台本概要

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タイトル ママ友探偵さくら組
作者名 Danzig
ジャンル ミステリー
演者人数 2人用台本(女2)
時間 40 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 ひまわり幼稚園に子どもを通わせる、水瀬 楓(みなせ かえで)と、坂下 布美花(さかした ふみか)。
子どもの入園当初からの、ママ友である二人、幼稚園は平和そのもの
だが、子どもが年長組になった頃に、小さな小さな事件が起きる

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
154 水瀬 楓(みなせ かえで)。 海斗(かいと)君のママ
布美花 143 坂下 布美花(さかした ふみか)。  由香(ゆか)ちゃんのママ
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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: : : 布美花(N):4月になると、新しい季節が始まる、新しい学校、新しい生活、そして、新しい出会い。 布美花(N):私が、楓(かえで)さんに初めて出会ったのも、こんな、桜の咲く春だった : : 楓(N):その年から、私の息子の海斗(かいと)が、家の近所にある「ひまわり幼稚園」に通う事となった。 楓(N):海斗にとっては、勿論、初めての幼稚園だが、私にとっても、親として、初めての幼稚園 楓(N):友達は出来るのか、集団生活に馴染(なじ)めるのか、先生は優しいのか・・・ 楓(N):そんな、不安いっぱいの入園式で、私は布美花(ふみか)さんに声をかけられた : 布美花:こんにちは : 楓:あ、こんにちは : 布美花:失礼ですけど、ひょっとして、お子さん、ゆり組ですか? : 楓:え、ええ、そうですけど : 布美花:よかった、私の娘もゆり組なんです。 : 楓:そうなんですか : 布美花:ええ、私、坂下(さかした)由香(ゆか)の母です。 布美花:よろしくお願いします。 : 楓:水瀬(みなせ)海斗の母です。 楓:こちらこそ、よろしくお願いします。 : 布美花:子供が幼稚園なんて、初めてなもので、もう、不安と緊張で、どうしたらいいか・・・ : 楓:私も初めてなんですよ、分からない事ばかりで、不安ですよね : 布美花:そうなんですよ! よかった、私と同じ、新米ママが居てくれて 布美花:これから、娘共々(むすめともども)、仲良くしてやって下さい。 : 楓:私の方こそ、分からない事ばかりなので、仲良くして頂けると助かります。 : 布美花:初めて同士、一緒に頑張りましょうね♪ : 楓:はい、よろしくお願いします。 : 布美花(N):それから、私と楓さんは、ママ友になった : 楓(N):お互いが幼稚園デビューという事もあって、私達は、分からない事や悩み事を、よく話し合った 楓(N):たまに、見送りの帰りに、喫茶店によって、趣味や愚痴を語り合ったりもした : 布美花(N):そして、何事もなく、2年が過ぎていった 布美花(N): 布美花(N): 布美花(N):由香は年長となり、クラスは海斗君と同じ、「さくら組」となった 布美花(N):さくら組の担任の、友美(ゆみ)先生は、今年3年目の若い先生だったが、可愛くて真面目な、園児に人気の先生 布美花(N):このまま、卒園まで、何もなく、過ぎてくれればいいのだけれど・・・ : 楓(N):クラス替えから、数週間たった、ある日、私はいつもの様に、幼稚園に海斗を迎えに行った 楓(N):各園児が、先生達と、お別れの挨拶をする中、布美花(ふみか)さんは、担任の友美先生に呼ばれて、暫く話をしていた : 布美花(N):その帰り道、私は、楓さんと、歩きながら帰路(きろ)についた 布美花(N):楓さんは、海斗君の手を引きながら、私は、自転車を引きながら : 楓:布美花さん、さっき友美先生と何を話してたの? : 布美花:それがね、由香の消しゴムが無くなったって話をされたのよ : 楓:無くなったって、どこで? : 布美花:教室の中らしいの : 楓:由香ちゃんが、無くしちゃったって事? : 布美花:無くしちゃったというより、無くなっちゃったって感じ : 楓:どういう事? : 布美花:由香は、「ひらがな練習」の時には、消しゴムはあったって言うんだけど、「お外遊び」の後で、教室に戻ってきたら、無くなってたらしいのよ : 楓:ふーん、カバンの中とかは? : 布美花:ポケットとか、カバンの中も見たらしいんだけど、無いんだって。 : 楓:それって、誰かに取られちゃったって事かな? : 布美花:うーん、キティちゃんの可愛い消しゴムだったからさ、誰かが取ったって事も、あるかもしれないんだけど 布美花:「お外遊び」は、さくら組全員でしてたらしいから、さくら組の誰かが取ったって事も考えにくいんだって : 楓:なるほど・・・なんだか不思議ね 楓:でも、取られたんじゃなければ、また出て来るわよ。 楓:やっぱりカバンの中に入ってたとか : 布美花:それならいいんだけどね・・・ 布美花:お気に入りの消しゴムだったから、この子もちょっと落ち込んじゃって : 楓:そっか・・・ : 布美花:でも、とりあえず、また新しい消しゴムを買わなきゃね、明日も「ひらがな練習」があるし : 楓:そうね : 布美花:じゃぁ、私、消しゴム買いに行くから、こっちから帰るわね 布美花:「由香、消しゴム買いに行こうね」 布美花:楓さん、じゃぁ、また明日 : 楓:うん、分かった。 じゃぁ、さよなら : 楓(N):その時、私は、由香ちゃんの消しゴムが無くなった事を、それほど気にも留めなかった 楓(N):消しゴムの大きさと同じような、小さな出来事の一つとしか思っていなかった : : 布美花(N):しかし、由香の消しゴムが無くなった、その3日後、 布美花(N):同じさくら組の、結菜(ゆいな)ちゃんの消しゴムが無くなった 布美花(N):結菜ちゃんの消しゴムも、由香と同じ、キティちゃんの消しゴムだった : 楓(N):私が違和感を感じ始めたのは、この時からだった : 布美花:これはもう、無くなったんじゃなくて、誰かに取られたと考えるべきよね : 楓(N):幼稚園のお迎えの帰り道、自転車を引きながら、布美花さんは言った 楓(N):幼稚園からも、子供が他の子の物を持ち帰っていないか、確認して欲しいという内容の手紙を渡された : 楓:でもさ、どうして、キティちゃんの消しゴムなんだろう : 布美花:そうよね、あの消しゴムって、特に、値段が高いって訳でもないし、珍しい物でもないし : 楓:普通に売ってるもんね : 布美花:そうなのよね。 珍しい物じゃないから、コレクターの仕業(しわざ)って訳でもなさそうだし 布美花:使い掛けだから、転売なんて、出来ないだろうしね : 楓:うーん、でも、それって大人の考えよね、子供なら単に「欲しい」ってだけで取っちゃうかもしれないし : 布美花:そっか・・・ : 楓:でも、なんだろうね、何か気になっちゃうよね : 布美花:気になるって、何が? : 楓:何がって、そりゃ、犯人は誰で、その動機(どうき)は何かって事よ : 布美花:楓さん、そういうのが好きなの? : 楓:そうなの、昔から探偵小説とか大好きで、謎解きとかワクワクするのよ : 布美花:そうなんだ・・・ 布美花:私はもう、これで終わってくれればなぁって思うわよ、園児(えんじ)同士で、蟠(わだかま)りが出来るのって嫌だもん : 楓:まぁ、確かにそうだね : : 楓(N):しかし、その5日後、布美花さんの期待に反して、また、消しゴムが無くなった 楓(N):今度も、同じさくら組の葵(あおい)ちゃんの消しゴムだった 楓(N):けれど、葵ちゃんの消しゴムは、キティちゃんのではなく、ディズニーキャラクターの消しゴムだった 楓(N): 楓(N): 楓(N):その次の日、私と布美花さんは、子供を幼稚園に送った後、この事件について話をした : 布美花:もう・・・どうなってるんだろうね、また消しゴムが無くなるなんて : 楓:うん、キティちゃんじゃなかったって事よね : 布美花:いや、そこ? : 楓:違うの? : 布美花:いやいや、問題なのは、幼稚園で物がなくなったって事でしょ。 布美花:それも、何人もの私物(しぶつ)が盗まれたかもしれないんだから : 楓:まぁ、そうなんだけど : 布美花:幼稚園でも、園児が取った可能性もあるから、警察には届けないけど、大きな問題だと思ってるって言ってるんだし : 楓:いや、それは分かるんだけどさ、 楓:外部の人間が侵入したとは思えないし、園内の誰かって事なら、それ程、大騒ぎする程でもないかなぁって 楓:これが、誘拐事件とかならまだしも : 布美花:そりゃ、そうだけどさ : 楓:だからさ、犯人は誰で、動機は何なのかって事の方が、興味があるのよ : 布美花:だったら、子供が取ったのなら、動機は単に「欲しかった」で終わりでしょ 布美花:ママに「買って欲しい」っていうより、取っちゃったほうが早いと思ったとか : 楓:だから、「どうして、欲しいと思ったのか」なのよ : 布美花:それは・・・消しゴムが可愛かったから? : 楓:でも、それなら1つ取ればいいんじゃない? 楓:由香ちゃんと、結菜(ゆいな)ちゃんの消しゴムは、「キティちゃん」の「同じ」消しゴムだったのよ : 布美花:確かに・・・そう考えると不思議よね : 楓:でしょ? : 布美花:確かに、確かに 布美花:ちょっと、面白いわね : 楓:でしょ、でしょ 楓:状況的に一番怪しいのは、担任の友美先生なんだけど、動機がないのよね・・・ : 布美花:うーん、じゃぁ、きっと犯人は子供よね : 楓:どうして? : 布美花:だって、大人だったとしたら、幼稚園の先生の誰かって事になるでしょ 布美花:先生が、生徒の使い掛けの消しゴムなんて、欲しがらないだろうし、 布美花:ましてや、幼稚園内で騒ぎになっているのに、わざわざ、3つ目の消しゴムを取ろうなんて思わないわよ : 楓:そうよね、私も子供かなぁとは思ってるんだけど・・・何か引っかかるのよねぇ : 布美花:うーん・・・ 布美花:あ、そうだ! : 楓:え? 何? : 布美花:被害者は、全員、女の子なんだから、犯人は男の子だったりして 布美花:ほら、好きな子の物が欲しかったとか : 楓:幼稚園児が? しかも3人の女の子を? 随分「ませた」男の子よね : 布美花:今の時代なら、あるかもしれないじゃない? : 楓:男の子ねぇ・・・男の子・・・男・・ 楓: 楓: 楓:男の子・・・ : 布美花:どうしたの? : 楓:今、ふと思った事があったんだけど : 布美花:何を? : 楓:いやいやいや、やっぱり、さすがに無いかなぁ : 布美花:だから、何よ : 楓:いや、いいよ、バカみたいな話だし : 布美花:気になるじゃない、教えてよ : 楓:うーん・・・ : 布美花:何?、何? : 楓:・・・ロリコン? : 布美花:え? : 楓:いや、大人でも、ロリコンなら、何人もの女の子の物を取るって事も、あり得るかなって・・・ : 布美花:それなら、幼稚園にいる男の先生って、園長先生と、斎藤先生と、竹内先生の3人よね、その内の誰かって事? : 楓:そうなんだけど、園長先生と竹内先生って、今の時期、近隣(きんりん)の小学校を回っていて、留守がちじゃない、 楓:昨日もいなかったし・・だから・・・ : 布美花:斎藤先生? : 楓:・・うん・・・ : : 布美花(N):私と楓さんの間に、妙な空気が流れた・・・ : : 楓(N):沈黙は、数秒だったのか、もっと長かったのかは分からない、 楓(N):そして、それを壊したのは、布美花さんだった : : 布美花:ま、まさか! それは流石(さすが)に考え過ぎよ : 楓:そ、そうよね、流石にね 楓: 楓:だから、言ったじゃない、無いかなぁって : 布美花:そうよ、ないない! 布美花:もう、楓さんって、小説の読み過ぎなんだって : 楓:そうかもね、 楓:流石に、私も自分でどうかしてると思ったわ : 布美花:ははは 布美花:じゃぁ、私、もう行くわ、お迎えまでに、洗濯もの干しちゃいたいから : 楓:うん、私も行かなきゃ : 布美花:うん、じゃぁね : 楓(N):私は、布美花さんと別れて家に向かった 楓(N): 楓(N): 楓(N):そして、何もない数日が過ぎて行った : 布美花(N):しかし、最後の事件から2週間が経った木曜日、 布美花(N):今度は「さくら組」のとなり、「バラ組」の園児、琴音(ことね)ちゃんのエンピツが無くなった 布美花(N): 布美花(N):私達がそれを知らされたのは、次の日の朝、子供を幼稚園に送った時だった : 楓(N):今度の事件は、「さくら組」でもなく、消しゴムでもなく、キャラクターものでも無かった 楓(N):他の事件と共通していたのは、年長クラスの「女の子」の私物(しぶつ)という事だけだった : : 布美花:ねぇ・・ : 楓:うん・・・ : 布美花:どう思う・・・ : 楓:うん・・・ : 布美花:やっぱりさぁ・・・ : 楓:うん・・・ : 布美花:斎藤先生? : 楓:いや、でも、まだハッキリとは・・・ : 布美花:でもさぁ、どう考えても : 楓:うん、斎藤先生が怪しいよね・・・ : 布美花:それにさぁ、由香も含めて、被害者の女の子達って・・ : 楓:そうなのよ、みんな、よく似た感じの顔立ちなのよね : 布美花:斎藤先生って、あぁいうのがタイプなのかな・・・ : 楓:うーん・・・ : 布美花:なんかさ、斎藤先生に、変な目で由香を見られてたのかと思うと、なんかこう・・気持ち悪いのよね 布美花:虫唾(むしず)が走るというか、腹が立つというか・・・ : 楓:うん・・・ : 布美花:楓さん、どうしたの? 布美花:さっきから、あんまり喋らないけど・・・ : 楓:幼稚園は、まだ斎藤先生の事に気づいてないんだよね? : 布美花:そうだけど・・・ 布美花:でも、もう斎藤先生で、確定っぽくない? : 楓:うーん・・・でも、本当に斎藤先生なのかな? : 布美花:何言ってるの、もともと楓さんが、斎藤先生が怪しいって言い出したんじゃない : 楓:そうなんだけどさ、何か「これ!」っていう証拠というか「決め手」が無いのよね 楓:何か大事な事を見落としているような気がして、仕方ないのよ : 布美花:それなら、斎藤先生の事を幼稚園に言えば、幼稚園が斎藤先生を調べてくれるんじゃない? : 楓:そうなんだろうけど・・・でも、もしそれで、違ってたら? : 布美花:違ってたらって・・・ : 楓:私達が幼稚園に「斎藤先生が怪しい」って言って、もし、違ってたら 楓:海斗(かいと)も由香ちゃんも、なんか幼稚園に居づらくなっちゃうじゃない、 : 布美花:それは、確かにそうだけど : 楓:もう少しで卒園(そつえん)じゃない。 今更、他の幼稚園に変わるって訳にもいかないし : 布美花:そっか : 楓:やっぱり、「決め手」がいるのよね・・・ : 布美花:楓さん・・・ : : 楓(N):そして、その日の夜 0: 0:自宅で旦那さんと話す楓 0: 楓:ねぇ、いいでしょ? ね、お願い! この通り! お願いだから・・・ 0: 0:頷く影 0: 楓:ホント? いいの? いいのね? やったぁ! : : 楓(N):私はその週の土曜日、海斗(かいと)を旦那(だんな)に預けて、一人で街に出かけていた : 楓:えーっと、確かこの辺りの筈(はず)だけど・・・ : 布美花:楓さん♪ : 楓:え? 布美花さん・・どうしたの? こんな所で・・・ : 布美花:楓さんこそ、こんな所で何をしてるの? : 楓:何してるのって・・・えーと、それは・・・ : 布美花:斎藤先生の証拠探しでしょ? 布美花:斎藤先生の住まいって、確かこの辺りだもんね : 楓:え? どうして? : 布美花:それくらい、楓さんを見てれば分かるわよ : 楓:そっか・・・バレてたのか 楓:じゃぁ、布美花さんは、どうしてここに? : 布美花:私も一緒よ 布美花:旦那が出張中だから、由香を実家に預けて来た : 楓:えーーー : 布美花:楓さんは、素人(しろうと)なんだから、一人じゃ無理だって 布美花:だから、私が手伝ってあげるのよ : 楓:でも、布美花さんだって素人でしょ? : 布美花:そりゃそうよ、だから、楓さんと、二人でバディを組むんじゃない。 一人より二人の方が上手く行くって。 布美花:それに、私も素人だけど、あの探偵アニメは欠かさず見てるんだから、役には立つと思うわよ : 楓:まぁ、アニメはともかく、そりゃ、一人よりは、布美花さんが居てくれれば心強いけど・・・ : 布美花:でしょ? 布美花:じゃぁ、二人でバディ結成ね、『ママ友探偵「さくら組」』! : 楓:え? そういうノリ? : 布美花:いいじゃない、楽しくて : 楓:まぁ、嫌じゃないけど : 布美花:でしょ、さぁ、行きましょ : : 楓(N):こうして、私と布美花さんで、探偵コンビを結成して、斎藤先生が犯人という「決め手」を探し始めた : 布美花:でもさぁ、証拠って言ったって、何を探せばいいんだろう? : 楓:うーん、物的(ぶってき)な証拠があれば一番いいんだけど、斎藤先生の家に忍び込む訳にはいかないし 楓:せめて、先生がロリコンっていう事が分かる何かがあれば・・・ : 布美花:そうねぇ・・・何があるんだろう・・・、 : 楓:あ! あれ、斎藤先生じゃない? : 布美花(N):楓さんが、指さす交差点の向こうに、斎藤先生がいた : 布美花:本当だ、斎藤先生、どこ行くんだろう : 楓:とにかく、尾行してみましょうよ : 布美花:そうね、何か分かるかもしれないし、 布美花:なんか、探偵っぽくて、ワクワクするわね。 : 楓:もう・・・そんなんじゃないって : 布美花:分かってるって、さぁ、行きましょう : : 布美花(N):そして、私達は、斎藤先生を尾行する事にした 布美花(N): 布美花(N):斎藤先生のその日の行動は、美容院に行って髪を切り、コンビニで立ち読みをした後に、喫茶店に入った : : 楓(N):私達も、同じ喫茶店に入る事にした。 