台本概要

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タイトル コーヒーの味は
作者名 Danzig
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 OLが昼下がりの公園で出会った男性の話です。

朗読用として書いた作品です。
登場人物は複数いますが、セリフに配役名は振っておりません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り 不問 -
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0: 0:昼下がりの公園。 0: 0:仕事の昼休み、私はよくこの公園に足を運ぶ。 0:それ程大きくはない、目立たない公園 0: 0:仕事場から少し離れたここは、 0:会社の人達が誰も来ない、いわば私の隠れ家だ。 0: 0:私はここで、昼食を食べながら昼を過ごす。 0: 0:会社はいつも、嫌な事ばかり。 0:生活も特に充実している訳でもない。 0:趣味がない訳ではないが、没頭できる程の熱量もない、 0:まるで、惰性で生きているような私の暮らし。 0: 0:そんな私の楽しみの一つが、この公園にきて、昼食を食べた後に飲むコーヒー。 0: 0:コンビニのコーヒーだが、最近のコンビニのコーヒーの味は、十分美味しいと思う。 0:家でも自分でコーヒーを淹れて飲んでいるが、 0:全自動の機械とはいえ、誰かが淹れてくれたコーヒーは、意外といいものだ。 0: 0: 0:私がこの公園に来るようになって、もう、どれだけ経つだろう 0: 0:ここには、見知った顔が幾つかある 0:所謂(いわゆる)、常連さんと言ったところか。 0:かく言う私も、その常連の一人なのだろう。 0: 0:その常連の中に、一人の男性がいる。 0: 0:年齢は70前後だろうか、 0:優しそうな顔の初老の男性だ。 0: 0:いつからかは覚えていないが 0:その男性とは、いつしか会釈をする仲になっていた。 0: 0:男性は、いつも水筒を持って来ており 0:ベンチに座り、それを飲んでいる 0: 0:しかし、いつも、それ程美味しそうには飲んでいないように見える。 0:漢方薬を煮出した薬でも飲んでいるのだろうか。 0: 0:いつも不思議に思っているその事を、 0:今日は何故だか、尋ねてみたい気分になった。 0: 0:私は男性の座っているベンチに向う。 0:ベンチに近付くと、男性は私に気づき、会釈をしてくれた。 0: 0: 0:「何を飲んでいらっしゃるんですか?」 0: 0:「え? 0:あ、あぁ・・・これですか」 0: 0:男性の表情が少し気まずそうに見えた 0: 0:「隣、失礼してもいいですか?」 0: 0:「ええ、どうぞ」 0: 0: 0:私は男性の隣に座った 0: 0: 0:「いつも、それ、飲んでらっしゃいますよね?」 0: 0:「え、えぇ、そうですね・・」 0: 0:「あ、すみません。 0:ただの興味本位だったので・・・無理にお聞きした訳じゃないんです」 0: 0:「いえいえ、いいんですよ 0:これね、私が淹れたコーヒーなんですよ」 0: 0:「え? コーヒーだったんですか?」 0: 0:「ええ」 0: 0:私は少し戸惑っていた 0:コーヒー好きなら、もう少し美味しそうに飲めばいいのに・・・ 0:そう思ってしまった 0: 0:男性は、そんな私の表情を見透かしたのか 0: 0:「ははは、あんまり美味しそうに見えませんでしたか」 0: 0:「え・・・・ええ 0:コーヒーはお嫌いなんですか?」 0: 0:「いえいえ、コーヒーは大好きなんですよ」 0: 0:「でしたら、どうして」 0: 0:「いつも妻が淹れてくれたコーヒーを飲んでましてね。 0:それが大好きだったんですよ。 0:でも、2年前に妻に先立たれましてね 0:今は、淹れてくれる人もいませんので、自分で淹れているんですが 0:なかなか妻の淹れたコーヒーの味にならなくてね」 0: 0:「そうだったんですか」 0: 0:「妻の淹れたコーヒーの味どころか 0:私が淹れたコーヒーは美味しくないんですよ、ははは」 0: 0:男性は静かに笑った 0: 0:「なるほど、だから、そんなお顔をされていたんですね。 0:でも今は、コンビニのコーヒーも美味しいですから、 0:そういうのを買って飲まれては?」 0: 0:「ええ、そうらしいですね、 0:でも、なかなかそんな気分にもなれなくてね」 0: 0:「じゃぁ、私が淹れ方をお教えしましょうか? 0:それか、一度、私が淹れて持って来ましょうか?」 0: 0:「気を遣って頂いて、ありがとうございます。 0:でも、そういうのは、いいんです」 0: 0:「いい・・・とは?」 0: 0:「あなたが淹れたコーヒーは、きっと美味しいんでしょうね。」 0: 0:「いえそんな、奥様の淹れたコーヒーと張り合おうって訳じゃ・・・」 0: 0:「ははは、いやいや、ごめんなさいね、そういう意味ではないんです」 0: 0:「え? どういう事ですか?」 0: 0:「コーヒーなんて、同じ豆、同じ機械で淹れたのなら、 0:多分誰が淹れたって、そんなに違いはないんだと思うんですよ。」 0: 0:「ええ、私もそう思います」 0: 0:「妻が淹れてくれたコーヒーだって 0:ごく普通のコーヒーの味なんですよ、きっと」 0: 0:「・・・・ 0:でも、それがお好きだったんですよね?」 0: 0:「ええ、そうなんです。 0:それだから、誰かが淹れたコーヒーが、妻と同じ味だったらと思うと、怖いんです。」 0: 0:「え?」 0: 0:「妻のいない日常に、当たり前のように、妻の淹れたコーヒーと同じ味がある。 0:そうなってしまうと、何だか妻を思い出す切っ掛けが、一つ無くなってしまうみたいで・・・ 0: 0:ましてや、妻よりも美味しいコーヒーだったら尚更・・・」 0: 0:「そうですか・・・」 0: 0:「だから、私はコーヒー屋さんには、もう行かないようにしているのですよ。 0: 0:私の淹れた不味いコーヒーが、妻との時間を想い出させてくれる。 0:そう思っていたいんです。 0: 0:私が大好きなコーヒーで苦労している間、妻が近くに居てくれるような、 0:そんな気がしましてね」 0: 0:そう言って、男性はコーヒーを一口飲むと 0:ホッと一息ついて、遠くを見つめた 0:

0: 0:昼下がりの公園。 0: 0:仕事の昼休み、私はよくこの公園に足を運ぶ。 0:それ程大きくはない、目立たない公園 0: 0:仕事場から少し離れたここは、 0:会社の人達が誰も来ない、いわば私の隠れ家だ。 0: 0:私はここで、昼食を食べながら昼を過ごす。 0: 0:会社はいつも、嫌な事ばかり。 0:生活も特に充実している訳でもない。 0:趣味がない訳ではないが、没頭できる程の熱量もない、 0:まるで、惰性で生きているような私の暮らし。 0: 0:そんな私の楽しみの一つが、この公園にきて、昼食を食べた後に飲むコーヒー。 0: 0:コンビニのコーヒーだが、最近のコンビニのコーヒーの味は、十分美味しいと思う。 0:家でも自分でコーヒーを淹れて飲んでいるが、 0:全自動の機械とはいえ、誰かが淹れてくれたコーヒーは、意外といいものだ。 0: 0: 0:私がこの公園に来るようになって、もう、どれだけ経つだろう 0: 0:ここには、見知った顔が幾つかある 0:所謂(いわゆる)、常連さんと言ったところか。 0:かく言う私も、その常連の一人なのだろう。 0: 0:その常連の中に、一人の男性がいる。 0: 0:年齢は70前後だろうか、 0:優しそうな顔の初老の男性だ。 0: 0:いつからかは覚えていないが 0:その男性とは、いつしか会釈をする仲になっていた。 0: 0:男性は、いつも水筒を持って来ており 0:ベンチに座り、それを飲んでいる 0: 0:しかし、いつも、それ程美味しそうには飲んでいないように見える。 0:漢方薬を煮出した薬でも飲んでいるのだろうか。 0: 0:いつも不思議に思っているその事を、 0:今日は何故だか、尋ねてみたい気分になった。 0: 0:私は男性の座っているベンチに向う。 0:ベンチに近付くと、男性は私に気づき、会釈をしてくれた。 0: 0: 0:「何を飲んでいらっしゃるんですか?」 0: 0:「え? 0:あ、あぁ・・・これですか」 0: 0:男性の表情が少し気まずそうに見えた 0: 0:「隣、失礼してもいいですか?」 0: 0:「ええ、どうぞ」 0: 0: 0:私は男性の隣に座った 0: 0: 0:「いつも、それ、飲んでらっしゃいますよね?」 0: 0:「え、えぇ、そうですね・・」 0: 0:「あ、すみません。 0:ただの興味本位だったので・・・無理にお聞きした訳じゃないんです」 0: 0:「いえいえ、いいんですよ 0:これね、私が淹れたコーヒーなんですよ」 0: 0:「え? コーヒーだったんですか?」 0: 0:「ええ」 0: 0:私は少し戸惑っていた 0:コーヒー好きなら、もう少し美味しそうに飲めばいいのに・・・ 0:そう思ってしまった 0: 0:男性は、そんな私の表情を見透かしたのか 0: 0:「ははは、あんまり美味しそうに見えませんでしたか」 0: 0:「え・・・・ええ 0:コーヒーはお嫌いなんですか?」 0: 0:「いえいえ、コーヒーは大好きなんですよ」 0: 0:「でしたら、どうして」 0: 0:「いつも妻が淹れてくれたコーヒーを飲んでましてね。 0:それが大好きだったんですよ。 0:でも、2年前に妻に先立たれましてね 0:今は、淹れてくれる人もいませんので、自分で淹れているんですが 0:なかなか妻の淹れたコーヒーの味にならなくてね」 0: 0:「そうだったんですか」 0: 0:「妻の淹れたコーヒーの味どころか 0:私が淹れたコーヒーは美味しくないんですよ、ははは」 0: 0:男性は静かに笑った 0: 0:「なるほど、だから、そんなお顔をされていたんですね。 0:でも今は、コンビニのコーヒーも美味しいですから、 0:そういうのを買って飲まれては?」 0: 0:「ええ、そうらしいですね、 0:でも、なかなかそんな気分にもなれなくてね」 0: 0:「じゃぁ、私が淹れ方をお教えしましょうか? 0:それか、一度、私が淹れて持って来ましょうか?」 0: 0:「気を遣って頂いて、ありがとうございます。 0:でも、そういうのは、いいんです」 0: 0:「いい・・・とは?」 0: 0:「あなたが淹れたコーヒーは、きっと美味しいんでしょうね。」 0: 0:「いえそんな、奥様の淹れたコーヒーと張り合おうって訳じゃ・・・」 0: 0:「ははは、いやいや、ごめんなさいね、そういう意味ではないんです」 0: 0:「え? どういう事ですか?」 0: 0:「コーヒーなんて、同じ豆、同じ機械で淹れたのなら、 0:多分誰が淹れたって、そんなに違いはないんだと思うんですよ。」 0: 0:「ええ、私もそう思います」 0: 0:「妻が淹れてくれたコーヒーだって 0:ごく普通のコーヒーの味なんですよ、きっと」 0: 0:「・・・・ 0:でも、それがお好きだったんですよね?」 0: 0:「ええ、そうなんです。 0:それだから、誰かが淹れたコーヒーが、妻と同じ味だったらと思うと、怖いんです。」 0: 0:「え?」 0: 0:「妻のいない日常に、当たり前のように、妻の淹れたコーヒーと同じ味がある。 0:そうなってしまうと、何だか妻を思い出す切っ掛けが、一つ無くなってしまうみたいで・・・ 0: 0:ましてや、妻よりも美味しいコーヒーだったら尚更・・・」 0: 0:「そうですか・・・」 0: 0:「だから、私はコーヒー屋さんには、もう行かないようにしているのですよ。 0: 0:私の淹れた不味いコーヒーが、妻との時間を想い出させてくれる。 0:そう思っていたいんです。 0: 0:私が大好きなコーヒーで苦労している間、妻が近くに居てくれるような、 0:そんな気がしましてね」 0: 0:そう言って、男性はコーヒーを一口飲むと 0:ホッと一息ついて、遠くを見つめた 0: