台本概要

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タイトル 蛍舞う夜きみのとなりで
作者名 Danzig
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 ある村に「蛍の谷」という伝説があった
その谷を見つけられた者は、一つだけ願いが叶うという・・・
その谷を目指して、森を彷徨う二人

男女サシ劇です。
名称変更や、アドリブ、改変などはご自由に

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
弥生 101
一哉 97
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0: 0:山の中を歩く二人 0: 弥生:ねぇ、まだなの? : 一哉:まだ : 弥生:ねぇ、どこまで行くの? : 一哉:わからない : 弥生:ねぇ、本当にあるの? : 一哉:・・・・ : 弥生:ねぇ・・・ : 一哉:もう、五月蠅(うるさ)いなぁ、さっきから、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇって 一哉:少しは黙っていられないのか : 弥生:だってぇ、もう、ずっと山の中を歩いてるじゃない : 一哉:仕方ないだろ、場所が分からないんだから 一哉:でも、この山のどこかにあるんだよ。 : 弥生:でもさ、本当にあるの? : 一哉:あるさ、きっと : 弥生:だって、こんなに探しても見つからないんだよ : 一哉:絶対あるよ、だから探しているんじゃないか : 弥生:んーー : 弥生(M):私の村には、「蛍の谷」という伝説がある。 弥生(M):もともと、私の村の山には、昔から神様が住むと言われて来た。 弥生(M):その神様の住む山のどこかに「蛍の谷」と呼ばれる幻の谷があるらしい。 弥生(M):無数の蛍が乱舞するという、とても幻想的で美しいその谷を見つけられた者は、一つだけ願いが叶うと言う、そんな伝説。 : 弥生(M):そして、私と一哉(かずや)は、今、その谷を探して、山の中を彷徨(さまよ)っている。 : 弥生:ねぇ、一哉、本当にあるの? : 一哉:あるって : 一哉(M):俺と弥生(やよい)は、同じ村の幼馴染(おさななじみ)。 一哉(M):小さな頃から、遊んだり、喧嘩をしたりと、いつも一緒だった。 一哉(M):弥生は、昔から、いつも明るく笑う。 一哉(M):そんな明るい弥生だが、実は、医者にも治せないような、病気に侵(おか)されている。 一哉(M):原因は不明、治療方法も不明で、寿命も極端に短くなる難病だ。 一哉(M):弥生の寿命が、あとどれだけ持つかは分からない。 一哉(M): 一哉(M):でも弥生は、そんな事が、まるで嘘のように、明るく笑う。 一哉(M):体はそんなに楽ではない筈なのだが・・・ : 弥生:ねぇ、ちょっと休憩してくれない。 弥生:少し疲れちゃった、へへへ : 一哉:あ・・うん・・・そうだな 一哉:ごめんな、俺の足に合わせてると、疲れちゃうよな、休憩したら、今度はもう少しゆっくり歩くから : 弥生:うん : 弥生(M):一哉は村の中では、有名な、代々続くお医者さんの家系で、 弥生(M):私のような平凡な家の人間とは、本来なら不釣り合いな身分。 弥生(M):でも、一哉は、そんな事なんか気にかけず、昔から誰とでも普通に接するいい奴だ 弥生(M):私とも、普通に遊んでくれるし、普通に喧嘩もする。 弥生(M): 弥生(M):今日は、そんな一哉から突然、「蛍の谷を探そう」と誘われた。 弥生(M):「蛍の谷」の伝説は、村ではみんなが知っている話だけど、誰も信じてはいない。 弥生(M):でも、一哉は、その伝説が本当だという証拠を見つけたと言って、私を誘って来た。 : : 一哉:弥生(やよい)、休んだら、そろそろ行こうか 一哉:遅くなると、帰れなくなるから : 弥生:うん、分かった : 弥生(M):私と一哉は、また歩き出す : 弥生:でもさ、その話って本当なの? : 一哉:あぁ、本当さ : 一哉(M):俺は一週間前、家にある蔵の中で、古い診療(しんりょう)記録を見た。 一哉(M):弥生と同じ病気だった患者が、ある日突然、病気が治ったというものだった。 一哉(M):詳しい事は書かれていなかったが、特別な治療をした訳ではない。 一哉(M):ある日、その患者は山で綺麗な谷に迷い込んだらしいのだが、 一哉(M):その次の日から、体調が良くなったというので、検診をしたら、病気が治っていたというのだ。 : 一哉(M):俺は、その診療記録を見て、「蛍の谷」の伝説が本当にあるかもしれないと思い、 一哉(M):「蛍の谷」の伝説に関する書物を念入りに調べた。 一哉(M):そして俺は「蛍の谷」が本当にあると確信した。 : 弥生:そっか 弥生:よくわかんないけどさ、あるといいね「蛍の谷」 : : : 一哉:「あるといいね」って、何を呑気な事言ってるんだよ、お前がそんな事言ってどうするんだよ : 弥生:だって私はさ、一哉が「医者として、もっと頭が良くなりたい」っていう願いを叶えたいって言うから、付き合ってるだけだもん。 : 一哉:何言ってんだよ、お前、自分の病気を治したいんだろ? : 弥生:そりゃ、治したいけどさ、私、正直、あんまりピンと来てないんだよね。 : 一哉:ふん、じゃぁ勝手にしろよ : 弥生:でもさ、一哉って、今でも凄く頭いいじゃない。 弥生:それ以上、頭良くなりたいの? : 一哉:あぁ、なりたいね、俺は医者として、毎日、無力感(むりょくかん)で一杯だよ。 一哉:俺は、どんな病気でも治したい。 だから、もっともっと知識も力も付けたいんだよ 一哉:弥生の病気だって治してやれないし・・・ : 弥生:一哉ってさ、以外と、私の事考えてくれてるのね。 : 一哉:あぁ、医者としてね : 弥生:だったらさ、一哉が「私の病気を治したい」って、神様にお願いしてくれればいいじゃない? : 一哉:そんな事は出来ないんだよ。 : 弥生:そうなの? どうして? : 一哉:文献(ぶんけん)によると、どうも「人の為」の願いってのは、ダメらしい。 一哉:自分の為か、せめて親とか子供とか、家族の為というのじゃないと、願いは叶わないらしいんだ : 弥生:そうなんだ・・・ : 一哉:・・・ 一哉:まぁとにかく、早く「蛍の谷」を見つけないとな : : 弥生(M):それから暫(しばら)く歩いた頃、私達は山の高台に出た : 弥生:なんか、随分、高い所まで、登って来たよね 弥生:谷って言うくらいだから、低い所にあるんじゃないの? : 一哉:それは、そうだけど、一旦、高いところに登って、方向を決めるんだよ。 : 弥生:そうなんだ・・・意外と面倒なんだね 弥生:でも、一哉ってやっぱり頭がいいんだね : 一哉:何を呑気(のんき)な事を・・・ : 弥生(M):その時、私は、ふと空を見上げた : 弥生:ねぇ、ねぇ、一哉。 弥生:見てよ、星が凄く綺麗だよ : 一哉:今、それどころじゃないよ : 弥生:そんな事言わずに、見てごらんよ 弥生:ほら : 一哉:まったく、何を言って・・・あぁ・・・ : 一哉(M):俺は、弥生に促(うなが)されるままに空を見た 一哉(M):見上げる俺の目には、満天の星空が広がっていた 一哉(M):他に灯(あか)りが無いせいか、今まで見た事もない程、まるで、吸い込まれそうな、美しい星空だった : 弥生:ね、綺麗でしょ : 一哉:・・・・ : 弥生:綺麗だよね : 一哉:うん : 弥生:私さ、こんな綺麗な星空、初めて見たよ : 一哉:・・・俺も・・・初めて見たよ・・・ : 弥生:村で見るのとは全然違うね。 : 一哉:そうだな・・・ : : 弥生(M):私達は、少しの間、一緒に星空を眺めていた : 弥生:ねぇ、一哉。 : 一哉:何? : 弥生:こんな綺麗な星空を見てるとさ : 一哉:うん : 弥生:もう「これでいいんじゃない」って思わない? : 一哉:え? : 弥生:もう、これで神様にお願いしても、叶いそうじゃない : 一哉:うん、そうだなぁ・・・ 一哉:って、そんな訳あるか! : 弥生:へへへ 弥生:でも、ちょっとはそう思ったでしょ : 一哉:・・・・ : 弥生:へへへ : 一哉:ったく・・・先を急ぐぞ : 弥生:一哉、ありがとうね : 一哉:何がだよ : 弥生:気を使ってくれてさ : 一哉:言ったろ、俺には叶えたい夢があるから「蛍の谷」を探すんだ。 一哉:言ってみれば、自分の為さ、弥生は、弥生で、自分の為に願えばいいんだよ。 : 弥生:へへへ、そうか : 一哉:あぁ : 弥生:じゃぁ、私、もう、この星空でいいかなぁ : 一哉:何言ってんだよ、ここまで来て : 弥生:でも、もう疲れちゃったし・・・ : 一哉:・・・もう、好きにしろ! 一哉:俺は行くからな : 弥生:あぁ、ごめん、ごめん、待ってよ、私も行くよ 弥生:こんなところに、一人置いて行かれても困るし : 一哉:ふん : 弥生:怒らないでよ・・・ : 一哉:・・・ : 弥生(M):そして、私達は、また暫(しばら)く歩いた 弥生(M):どれだけ歩いただろう、流石に疲れが隠せなくなって来た頃、一哉が突然、立ち止まった : : : 一哉:ん? : 弥生:え? どうしたの一哉 : 一哉:二股に別れた木・・・ : 一哉:あった! : 弥生:あったの?「蛍の谷」 : 一哉:いや、「蛍の谷」への目印があったんだよ 一哉:この二股に別れた方向に下って行けば「蛍の谷」がある筈(はず)だ : 弥生:ホント! : 一哉:あぁ、間違いない 一哉:行こう、弥生 : 弥生:うん : 弥生(M):私は、一哉について、谷へ降りていく 弥生(M):少し急な斜面もあり、足場も悪い。 一哉は、その都度、私を気遣ってくれた : 一哉:足元に気をつけろよ。 : 弥生:うん : 弥生(M):坂を下りて行った、その先に、きれいな光が溢(あふ)れる場所があった : 弥生:わぁ・・・・きれい・・・ : 一哉:あった! 一哉:あったよ、弥生、ここだ! 一哉:ここが「蛍の谷」だよ 一哉:やっぱり、あったんだ! : 弥生:凄いね、本当にあったんだね 弥生:蛍があんなに沢山・・・ 弥生:さっきの星空より、ずっと綺麗・・・ : 一哉(M):蛍の谷は本当にあった 一哉(M):その谷は、透き通るような黄緑色の無数の光が飛び交い、 一哉(M):草を、木を、水辺を、ほんのりと照らしているように、明るさが滲(にじ)んでいた。 一哉(M):そして、俺と弥生の周りは、神々(こうごう)しく、幻想的な美しさで満たされていた : 弥生:こんなに綺麗だなんて・・・ : 一哉:弥生、ここで、神様に願い事を祈ってごらんよ : 弥生:え? どうやって? 弥生:やり方がわからないよ : 一哉:俺もよく分からないんだけど、 一哉:そのまま願い事を言えばいいんじゃないかな? : 弥生:うん、やってみる。 : 一哉(M):弥生は、手を合わせて神様に祈っていた 一哉(M):その姿を見て俺は、本当にここに、弥生を連れて来られてよかったと思った。 : : 一哉:弥生、神様にお願いできたか? : 弥生:うん、お願いしてみた。 : 一哉:あぁ・・・よかった・・・ : 弥生:一哉・・・ : 一哉:よかったな、弥生! 一哉:これで、弥生の病気も治るよ : 弥生:あのさ・・・ : 一哉:何? : 弥生:実は、私の病気は治らないのよ、ははは : 一哉:そんな事ないさ、この蛍の谷に来れたんだ 一哉:伝説によると、ここに来られる人間は、神様が「願いを叶えてもいい」っていう人だけだから 一哉:ここに来れたって事は、願いが叶うんだよ。 : 弥生:違うのよ : 一哉:何が違うんだよ : 弥生:私さ、別の事をお願いしちゃったんだ ははは : 一哉:何やってるんだよ、今の弥生には、病気以上に大事な事なんてないだろ : 弥生:そんな事ないよ : 一哉:じゃぁ、なんだよ、別の事って・・・ : 弥生:うん・・・・ : 一哉:どうしたんだよ? : 弥生:別にいいじゃない、私の事は 弥生:それより、一哉のお願いは? : 一哉:何言ってるんだよ、弥生。 一哉:どれだけ心配してると思ってるんだ、あんなに苦労してここまで来て、病気以上に大事な事なんてあるのかよ! : 弥生:それが、あるんだよ・・・ : 一哉:病気以上に大事な事って、なんなんだよ! : 弥生:うん・・・ : 一哉:弥生! : : 弥生:私さ、一哉のお嫁さんになりたいって、お願いしちゃった・・・ははは : 一哉:な・・・ : 弥生:へへへ 弥生: 弥生:ごめんね : 一哉:お前、何言ってんだよ、このままだと死んじゃうんだぞ : 弥生:いいの : 一哉:いいわけないだろ : 弥生:ホントにいいの・・・ : 一哉:そんな・・・ : 弥生:一哉の家はさ、代々お医者さんの家系でしょ? 弥生:私の家は、ごく平凡で、特に裕福でもない家庭だからさ、そもそも、釣り合わないのよ。 弥生:普通、結婚なんて出来ないでしょ。 弥生:一哉だって、私の事を別にそんな風に見てるわけじゃないし : 一哉:・・・ : 弥生:私ね、小さい頃からずっと思ってたんだよ 弥生:一哉のお嫁さんになりたいって・・・ 弥生: 弥生:だけどさ、結婚なんて出来ないから、ずっと言わないようにしてたんだよ 弥生:言ったってさ、自分が悲しくなるだけだから・・・ 弥生: 弥生:だからさ、本当に神様が願いを叶えてくれるなら・・・って、お願いしたの。 : 一哉:弥生・・・ : 弥生:私が病気で死ぬまでの、ほんの短い間でもいいの。 弥生:一哉のお嫁さんになりたいの 弥生: 弥生:だって、たとえ、私が病気を治して、長生き出来たとしてもさ、 弥生:一哉が他の人と結婚して、幸せな家庭を築いて行くのを、私はずっと見ていなきゃいけないでしょ。 