楓(N):斎藤先生とは少し離れた席に座り、斎藤先生を見張る : : 布美花:でもさ、考えてみれば、ロリコンの証拠なんて、尾行して分かるものなのかなぁ・・ : 楓:そんな事言ったって、今は、尾行しか方法がないじゃない : 布美花:確かにそうだけど・・・ : 楓:ねぇ、ねぇ 楓:斎藤先生って、誰かと待ち合わせをしているみたいじゃない? : 布美花:そう言われてみれば、時間を気にしているみたいね : 楓:誰と待ち合わせしてるんだろう・・・ : 布美花:ひょっとして、ロリコン仲間かもよ : 楓:それは流石に・・・ : : 楓(N):10分程経った頃だろうか : 布美花:あ、誰か来たみたいよ : 楓:ホントだ・・・男の人・・・ : : 布美花(N):斎藤先生が待ち合わせていたのは、斎藤先生と同い年(おないどし)くらいの男性だった : 布美花:やっぱり : 楓:やっぱりって、まだ分からないじゃない : 布美花:でも、ほら : 楓(N):斎藤先生と、連れの男性は、二人で、男性の持って来た雑誌を見ながら、何やら話をしていた : 楓:ここからじゃ、何の雑誌か分からないね : 布美花:あれは絶対、女の子が載ってる雑誌だって、アイドルとかアニメとか : 楓:そうかなぁ : 布美花:だってさ、男の人が、雑誌見ながら話す事って他に何かある? : 楓:うーん : 布美花:あ、帰るみたいよ : 楓(N):斎藤先生は、男性から雑誌を受け取ると、二人分の料金を払って外へ出た 楓(N):私達も、その直ぐ後に喫茶店を後にした : 布美花:あぁ、二人、別れちゃったわね 布美花:私は、あの男の人の方を追うから、楓さんは、斎藤先生を追って : 楓:え? : 布美花:ほら、ぐずぐずしてると、斎藤先生行っちゃうわよ : 楓:う、うん、わかった : 楓(N):私は、布美花さんと別れて、引き続き斎藤先生を尾行した。 楓(N): 楓(N): 楓(N):私は、斎藤先生を尾行したが、斎藤先生は喫茶店を出た後、そのまま自宅に帰り、それ以降、外に出る事は無かった 楓(N):私は、何度も部屋を訪ねようかとは思ったが、その勇気が持てないまま、時間だけが過ぎて行った 楓(N):気付かないまま、午後4時30分を過ぎた頃、布美花さんから電話がかかって来た : 楓:もしもし : 布美花:楓さん? もう時間になっちゃったから、悪いけど、私、もう帰らなきゃなの : 楓:あ、ホントだ、もうこんな時間・・・私も帰らなきゃ : 布美花:じゃぁ、また後で電話するね : 楓:うん、わかった : 楓(N):少し名残惜(なごりお)しい感じはしたが、主婦である私は、夕飯を作る為に、家に帰らなければならなかった 楓(N):手早く夕飯の買い物を済ませ、大急ぎで家に帰って、夕飯の支度(したく)をする 楓(N): 楓(N):そして、その夕飯の支度をしている時、布美花さんから電話がかかって来た : 布美花:楓さん、そっちはどうだった? : 楓:それがね、斎藤先生は、あれから真っすぐ家に帰って、それからは、部屋から出て来なかったのよ : 布美花:そっか・・・そっちは収穫なしだったのね : 楓:「そっちは」って、布美花さんの方は、何か収穫があったの? : 布美花:ええ、そりゃね : 楓:そうなんだ、で、何がわかったの? : 布美花:私の方は、あれから、あの男性に声を掛けて、斎藤先生の事を聞いてみたのよ : 楓:えー! よくそんな事が出来たわね : 布美花:そりゃ、探偵ですから : 楓:・・・まぁ、それはいいとして 楓:それで? : 布美花:それでね、偶然、斎藤先生と一緒に居るところを見かけたって事にして、斎藤先生に内緒でプレゼントがしたいから、いろいろ教えて欲しいってお願いしたのよ : 楓:そうなんだ、よくそんな事思い付くね・・・で、それでどうだったの? : 布美花:うん・・それがね・・・斎藤先生、来月結婚するんだって : 楓:え!、ホントに? : 布美花:そうなのよ、斎藤先生は、その男の人に、結婚式の二次会の幹事を頼んでたらしいのよ。 布美花:で、喫茶店では、雑誌を見せて、2次会の場所の説明をしてたんだって : 楓:そうだったんだ・・・ : 布美花:うん・・・ 布美花:それでね、ここからが肝心なんだけど : 楓:うん : 布美花:その男性に、斎藤先生の女性の好みとかも聞いてみたのよ : 楓:そんな事も聞いたの? ・・・それで : 布美花:それがね、斎藤先生は、「年上のお姉さんタイプ」が好きなんだって : 楓:そう・・・なんだ・・ : 布美花:うん、結婚する人も、そういうタイプなんだって : 楓:それだと、ロリコンとは程遠いよね : 布美花:そうなのよね : 楓:そっか・・なんだか、振り出しに戻っちゃったね : 布美花:そうね・・ 布美花:でも、まぁ、幼稚園に言わなくてよかったじゃない : 楓:うん・・・ : 楓(N):私は心のどこかでホッとしていたが、それ以上に、真犯人が誰なのかという事が気になって仕方がなかった 楓(N):私達が思い違いをしていた何かを、もう一度、最初から整理して、考えてみないといけないなぁ : 布美花:あ、そうだ、そういえば、今日、友美先生も見かけたわよ : 楓:え? 友美先生って、担任の友美先生? : 布美花:そう、ファミレスで、男の人と会ってたのよ : 楓:へー、友美先生にも彼氏がいたんだね : 布美花:それがさ、恋人って雰囲気じゃなかったのよ 布美花:友美先生も難しそうな顔してたし、何だったんだろうね : 楓:それって、今日の帰りに見たんだよね? : 布美花:そうよ、岬町(みさきちょう)のファミレス : 楓:あれ? 友美先生って、たしか、山の手だったよね? どうして、わざわざ、そんな所で・・・ : 布美花:そんなの、男の方が、その辺りに住んでるからじゃないの? : 楓:まぁ、そうか・・・ : 布美花:楓さん、 : 楓:え? 何? : 布美花:今、斎藤先生の疑いが晴れちゃったからって、「今度は誰が怪しいだろう」とか考えてるんでしょ! : 楓:え・・・それは・・・ : 布美花:もう、楓さん、考えすぎだって : 楓:そっか : 布美花:そうよ、事件は一旦、振り出しに戻ったんだから、もう一度、最初から考えようよ : 楓:そうだね : 布美花:明日の日曜日はどうするの? : 楓:今日一日、家事をサボっちゃったから、さすがに明日は、家の事をやらなきゃね : 布美花:そうだね、じゃぁ、また月曜日ね : 楓:うん、それじゃぁ : 楓(N):そう言って、私は電話を切った 楓(N):そして、私は何とも言えない、もやもやした気持ちを抱えながら、夜を過ごす事となった 楓(N): 楓(N): 楓(N):私はもう一度、今回の事件を整理して考えてみる 楓(N):今、見えているものは、被害者の年齢が5歳くらいの女の子ばかりだという事 楓(N):他に何かあるだろうか・・ 楓(N):あ、そういえば・・・いや、でも流石にそんな事は・・ : : 布美花(N):斎藤先生の尾行から数日たった水曜日の朝、いつもの様に、由香を幼稚園に送りに行く 布美花(N):幼稚園へ向かう途中で、私はよく、琴音(ことね)ちゃんのママと一緒になる 布美花(N):琴音ちゃんのママは、シングルマザーで、いつも忙しそうにしている 布美花(N):そういえば、琴音ちゃんも、盗難の被害者だったわね : : 楓(N):私は、最近、毎日、盗難事件について考えながら、海斗(かいと)を幼稚園へ送っている 楓(N):しかし、幾ら考えても、解決の糸口が見えない・・ただ一つの非現実的な可能性を除けばなんだけど・・ : 布美花(N):私と琴音ちゃんのママは、いつもの交差点を曲がった 布美花(N):すると、向こうの方に、海斗君を連れた、楓さんが見えた、 : 布美花:楓さーん! : 楓(N):名前を呼ばれて振り返ると、布美花さんが私に向かって手を振っていた : 楓:あぁ、布美花さん : 楓(N):私が、布美花さんに向けて、手を振ろうとしたその時 : : 布美花:きゃぁ! : 楓(N):布美花さん達の、後ろから来た黒い車が、突然、布美花さん達の横で止まり、二人の男が降りて来た 楓(N):男達は、布美花さんと、琴音ちゃんのママを突き飛ばし、琴音ちゃんだけを車に乗せて、連れ去ってしまった 楓(N):そして、琴音ちゃんを乗せた車は、勢いよく、私の前を通り過ぎて行った : 楓:え? まさか・・ : 楓(N):私は、急いで、布美花さん達のところに駆け寄った : 楓:布美花さん、大丈夫? 琴音ちゃんのママも : 布美花:私は大丈夫だけど、琴音ちゃんが : 楓:ええ、とにかく警察に連絡しましょう : 布美花:そうね : 布美花(N):私は警察に電話をし、事の次第を説明した 布美花(N):琴音ちゃんのママに、犯人についての、心当たりを聞いてみたが、オロオロするばかりで、話が聞ける状態ではなかった 布美花(N):私達は、琴音ちゃんのママを幼稚園に連れて行き、警察を待つ事にした。 : : 楓(N):幼稚園につくと、園長先生に事情を話し、私達は警察が来るまで、一旦、職員室で待つ事となった。 楓(N): 楓(N):この時、私の頭の中で渦巻(うずま)いていた、ある種の疑念は、既に確信へと変わっていた 楓(N):そして、みんなが困惑し、落ち着けずにいる、その職員室の中で、私は友美先生の元へと歩み寄った : 楓:友美先生、今回の琴音ちゃんの誘拐事件、何か心当たりはありませんか? : 布美花:楓さん、どうしたの、突然、 布美花:それに、友美先生がって、どういう事? : 楓:園児の私物を盗んでいたのは、友美先生なのよ。 楓:そうですよね? 先生 : 布美花:そんな・・でも、どうして? : 楓:ある人物を探していたのよ。 : 布美花:ある人物って? : 楓:多分だけど、どこかの大金持ちの、落とし子か、何かの事情で必要になった、跡取りとか、遺産相続の権利を持つ孫(まご)とか : 布美花:え? : 楓:でも、その人物について分かっていたのは、5歳の女の子という事と、顔の特徴、住んでいる地域・・・ 楓:それくらいだったんじゃないかな 楓: 楓:ねぇ、先生。 だから、顔の特徴が似た子の私物を盗んで、指紋を調べていたんじゃないんですか? : 布美花(N):友美先生の表情が凍り付くのが分かる : 布美花:でも、もしそうだとして、どうして友美先生が盗んだって分かるのよ。 他の先生だって : 楓:何かを虱潰(しらみつぶ)しにする時って、まず、身近な所からやるでしょ? 楓:だから、「さくら組」の園児から盗まれたのなら、友美先生が一番怪しいのよ : 布美花:それは分かるけど、でも、それって、単なる状況証拠でしかないんじゃない? : 楓:布美花さんの言う通り、これは、あくまでも私の推理だし、勿論、状況証拠でしかないよ : 布美花:そうだよね、だったら : 楓:でも、調べたら、出てくると思うよ、琴音ちゃんの筆箱とかから、友美先生の指紋が、 楓:そして、おそらく、バラ組の他の園児の私物からは、友美先生の指紋は出て来ない : 布美花:あ! : 楓:さて、どうして、隣のクラスの先生の指紋が、琴音ちゃんの私物にだけ付いているのか、先生は説明できますか? : 布美花(N):楓さんの問い詰めに、友美先生は、その場に座り込んでしまった : 楓:さぁ、友美先生、答えて下さい。 琴音ちゃんを誘拐した犯人は、誰で、今、どこにいるんですか? : 布美花(N):友美先生は、観念したのか、正直に話し始めた 布美花(N):しかし、友美先生は、犯人については、殆(ほとん)ど知らなかった : : 楓(N):友美先生は、街で声を掛けてきた男と、園児の私物を1つ1万円で取引をしていた。 楓(N):男の目的は教えてもらえず、連絡も男から一方的に、非通知で掛かってくるだけだったようだ 楓(N):そして、土曜日に、布美花さんが見たという、友美先生と会っていた男が、その男だという事だった : 布美花:よくも、まぁ、そんな取引をしたものね。 布美花:どう見たって、怪しいじゃない 布美花:ホント、最近の若い子は・・ : 楓:そんな事より、琴音ちゃんを探さなきゃ : 布美花:そりゃそうだけど、どうやって探すのよ 布美花:それに、そういう事は、警察に任せるべきでしょ : 楓:犯人は、多分、まだ、岬町(みさきちょう)の近くのどこかに居ると思うのよ 楓:でも、琴音ちゃんを誘拐した後だと、場所を変えちゃう可能性が高いのよ、 楓:友美先生から場所が知られる危険があるから : 布美花:いや、そうかもしれないけどさ : 楓:布美花さんは、警察がここに来たら、経緯(いきさつ)を説明して。 楓:私は、ちょっと、琴音ちゃんを探してくる : 布美花:ちょっと、楓さん : : 楓(N):私はタクシーを拾い、急いで、布美花さんが、友美先生を見かけた、岬町方面へと向かった 楓(N):岬町の直ぐ近くには、貨物(かもつ)の倉庫街がある。 楓(N):犯行に使った車は、おそらく盗難車だろうけど、車を隠す事を考えれば、人気のない倉庫街が一番怪しい 楓(N):私はタクシーの運転手さんに、その倉庫街へと向かってもらった : 楓:この辺りなんだろうけど・・ : 楓(N):私は倉庫街を探して回った 楓(N):そして、いくつも並ぶ倉庫の中に、シャッターが半分開いている倉庫を見つけた : 楓:あれは・・ : 楓(N):その倉庫に近づいて、建物の中を覗(のぞ)いてみると、中に黒い車が止めてあるのが見えた : 楓:あの車・・・確か、あんな感じの車だったと思うけど・・ : 楓(N):車に詳しくない私は、あの車が犯行に使われた車かどうか、確信が持てなかった、しかも、車のナンバーも覚えていない 楓(N):困っていた所に、布美花さんから電話がかかって来た : 楓:もしもし : 布美花:あ、楓さん? 布美花:今、警察の人と話をしててね、琴音ちゃんを連れ去った車の車種と、ナンバープレートの番号を聞かれてるんだけど 布美花:私、分からなくて・・楓さん、知らない? : 楓:私も、車種とかは分からないのよ、ナンバーも覚えてないの : 布美花:そっか・・で、楓さんは、今どこにいるの? 何か分かった事でもあるの? : 楓:それがね、思った通り・・・あっ! : 布美花:あれ? 楓さん、どうしたの? 楓さん! 楓さん! : 楓(N):私は急に後ろから口を塞がれた。 強い力で羽交い絞(はがいじ)めにされ、建物の中に連れて行かれた。 楓(N):私が連れて行かれた先には、琴音ちゃんが、目隠しをされ、ロープで縛られていた : 楓:琴音ちゃん! : 楓(N):琴音ちゃんを見るや否や、私はロープで縛られ、目と耳を塞がれてしまった・・ 楓(N): 楓(N): 楓(N):あれから、どれくらい時間が経っただろうか・・・私は目と耳を塞がれている為か、時間の感覚が無くなっていた 楓(N):誘拐犯(ゆうかいはん)たちは、私を殺す算段でもしているのだろうか・・ 楓(N):誘拐犯にとって、琴音ちゃんを、生かしておく価値はあるだろうけど、 楓(N):私を生かしておく理由など殆どない。 殺されるなら、私からかなぁ・・ 楓(N):私は、いつ殺されてもおかしくないような、こんな状況の中で、自分でも不思議なほど冷静だった 楓(N): 楓(N): 楓(N):それから少しして、誰かが、私の体を掴んだ 楓(N):あぁ、殺されるんだ・・・私は漠然とそう思った、その時 : 布美花:楓さん! : 楓(N):目隠しを外されて、最初に目に入った人物は、布美花さんだった : 楓:布美花さん・・・ 楓:あぁぁぁ布美花さん、怖かったあぁ : 楓(N):あれだけ冷静だったのが、まるで嘘だったかのように、私の目からは、涙がボロボロ流れて止まらなかった : : 布美花(N):楓さんの電話が途中で途切れた事で、私は楓さんのいた場所に、誘拐犯もいる事を確信した 布美花(N):私は、楓さんの最後の「思った通り」という言葉から、「岬町近くの倉庫街」という答えを導き出し、警察と共に倉庫街へと向かった。 布美花(N):そして、そこで、今まさに、逃走しようとしていた誘拐犯らを見つけて逮捕し、事件は解決した。 布美花(N): 布美花(N):ちなみに、誘拐犯は、楓さんを殺す気は、全くなく、倉庫に置き去りにして逃げるつもりだったようだ : : 楓:事件が解決したという事で、今回の事件について、改めて考えて見ましょう。 : 布美花:楓さん! もう、無事だったから良かったようなものの、本当に心配したんだからね : 楓:いや、ホント、ごめんなさい : 布美花:ったく、 : 楓:でも、私の活躍があったから、犯人を捕まえられたんじゃない 楓:警察から、表彰状を貰ってもいいくらいだと思うけどなぁ : 布美花(N):でも、そんな、楓さんの期待に反して、楓さんは、警察から「危険な行為」をしたとして、こっぴどく怒られてしまいました : : 楓(N):まぁ、それはいいとして・・・ 楓(N):その後、警察の人が今回の事件の真相を、私達に教えてくれた。 : : 布美花(N):日本でも、5本の指に入る資産を持つと言われる「高見(たかみ)財閥」の、一人息子の、誠一郎(せいいちろう)さんと、琴音ちゃんのママとの間に、琴音ちゃんが産まれた。 布美花(N):この時、まだ二人は結婚をしていなかった為、誠一郎さんの父親で、高見財閥の総帥(そうすい)、高見義之(たかみ よしゆき)氏が、この二人の結婚を認めずに、二人を強引に別れさせた。 : : 楓:ひどい話だと思うけど、財閥とか、お金持ちの人達の世界では、よくある話なんだろうか : : 布美花(N):義之(よしゆき)氏は、誠一郎さんに、自分の気に入った女性と結婚させようとするが、誠一郎さんは、これを拒み続けた。 布美花(N):そして、誠一郎さんは、結婚をしないまま、2カ月前、交通事故で亡くなってしまったのだという。 : : 楓:結局、これで、義之氏の、血を引く人間は、琴音ちゃんだけになっちゃった訳ね : : 布美花(N):義之氏は、慌てて琴音ちゃんを探そうとするが、手掛かりがなく調査は難航(なんこう)する。 布美花(N):というのも、誠一郎さんは、義之氏に、琴音ちゃん達の事を、一切教えていなかったからだ。 : : 楓:そりゃ、言わないでしょうね、義之氏も聞こうとは、しなかったでしょうし : : 布美花(N):しかし、誠一郎さんは、別れさせれられてから、数年間、琴音ちゃんのママとは、連絡をとっていたようで、 布美花(N):小さな女の子が描いたと思われる絵と、顔写真の入った封筒を大切に持っていた 布美花(N):封筒には、差出人の住所は書いておらず、名前も偽名だったようだ : : 楓:住所もなく、名前が偽名でも、状況的に、それは、琴音ちゃんのママしか考えられないね : : 布美花(N):その手紙を遺品整理の時に見つけた、高見家の使用人が、義之氏には教えずに、こっそりと持ち出し、 布美花(N):それを知人に渡し、身代金を目的に、今回の犯行を計画したとの事だった : 楓:なるほど、それで、写真からは顔、絵からは指紋、封筒の配達記録から、大体の住所を知ったという訳ね : 布美花:ちなみに、警察によると、誘拐犯は、他の幼稚園でも、消しゴムやエンピツの盗難事件を起こしていたんですって : 楓:まぁ、大まかな住所からじゃ、幼稚園は特定しきれないもんね・・・ : : 布美花(N):こうして、由香の消しゴムが無くなったという、些細(ささい)な出来事から始まった、今回の騒動は 布美花(N):一連の盗難事件に、そして、最後は誘拐事件にまで発展し、犯人の逮捕という結末で幕を閉じた。 : : 楓(N):この騒動の後の「ひまわり幼稚園」は、ただただ、平凡な日常が続いた。 楓(N):そして、『ママ友探偵「さくら組」』の出番が、再び訪れる事もなく、 楓(N):次の年の3月、海斗(かいと)達は「ひまわり幼稚園」を卒園する事となった 楓(N): 楓(N):そして、海斗達の卒園と同時に、私と布美花さんの、『ママ友探偵「さくら組」』も、静かに解散をした : : 布美花:でも、いつでも復活するけどね、「さくら組」 : 楓:そんな事件が起きたらね 0: 0:完了 0:

: : : 布美花(N):4月になると、新しい季節が始まる、新しい学校、新しい生活、そして、新しい出会い。 布美花(N):私が、楓(かえで)さんに初めて出会ったのも、こんな、桜の咲く春だった : : 楓(N):その年から、私の息子の海斗(かいと)が、家の近所にある「ひまわり幼稚園」に通う事となった。 楓(N):海斗にとっては、勿論、初めての幼稚園だが、私にとっても、親として、初めての幼稚園 楓(N):友達は出来るのか、集団生活に馴染(なじ)めるのか、先生は優しいのか・・・ 楓(N):そんな、不安いっぱいの入園式で、私は布美花(ふみか)さんに声をかけられた : 布美花:こんにちは : 楓:あ、こんにちは : 布美花:失礼ですけど、ひょっとして、お子さん、ゆり組ですか? : 楓:え、ええ、そうですけど : 布美花:よかった、私の娘もゆり組なんです。 : 楓:そうなんですか : 布美花:ええ、私、坂下(さかした)由香(ゆか)の母です。 布美花:よろしくお願いします。 : 楓:水瀬(みなせ)海斗の母です。 楓:こちらこそ、よろしくお願いします。 : 布美花:子供が幼稚園なんて、初めてなもので、もう、不安と緊張で、どうしたらいいか・・・ : 楓:私も初めてなんですよ、分からない事ばかりで、不安ですよね : 布美花:そうなんですよ! よかった、私と同じ、新米ママが居てくれて 布美花:これから、娘共々(むすめともども)、仲良くしてやって下さい。 : 楓:私の方こそ、分からない事ばかりなので、仲良くして頂けると助かります。 : 布美花:初めて同士、一緒に頑張りましょうね♪ : 楓:はい、よろしくお願いします。 : 布美花(N):それから、私と楓さんは、ママ友になった : 楓(N):お互いが幼稚園デビューという事もあって、私達は、分からない事や悩み事を、よく話し合った 楓(N):たまに、見送りの帰りに、喫茶店によって、趣味や愚痴を語り合ったりもした : 布美花(N):そして、何事もなく、2年が過ぎていった 布美花(N): 布美花(N): 布美花(N):由香は年長となり、クラスは海斗君と同じ、「さくら組」となった 布美花(N):さくら組の担任の、友美(ゆみ)先生は、今年3年目の若い先生だったが、可愛くて真面目な、園児に人気の先生 布美花(N):このまま、卒園まで、何もなく、過ぎてくれればいいのだけれど・・・ : 楓(N):クラス替えから、数週間たった、ある日、私はいつもの様に、幼稚園に海斗を迎えに行った 楓(N):各園児が、先生達と、お別れの挨拶をする中、布美花(ふみか)さんは、担任の友美先生に呼ばれて、暫く話をしていた : 布美花(N):その帰り道、私は、楓さんと、歩きながら帰路(きろ)についた 布美花(N):楓さんは、海斗君の手を引きながら、私は、自転車を引きながら : 楓:布美花さん、さっき友美先生と何を話してたの? : 布美花:それがね、由香の消しゴムが無くなったって話をされたのよ : 楓:無くなったって、どこで? : 布美花:教室の中らしいの : 楓:由香ちゃんが、無くしちゃったって事? : 布美花:無くしちゃったというより、無くなっちゃったって感じ : 楓:どういう事? : 布美花:由香は、「ひらがな練習」の時には、消しゴムはあったって言うんだけど、「お外遊び」の後で、教室に戻ってきたら、無くなってたらしいのよ : 楓:ふーん、カバンの中とかは? : 布美花:ポケットとか、カバンの中も見たらしいんだけど、無いんだって。 : 楓:それって、誰かに取られちゃったって事かな? : 布美花:うーん、キティちゃんの可愛い消しゴムだったからさ、誰かが取ったって事も、あるかもしれないんだけど 布美花:「お外遊び」は、さくら組全員でしてたらしいから、さくら組の誰かが取ったって事も考えにくいんだって : 楓:なるほど・・・なんだか不思議ね 楓:でも、取られたんじゃなければ、また出て来るわよ。 楓:やっぱりカバンの中に入ってたとか : 布美花:それならいいんだけどね・・・ 布美花:お気に入りの消しゴムだったから、この子もちょっと落ち込んじゃって : 楓:そっか・・・ : 布美花:でも、とりあえず、また新しい消しゴムを買わなきゃね、明日も「ひらがな練習」があるし : 楓:そうね : 布美花:じゃぁ、私、消しゴム買いに行くから、こっちから帰るわね 布美花:「由香、消しゴム買いに行こうね」 布美花:楓さん、じゃぁ、また明日 : 楓:うん、分かった。 じゃぁ、さよなら : 楓(N):その時、私は、由香ちゃんの消しゴムが無くなった事を、それほど気にも留めなかった 楓(N):消しゴムの大きさと同じような、小さな出来事の一つとしか思っていなかった : : 布美花(N):しかし、由香の消しゴムが無くなった、その3日後、 布美花(N):同じさくら組の、結菜(ゆいな)ちゃんの消しゴムが無くなった 布美花(N):結菜ちゃんの消しゴムも、由香と同じ、キティちゃんの消しゴムだった : 楓(N):私が違和感を感じ始めたのは、この時からだった : 布美花:これはもう、無くなったんじゃなくて、誰かに取られたと考えるべきよね : 楓(N):幼稚園のお迎えの帰り道、自転車を引きながら、布美花さんは言った 楓(N):幼稚園からも、子供が他の子の物を持ち帰っていないか、確認して欲しいという内容の手紙を渡された : 楓:でもさ、どうして、キティちゃんの消しゴムなんだろう : 布美花:そうよね、あの消しゴムって、特に、値段が高いって訳でもないし、珍しい物でもないし : 楓:普通に売ってるもんね : 布美花:そうなのよね。 珍しい物じゃないから、コレクターの仕業(しわざ)って訳でもなさそうだし 布美花:使い掛けだから、転売なんて、出来ないだろうしね : 楓:うーん、でも、それって大人の考えよね、子供なら単に「欲しい」ってだけで取っちゃうかもしれないし : 布美花:そっか・・・ : 楓:でも、なんだろうね、何か気になっちゃうよね : 布美花:気になるって、何が? : 楓:何がって、そりゃ、犯人は誰で、その動機(どうき)は何かって事よ : 布美花:楓さん、そういうのが好きなの? : 楓:そうなの、昔から探偵小説とか大好きで、謎解きとかワクワクするのよ : 布美花:そうなんだ・・・ 布美花:私はもう、これで終わってくれればなぁって思うわよ、園児(えんじ)同士で、蟠(わだかま)りが出来るのって嫌だもん : 楓:まぁ、確かにそうだね : : 楓(N):しかし、その5日後、布美花さんの期待に反して、また、消しゴムが無くなった 楓(N):今度も、同じさくら組の葵(あおい)ちゃんの消しゴムだった 楓(N):けれど、葵ちゃんの消しゴムは、キティちゃんのではなく、ディズニーキャラクターの消しゴムだった 楓(N): 楓(N): 楓(N):その次の日、私と布美花さんは、子供を幼稚園に送った後、この事件について話をした : 布美花:もう・・・どうなってるんだろうね、また消しゴムが無くなるなんて : 楓:うん、キティちゃんじゃなかったって事よね : 布美花:いや、そこ? : 楓:違うの? : 布美花:いやいや、問題なのは、幼稚園で物がなくなったって事でしょ。 布美花:それも、何人もの私物(しぶつ)が盗まれたかもしれないんだから : 楓:まぁ、そうなんだけど : 布美花:幼稚園でも、園児が取った可能性もあるから、警察には届けないけど、大きな問題だと思ってるって言ってるんだし : 楓:いや、それは分かるんだけどさ、 楓:外部の人間が侵入したとは思えないし、園内の誰かって事なら、それ程、大騒ぎする程でもないかなぁって 楓:これが、誘拐事件とかならまだしも : 布美花:そりゃ、そうだけどさ : 楓:だからさ、犯人は誰で、動機は何なのかって事の方が、興味があるのよ : 布美花:だったら、子供が取ったのなら、動機は単に「欲しかった」で終わりでしょ 布美花:ママに「買って欲しい」っていうより、取っちゃったほうが早いと思ったとか : 楓:だから、「どうして、欲しいと思ったのか」なのよ : 布美花:それは・・・消しゴムが可愛かったから? : 楓:でも、それなら1つ取ればいいんじゃない? 楓:由香ちゃんと、結菜(ゆいな)ちゃんの消しゴムは、「キティちゃん」の「同じ」消しゴムだったのよ : 布美花:確かに・・・そう考えると不思議よね : 楓:でしょ? : 布美花:確かに、確かに 布美花:ちょっと、面白いわね : 楓:でしょ、でしょ 楓:状況的に一番怪しいのは、担任の友美先生なんだけど、動機がないのよね・・・ : 布美花:うーん、じゃぁ、きっと犯人は子供よね : 楓:どうして? : 布美花:だって、大人だったとしたら、幼稚園の先生の誰かって事になるでしょ 布美花:先生が、生徒の使い掛けの消しゴムなんて、欲しがらないだろうし、 布美花:ましてや、幼稚園内で騒ぎになっているのに、わざわざ、3つ目の消しゴムを取ろうなんて思わないわよ : 楓:そうよね、私も子供かなぁとは思ってるんだけど・・・何か引っかかるのよねぇ : 布美花:うーん・・・ 布美花:あ、そうだ! : 楓:え? 何? : 布美花:被害者は、全員、女の子なんだから、犯人は男の子だったりして 布美花:ほら、好きな子の物が欲しかったとか : 楓:幼稚園児が? しかも3人の女の子を? 随分「ませた」男の子よね : 布美花:今の時代なら、あるかもしれないじゃない? : 楓:男の子ねぇ・・・男の子・・・男・・ 楓: 楓: 楓:男の子・・・ : 布美花:どうしたの? : 楓:今、ふと思った事があったんだけど : 布美花:何を? : 楓:いやいやいや、やっぱり、さすがに無いかなぁ : 布美花:だから、何よ : 楓:いや、いいよ、バカみたいな話だし : 布美花:気になるじゃない、教えてよ : 楓:うーん・・・ : 布美花:何?、何? : 楓:・・・ロリコン? : 布美花:え? : 楓:いや、大人でも、ロリコンなら、何人もの女の子の物を取るって事も、あり得るかなって・・・ : 布美花:それなら、幼稚園にいる男の先生って、園長先生と、斎藤先生と、竹内先生の3人よね、その内の誰かって事? : 楓:そうなんだけど、園長先生と竹内先生って、今の時期、近隣(きんりん)の小学校を回っていて、留守がちじゃない、 楓:昨日もいなかったし・・だから・・・ : 布美花:斎藤先生? : 楓:・・うん・・・ : : 布美花(N):私と楓さんの間に、妙な空気が流れた・・・ : : 楓(N):沈黙は、数秒だったのか、もっと長かったのかは分からない、 楓(N):そして、それを壊したのは、布美花さんだった : : 布美花:ま、まさか! それは流石(さすが)に考え過ぎよ : 楓:そ、そうよね、流石にね 楓: 楓:だから、言ったじゃない、無いかなぁって : 布美花:そうよ、ないない! 布美花:もう、楓さんって、小説の読み過ぎなんだって : 楓:そうかもね、 楓:流石に、私も自分でどうかしてると思ったわ : 布美花:ははは 布美花:じゃぁ、私、もう行くわ、お迎えまでに、洗濯もの干しちゃいたいから : 楓:うん、私も行かなきゃ : 布美花:うん、じゃぁね : 楓(N):私は、布美花さんと別れて家に向かった 楓(N): 楓(N): 楓(N):そして、何もない数日が過ぎて行った : 布美花(N):しかし、最後の事件から2週間が経った木曜日、 布美花(N):今度は「さくら組」のとなり、「バラ組」の園児、琴音(ことね)ちゃんのエンピツが無くなった 布美花(N): 布美花(N):私達がそれを知らされたのは、次の日の朝、子供を幼稚園に送った時だった : 楓(N):今度の事件は、「さくら組」でもなく、消しゴムでもなく、キャラクターものでも無かった 楓(N):他の事件と共通していたのは、年長クラスの「女の子」の私物(しぶつ)という事だけだった : : 布美花:ねぇ・・ : 楓:うん・・・ : 布美花:どう思う・・・ : 楓:うん・・・ : 布美花:やっぱりさぁ・・・ : 楓:うん・・・ : 布美花:斎藤先生? : 楓:いや、でも、まだハッキリとは・・・ : 布美花:でもさぁ、どう考えても : 楓:うん、斎藤先生が怪しいよね・・・ : 布美花:それにさぁ、由香も含めて、被害者の女の子達って・・ : 楓:そうなのよ、みんな、よく似た感じの顔立ちなのよね : 布美花:斎藤先生って、あぁいうのがタイプなのかな・・・ : 楓:うーん・・・ : 布美花:なんかさ、斎藤先生に、変な目で由香を見られてたのかと思うと、なんかこう・・気持ち悪いのよね 布美花:虫唾(むしず)が走るというか、腹が立つというか・・・ : 楓:うん・・・ : 布美花:楓さん、どうしたの? 布美花:さっきから、あんまり喋らないけど・・・ : 楓:幼稚園は、まだ斎藤先生の事に気づいてないんだよね? : 布美花:そうだけど・・・ 布美花:でも、もう斎藤先生で、確定っぽくない? : 楓:うーん・・・でも、本当に斎藤先生なのかな? : 布美花:何言ってるの、もともと楓さんが、斎藤先生が怪しいって言い出したんじゃない : 楓:そうなんだけどさ、何か「これ!」っていう証拠というか「決め手」が無いのよね 楓:何か大事な事を見落としているような気がして、仕方ないのよ : 布美花:それなら、斎藤先生の事を幼稚園に言えば、幼稚園が斎藤先生を調べてくれるんじゃない? : 楓:そうなんだろうけど・・・でも、もしそれで、違ってたら? : 布美花:違ってたらって・・・ : 楓:私達が幼稚園に「斎藤先生が怪しい」って言って、もし、違ってたら 楓:海斗(かいと)も由香ちゃんも、なんか幼稚園に居づらくなっちゃうじゃない、 : 布美花:それは、確かにそうだけど : 楓:もう少しで卒園(そつえん)じゃない。 今更、他の幼稚園に変わるって訳にもいかないし : 布美花:そっか : 楓:やっぱり、「決め手」がいるのよね・・・ : 布美花:楓さん・・・ : : 楓(N):そして、その日の夜 0: 0:自宅で旦那さんと話す楓 0: 楓:ねぇ、いいでしょ? ね、お願い! この通り! お願いだから・・・ 0: 0:頷く影 0: 楓:ホント? いいの? いいのね? やったぁ! : : 楓(N):私はその週の土曜日、海斗(かいと)を旦那(だんな)に預けて、一人で街に出かけていた : 楓:えーっと、確かこの辺りの筈(はず)だけど・・・ : 布美花:楓さん♪ : 楓:え? 布美花さん・・どうしたの? こんな所で・・・ : 布美花:楓さんこそ、こんな所で何をしてるの? : 楓:何してるのって・・・えーと、それは・・・ : 布美花:斎藤先生の証拠探しでしょ? 布美花:斎藤先生の住まいって、確かこの辺りだもんね : 楓:え? どうして? : 布美花:それくらい、楓さんを見てれば分かるわよ : 楓:そっか・・・バレてたのか 楓:じゃぁ、布美花さんは、どうしてここに? : 布美花:私も一緒よ 布美花:旦那が出張中だから、由香を実家に預けて来た : 楓:えーーー : 布美花:楓さんは、素人(しろうと)なんだから、一人じゃ無理だって 布美花:だから、私が手伝ってあげるのよ : 楓:でも、布美花さんだって素人でしょ? : 布美花:そりゃそうよ、だから、楓さんと、二人でバディを組むんじゃない。 一人より二人の方が上手く行くって。 布美花:それに、私も素人だけど、あの探偵アニメは欠かさず見てるんだから、役には立つと思うわよ : 楓:まぁ、アニメはともかく、そりゃ、一人よりは、布美花さんが居てくれれば心強いけど・・・ : 布美花:でしょ? 布美花:じゃぁ、二人でバディ結成ね、『ママ友探偵「さくら組」』! : 楓:え? そういうノリ? : 布美花:いいじゃない、楽しくて : 楓:まぁ、嫌じゃないけど : 布美花:でしょ、さぁ、行きましょ : : 楓(N):こうして、私と布美花さんで、探偵コンビを結成して、斎藤先生が犯人という「決め手」を探し始めた : 布美花:でもさぁ、証拠って言ったって、何を探せばいいんだろう? : 楓:うーん、物的(ぶってき)な証拠があれば一番いいんだけど、斎藤先生の家に忍び込む訳にはいかないし 楓:せめて、先生がロリコンっていう事が分かる何かがあれば・・・ : 布美花:そうねぇ・・・何があるんだろう・・・、 : 楓:あ! あれ、斎藤先生じゃない? : 布美花(N):楓さんが、指さす交差点の向こうに、斎藤先生がいた : 布美花:本当だ、斎藤先生、どこ行くんだろう : 楓:とにかく、尾行してみましょうよ : 布美花:そうね、何か分かるかもしれないし、 布美花:なんか、探偵っぽくて、ワクワクするわね。 : 楓:もう・・・そんなんじゃないって : 布美花:分かってるって、さぁ、行きましょう : : 布美花(N):そして、私達は、斎藤先生を尾行する事にした 布美花(N): 布美花(N):斎藤先生のその日の行動は、美容院に行って髪を切り、コンビニで立ち読みをした後に、喫茶店に入った : : 楓(N):私達も、同じ喫茶店に入る事にした。 楓(N):斎藤先生とは少し離れた席に座り、斎藤先生を見張る : : 布美花:でもさ、考えてみれば、ロリコンの証拠なんて、尾行して分かるものなのかなぁ・・ : 楓:そんな事言ったって、今は、尾行しか方法がないじゃない : 布美花:確かにそうだけど・・・ : 楓:ねぇ、ねぇ 楓:斎藤先生って、誰かと待ち合わせをしているみたいじゃない? : 布美花:そう言われてみれば、時間を気にしているみたいね : 楓:誰と待ち合わせしてるんだろう・・・ : 布美花:ひょっとして、ロリコン仲間かもよ : 楓:それは流石に・・・ : : 楓(N):10分程経った頃だろうか : 布美花:あ、誰か来たみたいよ : 楓:ホントだ・・・男の人・・・ : : 布美花(N):斎藤先生が待ち合わせていたのは、斎藤先生と同い年(おないどし)くらいの男性だった : 布美花:やっぱり : 楓:やっぱりって、まだ分からないじゃない : 布美花:でも、ほら : 楓(N):斎藤先生と、連れの男性は、二人で、男性の持って来た雑誌を見ながら、何やら話をしていた : 楓:ここからじゃ、何の雑誌か分からないね : 布美花:あれは絶対、女の子が載ってる雑誌だって、アイドルとかアニメとか : 楓:そうかなぁ : 布美花:だってさ、男の人が、雑誌見ながら話す事って他に何かある? : 楓:うーん : 布美花:あ、帰るみたいよ : 楓(N):斎藤先生は、男性から雑誌を受け取ると、二人分の料金を払って外へ出た 楓(N):私達も、その直ぐ後に喫茶店を後にした : 布美花:あぁ、二人、別れちゃったわね 布美花:私は、あの男の人の方を追うから、楓さんは、斎藤先生を追って : 楓:え? : 布美花:ほら、ぐずぐずしてると、斎藤先生行っちゃうわよ : 楓:う、うん、わかった : 楓(N):私は、布美花さんと別れて、引き続き斎藤先生を尾行した。 楓(N): 楓(N): 楓(N):私は、斎藤先生を尾行したが、斎藤先生は喫茶店を出た後、そのまま自宅に帰り、それ以降、外に出る事は無かった 楓(N):私は、何度も部屋を訪ねようかとは思ったが、その勇気が持てないまま、時間だけが過ぎて行った 楓(N):気付かないまま、午後4時30分を過ぎた頃、布美花さんから電話がかかって来た : 楓:もしもし : 布美花:楓さん? もう時間になっちゃったから、悪いけど、私、もう帰らなきゃなの : 楓:あ、ホントだ、もうこんな時間・・・私も帰らなきゃ : 布美花:じゃぁ、また後で電話するね : 楓:うん、わかった : 楓(N):少し名残惜(なごりお)しい感じはしたが、主婦である私は、夕飯を作る為に、家に帰らなければならなかった 楓(N):手早く夕飯の買い物を済ませ、大急ぎで家に帰って、夕飯の支度(したく)をする 楓(N): 楓(N):そして、その夕飯の支度をしている時、布美花さんから電話がかかって来た : 布美花:楓さん、そっちはどうだった? : 楓:それがね、斎藤先生は、あれから真っすぐ家に帰って、それからは、部屋から出て来なかったのよ : 布美花:そっか・・・そっちは収穫なしだったのね : 楓:「そっちは」って、布美花さんの方は、何か収穫があったの? : 布美花:ええ、そりゃね : 楓:そうなんだ、で、何がわかったの? : 布美花:私の方は、あれから、あの男性に声を掛けて、斎藤先生の事を聞いてみたのよ : 楓:えー! よくそんな事が出来たわね : 布美花:そりゃ、探偵ですから : 楓:・・・まぁ、それはいいとして 楓:それで? : 布美花:それでね、偶然、斎藤先生と一緒に居るところを見かけたって事にして、斎藤先生に内緒でプレゼントがしたいから、いろいろ教えて欲しいってお願いしたのよ : 楓:そうなんだ、よくそんな事思い付くね・・・で、それでどうだったの? : 布美花:うん・・それがね・・・斎藤先生、来月結婚するんだって : 楓:え!、ホントに? : 布美花:そうなのよ、斎藤先生は、その男の人に、結婚式の二次会の幹事を頼んでたらしいのよ。 布美花:で、喫茶店では、雑誌を見せて、2次会の場所の説明をしてたんだって : 楓:そうだったんだ・・・ : 布美花:うん・・・ 布美花:それでね、ここからが肝心なんだけど : 楓:うん : 布美花:その男性に、斎藤先生の女性の好みとかも聞いてみたのよ : 楓:そんな事も聞いたの? ・・・それで : 布美花:それがね、斎藤先生は、「年上のお姉さんタイプ」が好きなんだって : 楓:そう・・・なんだ・・ : 布美花:うん、結婚する人も、そういうタイプなんだって : 楓:それだと、ロリコンとは程遠いよね : 布美花:そうなのよね : 楓:そっか・・なんだか、振り出しに戻っちゃったね : 布美花:そうね・・ 布美花:でも、まぁ、幼稚園に言わなくてよかったじゃない : 楓:うん・・・ : 楓(N):私は心のどこかでホッとしていたが、それ以上に、真犯人が誰なのかという事が気になって仕方がなかった 楓(N):私達が思い違いをしていた何かを、もう一度、最初から整理して、考えてみないといけないなぁ : 布美花:あ、そうだ、そういえば、今日、友美先生も見かけたわよ : 楓:え? 友美先生って、担任の友美先生? : 布美花:そう、ファミレスで、男の人と会ってたのよ : 楓:へー、友美先生にも彼氏がいたんだね : 布美花:それがさ、恋人って雰囲気じゃなかったのよ 布美花:友美先生も難しそうな顔してたし、何だったんだろうね : 楓:それって、今日の帰りに見たんだよね? : 布美花:そうよ、岬町(みさきちょう)のファミレス : 楓:あれ? 友美先生って、たしか、山の手だったよね? どうして、わざわざ、そんな所で・・・ : 布美花:そんなの、男の方が、その辺りに住んでるからじゃないの? : 楓:まぁ、そうか・・・ : 布美花:楓さん、 : 楓:え? 何? : 布美花:今、斎藤先生の疑いが晴れちゃったからって、「今度は誰が怪しいだろう」とか考えてるんでしょ! : 楓:え・・・それは・・・ : 布美花:もう、楓さん、考えすぎだって : 楓:そっか : 布美花:そうよ、事件は一旦、振り出しに戻ったんだから、もう一度、最初から考えようよ : 楓:そうだね : 布美花:明日の日曜日はどうするの? : 楓:今日一日、家事をサボっちゃったから、さすがに明日は、家の事をやらなきゃね : 布美花:そうだね、じゃぁ、また月曜日ね : 楓:うん、それじゃぁ : 楓(N):そう言って、私は電話を切った 楓(N):そして、私は何とも言えない、もやもやした気持ちを抱えながら、夜を過ごす事となった 楓(N): 楓(N): 楓(N):私はもう一度、今回の事件を整理して考えてみる 楓(N):今、見えているものは、被害者の年齢が5歳くらいの女の子ばかりだという事 楓(N):他に何かあるだろうか・・ 楓(N):あ、そういえば・・・いや、でも流石にそんな事は・・ : : 布美花(N):斎藤先生の尾行から数日たった水曜日の朝、いつもの様に、由香を幼稚園に送りに行く 布美花(N):幼稚園へ向かう途中で、私はよく、琴音(ことね)ちゃんのママと一緒になる 布美花(N):琴音ちゃんのママは、シングルマザーで、いつも忙しそうにしている 布美花(N):そういえば、琴音ちゃんも、盗難の被害者だったわね : : 楓(N):私は、最近、毎日、盗難事件について考えながら、海斗(かいと)を幼稚園へ送っている 楓(N):しかし、幾ら考えても、解決の糸口が見えない・・ただ一つの非現実的な可能性を除けばなんだけど・・ : 布美花(N):私と琴音ちゃんのママは、いつもの交差点を曲がった 布美花(N):すると、向こうの方に、海斗君を連れた、楓さんが見えた、 : 布美花:楓さーん! : 楓(N):名前を呼ばれて振り返ると、布美花さんが私に向かって手を振っていた : 楓:あぁ、布美花さん : 楓(N):私が、布美花さんに向けて、手を振ろうとしたその時 : : 布美花:きゃぁ! : 楓(N):布美花さん達の、後ろから来た黒い車が、突然、布美花さん達の横で止まり、二人の男が降りて来た 楓(N):男達は、布美花さんと、琴音ちゃんのママを突き飛ばし、琴音ちゃんだけを車に乗せて、連れ去ってしまった 楓(N):そして、琴音ちゃんを乗せた車は、勢いよく、私の前を通り過ぎて行った : 楓:え? まさか・・ : 楓(N):私は、急いで、布美花さん達のところに駆け寄った : 楓:布美花さん、大丈夫? 琴音ちゃんのママも : 布美花:私は大丈夫だけど、琴音ちゃんが : 楓:ええ、とにかく警察に連絡しましょう : 布美花:そうね : 布美花(N):私は警察に電話をし、事の次第を説明した 布美花(N):琴音ちゃんのママに、犯人についての、心当たりを聞いてみたが、オロオロするばかりで、話が聞ける状態ではなかった 布美花(N):私達は、琴音ちゃんのママを幼稚園に連れて行き、警察を待つ事にした。 : : 楓(N):幼稚園につくと、園長先生に事情を話し、私達は警察が来るまで、一旦、職員室で待つ事となった。 楓(N): 楓(N):この時、私の頭の中で渦巻(うずま)いていた、ある種の疑念は、既に確信へと変わっていた 楓(N):そして、みんなが困惑し、落ち着けずにいる、その職員室の中で、私は友美先生の元へと歩み寄った : 楓:友美先生、今回の琴音ちゃんの誘拐事件、何か心当たりはありませんか? : 布美花:楓さん、どうしたの、突然、 布美花:それに、友美先生がって、どういう事? : 楓:園児の私物を盗んでいたのは、友美先生なのよ。 楓:そうですよね? 先生 : 布美花:そんな・・でも、どうして? : 楓:ある人物を探していたのよ。 : 布美花:ある人物って? : 楓:多分だけど、どこかの大金持ちの、落とし子か、何かの事情で必要になった、跡取りとか、遺産相続の権利を持つ孫(まご)とか : 布美花:え? : 楓:でも、その人物について分かっていたのは、5歳の女の子という事と、顔の特徴、住んでいる地域・・・ 楓:それくらいだったんじゃないかな 楓: 楓:ねぇ、先生。 だから、顔の特徴が似た子の私物を盗んで、指紋を調べていたんじゃないんですか? : 布美花(N):友美先生の表情が凍り付くのが分かる : 布美花:でも、もしそうだとして、どうして友美先生が盗んだって分かるのよ。 他の先生だって : 楓:何かを虱潰(しらみつぶ)しにする時って、まず、身近な所からやるでしょ? 楓:だから、「さくら組」の園児から盗まれたのなら、友美先生が一番怪しいのよ : 布美花:それは分かるけど、でも、それって、単なる状況証拠でしかないんじゃない? : 楓:布美花さんの言う通り、これは、あくまでも私の推理だし、勿論、状況証拠でしかないよ : 布美花:そうだよね、だったら : 楓:でも、調べたら、出てくると思うよ、琴音ちゃんの筆箱とかから、友美先生の指紋が、 楓:そして、おそらく、バラ組の他の園児の私物からは、友美先生の指紋は出て来ない : 布美花:あ! : 楓:さて、どうして、隣のクラスの先生の指紋が、琴音ちゃんの私物にだけ付いているのか、先生は説明できますか? : 布美花(N):楓さんの問い詰めに、友美先生は、その場に座り込んでしまった : 楓:さぁ、友美先生、答えて下さい。 琴音ちゃんを誘拐した犯人は、誰で、今、どこにいるんですか? : 布美花(N):友美先生は、観念したのか、正直に話し始めた 布美花(N):しかし、友美先生は、犯人については、殆(ほとん)ど知らなかった : : 楓(N):友美先生は、街で声を掛けてきた男と、園児の私物を1つ1万円で取引をしていた。 楓(N):男の目的は教えてもらえず、連絡も男から一方的に、非通知で掛かってくるだけだったようだ 楓(N):そして、土曜日に、布美花さんが見たという、友美先生と会っていた男が、その男だという事だった : 布美花:よくも、まぁ、そんな取引をしたものね。 布美花:どう見たって、怪しいじゃない 布美花:ホント、最近の若い子は・・ : 楓:そんな事より、琴音ちゃんを探さなきゃ : 布美花:そりゃそうだけど、どうやって探すのよ 布美花:それに、そういう事は、警察に任せるべきでしょ : 楓:犯人は、多分、まだ、岬町(みさきちょう)の近くのどこかに居ると思うのよ 楓:でも、琴音ちゃんを誘拐した後だと、場所を変えちゃう可能性が高いのよ、 楓:友美先生から場所が知られる危険があるから : 布美花:いや、そうかもしれないけどさ : 楓:布美花さんは、警察がここに来たら、経緯(いきさつ)を説明して。 楓:私は、ちょっと、琴音ちゃんを探してくる : 布美花:ちょっと、楓さん : : 楓(N):私はタクシーを拾い、急いで、布美花さんが、友美先生を見かけた、岬町方面へと向かった 楓(N):岬町の直ぐ近くには、貨物(かもつ)の倉庫街がある。 楓(N):犯行に使った車は、おそらく盗難車だろうけど、車を隠す事を考えれば、人気のない倉庫街が一番怪しい 楓(N):私はタクシーの運転手さんに、その倉庫街へと向かってもらった : 楓:この辺りなんだろうけど・・ : 楓(N):私は倉庫街を探して回った 楓(N):そして、いくつも並ぶ倉庫の中に、シャッターが半分開いている倉庫を見つけた : 楓:あれは・・ : 楓(N):その倉庫に近づいて、建物の中を覗(のぞ)いてみると、中に黒い車が止めてあるのが見えた : 楓:あの車・・・確か、あんな感じの車だったと思うけど・・ : 楓(N):車に詳しくない私は、あの車が犯行に使われた車かどうか、確信が持てなかった、しかも、車のナンバーも覚えていない 楓(N):困っていた所に、布美花さんから電話がかかって来た : 楓:もしもし : 布美花:あ、楓さん? 布美花:今、警察の人と話をしててね、琴音ちゃんを連れ去った車の車種と、ナンバープレートの番号を聞かれてるんだけど 布美花:私、分からなくて・・楓さん、知らない? : 楓:私も、車種とかは分からないのよ、ナンバーも覚えてないの : 布美花:そっか・・で、楓さんは、今どこにいるの? 何か分かった事でもあるの? : 楓:それがね、思った通り・・・あっ! : 布美花:あれ? 楓さん、どうしたの? 楓さん! 楓さん! : 楓(N):私は急に後ろから口を塞がれた。 強い力で羽交い絞(はがいじ)めにされ、建物の中に連れて行かれた。 楓(N):私が連れて行かれた先には、琴音ちゃんが、目隠しをされ、ロープで縛られていた : 楓:琴音ちゃん! : 楓(N):琴音ちゃんを見るや否や、私はロープで縛られ、目と耳を塞がれてしまった・・ 楓(N): 楓(N): 楓(N):あれから、どれくらい時間が経っただろうか・・・私は目と耳を塞がれている為か、時間の感覚が無くなっていた 楓(N):誘拐犯(ゆうかいはん)たちは、私を殺す算段でもしているのだろうか・・ 楓(N):誘拐犯にとって、琴音ちゃんを、生かしておく価値はあるだろうけど、 楓(N):私を生かしておく理由など殆どない。 殺されるなら、私からかなぁ・・ 楓(N):私は、いつ殺されてもおかしくないような、こんな状況の中で、自分でも不思議なほど冷静だった 楓(N): 楓(N): 楓(N):それから少しして、誰かが、私の体を掴んだ 楓(N):あぁ、殺されるんだ・・・私は漠然とそう思った、その時 : 布美花:楓さん! : 楓(N):目隠しを外されて、最初に目に入った人物は、布美花さんだった : 楓:布美花さん・・・ 楓:あぁぁぁ布美花さん、怖かったあぁ : 楓(N):あれだけ冷静だったのが、まるで嘘だったかのように、私の目からは、涙がボロボロ流れて止まらなかった : : 布美花(N):楓さんの電話が途中で途切れた事で、私は楓さんのいた場所に、誘拐犯もいる事を確信した 布美花(N):私は、楓さんの最後の「思った通り」という言葉から、「岬町近くの倉庫街」という答えを導き出し、警察と共に倉庫街へと向かった。 布美花(N):そして、そこで、今まさに、逃走しようとしていた誘拐犯らを見つけて逮捕し、事件は解決した。 布美花(N): 布美花(N):ちなみに、誘拐犯は、楓さんを殺す気は、全くなく、倉庫に置き去りにして逃げるつもりだったようだ : : 楓:事件が解決したという事で、今回の事件について、改めて考えて見ましょう。 : 布美花:楓さん! もう、無事だったから良かったようなものの、本当に心配したんだからね : 楓:いや、ホント、ごめんなさい : 布美花:ったく、 : 楓:でも、私の活躍があったから、犯人を捕まえられたんじゃない 楓:警察から、表彰状を貰ってもいいくらいだと思うけどなぁ : 布美花(N):でも、そんな、楓さんの期待に反して、楓さんは、警察から「危険な行為」をしたとして、こっぴどく怒られてしまいました : : 楓(N):まぁ、それはいいとして・・・ 楓(N):その後、警察の人が今回の事件の真相を、私達に教えてくれた。 : : 布美花(N):日本でも、5本の指に入る資産を持つと言われる「高見(たかみ)財閥」の、一人息子の、誠一郎(せいいちろう)さんと、琴音ちゃんのママとの間に、琴音ちゃんが産まれた。 布美花(N):この時、まだ二人は結婚をしていなかった為、誠一郎さんの父親で、高見財閥の総帥(そうすい)、高見義之(たかみ よしゆき)氏が、この二人の結婚を認めずに、二人を強引に別れさせた。 : : 楓:ひどい話だと思うけど、財閥とか、お金持ちの人達の世界では、よくある話なんだろうか : : 布美花(N):義之(よしゆき)氏は、誠一郎さんに、自分の気に入った女性と結婚させようとするが、誠一郎さんは、これを拒み続けた。 布美花(N):そして、誠一郎さんは、結婚をしないまま、2カ月前、交通事故で亡くなってしまったのだという。 : : 楓:結局、これで、義之氏の、血を引く人間は、琴音ちゃんだけになっちゃった訳ね : : 布美花(N):義之氏は、慌てて琴音ちゃんを探そうとするが、手掛かりがなく調査は難航(なんこう)する。 布美花(N):というのも、誠一郎さんは、義之氏に、琴音ちゃん達の事を、一切教えていなかったからだ。 : : 楓:そりゃ、言わないでしょうね、義之氏も聞こうとは、しなかったでしょうし : : 布美花(N):しかし、誠一郎さんは、別れさせれられてから、数年間、琴音ちゃんのママとは、連絡をとっていたようで、 布美花(N):小さな女の子が描いたと思われる絵と、顔写真の入った封筒を大切に持っていた 布美花(N):封筒には、差出人の住所は書いておらず、名前も偽名だったようだ : : 楓:住所もなく、名前が偽名でも、状況的に、それは、琴音ちゃんのママしか考えられないね : : 布美花(N):その手紙を遺品整理の時に見つけた、高見家の使用人が、義之氏には教えずに、こっそりと持ち出し、 布美花(N):それを知人に渡し、身代金を目的に、今回の犯行を計画したとの事だった : 楓:なるほど、それで、写真からは顔、絵からは指紋、封筒の配達記録から、大体の住所を知ったという訳ね : 布美花:ちなみに、警察によると、誘拐犯は、他の幼稚園でも、消しゴムやエンピツの盗難事件を起こしていたんですって : 楓:まぁ、大まかな住所からじゃ、幼稚園は特定しきれないもんね・・・ : : 布美花(N):こうして、由香の消しゴムが無くなったという、些細(ささい)な出来事から始まった、今回の騒動は 布美花(N):一連の盗難事件に、そして、最後は誘拐事件にまで発展し、犯人の逮捕という結末で幕を閉じた。 : : 楓(N):この騒動の後の「ひまわり幼稚園」は、ただただ、平凡な日常が続いた。 楓(N):そして、『ママ友探偵「さくら組」』の出番が、再び訪れる事もなく、 楓(N):次の年の3月、海斗(かいと)達は「ひまわり幼稚園」を卒園する事となった 楓(N): 楓(N):そして、海斗達の卒園と同時に、私と布美花さんの、『ママ友探偵「さくら組」』も、静かに解散をした : : 布美花:でも、いつでも復活するけどね、「さくら組」 : 楓:そんな事件が起きたらね 0: 0:完了 0: