台本概要
274 views
タイトル | コーヒーの味は |
---|---|
作者名 | Danzig |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
OLが昼下がりの公園で出会った男性の話です。 朗読用として書いた作品です。 登場人物は複数いますが、セリフに配役名は振っておりません。 274 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
語り | 不問 | - |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:昼下がりの公園。
0:
0:仕事の昼休み、私はよくこの公園に足を運ぶ。
0:それ程大きくはない、目立たない公園
0:
0:仕事場から少し離れたここは、
0:会社の人達が誰も来ない、いわば私の隠れ家だ。
0:
0:私はここで、昼食を食べながら昼を過ごす。
0:
0:会社はいつも、嫌な事ばかり。
0:生活も特に充実している訳でもない。
0:趣味がない訳ではないが、没頭できる程の熱量もない、
0:まるで、惰性で生きているような私の暮らし。
0:
0:そんな私の楽しみの一つが、この公園にきて、昼食を食べた後に飲むコーヒー。
0:
0:コンビニのコーヒーだが、最近のコンビニのコーヒーの味は、十分美味しいと思う。
0:家でも自分でコーヒーを淹れて飲んでいるが、
0:全自動の機械とはいえ、誰かが淹れてくれたコーヒーは、意外といいものだ。
0:
0:
0:私がこの公園に来るようになって、もう、どれだけ経つだろう
0:
0:ここには、見知った顔が幾つかある
0:所謂(いわゆる)、常連さんと言ったところか。
0:かく言う私も、その常連の一人なのだろう。
0:
0:その常連の中に、一人の男性がいる。
0:
0:年齢は70前後だろうか、
0:優しそうな顔の初老の男性だ。
0:
0:いつからかは覚えていないが
0:その男性とは、いつしか会釈をする仲になっていた。
0:
0:男性は、いつも水筒を持って来ており
0:ベンチに座り、それを飲んでいる
0:
0:しかし、いつも、それ程美味しそうには飲んでいないように見える。
0:漢方薬を煮出した薬でも飲んでいるのだろうか。
0:
0:いつも不思議に思っているその事を、
0:今日は何故だか、尋ねてみたい気分になった。
0:
0:私は男性の座っているベンチに向う。
0:ベンチに近付くと、男性は私に気づき、会釈をしてくれた。
0:
0:
0:「何を飲んでいらっしゃるんですか?」
0:
0:「え?
0:あ、あぁ・・・これですか」
0:
0:男性の表情が少し気まずそうに見えた
0:
0:「隣、失礼してもいいですか?」
0:
0:「ええ、どうぞ」
0:
0:
0:私は男性の隣に座った
0:
0:
0:「いつも、それ、飲んでらっしゃいますよね?」
0:
0:「え、えぇ、そうですね・・」
0:
0:「あ、すみません。
0:ただの興味本位だったので・・・無理にお聞きした訳じゃないんです」
0:
0:「いえいえ、いいんですよ
0:これね、私が淹れたコーヒーなんですよ」
0:
0:「え? コーヒーだったんですか?」
0:
0:「ええ」
0:
0:私は少し戸惑っていた
0:コーヒー好きなら、もう少し美味しそうに飲めばいいのに・・・
0:そう思ってしまった
0:
0:男性は、そんな私の表情を見透かしたのか
0:
0:「ははは、あんまり美味しそうに見えませんでしたか」
0:
0:「え・・・・ええ
0:コーヒーはお嫌いなんですか?」
0:
0:「いえいえ、コーヒーは大好きなんですよ」
0:
0:「でしたら、どうして」
0:
0:「いつも妻が淹れてくれたコーヒーを飲んでましてね。
0:それが大好きだったんですよ。
0:でも、2年前に妻に先立たれましてね
0:今は、淹れてくれる人もいませんので、自分で淹れているんですが
0:なかなか妻の淹れたコーヒーの味にならなくてね」
0:
0:「そうだったんですか」
0:
0:「妻の淹れたコーヒーの味どころか
0:私が淹れたコーヒーは美味しくないんですよ、ははは」
0:
0:男性は静かに笑った
0:
0:「なるほど、だから、そんなお顔をされていたんですね。
0:でも今は、コンビニのコーヒーも美味しいですから、
0:そういうのを買って飲まれては?」
0:
0:「ええ、そうらしいですね、
0:でも、なかなかそんな気分にもなれなくてね」
0:
0:「じゃぁ、私が淹れ方をお教えしましょうか?
