台本概要
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タイトル | Dear |
---|---|
作者名 | 橘りょう (@tachibana390) |
ジャンル | ホラー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
大怪我をして病院で目を覚ました星那は記憶喪失になっていた。 傍に居てくれる夫、裕樹は献身的に星那を支える。 徐々に回復していく彼女は怪我の原因を知らされ… 読み手の性別は不問、登場人物の性別変更は不可 強制ではありませんが、ご利用の際は事後でもお知らせいただくと作者が大喜びします。 アーカイブが残るようでしたらそちらも教えてくださるとさらに嬉しいです。 作品名、作者名の明記をよろしくお願いします。 2295 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
星那 | 女 | 353 | せな。病院で目を覚ます。全身に大けがをしており、記憶を失っている。 |
裕樹 | 男 | 357 | ゆうき。星那の夫で献身的に彼女を支える。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
Dear
星那 せな。大怪我をして入院している
怪我の影響か、記憶が無い
裕樹 ゆうき。星那の夫、会社員
……
ーーーー
裕樹:……な、せな…!
星那:…ぅ……
裕樹:星那!気が付いた…?!
星那:……こ、こ…どこ…
裕樹:病院だよ。良かった…!!
星那:びょういん……うっ…
裕樹:動いちゃダメだよ
星那:痛い…
裕樹:すぐ看護師さん呼ぶからね
星那:身体が、痛い…あ、つい…
裕樹:怪我してるんだから動かないで。ね?それに三日も目が覚めなかったんだから
星那:怪我……なんで…
裕樹:どう?痛み以外…気持ち悪いとか無い?
星那:うん…
裕樹:本当に良かった、目が覚めて…
星那:……
裕樹:星那?
星那:…誰…?
裕樹:え…
星那:あなた、誰…
裕樹:…本気で、言ってる…?
星那:……ん
裕樹:僕だよ、裕樹
星那:ゆうき…
裕樹:思い出せない?
星那:……うん
裕樹:……
星那:せな、って…私の、名前…?
裕樹:……ぇ
星那:思い出せない…分からない…
裕樹:……
星那:私、なんで…どうして、怪我、してるの…
裕樹:……
星那:…?
裕樹:…事故だよ
星那:事故…
裕樹:うん、事故。…えっと…そう!思い出せないならさ、今は怪我治すのを優先しよう?傷が治ってくればきっと思い出せるよ
星那:…そうかな…
裕樹:そうだよ。大丈夫、すぐ元気になるから
星那:うん…
裕樹:僕が付いてるからね。大丈夫、思い出せない事も、色々教えるからさ
星那:ありがとう…ゆうきさん…
裕樹:…僕の事は、ゆーくんって呼んでたよ
星那:ゆー、くん…?
裕樹:うん。あっ、すぐじゃなくていいからね!少しずつ、その呼び方に慣れてくれたら嬉しいな
星那:ん、わかった…(眠気が襲ってくる)
裕樹:星那?
星那:ね、むい……
裕樹:星那…寝ちゃった、のか…。そうか、記憶が…良かった……目が覚めて
裕樹:おやすみ、星那。早く良くなってね
:
:
裕樹:星那?入るよ?
星那:…ゆー…くん
裕樹:…へへっ。いいよ、無理して呼ばなくて
星那:ごめん
裕樹:謝らないで。星那からしたら昨日会ったばかりの人なんだから
星那:…ごめんなさい
裕樹:こういう時はありがとうって言うんだよ
星那:…あり、がと…
裕樹:どういたしまして!どう?気分は
星那:昨日よりは少しスッキリしてる、かな
裕樹:良かった。食欲は?ご飯食べれた?
星那:ご飯は…あんまり
裕樹:そっか…でも、少しでも食べなきゃダメだよ。傷を治すのだって、体に栄養いるんだからね
星那:…お母さんみたい
裕樹:えぇ?そうかなぁ
星那:うん
裕樹:お医者さんから説明聞いてきたよ。記憶に関することは精密検査してみるって
星那:そっか…
裕樹:明後日くらいにするって言ってた
星那:あの…聞いても、いい?
裕樹:なに?
星那:その…あなたは、私とどういう関係…だったのかなって…
裕樹:…あぁ、そうだよね。それは気になるよね
星那:……
裕樹:(椅子に腰を下ろす)驚かないで聞いて。君はね、僕の奥さんだよ
星那:ぇ……
裕樹:僕たち、先月結婚式を挙げたばかりだったんだ
星那:結婚…
裕樹:そう、結婚。ほら、薬指の指輪お揃いでしょ?
星那:(自分の手を見る)…覚えて、無い…
裕樹:まぁ、自分の名前も覚えてないもんね…あっ、もしかして…なんでこいつと結婚したんだ?って思ってる…?
星那:えっ?いや、それは思ってない…です
裕樹:良かった…
星那:尚更、ごめんなさい…。自分の旦那さんの事、思い出せないなんて…
裕樹:仕方ないよ。だって星那が望んだことじゃないんだから
星那:ん……
裕樹:そうだ!明日、星那が好きなサクランボ買ってくるよ
星那:サクランボ…?
裕樹:好物なら食欲湧くかもよ?一応看護師さんに許可とるから安心して
星那:ありがとう…ゆーくん
裕樹:…嬉しいな
星那:ん?
裕樹:…星那がもう目を覚まさないかもしれないって、覚悟してくれって言われたんだよ?ものすごく怖くてさ…どうしようってずっと思ってた。だから、目を覚ましてくれて、またゆーくんって呼んでくれて…凄く嬉しい…
星那:私、自分の名前も思い出せなくて…すごく怖い。でも、誰も傍に居なかったら、もっと怖かったと思う。…ゆーくん、ありがとう
裕樹:どういたしまして
星那:あのっ…
裕樹:どうかした?
星那:…名前
裕樹:名前?
星那:うん、どういう字を書くのか、教えて
裕樹:わかった。えっとね…
:スマートフォンに文字を入力する
裕樹:これが星那。沢山の星って意味があるんだって
星那:沢山の…星…
裕樹:星那が教えてくれたんだよ
星那:そうなんだ…
裕樹:僕は裕樹、石川裕樹
星那:…やっぱり、わかんない
裕樹:いいよ、今はそれで
星那:うん…
裕樹:明日、アルバム持って来ようかな。一緒に写ってる写真見たら何か思い出せるかもよ
星那:そうだね…うん、そうかも
裕樹:……(星那の手を握る)
星那:…っ
裕樹:無理しなくていいから。僕がずっとそばに居るからね
星那:…うん
裕樹:あっ、あんまり長く面会ダメって言われてたんだった…ごめん、今日はもう帰る。また明日来るから
星那:ありがとう
裕樹:じゃあ、また明日ね
星那:うん、また明日
:
:
裕樹:せーな
星那:ゆーくん…
裕樹:どう?少しは痛み引いた?
星那:ん…動いたらまだ少し
裕樹:今日、リハビリ初日だったんでしょ?どうだった?
星那:私は寝てるだけだから…担当の人が来て、動くところ動かしてくれた
裕樹:まだギブスもしてるから仕方ないか…
星那:…ねぇ
裕樹:ん?どした?
星那:…顔の包帯…
裕樹:……
星那:ここも怪我したのかな…。傷跡、残るかな…
裕樹:最近の美容整形手術、凄いんだよ。残っても綺麗に出来るって
星那:なら…いいんだけど…。先生が火傷って…
裕樹:ぁ…
星那:私の顔は、火傷なの…?片目しか出てないし、ほとんど包帯で隠れてるし、鏡もなくて…
裕樹:酷い怪我したから…
星那:どんな怪我なの?
裕樹:……
星那:どうして私、こんな大怪我したの?知ってるんでしょ?
裕樹:……
星那:教えて…!
裕樹:……
星那:ゆーくん
裕樹:ごめん
星那:え…
裕樹:今はまだ、早いよ。目が覚めたばかりだし、傷も治ってないし…
星那:でも…
裕樹:焦らないで。ね?もう少し回復したらちゃんと話すから
星那:……
裕樹:それにまだ記憶が戻ってないでしょ
星那:うん…
裕樹:なら、まずは体と精神面のケアが優先だよ。もっと元気になったら、ちゃんと話す
星那:…分かった
裕樹:ごめんね、できるだけお願い、叶えてあげたいんだけど…
星那:ううん、私の事考えてくれてるって…わかってる
裕樹:…ありがと
星那:…分からないことばっかりで怖くなっちゃって…
裕樹:仕方ないよ。…あっ、結婚式の写真持ってきたんだ。ほら
星那:……
裕樹:すごく綺麗だったなぁ、星那。本物のお姫様みたいでさ
星那:ん……
裕樹:思い、出さない?
星那:ごめんなさい…
裕樹:そっか。…じゃあさ、星那が退院してすっかり元気になったらもう一回結婚式する?
星那:え?
裕樹:だって、星那は覚えてないんでしょ?なら式挙げてないのと同じじゃない?
星那:でも、それは私の中だけの話で…
裕樹:良いじゃん。白無垢も素敵だったけど、やっぱり僕はドレス着て欲しいなぁ!お色直しなんかもしてさ、カクテルドレスも似合うと思うよ。なんなら二人だけでしてもいいし
星那:ちょっと…本気?
裕樹:もちろん!そしたらもう一回、星那の花嫁姿が生で見れるし。え?めちゃくちゃ良くない?チャペルで二人きりの結婚式、最高じゃん
星那:…ふふっ…ふふふっ
裕樹:…やっと笑った
星那:え?
裕樹:やっと笑ってくれたなって
星那:あ……
裕樹:不安だよね、凄く。でも、ちゃんと僕、傍にいるからね。心配事とか、怖い事とか話してくれたらいいんだよ
星那:…うん
裕樹:あー…ハグ、したいな。でも星那、体痛いから我慢…
星那:…す、少しなら…
裕樹:…良いの?
星那:うん…
裕樹:…じゃあ、ちょっとだけ…あ、痛かったら言ってよ?
星那:平気だよ
:上から被さるだけのハグ
裕樹:…星那、本当に良かった
星那:ゆーくん…
裕樹:(離れて)また、明日来るね
星那:ん。気をつけて帰って
裕樹:じゃあね
:
:
裕樹:やっ
星那:…こんにちは
裕樹:どう?具合は
星那:まぁまぁかな。今日で点滴取りましょうって
裕樹:ほんと?良かったね
星那:顔の包帯も変えてもらった。回復していってるって
裕樹:星那の体が早く元気になるぞーって頑張ってるんだよ!
星那:そだね
裕樹:見て。じゃーん
星那:サクランボ…
裕樹:昨日持って来たかったんだけど売ってなくて。今日は見つけたから持ってきたよ
星那:…ありがとう。すごく綺麗…
裕樹:どう?食べてみない?
星那:…せっかくだし、貰おうかな
裕樹:分かった、洗ってくる
:間
裕樹:今日のリハビリはどうだった?
星那:昨日と変わらないけど…明日からは車椅子で少し外、出てもいいって
裕樹:そうなの?
星那:うん。一人じゃまだ乗れないから、誰かに連れて行ってもらう感じかな
裕樹:じゃあさ、中庭一緒に行きたいな
星那:中庭?
裕樹:うん。ここの中庭、今すごく沢山お花咲いてて綺麗だよ。明日も天気良いみたいだから
星那:…ゆーくんはお花好きだね
裕樹:…!
星那:どうしたの?
裕樹:…何か、思い出した?
星那:え?
裕樹:あ、違った?僕が花好きなの、思い出したかなって
星那:…ごめん、そういうんじゃなくて…なんとなくそう思った…
裕樹:そっか
星那:……
裕樹:他は?
星那:え?
裕樹:他に僕のこと、これ好きそうだなーとか、これ嫌いそうだなーとかさ!なにか思いつかない?
星那:えっと…
裕樹:はい、それではこれよりゆーくんクイズ始めまーす
星那:クイズって…
裕樹:第一問!僕の名前はなんでしょう?
星那:えっと…石川裕樹…
裕樹:ピンポンピンポン、大正解!
星那:ぷっ…
裕樹:幸先の良いスタートですねぇ。それでは第二問!貴女のお名前はなんでしょう?
星那:石川、星那
裕樹:ピンポンピンポン!またまた大正解!
星那:ふふっ…
裕樹:第三問
星那:まだ続けるの?
裕樹:え、ダメ?
星那:…ありがと
裕樹:ん?
星那:笑わせようと、してくれてるんだよね
裕樹:…僕…気の利いた事とか言えないからさ。こんな風に馬鹿みたいなことしか…
星那:そんな事ない
裕樹:……
星那:馬鹿みたいなことじゃないよ。…ゆーくんのおかげで、私すごく心強い
裕樹:そう、なの?
星那:うん。沢山励ましてもらってる
裕樹:なら良かった…
星那:ありがとう
裕樹:…へへ
星那:サクランボ、一つ食べさせてくれる?
裕樹:良いよ。はい、あーん
星那:……
裕樹:ほら、照れない照れない。あーん
星那:……あーん
裕樹:どう?美味しい?
星那:…美味しい
裕樹:良かった。もう一個食べる?
星那:食べる…けど、あーんって言うのやめて…
裕樹:えー、なんで?片目塞がってるから見えにくいでしょ?あーんして
星那:うぅ…
裕樹:せーな
星那:………あー…ん
裕樹:可愛いなぁ
星那:…全身包帯でミイラみたいなのに?
裕樹:星那は可愛いよ、どんなでもね
星那:…変なの
裕樹:変じゃないよ。星那の事、愛してるから結婚したんだよ?どんな君でも、愛してる
星那:……
裕樹:…改めて言うと、照れるね
星那:…言われる方もね
裕樹:でも、本心だから
星那:…うん
:
:
裕樹:入るよー…あ、座ってる!
星那:いらっしゃい
裕樹:ベッド起こしてもらったんだ。痛みはどう?
星那:点滴も外れたし、痛みも少なくなったよ
裕樹:良かった。どう?今日はご飯食べれた?
星那:うん、昨日よりは。サクランボのおかげかな
裕樹:また何か欲しいものあったら買ってくるよ
星那:…ゆーくん
裕樹:ん?
星那:ゆーくんは、私の怪我の原因知ってたよね?
裕樹:……
星那:知ってるはずだよね
裕樹:…うん
星那:目が覚めてもう五日経ってる。体も回復してきてる。…そろそろ教えてくれない?
裕樹:だけど…
星那:ゆーくん、教えて…!
裕樹:…分かった。すごくショッキングな話だから…もう少し怪我も治ってからって思ってたんだけど…
星那:記憶が無いだけでも、充分ショッキングだよ
裕樹:そっか…
星那:…教えて
裕樹:(椅子に座る)目を覚ましてから、なにか思い出したことある?
星那:…何も
裕樹:断片的なことも?
星那:うん…
裕樹:そっか。…君はね、車に轢かれたんだ
星那:車…?
裕樹:そう
星那:でも、顔は火傷って…
裕樹:…顔に、薬剤を掛けられて、動けなくなった君を車で轢いた奴がいる
星那:……
裕樹:君は、悪質なストーカーに遭ってたんだよ
星那:ス、トーカー…
裕樹:…僕と結婚する前から悩んでたんだ。二人で警察にも相談行ったし
星那:……
裕樹:結婚してから、それが急にエスカレートして…
星那:…殺されかけた、って事…?
裕樹:うん
星那:…今は?今はどうなの?またその人が…(来るかもしれない)
裕樹:大丈夫だよ、捕まったから
星那:……
裕樹:犯人は捕まったから、もう大丈夫
星那:そっか…
裕樹:警察の人がね、回復したら話を聞きたいって言ってて…でも止めてもらってるんだ。まだ回復してないし、記憶が戻ってないからって
星那:…そうだね、聞かれても…何も答えられない…
裕樹:…大丈夫?怖い話しちゃったけど…
星那:ん、大丈夫…。だってその人捕まったんでしょ?なら、平気…
裕樹:……ごめん
星那:どしたの?
裕樹:守れなかった…
星那:そんな…!
裕樹:見回り増やしてもらってるからって油断してたんだ…
星那:ゆーくんは悪くないよ…
裕樹:これからは、僕が守る。絶対に
星那:うん、頼りにしてる
裕樹:…その、ハグしてもいい…?
星那:良いよ、どーぞ
裕樹:痛くないように…
星那:平気だって
裕樹:(ハグをする)…星那が、早く良くなりますように
星那:………
裕樹:星那?
星那:……煙草
裕樹:ん?
星那:ゆーくん、煙草吸ってたっけ…?
裕樹:吸ってないけど…
星那:あれ…?
裕樹:結婚する前に、新居に匂いつくからって辞めたじゃん
星那:あ……そうだっけ…
裕樹:大丈夫?なにか思い出した?
星那:思い出しかけたんだけど…
裕樹:……
星那:ごめん、やっぱりダメみたい…
裕樹:ゆっくりで良いからね
星那:ん…
裕樹:その、星那?
星那:なに?
裕樹:僕、明日から仕事復帰しなきゃいけなくて
星那:あ…ずっと休んでくれてたの?
裕樹:有給、残ってたからさ。でもさすがにそろそろ戻らなきゃ…
星那:そうだよね、ごめん
裕樹:だから顔出すの、夜になるけど
星那:いいよ、特に困ることもないと思うし
裕樹:そう?…今日はもう帰るね
星那:ありがとう。気をつけて帰ってね
裕樹:うん、じゃあまた明日
星那:バイバイ
:
:
裕樹:せーな
星那:お疲れ様
裕樹:すっかり遅くなっちゃった
星那:久しぶりの仕事、どうだった?
裕樹:休んでた間フォローしてもらってた分、頑張ってみたけど…
星那:けど?
裕樹:なんか空回りしちゃったかなぁって
星那:そっか、大変だったね
裕樹:平気平気。今日は?お母さん来たんでしょ?
星那:え、なんで知ってるの?
