台本概要
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タイトル | 夏の日差しより眩しかった(関西弁バージョン) |
---|---|
作者名 | Danzig |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
大阪を舞台にしたお話(関西弁バージョン)です。 5年ぶりに故郷、大阪に帰って来た可奈、久しぶりに幼馴染の充と会うが・・・ 基本的にサシ劇として作ってありますが、 主人公の母親が登場します。 母親のセリフは少ないので、兼ね役が良いかと思いますが、 兼ね役が難しいのであれば、3人劇として下さい。 139 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
可奈 | 女 | 94 | 樋口 可奈(ひぐち かな)。 主人公 |
充 | 男 | 93 | 波多野 充(はたの みつる)。 可奈の幼馴染 |
可奈の母 | 女 | 8 | 可奈の母 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:夏の日差しより眩しかった(関西弁)
0:
0:登場人物
0:樋口 可奈(ひぐち かな)
0:波多野 充(はたの みつる)
:
可奈(M):8月11日、
可奈(M):駅のアナウンスが流れる雑踏の中、私は新幹線を降りた。
可奈(M):ここは、東海道新幹線、新大阪駅、私の故郷だ。
可奈(M):お盆という事もあって、大きな荷物を持った家族連れや、親族を迎える人の姿で、駅全体がごった返している。
可奈(M):東京から東海道新幹線で約二時間半。
可奈(M):こんなに近い場所やのに、帰ってくるのは5年ぶりかぁ・・
:
充:可奈が帰ってくるんですか?
:
可奈の母:そうなんよ、あの子が帰ってくるんは5年ぶりかしらね、みっちゃん、あの子の顔見たら声かけたってね
:
充:へえ、なんか、懐かしいなぁ
:
充(M):樋口可奈(ひぐち かな)は、俺の幼馴染(おさななじみ)。
充(M):大阪の高校から、東京の大学に進学して、そのまま東京で就職をした。
充(M):大学時代に2度ほど、こっちに帰ってきたが、それから5年間帰ってくる事はなかった。
:
可奈(M):駅を出ると、目の前には、日差しに照らされた街が広がる。
可奈(M):この、昼間のジメジメした暑さは、多分、東京よりも不快指数は高めや。
可奈(M):そういえば、大阪の暑さってこうやったわ
可奈(M):駅からバスで実家に帰る。 バス停から少し歩くと、私の実家がある。
可奈(M):見慣れたはずの実家。 それすらも、何か懐かしく感じる
可奈(M):たったの5年やのに・・
:
可奈:ただいまぁ
:
可奈の母:あぁ、お帰り。 どうやった?
:
可奈:まぁ、ぼちぼちやね
:
可奈(M):家族は5年間の空白なんか、何もなかったかのように、私を出迎えてくれた
可奈(M):私の部屋も、5年前のまま いや、5年前というよりは、高校時代のままやった。
可奈(M):勉強机も、ベッドも、アイドルのポスターも、全てがあの頃のまんま・・
可奈(M):それが少しホッとする。
:
充(M):俺と可奈の出会いは幼稚園にまで、さかのぼる。
充(M):幼稚園で出会った俺達は、家が直ぐ近所っちゅう事もあって、何をするのも、いつも一緒やった
:
可奈(M):その日の夕食、お母さんは、いつものハモ鍋とサバの味噌煮を作ってくれた。
可奈(M):東京で食べるもんとは、全然ちゃう、私の大好きな料理。
可奈(M):お母さんの手作りの料理を食べながら、私は両親から、東京の生活について、質問攻めにあった。
可奈(M):流石に5年も帰らへんと、そうなるよねぇ・・
可奈(M):そして、話の中で・・
:
可奈の母:可奈、そういえば、今日、商店街で、みっちゃんにあったで
可奈の母:みっちゃん、お前の事、懐かしがってたよ
:
可奈:お母さん、私の事、みっちゃんに話したの?
可奈:もう・・なんでよぉ
:
可奈の母:なんでって・・いいやないの
可奈の母:そやし、近所なんやから、顔くらい見るわよ
可奈の母:ずっと家の中におる訳やないんでしょ
:
可奈:そ、そりゃ、そうかもしれんけど・・
:
可奈(M):波多野充(はたの みつる)は、私の幼稚園からの幼馴染。
可奈(M):その頃から、彼の事をみっちゃんって呼んでいる。
可奈(M):みっちゃんとは、高校まで一緒の学校やった。 でも、一度も恋愛関係になった事はなかったなぁ・・
可奈(M):どちらかっちゅうと、大切な仲間って関係やった
:
可奈:でも、今はみっちゃんに会いたくないなぁ・・
:
可奈(M):私はベッドの中で、見慣れた天井を眺めながら、そう思ってた。
:
充(M):次の日の金曜日、
充(M):俺は会社がお盆休みに入ったから、晩酌(ばんしゃく)用の酒と、つまみを買いに、商店街の酒屋に行った。
充(M):すると、その酒屋には、可奈と可奈の母親が来ていた。
:
充:よう、可奈
:
可奈:あぁ・・みっちゃん
:
充:なんや、久しぶりやな、元気にしてたか?
:
可奈:ま・・まぁね、みっちゃんは?
:
充:おれが病気にみえるか?
充:元気にきまってるやろ、百人乗っても大丈夫や
:
可奈:そういう所、変わらへんね
:
充:お前のマジレスも、相変わらずやな・・
:
可奈:何言ってんのよ、もう・・
:
充:ところで、何してんの? こんなとこで
:
可奈:ちょっと聞いてよ、
可奈:レモンチューハイの買い出し頼まれたんよ
可奈:久しぶりに帰ってきたか弱い娘やのに、ホンマ、人使い荒いわ
:
可奈の母:何言ってるんよ、あんた、お客さんやないんよ、まったく。
可奈の母:あ、そうや。 みっちゃん、ちょうどよかったわ
:
充:何がですか?
:
可奈の母:みっちゃんも、お酒買って帰るんやろ?
可奈の母:せやったら、私の分持って、可奈と帰ってくれる? 私、もう一軒行きたいとこがあんねん
:
充:おばさん、やっぱり、人使い荒いわ
:
可奈の母:ええやん、ええやん
可奈の母:あ、それから、可奈をどっか連れてったげて
:
可奈:もう、お母さん!
可奈:余計な事言わんといてよ! 私にかて予定あんねんから!
:
可奈の母:ほな、みっちゃん、頼んだわね
:
可奈(M):結局、みっちゃんは、私のお母さんに、袋一杯のチューハイを持たされ
可奈(M):私の家まで運んでくれる事になった。
可奈(M):そして、その帰り道・・
:
充:可奈、お前、予定あんのか?
:
可奈:え・・いや・・別に・・ない・・けど・・
:
充:高校時代の奴らと会う約束とか、ないんか?
:
可奈:今回は連絡してない・・し
:
充:そっか
充:ほな、帰って荷物置いたら、海遊館行かへんか?
:
可奈:えー、 マジで行くの?
:
充:ジンベエザメ見ようや
:
可奈:べ、別にええけど・・
:
充:よし、ほな、決まりやな
:
可奈(M):そして私達は、電車にのって海遊館に出かける事になった。
可奈(M):電車の中で、みっちゃんが、いろいろ話しかけてくれていたけど、
可奈(M):私は他の事を考えてて、殆ど耳に入っていなかった。
:
:
充(M):海遊館では、いろんなイベントが催(もよう)されとった。
充(M):お盆休みなだけに、人は多かったけど、海遊館の中は涼しく
充(M):いろんな魚が見れて、楽しい。
充(M):中でも、やっぱり、ジンベイザメが一番興奮(こうふん)する。
:
充:俺は楽しいけど、可奈は楽しんでるんやろうか・・。
:
可奈(M):ジンベイザメを見る、みっちゃんの顔は、まるで子供みたいやった
可奈(M):中学や高校時代に見てた、みっちゃんの顔が、ふと浮かんで来た
可奈(M):みっちゃんは変わらへんなぁ・・
可奈(M):
可奈(M):海遊館を出た私達は、大観覧車に乗る事にした。
可奈(M):世界最大級といわれる、大きな観覧車。
可奈(M):この日は天気がよかったから、明石海峡大橋(あかし かいきょう おおはし)や、関西国際空港まで見える。
可奈(M):普段なら、気持ちが浮きたつだろう、こんな風景でも、私は他の事を考えてた。
可奈(M):
可奈(M):そんな時
:
充:どうした?
充:暗い顔して
:
可奈:え?
可奈:私、そんな顔してた?
:
充:あぁ、してたで
充:この風景に、どんなボケをかまそうか、悩んでる顔やった
:
可奈:そうかなぁ
:
充:お前のマジレスは、相変わらずキツイな・・
:
可奈:・・・
:
充:で、何かあったんか?
:
可奈:え?
:
充:何かあったんかって聞いてんねん
:
可奈:ううん、別に何にもないよ
:
充:そっか・・
:
可奈:うん
:
可奈(M):私から目線を外し、外の眺望(ちょうぼう)を見ながら、みっちゃんが言う
:
充:この景色、
充:お前には、もう懐かしい風景なんやろうな
:
可奈:そうやね、懐かしいと思っちゃう
:
充:可奈は東京に行って、変わっちゃったんかねぇ
:
可奈:変わっちゃったって、何よ
可奈:別に東京っていうより、
可奈:大人になれば、変わるでしょ、普通
:
充:まぁそうやな
:
可奈:そうよ、何言ぅてんの
:
充:でもさ
充:お前には、昔から変わらへん癖が一つあんねんよ、知ってるか?
:
可奈:私の癖?
:
充:そう
:
可奈:何それ?
:
充:そういうのがあんねん
:
可奈:だから、何よ、その癖って
:
充:でも、教えてまうとなぁ・・
:
可奈:ケチな事言わんで、はよ教えーや
:
充:教えて欲しいんか?
:
可奈:うん、教えて欲しいわ
:
充:そっか・・
充:
充:お前さ
充:嘘つく時、瞬きの回数が増えんねん
:
可奈:え?
:
充:東京で、何かあったんやろ?
:
可奈:・・・
:
充:話したくないんやったら、話さんでええよ
充:人のプライベートなんか、わざわざ聞く趣味ないから
:
可奈:うん・・
:
充:まぁ、何があったかは知らんけど
充:こっちにおる間、のんびり過ごせよ
:
可奈:うん・・
:
充:・・・
充:
充:そうや、明日の夜は、町内の盆踊りがあるやろ
充:一緒に行かへんか?
充:お前の好きな屋台もあるぞ
:
可奈:うーん・・
:
充:特にやる事もないんやろ?
