台本概要

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タイトル 10話 そしてはじまりへ
作者名 野菜  (@irodlinatuyasai)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 昼行燈探偵シリーズ 番外編2

本編では名ばかりだったドS編集と、椿による本編数年後のやりとり。
はるか(今回お休み)の将来・黒幕討伐の第2部につながる、あくまで番外編。
昼行燈の番外編はここで終わります。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
椿 53 末永椿(すえながつばき)。小説家。座右の銘は「働いたら負け」。普段は養子のはるかに面倒を全部任せ、甘やかされている。和服。
雨守 53 雨守冬威(あまもりとうい)。椿の担当編集。好きな相手にはものすごく厳しい。口が悪い。秀才、負けず嫌い。溺愛している妻がいる。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:玄関のインターフォンが鳴る。何度も、何度も。椿はモニターを見て、返事をかえす。  椿:予定よりきっかり十分前のご来訪、いつも通りで何よりだ。 雨守:うるさい御託を並べるな。 椿:第一声がそれかね。 雨守:悲しいことだが、作家という生き物はカレンダーを読めないようでな。そのしわ寄せで、俺の担当以外の仕事が回ってくる。 椿:なるほど、三徹目とお見受けした。速やかに回れ右をして家で眠るといい。 雨守:分かっているのなら、すぐに扉を開けて完成している原稿をよこせ。 0: 0: 0:ソファーのあるリビング。紙の原稿に目を通しながら会話する二人。 雨守:先生。次回からはパソコンで原稿を書くとおっしゃっていましたが? 椿:そんなこともあったねえ。仕事部屋にパソコンはあるが、設定が面倒でねえ。 雨守:そういうと思って、はるかにパソコンの設定方法だの使い方だの教えていきましたが? 椿:うわ余計なことを。 雨守:仕事が終わった後、つい足が上がるかもしれません。 椿:「足が出る」でも「手を上げる」でもない、ということは私は腹でも蹴られるのかね。 雨守:この原稿の出来次第ですね。 椿:そういえば、うちのはるかがしばらく泊りで出かける、と言ったきり帰ってこないのだが…………。 雨守:知っています。先生の食事は? 椿:はるかが作り置きを冷蔵庫、冷凍庫にみっちりと作っていったから、しばらくは大丈夫だが。 雨守:なら問題はありませんね。 椿:それで、心当たりは?私はない。 雨守:私が普通自動車免許合宿、大型二輪免許合宿、スタントマン養成所の三か所にぶちこみました。 椿:勝手にうちのはるかを妙な方向に育成しないでくれるかね?? 雨守:以前、車のブレーキを壊され、殺されかけたでしょう?よりにもよって貴様が運転していたと。 椿:仕事中は仕事モードじゃなかったのかね。今、貴様って聞こえたぞ。 雨守:はるかの「妙な体質」が治るまで、自衛する方法は身に着けておくべきだ。あと愚行に走る貴様を止めるためにもな。 椿:理屈は分かった。そしてもう仕事モードも諦めたね?……いつ帰ってくるのかな、はるかは。 雨守:「銃弾が避けれるまで帰ってくるな」、と本人に伝えてある。 椿:…………うちの可愛いはるかは、帰ってくるのかね。 0:【少し間】 椿:さて、我が恐ろしい担当編集殿?今回の物語は、いかがかね。 雨守:毎度毎度腹が立つことだが、大きな変更や手直しは必要ない。貴様は、貴様の兄と違って誤字脱字もないからな。だが、これは。 椿:その通り。その物語は厳密には完成していないのだよ。 雨守:ラストシーンの締めがあまりに不自然。あとタイトルがない。 椿:あ、私の脳内では完成しているよ。書いていないだけだ。 雨守:…………なにが望みだ? 椿:随分と察しがいいことで助かる。何より、素直に従う雨守(あまもり)というのは気分がいいね。 雨守:この嫌がらせは昔何度もやられていたからな………貴様の兄に。仕事を盾にするなどまったく癇(かん)に障る。 椿:おまえさんの弱点は原稿と奥方だね。 雨守:さっさと要求を言え。 椿:おまえさんののろけ話を少々。 雨守:断る。 椿:まあそう言わず。参考資料にしたいだけさね。 雨守:貴様にノンフィクションの才能はない。 椿:今回の物語は、ノンフィクション風の探偵ものさね。一応。 雨守:…………分かった。質問には応じるが答えるかは貴様の質問次第だ。 椿:ちょっと待ちたまえ、録音するから。 雨守:却下。せめてメモにしろ。 椿:別に奥方のカヅキちゃんに横流しする気はなかったのだがね? 雨守:貴様ら兄妹は手段を選ばないからな。 椿:さて、出会いは大学だったかね? 雨守:…………ああ。大学の図書館だ。 椿:…………うん。 雨守:さあ原稿を出せ。 椿:参考のさの字にも満たない!図書館で、おまえさんが見かけたのかね?声をかけたのはどっちで、なんて言い回しをした? 雨守:プライバシーというものを知らないのか。 椿:あー原稿用紙でツルでも折りたくなってきたねえ。 雨守:おまえたち兄妹はそういう奴だな…………。チッ。 椿:おまえさんは本当に辛辣というか…………。そろそろ柄が悪い、という評判が立つぞ? 雨守:愛想という嘘をおまえさんに振りまく必要があるのか? 椿:奥方にもこんな感じなのかね。 雨守:むしろ優しく甘やかすとおびえられる始末だ。 椿:…………私はなんでこんな辛辣に当たられているのかね。今回は締め切り破ってないだろう? 雨守:俺より優れているくせに、仕事をしない貴様が腹立たしい。 椿:おまえさんは本当に、他人どころか自分にもいっとう厳しい性分だねえ。 雨守:正当な評価をしているだけだ。能ある鷹の爪を使わせるのが俺の仕事だからな。ただでさえ貴様は平気な顔でなんでも抱え込む。本心では笑っていないくせに、死んだ貴様の兄と、同じ顔で笑って。 椿:こんなに感情豊かな私に失敬なことだ。 雨守:たしかに、はるかが来てからは別人のようだな。 椿:…………今は、おまえさんの話だ。 雨守:はあ。別に、貴様の求めるような会話はない。本の貸出機器の使い方がわからずおびえていたカヅキに、ひとこと言っただけだ。 椿:ほほう。以前、ひどい機械音痴だと言っていたね。王道の恋愛ものなら、ここでヒーローが助けるものだが? 雨守:「邪魔です、使えないないなら消えてください」と言っただけですよ。 椿:女の子になんてことを。人の心をおまえさんは持っていないのかね? 雨守:そんなもの要りません。 椿:要る。さすがに私でも分かる。必要なものだぞ。 雨守:そのあとしがみついて懇願されて機械の使い方を嫌々ながら教えた。 椿:おお、少しはラブストーリーのはじめらしいじゃあないか。 雨守:そのあとも部活がかぶったり授業がかぶったりと、奇妙な偶然が続いたものだが。 椿:青春だねえ。 雨守:あしらい続けてきたのに、何故かなつかれた。それだけだ。 椿:それだけじゃないだろう?プロポーズはおまえさんがしたと聞いたぞ? 雨守:…………。 椿:おや、珍しい。恥ずかしいのかね?あの鬼編集の雨守殿が?乙女のように恥(じらうなんてまさか) 雨守:うるさい可愛いんだ悪いか!! 椿:はっはっは、開き直るのかね。 雨守:では逆に聞くが。 椿:おまえさんから雑談とはまた珍しい。いいとも。 雨守:貴様はいつ子離れするつもりだ? 椿:…………そう、来るかね。 雨守:はるかも大学生だ。進路はしぼり始めたようだが。おまえその年で、そもそも独り暮らしできるのか? 椿:…………正直、自信はない。 雨守:はるかを貴様の世話係で一生終わらせるつもりか? 椿:おまえさん、ド直球で来るねえ。……雨守、私たちは十分に稼いだと思わないか?それこそ、老後を考えられる程度には。 雨守:退職など、貴様が兄のもとに行くか、年を取ってボケるまで許さん。 椿:策があるような口ぶりだ。 雨守:…………はるか次第だ。 椿:ふむ。雨守、おまえさんの企みは知らないが、私は協力するよ。 雨守:お得意の未来予知か? 椿:いや、今のは適当さ。奇妙な計画だというのは、外していないという自負があるがね? 雨守:貴様のそういうところは嫌いだ。 椿:何より、あの子、はるかも腹をくくったようだ。支えずして、親を名乗れるかね。 雨守:「働いたら負け」などといつもぼやいてる貴様が、珍しいな。 椿:おや、知らないのかい?末永椿という作家は、トラブル・アクシデントが好物なのだよ。さて。 雨守:…………今日は不気味なほど準備がいいな。 椿:仕事をするなら文句は言わない。そういう輩(やから)だろう、おまえさんは。 雨守:否定はしない。 椿:これが、完全版だよ。「足吾兄妹(あしごきょうだい)」という新しいペンネームのノンフィクションだ。 雨守:なるほど、タイトルは、 椿:『月夜に提灯(ちょうちん)』 雨守:『昼行燈(ひるあんどん)に鍵』

0:玄関のインターフォンが鳴る。何度も、何度も。椿はモニターを見て、返事をかえす。  椿:予定よりきっかり十分前のご来訪、いつも通りで何よりだ。 雨守:うるさい御託を並べるな。 椿:第一声がそれかね。 雨守:悲しいことだが、作家という生き物はカレンダーを読めないようでな。そのしわ寄せで、俺の担当以外の仕事が回ってくる。 椿:なるほど、三徹目とお見受けした。速やかに回れ右をして家で眠るといい。 雨守:分かっているのなら、すぐに扉を開けて完成している原稿をよこせ。 0: 0: 0:ソファーのあるリビング。紙の原稿に目を通しながら会話する二人。 雨守:先生。次回からはパソコンで原稿を書くとおっしゃっていましたが? 椿:そんなこともあったねえ。仕事部屋にパソコンはあるが、設定が面倒でねえ。 雨守:そういうと思って、はるかにパソコンの設定方法だの使い方だの教えていきましたが? 椿:うわ余計なことを。 雨守:仕事が終わった後、つい足が上がるかもしれません。 椿:「足が出る」でも「手を上げる」でもない、ということは私は腹でも蹴られるのかね。 雨守:この原稿の出来次第ですね。 椿:そういえば、うちのはるかがしばらく泊りで出かける、と言ったきり帰ってこないのだが…………。 雨守:知っています。先生の食事は? 椿:はるかが作り置きを冷蔵庫、冷凍庫にみっちりと作っていったから、しばらくは大丈夫だが。 雨守:なら問題はありませんね。 椿:それで、心当たりは?私はない。 雨守:私が普通自動車免許合宿、大型二輪免許合宿、スタントマン養成所の三か所にぶちこみました。 椿:勝手にうちのはるかを妙な方向に育成しないでくれるかね?? 雨守:以前、車のブレーキを壊され、殺されかけたでしょう?よりにもよって貴様が運転していたと。 椿:仕事中は仕事モードじゃなかったのかね。今、貴様って聞こえたぞ。 雨守:はるかの「妙な体質」が治るまで、自衛する方法は身に着けておくべきだ。あと愚行に走る貴様を止めるためにもな。 椿:理屈は分かった。そしてもう仕事モードも諦めたね?……いつ帰ってくるのかな、はるかは。 雨守:「銃弾が避けれるまで帰ってくるな」、と本人に伝えてある。 椿:…………うちの可愛いはるかは、帰ってくるのかね。 0:【少し間】 椿:さて、我が恐ろしい担当編集殿?今回の物語は、いかがかね。 雨守:毎度毎度腹が立つことだが、大きな変更や手直しは必要ない。貴様は、貴様の兄と違って誤字脱字もないからな。だが、これは。 椿:その通り。その物語は厳密には完成していないのだよ。 雨守:ラストシーンの締めがあまりに不自然。あとタイトルがない。 椿:あ、私の脳内では完成しているよ。書いていないだけだ。 雨守:…………なにが望みだ? 椿:随分と察しがいいことで助かる。何より、素直に従う雨守(あまもり)というのは気分がいいね。 雨守:この嫌がらせは昔何度もやられていたからな………貴様の兄に。仕事を盾にするなどまったく癇(かん)に障る。 椿:おまえさんの弱点は原稿と奥方だね。 雨守:さっさと要求を言え。 椿:おまえさんののろけ話を少々。 雨守:断る。 椿:まあそう言わず。参考資料にしたいだけさね。 雨守:貴様にノンフィクションの才能はない。 椿:今回の物語は、ノンフィクション風の探偵ものさね。一応。 雨守:…………分かった。質問には応じるが答えるかは貴様の質問次第だ。 椿:ちょっと待ちたまえ、録音するから。 雨守:却下。せめてメモにしろ。 椿:別に奥方のカヅキちゃんに横流しする気はなかったのだがね? 雨守:貴様ら兄妹は手段を選ばないからな。 椿:さて、出会いは大学だったかね? 雨守:…………ああ。大学の図書館だ。 椿:…………うん。 雨守:さあ原稿を出せ。 椿:参考のさの字にも満たない!図書館で、おまえさんが見かけたのかね?声をかけたのはどっちで、なんて言い回しをした? 雨守:プライバシーというものを知らないのか。 椿:あー原稿用紙でツルでも折りたくなってきたねえ。 雨守:おまえたち兄妹はそういう奴だな…………。チッ。 椿:おまえさんは本当に辛辣というか…………。そろそろ柄が悪い、という評判が立つぞ? 雨守:愛想という嘘をおまえさんに振りまく必要があるのか? 椿:奥方にもこんな感じなのかね。 雨守:むしろ優しく甘やかすとおびえられる始末だ。 椿:…………私はなんでこんな辛辣に当たられているのかね。今回は締め切り破ってないだろう? 雨守:俺より優れているくせに、仕事をしない貴様が腹立たしい。 椿:おまえさんは本当に、他人どころか自分にもいっとう厳しい性分だねえ。 雨守:正当な評価をしているだけだ。能ある鷹の爪を使わせるのが俺の仕事だからな。ただでさえ貴様は平気な顔でなんでも抱え込む。本心では笑っていないくせに、死んだ貴様の兄と、同じ顔で笑って。 椿:こんなに感情豊かな私に失敬なことだ。 雨守:たしかに、はるかが来てからは別人のようだな。 椿:…………今は、おまえさんの話だ。 雨守:はあ。別に、貴様の求めるような会話はない。本の貸出機器の使い方がわからずおびえていたカヅキに、ひとこと言っただけだ。 椿:ほほう。以前、ひどい機械音痴だと言っていたね。王道の恋愛ものなら、ここでヒーローが助けるものだが? 雨守:「邪魔です、使えないないなら消えてください」と言っただけですよ。 椿:女の子になんてことを。人の心をおまえさんは持っていないのかね? 雨守:そんなもの要りません。 椿:要る。さすがに私でも分かる。必要なものだぞ。 雨守:そのあとしがみついて懇願されて機械の使い方を嫌々ながら教えた。 椿:おお、少しはラブストーリーのはじめらしいじゃあないか。 雨守:そのあとも部活がかぶったり授業がかぶったりと、奇妙な偶然が続いたものだが。 椿:青春だねえ。 雨守:あしらい続けてきたのに、何故かなつかれた。それだけだ。 椿:それだけじゃないだろう?プロポーズはおまえさんがしたと聞いたぞ? 雨守:…………。 椿:おや、珍しい。恥ずかしいのかね?あの鬼編集の雨守殿が?乙女のように恥(じらうなんてまさか) 雨守:うるさい可愛いんだ悪いか!! 椿:はっはっは、開き直るのかね。 雨守:では逆に聞くが。 椿:おまえさんから雑談とはまた珍しい。いいとも。 雨守:貴様はいつ子離れするつもりだ? 椿:…………そう、来るかね。 雨守:はるかも大学生だ。進路はしぼり始めたようだが。おまえその年で、そもそも独り暮らしできるのか? 椿:…………正直、自信はない。 雨守:はるかを貴様の世話係で一生終わらせるつもりか? 椿:おまえさん、ド直球で来るねえ。……雨守、私たちは十分に稼いだと思わないか?それこそ、老後を考えられる程度には。 雨守:退職など、貴様が兄のもとに行くか、年を取ってボケるまで許さん。 椿:策があるような口ぶりだ。 雨守:…………はるか次第だ。 椿:ふむ。雨守、おまえさんの企みは知らないが、私は協力するよ。 雨守:お得意の未来予知か? 椿:いや、今のは適当さ。奇妙な計画だというのは、外していないという自負があるがね? 雨守:貴様のそういうところは嫌いだ。 椿:何より、あの子、はるかも腹をくくったようだ。支えずして、親を名乗れるかね。 雨守:「働いたら負け」などといつもぼやいてる貴様が、珍しいな。 椿:おや、知らないのかい?末永椿という作家は、トラブル・アクシデントが好物なのだよ。さて。 雨守:…………今日は不気味なほど準備がいいな。 椿:仕事をするなら文句は言わない。そういう輩(やから)だろう、おまえさんは。 雨守:否定はしない。 椿:これが、完全版だよ。「足吾兄妹(あしごきょうだい)」という新しいペンネームのノンフィクションだ。 雨守:なるほど、タイトルは、 椿:『月夜に提灯(ちょうちん)』 雨守:『昼行燈(ひるあんどん)に鍵』