台本概要
892 views
タイトル | しづのをだまき |
---|---|
作者名 | akodon (@akodon1) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
それは、幸せだったあの日々。 何度も繰り返すお話です。 892 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
望 | 男 | 143 | 小田 望(おだ・のぞみ)。 |
真紀 | 女 | 144 | 上原 真紀(うえはら・まき)。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
望:部屋に降り注ぐ柔らかな日差し。
望:香ばしいパンの匂い。
望:テーブルを挟んだ向こう側にキミがいるーーーいつもの朝。
0:『しづのをだまき(おだまき)』
真紀:「・・・花を育てようと思うんだ」
望:「何を育てるって?」
真紀:「もう!話聞いてなかったの?」
望:「ごめんごめん。ちょっとボーッとしてて」
真紀:「望(のぞみ)って、たまに一人の世界に旅立ってることあるよね。
真紀:仕事、大変なの?疲れてる?
真紀:大丈夫ですかー?」
望:「平気平気。
望:・・・んで、何だっけ、何を育てるって話だっけ?」
真紀:「はーな。綺麗な青い花が咲くやつ。
真紀:苗を買ってきてね。ベランダで育てよう、って思って」
望:「なんで急に?」
真紀:「昨夜(ゆうべ)話したじゃない。
真紀:もう忘れた?」
望:「あー・・・えーっと、ごめん」
真紀:「ほら、同じ名前になるし面白いね、って話したじゃん。
真紀:・・・まぁ、帰ってきた時点で既に眠そうだったし、覚えてなくても仕方ないかもだけど・・・」
望:「・・・」
真紀:「あー、これはピンと来てないご様子。
真紀:・・・まっ、いいや。
真紀:だからね、早い話が花を育てたくなったので、今日買いに行ってきます、ってご報告」
望:「水やり忘れて枯らしたりしない?」
真紀:「もう!そんなことしないよ!
真紀:きちんと育てます!」
望:「へぇ、不精(ぶしょう)な真紀(まき)がそこまでやりたがるなんて、珍しい。
望:いつもだったら『花なんて食べれないのに、育てても仕方ないじゃん!』とか言いそうなのに」
真紀:「・・・私をただの食いしん坊か何かだと思ってるでしょ?」
望:「違うの?」
真紀:「女の子に対してその発言は減点」
望:「俺の点数表、減点方式なんだ」
真紀:「私に優しくしてくれれば加点もありだよ」
望:「例えば?」
真紀:「帰りに私の好きなアイスを買ってきてくれる・・・とか?」
望:「やっぱりただの食いしん坊じゃん」
真紀:「望くん。マイナス十点」
望:「えっ、そんなにガンガン減るの?」
真紀:「ちなみに、点数がゼロになったら一ヶ月、夕飯準備の刑」
望:「うわー、仕事帰りの身にそれはちょっとキツイなー・・・」
真紀:「だったら、頑張って私に優しくしてください」
望:「・・・ちなみに、加点で何か報酬は無いの?」
真紀:「あるよ。とびきりのヤツ。
真紀:望が喜びそうな、とっておきのヤツ」
望:「何だそれ。気になる」
真紀:「じゃあ、まずは頑張って点数稼いでください」
望:「はいはい。んで、どうすれば点数稼げますか?」
真紀:「そうだなぁ。
真紀:お皿洗いで五点。
真紀:洗濯物を干してくれれば五点。
真紀:お出かけ前にハグしてくれれば十点あげよう」
望:「先生。キスをするという項目は何点になりますか?」
真紀:「うーん・・・プラス十五点」
望:「ははっ、あっという間に点数稼げるじゃないか」
真紀:「私が満足すれば良いんですー」
望:「分かりやすくてありがたい」
真紀:「ふふふ、でしょ?」
望:「よし・・・それなら今週末、デートでもしようか?」
真紀:「プラス二十点!」
望:「ちょ、早い早い」
真紀:「だって嬉しいもん。
真紀:望、最近忙しそうで全然出かける暇無かったから」
望:「悪いな。なかなか時間作れなくて」
真紀:「いいのいいの!
真紀:仕事大変なのは知ってるから。
真紀:・・・それに、これからはずっと一緒だし」
望:「真紀・・・」
真紀:「・・・あっ!そろそろ時間だよ。
真紀:早く行かなきゃ遅刻しちゃう」
望:「えっ、ああ・・・もうこんな時間か・・・」
真紀:「はいはい!お弁当はできてるから、急いで急いで!」
望:「いや、けど皿洗いと洗濯は・・・」
真紀:「お気持ちだけで充分です!
真紀:望は今日も一日仕事頑張って、無事に帰ってきてください」
望:「うわっ、分かった!押すなって!」
真紀:「あっ、その前に・・・はい」
望:「なんだよ、両手広げて」
真紀:「決まってるでしょ?行ってきますのハグ」
望:「十点加算?」
真紀:「ついでに十五点加算していく?」
望:「・・・いや、帰ってきてからのお楽しみで」
真紀:「自分で聞いておいて、結局照れるんだよなー、望は」
望:「悪かったな。
望:・・・ほら、遅刻しないうちに十点加算」
望:(望、真紀を抱きしめる)
真紀:「・・・ふふっ」
望:「なんだよ。ニヤニヤして」
真紀:「幸せだなぁ・・・って思って。
真紀:こうして二人で居られるの」
望:「・・・」
真紀:「ねぇ、望は?望はどう?
真紀:今・・・幸せ?」
望:「・・・ああ、幸せだよ。
望:とても、とても・・・幸せだ」
真紀:「ふふっ、嬉しいなぁ・・・夢みたい」
望:「・・・ああ、本当に夢みたいだ」
真紀:「ずっとずっと、こんな日が続くと良いね」
望:「・・・そうだな。続くと良いな。
望:ずっと・・・ずっと・・・」
真紀:「ねぇ、望」
0:(ほんの少し間)
真紀:「いつまでも一緒に居ようね・・・約束だよ」
0:(しばらくの間)
望:その言葉を最後に、キミの姿が消えていく。
望:部屋に降り注ぐ日差しの中へ、溶けていく。
0:(しばらくの間)
真紀:「・・・花を育てようと思うんだ」
望:「・・・」
真紀:「おーい、望くん?聞いてるー?」
望:「えっ・・・ああ、聞いてる聞いてる」
真紀:「望(のぞみ)って、たまに一人の世界に旅立ってることあるよね。
真紀:仕事、大変なの?疲れてる?
真紀:大丈夫ですかー?」
望:「平気平気・・・大丈夫だよ」
真紀:「本当に?さっきまでの話聞いてた?」
望:「花を育てるって話?」
真紀:「・・・へぇ、びっくり。
真紀:ちゃんと聞いててくれたんだ」
望:「聞いてた。綺麗な青い花を咲かすんだろ?」
真紀:「そうそう!苗を買ってきてね。
真紀:ベランダで育てよう、って思って」
望:「ふぅん・・・」
真紀:「あれ?あんまり関心なさそう。
真紀:昨夜(ゆうべ)は良いね、って言ってくれたじゃない」
望:「・・・そうだっけ?」
真紀:「そうだよ!
真紀:ほら、同じ名前になるし面白いね、って話したじゃん。
真紀:・・・まぁ、帰ってきた時点で既に眠そうだったし、覚えてなくても仕方ないかもだけど・・・」
望:「・・・」
真紀:「おやおや、ピンと来てないご様子。
真紀:・・・まっ、いいや。
真紀:だからね、早い話が花を育てたくなったので、今日買いに行ってきます、ってご報告」
望:「真紀」
真紀:「うん?」
望:「・・・今日、どうしても苗、買いに行くのか?」
真紀:「あっ、うん・・・
真紀:できれば買いに行きたいなーって思ったんだけど、どうしたの?」
望:「・・・いや、ほら・・・もしかしたらお前、水やり忘れて枯らすかもしれないからさ。
望:俺も一緒に買いに行ける日の方が、色々説明とか聞けるし、良いかなって」
真紀:「もう!そんなことしないよ!
真紀:きちんと育てます!」
望:「・・・なんでだよ・・・
望:いつもはそんなこと、微塵(みじん)も興味示さなかったクセに」
真紀:「望?」
望:「なぁ、いいのか?
望:花は育てても食べられないんだぞ?」
真紀:「・・・私をただの食いしん坊か何かだと思ってるでしょ?」
望:「その通りだろ?」
真紀:「女の子に対してその発言は減点」
望:「・・・やっぱり俺の点数表、減点方式なんだ」
真紀:「やっぱりって何よ。
真紀:私に優しくしてくれれば加点もありだよ」
望:「・・・アイスは何点?」
真紀:「えーっとねぇ、アイスは五点」
望:「帰り道、わざわざどこかに寄って買ってきたアイスより、ハグの方が勝ちとか、真紀らしいな・・・」
真紀:「何ぶつぶつ言ってるの?」
望:「いや、真紀さん、やっぱりただの食いしん坊じゃん、って」
真紀:「望くん。マイナス十点」
望:「ははっ・・・減らしすぎだろ」
真紀:「ちなみに、点数がゼロになったら一ヶ月、夕飯準備の刑」
望:「・・・せめて、朝ご飯にしてくれない?」
真紀:「朝ご飯は私の気分でパンかご飯に決めたいので、却下です」
望:「そういえば、お前、俺に『どっちにする?』って聞いてくれたこと無かったもんな・・・」
真紀:「あら?気付かなかったの?
真紀:ま、お仕事大変なのは知っているので、せいぜい頑張って私に優しくしてください」
望:「・・・ちなみに、加点で何か報酬は無いの?」
真紀:「あるよ。とびきりのヤツ。
真紀:望が喜びそうな、とっておきのヤツ」
望:「ねぇ、それさ。内容教えてくれない?」
真紀:「ダメだよ。教えちゃったらつまらないもん。
真紀:まずは頑張って点数稼いでください」
望:「はいはい・・・んで、どうすれば点数稼げますか?」
真紀:「そうだなぁ。
真紀:お皿洗いで五点。
真紀:洗濯物を干してくれれば五点。
真紀:お出かけ前にハグしてくれれば・・・」
望:「十点?」
真紀:「そう!正解!よく分かったね」
望:「・・・分かるよ。
望:だってお前、抱きしめてもらうのが好きだ、ってよく言ってたから」
真紀:「よく覚えてました。プラス五点」
望:「ちなみに先生。
望:キスをするという項目は何点になりますか?」
真紀:「うーん・・・プラス十五点」
望:「今すぐここでキスしたら、その点数もらえたりする?」
真紀:「おやおや?今日は積極的ですねぇ。
真紀:私はわりと照れ屋な望くんが好きなんですけど」
望:「積極的な俺は嫌い?」
真紀:「・・・嫌いじゃない。プラス十点」
望:「いいのか?