:
可奈:それは、そうやけど・・
:
充:じゃぁ、行こうや
:
可奈:別にええけど・・
:
充:久しぶりに、可奈の浴衣、見たいんやけど
:
可奈:それは考えとく
:
充:そうか・・
:
可奈(M):みっちゃんの言葉で私は少し落ち着けた気がする。
可奈(M):帰りの電車の中での、みっちゃんとの会話は、久しぶりに楽しいと思う事が出来た。
:
充(M):可奈は東京で何かあったみたいやな、
充(M):5年も帰って来んかった地元に、帰ってくるには、
充(M):やっぱり、それなりの理由があるんやろう。
充(M):心配やけど、可奈が黙ってるなら、聞かへん方がええんやろう
充(M):
充(M):
充(M):次の日の夜、俺たちは町内の盆踊り会場におった。
充(M):盆踊りの会場は、歩いてるだけで面白い。
充(M):可奈も、この雰囲気の中で、元気になってくれればええんやけど・・
:
可奈(M):私達は出店(でみせ)の並ぶ道を、いろんなものを見ながら歩いた。
可奈(M):みっちゃんのリクエストで、久しぶりに浴衣を着てみたけど
可奈(M):やっぱり、ちょっと歩きづらいわ・・
:
可奈:そして、一通り、屋台(やたい)を見たあと、たこ焼きとリンゴ飴を買って、ベンチで少し休む事にした。
:
充:ふう、ようやく座れるって感じやな、可奈、疲れたか?
:
可奈:そうね、ちょっと疲れたかな。
可奈:浴衣歩きにくいし
:
充:そんな事いうなよ
充:そのかわり浴衣のお礼に、たこ焼きおごったやん
:
可奈:足らへんかなぁ・・
:
充:そんな・・ははは
:
可奈:貸しにしとくわ
:
充:そんな殺生な
充:ところで、可奈はいつまで、こっちにおるんや?
:
可奈:16日から会社やから、15日に帰ろうと思ってる
:
充:そうか
:
可奈:みっちゃんはいつから仕事なん?
:
充:俺も同じ、16日から
:
可奈:そっか、まぁどこも同じようなもんやね
:
充:そういうのに関西も関東も無いからな
:
可奈:・・うん・・
:
充:どないしたんや?
:
可奈:ううん・・
:
充:何かあったんか?
:
可奈:うん・・会社でね・・
可奈:私って必要なんかなぁって、思っちゃったんだ
:
充:どういう事や、関西弁が不評やったんか?
:
可奈:違うわ
:
充:ごめん、ごめん、・・で?
:
可奈:私ね、3月にコロナに感染しちゃったんよ
:
充:・・そうなんや・・
:
可奈:うん、それでね、会社を10日休んだの
:
充:まぁ、コロナじゃ会社に行けへんからな
:
可奈:・・うん
:
充:それがどうかしたんか?
:
可奈:10日休んで、会社に申し訳ない気持ちで出社したら、何も変わってない、いつもの会社やってん
:
充:それって、いい会社って事ちゃうんか?
充:それがどうしたん
:
可奈:いい会社やと思うわよ・・でもね・・
:
充:でも?
:
可奈:私の抱えてた仕事も、もう終わっててん
可奈:みんながフォローしてくれて・・
:
充:いや、それかて・・
:
可奈:分かってんのよ
可奈:会社のみんなには感謝してんの
可奈:
可奈:でもね、
可奈:私の仕事やから、私にしか分からへん事があると思ってたんよ
可奈:
可奈:でも、私が休んでいる間、電話とかメールでも、誰も私に、仕事の事、聞いてこんくてさ
:
充:・・・
:
可奈:私ね、会社に入って3年間、一生懸命働いたつもりよ
可奈:
可奈:4年目んなって、小さかったけど、誰かの手伝いやなくて、私がメインの仕事を任せて貰てん
可奈:凄く嬉しかったわ
可奈:
可奈:それで、幾つかそういう仕事をこなして、今度は、少し大きめの仕事がもらえてん
可奈:
可奈:でも、その仕事の途中でコロナに・・
:
充:そうやったんか
:
可奈:出社したら、私の仕事は綺麗に片付いていて、私には別の仕事が用意されてた
:
充:・・・
:
可奈:それで思ってん
可奈:この仕事も、また私がコロナで休んだら、誰かが片づけてまうんやろなぁ・・って
可奈:私って会社に必要なんかなぁって・・
可奈:3年間、あんなに必死でやって来たのに
:
充:なんや、そんな事か
:
可奈:そんな事って何よ、
可奈:みっちゃんには私の気持ちなんて
:
充:あぁ、分からへんよ。
充:可奈、お前、そんな3年や4年で、何かデッカイ事が出来ると思ってたんか
:
可奈:別に、そういう訳じゃ・・
:
充:仕事を任せてもらえるだけ、可奈の方が俺よりええんちゃうか
充:
充:俺なんか、まだ手伝いくらいしか、させてもらえてへんよ
充:言ってみりゃ、単なる労働力でしかないねん
:
可奈:それは・・
:
充:会社の上司に言われたよ。
充:どれだけ出来る奴でも、30超えて、ようやく使える人間程度、
充:40くらいにならへんと、本当の意味で必要な人間には、なれへんのやってさ。
:
可奈:・・・
:
充:若いうちは単なる労働力
充:その労働力のうちに、どれだけ実力が付けれるかが勝負なんやって
充:まぁ、それは俺の会社の話なんやけどさ
充:どの会社でも、あんまり変わらへんのちゃうか
:
可奈:そうやけど・・
:
充:俺かて、上手く結果がだせんかったり、思った事をさせてもらえんくて、
充:イライラしたり、鬱になりそうになったりするよ
:
可奈:え? みっちゃんが?
:
充:あぁ、
充:それこそ、今の俺の仕事なんか、誰がやっても大して変わらへんよ
充:それでも、俺やから良かったって言われるように頑張ってんねん
:
可奈:そうか・・
:
充:可奈の気持ちはわかるけど、ちょっと考えすぎなんちゃうか?
充:話聞いてたら、会社の人はいい人そうやし、俺からしたら、可奈が羨ましいくらいやで
:
可奈:ありがとう、そう言ってもらって、少し楽んなったわ
:
充:そっか、よかったな
:
可奈:昨日、大人になったら変わるって言ったけど
可奈:みっちゃんは変わらへんね
:
充:そうか?
:
可奈:昔のまんま
可奈:
可奈:人の気持ちは分からへんけどねw
:
充:人の気持ちなんか、分かるもんちゃうんやって
充:せやから、大事にしようって思うんちゃうか
:
可奈:え?
:
充:あー、あれや
充:俺が変わらへんのは、この街が変わらへんからやな
充:いつも定番のボケとツッコミ。
充:東京みたいにコロコロ、コロコロ
充:流行(はやり)に流されたりせぇへんからよ。
充:だから、変わらへんように、見えるんやな
:
可奈:ふふ、そうかもしれないわね
:
充:そうや、明日も盆踊りやってる所あるから、一緒に行こうや
:
可奈:もう浴衣は着ぃひんで
:
充:そんな・・
:
可奈:ふふふ
:
可奈(M):私はみっちゃんの言葉で気持ちが楽になった
可奈(M):そして、みっちゃんは、私が大阪にいる間、盆踊りだけじゃなく、いろいろな所に連れ出してくれた。
可奈(M):
可奈(M):
可奈(M):8月15日
可奈(M):東海道新幹線の上りのホーム
可奈(M):東京に帰る私をみっちゃんが見送りに来てくれた
:
可奈:わざわざ、見送りに来てくれて、ありがとうね。
:
充:そんな事ええって
:
可奈:みっちゃんのおかげで、気持ちの整理がついたわ
可奈:ありがとう
:
充:それはよかったな
充:東京でも元気でやれよ
充:また、こっちに帰って来い
:
可奈:うん
可奈:久しぶりに帰って来て、私はやっぱりこの街が好きやって
可奈:思い出せた気ぃする。
:
充:そっか
充:俺は可奈の事、好きやったで、ずっと
:
可奈:え?
可奈:なによ、突然
可奈:
可奈:ずっととか言って、高校の頃、何も言わんかったくせに。
:
充:俺はさ、子供の頃から大阪が好きで
充:大阪で生きていきたいと思っててん。
充:阪神(はんしん)好っきやしな。
充:せやから東京に対して『憧れが一杯』の可奈を、止められへんかったんよ
充:まだ高校生の俺じゃ、お前を引き留めたって、責任取れへんかったしな
:
可奈:ずるいわ
可奈:今から東京に戻る私に、そんな事いうなんて
可奈:東京に帰りたくなくなるやん・・
:
充:はは、すまんな
充:でも、そんな事は気にすんな
充:いつでも大阪に帰ってこいよ
:
可奈:やっぱり、私、東京に戻らへん
:
充:可奈・・
:
可奈:戻りたくない・・
:
充:いや、戻らんと不味いやろ
:
可奈:みっちゃんが悪い
:
充:悪かったって
:
可奈:だって・・
:
充:瀬(せ)を早(はや)み
充:岩にせかるる
充:滝川(たきがは)の
充:われても末(すえ)に 逢(あ)はむとぞ思ふ
:
可奈:みっちゃん・・
:
充:お前の好きな歌やろ
:
可奈:・・・うん
:
充:大阪なんて近いもんや
充:いつでも、帰ってこれるやろ
:
可奈:うん・・わかった
:
充:なんなら、俺がお前を迎えに行ったろか
:
可奈:何よそれw
可奈:そういう事は、もっと格好(かっこう)良く言ってくれへんとw
:
充:ははは、そうやな
:
可奈:あ! そういえば
:
充:ん?
:
可奈:みっちゃん、私が嘘をつくときの癖(くせ)、ずっと隠(かく)してたやろ
可奈:なんで、今まで教えてくれへんかったんよ
:
充:あぁ、あれか
充:あれは、嘘(うそ)や
:
可奈:え?
:
充:お前が何か隠してそうやったから、カマかけただけや
:
可奈:えー、ひどーい
可奈:もう、信じてもうたやん!
:
充:すまん、すまん、テレビでやってて恰好よかったから、一度使ってみたかったんよ
:
可奈:もう、相変(あいかわ)らずやね
可奈:ふふふ
:
充:ははは
:
可奈:それも貸しにしとくな
:
充:そんな・・
:
可奈(M):こうして私は東京に戻った
可奈(M):肩の力の抜けた私は、東京に戻ってから、今まで以上に頑張る事が出来た。
可奈:
可奈:
可奈(M):そして、あれから3年
可奈(M):驚いた事に、本当にみっちゃんが私を迎えに来てくれました。
:
充:浴衣の借りを返さなあかんかったからね・・
:
可奈(M):みっちゃんとの結婚を機に、私は大阪に帰り、
可奈(M):今では、仕事と子育てとボケとツッコミに追われる、忙しくも幸せな暮らしをしています。
可奈(M):
可奈(M):あの時の事は、今でも、照れくさい、いい思い出として、私の中に残っています。
可奈(M):今思うと、あの時のみっちゃんは、夏の日差しよりも眩(まぶ)しかったかもしれません。
:
可奈:あー、ガラじゃないわ
:
充:そんな事ないって、可愛かったよ、可奈
:
可奈:アホ、照れくさいやろ
:
完
0:夏の日差しより眩しかった(関西弁)
0:
0:登場人物
0:樋口 可奈(ひぐち かな)
0:波多野 充(はたの みつる)
:
可奈(M):8月11日、
可奈(M):駅のアナウンスが流れる雑踏の中、私は新幹線を降りた。
可奈(M):ここは、東海道新幹線、新大阪駅、私の故郷だ。
可奈(M):お盆という事もあって、大きな荷物を持った家族連れや、親族を迎える人の姿で、駅全体がごった返している。
可奈(M):東京から東海道新幹線で約二時間半。
可奈(M):こんなに近い場所やのに、帰ってくるのは5年ぶりかぁ・・
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充:可奈が帰ってくるんですか?
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可奈の母:そうなんよ、あの子が帰ってくるんは5年ぶりかしらね、みっちゃん、あの子の顔見たら声かけたってね
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充:へえ、なんか、懐かしいなぁ
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充(M):樋口可奈(ひぐち かな)は、俺の幼馴染(おさななじみ)。
充(M):大阪の高校から、東京の大学に進学して、そのまま東京で就職をした。
充(M):大学時代に2度ほど、こっちに帰ってきたが、それから5年間帰ってくる事はなかった。
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可奈(M):駅を出ると、目の前には、日差しに照らされた街が広がる。
可奈(M):この、昼間のジメジメした暑さは、多分、東京よりも不快指数は高めや。
可奈(M):そういえば、大阪の暑さってこうやったわ
可奈(M):駅からバスで実家に帰る。 バス停から少し歩くと、私の実家がある。
可奈(M):見慣れたはずの実家。 それすらも、何か懐かしく感じる
可奈(M):たったの5年やのに・・
:
可奈:ただいまぁ
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可奈の母:あぁ、お帰り。 どうやった?
:
可奈:まぁ、ぼちぼちやね
:
可奈(M):家族は5年間の空白なんか、何もなかったかのように、私を出迎えてくれた
可奈(M):私の部屋も、5年前のまま いや、5年前というよりは、高校時代のままやった。
可奈(M):勉強机も、ベッドも、アイドルのポスターも、全てがあの頃のまんま・・
可奈(M):それが少しホッとする。
:
充(M):俺と可奈の出会いは幼稚園にまで、さかのぼる。
充(M):幼稚園で出会った俺達は、家が直ぐ近所っちゅう事もあって、何をするのも、いつも一緒やった
:
可奈(M):その日の夕食、お母さんは、いつものハモ鍋とサバの味噌煮を作ってくれた。
可奈(M):東京で食べるもんとは、全然ちゃう、私の大好きな料理。
可奈(M):お母さんの手作りの料理を食べながら、私は両親から、東京の生活について、質問攻めにあった。
可奈(M):流石に5年も帰らへんと、そうなるよねぇ・・
可奈(M):そして、話の中で・・
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可奈の母:可奈、そういえば、今日、商店街で、みっちゃんにあったで
可奈の母:みっちゃん、お前の事、懐かしがってたよ
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可奈:お母さん、私の事、みっちゃんに話したの?
可奈:もう・・なんでよぉ
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可奈の母:なんでって・・いいやないの
可奈の母:そやし、近所なんやから、顔くらい見るわよ
可奈の母:ずっと家の中におる訳やないんでしょ
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可奈:そ、そりゃ、そうかもしれんけど・・
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可奈(M):波多野充(はたの みつる)は、私の幼稚園からの幼馴染。
可奈(M):その頃から、彼の事をみっちゃんって呼んでいる。
可奈(M):みっちゃんとは、高校まで一緒の学校やった。 でも、一度も恋愛関係になった事はなかったなぁ・・
可奈(M):どちらかっちゅうと、大切な仲間って関係やった
:
可奈:でも、今はみっちゃんに会いたくないなぁ・・
:
可奈(M):私はベッドの中で、見慣れた天井を眺めながら、そう思ってた。
:
充(M):次の日の金曜日、
充(M):俺は会社がお盆休みに入ったから、晩酌(ばんしゃく)用の酒と、つまみを買いに、商店街の酒屋に行った。
充(M):すると、その酒屋には、可奈と可奈の母親が来ていた。
:
充:よう、可奈
:
可奈:あぁ・・みっちゃん
:
充:なんや、久しぶりやな、元気にしてたか?
:
可奈:ま・・まぁね、みっちゃんは?
:
充:おれが病気にみえるか?
充:元気にきまってるやろ、百人乗っても大丈夫や
:
可奈:そういう所、変わらへんね
:
充:お前のマジレスも、相変わらずやな・・
:
可奈:何言ってんのよ、もう・・
:
充:ところで、何してんの? こんなとこで
:
可奈:ちょっと聞いてよ、
可奈:レモンチューハイの買い出し頼まれたんよ
可奈:久しぶりに帰ってきたか弱い娘やのに、ホンマ、人使い荒いわ
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可奈の母:何言ってるんよ、あんた、お客さんやないんよ、まったく。
可奈の母:あ、そうや。 みっちゃん、ちょうどよかったわ
:
充:何がですか?
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可奈の母:みっちゃんも、お酒買って帰るんやろ?
可奈の母:せやったら、私の分持って、可奈と帰ってくれる? 私、もう一軒行きたいとこがあんねん
:
充:おばさん、やっぱり、人使い荒いわ
:
可奈の母:ええやん、ええやん
可奈の母:あ、それから、可奈をどっか連れてったげて
:
可奈:もう、お母さん!
可奈:余計な事言わんといてよ! 私にかて予定あんねんから!
:
可奈の母:ほな、みっちゃん、頼んだわね
:
可奈(M):結局、みっちゃんは、私のお母さんに、袋一杯のチューハイを持たされ
可奈(M):私の家まで運んでくれる事になった。
可奈(M):そして、その帰り道・・
:
充:可奈、お前、予定あんのか?
:
可奈:え・・いや・・別に・・ない・・けど・・
:
充:高校時代の奴らと会う約束とか、ないんか?
:
可奈:今回は連絡してない・・し
:
充:そっか
充:ほな、帰って荷物置いたら、海遊館行かへんか?
:
可奈:えー、 マジで行くの?
:
充:ジンベエザメ見ようや
:
可奈:べ、別にええけど・・
:
充:よし、ほな、決まりやな
:
可奈(M):そして私達は、電車にのって海遊館に出かける事になった。
可奈(M):電車の中で、みっちゃんが、いろいろ話しかけてくれていたけど、
可奈(M):私は他の事を考えてて、殆ど耳に入っていなかった。
:
:
充(M):海遊館では、いろんなイベントが催(もよう)されとった。
充(M):お盆休みなだけに、人は多かったけど、海遊館の中は涼しく
充(M):いろんな魚が見れて、楽しい。
充(M):中でも、やっぱり、ジンベイザメが一番興奮(こうふん)する。
:
充:俺は楽しいけど、可奈は楽しんでるんやろうか・・。
:
可奈(M):ジンベイザメを見る、みっちゃんの顔は、まるで子供みたいやった
可奈(M):中学や高校時代に見てた、みっちゃんの顔が、ふと浮かんで来た
可奈(M):みっちゃんは変わらへんなぁ・・
可奈(M):
可奈(M):海遊館を出た私達は、大観覧車に乗る事にした。
可奈(M):世界最大級といわれる、大きな観覧車。
可奈(M):この日は天気がよかったから、明石海峡大橋(あかし かいきょう おおはし)や、関西国際空港まで見える。
可奈(M):普段なら、気持ちが浮きたつだろう、こんな風景でも、私は他の事を考えてた。
可奈(M):
可奈(M):そんな時
:
充:どうした?
充:暗い顔して
:
可奈:え?
可奈:私、そんな顔してた?
:
充:あぁ、してたで
充:この風景に、どんなボケをかまそうか、悩んでる顔やった
:
可奈:そうかなぁ
:
充:お前のマジレスは、相変わらずキツイな・・
:
可奈:・・・
:
充:で、何かあったんか?
:
可奈:え?
:
充:何かあったんかって聞いてんねん
:
可奈:ううん、別に何にもないよ
:
充:そっか・・
:
可奈:うん
:
可奈(M):私から目線を外し、外の眺望(ちょうぼう)を見ながら、みっちゃんが言う
:
充:この景色、
充:お前には、もう懐かしい風景なんやろうな
:
可奈:そうやね、懐かしいと思っちゃう
:
充:可奈は東京に行って、変わっちゃったんかねぇ
:
可奈:変わっちゃったって、何よ
可奈:別に東京っていうより、
可奈:大人になれば、変わるでしょ、普通
:
充:まぁそうやな
:
可奈:そうよ、何言ぅてんの
:
充:でもさ
充:お前には、昔から変わらへん癖が一つあんねんよ、知ってるか?
:
可奈:私の癖?
:
充:そう
:
可奈:何それ?
:
充:そういうのがあんねん
:
可奈:だから、何よ、その癖って
:
充:でも、教えてまうとなぁ・・
:
可奈:ケチな事言わんで、はよ教えーや
:
充:教えて欲しいんか?
:
可奈:うん、教えて欲しいわ
:
充:そっか・・
充:
充:お前さ
充:嘘つく時、瞬きの回数が増えんねん
:
可奈:え?
:
充:東京で、何かあったんやろ?
:
可奈:・・・
:
充:話したくないんやったら、話さんでええよ
充:人のプライベートなんか、わざわざ聞く趣味ないから
:
可奈:うん・・
:
充:まぁ、何があったかは知らんけど
充:こっちにおる間、のんびり過ごせよ
:
可奈:うん・・
:
充:・・・
充:
充:そうや、明日の夜は、町内の盆踊りがあるやろ
充:一緒に行かへんか?
充:お前の好きな屋台もあるぞ
:
可奈:うーん・・
:
充:特にやる事もないんやろ?
:
可奈:それは、そうやけど・・
:
充:じゃぁ、行こうや
:
可奈:別にええけど・・
:
充:久しぶりに、可奈の浴衣、見たいんやけど
:
可奈:それは考えとく
:
充:そうか・・
:
可奈(M):みっちゃんの言葉で私は少し落ち着けた気がする。
可奈(M):帰りの電車の中での、みっちゃんとの会話は、久しぶりに楽しいと思う事が出来た。
:
充(M):可奈は東京で何かあったみたいやな、
充(M):5年も帰って来んかった地元に、帰ってくるには、
充(M):やっぱり、それなりの理由があるんやろう。
充(M):心配やけど、可奈が黙ってるなら、聞かへん方がええんやろう
充(M):
充(M):
充(M):次の日の夜、俺たちは町内の盆踊り会場におった。
充(M):盆踊りの会場は、歩いてるだけで面白い。
充(M):可奈も、この雰囲気の中で、元気になってくれればええんやけど・・
:
可奈(M):私達は出店(でみせ)の並ぶ道を、いろんなものを見ながら歩いた。
可奈(M):みっちゃんのリクエストで、久しぶりに浴衣を着てみたけど
可奈(M):やっぱり、ちょっと歩きづらいわ・・
:
可奈:そして、一通り、屋台(やたい)を見たあと、たこ焼きとリンゴ飴を買って、ベンチで少し休む事にした。
:
充:ふう、ようやく座れるって感じやな、可奈、疲れたか?
:
可奈:そうね、ちょっと疲れたかな。
可奈:浴衣歩きにくいし
:
充:そんな事いうなよ
充:そのかわり浴衣のお礼に、たこ焼きおごったやん
:
可奈:足らへんかなぁ・・
:
充:そんな・・ははは
:
可奈:貸しにしとくわ
:
充:そんな殺生な
充:ところで、可奈はいつまで、こっちにおるんや?
:
可奈:16日から会社やから、15日に帰ろうと思ってる
:
充:そうか
:
可奈:みっちゃんはいつから仕事なん?
:
充:俺も同じ、16日から
:
可奈:そっか、まぁどこも同じようなもんやね
:
充:そういうのに関西も関東も無いからな
:
可奈:・・うん・・
:
充:どないしたんや?
:
可奈:ううん・・
:
充:何かあったんか?
:
可奈:うん・・会社でね・・
可奈:私って必要なんかなぁって、思っちゃったんだ
:
充:どういう事や、関西弁が不評やったんか?
:
可奈:違うわ
:
充:ごめん、ごめん、・・で?
:
可奈:私ね、3月にコロナに感染しちゃったんよ
:
充:・・そうなんや・・
:
可奈:うん、それでね、会社を10日休んだの
:
充:まぁ、コロナじゃ会社に行けへんからな
:
可奈:・・うん
:
充:それがどうかしたんか?
:
可奈:10日休んで、会社に申し訳ない気持ちで出社したら、何も変わってない、いつもの会社やってん
:
充:それって、いい会社って事ちゃうんか?
充:それがどうしたん
:
可奈:いい会社やと思うわよ・・でもね・・
:
充:でも?
:
可奈:私の抱えてた仕事も、もう終わっててん
可奈:みんながフォローしてくれて・・
:
充:いや、それかて・・
:
可奈:分かってんのよ
可奈:会社のみんなには感謝してんの
可奈:
可奈:でもね、
可奈:私の仕事やから、私にしか分からへん事があると思ってたんよ
可奈:
可奈:でも、私が休んでいる間、電話とかメールでも、誰も私に、仕事の事、聞いてこんくてさ
:
充:・・・
:
可奈:私ね、会社に入って3年間、一生懸命働いたつもりよ
可奈:
可奈:4年目んなって、小さかったけど、誰かの手伝いやなくて、私がメインの仕事を任せて貰てん
可奈:凄く嬉しかったわ
可奈:
可奈:それで、幾つかそういう仕事をこなして、今度は、少し大きめの仕事がもらえてん
可奈:
可奈:でも、その仕事の途中でコロナに・・
:
充:そうやったんか
:
可奈:出社したら、私の仕事は綺麗に片付いていて、私には別の仕事が用意されてた
:
充:・・・
:
可奈:それで思ってん
可奈:この仕事も、また私がコロナで休んだら、誰かが片づけてまうんやろなぁ・・って
可奈:私って会社に必要なんかなぁって・・
可奈:3年間、あんなに必死でやって来たのに
:
充:なんや、そんな事か
:
可奈:そんな事って何よ、
可奈:みっちゃんには私の気持ちなんて
:
充:あぁ、分からへんよ。
充:可奈、お前、そんな3年や4年で、何かデッカイ事が出来ると思ってたんか
:
可奈:別に、そういう訳じゃ・・
:
充:仕事を任せてもらえるだけ、可奈の方が俺よりええんちゃうか
充:
充:俺なんか、まだ手伝いくらいしか、させてもらえてへんよ
充:言ってみりゃ、単なる労働力でしかないねん
:
可奈:それは・・
:
充:会社の上司に言われたよ。
充:どれだけ出来る奴でも、30超えて、ようやく使える人間程度、
充:40くらいにならへんと、本当の意味で必要な人間には、なれへんのやってさ。
:
可奈:・・・
:
充:若いうちは単なる労働力
充:その労働力のうちに、どれだけ実力が付けれるかが勝負なんやって
充:まぁ、それは俺の会社の話なんやけどさ
充:どの会社でも、あんまり変わらへんのちゃうか
:
可奈:そうやけど・・
:
充:俺かて、上手く結果がだせんかったり、思った事をさせてもらえんくて、
充:イライラしたり、鬱になりそうになったりするよ
:
可奈:え? みっちゃんが?
:
充:あぁ、
充:それこそ、今の俺の仕事なんか、誰がやっても大して変わらへんよ
充:それでも、俺やから良かったって言われるように頑張ってんねん
:
可奈:そうか・・
:
充:可奈の気持ちはわかるけど、ちょっと考えすぎなんちゃうか?
