台本概要

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タイトル O・YA・SHI・RA・ZU
作者名 akodon  (@akodon1)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 【アドリブ大歓迎!】
痛みを訴えて歯医者さんにやってきた患者さんと、ちょっと(?)おかしな歯医者さんのコメディです。

仕事をしたくないと思いながら書きなぐりました。
完全に職業病です。どんな仕事かはお察し。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
歯科医 不問 99 ちょっと変。
患者 不問 98 とてもかわいそう。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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歯科医:「あっ、すみません!お待たせいたしましたー。 歯科医:えーと、○○さん(キャスト名)、本日はよろしくお願いいたしますー」 患者:「あっ、よろしくお願いしますー」 歯科医:「えーと、本日は下アゴの奥の歯茎が腫れているということで」 患者:「はい。二、三日前くらいから腫れてきて・・・」 歯科医:「なるほどなるほど、ちょっと拝見しますねー・・・。 歯科医:あー、親知らず生えてきてますね。 歯科医:それが原因で腫れちゃってますねー」 患者:「えー・・・そうなんですかー」 歯科医:「どうしますー? 歯科医:日本人の場合はアゴが小さいので、親知らずがしっかり生えてくる方少ないんですよ。 歯科医:いっそ抜いちゃいます?」 患者:「抜いた方がいいですか?」 歯科医:「奥の方って磨きづらいんで虫歯になりやすいし、食べカス溜まって腫(は)れることも多いんで、抜いた方が後々楽かもしれませんね」 患者:「そうですかー。なら抜いてもらちゃおうかなー」 歯科医:「わかりました。 歯科医:じゃあ、まず処置を始める前に先程撮ったレントゲンをご覧になって頂きたいのですが・・・ここ、見えます? 歯科医:見事にスカルチノフしてる親知らず」 患者:「・・・えっ?」 歯科医:「いやー、私も長年この仕事してますけどねー。 歯科医:ここまで見事にスカルチノってる親知らず久々ですねー。 歯科医:これはなかなか手強いぞォー」 患者:「あの・・・」 歯科医:「はい?どうしました?質問ですか?」 患者:「スカルチノフって・・・どういう意味ですか?」 歯科医:「えっ、ご存知ない? 歯科医:荒巻(あらまき)スカルチノフ」 患者:「なんですかそれ?歯科の用語ですか?」 歯科医:「アスキーアートです」 患者:「えっ?」 歯科医:「だから、アスキーアートです。 歯科医:ネットでよく見るやつ」 患者:「どういう状態なんですか?」 歯科医:「はい?」 患者:「どういう状態のことなんですか? 患者:スカルチノってるって」 歯科医:「おや?もしかして、ネット用語にはお詳しくない?」 患者:「いや・・・だって、歯医者に来てネット用語出てくると思わないじゃないですか」 歯科医:「ああ、言われてみればそうですね」 患者:「言われなくてもそうでしょう」 歯科医:「いやぁ、申し訳ない。個人的には分かりやすい例えだと思ってたんですけど」 患者:「思ってても、伝わらなきゃ意味無いですよね?」 歯科医:「そうですねー。はっはっは」 患者:「・・・で、具体的にどういう状態なんですか、スカルチノフ」 歯科医:「・・・横向きで生えてる、って意味です」 患者:「そう言った方が早いじゃないですか」 歯科医:「ああ、申し訳ない。 歯科医:昨夜は深夜二時までネットサーフィンしてて」 患者:「それ・・・今から処置する人間の前で言っていい事なんですか?」 歯科医:「大丈夫です。二時から十時まで寝たんで」 患者:「・・・ここ、診療開始って九時からですよね?」 歯科医:「大丈夫です。遅刻してきたので」 患者:「どこが大丈夫なんでしょうか?」 歯科医:「安心してください。 歯科医:遅刻はしましたが私、凄腕(すごうで)なので」 患者:「自分で言う人ほど、信用ならないんだよなぁー・・・」 歯科医:「ちなみに、凄腕の私の見立てでは、ここまで横向きだと歯を割って抜くことになるかな、と」 患者:「歯を割る・・・ですか」 歯科医:「そうそう、分割抜歯(ぶんかつばっし)っていうんですけどね。 歯科医:このスカルチノフの頭のあたりをこう・・・ズバッと割って・・・」 患者:「やめてもらえますかねぇ!その例え! 患者:なんか罪悪感すごいんで!」 歯科医:「わかりやすいかと思ったんですけど・・・」 患者:「ええ!スカルチノフはわかりませんが、スカルチノフに対して残酷な事をするんだなぁ、ってことだけはわかりました!」 歯科医:「人は・・・誰かの犠牲の上に存在してるんですよ・・・」 患者:「ただ親知らずを抜くだけで、なぜ犠牲云々(うんぬん)の話になるのか・・・」 歯科医:「まぁ、ごちゃごちゃ言ってても仕方ないんで、とっとと始めちゃいますか!」 患者:「そんな軽いノリで大丈夫ですか?」 歯科医:「大丈夫です!大丈夫です! 歯科医:私、凄腕なんで!」 患者:「はぁ・・・」 歯科医:「あっ、ちなみにコースどうします?」 患者:「こー・・・何ですって?」 歯科医:「コースですよ、コース。 歯科医:抜く前に決めておいてもらいたくて」 患者:「いや、聞いたことないんですけど」 歯科医:「はい?」 患者:「だから、親知らず抜くのにコース設定とか、聞いたことないんですけど」 歯科医:「ちなみに、こちらが料金表になってまして・・・」 患者:「話進めないでくださいってば」 歯科医:「安心してください。 歯科医:うち、クレジットカードも使えますから」 患者:「いや、そういう問題じゃなくて」 歯科医:「自費診療(じひしんりょう)の一泊二日のコースと保険内(ほけんない)でできる日帰りコースありますけど、どっちにします?」 患者:「むしろ、歯医者で一泊二日ってどうするんですか?」 歯科医:「美味しい食事を一日目にたらふく食べて、二日目に親知らずを抜く」 患者:「それはそれで嫌だわ」 歯科医:「当院では別名『最後の晩餐(ばんさん)』コースと呼んでます」 患者:「名前がとても不吉なので、普通に日帰りでお願いします」 歯科医:「じゃあ、日帰りコースで始めていきますねー。 歯科医:(小声)チッ・・・あと一人で今月ノルマ達成だったんだけどなぁ・・・」 患者:「ノルマ?ねぇ、ノルマって何です?」 歯科医:「はいはーい!では麻酔から始めますねー! 歯科医:お口開けてくださーい!」 患者:「えっ、あっ、はい。あーーー」 歯科医:「はーい、一本目打ち終わりましたー! 歯科医:はい、もう一本行きますよー! 歯科医:今度は神経に打ちますからねー! 歯科医:痺れてきますよ!神経がもうめっちゃ痺れる!」 患者:「うあーーー」 歯科医:「二本目行きますよー!頑張ってー! 歯科医:はい、一気にいきましょう!一気に!」 患者:「うーーーあーーー」 歯科医:「○○(キャスト名)のちょっと良いとこ見てみたい! 歯科医:はい、一気一気!一気一気!」 患者:「・・・ちょっと!」 歯科医:「うわぁ、ダメじゃないですか。麻酔中に動いちゃ」 患者:「一気って」 歯科医:「はい?」 患者:「なんでノリがホストクラブなんですか」 歯科医:「いや・・・その方が楽しいかなって」 患者:「・・・うるさいんですよ」 歯科医:「はい?」 患者:「こちとら痛い思いしてるのに、耳元であんな風に騒がれたらね。 患者:うるさくて堪らないんですよ」 歯科医:「ああ、痛かったんですか?」 患者:「痛いですよ。あんな容赦なく麻酔打たれちゃ」 歯科医:「結構ノリで誤魔化せるんですけどねぇ・・・」 患者:「誤魔化すって今言いました?」 歯科医:「まぁまぁ・・・もう一本いっとく?」 患者:「いや、もう結構です。 患者:今だいぶ効いてきたので。 患者:そんな軽いノリで何本も打ち込まれたら困ります」 歯科医:「チャージ料かかりませんよ?」 患者:「いや、だから飲み屋かって」 歯科医:「わかりました、わかりましたー。 歯科医:じゃあ、麻酔も効いてきたみたいなので、歯を抜いていきますねー。 歯科医:はーい、お口開けてー」 患者:「あーーー」 歯科医:「あー・・・これはまず歯茎を切開(せっかい)しないとダメですねー。 歯科医:麻酔効いてるんで、痛みは無いと思います。安心してくださいねー」 患者:「うあーーー」 歯科医:「はい、じゃあいきますよー・・・メス」 患者:「うーーー」 歯科医:「次、フォーク」 患者:「あ?」 歯科医:「・・・いただきます」 患者:「・・・ちょっと!?」 歯科医:「うわぁ!だから危ないですって。 歯科医:こちとら刃物使ってるんですよ? 歯科医:勝手に動かれちゃ・・・」 患者:「・・・いや、フォークって」 歯科医:「えっ?何か?」 患者:「フォークって、歯科の道具ですか?」 歯科医:「いや、普通に食事の時に使うアレですけど?」 患者:「おかしいでしょ」 歯科医:「どのあたりが?」 患者:「歯を抜くのにフォーク持ち出すの、おかしいでしょ」 歯科医:「あっ、ちゃんと外側に置いてあるのから使いましたよ?」 患者:「いや、マナーの話じゃなくて」 歯科医:「滅菌(めっきん)はしてありますから」 患者:「消毒とかそういう話でもなくて・・・普通に怖いんですよ」 歯科医:「どのあたりが?」 患者:「親知らず抜くのに、メスとフォーク使って人の口の中で晩餐会(ばんさんかい)しようとするアナタが」 歯科医:「ちょっとお腹すいちゃって・・・。 歯科医:朝ご飯・・・食べる時間無かったんで・・・」 患者:「そりゃあそうでしょうね。 患者:遅刻したんですもんね」 歯科医:「あの時、もう一本動画見ようとせず、寝ておけば良かったのに・・・」 患者:「そういう後悔とかは今いいんで、処置に集中してもらっていいですかね?」 歯科医:「仕方ないじゃないですか・・・ 歯科医:可愛かったんですよぉ・・・ネコチャン・・・」 患者:「ネコチャンに想いを馳せるのは大変結構なんですが、いざ始めちゃった以上早く抜いてもらえませんかね? 患者:口の中、大変なことになってるんですよ」 歯科医:「ああ、申し訳ない。じゃあ、続けますねー。 歯科医:さぁ、いよいよ歯を割りますよー。 歯科医:良いですかー?」 患者:「あーい」 歯科医:「はい、ちょっとすごい音するかもしれませんけど、頑張ってくださいねー。 歯科医:はーい、いきますよー」 患者:「あーい」 歯科医:「(一本締めの掛け声のように)ヨォ~~~オ!!」 患者:「ゲホッゴホッ!!」 歯科医:「うわっ、汚っ!」 患者:「なんですか・・・その掛け声」 歯科医:「えっ、気合い入れようと思って」 患者:「ヨ~~~ォって」 歯科医:「あっ、せーの!って付けた方が良かったですか?」 患者:「いやいやいや、そういう話ではなくて」 歯科医:「ソイヤッ!!とか?」 患者:「掛け声に変化が欲しいわけでもなくてですね」 歯科医:「あっ!すみません! 歯科医:私としたことが、口上(こうじょう)を忘れてました!」 患者:「は?」 歯科医:「東西(とうざい)~!東西~! 歯科医:只今より、○○(キャスト名)様の親知らずが無事に抜ける事を祈り~・・・」 患者:「いや、それ」 歯科医:「何か?」 患者:「鏡割りじゃないんですよ」 歯科医:「えっ」 患者:「アナタが割るのは酒樽(さかだる)じゃなくて、歯なんですよ」 歯科医:「はい」 患者:「だから、口上も掛け声もいらないんですけど」 歯科医:「いや、知ってますが」 患者:「じゃあ、なんでやろうと思ったんですか」 歯科医:「・・・験担ぎ(げんかつぎ)?」 患者:「験担ぎせず、実力で歯を抜いて欲しいんですけど」 歯科医:「運も実力のうちって言うじゃないですか」 患者:「言いますけどその言葉、使い所を間違えるととても不安になるので、心の内に留めておいて頂きたかった・・・」 歯科医:「大丈夫です!安心してください! 歯科医:私、腕は確かなんで!」 患者:「本当ですか・・・?」 歯科医:「はい!凄腕ですから!」 患者:「・・・そこだけやたら声高(こわだか)に主張するんだよなぁ・・・」 歯科医:「あっ、そういえば気分が乗らないなーと思ったら、今日BGMかけ忘れてました。 歯科医:かけても大丈夫ですか?」 患者:「ああ、BGMですか?別にいいですけど・・・」 歯科医:「ありがとうございます。 歯科医:これが無いと全然調子出なくてー」 患者:「あー、オペの時に自分の好きな音楽流す外科の先生居るらしいですからねー」 歯科医:「ねー。カッコイイですよね。 歯科医:クラシックのリズムで優雅にオペとかー」 患者:「・・・ちなみに先生は何を流すんですか?」 歯科医:「ウルトラソウルです」 患者:「えっ」 歯科医:「ウルトラソウルです」 患者:「いや、二回言わなくても聞こえてます」 歯科医:「ウルトラソウッ!です」 患者:「言い方を変えて欲しいわけでもなくてですね」 歯科医:「暑い時期にはピッタリの曲ですよねー」 患者:「季節感はどうでもいいんですよ。 患者:治療をするのに、何故そのチョイスなのかが気になってるんですよ。こちとら」 歯科医:「えっ、リズム感最高なんですよ」 患者:「リズム感?」 歯科医:「ええ、ウルトラソウッ!ハァイ!のリズムで抜歯(ばっし)」 患者:「ヒエッ・・・」 歯科医:「爽快に抜けますから。 歯科医:クセになりますから・・・」 患者:「怖い怖い怖い・・・」 歯科医:「さぁさぁ・・・早くしないと麻酔切れちゃいますし、とっとと観念した方がいいですよ・・・ 歯科医:凄腕の私に身を任せて・・・」 患者:「ひ、ひええ・・・」 歯科医:「はぁーい・・・お口開けてくださーい。 歯科医:まずは歯を割るところから・・・」 患者:(患者、食い気味に) 患者:「チェンジで!」 歯科医:「えっ?」 患者:「チェンジで!!」 歯科医:「はい?」 患者:「もう無理です!もう限界です! 患者:先生変えてください!」 歯科医:「えっ・・・えー・・・」 患者:「何で嫌そうなんですか!?」 歯科医:「嫌って言うか・・・その・・・ 歯科医:えぇー・・・変えます?」 患者:「変えてください! 患者:もうアナタには任せられない!」 歯科医:「あー・・・なるほど、はいはい・・・わかりました・・・ 歯科医:それでは・・・この指名表からお好きなドクターを選んで頂いて・・・」 患者:「指名表・・・? 患者:えっ・・・じゃあ、院長先生・・・でお願いできます・・・?」 歯科医:「はーい、わかりました。 歯科医:ではでは・・・」 0:(少し間) 歯科医:「院長!ご指名入りまぁす!」 患者:「いや、ホストクラブかよ!!!」 0:~FIN~

歯科医:「あっ、すみません!お待たせいたしましたー。 歯科医:えーと、○○さん(キャスト名)、本日はよろしくお願いいたしますー」 患者:「あっ、よろしくお願いしますー」 歯科医:「えーと、本日は下アゴの奥の歯茎が腫れているということで」 患者:「はい。二、三日前くらいから腫れてきて・・・」 歯科医:「なるほどなるほど、ちょっと拝見しますねー・・・。 歯科医:あー、親知らず生えてきてますね。 歯科医:それが原因で腫れちゃってますねー」 患者:「えー・・・そうなんですかー」 歯科医:「どうしますー? 歯科医:日本人の場合はアゴが小さいので、親知らずがしっかり生えてくる方少ないんですよ。 歯科医:いっそ抜いちゃいます?」 患者:「抜いた方がいいですか?」 歯科医:「奥の方って磨きづらいんで虫歯になりやすいし、食べカス溜まって腫(は)れることも多いんで、抜いた方が後々楽かもしれませんね」 患者:「そうですかー。なら抜いてもらちゃおうかなー」 歯科医:「わかりました。 歯科医:じゃあ、まず処置を始める前に先程撮ったレントゲンをご覧になって頂きたいのですが・・・ここ、見えます? 歯科医:見事にスカルチノフしてる親知らず」 患者:「・・・えっ?」 歯科医:「いやー、私も長年この仕事してますけどねー。 歯科医:ここまで見事にスカルチノってる親知らず久々ですねー。 歯科医:これはなかなか手強いぞォー」 患者:「あの・・・」 歯科医:「はい?どうしました?質問ですか?」 患者:「スカルチノフって・・・どういう意味ですか?」 歯科医:「えっ、ご存知ない? 歯科医:荒巻(あらまき)スカルチノフ」 患者:「なんですかそれ?歯科の用語ですか?」 歯科医:「アスキーアートです」 患者:「えっ?」 歯科医:「だから、アスキーアートです。 歯科医:ネットでよく見るやつ」 患者:「どういう状態なんですか?」 歯科医:「はい?」 患者:「どういう状態のことなんですか? 患者:スカルチノってるって」 歯科医:「おや?もしかして、ネット用語にはお詳しくない?」 患者:「いや・・・だって、歯医者に来てネット用語出てくると思わないじゃないですか」 歯科医:「ああ、言われてみればそうですね」 患者:「言われなくてもそうでしょう」 歯科医:「いやぁ、申し訳ない。個人的には分かりやすい例えだと思ってたんですけど」 患者:「思ってても、伝わらなきゃ意味無いですよね?」 歯科医:「そうですねー。はっはっは」 患者:「・・・で、具体的にどういう状態なんですか、スカルチノフ」 歯科医:「・・・横向きで生えてる、って意味です」 患者:「そう言った方が早いじゃないですか」 歯科医:「ああ、申し訳ない。 歯科医:昨夜は深夜二時までネットサーフィンしてて」 患者:「それ・・・今から処置する人間の前で言っていい事なんですか?」 歯科医:「大丈夫です。二時から十時まで寝たんで」 患者:「・・・ここ、診療開始って九時からですよね?」 歯科医:「大丈夫です。遅刻してきたので」 患者:「どこが大丈夫なんでしょうか?」 歯科医:「安心してください。 歯科医:遅刻はしましたが私、凄腕(すごうで)なので」 患者:「自分で言う人ほど、信用ならないんだよなぁー・・・」 歯科医:「ちなみに、凄腕の私の見立てでは、ここまで横向きだと歯を割って抜くことになるかな、と」 患者:「歯を割る・・・ですか」 歯科医:「そうそう、分割抜歯(ぶんかつばっし)っていうんですけどね。 歯科医:このスカルチノフの頭のあたりをこう・・・ズバッと割って・・・」 患者:「やめてもらえますかねぇ!その例え! 患者:なんか罪悪感すごいんで!」 歯科医:「わかりやすいかと思ったんですけど・・・」 患者:「ええ!スカルチノフはわかりませんが、スカルチノフに対して残酷な事をするんだなぁ、ってことだけはわかりました!」 歯科医:「人は・・・誰かの犠牲の上に存在してるんですよ・・・」 患者:「ただ親知らずを抜くだけで、なぜ犠牲云々(うんぬん)の話になるのか・・・」 歯科医:「まぁ、ごちゃごちゃ言ってても仕方ないんで、とっとと始めちゃいますか!」 患者:「そんな軽いノリで大丈夫ですか?」 歯科医:「大丈夫です!大丈夫です! 歯科医:私、凄腕なんで!」 患者:「はぁ・・・」 歯科医:「あっ、ちなみにコースどうします?」 患者:「こー・・・何ですって?」 歯科医:「コースですよ、コース。 歯科医:抜く前に決めておいてもらいたくて」 患者:「いや、聞いたことないんですけど」 歯科医:「はい?」 患者:「だから、親知らず抜くのにコース設定とか、聞いたことないんですけど」 歯科医:「ちなみに、こちらが料金表になってまして・・・」 患者:「話進めないでくださいってば」 歯科医:「安心してください。 歯科医:うち、クレジットカードも使えますから」 患者:「いや、そういう問題じゃなくて」 歯科医:「自費診療(じひしんりょう)の一泊二日のコースと保険内(ほけんない)でできる日帰りコースありますけど、どっちにします?」 患者:「むしろ、歯医者で一泊二日ってどうするんですか?」 歯科医:「美味しい食事を一日目にたらふく食べて、二日目に親知らずを抜く」 患者:「それはそれで嫌だわ」 歯科医:「当院では別名『最後の晩餐(ばんさん)』コースと呼んでます」 患者:「名前がとても不吉なので、普通に日帰りでお願いします」 歯科医:「じゃあ、日帰りコースで始めていきますねー。 歯科医:(小声)チッ・・・あと一人で今月ノルマ達成だったんだけどなぁ・・・」 患者:「ノルマ?ねぇ、ノルマって何です?」 歯科医:「はいはーい!