裕樹:へ?あぁ、看護師さんから聞いた
星那:そう、なんだ?でも、お母さんって言われてもピンと来なくて…
裕樹:そっか…そうだよね
星那:…泣かれ、ちゃった
裕樹:一応ね、記憶のことは話しておいたんだけど…星那とどうしても話がしたいって
星那:子供の頃の話とかしてくれたんだけど…全然思い出せなくて。なんか逆に申し訳なくなっちゃった。…すごくびっくりしてたし
裕樹:だろうね…。僕もさ、事が事だったから、連絡もどうしようか悩んだんだ。でも何も知らせないのもやっぱり不義理だなって…後から聞くのも怖いと思うし
星那:ううん、連絡してくれてありがとう。仕方ないねって言ってたよ
裕樹:なら良かった…どんな話したの?
星那:体調の事とか、結婚前の話とか…
裕樹:何か気になった事とかあった?
星那:うーん…特には
裕樹:そっかァ…残念
星那:って言うか、私一人娘だったんだーって
裕樹:子供の頃にお父さんは亡くなられて、お母さんが一人で星那を育てたんだったよね
星那:…お母さんのことだけでも覚えてたかったな…
裕樹:お母さんのことだけ?
星那:だって、お父さんも居なくて、きょうだいも居なくて。それなら尚更私が忘れちゃったら…悲しいだけじゃない
裕樹:…そうだね。僕はこうして会いに来れるけど、お母さんちょっと離れてるもんね
星那:そうなんだ
裕樹:退院したら実家に行こうね。その頃には、なんで忘れてたんだろーってなってるかもよ?
星那:そうだといいな
裕樹:あ、そうだ忘れてた。ゼリー買ってきたから冷蔵庫入れとくね
星那:ありがと
裕樹:星那の好きなみかんのやつだよ〜
星那:……
裕樹:どうかした?ちゃんと果肉入ってるやつだよ
星那:…ううん、なんでもない…
裕樹:星那?
星那:みかんのゼリー…なんだろ、なにか…思い出しかけたんだけど
裕樹:ほんと?
星那:うん……あぁ、ダメだ
裕樹:大丈夫?
星那:うん、平気。…あはは、何がきっかけになるかわかんないね
裕樹:そうだね。じゃあ今夜は帰るよ
星那:あっ、ゆーくん。私のスマホ、持ってきてくれない?
裕樹:……
星那:ゆーくん?
裕樹:事故の時に壊れて…その、使えなくなってるんだけど…
星那:そう、なんだ…写真データとか、前のやり取り見たらなにか思い出すかなって思ったんだけど…
裕樹:修理、ダメ元で出してみる?
星那:…一応
裕樹:分かった、出しとく。じゃあね、おやすみ
星那:おやすみなさい
:
:
星那:(溜息)頭痛い…
裕樹:星那、入るよ
星那:あ…
裕樹:どしたの?
星那:なんか…頭痛くて…
裕樹:大丈夫?薬貰う?
星那:ううん…いい
裕樹:ならいいけど…あ、眼帯取れたんだね
星那:え、あぁ、うん。まだなんとなくぼやけてるけど
裕樹:両目出たら少し、鬱陶しくなくなったんじゃない?
星那:そうだね、距離感分かりやすくなった…
裕樹:…元気ないね
星那:うん…
裕樹:……
星那:…(溜息)
裕樹:今日はなんだか辛そうだね。もう帰ろっか
星那:ごめん、折角来てくれたのに。…ちょっと、リハビリで疲れたのかも
裕樹:そう?無理しちゃだめだよ
星那:うん…。あ、ゆーくん
裕樹:なに?
星那:…冷蔵庫のゼリー、持って帰ってくれない?食べれそうになくて
裕樹:そうなの?好きだったのに
星那:好き…だったよね。うん…
裕樹:…どうしたの?
星那:ううん、ほんとごめん。なんか欲しくなくて…
裕樹:そう?じゃあまた別のもの買ってこよっか
星那:…っ!……頭、いた…!
裕樹:星那?
星那:頭痛い…!
裕樹:(ナースコールを押す)すみません、来て貰えますか?急に頭痛いって…!
:間
裕樹:…どう?
星那:ん…何とか…
裕樹:痛みって、強くなる前に薬飲んだ方が良いんだって。我慢しちゃダメだよ?
星那:うん、気をつける…
裕樹:もう寝て。僕も帰るから
星那:そうだね…ごめんね、ありがとう
裕樹:(頭を撫でる)また来る
星那:おやすみなさい
裕樹:また明日ね
:
星那:熱い…顔が…!熱いぃ…!
裕樹:僕以外に向ける君の顔なんてもう要らないだろ…!安心しなよ…どんな姿になってもさぁ…!君のこと愛してるからさぁ!
星那:いや…熱い…痛い…!
裕樹:星那…!星那ぁ…!
星那:来ないで!
裕樹:君は僕のものだ、僕だけの星那だ!
星那:う、うぅ…!
裕樹:他の奴に、渡してたまるかぁ!
:
星那:いやぁっ!!
星那:(荒い呼吸)…夢…だよね…
星那:ゆーくん…?違う、さっきのは…誰…?
星那:なに…怖い…
:
:
裕樹:こんばんは
星那:…っ
裕樹:ん?どしたの?
星那:…なんでも、ない…
裕樹:今日はどう?頭痛治まった?
星那:うん、もう大丈夫
裕樹:さっき担当の先生と会ったよ。リハビリも順調だし、もうそろそろギプスも軽いものに変えるってさ
星那:……
裕樹:どんどん回復してて僕も嬉しいな。ね!
星那:そうだね…
裕樹:どうしたの?(頭を撫でる)
星那:(触れた手にビクつく)
裕樹:…星那?
星那:なんでも…ない…
裕樹:ほんとに?
星那:うん…
裕樹:星那…(抱き締める)
星那:…い…いやっ!(裕樹を突き飛ばす)
裕樹:……せ、な…?
星那:…あっ、ご…ごめん…
裕樹:……
星那:ゆーくん、ごめん…!その、私…
裕樹:…なにか思い出したの?
星那:え…
裕樹:なにか思い出した?
星那:な、にも…
裕樹:本当に?
星那:……うん
裕樹:そっか…
星那:ごめんね、本当に…
裕樹:…いっその事さ
星那:?
裕樹:全部忘れたまんまでさ、一からってのでも良いんじゃない?
星那:え…いや、それは…
裕樹:これから二人で新しく、楽しいこと積み上げていってさ。それじゃダメ?
星那:…な、んで…そんな事言うの…
裕樹:思い出せないってことはさ、思い出したくないって事なんじゃない?
星那:…ゆーくん?
裕樹:なんてね!ごめんね、変なこと言って
星那:……
裕樹:ごめん、僕の方が少し仕事で疲れてるみたい。もう帰るよ
星那:そう…?
裕樹:また来るね、おやすみ
星那:おやすみなさい…
:
:
裕樹:入るよー?
星那:…ゆーくん
裕樹:三日も空いちゃって、ごめん。仕事忙しくてさ…
星那:ううん、大丈夫
裕樹:顔もガーゼだけになったんだね、良かった
星那:そうだね…
裕樹:星那?
星那:……
裕樹:どうかした?
星那:ねぇ、ゆーくん…
裕樹:ん?
星那:…どうして、嘘ついたの?
裕樹:…嘘、って…?
星那:ストーカーしてた犯人、捕まってるって言ったよね。あれ、嘘だったんでしょ…
裕樹:…誰から聞いたの?警察?
星那:うん
裕樹:……
星那:昨日面会に来てくれた時に…
裕樹:…面会に来たのは、知ってる
星那:記憶も戻ってないから話せること、全然無かったけど…まだ捕まってないって…
裕樹:…ごめん
星那:なんで嘘ついたの?
裕樹:それは…!星那が怖がると思って…
星那:でも、もう捕まったって安心してる時にまた来たら?!そっちの方が怖いよ!
裕樹:もう来ない!
星那:…なんで…?なんで断言出来るの…?分かんないじゃん!人に薬剤かけて車で轢き殺そうとした人なんだよ?!そんな頭おかしい人、何してくるか分かんないじゃん!
裕樹:星那!星那、落ち着いて!
星那:やだ…怖い…!
裕樹:深呼吸して…ね?
星那:(泣いている)
裕樹:ごめん、余計に不安になっちゃったね…
星那:……
裕樹:星那を安心させたくて…それだけだったんだ。嘘ついてごめん
星那:分かんない…分かんないよ!だって、記憶が戻らないんだもん!何が本当で何が嘘なのか…!
裕樹:…ごめん、よかれと思って…
星那:わ、かんない…!
裕樹:星那…!!(抱き締める)
星那:……!
裕樹:ごめんね、嘘ついて。でも本当に怖がらせたくなかっただけなんだ…不安だろうから、少しでも怖いって思わなかったらいいなって…それだけだったんだ…。本当にごめん…!