充:話聞いてたら、会社の人はいい人そうやし、俺からしたら、可奈が羨ましいくらいやで
:
可奈:ありがとう、そう言ってもらって、少し楽んなったわ
:
充:そっか、よかったな
:
可奈:昨日、大人になったら変わるって言ったけど
可奈:みっちゃんは変わらへんね
:
充:そうか?
:
可奈:昔のまんま
可奈:
可奈:人の気持ちは分からへんけどねw
:
充:人の気持ちなんか、分かるもんちゃうんやって
充:せやから、大事にしようって思うんちゃうか
:
可奈:え?
:
充:あー、あれや
充:俺が変わらへんのは、この街が変わらへんからやな
充:いつも定番のボケとツッコミ。
充:東京みたいにコロコロ、コロコロ
充:流行(はやり)に流されたりせぇへんからよ。
充:だから、変わらへんように、見えるんやな
:
可奈:ふふ、そうかもしれないわね
:
充:そうや、明日も盆踊りやってる所あるから、一緒に行こうや
:
可奈:もう浴衣は着ぃひんで
:
充:そんな・・
:
可奈:ふふふ
:
可奈(M):私はみっちゃんの言葉で気持ちが楽になった
可奈(M):そして、みっちゃんは、私が大阪にいる間、盆踊りだけじゃなく、いろいろな所に連れ出してくれた。
可奈(M):
可奈(M):
可奈(M):8月15日
可奈(M):東海道新幹線の上りのホーム
可奈(M):東京に帰る私をみっちゃんが見送りに来てくれた
:
可奈:わざわざ、見送りに来てくれて、ありがとうね。
:
充:そんな事ええって
:
可奈:みっちゃんのおかげで、気持ちの整理がついたわ
可奈:ありがとう
:
充:それはよかったな
充:東京でも元気でやれよ
充:また、こっちに帰って来い
:
可奈:うん
可奈:久しぶりに帰って来て、私はやっぱりこの街が好きやって
可奈:思い出せた気ぃする。
:
充:そっか
充:俺は可奈の事、好きやったで、ずっと
:
可奈:え?
可奈:なによ、突然
可奈:
可奈:ずっととか言って、高校の頃、何も言わんかったくせに。
:
充:俺はさ、子供の頃から大阪が好きで
充:大阪で生きていきたいと思っててん。
充:阪神(はんしん)好っきやしな。
充:せやから東京に対して『憧れが一杯』の可奈を、止められへんかったんよ
充:まだ高校生の俺じゃ、お前を引き留めたって、責任取れへんかったしな
:
可奈:ずるいわ
可奈:今から東京に戻る私に、そんな事いうなんて
可奈:東京に帰りたくなくなるやん・・
:
充:はは、すまんな
充:でも、そんな事は気にすんな
充:いつでも大阪に帰ってこいよ
:
可奈:やっぱり、私、東京に戻らへん
:
充:可奈・・
:
可奈:戻りたくない・・
:
充:いや、戻らんと不味いやろ
:
可奈:みっちゃんが悪い
:
充:悪かったって
:
可奈:だって・・
:
充:瀬(せ)を早(はや)み
充:岩にせかるる
充:滝川(たきがは)の
充:われても末(すえ)に 逢(あ)はむとぞ思ふ
:
可奈:みっちゃん・・
:
充:お前の好きな歌やろ
:
可奈:・・・うん
:
充:大阪なんて近いもんや
充:いつでも、帰ってこれるやろ
:
可奈:うん・・わかった
:
充:なんなら、俺がお前を迎えに行ったろか
:
可奈:何よそれw
可奈:そういう事は、もっと格好(かっこう)良く言ってくれへんとw
:
充:ははは、そうやな
:
可奈:あ! そういえば
:
充:ん?
:
可奈:みっちゃん、私が嘘をつくときの癖(くせ)、ずっと隠(かく)してたやろ
可奈:なんで、今まで教えてくれへんかったんよ
:
充:あぁ、あれか
充:あれは、嘘(うそ)や
:
可奈:え?
:
充:お前が何か隠してそうやったから、カマかけただけや
:
可奈:えー、ひどーい
可奈:もう、信じてもうたやん!
:
充:すまん、すまん、テレビでやってて恰好よかったから、一度使ってみたかったんよ
:
可奈:もう、相変(あいかわ)らずやね
可奈:ふふふ
:
充:ははは
:
可奈:それも貸しにしとくな
:
充:そんな・・
:
可奈(M):こうして私は東京に戻った
可奈(M):肩の力の抜けた私は、東京に戻ってから、今まで以上に頑張る事が出来た。
可奈:
可奈:
可奈(M):そして、あれから3年
可奈(M):驚いた事に、本当にみっちゃんが私を迎えに来てくれました。
:
充:浴衣の借りを返さなあかんかったからね・・
:
可奈(M):みっちゃんとの結婚を機に、私は大阪に帰り、
可奈(M):今では、仕事と子育てとボケとツッコミに追われる、忙しくも幸せな暮らしをしています。
可奈(M):
可奈(M):あの時の事は、今でも、照れくさい、いい思い出として、私の中に残っています。
可奈(M):今思うと、あの時のみっちゃんは、夏の日差しよりも眩(まぶ)しかったかもしれません。
:
可奈:あー、ガラじゃないわ
:
充:そんな事ないって、可愛かったよ、可奈
:
可奈:アホ、照れくさいやろ
:
完