま男2人で花火見るぞー!」 陸玖:「ちょ、なんでそうなるんだよ!」 0: 0:パークの出口付近で立ち止まって泣いている美澄 0: 美澄:「…思わず走って逃げてきちゃった……」 梨蘭:「美澄ちゃん!」 美澄:「っ!波奇先輩…!?なんで…」 梨蘭:「はあ…はあ…美澄ちゃんが走って行くのが見えたから、追いかけてきたの…」 美澄:「…そうですか……」 梨蘭:「…何かあったの?」 美澄:「いえ、なにもないですよ…」 梨蘭:「嘘。」 美澄:「嘘なんか…あ…」 0:美澄を抱きしめる梨蘭 梨蘭:「強がらないで…」 美澄:「……波奇先輩…」 梨蘭:「何があったのかは聞かない。でもね、強がらなくていいんだよ。」 美澄:「……う、うう…。」 梨蘭:「よしよし。」 美澄:「うああ…ああああ……」 0: 0:しばらく梨蘭の腕の中で泣いた後  0: 美澄:「…波奇先輩ありがとうございました。」 梨蘭:「もう大丈夫?」 美澄:「はい…泣いてばかりもいられませんし…」 梨蘭:「そっか。」 美澄:「私、負けませんから。」 梨蘭:「え?」 美澄:「波奇先輩。」 梨蘭:「な、なに?」 美澄:「波奇先輩は…お兄ちゃんの事…どう思ってるんですか?」 梨蘭:「…え?」 美澄:「好きなんですか?」 梨蘭:「え、ええ?急にどうしてそんなこと?」 美澄:「ずっと気になってたんです。波奇先輩はどう思ってるのかなって。少なくともお兄ちゃんは波奇先輩の事好きですよ。」 梨蘭:「…あはは、そうなんだー。そうだなあ…私も陸玖の事好きかな?」 美澄:「…ほんとですか?」 梨蘭:「うん、ほんと!美澄ちゃんの事も好きだし、和真の事も好きだよ!」 美澄:「そういう事じゃなくてですね…!」 0:閉園30分前を知らせる花火が打ちあがる 梨蘭:「……言えるわけないじゃん………だって…だってさ…」 美澄:「え?なんですか?」 0:美澄の頭を撫でる梨蘭 美澄:「わ、ちょなんですか急に…!」 梨蘭:「美澄ちゃんの事応援してるね。」 美澄:「……波奇先輩………ほんとあなたはズルいですね…」 0: 0: 0: 梨蘭:【N】私たちはそれぞれの複雑に絡み合う想いを胸に抱えながら、夜空を大きく鮮やかに彩る花火を眺めた後、別々に帰路へとついた。 0: 0:9月10日(日) 0: 陸玖:【N】昨日は和真の誘いで、俺、和真、梨蘭、美澄の4人で遊園地に遊び行った。 陸玖:途中までは楽しく遊んでいたが、俺、梨蘭と和真、美澄で別行動した際に少し問題があったらしく、帰りは別で帰ることになってしまった。 陸玖:美澄に何があったのかを聞いても「知らない」の一点張り……どうしたもんか… 0: 美澄:「ねえ、お兄ちゃん…」 陸玖:「あ、どうした?」 美澄:「アイス…買ってきて。」 陸玖:「は?」 美澄:「いいから!アイス買ってきてって!」 陸玖:「んな、やっと口開いたかと思えば…!たく…行きゃあいいんだろ…」 0:しぶしぶ外に出てコンビニへと向かう陸玖 陸玖:「あー…暑いな…さっさと買って涼しい世界に戻ろう…それにしてもホントうちの妹は人使いが荒いよなあ…もしかしたら今から更生させればワンチャン…!?」 梨蘭:「何がワンチャン?」 陸玖:「うお!?」 梨蘭:「そんなに驚かなくてもよくない?」 陸玖:「梨蘭か……驚かすなよ…」 梨蘭:「そっちが勝手に驚いただけでしょ?それにしても陸玖がこんな昼間から外に出るなんて珍しいね?」 陸玖:「人を引きこもりみたいに言うなよ……美澄にアイス買って来いって頼まれたんだよ。」 梨蘭:「あーなるほどねえ…」 陸玖:「あ…梨蘭この後時間あるか?」 梨蘭:「え?あーうん、あるけど?」 陸玖:「少し聞きたいことがあってさ。とりあえずここじゃなんだからファミレス行こうぜ。」 梨蘭:「うん…分かった。」 0: 0:陸玖、梨蘭ファミレスに入り席に着き話始める 0: 梨蘭:「それで?話って何?まあ大体予想はつくけど。」 陸玖:「ああ、遊園地の件なんだけどさ…」 梨蘭:「やっぱり…」 陸玖:「美澄から和真となにがあったか聞かなかったか?」 梨蘭:「何も聞いてないよ。」 陸玖:「そうか…」 梨蘭:「陸玖は和真から何も聞いてないの?」 陸玖:「ああ、何も聞いてない…けど何となくだけど分かるよ。」 梨蘭:「何?」 陸玖:「多分だけど、美澄が和真に告白したんだと思う。」 梨蘭:「うん。だろうね。」 陸玖:「梨蘭もそう思うか?」 梨蘭:「状況が状況だからね。誰だって察しはつくよ。」 陸玖:「それもそうだよな…」 梨蘭:「それで、陸玖は何かするつもりなの?」 陸玖:「いや、何もするつもりはない。ただ、応援はしていく。」 梨蘭:「そっか。ならよかった。」 陸玖:「え?」 梨蘭:「何か変なちょっかい出すって言いだしたらビンタしてたもん。」 陸玖:「ちょ、なんでだよ。」 梨蘭:「なんでも何もないよ。でもほら、ビンタされずに済んだでしょ?」 陸玖:「まあ、そうだけど…」 梨蘭:「はい、じゃあもうこの話は終わり!私はもうそろそろ帰るね。」 陸玖:「あ、ちょっと梨蘭!せっかく付き合ってもらったんだ、何か奢るよ。」 梨蘭:「え?ほんとー!?じゃあじゃあ、チーズケーキとティラミスとパンナコッタとー!」 陸玖:「おいおいおい!まて!まてったら!そんな頼むなんて聞いてないぞ!」 梨蘭:「奢ってくれるんでしょー?なら頼まないと損だよー!」 陸玖:「たくっ…お前って奴は…!」 0:梨蘭と別れファミレスから帰宅した陸玖 陸玖:「ただいまー。」 美澄:「お帰りお兄ちゃん。遅かったね。」 陸玖:「おー、ただいま美澄。色々あってなー。」 美澄:「ん。」 陸玖:「あ?なんだその手?」 美澄:「アイス、早く。」 陸玖:「あ。」 美澄:「…なに?買ってきてないの…?」 陸玖:「あー……すまん…」 美澄:「今までどこほっつき歩いてたの…!お兄ちゃんのバカーー!!」 陸玖:「すぐ買ってくるーー!!」 0: 0:9月11日(月) 0:  0:朝、陸玖が教室へ入ると和真が声をかけてくる 和真:「お、りっくんおはよう!」 陸玖:「お、おう。和真おはよう。」 和真:「土曜はありがとうなー!おかげで楽しかったわー!」 陸玖:「ああ、誘ってくれてありがとな。」 和真:「いいって事よー!あー、でも美澄ちゃんは大丈夫か?急に居なくなっちゃったからさ。」 陸玖:「大丈夫、昨日もいつも通りのお姫様っぷりだったよ。」 和真:「そか、なら良かった。」 陸玖:「………なあ和真、土曜に美澄と…」 梨蘭:「おはよう陸玖、和真。」 和真:「おー、波奇!おはよー!陸玖?今なんか言いかけたか?」 陸玖:「…いや、なんでもない。」 和真:「そうか?波奇、土曜はありがとな。帰りはバラバラになってごめんな?」 梨蘭:「ううん、すっごく楽しかった!誘ってくれてありがと!陸玖?どしたの?」 陸玖:「あ、いやどうもしないよ。」 梨蘭:「そう?」 0: 0:放課後、陸玖委員会の仕事中 0: 陸玖:「めんどくさいな…なんで当時の俺は緑化委員なんかに入ってたんだ?ガラじゃないだろ…さっさと終わらせて帰…ん?」 0: 梨蘭:「なに和真?話って。」 0: 陸玖:【N】梨蘭…それに和真…?なんで2人がこんな所に…? 0: 和真:「波奇。1つ聞きたいことがあるんだ。」 梨蘭:「うん。」 和真:「りっくんに告白はしないのか?」 梨蘭:「え?」 和真:「波奇はりっくんの事好きなんだろ?」 梨蘭:「…なんでそんな事聞くの?」 和真:「好きじゃないのか?…」 梨蘭:「仮に好きだとしても、それは和真に何か関係あるの?」 和真:「それは…大切な友達の恋は応援したいから…」 梨蘭:「応援したいならそっとしておいてよ…!」 和真:「波奇…」 梨蘭:「もういい?私…行くから…」 和真:「波奇…待ってくれ!」 梨蘭:「なに和真?」 和真:「俺は、お前の事が好きなんだ。」 梨蘭:「…!」 和真:「本当はこの気持ちは伝える気はなかった。波奇は陸玖の事が好きで、陸玖は波奇の事が好き。誰が見ても丸わかりだ。 和真:俺にとって大切な2人が両想いなんだ。おとなしく退くつもりだった。いや…退くよ。」 梨蘭:「……勝手に決めないでよ。」 和真:「じゃあ違うのか?」 梨蘭:「……。」 和真:「土曜の遊園地の日にさ、美澄ちゃんから思いを伝えられそうになって思わず好きな人がいるって言っちゃったんだ。 和真:その時に美澄ちゃんにさ、俺のこの気持ちはどこ行くんだって言われてさ…なんも答えられなかった。 和真:でも、このままこれでいいのかって…思ってさ。伝えないで腐らすなら、いっそのこと伝えて砕けさせた方がいいかなって思ってさ。今伝えた。ごめん。勝手で。」 梨蘭:「……ほんと…」 和真:「…え?」 梨蘭:「自分勝手だよね、和真。」 和真:「ええ?」 梨蘭:「私の気持ちも考えないで1人で勝手に話して、気持ち伝えてさ。」 和真:「…ごめん。」 梨蘭:「謝るなら目閉じて。」 和真:「えっ?」 梨蘭:「いいから。」 和真:「あ、はい。」 梨蘭:「ふん!」 0:脛を思い切り蹴る 和真:「あがぁ!!?」 梨蘭:「私、和真の気持ちに応えられない。ごめんね。」 和真:「いってぇええ…ああ、初めからわかってるよ…そんなことくらい。」 梨蘭:「なーに?泣いてるの?和真?」 和真:「別に…蹴られた痛みで泣いてんだよ…!」 梨蘭:「えー、ほんとにー?」 和真:「ホントだよ。」 梨蘭:「ふふ…そっか。気持ち伝えてくれてありがとね。」 和真:「…おう。」 梨蘭:「じゃあ、私行くね。」 和真:「ああ…聞いてくれてありがとな波奇。」 0: 陸玖:【N】和真…そうかお前…梨蘭の事が… 0: 和真:「りっくん。」 陸玖:「っ!?」 和真:「途中からだけど気づいてたよ。」 陸玖:「……すまん、聞くつもりはなかった。」 和真:「いいよいいよ。りっくんが居るって気づいたから告ったんだし。」 陸玖:「はあ?」 和真:「俺なりのけじめだよ。これでやっと、ちゃんと向き合える。」 陸玖:「ちゃんと?」 和真:「そう、ちゃんと向き合える。」 陸玖:「…?」 和真:「りっくんはりっくんの恋を成就できるよう頑張れよ!ていうかもう両想いなんだからあとは告るだけじゃんね!」 陸玖:「痛い痛い叩くな!そんな簡単じゃないだろ…」 和真:「どこが?パパっと告っちゃえよ!」 陸玖:「あのなぁ…」 和真:「まあ俺は応援してるし、何かあったら力になるからな。」 陸玖:「…おう、ありがとうな和真。」 0: 0:9月12日(火) 0: 陸玖:【N】もう少しで過去に戻ってきてもうすぐ1週間が経とうとしている。未だに元の時代に戻れる手立ては見つかっていない。色んな本や資料を探しても当然タイムスリップに関する事は書いていない。 陸玖:だが気づいた事がある、俺はいくつか記憶を忘れている事だ。美澄が和真を好きな事、遊園地に行った事、そして梨蘭とした会話 陸玖:他愛もない事が多く、忘れたといっても完全に忘れたわけではなくうっすらと思い出せる程度には覚えている、しかし梨蘭との会話だけは一切思い出せないのだ。手がかりさえあれば思い出せるかもしれないけど… 0:夜、陸玖の部屋。押入れを漁っている 陸玖:「なんで最初からここを探してないんだ俺…小学生からの付き合いならもしかしたら梨蘭との思い出の何かがあるかもしれないよな。」 0:部屋のドアがノックされ美澄が入ってくる 美澄:「ねえ、お兄ちゃん!さっきからうるさいんだけど?」 陸玖:「あ、ああ。すまん。ちょい探し物をな。」 美澄:「探し物?そんな押入れの物を全部引っ張り出してまで探すものって何?」 陸玖:「小学生の頃の奴をな…アルバムでもなんでもいいんだけど…」 美澄:「小学生の頃のアルバム?あー…それならあるよ。」 陸玖:「え?ほんとか!?」 美澄:「うん、私が持ってる。」 陸玖:「なんで美澄が…?」 美澄:「なんでって…お兄ちゃんが俺だと無くすから代わりに持っていてくれって渡したんじゃん。忘れたの…?」 陸玖:「あ、あー…そうだ。そうだったな…!すまん、ド忘れしてた!」 美澄:「まったく…持ってくるから待ってて。」 陸玖:「ああ、ありがとう。」 0: 陸玖:【N】そうか、そういえばそうだった。アルバムは美澄に預かってもらっていたんだ。アルバムに限らず大切なものは美澄の部屋に置いてもらっていたんだ。 0: 美澄:「お待たせ。はい、アルバム。」 陸玖:「ありがとう美澄。」 美澄:「で?なんで今更そんなものが見たいわけ?」 陸玖:「思い出したい事があるんだ。」 美澄:「思い出したい事?」 陸玖:「梨蘭の事…かな。」 美澄:「波奇先輩…の事……ねえ、お兄ちゃん。」 陸玖:「なんだ?」 美澄:「お兄ちゃんは波奇先輩の事好きなんだよね?」 陸玖:「なんだよ急に。」 美澄:「どうなの?」 陸玖:「……好きだと思う。」 美澄:「思うって……曖昧だなぁ…まあ見てたら分かるけど。」 陸玖:「んだよお前。」 美澄:「ほら、思い出したい事は思い出せたの?」 陸玖:「お前が変な事聞くから…あ、これは…?」 美澄:「ん?どうしたのお兄ちゃん?」 陸玖:「手紙…?いや、メモ…?」 美澄:「メモ?なんの?」 0:そっとメモを見る 陸玖:「これは…」 美澄:「お兄ちゃん?」 陸玖:「そうか…そういう事か……どうして今までこんな大事な事を…」 美澄:「お兄ちゃん?どうしたの?」 陸玖:「ありがとう美澄。探し物は見つかった。」 美澄:「え?今のメモの事だったの?」 陸玖:「ああ、これで全部思い出せた。」 美澄:「……そっか。良かったね、お兄ちゃん。」 0: 0:9月13日(水) 0: 0:いつものように登校する準備をする陸玖 陸玖:「よし、今日も学生生活を頑張りますかぁ…今日は梨蘭にあの事を…」 0:大きな足音を響かせながら美澄がドアを開ける 美澄:「はあ、はあ、お兄ちゃん!!」 陸玖:「うわっ!なんだ!?」 美澄:「お兄ちゃん、梨蘭さんが…!」 陸玖:「梨蘭?梨蘭がどうかしたのか?」 美澄:「居なくなったって…!!」 陸玖:「居なくなった!?」 美澄:「うん、藤巻先輩から連絡あって…お兄ちゃんの方にも来てるんじゃない?」 陸玖:「そういや、起きてから電源をつけ忘れてた…!うわ、ほんとだ。」 0:和真に電話をかける陸玖 陸玖:「あ、和真!梨蘭が居なくなったってどういうことだ!?」 和真:『それは俺だって聞きたいよ!変なメッセージが今朝届いててさ。気になって家に行ったら出かけたって言われたし、学校にもまだ来てないみたいだし…わけわかんねえよ。』 陸玖:「変なメッセージってどんなのなんだ?」 和真:『「最後を告げる花は鏡を波打つ」って来たんだ。』 陸玖:「なんだそれ…?」 和真:『とりあえず俺は思い当たる所を探してっから、りっくん達は普通に学校に…』 陸玖:「いや、俺も探す!多分…俺が探さなきゃいけない気がするんだ。」 美澄:「お兄ちゃん…私も心当たり探してみる…!」 和真:『2人共…わかった、俺も何かわかったらすぐ連絡する!』 陸玖:「ああ!」 美澄:「はい!」 0: 0: 0: 0: 和真:【N】俺が波奇を意識し始めたのは高校に上がって直ぐの事だった。 和真:俺と波奇は1年生の頃に同じクラスだった。波奇は明るい笑顔と誰にでも気さくに話しかけるフレンドリーな性格をしていてすぐに誰とでも仲良くなっていった。 和真:俺もでかい声と持ち前の明るさを武器にクラスに溶け込むのは容易だった。だが、彼女と距離を詰めるのは例外だった。 和真:近づけなかった。いや、会話は簡単だった。だが親密…と言える所までは出来なかった。彼女の心はたった1人にしか向いていなかったのだから 0: 和真:「はあ、はあ…波奇の奴…どこに行ったんだよ…!」 0: 和真:【N】俺は町の中を再び駆け出した。 0: 0: 0: 美澄:【N】私は波奇先輩の事がそんなに好きじゃない。あの人はずるい。お兄ちゃんの気持ちを知っていながら素知らぬふりをしているんだから。 美澄:ずるい、ずるいのに羨ましい。藤巻先輩に好意を持たれていることが。あの余裕が。私が欲しいものを全部持ってるのが… 美澄:本当は弱いくせに、強がって気丈に振舞って、なのにみんなに優しくしてるのが…すごくずるい 0: 美澄:「気づいてほしいのに、なんでこんな事するの…バカな人。」 0: 美澄:【N】波奇先輩がいるであろう場所に向かって私は走り出した。 0: 0: 0: 陸玖:【N】高校生の頃にこんな事があったか?こんな事件があったか?今思い返しても何1つ記憶が見えない。 陸玖:ただ1つ思い出したのは、梨蘭とのあの約束の事。現実世界では思い出せなかった大切な約束 陸玖:この約束を、伝えられなかった俺の想いを伝える為に早くアイツの元へ行かねばならない 0: 陸玖:「あのバカ、どこにいるんだよ…」 0: 陸玖:【N】すると俺のケータイに1つの着信が鳴り響いた 0: 0: 0: 梨蘭:【N】なんで逃げちゃったんだろうな。なんて今更考えても仕方ない。 梨蘭:9月13日この日は私にとって大事な日。期待しても仕方ないのに、彼が思い出してくれる事を期待してしまっている 梨蘭:ちゃんと伝えればこんな思いはしなかったのかな?でもわがままな事に、本人に自力で思い出してほしかった 0: 梨蘭:「ほんと、色々とずるいよね私…」 美澄:「ええ。あなたはずるいです波奇先輩。今更気づいたんですか?」 梨蘭:「…!美澄ちゃんどうしてここに…?なんでわかったの?」 美澄:「女の感って奴ですかね?」 梨蘭:「…そっか。すごいね美澄ちゃん。」 美澄:「波奇先輩。一言かましてもいいですか?」 梨蘭:「うん…いいよ。」 美澄:「私、あなたの事が嫌いです。」 梨蘭:「……っ!ふふ……そっか。」 美澄:「っ!そういう所も嫌いなんですよ!なんでそんな余裕ぶってるんですか!?本当は弱いくせにどうして強がるんですか!全然余裕じゃないのに余裕ぶらないでくださいよ!」 梨蘭:「………別に私は強がってないよ?」 美澄:「嘘っ…!いつもニコニコして隙を見せなくて、お兄ちゃんが好きなの知ってるのに知らないふりして…! 美澄:藤巻先輩にも好意持たれてて…色んな事に気が付いてるのに気が付かない振りして、遠巻きに傍観して、達観して、ホントにずるい!!」 梨蘭:「和真の事は知らないよ…!それは私関係ないでしょ?」 美澄:「先輩が!ちゃんとした態度を取ってればよかったんですよ!」 梨蘭:「そんなこと言われたって!」 美澄:「…もう一度あの時の質問します…波奇先輩はお兄ちゃんの事が好きですか?」 梨蘭:「……なんでまた…」 美澄:「波奇先輩…!」 梨蘭:「好きだよ。大好きに決まってるじゃん。でも言えないんだよ…」 美澄:「何でですか?」 梨蘭:「約束したから…」 美澄:「約束?」 梨蘭:「うん…小学生の頃に陸玖とした約束。」 美澄:「あ…」 梨蘭:「でも陸玖は忘れちゃったみたいだから、ここで待ってるのは無意味なんだけどね。わがままだよ、私の。」 美澄:「…それなら大丈夫です。」 梨蘭:「え?」 美澄:「あのバカ兄、昨日思い出したんで。」 梨蘭:「うそ…」 美澄:「まあ、場所までは思い出せてないみたいですけどね。」 梨蘭:「……そうだよね。」 美澄:「だから、教えちゃいます。私もずるい女なんで。」 梨蘭:「…ふふ、そっか。」 0: 0: 0: 陸玖:「ん?着信?誰からだ?美澄…?もしもし、何かわかったのか?」 美澄:『やっほお兄ちゃん。波奇先輩の場所教えようか?』 陸玖:「梨蘭がどこにいるかわかったのか!?」 美澄:『割とすぐにね。』 陸玖:「早く教えてくれ!」 美澄:『「最後を告げる花は鏡を波打つ」だよ。』 陸玖:「それって梨蘭が残したメッセージじゃないか…」 美澄:『わからないならヒントあげる。お兄ちゃんが波奇先輩と小学生の頃に約束をした場所だよ。』 陸玖:「俺が…約束……」 美澄:『最後に大きな花が空に咲く所だよ。』 陸玖:「花が空に……もしかして…」 美澄:『もう大丈夫そうかな。』 陸玖:「ああ、多分分かった。ありがとう美澄!そうだ、梨蘭に伝えて欲しい事があるんだけどいいか?」 美澄:『ん?』 陸玖:「今から約束を果たしに行くから待ってろって。」 美澄:『なにかっこつけてんの…うん。伝えておく。』 陸玖:「ありがとう。さて、日没までそんなに時間はない…行こう。遊園地に。」 0: 0: 0: 梨蘭:「陸玖、なんて?」 美澄:「今から約束を果たしに行くから待ってろ、ってかっこつけてました。」 梨蘭:「…そっか。」 美澄:「じゃあ、私はお兄ちゃんが来る前に帰りますね。」 梨蘭:「え、なんで?」 美澄:「当たり前じゃないですか。2人きりで話さなきゃいけない大事な事があるんでしょう?邪魔者は退きますよ。」 梨蘭:「…ありがとね、美澄ちゃん。」 美澄:「別に、あなたの為でも、お兄ちゃんの為でもないです。藤巻先輩にこれ以上迷惑が掛からないように動いただけですので。」 梨蘭:「それでもありがとね。」 美澄:「……それじゃあ。私はこれで。」 0: 美澄:「でも、このまま会わせるわけにはいかない。ちゃんとお兄ちゃんの気持ちも確かめなきゃ……」 0:電話を掛ける美澄 0: 0:遊園地に着いた陸玖、門前で和真が出迎える 0: 和真:「よ、りっくん。」 陸玖:「和真…お前なんで…」 和真:「美澄ちゃんから連絡が来てなー。」 陸玖:「そういう事か…じゃあ和真一緒に…」 和真:「悪い陸玖、それは出来ない。」 陸玖:「は?どういうことだ?」 和真:「美澄ちゃんから頼まれてね、お兄ちゃんの気持ちをもう一度確かめてくれってね。」 陸玖:「なんだそれ…どうしてそんな事を…」 和真:「陸玖。陸玖は波奇の事をどう思ってる?」 陸玖:「なんでそんなことを今言わなきゃ…こんな事をしてる暇はないだろ!それに俺の気持ちはもうわかってるだろ?」 和真:「分からない。俺はお前からちゃんと聞いたことはない。」 陸玖:「でも…」 和真:「どうなんだ?」 0: 陸玖:【N】こんなまっすぐな目をした和真は初めて見るかもしれない… 0: 和真:「陸玖…!」 陸玖:「…俺は…梨蘭の事が好きだ。大好きだ。昔交わした約束を果たす為に、この気持ちを伝える為ににここまで来たんだ。梨蘭を思う気持ちに偽りはない。」 和真:「……そうか。素直になるのがおせえんだよ……バーカ… 和真:よーっし!湖にさっさと行け!あと少しで花火あがるぞ!急げ急げ!」 陸玖:「和真…ありがとう…!」 和真:「良いってことよ!!頑張れよー!りっくん!」 0:園内の奥へ走り消えていく陸玖 和真:「あーあ!まったくもー、損な役回りさせんじゃん?美澄ちゃん。」 0:物陰から出てくる美澄 美澄:「ふふ、私をフッた罰です藤巻先輩。」 和真:「たはー、言うねー。」 美澄:「でもある意味、ちゃんとけじめはつけられたんじゃないですか?お兄ちゃんも、藤巻先輩も。」 和真:「ま、そうだね…」 美澄:「さ、私たちはどうします?帰りますか?それとも…」 和真:「ねえ、美澄ちゃん。」 美澄:「…なんです?」 和真:「あの時の返事、まだちゃんとしてないよね。」 美澄:「え?」 和真:「今更かもしれないけど、今俺が出せる返事を出してもいいかな?」 美澄:「……はい。」 和真:「ごめんね。もう少し時間をくれないかな?」 美澄:「……どういう事ですか。」 和真:「俺の中でもっとちゃんと整理が出来たら、その時に必ず返事をする。 和真:美澄ちゃんの事を、美澄ちゃんの気持ちを大切にしたいから…生半可な気持ちで答えを出したくないんだ…だめかな?」 美澄:「なんですかそれ…返事を出すって言ったり待ってくれって言ったり…訳わかんないです…」 和真:「ごめん、俺でも何言ってんだって感じ。でも、美澄ちゃんに対して真剣になりたいんだ。」 美澄:「そんなの…期待しちゃうじゃないですか。」 和真:「期待してなんて言えない。でも大切に考えて答えを出すから、もう少し待ってて。」 美澄:「…仕方ないですね……待っててあげます。」 和真:「うん、ありがと。」 0:閉園30分前を知らせる花火が上がる 美澄:「あ…」 和真:「花火、上がったね。」 美澄:「次この花火を2人で見る時は…友達の妹じゃなくて……」 和真:「え?何か言った?」 美澄:「…ふふ。いーえ、なんでもありませーん!」 0: 0: 0: 梨蘭:「花火まであと10分…もう…ダメかな…」 陸玖:「はあ、はあ…梨蘭!…梨蘭!!」 梨蘭:「っ!陸玖…!本当に来たの…」 陸玖:「梨蘭…やっと見つけた…」 梨蘭:「…思い出したの?」 陸玖:「ああ、思い出した。ちゃんと思い出したよ。」 梨蘭:「そっか…」 陸玖:「その前に…」 0:梨蘭の額にデコピンをする陸玖 梨蘭:「痛っ!」 陸玖:「こんな事をして、色んな人に迷惑をかけるな。どれだけ心配したと思ってんだ!」 梨蘭:「うう…ごめんなさい。」 陸玖:「たく、お前は昔からそうだよな。」 梨蘭:「そうかな…?」 陸玖:「思ったらすぐ行動。周りのみんなはそれに巻き込まれる。」 梨蘭:「うう…」 陸玖:「でもそういう所も含めて梨蘭だから。」 梨蘭:「陸玖…」 陸玖:「小学生の頃にした約束、果たすよ。」 梨蘭:「…うん。」 陸玖:「6年後の9月13日、梨蘭の誕生日に、この遊園地の花火を一緒に見る。」 梨蘭:「でも、それだけじゃ…」 陸玖:「わかってる。」 梨蘭:「え?」 0:花火が上がり2人を照らす 陸玖:「梨蘭、好きだ。」 梨蘭:「…陸玖…」 陸玖:「花火が上がったと同時に、お互いの気落ちを伝える。だろ?ごめんな、ずっと忘れてて。」 梨蘭:「んーん。大丈夫。」 陸玖:「ちゃんと思い出せてよかった。」 梨蘭:「なんで思い出せたの?」 陸玖:「…これ。」 0:ポケットからメモを取り出す 梨蘭:「これって…」 陸玖:「この日の事を書いたメモ。誕生日と俺の気持ちが書いてある。」 梨蘭:「『9月13日はリランの誕生日、おれは、リランが好き、ぜったいに伝える』…ふふ、なんかおかしい。」 陸玖:「な、なんだよ…」 梨蘭:「えー?照れてるの?」 陸玖:「そんなんじゃねえよ。」 梨蘭:「ふふ…ありがとね陸玖。」 陸玖:「なにがだよ。」 梨蘭:「約束守ってくれて。」 陸玖:「…まあ、遅くなったけどな。」 梨蘭:「それでも、うれしい。思い出してくれなかったら、もう会えないと思ったから…」 陸玖:「どういう事だよ?」 梨蘭:「実は私ね、病気なんだ。明日から治療の為に入院するの…ずっと黙っててごめん…」 陸玖:「…は?なんだよそれ、なんで黙ってたんだよ!」 梨蘭:「心配かけたくなかったんだもん、言えないよ…こんなの…」 陸玖:「だからって……っ!」 0: 陸玖:【N】そうだ、この時代に慣れてしまったせいで忘れかけていた 陸玖:現実世界の梨蘭は難病によって命を落とした 陸玖:俺は病気の存在も、今まで梨蘭がどうしていたのかも知らされず、亡くなってから全てを知らされた 0: 梨蘭:「陸玖…?」 陸玖:「……治るのか?」 梨蘭:「分かんない、回復したらすごくラッキーだって。」 陸玖:「そうか………大丈夫だ、お前は絶対に良くなる。」 梨蘭:「え?」 陸玖:「絶対に病気は治る!何年かかったとしても絶対に良くなる!俺がずっとそばに居て元気にしてやる!約束だ!」 梨蘭:「……陸玖…」 陸玖:「こうして約束を果たしたんだ、この約束も必ず守る。だから安心しろ。」 梨蘭:「……絶対守ってね?今度は忘れないでね?」 陸玖:「任せろ。」 梨蘭:「ふふ……ありがと…ねえ、陸玖? 陸玖:「なんだ?」 梨蘭:「抱きしめてほしいな?」 陸玖:「はっ!?な、なんでだよ…!」 梨蘭:「はずかしいーのー?」 陸玖:「な、なわけないだろ。」 梨蘭:「じゃあ、ほら早く。」 陸玖:「ああもう……ほら、これでいいか?」 梨蘭:「ん。」 陸玖:「……いつまでしてればいいんだ…?」 梨蘭:「もう少し…」 陸玖:「……。」 梨蘭:「陸玖。」 陸玖:「…なに?」 梨蘭:「好きだよ。」 陸玖:「……俺も、好きだ。」 梨蘭:「えへへ。」 陸玖:「…あはは。」 梨蘭:「絶対、病気を治すからね。」 0: 0:しばらく笑いあった後、2人は遊園地から出ると美澄と和真が出迎える 0: 和真:「よ、お2人さん。」 陸玖:「和真。」 美澄:「おかえりなさい、波奇先輩。お兄ちゃん。」 梨蘭:「美澄ちゃん。2人共どうして…」 和真:「ま、いろいろとな。その顔から察するに、無事に済んだみたいだな。」 陸玖:「おかげさまでな。」 梨蘭:「……みんな。」 和真:「ん?」 美澄:「なんですか?」 梨蘭:「色々ありがとう。それと沢山迷惑をかけてごめんなさい。」 陸玖:「梨蘭…」 美澄:「……ほんと、大迷惑です。」 和真:「美澄ちゃん…」 美澄:「あなたの身勝手な行動でこっちはいい迷惑です。」 梨蘭:「うん…ごめん。」 美澄:「でも………別にいいです。許してあげます。」 梨蘭:「え?」 美澄:「まあそういう事です。これからもお兄ちゃんの事をよろしくお願いしますね。このバカ兄の傍に居れるのはあなただけですので。」 陸玖:「美澄…」 梨蘭:「うん…わかった。ありがとね美澄ちゃん。陸玖の事は私に任せて。」 和真:「美澄ちゃん、成長したねよしよし。」 美澄:「んもう、私だって成長してるんですよー!」 和真:「ははは、そっかそっかー。」 美澄:「もう…!藤巻先輩のバカ!」 0: 0:その後全員で遊園地を後にした 0: 陸玖:【N】この時代に戻って来た時に何か重要な事を忘れているかもしれないとずっと突っかかっていたモヤの正体、それは梨蘭との約束だった 陸玖:病気の事など、まだまだ問題は多いけれど、その約束を思い出し、果たしたことで突っかかりが無くなり晴れやかな気分になった 陸玖:すっきりしたのか、ベッドに横になると同時に次第に瞼が重くなり…深い眠りにいざなわれていった… 0: 0: 0: 0: 0: 陸玖:「はっ!やばい、寝てた……学校いかなきゃ…!ってあれ…?」 0: 陸玖:【N】勢いよく起きた俺は、違和感を覚えた。なぜならここは俺の部屋ではないからだ。 陸玖:いや、正確に言えば『高校時代の俺の部屋』ではない。 0: 陸玖:「戻ってきたのか…?元の世界に…?」 0: 陸玖:【N】ケータイの画面を見ると、間違いなく元の時代の日付になっており驚くことに俺が過去に行く前の日付から1晩しか経っていなかった。 陸玖:夢だった?でもあの感覚は夢ではないはず。そう考えていると1つの着信が鳴り響いた 0: 美澄:『もしもしお兄ちゃん!?』 陸玖:「あ、ああ。美澄か、そんな急いでどうかしたか?」 美澄:『早く病院に来て!』 陸玖:「病院?なんで?」 美澄:『朗報だよ!』 陸玖:「朗報?」 美澄:『目を覚ましたんだよ!』 陸玖:「目を覚ました?」 美澄:『梨蘭さんが!』 陸玖:「っ!!?」 0: 陸玖:【N】梨蘭が目を覚ました?どういうことだ?確かにあいつは現実世界で数年前に病気で亡くなったはず 陸玖:過去に行った事で亡くなるという未来が改変された? 陸玖:状況が未だ掴めていない頭をフル回転させながら病院へと走った 0: 0:病院にて息を切らしながら陸玖が病室の扉を開ける 0: 陸玖:「はあ、はあ!梨蘭!」 美澄:「ちょっとお兄ちゃん!静かにしてよ!」 陸玖:「す、すまん。」 美澄:「もう…梨蘭さん、お兄ちゃん来たよ。」 陸玖:「梨蘭…」 0: 陸玖:【N】ベッドには横になって柔らかく微笑む梨蘭の姿があった 0: 梨蘭:「ねえ…陸玖?」 陸玖:「なんだ…?」 梨蘭:「私ね、夢を見ていたの。」 陸玖:「夢?」 梨蘭:「昔、私と陸玖がした約束の夢。」 陸玖:「…っ!そっか、お前も見たのか。俺もな、その夢見たよ。」 梨蘭:「ほんと…?」 陸玖:「ほんとだ。」 梨蘭:「えへへ、なんか嬉しい。」 陸玖:「俺の言った通り病気、治ったろ?」 梨蘭:「…うん。」 陸玖:「約束、これで全部果たした。」 梨蘭:「うん…ありがとう陸玖…」 陸玖:「なあ、梨蘭。」 梨蘭:「…なに?」 陸玖:「俺ともう1つ約束をして欲しい。」 梨蘭:「もう1つ?」 陸玖:「これからも俺の傍に居て、ずっと幸せでいて欲しい。」 梨蘭:「え、それって…」 陸玖:「俺と……結婚してください。」 梨蘭:「……っ!うん…うん…!もちろん、喜んで…!」 0:そこに和真が駆け込んでくる 和真:「梨蘭ー!大丈夫か梨蘭!!」 陸玖:「和真!?お前どうしてここに…」 和真:「りっくん、居たのか!梨蘭、梨蘭は大丈夫なのか!?」 美澄:「いいから落ち着いてよ、和真さん。梨蘭さんはそこに居るでしょ。」 和真:「へ?」 梨蘭:「久しぶり、和真。」 和真:「お前…やっと目を覚まして……良かったぁあああ…」 美澄:「ちょ、なにへたり込んでるのよ。」 和真:「いやぁ、安心したら腰が抜けて…」 陸玖:「和真、お前海外に行ってたんじゃないのか?どうやってすぐ来れたんだ?」 和真:「は?海外?行ってないよ?」 陸玖:「え、いや大学卒業後に海外にって…」 和真:「行かない行かない!美澄ちゃんと付き合ってんのに置いていくわけないでしょ!」 陸玖:「付きあ……えっ!?」 美澄:「なに驚いてんの…知ってたじゃんお兄ちゃん…それにお腹に子供がいて今度結婚することも。」 陸玖:「……えええええっ!?」 美澄:「ちょ、うるさい!」 梨蘭:「陸玖は忘れっぽいからね。おめでとう、美澄ちゃん。」 美澄:「うん、ありがと梨蘭さん。」 和真:「ま、りっくんの事はほっといて、梨蘭が退院したら快復パーティーすっか!」 0: 陸玖:【N】無くしたはずの夢は、またこの腕の中で光り輝き始めた 陸玖:どこの誰が再び輝きを取り戻させてくれたのか分からない、通りすがりの神様か、気まぐれの魔法使いなのか皆目見当もつかない 陸玖:でも、どこの誰でもいい、俺に大切な約束を思い出させてくれた事、大切な人の命に輝きを与えてくれた事、大切な人達の繋がりを取り戻させてくれた事、その全てに感謝をしている 0: 0: 0: 0: 0: 陸玖:これは、陽炎が見せた熱い残夏(ざんげ)の記憶 0: 和真:置いてきてしまった約束を果たすため 0: 美澄:欠けてしまったピースを探すため 0: 梨蘭:誰かが見せた1週間の淡い夢 0: 0: 0:FIN