台本概要

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タイトル 幽世(かくりよ)
作者名 ハスキ  (@e8E3z1ze9Yecxs2)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 この世とあの世との間には、不思議な場所がある。その場所の名は、幽世(かくりよ)。主人公が迷い込んでしまった夏の風景が広がる不思議な場所幽世。そこで出会った一人の不思議な少女は自らを「神」だと名乗った…。 男女不問。世界観を壊さない程度のアドリブOK
※台本が見切れる場合は縦読み推奨※

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
208 主人公の男。何故か記憶を無くしている。性格は明るく真面目が続かずボケに走る。
200 神と名乗る謎の少女。幽世にずっと一人で住んでいた。紛れもなく、「のじゃロリ」言動はキツイが根は優しい。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
男:・・ん? 男:(N)気が付くと俺は、蝉の声が遠くから聞こえ、田舎の風景が広がる道の真ん中で立っていた 男:あれ⋯?ここは、どこだ? 男:俺はたしか⋯。駄目だ、さっきの事が思い出せない 男:でも、この風景は見覚えがあるような、無いような⋯ 神:おい 男:ん?え?お、俺? 神:お前に決まっておろうが、他に誰もおらんじゃろ 男:なんか口の悪い子だな。君、俺になんか用?一人みたいだけど、友達とかいないの? 神:うぐっ、ひ、一人でも平気なのじゃ⋯ 男:あ、なんか触れてはいけない所だったか。ごめんね君、お詫びになにかあげるよ。えーと、飴とか持ってたかな? 神:謝られたらよけいみじめになるからやめい!あと飴なんぞで、わしがなだめられると思うなよ若造が! 男:うわ!びっくりした。そうか、きょうび飴なんかじゃ子供は喜ばないか。しかしなんだか年寄りくさい話方だね 神:お前さっきから初対面なのにズケズケ失礼な事を言ってくれおるのう。わしに力があったらお前なぞ消しズミにしてやったがの 男:今度は中二病な発言まで。この若さでこれほどとは⋯将来が楽しみだ 神:さっきからうるさいぞ小僧、質問はわしがするから黙って聞いておけ! 男:は、はい!で、何かな? 神:うむ。お前、どうやってここへ来た? 男:どうやって?⋯そりゃ、歩いて来たんだろうね 神:違う!移動手段など聞いておらんわ! 男:え~どういう事~? 神:ふん、質問を変えるぞ。小僧、おぬし、「ここまでどうやって来たか、覚えておるのか?」 男:え?⋯なんで、その事を⋯ 神:ふっ、やはりわしが思っておった通りじゃ 男:ちょ、知ったふうな言い方だけど、どういう事なの?君は俺がどうなってるか分かるの!? 神:知らん 男:そうか⋯って知らないの!? 神:そんなん知るか。だが、だいたいの予測はついとるの 男:ほ、ほんと!?今はどんな事でも情報が欲しいからなんでも良いから言ってみてよ! 神:なんかこの小僧、上からで腹が立つが⋯まあ仕方ない。わしもさっさと「ここ」から出てってもらいたいからの 男:え?それって⋯ 神:小僧、おぬしはたぶん、死んでおる 男:シンデオル?(カタコト風に)ゲームか何かのモンスターの名前? 神:阿呆(あほ)うか!今の話の流れでなぜそんな名前が出てくるんじゃ! 男:いや、俺も聞いた事ない単語だしおかしいなとは思ったんだけど、やっぱ違ったか 神:おぬし、わしを馬鹿にしとるのか? 男:いやいやそんな事ないよ!たぶん聞き間違えたんだと思う、もう一度お願い出来るかな? 神:はあ、めんどくさいやつじゃな。今度はちゃんと聞くんじゃぞ小僧! 男:はーい 神:おぬしは、死んだ 男:あ、やっぱり、聞き間違いじゃなかったのか⋯ 神:おい、やっぱりってどういうことじゃ?聞こえとったのか? 男:ははは⋯ごめんね? 神:ほんとあきれたやつじゃ 男:いや、だっていきなり死んでるなんて言われたら普通誰でもびっくりするでしょ?だって俺こんなにピンピンしてるのに 神:ソコ、なんじゃ 男:え? 神:おぬしは知らんじゃろうがこの場所は普通の人間なんかが来れる場所じゃないのじゃ 男:はい?普通の人間じゃ来れないなら何なら来れるんだよ? 神:⋯霊魂(れいこん)じゃ 男:あ、穴のあいてる⋯アレか? 神:それはレンコンじゃ!霊魂!よくこの流れでふざけれたなおぬし! 男:いや、なんか難しい話だったから体がムズムズしちゃって 神:おぬしは真面目の持続力が壊滅的にないのう。まあ、ようするに、それじゃ 男:なるほど⋯え?てことは俺今、本体じゃなくて霊体ってこと? 神:おそらくそうじゃろう。そうでないと説明がつかんのじゃ 男:うーん、でもさすがに君の話は夢物語みたいで信じられないなー 神:おい待て小僧、おぬしここまでの話でわしが何者かわかったであろう? 男:え?ちょっと背伸びしたくなるおませな少女じゃないの?? 神:よし、ぶっ飛ばす。くそっ、無理じゃったんじゃ。昔のようにわしに力があれば月まで飛ばしてやったんじゃがの 男:何気に物騒な事言ってるなこの子 神:よし、今からわしの力の一端(いったん)を見せてやる、そこで目の玉をひんむいてしっかり見ておれ 男:お、何か芸をしてくれるのか?俺は笑いには厳しいからがんばれ 神:うるさいだまれ!気が散って集中できんじゃろうが! 男:はーい 神:ふー 男:なんか緊張してきたな 神:むん! 男:(N)少女の一声と共に、俺の目の前から少女が消える 男:え!?き、消えた⋯? 神:おい 男:え?声が聞こえるのに姿が見えないんだけど? 神:おろかもの、上じゃ 男:ん・・? 男:(N)俺は少女の声がした上の方を見上げる。すると少女が何もない空中に浮いていた 男:えーー!と、飛んでる〜〜! 神:やっと理解したか小僧 男:どこにワイヤーがあるのそれ!? 神:嘘じゃろ⋯? 男:おーい危ないから降りてきなよー! 神:はあ⋯。ほっ、んしょ 男:あれ?ワイヤーが見えないような?特殊な繊維(せんい)かな? 神:こりゃもうアレをやるしかないの。小僧、空を見ておけ 男:え?急に空を見ろって何もないじゃないか⋯あれ?そういえばさっきからずっと太陽の位置が変わってないような⋯ 神:ほりゃ 男:え? 男:(N)さっき目の前から消えた時のように、少女の一声で、あたりはひぐらしが鳴く夕暮れの風景に変わる 男:えーー!さっきまで昼だったのに!なんでいきなり夕方になっちゃったんだ!? 神:ふふん、どうじゃ? 男:き、君はいったい⋯ 神:わしか?・・神じゃ 男:え・・?か、神、だって⋯? 神:そうじゃ 男:とても信じられないけど⋯これを見せられたら信じないわけにいかないよね 神:やっと信じる気になったか。ふぁ~、何度も力を使わせおって。眠たくなってきたわ。 男:あ、そこは子供っぽい 神:む、なんか言ったかの? 男:いえ、気のせいですよ! 神:調子が狂う奴じゃなほんとに 男:それで⋯神様はどうしてここに?ここで何をされてるんですか?俺はどうなるんでしょうか! 神:えーいうるさい!一度に何個も質問をするでないわ! 男:いやー神様って分かったら興奮して来ちゃって 神:まったく空気を読まんやつだなおぬしは。答えてやってもいいが⋯ 男:いいが? 神:疲れたから明日じゃ 男:ガクッ、ちょっと!なんで明日なんてもったいぶるんですか~ 神:おぬしのせいじゃろうが!とにかく今日はもうやめじゃ、明日じゃ明日! 男:え~。ん?ところで神様 神:なんじゃ? 男:寝る必要あるんですか? 神:なっ!か、神だって疲れたら寝るわ! 男:え~神なのに~? 神:⋯明日教えるのやめようかのうー 男:冗談!冗談ですよ~嫌だな~もう 神:はあ、ほんと疲れるやつじゃ 男:じゃあまた明日って事で、よろしくお願いしまーす 神:お、おい!おぬしどこ行くつもりじゃ? 男:え?いや、明日までどっか泊めてくれるとこ探そうかなって 神:他に誰もおらんぞ 男:え? 神:「ここ」はおぬしが元いた場所ではない 男:え、嘘⋯じゃないのか 神:ここは神のみが住まう場所、「幽世(かくりよ)」じゃ 男:か、幽世?ってなんなんですか? 神:うむ。簡単に言うとおぬしがいた世界とおぬしらが天国とか地獄と呼んでいる場所との間にある場所じゃ 男:へ、へーそんな場所があったんですねー 神:まあそういうわけで今はわし一人しかこの場所にはおらんと言う事じゃ 男:なるほど、分かりました、ではまた明日詳しく聞かせて下さいねー 神:だからちょっと待たんか! 男:え?まだ何か? 神:いや⋯おぬしどうやって明日までいる気じゃ? 男:どうやってって、それはその辺で野宿でもしようかと 神:馬鹿もん!そんな事をしたら風邪引いてしまうじゃろ! 男:え、でも霊体だし大丈夫なのでは⋯? 神:もしも!と言うことがあるじゃろ! 男:えと、まあ絶対無いとは言いきれませんが⋯ 神:うちに来い 男:え? 神:うちに来いと言うておる!なんじゃ、その⋯ちょうどうちに余った部屋があるからの 男:え、神様のお家に、行っていいんですか!! 神:仕方なく、仕方なくじゃぞ!そこを勘違いするでないぞ! 男:はい!ありがとうございます、神様 神:ふん。ほれ、疲れたから家までわしを背負え 男:了解しましたー!よいしょっと、失礼しますね 神:お、おい、おぬし、これは背負っておらんじゃろうが〜 男:一度やってみたかったんですよ、お姫様抱っこ 神:ば、馬鹿もんが⋯ 男:⋯神様っていい匂いしますね 神:嗅ぐな馬鹿もんが! 男:あ痛!すみませんでした~! 神:はあ、はあ、まったく、ドキドキさせおって(小声) 男:(N)俺は神様を抱えたまま、神様の案内で大きな鳥居の前にたどり着いた 男:あ、あれって⋯ 神:あそこがわしの住処(すみか)じゃ 男:うわー立派な鳥居ですねー 神:明日またいくらでも見たらいいじゃろ、はよう中に入れ 男:は、はい 男:(N)あたりを夕闇が徐々に包み始め、ひぐらしが鳴く中、俺達は大きな鳥居が無数に立ち並ぶ回廊をゆっくり歩く 男:神様はこんな広い所に一人で住んでたんですねー 神:まあこの場所にあるものはすべて、ここにあるようで無いような物じゃからな。 男:やはり神的な不思議パワー、みたいな? 神:なんじゃそのふわっとしたもんは。まああながちハズレてもおらんか。 神:この幽世はわしが創造し作った場所じゃからな 男:え?これ全部神様が作ったの? 神:そうじゃ。おぬしが居た世界を参考にさせてもらったがの 男:ふえー、これ全部作ったとかやっぱり神様だなー 神:ふふん、どうじゃ?凄いじゃろ 男:あーなんか、小さい子がほめてほめてって言ってるようで可愛い~ 神:うりゃ 男:あ痛ー!ちょ、神様、至近距離からデコピンは痛いですよ~ 神:天罰じゃ 男:これまた可愛い天罰! 神:阿呆な事言っとらんで止まれ、着いたぞ。 男:(N)鳥居を抜けた先には神社の本殿に似た建物があった 男:あ⋯お家って、神社風だったんですね? 神:神っぽいじゃろ? 男:たしかに、神っぽいー 神:よし、もう降ろしていいぞ、ご苦労じゃった 男:立派な造りですねー、ではお邪魔⋯ 神:待て小僧 男:え? 神:ちゃんと二礼(にれい)、二拍手(にはくしゅ)、一礼(いちれい)をせんか 男:あ、そこはちゃんとしてるんだ :ーー間 神様の家でお風呂借り、風呂上がりで居間に戻ってきた男ーー 男:あ、神様、お先に失礼しました 神:ん?上がってきたか。 男:(N)汗で汚れていた俺は、神様の家でお風呂借りた。そしてさっぱりした気持ちで、ちゃぶ台がぽつんと一つある居間に戻ってきた 神:どうじゃった、うちの自慢の露天風呂は? 男:いやー最高でしたよー。もう高級旅館の温泉かと思いましたよー 神:ふ、満足したようで何よりじゃ 男:でも、神様も一緒に入ったら良かったのに 神:んな!?だ、誰がおぬしなんぞと一緒入るか! 男:そんな、気にする体じゃ無いのに⋯ 神:おん⋯? 男:ハッ!殺気!す、すみませんでしたー! 神:まったくおぬしと言う奴は⋯ムッ!? 男:え?急に真剣な顔して、何かありましたか? 神:アレが、来たのじゃ⋯ 男:え?・・うわ!なんだあれ!? 男:(N)庭先を見ると、靄(もや)がかかったように青白く光る何かが、そこに居た 男:か、神様⋯あ、あれって⋯ 神:うむ、あれが、霊魂(れいこん)じゃ 男:あれが⋯霊魂⋯ 神:⋯そこはボケないんじゃな 男:え?この流れでボケるわけないじゃないですか 神:どの口が言うとるんじゃ。まあよい、今からおぬしが聞きたかった質問をひとつ答えてやるから見ておけ 男:な、何をされるんですか? 神:今からやるのが、わしがここにいる理由じゃ。ふぅーー⋯ 男:神様の体が光り出しちゃったんだけど、これ大丈夫なの!? 神:「おぬしに問(と)う、どのような生(せい)の営(いとな)みであったか、わしに語(かた)って見よ」 男:霊魂も光出した!ま、まぶしい! 神:ふむふむ⋯なるほど。⋯それは嘘じゃな 男:え、嘘だって? 神:おぬし、残念ながらわしには嘘は通じんぞ。おぬしは今まで散々悪事を働いて、何人も不幸にさせ、そして最後は恨まれて殺されたようじゃの 男:め、めちゃくちゃやばい霊魂じゃないか⋯ 神:⋯ふん、そんな言い訳はわしには通用せんぞ。おぬしの処遇(しょぐう)はおぬしの生き方で、すでに答えは決まっておる。それではの 男:あ⋯霊魂が、消えてっちゃった⋯ :ーー間 神:ふう⋯終わったぞ 男:あの、神様⋯ 神:ん、なんじゃ? 男:ここに来る霊魂ってその⋯まさか⋯ 神:そのまさかじゃ。死んだ人間の霊魂がたどり着く場所、それが「幽世(かくりよ)」じゃ 男:そ、そうだったんだ⋯。ってことは、さっきやってたのは? 神:審判(しんぱん)じゃな。 男:あー、あの、お前は良い奴だから天国!お前は悪い奴だから地獄!みたいなやつですか? 神:なんじゃその軽いノリは。まあだいたいそんな感じじゃ 男:こ、こんな小学生みたいな見た目の子が、やってたんだ⋯ 神:なんじゃと⋯? 男:あ、す、すみません! 神:ふん、これでも昔はもっと大きかったんじゃ!ちと、力を使いすぎて、縮んだんじゃ 男:お、おっきい時の神様にも、会ってみたかったな~ 神:まあそんなわけで、わしやこの場所の事が、だいたい分かったじゃろ 男:はい、大変バッチリ、理解させてもらいました。ん?てことはやっぱり、俺は死んでるって事ですよね? 神:それは⋯ふわ~(あくび)、疲れたからわしは寝る、また明日じゃ 男:えー?めちゃくちゃ気になる~ 神:ほら、おぬしの部屋はあそこじゃ、早くいけ! 男:はいはい、もうー分かりましたよー。では神様、また明日~ :ーー間 神:ふー。やっとうるさいのが行きおったか 神:しかし。やはり⋯あやつは⋯ :ーー間 男:おはよーございます! 神:ん?起きてきたか 男:いやー、さわやかな朝ですねー、鳥の声に、蝉(せみ)の鳴き声、蝉の⋯って蝉、                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      めっちゃうるさいな! 神:起きてそうそうにやかましいやつじゃな。それは、ここが夏のイメージなんじゃから、蝉くらい鳴くわ 男:でも、蝉の姿がどこにも見えないんですけど? 神:そりゃ昨日も言った通り、生き物はおらんからの。びーじーえむ、というやつじゃ 男:無駄にこった夏の演出!というか神様って、夏が好きなんですか? 神:そりゃ⋯なんかワクワクするじゃろ? 男:あ、なんか夏休みが待ち遠しい子供みたいで可愛い 神:う、うるさいわ!まったく神をなんだと思っとるんじゃおぬしは 男:ははは。 男:⋯ 神:ん?どうしたんじゃ 男:あ、はい。俺、あれからずっと朝まで考えてたんです 神:⋯ちゃんと寝ずに、何を考えとったんじゃ? 男:⋯なんで俺は霊魂じゃなくて、霊体だったんだろって 神:っ!それは⋯ 男:もしかしたら、ここに来るまでに何をしていたか、思い出せない事と関係があるのかなって⋯ 神:… 男:⋯神様はもう、分かったんですよね? 神:⋯そうじゃな 男:教えて下さい、俺の事 神:真実を知ったら、後悔するかもしれんぞ? 男:それは⋯そうかもしれないんですけど⋯。自分が何者か分からないままなのは、気持ち悪いんで 神:そうか⋯分かった 男:ありがとうございます :ーー間 神:心して聞くのじゃ。 男:はい。 神:おぬしは⋯自らの命を絶(た)ったんじゃ 男:⋯それは、どういった理由で? 神:おぬしは、おぬしが元々住んでいた世界で、普通に暮らす、普通の人間だったようじゃ。とくだん貧しくもなく友人にも恵まれていたようじゃ 男:そうですか⋯それならなぜ、俺はそんな事を⋯ 神:おぬしはあの世界で、何かを、見つけられなかったようじゃ 男:え?何か、ですか? 神:そうじゃな、まあ生きる意味、と言った方がいいかの 男:そ、そんな事で俺は⋯ 神:おぬしのいた世界では、同じような悩みを持って生きているやつが、他にもたいさんいるようじゃがな 男:他にもまだ⋯ 神:理由はどうあれ、自らの命を絶った者の魂は、とても不安定な状態になるようでの、おぬしの状態がまさにそれじゃな 男:それってやばいんじゃ? 神:やばやばじゃな。このままじゃと、おぬしはその状態でこの場所から天国にも地獄にも行けず、ずっとさ迷う事になる 男:そ、それは嫌すぎますね。ど、どうしよう⋯ 神:⋯ 神:じゃが、安心しろ 男:え?な、なんとかなるんですか! 神:おぬしは偶然ここに迷い込んだという、特殊なケースという事で、特別にわしが力を使って生まれ直しをさせてやる 男:う、生まれ直しって、転生みたいなやつですか!? 神:まあ簡単に言うと、それじゃな。 男:じ、実際にあるんだ⋯ 神:じゃが、残念ながら別の世界とかでは無いから、ぬか喜びするでないぞ 男:いえ、そんな事でしたら、全然問題無しです!あ、でも、そんな特別な力を俺なんかに使って、神様、大丈夫なんですか⋯ 神:大丈夫じゃ(かぶせ気味に)。おぬしはそんなくだらん心配などせず、戻る事だけ考えておれ 男:あ、はい!ありがとうございます。いやー、もう駄目かと思ってたから、良かった~。 神:⋯これで良いのじゃ⋯ :ーー間 神:よし、待たせたの、準備完了じゃ 男:いえいえ。いやー、俺の新しい親になる人はどんな人だろうな~?兄弟とか出来るかなー? 神:⋯おぬし、めちゃくちゃ楽しそうじゃな 男:そうですね、俺、だんだん思い出してきたんですけど、生前は兄弟居なかったんで、ずっと兄弟欲しかったんですよ~ 神:兄弟か⋯いいの、それ 男:ん?神様って兄弟とかいないの? 神:おらん。気がついたらここで神やっとったからの 男:えー!⋯ちなみにどれくらいやってるんですか? 神:軽く、5千年はやっとるかの 男:ご、五千年も一人で⋯あの、今までで、俺みたいな奴は居なかったんですか? 神:いなかったの。ほんとになぜ、おぬしがここに来れたのかは、謎じゃな 男:⋯ 神:さて、そろそろ送ってやるとするかの⋯ 男:あのっ! 神:な、なんじゃいったい!? 男:その、転生ですけど⋯まだ時間ありますか? 神:ん?まあ、あるにはあるが⋯どうするんじゃ? 男:いや、もし転生先で、兄弟とか出来たら、俺どうしていいか分からないんで⋯ 神:は?なんじゃ、話が見えんぞ? 男:その⋯兄弟が出来た時の練習がしたいんです。 神:ふむ⋯? 男:と、いう事で⋯神様、妹になってもらっていいですか! 神:⋯な、なんじゃと~!?わしが妹とはどういう事じゃ!? 男:いや、その、ちょうどここは夏じゃないですか?兄妹が遊ぶ設定ならもってこいだし、今のうちに兄弟がどんな感じか体験しときたいなーなんて⋯ど、どうでしょうか? 神:分かっとるのか!?わしは神じゃぞ? 男:はい、失礼を承知でお頼みします!俺を助けると思って、どうか! 神:むむ⋯ 男:神様⋯? 神:ま、まあわしも、兄弟に興味がないわけじゃなかったからの⋯うむ、そうじゃ。困っておるという、人の子の頼みなら、聞いてやらん事もないのじゃ 男:あ、意外とチョロい 神:なんか言ったか! 男:いえ、何もありません! 神:で、何をすればいいんじゃ? 男:俺にいい考えがありますので、聞いて下さい 神:う、うむ⋯ふむふむ、な、なるほど、そんな感じが兄弟なのか⋯ 男:よし、では神様、いきますよ?レッツスタート! :ーー間 神:お、お兄ちゃん、おはよう 男:ん?我が愛しの妹よ、何の用だ? 神:お、お兄ちゃん約束、忘れてるでしょ! 男:約束⋯? 神:もー、お兄ちゃんたら、今日は私と虫取りにいく予定だったでしょ? 男:おー!そういえばそうだったな!すっかり忘れてしまっていたよー 神:まったく、お兄ちゃんたら忘れっぽいんだから~ぷんぷん! 男:おお~絵に書いたような妹ですね~、いい感じですー 神:お兄ちゃん、何メタい事言ってるの?私は怒ってるんだからね! 男:あ、ああ、すまんすまん、俺が悪かった、ほら機嫌直してくれ 神:ふん⋯帰りに駄菓子おごってくれたら、許す 男:うん、それならお安い御用だ、お兄ちゃんにまっかせなさい! 神:やった~、うふふ、お兄ちゃん、大好き 男:くはっ!⋯こいつは破壊力抜群だ! 神:ほら、虫取り行くよ、早く早くー! 男:お、おい、引っ張るなってー! :ーー間 神:お兄ちゃん⋯ 男:うむ、あれがターゲットのヘラクレスオオカブトだな 神:ヘラクレス?え、なんかすごそうな名前ね、お兄ちゃん 男:ああすごいぞ、キングオブカブトだからな。あ、一度でいいからこういうの、やってみたかったんですよ 神:お兄ちゃん、メタよ、メタ 男:お、おーし、それじゃ今からこの手製の網(あみ)でカブトを一網打尽(いちもうだじん)にしてやる! 神:お兄ちゃん、カブト、一網打尽にしてもいいものなの? 男:うむ、間違いなく生態系が崩れるな 神:駄目じゃんそれー!もうお兄ちゃんじゃ駄目、私が直接行くから 男:おー、我が妹がこんなにたくましくなって⋯今も小さいけど、小さい時はあんなに虫嫌いだったあいつが⋯ 神:うるさいよ、お兄ちゃん 男:ふっ、我が妹の成長っぷりに泣けるぜ⋯ 神:もう、お兄ちゃん、泣いてないで、しっかり見ててよね?私が成長した姿。それから⋯これからもずっと、私の事、見ててよね? 男:っ!⋯ああ、もちろんだ! 神:それじゃいくよ、お兄ちゃん!でりゃー! 男:行けー!マイエンジェルシスター!そこだー! 神:ん、でりゃ!⋯よし!やったーー!お兄ちゃん、カブト、取れたよ~! 男:おお⋯良くやった、ほんとに、良くやったよ⋯(涙ぐむ) 神:ちょ、おぬし、本気で泣きすぎじゃろ、ほれこれを使え 男:うう、神様、ありがとう、ございます⋯ 神:はあ、まったくこんな泣き虫で、元の世界に戻ったら大丈夫かの⋯ :ーー間 男:その、お見苦しい所を、お見せしちゃいましたね 神:大丈夫じゃ。おぬしの泣き癖にも、もう慣れたからの 男:ははは、なんかめちゃくちゃ恥ずかしい⋯ 神:⋯それでは、やるぞ 男:はい、短い間でしたが、とても楽しかったです 神:うむ、わしも⋯楽しかったぞ 男:⋯ 神:それじゃ時間じゃ、送るからじっとしておれ 男:神様! 神:⋯なんじゃ 男:俺が帰っても、ここにいるんですよね? 神:っ!⋯あ、当たり前じゃろ 男:あの、もし!また俺がここに迷い込んだら、また遊んでくれますか? 神:⋯ 男:だ、だめでしょうか⋯? 神:分かった⋯また、遊んでやる。 男:は、はい!ありがとうございます! 神:では⋯達者(たっしゃ)でな 男:はい!それでは神様、また! 男:(N)神様の手から放(はな)たれた光に包まれ俺は、この世界から完全に、消えた :ーー間 神:行ったか⋯ 神:うっ!はあ、はあ⋯(胸の痛みに苦しむ) 神:こ、これが、力の代償か⋯ 神:す、すまんの、小僧⋯。また、などと、いい加減なことを言ってしまって⋯ 神:わしは、おぬしに、嘘をついた⋯ 神:あの特別な力は、己の身をかけて行う、たった一度きりの力だったのじゃ⋯ 神:はあ、はあ、しかし、これで、よかったのじゃ⋯ 神:わしは、ずっと一人、ここで何千、何万の、たくさんの魂を見送ってきたのじゃ⋯ 神:だから、もう⋯わしは疲れてしもうた⋯ 神:しかし、そんな長く、孤独な時間だったが⋯最後におぬしに会えて、良かったのじゃ⋯ 神:ありがとな⋯今度こそ、幸せに、なるん⋯じゃぞ⋯ :ーー間 男:(N)俺はコケそうになりながら廊下を全速力で走り、待ちきれない気持ちで病室の扉を開く。そこに居たのは、俺の母親と、その母親に優しく包まれるように抱えられた、生まれたばかりの赤ちゃんだった 男:こ、こんにちは、俺が、お前のお兄ちゃんだぞ~ 男:お、よーしよし、泣く子は育つって言うからな~ 男:元気にどんどん成長して、そんで、おっきくなったら、一緒にお兄ちゃんと⋯ 神:「もー、お兄ちゃんたら、今日は私と虫取りにいく予定だったでしょ?」 男:虫取りに⋯あれ⋯?なんで俺、泣いてんだ⋯ 神:「もう、お兄ちゃん、泣いてないで、しっかり見ててよね?私が成長した姿。それから⋯これからもずっと、私の事、見ててよね?」 男:なんで⋯なんで俺、泣いてんだよ⋯なんなんだよ⋯この声は⋯ 神:「分かった⋯また、遊んでやる。では⋯達者(たっしゃ)でな」 男:ごめんな⋯お前のお兄ちゃん、めっちゃ泣きむしだけど⋯頑張るから、お前の事、しっかり守ってやれる、めっちゃ良いお兄ちゃんに、なるからな⋯ 神:おぬしは相変わらず、また泣いておるのか? 男:え⋯、い、今のって、まさか⋯? :終

男:・・ん? 男:(N)気が付くと俺は、蝉の声が遠くから聞こえ、田舎の風景が広がる道の真ん中で立っていた 男:あれ⋯?ここは、どこだ? 男:俺はたしか⋯。駄目だ、さっきの事が思い出せない 男:でも、この風景は見覚えがあるような、無いような⋯ 神:おい 男:ん?え?お、俺? 神:お前に決まっておろうが、他に誰もおらんじゃろ 男:なんか口の悪い子だな。君、俺になんか用?一人みたいだけど、友達とかいないの? 神:うぐっ、ひ、一人でも平気なのじゃ⋯ 男:あ、なんか触れてはいけない所だったか。ごめんね君、お詫びになにかあげるよ。えーと、飴とか持ってたかな? 神:謝られたらよけいみじめになるからやめい!あと飴なんぞで、わしがなだめられると思うなよ若造が! 男:うわ!びっくりした。そうか、きょうび飴なんかじゃ子供は喜ばないか。しかしなんだか年寄りくさい話方だね 神:お前さっきから初対面なのにズケズケ失礼な事を言ってくれおるのう。わしに力があったらお前なぞ消しズミにしてやったがの 男:今度は中二病な発言まで。この若さでこれほどとは⋯将来が楽しみだ 神:さっきからうるさいぞ小僧、質問はわしがするから黙って聞いておけ! 男:は、はい!で、何かな? 神:うむ。お前、どうやってここへ来た? 男:どうやって?⋯そりゃ、歩いて来たんだろうね 神:違う!移動手段など聞いておらんわ! 男:え~どういう事~? 神:ふん、質問を変えるぞ。小僧、おぬし、「ここまでどうやって来たか、覚えておるのか?」 男:え?⋯なんで、その事を⋯ 神:ふっ、やはりわしが思っておった通りじゃ 男:ちょ、知ったふうな言い方だけど、どういう事なの?君は俺がどうなってるか分かるの!? 神:知らん 男:そうか⋯って知らないの!? 神:そんなん知るか。だが、だいたいの予測はついとるの 男:ほ、ほんと!?今はどんな事でも情報が欲しいからなんでも良いから言ってみてよ! 神:なんかこの小僧、上からで腹が立つが⋯まあ仕方ない。わしもさっさと「ここ」から出てってもらいたいからの 男:え?それって⋯ 神:小僧、おぬしはたぶん、死んでおる 男:シンデオル?(カタコト風に)ゲームか何かのモンスターの名前? 神:阿呆(あほ)うか!今の話の流れでなぜそんな名前が出てくるんじゃ! 男:いや、俺も聞いた事ない単語だしおかしいなとは思ったんだけど、やっぱ違ったか 神:おぬし、わしを馬鹿にしとるのか? 男:いやいやそんな事ないよ!たぶん聞き間違えたんだと思う、もう一度お願い出来るかな? 神:はあ、めんどくさいやつじゃな。今度はちゃんと聞くんじゃぞ小僧! 男:はーい 神:おぬしは、死んだ 男:あ、やっぱり、聞き間違いじゃなかったのか⋯ 神:おい、やっぱりってどういうことじゃ?聞こえとったのか? 男:ははは⋯ごめんね? 神:ほんとあきれたやつじゃ 男:いや、だっていきなり死んでるなんて言われたら普通誰でもびっくりするでしょ?だって俺こんなにピンピンしてるのに 神:ソコ、なんじゃ 男:え? 神:おぬしは知らんじゃろうがこの場所は普通の人間なんかが来れる場所じゃないのじゃ 男:はい?普通の人間じゃ来れないなら何なら来れるんだよ? 神:⋯霊魂(れいこん)じゃ 男:あ、穴のあいてる⋯アレか? 神:それはレンコンじゃ!霊魂!よくこの流れでふざけれたなおぬし! 男:いや、なんか難しい話だったから体がムズムズしちゃって 神:おぬしは真面目の持続力が壊滅的にないのう。まあ、ようするに、それじゃ 男:なるほど⋯え?てことは俺今、本体じゃなくて霊体ってこと? 神:おそらくそうじゃろう。そうでないと説明がつかんのじゃ 男:うーん、でもさすがに君の話は夢物語みたいで信じられないなー 神:おい待て小僧、おぬしここまでの話でわしが何者かわかったであろう? 男:え?ちょっと背伸びしたくなるおませな少女じゃないの?? 神:よし、ぶっ飛ばす。くそっ、無理じゃったんじゃ。昔のようにわしに力があれば月まで飛ばしてやったんじゃがの 男:何気に物騒な事言ってるなこの子 神:よし、今からわしの力の一端(いったん)を見せてやる、そこで目の玉をひんむいてしっかり見ておれ 男:お、何か芸をしてくれるのか?俺は笑いには厳しいからがんばれ 神:うるさいだまれ!気が散って集中できんじゃろうが! 男:はーい 神:ふー 男:なんか緊張してきたな 神:むん! 男:(N)少女の一声と共に、俺の目の前から少女が消える 男:え!?き、消えた⋯? 神:おい 男:え?声が聞こえるのに姿が見えないんだけど? 神:おろかもの、上じゃ 男:ん・・? 男:(N)俺は少女の声がした上の方を見上げる。すると少女が何もない空中に浮いていた 男:えーー!と、飛んでる〜〜! 神:やっと理解したか小僧 男:どこにワイヤーがあるのそれ!? 神:嘘じゃろ⋯? 男:おーい危ないから降りてきなよー! 神:はあ⋯。ほっ、んしょ 男:あれ?ワイヤーが見えないような?特殊な繊維(せんい)かな? 神:こりゃもうアレをやるしかないの。小僧、空を見ておけ 男:え?急に空を見ろって何もないじゃないか⋯あれ?そういえばさっきからずっと太陽の位置が変わってないような⋯ 神:ほりゃ 男:え? 男:(N)さっき目の前から消えた時のように、少女の一声で、あたりはひぐらしが鳴く夕暮れの風景に変わる 男:えーー!さっきまで昼だったのに!なんでいきなり夕方になっちゃったんだ!? 神:ふふん、どうじゃ? 男:き、君はいったい⋯ 神:わしか?・・神じゃ 男:え・・?か、神、だって⋯? 神:そうじゃ 男:とても信じられないけど⋯これを見せられたら信じないわけにいかないよね 神:やっと信じる気になったか。ふぁ~、何度も力を使わせおって。眠たくなってきたわ。 男:あ、そこは子供っぽい 神:む、なんか言ったかの? 男:いえ、気のせいですよ! 神:調子が狂う奴じゃなほんとに 男:それで⋯神様はどうしてここに?ここで何をされてるんですか?俺はどうなるんでしょうか! 神:えーいうるさい!一度に何個も質問をするでないわ! 男:いやー神様って分かったら興奮して来ちゃって 神:まったく空気を読まんやつだなおぬしは。答えてやってもいいが⋯ 男:いいが? 神:疲れたから明日じゃ 男:ガクッ、ちょっと!なんで明日なんてもったいぶるんですか~ 神:おぬしのせいじゃろうが!とにかく今日はもうやめじゃ、明日じゃ明日! 男:え~。ん?ところで神様 神:なんじゃ? 男:寝る必要あるんですか? 神:なっ!か、神だって疲れたら寝るわ! 男:え~神なのに~? 神:⋯明日教えるのやめようかのうー 男:冗談!冗談ですよ~嫌だな~もう 神:はあ、ほんと疲れるやつじゃ 男:じゃあまた明日って事で、よろしくお願いしまーす 神:お、おい!おぬしどこ行くつもりじゃ? 男:え?いや、明日までどっか泊めてくれるとこ探そうかなって 神:他に誰もおらんぞ 男:え? 神:「ここ」はおぬしが元いた場所ではない 男:え、嘘⋯じゃないのか 神:ここは神のみが住まう場所、「幽世(かくりよ)」じゃ 男:か、幽世?ってなんなんですか? 神:うむ。簡単に言うとおぬしがいた世界とおぬしらが天国とか地獄と呼んでいる場所との間にある場所じゃ 男:へ、へーそんな場所があったんですねー 神:まあそういうわけで今はわし一人しかこの場所にはおらんと言う事じゃ 男:なるほど、分かりました、ではまた明日詳しく聞かせて下さいねー 神:だからちょっと待たんか! 男:え?まだ何か? 神:いや⋯おぬしどうやって明日までいる気じゃ? 男:どうやってって、それはその辺で野宿でもしようかと 神:馬鹿もん!そんな事をしたら風邪引いてしまうじゃろ! 男:え、でも霊体だし大丈夫なのでは⋯? 神:もしも!と言うことがあるじゃろ! 男:えと、まあ絶対無いとは言いきれませんが⋯ 神:うちに来い 男:え? 神:うちに来いと言うておる!なんじゃ、その⋯ちょうどうちに余った部屋があるからの 男:え、神様のお家に、行っていいんですか!! 神:仕方なく、仕方なくじゃぞ!そこを勘違いするでないぞ! 男:はい!ありがとうございます、神様 神:ふん。ほれ、疲れたから家までわしを背負え 男:了解しましたー!よいしょっと、失礼しますね 神:お、おい、おぬし、これは背負っておらんじゃろうが〜 男:一度やってみたかったんですよ、お姫様抱っこ 神:ば、馬鹿もんが⋯ 男:⋯神様っていい匂いしますね 神:嗅ぐな馬鹿もんが! 男:あ痛!すみませんでした~! 神:はあ、はあ、まったく、ドキドキさせおって(小声) 男:(N)俺は神様を抱えたまま、神様の案内で大きな鳥居の前にたどり着いた 男:あ、あれって⋯ 神:あそこがわしの住処(すみか)じゃ 男:うわー立派な鳥居ですねー 神:明日またいくらでも見たらいいじゃろ、はよう中に入れ 男:は、はい 男:(N)あたりを夕闇が徐々に包み始め、ひぐらしが鳴く中、俺達は大きな鳥居が無数に立ち並ぶ回廊をゆっくり歩く 男:神様はこんな広い所に一人で住んでたんですねー 神:まあこの場所にあるものはすべて、ここにあるようで無いような物じゃからな。 男:やはり神的な不思議パワー、みたいな? 神:なんじゃそのふわっとしたもんは。まああながちハズレてもおらんか。 神:この幽世はわしが創造し作った場所じゃからな 男:え?これ全部神様が作ったの? 神:そうじゃ。おぬしが居た世界を参考にさせてもらったがの 男:ふえー、これ全部作ったとかやっぱり神様だなー 神:ふふん、どうじゃ?凄いじゃろ 男:あーなんか、小さい子がほめてほめてって言ってるようで可愛い~ 神:うりゃ 男:あ痛ー!ちょ、神様、至近距離からデコピンは痛いですよ~ 神:天罰じゃ 男:これまた可愛い天罰! 神:阿呆な事言っとらんで止まれ、着いたぞ。 男:(N)鳥居を抜けた先には神社の本殿に似た建物があった 男:あ⋯お家って、神社風だったんですね? 神:神っぽいじゃろ? 男:たしかに、神っぽいー 神:よし、もう降ろしていいぞ、ご苦労じゃった 男:立派な造りですねー、ではお邪魔⋯ 神:待て小僧 男:え? 神:ちゃんと二礼(にれい)、二拍手(にはくしゅ)、一礼(いちれい)をせんか 男:あ、そこはちゃんとしてるんだ :ーー間 神様の家でお風呂借り、風呂上がりで居間に戻ってきた男ーー 男:あ、神様、お先に失礼しました 神:ん?上がってきたか。 男:(N)汗で汚れていた俺は、神様の家でお風呂借りた。そしてさっぱりした気持ちで、ちゃぶ台がぽつんと一つある居間に戻ってきた 神:どうじゃった、うちの自慢の露天風呂は? 男:いやー最高でしたよー。もう高級旅館の温泉かと思いましたよー 神:ふ、満足したようで何よりじゃ 男:でも、神様も一緒に入ったら良かったのに 神:んな!?だ、誰がおぬしなんぞと一緒入るか! 男:そんな、気にする体じゃ無いのに⋯ 神:おん⋯? 男:ハッ!殺気!す、すみませんでしたー! 神:まったくおぬしと言う奴は⋯ムッ!? 男:え?急に真剣な顔して、何かありましたか? 神:アレが、来たのじゃ⋯ 男:え?・・うわ!なんだあれ!? 男:(N)庭先を見ると、靄(もや)がかかったように青白く光る何かが、そこに居た 男:か、神様⋯あ、あれって⋯ 神:うむ、あれが、霊魂(れいこん)じゃ 男:あれが⋯霊魂⋯ 神:⋯そこはボケないんじゃな 男:え?この流れでボケるわけないじゃないですか 神:どの口が言うとるんじゃ。まあよい、今からおぬしが聞きたかった質問をひとつ答えてやるから見ておけ 男:な、何をされるんですか? 神:今からやるのが、わしがここにいる理由じゃ。ふぅーー⋯ 男:神様の体が光り出しちゃったんだけど、これ大丈夫なの!? 神:「おぬしに問(と)う、どのような生(せい)の営(いとな)みであったか、わしに語(かた)って見よ」 男:霊魂も光出した!ま、まぶしい! 神:ふむふむ⋯なるほど。⋯それは嘘じゃな 男:え、嘘だって? 神:おぬし、残念ながらわしには嘘は通じんぞ。おぬしは今まで散々悪事を働いて、何人も不幸にさせ、そして最後は恨まれて殺されたようじゃの 男:め、めちゃくちゃやばい霊魂じゃないか⋯ 神:⋯ふん、そんな言い訳はわしには通用せんぞ。おぬしの処遇(しょぐう)はおぬしの生き方で、すでに答えは決まっておる。それではの 男:あ⋯霊魂が、消えてっちゃった⋯ :ーー間 神:ふう⋯終わったぞ 男:あの、神様⋯ 神:ん、なんじゃ? 男:ここに来る霊魂ってその⋯まさか⋯ 神:そのまさかじゃ。死んだ人間の霊魂がたどり着く場所、それが「幽世(かくりよ)」じゃ 男:そ、そうだったんだ⋯。ってことは、さっきやってたのは? 神:審判(しんぱん)じゃな。 男:あー、あの、お前は良い奴だから天国!お前は悪い奴だから地獄!みたいなやつですか? 神:なんじゃその軽いノリは。まあだいたいそんな感じじゃ 男:こ、こんな小学生みたいな見た目の子が、やってたんだ⋯ 神:なんじゃと⋯? 男:あ、す、すみません! 神:ふん、これでも昔はもっと大きかったんじゃ!ちと、力を使いすぎて、縮んだんじゃ 男:お、おっきい時の神様にも、会ってみたかったな~ 神:まあそんなわけで、わしやこの場所の事が、だいたい分かったじゃろ 男:はい、大変バッチリ、理解させてもらいました。ん?てことはやっぱり、俺は死んでるって事ですよね? 神:それは⋯ふわ~(あくび)、疲れたからわしは寝る、また明日じゃ 男:えー?めちゃくちゃ気になる~ 神:ほら、おぬしの部屋はあそこじゃ、早くいけ! 男:はいはい、もうー分かりましたよー。では神様、また明日~ :ーー間 神:ふー。やっとうるさいのが行きおったか 神:しかし。やはり⋯あやつは⋯ :ーー間 男:おはよーございます! 神:ん?起きてきたか 男:いやー、さわやかな朝ですねー、鳥の声に、蝉(せみ)の鳴き声、蝉の⋯って蝉、                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      めっちゃうるさいな! 神:起きてそうそうにやかましいやつじゃな。それは、ここが夏のイメージなんじゃから、蝉くらい鳴くわ 男:でも、蝉の姿がどこにも見えないんですけど? 神:そりゃ昨日も言った通り、生き物はおらんからの。びーじーえむ、というやつじゃ 男:無駄にこった夏の演出!というか神様って、夏が好きなんですか? 神:そりゃ⋯なんかワクワクするじゃろ? 男:あ、なんか夏休みが待ち遠しい子供みたいで可愛い 神:う、うるさいわ!まったく神をなんだと思っとるんじゃおぬしは 男:ははは。 男:⋯ 神:ん?どうしたんじゃ 男:あ、はい。俺、あれからずっと朝まで考えてたんです 神:⋯ちゃんと寝ずに、何を考えとったんじゃ? 男:⋯なんで俺は霊魂じゃなくて、霊体だったんだろって 神:っ!それは⋯ 男:もしかしたら、ここに来るまでに何をしていたか、思い出せない事と関係があるのかなって⋯ 神:… 男:⋯神様はもう、分かったんですよね? 神:⋯そうじゃな 男:教えて下さい、俺の事 神:真実を知ったら、後悔するかもしれんぞ? 男:それは⋯そうかもしれないんですけど⋯。自分が何者か分からないままなのは、気持ち悪いんで 神:そうか⋯分かった 男:ありがとうございます :ーー間 神:心して聞くのじゃ。 男:はい。 神:おぬしは⋯自らの命を絶(た)ったんじゃ 男:⋯それは、どういった理由で? 神:おぬしは、おぬしが元々住んでいた世界で、普通に暮らす、普通の人間だったようじゃ。とくだん貧しくもなく友人にも恵まれていたようじゃ 男:そうですか⋯それならなぜ、俺はそんな事を⋯ 神:おぬしはあの世界で、何かを、見つけられなかったようじゃ 男:え?何か、ですか? 神:そうじゃな、まあ生きる意味、と言った方がいいかの 男:そ、そんな事で俺は⋯ 神:おぬしのいた世界では、同じような悩みを持って生きているやつが、他にもたいさんいるようじゃがな 男:他にもまだ⋯ 神:理由はどうあれ、自らの命を絶った者の魂は、とても不安定な状態になるようでの、おぬしの状態がまさにそれじゃな 男:それってやばいんじゃ? 神:やばやばじゃな。このままじゃと、おぬしはその状態でこの場所から天国にも地獄にも行けず、ずっとさ迷う事になる 男:そ、それは嫌すぎますね。ど、どうしよう⋯ 神:⋯ 神:じゃが、安心しろ 男:え?な、なんとかなるんですか! 神:おぬしは偶然ここに迷い込んだという、特殊なケースという事で、特別にわしが力を使って生まれ直しをさせてやる 男:う、生まれ直しって、転生みたいなやつですか!? 神:まあ簡単に言うと、それじゃな。 男:じ、実際にあるんだ⋯ 神:じゃが、残念ながら別の世界とかでは無いから、ぬか喜びするでないぞ 男:いえ、そんな事でしたら、全然問題無しです!あ、でも、そんな特別な力を俺なんかに使って、神様、大丈夫なんですか⋯ 神:大丈夫じゃ(かぶせ気味に)。おぬしはそんなくだらん心配などせず、戻る事だけ考えておれ 男:あ、はい!ありがとうございます。いやー、もう駄目かと思ってたから、良かった~。 神:⋯これで良いのじゃ⋯ :ーー間 神:よし、待たせたの、準備完了じゃ 男:いえいえ。いやー、俺の新しい親になる人はどんな人だろうな~?兄弟とか出来るかなー? 神:⋯おぬし、めちゃくちゃ楽しそうじゃな 男:そうですね、俺、だんだん思い出してきたんですけど、生前は兄弟居なかったんで、ずっと兄弟欲しかったんですよ~ 神:兄弟か⋯いいの、それ 男:ん?神様って兄弟とかいないの? 神:おらん。気がついたらここで神やっとったからの 男:えー!⋯ちなみにどれくらいやってるんですか? 神:軽く、5千年はやっとるかの 男:ご、五千年も一人で⋯あの、今までで、俺みたいな奴は居なかったんですか? 神:いなかったの。ほんとになぜ、おぬしがここに来れたのかは、謎じゃな 男:⋯ 神:さて、そろそろ送ってやるとするかの⋯ 男:あのっ! 神:な、なんじゃいったい!? 男:その、転生ですけど⋯まだ時間ありますか? 神:ん?まあ、あるにはあるが⋯どうするんじゃ? 男:いや、もし転生先で、兄弟とか出来たら、俺どうしていいか分からないんで⋯ 神:は?なんじゃ、話が見えんぞ? 男:その⋯兄弟が出来た時の練習がしたいんです。 神:ふむ⋯? 男:と、いう事で⋯神様、妹になってもらっていいですか! 神:⋯な、なんじゃと~!?わしが妹とはどういう事じゃ!? 男:いや、その、ちょうどここは夏じゃないですか?兄妹が遊ぶ設定ならもってこいだし、今のうちに兄弟がどんな感じか体験しときたいなーなんて⋯ど、どうでしょうか? 神:分かっとるのか!?わしは神じゃぞ? 男:はい、失礼を承知でお頼みします!俺を助けると思って、どうか! 神:むむ⋯ 男:神様⋯? 神:ま、まあわしも、兄弟に興味がないわけじゃなかったからの⋯うむ、そうじゃ。困っておるという、人の子の頼みなら、聞いてやらん事もないのじゃ 男:あ、意外とチョロい 神:なんか言ったか! 男:いえ、何もありません! 神:で、何をすればいいんじゃ? 男:俺にいい考えがありますので、聞いて下さい 神:う、うむ⋯ふむふむ、な、なるほど、そんな感じが兄弟なのか⋯ 男:よし、では神様、いきますよ?レッツスタート! :ーー間 神:お、お兄ちゃん、おはよう 男:ん?我が愛しの妹よ、何の用だ? 神:お、お兄ちゃん約束、忘れてるでしょ! 男:約束⋯? 神:もー、お兄ちゃんたら、今日は私と虫取りにいく予定だったでしょ? 男:おー!そういえばそうだったな!すっかり忘れてしまっていたよー 神:まったく、お兄ちゃんたら忘れっぽいんだから~ぷんぷん! 男:おお~絵に書いたような妹ですね~、いい感じですー 神:お兄ちゃん、何メタい事言ってるの?私は怒ってるんだからね! 男:あ、ああ、すまんすまん、俺が悪かった、ほら機嫌直してくれ 神:ふん⋯帰りに駄菓子おごってくれたら、許す 男:うん、それならお安い御用だ、お兄ちゃんにまっかせなさい! 神:やった~、うふふ、お兄ちゃん、大好き 男:くはっ!⋯こいつは破壊力抜群だ! 神:ほら、虫取り行くよ、早く早くー! 男:お、おい、引っ張るなってー! :ーー間 神:お兄ちゃん⋯ 男:うむ、あれがターゲットのヘラクレスオオカブトだな 神:ヘラクレス?え、なんかすごそうな名前ね、お兄ちゃん 男:ああすごいぞ、キングオブカブトだからな。あ、一度でいいからこういうの、やってみたかったんですよ 神:お兄ちゃん、メタよ、メタ 男:お、おーし、それじゃ今からこの手製の網(あみ)でカブトを一網打尽(いちもうだじん)にしてやる! 神:お兄ちゃん、カブト、一網打尽にしてもいいものなの? 男:うむ、間違いなく生態系が崩れるな 神:駄目じゃんそれー!もうお兄ちゃんじゃ駄目、私が直接行くから 男:おー、我が妹がこんなにたくましくなって⋯今も小さいけど、小さい時はあんなに虫嫌いだったあいつが⋯ 神:うるさいよ、お兄ちゃん 男:ふっ、我が妹の成長っぷりに泣けるぜ⋯ 神:もう、お兄ちゃん、泣いてないで、しっかり見ててよね?私が成長した姿。それから⋯これからもずっと、私の事、見ててよね? 男:っ!⋯ああ、もちろんだ! 神:それじゃいくよ、お兄ちゃん!でりゃー! 男:行けー!マイエンジェルシスター!そこだー! 神:ん、でりゃ!⋯よし!やったーー!お兄ちゃん、カブト、取れたよ~! 男:おお⋯良くやった、ほんとに、良くやったよ⋯(涙ぐむ) 神:ちょ、おぬし、本気で泣きすぎじゃろ、ほれこれを使え 男:うう、神様、ありがとう、ございます⋯ 神:はあ、まったくこんな泣き虫で、元の世界に戻ったら大丈夫かの⋯ :ーー間 男:その、お見苦しい所を、お見せしちゃいましたね 神:大丈夫じゃ。おぬしの泣き癖にも、もう慣れたからの 男:ははは、なんかめちゃくちゃ恥ずかしい⋯ 神:⋯それでは、やるぞ 男:はい、短い間でしたが、とても楽しかったです 神:うむ、わしも⋯楽しかったぞ 男:⋯ 神:それじゃ時間じゃ、送るからじっとしておれ 男:神様! 神:⋯なんじゃ 男:俺が帰っても、ここにいるんですよね? 神:っ!⋯あ、当たり前じゃろ 男:あの、もし!また俺がここに迷い込んだら、また遊んでくれますか? 神:⋯ 男:だ、だめでしょうか⋯? 神:分かった⋯また、遊んでやる。 男:は、はい!ありがとうございます! 神:では⋯達者(たっしゃ)でな 男:はい!それでは神様、また! 男:(N)神様の手から放(はな)たれた光に包まれ俺は、この世界から完全に、消えた :ーー間 神:行ったか⋯ 神:うっ!はあ、はあ⋯(胸の痛みに苦しむ) 神:こ、これが、力の代償か⋯ 神:す、すまんの、小僧⋯。また、などと、いい加減なことを言ってしまって⋯ 神:わしは、おぬしに、嘘をついた⋯ 神:あの特別な力は、己の身をかけて行う、たった一度きりの力だったのじゃ⋯ 神:はあ、はあ、しかし、これで、よかったのじゃ⋯ 神:わしは、ずっと一人、ここで何千、何万の、たくさんの魂を見送ってきたのじゃ⋯ 神:だから、もう⋯わしは疲れてしもうた⋯ 神:しかし、そんな長く、孤独な時間だったが⋯最後におぬしに会えて、良かったのじゃ⋯ 神:ありがとな⋯今度こそ、幸せに、なるん⋯じゃぞ⋯ :ーー間 男:(N)俺はコケそうになりながら廊下を全速力で走り、待ちきれない気持ちで病室の扉を開く。そこに居たのは、俺の母親と、その母親に優しく包まれるように抱えられた、生まれたばかりの赤ちゃんだった 男:こ、こんにちは、俺が、お前のお兄ちゃんだぞ~ 男:お、よーしよし、泣く子は育つって言うからな~ 男:元気にどんどん成長して、そんで、おっきくなったら、一緒にお兄ちゃんと⋯ 神:「もー、お兄ちゃんたら、今日は私と虫取りにいく予定だったでしょ?」 男:虫取りに⋯あれ⋯?なんで俺、泣いてんだ⋯ 神:「もう、お兄ちゃん、泣いてないで、しっかり見ててよね?私が成長した姿。それから⋯これからもずっと、私の事、見ててよね?」 男:なんで⋯なんで俺、泣いてんだよ⋯なんなんだよ⋯この声は⋯ 神:「分かった⋯また、遊んでやる。では⋯達者(たっしゃ)でな」 男:ごめんな⋯お前のお兄ちゃん、めっちゃ泣きむしだけど⋯頑張るから、お前の事、しっかり守ってやれる、めっちゃ良いお兄ちゃんに、なるからな⋯ 神:おぬしは相変わらず、また泣いておるのか? 男:え⋯、い、今のって、まさか⋯? :終