台本概要
507 views
タイトル | 刺青(しせい) |
---|---|
作者名 | akodon (@akodon1) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
その背中に刻まれたそれはーーー 過去の傷を抱えた女性と、久々に再会した男性のお話です。 507 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
彼 | 男 | 49 | 彼女と昔付き合っていた。 |
彼女 | 女 | 44 | 彼と昔付き合っていた。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
彼:仄暗い(ほのぐらい)灯りの下。
彼:その背中を見た瞬間、小さく息を呑んだ。
彼:
彼:陶器のように滑(なめ)らかな白い肌。
彼:青いインクで刻まれた『それ』に気を取られ、思わず手を止めると、彼女は横顔で笑った。
:
彼女:「驚いた?」
彼:「いや・・・意外だなって」
彼女:「意外?」
彼:「こういうこと、するようなタイプだと思わなかったから」
彼女:「地味で野暮ったい女だもんね、私」
彼:「誰もそんなこと言ってないだろ」
彼女:「少なくとも、派手で垢抜けてる女には見えないでしょ?」
彼:「・・・すぐ自分を貶(おとし)めようとする」
彼女:「客観的に意見を述べているだけ」
彼:「そうやって暗(あん)に自分を傷付けるとこ、昔から変わらないよな」
彼女:「知ってた?自虐ネタってわりとウケがいいの」
彼:「知らない。少なくとも今の俺にはウケなかった」
彼女:「残念。笑ってくれればこっちも少しは気が楽だったんだけど」
彼:「・・・笑えるわけないだろ。こんなモン見せられた後に」
彼女:「キミ、親からもらった大事な身体に傷を付けるな、とか言っちゃうタイプだったっけ?」
彼:「そんなの個人の自由じゃないか。
彼:別に俺は・・・」
彼女:「ふふっ、素直に言ってくれていいよ。
彼女:この程度で傷付くくらいなら、最初からこんな姿見せてないし。
彼女:そもそも、こんなところ、一緒に入ろうなんて誘わないし」
彼:「・・・変なところで思い切りがいいヤツ」
彼女:「ねぇ、それって褒めてる?」
彼:「褒めてると思うなら、素直に喜んでおけば」
彼女:「ふふっ、じゃあ褒め言葉だと受け取っておく」
彼:「・・・そう」
彼女:「拗(す)ねた子どもみたいな顔しちゃって、可愛い」
彼:「からかってんの?」
彼女:「からかってないよ。褒めてるの」
彼:「素直に喜べないんですけど」
彼女:「そういうところが可愛いよね」
彼:「だから、どこが・・・」
彼女:「可愛いじゃない。
彼女:ちょっとひねくれた子どもみたいで」
彼:「・・・やっぱりからかってるだろ?」
:
彼:返事の代わりに小さく笑う彼女の声。
彼:記憶の中とはほんの少し違う、その大人びた笑い方。
彼:
彼:それを聞いた瞬間、なんだか自分だけ置き去りにされたような気がして、思わず目の前の背中に手を伸ばす。
彼:しかし、目測を誤ったのか、その背中は思った以上に遠くて。
彼:指先は届くことなく、空を切った。
:
彼女:「ねぇ、聞かないの?」
彼:「・・・え?」
彼女:「聞いてくれないの?どうしたの、って」
彼:「・・・何を?」
彼女:「背中のコレ」
彼:「・・・聞いてほしいの?」
彼女:「話したくないって言ったら嘘になるかも」
彼:「なら聞かない」
彼女:「そんなイジワル言わないでよ」
彼:「内容によっては帰るけど」
彼女:「こんな場所に女性を放置して帰るなんて、マナーがなってないなぁ」
彼:「マナーって・・・」
彼女:「で、どうする?聞いてくれる?」
彼:「・・・好きにすれば」
彼女:「そういうところが・・・。
彼女:ーーまぁいいや」
:
:
彼女:「・・・若気の至りってやつ」
彼:「・・・え?」
彼女:「その人のことが好きで好きで堪(たま)らなくて。少しでも近付きたくて。
彼女:やってみるか?って言われた瞬間、迷うことなく飛びついたの」
彼:「・・・」
彼女:「最悪だったなぁ。痛いし、熱は出るし。しばらく仰向けでは眠れないし。
彼女:なんでこんなことしちゃったのかなぁ、ってその時は思ったりしたんだけどさ」
:
:
彼女:「・・・その人、これを見て、優しく抱きしめてくれたんだ。
彼女:これで俺たち、二人で一人だな、って嬉しそうに笑いながら」
彼:「・・・」
彼女:「ねぇ、比翼(ひよく)の鳥って知ってる?」
彼:「・・・何それ」
彼女:「中国に伝わる伝説の鳥。
彼女:雄も雌も片方ずつしか羽が無いから、二羽一緒じゃないと飛ぶことができないの」
彼:「・・・へぇ」
彼女:「私もね、あの人の片羽(かたは)になりたかった。
彼女:・・・けど、なれなかった」
彼:「・・・」
彼女:「馬鹿みたいだよね。
彼女:一時(いっとき)の熱情に浮かされて、身体に一生消えない傷つけてさ。
彼女:そんな事までしたクセに、って、未だにこの背中見る度、自分でも呆れて笑っちゃう」
彼:「・・・けど」
彼女:「(食い気味に)けど、好きだったんだよねぇ。この身体に刻み込んじゃうくらい。
彼女:あの人の事が好きだった。
彼女:このまま二人でどこまでも飛んでいけたら、なんて思ってた」
彼:「・・・」
彼女:「ね、馬鹿みたいでしょ?」
彼:「そんなこと」
彼女:「・・・馬鹿だって言ってよ」
彼:「俺は」
彼女:「言ってよ」
彼:「・・・」
彼女:「言ってくれなきゃ、私」
:
:
彼女:「いつまでたっても片羽のまま、ここから動くこともできないの」
:
:
彼:その背中が微(かす)かに震えた。
彼:
彼:記憶の中より幾分(いくぶん)か、小さく見えるその背中。
彼:そこに刻まれた『それ』以外にも、彼女の身体にはたくさんのものが刻まれているのだろうか。
彼:
彼:そう思うと、ひどく心がざらついた。
:
彼:「・・・馬鹿なのはどっちだよ」
:
彼:唸(うな)るように言い放ち、手を伸ばす。
彼:
彼:思った以上に遠いと感じたその背中は、案外近くにあったようで。
彼:引き寄せてしまえば、存外(ぞんがい)簡単に腕の中に収まって。
彼:
彼:けれど、収まったら収まったで、意外と脆(もろ)く崩れてしまいそうで。
彼:
彼:壊さないように。
彼:けど、決して逃がさないように。
彼:そっと、両腕に力を込めた。
:
:
彼:「・・・飛べないなら、歩けよ。馬鹿」
彼女:「・・・えっ?」
彼:「羽が無くても脚があるだろ。
彼:飛べなくなったくらいで、何もかも諦めた顔、してんなよ」
彼女:「・・・うん」
彼:「・・・それでも」
彼女:「ん?」
彼:「けど、それでも飛ぶことを諦められないって言うのなら・・・」
彼女:「言うのなら?」
彼:「・・・いいや、やっぱり。
彼:これ以上は言わないでおく」
彼女:「ふふっ、何それ」
彼:「・・・泣かされていないなら、なんでもいい」
彼女:「え?」
彼:「・・・ひとりごと」
彼女:「ふぅん」
:
:
彼:くすくすと笑う彼女のその白い肌に、噛み付くように何度も何度もキスをして。
彼:その身体に刻まれた傷も、記憶も、思い出も、喰らい尽くしてしまおうとしたところで、ふと考えた。
:
彼:もしーーもしも、背中に刻まれた『それ』を消してほしいと願ったら、彼女はその望みを聞いてくれるのだろうか。
彼:いや、消えたとしてもきっと、その傷はケロイドとなって彼女の肌に痕(あと)を残し、一生消えることはないのだろう。
:
彼:それならば、その痕をこうして、背中ごと包んで、隠して、誰にも触れさせなければいいと思った。