弥生:そんなみじめな一生を過ごすより、私はこっちを選んだの。 : 一哉:そんなこと・・・ : 弥生:多分だけどさ、 弥生:何度やり直したって、私はこっちを選ぶよ : 一哉:バカ : 弥生:バカとは何よ : 一哉:ホント、バカだよ : : 弥生:バカなんて、酷いじゃない! : 一哉:あぁーあ 一哉:そんな願いをする為に、わざわざここまで来たのかよ。 一哉:それなら、俺一人で来ればよかったよ : 弥生:何? 弥生:一哉は、そんなに私をお嫁さんにするのが嫌だったの? : 一哉:そうじゃないよ : 弥生:じゃぁ、何なのよ : 一哉:俺が最初に願おうとしていた事を教えてやろうか : 弥生:最初にって・・・ 弥生:一哉のお願いは最初から「凄いお医者さんに成れるように、頭を良くしてくれって」事でしょ? : 一哉:違うんだよ : 弥生:じゃぁ、何よ : 一哉:「弥生の病気が治りますように」って願うつもりだったんだよ : 弥生:そんな・・・何でよ 弥生:だって、他人の為の願いは叶わないって言ったのは一哉じゃない : 一哉:それが、大丈夫なんだよ : 弥生:え? ずっと嘘ついてたの? : 一哉:違うよ : 弥生:じゃぁ、どういう事よ : 一哉:俺が、弥生と結婚すれば、もうお前は他人じゃなくなるだろ? : 弥生:え? 弥生:どういう事? : 一哉:・・・・・(歯切れが悪い)この谷を見つけられたら、弥生に結婚を申し込もうと思ってたんだよ。 : 弥生:え? : 一哉:・・・・・(歯切れが悪い)で、結婚したら、もう他人じゃなくなるだろ。 一哉:だから、俺の最初の願いは「俺の嫁の病気を治してくれ」って事だったんだよ : 弥生:え?、え? 弥生:じゃぁ、なんで私を連れてきたの? : 一哉:・・・・(非常に歯切れが悪い)それは・・・お前が俺との結婚を断るかもしれないだろ 一哉:お前と結婚するってのは、神様への願いじゃないからさ 一哉: 一哉:お前が俺との結婚を嫌がっても、弥生が自分で「病気を治してくれ」ってお願いすれば、それで解決するから 一哉:だから、お前を、ここまで連れて来たんだよ : 弥生:そんなの、私、断らないわよ : 一哉:知らねぇーだろ、そんな事! : 弥生:なんだぁ 弥生:そんな事なら、早く言ってよ : 一哉:言えるか! 一哉:ここに辿り着けなかったかもしれないのに : 弥生:じゃぁ何? 弥生:一哉からの申し出を私が受ければ、私の願いは無駄になるって事? : 一哉:そういう事 : 弥生:そんなぁ・・・あんなに歩いたのに : 一哉:知るか、バカ! : 弥生:しかもさっき、私、凄い恥ずかしい事言った気がする・・・ : 一哉:それは、いいんじゃないか? 一哉:どうせ、お互い同じ事を思ってたんだし : 弥生:それでもさ、やっぱり、言葉にしたら恥ずかしいよ : : 一哉:そんな事ないよ 一哉:弥生、今、ここで結婚しよう : 弥生:え? 弥生:今、ここで? : 一哉:そう。 一哉:そうしないと、「俺の嫁の病気を治してくれ」っていう、願いが叶わないかもしれないだろ? : 弥生:いや、それは、そうかもしれないけど・・・やっぱりさ・・・ : 一哉:な、弥生 : 弥生:・・・うん・・・ : 一哉:弥生、結婚しよう : 弥生:うん・・・わかった・・ : 一哉:よし、じゃぁ、今度は俺の願いだな 一哉: 一哉:「俺の嫁の病気が治りますように」 : 一哉(M):俺が、そう願った瞬間、弥生の体が光の粒に包まれた : 弥生:わぁ・・・何? 弥生:光の粒が私の周りに集まって来た : 一哉:光の粒は、蛍じゃなかったんだ・・・ : 一哉(M):弥生は、数秒間、光に包まれて眩しいほどに光っていた 一哉(M):そして、暫くすると、光は滲(にじ)むように、消えていった : 弥生:どうなっちゃったんだろう、私 : 一哉:神様が願いを叶えてくれたのかもしれないな。 : 弥生:でも、変わった感じはしないよ : 一哉:帰ったら、検査してみよう : 弥生:うん : 一哉:じゃぁ、そろそろ帰ろうか : 弥生:うん・・・ 弥生:一哉、疲れたから、お嫁さんをオブってくれない : 一哉:自分で歩けよ : 弥生:そんなぁ・・ケチ、ははは : 一哉:ははは : 弥生:ははは : 一哉(M):そして俺達は村に帰った 一哉(M):村に帰って、弥生の身体を検査してみた所、弥生の病気はすっかり治っていた。 一哉(M): 一哉(M):そして次の日、俺は親族中に弥生と結婚をする事を伝えた。 一哉(M):俺は、親族から猛反対される事を覚悟していたが、神様が弥生の願いを叶えてくれたのか 一哉(M):誰からの反対もなく、すんなり、弥生と結婚する事が出来た。 : 弥生:一哉と結婚が出来るなんて・・・ 弥生:神様、本当にありがとう。 : 一哉(M):この、俺と弥生との話が、村全体に広がり、村に伝わる「蛍の谷伝説」を疑う者は、殆(ほとん)ど居なくなった。 一哉(M):しかし、あれから、誰一人として、あの谷に辿り着けた人間はいないようだ。 0: 0: 0:終わり 0:

0: 0:山の中を歩く二人 0: 弥生:ねぇ、まだなの? : 一哉:まだ : 弥生:ねぇ、どこまで行くの? : 一哉:わからない : 弥生:ねぇ、本当にあるの? : 一哉:・・・・ : 弥生:ねぇ・・・ : 一哉:もう、五月蠅(うるさ)いなぁ、さっきから、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇって 一哉:少しは黙っていられないのか : 弥生:だってぇ、もう、ずっと山の中を歩いてるじゃない : 一哉:仕方ないだろ、場所が分からないんだから 一哉:でも、この山のどこかにあるんだよ。 : 弥生:でもさ、本当にあるの? : 一哉:あるさ、きっと : 弥生:だって、こんなに探しても見つからないんだよ : 一哉:絶対あるよ、だから探しているんじゃないか : 弥生:んーー : 弥生(M):私の村には、「蛍の谷」という伝説がある。 弥生(M):もともと、私の村の山には、昔から神様が住むと言われて来た。 弥生(M):その神様の住む山のどこかに「蛍の谷」と呼ばれる幻の谷があるらしい。 弥生(M):無数の蛍が乱舞するという、とても幻想的で美しいその谷を見つけられた者は、一つだけ願いが叶うと言う、そんな伝説。 : 弥生(M):そして、私と一哉(かずや)は、今、その谷を探して、山の中を彷徨(さまよ)っている。 : 弥生:ねぇ、一哉、本当にあるの? : 一哉:あるって : 一哉(M):俺と弥生(やよい)は、同じ村の幼馴染(おさななじみ)。 一哉(M):小さな頃から、遊んだり、喧嘩をしたりと、いつも一緒だった。 一哉(M):弥生は、昔から、いつも明るく笑う。 一哉(M):そんな明るい弥生だが、実は、医者にも治せないような、病気に侵(おか)されている。 一哉(M):原因は不明、治療方法も不明で、寿命も極端に短くなる難病だ。 一哉(M):弥生の寿命が、あとどれだけ持つかは分からない。 一哉(M): 一哉(M):でも弥生は、そんな事が、まるで嘘のように、明るく笑う。 一哉(M):体はそんなに楽ではない筈なのだが・・・ : 弥生:ねぇ、ちょっと休憩してくれない。 弥生:少し疲れちゃった、へへへ : 一哉:あ・・うん・・・そうだな 一哉:ごめんな、俺の足に合わせてると、疲れちゃうよな、休憩したら、今度はもう少しゆっくり歩くから : 弥生:うん : 弥生(M):一哉は村の中では、有名な、代々続くお医者さんの家系で、 弥生(M):私のような平凡な家の人間とは、本来なら不釣り合いな身分。 弥生(M):でも、一哉は、そんな事なんか気にかけず、昔から誰とでも普通に接するいい奴だ 弥生(M):私とも、普通に遊んでくれるし、普通に喧嘩もする。 弥生(M): 弥生(M):今日は、そんな一哉から突然、「蛍の谷を探そう」と誘われた。 弥生(M):「蛍の谷」の伝説は、村ではみんなが知っている話だけど、誰も信じてはいない。 弥生(M):でも、一哉は、その伝説が本当だという証拠を見つけたと言って、私を誘って来た。 : : 一哉:弥生(やよい)、休んだら、そろそろ行こうか 一哉:遅くなると、帰れなくなるから : 弥生:うん、分かった : 弥生(M):私と一哉は、また歩き出す : 弥生:でもさ、その話って本当なの? : 一哉:あぁ、本当さ : 一哉(M):俺は一週間前、家にある蔵の中で、古い診療(しんりょう)記録を見た。 一哉(M):弥生と同じ病気だった患者が、ある日突然、病気が治ったというものだった。 一哉(M):詳しい事は書かれていなかったが、特別な治療をした訳ではない。 一哉(M):ある日、その患者は山で綺麗な谷に迷い込んだらしいのだが、 一哉(M):その次の日から、体調が良くなったというので、検診をしたら、病気が治っていたというのだ。 : 一哉(M):俺は、その診療記録を見て、「蛍の谷」の伝説が本当にあるかもしれないと思い、 一哉(M):「蛍の谷」の伝説に関する書物を念入りに調べた。 一哉(M):そして俺は「蛍の谷」が本当にあると確信した。 : 弥生:そっか 弥生:よくわかんないけどさ、あるといいね「蛍の谷」 : : : 一哉:「あるといいね」って、何を呑気な事言ってるんだよ、お前がそんな事言ってどうするんだよ : 弥生:だって私はさ、一哉が「医者として、もっと頭が良くなりたい」っていう願いを叶えたいって言うから、付き合ってるだけだもん。 : 一哉:何言ってんだよ、お前、自分の病気を治したいんだろ? : 弥生:そりゃ、治したいけどさ、私、正直、あんまりピンと来てないんだよね。 : 一哉:ふん、じゃぁ勝手にしろよ : 弥生:でもさ、一哉って、今でも凄く頭いいじゃない。 弥生:それ以上、頭良くなりたいの? : 一哉:あぁ、なりたいね、俺は医者として、毎日、無力感(むりょくかん)で一杯だよ。 一哉:俺は、どんな病気でも治したい。 だから、もっともっと知識も力も付けたいんだよ 一哉:弥生の病気だって治してやれないし・・・ : 弥生:一哉ってさ、以外と、私の事考えてくれてるのね。 : 一哉:あぁ、医者としてね : 弥生:だったらさ、一哉が「私の病気を治したい」って、神様にお願いしてくれればいいじゃない? : 一哉:そんな事は出来ないんだよ。 : 弥生:そうなの? どうして? : 一哉:文献(ぶんけん)によると、どうも「人の為」の願いってのは、ダメらしい。 一哉:自分の為か、せめて親とか子供とか、家族の為というのじゃないと、願いは叶わないらしいんだ : 弥生:そうなんだ・・・ : 一哉:・・・ 一哉:まぁとにかく、早く「蛍の谷」を見つけないとな : : 弥生(M):それから暫(しばら)く歩いた頃、私達は山の高台に出た : 弥生:なんか、随分、高い所まで、登って来たよね 弥生:谷って言うくらいだから、低い所にあるんじゃないの? : 一哉:それは、そうだけど、一旦、高いところに登って、方向を決めるんだよ。 : 弥生:そうなんだ・・・意外と面倒なんだね 弥生:でも、一哉ってやっぱり頭がいいんだね : 一哉:何を呑気(のんき)な事を・・・ : 弥生(M):その時、私は、ふと空を見上げた : 弥生:ねぇ、ねぇ、一哉。 弥生:見てよ、星が凄く綺麗だよ : 一哉:今、それどころじゃないよ : 弥生:そんな事言わずに、見てごらんよ 弥生:ほら : 一哉:まったく、何を言って・・・あぁ・・・ : 一哉(M):俺は、弥生に促(うなが)されるままに空を見た 一哉(M):見上げる俺の目には、満天の星空が広がっていた 一哉(M):他に灯(あか)りが無いせいか、今まで見た事もない程、まるで、吸い込まれそうな、美しい星空だった : 弥生:ね、綺麗でしょ : 一哉:・・・・ : 弥生:綺麗だよね : 一哉:うん : 弥生:私さ、こんな綺麗な星空、初めて見たよ : 一哉:・・・俺も・・・初めて見たよ・・・ : 弥生:村で見るのとは全然違うね。 : 一哉:そうだな・・・ : : 弥生(M):私達は、少しの間、一緒に星空を眺めていた : 弥生:ねぇ、一哉。 : 一哉:何? : 弥生:こんな綺麗な星空を見てるとさ : 一哉:うん : 弥生:もう「これでいいんじゃない」って思わない? : 一哉:え? : 弥生:もう、これで神様にお願いしても、叶いそうじゃない : 一哉:うん、そうだなぁ・・・ 一哉:って、そんな訳あるか! : 弥生:へへへ 弥生:でも、ちょっとはそう思ったでしょ : 一哉:・・・・ : 弥生:へへへ : 一哉:ったく・・・先を急ぐぞ : 弥生:一哉、ありがとうね : 一哉:何がだよ : 弥生:気を使ってくれてさ : 一哉:言ったろ、俺には叶えたい夢があるから「蛍の谷」を探すんだ。 一哉:言ってみれば、自分の為さ、弥生は、弥生で、自分の為に願えばいいんだよ。 : 弥生:へへへ、そうか : 一哉:あぁ : 弥生:じゃぁ、私、もう、この星空でいいかなぁ : 一哉:何言ってんだよ、ここまで来て : 弥生:でも、もう疲れちゃったし・・・ : 一哉:・・・もう、好きにしろ! 一哉:俺は行くからな : 弥生:あぁ、ごめん、ごめん、待ってよ、私も行くよ 弥生:こんなところに、一人置いて行かれても困るし : 一哉:ふん : 弥生:怒らないでよ・・・ : 一哉:・・・ : 弥生(M):そして、私達は、また暫(しばら)く歩いた 弥生(M):どれだけ歩いただろう、流石に疲れが隠せなくなって来た頃、一哉が突然、立ち止まった : : : 一哉:ん? : 弥生:え? どうしたの一哉 : 一哉:二股に別れた木・・・ : 一哉:あった! : 弥生:あったの?「蛍の谷」 : 一哉:いや、「蛍の谷」への目印があったんだよ 一哉:この二股に別れた方向に下って行けば「蛍の谷」がある筈(はず)だ : 弥生:ホント! : 一哉:あぁ、間違いない 一哉:行こう、弥生 : 弥生:うん : 弥生(M):私は、一哉について、谷へ降りていく 弥生(M):少し急な斜面もあり、足場も悪い。 一哉は、その都度、私を気遣ってくれた : 一哉:足元に気をつけろよ。 : 弥生:うん : 弥生(M):坂を下りて行った、その先に、きれいな光が溢(あふ)れる場所があった : 弥生:わぁ・・・・きれい・・・ : 一哉:あった! 一哉:あったよ、弥生、ここだ! 一哉:ここが「蛍の谷」だよ 一哉:やっぱり、あったんだ! : 弥生:凄いね、本当にあったんだね 弥生:蛍があんなに沢山・・・ 弥生:さっきの星空より、ずっと綺麗・・・ : 一哉(M):蛍の谷は本当にあった 一哉(M):その谷は、透き通るような黄緑色の無数の光が飛び交い、 一哉(M):草を、木を、水辺を、ほんのりと照らしているように、明るさが滲(にじ)んでいた。 一哉(M):そして、俺と弥生の周りは、神々(こうごう)しく、幻想的な美しさで満たされていた : 弥生:こんなに綺麗だなんて・・・ : 一哉:弥生、ここで、神様に願い事を祈ってごらんよ : 弥生:え? どうやって? 弥生:やり方がわからないよ : 一哉:俺もよく分からないんだけど、 一哉:そのまま願い事を言えばいいんじゃないかな? : 弥生:うん、やってみる。 : 一哉(M):弥生は、手を合わせて神様に祈っていた 一哉(M):その姿を見て俺は、本当にここに、弥生を連れて来られてよかったと思った。 : : 一哉:弥生、神様にお願いできたか? : 弥生:うん、お願いしてみた。 : 一哉:あぁ・・・よかった・・・ : 弥生:一哉・・・ : 一哉:よかったな、弥生! 一哉:これで、弥生の病気も治るよ : 弥生:あのさ・・・ : 一哉:何? : 弥生:実は、私の病気は治らないのよ、ははは : 一哉:そんな事ないさ、この蛍の谷に来れたんだ 一哉:伝説によると、ここに来られる人間は、神様が「願いを叶えてもいい」っていう人だけだから 一哉:ここに来れたって事は、願いが叶うんだよ。 : 弥生:違うのよ : 一哉:何が違うんだよ : 弥生:私さ、別の事をお願いしちゃったんだ ははは : 一哉:何やってるんだよ、今の弥生には、病気以上に大事な事なんてないだろ : 弥生:そんな事ないよ : 一哉:じゃぁ、なんだよ、別の事って・・・ : 弥生:うん・・・・ : 一哉:どうしたんだよ? : 弥生:別にいいじゃない、私の事は 弥生:それより、一哉のお願いは? : 一哉:何言ってるんだよ、弥生。 一哉:どれだけ心配してると思ってるんだ、あんなに苦労してここまで来て、病気以上に大事な事なんてあるのかよ! : 弥生:それが、あるんだよ・・・ : 一哉:病気以上に大事な事って、なんなんだよ! : 弥生:うん・・・ : 一哉:弥生! : : 弥生:私さ、一哉のお嫁さんになりたいって、お願いしちゃった・・・ははは : 一哉:な・・・ : 弥生:へへへ 弥生: 弥生:ごめんね : 一哉:お前、何言ってんだよ、このままだと死んじゃうんだぞ : 弥生:いいの : 一哉:いいわけないだろ : 弥生:ホントにいいの・・・ : 一哉:そんな・・・ : 弥生:一哉の家はさ、代々お医者さんの家系でしょ? 弥生:私の家は、ごく平凡で、特に裕福でもない家庭だからさ、そもそも、釣り合わないのよ。 弥生:普通、結婚なんて出来ないでしょ。 弥生:一哉だって、私の事を別にそんな風に見てるわけじゃないし : 一哉:・・・ : 弥生:私ね、小さい頃からずっと思ってたんだよ 弥生:一哉のお嫁さんになりたいって・・・ 弥生: 弥生:だけどさ、結婚なんて出来ないから、ずっと言わないようにしてたんだよ 弥生:言ったってさ、自分が悲しくなるだけだから・・・ 弥生: 弥生:だからさ、本当に神様が願いを叶えてくれるなら・・・って、お願いしたの。 : 一哉:弥生・・・ : 弥生:私が病気で死ぬまでの、ほんの短い間でもいいの。 弥生:一哉のお嫁さんになりたいの 弥生: 弥生:だって、たとえ、私が病気を治して、長生き出来たとしてもさ、 弥生:一哉が他の人と結婚して、幸せな家庭を築いて行くのを、私はずっと見ていなきゃいけないでしょ。 弥生:そんなみじめな一生を過ごすより、私はこっちを選んだの。 : 一哉:そんなこと・・・ : 弥生:多分だけどさ、 弥生:何度やり直したって、私はこっちを選ぶよ : 一哉:バカ : 弥生:バカとは何よ : 一哉:ホント、バカだよ : : 弥生:バカなんて、酷いじゃない! : 一哉:あぁーあ 一哉:そんな願いをする為に、わざわざここまで来たのかよ。 一哉:それなら、俺一人で来ればよかったよ : 弥生:何? 弥生:一哉は、そんなに私をお嫁さんにするのが嫌だったの? : 一哉:そうじゃないよ : 弥生:じゃぁ、何なのよ : 一哉:俺が最初に願おうとしていた事を教えてやろうか : 弥生:最初にって・・・ 弥生:一哉のお願いは最初から「凄いお医者さんに成れるように、頭を良くしてくれって」事でしょ? : 一哉:違うんだよ : 弥生:じゃぁ、何よ : 一哉:「弥生の病気が治りますように」って願うつもりだったんだよ : 弥生:そんな・・・何でよ 弥生:だって、他人の為の願いは叶わないって言ったのは一哉じゃない : 一哉:それが、大丈夫なんだよ : 弥生:え? ずっと嘘ついてたの? : 一哉:違うよ : 弥生:じゃぁ、どういう事よ : 一哉:俺が、弥生と結婚すれば、もうお前は他人じゃなくなるだろ? : 弥生:え? 弥生:どういう事? : 一哉:・・・・・(歯切れが悪い)この谷を見つけられたら、弥生に結婚を申し込もうと思ってたんだよ。 : 弥生:え? : 一哉:・・・・・(歯切れが悪い)で、結婚したら、もう他人じゃなくなるだろ。 一哉:だから、俺の最初の願いは「俺の嫁の病気を治してくれ」って事だったんだよ : 弥生:え?、え? 弥生:じゃぁ、なんで私を連れてきたの? : 一哉:・・・・(非常に歯切れが悪い)それは・・・お前が俺との結婚を断るかもしれないだろ 一哉:お前と結婚するってのは、神様への願いじゃないからさ 一哉: 一哉:お前が俺との結婚を嫌がっても、弥生が自分で「病気を治してくれ」ってお願いすれば、それで解決するから 一哉:だから、お前を、ここまで連れて来たんだよ : 弥生:そんなの、私、断らないわよ : 一哉:知らねぇーだろ、そんな事! : 弥生:なんだぁ 弥生:そんな事なら、早く言ってよ : 一哉:言えるか! 一哉:ここに辿り着けなかったかもしれないのに : 弥生:じゃぁ何? 弥生:一哉からの申し出を私が受ければ、私の願いは無駄になるって事? : 一哉:そういう事 : 弥生:そんなぁ・・・あんなに歩いたのに : 一哉:知るか、バカ! : 弥生:しかもさっき、私、凄い恥ずかしい事言った気がする・・・ : 一哉:それは、いいんじゃないか? 一哉:どうせ、お互い同じ事を思ってたんだし : 弥生:それでもさ、やっぱり、言葉にしたら恥ずかしいよ : : 一哉:そんな事ないよ 一哉:弥生、今、ここで結婚しよう : 弥生:え? 弥生:今、ここで? : 一哉:そう。 一哉:そうしないと、「俺の嫁の病気を治してくれ」っていう、願いが叶わないかもしれないだろ? : 弥生:いや、それは、そうかもしれないけど・・・やっぱりさ・・・ : 一哉:な、弥生 : 弥生:・・・うん・・・ : 一哉:弥生、結婚しよう : 弥生:うん・・・わかった・・ : 一哉:よし、じゃぁ、今度は俺の願いだな 一哉: 一哉:「俺の嫁の病気が治りますように」 : 一哉(M):俺が、そう願った瞬間、弥生の体が光の粒に包まれた : 弥生:わぁ・・・何? 弥生:光の粒が私の周りに集まって来た : 一哉:光の粒は、蛍じゃなかったんだ・・・ : 一哉(M):弥生は、数秒間、光に包まれて眩しいほどに光っていた 一哉(M):そして、暫くすると、光は滲(にじ)むように、消えていった : 弥生:どうなっちゃったんだろう、私 : 一哉:神様が願いを叶えてくれたのかもしれないな。 : 弥生:でも、変わった感じはしないよ : 一哉:帰ったら、検査してみよう : 弥生:うん : 一哉:じゃぁ、そろそろ帰ろうか : 弥生:うん・・・ 弥生:一哉、疲れたから、お嫁さんをオブってくれない : 一哉:自分で歩けよ : 弥生:そんなぁ・・ケチ、ははは : 一哉:ははは : 弥生:ははは : 一哉(M):そして俺達は村に帰った 一哉(M):村に帰って、弥生の身体を検査してみた所、弥生の病気はすっかり治っていた。 一哉(M): 一哉(M):そして次の日、俺は親族中に弥生と結婚をする事を伝えた。 一哉(M):俺は、親族から猛反対される事を覚悟していたが、神様が弥生の願いを叶えてくれたのか 一哉(M):誰からの反対もなく、すんなり、弥生と結婚する事が出来た。 : 弥生:一哉と結婚が出来るなんて・・・ 弥生:神様、本当にありがとう。 : 一哉(M):この、俺と弥生との話が、村全体に広がり、村に伝わる「蛍の谷伝説」を疑う者は、殆(ほとん)ど居なくなった。 一哉(M):しかし、あれから、誰一人として、あの谷に辿り着けた人間はいないようだ。 0: 0: 0:終わり 0: