台本概要

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タイトル 刺青(しせい)
作者名 akodon  (@akodon1)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 その背中に刻まれたそれはーーー

過去の傷を抱えた女性と、久々に再会した男性のお話です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
49 彼女と昔付き合っていた。
彼女 44 彼と昔付き合っていた。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
彼:仄暗い(ほのぐらい)灯りの下。 彼:その背中を見た瞬間、小さく息を呑んだ。 彼: 彼:陶器のように滑(なめ)らかな白い肌。 彼:青いインクで刻まれた『それ』に気を取られ、思わず手を止めると、彼女は横顔で笑った。 : 彼女:「驚いた?」 彼:「いや・・・意外だなって」 彼女:「意外?」 彼:「こういうこと、するようなタイプだと思わなかったから」 彼女:「地味で野暮ったい女だもんね、私」 彼:「誰もそんなこと言ってないだろ」 彼女:「少なくとも、派手で垢抜けてる女には見えないでしょ?」 彼:「・・・すぐ自分を貶(おとし)めようとする」 彼女:「客観的に意見を述べているだけ」 彼:「そうやって暗(あん)に自分を傷付けるとこ、昔から変わらないよな」 彼女:「知ってた?自虐ネタってわりとウケがいいの」 彼:「知らない。少なくとも今の俺にはウケなかった」 彼女:「残念。笑ってくれればこっちも少しは気が楽だったんだけど」 彼:「・・・笑えるわけないだろ。こんなモン見せられた後に」 彼女:「キミ、親からもらった大事な身体に傷を付けるな、とか言っちゃうタイプだったっけ?」 彼:「そんなの個人の自由じゃないか。 彼:別に俺は・・・」 彼女:「ふふっ、素直に言ってくれていいよ。 彼女:この程度で傷付くくらいなら、最初からこんな姿見せてないし。 彼女:そもそも、こんなところ、一緒に入ろうなんて誘わないし」 彼:「・・・変なところで思い切りがいいヤツ」 彼女:「ねぇ、それって褒めてる?」 彼:「褒めてると思うなら、素直に喜んでおけば」 彼女:「ふふっ、じゃあ褒め言葉だと受け取っておく」 彼:「・・・そう」 彼女:「拗(す)ねた子どもみたいな顔しちゃって、可愛い」 彼:「からかってんの?」 彼女:「からかってないよ。褒めてるの」 彼:「素直に喜べないんですけど」 彼女:「そういうところが可愛いよね」 彼:「だから、どこが・・・」 彼女:「可愛いじゃない。 彼女:ちょっとひねくれた子どもみたいで」 彼:「・・・やっぱりからかってるだろ?」 : 彼:返事の代わりに小さく笑う彼女の声。 彼:記憶の中とはほんの少し違う、その大人びた笑い方。 彼: 彼:それを聞いた瞬間、なんだか自分だけ置き去りにされたような気がして、思わず目の前の背中に手を伸ばす。 彼:しかし、目測を誤ったのか、その背中は思った以上に遠くて。 彼:指先は届くことなく、空を切った。 : 彼女:「ねぇ、聞かないの?」 彼:「・・・え?」 彼女:「聞いてくれないの?どうしたの、って」 彼:「・・・何を?」 彼女:「背中のコレ」 彼:「・・・聞いてほしいの?」 彼女:「話したくないって言ったら嘘になるかも」 彼:「なら聞かない」 彼女:「そんなイジワル言わないでよ」 彼:「内容によっては帰るけど」 彼女:「こんな場所に女性を放置して帰るなんて、マナーがなってないなぁ」 彼:「マナーって・・・」 彼女:「で、どうする?聞いてくれる?」 彼:「・・・好きにすれば」 彼女:「そういうところが・・・。 彼女:ーーまぁいいや」 : : 彼女:「・・・若気の至りってやつ」 彼:「・・・え?」 彼女:「その人のことが好きで好きで堪(たま)らなくて。少しでも近付きたくて。 彼女:やってみるか?って言われた瞬間、迷うことなく飛びついたの」 彼:「・・・」 彼女:「最悪だったなぁ。痛いし、熱は出るし。しばらく仰向けでは眠れないし。 彼女:なんでこんなことしちゃったのかなぁ、ってその時は思ったりしたんだけどさ」 : : 彼女:「・・・その人、これを見て、優しく抱きしめてくれたんだ。 彼女:これで俺たち、二人で一人だな、って嬉しそうに笑いながら」 彼:「・・・」 彼女:「ねぇ、比翼(ひよく)の鳥って知ってる?」 彼:「・・・何それ」 彼女:「中国に伝わる伝説の鳥。 彼女:雄も雌も片方ずつしか羽が無いから、二羽一緒じゃないと飛ぶことができないの」 彼:「・・・へぇ」 彼女:「私もね、あの人の片羽(かたは)になりたかった。 彼女:・・・けど、なれなかった」 彼:「・・・」 彼女:「馬鹿みたいだよね。 彼女:一時(いっとき)の熱情に浮かされて、身体に一生消えない傷つけてさ。 彼女:そんな事までしたクセに、って、未だにこの背中見る度、自分でも呆れて笑っちゃう」 彼:「・・・けど」 彼女:「(食い気味に)けど、好きだったんだよねぇ。この身体に刻み込んじゃうくらい。 彼女:あの人の事が好きだった。 彼女:このまま二人でどこまでも飛んでいけたら、なんて思ってた」 彼:「・・・」 彼女:「ね、馬鹿みたいでしょ?」 彼:「そんなこと」 彼女:「・・・馬鹿だって言ってよ」 彼:「俺は」 彼女:「言ってよ」 彼:「・・・」 彼女:「言ってくれなきゃ、私」 : : 彼女:「いつまでたっても片羽のまま、ここから動くこともできないの」 : : 彼:その背中が微(かす)かに震えた。 彼: 彼:記憶の中より幾分(いくぶん)か、小さく見えるその背中。 彼:そこに刻まれた『それ』以外にも、彼女の身体にはたくさんのものが刻まれているのだろうか。 彼: 彼:そう思うと、ひどく心がざらついた。 : 彼:「・・・馬鹿なのはどっちだよ」 : 彼:唸(うな)るように言い放ち、手を伸ばす。 彼: 彼:思った以上に遠いと感じたその背中は、案外近くにあったようで。 彼:引き寄せてしまえば、存外(ぞんがい)簡単に腕の中に収まって。 彼: 彼:けれど、収まったら収まったで、意外と脆(もろ)く崩れてしまいそうで。 彼: 彼:壊さないように。 彼:けど、決して逃がさないように。 彼:そっと、両腕に力を込めた。 : : 彼:「・・・飛べないなら、歩けよ。馬鹿」 彼女:「・・・えっ?」 彼:「羽が無くても脚があるだろ。 彼:飛べなくなったくらいで、何もかも諦めた顔、してんなよ」 彼女:「・・・うん」 彼:「・・・それでも」 彼女:「ん?」 彼:「けど、それでも飛ぶことを諦められないって言うのなら・・・」 彼女:「言うのなら?」 彼:「・・・いいや、やっぱり。 彼:これ以上は言わないでおく」 彼女:「ふふっ、何それ」 彼:「・・・泣かされていないなら、なんでもいい」 彼女:「え?」 彼:「・・・ひとりごと」 彼女:「ふぅん」 : : 彼:くすくすと笑う彼女のその白い肌に、噛み付くように何度も何度もキスをして。 彼:その身体に刻まれた傷も、記憶も、思い出も、喰らい尽くしてしまおうとしたところで、ふと考えた。 : 彼:もしーーもしも、背中に刻まれた『それ』を消してほしいと願ったら、彼女はその望みを聞いてくれるのだろうか。 彼:いや、消えたとしてもきっと、その傷はケロイドとなって彼女の肌に痕(あと)を残し、一生消えることはないのだろう。 : 彼:それならば、その痕をこうして、背中ごと包んで、隠して、誰にも触れさせなければいいと思った。 : 彼:いつまでもこの腕に閉じ込めて、飛びたいと願うことすら忘れてしまえばいいとーーそう思った。 : : 0:~Fin~

彼:仄暗い(ほのぐらい)灯りの下。 彼:その背中を見た瞬間、小さく息を呑んだ。 彼: 彼:陶器のように滑(なめ)らかな白い肌。 彼:青いインクで刻まれた『それ』に気を取られ、思わず手を止めると、彼女は横顔で笑った。 : 彼女:「驚いた?」 彼:「いや・・・意外だなって」 彼女:「意外?」 彼:「こういうこと、するようなタイプだと思わなかったから」 彼女:「地味で野暮ったい女だもんね、私」 彼:「誰もそんなこと言ってないだろ」 彼女:「少なくとも、派手で垢抜けてる女には見えないでしょ?」 彼:「・・・すぐ自分を貶(おとし)めようとする」 彼女:「客観的に意見を述べているだけ」 彼:「そうやって暗(あん)に自分を傷付けるとこ、昔から変わらないよな」 彼女:「知ってた?自虐ネタってわりとウケがいいの」 彼:「知らない。少なくとも今の俺にはウケなかった」 彼女:「残念。笑ってくれればこっちも少しは気が楽だったんだけど」 彼:「・・・笑えるわけないだろ。こんなモン見せられた後に」 彼女:「キミ、親からもらった大事な身体に傷を付けるな、とか言っちゃうタイプだったっけ?」 彼:「そんなの個人の自由じゃないか。 彼:別に俺は・・・」 彼女:「ふふっ、素直に言ってくれていいよ。 彼女:この程度で傷付くくらいなら、最初からこんな姿見せてないし。 彼女:そもそも、こんなところ、一緒に入ろうなんて誘わないし」 彼:「・・・変なところで思い切りがいいヤツ」 彼女:「ねぇ、それって褒めてる?」 彼:「褒めてると思うなら、素直に喜んでおけば」 彼女:「ふふっ、じゃあ褒め言葉だと受け取っておく」 彼:「・・・そう」 彼女:「拗(す)ねた子どもみたいな顔しちゃって、可愛い」 彼:「からかってんの?」 彼女:「からかってないよ。褒めてるの」 彼:「素直に喜べないんですけど」 彼女:「そういうところが可愛いよね」 彼:「だから、どこが・・・」 彼女:「可愛いじゃない。 彼女:ちょっとひねくれた子どもみたいで」 彼:「・・・やっぱりからかってるだろ?」 : 彼:返事の代わりに小さく笑う彼女の声。 彼:記憶の中とはほんの少し違う、その大人びた笑い方。 彼: 彼:それを聞いた瞬間、なんだか自分だけ置き去りにされたような気がして、思わず目の前の背中に手を伸ばす。 彼:しかし、目測を誤ったのか、その背中は思った以上に遠くて。 彼:指先は届くことなく、空を切った。 : 彼女:「ねぇ、聞かないの?」 彼:「・・・え?」 彼女:「聞いてくれないの?どうしたの、って」 彼:「・・・何を?」 彼女:「背中のコレ」 彼:「・・・聞いてほしいの?」 彼女:「話したくないって言ったら嘘になるかも」 彼:「なら聞かない」 彼女:「そんなイジワル言わないでよ」 彼:「内容によっては帰るけど」 彼女:「こんな場所に女性を放置して帰るなんて、マナーがなってないなぁ」 彼:「マナーって・・・」 彼女:「で、どうする?聞いてくれる?」 彼:「・・・好きにすれば」 彼女:「そういうところが・・・。 彼女:ーーまぁいいや」 : : 彼女:「・・・若気の至りってやつ」 彼:「・・・え?」 彼女:「その人のことが好きで好きで堪(たま)らなくて。少しでも近付きたくて。 彼女:やってみるか?って言われた瞬間、迷うことなく飛びついたの」 彼:「・・・」 彼女:「最悪だったなぁ。痛いし、熱は出るし。しばらく仰向けでは眠れないし。 彼女:なんでこんなことしちゃったのかなぁ、ってその時は思ったりしたんだけどさ」 : : 彼女:「・・・その人、これを見て、優しく抱きしめてくれたんだ。 彼女:これで俺たち、二人で一人だな、って嬉しそうに笑いながら」 彼:「・・・」 彼女:「ねぇ、比翼(ひよく)の鳥って知ってる?」 彼:「・・・何それ」 彼女:「中国に伝わる伝説の鳥。 彼女:雄も雌も片方ずつしか羽が無いから、二羽一緒じゃないと飛ぶことができないの」 彼:「・・・へぇ」 彼女:「私もね、あの人の片羽(かたは)になりたかった。 彼女:・・・けど、なれなかった」 彼:「・・・」 彼女:「馬鹿みたいだよね。 彼女:一時(いっとき)の熱情に浮かされて、身体に一生消えない傷つけてさ。 彼女:そんな事までしたクセに、って、未だにこの背中見る度、自分でも呆れて笑っちゃう」 彼:「・・・けど」 彼女:「(食い気味に)けど、好きだったんだよねぇ。この身体に刻み込んじゃうくらい。 彼女:あの人の事が好きだった。 彼女:このまま二人でどこまでも飛んでいけたら、なんて思ってた」 彼:「・・・」 彼女:「ね、馬鹿みたいでしょ?」 彼:「そんなこと」 彼女:「・・・馬鹿だって言ってよ」 彼:「俺は」 彼女:「言ってよ」 彼:「・・・」 彼女:「言ってくれなきゃ、私」 : : 彼女:「いつまでたっても片羽のまま、ここから動くこともできないの」 : : 彼:その背中が微(かす)かに震えた。 彼: 彼:記憶の中より幾分(いくぶん)か、小さく見えるその背中。 彼:そこに刻まれた『それ』以外にも、彼女の身体にはたくさんのものが刻まれているのだろうか。 彼: 彼:そう思うと、ひどく心がざらついた。 : 彼:「・・・馬鹿なのはどっちだよ」 : 彼:唸(うな)るように言い放ち、手を伸ばす。 彼: 彼:思った以上に遠いと感じたその背中は、案外近くにあったようで。 彼:引き寄せてしまえば、存外(ぞんがい)簡単に腕の中に収まって。 彼: 彼:けれど、収まったら収まったで、意外と脆(もろ)く崩れてしまいそうで。 彼: 彼:壊さないように。 彼:けど、決して逃がさないように。 彼:そっと、両腕に力を込めた。 : : 彼:「・・・飛べないなら、歩けよ。馬鹿」 彼女:「・・・えっ?」 彼:「羽が無くても脚があるだろ。 彼:飛べなくなったくらいで、何もかも諦めた顔、してんなよ」 彼女:「・・・うん」 彼:「・・・それでも」 彼女:「ん?」 彼:「けど、それでも飛ぶことを諦められないって言うのなら・・・」 彼女:「言うのなら?」 彼:「・・・いいや、やっぱり。 彼:これ以上は言わないでおく」 彼女:「ふふっ、何それ」 彼:「・・・泣かされていないなら、なんでもいい」 彼女:「え?」 彼:「・・・ひとりごと」 彼女:「ふぅん」 : : 彼:くすくすと笑う彼女のその白い肌に、噛み付くように何度も何度もキスをして。 彼:その身体に刻まれた傷も、記憶も、思い出も、喰らい尽くしてしまおうとしたところで、ふと考えた。 : 彼:もしーーもしも、背中に刻まれた『それ』を消してほしいと願ったら、彼女はその望みを聞いてくれるのだろうか。 彼:いや、消えたとしてもきっと、その傷はケロイドとなって彼女の肌に痕(あと)を残し、一生消えることはないのだろう。 : 彼:それならば、その痕をこうして、背中ごと包んで、隠して、誰にも触れさせなければいいと思った。 : 彼:いつまでもこの腕に閉じ込めて、飛びたいと願うことすら忘れてしまえばいいとーーそう思った。 : : 0:~Fin~