:
彼:いつまでもこの腕に閉じ込めて、飛びたいと願うことすら忘れてしまえばいいとーーそう思った。
:
:
0:~Fin~
彼:仄暗い(ほのぐらい)灯りの下。
彼:その背中を見た瞬間、小さく息を呑んだ。
彼:
彼:陶器のように滑(なめ)らかな白い肌。
彼:青いインクで刻まれた『それ』に気を取られ、思わず手を止めると、彼女は横顔で笑った。
:
彼女:「驚いた?」
彼:「いや・・・意外だなって」
彼女:「意外?」
彼:「こういうこと、するようなタイプだと思わなかったから」
彼女:「地味で野暮ったい女だもんね、私」
彼:「誰もそんなこと言ってないだろ」
彼女:「少なくとも、派手で垢抜けてる女には見えないでしょ?」
彼:「・・・すぐ自分を貶(おとし)めようとする」
彼女:「客観的に意見を述べているだけ」
彼:「そうやって暗(あん)に自分を傷付けるとこ、昔から変わらないよな」
彼女:「知ってた?自虐ネタってわりとウケがいいの」
彼:「知らない。少なくとも今の俺にはウケなかった」
彼女:「残念。笑ってくれればこっちも少しは気が楽だったんだけど」
彼:「・・・笑えるわけないだろ。こんなモン見せられた後に」
彼女:「キミ、親からもらった大事な身体に傷を付けるな、とか言っちゃうタイプだったっけ?」
彼:「そんなの個人の自由じゃないか。
彼:別に俺は・・・」
彼女:「ふふっ、素直に言ってくれていいよ。
彼女:この程度で傷付くくらいなら、最初からこんな姿見せてないし。
彼女:そもそも、こんなところ、一緒に入ろうなんて誘わないし」
彼:「・・・変なところで思い切りがいいヤツ」
彼女:「ねぇ、それって褒めてる?」
彼:「褒めてると思うなら、素直に喜んでおけば」
彼女:「ふふっ、じゃあ褒め言葉だと受け取っておく」
彼:「・・・そう」
彼女:「拗(す)ねた子どもみたいな顔しちゃって、可愛い」
彼:「からかってんの?」
彼女:「からかってないよ。褒めてるの」
彼:「素直に喜べないんですけど」
彼女:「そういうところが可愛いよね」
彼:「だから、どこが・・・」
彼女:「可愛いじゃない。
彼女:ちょっとひねくれた子どもみたいで」
彼:「・・・やっぱりからかってるだろ?」
:
彼:返事の代わりに小さく笑う彼女の声。
彼:記憶の中とはほんの少し違う、その大人びた笑い方。
彼:
彼:それを聞いた瞬間、なんだか自分だけ置き去りにされたような気がして、思わず目の前の背中に手を伸ばす。
彼:しかし、目測を誤ったのか、その背中は思った以上に遠くて。
彼:指先は届くことなく、空を切った。
:
彼女:「ねぇ、聞かないの?」
彼:「・・・え?」
彼女:「聞いてくれないの?どうしたの、って」
彼:「・・・何を?」
彼女:「背中のコレ」
彼:「・・・聞いてほしいの?」
彼女:「話したくないって言ったら嘘になるかも」
彼:「なら聞かない」
彼女:「そんなイジワル言わないでよ」
彼:「内容によっては帰るけど」
彼女:「こんな場所に女性を放置して帰るなんて、マナーがなってないなぁ」
彼:「マナーって・・・」
彼女:「で、どうする?聞いてくれる?」
彼:「・・・好きにすれば」
彼女:「そういうところが・・・。
彼女:ーーまぁいいや」
:
:
彼女:「・・・若気の至りってやつ」
彼:「・・・え?」
彼女:「その人のことが好きで好きで堪(たま)らなくて。少しでも近付きたくて。
彼女:やってみるか?って言われた瞬間、迷うことなく飛びついたの」
彼:「・・・」
彼女:「最悪だったなぁ。痛いし、熱は出るし。しばらく仰向けでは眠れないし。
彼女:なんでこんなことしちゃったのかなぁ、ってその時は思ったりしたんだけどさ」
:
:
彼女:「・・・その人、これを見て、優しく抱きしめてくれたんだ。
彼女:これで俺たち、二人で一人だな、って嬉しそうに笑いながら」
彼:「・・・」
彼女:「ねぇ、比翼(ひよく)の鳥って知ってる?」
彼:「・・・何それ」
彼女:「中国に伝わる伝説の鳥。
彼女:雄も雌も片方ずつしか羽が無いから、二羽一緒じゃないと飛ぶことができないの」
彼:「・・・へぇ」
彼女:「私もね、あの人の片羽(かたは)になりたかった。
彼女:・・・けど、なれなかった」
彼:「・・・」
彼女:「馬鹿みたいだよね。
彼女:一時(いっとき)の熱情に浮かされて、身体に一生消えない傷つけてさ。
彼女:そんな事までしたクセに、って、未だにこの背中見る度、自分でも呆れて笑っちゃう」
彼:「・・・けど」
彼女:「(食い気味に)けど、好きだったんだよねぇ。この身体に刻み込んじゃうくらい。
彼女:あの人の事が好きだった。
彼女:このまま二人でどこまでも飛んでいけたら、なんて思ってた」
彼:「・・・」
彼女:「ね、馬鹿みたいでしょ?」
彼:「そんなこと」
彼女:「・・・馬鹿だって言ってよ」
彼:「俺は」
彼女:「言ってよ」
彼:「・・・」
彼女:「言ってくれなきゃ、私」
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彼女:「いつまでたっても片羽のまま、ここから動くこともできないの」
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彼:その背中が微(かす)かに震えた。
彼:
彼:記憶の中より幾分(いくぶん)か、小さく見えるその背中。
彼:そこに刻まれた『それ』以外にも、彼女の身体にはたくさんのものが刻まれているのだろうか。
彼:
彼:そう思うと、ひどく心がざらついた。
:
彼:「・・・馬鹿なのはどっちだよ」
:
彼:唸(うな)るように言い放ち、手を伸ばす。
彼:
彼:思った以上に遠いと感じたその背中は、案外近くにあったようで。
彼:引き寄せてしまえば、存外(ぞんがい)簡単に腕の中に収まって。
彼:
彼:けれど、収まったら収まったで、意外と脆(もろ)く崩れてしまいそうで。
彼:
彼:壊さないように。
彼:けど、決して逃がさないように。
彼:そっと、両腕に力を込めた。
:
:
彼:「・・・飛べないなら、歩けよ。馬鹿」
彼女:「・・・えっ?」
彼:「羽が無くても脚があるだろ。
彼:飛べなくなったくらいで、何もかも諦めた顔、してんなよ」
彼女:「・・・うん」
彼:「・・・それでも」
彼女:「ん?」
彼:「けど、それでも飛ぶことを諦められないって言うのなら・・・」
彼女:「言うのなら?」
彼:「・・・いいや、やっぱり。
彼:これ以上は言わないでおく」
彼女:「ふふっ、何それ」
彼:「・・・泣かされていないなら、なんでもいい」
彼女:「え?」
彼:「・・・ひとりごと」
彼女:「ふぅん」
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彼:くすくすと笑う彼女のその白い肌に、噛み付くように何度も何度もキスをして。
彼:その身体に刻まれた傷も、記憶も、思い出も、喰らい尽くしてしまおうとしたところで、ふと考えた。
:
彼:もしーーもしも、背中に刻まれた『それ』を消してほしいと願ったら、彼女はその望みを聞いてくれるのだろうか。
彼:いや、消えたとしてもきっと、その傷はケロイドとなって彼女の肌に痕(あと)を残し、一生消えることはないのだろう。
:
彼:それならば、その痕をこうして、背中ごと包んで、隠して、誰にも触れさせなければいいと思った。
:
彼:いつまでもこの腕に閉じ込めて、飛びたいと願うことすら忘れてしまえばいいとーーそう思った。
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0:~Fin~