台本概要

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タイトル 破戒僧「覚超」、物の怪退治 分冊版3
作者名 Danzig
ジャンル 時代劇
演者人数 2人用台本(女1、不問1)
時間 10 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 破戒僧「覚超」の分冊版3です。
今回は、お千代の村での、朱火狐とお千代の会話劇です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
朱火狐 不問 73 覚超と知り合いの妖怪
お千代 71 覚超に物の怪退治を依頼した女
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0: 0:破戒僧覚超の物の怪退治3 0: 0: 0:物の怪退治の後、村に報告に行くと、覚超の期待通り宴となった 0: 0: 朱火狐:よくも、あんなに騒(さわ)げるもんだな 朱火狐:覚超、俺はちょっと夜風にあたってくるぞ 0: 0:建物から出て、少し離れた縁側に座る朱火狐 0: 朱火狐:ふー・・・ 朱火狐:酒は好きだが、 朱火狐:あぁいう雰囲気は好きになれねぇな・・・ : : お千代:朱火狐(あかね)様・・・ : 朱火狐:なんじゃ、お千代か、どうした? : お千代:お酌をしに、まいりました : 朱火狐:こんな所にまでか? 朱火狐:俺は、夜風にあたっているだけだぞ : お千代:ええ、夜風にあたりながらのお酒も、風流かもしれません : 朱火狐:・・・まぁいい 朱火狐:酒はそこに置いて、お前はもう行け : お千代:いいえ、お酌を・・・ : 朱火狐:俺は女が苦手だと、知っておるだろう : お千代:はい、ですから、朱火狐様のお手には触れませんので・・・ : 朱火狐:・・・・ : お千代:まだ、キチンとしたお礼も、言っておりません、でしたので お千代:是非(ぜひ)、お酌を・・・ : 朱火狐:礼なら覚超(かくちょう)に言えよ : お千代:いいえ、覚超(かくちょう)様だけでなく、朱火狐(あかね)様にもお礼を・・・ お千代:ですから・・・ : 朱火狐:・・・・ : お千代:お願い致します : 朱火狐:う・・あぁ・・うん・・それじゃぁ・・・ : お千代:ありがとうございます。 お千代:では、こちらの湯飲(ゆの)みを、お使いください : 朱火狐:あぁ・・・ : お千代:さぁ、どうぞ : 朱火狐:うむ 0: 0:酒を飲む朱火狐 0: お千代:この度は、本当に有難うございました。 : 朱火狐:あぁ・・・覚超に騙(だま)されたからな : お千代:しかし、私が離れた後であれば お千代:そんな話は無かった事にすれば、よかったではありませんか。 お千代:それなのに、覚超様と一緒に、物の怪を退治して下さいました : 朱火狐:事情が何であれ 朱火狐:そういう話になってしまったのでな 朱火狐:まぁ、仕方がないさ 0: 0:少し酒をのむ 0: お千代:ですが、 お千代:あれは覚超様が、朱火狐(あかね)様を騙(だま)したからではないですか お千代:それなのに・・・ : 朱火狐:「事情が何であれ」と言っただろ 朱火狐:人であれば、それでいいのかもしれんがな : お千代:でしたら、朱火狐(あかね)様も、同じようになされば・・・ : 朱火狐:人は人、物の怪は物の怪だ 朱火狐:俺は俺の生き方で生きる : お千代:そうですか・・・・ : 朱火狐:そんなもんさ 朱火狐: 朱火狐:ん・・・ 0: 0:湯飲みの酒を飲み干す朱火狐 0: お千代:お酒・・もう少し、いかがですか? : 朱火狐:あぁ・・・ : お千代:どうぞ : 朱火狐:うむ 0: 0:酌をするお千代 0: お千代:そういえば、朱火狐(あかね)様 お千代:一つお聞きしても、よろしいですか? : 朱火狐:なんだ? : お千代:朱火狐(あかね)様はどうして、女性(にょしょう)がお嫌(きら)いなのですか? お千代:嫌(きら)いというか・・・ お千代:腰が抜けるほどの・・・ : 朱火狐:そんな事を知ってどうする : お千代:覚超様のお話によりますと、朱火狐(あかね)様は、相当(そうとう)お強いとか・・ お千代:それほどお強い朱火狐(あかね)様が、どうしてなのかと思いまして : 朱火狐:昔・・・・ちょっとあってな : お千代:ちょっと・・・ですか : 朱火狐:あまり、いい話じゃない : お千代:そうですか・・・ : 朱火狐:あぁ・・・・ 0: 0:少しの間、黙る朱火狐 0: 0: 朱火狐:昔な、女に騙されたのだ : お千代:騙されたのですか? 朱火狐が? : 朱火狐:あぁ、 朱火狐:騙されただけであれば、まぁそれでよかったんだがな 朱火狐:その女が、俗にいう魔性の女でな・・・ : お千代:魔性の・・・ : 朱火狐:俺は生来(せいらい)、人の嘘というものが、大概(たいがい)分かる 朱火狐:いや、分かると思っていた 朱火狐:だが、その女は、嘘なのか、本当なのか、はたまた冗談なのか・・・ 朱火狐:そういう事が全く分からん女だった 朱火狐:全部嘘だと思っていても、「本当かもしれない」・・・そう思わされてしまう : お千代:まぁ、そんな・・・ : 朱火狐:可愛い顔をして、やることは、大層(たいそう)えげつなく、残酷だ 朱火狐:そして、どんな残酷な事をしても、そいつは可愛く笑う 朱火狐:その笑顔からは、嘘のかけらすら見えん 朱火狐:人間の女とは、これほど醜(みにく)くて、怖いものなのかと思ったよ 朱火狐:それこそ、物の怪より、よほど恐(おそ)ろしいわ : お千代:そうでしたか・・・ : 朱火狐:それからだ、女に触(さわ)られると、背中に虫唾(むしず)が走って、 朱火狐:足腰がいう事を利かなくなるようになったのは・・・ : お千代:物の怪よりもだなんて・・ : 朱火狐:物の怪ってのはな 朱火狐:生まれついての物の怪と、人間や動物が、途中で物の怪に化(ば)けるものがある 朱火狐:物の怪になるような、人間や動物ってのは、 朱火狐:大概、純真な心を持っていたり、一途な奴らだったりするのさ 朱火狐:その純真な思いが、惨(むご)く打ち砕かれた時に、魔(ま)に取りつかれて、物の怪になる 朱火狐: 朱火狐:まぁ、それでも、物の怪になっちまったもんに同情はしないがな : お千代:そうなんですか・・・ : 朱火狐:だから、俺にとっちゃぁ、物の怪よりも、人間の女の方がよほど怖いな : お千代:そんな事が・・・ 0: 0:涙ぐむお千代 0: 朱火狐:お千代、泣いておるのか : お千代:はい・・・ : 朱火狐:なぜ、泣く : お千代:朱火狐(あかね)様に申し訳がなくて : 朱火狐:なぜお前が謝るのだ : お千代:人間の女性(にょしょう)には、確かに魔性(ましょう)がありましょう お千代:それに苦しめられていながら、私を助けて下さるなんて : 朱火狐:それは何度も言っておるだろ、覚超が・・ : お千代:いいえ : 朱火狐:・・・・・ : お千代:朱火狐(あかね)様 0: 0:朱火狐にさわるお千代 0: 朱火狐:な、何をする 朱火狐:俺に、さ、触るな : お千代:朱火狐(あかね)様、腰は抜けますか? : 朱火狐:い・・いや・・・今は、大丈夫なようだ : お千代:やはり・・・そうですか : 朱火狐:ど、どういう事だ? : お千代:私はまだ、男の方を知りません お千代:ですから、朱火狐(あかね)様の嫌う、魔性もないのでございましょう : 朱火狐:でも、昨晩は、お前に抱きつかれて、俺の腰は抜けたぞ : お千代:それは、おそらく お千代:小姓(こしょう)の恰好をした私が、突然、女性(にょしょう)だと分かって お千代:驚いたからではないでしょうか : 朱火狐:そうなのか・・・ : お千代:はい、おそらく お千代:ですが、今は初めから私だと分かっているので、大丈夫なのだと思います。 : 朱火狐:そ・・・そうか・・・お、お前のいう事は、とりあえず分かった・・・ 朱火狐:で、でも、あまり触(さわ)るなよ : お千代:いいえ、理由が分かれば、もう少し触(ふ)れても・・・ 0: 0:もっと触るおちよ 0: 朱火狐:だから・・・・ 朱火狐:あまり触(さわ)るなと・・ : お千代:でも、大丈夫で御座(ござ)いましょう? : 朱火狐:あ・・・あぁ・・・まぁ・・そうだが・・・ : お千代:やはり、私のような女であれば、朱火狐(あかね)様も、苦手にする事もないのですね お千代:よかった・・・ : 朱火狐:お千代、それを覚超には言うなよ 朱火狐:くれぐれもだ : お千代:何故(なぜ)ですか? : 朱火狐:何故(なぜ)って・・・ 朱火狐:生娘(きむすめ)しか、受け付けられぬ物の怪など 朱火狐:あいつにとっては、格好(かっこう)の「からかい道具」にしかならん : お千代:そうなんですか・・・ : 朱火狐:あいつは、そういう奴だ : お千代:わかりました。 お千代:では、覚超様には秘密にしておきます。 お千代: お千代:ですから・・・もう少し・・ 0: 0:朱火狐によりそうように触れるお千代 0: 0: 朱火狐:こら・・お千代・・ふざけるなって 朱火狐:そんなに・・・ 朱火狐:おい、もう少し、はなれ・・ : お千代:いいえ、もうしばらく お千代:こうさせていて下さいませ : 朱火狐:ちょっ・・・お千代 : お千代:先日の夜、覚超様に言われ、朱火狐(あかね)様にしがみ付いた時も、そうでした。 お千代:朱火狐様からは、兄のような温(ぬく)もりを感じるのです お千代:なんとも懐(なつ)かしいような温もりを・・・ お千代:ですから、もうしばらく・・ : 朱火狐:・・・・ : お千代:朱火狐様・・・ : 朱火狐:どうした? : お千代:朱火狐様は、女性(にょしょう)の姿をして、おいでですが お千代:男性(だんせい)なのですか? : 朱火狐:いや、俺は生まれついての物の怪なのでな 朱火狐:男も女もない 朱火狐:だから番(つがい)も持たぬ 朱火狐:ただ生きて、ただ死んでいくだけだ : お千代:そうですか・・・ 0: 0:もっと身体を預けるお千代 0: 朱火狐:お千代・・・そう、くっついて来るな・・・ 朱火狐:腕を外(はず)せ・・・ : お千代:ダメです : 朱火狐:ダメって・・・お前・・ : お千代:私はいずれ、人の決めた、何方(どなた)かの元に嫁ぐ事になるでしょう お千代:そうなれば、否が応でも、私は男の方を知る事になります。 お千代:男の方を知ってしまえば、もう、朱火狐様に触(さわ)れられなく、なってしまいます : 朱火狐:・・・・ : お千代:ですから、今だけは、こうしていさせて下さい。 : 朱火狐:うーん、 : お千代:いけませんか? : 朱火狐:覚超には、見られたくない姿だな・・・ : お千代:うふ・・・朱火狐様ったら・・・ : 朱火狐:・・・・ 0: 0:しばらく寄り添う二人 0: お千代:朱火狐(あかね)様 : 朱火狐:ん? : お千代:朱火狐様は、明日、覚超様と、また何処(どこ)かへ行かれるのでしょ? : 朱火狐:いや、覚超とは行かねぇよ 朱火狐:あいつとは、腐れ縁ではあるがな 朱火狐:別に相方(あいかた)という訳でもない 朱火狐: 朱火狐:俺はただ、ここには酒を飲みに寄(よ)っただけだ : お千代:そうなんでか : 朱火狐:時雨烏(しぐれがらす)も、もう俺の元には無いしな 朱火狐:覚超とは、また会う事があるかどうかすらも分からん 朱火狐: 朱火狐:だから、あいつがどうするのかに関わらず 朱火狐:俺は今夜中に、ここを出るつもりだ : お千代:そうですから・・・ お千代:朱火狐様、それでしたら! : 朱火狐:ん? : お千代:私も一緒に連れて行って頂けませんか? : 朱火狐:どうしてだ? : お千代:先程も、申し上げましたように お千代:私は、この村にいまても、人の決めた、好きでもない方と、添い遂げなければなりません。 お千代:もう、兄も父も、この村にはいませんし お千代:いっそ、このまま朱火狐様に付いて行くのも・・・ : 朱火狐:ダメだな : お千代:どうしてですか? お千代:私が足手(あしで)まとい、だからですか? : 朱火狐:「足手まとい」というより 朱火狐:俺といても、お前はすぐに死ぬ 朱火狐:いつも守ってやれるとは、限らぬからな : お千代:それでも構いません お千代:兄と父の仇を打てたのですから、もう思い残す事も : 朱火狐:ダメだ : お千代:朱火狐(あかね)様・・・ : 朱火狐:もう・・・・ 朱火狐:連れに 朱火狐:死なれるのは、かなわんのだ・・・ : お千代:それは、昔、どなたかと : 朱火狐:三百年も生きているとな 朱火狐:いろいろあるのだ : お千代:・・・・・ : 朱火狐:まぁ、その話は、もういいだろう 朱火狐: 朱火狐:さて、俺はもう行くことにするよ : お千代:そんな・・・もう少し御傍(おそば)に、いさせてください。 : 朱火狐:これ以上いても、つまらぬ昔話を、させられそうだからな : お千代:申し訳ございません お千代:もう、お聞き致しません お千代:ですから、もうしばらく、ここに居てください お千代:お願いいたします : 朱火狐:いや、やめておく 朱火狐:お互い、情が移ると、後々面倒だしな : お千代:朱火狐様・・ : 朱火狐:お千代、お前とは、もう会う事もないだろう : お千代:そんな・・朱火狐(あかね)様 : 朱火狐:お千代、 朱火狐:俺は生まれついての物の怪だからな 朱火狐:人間の幸せってのが、どういうもんか、よく分からんが 朱火狐:まぁ、達者で暮らしてくれ 朱火狐: 朱火狐:じゃぁな : お千代:朱火狐様!・・・ 0: 0:朱火狐が何処か闇の中へ消えていく 0:

0: 0:破戒僧覚超の物の怪退治3 0: 0: 0:物の怪退治の後、村に報告に行くと、覚超の期待通り宴となった 0: 0: 朱火狐:よくも、あんなに騒(さわ)げるもんだな 朱火狐:覚超、俺はちょっと夜風にあたってくるぞ 0: 0:建物から出て、少し離れた縁側に座る朱火狐 0: 朱火狐:ふー・・・ 朱火狐:酒は好きだが、 朱火狐:あぁいう雰囲気は好きになれねぇな・・・ : : お千代:朱火狐(あかね)様・・・ : 朱火狐:なんじゃ、お千代か、どうした? : お千代:お酌をしに、まいりました : 朱火狐:こんな所にまでか? 朱火狐:俺は、夜風にあたっているだけだぞ : お千代:ええ、夜風にあたりながらのお酒も、風流かもしれません : 朱火狐:・・・まぁいい 朱火狐:酒はそこに置いて、お前はもう行け : お千代:いいえ、お酌を・・・ : 朱火狐:俺は女が苦手だと、知っておるだろう : お千代:はい、ですから、朱火狐様のお手には触れませんので・・・ : 朱火狐:・・・・ : お千代:まだ、キチンとしたお礼も、言っておりません、でしたので お千代:是非(ぜひ)、お酌を・・・ : 朱火狐:礼なら覚超(かくちょう)に言えよ : お千代:いいえ、覚超(かくちょう)様だけでなく、朱火狐(あかね)様にもお礼を・・・ お千代:ですから・・・ : 朱火狐:・・・・ : お千代:お願い致します : 朱火狐:う・・あぁ・・うん・・それじゃぁ・・・ : お千代:ありがとうございます。 お千代:では、こちらの湯飲(ゆの)みを、お使いください : 朱火狐:あぁ・・・ : お千代:さぁ、どうぞ : 朱火狐:うむ 0: 0:酒を飲む朱火狐 0: お千代:この度は、本当に有難うございました。 : 朱火狐:あぁ・・・覚超に騙(だま)されたからな : お千代:しかし、私が離れた後であれば お千代:そんな話は無かった事にすれば、よかったではありませんか。 お千代:それなのに、覚超様と一緒に、物の怪を退治して下さいました : 朱火狐:事情が何であれ 朱火狐:そういう話になってしまったのでな 朱火狐:まぁ、仕方がないさ 0: 0:少し酒をのむ 0: お千代:ですが、 お千代:あれは覚超様が、朱火狐(あかね)様を騙(だま)したからではないですか お千代:それなのに・・・ : 朱火狐:「事情が何であれ」と言っただろ 朱火狐:人であれば、それでいいのかもしれんがな : お千代:でしたら、朱火狐(あかね)様も、同じようになされば・・・ : 朱火狐:人は人、物の怪は物の怪だ 朱火狐:俺は俺の生き方で生きる : お千代:そうですか・・・・ : 朱火狐:そんなもんさ 朱火狐: 朱火狐:ん・・・ 0: 0:湯飲みの酒を飲み干す朱火狐 0: お千代:お酒・・もう少し、いかがですか? : 朱火狐:あぁ・・・ : お千代:どうぞ : 朱火狐:うむ 0: 0:酌をするお千代 0: お千代:そういえば、朱火狐(あかね)様 お千代:一つお聞きしても、よろしいですか? : 朱火狐:なんだ? : お千代:朱火狐(あかね)様はどうして、女性(にょしょう)がお嫌(きら)いなのですか? お千代:嫌(きら)いというか・・・ お千代:腰が抜けるほどの・・・ : 朱火狐:そんな事を知ってどうする : お千代:覚超様のお話によりますと、朱火狐(あかね)様は、相当(そうとう)お強いとか・・ お千代:それほどお強い朱火狐(あかね)様が、どうしてなのかと思いまして : 朱火狐:昔・・・・ちょっとあってな : お千代:ちょっと・・・ですか : 朱火狐:あまり、いい話じゃない : お千代:そうですか・・・ : 朱火狐:あぁ・・・・ 0: 0:少しの間、黙る朱火狐 0: 0: 朱火狐:昔な、女に騙されたのだ : お千代:騙されたのですか? 朱火狐が? : 朱火狐:あぁ、 朱火狐:騙されただけであれば、まぁそれでよかったんだがな 朱火狐:その女が、俗にいう魔性の女でな・・・ : お千代:魔性の・・・ : 朱火狐:俺は生来(せいらい)、人の嘘というものが、大概(たいがい)分かる 朱火狐:いや、分かると思っていた 朱火狐:だが、その女は、嘘なのか、本当なのか、はたまた冗談なのか・・・ 朱火狐:そういう事が全く分からん女だった 朱火狐:全部嘘だと思っていても、「本当かもしれない」・・・そう思わされてしまう : お千代:まぁ、そんな・・・ : 朱火狐:可愛い顔をして、やることは、大層(たいそう)えげつなく、残酷だ 朱火狐:そして、どんな残酷な事をしても、そいつは可愛く笑う 朱火狐:その笑顔からは、嘘のかけらすら見えん 朱火狐:人間の女とは、これほど醜(みにく)くて、怖いものなのかと思ったよ 朱火狐:それこそ、物の怪より、よほど恐(おそ)ろしいわ : お千代:そうでしたか・・・ : 朱火狐:それからだ、女に触(さわ)られると、背中に虫唾(むしず)が走って、 朱火狐:足腰がいう事を利かなくなるようになったのは・・・ : お千代:物の怪よりもだなんて・・ : 朱火狐:物の怪ってのはな 朱火狐:生まれついての物の怪と、人間や動物が、途中で物の怪に化(ば)けるものがある 朱火狐:物の怪になるような、人間や動物ってのは、 朱火狐:大概、純真な心を持っていたり、一途な奴らだったりするのさ 朱火狐:その純真な思いが、惨(むご)く打ち砕かれた時に、魔(ま)に取りつかれて、物の怪になる 朱火狐: 朱火狐:まぁ、それでも、物の怪になっちまったもんに同情はしないがな : お千代:そうなんですか・・・ : 朱火狐:だから、俺にとっちゃぁ、物の怪よりも、人間の女の方がよほど怖いな : お千代:そんな事が・・・ 0: 0:涙ぐむお千代 0: 朱火狐:お千代、泣いておるのか : お千代:はい・・・ : 朱火狐:なぜ、泣く : お千代:朱火狐(あかね)様に申し訳がなくて : 朱火狐:なぜお前が謝るのだ : お千代:人間の女性(にょしょう)には、確かに魔性(ましょう)がありましょう お千代:それに苦しめられていながら、私を助けて下さるなんて : 朱火狐:それは何度も言っておるだろ、覚超が・・ : お千代:いいえ : 朱火狐:・・・・・ : お千代:朱火狐(あかね)様 0: 0:朱火狐にさわるお千代 0: 朱火狐:な、何をする 朱火狐:俺に、さ、触るな : お千代:朱火狐(あかね)様、腰は抜けますか? : 朱火狐:い・・いや・・・今は、大丈夫なようだ : お千代:やはり・・・そうですか : 朱火狐:ど、どういう事だ? : お千代:私はまだ、男の方を知りません お千代:ですから、朱火狐(あかね)様の嫌う、魔性もないのでございましょう : 朱火狐:でも、昨晩は、お前に抱きつかれて、俺の腰は抜けたぞ : お千代:それは、おそらく お千代:小姓(こしょう)の恰好をした私が、突然、女性(にょしょう)だと分かって お千代:驚いたからではないでしょうか : 朱火狐:そうなのか・・・ : お千代:はい、おそらく お千代:ですが、今は初めから私だと分かっているので、大丈夫なのだと思います。 : 朱火狐:そ・・・そうか・・・お、お前のいう事は、とりあえず分かった・・・ 朱火狐:で、でも、あまり触(さわ)るなよ : お千代:いいえ、理由が分かれば、もう少し触(ふ)れても・・・ 0: 0:もっと触るおちよ 0: 朱火狐:だから・・・・ 朱火狐:あまり触(さわ)るなと・・ : お千代:でも、大丈夫で御座(ござ)いましょう? : 朱火狐:あ・・・あぁ・・・まぁ・・そうだが・・・ : お千代:やはり、私のような女であれば、朱火狐(あかね)様も、苦手にする事もないのですね お千代:よかった・・・ : 朱火狐:お千代、それを覚超には言うなよ 朱火狐:くれぐれもだ : お千代:何故(なぜ)ですか? : 朱火狐:何故(なぜ)って・・・ 朱火狐:生娘(きむすめ)しか、受け付けられぬ物の怪など 朱火狐:あいつにとっては、格好(かっこう)の「からかい道具」にしかならん : お千代:そうなんですか・・・ : 朱火狐:あいつは、そういう奴だ : お千代:わかりました。 お千代:では、覚超様には秘密にしておきます。 お千代: お千代:ですから・・・もう少し・・ 0: 0:朱火狐によりそうように触れるお千代 0: 0: 朱火狐:こら・・お千代・・ふざけるなって 朱火狐:そんなに・・・ 朱火狐:おい、もう少し、はなれ・・ : お千代:いいえ、もうしばらく お千代:こうさせていて下さいませ : 朱火狐:ちょっ・・・お千代 : お千代:先日の夜、覚超様に言われ、朱火狐(あかね)様にしがみ付いた時も、そうでした。 お千代:朱火狐様からは、兄のような温(ぬく)もりを感じるのです お千代:なんとも懐(なつ)かしいような温もりを・・・ お千代:ですから、もうしばらく・・ : 朱火狐:・・・・ : お千代:朱火狐様・・・ : 朱火狐:どうした? : お千代:朱火狐様は、女性(にょしょう)の姿をして、おいでですが お千代:男性(だんせい)なのですか? : 朱火狐:いや、俺は生まれついての物の怪なのでな 朱火狐:男も女もない 朱火狐:だから番(つがい)も持たぬ 朱火狐:ただ生きて、ただ死んでいくだけだ : お千代:そうですか・・・ 0: 0:もっと身体を預けるお千代 0: 朱火狐:お千代・・・そう、くっついて来るな・・・ 朱火狐:腕を外(はず)せ・・・ : お千代:ダメです : 朱火狐:ダメって・・・お前・・ : お千代:私はいずれ、人の決めた、何方(どなた)かの元に嫁ぐ事になるでしょう お千代:そうなれば、否が応でも、私は男の方を知る事になります。 お千代:男の方を知ってしまえば、もう、朱火狐様に触(さわ)れられなく、なってしまいます : 朱火狐:・・・・ : お千代:ですから、今だけは、こうしていさせて下さい。 : 朱火狐:うーん、 : お千代:いけませんか? : 朱火狐:覚超には、見られたくない姿だな・・・ : お千代:うふ・・・朱火狐様ったら・・・ : 朱火狐:・・・・ 0: 0:しばらく寄り添う二人 0: お千代:朱火狐(あかね)様 : 朱火狐:ん? : お千代:朱火狐様は、明日、覚超様と、また何処(どこ)かへ行かれるのでしょ? : 朱火狐:いや、覚超とは行かねぇよ 朱火狐:あいつとは、腐れ縁ではあるがな 朱火狐:別に相方(あいかた)という訳でもない 朱火狐: 朱火狐:俺はただ、ここには酒を飲みに寄(よ)っただけだ : お千代:そうなんでか : 朱火狐:時雨烏(しぐれがらす)も、もう俺の元には無いしな 朱火狐:覚超とは、また会う事があるかどうかすらも分からん 朱火狐: 朱火狐:だから、あいつがどうするのかに関わらず 朱火狐:俺は今夜中に、ここを出るつもりだ : お千代:そうですから・・・ お千代:朱火狐様、それでしたら! : 朱火狐:ん? : お千代:私も一緒に連れて行って頂けませんか? : 朱火狐:どうしてだ? : お千代:先程も、申し上げましたように お千代:私は、この村にいまても、人の決めた、好きでもない方と、添い遂げなければなりません。 お千代:もう、兄も父も、この村にはいませんし お千代:いっそ、このまま朱火狐様に付いて行くのも・・・ : 朱火狐:ダメだな : お千代:どうしてですか? お千代:私が足手(あしで)まとい、だからですか? : 朱火狐:「足手まとい」というより 朱火狐:俺といても、お前はすぐに死ぬ 朱火狐:いつも守ってやれるとは、限らぬからな : お千代:それでも構いません お千代:兄と父の仇を打てたのですから、もう思い残す事も : 朱火狐:ダメだ : お千代:朱火狐(あかね)様・・・ : 朱火狐:もう・・・・ 朱火狐:連れに 朱火狐:死なれるのは、かなわんのだ・・・ : お千代:それは、昔、どなたかと : 朱火狐:三百年も生きているとな 朱火狐:いろいろあるのだ : お千代:・・・・・ : 朱火狐:まぁ、その話は、もういいだろう 朱火狐: 朱火狐:さて、俺はもう行くことにするよ : お千代:そんな・・・もう少し御傍(おそば)に、いさせてください。 : 朱火狐:これ以上いても、つまらぬ昔話を、させられそうだからな : お千代:申し訳ございません お千代:もう、お聞き致しません お千代:ですから、もうしばらく、ここに居てください お千代:お願いいたします : 朱火狐:いや、やめておく 朱火狐:お互い、情が移ると、後々面倒だしな : お千代:朱火狐様・・ : 朱火狐:お千代、お前とは、もう会う事もないだろう : お千代:そんな・・朱火狐(あかね)様 : 朱火狐:お千代、 朱火狐:俺は生まれついての物の怪だからな 朱火狐:人間の幸せってのが、どういうもんか、よく分からんが 朱火狐:まぁ、達者で暮らしてくれ 朱火狐: 朱火狐:じゃぁな : お千代:朱火狐様!・・・ 0: 0:朱火狐が何処か闇の中へ消えていく 0: