台本概要
187 views
タイトル | バスドライバー |
---|---|
作者名 | 冷凍みかん-光柑- (@mikanchilled) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(男1) ※兼役あり |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
初夏の出来事。ドライバーは誰も乗らないバスを走らせる
187 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
バスドライバー | 男 | - | 路線バスの運転手。学生の頃は走り屋だった |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:初夏のこと。俺はイヌワラビの茂る山の斜面に身を投げ出した。
0:じんわりと濡れる感触が気持ち悪いが、一度寝てしまえば、もう立てない。
0:黒々とした森の隙間から、夏の青空が微かに見える。
0:それがすごく遠い過去の景色のように俺の目には映った。
0:
0:想えば今朝は、出発した時からおかしかった。
0:俺はバスドライバーだ。
0:今朝は8時30分に水沢駅から上小田代までの路線バスを運転していた。
0:都市部から山間部へ向かうバスは大抵すいているものだが、今朝は特別だった。
0:出発時刻になっても誰一人乗車しなかった。
0:出稼ぎの労働者も、花を抱えた老婦人も
0:辺鄙な田舎を堪能しようとする物好きな観光客も
0:今朝は一人もいなかった。
0:でもまあその内地元の人間が利用するだろうと思い、俺はバスを発車させたのだった。
0:ところが次の停留所でも、その次の停留所でも乗車する人はいなかった。
0:到着が早すぎるから、各バス停で出発時刻まで待つ羽目になる。
0:誰も来ない夏の午前を、俺はただ待ち続けた。
0:
0:こうなると俺は少し虚しい気分になる。
0:空っぽの車内、空っぽのダイヤグラム、空っぽの仕事。
0:俺は今から、トウモロコシの群生する美しい田舎に、
0:無意味な都市の排気ガスを届けに行くのだ。
0:バス停のベンチを借りているだけの爺が、俺に対して早く出発するように手を振った。
0:俺はお前のために待っているんじゃないぞ。
0:ブレーキペダルを踏みながら、爺に対してエンジンを思いきりふかしてから、
0:俺は出発した。
0:
0:北上川を渡り、空っぽのバスは山道に入る。
0:曲がりくねった山道では先の景色は見えないが、
0:学生時代からバイクで駆け抜けた道だ。走ること。ただひたすらに走ることが俺の生きる意味だった。
0:バスはどんどん加速した。
0:あと数回曲がれば、忘れもしないいつかの急カーブに差し掛かる。
0:俺の先輩が曲がり切れずに死んだ急カーブだ。
0:先輩はヘルメットを外していた。必ず越えてみせると息巻いていた。
0:先輩、今日俺はアンタを越えるぜ。
0:シートベルトを外し、アクセルを踏み込む。
0:バスは慣性が強く働くから、バイクで曲がるよりもずっと難しい。
0:いつだって俺の先を行く先輩に、俺は憧れていた。
0:俺はこのバスで、アンタを乗り越える。
0:
0:そうして俺はガードレールを乗り越えて、フロントガラスから山の斜面へ身を投げ出した。
0:ハンドルを切るタイミングが悪かったな。ブレーキも、もう少し早めから踏めばよかった。
0:今回は失敗したけれど、次こそは曲がり切ってみせる。
0:体が動かない。少し疲れたのかな。
0:休憩したら、またバスを走らせよう。
0:
0:次のバス停では、誰かが待っているかもしれないから。
0:初夏のこと。俺はイヌワラビの茂る山の斜面に身を投げ出した。
0:じんわりと濡れる感触が気持ち悪いが、一度寝てしまえば、もう立てない。
0:黒々とした森の隙間から、夏の青空が微かに見える。
0:それがすごく遠い過去の景色のように俺の目には映った。
0:
0:想えば今朝は、出発した時からおかしかった。
0:俺はバスドライバーだ。
0:今朝は8時30分に水沢駅から上小田代までの路線バスを運転していた。
0:都市部から山間部へ向かうバスは大抵すいているものだが、今朝は特別だった。
0:出発時刻になっても誰一人乗車しなかった。
0:出稼ぎの労働者も、花を抱えた老婦人も
0:辺鄙な田舎を堪能しようとする物好きな観光客も
0:今朝は一人もいなかった。
0:でもまあその内地元の人間が利用するだろうと思い、俺はバスを発車させたのだった。
0:ところが次の停留所でも、その次の停留所でも乗車する人はいなかった。
0:到着が早すぎるから、各バス停で出発時刻まで待つ羽目になる。
0:誰も来ない夏の午前を、俺はただ待ち続けた。
0:
0:こうなると俺は少し虚しい気分になる。
0:空っぽの車内、空っぽのダイヤグラム、空っぽの仕事。
0:俺は今から、トウモロコシの群生する美しい田舎に、
0:無意味な都市の排気ガスを届けに行くのだ。
0:バス停のベンチを借りているだけの爺が、俺に対して早く出発するように手を振った。
0:俺はお前のために待っているんじゃないぞ。
0:ブレーキペダルを踏みながら、爺に対してエンジンを思いきりふかしてから、
0:俺は出発した。
0:
0:北上川を渡り、空っぽのバスは山道に入る。
0:曲がりくねった山道では先の景色は見えないが、
0:学生時代からバイクで駆け抜けた道だ。走ること。ただひたすらに走ることが俺の生きる意味だった。
0:バスはどんどん加速した。
0:あと数回曲がれば、忘れもしないいつかの急カーブに差し掛かる。
0:俺の先輩が曲がり切れずに死んだ急カーブだ。
0:先輩はヘルメットを外していた。必ず越えてみせると息巻いていた。
0:先輩、今日俺はアンタを越えるぜ。
0:シートベルトを外し、アクセルを踏み込む。
0:バスは慣性が強く働くから、バイクで曲がるよりもずっと難しい。
0:いつだって俺の先を行く先輩に、俺は憧れていた。
0:俺はこのバスで、アンタを乗り越える。
0:
0:そうして俺はガードレールを乗り越えて、フロントガラスから山の斜面へ身を投げ出した。
0:ハンドルを切るタイミングが悪かったな。ブレーキも、もう少し早めから踏めばよかった。
0:今回は失敗したけれど、次こそは曲がり切ってみせる。
0:体が動かない。少し疲れたのかな。
0:休憩したら、またバスを走らせよう。
0:
0:次のバス停では、誰かが待っているかもしれないから。