台本概要
346 views
タイトル | 時間よ止まれ |
---|---|
作者名 | Danzig |
ジャンル | 童話 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
海で不思議な壺を拾った男 その壺からは、物語に出て来るような魔人が現れた。 なんでも願いを叶えてやるという魔人に対して、男の望んだものとは・・・ 3000字程度の短いお話です。 346 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
読み手 | 不問 | - |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:
0:時間よ止まれ
0:
0:
0:俺は悩んでいた。
0:この人生最大のチャンスをどう活かそうかと・・・
0:
0:
0:
0:「ねぇ、気持ちは分かるけどさ、そろそろ決めて欲しいんだけど」
0:
0:「もう少し待ってくれよ、折角なんだからさ」
0:
0:「あぁ~あ、変な人に拾われちゃったなぁ・・・」
0:
0:俺は一カ月前、海で奇妙な形の壺を拾った。
0:下の方はでっぷりと太く、上に行くほど細くなっている、まるでアラビアンナイトの物語に出て来そうな奇妙な形の壺。
0:
0:何処(どこ)からか流れ着いたであろうその壺には、硬く栓がされており、封印のような紙が貼られていた。
0:
0:「まるで、魔人でも出て来そうな壺だな」
0:
0:俺は壺を振ってみたが、壺は軽く、音はなく、まるで中身が入っている様子はない。
0:
0:今度は栓を抜いて、中を見ようと壺の口を覗き込んだ。
0:すると、その途端、壺の中からモクモクと煙が出始め、なんと、本当に魔人が現れたのだった。
0:
0:「初めまして、ご主人様。
0:壺の封印を解いて下さり、ありがとうございます」
0:
0:壺から出てきた魔人は、身の丈(みのたけ)が2メートル程、
0:全身が青く、胸板が厚い、本当に物語に出て来る魔人そのものだった。
0:
0:「まさかとは思ったけど、本当に壺の中に魔人が入っていたなんて。
0:でも、そうなると、ひょっとして・・・・」
0:
0:俺は魔人に驚きながらも「物語と同じだったら・・・」と、淡い期待を抱いて魔人を見た。
0:
0:
0:「封印を解いて下さったお礼に、あなたの願いを一つ叶えて差し上げましょう」
0:
0:という魔人の言葉に俺は思わず
0:「やったぁ~!」
0:と喜びの声を上げた。
0:
0:俺の予感は正しかった。
0:やっぱり、この壺は物語に出て来る壺だった。
0:そして、俺に人生最大のチャンスが巡って来たのだ。
0:
0:
0:しかし、俺は直ぐに我に返った。
0:
0:「あれ? 願いは一つなんですか? 三つじゃなくて?」
0:
0:
0:「え? 三つ?
0:どうして三つなんですか? 願いは一つですよ?」
0:
0:「でも、物語では三つですよ」
0:
0:「物語? 何の話ですか?」
0:
0:「いや、何でもないです」
0:
0:そこまで物語と一緒ではなかったか・・・
0:少々残念ではあったが、でもまぁ、たとえ一つでも、願いを叶えてくれるのなら有難い。
0:
0:そんな俺を見て魔人は言う
0:
0:「さぁご主人様、なんなりとお申し付け下さいませ。
0:願い事は何でもよいですよ。
0:世界の王になりたいですか?
0:使いきれない程の財宝が欲しいですか?
0:それとも、永遠の命を望みますか?」
0:
0:魔人の提案は、どれも魅力的だった。
0:だが、「一つだけ」となると、何を願えばいいのか悩んでしまう。
0:
0:「待ってくれ、もう少し考えさせてくれないか、
0:あ、でも、今の『待ってくれ』というのは、その、願いという訳じゃなくて・・・」
0:
0:「分かってますから、大丈夫ですよ。
0:そんな姑息な事はしませんから、安心してください」
0:
0:「あぁ、よかった・・・」
0:
0:でも結局、俺はその日のうちには決められず、一旦、魔人と共に自宅のアパートに帰って、じっくりと考える事にした。
0:
0:しかし、それから一カ月たった今でも、俺はまだ願いを決められずにいた。
0:
0:「ねぇ、もうお金でいいんじゃないの?
0:ほら、お金があれば大概(たいがい)の事は出来るしさ」
0:
0:壺から出てきたばかりの頃、俺の事を「ご主人様」と呼んでいた魔人は、一カ月の間に、すっかりだらけ切ってしまい、もう、敬語すら使ってくれなくなっていた。
0:
0:「でもさ、沢山のお金があっても、病気ですぐに死んじゃったら勿体ないじゃない」
0:
0:「いや、それは分かるけどさ・・・
0:それなら、永遠の命にすればいいじゃない」
0:
0:「でも、永遠に命があったって、お金がなかったら辛いだけじゃないか」
0:
0:「もう・・・」
0:
0:「あ、そうだ
0:明日、大切な取引があるんだった。
0:朝9時に取引先の会社に行かなきゃいけないから、今日はもう寝るよ」
0:
0:「はいはい、そうですか。 じゃぁ、おやすみなさい」
0:
0:「明日、もし時間になっても、俺が寝てたら、起こしてくれない?」
0:
0:「それが望み?」
0:
0:「いやいや、危ない危ない、そういうのは望んでないから」
0:
0:「あぁ、そうですか・・・ですよね・・・」
0:
0:「まぁ、近いうちにちゃんとお願いするから、もう少しまっててよ」
0:
0:そう言って、俺は眠りについた。
0:そして翌朝
0:
0:「あぁぁぁもうこんな時間だ! 9時まであと5分しかない!」
0:
0:「そりゃ、目覚ましが鳴っても起きないからだよ」
0:
0:「知ってたなら、起こしてくれても良かったじゃないか」
0:
0:「そういうのは望んでないって、君が言ったんじゃない」
0:
0:「そりゃ、そうだけど・・・・あぁ、このままじゃ取引がダメになっちゃうよ」
0:
0:「そりゃ寝坊したんだから、仕方がないでしょ」
0:
0:「そんな事分かってるよ、あぁ、でもどうしよう」
0:
0:「もう諦めたら?」
0:
0:「そんな訳にはいかないんだよ、どうしよう・・・
0:あ! そうだ!
0:ねぇ、魔人。 時間を止めてよ、出来るでしょ?」
0:
0:「時間を止めるの? そりゃ出来るけど・・・」
0:
0:「じゃぁ、頼むよ、このままだと俺、会社をクビになっちゃうんだよ」
0:
0:「分かったよ、じゃぁ、時間を止めるね。
0:むにゃむにゃむにゃ、ほい!」
0:
0:魔人が呪文を唱えたその瞬間、部屋の目覚まし時計が8時59分で止まった。
0:腕時計も見てみたが、やはり8時59分で止まっている。
0:
0:「時間が止まっている・・・すごい」
0:
0:「これで、取引には間に合うから、ゆっくり用意しなよ」
0:
0:「ありがとう、助かったよ」
0:
0:「これで、もう君とはお別れになっちゃうから、最後に取引先の会社まで連れて行ってあげるよ。 これはサービスね」
0:
0:俺は安心し、時間の止まっている世界の中で、ゆっくりと身支度を整えた。
0:その後、魔人の魔法で一瞬のうちに取引先のドアの前に移動した。
0:
0:「さぁ、これで約束は果たせたね。
0:一カ月は長かったけど、案外楽しかったよ」
0:
0:「うん、ありがとう。 俺も楽しかったよ」
0:
0:「じゃぁ、時間を動かすね」
0:
0:そう言って、魔人は軽く呪文を唱えた後、姿を消した
0:
0:そして魔人が消えた後、腕時計の針が8時59分から、再び動き始めた。
0:俺は扉を開けて取引先の会社へと入る。
0:
0:部屋では取引先の部長が俺を出迎えてくれた。
0:
0:「おはようございます。 いやぁ、時間ピッタリですね、流石です」
0:
0:「いえいえ、それ程でもありませんよ」
0:
0:「それにしても、大変だったでしょ。
0:しかし、よくここまで来れられましたね」
0:
0:取引先の部長は、なんとも不思議な事を言い始めた。
0:
0:「どういう事ですか?」
0:
0:「え! ご存じないんですか? 今、世界中がパニックになってますよ」
0:
0:部長の話によると、世界中の時計が一斉に動かなくなったというのだ。
0:アナログ時計も、デジタル時計も、パソコンやスマホの時計も全て動かなくなってしまった。
0:当然、時間制御のシステムは停止し、電車やバスなどの交通機関も全てストップした。
0:
0:「魔人のいう『時間を止める』って、そういう意味だったのか」
0:
0:時間の止め方については、俺のイメージとは違っていたが、魔人のお陰で、なんとか無事に取引を終える事が出来た。
0:会社を出る頃には、電車も少しずつ動き出しており、俺はどうにかその日のうちに自宅のアパートに帰る事が出来た。
0:
0:アパートの部屋に入り、灯りをつける。
0:魔人がいなくなった部屋は、やけに静かで、少し寂しい感じがした。
0:
0:部屋で一人、遅めの夕食を食べながら、テレビのニュース番組を見る。
0:まだパニックの続く世界の様子を画面で見ながら、俺は魔人の事を想い出していた。
0:
0:「あぁ、お金にしておけば、会社をクビになっても良かったんだよなぁ・・・」
0:
0:
0:終わり
0:
0:
0:時間よ止まれ
0:
0:
0:俺は悩んでいた。
0:この人生最大のチャンスをどう活かそうかと・・・
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0:「ねぇ、気持ちは分かるけどさ、そろそろ決めて欲しいんだけど」
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0:「もう少し待ってくれよ、折角なんだからさ」
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0:「あぁ~あ、変な人に拾われちゃったなぁ・・・」
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0:俺は一カ月前、海で奇妙な形の壺を拾った。
0:下の方はでっぷりと太く、上に行くほど細くなっている、まるでアラビアンナイトの物語に出て来そうな奇妙な形の壺。
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0:何処(どこ)からか流れ着いたであろうその壺には、硬く栓がされており、封印のような紙が貼られていた。
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0:「まるで、魔人でも出て来そうな壺だな」
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0:俺は壺を振ってみたが、壺は軽く、音はなく、まるで中身が入っている様子はない。
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0:今度は栓を抜いて、中を見ようと壺の口を覗き込んだ。
0:すると、その途端、壺の中からモクモクと煙が出始め、なんと、本当に魔人が現れたのだった。
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0:「初めまして、ご主人様。
0:壺の封印を解いて下さり、ありがとうございます」
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0:壺から出てきた魔人は、身の丈(みのたけ)が2メートル程、
0:全身が青く、胸板が厚い、本当に物語に出て来る魔人そのものだった。
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0:「まさかとは思ったけど、本当に壺の中に魔人が入っていたなんて。
0:でも、そうなると、ひょっとして・・・・」
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0:俺は魔人に驚きながらも「物語と同じだったら・・・」と、淡い期待を抱いて魔人を見た。
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0:
0:「封印を解いて下さったお礼に、あなたの願いを一つ叶えて差し上げましょう」
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0:という魔人の言葉に俺は思わず
0:「やったぁ~!」
0:と喜びの声を上げた。
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0:俺の予感は正しかった。
0:やっぱり、この壺は物語に出て来る壺だった。
0:そして、俺に人生最大のチャンスが巡って来たのだ。
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0:しかし、俺は直ぐに我に返った。
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0:「あれ? 願いは一つなんですか? 三つじゃなくて?」
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0:「え? 三つ?
0:どうして三つなんですか? 願いは一つですよ?」
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0:「でも、物語では三つですよ」
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0:「物語? 何の話ですか?」
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0:「いや、何でもないです」
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0:そこまで物語と一緒ではなかったか・・・
0:少々残念ではあったが、でもまぁ、たとえ一つでも、願いを叶えてくれるのなら有難い。
0:
0:そんな俺を見て魔人は言う
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0:「さぁご主人様、なんなりとお申し付け下さいませ。
0:願い事は何でもよいですよ。
0:世界の王になりたいですか?
0:使いきれない程の財宝が欲しいですか?
0:それとも、永遠の命を望みますか?」
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0:魔人の提案は、どれも魅力的だった。
0:だが、「一つだけ」となると、何を願えばいいのか悩んでしまう。
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0:「待ってくれ、もう少し考えさせてくれないか、
0:あ、でも、今の『待ってくれ』というのは、その、願いという訳じゃなくて・・・」
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0:「分かってますから、大丈夫ですよ。
0:そんな姑息な事はしませんから、安心してください」
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0:「あぁ、よかった・・・」
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0:でも結局、俺はその日のうちには決められず、一旦、魔人と共に自宅のアパートに帰って、じっくりと考える事にした。
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0:しかし、それから一カ月たった今でも、俺はまだ願いを決められずにいた。
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0:「ねぇ、もうお金でいいんじゃないの?
0:ほら、お金があれば大概(たいがい)の事は出来るしさ」
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0:壺から出てきたばかりの頃、俺の事を「ご主人様」と呼んでいた魔人は、一カ月の間に、すっかりだらけ切ってしまい、もう、敬語すら使ってくれなくなっていた。
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0:「でもさ、沢山のお金があっても、病気ですぐに死んじゃったら勿体ないじゃない」
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0:「いや、それは分かるけどさ・・・
0:それなら、永遠の命にすればいいじゃない」
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0:「でも、永遠に命があったって、お金がなかったら辛いだけじゃないか」
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0:「もう・・・」
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0:「あ、そうだ
0:明日、大切な取引があるんだった。
0:朝9時に取引先の会社に行かなきゃいけないから、今日はもう寝るよ」
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0:「はいはい、そうですか。 じゃぁ、おやすみなさい」
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0:「明日、もし時間になっても、俺が寝てたら、起こしてくれない?」
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0:「それが望み?」
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0:「いやいや、危ない危ない、そういうのは望んでないから」
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0:「あぁ、そうですか・・・ですよね・・・」
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0:「まぁ、近いうちにちゃんとお願いするから、もう少しまっててよ」
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0:そう言って、俺は眠りについた。
0:そして翌朝
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0:「あぁぁぁもうこんな時間だ! 9時まであと5分しかない!」
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0:「そりゃ、目覚ましが鳴っても起きないからだよ」
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0:「知ってたなら、起こしてくれても良かったじゃないか」
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0:「そういうのは望んでないって、君が言ったんじゃない」
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0:「そりゃ、そうだけど・・・・あぁ、このままじゃ取引がダメになっちゃうよ」
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0:「そりゃ寝坊したんだから、仕方がないでしょ」
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0:「そんな事分かってるよ、あぁ、でもどうしよう」
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0:「もう諦めたら?」
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0:「そんな訳にはいかないんだよ、どうしよう・・・
0:あ! そうだ!
0:ねぇ、魔人。 時間を止めてよ、出来るでしょ?」
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0:「時間を止めるの? そりゃ出来るけど・・・」
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0:「じゃぁ、頼むよ、このままだと俺、会社をクビになっちゃうんだよ」
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0:「分かったよ、じゃぁ、時間を止めるね。
0:むにゃむにゃむにゃ、ほい!」
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0:魔人が呪文を唱えたその瞬間、部屋の目覚まし時計が8時59分で止まった。
0:腕時計も見てみたが、やはり8時59分で止まっている。
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0:「時間が止まっている・・・すごい」
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0:「これで、取引には間に合うから、ゆっくり用意しなよ」
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0:「ありがとう、助かったよ」
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0:「これで、もう君とはお別れになっちゃうから、最後に取引先の会社まで連れて行ってあげるよ。 これはサービスね」
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0:俺は安心し、時間の止まっている世界の中で、ゆっくりと身支度を整えた。
0:その後、魔人の魔法で一瞬のうちに取引先のドアの前に移動した。
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0:「さぁ、これで約束は果たせたね。
0:一カ月は長かったけど、案外楽しかったよ」
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0:「うん、ありがとう。 俺も楽しかったよ」
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0:「じゃぁ、時間を動かすね」
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0:そう言って、魔人は軽く呪文を唱えた後、姿を消した
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0:そして魔人が消えた後、腕時計の針が8時59分から、再び動き始めた。
0:俺は扉を開けて取引先の会社へと入る。
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0:部屋では取引先の部長が俺を出迎えてくれた。
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0:「おはようございます。 いやぁ、時間ピッタリですね、流石です」
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0:「いえいえ、それ程でもありませんよ」
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0:「それにしても、大変だったでしょ。
0:しかし、よくここまで来れられましたね」
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0:取引先の部長は、なんとも不思議な事を言い始めた。
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0:「どういう事ですか?」
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0:「え! ご存じないんですか? 今、世界中がパニックになってますよ」
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0:部長の話によると、世界中の時計が一斉に動かなくなったというのだ。
0:アナログ時計も、デジタル時計も、パソコンやスマホの時計も全て動かなくなってしまった。
0:当然、時間制御のシステムは停止し、電車やバスなどの交通機関も全てストップした。
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0:「魔人のいう『時間を止める』って、そういう意味だったのか」
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0:時間の止め方については、俺のイメージとは違っていたが、魔人のお陰で、なんとか無事に取引を終える事が出来た。
0:会社を出る頃には、電車も少しずつ動き出しており、俺はどうにかその日のうちに自宅のアパートに帰る事が出来た。
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0:アパートの部屋に入り、灯りをつける。
0:魔人がいなくなった部屋は、やけに静かで、少し寂しい感じがした。
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0:部屋で一人、遅めの夕食を食べながら、テレビのニュース番組を見る。
0:まだパニックの続く世界の様子を画面で見ながら、俺は魔人の事を想い出していた。
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0:「あぁ、お金にしておけば、会社をクビになっても良かったんだよなぁ・・・」
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0:終わり