台本概要

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タイトル 手紙
作者名 のんのん
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 第二次大戦における日本軍の死者は230万人。
当時、当たり前にどこかで起こっていたかも知れない、短い物語。

第二次大戦において、民間人の死者も80万人を数える。
爆撃機による空襲、沖縄の惨状、広島・長崎の原爆。

きっと、もっともっと多くの、記録には残らない悲しい物語があったはず。
どうか人が人の命を奪う世界でなくなりますよう。

※本作は小説になっています。
二人用声劇としての利用も可能です。
その場合は、地の文、夫、妻、の読み訳を決めてから行ってください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
読み手 不問 - 読み手です
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:※これは小説として書いていますが、二人で上演する場合は男性が夫の手紙を読む、または女性が妻の手紙を読む、などを決めてからが良いです。 0: 0:■ここから■ 0: 0: 0: 0:ー夫からの手紙ー 0: 0:妻へ 0: 0:拝啓 0: 0:この手紙が届く頃は 0: 0:もう私は生きてはいないでしょう 0: 0:皆に送り出されてより 0: 0:これといった成果もあげられず 0: 0:お前や親兄弟、お国のために 0: 0:役に立たない自分を責めました 0: 0:でも、漸く努めを果たせそうです 0: 0: 0: 0:明後日の特攻に志願しました 0: 0: 0: 0:夫婦として過ごせた時間は僅かでしたが 0: 0:幼き頃より共にした時間が 0: 0:積み重ねた時間が 0: 0:あなたを守りたいという思いを 0: 0:一層強くしました 0: 0:それがやっと叶うのです 0: 0:どうか私を褒めてやって下さい 0: 0: 0:ところで、 0: 0:私から一つ最後のお願いがあります 0: 0:あなたはまだ若い 0: 0:どうか良い人と新たに所帯を持って 0: 0:これからの人生を 0: 0:健やかに過ごして欲しい 0: 0: 0:勝手なお願いになりますが 0: 0:私が人生を賭して守った人が 0: 0:良き伴侶とともに笑顔で過ごせる 0: 0:そんな希望を抱いたまま 0: 0:逝かせてほしいのです 0: 0: 0: 0:それではこれからも 0: 0:どうかお身体に気をつけて 0: 0: 0: 0:敬具 0: 0: 0: 0:ー夫への手紙ー 0: 0: 0:あなたへ 0: 0: 0:前略 0: 0:お努めご苦労さまです 0: 0:あなたが戦地に赴いてから三月 0: 0:こちらは変わらず過ごしています 0: 0:どうかご心配なさいませんよう 0: 0: 0: 0:新聞にて、我が国は連戦連勝で 0: 0:常に戦果をあげていると聞いております 0: 0: 0: 0:早くこの戦争に勝って 0: 0:あなたがお帰りになる日を 0: 0:お待ち申し上げております 0: 0:草々 0: 0: 0: 0:追伸 0: 0:あなたの子を授かりました 0: 0:この子とともに 0: 0:あなたのお帰りをお待ちしております 0: 0: 0:■現在■ 0: 0: 0:妻は先月生まれた乳飲み子と共に、夫の帰りを待っていた。 0:ぐずる赤子をようやく寝かしつけ、いっときの休息を取っていると玄関のドアを叩く音がした。 0: 0:ご近所からの配給の知らせかと、疲れた体を起こし玄関へ向かった。 0: 0:「はい、どちら様でしょうか?」 0: 0:「こんにちわ。兵事係の松岡です」 0: 0:彼女の家を訪ねたのは役場の兵事係だった。戸を開けると、彼はこわばった表情のまま、浅くひとつ礼をした。 0: 0:「これはこれはお努めご苦労さまです。本日はどのようなご要件でしょうか?」 0: 0:兵事係はゆっくりと紙切れを取り出し、表情を変えずに読んだ。 0: 0:何時間にも感じるほんの数秒。不安で早鐘を打つ心臓。当然、そこで聞かされたのは夫の戦死の知らせだった。 0: 0:「・・はい」 0: 0:ただ一言の返事と、頷くことしかできない妻に、男は矢継ぎ早に夫の戦死は名誉あることだと説明した。 0: 0:「・・・はい」 0: 0:取り乱してはいけない。お国のために戦った夫の名誉の戦死。 0:覚悟はしていたつもりだが、日々軍の連戦連勝を伝えるラジオにどこか期待をしていた。 0: 0:男は最後に、後日役場に年金の手続きに来るよう伝えると死亡告知書を渡した。 0: 0:妻は体の震えを悟られないよう、なるべく動かないように、 0:震える喉に力を込めてゆっくりと言葉を選んだ。 0: 0:「ありがとうございます。夫が、、立派に、、、お国のために戦ったこと、 0:妻として誇りに思います。お知らせいただきありがとうございました」 0: 0:妻は去ってゆく男を見送ると、虚ろな表情を隠すように静かにドアを閉めた。 0: 0:体の重さを感じないどこかふわふわとした足取りで部屋に戻ると、眼の前で眠る乳飲み子を見た。 0: 0:その瞬間、堰を切ったように溢れる涙。 0: 0:「あな、、た、、、。」 0: 0:甘い期待などはしていなかった。それでもいつかこの子を抱いて「良くやった」と笑顔を見せてくれると、どこかで信じていた。 0: 0:だが右手にあるたった一枚の紙切れは、夫が死んだという事実。もう夫はこの子を見ることが叶わないという現実。 0: 0:妻は膝から崩れ落ちた。終わりなく溢れ出る涙とおえつを、 0:寝た子を起こさぬよう、小さく丸くなりながら袖で押さえるのであった。 0: 0:【終わり】

0:※これは小説として書いていますが、二人で上演する場合は男性が夫の手紙を読む、または女性が妻の手紙を読む、などを決めてからが良いです。 0: 0:■ここから■ 0: 0: 0: 0:ー夫からの手紙ー 0: 0:妻へ 0: 0:拝啓 0: 0:この手紙が届く頃は 0: 0:もう私は生きてはいないでしょう 0: 0:皆に送り出されてより 0: 0:これといった成果もあげられず 0: 0:お前や親兄弟、お国のために 0: 0:役に立たない自分を責めました 0: 0:でも、漸く努めを果たせそうです 0: 0: 0: 0:明後日の特攻に志願しました 0: 0: 0: 0:夫婦として過ごせた時間は僅かでしたが 0: 0:幼き頃より共にした時間が 0: 0:積み重ねた時間が 0: 0:あなたを守りたいという思いを 0: 0:一層強くしました 0: 0:それがやっと叶うのです 0: 0:どうか私を褒めてやって下さい 0: 0: 0:ところで、 0: 0:私から一つ最後のお願いがあります 0: 0:あなたはまだ若い 0: 0:どうか良い人と新たに所帯を持って 0: 0:これからの人生を 0: 0:健やかに過ごして欲しい 0: 0: 0:勝手なお願いになりますが 0: 0:私が人生を賭して守った人が 0: 0:良き伴侶とともに笑顔で過ごせる 0: 0:そんな希望を抱いたまま 0: 0:逝かせてほしいのです 0: 0: 0: 0:それではこれからも 0: 0:どうかお身体に気をつけて 0: 0: 0: 0:敬具 0: 0: 0: 0:ー夫への手紙ー 0: 0: 0:あなたへ 0: 0: 0:前略 0: 0:お努めご苦労さまです 0: 0:あなたが戦地に赴いてから三月 0: 0:こちらは変わらず過ごしています 0: 0:どうかご心配なさいませんよう 0: 0: 0: 0:新聞にて、我が国は連戦連勝で 0: 0:常に戦果をあげていると聞いております 0: 0: 0: 0:早くこの戦争に勝って 0: 0:あなたがお帰りになる日を 0: 0:お待ち申し上げております 0: 0:草々 0: 0: 0: 0:追伸 0: 0:あなたの子を授かりました 0: 0:この子とともに 0: 0:あなたのお帰りをお待ちしております 0: 0: 0:■現在■ 0: 0: 0:妻は先月生まれた乳飲み子と共に、夫の帰りを待っていた。 0:ぐずる赤子をようやく寝かしつけ、いっときの休息を取っていると玄関のドアを叩く音がした。 0: 0:ご近所からの配給の知らせかと、疲れた体を起こし玄関へ向かった。 0: 0:「はい、どちら様でしょうか?」 0: 0:「こんにちわ。兵事係の松岡です」 0: 0:彼女の家を訪ねたのは役場の兵事係だった。戸を開けると、彼はこわばった表情のまま、浅くひとつ礼をした。 0: 0:「これはこれはお努めご苦労さまです。本日はどのようなご要件でしょうか?」 0: 0:兵事係はゆっくりと紙切れを取り出し、表情を変えずに読んだ。 0: 0:何時間にも感じるほんの数秒。不安で早鐘を打つ心臓。当然、そこで聞かされたのは夫の戦死の知らせだった。 0: 0:「・・はい」 0: 0:ただ一言の返事と、頷くことしかできない妻に、男は矢継ぎ早に夫の戦死は名誉あることだと説明した。 0: 0:「・・・はい」 0: 0:取り乱してはいけない。お国のために戦った夫の名誉の戦死。 0:覚悟はしていたつもりだが、日々軍の連戦連勝を伝えるラジオにどこか期待をしていた。 0: 0:男は最後に、後日役場に年金の手続きに来るよう伝えると死亡告知書を渡した。 0: 0:妻は体の震えを悟られないよう、なるべく動かないように、 0:震える喉に力を込めてゆっくりと言葉を選んだ。 0: 0:「ありがとうございます。夫が、、立派に、、、お国のために戦ったこと、 0:妻として誇りに思います。お知らせいただきありがとうございました」 0: 0:妻は去ってゆく男を見送ると、虚ろな表情を隠すように静かにドアを閉めた。 0: 0:体の重さを感じないどこかふわふわとした足取りで部屋に戻ると、眼の前で眠る乳飲み子を見た。 0: 0:その瞬間、堰を切ったように溢れる涙。 0: 0:「あな、、た、、、。」 0: 0:甘い期待などはしていなかった。それでもいつかこの子を抱いて「良くやった」と笑顔を見せてくれると、どこかで信じていた。 0: 0:だが右手にあるたった一枚の紙切れは、夫が死んだという事実。もう夫はこの子を見ることが叶わないという現実。 0: 0:妻は膝から崩れ落ちた。終わりなく溢れ出る涙とおえつを、 0:寝た子を起こさぬよう、小さく丸くなりながら袖で押さえるのであった。 0: 0:【終わり】