星那:…ゆー、くん…
裕樹:結局、混乱させるだけになっちゃって…本当にごめんなさい…
星那:…私も、ごめん…
裕樹:……
星那:言い過ぎた…。気、使ってもらってるのに
裕樹:ううん…
星那:ごめんなさい
裕樹:…星那
星那:ゆー…(口づけられて言葉が止まる)
:
星那:…いや…っ!(押し退けて顔を背ける)
裕樹:せ、な…?
星那:……
裕樹:えっと…急にして、ごめん…
星那:ちょっと、びっくりしちゃって…
裕樹:……
星那:……
裕樹:…今日は、帰ろっか?
星那:ごめん…
裕樹:分かった、ゆっくり休んで。また明日来るよ
星那:ん、ありがとう…
:
:
星那:……
裕樹:星那?
星那:?!
裕樹:どしたの?そんなにびっくりして…
星那:ごめん、考え事してて…
裕樹:ヨーグルト買ってきたよ、アロエのやつ
星那:うん、ありがと…
裕樹:…大丈夫?何かあった?
星那:鏡…
裕樹:鏡?
星那:ガーゼだけになって、初めて鏡見せてもらって…
裕樹:……
星那:喋ってても、皮膚がひきつってるのが分かるの…傷が完全に治っても、これじゃあ…
裕樹:……
星那:こんなの、どうやって隠せば…
裕樹:僕は、どんな星那でも愛してるよ
星那:…ぇ
裕樹:それに、ほら。この間も話した気がするけど、最近の美容整形の技術って凄いんだって。時間はかかるかもしれないけど、綺麗になるよ!
星那:……
裕樹:だからそんなにしんぱ…(いしなくても)
星那:さっき、なんて言った…?
裕樹:ん?
星那:さっき…なんて?
裕樹:美容技術の事?最近はすご…(いんだよ)
星那:その前
裕樹:前?
星那:どんな私でも…って…
裕樹:あぁ、うん、もちろん!(咳払い)たとえ顔に傷跡があっても、半身動かなくても、僕はどんな星那でも愛してるよ
星那:……
裕樹:あ、はは。やっぱり改めて言うと照れるなぁ
星那:(息が少しずつ荒くなる)…つっ、痛…!
裕樹:ナースコール…
星那:待って!…何か…思い出せそうなの…だから、待って…!
裕樹:分かった…
:間
星那:…み、ずしま、くん…
裕樹:星那…?
星那:思い出した…私、水島君に…ストーカーされてた…
裕樹:…うん、そう。合ってる…
星那:ゆーくんの、幼馴染で…
裕樹:…長い付き合いだからって…彼女紹介したら、まさか…って思った。紹介しなきゃ良かった、すごく後悔した…
星那:私、思い出した…
裕樹:僕のこと、ちゃんと分かる?
星那:わかる…
裕樹:良かった…
星那:みかんのゼリー…
裕樹:ゼリー?
星那:沢山家に届いて、気持ち悪くなって…
裕樹:そう、だったんだ…
星那:…まだ、曖昧な部分あるの。顔とか思い出せないし、ぼんやりしてる感じで…でも、何となく思い出した
裕樹:大丈夫?気分悪かったりしない?
星那:…うん
裕樹:星那?
星那:すごく怖かった…もう嫌だって思って…なんでこんな怖い思いしなきゃいけないのって…
裕樹:そうだよね…
星那:…だから…
:少し長めの間
:
星那:…どこ?
裕樹:ん?
星那:どこ、なの…?
裕樹:なにが?
星那:……ゆーくんは、どこ?
裕樹:星那、何言ってるんだよ。僕は目の前に…
星那:違う
裕樹:……
星那:あなた、ゆーくんじゃない…
裕樹:……
星那:全部、思い出した…
裕樹:全部?
星那:曖昧だったの、はっきり思い出した…
裕樹:……
星那:…もう諦めたんだと思ってたら…ゆーくんによく似た顔のあなたが…目の前に現れたの…思い出した…
裕樹:……
星那:これであいつと一緒だろって…今日から自分が裕樹だって…
裕樹:……
星那:ゆーくん…ゆーくんに、なにしたの…?
裕樹:…もういいじゃん
星那:なに…
裕樹:もう、僕の事を裕樹って思ってさ。一緒に暮らせばいいじゃん
星那:いい訳ない…いい訳無いでしょ…!
裕樹:どうして?僕、星那に沢山優しくしたよ?理想の旦那さんって思わなかった?僕の方が裕樹より仕事できるよ。現にあいつの勤め先に石川裕樹として行き始めたけど、誰も気付かないし、それどころかむしろ凄く順調なんだけど
星那:……
裕樹:何がダメ?何が許せないの?…君を傷物にしたから?大丈夫だよ、言ったろ?どんな姿になっても君のこと愛してるって。美容整形なんかしなくてもさ。そのままでも、僕は君のこと愛せるよ
星那:私は…あなたの事なんて…
裕樹:しー…(顔を近づける)
星那:…っ!
裕樹:あの事故だって、君を殺してやろうとかそんなつもりはなかったんだ。ただ、君があいつのものになって、子供とかできたりするのは嫌だなぁって
星那:事故って…自分が引き起こしたことなのに…!
裕樹:事故だよ。星那が僕のことを素直に受け入れてくれてたら起こらなかった。悲しい事故だよ
星那:……
裕樹:君が意地を張るからあんなことになったんだ
星那:そんな、身勝手…!
裕樹:ふぅ…駄目だなぁ。自分で軽率だって思わない?ひとりで満足に身動きもできないのに…そんなこと言ってて大丈夫かな?また傷も治りきってないのに…ねっ?!(口元と鼻を手で塞ぐ)
星那:ぐっ…!んっ、んー!!(暴れる)
裕樹:あーダメダメ…静かに。しずかぁに…
星那:んー!!んんっ…!!
裕樹:暴れたら…ほぉら。息が苦しくなって…気が遠くなるねぇ
星那:ん、ふぐ…っ…!!
裕樹:大丈夫、君は殺さないから。僕の秘密基地に招待してあげる。裕樹にもちゃんと会わせてあげるから安心して?
星那:ん…ん…(苦しくて気が遠くなっていく)
裕樹:(独り言)あ、そうだ…盗聴器。回収しとかなきゃ…
裕樹:さぁ星那。車椅子に乗ってお散歩に行こうね。ちゃんと、僕がエスコートしてあげるよ
星那:…う、く…(気絶する)
裕樹:…いい子、僕の星那
:
:
星那:…ん
裕樹:起きた?
星那:っ?!
裕樹:ようこそ、僕の秘密基地へ
星那:…ど、こ…
裕樹:ふふっ、嬉しいな。星那がここに居るなんて夢みたいだ。いつか必ず招待しようって思ってたから、実現出来て本当に嬉しい
星那:…ゆ…ゆーくんは?
裕樹:……
星那:ゆーくんに会わせてくれるって…言ったじゃない!ゆーくんはどこ?
裕樹:(長い溜息)…あのさぁ
星那:……
裕樹:なんでそんなに…あいつがいいの?ドン臭くて、人が良いだけの平凡なやつじゃん。こっちは君に近付きたいが為だけに、したくもない整形までしたんだよ?ここまでしたのにさぁ…何がダメなの?何が足りないの?
星那:ゆーくん…助けて…
裕樹:君を満足させたいだけなのに…君に愛して欲しいだけなのにさぁ…!何がダメなんだよ!
星那:…っ
裕樹:……あぁ、ごめんね。怖がらせようって思ったんじゃないんだ。ごめんごめん。約束だったよね(車椅子の向きを変える)
星那:っ!
裕樹:はいはい、裕樹の所へご案内〜
:裕樹は鼻歌を歌いながら車椅子を押す
裕樹:到着ですよぉ
星那:え……
裕樹:こういう冷凍庫、懐かしくない?昔、駄菓子屋とかにあったよね。アイス売ってるやつ
星那:…ま、って…まさか…
裕樹:探すの大変だったんだよ、これ
星那:……う、そ
裕樹:どうぞ。中、覗いてご覧よ
星那:……
裕樹:会いたかったんだろ?遠慮しなくていいから。ほら、見なよ
星那:……
裕樹:見ろよ!ほら!!(星那の頭を冷凍庫の窓に押し付ける)
星那:いっ…!!
裕樹:感動のごたいめぇん…ま、返事は返ってこないけど
星那:ゆーくん…!
裕樹:こいつ、人は良いからさ。それが命取りになるなんて、思いもしてなかったろうなぁ
星那:ゆーくん!
裕樹:声掛けるのは好きにすればいいけど…でも、解凍した魚が動くと思う?ゆで卵が生卵に戻るかな?それと一緒
星那:(泣いている)
裕樹:だからさぁ…もういいじゃん。裕樹と同じ見た目の僕とさ…新しい生活しよ?
星那:ゆー…くん…
裕樹:僕が裕樹になって、ずっとずっと愛してあげる。誰よりも、君のことを愛してるのは僕なんだから。君はもう…誰にも渡さない
星那:…ぁ…あぁ…
裕樹:星那?
星那:…あ…ぁ…
裕樹:あーらら、壊れちゃったのかぁ。そんなにショックだった?
星那:(小さく声を漏らしながら目元は焦点が合っていない)
裕樹:君が愛した裕樹はここにいるよぉ。このケースの中身は、ちゃんと処分しておくからね
星那:……
裕樹:ふふっ、壊れた星那も可愛いね
:ゆっくりと星那を撫でる
:
裕樹:僕と一緒に、幸せになろうね
:
:終
Dear
星那 せな。大怪我をして入院している
怪我の影響か、記憶が無い
裕樹 ゆうき。星那の夫、会社員
……
ーーーー
裕樹:……な、せな…!
星那:…ぅ……
裕樹:星那!気が付いた…?!
星那:……こ、こ…どこ…
裕樹:病院だよ。良かった…!!
星那:びょういん……うっ…
裕樹:動いちゃダメだよ
星那:痛い…
裕樹:すぐ看護師さん呼ぶからね
星那:身体が、痛い…あ、つい…
裕樹:怪我してるんだから動かないで。ね?それに三日も目が覚めなかったんだから
星那:怪我……なんで…
裕樹:どう?痛み以外…気持ち悪いとか無い?
星那:うん…
裕樹:本当に良かった、目が覚めて…
星那:……
裕樹:星那?
星那:…誰…?
裕樹:え…
星那:あなた、誰…
裕樹:…本気で、言ってる…?
星那:……ん
裕樹:僕だよ、裕樹
星那:ゆうき…
裕樹:思い出せない?
星那:……うん
裕樹:……
星那:せな、って…私の、名前…?
裕樹:……ぇ
星那:思い出せない…分からない…
裕樹:……
星那:私、なんで…どうして、怪我、してるの…
裕樹:……
星那:…?
裕樹:…事故だよ
星那:事故…
裕樹:うん、事故。…えっと…そう!思い出せないならさ、今は怪我治すのを優先しよう?傷が治ってくればきっと思い出せるよ
星那:…そうかな…
裕樹:そうだよ。大丈夫、すぐ元気になるから
星那:うん…
裕樹:僕が付いてるからね。大丈夫、思い出せない事も、色々教えるからさ
星那:ありがとう…ゆうきさん…
裕樹:…僕の事は、ゆーくんって呼んでたよ
星那:ゆー、くん…?
裕樹:うん。あっ、すぐじゃなくていいからね!少しずつ、その呼び方に慣れてくれたら嬉しいな
星那:ん、わかった…(眠気が襲ってくる)
裕樹:星那?
星那:ね、むい……
裕樹:星那…寝ちゃった、のか…。そうか、記憶が…良かった……目が覚めて
裕樹:おやすみ、星那。早く良くなってね
:
:
裕樹:星那?入るよ?
星那:…ゆー…くん
裕樹:…へへっ。いいよ、無理して呼ばなくて
星那:ごめん
裕樹:謝らないで。星那からしたら昨日会ったばかりの人なんだから
星那:…ごめんなさい
裕樹:こういう時はありがとうって言うんだよ
星那:…あり、がと…
裕樹:どういたしまして!どう?気分は
星那:昨日よりは少しスッキリしてる、かな
裕樹:良かった。食欲は?ご飯食べれた?
星那:ご飯は…あんまり
裕樹:そっか…でも、少しでも食べなきゃダメだよ。傷を治すのだって、体に栄養いるんだからね
星那:…お母さんみたい
裕樹:えぇ?そうかなぁ
星那:うん
裕樹:お医者さんから説明聞いてきたよ。記憶に関することは精密検査してみるって
星那:そっか…
裕樹:明後日くらいにするって言ってた
星那:あの…聞いても、いい?
裕樹:なに?
星那:その…あなたは、私とどういう関係…だったのかなって…
裕樹:…あぁ、そうだよね。それは気になるよね
星那:……
裕樹:(椅子に腰を下ろす)驚かないで聞いて。君はね、僕の奥さんだよ
星那:ぇ……
裕樹:僕たち、先月結婚式を挙げたばかりだったんだ
星那:結婚…
裕樹:そう、結婚。ほら、薬指の指輪お揃いでしょ?
星那:(自分の手を見る)…覚えて、無い…
裕樹:まぁ、自分の名前も覚えてないもんね…あっ、もしかして…なんでこいつと結婚したんだ?って思ってる…?
星那:えっ?いや、それは思ってない…です
裕樹:良かった…
星那:尚更、ごめんなさい…。自分の旦那さんの事、思い出せないなんて…
裕樹:仕方ないよ。だって星那が望んだことじゃないんだから
星那:ん……
裕樹:そうだ!明日、星那が好きなサクランボ買ってくるよ
星那:サクランボ…?
裕樹:好物なら食欲湧くかもよ?一応看護師さんに許可とるから安心して
星那:ありがとう…ゆーくん
裕樹:…嬉しいな
星那:ん?
裕樹:…星那がもう目を覚まさないかもしれないって、覚悟してくれって言われたんだよ?ものすごく怖くてさ…どうしようってずっと思ってた。だから、目を覚ましてくれて、またゆーくんって呼んでくれて…凄く嬉しい…
星那:私、自分の名前も思い出せなくて…すごく怖い。でも、誰も傍に居なかったら、もっと怖かったと思う。…ゆーくん、ありがとう
裕樹:どういたしまして
星那:あのっ…
裕樹:どうかした?
星那:…名前
裕樹:名前?
星那:うん、どういう字を書くのか、教えて
裕樹:わかった。えっとね…
:スマートフォンに文字を入力する
裕樹:これが星那。沢山の星って意味があるんだって
星那:沢山の…星…
裕樹:星那が教えてくれたんだよ
星那:そうなんだ…
裕樹:僕は裕樹、石川裕樹
星那:…やっぱり、わかんない
裕樹:いいよ、今はそれで
星那:うん…
裕樹:明日、アルバム持って来ようかな。一緒に写ってる写真見たら何か思い出せるかもよ
星那:そうだね…うん、そうかも
裕樹:……(星那の手を握る)
星那:…っ
裕樹:無理しなくていいから。僕がずっとそばに居るからね
星那:…うん
裕樹:あっ、あんまり長く面会ダメって言われてたんだった…ごめん、今日はもう帰る。また明日来るから
星那:ありがとう
裕樹:じゃあ、また明日ね
星那:うん、また明日
:
:
裕樹:せーな
星那:ゆーくん…
裕樹:どう?少しは痛み引いた?
星那:ん…動いたらまだ少し
裕樹:今日、リハビリ初日だったんでしょ?どうだった?
星那:私は寝てるだけだから…担当の人が来て、動くところ動かしてくれた
裕樹:まだギブスもしてるから仕方ないか…
星那:…ねぇ
裕樹:ん?どした?
星那:…顔の包帯…
裕樹:……
星那:ここも怪我したのかな…。傷跡、残るかな…
裕樹:最近の美容整形手術、凄いんだよ。残っても綺麗に出来るって
星那:なら…いいんだけど…。先生が火傷って…
裕樹:ぁ…
星那:私の顔は、火傷なの…?片目しか出てないし、ほとんど包帯で隠れてるし、鏡もなくて…
裕樹:酷い怪我したから…
星那:どんな怪我なの?
裕樹:……
星那:どうして私、こんな大怪我したの?知ってるんでしょ?
裕樹:……
星那:教えて…!
裕樹:……
星那:ゆーくん
裕樹:ごめん
星那:え…
裕樹:今はまだ、早いよ。目が覚めたばかりだし、傷も治ってないし…
星那:でも…
裕樹:焦らないで。ね?もう少し回復したらちゃんと話すから
星那:……
裕樹:それにまだ記憶が戻ってないでしょ
星那:うん…
裕樹:なら、まずは体と精神面のケアが優先だよ。もっと元気になったら、ちゃんと話す
星那:…分かった
裕樹:ごめんね、できるだけお願い、叶えてあげたいんだけど…
星那:ううん、私の事考えてくれてるって…わかってる
裕樹:…ありがと
星那:…分からないことばっかりで怖くなっちゃって…
裕樹:仕方ないよ。…あっ、結婚式の写真持ってきたんだ。ほら
星那:……
裕樹:すごく綺麗だったなぁ、星那。本物のお姫様みたいでさ
星那:ん……
裕樹:思い、出さない?
星那:ごめんなさい…
裕樹:そっか。…じゃあさ、星那が退院してすっかり元気になったらもう一回結婚式する?
星那:え?
裕樹:だって、星那は覚えてないんでしょ?なら式挙げてないのと同じじゃない?
星那:でも、それは私の中だけの話で…
裕樹:良いじゃん。白無垢も素敵だったけど、やっぱり僕はドレス着て欲しいなぁ!お色直しなんかもしてさ、カクテルドレスも似合うと思うよ。なんなら二人だけでしてもいいし
星那:ちょっと…本気?
裕樹:もちろん!そしたらもう一回、星那の花嫁姿が生で見れるし。え?めちゃくちゃ良くない?チャペルで二人きりの結婚式、最高じゃん
星那:…ふふっ…ふふふっ
裕樹:…やっと笑った
星那:え?
裕樹:やっと笑ってくれたなって
星那:あ……
裕樹:不安だよね、凄く。でも、ちゃんと僕、傍にいるからね。心配事とか、怖い事とか話してくれたらいいんだよ
星那:…うん
裕樹:あー…ハグ、したいな。でも星那、体痛いから我慢…
星那:…す、少しなら…
裕樹:…良いの?
星那:うん…
裕樹:…じゃあ、ちょっとだけ…あ、痛かったら言ってよ?
星那:平気だよ
:上から被さるだけのハグ
裕樹:…星那、本当に良かった
星那:ゆーくん…
裕樹:(離れて)また、明日来るね
星那:ん。気をつけて帰って
裕樹:じゃあね
:
:
裕樹:やっ
星那:…こんにちは
裕樹:どう?具合は
星那:まぁまぁかな。今日で点滴取りましょうって
裕樹:ほんと?良かったね
星那:顔の包帯も変えてもらった。回復していってるって
裕樹:星那の体が早く元気になるぞーって頑張ってるんだよ!
星那:そだね
裕樹:見て。じゃーん
星那:サクランボ…
裕樹:昨日持って来たかったんだけど売ってなくて。今日は見つけたから持ってきたよ
星那:…ありがとう。すごく綺麗…
裕樹:どう?食べてみない?
星那:…せっかくだし、貰おうかな
裕樹:分かった、洗ってくる
:間
裕樹:今日のリハビリはどうだった?
星那:昨日と変わらないけど…明日からは車椅子で少し外、出てもいいって
裕樹:そうなの?
星那:うん。一人じゃまだ乗れないから、誰かに連れて行ってもらう感じかな
裕樹:じゃあさ、中庭一緒に行きたいな
星那:中庭?
裕樹:うん。ここの中庭、今すごく沢山お花咲いてて綺麗だよ。明日も天気良いみたいだから
星那:…ゆーくんはお花好きだね
裕樹:…!
星那:どうしたの?
裕樹:…何か、思い出した?
星那:え?
裕樹:あ、違った?僕が花好きなの、思い出したかなって
星那:…ごめん、そういうんじゃなくて…なんとなくそう思った…
裕樹:そっか
星那:……
裕樹:他は?
星那:え?
裕樹:他に僕のこと、これ好きそうだなーとか、これ嫌いそうだなーとかさ!なにか思いつかない?
星那:えっと…
裕樹:はい、それではこれよりゆーくんクイズ始めまーす
星那:クイズって…
裕樹:第一問!僕の名前はなんでしょう?
星那:えっと…石川裕樹…
裕樹:ピンポンピンポン、大正解!
星那:ぷっ…
裕樹:幸先の良いスタートですねぇ。それでは第二問!貴女のお名前はなんでしょう?
星那:石川、星那
裕樹:ピンポンピンポン!またまた大正解!
星那:ふふっ…
裕樹:第三問
星那:まだ続けるの?
裕樹:え、ダメ?
星那:…ありがと
裕樹:ん?
星那:笑わせようと、してくれてるんだよね
裕樹:…僕…気の利いた事とか言えないからさ。こんな風に馬鹿みたいなことしか…
星那:そんな事ない
裕樹:……
星那:馬鹿みたいなことじゃないよ。…ゆーくんのおかげで、私すごく心強い
裕樹:そう、なの?
星那:うん。沢山励ましてもらってる
裕樹:なら良かった…
星那:ありがとう
裕樹:…へへ
星那:サクランボ、一つ食べさせてくれる?
裕樹:良いよ。はい、あーん
星那:……
裕樹:ほら、照れない照れない。あーん
星那:……あーん
裕樹:どう?美味しい?
星那:…美味しい
裕樹:良かった。もう一個食べる?
星那:食べる…けど、あーんって言うのやめて…
裕樹:えー、なんで?片目塞がってるから見えにくいでしょ?あーんして
星那:うぅ…
裕樹:せーな
星那:………あー…ん
裕樹:可愛いなぁ
星那:…全身包帯でミイラみたいなのに?
裕樹:星那は可愛いよ、どんなでもね
星那:…変なの
裕樹:変じゃないよ。星那の事、愛してるから結婚したんだよ?どんな君でも、愛してる
星那:……
裕樹:…改めて言うと、照れるね
星那:…言われる方もね
裕樹:でも、本心だから
星那:…うん
:
:
裕樹:入るよー…あ、座ってる!
星那:いらっしゃい
裕樹:ベッド起こしてもらったんだ。痛みはどう?
星那:点滴も外れたし、痛みも少なくなったよ
裕樹:良かった。どう?今日はご飯食べれた?
星那:うん、昨日よりは。サクランボのおかげかな
裕樹:また何か欲しいものあったら買ってくるよ
星那:…ゆーくん
裕樹:ん?
星那:ゆーくんは、私の怪我の原因知ってたよね?
裕樹:……
星那:知ってるはずだよね
裕樹:…うん
星那:目が覚めてもう五日経ってる。体も回復してきてる。…そろそろ教えてくれない?
裕樹:だけど…
星那:ゆーくん、教えて…!
裕樹:…分かった。すごくショッキングな話だから…もう少し怪我も治ってからって思ってたんだけど…
星那:記憶が無いだけでも、充分ショッキングだよ
裕樹:そっか…
星那:…教えて
裕樹:(椅子に座る)目を覚ましてから、なにか思い出したことある?
星那:…何も
裕樹:断片的なことも?
星那:うん…
裕樹:そっか。…君はね、車に轢かれたんだ
星那:車…?
裕樹:そう
星那:でも、顔は火傷って…
裕樹:…顔に、薬剤を掛けられて、動けなくなった君を車で轢いた奴がいる
星那:……
裕樹:君は、悪質なストーカーに遭ってたんだよ
星那:ス、トーカー…
裕樹:…僕と結婚する前から悩んでたんだ。二人で警察にも相談行ったし
星那:……
裕樹:結婚してから、それが急にエスカレートして…
星那:…殺されかけた、って事…?
裕樹:うん
星那:…今は?今はどうなの?またその人が…(来るかもしれない)
裕樹:大丈夫だよ、捕まったから
星那:……
裕樹:犯人は捕まったから、もう大丈夫
星那:そっか…
裕樹:警察の人がね、回復したら話を聞きたいって言ってて…でも止めてもらってるんだ。まだ回復してないし、記憶が戻ってないからって
星那:…そうだね、聞かれても…何も答えられない…
裕樹:…大丈夫?怖い話しちゃったけど…
星那:ん、大丈夫…。だってその人捕まったんでしょ?なら、平気…
裕樹:……ごめん
星那:どしたの?
裕樹:守れなかった…
星那:そんな…!
裕樹:見回り増やしてもらってるからって油断してたんだ…
星那:ゆーくんは悪くないよ…
裕樹:これからは、僕が守る。絶対に
星那:うん、頼りにしてる
裕樹:…その、ハグしてもいい…?
星那:良いよ、どーぞ
裕樹:痛くないように…
星那:平気だって
裕樹:(ハグをする)…星那が、早く良くなりますように
星那:………
裕樹:星那?
星那:……煙草
裕樹:ん?
星那:ゆーくん、煙草吸ってたっけ…?
裕樹:吸ってないけど…
星那:あれ…?
裕樹:結婚する前に、新居に匂いつくからって辞めたじゃん
星那:あ……そうだっけ…
裕樹:大丈夫?なにか思い出した?
星那:思い出しかけたんだけど…
裕樹:……
星那:ごめん、やっぱりダメみたい…
裕樹:ゆっくりで良いからね
星那:ん…
裕樹:その、星那?
星那:なに?
裕樹:僕、明日から仕事復帰しなきゃいけなくて
星那:あ…ずっと休んでくれてたの?
裕樹:有給、残ってたからさ。でもさすがにそろそろ戻らなきゃ…
星那:そうだよね、ごめん
裕樹:だから顔出すの、夜になるけど
星那:いいよ、特に困ることもないと思うし
裕樹:そう?…今日はもう帰るね
星那:ありがとう。気をつけて帰ってね
裕樹:うん、じゃあまた明日
星那:バイバイ
:
:
裕樹:せーな
星那:お疲れ様
裕樹:すっかり遅くなっちゃった
星那:久しぶりの仕事、どうだった?
裕樹:休んでた間フォローしてもらってた分、頑張ってみたけど…
星那:けど?
裕樹:なんか空回りしちゃったかなぁって
星那:そっか、大変だったね
裕樹:平気平気。今日は?お母さん来たんでしょ?
星那:え、なんで知ってるの?
裕樹:へ?あぁ、看護師さんから聞いた
星那:そう、なんだ?でも、お母さんって言われてもピンと来なくて…
裕樹:そっか…そうだよね
星那:…泣かれ、ちゃった
裕樹:一応ね、記憶のことは話しておいたんだけど…星那とどうしても話がしたいって
星那:子供の頃の話とかしてくれたんだけど…全然思い出せなくて。なんか逆に申し訳なくなっちゃった。…すごくびっくりしてたし
裕樹:だろうね…。僕もさ、事が事だったから、連絡もどうしようか悩んだんだ。でも何も知らせないのもやっぱり不義理だなって…後から聞くのも怖いと思うし
星那:ううん、連絡してくれてありがとう。仕方ないねって言ってたよ
裕樹:なら良かった…どんな話したの?
星那:体調の事とか、結婚前の話とか…
裕樹:何か気になった事とかあった?
星那:うーん…特には
裕樹:そっかァ…残念
星那:って言うか、私一人娘だったんだーって
裕樹:子供の頃にお父さんは亡くなられて、お母さんが一人で星那を育てたんだったよね
星那:…お母さんのことだけでも覚えてたかったな…
裕樹:お母さんのことだけ?
星那:だって、お父さんも居なくて、きょうだいも居なくて。それなら尚更私が忘れちゃったら…悲しいだけじゃない
裕樹:…そうだね。僕はこうして会いに来れるけど、お母さんちょっと離れてるもんね
星那:そうなんだ
裕樹:退院したら実家に行こうね。その頃には、なんで忘れてたんだろーってなってるかもよ?
星那:そうだといいな
裕樹:あ、そうだ忘れてた。ゼリー買ってきたから冷蔵庫入れとくね
星那:ありがと
裕樹:星那の好きなみかんのやつだよ〜
星那:……
裕樹:どうかした?ちゃんと果肉入ってるやつだよ
星那:…ううん、なんでもない…
裕樹:星那?
星那:みかんのゼリー…なんだろ、なにか…思い出しかけたんだけど
裕樹:ほんと?
星那:うん……あぁ、ダメだ
裕樹:大丈夫?
星那:うん、平気。…あはは、何がきっかけになるかわかんないね
裕樹:そうだね。じゃあ今夜は帰るよ
星那:あっ、ゆーくん。私のスマホ、持ってきてくれない?
裕樹:……
星那:ゆーくん?
裕樹:事故の時に壊れて…その、使えなくなってるんだけど…
星那:そう、なんだ…写真データとか、前のやり取り見たらなにか思い出すかなって思ったんだけど…
裕樹:修理、ダメ元で出してみる?
星那:…一応
裕樹:分かった、出しとく。じゃあね、おやすみ
星那:おやすみなさい
:
:
星那:(溜息)頭痛い…
裕樹:星那、入るよ
星那:あ…
裕樹:どしたの?
星那:なんか…頭痛くて…
裕樹:大丈夫?薬貰う?
星那:ううん…いい
裕樹:ならいいけど…あ、眼帯取れたんだね
星那:え、あぁ、うん。まだなんとなくぼやけてるけど
裕樹:両目出たら少し、鬱陶しくなくなったんじゃない?
星那:そうだね、距離感分かりやすくなった…
裕樹:…元気ないね
星那:うん…
裕樹:……
星那:…(溜息)
裕樹:今日はなんだか辛そうだね。もう帰ろっか
星那:ごめん、折角来てくれたのに。…ちょっと、リハビリで疲れたのかも
裕樹:そう?無理しちゃだめだよ
星那:うん…。あ、ゆーくん
裕樹:なに?
星那:…冷蔵庫のゼリー、持って帰ってくれない?食べれそうになくて
裕樹:そうなの?好きだったのに
星那:好き…だったよね。うん…
裕樹:…どうしたの?
星那:ううん、ほんとごめん。なんか欲しくなくて…
裕樹:そう?じゃあまた別のもの買ってこよっか
星那:…っ!……頭、いた…!
裕樹:星那?
星那:頭痛い…!
裕樹:(ナースコールを押す)すみません、来て貰えますか?急に頭痛いって…!
:間
裕樹:…どう?
星那:ん…何とか…
裕樹:痛みって、強くなる前に薬飲んだ方が良いんだって。我慢しちゃダメだよ?
星那:うん、気をつける…
裕樹:もう寝て。僕も帰るから
星那:そうだね…ごめんね、ありがとう
裕樹:(頭を撫でる)また来る
星那:おやすみなさい
裕樹:また明日ね
:
星那:熱い…顔が…!熱いぃ…!
裕樹:僕以外に向ける君の顔なんてもう要らないだろ…!安心しなよ…どんな姿になってもさぁ…!君のこと愛してるからさぁ!
星那:いや…熱い…痛い…!
裕樹:星那…!星那ぁ…!
星那:来ないで!
裕樹:君は僕のものだ、僕だけの星那だ!
星那:う、うぅ…!
裕樹:他の奴に、渡してたまるかぁ!
:
星那:いやぁっ!!
星那:(荒い呼吸)…夢…だよね…
星那:ゆーくん…?違う、さっきのは…誰…?
星那:なに…怖い…
:
:
裕樹:こんばんは
星那:…っ
裕樹:ん?どしたの?
星那:…なんでも、ない…
裕樹:今日はどう?頭痛治まった?
星那:うん、もう大丈夫
裕樹:さっき担当の先生と会ったよ。リハビリも順調だし、もうそろそろギプスも軽いものに変えるってさ
星那:……
裕樹:どんどん回復してて僕も嬉しいな。ね!
星那:そうだね…
裕樹:どうしたの?(頭を撫でる)
星那:(触れた手にビクつく)
裕樹:…星那?
星那:なんでも…ない…
裕樹:ほんとに?
星那:うん…
裕樹:星那…(抱き締める)
星那:…い…いやっ!(裕樹を突き飛ばす)
裕樹:……せ、な…?
星那:…あっ、ご…ごめん…
裕樹:……
星那:ゆーくん、ごめん…!その、私…
裕樹:…なにか思い出したの?
星那:え…
裕樹:なにか思い出した?
星那:な、にも…
裕樹:本当に?
星那:……うん
裕樹:そっか…
星那:ごめんね、本当に…
裕樹:…いっその事さ
星那:?
裕樹:全部忘れたまんまでさ、一からってのでも良いんじゃない?
星那:え…いや、それは…
裕樹:これから二人で新しく、楽しいこと積み上げていってさ。それじゃダメ?
星那:…な、んで…そんな事言うの…
裕樹:思い出せないってことはさ、思い出したくないって事なんじゃない?
星那:…ゆーくん?
裕樹:なんてね!ごめんね、変なこと言って
星那:……
裕樹:ごめん、僕の方が少し仕事で疲れてるみたい。もう帰るよ
星那:そう…?
裕樹:また来るね、おやすみ
星那:おやすみなさい…
:
:
裕樹:入るよー?
星那:…ゆーくん
裕樹:三日も空いちゃって、ごめん。仕事忙しくてさ…
星那:ううん、大丈夫
裕樹:顔もガーゼだけになったんだね、良かった
星那:そうだね…
裕樹:星那?
星那:……
裕樹:どうかした?
星那:ねぇ、ゆーくん…
裕樹:ん?
星那:…どうして、嘘ついたの?
裕樹:…嘘、って…?
星那:ストーカーしてた犯人、捕まってるって言ったよね。あれ、嘘だったんでしょ…
裕樹:…誰から聞いたの?警察?
星那:うん
裕樹:……
星那:昨日面会に来てくれた時に…
裕樹:…面会に来たのは、知ってる
星那:記憶も戻ってないから話せること、全然無かったけど…まだ捕まってないって…
裕樹:…ごめん
星那:なんで嘘ついたの?
裕樹:それは…!星那が怖がると思って…
星那:でも、もう捕まったって安心してる時にまた来たら?!そっちの方が怖いよ!
裕樹:もう来ない!
星那:…なんで…?なんで断言出来るの…?分かんないじゃん!人に薬剤かけて車で轢き殺そうとした人なんだよ?!そんな頭おかしい人、何してくるか分かんないじゃん!
裕樹:星那!星那、落ち着いて!
星那:やだ…怖い…!
裕樹:深呼吸して…ね?
星那:(泣いている)
裕樹:ごめん、余計に不安になっちゃったね…
星那:……
裕樹:星那を安心させたくて…それだけだったんだ。嘘ついてごめん
星那:分かんない…分かんないよ!だって、記憶が戻らないんだもん!何が本当で何が嘘なのか…!
裕樹:…ごめん、よかれと思って…
星那:わ、かんない…!
裕樹:星那…!!(抱き締める)
星那:……!
裕樹:ごめんね、嘘ついて。でも本当に怖がらせたくなかっただけなんだ…不安だろうから、少しでも怖いって思わなかったらいいなって…それだけだったんだ…。本当にごめん…!
星那:…ゆー、くん…
裕樹:結局、混乱させるだけになっちゃって…本当にごめんなさい…
星那:…私も、ごめん…
裕樹:……
星那:言い過ぎた…。気、使ってもらってるのに
裕樹:ううん…
星那:ごめんなさい
裕樹:…星那
星那:ゆー…(口づけられて言葉が止まる)
:
星那:…いや…っ!(押し退けて顔を背ける)
裕樹:せ、な…?
星那:……
裕樹:えっと…急にして、ごめん…
星那:ちょっと、びっくりしちゃって…
裕樹:……
星那:……
裕樹:…今日は、帰ろっか?
星那:ごめん…
裕樹:分かった、ゆっくり休んで。また明日来るよ
星那:ん、ありがとう…
:
:
星那:……
裕樹:星那?
星那:?!
裕樹:どしたの?そんなにびっくりして…
星那:ごめん、考え事してて…
裕樹:ヨーグルト買ってきたよ、アロエのやつ
星那:うん、ありがと…
裕樹:…大丈夫?何かあった?
星那:鏡…
裕樹:鏡?
星那:ガーゼだけになって、初めて鏡見せてもらって…
裕樹:……
星那:喋ってても、皮膚がひきつってるのが分かるの…傷が完全に治っても、これじゃあ…
裕樹:……
星那:こんなの、どうやって隠せば…
裕樹:僕は、どんな星那でも愛してるよ
星那:…ぇ
裕樹:それに、ほら。この間も話した気がするけど、最近の美容整形の技術って凄いんだって。時間はかかるかもしれないけど、綺麗になるよ!
星那:……
裕樹:だからそんなにしんぱ…(いしなくても)
星那:さっき、なんて言った…?
裕樹:ん?
星那:さっき…なんて?
裕樹:美容技術の事?最近はすご…(いんだよ)
星那:その前
裕樹:前?
星那:どんな私でも…って…
裕樹:あぁ、うん、もちろん!(咳払い)たとえ顔に傷跡があっても、半身動かなくても、僕はどんな星那でも愛してるよ
星那:……
裕樹:あ、はは。やっぱり改めて言うと照れるなぁ
星那:(息が少しずつ荒くなる)…つっ、痛…!
裕樹:ナースコール…
星那:待って!…何か…思い出せそうなの…だから、待って…!
裕樹:分かった…
:間
星那:…み、ずしま、くん…
裕樹:星那…?
星那:思い出した…私、水島君に…ストーカーされてた…
裕樹:…うん、そう。合ってる…
星那:ゆーくんの、幼馴染で…
裕樹:…長い付き合いだからって…彼女紹介したら、まさか…って思った。紹介しなきゃ良かった、すごく後悔した…
星那:私、思い出した…
裕樹:僕のこと、ちゃんと分かる?
星那:わかる…
裕樹:良かった…
星那:みかんのゼリー…
裕樹:ゼリー?
星那:沢山家に届いて、気持ち悪くなって…
裕樹:そう、だったんだ…
星那:…まだ、曖昧な部分あるの。顔とか思い出せないし、ぼんやりしてる感じで…でも、何となく思い出した
裕樹:大丈夫?気分悪かったりしない?
星那:…うん
裕樹:星那?
星那:すごく怖かった…もう嫌だって思って…なんでこんな怖い思いしなきゃいけないのって…
裕樹:そうだよね…
星那:…だから…
:少し長めの間
:
星那:…どこ?
裕樹:ん?
星那:どこ、なの…?
裕樹:なにが?
星那:……ゆーくんは、どこ?
裕樹:星那、何言ってるんだよ。僕は目の前に…
星那:違う
裕樹:……
星那:あなた、ゆーくんじゃない…
裕樹:……
星那:全部、思い出した…
裕樹:全部?
星那:曖昧だったの、はっきり思い出した…
裕樹:……
星那:…もう諦めたんだと思ってたら…ゆーくんによく似た顔のあなたが…目の前に現れたの…思い出した…
裕樹:……
星那:これであいつと一緒だろって…今日から自分が裕樹だって…
裕樹:……
星那:ゆーくん…ゆーくんに、なにしたの…?
裕樹:…もういいじゃん
星那:なに…
裕樹:もう、僕の事を裕樹って思ってさ。一緒に暮らせばいいじゃん
星那:いい訳ない…いい訳無いでしょ…!
裕樹:どうして?僕、星那に沢山優しくしたよ?理想の旦那さんって思わなかった?僕の方が裕樹より仕事できるよ。現にあいつの勤め先に石川裕樹として行き始めたけど、誰も気付かないし、それどころかむしろ凄く順調なんだけど
星那:……
裕樹:何がダメ?何が許せないの?…君を傷物にしたから?大丈夫だよ、言ったろ?どんな姿になっても君のこと愛してるって。美容整形なんかしなくてもさ。そのままでも、僕は君のこと愛せるよ
星那:私は…あなたの事なんて…
裕樹:しー…(顔を近づける)
星那:…っ!
裕樹:あの事故だって、君を殺してやろうとかそんなつもりはなかったんだ。ただ、君があいつのものになって、子供とかできたりするのは嫌だなぁって
星那:事故って…自分が引き起こしたことなのに…!
裕樹:事故だよ。星那が僕のことを素直に受け入れてくれてたら起こらなかった。悲しい事故だよ
星那:……
裕樹:君が意地を張るからあんなことになったんだ
星那:そんな、身勝手…!
裕樹:ふぅ…駄目だなぁ。自分で軽率だって思わない?ひとりで満足に身動きもできないのに…そんなこと言ってて大丈夫かな?また傷も治りきってないのに…ねっ?!(口元と鼻を手で塞ぐ)
星那:ぐっ…!んっ、んー!!(暴れる)
裕樹:あーダメダメ…静かに。しずかぁに…
星那:んー!!んんっ…!!
裕樹:暴れたら…ほぉら。息が苦しくなって…気が遠くなるねぇ
星那:ん、ふぐ…っ…!!
裕樹:大丈夫、君は殺さないから。僕の秘密基地に招待してあげる。裕樹にもちゃんと会わせてあげるから安心して?
星那:ん…ん…(苦しくて気が遠くなっていく)
裕樹:(独り言)あ、そうだ…盗聴器。回収しとかなきゃ…
裕樹:さぁ星那。車椅子に乗ってお散歩に行こうね。ちゃんと、僕がエスコートしてあげるよ
星那:…う、く…(気絶する)
裕樹:…いい子、僕の星那
:
:
星那:…ん
裕樹:起きた?
星那:っ?!
裕樹:ようこそ、僕の秘密基地へ
星那:…ど、こ…
裕樹:ふふっ、嬉しいな。星那がここに居るなんて夢みたいだ。いつか必ず招待しようって思ってたから、実現出来て本当に嬉しい
星那:…ゆ…ゆーくんは?
裕樹:……
星那:ゆーくんに会わせてくれるって…言ったじゃない!ゆーくんはどこ?
裕樹:(長い溜息)…あのさぁ
星那:……
裕樹:なんでそんなに…あいつがいいの?ドン臭くて、人が良いだけの平凡なやつじゃん。こっちは君に近付きたいが為だけに、したくもない整形までしたんだよ?ここまでしたのにさぁ…何がダメなの?何が足りないの?
星那:ゆーくん…助けて…
裕樹:君を満足させたいだけなのに…君に愛して欲しいだけなのにさぁ…!何がダメなんだよ!
星那:…っ
裕樹:……あぁ、ごめんね。怖がらせようって思ったんじゃないんだ。ごめんごめん。約束だったよね(車椅子の向きを変える)
星那:っ!
裕樹:はいはい、裕樹の所へご案内〜
:裕樹は鼻歌を歌いながら車椅子を押す
裕樹:到着ですよぉ
星那:え……
裕樹:こういう冷凍庫、懐かしくない?昔、駄菓子屋とかにあったよね。アイス売ってるやつ
星那:…ま、って…まさか…
裕樹:探すの大変だったんだよ、これ
星那:……う、そ
裕樹:どうぞ。中、覗いてご覧よ
星那:……
裕樹:会いたかったんだろ?遠慮しなくていいから。ほら、見なよ
星那:……
裕樹:見ろよ!ほら!!(星那の頭を冷凍庫の窓に押し付ける)
星那:いっ…!!
裕樹:感動のごたいめぇん…ま、返事は返ってこないけど
星那:ゆーくん…!
裕樹:こいつ、人は良いからさ。それが命取りになるなんて、思いもしてなかったろうなぁ
星那:ゆーくん!
裕樹:声掛けるのは好きにすればいいけど…でも、解凍した魚が動くと思う?ゆで卵が生卵に戻るかな?それと一緒
星那:(泣いている)
裕樹:だからさぁ…もういいじゃん。裕樹と同じ見た目の僕とさ…新しい生活しよ?
星那:ゆー…くん…
裕樹:僕が裕樹になって、ずっとずっと愛してあげる。誰よりも、君のことを愛してるのは僕なんだから。君はもう…誰にも渡さない
星那:…ぁ…あぁ…
裕樹:星那?
星那:…あ…ぁ…
裕樹:あーらら、壊れちゃったのかぁ。そんなにショックだった?
星那:(小さく声を漏らしながら目元は焦点が合っていない)
裕樹:君が愛した裕樹はここにいるよぉ。このケースの中身は、ちゃんと処分しておくからね
星那:……
裕樹:ふふっ、壊れた星那も可愛いね
:ゆっくりと星那を撫でる
:
裕樹:僕と一緒に、幸せになろうね
:
:終