0:それか、一度、私が淹れて持って来ましょうか?」
0:
0:「気を遣って頂いて、ありがとうございます。
0:でも、そういうのは、いいんです」
0:
0:「いい・・・とは?」
0:
0:「あなたが淹れたコーヒーは、きっと美味しいんでしょうね。」
0:
0:「いえそんな、奥様の淹れたコーヒーと張り合おうって訳じゃ・・・」
0:
0:「ははは、いやいや、ごめんなさいね、そういう意味ではないんです」
0:
0:「え? どういう事ですか?」
0:
0:「コーヒーなんて、同じ豆、同じ機械で淹れたのなら、
0:多分誰が淹れたって、そんなに違いはないんだと思うんですよ。」
0:
0:「ええ、私もそう思います」
0:
0:「妻が淹れてくれたコーヒーだって
0:ごく普通のコーヒーの味なんですよ、きっと」
0:
0:「・・・・
0:でも、それがお好きだったんですよね?」
0:
0:「ええ、そうなんです。
0:それだから、誰かが淹れたコーヒーが、妻と同じ味だったらと思うと、怖いんです。」
0:
0:「え?」
0:
0:「妻のいない日常に、当たり前のように、妻の淹れたコーヒーと同じ味がある。
0:そうなってしまうと、何だか妻を思い出す切っ掛けが、一つ無くなってしまうみたいで・・・
0:
0:ましてや、妻よりも美味しいコーヒーだったら尚更・・・」
0:
0:「そうですか・・・」
0:
0:「だから、私はコーヒー屋さんには、もう行かないようにしているのですよ。
0:
0:私の淹れた不味いコーヒーが、妻との時間を想い出させてくれる。
0:そう思っていたいんです。
0:
0:私が大好きなコーヒーで苦労している間、妻が近くに居てくれるような、
0:そんな気がしましてね」
0:
0:そう言って、男性はコーヒーを一口飲むと
0:ホッと一息ついて、遠くを見つめた
0:
0:
0:昼下がりの公園。
0:
0:仕事の昼休み、私はよくこの公園に足を運ぶ。
0:それ程大きくはない、目立たない公園
0:
0:仕事場から少し離れたここは、
0:会社の人達が誰も来ない、いわば私の隠れ家だ。
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0:私はここで、昼食を食べながら昼を過ごす。
0:
0:会社はいつも、嫌な事ばかり。
0:生活も特に充実している訳でもない。
0:趣味がない訳ではないが、没頭できる程の熱量もない、
0:まるで、惰性で生きているような私の暮らし。
0:
0:そんな私の楽しみの一つが、この公園にきて、昼食を食べた後に飲むコーヒー。
0:
0:コンビニのコーヒーだが、最近のコンビニのコーヒーの味は、十分美味しいと思う。
0:家でも自分でコーヒーを淹れて飲んでいるが、
0:全自動の機械とはいえ、誰かが淹れてくれたコーヒーは、意外といいものだ。
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0:
0:私がこの公園に来るようになって、もう、どれだけ経つだろう
0:
0:ここには、見知った顔が幾つかある
0:所謂(いわゆる)、常連さんと言ったところか。
0:かく言う私も、その常連の一人なのだろう。
0:
0:その常連の中に、一人の男性がいる。
0:
0:年齢は70前後だろうか、
0:優しそうな顔の初老の男性だ。
0:
0:いつからかは覚えていないが
0:その男性とは、いつしか会釈をする仲になっていた。
0:
0:男性は、いつも水筒を持って来ており
0:ベンチに座り、それを飲んでいる
0:
0:しかし、いつも、それ程美味しそうには飲んでいないように見える。
0:漢方薬を煮出した薬でも飲んでいるのだろうか。
0:
0:いつも不思議に思っているその事を、
0:今日は何故だか、尋ねてみたい気分になった。
0:
0:私は男性の座っているベンチに向う。
0:ベンチに近付くと、男性は私に気づき、会釈をしてくれた。
0:
0:
0:「何を飲んでいらっしゃるんですか?」
0:
0:「え?
0:あ、あぁ・・・これですか」
0:
0:男性の表情が少し気まずそうに見えた
0:
0:「隣、失礼してもいいですか?」
0:
0:「ええ、どうぞ」
0:
0:
0:私は男性の隣に座った
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0:
0:「いつも、それ、飲んでらっしゃいますよね?」
0:
0:「え、えぇ、そうですね・・」
0:
0:「あ、すみません。
0:ただの興味本位だったので・・・無理にお聞きした訳じゃないんです」
0:
0:「いえいえ、いいんですよ
0:これね、私が淹れたコーヒーなんですよ」
0:
0:「え? コーヒーだったんですか?」
0:
0:「ええ」
0:
0:私は少し戸惑っていた
0:コーヒー好きなら、もう少し美味しそうに飲めばいいのに・・・
0:そう思ってしまった
0:
0:男性は、そんな私の表情を見透かしたのか
0:
0:「ははは、あんまり美味しそうに見えませんでしたか」
0:
0:「え・・・・ええ
0:コーヒーはお嫌いなんですか?」
0:
0:「いえいえ、コーヒーは大好きなんですよ」
0:
0:「でしたら、どうして」
0:
0:「いつも妻が淹れてくれたコーヒーを飲んでましてね。
0:それが大好きだったんですよ。
0:でも、2年前に妻に先立たれましてね
0:今は、淹れてくれる人もいませんので、自分で淹れているんですが
0:なかなか妻の淹れたコーヒーの味にならなくてね」
0:
0:「そうだったんですか」
0:
0:「妻の淹れたコーヒーの味どころか
0:私が淹れたコーヒーは美味しくないんですよ、ははは」
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0:男性は静かに笑った
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0:「なるほど、だから、そんなお顔をされていたんですね。
0:でも今は、コンビニのコーヒーも美味しいですから、
0:そういうのを買って飲まれては?」
0:
0:「ええ、そうらしいですね、
0:でも、なかなかそんな気分にもなれなくてね」
0:
0:「じゃぁ、私が淹れ方をお教えしましょうか?
0:それか、一度、私が淹れて持って来ましょうか?」
0:
0:「気を遣って頂いて、ありがとうございます。
0:でも、そういうのは、いいんです」
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0:「いい・・・とは?」
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0:「あなたが淹れたコーヒーは、きっと美味しいんでしょうね。」
0:
0:「いえそんな、奥様の淹れたコーヒーと張り合おうって訳じゃ・・・」
0:
0:「ははは、いやいや、ごめんなさいね、そういう意味ではないんです」
0:
0:「え? どういう事ですか?」
0:
0:「コーヒーなんて、同じ豆、同じ機械で淹れたのなら、
0:多分誰が淹れたって、そんなに違いはないんだと思うんですよ。」
0:
0:「ええ、私もそう思います」
0:
0:「妻が淹れてくれたコーヒーだって
0:ごく普通のコーヒーの味なんですよ、きっと」
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0:「・・・・
0:でも、それがお好きだったんですよね?」
0:
0:「ええ、そうなんです。
0:それだから、誰かが淹れたコーヒーが、妻と同じ味だったらと思うと、怖いんです。」
0:
0:「え?」
0:
0:「妻のいない日常に、当たり前のように、妻の淹れたコーヒーと同じ味がある。
0:そうなってしまうと、何だか妻を思い出す切っ掛けが、一つ無くなってしまうみたいで・・・
0:
0:ましてや、妻よりも美味しいコーヒーだったら尚更・・・」
0:
0:「そうですか・・・」
0:
0:「だから、私はコーヒー屋さんには、もう行かないようにしているのですよ。
0:
0:私の淹れた不味いコーヒーが、妻との時間を想い出させてくれる。
0:そう思っていたいんです。
0:
0:私が大好きなコーヒーで苦労している間、妻が近くに居てくれるような、
0:そんな気がしましてね」
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0:そう言って、男性はコーヒーを一口飲むと
0:ホッと一息ついて、遠くを見つめた
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