では麻酔から始めますねー! 歯科医:お口開けてくださーい!」 患者:「えっ、あっ、はい。あーーー」 歯科医:「はーい、一本目打ち終わりましたー! 歯科医:はい、もう一本行きますよー! 歯科医:今度は神経に打ちますからねー! 歯科医:痺れてきますよ!神経がもうめっちゃ痺れる!」 患者:「うあーーー」 歯科医:「二本目行きますよー!頑張ってー! 歯科医:はい、一気にいきましょう!一気に!」 患者:「うーーーあーーー」 歯科医:「○○(キャスト名)のちょっと良いとこ見てみたい! 歯科医:はい、一気一気!一気一気!」 患者:「・・・ちょっと!」 歯科医:「うわぁ、ダメじゃないですか。麻酔中に動いちゃ」 患者:「一気って」 歯科医:「はい?」 患者:「なんでノリがホストクラブなんですか」 歯科医:「いや・・・その方が楽しいかなって」 患者:「・・・うるさいんですよ」 歯科医:「はい?」 患者:「こちとら痛い思いしてるのに、耳元であんな風に騒がれたらね。 患者:うるさくて堪らないんですよ」 歯科医:「ああ、痛かったんですか?」 患者:「痛いですよ。あんな容赦なく麻酔打たれちゃ」 歯科医:「結構ノリで誤魔化せるんですけどねぇ・・・」 患者:「誤魔化すって今言いました?」 歯科医:「まぁまぁ・・・もう一本いっとく?」 患者:「いや、もう結構です。 患者:今だいぶ効いてきたので。 患者:そんな軽いノリで何本も打ち込まれたら困ります」 歯科医:「チャージ料かかりませんよ?」 患者:「いや、だから飲み屋かって」 歯科医:「わかりました、わかりましたー。 歯科医:じゃあ、麻酔も効いてきたみたいなので、歯を抜いていきますねー。 歯科医:はーい、お口開けてー」 患者:「あーーー」 歯科医:「あー・・・これはまず歯茎を切開(せっかい)しないとダメですねー。 歯科医:麻酔効いてるんで、痛みは無いと思います。安心してくださいねー」 患者:「うあーーー」 歯科医:「はい、じゃあいきますよー・・・メス」 患者:「うーーー」 歯科医:「次、フォーク」 患者:「あ?」 歯科医:「・・・いただきます」 患者:「・・・ちょっと!?」 歯科医:「うわぁ!だから危ないですって。 歯科医:こちとら刃物使ってるんですよ? 歯科医:勝手に動かれちゃ・・・」 患者:「・・・いや、フォークって」 歯科医:「えっ?何か?」 患者:「フォークって、歯科の道具ですか?」 歯科医:「いや、普通に食事の時に使うアレですけど?」 患者:「おかしいでしょ」 歯科医:「どのあたりが?」 患者:「歯を抜くのにフォーク持ち出すの、おかしいでしょ」 歯科医:「あっ、ちゃんと外側に置いてあるのから使いましたよ?」 患者:「いや、マナーの話じゃなくて」 歯科医:「滅菌(めっきん)はしてありますから」 患者:「消毒とかそういう話でもなくて・・・普通に怖いんですよ」 歯科医:「どのあたりが?」 患者:「親知らず抜くのに、メスとフォーク使って人の口の中で晩餐会(ばんさんかい)しようとするアナタが」 歯科医:「ちょっとお腹すいちゃって・・・。 歯科医:朝ご飯・・・食べる時間無かったんで・・・」 患者:「そりゃあそうでしょうね。 患者:遅刻したんですもんね」 歯科医:「あの時、もう一本動画見ようとせず、寝ておけば良かったのに・・・」 患者:「そういう後悔とかは今いいんで、処置に集中してもらっていいですかね?」 歯科医:「仕方ないじゃないですか・・・ 歯科医:可愛かったんですよぉ・・・ネコチャン・・・」 患者:「ネコチャンに想いを馳せるのは大変結構なんですが、いざ始めちゃった以上早く抜いてもらえませんかね? 患者:口の中、大変なことになってるんですよ」 歯科医:「ああ、申し訳ない。じゃあ、続けますねー。 歯科医:さぁ、いよいよ歯を割りますよー。 歯科医:良いですかー?」 患者:「あーい」 歯科医:「はい、ちょっとすごい音するかもしれませんけど、頑張ってくださいねー。 歯科医:はーい、いきますよー」 患者:「あーい」 歯科医:「(一本締めの掛け声のように)ヨォ~~~オ!!」 患者:「ゲホッゴホッ!!」 歯科医:「うわっ、汚っ!」 患者:「なんですか・・・その掛け声」 歯科医:「えっ、気合い入れようと思って」 患者:「ヨ~~~ォって」 歯科医:「あっ、せーの!って付けた方が良かったですか?」 患者:「いやいやいや、そういう話ではなくて」 歯科医:「ソイヤッ!!とか?」 患者:「掛け声に変化が欲しいわけでもなくてですね」 歯科医:「あっ!すみません! 歯科医:私としたことが、口上(こうじょう)を忘れてました!」 患者:「は?」 歯科医:「東西(とうざい)~!東西~! 歯科医:只今より、○○(キャスト名)様の親知らずが無事に抜ける事を祈り~・・・」 患者:「いや、それ」 歯科医:「何か?」 患者:「鏡割りじゃないんですよ」 歯科医:「えっ」 患者:「アナタが割るのは酒樽(さかだる)じゃなくて、歯なんですよ」 歯科医:「はい」 患者:「だから、口上も掛け声もいらないんですけど」 歯科医:「いや、知ってますが」 患者:「じゃあ、なんでやろうと思ったんですか」 歯科医:「・・・験担ぎ(げんかつぎ)?」 患者:「験担ぎせず、実力で歯を抜いて欲しいんですけど」 歯科医:「運も実力のうちって言うじゃないですか」 患者:「言いますけどその言葉、使い所を間違えるととても不安になるので、心の内に留めておいて頂きたかった・・・」 歯科医:「大丈夫です!安心してください! 歯科医:私、腕は確かなんで!」 患者:「本当ですか・・・?」 歯科医:「はい!凄腕ですから!」 患者:「・・・そこだけやたら声高(こわだか)に主張するんだよなぁ・・・」 歯科医:「あっ、そういえば気分が乗らないなーと思ったら、今日BGMかけ忘れてました。 歯科医:かけても大丈夫ですか?」 患者:「ああ、BGMですか?別にいいですけど・・・」 歯科医:「ありがとうございます。 歯科医:これが無いと全然調子出なくてー」 患者:「あー、オペの時に自分の好きな音楽流す外科の先生居るらしいですからねー」 歯科医:「ねー。カッコイイですよね。 歯科医:クラシックのリズムで優雅にオペとかー」 患者:「・・・ちなみに先生は何を流すんですか?」 歯科医:「ウルトラソウルです」 患者:「えっ」 歯科医:「ウルトラソウルです」 患者:「いや、二回言わなくても聞こえてます」 歯科医:「ウルトラソウッ!です」 患者:「言い方を変えて欲しいわけでもなくてですね」 歯科医:「暑い時期にはピッタリの曲ですよねー」 患者:「季節感はどうでもいいんですよ。 患者:治療をするのに、何故そのチョイスなのかが気になってるんですよ。こちとら」 歯科医:「えっ、リズム感最高なんですよ」 患者:「リズム感?」 歯科医:「ええ、ウルトラソウッ!ハァイ!のリズムで抜歯(ばっし)」 患者:「ヒエッ・・・」 歯科医:「爽快に抜けますから。 歯科医:クセになりますから・・・」 患者:「怖い怖い怖い・・・」 歯科医:「さぁさぁ・・・早くしないと麻酔切れちゃいますし、とっとと観念した方がいいですよ・・・ 歯科医:凄腕の私に身を任せて・・・」 患者:「ひ、ひええ・・・」 歯科医:「はぁーい・・・お口開けてくださーい。 歯科医:まずは歯を割るところから・・・」 患者:(患者、食い気味に) 患者:「チェンジで!」 歯科医:「えっ?」 患者:「チェンジで!!」 歯科医:「はい?」 患者:「もう無理です!もう限界です! 患者:先生変えてください!」 歯科医:「えっ・・・えー・・・」 患者:「何で嫌そうなんですか!?」 歯科医:「嫌って言うか・・・その・・・ 歯科医:えぇー・・・変えます?」 患者:「変えてください! 患者:もうアナタには任せられない!」 歯科医:「あー・・・なるほど、はいはい・・・わかりました・・・ 歯科医:それでは・・・この指名表からお好きなドクターを選んで頂いて・・・」 患者:「指名表・・・? 患者:えっ・・・じゃあ、院長先生・・・でお願いできます・・・?」 歯科医:「はーい、わかりました。 歯科医:ではでは・・・」 0:(少し間) 歯科医:「院長!ご指名入りまぁす!」 患者:「いや、ホストクラブかよ!!!」 0:~FIN~