望:そんなに簡単に点数あげちゃって」
真紀:「私が満足すれば良いんですー」
望:「・・・ホント、分かりやすくて助かる」
真紀:「ふふふ、でしょ?」
望:「よし・・・それなら今週末、デートでもしようか?」
真紀:「プラス・・・」
望:「二十点?」
真紀:「すごい・・・
真紀:さっきから望が私の思考を読んでいる・・・」
望:「何年一緒にいると思ってるんだ。
望:お前の思考パターンなんてバレバレ」
真紀:「うそぉ。私ってそんなにわかりやすい?」
望:「わかりやすい。
望:今もめちゃめちゃニヤけてる」
真紀:「だって嬉しいもん。
真紀:望、最近忙しそうで全然出かける暇無かったから」
望:「・・・悪かった。なかなか時間作れなくて」
真紀:「いいのいいの!仕事大変なのは知ってるから。
真紀:・・・それに、これからはずっと一緒だし」
望:「・・・」
真紀:「・・・あっ!そろそろ時間だよ。早く行かなきゃ遅刻しちゃう」
望:「・・・真紀!」
真紀:「ん?どうしたの?」
望:「・・・あのさ、今日仕事行かなくていいかな・・・?」
真紀:「えっ?急にどうしたの?」
望:「いや、ほら最近結構遅くまで仕事してたからさ。
望:なんか頭痛くて・・・あと、腹も痛いし・・・熱っぽいし・・・それから・・・!」
真紀:「・・・ぷっ」
望:「なんで笑うんだよ」
真紀:「ごめん、なんか学校に行きたくない、って駄々こねる子どもみたいな顔してたから」
望:「子どもって・・・」
真紀:「・・・そんなこと言ってても、望は今日仕事に行っちゃうんでしょ?」
望:「えっ・・・?」
真紀:「はいはい!今日は休むわけにはいかない、って前から言ってたでしょ?
真紀:帰ってきたらいっぱいヨシヨシーってしてあげるから、頑張って行っておいで・・・ね?」
望:「いや・・・俺、本当に頭が痛くて・・・」
真紀:「もー!甘えん坊なんだから。
真紀:・・・はい、じゃあ特別!
真紀:私が行ってらっしゃいのハグをしてあげよう!
真紀:ほら、ギューッ」
真紀:(真紀、望を抱きしめる)
望:「・・・真紀」
真紀:「んー?なぁに?」
望:「お前・・・今、幸せか?」
真紀:「・・・幸せだよー。
真紀:楽しくて、嬉しいことがいっぱいで・・・夢みたいに幸せ」
望:「夢みたい・・・なんて言うなよ」
真紀:「どうして?」
望:「だって、夢はいつか醒めるじゃないか」
真紀:「ふふっ、望くん、今日は詩人ですね」
望:「茶化すなよ・・・俺は本心からお前と・・・」
真紀:(真紀、食い気味に)
真紀:「ずっとずっと、こんな日が続くと良いよね」
望:「・・・っ」
真紀:「そう、続くといいよね。
真紀:何も起きない。何も怖くない。
真紀:そんな優しい日常が」
望:「真紀・・・!
望:俺だって、それをずっとずっと願ってるのに・・・!」
真紀:「ダメだよ。これ以上ここに居たら。
真紀:望、遅刻しちゃうから」
望:「そんなの、どうでもいいんだ・・・
望:頼む真紀・・・この先は」
真紀:(真紀、食い気味に)
真紀:「・・・ねぇ、望」
0:(ほんの少し間)
真紀:「いつまでも、一緒に居ようね・・・約束だよ?」
0:(しばらくの間)
望:キミの姿が溶けていく。
望:優しいキミの温もりが、言葉と一緒に消えていく。
0:(しばらくの間)
真紀:「・・・花を育てようと思うんだ」
望:「なんで・・・」
真紀:「綺麗な青い花が咲く、苗を買ってこようと思うんだ」
望:「どうして・・・」
真紀:「同じ名前になるし、面白いねって話をしたじゃない」
望:「そんな理由で、急に思い立つなよ・・・」
真紀:「大丈夫。水やりだって忘れないよ」
望:「そんなこと言って・・・結局俺が世話する羽目になるんだぞ?」
真紀:「食べられないから育てても仕方ない!なんて絶対に言わない」
望:「そんな風に言うけど、いい加減認めろよ。
望:お前は立派な食いしん坊だったって」
真紀:「・・・何よ、さっきから。あんまり煩いと減点するぞ」
望:「すればいいだろ。
望:点数ゼロになったら、美味しい夕飯食べさせてやるから」
真紀:「報酬、いらないんですか?」
望:「目の前にそうやって餌ぶら下げるクセに、お前・・・最期の最期まで内容教えてくれなかったじゃないか」
真紀:「贅沢言えばお皿洗いも洗濯も、たまにはやってほしかったな」
望:「やるよ・・・いくらでも・・・
望:点数なんかもらえなくたって、いくらでもやってやる」
真紀:「恥ずかしがらずにもっと抱きしめてほしかったし、キスだっていっぱいしてほしかった」
望:「俺だって本当はもっとお前に触れたかったよ・・・
望:お前がそれこそ、もういいって思うくらい・・・飽きるほど」
真紀:「週末のデート、すごく楽しみにしてたのになぁ」
望:「俺、色んなプラン考えてたんだ。
望:お前が行きたいって言ってた場所も、食べたいって言ってたものも、全部行くくらいの気持ちで準備してたのに・・・」
真紀:「・・・ねぇ、望。ごめんね」
望:「謝るなよ・・・謝りたいのはむしろ・・・」
真紀:「私が出かけさえしなければ」
望:「俺がお前に行くなと言っていれば」
真紀:「花を買いに行こう、なんて急に思いつかなければ」
望:「仕事になんて行かず、お前と一緒に出かけていれば」
真紀:「・・・あの日を迎えなければ」
望:「お前が」
真紀:「私が」
望:「事故に遭うことなんてなかったのに」
0:(少し間)
真紀:「・・・悔しかったなぁ。
真紀:せっかく望とずっと一緒に居られると思ったのに」
望:「それは俺の台詞だよ。
望:なんでお前、あんなにあっけなく逝っちゃうんだよ。
望:まだ、籍だって入れてなかったのに」
真紀:「婚姻届、せっかく書いておいたのに。
真紀:結局出せずに、引き出しの中だよ」
望:「指輪だって、一回も嵌(は)めないままで」
真紀:「だって、勿体なかったんだもん。
真紀:今まで着けたことないから、無くしそうで怖かったし」
望:「式場、どうするんだよ。
望:お前の花嫁姿、親父さんとお袋さん、すごく楽しみにしてたんだぞ」
真紀:「挨拶に行って泣かせたばかりなのに、またたくさん泣かせちゃった。
真紀:本当に親不孝な娘だなって反省してる」
望:「二人で作ったウェルカムボードも」
真紀:「うん」
望:「何日もかけて書いた招待状も」
真紀:「うん」
望:「楽しみにしてたウェディングケーキだって・・・
望:お前が居なけりゃ、意味ないんだぞ?」
真紀:「・・・ごめんね」
望:「謝ってほしいわけじゃないって言ってるだろ?」
真紀:「うん。・・・だけど、ごめんね」
望:「だから・・・!
望:なんで・・・謝るんだよ」
真紀:「私が、ずっと一緒に居たいなんて願ったから、望はここから離れられないんでしょ」
望:「お前のせいじゃないよ。
望:俺だって、ずっと一緒に居たいと願ったんだから」
真紀:「・・・じゃあ、ずっと一緒に居ようよ」
望:「居られないよ。
望:だってお前、花を買いに行くの諦めてくれないじゃないか」
真紀:「望と一緒に見たかったんだもん、あの花が綺麗に咲くとこ」
望:「一回くらい折れてくれれば、また一緒に居られたかもしれないのに」
真紀:「それこそ夢だよ。
真紀:幸せだけど、いつかは醒めて消えていく・・・そんな夢」
望:「・・・なぁ、あの花の名前」
真紀:「なぁに?忘れたの?」
望:「忘れるわけないだろ?
望:・・・でもお前の声でもう一度だけ、聞かせてほしい」
真紀:「苧環(オダマキ)・・・素敵な名前でしょ?」
望:「そうだな・・・
望:とても・・・とてもいい名前だ」
真紀:「・・・ねぇ、あの花ね。
真紀:夏の初めに咲くんだよ」
望:「ああ」
真紀:「綺麗な花を咲かすんだ。
真紀:青い青い、綺麗な花を」
望:「ああ」
真紀:「きっと望も好きになるよ。
真紀:だって、花に興味が無い私でさえ、綺麗だと思ったんだから」
望:「・・・ああ」
真紀:「日には当てすぎちゃダメなんだって。
真紀:気を付けてあげて」
望:「わかった」
真紀:「水は土が乾いたらあげる程度で良いよ。
真紀:あと、たまに肥料も忘れずに」
望:「わかった」
真紀:「あと、大きくなったら植え替えしてあげてね。
真紀:寒い時期は土が冷えすぎないようにして・・・
真紀:それから、それから・・・」
望:「真紀」
真紀:「なぁに?」
望:「大丈夫。心配するなよ。
望:俺、ちゃんと大事にするから」
真紀:「そっか・・・そうだよね。
真紀:だって望は私なんかより、実はとっても器用で、ずっと何でもできるんだから」
望:「ああ、だからさ。安心してくれよ。
望:・・・俺ももう、二度とあんなことしないから」
真紀:「うん。その言葉が聞ければ私は満足だ。
真紀:これでやっと向こうに行ける」
望:「未練がましく引き留めて、ごめん」
真紀:「・・・望こそ謝らないでよ。
真紀:これで全部チャラにしよう」
望:「加点も減点も無し?」
真紀:「無し無し。
真紀:また次にお会いした時のお楽しみで」
望:「それじゃあ、報酬も持ち越しだな」
真紀:「ふふっ、楽しみにしておいてよ?
真紀:何年も持ち越しにする分、とびきりのを用意しておくんだから」
望:「わかった。楽しみにしておく」
真紀:「・・・よし、じゃあそろそろ私は行くね」
望:「ああ・・・わかった」
真紀:「望・・・今までありがとう。それじゃあ」
望:(望、食い気味に)
望:「真紀」
真紀:「なぁに?」
望:「その・・・十点加点してから、お別れしても良いか?」
真紀:「あはは、いいよ。はい・・・どうぞ」
0:(ほんの少し間)
望:(望、真紀を抱き締める)
望:「ああ・・・温かいな」
真紀:「・・・そんなはずないんだけどな。
真紀:でも本当だ・・・なんだかとても温かい」
望:「真紀」
真紀:「んー?どうしたの?」
望:「苧環の花、きっと綺麗に咲かせてみせるよ」
真紀:「・・・咲いたら、私の写真を一緒に飾って」
望:「わかった」
真紀:「あと、できれば毎年咲かせてほしい。
真紀:何年も、何十年も、望の傍で」
望:「ああ、約束する」
真紀:「うん。ありがとう。
真紀:楽しみにしてるね」
望:「・・・それとな、真紀」
真紀:「・・・はぁーい」
0:(ほんの少し間)
望:「愛してる・・・これからもずっと、愛してる」
真紀:「ふふっ、望くん。百点満点・・・!」
0:(しばらくの間)
望:部屋に降り注ぐ柔らかな光で目をさます。
望:そこには香ばしいパンの匂いも、
望:テーブルを挟んだ向こう側にキミの姿も無いけれど。
望:
望:さっきまで腕の中に感じた温もりが、
望:嬉しそうなキミの笑い声が、
望:確かにここにあるような、そんな気がした。
0:~FIN~
:
:
:『いにしへの しづのをだまき 繰り返し
:昔を今に なすよしもがな』
:(昔の織物の麻糸をつむいで巻き取った糸玉から糸を繰り出すように繰り返しながら、楽しかった昔を今にする方法があるといいのに)
望:部屋に降り注ぐ柔らかな日差し。
望:香ばしいパンの匂い。
望:テーブルを挟んだ向こう側にキミがいるーーーいつもの朝。
0:『しづのをだまき(おだまき)』
真紀:「・・・花を育てようと思うんだ」
望:「何を育てるって?」
真紀:「もう!話聞いてなかったの?」
望:「ごめんごめん。ちょっとボーッとしてて」
真紀:「望(のぞみ)って、たまに一人の世界に旅立ってることあるよね。
真紀:仕事、大変なの?疲れてる?
真紀:大丈夫ですかー?」
望:「平気平気。
望:・・・んで、何だっけ、何を育てるって話だっけ?」
真紀:「はーな。綺麗な青い花が咲くやつ。
真紀:苗を買ってきてね。ベランダで育てよう、って思って」
望:「なんで急に?」
真紀:「昨夜(ゆうべ)話したじゃない。
真紀:もう忘れた?」
望:「あー・・・えーっと、ごめん」
真紀:「ほら、同じ名前になるし面白いね、って話したじゃん。
真紀:・・・まぁ、帰ってきた時点で既に眠そうだったし、覚えてなくても仕方ないかもだけど・・・」
望:「・・・」
真紀:「あー、これはピンと来てないご様子。
真紀:・・・まっ、いいや。
真紀:だからね、早い話が花を育てたくなったので、今日買いに行ってきます、ってご報告」
望:「水やり忘れて枯らしたりしない?」
真紀:「もう!そんなことしないよ!
真紀:きちんと育てます!」
望:「へぇ、不精(ぶしょう)な真紀(まき)がそこまでやりたがるなんて、珍しい。
望:いつもだったら『花なんて食べれないのに、育てても仕方ないじゃん!』とか言いそうなのに」
真紀:「・・・私をただの食いしん坊か何かだと思ってるでしょ?」
望:「違うの?」
真紀:「女の子に対してその発言は減点」
望:「俺の点数表、減点方式なんだ」
真紀:「私に優しくしてくれれば加点もありだよ」
望:「例えば?」
真紀:「帰りに私の好きなアイスを買ってきてくれる・・・とか?」
望:「やっぱりただの食いしん坊じゃん」
真紀:「望くん。マイナス十点」
望:「えっ、そんなにガンガン減るの?」
真紀:「ちなみに、点数がゼロになったら一ヶ月、夕飯準備の刑」
望:「うわー、仕事帰りの身にそれはちょっとキツイなー・・・」
真紀:「だったら、頑張って私に優しくしてください」
望:「・・・ちなみに、加点で何か報酬は無いの?」
真紀:「あるよ。とびきりのヤツ。
真紀:望が喜びそうな、とっておきのヤツ」
望:「何だそれ。気になる」
真紀:「じゃあ、まずは頑張って点数稼いでください」
望:「はいはい。んで、どうすれば点数稼げますか?」
真紀:「そうだなぁ。
真紀:お皿洗いで五点。
真紀:洗濯物を干してくれれば五点。
真紀:お出かけ前にハグしてくれれば十点あげよう」
望:「先生。キスをするという項目は何点になりますか?」
真紀:「うーん・・・プラス十五点」
望:「ははっ、あっという間に点数稼げるじゃないか」
真紀:「私が満足すれば良いんですー」
望:「分かりやすくてありがたい」
真紀:「ふふふ、でしょ?」
望:「よし・・・それなら今週末、デートでもしようか?」
真紀:「プラス二十点!」
望:「ちょ、早い早い」
真紀:「だって嬉しいもん。
真紀:望、最近忙しそうで全然出かける暇無かったから」
望:「悪いな。なかなか時間作れなくて」
真紀:「いいのいいの!
真紀:仕事大変なのは知ってるから。
真紀:・・・それに、これからはずっと一緒だし」
望:「真紀・・・」
真紀:「・・・あっ!そろそろ時間だよ。
真紀:早く行かなきゃ遅刻しちゃう」
望:「えっ、ああ・・・もうこんな時間か・・・」
真紀:「はいはい!お弁当はできてるから、急いで急いで!」
望:「いや、けど皿洗いと洗濯は・・・」
真紀:「お気持ちだけで充分です!
真紀:望は今日も一日仕事頑張って、無事に帰ってきてください」
望:「うわっ、分かった!押すなって!」
真紀:「あっ、その前に・・・はい」
望:「なんだよ、両手広げて」
真紀:「決まってるでしょ?行ってきますのハグ」
望:「十点加算?」
真紀:「ついでに十五点加算していく?」
望:「・・・いや、帰ってきてからのお楽しみで」
真紀:「自分で聞いておいて、結局照れるんだよなー、望は」
望:「悪かったな。
望:・・・ほら、遅刻しないうちに十点加算」
望:(望、真紀を抱きしめる)
真紀:「・・・ふふっ」
望:「なんだよ。ニヤニヤして」
真紀:「幸せだなぁ・・・って思って。
真紀:こうして二人で居られるの」
望:「・・・」
真紀:「ねぇ、望は?望はどう?
真紀:今・・・幸せ?」
望:「・・・ああ、幸せだよ。
望:とても、とても・・・幸せだ」
真紀:「ふふっ、嬉しいなぁ・・・夢みたい」
望:「・・・ああ、本当に夢みたいだ」
真紀:「ずっとずっと、こんな日が続くと良いね」
望:「・・・そうだな。続くと良いな。
望:ずっと・・・ずっと・・・」
真紀:「ねぇ、望」
0:(ほんの少し間)
真紀:「いつまでも一緒に居ようね・・・約束だよ」
0:(しばらくの間)
望:その言葉を最後に、キミの姿が消えていく。
望:部屋に降り注ぐ日差しの中へ、溶けていく。
0:(しばらくの間)
真紀:「・・・花を育てようと思うんだ」
望:「・・・」
真紀:「おーい、望くん?聞いてるー?」
望:「えっ・・・ああ、聞いてる聞いてる」
真紀:「望(のぞみ)って、たまに一人の世界に旅立ってることあるよね。
真紀:仕事、大変なの?疲れてる?
真紀:大丈夫ですかー?」
望:「平気平気・・・大丈夫だよ」
真紀:「本当に?さっきまでの話聞いてた?」
望:「花を育てるって話?」
真紀:「・・・へぇ、びっくり。
真紀:ちゃんと聞いててくれたんだ」
望:「聞いてた。綺麗な青い花を咲かすんだろ?」
真紀:「そうそう!苗を買ってきてね。
真紀:ベランダで育てよう、って思って」
望:「ふぅん・・・」
真紀:「あれ?あんまり関心なさそう。
真紀:昨夜(ゆうべ)は良いね、って言ってくれたじゃない」
望:「・・・そうだっけ?」
真紀:「そうだよ!
真紀:ほら、同じ名前になるし面白いね、って話したじゃん。
真紀:・・・まぁ、帰ってきた時点で既に眠そうだったし、覚えてなくても仕方ないかもだけど・・・」
望:「・・・」
真紀:「おやおや、ピンと来てないご様子。
真紀:・・・まっ、いいや。
真紀:だからね、早い話が花を育てたくなったので、今日買いに行ってきます、ってご報告」
望:「真紀」
真紀:「うん?」
望:「・・・今日、どうしても苗、買いに行くのか?」
真紀:「あっ、うん・・・
真紀:できれば買いに行きたいなーって思ったんだけど、どうしたの?」
望:「・・・いや、ほら・・・もしかしたらお前、水やり忘れて枯らすかもしれないからさ。
望:俺も一緒に買いに行ける日の方が、色々説明とか聞けるし、良いかなって」
真紀:「もう!そんなことしないよ!
真紀:きちんと育てます!」
望:「・・・なんでだよ・・・
望:いつもはそんなこと、微塵(みじん)も興味示さなかったクセに」
真紀:「望?」
望:「なぁ、いいのか?
望:花は育てても食べられないんだぞ?」
真紀:「・・・私をただの食いしん坊か何かだと思ってるでしょ?」
望:「その通りだろ?」
真紀:「女の子に対してその発言は減点」
望:「・・・やっぱり俺の点数表、減点方式なんだ」
真紀:「やっぱりって何よ。
真紀:私に優しくしてくれれば加点もありだよ」
望:「・・・アイスは何点?」
真紀:「えーっとねぇ、アイスは五点」
望:「帰り道、わざわざどこかに寄って買ってきたアイスより、ハグの方が勝ちとか、真紀らしいな・・・」
真紀:「何ぶつぶつ言ってるの?」
望:「いや、真紀さん、やっぱりただの食いしん坊じゃん、って」
真紀:「望くん。マイナス十点」
望:「ははっ・・・減らしすぎだろ」
真紀:「ちなみに、点数がゼロになったら一ヶ月、夕飯準備の刑」
望:「・・・せめて、朝ご飯にしてくれない?」
真紀:「朝ご飯は私の気分でパンかご飯に決めたいので、却下です」
望:「そういえば、お前、俺に『どっちにする?』って聞いてくれたこと無かったもんな・・・」
真紀:「あら?気付かなかったの?
真紀:ま、お仕事大変なのは知っているので、せいぜい頑張って私に優しくしてください」
望:「・・・ちなみに、加点で何か報酬は無いの?」
真紀:「あるよ。とびきりのヤツ。
真紀:望が喜びそうな、とっておきのヤツ」
望:「ねぇ、それさ。内容教えてくれない?」
真紀:「ダメだよ。教えちゃったらつまらないもん。
真紀:まずは頑張って点数稼いでください」
望:「はいはい・・・んで、どうすれば点数稼げますか?」
真紀:「そうだなぁ。
真紀:お皿洗いで五点。
真紀:洗濯物を干してくれれば五点。
真紀:お出かけ前にハグしてくれれば・・・」
望:「十点?」
真紀:「そう!正解!よく分かったね」
望:「・・・分かるよ。
望:だってお前、抱きしめてもらうのが好きだ、ってよく言ってたから」
真紀:「よく覚えてました。プラス五点」
望:「ちなみに先生。
望:キスをするという項目は何点になりますか?」
真紀:「うーん・・・プラス十五点」
望:「今すぐここでキスしたら、その点数もらえたりする?」
真紀:「おやおや?今日は積極的ですねぇ。
真紀:私はわりと照れ屋な望くんが好きなんですけど」
望:「積極的な俺は嫌い?」
真紀:「・・・嫌いじゃない。プラス十点」
望:「いいのか?
望:そんなに簡単に点数あげちゃって」
真紀:「私が満足すれば良いんですー」
望:「・・・ホント、分かりやすくて助かる」
真紀:「ふふふ、でしょ?」
望:「よし・・・それなら今週末、デートでもしようか?」
真紀:「プラス・・・」
望:「二十点?」
真紀:「すごい・・・
真紀:さっきから望が私の思考を読んでいる・・・」
望:「何年一緒にいると思ってるんだ。
望:お前の思考パターンなんてバレバレ」
真紀:「うそぉ。私ってそんなにわかりやすい?」
望:「わかりやすい。
望:今もめちゃめちゃニヤけてる」
真紀:「だって嬉しいもん。
真紀:望、最近忙しそうで全然出かける暇無かったから」
望:「・・・悪かった。なかなか時間作れなくて」
真紀:「いいのいいの!仕事大変なのは知ってるから。
真紀:・・・それに、これからはずっと一緒だし」
望:「・・・」
真紀:「・・・あっ!そろそろ時間だよ。早く行かなきゃ遅刻しちゃう」
望:「・・・真紀!」
真紀:「ん?どうしたの?」
望:「・・・あのさ、今日仕事行かなくていいかな・・・?」
真紀:「えっ?急にどうしたの?」
望:「いや、ほら最近結構遅くまで仕事してたからさ。
望:なんか頭痛くて・・・あと、腹も痛いし・・・熱っぽいし・・・それから・・・!」
真紀:「・・・ぷっ」
望:「なんで笑うんだよ」
真紀:「ごめん、なんか学校に行きたくない、って駄々こねる子どもみたいな顔してたから」
望:「子どもって・・・」
真紀:「・・・そんなこと言ってても、望は今日仕事に行っちゃうんでしょ?」
望:「えっ・・・?」
真紀:「はいはい!今日は休むわけにはいかない、って前から言ってたでしょ?
真紀:帰ってきたらいっぱいヨシヨシーってしてあげるから、頑張って行っておいで・・・ね?」
望:「いや・・・俺、本当に頭が痛くて・・・」
真紀:「もー!甘えん坊なんだから。
真紀:・・・はい、じゃあ特別!
真紀:私が行ってらっしゃいのハグをしてあげよう!
真紀:ほら、ギューッ」
真紀:(真紀、望を抱きしめる)
望:「・・・真紀」
真紀:「んー?なぁに?」
望:「お前・・・今、幸せか?」
真紀:「・・・幸せだよー。
真紀:楽しくて、嬉しいことがいっぱいで・・・夢みたいに幸せ」
望:「夢みたい・・・なんて言うなよ」
真紀:「どうして?」
望:「だって、夢はいつか醒めるじゃないか」
真紀:「ふふっ、望くん、今日は詩人ですね」
望:「茶化すなよ・・・俺は本心からお前と・・・」
真紀:(真紀、食い気味に)
真紀:「ずっとずっと、こんな日が続くと良いよね」
望:「・・・っ」
真紀:「そう、続くといいよね。
真紀:何も起きない。何も怖くない。
真紀:そんな優しい日常が」
望:「真紀・・・!
望:俺だって、それをずっとずっと願ってるのに・・・!」
真紀:「ダメだよ。これ以上ここに居たら。
真紀:望、遅刻しちゃうから」
望:「そんなの、どうでもいいんだ・・・
望:頼む真紀・・・この先は」
真紀:(真紀、食い気味に)
真紀:「・・・ねぇ、望」
0:(ほんの少し間)
真紀:「いつまでも、一緒に居ようね・・・約束だよ?」
0:(しばらくの間)
望:キミの姿が溶けていく。
望:優しいキミの温もりが、言葉と一緒に消えていく。
0:(しばらくの間)
真紀:「・・・花を育てようと思うんだ」
望:「なんで・・・」
真紀:「綺麗な青い花が咲く、苗を買ってこようと思うんだ」
望:「どうして・・・」
真紀:「同じ名前になるし、面白いねって話をしたじゃない」
望:「そんな理由で、急に思い立つなよ・・・」
真紀:「大丈夫。水やりだって忘れないよ」
望:「そんなこと言って・・・結局俺が世話する羽目になるんだぞ?」
真紀:「食べられないから育てても仕方ない!なんて絶対に言わない」
望:「そんな風に言うけど、いい加減認めろよ。
望:お前は立派な食いしん坊だったって」
真紀:「・・・何よ、さっきから。あんまり煩いと減点するぞ」
望:「すればいいだろ。
望:点数ゼロになったら、美味しい夕飯食べさせてやるから」
真紀:「報酬、いらないんですか?」
望:「目の前にそうやって餌ぶら下げるクセに、お前・・・最期の最期まで内容教えてくれなかったじゃないか」
真紀:「贅沢言えばお皿洗いも洗濯も、たまにはやってほしかったな」
望:「やるよ・・・いくらでも・・・
望:点数なんかもらえなくたって、いくらでもやってやる」
真紀:「恥ずかしがらずにもっと抱きしめてほしかったし、キスだっていっぱいしてほしかった」
望:「俺だって本当はもっとお前に触れたかったよ・・・
望:お前がそれこそ、もういいって思うくらい・・・飽きるほど」
真紀:「週末のデート、すごく楽しみにしてたのになぁ」
望:「俺、色んなプラン考えてたんだ。
望:お前が行きたいって言ってた場所も、食べたいって言ってたものも、全部行くくらいの気持ちで準備してたのに・・・」
真紀:「・・・ねぇ、望。ごめんね」
望:「謝るなよ・・・謝りたいのはむしろ・・・」
真紀:「私が出かけさえしなければ」
望:「俺がお前に行くなと言っていれば」
真紀:「花を買いに行こう、なんて急に思いつかなければ」
望:「仕事になんて行かず、お前と一緒に出かけていれば」
真紀:「・・・あの日を迎えなければ」
望:「お前が」
真紀:「私が」
望:「事故に遭うことなんてなかったのに」
0:(少し間)
真紀:「・・・悔しかったなぁ。
真紀:せっかく望とずっと一緒に居られると思ったのに」
望:「それは俺の台詞だよ。
望:なんでお前、あんなにあっけなく逝っちゃうんだよ。
望:まだ、籍だって入れてなかったのに」
真紀:「婚姻届、せっかく書いておいたのに。
真紀:結局出せずに、引き出しの中だよ」
望:「指輪だって、一回も嵌(は)めないままで」
真紀:「だって、勿体なかったんだもん。
真紀:今まで着けたことないから、無くしそうで怖かったし」
望:「式場、どうするんだよ。
望:お前の花嫁姿、親父さんとお袋さん、すごく楽しみにしてたんだぞ」
真紀:「挨拶に行って泣かせたばかりなのに、またたくさん泣かせちゃった。
真紀:本当に親不孝な娘だなって反省してる」
望:「二人で作ったウェルカムボードも」
真紀:「うん」
望:「何日もかけて書いた招待状も」
真紀:「うん」
望:「楽しみにしてたウェディングケーキだって・・・
望:お前が居なけりゃ、意味ないんだぞ?」
真紀:「・・・ごめんね」
望:「謝ってほしいわけじゃないって言ってるだろ?」
真紀:「うん。・・・だけど、ごめんね」
望:「だから・・・!
望:なんで・・・謝るんだよ」
真紀:「私が、ずっと一緒に居たいなんて願ったから、望はここから離れられないんでしょ」
望:「お前のせいじゃないよ。
望:俺だって、ずっと一緒に居たいと願ったんだから」
真紀:「・・・じゃあ、ずっと一緒に居ようよ」
望:「居られないよ。
望:だってお前、花を買いに行くの諦めてくれないじゃないか」
真紀:「望と一緒に見たかったんだもん、あの花が綺麗に咲くとこ」
望:「一回くらい折れてくれれば、また一緒に居られたかもしれないのに」
真紀:「それこそ夢だよ。
真紀:幸せだけど、いつかは醒めて消えていく・・・そんな夢」
望:「・・・なぁ、あの花の名前」
真紀:「なぁに?忘れたの?」
望:「忘れるわけないだろ?
望:・・・でもお前の声でもう一度だけ、聞かせてほしい」
真紀:「苧環(オダマキ)・・・素敵な名前でしょ?」
望:「そうだな・・・
望:とても・・・とてもいい名前だ」
真紀:「・・・ねぇ、あの花ね。
真紀:夏の初めに咲くんだよ」
望:「ああ」
真紀:「綺麗な花を咲かすんだ。
真紀:青い青い、綺麗な花を」
望:「ああ」
真紀:「きっと望も好きになるよ。
真紀:だって、花に興味が無い私でさえ、綺麗だと思ったんだから」
望:「・・・ああ」
真紀:「日には当てすぎちゃダメなんだって。
真紀:気を付けてあげて」
望:「わかった」
真紀:「水は土が乾いたらあげる程度で良いよ。
真紀:あと、たまに肥料も忘れずに」
望:「わかった」
真紀:「あと、大きくなったら植え替えしてあげてね。
真紀:寒い時期は土が冷えすぎないようにして・・・
真紀:それから、それから・・・」
望:「真紀」
真紀:「なぁに?」
望:「大丈夫。心配するなよ。
望:俺、ちゃんと大事にするから」
真紀:「そっか・・・そうだよね。
真紀:だって望は私なんかより、実はとっても器用で、ずっと何でもできるんだから」
望:「ああ、だからさ。安心してくれよ。
望:・・・俺ももう、二度とあんなことしないから」
真紀:「うん。その言葉が聞ければ私は満足だ。
真紀:これでやっと向こうに行ける」
望:「未練がましく引き留めて、ごめん」
真紀:「・・・望こそ謝らないでよ。
真紀:これで全部チャラにしよう」
望:「加点も減点も無し?」
真紀:「無し無し。
真紀:また次にお会いした時のお楽しみで」
望:「それじゃあ、報酬も持ち越しだな」
真紀:「ふふっ、楽しみにしておいてよ?
真紀:何年も持ち越しにする分、とびきりのを用意しておくんだから」
望:「わかった。楽しみにしておく」
真紀:「・・・よし、じゃあそろそろ私は行くね」
望:「ああ・・・わかった」
真紀:「望・・・今までありがとう。それじゃあ」
望:(望、食い気味に)
望:「真紀」
真紀:「なぁに?」
望:「その・・・十点加点してから、お別れしても良いか?」
真紀:「あはは、いいよ。はい・・・どうぞ」
0:(ほんの少し間)
望:(望、真紀を抱き締める)
望:「ああ・・・温かいな」
真紀:「・・・そんなはずないんだけどな。
真紀:でも本当だ・・・なんだかとても温かい」
望:「真紀」
真紀:「んー?どうしたの?」
望:「苧環の花、きっと綺麗に咲かせてみせるよ」
真紀:「・・・咲いたら、私の写真を一緒に飾って」
望:「わかった」
真紀:「あと、できれば毎年咲かせてほしい。
真紀:何年も、何十年も、望の傍で」
望:「ああ、約束する」
真紀:「うん。ありがとう。
真紀:楽しみにしてるね」
望:「・・・それとな、真紀」
真紀:「・・・はぁーい」
0:(ほんの少し間)
望:「愛してる・・・これからもずっと、愛してる」
真紀:「ふふっ、望くん。百点満点・・・!」
0:(しばらくの間)
望:部屋に降り注ぐ柔らかな光で目をさます。
望:そこには香ばしいパンの匂いも、
望:テーブルを挟んだ向こう側にキミの姿も無いけれど。
望:
望:さっきまで腕の中に感じた温もりが、
望:嬉しそうなキミの笑い声が、
望:確かにここにあるような、そんな気がした。
0:~FIN~
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:『いにしへの しづのをだまき 繰り返し
:昔を今に なすよしもがな』
:(昔の織物の麻糸をつむいで巻き取った糸玉から糸を繰り出すように繰り返しながら、楽しかった昔を今にする方法があるといいのに)