台本概要
299 views
タイトル | 手紙 |
---|---|
作者名 | のんのん |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
第二次大戦における日本軍の死者は230万人。 当時、当たり前にどこかで起こっていたかも知れない、短い物語。 第二次大戦において、民間人の死者も80万人を数える。 爆撃機による空襲、沖縄の惨状、広島・長崎の原爆。 きっと、もっともっと多くの、記録には残らない悲しい物語があったはず。 どうか人が人の命を奪う世界でなくなりますよう。 ※本作は小説になっています。 二人用声劇としての利用も可能です。 その場合は、地の文、夫、妻、の読み訳を決めてから行ってください。 299 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
読み手 | 不問 | - | 読み手です |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:※これは小説として書いていますが、二人で上演する場合は男性が夫の手紙を読む、または女性が妻の手紙を読む、などを決めてからが良いです。
0:
0:■ここから■
0:
0:
0:
0:ー夫からの手紙ー
0:
0:妻へ
0:
0:拝啓
0:
0:この手紙が届く頃は
0:
0:もう私は生きてはいないでしょう
0:
0:皆に送り出されてより
0:
0:これといった成果もあげられず
0:
0:お前や親兄弟、お国のために
0:
0:役に立たない自分を責めました
0:
0:でも、漸く努めを果たせそうです
0:
0:
0:
0:明後日の特攻に志願しました
0:
0:
0:
0:夫婦として過ごせた時間は僅かでしたが
0:
0:幼き頃より共にした時間が
0:
0:積み重ねた時間が
0:
0:あなたを守りたいという思いを
0:
0:一層強くしました
0:
0:それがやっと叶うのです
0:
0:どうか私を褒めてやって下さい
0:
0:
0:ところで、
0:
0:私から一つ最後のお願いがあります
0:
0:あなたはまだ若い
0:
0:どうか良い人と新たに所帯を持って
0:
0:これからの人生を
0:
0:健やかに過ごして欲しい
0:
0:
0:勝手なお願いになりますが
0:
0:私が人生を賭して守った人が
0:
0:良き伴侶とともに笑顔で過ごせる
0:
0:そんな希望を抱いたまま
0:
0:逝かせてほしいのです
0:
0:
0:
0:それではこれからも
0:
0:どうかお身体に気をつけて
0:
0:
0:
0:敬具
0:
0:
0:
0:ー夫への手紙ー
0:
0:
0:あなたへ
0:
0:
0:前略
0:
0:お努めご苦労さまです
0:
0:あなたが戦地に赴いてから三月
0:
0:こちらは変わらず過ごしています
0:
0:どうかご心配なさいませんよう
0:
0:
0:
0:新聞にて、我が国は連戦連勝で
0:
0:常に戦果をあげていると聞いております
0:
0:
0:
0:早くこの戦争に勝って
0:
0:あなたがお帰りになる日を
0:
0:お待ち申し上げております
0:
0:草々
0:
0:
0:
0:追伸
0:
0:あなたの子を授かりました
0:
0:この子とともに
0:
0:あなたのお帰りをお待ちしております
0:
0:
0:■現在■
0:
0:
0:妻は先月生まれた乳飲み子と共に、夫の帰りを待っていた。
0:ぐずる赤子をようやく寝かしつけ、いっときの休息を取っていると玄関のドアを叩く音がした。
0:
0:ご近所からの配給の知らせかと、疲れた体を起こし玄関へ向かった。
0:
0:「はい、どちら様でしょうか?」
0:
0:「こんにちわ。兵事係の松岡です」
0:
0:彼女の家を訪ねたのは役場の兵事係だった。戸を開けると、彼はこわばった表情のまま、浅くひとつ礼をした。
0:
0:「これはこれはお努めご苦労さまです。本日はどのようなご要件でしょうか?」
0:
0:兵事係はゆっくりと紙切れを取り出し、表情を変えずに読んだ。
0:
0:何時間にも感じるほんの数秒。不安で早鐘を打つ心臓。当然、そこで聞かされたのは夫の戦死の知らせだった。
0:
0:「・・はい」
0:
0:ただ一言の返事と、頷くことしかできない妻に、男は矢継ぎ早に夫の戦死は名誉あることだと説明した。
0:
0:「・・・はい」
0:
0:取り乱してはいけない。お国のために戦った夫の名誉の戦死。
0:覚悟はしていたつもりだが、日々軍の連戦連勝を伝えるラジオにどこか期待をしていた。
0:
0:男は最後に、後日役場に年金の手続きに来るよう伝えると死亡告知書を渡した。
0:
0:妻は体の震えを悟られないよう、なるべく動かないように、
0:震える喉に力を込めてゆっくりと言葉を選んだ。
0:
0:「ありがとうございます。夫が、、立派に、、、お国のために戦ったこと、
0:妻として誇りに思います。お知らせいただきありがとうございました」
0:
0:妻は去ってゆく男を見送ると、虚ろな表情を隠すように静かにドアを閉めた。
0:
0:体の重さを感じないどこかふわふわとした足取りで部屋に戻ると、眼の前で眠る乳飲み子を見た。
0:
0:その瞬間、堰を切ったように溢れる涙。
0:
0:「あな、、た、、、。」
0:
0:甘い期待などはしていなかった。それでもいつかこの子を抱いて「良くやった」と笑顔を見せてくれると、どこかで信じていた。
0:
0:だが右手にあるたった一枚の紙切れは、夫が死んだという事実。もう夫はこの子を見ることが叶わないという現実。
0:
0:妻は膝から崩れ落ちた。終わりなく溢れ出る涙とおえつを、
0:寝た子を起こさぬよう、小さく丸くなりながら袖で押さえるのであった。
0:
0:【終わり】
0:※これは小説として書いていますが、二人で上演する場合は男性が夫の手紙を読む、または女性が妻の手紙を読む、などを決めてからが良いです。
0:
0:■ここから■
0:
0:
0:
0:ー夫からの手紙ー
0:
0:妻へ
0:
0:拝啓
0:
0:この手紙が届く頃は
0:
0:もう私は生きてはいないでしょう
0:
0:皆に送り出されてより
0:
0:これといった成果もあげられず
0:
0:お前や親兄弟、お国のために
0:
0:役に立たない自分を責めました
0:
0:でも、漸く努めを果たせそうです
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0:
0:明後日の特攻に志願しました
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0:
0:夫婦として過ごせた時間は僅かでしたが
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0:幼き頃より共にした時間が
0:
0:積み重ねた時間が
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0:あなたを守りたいという思いを
0:
0:一層強くしました
0:
0:それがやっと叶うのです
0:
0:どうか私を褒めてやって下さい
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0:
0:ところで、
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0:私から一つ最後のお願いがあります
0:
0:あなたはまだ若い
0:
0:どうか良い人と新たに所帯を持って
0:
0:これからの人生を
0:
0:健やかに過ごして欲しい
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0:
0:勝手なお願いになりますが
0:
0:私が人生を賭して守った人が
0:
0:良き伴侶とともに笑顔で過ごせる
0:
0:そんな希望を抱いたまま
0:
0:逝かせてほしいのです
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0:
0:それではこれからも
0:
0:どうかお身体に気をつけて
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0:
0:敬具
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0:
0:ー夫への手紙ー
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0:あなたへ
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0:
0:前略
0:
0:お努めご苦労さまです
0:
0:あなたが戦地に赴いてから三月
0:
0:こちらは変わらず過ごしています
0:
0:どうかご心配なさいませんよう
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0:
0:新聞にて、我が国は連戦連勝で
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0:常に戦果をあげていると聞いております
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0:
0:
0:早くこの戦争に勝って
0:
0:あなたがお帰りになる日を
0:
0:お待ち申し上げております
0:
0:草々
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0:
0:追伸
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0:あなたの子を授かりました
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0:この子とともに
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0:あなたのお帰りをお待ちしております
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0:■現在■
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0:妻は先月生まれた乳飲み子と共に、夫の帰りを待っていた。
0:ぐずる赤子をようやく寝かしつけ、いっときの休息を取っていると玄関のドアを叩く音がした。
0:
0:ご近所からの配給の知らせかと、疲れた体を起こし玄関へ向かった。
0:
0:「はい、どちら様でしょうか?」
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0:「こんにちわ。兵事係の松岡です」
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0:彼女の家を訪ねたのは役場の兵事係だった。戸を開けると、彼はこわばった表情のまま、浅くひとつ礼をした。
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0:「これはこれはお努めご苦労さまです。本日はどのようなご要件でしょうか?」
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0:兵事係はゆっくりと紙切れを取り出し、表情を変えずに読んだ。
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0:何時間にも感じるほんの数秒。不安で早鐘を打つ心臓。当然、そこで聞かされたのは夫の戦死の知らせだった。
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0:「・・はい」
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0:ただ一言の返事と、頷くことしかできない妻に、男は矢継ぎ早に夫の戦死は名誉あることだと説明した。
0:
0:「・・・はい」
0:
0:取り乱してはいけない。お国のために戦った夫の名誉の戦死。
0:覚悟はしていたつもりだが、日々軍の連戦連勝を伝えるラジオにどこか期待をしていた。
0:
0:男は最後に、後日役場に年金の手続きに来るよう伝えると死亡告知書を渡した。
0:
0:妻は体の震えを悟られないよう、なるべく動かないように、
0:震える喉に力を込めてゆっくりと言葉を選んだ。
0:
0:「ありがとうございます。夫が、、立派に、、、お国のために戦ったこと、
0:妻として誇りに思います。お知らせいただきありがとうございました」
0:
0:妻は去ってゆく男を見送ると、虚ろな表情を隠すように静かにドアを閉めた。
0:
0:体の重さを感じないどこかふわふわとした足取りで部屋に戻ると、眼の前で眠る乳飲み子を見た。
0:
0:その瞬間、堰を切ったように溢れる涙。
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0:「あな、、た、、、。」
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0:甘い期待などはしていなかった。それでもいつかこの子を抱いて「良くやった」と笑顔を見せてくれると、どこかで信じていた。
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0:だが右手にあるたった一枚の紙切れは、夫が死んだという事実。もう夫はこの子を見ることが叶わないという現実。
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0:妻は膝から崩れ落ちた。終わりなく溢れ出る涙とおえつを、
0:寝た子を起こさぬよう、小さく丸くなりながら袖で押さえるのであった。
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0:【終わり】