台本概要

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タイトル 御伽噺に幕切れを
作者名 Alice  (@Alice15827178)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 吸血鬼ファンタジー×ラブストーリー

「あんたの血なんて飲めるわけないでしょ!?」
「化け物の仲間に身を落としてでも、叶えたい願いがあるんだよ」

(M)はモノローグです


☆お願い☆
キャスト様の性別不問
アドリブ可
世界観が崩れるような大幅な改変のみ不可
どなた様も自由に演じてください

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
テイル 81 英語表記:tale。 吸血鬼ハンター。 昔大切な人を、とある吸血鬼に殺された。 年齢設定自由。
フィン 86 英語表記:fin。 吸血鬼。 家族・仲間を吸血鬼ハンターに殺されている。 年齢設定自由。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
テイル:助けてやれなかった… テイル:俺が弱かったから… テイル:ごめん…ごめんな… 0:  0:  0:  0:月の明るい夜 0:とある街の路地裏 0:血まみれのフィンが、フラつきながら歩いている 0:  0:  フィン:はぁはぁ… フィン:あいつが同胞殺しの… フィン:本当に、人間も吸血鬼も見境なく襲うなんて… フィン:う…傷が深い…血が足りない… テイル:ん?誰かいるのか? フィン:人、間…!?なんでこんな所に… テイル:おい!どうした!? フィン:どうもしない…!来ないで! テイル:どうもしないわけないだろう!? テイル:こんな血まみれで… テイル:怪我でもしてるの…か… テイル:っ!お前、吸血鬼か…!? フィン:離して…! フィン:(払い除けようと、押し返す) フィン:この紋章、あんたまさか…! テイル:血か…? フィン:っ…! テイル:血が足りないんだな? フィン:うるさい! テイル:俺の血を吸え フィン:あんた、自分が何言ってるかわかってるの…!? フィン:飲めるわけないでしょ…! フィン:あんたの血なんて… テイル:いいから飲め! フィン:嫌!やめて! 0:  0:  テイル:(M)俺は吸血鬼の女を抱き寄せ、 テイル:無理矢理、自分の首元に牙を押しつけた テイル:牙が触れ、皮膚が裂ける テイル:流れ出す血の芳醇(ほうじゅん)な香りに抗いきれなくなったのか、 テイル:腕の中で暴れていた吸血鬼は、自ら牙を突き立てた テイル:首筋に痛みが走り、身体から力が抜けていくのを感じながら、 テイル:ふと吸血鬼の顔を見る テイル:そいつは、泣いていた… 0:  0:  0:  0:翌朝 0:  0:  0:  フィン:う…、ここは…? テイル:目が覚めたか? フィン:どうしてあんたが…! テイル:ご挨拶だな テイル:命の恩人に向かって フィン:命の恩人…? テイル:…俺の首筋を見ても、思い出さないか? フィン:まさか…その傷跡… フィン:私は…あんたの血を吸って、生きながらえた…の…? テイル:あぁ フィン:は…はは… フィン:私はそこまで堕ちたのね… テイル:そんなに嫌か、俺の血を吸って生きながらえたことが フィン:当たり前よ! フィン:昨日見た紋章、 フィン:あんた吸血鬼ハンターでしょう!? フィン:私の家族や友達を殺した悪魔が!! フィン:そんなやつの施しを受けるなんて… テイル:お前の知人を、直接手にかけた記憶はないけどな フィン:同じことよ!あんたたちのせいで私達は… テイル:ふっ… フィン:何がおかしいの…? テイル:いや? テイル:人間を食い物にしている化け物にも、 テイル:仲間を大切にする気持ちがあるんだなと思ってな フィン:…馬鹿にしているの!? テイル:(遮るように)お前の言葉、そっくりそのまま返してやるよ テイル:お前たち吸血鬼に、何人の人間が食い殺されたと思っている? フィン:…っ フィン:じゃあ…じゃあ…なんで私を助けたのよ!? フィン:見殺しにすればよかったでしょ!? テイル:… フィン:答えてよ! テイル:俺の目的のために利用させてもらう フィン:…目的? テイル:そうだ テイル:吸血鬼の眷属になれば、五感の活性化に加えて、 テイル:脅威的な回復力と力が手に入る テイル:俺は化け物の仲間に身を落としてでも、叶えたい願いがあるんだよ フィン:… テイル:あぁ、それと テイル:お前にはまだここにいてもらう フィン:はぁ!? テイル:お前にはまだ利用価値がある テイル:その時がくるまで、部屋で大人しくしておけ フィン:待って! 0:  0:  0:テイル、部屋に鍵をかけて出て行く 0:  0:  フィン:(M)それから、悪夢のような日々が始まった フィン:テイルと名乗った吸血鬼ハンターは、 フィン:私を四六時中、部屋に閉じ込めた フィン:出入り口に銀が使われた部屋 フィン:自力で出ることはおろか、扉に触ることもできない フィン:人間に生かされ、飼い殺しにされる日々… フィン:こんな屈辱的な思いをしてまで、 フィン:どうして私は生きているんだろう… 0:  0:  テイル:飲め(コップに入った血液を渡そうとする) フィン:いらない テイル:飲まなければ、怪我も治らないし、 テイル:いずれ死ぬぞ フィン:あんたなんかの血で生かされるくらいなら、 フィン:死んだ方がマシよ テイル:… フィン:私が死んだら困るんでしょ? フィン:あんたに一矢報いれるんなら、 フィン:そっちの方がずっといい テイル:はぁ…(ため息) テイル:フィン、そんなに死にたいか? テイル:なら、もういい。勝手にしろ フィン:いいの? フィン:私に利用価値があるから助けたんでしょ? テイル:お前が本当に死ねるんなら、諦めてやるよ フィン:どういう意味よ テイル:飢えと渇きの苦しみは、甘くないってことだ フィン:私達吸血鬼は、いつだって飢えに苦しんでいる フィン:知った風な口を聞かないで テイル:死ぬほどの飢餓感は、お前の想像以上だぞ テイル:どこまで耐えられるか、試してみるか? 0:  0:  テイル:(M)俺は自分の腕にナイフを突き立て、線を引いた テイル:赤黒い血が流れ出す テイル:それは、赤い雫になって テイル:絨毯に匂いと一緒にこびりついていく 0:  0:  フィン:何のつもり? フィン:生き血だったら、私が飛びつくとでも? テイル:いや? テイル:また明日くる フィン:なんなの、あいつ… 0:  0:  フィン:(M)それから毎日同じことが繰り返された フィン:絨毯の血のシミは、広がり続け、 フィン:狭い部屋に血の匂いが少しずつ充満していく フィン:一切血を接種していない私の身体は、 フィン:次第に限界に近づいていた フィン:日に日に意識が朦朧(もうろう)とし、 フィン:内側から凍っていくように身体の自由がきかなくなる フィン:部屋に充満する血の匂いにさえ耐えられず、 フィン:理性を失いそうになっていた 0:  0:  0:ノックする音 テイル:入るぞ フィン:ぜぇ…っ、出て、いって!(苦しそうな息遣い) テイル:ずいぶんいい格好になったな フィン:う…るさい! テイル:(腕を切りながら)今日も飲まないつもりか? フィン:当たり前…だ…! フィン:あんたの血なんか…さっさと出てい… フィン:(足がもつれて倒れる) テイル:おっと(抱き止める) テイル:大口叩いておいて、このザマか フィン:はぁ…はぁ… テイル:どうした?血が飲みたいのか? フィン:うるさい…! フィン:その血まみれの腕を近づけないで…! テイル:強がりはよせ テイル:もう限界なはずだ テイル:諦めろ フィン:嫌だ…! テイル:じゃあ死ぬまでこの苦しみを味わい続けるか? フィン:っ… フィン:… フィン:(小声)嫌だ… 0:  0:  フィン:(M)私はテイルの腕から流れ出る血を口にした フィン:温かい血が私の身体を満たしていく フィン:あぁ…美味しい… フィン:血を啜り(すすり)ながら、私の頬を涙が伝う フィン:私は…自らこいつの軍門に下ったんだ… 0:  0:  テイル:(M)翌日から、 テイル:フィンは嫌そうな顔をしながらも、俺の血を飲むようになった テイル:怪我も回復し、体力も徐々に戻ってきていた テイル:相変わらず口は悪いが、 テイル:反抗するような素振りは見せなくなった テイル:…屈辱だろう テイル:吸血鬼は、何より誇りを大事にする テイル:…本当は、こんな卑怯な手を使いたくはなかった テイル:でも今はこうするしかないんだ テイル:あいつを見つけるには… 0:  0:  0:  0:数日後 0:  0:  0:  テイル:おい、街に行くぞ フィン:はぁ?なんで私が フィン:一人で行けばいいでしょ? テイル:いい加減、怪我も治ってきただろう テイル:閉じこもってばかりだと、脳まで腐るぞ フィン:閉じ込めてるあんたに言われたくないんだけど テイル:ははっ フィン:いいの?逃げるかもしれないよ? テイル:逃げられるなら、とっくに逃げてるだろ? テイル:そんな体力をつけさせるほど、 テイル:血を与えたつもりもないしな フィン:嫌なやつ… テイル:憎まれ口を叩けるようなら大丈夫だ テイル:行くぞ 0:  0:  0:テイルはフィンを連れて街へ 0:  0:  フィン:夜なのに人が多い… テイル:もうすぐ皆既月食の祭事だからな テイル:露天も出てるし、日夜問わず、町中お祭り騒ぎだよ フィン:ふーん… フィン:あっ…(露天に目を留める) テイル:何か気になる物でもあったのか? フィン:別に… テイル:なんだ、そのブレスレット気に入ったのか? フィン:そ…そんなわけない…でしょ フィン:人間が作った物なんて… テイル:ふっ、素直じゃないやつだな テイル:店主、これをもらおう フィン:ちょっ…人の話し聞いて… テイル:ほらっ(ブレスレットを投げる) フィン:ぅわっ… テイル:『御守り』だ フィン:御守り…? テイル:行くぞ フィン:あ…待ってよ…! 0:  0:  フィン:(M)何をするわけでもない フィン:祭りで賑わう街を、テイルは私を連れて歩いた フィン:次の日も、その次の日も フィン:逃げようと思えば逃げられたのかもしれない フィン:けれど、なぜか私はそんな気にならなかった 0:  0:  0:  0:皆既月食の夜 0:  0:  0:  フィン:あのさ… テイル:ん? フィン:その…、最近、なんで毎晩私を外に連れ出すの? テイル:なんだ、嫌だったのか? フィン:そうじゃない…けど、なんでかな…って フィン:この前も、このブレスレット買ってくれたし… テイル:(被せて)探している奴がいた フィン:…え? テイル:そいつは人間も吸血鬼も見境いなく殺す、 テイル:頭のイカれた吸血鬼だ フィン:どうして、そんな奴、探してる、の…? テイル:…昔、大切な人を殺された テイル:俺はずっとその復讐のために生きてきた テイル:フィン、お前もそいつに襲われたんだろう? フィン:なんで、知って… テイル:お前を助けた時、奴と同じ匂いがした テイル:あいつは一度狙った獲物は絶対に逃がさない テイル:必ずお前を狙ってまたやってくる フィン:っ… テイル:闇に隠れてる吸血鬼を探し出すのは、至難の業だからな テイル:向こうから来てくれるなら都合がいい フィン:はは…そっか…じゃあ私はそのための… テイル:だが、それももう、今夜で終わりだ フィン:…え? テイル:昨日奴の匂いがした テイル:今夜も街に出てくるだろう テイル:必ず見つける フィン:… テイル:さて、そろそろ時間だな(立ち上がりながら) テイル:フィン、お前の役目はもう終わった テイル:刺し違えてでも、俺は俺の願いを叶える テイル:お前は好きに出て行け テイル:(小声)今まで、ありがとう 0:  0:  0:テイル部屋を出て行く 0:  0:  フィン:(M)テイルが出ていった後も、 フィン:私は何時間経っても部屋を動けなかった フィン:悔しくて、惨めで、情けなくて… フィン:何を、勘違いしていたんだろう フィン:私はただのエサだったんだ… フィン:わかってたことじゃない…最初から 0:  フィン:(M)きつく握りしめた拳を壁に叩きつける フィン:鈍い音に混ざって、 フィン:シャランと微かな音が響いて目をあけると フィン:痺れるように痛む右手には、 フィン:テイルがくれたブレスレットが、キラキラと揺れていた 0:  テイル:(回想)御守りだ 0:  フィン:(独り言のように)御守り…? フィン:あれ…? フィン:吸血鬼が私を探してるなら、 フィン:最後まで私を囮に使えばいいのに… フィン:どうして、私を置いていったの…? 0:  テイル:(回想)刺し違えてでも、俺は俺の願いを叶える 0:  0:  フィン:(M)私は部屋を飛び出した フィン:わからない…わからない…わからない… フィン:テイルは私を利用していただけだった フィン:そのはず…そのはずなのに…! フィン:ブレスレットを握りしめ、必死にテイルを探した フィン:見覚えのある路地裏が、 フィン:皆既月食に照らされて、赤く染まっている フィン:そこにー、 フィン:街の赤に同化するように倒れているテイルを見つけた 0:  0:  フィン:テイル!生きてる!? フィン:っ…!血が…!止血を… フィン:(止まることなく血が流れ出ている) フィン:ねぇ!テイル!返事して! テイル:う…あぁ…フィン…? フィン:良かった、生きて… テイル:(被せて)良かった…今度は守れた… フィン:え…? フィン:何言ってるの…? フィン:あんたの目的は、大切な人の仇討ち…でしょ…? テイル:あぁ…そうだ… テイル:あの時、守れなくて…憎くて…悔しくて… テイル:無力な自分が…一番許せなくて… テイル:なのに、復讐する力もなくて… テイル:ずっと…ずっと…苦…しくて… テイル:死にたかった… テイル:死んで、早くあいつのとこに行きたかった… テイル:楽に、なりたかった… テイル:俺にそんな権利なんかないのにな… テイル:がはっ…! フィン:テイル! テイル:…そんな時、この路地裏で死にかけてるお前を見つけた テイル:チャンスだと思った テイル:吸血鬼の眷属になれば力が手に入る テイル:仇をとれば、死んでも許される気がした… テイル:お前なんかどうなってもよくて、 テイル:最後まで利用し尽くして、 テイル:用済みになったら、のたれ死んだって構わなかった… テイル:そのはずだったのに… テイル:いつのまにか…見捨てられなくなってた テイル:お前だって憎い吸血鬼のはずなのにな… テイル:げほっげほっ…うっ…(血を吐く) フィン:なんで…今更そんなこと言うのよ… テイル:ぜぇ…ぜぇ…、フィンごめんな… テイル:お前は…もう自由だから… フィン:なんで…なんであんたはそう自分勝手なのよ!? フィン:自分の都合で私を生かしておいて、 フィン:今度は勝手に死ぬ!? フィン:ふざけないでよ…!! テイル:…(苦しい呼吸) フィン:…もう…もう、一人は嫌だ… フィン:一人は寂しい…よ フィン:人から隠れて、怯えて、逃げて、殺して、血を求めて彷徨って… フィン:そんな風に一人で生きていくのはもう嫌だよ… テイル:フィン…? フィン:テイルのせいで、 フィン:私は誰かといる暖かさを知っちゃったのよ! フィン:もう一人になんて戻れない… フィン:なんで…なんで死んじゃうの… フィン:逝か…ないで… テイル:っ…ごめん…ごめん…な フィン:テイルなんて大っ嫌い…! テイル:ごめん… フィン:謝るくらいなら…死なないで… フィン:お願いだから… テイル:あぁ…死にたくない…なぁ… テイル:なんで今そんなこと言うんだよ… テイル:お前への気持ち…気づかないフリしてたのに… テイル:どうしてくれる…お前のせいだ テイル:お前のせいで、死ぬのが怖くなっちまったじゃないか…! テイル:お前をおいて…死にたく…ない フィン:じゃあ…死なないでよ… フィン:意地でも生きてよ…! テイル:がはっ…(苦しい呼吸音) フィン:テイル…! フィン:なんで…なんで…私は…! 0:  0:  0:静かに降り出す雨 0:  0:  テイル:な…ぁ、フィ…ン… テイル:お前に…言…い、たい…ことが…ある…んだ… フィン:なに…聞こえないよ… テイル:もっとこっち…こい… 0:  フィン:(M)冷たい雨が頬を打つ フィン:握った手がどんどん冷たくなっていく フィン:やめて… フィン:テイルの命を奪わないで… フィン:静かに降りだした雨の音が、やけにうるさかった フィン:雨音の隙間から、彼の言葉が途切れ途切れに聞こえる フィン:静かにしてよ… フィン:ねぇお願いだから…止んで… フィン:少しの間でいいから フィン:テイルの声がよく聞こえない フィン:たったの一言も、聞き漏らしたくないの フィン:声…これが…きっと…最後なん…だから… 0:  テイル:(M)静かに降る雨が、涙で醜く歪む俺の顔を隠してくれる テイル:これでカッコ悪い泣き顔を見られなくて済む テイル:雨のせいだって言い訳できる テイル:最期に見せる顔、少しはマシになってるかな… テイル:フィンの震えた唇が、血と雨と涙で濡れた俺の頬に触れる 0:  0:  テイル:フィン、泣くな テイル:ーーーーー(間でも、何か言葉を入れてもいいです) 0:  0:  テイル:(M)声にならない声で、最期の言葉を紡ぐ テイル:ちゃんと届いただろうか テイル:薄れゆく意識の向こう側、 テイル:フィンの絶叫が雨に濡れた路地裏を、彩った 0:  0:  0:  0:長めの間 0:  0:  0:  フィン:(M)あれから、どれだけの時間が過ぎただろう フィン:吸血鬼も吸血鬼ハンターも、 フィン:御伽噺(おとぎばなし)として語られる フィン:空想の存在となるほどには、長い年月が経った 0:  フィン:(M)私はーー生きている フィン:『あの日』、私はもう誰の血も吸わないと決めた フィン:どれだけ苦しい思いをしても死ぬつもりだった フィン:最後に口にした、 フィン:雨と涙まじりのテイルの血を、いつまでも覚えていたかったから フィン:ーでも、いくら月日が流れても吸血衝動すら起こらず、私は死ななかった フィン:何故だかはわからない フィン:けれど、テイルが生きろと言っているような気がした 0:  0:  フィン:(M)私の時間が、 フィン:あと何年、何十年、何百年続くのか分からない フィン:けれど、世界最後の吸血鬼として フィン:私はこの世界の夜で生きていく 0:  フィン:『人に生かされた吸血鬼』 フィン:そんな御伽噺に自ら幕を下ろす、その時まで 0:  0:  0:タイトルコール テイル:ー御伽噺に幕切れをー

テイル:助けてやれなかった… テイル:俺が弱かったから… テイル:ごめん…ごめんな… 0:  0:  0:  0:月の明るい夜 0:とある街の路地裏 0:血まみれのフィンが、フラつきながら歩いている 0:  0:  フィン:はぁはぁ… フィン:あいつが同胞殺しの… フィン:本当に、人間も吸血鬼も見境なく襲うなんて… フィン:う…傷が深い…血が足りない… テイル:ん?誰かいるのか? フィン:人、間…!?なんでこんな所に… テイル:おい!どうした!? フィン:どうもしない…!来ないで! テイル:どうもしないわけないだろう!? テイル:こんな血まみれで… テイル:怪我でもしてるの…か… テイル:っ!お前、吸血鬼か…!? フィン:離して…! フィン:(払い除けようと、押し返す) フィン:この紋章、あんたまさか…! テイル:血か…? フィン:っ…! テイル:血が足りないんだな? フィン:うるさい! テイル:俺の血を吸え フィン:あんた、自分が何言ってるかわかってるの…!? フィン:飲めるわけないでしょ…! フィン:あんたの血なんて… テイル:いいから飲め! フィン:嫌!やめて! 0:  0:  テイル:(M)俺は吸血鬼の女を抱き寄せ、 テイル:無理矢理、自分の首元に牙を押しつけた テイル:牙が触れ、皮膚が裂ける テイル:流れ出す血の芳醇(ほうじゅん)な香りに抗いきれなくなったのか、 テイル:腕の中で暴れていた吸血鬼は、自ら牙を突き立てた テイル:首筋に痛みが走り、身体から力が抜けていくのを感じながら、 テイル:ふと吸血鬼の顔を見る テイル:そいつは、泣いていた… 0:  0:  0:  0:翌朝 0:  0:  0:  フィン:う…、ここは…? テイル:目が覚めたか? フィン:どうしてあんたが…! テイル:ご挨拶だな テイル:命の恩人に向かって フィン:命の恩人…? テイル:…俺の首筋を見ても、思い出さないか? フィン:まさか…その傷跡… フィン:私は…あんたの血を吸って、生きながらえた…の…? テイル:あぁ フィン:は…はは… フィン:私はそこまで堕ちたのね… テイル:そんなに嫌か、俺の血を吸って生きながらえたことが フィン:当たり前よ! フィン:昨日見た紋章、 フィン:あんた吸血鬼ハンターでしょう!? フィン:私の家族や友達を殺した悪魔が!! フィン:そんなやつの施しを受けるなんて… テイル:お前の知人を、直接手にかけた記憶はないけどな フィン:同じことよ!あんたたちのせいで私達は… テイル:ふっ… フィン:何がおかしいの…? テイル:いや? テイル:人間を食い物にしている化け物にも、 テイル:仲間を大切にする気持ちがあるんだなと思ってな フィン:…馬鹿にしているの!? テイル:(遮るように)お前の言葉、そっくりそのまま返してやるよ テイル:お前たち吸血鬼に、何人の人間が食い殺されたと思っている? フィン:…っ フィン:じゃあ…じゃあ…なんで私を助けたのよ!? フィン:見殺しにすればよかったでしょ!? テイル:… フィン:答えてよ! テイル:俺の目的のために利用させてもらう フィン:…目的? テイル:そうだ テイル:吸血鬼の眷属になれば、五感の活性化に加えて、 テイル:脅威的な回復力と力が手に入る テイル:俺は化け物の仲間に身を落としてでも、叶えたい願いがあるんだよ フィン:… テイル:あぁ、それと テイル:お前にはまだここにいてもらう フィン:はぁ!? テイル:お前にはまだ利用価値がある テイル:その時がくるまで、部屋で大人しくしておけ フィン:待って! 0:  0:  0:テイル、部屋に鍵をかけて出て行く 0:  0:  フィン:(M)それから、悪夢のような日々が始まった フィン:テイルと名乗った吸血鬼ハンターは、 フィン:私を四六時中、部屋に閉じ込めた フィン:出入り口に銀が使われた部屋 フィン:自力で出ることはおろか、扉に触ることもできない フィン:人間に生かされ、飼い殺しにされる日々… フィン:こんな屈辱的な思いをしてまで、 フィン:どうして私は生きているんだろう… 0:  0:  テイル:飲め(コップに入った血液を渡そうとする) フィン:いらない テイル:飲まなければ、怪我も治らないし、 テイル:いずれ死ぬぞ フィン:あんたなんかの血で生かされるくらいなら、 フィン:死んだ方がマシよ テイル:… フィン:私が死んだら困るんでしょ? フィン:あんたに一矢報いれるんなら、 フィン:そっちの方がずっといい テイル:はぁ…(ため息) テイル:フィン、そんなに死にたいか? テイル:なら、もういい。勝手にしろ フィン:いいの? フィン:私に利用価値があるから助けたんでしょ? テイル:お前が本当に死ねるんなら、諦めてやるよ フィン:どういう意味よ テイル:飢えと渇きの苦しみは、甘くないってことだ フィン:私達吸血鬼は、いつだって飢えに苦しんでいる フィン:知った風な口を聞かないで テイル:死ぬほどの飢餓感は、お前の想像以上だぞ テイル:どこまで耐えられるか、試してみるか? 0:  0:  テイル:(M)俺は自分の腕にナイフを突き立て、線を引いた テイル:赤黒い血が流れ出す テイル:それは、赤い雫になって テイル:絨毯に匂いと一緒にこびりついていく 0:  0:  フィン:何のつもり? フィン:生き血だったら、私が飛びつくとでも? テイル:いや? テイル:また明日くる フィン:なんなの、あいつ… 0:  0:  フィン:(M)それから毎日同じことが繰り返された フィン:絨毯の血のシミは、広がり続け、 フィン:狭い部屋に血の匂いが少しずつ充満していく フィン:一切血を接種していない私の身体は、 フィン:次第に限界に近づいていた フィン:日に日に意識が朦朧(もうろう)とし、 フィン:内側から凍っていくように身体の自由がきかなくなる フィン:部屋に充満する血の匂いにさえ耐えられず、 フィン:理性を失いそうになっていた 0:  0:  0:ノックする音 テイル:入るぞ フィン:ぜぇ…っ、出て、いって!(苦しそうな息遣い) テイル:ずいぶんいい格好になったな フィン:う…るさい! テイル:(腕を切りながら)今日も飲まないつもりか? フィン:当たり前…だ…! フィン:あんたの血なんか…さっさと出てい… フィン:(足がもつれて倒れる) テイル:おっと(抱き止める) テイル:大口叩いておいて、このザマか フィン:はぁ…はぁ… テイル:どうした?血が飲みたいのか? フィン:うるさい…! フィン:その血まみれの腕を近づけないで…! テイル:強がりはよせ テイル:もう限界なはずだ テイル:諦めろ フィン:嫌だ…! テイル:じゃあ死ぬまでこの苦しみを味わい続けるか? フィン:っ… フィン:… フィン:(小声)嫌だ… 0:  0:  フィン:(M)私はテイルの腕から流れ出る血を口にした フィン:温かい血が私の身体を満たしていく フィン:あぁ…美味しい… フィン:血を啜り(すすり)ながら、私の頬を涙が伝う フィン:私は…自らこいつの軍門に下ったんだ… 0:  0:  テイル:(M)翌日から、 テイル:フィンは嫌そうな顔をしながらも、俺の血を飲むようになった テイル:怪我も回復し、体力も徐々に戻ってきていた テイル:相変わらず口は悪いが、 テイル:反抗するような素振りは見せなくなった テイル:…屈辱だろう テイル:吸血鬼は、何より誇りを大事にする テイル:…本当は、こんな卑怯な手を使いたくはなかった テイル:でも今はこうするしかないんだ テイル:あいつを見つけるには… 0:  0:  0:  0:数日後 0:  0:  0:  テイル:おい、街に行くぞ フィン:はぁ?なんで私が フィン:一人で行けばいいでしょ? テイル:いい加減、怪我も治ってきただろう テイル:閉じこもってばかりだと、脳まで腐るぞ フィン:閉じ込めてるあんたに言われたくないんだけど テイル:ははっ フィン:いいの?逃げるかもしれないよ? テイル:逃げられるなら、とっくに逃げてるだろ? テイル:そんな体力をつけさせるほど、 テイル:血を与えたつもりもないしな フィン:嫌なやつ… テイル:憎まれ口を叩けるようなら大丈夫だ テイル:行くぞ 0:  0:  0:テイルはフィンを連れて街へ 0:  0:  フィン:夜なのに人が多い… テイル:もうすぐ皆既月食の祭事だからな テイル:露天も出てるし、日夜問わず、町中お祭り騒ぎだよ フィン:ふーん… フィン:あっ…(露天に目を留める) テイル:何か気になる物でもあったのか? フィン:別に… テイル:なんだ、そのブレスレット気に入ったのか? フィン:そ…そんなわけない…でしょ フィン:人間が作った物なんて… テイル:ふっ、素直じゃないやつだな テイル:店主、これをもらおう フィン:ちょっ…人の話し聞いて… テイル:ほらっ(ブレスレットを投げる) フィン:ぅわっ… テイル:『御守り』だ フィン:御守り…? テイル:行くぞ フィン:あ…待ってよ…! 0:  0:  フィン:(M)何をするわけでもない フィン:祭りで賑わう街を、テイルは私を連れて歩いた フィン:次の日も、その次の日も フィン:逃げようと思えば逃げられたのかもしれない フィン:けれど、なぜか私はそんな気にならなかった 0:  0:  0:  0:皆既月食の夜 0:  0:  0:  フィン:あのさ… テイル:ん? フィン:その…、最近、なんで毎晩私を外に連れ出すの? テイル:なんだ、嫌だったのか? フィン:そうじゃない…けど、なんでかな…って フィン:この前も、このブレスレット買ってくれたし… テイル:(被せて)探している奴がいた フィン:…え? テイル:そいつは人間も吸血鬼も見境いなく殺す、 テイル:頭のイカれた吸血鬼だ フィン:どうして、そんな奴、探してる、の…? テイル:…昔、大切な人を殺された テイル:俺はずっとその復讐のために生きてきた テイル:フィン、お前もそいつに襲われたんだろう? フィン:なんで、知って… テイル:お前を助けた時、奴と同じ匂いがした テイル:あいつは一度狙った獲物は絶対に逃がさない テイル:必ずお前を狙ってまたやってくる フィン:っ… テイル:闇に隠れてる吸血鬼を探し出すのは、至難の業だからな テイル:向こうから来てくれるなら都合がいい フィン:はは…そっか…じゃあ私はそのための… テイル:だが、それももう、今夜で終わりだ フィン:…え? テイル:昨日奴の匂いがした テイル:今夜も街に出てくるだろう テイル:必ず見つける フィン:… テイル:さて、そろそろ時間だな(立ち上がりながら) テイル:フィン、お前の役目はもう終わった テイル:刺し違えてでも、俺は俺の願いを叶える テイル:お前は好きに出て行け テイル:(小声)今まで、ありがとう 0:  0:  0:テイル部屋を出て行く 0:  0:  フィン:(M)テイルが出ていった後も、 フィン:私は何時間経っても部屋を動けなかった フィン:悔しくて、惨めで、情けなくて… フィン:何を、勘違いしていたんだろう フィン:私はただのエサだったんだ… フィン:わかってたことじゃない…最初から 0:  フィン:(M)きつく握りしめた拳を壁に叩きつける フィン:鈍い音に混ざって、 フィン:シャランと微かな音が響いて目をあけると フィン:痺れるように痛む右手には、 フィン:テイルがくれたブレスレットが、キラキラと揺れていた 0:  テイル:(回想)御守りだ 0:  フィン:(独り言のように)御守り…? フィン:あれ…? フィン:吸血鬼が私を探してるなら、 フィン:最後まで私を囮に使えばいいのに… フィン:どうして、私を置いていったの…? 0:  テイル:(回想)刺し違えてでも、俺は俺の願いを叶える 0:  0:  フィン:(M)私は部屋を飛び出した フィン:わからない…わからない…わからない… フィン:テイルは私を利用していただけだった フィン:そのはず…そのはずなのに…! フィン:ブレスレットを握りしめ、必死にテイルを探した フィン:見覚えのある路地裏が、 フィン:皆既月食に照らされて、赤く染まっている フィン:そこにー、 フィン:街の赤に同化するように倒れているテイルを見つけた 0:  0:  フィン:テイル!生きてる!? フィン:っ…!血が…!止血を… フィン:(止まることなく血が流れ出ている) フィン:ねぇ!テイル!返事して! テイル:う…あぁ…フィン…? フィン:良かった、生きて… テイル:(被せて)良かった…今度は守れた… フィン:え…? フィン:何言ってるの…? フィン:あんたの目的は、大切な人の仇討ち…でしょ…? テイル:あぁ…そうだ… テイル:あの時、守れなくて…憎くて…悔しくて… テイル:無力な自分が…一番許せなくて… テイル:なのに、復讐する力もなくて… テイル:ずっと…ずっと…苦…しくて… テイル:死にたかった… テイル:死んで、早くあいつのとこに行きたかった… テイル:楽に、なりたかった… テイル:俺にそんな権利なんかないのにな… テイル:がはっ…! フィン:テイル! テイル:…そんな時、この路地裏で死にかけてるお前を見つけた テイル:チャンスだと思った テイル:吸血鬼の眷属になれば力が手に入る テイル:仇をとれば、死んでも許される気がした… テイル:お前なんかどうなってもよくて、 テイル:最後まで利用し尽くして、 テイル:用済みになったら、のたれ死んだって構わなかった… テイル:そのはずだったのに… テイル:いつのまにか…見捨てられなくなってた テイル:お前だって憎い吸血鬼のはずなのにな… テイル:げほっげほっ…うっ…(血を吐く) フィン:なんで…今更そんなこと言うのよ… テイル:ぜぇ…ぜぇ…、フィンごめんな… テイル:お前は…もう自由だから… フィン:なんで…なんであんたはそう自分勝手なのよ!? フィン:自分の都合で私を生かしておいて、 フィン:今度は勝手に死ぬ!? フィン:ふざけないでよ…!! テイル:…(苦しい呼吸) フィン:…もう…もう、一人は嫌だ… フィン:一人は寂しい…よ フィン:人から隠れて、怯えて、逃げて、殺して、血を求めて彷徨って… フィン:そんな風に一人で生きていくのはもう嫌だよ… テイル:フィン…? フィン:テイルのせいで、 フィン:私は誰かといる暖かさを知っちゃったのよ! フィン:もう一人になんて戻れない… フィン:なんで…なんで死んじゃうの… フィン:逝か…ないで… テイル:っ…ごめん…ごめん…な フィン:テイルなんて大っ嫌い…! テイル:ごめん… フィン:謝るくらいなら…死なないで… フィン:お願いだから… テイル:あぁ…死にたくない…なぁ… テイル:なんで今そんなこと言うんだよ… テイル:お前への気持ち…気づかないフリしてたのに… テイル:どうしてくれる…お前のせいだ テイル:お前のせいで、死ぬのが怖くなっちまったじゃないか…! テイル:お前をおいて…死にたく…ない フィン:じゃあ…死なないでよ… フィン:意地でも生きてよ…! テイル:がはっ…(苦しい呼吸音) フィン:テイル…! フィン:なんで…なんで…私は…! 0:  0:  0:静かに降り出す雨 0:  0:  テイル:な…ぁ、フィ…ン… テイル:お前に…言…い、たい…ことが…ある…んだ… フィン:なに…聞こえないよ… テイル:もっとこっち…こい… 0:  フィン:(M)冷たい雨が頬を打つ フィン:握った手がどんどん冷たくなっていく フィン:やめて… フィン:テイルの命を奪わないで… フィン:静かに降りだした雨の音が、やけにうるさかった フィン:雨音の隙間から、彼の言葉が途切れ途切れに聞こえる フィン:静かにしてよ… フィン:ねぇお願いだから…止んで… フィン:少しの間でいいから フィン:テイルの声がよく聞こえない フィン:たったの一言も、聞き漏らしたくないの フィン:声…これが…きっと…最後なん…だから… 0:  テイル:(M)静かに降る雨が、涙で醜く歪む俺の顔を隠してくれる テイル:これでカッコ悪い泣き顔を見られなくて済む テイル:雨のせいだって言い訳できる テイル:最期に見せる顔、少しはマシになってるかな… テイル:フィンの震えた唇が、血と雨と涙で濡れた俺の頬に触れる 0:  0:  テイル:フィン、泣くな テイル:ーーーーー(間でも、何か言葉を入れてもいいです) 0:  0:  テイル:(M)声にならない声で、最期の言葉を紡ぐ テイル:ちゃんと届いただろうか テイル:薄れゆく意識の向こう側、 テイル:フィンの絶叫が雨に濡れた路地裏を、彩った 0:  0:  0:  0:長めの間 0:  0:  0:  フィン:(M)あれから、どれだけの時間が過ぎただろう フィン:吸血鬼も吸血鬼ハンターも、 フィン:御伽噺(おとぎばなし)として語られる フィン:空想の存在となるほどには、長い年月が経った 0:  フィン:(M)私はーー生きている フィン:『あの日』、私はもう誰の血も吸わないと決めた フィン:どれだけ苦しい思いをしても死ぬつもりだった フィン:最後に口にした、 フィン:雨と涙まじりのテイルの血を、いつまでも覚えていたかったから フィン:ーでも、いくら月日が流れても吸血衝動すら起こらず、私は死ななかった フィン:何故だかはわからない フィン:けれど、テイルが生きろと言っているような気がした 0:  0:  フィン:(M)私の時間が、 フィン:あと何年、何十年、何百年続くのか分からない フィン:けれど、世界最後の吸血鬼として フィン:私はこの世界の夜で生きていく 0:  フィン:『人に生かされた吸血鬼』 フィン:そんな御伽噺に自ら幕を下ろす、その時まで 0:  0:  0:タイトルコール テイル:ー御伽噺に幕切れをー